説明

田植機の植付け機構

【課題】 回転式の植付け機構における回転ケースへの潤滑油の充填、補給、交換を手を汚すことなく簡単に行うことができるようにする。
【解決手段】 植付け爪を備えた爪ケースを回転ケース10の端部に回動自在に装着し、回転ケース10に内装した不等速ギヤ伝動機構14と爪ケースとを連動連結し、回転ケース10の一定方向への回転に伴って爪ケースを回転ケース回転方向と逆向きに不等速で同期回転させるよう構成した田植機の植付け機構において、回転ケース10の端部近くに潤滑油注入部31を設けてある。望ましくは、回転ケース10に潤滑油排出部36を設けるとともに、潤滑油注入部31と潤滑油排出部36とを回転ケース10の回転軸芯に対して対角状に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植機に装備される回転式の植付け機構に関する。
【背景技術】
【0002】
回転式の植付け機構植は、植付け爪を備えた爪ケースを回転ケースの端部に回動自在に装着し、回転ケースに内装した不等速ギヤ伝動機構と爪ケースとを連動連結し、回転ケースの一定方向への回転に伴って、爪ケースを回転ケース回転方向と逆向きに不等速で同期回転させるよう構成したものが実用化されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−304719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記構成の植付け機構においては、回転ケースに内装された不等速ギヤ伝動機構を潤滑する必要があり、潤滑油としてグリースを充填している。この場合、回転ケースは左右分割構造に構成されており、従来では、内装部品の組み込み時に手作業でグリースの塗り付け充填を行って分割ケースを結合しており、潤滑油充填に手間がかかるとともに、充填量も不均一になりがちであった。また、長期間の使用に伴って流出した潤滑油の補給や、潤滑油の交換等を行うつど、回転ケースを取外して分解する必要があり、煩わしい作業となるものであった。
【0004】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、手を汚すことなく簡単に回転ケースへの潤滑油の充填、補給、交換を行うことができるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、植付け爪を備えた爪ケースを回転ケースの端部に回動自在に装着し、回転ケースに内装した不等速ギヤ伝動機構と前記爪ケースとを連動連結し、前記回転ケースの一定方向への回転に伴って前記爪ケースを回転ケース回転方向と逆向きに不等速で同期回転させるよう構成した田植機の植付け機構において、
前記回転ケースの端部近くに潤滑油注入部を設けてあることを特徴とする。
【0006】
上記構成によると、回転ケースを植付け機構に組付けたままで、グリースなどの潤滑油をグリースガンなどの注入器具を用いて回転ケースに簡単に注入することができる。
【0007】
従って、第1の発明によると、回転ケースを取外し分解することなく、かつ、手を汚すことなく簡単に回転ケースへの潤滑油の充填や補給を行うことができるようになった。
【0008】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記回転ケースに潤滑油排出部を設けてあるものである。
【0009】
上記構成によると、回転ケースに潤滑油注入部から新規に潤滑油を注入する場合には、潤滑油排出部を空気抜きにすることができるとともに、潤滑油排出部からの潤滑油の溢れ出しによって充満具合を確認することができる。また、潤滑油の入れ替えに際しては、潤滑油排出部から古い潤滑油を排出することができるとともに、潤滑油排出部からきれいな潤滑油が溢れ出ることで潤滑油の入れ替えが完了したことを確認することができる。
【0010】
第3の発明は、上記第2の発明において、
前記潤滑油注入部と前記潤滑油排出部とを回転ケースの回転軸芯に対して対角状に設けてあるものである。
【0011】
上記構成によると、潤滑油注入部が上、潤滑油排出部が下になる姿勢に回転ケースを停止することで、回転ケースへの潤滑油の注入操作が容易になるとともに、古い潤滑油の流下排出が容易となる。また、回転ケースの下方に回収容器を置くだけで、流出した潤滑油で周辺機器を汚すことなく、古い潤滑油を受け止め回収することができる。
【0012】
第4の発明は、上記第2または第3の発明において、
前記回転ケースを回転駆動する植付け駆動軸を、定位置停止機能を備えたクラッチを介して駆動するよう構成し、このクラッチが切り操作されて回転ケースが停止した状態において前記潤滑油排出部が回転ケースの最下端近くにあるように設定してあるものである。
【0013】
上記構成によると、クラッチを切って回転ケースを停止させるだけで潤滑油排出部が回転ケースの最下端近くに位置することになり、回転ケースからの古い潤滑油の回収を速やかに行うことができる。
【0014】
第5の発明は、上記第2〜4のいずれか一つの発明において、
前記潤滑油排出部にネジ込み装着されるドレンプラグを設け、前記回転ケースに内装したバックラッシュ吸収用の圧縮コイルバネの固定端を前記ドレンプラグの内端で受け止め支持するよう構成してあるものである。
【0015】
上記構成によると、潤滑油排出部を構成するドレンプラグをバネ圧調整ネジに兼用することができ、部品の点数節減に有効となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1に、乗用田植機の後部に連結装備される苗植付け装置1の側面が示されている。この苗植付け装置1は、図外左方の走行機体に備えられた昇降リンク機構2の後端下部にローリング自在に連結されており、マット状苗を載置して一定ストロークで往復横移動される苗のせ台3、この苗のせ台3の下端から1株分づつ苗を切り出して田面に植え付けてゆく回転式の植付け機構4、田面の植付け箇所を均平化するよう並列配備された複数の整地フロート5、等が備えられている。
【0017】
苗植付け装置1の下部には左右に長い角筒状の植付けフレーム6が装備されており、この植付けフレーム6の左右中間部に走行機体からの動力を受けるフィードケース7が連結されるとともに、植付け駆動ケース8が後向き片持ち状に連結されている。この植付け駆動ケース8の後部は一定方向に回転駆動される植付け駆動軸9が貫通横架されており、この植付け駆動軸9植付け機構4が装着されている。
【0018】
図2に示すように、植付け機構4には、前記植付け駆動軸9の端部にキー連結されて植付け駆動軸9と一体回転する回転ケース10と、この回転ケース10における両端部の横外側に横軸心回りに自転可能に軸支された爪ケース11とが備えられ、また、図4に示すように、各爪ケース11には植付け爪12と苗押し出し具13が備えられている。そして、回転ケース10が植付け駆動軸9によって前進回転方向(図1において反時計方向)に定速で1回転されるのに連動して爪ケース11が回転ケース10に内装された不等速ギヤ伝動機構14によって逆方向に不等速で1回転自転され、これによって、植付け爪12が、苗のせ台3の下端取り出し口と田面とに亘る縦長の先端回動軌跡Sを描いて循環移動するようになっている。また、植付け爪12が苗のせ台下端から切り出し保持した苗を田面に持ち込む時点で苗押し出し具13が爪先側に突出作動して、保持した苗を植付け爪12から分離して地中に押込むように構成されており、その詳細な構成および作動を以下に説明する。
【0019】
植付け駆動ケース8における植付け駆動軸9の軸支部には、固定ボス15がフランジ連結されるとともに、回転ケース10の回転中心部には植付け駆動軸9に遊嵌支持された中心ギヤG0が配備され、この中心ギヤG0が前記固定ボス15の端部に爪係合されて回転阻止されている。また、回転ケース10の両端部には爪ケース11をフランジ連結した爪支軸16が回転自在に支承されるとともに、回転ケース10の半径方向中間部位には偏芯した第1中間支軸17と第2中間支軸18が設けられている。そして、第1中間支軸17に遊嵌した第1中間ギヤG1が前記中心ギヤG0に咬合されるとともに、第2中間支軸18に遊嵌した第2中間ギヤG2が前記爪支軸16に連結した最終ギヤG3と咬合され、かつ、第2中間ギヤG2の側面に設けた伝動ピン19が第1中間ギヤG1の側面に半径方向に向けて形成した伝動溝20に係合されている。また、爪ケース11に組み込まれた上記不等速ギヤ伝動機構14を構成する各ギヤG0,G1,G2,G3すべて同径の円形ギヤで構成されている。
【0020】
上記構成によると、回転ケース10が前進回転方向に定速で回転されると、固定の中心ギヤG0に咬合された状態で回転ケース10と共に植付け駆動軸9の軸芯a周りに公転移動する第1中間ギヤG1が回転ケース10に対して相対的に公転方向と同方向に自転し、第1中間ギヤG1に伝動溝20と伝動ピン19を介して偏芯伝動された第2中間ギヤG2が第1中間ギヤG1と同方向に不等速で自転される。この第2中間ギヤG2の不等速回転が最終ギヤG3に逆転伝達され、最終ギヤG3と一体化された爪支軸16が回転ケース10の回転方向と逆方向に不等速で自転駆動されるのである。このように、回転ケース10が前進回転方向に定速で1回転されると、これに同調して爪ケース11が逆方向に不等速で1回自転され、回転ケース10の両端に備えられた一対の植付け爪12がそれぞれ縦長の先端回動軌跡Sをもって循環回動して2回の植付けが行われることになるのである。
【0021】
前記爪ケース11には、前記爪支軸16に対して相対回転可能なカム軸21が同芯に突き合わせ装備されるとともに、両爪ケース11の各カム軸21がステー22を介して連結されている。これによって、爪ケース11が爪支軸16と一体に自転回動するのに対して各カム軸21は回転ケース10に対して一定の回動姿勢に維持されるようになっている。
【0022】
図4に示すように、前記苗押し出し具13は、爪ケース11に出退スライド自在、かつ、内装したバネ23によって突出付勢状態に装着された押し出しロッド24の先端に取り付けられており、前記カム軸21によって以下のように出退駆動されるようになっている。
【0023】
爪ケース11には支点b周りに揺動可能に駆動レバー25が装着され、この駆動レバー25の先端と押し出しロッド24の後端とがリンク26を介して連動連結され、駆動レバー25の揺動によって押し出しロッド24が出退することで、苗押し出し具13が爪根元側に位置する苗切り出し用の後退位置と、爪先端に位置する押し出し作用位置との間で往復移動するよう構成されている。そして、駆動レバー25の基端部を操作するカム21aが前記カム軸21に備えられており、爪ケース10が自転することで、駆動レバー25の基端部に対してカム軸21が相対回転し、植付け爪12が苗のせ台3の下端から苗を切り出して田面に持ち込む作動域では駆動レバー25の基端部がカム21aに乗り上げられて、押し出しロッド24がバネ23に抗して後退された位置に維持され、植付け爪12が植付け位置まで下降移動してきた時点で、駆動レバー25の基端部がカム21aの落ち込み位相に到達し、駆動レバー25のカム21aへの乗り上げが一挙に解除されることで押し出しロッド24がバネ23によって急速に突出作動し、植付け爪12に保持された苗が苗押し出し具13によって一挙に押し出されて圃場内に残し置かれるのである。
【0024】
図2,図3に示すように、回転ケース10の両端部に爪支軸16と一体回動可能に内装された最終ギヤG3にはカム部28が一体形成されており、このカム部28に外周から押圧される押圧レバー29が支点c周りに揺動可能に回転ケース10に内装されている。この押圧レバー29は内装された圧縮コイルバネ30によってカム部28の外周に向けて押圧付勢されており、爪支軸16が公転移動して苗のせ台下端の苗切り出し位置に近づくと、押圧レバー29によってカム部28に与えられる弾性押圧力で爪支軸16および爪ケース11が公転移動方向と逆方向に回動されて、不等速ギヤ伝動機構14のバックラッシュが吸収されるようになっている。このように構成することで、苗のせ台3の下端において植付け爪12がマット状苗に突入する時点では爪ケース11が突入抵抗でバックラッシュ分だけ押し戻される現象、いわゆる、「シャクリ」の発生が防止されるようになっている。
【0025】
前記回転ケース10の一端側の外周部には潤滑油注入部31を構成するグリースニップル32が装備されており、このグリースニップル32にグリースガン(図示せず)を押し当ててグリースをケース内に注入することが可能となっている。このグリースニップル32は、不等速ギヤ伝動機構14のバックラッシュを吸収するために内装された前記圧縮コイルバネ30の装着孔33の奥端に連通して装着されている。また、回転ケース10の回転軸芯aに対して対角位置に配備された他方の圧縮コイルバネ30の装着孔33の奥端には、ドレンプラグ34の脱着によって開閉されるドレン孔35が設けられて、潤滑油排出部36が構成されている。
【0026】
なお、前記グリースニップル32のネジ部およびドレンプラグ34の内端で孔付きのバネ受け座金37を接当支持するとともに、ゴム付き座金38を介して締め込み調整を行うよう構成されており、ゴム付き座金38の枚数を加減することで圧縮コイルバネ30による付勢力を調整することができるようになっている。
【0027】
また、図示されていないが、植付け機構4の前記フィードケース7への伝動系には定位置停止機能を備えたけクラッチ(植付けクラッチ)が介在されており、このクラッチを切って苗植付け装置1を停止させると、植付け機構4の回転ケース10が略前後向きの姿勢となる回動位相で停止される。この停止姿勢では、回転ケース10の両端に備えられた植付け爪12の先端がそれぞれ田面から浮上した位置にある。また、この停止姿勢では、回転ケース10の対角位置に配備された前記潤滑油注入部31あるいは潤滑油排出部36のいずれか一方が回転ケース10の最下端近くに位置するようになっている。また、図示されていないが、植付け駆動ケース8には植付け駆動軸9を任意に駆動停止して少数条植えを行うためのクラッチ(畦際クラッチ)が装備されており、このクラッチも回転ケース10を略前後向きの姿勢となる回動位相で停止させる定位置停止機能を備えている。
【0028】
従って、回転ケース10にグリースを充填する場合、潤滑油注入部31が上、潤滑油排出部36が下になるように植付け機構4を停止操作し、回転ケース10の上端に位置するグリースニップル32にグリースガンを装着してグリースの注入を行うとともに、ドレン孔35を開放して空気抜きを行うことでグリースの注入を円滑に行うことができ、また、ドレン孔35からのグリースの溢れ出しによって充満具合を確認することができる。また、古くなったグリースを新しいものと交換する場合も、上記と同様にケース上方からのグリースの注入を行うことで、ドレン孔35から古いグリースを押し出し排出して回収容器などに受けることができ、ドレン孔35からきれいなグリースが溢れ出ることでグリースの入れ替えが完了したことを確認することができる。
【0029】
〔他の実施例〕
【0030】
(1)潤滑油注入部31および潤滑油排出部36を回転ケース10の両端近くの横側面に設けて実施することもできる。
【0031】
(2)潤滑油注入部31を回転ケース10の両端近くに設けるとともに、潤滑油排出部36を回転ケース10の適所に別途設けて実施することもできる。これによると、クラッチを切って回転ケース10を所定の姿勢に停止させた際に、いずれか一方の潤滑油注入部31を注入操作のしやすい上方位置に置くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】苗植付け装置の側面図
【図2】植付け機構の縦断断面図
【図3】回転ケースの縦断側面図
【図4】爪ケースの縦断側面図
【図5】爪ケース自転用のギヤ対を示す斜視図
【符号の説明】
【0033】
9 植付け駆動軸
10 回転ケース
11 爪ケース
12 植付け爪
14 不等速ギヤ伝動機構
30 圧縮コイルバネ
31 潤滑油注入部
34 ドレンプラグ
36 潤滑油排出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植付け爪を備えた爪ケースを回転ケースの端部に回動自在に装着し、回転ケースに内装した不等速ギヤ伝動機構と前記爪ケースとを連動連結し、前記回転ケースの一定方向への回転に伴って前記爪ケースを回転ケース回転方向と逆向きに不等速で同期回転させるよう構成した田植機の植付け機構において、
前記回転ケースの端部近くに潤滑油注入部を設けてあることを特徴とする田植機の植付け機構。
【請求項2】
前記回転ケースに潤滑油排出部を設けてある請求項1記載の田植機の植付け機構。
【請求項3】
前記潤滑油注入部と前記潤滑油排出部とを回転ケースの回転軸芯に対して対角状に設けてある請求項2記載の田植機の植付け機構。
【請求項4】
前記回転ケースを回転駆動する植付け駆動軸を、定位置停止機能を備えたクラッチを介して駆動するよう構成し、このクラッチが切り操作されて回転ケースが停止した状態において前記潤滑油排出部が回転ケースの最下端近くにあるように設定してある請求項2または3記載の田植機の植付け機構。
【請求項5】
前記潤滑油排出部にネジ込み装着されるドレンプラグを設け、前記回転ケースに内装したバックラッシュ吸収用の圧縮コイルバネの固定端を前記ドレンプラグの内端で受け止め支持するよう構成してある請求項2〜4のいずれか一項に記載の田植機の植付け機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−20461(P2007−20461A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206776(P2005−206776)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】