説明

生分解性樹脂組成物及び生分解性樹脂フィルム

【課題】生分解性樹脂組成物及び生分解性樹脂フィルムにおいて、極めて透明性に優れ、土中での分解性能を確保して地表部でのUV劣化を抑えられ、成膜性に優れ長期間の展張に耐える柔軟性と強度とを有すること。
【解決手段】澱粉(D)とグリセリン(E)とを配合・混練して(S10)、押出成形機で成分(D)と成分(E)とからなるペレット3を作製し(S11)、芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂(C)と配合・混練して(S12)、押出成形機でペレット4を作製し(S13)、ポリ乳酸系樹脂(A)と脂肪族ポリエステル樹脂(B)とを配合・混練して(S14)、押出成形機でストランドを押し出してカットして(S15)、ペレット状の生分解性樹脂組成物1が得られる。この生分解性樹脂組成物1を押出成形機でフィルム成形用のダイスで成形して(S16)、生分解性樹脂フィルム2を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性に優れていて土中での分解性能を確保して地表部での劣化を抑え、長期間の展張に耐える強度を有し、農業用シート・農業用フィルム等として応用することができる生分解性樹脂組成物及び生分解性樹脂フィルムに関するものである。なお、本明細書・特許請求の範囲・図面及び要約書においては、「生分解性樹脂フィルム」には厚さの極めて薄いフィルム状のものから、厚さのあるシート状のもの、すなわち「生分解性樹脂シート」までが含まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題が深刻化する中で、代表的な温暖化ガスである二酸化炭素ガスの削減を目的として、廃棄する際に燃やす必要のない生分解性樹脂を用いた生分解性樹脂フィルム等の開発が活発に行われている。中でも、ビニールハウス等に用いられる農業用シート・農業用フィルムにおいては、透明性に優れていて、土中での分解性能を確保しつつ地表部での紫外線(UV)劣化を抑えた、長期間の展張に耐えるものが必要とされている。
【0003】
ここで、代表的な生分解性樹脂としては、ポリ乳酸系樹脂、脂肪族ポリエステル樹脂、芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂、等がある。しかし、これらの樹脂単独でシートやフィルムを形成した場合には、それぞれ、ポリ乳酸系樹脂は非常に硬くて伸びが少ない、脂肪族ポリエステル樹脂は縦方向の引き裂きに対して弱い、芳香族脂肪族ポリエステル樹脂は透明性及び耐紫外線(UV)劣化性が悪く耐候性に劣る、という問題があった。
【0004】
また、これらの樹脂を複合化した場合には、各樹脂の熱的性質、特に融点・ガラス転移温度が大幅に異なるため、シート・フィルム成膜時のブロッキング、バルーンの安定性等の製造上の問題が発生する。特に、高融点であるポリ乳酸系樹脂の含有率が50%重量以上の場合には、この問題が顕著である。
【0005】
そこで、これらの問題点を解決するために、特許文献1及び特許文献2においては、ポリ乳酸系樹脂(A)、脂肪族ポリエステル樹脂(B)、芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂(C)の三成分混合物において、(C)の濃度が(B)+(C)に対して40重量%〜70重量%の範囲であり、(A)の濃度が(A)+(B)+(C)に対して6重量%〜30重量%の範囲とした発明について開示している。これによって、各々の成分に比較して特性が改良され、フィルムを形成した場合に縦横の双方向にかなりの強度を有するとともに透明性・剛性を示す三成分混合物が得られるとしている。
【特許文献1】特表2004−518781号公報
【特許文献2】特表2004−518808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2に記載の三成分混合物においては、透明性に優れたポリ乳酸系樹脂(A)の添加量が6重量%〜30重量%の範囲と少なく、逆に芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂(C)の添加量が多いために、フィルムを形成した場合に充分な透明性及び耐紫外線(UV)劣化性が確保されないという問題点があった。充分な透明性及び耐UV劣化性を得るためには、芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂の添加量を少なくするとともにポリ乳酸系樹脂の添加量を50重量%以上とすることが好ましいが、このように多量のポリ乳酸系樹脂を添加した場合に成膜性の良好な生分解性樹脂組成物は、これまで開発されていなかった。
【0007】
そこで、本発明においては、極めて透明性に優れ、土中での分解性能を確保して地表部でのUV劣化を抑えることができ、かつ成膜性に優れていて長期間の展張に耐える柔軟性と強度とを有し、農業用シート・農業用フィルム等として応用することができる生分解性樹脂組成物及び生分解性樹脂フィルムの提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明に係る生分解性樹脂組成物は、(A)ポリ乳酸系樹脂、(B)脂肪族ポリエステル樹脂、(C)芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂、(D)澱粉、(E)澱粉を可塑化させる可塑剤、の少なくとも5成分を含有する樹脂組成物であって、各成分の固形分換算重量比が、(A)/(B)が1を超えて4未満の範囲内、(A)+(B)が前記樹脂組成物の90%〜98%の範囲内、(C)が前記樹脂組成物の1%〜7%の範囲内、(D):(E)=1.5:1〜9:1の範囲内で、かつ、(D)+(E):(C)=1:1〜1:9の範囲内であるものである。
【0009】
ここで、「ポリ乳酸系樹脂」としては、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸、等を用いることができる。また、「脂肪族ポリエステル樹脂」とは、広い意味での生分解性脂肪族ポリエステルからポリ乳酸系樹脂を除いたものを意味しており、ポリヒドロキシ酪酸、ポリブチレンサクシネート、等がある。更に、「脂肪族ポリエステル樹脂」には、予め脂肪族ポリエステル樹脂と可塑化澱粉をブレンドし、アロイ化したものも含まれる。
【0010】
更に、「芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂」としては、ポリブチレンサクシネートテレフタレート(poly(butylene succinate/terephthalate):PBST)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(poly(butylene adipate/terephthalate):PBAT)、ポリエチレンアジペートテレフタレート(poly(ethylene adipate/terephthalate):PEAT)、ポリブチレンサクシネートアジペートテレフタレート(poly(butylene succinate/adipate/terephthalate):PBSAT)、等がある。
【0011】
また、「澱粉」としては、コーンスターチ・ハイアミロスターチ・小麦澱粉・米澱粉等の地上茎未変性澱粉、馬鈴薯澱粉・タピオカ澱粉等の地下茎未変性澱粉、及びそれらの澱粉の低度エステル化・エーテル化・酸化・酸処理化・デキストリン化された澱粉置換誘導体等を、単独でまたは複数併用して使用することができる。これらの澱粉は、非常に小さな寸法の粒子の形態で用いられる。
【0012】
更に、「澱粉を可塑化させる可塑剤」としては、グリセリン、トリアセチン(グリセロールトリアセテート)、エトキシル化ポリグリセロール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ソルビトールジアセテート、ソルビトールモノエトキシレート、ソルビトールジエトキシレート、及びこれらの混合物を使用することができる。
【0013】
請求項2の発明に係る生分解性樹脂組成物は、請求項1の構成において、前記(C)芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂がポリブチレンサクシネートテレフタレート(PBST)及び/またはポリブチレンサクシネートアジペートテレフタレート(PBSAT)であるものである。
【0014】
請求項3の発明に係る生分解性樹脂組成物は、(A)ポリ乳酸系樹脂、(B)脂肪族ポリエステル樹脂、(D)澱粉、(E)澱粉を可塑化させる可塑剤、の少なくとも4成分を含有する樹脂組成物であって、各成分の固形分換算重量比が、(A)/(B)が1を超えて4未満の範囲内、(A)+(B)が前記樹脂組成物の93重量%〜99重量%の範囲内、(D):(E)=1.5:1〜9:1の範囲内であるものである。
【0015】
請求項4の発明に係る生分解性樹脂組成物は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つの構成において、前記(D)澱粉がその分子集合体であるミセルが破砕された状態で含有されるものである。
【0016】
請求項5の発明に係る生分解性樹脂フィルムは、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の生分解性樹脂組成物を用いて形成されるものである。
【0017】
請求項6の発明に係る生分解性樹脂フィルムは、請求項5の構成において、前記生分解性有機組成物を前記(D)澱粉及び前記(E)澱粉を可塑化させる可塑剤を混練した上で前記(C)芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂に相溶化させた後に前記(A)ポリ乳酸系樹脂及び前記(B)脂肪族ポリエステル樹脂との間で熱溶融ブレンドしてペレット化させてから形成されるものである。
【0018】
請求項7の発明に係る生分解性樹脂フィルムは、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の生分解性樹脂組成物を用いて形成される生分解性樹脂フィルムであって、前記生分解性樹脂組成物からなる層が一方または両方の最外層になるように層状に形成されるものである。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明に係る生分解性樹脂組成物は、(A)ポリ乳酸系樹脂、(B)脂肪族ポリエステル樹脂、(C)芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂、(D)澱粉、(E)澱粉を可塑化させる可塑剤、の少なくとも5成分を含有する樹脂組成物であって、各成分の固形分換算重量比が、(A)/(B)が1を超えて4未満の範囲内、(A)+(B)が樹脂組成物の90重量%〜98重量%の範囲内、(C)が樹脂組成物の1重量%〜7重量%の範囲内、(D):(E)=1.5:1〜9:1の範囲内で、かつ、(D)+(E):(C)=1:1〜1:9の範囲内である。
【0020】
ここで、「ポリ乳酸系樹脂」としては、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸が混合したもの、等を用いることができる。また、「脂肪族ポリエステル樹脂」とは、広い意味での生分解性脂肪族ポリエステルからポリ乳酸系樹脂を除いたものを意味しており、ポリヒドロキシ酪酸、ポリブチレンサクシネート、等がある。更に、「脂肪族ポリエステル樹脂」には、予め脂肪族ポリエステル樹脂と可塑化澱粉をブレンドし、アロイ化したものも含まれる。
【0021】
更に、「芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂」としては、ポリブチレンサクシネートテレフタレート(poly(butylene succinate/terephthalate):PBST)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(poly(butylene adipate/terephthalate):PBAT)、ポリエチレンアジペートテレフタレート(poly(ethylene adipate/terephthalate):PEAT)、ポリブチレンサクシネートアジペートテレフタレート(poly(butylene succinate/adipate/terephthalate):PBSAT)、等がある。
【0022】
また、「澱粉」としては、コーンスターチ・ハイアミロスターチ・小麦澱粉・米澱粉等の地上茎未変性澱粉、馬鈴薯澱粉・タピオカ澱粉等の地下茎未変性澱粉、及びそれらの澱粉の低度エステル化・エーテル化・酸化・酸処理化・デキストリン化された澱粉置換誘導体等を、単独でまたは複数併用して使用することができる。これらの澱粉は、非常に小さな寸法の粒子の形態で用いられる。
【0023】
更に、「澱粉を可塑化させる可塑剤」としては、グリセリン、トリアセチン(グリセロールトリアセテート)、エトキシル化ポリグリセロール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ソルビトールジアセテート、ソルビトールモノエトキシレート、ソルビトールジエトキシレート、及びこれらの混合物を使用することができる。
【0024】
本発明者は、(A)ポリ乳酸系樹脂、(B)脂肪族ポリエステル樹脂、(C)芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂、(D)澱粉、(E)澱粉を可塑化させる可塑剤、の少なくとも5成分を含有する樹脂組成物について、長年の間、鋭意実験研究を重ねた結果、各成分の固形分換算重量比が、(A)/(B)が1を超えて4未満の範囲内、(A)+(B)が樹脂組成物の90重量%〜98重量%の範囲内、(C)が樹脂組成物の1重量%〜7重量%の範囲内、(D):(E)=1.5:1〜9:1の範囲内、かつ、(D)+(E):(C)=1:1〜1:9の範囲内とすることによって、透明性及び耐UV劣化性を向上させるポリ乳酸系樹脂を多量に含みながら、柔軟性に優れ成膜性の極めて良好な生分解性樹脂組成物が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
【0025】
すなわち、本発明に係る生分解性樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂(A)と脂肪族ポリエステル樹脂(B)との重量比が(A)/(B)が1を超えて4未満の範囲内であり、かつ、(A)+(B)が樹脂組成物の90重量%〜98重量%の範囲内であるから、ポリ乳酸系樹脂(A)を少なくとも45重量%を超えて最大78.4重量%未満を含有しており、芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂(C)は1重量%〜7重量%しか含まれないことから、極めて透明性及び耐UV劣化性に優れた生分解性樹脂組成物となる。
【0026】
また、本発明者は、澱粉(D)を少量添加することによって、ポリ乳酸系樹脂を多量に含有する樹脂組成物であっても柔軟性に優れたものとなり、成膜性が極めて良好となることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。そして、澱粉(D)を均一に添加するためには、澱粉を可塑化させる可塑剤(E)が必要不可欠であり、その添加量は(D):(E)=1.5:1〜9:1の範囲内、かつ、(D)+(E):(C)=1:1〜1:9の範囲内とする必要があることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
【0027】
このようにして、極めて透明性に優れ、土中での分解性能を確保して地表部でのUV劣化を抑えることができ、かつ成膜性に優れていて長期間の展張に耐える柔軟性と強度とを有し、農業用シート・農業用フィルム等として応用することができる生分解性樹脂組成物となる。
【0028】
請求項2の発明に係る生分解性樹脂組成物においては、(C)芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂がポリブチレンサクシネートテレフタレート(PBST)及び/またはポリブチレンサクシネートアジペートテレフタレート(PBSAT)である。
【0029】
本発明者は、農業用シート・農業用フィルム等として使用される生分解性樹脂組成物に用いられる芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂について、長年の間、鋭意実験研究を重ねた結果、ポリブチレンサクシネートテレフタレート(PBST)またはポリブチレンサクシネートアジペートテレフタレート(PBSAT)を単体でまたはブレンドして使用することによって、ポリ乳酸系樹脂を多量に含有する樹脂組成物であっても柔軟性に優れたものとなり、成膜性が極めて良好となることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
【0030】
このようにして、極めて透明性に優れ、土中での分解性能を確保して地表部でのUV劣化を抑えることができ、かつ成膜性に優れていて長期間の展張に耐える柔軟性と強度とを有し、農業用シート・農業用フィルム等として応用することができる生分解性樹脂組成物となる。
【0031】
請求項3の発明に係る生分解性樹脂組成物は、(A)ポリ乳酸系樹脂、(B)脂肪族ポリエステル樹脂、(D)澱粉、(E)澱粉を可塑化させる可塑剤、の少なくとも4成分を含有する樹脂組成物であって、各成分の固形分換算重量比が、(A)/(B)が1を超えて4未満の範囲内、(A)+(B)が樹脂組成物の93重量%〜99重量%の範囲内、(D):(E)=1.5:1〜9:1の範囲内である。
【0032】
本発明に係る生分解性樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂(A)と脂肪族ポリエステル樹脂(B)との重量比が(A)/(B)が1を超えて4未満の範囲内であり、かつ、(A)+(B)が樹脂組成物の93重量%〜99重量%の範囲内であるから、ポリ乳酸系樹脂(A)を少なくとも46.5重量%を超えて最大79.2重量%未満含有しており、一方、芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂を含有しないことから、極めて透明性及び耐UV劣化性に優れた生分解性樹脂組成物となる。
【0033】
また、本発明者は、澱粉(D)を少量添加することによって、ポリ乳酸系樹脂を多量に含有する樹脂組成物であっても柔軟性に優れたものとなり、成膜性が極めて良好となることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。そして、澱粉(D)を均一に添加するためには、澱粉を可塑化させる可塑剤(E)が必要不可欠であり、その添加量は(D):(E)=1.5:1〜9:1の範囲内とする必要があることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
【0034】
このようにして、極めて透明性に優れ、土中での分解性能を確保して地表部でのUV劣化を抑えることができ、かつ成膜性に優れていて長期間の展張に耐える柔軟性と強度とを有し、農業用シート・農業用フィルム等として応用することができる生分解性樹脂組成物となる。
【0035】
請求項4の発明に係る生分解性樹脂組成物においては、(D)澱粉がその分子集合体であるミセルが破砕された状態で含有される。
【0036】
澱粉の分子集合体であるミセルは、一般に15μm〜20μm程度の大きさを有しているため、そのままの大きさで生分解性樹脂組成物の中に混合した場合には、数μm〜数十μmの厚さのフィルムを形成した場合に、澱粉の15μm〜20μm程度の大きさの粒によってフィルム面に凸部が生じてしまう。そこで、これを防止して平滑な面を有する数μm〜数十μmの厚さのフィルムを形成するためには、澱粉の分子集合体であるミセルを破砕して、グルコースがへリックス状に重合した分子状態として含有させることが必要となる。
【0037】
このようにして、極めて透明性に優れ、土中での分解性能を確保して地表部でのUV劣化を抑えることができ、かつ成膜性に優れていて長期間の展張に耐える柔軟性と強度とを有し、農業用シート・農業用フィルム等として応用することができる生分解性樹脂組成物となる。
【0038】
請求項5の発明に係る生分解性樹脂フィルムは、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の生分解性樹脂組成物を用いて形成される。
【0039】
請求項1乃至請求項4に係る生分解性樹脂組成物は、いずれも極めて透明性に優れており、土中での分解性能を確保しつつ地表部でのUV劣化を抑えることができ、かつ成膜性に優れていて、成膜してフィルムとした場合に長期間の展張に耐える柔軟性と強度とを有するものである。したがって、これらの生分解性樹脂組成物を用いてフィルムを形成することによって、農業用シート・農業用フィルム等として幅広く応用することができる。
【0040】
このようにして、極めて透明性に優れ、土中での分解性能を確保して地表部でのUV劣化を抑えることができ、かつ成膜性に優れていて長期間の展張に耐える柔軟性と強度とを有し、農業用シート・農業用フィルム等として応用することができる生分解性樹脂フィルムとなる。
【0041】
請求項6の発明に係る生分解性樹脂フィルムにおいては、生分解性有機組成物を(D)澱粉及び(E)澱粉を可塑化させる可塑剤を混練した上で(C)芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂に相溶化させてペレット化させた後に(A)ポリ乳酸系樹脂及び(B)脂肪族ポリエステル樹脂との間で熱溶融ブレンドしてペレット化させてから形成される。
【0042】
上述したように、本発明に係る生分解性樹脂フィルムにおいては、澱粉(D)の含有量が少ないため、その原料である生分解性有機組成物の全体に均一に分散させるためには、まず含有量の少ない芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂(C)、澱粉(D)、澱粉を可塑化させる可塑剤(E)のマスターバッチを作製して、これをポリ乳酸系樹脂(A)及び脂肪族ポリエステル樹脂(B)と混合することが好ましい。
【0043】
そこで、生分解性有機組成物の作製の手順として、まず澱粉(D)と澱粉を可塑化させる可塑剤(E)を混練して澱粉(D)を可塑化させ、澱粉のミセルを破砕した状態にしてから、芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂(C)に相溶化させてペレット化させ、マスターバッチのペレットを作製し、これをポリ乳酸系樹脂(A)及び脂肪族ポリエステル樹脂(B)と混合して熱溶融ブレンドすることによって、より確実に澱粉(D)を生分解性有機組成物の全体に均一に分散させることができる。
【0044】
なお、ここで澱粉(D)と澱粉を可塑化させる可塑剤(E)を混練して澱粉(D)を可塑化させ、芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂(C)に相溶化させてペレット化させることによるマスターバッチペレットの代わりに、JBPS(日本バイオプラスチック協会)のGBポジティブリスト(分類番号A)記載の澱粉系生分解性樹脂及びそのポリエステルコンパウンドを使用することも可能である。
【0045】
これによって、澱粉(D)による生分解性有機組成物の成膜性の向上の効果が、フィルム全体に亘って均一に表れるため、より確実に均一な厚さの特性の優れた生分解性樹脂フィルムを得ることができる。
【0046】
このようにして、透明性に優れていて土中での分解性能を確保して地表部での劣化を抑え、長期間の展張に耐える強度を有し、農業用シート・農業用フィルム等として応用することができる生分解性樹脂フィルムとなる。
【0047】
請求項7の発明に係る生分解性樹脂フィルムは、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の生分解性樹脂組成物を用いて形成される生分解性樹脂フィルムであって、生分解性樹脂組成物からなる層が一方または両方の最外層になるように層状に形成される。
【0048】
これによって、農業用シート・農業用フィルム等として使用する場合には、最外層として形成された生分解性樹脂組成物からなる層を外側に向けて使用することによって、生分解性樹脂組成物からなる層は紫外線による劣化にも強く耐候性に優れているため、長期間に亘って優れた透明性を維持しながら使用することができる。
【0049】
なお、層状に形成される生分解性樹脂フィルムの最外層以外の層については、少なくとも生分解性を有する材料から形成される必要がある。
【0050】
このようにして、透明性に優れていて土中での分解性能を確保して地表部での劣化を抑え、長期間の展張に耐える強度を有し、農業用シート・農業用フィルム等として応用することができる生分解性樹脂フィルムとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、本発明の実施の形態に係る生分解性樹脂組成物及び生分解性樹脂フィルムについて、図面を参照しつつ説明する。なお、各実施の形態において、同一の記号及び同一の符号は同一または相当する部分を意味し、実施の形態相互の同一の記号及び同一の符号は、それら実施の形態に共通する部分であるから、ここでは重複する詳細な説明を省略する。
【0052】
実施の形態1
まず、本発明の実施の形態1に係る生分解性樹脂組成物及び生分解性樹脂フィルムについて、図1を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態1に係る生分解性樹脂組成物及び生分解性樹脂フィルムの製造方法を示すフローチャートである。
【0053】
最初に、本実施の形態1に係る生分解性樹脂組成物及び生分解性樹脂フィルムの製造方法について、図1を参照して説明する。まず、澱粉(D)と澱粉を可塑化させる可塑剤としてのグリセリン(E)とを配合・混練して(ステップS10)、押出成形機でストランドを押し出してカットし、成分(D)と成分(E)とからなるペレット3を作製する(ステップS11)。ここで、澱粉(D)としては、市販の通常のトウモロコシ澱粉(アミロースとアミノペクチンの混合物、アミロースの分子量MW=5×105 〜2×106 、アミノペクチンの分子量MW=1.5×107 〜4×107 )を使用した。
【0054】
次に、このペレット3と芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂としてのエコフレックス(C)とを配合・混練して(ステップS12)、押出成形機でストランドを押し出してカットし、成分(C),(D),(E)からなるペレット4を作製する(ステップS13)。ここで、芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂(C)としては、ポリブチレンサクシネートテレフタレート(PBST)である、BASF社製のエコフレックス(Ecoflex)を使用した。
【0055】
続いて、このペレット4とポリ乳酸系樹脂(A)と脂肪族ポリエステル樹脂(B)とを配合・混練して(ステップS14)、押出成形機でストランドを押し出してカットすることによって(ステップS15)、ペレット状の本実施の形態1に係る生分解性樹脂組成物1が得られる。ここで、ポリ乳酸系樹脂(A)としてはポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸が混合したものである三井化学(株)製のレイシアH−100を使用し、また脂肪族ポリエステル樹脂(B)としてはポリブチレンサクシネートである昭和電工(株)製のビオノーレ#1001を使用した。
【0056】
なお、ステップS14の工程は必須なものではなく、ペレットとして入手できるポリ乳酸系樹脂(A)と脂肪族ポリエステル樹脂(B)と、ペレット4とを、直接押出成形機に供給しても良い。こうして得られたペレット状の生分解性樹脂組成物1を、押出成形機でフィルム成形用のダイスを用いて成形することによって(ステップS16)、本実施の形態1に係る生分解性樹脂フィルム2を得ることができる。
【0057】
次に、澱粉(D)と澱粉を可塑化させる可塑剤としてのグリセリン(E)との適切な混合比を求めるために、混合比を変化させて押出成形機を用いてペレットを作製した。押出成形機としては、1軸ベント付き押出成形機φ20、L/D30を用いて、加熱温度条件は80℃〜150℃の範囲内として実施した。混合比(澱粉(D)には14%の水分が含有されているが、水分を除いた固形分で示したもの)とペレットの押し出し結果を、表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示されるように、澱粉(D)を固形分重量%で80%、グリセリン(E)を固形分重量%で20%の割合、すなわち(D):(E)=4:1の割合で混合した実施例Aにおいては、安定してストランドが形成され、カットしてペレット化することができた。得られたペレットにおいては、澱粉のミセルが明らかに破砕されていた。
【0060】
これに対して、澱粉(D)を固形分重量%で60%未満、グリセリン(E)を固形分重量%で40%以上の割合で混合した比較例Aの場合、すなわち(D):(E)=1.5:1よりも澱粉(D)の割合を少なくした比較例Aの場合には、澱粉の分散が不十分で押出成形機からストランドが安定して押し出されず、ペレットを成形することができなかった。
【0061】
また、澱粉(D)を固形分重量%で90%以上、グリセリン(E)を固形分重量%で10%未満の割合で混合した比較例Bの場合、すなわち(D):(E)=9:1よりも澱粉(D)の割合を多くした比較例Bの場合には、澱粉の可塑化が不十分であり、顕微鏡観察(200倍)したところ、澱粉のミセルが多数観察された。
【0062】
したがって、比較例Aと比較例Bの場合には実用に供することが可能なペレットを成形することができず、澱粉(D)とグリセリン(E)との適切な混合比は、(D):(E)=1.5:1〜9:1の範囲内であることが確認された。
【0063】
次に、澱粉(D)とグリセリン(E)との混合物に対する芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂としてのエコフレックス(C)の適切な混合比を求めるために、上記実施例Aのペレットとエコフレックスとの混合比を変化させて、押出成形機を用いてペレットを作製した。押出成形機としては、1軸ベント付き押出成形機φ20、L/D30を用いて、加熱温度条件は80℃〜150℃の範囲内として実施した。混合比(水分を除いた固形分で示したもの)とペレットの押し出し結果を、表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
表2に示されるように、実施例Aのペレット(澱粉(D)+グリセリン(E))を固形分重量%で30%、エコフレックス(C)を固形分重量%で70%の割合、すなわち(D)+(E):(C)=3:7の割合で混合した実施例Bにおいては、安定してストランドが形成され、カットしてペレット化することができた。得られたペレットは水分率が1.7%であり、メルトマスフローレート(MFR)は2.7g/10分であった。MFRの測定は、ペレットを190℃に加熱し、2.16kgの荷重を掛けて、細孔(オリフィス)から10分間に流れ出る樹脂の量を測ることによって行った(JIS K 7210:1999に準じて行った)。
【0066】
これに対して、実施例Aのペレットを固形分重量%で50%以上、エコフレックス(C)を固形分重量%で50%未満の割合で混合した比較例Cの場合、すなわち(D)+(E):(C)=1:1よりもエコフレックス(C)の割合を少なくした比較例Cの場合には、得られたストランドが脆く、形状がばらつき、安定してペレットを得ることができなかった。
【0067】
また、実施例Aのペレットを固形分重量%で10%未満、エコフレックス(C)を固形分重量%で90%以上の割合で混合した比較例Dの場合、すなわち(D)+(E):(C)=1:9よりもエコフレックス(C)の割合を多くした比較例Dの場合には、得られたストランドが柔らか過ぎて回転カッターで切断することが困難で、やはり安定してペレットを得ることができなかった。
【0068】
したがって、比較例Cと比較例Dの場合には実用に供することが可能なペレットを成形することができず、澱粉(D)とグリセリン(E)との混合物に対するエコフレックス(C)の適切な混合比は、(D)+(E):(C)=1:1〜1:9の範囲内であることが確認された。
【0069】
こうして得られた実施例Bのペレットを用いて、ポリ乳酸系樹脂(A)及び脂肪族ポリエステル樹脂(B)と混合比を変えて混合することによって、生分解性樹脂組成物のペレットを作製し、更に生分解性樹脂組成物のペレットを用いて押出成形機によって成膜して、生分解性樹脂フィルムを作製して、その特性を評価した。
【0070】
成膜条件としては、押出成形機としてφ60mm,L/D28のものを用いて、ダイスとしてはリップ1.0mm,ダイス径φ100mmのものを用い、フィルムの厚さを0.025mm(25μm),折巾を480mmとして、加熱温度は150℃〜160℃の範囲内として、押出量は30kg/hで実施した。混合比と評価結果を、表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
表3に示されるように、ポリ乳酸系樹脂(A)及び脂肪族ポリエステル樹脂(B)の固形分換算含有量が90重量%〜98重量%の範囲内であり、かつ、ポリ乳酸系樹脂(A)と脂肪族ポリエステル樹脂(B)との混合比が、(A)/(B)が1を超えて4未満の範囲内である実施例1乃至実施例3に係る生分解性樹脂組成物のペレットから形成した生分解性樹脂フィルムにおいては、透明性・柔軟性・耐ブロッキング性・耐引裂き抵抗性のいずれの項目についても、○の評価である。
【0073】
これに対して、ポリ乳酸系樹脂(A)及び脂肪族ポリエステル樹脂(B)の固形分換算含有量は90重量%〜98重量%の範囲内であるが、(A)/(B)が1を超えていない比較例1及び比較例3においては、ポリ乳酸系樹脂(A)の含有量が少な過ぎるため、透明性・耐ブロッキング性・耐引裂き抵抗性の各項目について×の評価になっており、(A)/(B)が4以上である比較例2及び比較例4においては、ポリ乳酸系樹脂(A)の含有量が多過ぎるため、柔軟性の項目または柔軟性及び耐ブロッキング性の二項目について、×の評価になっている。
【0074】
このように、本実施の形態1に係る生分解性樹脂組成物1は、(A)ポリ乳酸系樹脂、(B)脂肪族ポリエステル樹脂、(C)芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂、(D)澱粉、(E)澱粉を可塑化させる可塑剤の5成分を含有する樹脂組成物であって、各成分の固形分換算重量比が、(A)/(B)が1を超えて4未満の範囲内、(A)+(B)が樹脂組成物の90重量%〜98重量%の範囲内、(C)が樹脂組成物の1重量%〜7重量%の範囲内、(D):(E)=1.5:1〜9:1の範囲内で、かつ、(D)+(E):(C)=1:1〜1:9の範囲内である。
【0075】
これによって、本実施の形態1に係る生分解性樹脂組成物1を成膜して形成した実施例1乃至実施例3に係る生分解性樹脂フィルム2は、極めて透明性に優れ、土中での分解性能を確保して地表部でのUV劣化を抑えることができ、かつ成膜性に優れていて長期間の展張に耐える柔軟性と強度とを有し、農業用シート・農業用フィルム等として応用することができる。
【0076】
なお、本実施の形態1においては、(D):(E)=4:1の割合で混合した場合について説明したが、(D):(E)=1.5:1〜9:1の範囲内であれば、その他の割合としても良い。また、(D)+(E):(C)=3:7の割合で混合した場合について説明したが、(D)+(E):(C)=1:1〜1:9の範囲内であれば、その他の割合としても良い。
【0077】
実施の形態2
次に、本発明の実施の形態2に係る生分解性樹脂フィルムについて説明する。本実施の形態2に係る生分解性樹脂フィルムは、上記実施の形態1に係る生分解性樹脂組成物1のうち、実施例2の生分解性樹脂組成物を最外層に用いた多層からなる生分解性樹脂フィルムである。
【0078】
ここで、農業用シート・農業用フィルム等として用いられる多層フィルムには、大きく分けて3種類のものがある。まず、透明多層フィルムは全ての層が透明であるもので、畝の被覆材として用いる場合に、地表の温度を上げる目的で使用される。次に、白色多層フィルムは1層以上が白色であるもので、太陽光を反射して地表の温度を下げることを目的として使用される。更に、白黒多層フィルムは1層以上が白色でかつ1層以上が黒色であるもので、太陽光を反射して地表の温度を下げるとともに、紫外線をも遮蔽して雑草が生えるのを防ぐ目的で使用される。
【0079】
本実施の形態2においては、これらの白黒フィルム・透明フィルム・白色フィルムについて、最外層に実施例2の生分解性樹脂組成物からなる層を用いたものと用いないものとを作製して、その耐光性及び柔軟性を評価した。
【0080】
白黒フィルム及び白色フィルムの白色層としては、生分解性樹脂であるノバモント社製のマタビーNF803/Pに白色顔料(BR−M MF0354ホワイト)を分散させたものを使用し、白黒フィルムの黒色層としては、同じくノバモント社製のマタビーNF803/Pに黒色顔料(BR−M ME2813ブラック)を分散させたものを使用した。
【0081】
押出成形機としては、内層・中層・外層とも、φ60,L/D28のものを使用し、温度条件としては、内層・中層が140℃〜150℃、外層が150℃〜170℃として、フィルムを形成した。各層の配合と評価結果について、表4に示す。
【0082】
【表4】

【0083】
表4に示されるように、最外層に厚さ0.005mm(5μm)の実施例2のペレットからなる透明層を形成した実施例4乃至実施例6の多層フィルム(白黒フィルム・透明フィルム・白色フィルム)においては、耐光性及び柔軟性のいずれについても○の評価であったが、最外層に実施例2のペレットからなる透明層を形成しなかった比較例5乃至比較例7の白黒フィルム・透明フィルム・白色フィルムにおいては、柔軟性については◎の評価であったが、耐光性については×の評価であり、実用に耐えないものであった。
【0084】
このようにして、本実施の形態2の実施例4乃至実施例6に係る生分解性樹脂フィルムは、実施例2のペレットの生分解性樹脂組成物からなる層が一方の最外層になるように層状に形成されることによって、農業用シート・農業用フィルム等として使用する場合には、最外層として形成された生分解性樹脂組成物からなる層を外側に向けて使用することによって、生分解性樹脂組成物からなる層は紫外線による劣化にも強く耐候性に優れているため、長期間に亘って優れた透明性を維持しながら使用することができる。
【0085】
実施の形態3
次に、本発明の実施の形態3に係る生分解性樹脂組成物及び生分解性樹脂フィルムについて、図1を参考にして説明する。本実施の形態3に係る生分解性樹脂組成物は、上記実施の形態1に係る生分解性樹脂組成物と異なり、芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂としてのエコフレックス(C)を全く含有しないものである。
【0086】
すなわち、本実施の形態3に係る生分解性樹脂組成物及び生分解性樹脂フィルムは、図1のフローチャートにおいて、エコフレックス(C)の代わりに脂肪族ポリエステル樹脂(B)を加えて、ステップS12において、ペレット3と配合・混練して、以下の工程については、図1のフローチャートに示される上記実施の形態1に係る生分解性樹脂組成物1及び生分解性樹脂フィルム2と同様にして製造されるものである。
【0087】
ここで、澱粉(D)とグリセリン(E)との混合物に対する脂肪族ポリエステル樹脂(B)の適切な混合比を求めるために、上記実施例Aのペレットと脂肪族ポリエステル樹脂(B)との混合比を変化させて、押出成形機を用いてペレットを作製した。押出成形機としては、1軸ベント付き押出成形機φ20、L/D30を用いて、加熱温度条件は80℃〜150℃の範囲内として実施した。混合比(水分を除いた固形分で示したもの)とペレットの押し出し結果を、表5に示す。
【0088】
【表5】

【0089】
表5に示されるように、実施例Aのペレット(澱粉(D)+グリセリン(E))を固形分重量%で30%、脂肪族ポリエステル樹脂(B)を固形分重量%で70%の割合、すなわち(D)+(E):(B)=3:7の割合で混合した実施例Cにおいては、安定してストランドが形成され、カットしてペレット化することができた。得られたペレットは水分率が1.5%であり、メルトマスフローレート(MFR)は3.2g/10分であった。
【0090】
これに対して、実施例Aのペレットを固形分重量%で50%以上、脂肪族ポリエステル樹脂(B)を固形分重量%で50%未満の割合で混合した比較例Eの場合、すなわち(D)+(E):(B)=1:1よりも脂肪族ポリエステル樹脂(B)の割合を少なくした比較例Eの場合には、得られたストランドが脆く、形状がばらつき、安定してペレットを得ることができなかった。
【0091】
また、実施例Aのペレットを固形分重量%で10%未満、脂肪族ポリエステル樹脂(B)を固形分重量%で90%以上の割合で混合した比較例Fの場合、すなわち(D)+(E):(B)=1:9よりも脂肪族ポリエステル樹脂(B)の割合を多くした比較例Fの場合には、得られたストランドが柔らか過ぎて回転カッターで切断することが困難で、やはり安定してペレットを得ることができなかった。
【0092】
したがって、比較例Eと比較例Fの場合には実用に供することが可能なペレットを成形することができず、澱粉(D)とグリセリン(E)との混合物に対する脂肪族ポリエステル樹脂(B)の適切な混合比は、(D)+(E):(B)=1:1〜1:9の範囲内であることが確認された。
【0093】
こうして得られた実施例Cのペレットを用いて、ポリ乳酸系樹脂(A)及び脂肪族ポリエステル樹脂(B)と混合比を変えて混合することによって、生分解性樹脂組成物のペレットを作製し、更に生分解性樹脂組成物のペレットを用いて押出成形機によって成膜して、生分解性樹脂フィルムを作製して、その特性を評価した。
【0094】
成膜条件としては、押出成形機としてφ60mm,L/D28のものを用いて、ダイスとしてはリップ1.0mm,ダイス径φ100mmのものを用い、フィルムの厚さを0.025mm(25μm),折巾を480mmとして、加熱温度は150℃〜160℃の範囲内として、押出量は30kg/hで実施した。混合比と評価結果を、表6に示す。
【0095】
【表6】

【0096】
表6に示されるように、ポリ乳酸系樹脂(A)及び脂肪族ポリエステル樹脂(B)の固形分換算含有量が97重量%〜99重量%の範囲内であり、かつ、ポリ乳酸系樹脂(A)と脂肪族ポリエステル樹脂(B)との混合比が、(A)/(B)が1を超えて4未満の範囲内である実施例7に係る生分解性樹脂組成物のペレットから形成した生分解性樹脂フィルムにおいては、透明性・柔軟性・耐ブロッキング性・耐引裂き抵抗性のいずれの項目についても、○の評価である。
【0097】
このように、本実施の形態3に係る生分解性樹脂組成物は、(A)ポリ乳酸系樹脂、(B)脂肪族ポリエステル樹脂、(D)澱粉、(E)澱粉を可塑化させる可塑剤、の少なくとも4成分を含有する樹脂組成物であって、各成分の固形分換算重量比が、(A)/(B)が1を超えて4未満の範囲内、(A)+(B)が樹脂組成物の93重量%〜99重量%の範囲内、(D):(E)=1.5:1〜9:1の範囲内である。
【0098】
これによって、本実施の形態3に係る生分解性樹脂組成物を成膜して形成した実施例7に係る生分解性樹脂フィルムは、極めて透明性に優れ、土中での分解性能を確保して地表部でのUV劣化を抑えることができ、かつ成膜性に優れていて長期間の展張に耐える柔軟性と強度とを有し、農業用シート・農業用フィルム等として応用することができる。
【0099】
なお、本実施の形態3においては、(D):(E)=4:1の割合で混合した場合について説明したが、(D):(E)=1.5:1〜9:1の範囲内であれば、その他の割合としても良い。また、(D)+(E):(B)=3:7の割合で混合した場合について説明したが、(D)+(E):(B)=1:1〜1:9の範囲内であれば、その他の割合としても良い。
【0100】
上記各実施の形態においては、ポリ乳酸系樹脂(A)としてポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸が混合したものを使用した場合のみについて説明したが、これに限られるものではなく、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸のその他の混合割合のものを始めとして、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸、等を使用しても良い。
【0101】
また、上記各実施の形態においては、脂肪族ポリエステル樹脂(B)として、ポリブチレンサクシネートを使用した場合のみについて説明したが、これに限られるものではなく、ポリヒドロキシ酪酸を始めとして、その他の生分解性脂肪族ポリエステルを使用しても良い。
【0102】
生分解性樹脂組成物及び生分解性樹脂フィルムのその他の部分の構成、形状、数量、材質、太さ、厚さ、大きさ、製造方法、製造条件等についても、上記各実施の形態に限定されるものではない。特に、上記各実施の形態において説明した生分解性樹脂組成物及び生分解性樹脂フィルムの成分以外にも、酸化防止剤、滑剤、静電防止剤、その他の添加剤を含有させることもできる。
【0103】
なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】図1は本発明の実施の形態1に係る生分解性樹脂組成物及び生分解性樹脂フィルムの製造方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0105】
1 生分解性樹脂組成物
2 生分解性樹脂フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリ乳酸系樹脂、
(B)脂肪族ポリエステル樹脂、
(C)芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂、
(D)澱粉、
(E)澱粉を可塑化させる可塑剤
の少なくとも5成分を含有する樹脂組成物であって、
各成分の固形分換算重量比が、(A)/(B)が1を超えて4未満の範囲内、(A)+(B)が前記樹脂組成物の90重量%〜98重量%の範囲内、(C)が前記樹脂組成物の1重量%〜7重量%の範囲内、(D):(E)=1.5:1〜9:1の範囲内で、かつ、(D)+(E):(C)=1:1〜1:9の範囲内であることを特徴とする生分解性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C)芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂が、ポリブチレンサクシネートテレフタレート(PBST)及び/またはポリブチレンサクシネートアジペートテレフタレート(PBSAT)であることを特徴とする請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項3】
(A)ポリ乳酸系樹脂、
(B)脂肪族ポリエステル樹脂、
(D)澱粉、
(E)澱粉を可塑化させる可塑剤
の少なくとも4成分を含有する樹脂組成物であって、
各成分の固形分換算重量比が、(A)/(B)が1を超えて4未満の範囲内、(A)+(B)が前記樹脂組成物の93重量%〜99重量%の範囲内、(D):(E)=1.5:1〜9:1の範囲内であることを特徴とする生分解性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(D)澱粉がその分子集合体であるミセルが破砕された状態で含有されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の生分解性樹脂組成物を用いて形成されることを特徴とする生分解性樹脂フィルム。
【請求項6】
前記生分解性有機組成物を前記(D)澱粉及び前記(E)澱粉を可塑化させる可塑剤を混練した上で前記(C)芳香族―脂肪族ポリエステル樹脂に相溶化させた後に前記(A)ポリ乳酸系樹脂及び前記(B)脂肪族ポリエステル樹脂との間で熱溶融ブレンドしてペレット化させてから形成されることを特徴とする請求項5に記載の生分解性樹脂フィルム。
【請求項7】
請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の生分解性樹脂組成物を用いて形成される生分解性樹脂フィルムであって、
前記生分解性樹脂組成物からなる層が一方または両方の最外層になるように層状に形成されることを特徴とする生分解性樹脂フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2009−167370(P2009−167370A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10394(P2008−10394)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(500088634)岐阜アグリフーズ 株式会社 (4)
【出願人】(000201641)全国農業協同組合連合会 (69)
【Fターム(参考)】