説明

珊瑚育成装置及び珊瑚育成用構造物

【課題】珊瑚の成育を促進すること。
【解決手段】この珊瑚育成装置10は、海水中に配置される陰極12と、海水中に配置されるとともに電気伝導体によって陰極12と電気的に接続され、かつ陰極12よりも自然電位が卑である陽極11とを備える。養殖対象である珊瑚sは、陰極12に取り付けられる。また、この珊瑚育成装置10は、複数の陰極12を備える。複数の陰極12は、格子状の陰極補助体14によって電気的に接続される。そして、複数の陰極12は、陰極補助体14を介して陽極11と電気的に接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、珊瑚の養殖に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、埋め立てや地球の温暖化に起因する海水温度の上昇等によって、珊瑚群集の白化や珊瑚の死滅といった珊瑚礁の衰退が問題となっている。このため、近年においては、珊瑚を人工的に養殖して、珊瑚礁を回復させる試みが提案されている。特許文献1には、海中の任意の深さに位置できる複数の浮体間に、珊瑚の付着する珊瑚養生棚を備える珊瑚養殖装置が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−32620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に珊瑚の成長にはある程度の時間を要するが、珊瑚の養殖においては、珊瑚の成長速度をできるだけ早くすることが望まれる。特許文献1に開示されている珊瑚養殖装置では、珊瑚の成長を促進させることに関しては言及されておらず、かかる点には改善の余地がある。
【0005】
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、珊瑚の成育を促進できる珊瑚育成装置及び珊瑚育成用構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る珊瑚育成装置は、海水中に配置される陰極と、海水中に配置されるとともに前記陰極と電気的に接続され、かつ前記陰極よりも自然電位が卑である陽極と、を含み、前記陰極側に珊瑚が配置されることを特徴とする。
【0007】
この珊瑚育成装置は、陰極と、この陰極と電気的に接続され、かつこの陰極よりも自然電位が卑である陽極とを電気的に接続するとともに、両者を海中に配置する。そして、陰極側に養殖対象である珊瑚を配置する。これによって、陰極には珊瑚の成長に必要な石灰質が析出するとともに、陰極の周辺における環境をアルカリ化することにより、珊瑚の成育に適した環境とする。これによって、珊瑚の成長を促進できる。
【0008】
次の本発明に係る珊瑚育成装置は、前記珊瑚育成装置において、前記陰極に前記珊瑚が取り付けられることを特徴とする。
【0009】
この珊瑚育成装置は、前記珊瑚育成装置と同様の構成なので、前記珊瑚育成装置と同様の作用、効果を奏する。さらに、この珊瑚育成装置は、陰極に養殖対象である珊瑚を取り付ける。陰極には石灰質が析出し、また、陰極の周辺は珊瑚の成長に適した環境となっているので、陰極に珊瑚を取り付けることによって、珊瑚の成長をより促進することができる。
【0010】
次の本発明に係る珊瑚育成装置は、前記珊瑚育成装置において、複数の前記陰極を電気的に接続する陰極補助体を備え、この陰極補助体を介して前記陽極と複数の前記陰極とを電気的に接続する。
【0011】
この珊瑚育成装置は、前記珊瑚育成装置と同様の構成なので、前記珊瑚育成装置と同様の作用、効果を奏する。さらに、この珊瑚育成装置は、陰極補助体を介して陽極と複数の陰極とを電気的に接続する。これによって、陰極や陽極の数が増えても、比較的簡単な構成で、珊瑚育成装置を構成することができる。
【0012】
次の本発明に係る珊瑚育成装置は、前記珊瑚育成装置において、前記陰極補助体は、前記珊瑚を定着させる珊瑚定着用構造体に埋め込まれ、前記陽極は、前記珊瑚定着用構造体の外部に配置されることを特徴とする。
【0013】
この珊瑚育成装置は、前記珊瑚育成装置と同様の構成なので、前記珊瑚育成装置と同様の作用、効果を奏する。さらに、この珊瑚育成装置は、陰極補助体を、珊瑚を定着させる珊瑚定着用構造体に埋め込む。これによって、陽極と陰極との間における電流を小さくすることができるので、陽極の消耗を抑制することができる。
【0014】
次の本発明に係る珊瑚育成装置は、前記珊瑚育成装置において、前記陽極及び前記陰極以外の導電体のうち少なくとも前記陰極補助体は、絶縁材料で覆われることを特徴とする。
【0015】
この珊瑚育成装置は、前記珊瑚育成装置と同様の構成なので、前記珊瑚育成装置と同様の作用、効果を奏する。さらに、この珊瑚育成装置は、陽極及び陰極以外の導電体のうち少なくとも前記陰極補助体を絶縁材料で覆う。これによって、陽極と陰極との間における電流を小さくすることができるので、陽極の消耗を抑制することができる。
【0016】
次の本発明に係る珊瑚育成装置は、前記珊瑚育成装置において、前記珊瑚定着用構造体の表面は、前記珊瑚が配置される部分の周辺における所定領域を除いて、被覆層が設けられることを特徴とする。
【0017】
この珊瑚育成装置は、前記珊瑚育成装置と同様の構成なので、前記珊瑚育成装置と同様の作用、効果を奏する。さらに、この珊瑚育成装置は、珊瑚定着用構造体の表面は、前記珊瑚が配置される部分の周辺における所定領域を除いて、被覆層を設ける。これによって、藻や貝類等の珊瑚の成長を阻害する生物の付着を抑制できるので、珊瑚の成長をより効果的に促進できる。
【0018】
ここで、前記被覆層は、フッ素樹脂で構成することが好ましい。フッ素樹脂は、硬度が高く、また撥水性も高く、さらに表面が滑らかなので、藻や貝類等といった、珊瑚の成育を妨げる生物の付着が効果的に抑制できる。
【0019】
次の本発明に係る珊瑚育成装置は、前記珊瑚育成装置において、さらに、前記陰極と前記陽極との間には、電流制限手段が設けられることを特徴とする。
【0020】
この珊瑚育成装置は、前記珊瑚育成装置と同様の構成なので、前記珊瑚育成装置と同様の作用、効果を奏する。さらに、この珊瑚育成装置は、陰極と陽極との間には、ダイオード等の電流制限手段が設けられる。これによって、珊瑚を養殖する海域の流速や塩分濃度等といった海象状況に応じて陽極−陰極間を流れる電流を調整できるので、海象状況に応じて陰極の周辺を珊瑚の育成に最適な環境とすることができる。
【0021】
次の本発明に係る珊瑚育成用構造物は、浮力を発生して海上に浮かぶ浮力体であり、海中に没する部分には、前記珊瑚育成装置が取り付けられることを特徴とする。
【0022】
この珊瑚育成装置は、前記珊瑚育成装置を備えるので、これによって、珊瑚の成長を促進できる。
【発明の効果】
【0023】
この発明に係る珊瑚育成装置及び珊瑚育成用構造物は、珊瑚の成長を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0025】
この実施形態は、流電陽極法により珊瑚の成長を促進させるものであり、海水中に配置される陰極と、海水中に配置されるとともに陰極と電気的に接続され、かつ陰極よりも自然電位が卑である陽極と、を含み、陰極側に珊瑚が配置されることを特徴とする点に特徴がある。
【0026】
図1は、この実施形態に係る珊瑚育成装置が取り付けられる珊瑚育成用構造物の構造を示す断面図である。この珊瑚育成用構造物1は、浮力を発生して海上に浮かぶ浮力体である。なお、珊瑚育成用構造物1は、浮力体に限られるものではない。珊瑚育成用構造物1は、鋼板1SPをリブ1SRで補強して基本骨格を構成し、その外面に複数のジベル1SE、鉄筋1SCを配置した後、コンクリートを打設してコンクリート層2を形成し、浮力体として構成される。そして、珊瑚育成用構造物1の外側であって海中に没する部分には、この実施形態に係る珊瑚育成装置10が取り付けられる。
【0027】
珊瑚育成用構造物1は、珊瑚の養殖をするために用意して、岸壁や海底に係留してもよいが、例えば、珊瑚育成用構造物1を浮桟橋等として用いてもよい。あるいは、浮桟橋等を利用して、海水と接する側面に珊瑚を養殖する部分を設けてもよい。ここで、珊瑚育成用構造物1を移動可能な浮力体として構成すると、海水温度が異常に上昇した場合には、浮体構造物ごと成育中の子珊瑚を適正な水温の海域に移動させることができる。また、台風等による暴風時には、浮体構造物ごと生育中の珊瑚を港内に移動できるので、生育中における子珊瑚の破損等を最小限に抑えることができる。
【0028】
図2は、この実施形態に係る珊瑚養殖装置の原理を説明するための概念図である。この実施形態に係る珊瑚養殖装置では、いわゆる流電陽極法を利用して、珊瑚の成長を促進する。図2に示すように、金属の陰極C側に養殖対象となる珊瑚sを配置するとともに、陰極Cよりも自然電位が卑な金属を陽極(流電陽極)Aとして配置する。そして、陽極Aと陰極Cとを導線Lで接続し、陽極A、陰極C、及び陽極Aと陰極Cとの間に介在する電解質(海水)の電池作用を利用して、陽極A−陰極C間に電流を流す。これによって、陰極CにはCaCO3やMg(OH)2等の石灰質を析出させるとともに、陰極Cの周辺環境のアルカリ化を促進する。
【0029】
陰極Cに析出した石灰質は、珊瑚sの定着基盤となる。また、陰極Cの周辺環境のアルカリ化が促進される(すなわち陰極Cの周辺における海水のpHが上昇する)と、珊瑚sの石灰化に必要なエネルギーが小さくなるため、珊瑚sの成長速度及び耐性を向上させる。これらの作用によって、この実施形態に係る珊瑚養殖装置では、珊瑚sの成長を促進させることができる。
【0030】
流電陽極法を用いる場合において、陰極Cへの石灰質の析出及び陰極C周辺環境のアルカリ化を促進させるためには、陽極(流電陽極)Aの種類が重要になる。陰極電位が約−1000mV(飽和かんこう電極基準、以下省略)より貴側(イオン化傾向が小さい)であれば、陰極Cにおける反応は、おおむね式(1)で表される酸素還元反応で、電流密度の大きさは100mA/m2程度である。この反応に対応する流電陽極は、アルミニウム系の材料で構成するが、上記電流値では石灰質の析出は遅くなる。一方、流電陽極の消耗は比較的小さいため、流電陽極の寿命は長くなる。
2+H2O+4e-→4OH-・・・(1)
【0031】
一方、陰極電位が−1100mVより卑側(電位が低い)であれば、陰極Cにおける反応は、おおむね式(2)で表される水素発生反応で、電流密度の大きさは1000mA/m2以上も可能となる。この反応に対応する流電陽極は、マグネシウム系の材料で構成する。上記電流値では、石灰質の析出は早くなるが、流電陽極の消耗が大きく、流電陽極の寿命は短くなる。
2H2O+2e-→H2+2OH-・・・(2)
この実施形態においては、石灰質の析出や流電陽極の消耗、あるいは藻や貝類等の付着抑制等を考慮して、流電陽極の材料を選択したり、流電陽極の形状や配置等を変更したりする。
【0032】
珊瑚sの成長を促進させるためには、少なくとも通常の電気防食における電流密度(100mA/m2以下)よりも大きいことが好ましい。好ましくは、通常の電気防食における電流密度の2倍以上10倍以下である。これを実現するためには、陰極電位を−1000mVよりも低くすればよい。そして、珊瑚sの成長を促進させるにあたっては、前記電流密度を実現できるような陽極Aの材料や配置等を選択する。
【0033】
また、珊瑚sの成長を促進させるにあたっては、珊瑚sを養殖する海域の流速に応じて、前記電流密度を変更することが好ましい。より具体的には、珊瑚sを養殖する海域の流速が大きくなるにしたがって前記電流を大きくする。これによって、より確実に陰極Cへの石灰質の析出及び陰極C周辺における環境のアルカリ化を促進させることができる。
【0034】
また、藻や貝類は珊瑚sの成長を阻害するため、珊瑚sの近傍では、藻や貝類の付着や成長を抑える必要がある。珊瑚sの成長には、周囲の海水がアルカリ性であることが好ましいが、かかる環境は藻や貝類の成長にとって好ましくない。したがって、藻や貝類の付着や成長を抑制するため、珊瑚sを配置する陰極C周辺における海水の環境をアルカリ性とするように、陰極Cを選択する。陰極C周辺における海水の環境をアルカリ性とするには、電流が大きい方が好ましい。式(1)の反応と式(2)の反応とでは、式(2)の反応の方が電流は大きくなるので、式(2)の反応となるように陽極Aを構成する材料を選択する。
【0035】
なお、陰極Cと陽極Aとの間に、陽極A−陰極C間を流れる電流の大きさを制御可能な電流制御手段(例えばダイオードや抵抗)を設けてもよい。例えば、陽極Aと陰極Cとに対して直列にダイオードを挿入する。これによって、珊瑚sを養殖する海域の流速や塩分濃度等といった海象状況に応じて陽極A−陰極C間を流れる電流を調整できるので、海象状況に応じて陰極の周辺を珊瑚sの育成に最適な環境とすることができる。次に、この実施形態に係る珊瑚育成装置について説明する。
【0036】
図3−1、図3−2、図4−1、図4−2は、この実施形態に係る珊瑚育成装置の構成を示す説明図である。図3−1、図3−2に示す珊瑚育成装置10及び図4−1、図4−2に示す珊瑚育成装置10aは、上述したように、流電陽極法を利用して珊瑚sの成長を促進させるものである。この珊瑚育成装置10は、陽極(流電陽極)11と、陰極12と、電気伝導体13と、格子状の陰極補助体14とを含んで構成される。
【0037】
この珊瑚育成装置10が備える陽極11は、陰極12よりも離れた位置に配置される棒状の金属部材である。このように、陽極11を棒状の部材とすることで、陽極11による太陽光線の遮断を低減することができる。これによって、珊瑚sが受ける太陽光線の量の減少を抑制できる。なお、この珊瑚育成装置10では、直線状に配列された2列の珊瑚sの配列に対して1本の陽極11が用いられるが、珊瑚sの配列、陽極11の本数及び配列は、これに限定されるものではない。
【0038】
電気伝導体13は、陽極11と陰極12とを電気的に接続する。この珊瑚育成装置10では、陰極12が、珊瑚sが定着するための珊瑚定着用構造体を兼ねており、珊瑚s陰極12に針金等によって固定される。また、陰極補助体14は、陰極12と電気的に接続されている。ここで、図3−1、図3−2に示す珊瑚育成装置10は、格子状の陰極補助体14の格子間隔が、図4−1、図4−2に示す珊瑚育成装置10aよりも細かい。
【0039】
この珊瑚育成装置10、10aは、複数の珊瑚sを同時に養殖するものである。複数の珊瑚sの基部を同時に陰極12とするため、この実施形態では、格子状の陰極補助体14を用い、すべての陰極12と導通させる。これによって、複数の陰極12を陽極11と電気的に接続することができる。なお、陰極補助体14は、複数の陰極12を陽極11と電気的に接続することができればよく、陰極補助体14の形状は格子状に限定されるものではない。
【0040】
ここで、陰極12の材料は、陽極11よりも貴側(イオン化傾向が小さい)の金属であればよいが、海水中で用いることを考慮して、ステンレス鋼等の耐食性が高い金属を用いることが好ましい。同様に、陰極補助体14の材料も、ステンレス鋼等の耐食性が高い金属を用いることが好ましい。
【0041】
陽極11は、陰極12よりも卑側(電位が低い)の金属を用いる。このような金属の中から、陽極11を構成する材料としては、適用される電流の大きさや寿命を考慮して、例えば、亜鉛、亜鉛合金(亜鉛系)、アルミニウム、アルミニウム合金(アルミニウム系)、マグネシウム、マグネシウム合金(マグネシウム系)の中から少なくとも一つを用いる。
【0042】
大きな電流を流すためにはマグネシウム系を用い、これよりも電流が小さくてよい場合には亜鉛系又はアルミニウム系を適用する。ただし、電流の大きいマグネシウム系では寿命が短く、また、電流の小さな亜鉛系及びアルミニウム系では長寿命となるので、適宜使い分ける。初期に大電流、後半の中電流を維持する目的で、マグネシウム系と亜鉛系との組み合わせ、あるいはマグネシウム系とアルミニウム系の組み合わせとしてもよい。
【0043】
上記珊瑚育成装置10、10aは、陽極11と陰極補助体14との間には、所定の距離hを設けてある。このようにすることで、それぞれの珊瑚sが配置される領域における海水中の雰囲気を同様にすることができる。前記所定の距離hは、格子に沿った珊瑚sの配列間隔(すなわち陰極12の配列間隔)lと同程度から1/2程度とすることが好ましい。ここで、格子に沿った珊瑚sの配列間隔lが異なる場合には、両者の平均値を格子に沿った珊瑚sの配列間隔とする。
【0044】
このような構成により、珊瑚育成装置10、10aは、珊瑚sの周囲の環境を珊瑚sの成長に適した環境とすることができるので、珊瑚sの成長を促進することができる。また、珊瑚sが取り付けられる陰極12には、石灰質が析出するため、珊瑚sが珊瑚定着用構造体に定着しようとする付け根部分が前記石灰質により補強される。これによって、珊瑚sの付け根部分が藻や貝類に侵食されても、これを補うことができる。その結果、珊瑚定着用構造体に対する珊瑚sの定着率も向上し、また、珊瑚定着用構造体に対する定着強度も向上する。
【0045】
図5−1、図5−2は、この実施形態に係る珊瑚育成装置の他の構成を示す説明図である。図5−1、図5−2に示す珊瑚育成装置10bは、コンクリート15内に格子状の陰極補助体14を埋め込んである。そして、コンクリート15から電気伝導体13を突出させて、コンクリート15の表面15pから所定の距離h1を設けて陽極11を配置する。コンクリート15は、例えば発泡コンクリート等を用いた多孔質コンクリートとする。このようにすれば、珊瑚sの骨格とコンクリート15とがなじみやすくなるため、珊瑚sがコンクリート15に定着しやすくなる。この珊瑚育成装置10bの使用形態としては、例えば、図1に示す珊瑚育成用構造物1を構成するコンクリート層2内に、陰極補助体14を埋め込むものがある。
【0046】
この珊瑚育成装置10bでは、コンクリート15内に陰極補助体14を埋め込んであるため、陽極11から陰極補助体14に対して流れる電流は、陽極11から陰極12に対して流れる電流よりも小さくなる。これによって、この珊瑚育成装置10bは、上記珊瑚育成装置10、10aと比較して、同じ陽極を用いる場合における電流は小さくなるため、上記珊瑚育成装置10、10aよりも陽極11の寿命が長くなる。
【0047】
図6−1、図6−2は、この実施形態に係る珊瑚育成装置の他の構成を示す説明図である。図6−1、図6−2に示す珊瑚育成装置10cは、陰極補助体14や電気伝導体13を、塗装や樹脂等の絶縁材料によって構成される絶縁層16で覆い、陽極11と陰極12とを海水中に曝すようにしてある。これによって、この珊瑚育成装置10cでは、陽極11から陰極補助体14に対して流れる電流は、陽極11から陰極12に対して流れる電流よりも小さくなる。その結果、この珊瑚育成装置10cは、上記珊瑚育成装置10、10aと比較して、同じ陽極を用いる場合における電流は小さくなるため、上記珊瑚育成装置10、10aよりも陽極11の寿命が長くなる。
【0048】
図7−1、図7−2は、この実施形態に係る珊瑚育成装置の他の構成を示す説明図である。図8は、図7−1、図7−2に示す珊瑚育成装置に適用できる陰極の他の構成例を示す説明図である。この珊瑚育成装置10dは、陽極11dと陰極12dとが1対1で対応している。陽極11dは板状の部材であって、珊瑚定着用構造体であるコンクリート15の表面15p上に配置される。陰極12dは、陽極11dの内部に設けられた陰極取付孔11dh内に配置される。
【0049】
この珊瑚育成装置10dにおいて、陰極12dはねじ12dsを備えている。そして、陰極11dは、コンクリート15に埋め込まれたアンカーボルト17にねじ込まれてコンクリート15に取り付けられる。陽極11dには、電気伝導体13dが埋め込まれており、陽極11dと電気伝導体13dとは電気的接続されている。そして、電気伝導体13dは、陰極11dに取り付けられるナット(電気的接続手段)18とコンクリート15との間に固定される。このような構成により、陽極11dと陰極12dとは、電気伝導体13d、ナット18を介して電気的に接続される。なお、陽極11dの平面視における形状は四角形に限定されるものではなく、四角形以外の多角形や円形、あるいは楕円形であってもよい。
【0050】
また、図8に示す陰極12dの構成のように、ナット18の代わりにセラミックスやモルタル等の多孔質で構成される基部19を陰極12dに取り付け、コンクリート15とともに電気伝導体13を挟み込んでもよい。この場合、電気伝導体13と陰極12dとを接触させて、両者を電気的に接続する。このように、セラミックスやモルタル等の基部19を設けることで、珊瑚sと基部19とがなじみやすくなる。この珊瑚育成装置10dは、上記珊瑚育成装置10a〜10dで用いていた陰極補助体14等が不要になる。これによって、珊瑚定着用構造体であるコンクリート15の表面15p上に珊瑚sを配置する際の自由度が向上する。また、陽極11dは、陰極11dに取り付けられる珊瑚sよりも陰極11d側にあるため、珊瑚sに照射される太陽光線を陽極11dが遮ることはない。これによって、この珊瑚育成装置10dは、太陽光線を効果的に珊瑚へ照射して、珊瑚の成長を促進させることができる。
【0051】
図9−1、図9−2は、この実施形態に係る珊瑚育成装置の他の構成を示す説明図である。珊瑚定着用構造体にコンクリートを用いる場合、珊瑚も定着しやすいが、藻や貝類も付着しやすい。藻や貝類が珊瑚sの近傍に付着した場合、藻が珊瑚sの周りに生い茂ったり、貝類が珊瑚sの周囲に密集したりして珊瑚sの光合成を阻害し、珊瑚sの成育を妨げる。このため、珊瑚sがに成長するまでの間、珊瑚以外の藻や貝類が珊瑚sの周辺に極力付着しないようにする必要がある。
【0052】
そこで、この実施形態に係る珊瑚育成装置10eでは、コンクリート15の表面において珊瑚sを配置する部分の周辺における所定領域21を除いて、硬質かつ表面が滑らかな被覆層20を設ける。これによって、珊瑚sの周囲に藻や貝類が付着することを抑制できるので、珊瑚sの成育が妨げられるおそれを低減できる。これによって、珊瑚sの付け根部分が藻や貝類に侵食されるおそれを低減できるので、珊瑚定着用構造体に対する珊瑚sの定着率も向上し、また、珊瑚定着用構造体に対する定着強度も向上する。
【0053】
被覆層20は、例えば、フッ素樹脂やウレタン系の樹脂、あるいはシリコーン系の樹脂を用いることができる。特にフッ素樹脂は、硬度が高く、また撥水性も高く、さらに表面が滑らかである。このため、藻や貝類が付着しにくくなって、珊瑚sの成育を妨げる生物の付着が効果的に抑制でき、好ましい。フッ素樹脂やウレタン系の樹脂等は、例えば、塗料として珊瑚sを配置する部分の周辺における所定領域21以外の領域に塗布する。
【0054】
ここで、上述のように、珊瑚sを配置する部分の周辺における所定領域21には、被覆層20を設けないことが好ましい。これによって、珊瑚sの基部とコンクリート15とがなじみやすくなり、珊瑚sがコンクリート15に定着しやすくなる。前記所定領域21は、例えば、珊瑚sの配置部を中心とした半径50mm程度の領域とすることができる。
【0055】
また、被覆層20の厚さtは、珊瑚sの成育を妨げる生物の付着を抑制できる範囲で、できる限り小さくすることが好ましい。これによって、被覆層20を形成するためのフッ素樹脂等の使用量を低減できる。なお、珊瑚sが親珊瑚に成長するまでの期間、珊瑚sの成育を妨げる生物の付着を抑制できればよい。したがって、前記期間、珊瑚を育成する部分に被覆層20が存在していればよいので、かかる観点から被覆層20の厚さtを決定してもよい。また、被覆層20を形成するフッ素樹脂等は、時間の経過とともに消耗するため、珊瑚sが親珊瑚に成長するまでの期間前後に被覆層20が消滅するように、被覆層20の厚さtを決定してもよい。
【0056】
図10−1、図10−2は、この実施形態に係る珊瑚育成装置の他の構成を示す説明図である。この珊瑚育成装置10fは、珊瑚sを配置する部分の周辺における所定領域21を除いて、珊瑚定着用構造体であるコンクリート15の表面を、板状の被覆陽極11fで覆う。そして、珊瑚sの成長促進と、藻や貝類の付着抑制とを両立させるため、電流の制御を容易にできるように、電源22(直流電源)によって被覆陽極11fと陰極補助体14fに取り付けられた陰極12fとの間に電流を流す。この場合、被覆陽極11fには、陽極として用いた場合に、塩素、酸素、活性酸素を生成する材料を用いる。このような材料としては、例えば、炭素系、チタン系の材料があげられる。これによって、被覆陽極11fの表面に発生する塩素等によって、藻や貝類の付着を抑制する。その結果、珊瑚sの付け根部分が藻や貝類に侵食されるおそれを低減できるので、珊瑚定着用構造体に対する珊瑚sの定着率も向上し、また、珊瑚定着用構造体に対する定着強度も向上する。
【0057】
なお、被覆陽極11fと陰極12fとの間に、両者間を流れる電流を調整する電流の大きさを制御可能な電流制御手段(例えばダイオードや抵抗)を設けてもよい。例えば、被覆陽極11fと陰極12fとに対して直列にダイオードを挿入する。これによって、珊瑚sを養殖する海域の流速や塩分濃度等といった海象状況に応じて被覆陽極11f−陰極12f間を流れる電流を調整できるので、海象状況に応じて陰極の周辺を珊瑚sの育成に最適な環境とすることができる。
【0058】
図11−1、図11−2は、この実施形態に係る珊瑚育成装置の他の構成を示す説明図である。この珊瑚育成装置10gは、陰極12gに例えば、チタン(Ti)やチタン化合物、ステンレス等の板材を用い、珊瑚sを配置する部分の周辺における所定領域21を避けて陰極12gを取り付ける。この珊瑚育成装置10gにおいて、陰極12gは、分割構造とすることで、取り付け、取り外しが容易になるようにしてある。
【0059】
陰極12gは、ボルト11gによって珊瑚定着用構造体であるコンクリート15の表面15pに固定される。ボルト11gは、陽極(流電陽極)であり、亜鉛系、アルミニウム系、マグネシウム系のうち少なくとも一つが用いられる。陰極12gと陽極であるボルト11gとの間には、導電材料で構成される電気伝導体13gが設けられる。ここで、電気伝導体13gは、カラーとして用いられる。これによって、陽極であるボルト11gと陰極12gとは電気的に接続される。なお、ボルト11gと陽極とを兼用しない構成としてもよい。この場合、例えば、カラー13gとボルトBの頭との間に、陽極11g'を取り付けることができる。
【0060】
このような構成により、珊瑚sの成長が促進されとともに、陰極12gで珊瑚sの成育を妨げる生物の付着を抑制する。これによって、珊瑚sの付け根部分が藻や貝類に侵食されるおそれを低減できるので、珊瑚定着用構造体に対する珊瑚sの定着率も向上し、また、珊瑚定着用構造体に対する定着強度も向上する。特に、陰極12gとしてチタン及びチタン化合物を用いると、珊瑚sの成育を妨げる生物の付着を効果的に抑制できるので好ましい。また、陰極12gは、海水と接触する面を、鏡面加工することが好ましい。このようにすれば、珊瑚sの成育を妨げる生物の付着をより効果的に抑制できる。
【0061】
以上、この実施形態に係る珊瑚育成装置は、いわゆる流電陽極法を用いて珊瑚の成長を促進させる。これによって、簡単な構成で珊瑚の成長を促進できる。また、外部電源を用いる方式と比較して消費電力を抑えることができるとともに、保守、点検も簡略化できる。なお、この実施形態と同様の構成を備えるものは、この実施形態と同様の作用、効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上のように、本発明に係る珊瑚育成装置及び珊瑚育成用構造物は、珊瑚の養殖に有用であり、特に、珊瑚の成長を促進することに適している。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】この実施形態に係る珊瑚育成装置が取り付けられる珊瑚育成用構造物の構造を示す断面図である。
【図2】この実施形態に係る珊瑚養殖装置の原理を説明するための概念図である。
【図3−1】この実施形態に係る珊瑚育成装置の構成を示す説明図である。
【図3−2】この実施形態に係る珊瑚育成装置の構成を示す説明図である。
【図4−1】この実施形態に係る珊瑚育成装置の構成を示す説明図である。
【図4−2】この実施形態に係る珊瑚育成装置の構成を示す説明図である。
【図5−1】この実施形態に係る珊瑚育成装置の他の構成を示す説明図である。
【図5−2】この実施形態に係る珊瑚育成装置の他の構成を示す説明図である。
【図6−1】この実施形態に係る珊瑚育成装置の他の構成を示す説明図である。
【図6−2】この実施形態に係る珊瑚育成装置の他の構成を示す説明図である。
【図7−1】この実施形態に係る珊瑚育成装置の他の構成を示す説明図である。
【図7−2】この実施形態に係る珊瑚育成装置の他の構成を示す説明図である。
【図8】図7−1、図7−2に示す珊瑚育成装置に適用できる陰極の他の構成例を示す説明図である。
【図9−1】この実施形態に係る珊瑚育成装置の他の構成を示す説明図である。
【図9−2】この実施形態に係る珊瑚育成装置の他の構成を示す説明図である。
【図10−1】この実施形態に係る珊瑚育成装置の他の構成を示す説明図である。
【図10−2】この実施形態に係る珊瑚育成装置の他の構成を示す説明図である。
【図11−1】この実施形態に係る珊瑚育成装置の他の構成を示す説明図である。
【図11−2】この実施形態に係る珊瑚育成装置の他の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0064】
1 珊瑚育成用構造物
2 コンクリート層
10、10a、10b、10c、10d、10e、10f、10g 珊瑚育成装置
11、11d、11g' 陽極
11f 被覆陽極
11g ボルト(陽極)
12 陰極
12d、12f、12g 陰極
13、13d、13g 電気伝導体
14、14f 陰極補助体
15 コンクリート
16 絶縁層
20 被覆層
22 電源
A 陽極
B ボルト
C 陰極
L 導線
s 珊瑚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水中に配置される陰極と、
海水中に配置されるとともに前記陰極と電気的に接続され、かつ前記陰極よりも自然電位が卑である陽極と、を含み、
前記陰極側に珊瑚が配置されることを特徴とする珊瑚育成装置。
【請求項2】
前記陰極に前記珊瑚が取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の珊瑚育成装置。
【請求項3】
複数の前記陰極を電気的に接続する陰極補助体を備え、この陰極補助体を介して前記陽極と複数の前記陰極とを電気的に接続する請求項1又は2に記載の珊瑚育成装置。
【請求項4】
前記陰極補助体は、前記珊瑚を定着させる珊瑚定着用構造体に埋め込まれ、
前記陽極は、前記珊瑚定着用構造体の外部に配置されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の珊瑚育成装置。
【請求項5】
前記陽極及び前記陰極以外の導電体のうち少なくとも前記陰極補助体は、絶縁材料で覆われることを特徴とする請求項3又は4に記載の珊瑚育成装置。
【請求項6】
前記珊瑚定着用構造体の表面は、前記珊瑚が配置される部分の周辺における所定領域を除いて、被覆層が設けられることを特徴とする請求項4に記載の珊瑚育成装置。
【請求項7】
前記被覆層は、フッ素樹脂で構成されることを特徴とする請求項6に記載の珊瑚育成装置。
【請求項8】
さらに、前記陰極と前記陽極との間には、電流制限手段が設けられることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の珊瑚育成装置。
【請求項9】
浮力を発生して海上に浮かぶ浮力体であり、海中に没する部分には、請求項1〜8のいずれか1項に記載の珊瑚育成装置が取り付けられることを特徴とする珊瑚育成用構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【公開番号】特開2007−159525(P2007−159525A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−363132(P2005−363132)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000232759)日本防蝕工業株式会社 (21)
【出願人】(504089758)株式会社シーピーファーム (10)
【Fターム(参考)】