説明

燃料電池

【課題】水分をカソード側からアノード側へ迅速に且つ十分に運搬・供給することができ、電解質膜の湿潤状態を良好に維持して出力低下を抑止することが可能な燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料電池スタック110のカソードセパレータ126及びアノードセパレータ128においては、所定の一辺にカソード入口131及びカソード出口132が並設されており、その所定の一辺に対して垂直な辺におけるカソード出口132の近傍にアノード入口141が配置されている。また、アノードガス流路140は、カソード入口131及びカソード出口132の近傍において、カソード出口132からカソード入口131に向かってアノードガスが流通するように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、特に、燃料電池の内部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜がカソード及びアノードの両電極間に挟持された構造を有しており、カソードに空気等の酸素を含むカソードガスが接触する一方、アノードに水素を含むアノードガスが接触することにより、両電極で電気化学反応が生じ、その結果、両電極間に電圧が生起されるように構成されている。
【0003】
かかる燃料電池の構造としては、種々のものが提案されており、例えば、特許文献1には、電極面における局所的な電流密度の集中や温度上昇を防止して長期間の安定運転を実現するべく、セパレータの一方の両端に燃料ガス出入口を交互に設け、且つ、セパレータの他方の両端(燃料ガス出入口が設けられていない両端)に空気出入口を交互に設けた構造を備える燃料電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−249420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した電気化学反応が生じる際、燃料電池の両電極間においては、電解質膜を介して電荷移動が生じるので、発電を維持するには、電解質膜が湿潤している必要がある。そこで、一般に、カソード出口(カソードガスが流出する部位)にアノード入口(アノードガスが流入する部位)を配置し、且つ、アノード出口(アノードガスが流出する部位)にカソード入口(カソードガスが流入する部位)を配置し、カソード側で生じる水を、カソード出口(アノード入口)からアノード出口(カソード入口)へ運搬することにより、電解質膜の湿潤状態(すなわち、燃料電池における水バランス)を保持する方法が広く採用されている。
【0006】
しかし、例えば、高温無加湿運転と呼ばれるような高温条件で燃料電池の運転を続けると、アノード入口からアノード出口へ運搬される水分が、カソード側に奪われ易くなったり、発電による燃料ガスの消費に伴ってアノード側の水分が奪われ易くなったりする傾向にある。そうすると、アノード出口への水分の供給が不十分となり、その近傍の電解質膜が局所的に乾燥してしまい、その結果、その部位で発電ができなくなって出力が低下するといった問題が起こり得る。これは、上記特許文献1に記載された燃料電池においても懸念される事象である。
【0007】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、水分(反応生成水)をカソード側からアノード側へ迅速に且つ十分に運搬・供給することができ、これにより、高温運転時においても、電解質膜の湿潤状態を良好に維持して出力低下を抑止することが可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明による燃料電池は、電解質膜の両面にカソード及びアノードが配置された膜電極接合体と、その膜電極接合体に対向して設けられたセパレータとを備え、セパレータが、所定の一辺に並設されたカソード入口及びカソード出口と、その所定の一辺に対して垂直な辺に設けられており且つカソード出口の近傍に配置されたアノード入口とを有しており、カソード入口及びカソード出口の近傍において、カソード出口からカソード入口に向かってアノードガスが流通するように構成されたアノードガス流路が形成されたものである。
【0009】
このように構成された本発明による燃料電池においては、アノードガスが、カソード出口近傍のアノード入口からアノードガス流路を通してアノード出口に向かって流通することにより、カソード出口側に残留し易い水分(反応生成水)が、そのアノードガスとともにアノード出口すなわちカソード入口側に運搬される。このとき、カソード入口及びカソード出口がセパレータの所定の一辺に並設されているので、カソード入口及びカソード出口間の距離、つまり、アノードガスによる水分の運搬距離を効果的に短縮することができ、カソード出口側の水分が減少しないうちに、その水分をカソード入口側(アノード出口側)に供給することができる。
【発明の効果】
【0010】
したがって、本発明によれば、水分(反応生成水)をカソード側からアノード側に迅速に運搬・供給することができ、これにより、たとえ高温運転時であっても、水分の減少を抑えて電解質膜の湿潤状態を良好に維持することが可能となり、その結果、燃料電池の出力低下を有効に防止することができる。また、水分が運搬される先のアノード出口とカソード入口が近接しているので、カソード入口付近の乾燥を防止することもできる。さらに、カソード出口から水分を迅速に奪うことができるので、カソード出口におけるフラッィングの発生を防止することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による燃料電池の第1実施形態の構成の一部を模式的に示す部品分解図である。
【図2】図1に示す燃料電池のカソードセパレータの構造を概略的に示す斜視図である。
【図3】図1に示す燃料電池のアノードセパレーの構造を概略的に示す斜視図である。
【図4】本発明による燃料電池内部における水分の分布(高温運転時)を模式的に示すグラフである。
【図5】本発明による燃料電池の第2実施形態の構成の一部を模式的に示す部品分解図である。
【図6】従来構成の燃料電池内部における水分の分布(通常運転時)を模式的に示すグラフである。
【図7】従来構成の燃料電池内部における水分の分布(高温運転時)を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。さらに、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。またさらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
(第1実施形態)
図1は、本発明による燃料電池の好適な一実施形態の構成の一部を模式的に示す部品分解図(一点透視図法による)である。燃料電池スタック10は、固体高分子分離膜を備えた固体高分子型の燃料電池(PEMFC)であり、主として燃料電池自動車等に搭載されるものである。この燃料電池スタック10は、単位セル20を複数積層したスタック構造を有している(なお、図示においては一単位のみ示す)。また、単位セル20は、電解質膜を挟んでアノードとカソードが配置されたMEA21(膜電極接合体:Membrane Electrode Assembly)の外側に、ガス拡散層22がシールガスケット(図示せず)によって一体に形成された発電体23、及び、隣接する発電体23,23を隔離する例えばステンレス鋼やチタン等の導電性金属材料からなるカソードセパレータ26及びアノードセパレータ28から構成されている。
【0013】
なお、隣接する発電体23,23を隔離するセパレータは、上記のカソードセパレータ26、中間プレート(図示せず;主として冷却水の流路となる)、及び、上記のアノードセパレータ28が積層された三層積層型のユニットをなしており、図示との整合をとるべく、ここでは、単位セル20を上述の如く定義した。また、カソードセパレータ26と発電体23との間には、カソードガスが流通するカソードガス流路30(後述)が画成され、アノードセパレータ28と発電体23との間には、アノードガスが流通するアノードガス流路40(後述)が画成されている。
【0014】
ここで、図2及び図3は、それぞれ、図1に示す燃料電池スタック10のカソードセパレータ26及びアノードセパレータ28の構造を概略的に示す斜視図である。図1〜図3に示す如く、発電体23、カソードセパレータ26、及びアノードセパレータ28は、略同外形の矩形部材であり、カソードセパレータ26は、その中央部において図示鉛直方向に延在するリブRCを有する枠状をなしており、また、アノードセパレータ28は、その中央部において図示水平方向に延在するリブRAを有する枠状をなしている。
【0015】
これらの発電体23、カソードセパレータ26、及びアノードセパレータ28の縁周部には、図1において白抜矢印で示すカソードガス流路30に連通するカソード入口31,31、及び、同カソード出口32,32、並びに、図1において実線矢印で示すアノードガス流路40に連通するアノード入口41,41、及び、同アノード出口42,42が設けられている。このように、カソード入口31,31は、空気等のカソードガスの供給口であるカソードガス入口マニホールドとして、また、カソード出口32,32は、カソードガスの排出口であるカソードガス出口マニホールドとして機能する。同様に、アノード入口41,41は、水素を含む燃料ガスであるアノードガスの供給口であるアノードガス入口マニホールドとして、また、アノード出口42,42は、アノードガスの排出口であるアノードガス出口マニホールドとして機能する。
【0016】
すなわち、カソードセパレータ26及びアノードセパレータ28においては、所定の一辺(図示上辺及び下辺)にカソード入口31及びカソード出口32が並設されており、その所定の一辺に対して垂直な辺(図示右辺及び左辺)におけるカソード出口32の近傍(カソード出口32に近い角部)にアノード入口41が配置されている。また、アノードガス流路40は、カソード入口31及びカソード出口32の近傍において、カソード出口32からカソード入口31に向かってアノードガスが流通するように形成されている。
【0017】
このように構成された燃料電池スタック10によれば、アノードガスが、カソード出口32近傍のアノード入口41からアノードガス流路40を通してアノード出口42に向かって流通することにより、カソード出口32側に残留し易い水分(反応生成水)が、そのアノードガスとともにアノード出口42すなわちカソード入口31側に運搬される。このとき、カソード入口31及びカソード出口32がカソードセパレータ26及びアノードセパレータ28の所定の一辺に並設されているので、カソード入口31及びカソード出口32間の距離、つまり、アノードガスによる水分の運搬距離を効果的に短縮することができ、カソード出口32側の水分が減少しないうちに、その水分をカソード入口31側(アノード出口42側)に供給することができる。
【0018】
これにより、水分(反応生成水)をカソード側からアノード側に迅速に運搬・供給することが可能となり、たとえ高温運転時であっても、水分の減少を抑えてMEA21の電解質膜の湿潤状態を良好に維持することができ、その結果、燃料電池スタック10の出力低下を有効に防止することができる。また、水分が運搬される先のアノード出口42とカソード入口31が近接しているので、カソード入口31付近の乾燥を防止することもできる。さらに、カソード出口32から水分を迅速に奪うことができるので、カソード出口32におけるフラッィングの発生を防止することもできる。
【0019】
ここで、図4は、本発明による燃料電池スタック10の内部における水分の分布(高温運転時)を模式的に示すグラフである。また、図6及び図7は、従来の構成を有する燃料電池の内部における水分の分布を模式的に示すグラフであり、それぞれ、通常運転時(非高温時)及び高温運転時における水分分布を示す。図示のグラフにおける横軸は、カソード出入口及びアノード出入口の相対的な位置を示し、縦軸は、相対湿度(%)を示す。また、太い実線は、カソード相対湿度分布LCを示し、破線は、アノード相対湿度分布LAを示す。
【0020】
図6に示す如く、従来構成の燃料電池の通常運転時においては、カソードの相対湿度は、カソード出口側及びアノード入口側で高く、カソード入口側及びアノード出口側で低い傾向にあり、また、アノードの相対湿度は、カソード出口側及びアノード入口側で低く、カソード入口側及びアノード出口側で高い傾向にある。この場合、図示白抜き矢印で概念的に示すとおり、カソード出口側及びアノード入口側では、カソードからアノードへ水分が供給され、且つ、カソード入口側及びアノード出口側では、アノードからカソードへ水分が供給されて、全体的な水分バランス及び電解質膜の湿潤状態が保たれ得る。
【0021】
一方、図7に示す如く、従来構成の燃料電池の高温運転時においては、カソードの相対湿度は、カソード出口及びアノード入口で高く、カソード入口側及びアノード出口側へ向かって低下する傾向にあり、また、アノードの相対湿度は、カソード出口及びアノード入口で低く、ややカソード入口及びアノード出口寄りで一旦高くなるものの、カソード入口側及びアノード出口側へ向かって低下する傾向にある。この場合、図示白抜き矢印で概念的に示すとおり、カソード出口側及びアノード入口側では、カソードからアノードへ水分が供給されるとともに、カソード入口側及びアノード出口側では、アノードからカソードへ水分が奪われ、カソード入口及びアノード出口(図示二点鎖線で示す領域)では、電解質膜が乾燥し、その状態が改善され難い傾向にある。
【0022】
これに対し、図4に示す如く、本発明による燃料電池スタック10の高温運転時においては、カソードの相対湿度は、カソード出口32及びアノード入口41で高く、カソード入口31側及びアノード出口42側へ向かって低下する傾向にあるものの、アノードの相対湿度は、カソード出口32及びアノード入口41で低く、ややカソード入口31及びアノード出口42寄りで一旦高くなり、さらに、カソード入口31側へ向かって低下していく傾向にある。しかし、上述したとおり、カソード入口31では、アノードガスによって水分が運搬・供給されることにより、相対湿度は高くなるので、図示白抜き矢印で概念的に示すとおり、カソード入口31(図示二点鎖線で示す領域)における乾燥状態の電解質膜に対し、アノードから水分が供給されて電解質膜の湿潤状態が好適に維持される。
(第2実施形態)
図5は、本発明による燃料電池の好適な他の一実施形態の構成の一部を模式的に示す部品分解図(一点透視図法による)である。燃料電池スタック110は、サーペンタイン形状のカソード流路を有する燃料電池であり、単位セル20に替えて、カソードセパレータ126及びアノードセパレータ128を備える単位セル120を備えること以外は、燃料電池スタック10と同様に構成されたものである。単位セル120の発電体23、カソードセパレータ126、及びアノードセパレータ128の縁周部には、カソードガス流路130に連通するカソード入口131、及び、同カソード出口132、並びに、アノードガス流路140に連通するアノード入口141、及び、同アノード出口142が設けられている。このように、燃料電池スタック110には、一組のカソード入口131及びカソード出口132、並びに、一組のアノード入口141及びアノード出口142が設けられている。
【0023】
このように構成された燃料電池スタック110においても、先述した燃料電池スタック10と同様の作用効果が奏されるとともに、カソードセパレータ126、及びアノードセパレータ128の構造を簡略化することができる利点がある。
【0024】
なお、上述したとおり、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない限度において様々な変形が可能である。例えば、カソードガス流路30,130及び/又はアノードガス流路40,140の形状は図示のものに限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0025】
以上説明したとおり、本発明は、燃料電池の出力低下を有効に防止することができるので、燃料電池全般、燃料電池を備える機器、システム、設備等、及び、それらの製造に広く且つ有効に利用することができる
【符号の説明】
【0026】
10,110…燃料電池スタック、20,120…単位セル、21…MEA、22…ガス拡散層、23…発電体、26,126…カソードセパレータ、28,128…アノードセパレータ、30,130…カソードガス流路、40,140…アノードガス流路、RA,RC…リブ、31,131…カソード入口、32,132…カソード出口、41,141…アノード入口、42,142…アノード出口、LC…カソード相対湿度分布、LA…アノード相対湿度分布。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両面にカソード及びアノードが配置された膜電極接合体と、
前記膜電極接合体に対向して設けられたセパレータと、
を備え、
前記セパレータは、所定の一辺に並設されたカソード入口及びカソード出口と、前記所定の一辺に対して垂直な辺に設けられており且つ前記カソード出口の近傍に配置されたアノード入口と、を有しており、
前記カソード入口及び前記カソード出口の近傍において、前記カソード出口から前記カソード入口に向かってアノードガスが流通するアノードガス流路が形成されている、
燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−37903(P2013−37903A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173198(P2011−173198)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】