説明

甲殻類の増重率向上剤

【課題】 安全性が高く安価で且つ安定供給が可能な甲殻類の増重率向上剤を得る。
【解決手段】 炭素数2〜6の有機酸又はその塩を有効量含む甲殻類の増重率向上剤。この増重率向上剤は、炭素数2〜6の有機酸又はその塩の有効量が甲殻類用飼料に含有されているものであってもよい。増重率向上剤における炭素数2〜6の有機酸又はその塩の含有量は、例えば0.001〜10重量%程度である。前記炭素数2〜6の有機酸又はその塩としては、プロピオン酸又はその塩が好ましい。甲殻類としては、より好ましくはエビ類であり、特にクルマエビ類が好ましく、とりわけウシエビ(ブラックタイガーエビ)が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機酸又はその塩を有効成分とする甲殻類の増重率向上剤、及び甲殻類の増重率を高める方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クルマエビ等の甲殻類の養殖が盛んになり、種々の人工飼料が開発されている。甲殻類の基本飼料を構成する栄養源等として、カゼイン、ゼラチン、フィッシュミール、エビミール、オキアミミール、イカミール、酵母粉末、コーングルテンミール、フェザーミール、卵アルブミン、大豆蛋白質等の蛋白源;酵母エルゴステロール、植物スチグマステロール等のステロール類;スケトウダラ肝油、大豆レシチン等のリン脂質;小麦デンプン、活性グルテン、デキストリン、グルコース、マルトース、ショ糖、グルコサミン等の炭水化物;カルシウム、リン、マグネシウム、カリウム、銅等のミネラル;ビタミン類などが例示される。
【0003】
甲殻類の食材としての需要の増加に伴い、甲殻類の成長をより促進させる研究もなされている。特公昭61−52655号公報には、ダナリエラ属の緑藻類を乾燥物で特定量添加した増重率向上用クルマエビ養殖用飼料組成物が開示されている。特開平9−84527号公報には、特定構造のコレステロールの脂肪酸エステルを有効成分として含有するエビ類成長促進剤が開示されている。特開平11−89520号公報には、甲殻類の増重率及び飼料効率を改善するための飼料として、フィトステロールとその脂肪酸エステルとの混合物を添加した甲殻類用飼料が開示されている。しかしながら、これらの増重率向上剤や成長促進剤は、一般に高価であり、また安定供給が困難という問題がある。
【0004】
【特許文献1】特公昭61−52655号公報
【特許文献2】特開平9−84527号公報
【特許文献3】特開平11−89520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、安全性が高く安価で且つ安定供給が可能な甲殻類の増重率向上剤、及び甲殻類の増重率を高める方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、甲殻類に特定の有機酸又はその塩を摂餌させると、食餌の体重への変換効率が向上し、甲殻類の増重率(体重の増加率)が大幅に向上することを見いだし、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、炭素数2〜6の有機酸又はその塩を有効量含む甲殻類の増重率向上剤を提供する。
【0008】
この増重率向上剤は、炭素数2〜6の有機酸又はその塩の有効量が甲殻類用飼料に含有されているものであってもよい。増重率向上剤における炭素数2〜6の有機酸又はその塩の含有量は、例えば0.001〜10重量%程度である。前記炭素数2〜6の有機酸又はその塩としては、プロピオン酸又はその塩が好ましい。
【0009】
本発明は、また、甲殻類に炭素数2〜6の有機酸又はその塩の有効量を摂餌させて甲殻類の増重率を高める方法を提供する。
【0010】
前記方法において、炭素数2〜6の有機酸又はその塩を添加した甲殻類用飼料を甲殻類に摂餌させてもよい。この場合、炭素数2〜6の有機酸又はその塩を添加した甲殻類用飼料中の炭素数2〜6の有機酸又はその塩の含有量は、例えば0.001〜10重量%程度である。前記炭素数2〜6の有機酸又はその塩としては、プロピオン酸又はその塩が好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、炭素数2〜6の有機酸又はその塩の食餌効率向上作用により、クルマエビ等の甲殻類における食餌の体重への変換効率が高まり、成長が促進され、甲殻類の増重率を高めることができる。炭素数2〜6の有機酸又はその塩は、安全性が高く、安価であり、しかも安定供給が可能である。そのため、甲殻類の養殖に好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の甲殻類の増重率向上剤は、甲殻類に投与する製剤であって、炭素数2〜6の有機酸又はその塩を有効成分として含んでいる。また、本発明の甲殻類の増重率を高める方法は、甲殻類に炭素数2〜6の有機酸又はその塩の有効量を摂餌させることを特徴とする。
【0013】
炭素数2〜6の有機酸又はその塩としては、酸性を示す炭素数2〜6の有機化合物及びその塩として公知のものから適宜選択でき、例えば、酢酸、プロピオン酸、乳酸、フマル酸、酪酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、ケトグルタル酸、酒石酸、コハク酸、イタコン酸、アジピン酸などのカルボン酸;フィチン酸などの有機リン酸;及びこれらの塩(ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属の塩など)等が挙げられる。以下、炭素数2〜6の有機酸又はその塩を、「有機酸類」と称する場合がある。これらの有機酸類は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。本発明における有機酸類としては、安全性を考慮すると食品添加物として使用できるものが好ましく、具体的には、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等、特にプロピオン酸等が好ましく用いられる。これらの有機酸は公知であり、公知手法で製造でき、また購入できる。
【0014】
甲殻類の増重率向上剤の剤形は、粉末状、顆粒状、シート状、ペースト状、液体状(溶液、懸濁液、混合液等)等の公知の剤形から投与方法に応じて適宜設定することができる。増重率向上剤としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などの経口投与製剤;注射用溶液又は懸濁液、吸入薬、軟膏剤、貼付剤、吸収剤などの非経口投与剤などが挙げられる。好ましくは、経口投与製剤又は注射用溶液(懸濁液を含む)などが用いられる。特に、錠剤や顆粒剤等は、飼料(餌料)と混合した態様で経口投与しやすい点で好適に利用される。
【0015】
これらの製剤は、有機酸類からなる有効成分単独、又は該有効成分と補助成分との組み合わせで構成された液体製剤、固体製剤の何れであってもよい。補助成分としては、前記有機酸の増重率向上効果を損なわない範囲および甲殻類への悪影響が現れない範囲で適宜選択して利用することができる。このような補助成分には、例えば、公知の担体;安定剤、結合剤、充填剤、崩壊剤、滑沢剤などの賦形剤;水、低級アルコール、ポリオール等の水溶性溶媒、高級脂肪酸エステル類、親油性アルコールなどの疎水性溶媒等の溶媒などを利用できる。
【0016】
固体製剤は、例えば、前記有効成分と、賦形剤とからなる組成物を、乾燥、造粒、圧縮、成型等の公知の方法で成形し、必要に応じてコーティング等の処理を施すことにより製剤化できる。液体製剤は、例えば、前記有効成分と、メチルセルロース等の懸濁化剤、レシチン等の乳化剤、保存剤等の添加物とを混合し、必要に応じて淡水、海水等により希釈することにより製造できる。
【0017】
この増重率向上剤は、炭素数2〜6の有機酸又はその塩の有効量が甲殻類用飼料に含有されているものであってもよい。甲殻類用飼料の飼料成分としては、公知の飼料成分を用いることができる。甲殻類用飼料には、例えば、粉末飼料、固形飼料、ドライペレット飼料、モイストペレット飼料、エクストルーダ調製飼料などが含まれ、これらを単独で、又は複数を組み合わせて用いることができる。甲殻類用飼料には、飼料成分のほか、他の成分として、慣用の飼料に添加される公知の添加物等を含んでいてもよい。
【0018】
炭素数2〜6の有機酸又はその塩の有効量を含む甲殻類用飼料の製造方法としては、例えば、慣用の飼料成分等に有機酸類を添加した飼料組成物に成型加工を施す方法、慣用の飼料に有機酸類を吸着、含浸、コーティング等の方法で添加する方法等を用いることができる。特に後者の方法によれば、飼料の種類に限定されず市販の広範な飼料から選択でき、簡便な方法で有効成分を添加可能であり、しかも添加量を容易に調節することができる点で有利である。前記飼料の製造工程には、必要に応じて、構成成分の混合前又は後に、粉砕、分級等の粉砕工程を、混合後に乾燥、製粉、造粒、成形等の二次加工工程等の工程を設けてもよい。
【0019】
増重率向上剤中の有機酸類の含有量は、投与対象(甲殻類)、有機酸、製剤の種類や形状、投与条件(回数、方法等)等に応じて適宜選択されるが、通常0.001〜10重量%程度、好ましくは0.001〜5%重量%、さらに好ましくは0.003〜3重量%、特に好ましくは0.003〜0.05重量%である。前記含有量が0.001重量%未満では、増重率向上効果が不十分となる傾向にあり、10重量%を超える場合には、甲殻類による摂餌行動が低下する場合があり、しかも不経済である点で好ましくない。例えば、プロピオン酸の場合、0.01重量%前後で高い効果が得られる。
【0020】
本発明における甲殻類には、例えば、クルマエビ、ウシエビ(ブラックタイガーエビ)、コウライエビ、バナナエビ、バナメイエビ、ヨシエビ、ブルーシュリンプ(Litopenaeus stylirostris)、オニテナガエビ等のクルマエビ類を含むエビ類;上海ガニ、ガザミ、モクズガニ等のカニ類;ロブスター、オマールエビ、アメリカザリガニ、ニホンザリガニ等のザリガニ類等の広範な種類の甲殻類が含まれる。なかでも、好ましくは食用される甲殻類、より好ましくはエビ類であり、特にクルマエビ類が好ましく用いられる。本発明の甲殻類の増重率向上剤は、とりわけウシエビ(ブラックタイガーエビ)に対して効果が高い。
【0021】
増重率向上剤の1日の投与量としては、通常、慣用の飼料を甲殻類に摂餌させる際と同程度であり、例えば甲殻類の体重の0.1〜10重量%程度、好ましくは0.2〜5重量%程度である。
【0022】
増重率向上剤の投与条件は、製剤の組成(有効成分の含有量、添加剤の種類等)、剤形(錠剤、顆粒剤、液体製剤等)、甲殻類の種類や大きさに応じて適宜設定することができる。増重率向上剤は、非経口投与も可能であるが、経口投与が好ましく、通常の給餌と同様の方法で投与することが好ましい。投与回数は、1回又は複数回の何れでもよく、頻度は、使用態様に応じて数日に亘り連続的に又は所定の日数をおいて逐次的に投与することもできる。投与期間は、甲殻類の飼育期間中継続して投与することが好ましいが、例えば5〜7日間程度に短期的に投与してもよい。このように製剤を投与することにより、甲殻類の食餌効率(食餌の体重への変換効率)を著しく向上することができる。
【0023】
本発明の方法において、増重率向上剤は甲殻類の生存環境下に投与される。甲殻類の生存環境としては、例えば、養殖時など人工海水(又は天然海水)を入れた水槽を生存環境とする甲殻類には、人工海水に増重率向上剤を散布することにより投与する。また、生存状態で流通過程におかれる甲殻類は、前記水槽の代わりに搬送用容器等を用いる点以外は上記と同様である。なお、複数の甲殻類に投与する場合には、増重率向上剤を均一に分散させることが好ましく、例えば、顆粒剤等の拡散しやすい製剤を用いたり、撹拌等により対流させた海水に投与することができる。
【実施例】
【0024】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0025】
実施例1
クルマエビに与える飼料として、クルマエビ用ペレット飼料(商品名「ゴールドプローン」、ヒガシマル社製)の表面にプロピオン酸を噴霧により吸着させて、0.01重量%プロピオン酸含有飼料、0.1重量%プロピオン酸含有飼料、1重量%プロピオン酸含有飼料を製造した。また、対照には、プロピオン酸を含有しないクルマエビ用ペレット飼料(商品名「ゴールドプローン」、ヒガシマル社製)を用いた。
【0026】
エアレーション、ヒーターおよび上面ろ過装置を設置した水槽に、人工海水(商品名「レッドシー ソルト」、Red Sea社製)を入れ、流水下で、ウシエビ(標準和名:ウシエビ、一般名:ブラックタイガーエビ、学名:Penaeus monodon、平均体重9〜10g)を個別飼育した。0.01重量%プロピオン酸含有飼料を投与する区(0.01%区)、0.1重量%プロピオン酸含有飼料を投与する区(0.1%区)、1重量%プロピオン酸含有飼料を投与する区(1%区)、プロピオン酸を含有しないクルマエビ用ペレット飼料を投与する区(対照区)の各区につき、それぞれ15尾のウシエビを飼育した。飼育期間中、水温を28〜30℃に保ち、各水槽ごとに前記飼料を、毎日朝と夕方の計2回、それぞれエビの体重の1重量%となるように(1日の投与量は体重の2重量%)投与した。試験開始前と投与後14日目に、個別にエビの体重を測定した。増重率を下記式により算出した。
増重率(%)=[(14日目の平均体重−投与前の平均体重)/投与前の平均体重] ×100
結果を表1に示す。なお、試験期間中0.01重量%区に1尾の死亡が見られたが、細菌及びウイルス検査を行った結果、病原因子は検出されなかった。したがって、死因は病原因子によるものではなかった。表1に示されるように、プロピオン酸含有飼料を投与した区では対照区と比較して1.8倍〜4.3倍の増重率が得られた。
【0027】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数2〜6の有機酸又はその塩を有効量含む甲殻類の増重率向上剤。
【請求項2】
炭素数2〜6の有機酸又はその塩の有効量が甲殻類用飼料に含有されている請求項1記載の増重率向上剤。
【請求項3】
炭素数2〜6の有機酸又はその塩を0.001〜10重量%含む請求項1又は2記載の増重率向上剤。
【請求項4】
炭素数2〜6の有機酸又はその塩がプロピオン酸又はその塩である請求項1〜3の何れかの項に記載の増重率向上剤。
【請求項5】
甲殻類に炭素数2〜6の有機酸又はその塩の有効量を摂餌させて甲殻類の増重率を高める方法。
【請求項6】
炭素数2〜6の有機酸又はその塩を添加した甲殻類用飼料を摂餌させる請求項5記載の方法。
【請求項7】
炭素数2〜6の有機酸又はその塩を0.001〜10重量%含む甲殻類用飼料を摂餌させる請求項6記載の方法。
【請求項8】
炭素数2〜6の有機酸又はその塩がプロピオン酸又はその塩である請求項5〜7の何れかの項に記載の方法。