説明

画像処理装置、画像処理方法、画像形成装置、プログラムおよび記録媒体

【課題】紙の表面粗さや紙種に応じて色材総量を制御し、1次色と多次色との間で起こる色再現性の不均一性を解消する。
【解決手段】色材総量設定部305は、検出された紙の表面粗さを基に色材総量を設定する。紙の表面粗さが閾値以上では、表面粗さが大きいほど、色材総量が少なくなるように設定する。紙の表面粗さが閾値未満では、色材総量を一定に設定する。総量規制部303では、γ補正されたCMYK信号に対し、総色材量が設定された色材総量値を超えないように総量規制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を用いたカラー複写機、カラープリンタ、カラーFAX等の画像形成装置の色材(トナー)総量の制御に関し、例えば、カラー画像の印刷物に好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータなどで作成したカラー画像を出力する装置として、カラー複写機などの画像形成装置が存在する。通常の画像形成装置では、最適なトナー総量が決まっており、トナー総量が多すぎると転写不良や定着不良が発生し、これに起因したトナー飛散による画質劣化が生じたり、プリンタエンジンが故障する恐れがある。また、トナー総量が少なすぎると高彩度の色再現が不可能となり、本来の画質が得られない場合がある。このことから最適なトナー総量を定め、プリンタの画像処理部でトナー総量を制御するのが一般的である。例えば、特許文献1では、転写不良や定着不良のためにトナーが飛び散るなどして、出力画像の画質が劣化するのを防ぐために、コンピュータから入力される画像データのトナー量を出力先の画像形成装置の能力に応じて調整している。
【0003】
ところで、近年、環境保護に配慮して、再生紙などの粗悪な紙を使用した印刷が増えている。一般的に、粗悪紙は繊維が粗いため平滑性が悪く、紙の凹凸に追従してトナー層表面も凹凸になる。トナー層表面に平滑性がある場合と無い場合の色再現を、図1を用いて説明する。紙にトナーが定着した状態において、図1(a)は平滑表面(鏡面)を示し、(b)は凹凸表面(非鏡面)を示す。(b)の非鏡面の場合、トナー層表面で拡散光が発生する。図1(c)は、表面拡散光と反射濃度の関係、図1(d)は表面拡散光と彩度の関係を示す。ここで、色材層の分光透過濃度は表面の平滑状態にかかわらず同一であるが、(c)、(d)に示すように、表面拡散光が増えると反射濃度が下がり、彩度が低くなる。
【0004】
すなわち、粗悪紙のように紙の表面が凹凸であると、トナー層表面が非鏡面となり、白色光である表面拡散光が発生するため、理想的な濃度、彩度が再現できず、また、トナー層表面の凹凸が大きいほど表面拡散光も大きくなる。
【0005】
図1(e)は、トナー付着量と表面拡散光との関係を示す。表面拡散光は、トナーが付着していない紙の状態が最も多く、トナー付着量が増えるに従って減少する。これは、トナー付着量が増えるに従って紙の凹凸を埋めていき、表面の凹凸が小さくなるためである。トナー付着量がM以上では、表面拡散光は定常状態となる。これは、トナーが完全に紙表面を覆ったことを表す(但し、溶解したトナー自体も表面が凹凸するため表面拡散光は完全にはなくならない)。つまり、トナー付着量を増やせば表面も平滑化し、色再現が向上する。
【0006】
また、一般的には2次色のトナー付着量は1次色の2倍であるため、図1(e)より、両者のトナー表面の凹凸状態は異なる。特に粗悪紙においてこの差は顕著で、1次色で表面が凹凸であるが、2次色では平滑となり、2次色では目標色再現が達成されているにも関わらず、1次色では本来目標としている色域を確保できない。すなわち、ある紙の元に決定されたトナー総量を粗悪紙にそのまま適用すると、1次色と2次色との間で表面拡散光に差が生じてしまい、サンプル内における色再現の印象が不均一になる問題がある。従って、紙種に応じて1次色と多次色ベタの表面拡散光が同程度になるようにトナー総量を調整する必要がある。
【0007】
例えば、特許文献2では、平滑度が高い紙ほど色材総量を低く設定することにより、定着処理時に発生するホットオフセットや剥離不良等を防止している。
【0008】
【特許文献1】特許第3618837号公報
【特許文献2】特開2004−191853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2では、紙種(コート紙か否か)によってその平滑度を判定している。しかし、同じ商品の紙でも、その平滑性はロットや湿度、製紙メーカによって異なり、また前述したように、色再現に直接関係するのは入射光に対して表面で拡散される光の割合であることから、上記した従来の紙種に基づく平滑度の判定では精度に欠け、良好な色再現の実現が難しい。
【0010】
本発明の目的は、紙の表面粗さや紙種に応じて色材総量を制御し、1次色と多次色との間で起こる色再現性の不均一性を解消した画像処理装置、画像処理方法、画像形成装置、プログラムおよび記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、画像形成用の記録制御情報を出力する画像処理装置であって、各色成分の記録制御情報を中間調処理後に使用される色材量に変換する色変換手段と、紙の表面粗さに関する情報を取得する取得手段と、前記取得した紙の表面粗さに応じて全色成分の総和からなる色材量の最大値である色材総量を設定する色材総量設定手段と、前記色材総量に基づき各色の色材量を規制する総量規制手段とを備え、前記色材総量設定手段は、前記取得した紙の表面粗さが所定の閾値以上であるとき、前記紙の表面粗さが大きいほど色材総量が少なくなるように設定することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1、7〜10:紙の表面粗さが大きいほど色材総量を少なく設定するので、少ない色材量で再現する色と多い色材量で再現する色との間で起こる色再現性の不均一性を解消することが可能である。
【0013】
請求項2:色再現に直接関係のある紙表面で拡散する光の情報を用いて紙の表面粗さを判定するので、色材総量の設定を高精細に行うことが可能である。
【0014】
請求項3:紙の表面粗さが閾値以下の紙に対しては色材総量の制限を行わないので、高品質な紙に対する色再現の品質を保持することが可能である。
【0015】
請求項4、5:高品質の紙に対する色材総量、もしくは色材層の表面粗さ特性を、色再現、画質、及びプリンタなど紙以外の特性で決定することができ、高品質の紙に対しては色再現の品質を高く保持することが可能である。
【0016】
請求項6:紙の表面粗さと入力画像データの色分布に応じて色材総量を設定するので、出力サンプル内の色再現の印象を統一することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、発明の実施の形態について図面により詳細に説明する。図2(a)は、本発明に係る画像形成システムの構成例を示す。画像形成システムは、コンピュータ101と、画像表示装置(ディスプレイ)102と、画像処理装置103と、画像入力装置104と、画像形成装置105とで構成されている。ディスプレイ102及び画像処理装置103は、コンピュータ101に直接接続され、画像入力装置104及び各画像形成装置105は、LANを介してコンピュータ101に接続されている。コンピュータ101には、各種情報処理、画像処理に関するデータ処理に用いる各種アプリケーションソフトやプリンタドライバ等のソフトウェアが搭載されている。ディスプレイ102は、各種出力結果を表示するための表示装置である。画像処理装置103は、コンピュータ101から供給されるデバイス固有の色信号(RGB、CMY、CMYKなど)を、画像形成装置105に固有の色信号に変換する処理機能を有している。また、画像処理装置103は、画像形成装置105で検知された紙の表面粗さや種類に基づいて、色変換処理を行う色変換処理部を有している。画像入力装置104は、画像データを取り込むための入力装置であり、例えば、カラースキャナやデジタルカメラ等である。
【0018】
画像形成装置105は、紙の表面粗さや紙種を検知するセンサーを有し、検知結果をコンピュータ101に送信し、画像処理装置103から送信されるプリントデータに基づいて、紙にカラー画像を形成する。画像形成装置105は、電子写真方式など、上記の方式で画像を形成する装置であれば、特に限定されない。なお、コンピュータ101に接続される各種の入出力装置(画像表示装置、画像入力装置や画像形成装置など)の台数は上記の数に限定されない。
【0019】
画像形成システムにおけるコンピュータ101と画像処理装置103の処理機能について図2(b)を用いて説明する。コンピュータ101には、ドキュメントデータ111を生成する各種アプリケーションソフト112と、アプリケーションソフト112から与えられるドキュメントデータ111を画像処理装置103が処理可能な描画コマンドに変換するなど、画像形成装置105で印刷を行うために必要な処理を行うプリンタドライバ113と、プリンタドライバ113からの描画コマンドを記憶するためのディスク(記憶手段)114と、画像形成装置105から受け取った紙の表面粗さデータを記憶するためのディスク(記憶手段)115を備えている。
【0020】
画像処理装置103には、コンピュータ101との間で送受信する描画コマンドのRGB形式の色データに対して色変換処理を行う色変換処理部131と、コマンド形式のデータをラスタ形式の画像データに変換するレンダリング処理部132と、ラスタ形式の画像データを格納するバンドバッファ133と、バンドバッファ133に格納されたラスタ形式の画像データを格納するページメモリ134とを備え、コンピュータ101から送られた描画コマンドを画像形成装置105が処理可能なプリントデータに変換する機能を有している。また、色変換処理部131には、コンピュータ101から受け取った紙の表面粗さデータをもとに、色材総量を設定する色材総量設定部、CMYの色情報をC’M’Y’K’に変換する墨処理部、及び総量規制処理を行う総量規制処理部が備えられている。
【0021】
画像処理システムの動作について説明すると、画像処理システムの動作の一つとして、コンピュータ101内部の画像データをディスプレイ102に表示しながら、画像形成装置105によってカラー画像を形成出力(印刷)させるために画像データを画像処理装置103に送出し、画像処理装置103からの処理結果であるプリントデータを受領して画像形成装置105に転送する動作がある。
【0022】
コンピュータ101は、まず、画像形成装置105において検知された、紙の表面粗さデータを受け取り、RGB信号と共に画像処理装置103に送出し、画像処理装置103は、画像形成装置105における制御信号である、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)の色信号に変換する。これにより、画像形成装置105によってカラー画像が形成されて定着された後に出力される。
【0023】
このコンピュータ101において画像処理装置103に送出する描画コマンドを生成し、画像処理を行ってプリントデータを画像形成装置105に出力するまでの動作について具体的に説明する。
【0024】
ユーザーによってコンピュータ101が操作されて、コンピュータ101のアプリケーションソフト112などを用いて画像データをディスプレイ102上に表示しながら編集が行われる。そして、編集作業が終了すると、出力する画像形成装置105を指定してアプリケーションソフト112上で印刷を選択する。コンピュータ101はアプリケーションソフト112で印刷が選択され、印刷プロパティで印刷が指示されると、アプリケーションソフト112で印刷が選択されたドキュメントデータ111をプリンタドライバ113に渡し、プリンタドライバ113はドキュメントデータ111を画像処理装置103が受信可能な描画コマンドに変換し、ディスク114に逐次保存する。同時に、コンピュータ101はユーザーによって画像形成装置105が指定されると、画像形成装置105から紙の表面粗さ情報を受け取りディスク115に保存する。
【0025】
一方、画像処理装置103はコンピュータ101からの印刷指示を受けてプリンタドライバ113がディスク114に保存する描画コマンドを順次読み出して、色変換処理部131に描画コマンドの色データを転送し、ディスク115に保存する紙の表面粗さデータを読み出して、色変換処理部131に転送する。
【0026】
そして、色変換処理部131によってRGB形式の色データに対して所定の色変換処理を行ってカラープリンタ等の画像形成装置105に適した形式のデータに変換し、このコマンド形式のデータをレンダリング処理部132によってラスタ形式の画像データに変換してバンドバッファ133に格納し、更に、バンドバッファ133に格納されるラスタ形式の画像データをページバッファ134に格納する。画像処理装置103のページバッファ134に格納された階調データをコンピュータ101によって読み出し、指定された画像形成装置105に転送することにより、画像形成装置105は被記録媒体である紙に画像を形成して出力する。
【0027】
以上の説明では、画像処理装置103が、色変換処理、レンダリング処理、階調処理などを行っているが、これらの処理機能は情報処理装置としてのコンピュータ内にソフトウェア(プログラム)として、あるいは、ASICなどの専用処理装置として搭載することができ、また、画像形成装置側の制御部に同様にして搭載することもでき、さらに、専用のプリントサーバのような画像形成装置とは独立した制御装置によって行うこともできる。
【0028】
図3(a)は、本発明の画像形成装置の概略構造を示す。実施例では4色、即ちイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの画像形成手段を備えた電子写真方式のカラー画像形成装置を示す。図3(a)において、5Y、5M、5C、5Kは静電潜像を形成する感光ドラム、7Y、7M、7C、7Kは帯電器、8Y、8M、8C、8Kは現像器、11Y、11M、11C、11Kはトナー容器、10Y、10M、10C、10Kは画像信号に応じて露光を行い、感光ドラム上に静電潜像を形成するレーザースキャナである。12は感光ドラム5に形成されたトナー像を順次転写し搬送する中間転写ベルト、6Y、6M、6C、6Kは現像器8により感光ドラム5上に形成された静電潜像に従って顕像化されたトナー像を中間転写ベルト12に転写する1次転写ローラ、18aは図示しないモータとギア等からなる駆動部と接続され、中間転写ベルト12を駆動するベルト駆動ローラ、18bは中間転写ベルト12の移動に従って回転し、且つ、中間転写ベルト12に一定の張力を付与するベルト従動ローラ、9は中間転写ベルト12によって搬送されたトナー像を用紙に転写する2次転写ローラである。
【0029】
32、34、36は給紙カセット、13は用紙上に転写されたトナー像を熱で溶かし定着する定着器、39は紙の表面粗さや紙種を検知する第1のセンサーである。図中の矢印は用紙搬送の流れを示す。
【0030】
次に画像形成部におけるプリント動作について説明する。まず、給紙カセット32、34、36の一つから転写ベルト9に紙が搬送される。ここで紙が第2のセンサー19により検知されると、第1のセンサー39は紙の表面性を検知し、その結果を表面粗さデータとしてコンピュータ101に送信する。コンピュータは受け取った表面粗さデータをRGB信号と共に画像処理装置103に送出する。画像処理装置103ではプリントデータを作成し、画像形成装置105に送信する。次に、感光ドラム5が静電潜像形成用の帯電器7により帯電される。そして、画像処理装置103から送信されたプリントデータがレーザースキャナ装置10に供給されて出力レーザー光が変調されるとともに、このレーザー光により感光ドラム5が走査されて感光ドラム5上に静電潜像が形成される。現像器8の4個のカラートナー用現像器のうち、感光ドラム5上の潜像に対応した色の像器が選択され、その選択された現像器8からトナーが感光ドラム5に供給されて感光ドラム5の潜像はトナー像に変換される。続いて、1次転写ローラ6により感光ドラム5上のトナー像が中間転写ベルト12に形成され、2次転写ローラ9により中間転写ベルト12上のトナー像が紙に形成される。そして、この潜像の形成、トナー像の形成および転写が、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのカラートナーについて順に実行され、紙には原稿のカラー画像に対応したカラーのトナー像が形成される。続いて、定着器13に搬送されて加熱され、カラートナー像が溶解されて紙に固着される。そして、このカラートナー像の固着された紙がプリント結果として排紙トレイへ搬出される。
【0031】
すなわち、紙の表面粗さや紙種を第1のセンサー39によって検知し、その結果をコンピュータ101を通して画像処理装置103に送信し、画像処理装置103において、後述する色変換処理部131において、色材総量の設定を実行し、プリントデータを作成する。
【0032】
図3(b)は、紙の表面粗さ、または紙種を検知する第1のセンサーの構成例を示す。51はLEDのような照明手段であり、53はCMOSやCCDで構成されるエリアセンサーであり、紙表面を撮像する。図示するように、紙52の表面には斜めから光が入射されるため、紙表面の凹凸に応じて影ができる。これをエリアセンサー53で検知し、凹凸の深さ(例えば、複数画素の出力の最大値と最小値との差分で判断できる)や凹凸の細かさ(例えば、センサー出力を2値化したときの“1”と“0”の切り替わり頻度で判断できる)によって、普通紙、ラフ紙、グロス紙、コート紙、OHPのような紙の表面粗さを検出することができる。
【0033】
本実施例では、表面粗さを複数画素における出力値のばらつきである標準偏差で定義する例について述べる。出力値は、入射光と直接受光した場合を1.0で規格化した値を用いる。n点の複数画素における出力値をx1、x2、‥xnとすると、平均値は式(1)で表される。
【0034】
【数1】

【0035】
紙表面の粗さは、式(2)の標準偏差式で定義する。
【0036】
【数2】

【0037】
また、図3(a)に示す例では、紙の表面粗さや紙種を検知する第1のセンサーを第2のセンサーの近くに配置した例を説明したが、第1のセンサーは第2のセンサーの近傍に限らず、各給紙カセット付近にそれぞれを設け、搬送開始前に検知を行っても良い。
【0038】
実施例1
実施例1は、紙の表面粗さに応じて色材総量を設定し、総量規制を行う実施例である。
図4は、実施例1の色変換処理部の構成を示す。図4において、色変換処理部131は、コンピュータ101のプリンタドライバ113によって、一画素ごとのRGB画像信号からCMYK信号を生成出力するために、入力色信号(RGB形式の信号)をプリント色信号(CMY信号)に変換する色変換部300と、CMY信号成分からUCR、UCA率に応じてK成分を加えたCMYK信号に変換する墨処理部301と、CMYK信号に対して画像形成エンジン特性に応じたγ補正をして記録制御信号を生成出力するγ補正部302と、色材総量設定部305から出力される、画像形成装置105が画像形成できる記録色材の最大値である色材総量に応じて信号を生成出力する総量規制部303と、ディザ処理などの中間調処理(階調処理)を施して画像形成装置105が処理可能な階調データ(プリントデータ)に変換する中間調処理部304とを備えている。
【0039】
一方、色変換処理部131は、コンピュータ101より出力される紙の表面粗さデータに応じて画像形成装置105において画像形成できる記録色材の最大値である色材総量の設定を行い、その結果を総量規制部303に送信するための色材総量設定部305を備えている。
【0040】
実施例1の動作を説明すると、まず、プリンタドライバ113から受け取った描画コマンドの色データであるRGB入力信号が色変換部300へ送られる。色変換部300では、例えば予め作成されている3次元ルックアップテーブルを用いてCMY信号に変換する。つまり、RGB空間上にある代表のRGB値に対応する出力CMY信号値を予め計算して3次元ルックアップテーブルに記憶させておき、色変換部300は、該3次元ルックアップテーブルから複数の出力値を読み出して補間演算を行う。
【0041】
すなわち、3次元色空間であるRGB(緑、青、赤)の階調データから、出力色成分C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)データへの変換は、メモリマップ補間によりCMYに色変換する。メモリマップ補間とは、図5に示すように、RGB空間を入力色空間とした場合、RGB空間を同種類の立体図形(ここでは立方体)に分割し、入力の座標(RGB)おける出力値Pを求めるには、前記入力の座標を含む立方体を選択し、該選択された立方体の8点の予め設定した頂点上の出力値と前記入力の前記立方体の中における位置(各頂点からの距離)に基づいて、点Pで分割された小直方体8個の体積V1〜V8の加重平均による線形補間を実施する。
【0042】
墨処理部301では、CMY成分の共通部分をK(ブラック)成分に置き換える処理を、UCR(UCA)率に基づき、例えば、式(3)を用いて、CMY信号をC’M’Y’K’信号に変換する。この式では、α=β=1、Th=0のとき、100%UCRなる。
K’=α×(min(C、M、Y)−Th)
C’=C−β×(min(C、M、Y)−Th)
M’=M−β×(min(C、M、Y)−Th)
Y’=Y−β×(min(C、M、Y)−Th) 式(3)
ここで、min(C、M、Y)はCMYの最小値、α、βは定数、Thは墨入れ開始点である。
【0043】
墨処理されたC’M’Y’K’信号は、γ補正部302でγ補正後、総量規制部303において、画像形成装置が記録できる記録色材の最大色材総量に応じて補正されて、記録制御信号として中間調処理部304を経てカラー画像形成装置に送られる。
【0044】
図6、図7を用いて、紙の表面粗さを入力として色材総量を決定する色材総量設定部305の処理を説明する。前述のとおり、色材層表面の凹凸(表面粗さ)が大きいほど、表面拡散光が発生し再現色の濃度、及び彩度が低下する。紙自体の表面粗さが大きい場合は、紙の凹凸に追従して色材が付着するため、同じ色材総量であっても紙の表面粗さに応じて再現色が異なる。従って、具体的には下記にように色材総量を設定する。
(1)図6(a)は、紙の表面粗さ(X)に対する色材総量(Y)の設定例である。横軸は表面粗さ(値が大きいほど表面形状が凹凸している)、縦軸は色材総量を表す。図6(a)に示すように、紙の表面粗さが閾値X1以上では、色材総量Yは表面粗さXに対する単調減少関数で表される。
(2)紙の表面粗さが閾値X1における色材総量Y1、及び紙の表面粗さが閾値以下に対する色材総量Yは、反射サンプルの色再現特性、色材吸収特性、光沢特性、プリンタ出力特性、及び色材離形特性のうちの少なくとも一つ以上の特性、すなわち紙以外の特性で設定する。図6(a)の例では、閾値X1未満に対する色材総量Y1は固定である。
これらの理由について、図6(b)〜(e)を用いて説明する。図6(b)はX=X1、Y=Y1、図6(c)はX>X1、図6(d)はX<X1、Y=Y1の場合の反射サンプル断面図である。
【0045】
図6(c)のように、X>X1では色材層表面は紙の凹凸の影響を受け、図6(d)のように、X<X1では色材層表面は紙の凹凸の影響を受けない。つまり、表面粗さX1を持つ紙は、画像形成装置105に使用される標準紙に相当し、色材総量Y1は標準紙を使った場合に目標とする色域、及び画質を持つ画像を出力するための色材総量に相当する。また、表面粗さXの紙に色材総量Y=Y1で画像を形成した場合の色材表面粗さをZとし、XとZの関係を示したのが図6(e)である。図6(e)では、X=X1の条件においてZ=Z1となり、X>X1ではZ>Z1、X<X1ではZ=Z1となる。つまり、紙の表面粗さX1とは、画像形成装置105に使用される標準紙に対し規定色材総量Y1で印刷した場合に、印刷面における規定の表面粗さZ1を再現するのに対応する紙表面粗さである。
【0046】
図6(c)のように、X>X1では色材層の表面粗さが大きいため、1次色では目標の色再現が出せないので、色材総量をY<Y1と設定する。一方、図6(d)のように、X<X1では色材層表面粗さはZ1のままであるため、色材総量はY=Y1と設定する。
【0047】
色材層の表面形状が紙のそれに左右されないのであれば、紙以外の特性で色材総量を決めてよく、Y1はこの理論に基いて設定される。設定方法としては、色材特性や画質特性などを基に設定するが、これに限定されない。また、このときの色材層の表面粗さであるZ1も例えばトナーの溶け具合など、紙以外の特性で決定される。例えば、図6(b)、(d)における色材層表面の凹凸は、色材がトナーと仮定した場合の定着プロセスによる溶け具合が原因で発生する。決定した色材総量値Yは、総量規制部303に送信される。
【0048】
上記の例では、色材総量を決定する関数は紙の表面粗さを入力として図6(a)に示す関数で表した。この関数は、閾値X1以上で単調減少となるように設定すればよく、これに限定されない。例えば、図7(a)のように、X>X1において線型ではなく減衰関数で設定しても良い。また、図6(a)では、X<X1においてY=Y1としたが、紙の平滑度が高い場合、光沢性、もしくは色材剥離性を考慮してY<Y1としても良い。
【0049】
また、本実施例では、図6(a)のように紙の表面粗さに応じて色材総量を決定しているが、例えば、画像形成装置105において紙の表面粗さを検知して紙種を特定し、紙種情報をコンピュータに送信しても良い。その場合、画像形成装置105では、図7(b)のように測定した表面粗さと紙種とを対応付けるテーブルを持つ。コンピュータ101では受け取った紙種情報(PA、PB、‥PEのどれか)を色材総量設定部305に送信し、色材総量設定部305では、例えば図7(c)に示す紙種と色材総量とを対応付けるテーブルと照合して色材総量(YA、YB、‥YEのどれか)を設定する。この場合、表面粗さから関数を介して色材総量を求める計算を行わずに済むので処理が高速である。
【0050】
総量規制部303では、γ補正部302でγ補正されたC’M’Y’K’信号に対し、総色材量が色材総量値(Max_Ink)を超えないように総量規制される。
(Vc+Vm+Vy+Vk)>Max_Inkのとき、
V’c=t×Vc
V’m=t×Vm
V’y=t×Vy
V’k=Vk
t=(Max_Ink−Vk)/(Vc+Vm+Vy) 式(4)
なお、色材総量値Max_Inkは、色材総量設定部305で設定された値Yである。
【0051】
以上説明した実施例1では、紙の表面粗さをセンサーで検知し、検知結果に応じ、紙の表面が粗い場合は色材総量が少なくなるように色材総量を設定するので、少ない色材量で再現する色と多い色材量で再現する色との間で色再現性の品質が均一な出力が可能な画像形成装置を提供することができる。
【0052】
実施例2
実施例2は、紙の表面粗さと入力画像データの色分布に応じて色材総量を設定する実施例である。
図8は、実施例2の色変換処理部の構成を示す。図8において、色変換処理部131は、色変換部300と、墨処理部301と、γ補正部302と、総量規制部303と、中間調処理部304とを備えている。一方、色変換処理部131は、コンピュータ101より出力される紙の表面粗さデータ、及び入力画像データの色分布に応じて画像形成装置105において画像形成できる記録色材の最大値である色材総量の設定を行い、その結果を総量規制部303に送信するための色材総量設定部305aを備えている。色材総量設定部以外の構成、及び動作は実施例1と同一であるので説明を省略する。
【0053】
図9を用いて、紙の表面粗さと入力画像の色分布に応じて色材総量を決定する、実施例2の色材総量設定部305aの処理を説明する。紙表面の凹凸が大きい場合、図9(a)のように、1次色ベタ(100%)では色材層の表面が凹凸し、3次色ベタ(300%)になると図9(b)のように、色材層の表面が1次色のそれと比較して平滑になる。この場合、1次色は表面拡散光のため低彩度、多次色は高彩度色再現という現象が起こり、画像内の色再現の統一性がとれず不自然である。従って、紙の表面粗さが大きい場合は、1次色と多次色の面積比率に応じて、全体の色再現性の統一感が出せるように色材総量の設定を切り替える。具体的には、多次色の比率が高い場合は粗悪紙であっても色材総量を減らす必要が無い。
【0054】
図10は、実施例2の処理フローチャートである。実施例1に示したように紙の表面粗さに基づいて色材総量Y2が設定されると(S101)、1次色の面積率がQ1%以上であるか否かの判定が行われ(S102)、Q1%以上であった場合は1次色の割合が多いと判断され処理を終了する。一方、ステップ102において1次色の面積率がQ1%未満の場合はステップ103に進み、1次色の面積率がQ2%以下であるか否かの判定が行われ(S103)、Q2%以下であった場合は多次色の割合が多いと判断さる。この場合、色材総量を減らす必要が無いため、ステップ104において新たな色材総量Y(Y>Y2)が設定され処理を終了する。一方、ステップ103において1次色の面積率がQ2%以上であった場合は1次色と多色が混在しているとみなし、色材総量はY2のまま処理を終了する。例としてQ1=80、Q2=20という値を使用する。
【0055】
以上説明した実施例2では、紙表面粗さの検知結果と共に、入力画像データの色情報に応じて色材総量を設定しているので、粗悪な紙に印刷を行った場合に、サンプル内における色の印象が統一されている画像を出力することが可能となる。また、上記した実施例では、色材総量を切り替えるための判定基準として、RGB入力信号に対して各画素の色が1次色か否かで色分布を作成する例を説明したが、1次色には限定されない。また、画素毎に入力される色を再現するための色材量やγ補正後のCMYK出力信号の値に対する面積率を用いて、色材総量の切り替えを行うか否かを判定しても構わない。
【0056】
上記した実施例では電子写真を前提としたが、印刷など紙の凹凸が色材表面に影響を及ぼす印刷方式であれば応用可能である。また、上記した実施例では、色数を4色としたが、5色以上の多色プリンタにも応用可能である。
【0057】
また、本発明は、前述した実施例の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記憶媒体を、システムあるいは装置に供給し、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(CPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読出し実行することによっても達成される。この場合、記憶媒体から読出されたプログラムコード自体が前述した各実施例の機能を実現することになる。プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、不揮発性のメモリカード、ROMなどを用いることができる。また、コンピュータが読出したプログラムコードを実行することにより、前述した実施例の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼働しているOS(オペレーティングシステム)などが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した各実施例の機能が実現される場合も含まれる。さらに、記憶媒体から読出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書込まれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した各実施例の機能が実現される場合も含まれる。また、本発明の実施例の機能等を実現するためのプログラムは、ネットワークを介した通信によってサーバから提供されるものでも良い。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】トナー層表面の平滑性に応じた色再現を説明する図である。
【図2】本発明に係る画像形成システムの構成例を示す。
【図3】本発明の画像形成装置の概略構造を示す。
【図4】実施例1の色変換処理部の構成を示す。
【図5】メモリマップ補間を説明する図である。
【図6】実施例1の色材総量設定部の処理を説明する図である。
【図7】図6の続きの図である。
【図8】実施例2の色変換処理部の構成を示す。
【図9】実施例2の色材総量設定部の処理を説明する図である。
【図10】実施例2の処理フローチャートである。
【符号の説明】
【0059】
101 コンピュータ
131 色変換処理部
300 色変換部
301 墨処理部
302 γ補正部
303 総量規制部
304 中間調処理部
305 色材総量設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成用の記録制御情報を出力する画像処理装置であって、各色成分の記録制御情報を中間調処理後に使用される色材量に変換する色変換手段と、紙の表面粗さに関する情報を取得する取得手段と、前記取得した紙の表面粗さに応じて全色成分の総和からなる色材量の最大値である色材総量を設定する色材総量設定手段と、前記色材総量に基づき各色の色材量を規制する総量規制手段とを備え、前記色材総量設定手段は、前記取得した紙の表面粗さが所定の閾値以上であるとき、前記紙の表面粗さが大きいほど色材総量が少なくなるように設定することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記取得手段は、紙の表面で拡散する光情報を用いて前記紙の表面粗さに関する情報を取得することを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記所定の閾値の紙の表面粗さは、標準紙に規定の色材総量で印刷した印刷面における規定の表面粗さに対応した紙の表面粗さであることを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記規定の色材総量、及び前記所定の閾値未満の紙の表面粗さに対する色材総量は、反射サンプルの色再現特性、色材吸収特性、光沢特性、プリンタ出力特性、及び色材離形特性のうちの少なくとも一つ以上の特性に基づいて決定されることを特徴とする請求項3記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記印刷面における規定の表面粗さは、反射サンプルの色再現特性、色材吸収特性、光沢特性、プリンタ出力特性、及び色材離形特性のうちの少なくとも一つ以上の特性に基づいて決定されることを特徴とする請求項3記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記色材総量設定手段は、さらに入力画像データの色分布に応じて前記色材総量を設定することを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項7】
画像形成用の記録制御情報を出力する画像処理方法であって、各色成分の記録制御情報を中間調処理後に使用される色材量に変換する色変換工程と、紙の表面粗さに関する情報を取得する取得工程と、前記取得した紙の表面粗さに応じて全色成分の総和からなる色材量の最大値である色材総量を設定する色材総量設定工程と、前記色材総量に基づき各色の色材量を規制する総量規制工程とを備え、前記色材総量設定工程は、前記取得した紙の表面粗さが所定の閾値以上であるとき、前記紙の表面粗さが大きいほど色材総量が少なくなるように設定することを特徴とする画像処理方法。
【請求項8】
請求項7記載の画像処理方法をコンピュータに実現させるためのプログラム。
【請求項9】
請求項7記載の画像処理方法をコンピュータに実現させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項10】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の画像処理装置を搭載したことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−2465(P2010−2465A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159050(P2008−159050)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】