説明

産業車両のインチング装置

【課題】本発明の目的は、インチングペダルの操作状態が異なる場合であっても、常にインチングスプールのインチングバルブへの衝突による異音や振動を防止又は抑制することができる産業車両のインチング装置の提供にある。
【解決手段】インチングペダル11と、インチングバルブ30と、インチングケーブル18とを有し、インチングバルブ30は、バルブシリンダ31内を摺動するインチングロッド34と、バルブシリンダ31内の流体圧により位置が規定されるインチングスプール41とを有するインチングロッド34とを有し、インチングロッド34は、軸方向においてケーブル側となるケーブル側ロッド体35と、インチングスプール41側となるスプール側ロッド体36とに分割され、ケーブル側ロッド体35とスプール側ロッド体36との間に弾性体38が介在されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、産業車両のインチング装置に関し、特に、インチングペダルの踏み込みにより操作されるインチングバルブを備えた産業車両のインチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷役作業を行うフォークリフトは産業車両の一種であり、例えば、トルクコンバータ付きのフォークリフトにおいては、クラッチへの作動油の供給量(圧力)を細かく制御して、クラッチを所定時間いわゆる半クラッチ状態に保持することにより、荷役作業性を向上させたり、車両の停止や発進を円滑にしたりするために、クラッチ油圧制御装置が備えられている。
【0003】
図3は、トルクコンバータを備えたフォークリフトのクラッチ油圧制御装置50を示す油圧回路図である。
車両に搭載されているエンジン51により駆動されるオイルポンプ52は、作動油をレギュレータバルブ53及びインチングバルブ54に夫々供給する構成となっている。
レギュレータバルブ53は作動油の圧力を所定の圧力に調整してトルクコンバータ55に作動油を供給する。
トルクコンバータ55からの作動油はオイルクーラー56により冷却された後、湿式の前進用クラッチ57及び後進用クラッチ58に送られる。
【0004】
インチングバルブ54は、オイルポンプ52からの作動油が管路から直接流入される第1流入ポート54aと、管路から分岐した管路から流入する作動油が絞り弁及びアキュムレータ59を介して調庄されて流入される第2流入ポート54bを有している。
インチングバルブ54にはインチングペダル60により操作されるインチングロッド(図示せず)が備えられ、インチングロッド内には摺動自在のインチングスプール(図示せず)が備えられている。
【0005】
インチングペダル60の操作によりインチングロッドが変位され、インチングロッドの変位によりいずれか一方の流入ポートを選択し、第1流入ポート54aと対応する第1流出ポート54cと、第2流入ポート54bと対応する第2流出ポート54dとから管路を介してセレクタバルブ61に送油する。
セレクタバルブ61は、クラッチ切換装置62の操作に基づいて切り換えられ、インチングバルブ54からの作動油を前進用クラッチ57又は後進用クラッチ58へ送油し、両クラッチ57、58の接続を制御する。
【0006】
インチングペダル60が操作されていない状態(非インチング状態)では、オイルポンプ52から絞り弁及びアキュムレータ59により調庄された作動油はセレクタバルブ61を通じてクラッチ57、58に送油される。
また、インチングバルブ54は、インチングペダル60が操作された操作時には、インチングペダル60の操作量に応じて、オイルポンプ52から流入された作動油の一部を第3流出ポート54eから余剰油としてドレン管路を介してタンクに戻すことにより、セレクタバルブ61に送る作動油の圧力を減圧し、減圧された作動油がセレクタバルブ61を通じてクラッチ57、58に送油される。
【0007】
このため、インチング操作時には、前進用クラッチ57又は後進用クラッチ58に送油される作動油の圧力は低くなり、クラッチ57、58は半クラッチ状態に保持される。
その結果、インチング操作時には、フォークリフトは半クラッチ状態での低速走行となる。
【0008】
ところで、図3におけるインチングペダル60とインチングバルブ54は、インチングケーブル63より連結されており、インチングペダル60、インチングバルブ54及びインチングケーブル63はインチング装置を構成する。
インチングバルブ54は、図3では図示されないインチングロッドと、インチングスプールと、油圧室とを有する。
インチングスプールは、油圧室の圧力と、インチングスプールに付勢力を付与するスプール用コイルばね(図示せず)とのバランスに応じてインチングロッドに対して変位する。
【0009】
従来のインチング装置では、インチングバルブ54における油圧室の圧力変動によりインチングスプールが変位するから、例えば、インチングペダル60を急激に操作すると、油圧室における圧力がインチングペダル60の操作に追従することができず、適切な圧力に達することができないことがある。
この場合、インチングスプールが振動してインチングロッドに衝突し、異音や振動を発生することがある。
振動が大きくなると、インチングケーブル63を通じてインチングペダル60に伝わり、運転者の足裏に不快な振動が伝播することがある。
【0010】
関連する別の従来技術として、例えば、特許文献1に開示されたケーブル式操作装置の連結具が存在する。
この種のケーブル式操作装置の連結具は、車室内に設けられた操作杆に一端が連結されて車体に配索されたケーブルの他端を変速機に連結するものである。
連結具は、変速機に設けられた連結ピンを挿入するための貫通孔が厚さ方向に形成され、外周から貫通孔に向かう挿通孔が形成された板状の弾性体と、一端が貫通孔に臨むように挿通孔に挿入され挿通孔の深さより短い長さを有する剛性棒状部材と、棒状部材の他端が内周面に臨むように弾性体を包囲してケーブルの他端が外周に接続されたリング部材とを備える。
【0011】
そして、この技術によれば変速機の連結ピンにおける振動を弾性体が変形することにより吸収することができるとしている。
また、操作杆を比較的素早く操作する場合、弾性体が変形し、弾性体の弾性変形により、変速機の振動振幅を超えるような移動をするリング部材の内周面に剛性棒状部材の他端が直接当接する。
このため、リング部材の動きは剛性棒状部材に直接伝達されて筒体の移動に結びつき、連結ピンを介して変速機に直接伝えられる。
【特許文献1】特開2005−264995号公報(第5−7頁、第2−6図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、操作杆を比較的素早く操作する場合、弾性体が変形し、リング部材の内周面に剛性棒状部材の他端が直接当接するから、この状態では変速機の振動がケーブルを通じて操作杆に伝達される。
つまり、操作杆の急激な操作では、変速機からの振動を操作杆へ伝播させてしまう
また、この種の連結具を用いる場合、連結具の連結先である第2レバーやケーブルの端部を連結具に合わせて形状変更する必要がある。
特に、ケーブルの端部の形状変更は汎用型のケーブルが使用できなくなることを意味し、装置としての製作コストを増大させるという問題が生じる。
【0013】
因みに、従来のインチング装置において、インチングケーブルとインチングロッドが直接連結される構成では、通常、振動対策としてケーブルとロッドとの間に金属製のコイルばね等の防振手段を介在させることも考えられる。
しかしながら、この種の振動対策では防振手段を介在させるための充分なスペースが必要となり、スペースの制約を受ける条件下では適用できないという問題がある。
【0014】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、インチングペダルの操作状態に関係なく、常にインチングスプールのインチングバルブへの衝突による異音や振動を防止又は抑制することができる産業車両のインチング装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を達成するため、本発明は、インチング操作を制御するインチングペダルと、該インチングペダルにより作動されるインチングバルブと、前記インチングペダルと前記インチングバルブを連結するインチングケーブルとを有し、前記インチングバルブは、インチングペダルの操作によりバルブシリンダ内を摺動するインチングロッドと、バルブシリンダ内の流体圧により位置が規定されるインチングスプールとを有する産業車両のインチング装置において、前記インチングロッドは、軸方向においてインチングケーブル側となるケーブル側ロッド体と、インチングスプール側となるスプール側ロッド体とに分割されており、前記ケーブル側ロッド体と前記スプール側ロッド体との間に弾性体が介在されていることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、ケーブルの操作によりバルブシリンダ内を摺動するインチングロッドが油圧回路を通じて変速機からの振動を受ける場合でも、弾性体が振動を吸収する。
インチングロッドの弾性体が振動を吸収することから、インチングケーブルを通じたインチングペダルへの振動の伝播が防止または抑制される。
また、インチングペダルを急激に操作することにより、インチングスプールがインチングロッドに衝突する場合であっても、衝突の衝撃を弾性体が吸収する。
従って、インチングペダルの操作状態に関わらず、常にインチングスプールのインチングバルブへの衝突による異音や振動を防止又は抑制することができる。
【0017】
また、本発明では、上記の産業車両のインチング装置において、前記弾性体はゴム系材料により形成されてもよい。
【0018】
この場合、弾性体がゴム系材料により形成されていることから、弾性体が衝撃の吸収だけでなく、インチングロッドの振動を素早く減衰させる減衰効果が期待できる。
また、弾性体がゴム系材料であることから、例えば、コイルばねと比較しても設置スペースを抑えることができ、設置スペースの制約を受ける場合に効果的である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、インチングペダルの操作状態に関わらず、常にインチングスプールのインチングバルブへの衝突による異音や振動を防止又は抑制することができる産業車両のインチング装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る産業車両のインチング装置について、図1及び図2を参照して説明する。
この実施形態は、産業車両としてのフォークリフトに適用されたインチング装置10である。
図1は本発明の実施形態に係るインチング装置の概略図であり、図2はインチング装置におけるインチングバルブの縦断面図である。
【0021】
図1に示すように、インチング装置10は、フォークリフトの運転席に設けられたインチングペダル11と、インチングペダル11とインチングバルブ30を連結するインチングケーブル18と、インチングバルブ30とから主に構成されている。
インチングペダル11は、運転席に設置された支点軸12に対して回動するペダルレバー13と、ペダルレバー13の自由端に固定されたペダル部14を有している。
支点軸12にペダル復帰用のねじりコイルばね(図示せず)が巻装されており、ペダル部14に対する踏み込みを解除するとねじりコイルばねの付勢力によりインチングペダル11が原位置へ復帰する。
【0022】
インチングペダル11の踏み代dは、支点軸12に対するペダルレバー13の回動範囲により規定されている。
実線で示すインチングペダル11は、ペダル部14に対する踏み込みが解除されている状態を示し、二点鎖線で示すインチングペダル11は、ペダル部14に対して踏み込まれた状態を示す。
ペダルレバー13の支点軸12付近には、前方へ突出する突起部15が形成されており、突起部15にはインチングケーブル18との連結を図る通孔16が形成されている。
【0023】
インチングケーブル18は、インチングペダル11とインチングバルブ30に連結されるインナーケーブル19と、インナーケーブル19を覆うアウターケーブル20とを有する。
インナーケーブル19はアウターケーブル20の内部で摺動自在であり、インナーケーブル19の両端部には連結具であるクレビス21が夫々設けられている。
一方のクレビス21が備えるピン22は、ペダルレバー13の突起部15における通孔16に挿通され、ペダルレバー13とインナーケーブル19との連結が図られている。
【0024】
他方の連結具である別のクレビス21はインチングバルブ30におけるインチングロッド34の端部に連結されている。
アウターケーブル20は、フォークリフトの車両本体に取り付けられているブラケット23、24に夫々の端部が固定されている。
このため、インナーケーブル19は、インチングペダル11の踏み込みと踏み込みの解除によりアウターケーブル20に対して摺動する。
【0025】
インチングバルブ30は、インチングロッド34を保持するバルブシリンダ31と、インチングロッド34に対して摺動するインチングスプール41とを有する。
バルブシリンダ31には、インチングロッド34が収容される通孔32が形成されており、通孔32の一方の開口部は閉塞部材33により閉塞されている。
バルブシリンダ31には、クラッチ油圧制御装置(例えば、図3を参照。)の油圧回路における各管路と連通する各ポートP1〜P7が形成されており、各ポートP1〜P7はバルブシリンダ31内を摺動するインチングロッド34の位置により連通又は遮断されるように形成されている。
各ポートP1〜P7は、インチングロッド41の変位に応じて流体としての作動油が通過したり、遮断されたりする。
【0026】
インチングロッド34はインチングペダル11を踏み込むとバルブシリンダ31から突出する方向へ移動される構成であるが、バルブシリンダ31にはインチングロッド34をバルブシリンダ31内へ押し込む方向へ付勢力を付与するロッド用コイルばね37が備えられている。
ロッド用コイルばね37は、インチングペダル11の踏み込みが解除されたとき、インチングロッド34を原位置へ復帰させる付勢力をインチングロッド34に付与する。
【0027】
インチングロッド34について詳しく説明すると、インチングロッド34は、軸方向においてインチングケーブル18側に位置するケーブル側ロッド体35と、インチングスプール41側に位置するスプール側ロッド体36に分割されている。
この実施形態では、図2に示すように、スプール側ロッド体36の中心には円柱状の突部36aが形成されており、ケーブル側ロッド体35の中心には、スプール側ロッド体36の突部36aが挿入可能な凹部35aが形成されている。
ケーブル側ロッド体35の端部には通孔35bが形成されており、インナーケーブル19が備えるクレビス21のピン22が通孔35bに挿通されて、インチングロッド34とインチングケーブル18が連結される。
【0028】
凹部35a及び突部36aの間隙、すなわち、ケーブル側ロッド体35とスプール側ロッド体36との間には弾性体38が介在されている。
弾性体38はゴム系材料により形成されており、このゴム系材料は衝撃吸収と振動減衰の性能に優れている。
また、この弾性体38はケーブル側ロッド体35とスプール側ロッド体36との間にわたって介在されているため、弾性体38は略筒状の形態を呈している。
弾性体38には、両者35、36に当接する表面積が充分に確保されており、この表面積を増大させるにつれて、弾性体38の衝撃吸収や振動減衰の性能が向上する。
【0029】
さらに、弾性体38がゴム系材料により形成されていることから、ケーブル側ロッド体35とスプール側ロッド体36の連結のための「締め代」が充分に確保でき、表面積の確保と相俟って両者35、36の連結のための充分な摩擦力を確保し易い。
ケーブル側ロッド体35及びスプール側ロッド体36は、弾性体38の介在により互いに非接触であり、半径方向の摩擦力を大とする弾性体38を介した連結により一体化されたインチングロッド34が構成される。
【0030】
インチングロッド34の内部には、インチングスプール41が収容される有底孔39が形成されており、有底孔39の開口部は閉塞部材40により閉塞されている。
インチングスプール41は、インチングロッド34の摺動方向と一致する方向に摺動して変位する。
インチングスプール41は、軸方向において有底孔39により形成される空間を2分割する形状を呈している。
有底孔39の底側を臨む一方の空間部には、インチングスプール41を閉塞部材40側へ付勢する別のスプール用コイルばね42が備えられている。
他方の空間部は、流体圧としてのインチング圧が設定される油圧室43の一部を形成する。
【0031】
油圧室43は、バルブシリンダ31と、インチングロッド34と、インチングスプール41により形成され、図2(a)及び図2(b)において墨塗りしたように、インチングスプール41の変位により油圧室43の領域が変動する。
インチングスプール41は、油圧室43内の圧力とスプール用コイルばね42の付勢力とのバランスに応じて変位する。
つまり、インチングスプール41は油圧室43の圧力変動により変位し、油圧室43の圧力とスプール用コイルばね42の付勢力とのバランスによりインチング圧が得られる。
【0032】
次に、この実施形態のインチング装置10の作用について説明する。
まず、インチングペダルを踏み込まない状態では、インチングバルブ30におけるインチングロッド34は、図2(a)に示すように、最もバルブシリンダ31に入り込んだ状態にある。
この状態では、アキュムレータ(図示せず)の配管と連通するポートP3に作動油が流れ込み、別のポートP2を通じてクラッチへ作動油が供給される。
このとき、クラッチへ供給される作動油流量はクラッチを完全に接続した状態に保持可能することができる量となっている。
因みに、ポートP2、P3と連通の領域が油圧室43として機能する(図2(a)における網掛け部を参照。)
【0033】
この状態で車両を前進させる位置へシフトレバーを切り換えると、作動油が前進用クラッチへ供給され、前進用クラッチが完全に接続された状態となり、車両は前進走行する。
他方、車両を後進させる位置へシフトレバーを切り換えると、作動油が後進用クラッチへ供給され、後進用クラッチが完全に接続されて車両は後進走行する。
【0034】
インチングペダル11が途中(「踏み代」dの半分程度)まで踏み込まれると、インチングロッド34が図2(b)に示す位置に移動する。
このとき、ポートP2、P4、P5と連通する領域が油圧室43として機能する(図2(b)における網掛け部を参照。)
この状態では、クラッチへの作動油の流量が、クラッチを半クラッチ状態に保持する量となる状態となる。
このため、クラッチを介して伝達される駆動トルクが減少し、車両はインチング走行となる。
なお、インチングペダル11が最大に踏み込まれると、図示はしないが、インチングロッド34はクラッチへの作動油の供給を遮断する位置に移動する。
【0035】
ところで、インチングバルブ30における油圧室43の圧力は、インチングペダル11の操作に応じて変動し、油圧室43の圧力変動に対応してインチングスプール41がインチングロッド34に対して変位する。
インチングペダル11の操作によりバルブシリンダ31内を摺動するインチングロッド34は油圧回路を通じて変速機からの振動を受ける場合がある。
また、インチングペダル11の操作が激しい場合には、油圧室43の圧力変動がインチングペダル11の操作に直ちに追従せず、インチングスプール41が大きく変位して、インチングスプール41がインチングロッド34に衝突することがある。
【0036】
変速機からの振動やインチングスプール41の衝突はインチングロッド34のスプール側ロッド体36に伝播する。
弾性体38が衝撃吸収と振動減衰性能に優れたゴム系材料により形成されていることから、スプール側ロッド体36に伝播された振動や衝撃は、弾性体38に吸収され、振動の減衰も素早く行われる。
また、インチングロッド34との衝突による衝撃は弾性体38に吸収される。
このため、変速機からの振動や、インチングロッド34に連結されたインチングケーブル18に衝突の衝撃が伝播されず、インチングペダル11を操作する運転者は不快な衝撃や振動を足裏に感じることは殆どない。
また、弾性体が介在されていることでインチングバルブにおいて発生する異音が防止又は低減される。
【0037】
この本発明の実施形態に係るインチング装置10によれば、以下の効果を奏する。
(1)インチングペダル11の操作によりバルブシリンダ31内を摺動するインチングロッド34が油圧回路で発生した振動を受ける場合でも、弾性体38が振動を吸収することができる。このため、インチングケーブル18を通じたインチングペダル11への振動が防止または抑制される。また、インチングペダル11を急激に操作することにより、インチングスプール41がインチングロッド34に衝突する場合であっても、衝突の衝撃を弾性体38が吸収することができる。従って、インチングペダル11の操作状態に関わらず、常にインチングスプール41のインチングロッド34への衝突による異音や振動を防止又は抑制することができる。
【0038】
(2)弾性体38がゴム系材料により形成されていることから、弾性体38が衝撃の吸収に留まらず、インチングロッド34の振動を減衰させる減衰効果が期待できる。また、弾性体38がゴム系材料であることから、例えば、金属製のコイルばねを弾性体として用いる場合と比較して設置スペースを抑えることができ、設置スペースの制約を受ける場合に効果的である。
【0039】
(3)インチングロッド34の構造を変更するほか、弾性体38を用意するだけでよいから、インチングケーブル18の端部を専用の形状に変更する必要がなく、汎用型のインチングケーブル18を利用することができる。さらに言うと、インチングロッド34を交換することにより、既存のインチング装置を、弾性体38を備えたインチング装置10に変更することができる。
【0040】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
○上記の実施形態では、スプール側ロッド体に円柱状の突部が形成し、ケーブル側ロッド体にスプール側ロッド体の突部が挿入可能な凹部が形成し、この突部及び凹部の間隙を含むケーブル側ロッド体とスプール側ロッド体との間に、弾性体を介在させるようにしたが、スプール側ロッド体及びケーブル側ロッド体の間に介在させる弾性体の形状は特に限定されない。スプール側ロッド体及びケーブル側ロッド体の連結側端部の形状に対応し、インチングロッドの軸方向の振動や衝撃を解消することができる形状であればよい。
○上記の実施形態では、弾性体をゴム系材料により形成したが、ゴム系材料に限定する趣旨ではなく、衝撃吸収や振動減衰の性能が一致又は近似する材料であれば用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態に係るフォークリフトのインチング装置の概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係るインチングバルブの縦断面図であり、(a)は非インチング状態を示し、(b)はインチング状態を示す。
【図3】従来のクラッチ油圧制御装置の概要を示す油圧回路図である。
【符号の説明】
【0042】
10 インチング装置
11、60 インチングペダル
13 ペダルレバー
14 ペダル部
18、63 インチングケーブル
21 クレビス
30 インチングバルブ
31 バルブシリンダ
34 インチングロッド
35 ケーブル側ロッド体
36 スプール側ロッド体
37 ロッド用コイルばね
38 弾性体
39 有底孔
41 インチングスプール
42 スプール用コイルばね
43 油圧室
50 クラッチ油圧制御装置
54a〜54e、P1〜P7 ポート
d 踏み代

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インチング操作を制御するインチングペダルと、該インチングペダルにより作動されるインチングバルブと、前記インチングペダルと前記インチングバルブを連結するインチングケーブルとを有し、前記インチングバルブは、インチングペダルの操作によりバルブシリンダ内を摺動するインチングロッドと、バルブシリンダ内の流体圧により位置が規定されるインチングスプールとを有する産業車両のインチング装置において、
前記インチングロッドは、軸方向においてインチングケーブル側となるケーブル側ロッド体と、インチングスプール側となるスプール側ロッド体とに分割されており、前記ケーブル側ロッド体と前記スプール側ロッド体との間に弾性体が介在されていることを特徴とする産業車両のインチング装置。
【請求項2】
前記弾性体はゴム系材料により形成されていることを特徴とする請求項1記載の産業車両のインチング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−8130(P2009−8130A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168056(P2007−168056)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】