説明

画像表示装置

【課題】空間光変調装置から射出された光のシンチレーションを確実に防止し、かつ、高画質化を図ることが可能な画像表示装置を提供すること。
【解決手段】光を射出する光源装置21Rと、該光源装置21Rから射出された光を画像信号に応じて変調する空間光変調装置24Rと、該空間光変調装置24Rにより変調された光を被投射面に投射する投射装置と、光源装置21Rから射出され空間光変調装置24Rに入射する光を偏向させる偏向手段32とを備え、光源装置21Rから射出された光が、空間光変調装置24Rの表示領域の一部を照明するとともに、光が偏向手段32によって偏向されることにより、光によって照明される照明領域が被投射面上を移動可能とされたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プロジェクタが急速に普及してきている。主に、ビジネスプレゼンテーション用途で用いられてきたフロント投射型プロジェクタの他、最近ではリア型プロジェクタが、大型テレビ(PTV;プロジェクションテレビ)の一形態として認知度を高めてきている。プロジェクション方式の最大の利点は、液晶テレビ、PDP等の直視型ディスプレイに比べて低価格で同画面サイズの商品を供給できることである。しかし、直視型においても低価格化が進展しており、プロジェクタ表示装置にもより高い画質性能が求められつつある。
【0003】
プロジェクタは、アークランプ等の光源から射出された光を液晶ライトバルブの光変調素子に照射し、光変調素子により変調された投射光をスクリーンに投射することで画像をスクリーンに表示するものである。このとき、スクリーンには、画像が表示されるだけでなく、スクリーン全面がぎらついて見える。これは、光線の干渉に伴う輝度ムラによるもので、スペックルノイズ、所謂シンチレーションと呼ばれる。
【0004】
ここで、シンチレーションの発生原理について述べる。
図15に示すように、光源101から照射された光が液晶ライトバルブ102を透過して投射レンズ103によりスクリーン104へと投射される。スクリーン104に投射された投射光は、スクリーン104の散乱構造により回折し、それらが二次波源のように振舞うことによって拡散される。二次波源による2つの球面波が、互いの位相関係に応じて光の強めあいや弱めあいを起こすことによって、スクリーン104と鑑賞者との間に明暗の縞模様(干渉縞)となって現れる。この干渉縞が発生する像面105に鑑賞者の焦点が合わせられると、鑑賞者は干渉縞をスクリーンをぎらつかせるシンチレーションとして認識する。
【0005】
シンチレーションは、スクリーン面に結像された画像を見ようとする鑑賞者によって、スクリーン面と鑑賞者との間にあたかもベール、レース布、くもの巣を張ったかのような不快感を与える。また、鑑賞者はスクリーン上の画像とシンチレーションとの2重の像を見ることになり、それぞれに視点を合わせようとするため大きな疲労を招く。したがって、このシンチレーションは、鑑賞に堪えないほど大きなストレスを鑑賞者に与えてしまう。
【0006】
最近では、従来の高圧水銀ランプに替わる新しい光源の開発が進められており、特にレーザ光源は、エネルギー効率、色再現性、長寿命、瞬時点灯等の点で次世代プロジェクタ用光源として期待が高まっている。しかしながら、レーザ光源によるスクリーン上の投射光は、隣接する領域の光線の位相が揃っていることから干渉性が非常に高いものとなる。レーザ光源のコヒーレント長は数十メートルにも及ぶこともあるため、同一の光源を分割して再合成すると、コヒーレント長より短い光路差を経て合成された光が強い干渉を引き起こすことになり、高圧水銀ランプよりもはっきりとしたシンチレーション(干渉縞)が出現してしまう。
よって、特にレーザ光源を用いたプロジェクタの製品化においてシンチレーションの低減は必須技術となっている。
【0007】
このようなシンチレーションの低減対策として以下の技術が開示されている(例えば、特許文献1参照、特許文献2及び特許文献3参照。)。
この特許文献1は、スクリーンの拡散性を最適化したもので、拡散層、透明層(レンチキュラーレンズ)、拡散層の3層構造からなるスクリーンが記載されている。このように、散乱層が複雑化することによって干渉斑のランダム性は大きくなる。そのため、斑のうち細かい成分(空間周波数が小さい干渉縞)が多くなると、何らかの視線移動が起きたときに人間の眼の残像特性により光が積分平均化されるという効果が生じ得る。特に、動画鑑賞の場合は頻繁に視線移動が行われるため、シンチレーションの低減が期待できる。
【0008】
特許文献2は、光、電場、磁場、熱、応力等を光散乱層に付与し、当該光拡散層に含有されている光散乱体の形状、相対的位置関係や屈折率を時間的に変化させるというスクリーンである。このように、光拡散層による散乱波の散乱分布や位相を時間的に変化させることによってシンチレーションの発生防止が期待できる。
【0009】
また、特許文献3に記載の画像投射装置では、コヒーレンス性を有するレーザ光源と、レーザ光源から射出されたレーザビームの偏光方向を時間的に変化させる1/2波長板(偏光制御ユニット)と、偏光制御ユニットから射出されたレーザビームを走査面の2次元方向に走査させるMEMSミラー及びガルバノミラー(走査デバイス)とを備えている。そして、1/2波長板を回転させることにより、各画素で発生するスペックルパターン(スペックル強度)はフレームごとに変化する。したがって、フレームレート60Hzで各フレームが描画される場合、スペックルパターンの時間的変化は、人間の眼の残像時間より速いので、眼の残像効果によって各フレームで発生したスペックルパターンの強度が積分されてスペックルを低減させている。
このように、偏光制御ユニットとして、レーザ光源から射出されたレーザビームをウォブリングさせたり、1/2波長板を回転し偏光を変化させることにより、スクリーンから射出される光のスペックルは低減される。
【特許文献1】特開平11−038512号公報
【特許文献2】特開2001−100316号公報
【特許文献3】特開2005−47422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1では、最終散乱面の散乱状態は固定されているため、散乱面上の各点から発した光線間の干渉がなすスクリーンと鑑賞者の間における空間の位相分布も固定されており、干渉斑も固定した像として視認されてしまう。よって、完全に干渉斑が消えるということにはならず、特に、干渉性の高いレーザ光源を具備するプロジェクタでは殆ど効果を得ることができない。また、このような高散乱化による構成では、画像ボケを併発する虞があることから、高画質化を図るという本来の課題を解決することができなくなる。
【0011】
また、特許文献2では、光散乱体の形状や相対的位置関係、屈折率などを変化させるには多大な駆動エネルギーを要することになる。また、これらの駆動手段を用いた場合、散乱層へのエネルギー伝達効率も低く、振動、音、不要電磁波、排熱となって快適な鑑賞を阻害する虞がある。さらに、散乱層が焦点方向に移動してしまうような構成では、画像の大きさが変化してしまう。これにより、水平方向における画像の輪郭線の位置も変わってしまい、画像ボケが生じる原因となっていた。
【0012】
また、特許文献3に記載の、画像投射装置では、レーザ光源から射出されたレーザビームの偏光を変化させているため、光を走査して投影する走査型の画像表示装置には有効である。しかしながら、この構成では、空間光変調装置(透過型液晶パネル、反射型液晶パネル、DMD等)を用いる画像表示装置に適用することはできない。
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、空間光変調装置から射出された光のシンチレーションを確実に防止し、かつ、高画質化を図ることが可能な画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の画像表示装置は、光を射出する光源装置と、該光源装置から射出された光を画像信号に応じて変調する空間光変調装置と、該空間光変調装置により変調された光を被投射面に投射する投射装置と、前記光源装置から射出され前記空間光変調装置に入射する光を偏向させる偏向手段とを備え、前記光源装置から射出された光が、前記空間光変調装置の表示領域の一部を照明するとともに、前記光が前記偏向手段によって偏向されることにより、前記光によって照明される照明領域が前記被投射面上を移動可能とされたことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る画像表示装置では、光源装置から射出された光は、空間光変調装置の表示領域の一部を照明する。そして、空間光変調装置の一部を照明した光は、偏向手段により、空間光変調装置上を移動する。この光の移動に伴い、光によって照明される被投射面上の照明領域が移動することになる。
このように、被投射面上の照明領域が移動するため、照明領域に応じて、被投射面における散乱中心が異なることになる。これにより、被投射面から射出される光の散乱状態が時間的に様々に変化し、視認されていた干渉縞が動き、干渉縞のパターンがより複雑に変化することになる。その結果、被投射面から射出された光が人間の眼の残像特性によって積分平均化され、干渉縞が視認されなくなる。つまり、人間の眼には、残像により画像がある一定時間保持された状態となるので画像が均一に表示されて見えるという特性がある。これにより、被投射面と鑑賞者との間に生じていた干渉縞が解消されてシンチレーションが低減する。よって、シンチレーションによる不快感(表示ムラやぎらつき感)もなくなり鑑賞者の疲労も軽減される。また、本発明は、従来のように拡散層が焦点方向に動くものではないので、光の散乱に伴う画像ボケが生じることもないため、画像が良好に視認される。以上のことから、高輝度、高解像度、高品位な画像を得ることができるようになる。
また、光源装置から射出された光は、偏向手段により、被投射面上を移動しているため、人間の眼の網膜上の1点に静止することはない。すなわち、本発明の画像表示装置は、快適性と言ったユーザビリティの点で優れている。
【0016】
また、本発明の画像表示装置は、前記偏向手段が、偏光面を回転させる液晶素子と複屈折性を有する光学部材とを備えることが好ましい。
【0017】
本発明に係る画像表示装置では、光源装置から射出された光は、液晶素子に入射する。そして、電圧印加状態に応じて透過光の偏光面が時間的に変化する。偏光面が変化した光を複屈折性を有する光学部材に入射させることで、光学部材から射出される光は入射した光の偏光面に応じて偏向する。これにより、空間光変調装置から射出された光による照明領域が被投射面上を移動するため、被投射面から射出される光のシンチレーションは抑えられたものとなる。
このように、本発明の画像表示装置は、電圧による液晶素子の駆動のみで、光学部材から射出された光を偏向させることができるので、装置全体として簡易な構成にすることができる。
【0018】
また、本発明の画像表示装置は、前記偏向手段が、ホログラム素子であることが好ましい。
【0019】
本発明に係る画像表示装置では、ホログラム素子としては、例えば、ホログラム原板に計算機で計算して人工的に作成した干渉縞が形成された計算機ホログラム(CGH :Computer Generated Hologram)である。計算機ホログラムは、回折格子の分割領域の自由な設定が可能であり、収差の問題が生じないので好適である。
【0020】
また、本発明の画像表示装置は、前記光源装置から射出された光をライン状の光に集光する集光手段を備えることが好ましい。
【0021】
本発明に係る画像表示装置では、光源装置から射出された光は、集光手段によりライン状に集光される。これにより、光源装置から射出された光の走査方向が1次元で良いため、光源装置から射出された光の偏向の制御が容易となる。
【0022】
また、本発明の画像表示装置は、前記光源装置から射出された光を点状の光に集光する集光手段を備えることが好ましい。
【0023】
本発明に係る画像表示装置では、光源装置から射出された光は、集光手段により点状に集光される。この場合、光源装置から射出された光の走査方向は2次元となるが、被投射面上の照明領域が点状となるため、ライン状の光を走査する場合に比べて、高速で走査する必要が生じる。すなわち、光源装置から射出された光の走査方向は2次元となるが、異なるスペックルパターンが高速で移動するため、スペックルパターンが人間の眼の残像特性によって、より積分平均化される。したがって、シンチレーションをより抑えることが可能となる。
【0024】
また、本発明の画像表示装置は、前記空間光変調装置に入射する光が一つの光線であることが好ましい。
【0025】
本発明に係る画像表示装置では、空間光変調装置に入射する光が一つの光線、すなわち、シングルビームであるため、簡易な構成となり、装置の全体の組み立てが簡便となる。また、空間光変調装置の一部を照射する際の光の位置等の制御が容易となる。
【0026】
また、本発明の画像表示装置は、前記空間光変調装置に入射する光が複数の光線であることが好ましい。
【0027】
本発明に係る画像表示装置では、空間光変調装置に入射する光が複数の光線、すなわち、マルチビームである場合、空間光変調装置に入射する光がシングルビームである場合の光強度に比べて、各々の光の強度は弱くてなる。これにより、空間光変調装置に高出力の光を照射した場合に生じる損傷を防止することができるため、空間光変調装置を信頼性の高い状態にすることができる。さらには、空間光変調装置に照射される光の強度が弱いため、被投射面から射出される光のちらつきも少なく疲労を招きにくくなる。したがって、シンチレーションによる鑑賞者の疲労がより軽減される。
【0028】
本発明の画像表示装置は、光を射出する光源装置と、複数の画素を有するとともに該光源装置から射出された光を画像信号に応じて変調する空間光変調装置と、該空間光変調装置により変調された光を被投射面に投射する投射装置と、前記空間光変調装置から射出する光を偏向させる偏向手段とを備え、前記空間光変調装置の各画素の開口領域の寸法が前記画素のピッチより小さく、前記空間光変調装置から射出する光が前記偏向手段によって偏向されることにより、前記空間光変調装置の各画素から射出された光による前記被投射面上の照明領域が、前記空間光変調装置の画素のピッチより小さい範囲内で被投射面上を移動可能とされたことを特徴とする。
【0029】
本発明に係る画像表示装置では、光源装置から射出された光は、空間光変調装置の各画素を照明する。そして、空間光変調装置から射出された光は、偏向手段により、被投射面上を移動する。このとき、空間光変調装置の各画素から射出された光による照明領域が、空間光変調装置の画素のピッチより小さい範囲内で被投射面上を移動する。このように、被投射面上の照明領域が移動するため、照明領域に応じて、被投射面における散乱中心が異なることになる。これにより、被投射面から射出される光の散乱状態が様々に変化し、視認されていた干渉縞が動き、干渉縞のパターンがより複雑に変化することになる。その結果、被投射面から射出される光が人間の眼の残像特性によって積分平均化され、干渉縞が視認されなくなる。つまり、人間の眼には、残像により画像がある一定時間保持された状態となるので画像が均一に表示されて見えるという特性がある。これにより、被投射面と鑑賞者との間に生じていた干渉縞が解消されてシンチレーションが低減する。よって、シンチレーションによる不快感(表示ムラやぎらつき感)もなくなり鑑賞者の疲労も軽減される。また、本発明は、従来のように拡散層が焦点方向に動くものではないので、光の散乱に伴う画像ボケが生じることもないため、画像が良好に視認される。以上のことから、高輝度、高解像度、高品位な画像を得ることができるようになる。
【0030】
また、照射領域が空間光変調装置の画素のピッチより小さい範囲内で被投射面上を移動するため、隣接する空間光変調装置の画素に影響を及ぼすことがない。また、空間光変調装置の画素の開口領域の寸法が画素のピッチより小さくするほど、空間光変調装置の各画素から射出された光による照明領域の移動量を大きくすることができるので、よりシンチレーションを抑えることが可能となる。
さらに、光源装置から射出された光は、偏向手段により、被投射面上を移動しているため、人間の眼の網膜上の1点に静止することはない。すなわち、快適性と言ったユーザビリティの点で優れている。
【0031】
また、本発明の画像表示装置は、前記偏向手段が、偏光面を回転させる液晶素子と複屈折性を有する光学部材とを備えることが好ましい。
【0032】
本発明に係る画像表示装置では、光源装置から射出された光は、空間光変調装置により画像信号に応じて変調され、変調された光は液晶素子に入射する。そして、電圧印加状態に応じて透過光の偏光面が時間的に変化する。偏光面が変化した光を複屈折性を有する光学部材に入射させることで、光学部材から射出される光は入射した光の偏光面に応じて偏向する。このように、液晶素子における印加電圧のONからOFF、OFFからONに切り替えることにより、空間光変調装置から射出された光が偏向する。これにより、空間光変調装置の各画素から射出された光による照明領域が被投射面上を移動するため、被投射面から射出される光のシンチレーションは抑えられたものとなる。
このように、本発明の画像表示装置は、電圧による液晶素子の駆動のみで、空間光変調装置から射出された光を偏向させることができるので、装置全体として簡易な構成にすることができる。
【0033】
また、本発明の画像表示装置は、前記偏向手段が、前記空間光変調装置を移動させる圧電素子であることが好ましい。
【0034】
本発明に係る画像表示装置では、圧電素子により空間光変調装置を移動(振動)させることで、空間光変調装置の各画素から射出された光による照明領域が被投射面上を移動する。すなわち、偏向手段が圧電素子であるため、音及び振動の発生を抑制することができる。したがって、圧電素子の駆動に伴う騒音の発生を防止し、静粛性の高い画像表示装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、図面を参照して、本発明に係る画像表示装置の実施形態について説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0036】
[第1実施形態]
図1(a)は本実施形態に係るリアプロジェクタ(画像表示装置)1の概略構成を示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)に示すリアプロジェクタ1の側面断面図である。本実施形態に係るリアプロジェクタ1は、光源装置から射出された光を光変調手段により変調し、この変調した光をスクリーン10に拡大投射するものである。
【0037】
図1(a)に示すように、リアプロジェクタ1は、筐体2と、筐体2の前面に取り付けられ、画像が投影されるスクリーン10とを備えている。スクリーン10の下方の筐体2にはフロントパネル3が設けられ、フロントパネル3の左右側にはスピーカからの音声を出力する開口部4が設けられている。
【0038】
次に、リアプロジェクタ1の筐体2の内部構造について説明する。
図1(b)に示すように、リアプロジェクタ1の筐体2内部の下方には投射光学系20が配設されている。投射光学系20とスクリーン10との間には反射ミラー5,6が設けられており、投射光学系20から出射された光が反射ミラー5,6によって反射され、スクリーン10に拡大投影されるようになっている。
【0039】
次に、リアプロジェクタ1の投射光学系20の概略構成について説明する。
図2は、リアプロジェクタ1の投射光学系20の構成を示す概略図である。なお、図2中においては、簡略化のためリアプロジェクタ1を構成する筐体2は省略している。
【0040】
投射光学系20は、図2に示すように、赤色光を射出する赤色レーザ光源(光源装置)21Rと、緑色光を射出する緑色レーザ光源(光源装置)21Gと、青色光を射出する青色レーザ光源(レーザ光源)21Bと、複数の画素24aを有しこれらレーザ光源21R,21G,21Bから射出されたレーザ光を画像信号に応じてそれぞれ変調する液晶ライトバルブ(空間光変調装置)24R,24G,24Bと、液晶ライトバルブ24R,24G,24Bにより変調されたレーザ光を合成するクロスダイクロイックプリズム(色光合成手段)26と、クロスダイクロイックプリズム26により合成されたレーザ光を拡大して投射する投射レンズ(投射装置)27とを備えている。
【0041】
投射光学系20は、レーザ光源21R,21G,21Bから射出されたレーザ光の照度分布を均一化させるための均一照明系として、各レーザ光源21R,21G,21Bの後方に配置され、レーザ光を液晶ライトバルブ24R,24G,24Bに射出する照明光学系22R,22G,22Bを備えている。
【0042】
また、各液晶ライトバルブ24R,24G,24Bの入射側および出射側には、偏光板(図示せず)が配置されている。そして、各レーザ光源21R,21G,21Bからの光束のうち所定方向の直線偏光のみが入射側偏光板を透過して、各液晶ライトバルブ24R,24G,24Bに入射する。また、入射側偏光板の前方に偏光変換手段(図示せず)を設けてもよい。この場合、偏光変換手段により、入射側偏光板を透過する光に変換することで、光の利用効率を向上させることができる。
【0043】
各液晶ライトバルブ24R,24G,24Bによって変調された3つの色光は、クロスダイクロイックプリズム26に入射する。このプリズムは4つの直角プリズムを貼り合わせて形成され、その内面に赤色光を反射する誘電体多層膜と青色光を反射する誘電体多層膜とが十字状に配置されている。これらの誘電体多層膜によって3つの色光が合成され、カラー画像を表す光が形成される。そして、合成された光は投写光学系である投射レンズ27によりスクリーン10上に投射され、拡大された画像が表示される。
【0044】
次に、照明光学系の詳細について図3を参照して説明する。なお、照明光学系は、赤色光側、緑色光側、青色光側のいずれの同様の構成であるため、赤色光側を例に挙げて説明する。また、図3は、クロスダイクロイックプリズム26を省略した図となっている。
照明光学系22Rは、図3に示すように、レーザ光源21Rから射出され、平行化手段(図示略)により平行化された光を集光するレンチキュラレンズアレイ(集光手段)31と、レンチキュラレンズアレイ31から射出された光を偏向する偏向素子(偏光手段)32とを備えている。
レンチキュラレンズアレイ31の射出端面31bには、複数の湾曲面が形成されているため、レンチキュラレンズアレイ31の入射端面31aより入射した平行光は、各湾曲面において複数のライン状の光線、すなわち、マルチビームとして集光されるようになっている。
また、レンチキュラレンズアレイ31により集光された光の垂直方向の幅は小さいほど好ましいが、光の回折限界とレンズの設計条件(ε=0.61λ/NA、ε:レンチキュラレンズアレイの集光径の半径、λ:入射する光の波長、NA=n・sin(θ/2))との制約を受けるため限界がある。よって、例えば、レンチキュラレンズアレイ31により集光される光の幅は、液晶ライトバルブ24R上で数μm程度に絞られている状態が好ましい。
【0045】
次に、液晶ライトバルブ上の光について説明する。
まず、図4に示すように、レンチキュラレンズアレイ31から射出されたライン状の光Nは、具体的に、液晶ライトバルブ24Rの表示領域Kの1画素24aの大きさより十分小さい光となっている。つまり、ライン状の光Nは、1画素24aの狭い領域を照明している。ライン状の光Nは、偏向素子32によって偏向されることにより、液晶ライトバルブ24Rの画素24a上を移動する。
ここで、1画素24aの大きさに対するライン状の光Nの照明領域Lの大きさは、スクリーン10から射出される光の干渉縞が十分に大きく変化し、かつ、積分平均化されることが可能な大きさとなっている。すなわち、この条件を満たすようなレンチキュラレンズアレイ31を用いている。
また、図4に示すように、隣接するライン状の光Nの間隔Pは、隣接するライン状の光同士が干渉を起こさない距離となっている。
【0046】
また、ライン状の光Nは、偏向素子32によって偏向されることにより、液晶ライトバルブ24Rを介して、スクリーン10に投射される。図5(a),(b)にスクリーン10の一部を示すと、スクリーン10における照明領域Lが、図5(a)に示すように、スクリーン10の上方から、図5(b)に示すように、下方に向かって移動する。このとき、図5(a)に示すスクリーン10の照明領域L1における散乱中心Cの並びは、図5(b)に示すスクリーン10の照明領域L2における散乱中心Cの並びと異なるものになる。したがって、各領域L1,L2に存在する散乱中心C間からの2次放射によって形成される照明領域L1におけるスペックルパターンと照明領域L2におけるスペックルパターンとが異なるものになる。このように、スクリーン10における照明領域Lが移動することによって、スクリーン10から射出された光が人間の眼の残像特性によって積分平均化され、干渉縞が視認されなくなる。つまり、人間の眼には、残像により画像がある一定時間保持された状態となるので画像が均一に表示されて見えるという特性がある。これにより、被投射面と鑑賞者との間に生じていた干渉縞が解消されてシンチレーションが低減する。
【0047】
次に、偏向素子について説明する。
偏向素子32は、入射した光の偏光面を回転させる液晶素子33と、複屈折性を有する位相板(光学部材)34とを備えている。
液晶素子33は、図3に示すように、第1電極33a及び第2電極33bに液晶層33cが挟持された構成となっており、第1,第2電極33a,33bは駆動回路(図示略)に接続されている。この駆動回路は、液晶素子33に印加する電圧を制御し、液晶素子33から射出される光の偏光面を時間的に変化させるものである。具体的には、液晶素子33としては、TN(Twisted Nematic)モードの液晶が封入された液晶素子33を用いる。そして、駆動回路からの出力が20Vのときは、液晶素子31に入射した光の偏光面は射出後も変化しない。すなわち、液晶素子33に入射したときの光の偏光面が保持された状態で、液晶素子33から光が射出され、位相板34に入射する。
【0048】
また、駆動回路からの出力が0Vのときは、液晶素子33に入射した光は、液晶素子33を透過することにより、光の偏光面が液晶素子33に入射する前に対して90度回転する。すなわち、液晶素子33に入射したときの光の偏光面が90度変化した状態で、液晶素子33から光が射出され位相板34に入射する。
このような液晶素子33の特性により、液晶素子33に印加する電圧を0V、20Vと変化させると、液晶素子33から射出される光は、液晶素子33の内部の液晶分子の状態に応じた偏光面を有する光となって位相板34に入射する。
例えば、液晶素子33の印加電圧0Vと20Vとの切り替え周波数は、人間が感知可能なフリッカの周波数よりも高い周波数、例えば、30Hz以上、好ましくは60Hz以上に設定されている。
【0049】
位相板34は、入射した光の偏光面に応じて屈折率が異なる素子である。すなわち、位相板34に入射した光の偏光面は、時間とともに変化しているので、図3に示すように、位相板34に入射した光は、偏光面に応じた角度で位相板34の入射端面34aにおいて屈折することになる。これにより、位相板34から射出される光は、図3に示すように、光A(一点鎖線で示す)の状態から液晶ライトバルブ24R上を移動しながら光B(破線で示す)の状態まで行き来して移動する。
また、位相板34として、具体的には、カルサイト(方解石、成分は炭酸カルシウム)や水晶(石英、成分は二酸化珪素)等の異方性屈折素子を用いることが可能である。
【0050】
また、ライン状の光Nのスクリーン10の上面から下面に向かって移動する速度は、眼の残像時間によりもスクリーン10から射出される光の干渉縞が十分に速く変化し、かつ、積分平均化されることが可能な速さとなっている。すなわち、液晶材料を変えたり、液晶素子33の駆動電圧の切り替え周波数を変えたり、あるいは位相板34の材質等により、この速度の条件を満たすことが可能となっている。
【0051】
本実施形態に係るリアプロジェクタ1では、1画素24aより小さいライン状の光Nが、スクリーン10上を移動するため、スクリーン10から射出される光の散乱状態が様々に変化し、視認されていた干渉縞が動き、干渉縞のパターンがより複雑に変化することになる。その結果、スクリーン10と鑑賞者との間に生じていた干渉縞が解消されてシンチレーションが低減する。よって、シンチレーションによる不快感(表示ムラやぎらつき感)もなくなり鑑賞者の疲労も軽減される。また、本発明は、従来のように拡散層が焦点方向に動くものではないので、光の散乱に伴う画像ボケが生じることもないため、画像が良好に視認される。以上のことから、高輝度、高解像度、高品位な画像を得ることができるようになる。
【0052】
また、ライン状の光Nにより液晶ライトバルブ24R,24G,24Bを照明するため、レーザ光源21R,21G,21Bから射出された光の走査方向が1次元で良いため、レーザ光源装置21R,21G,21Bから射出された光の偏向の制御が容易となる。
さらに、液晶ライトバルブ24R,24G,24Bに入射する光がマルチビームであるため、一つの光線、すなちち、シングルビームである場合の光強度に比べて、各々の光の強度は弱くなる。これにより、高出力な光を照射した場合に生じる液晶ライトバルブ24R,24G,24Bの損傷を防止することができるため、液晶ライトバルブ24R,24G,24Bが信頼性の高いものとなる。さらには、マルチビームを射出する光源装置は、シングルビームを射出する光源装置に比べて液晶ライトバルブ24R,24G,24Bに照射される光の強度が弱いため、被投射面から射出される光のちらつきも少なく疲労を招きにくくなる。
以上より、本発明のリアプロジェクタ1は、液晶ライトバルブ24R,24G,24Bを備えた画像表示装置に適用可能であり、シンチレーションを確実に防止し、かつ、高画質化を図ることが可能である。
【0053】
なお、レーザ装置21R,21G,21Bとしては、面ビーム照明可能な光源や、面発光レーザを用いた光源、レーザチップアレイからの射出光をホログラムで重ね合わせて面光源化したもの等であっても良い。
また、偏向素子32としては、液晶素子33及び位相板34に代えて、ホログラム素子や回転プリズム、ミラースキャン等を用いても良い。ホログラム素子としては、例えば、ホログラム原板に計算機で計算して人工的に作成した干渉縞が形成された計算機ホログラム(CGH :Computer Generated Hologram)である。計算機ホログラムは、回折格子の分割領域の自由な設定が可能であり、収差の問題が生じないので好適である。
【0054】
さらに、入射した光をライン状に絞る手段としてレンチキュラレンズアレイ31のような屈折を用いる素子が簡便であるが、ホログラムのような干渉を用いる素子であっても良い。また、レーザ光源21Rから射出された光をレンチキュラレンズアレイ31によりライン状に集光させたが、レーザ光源21Rから射出された光を点状の光に集光する集光手段を用いても良い。レーザ光源21Rから射出される光が点状の場合、レーザ光源21Rから射出された光の走査方向は2次元となるが、スクリーン10上の照明領域が点状となるため、本実施形態のライン状の光を走査する場合に比べて、スクリーン10の照明領域を細かく照明することになる。したがって、異なるスペックルパーンを有する照明領域Lが増えるため、シンチレーションをより抑えることが可能となる。
【0055】
また、液晶ライトバルブ24R,24G,24Bに入射する光はマルチビームであったが、液晶ライトバルブに入射する光が一つの光線、すなわち、シングルビームであっても良い。シングルビームである場合、簡易な構成となり、装置の全体の組み立てが簡便となる。また、液晶ライトバルブ24R,24G,24Bの1画素24aの一部を照射する際の光の位置等の制御が容易となる。
さらに、液晶ライトバルブ24R,24G,24Bに入射する光は、ライン状の光,点状の光と、シングルビーム,マルチビームとを組み合わせた光であれば良い。
【0056】
[第2実施形態]
次に、本発明に係る第2実施形態について、図6から図10を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態において、上述した第1実施形態に係るリアプロジェクタ1と構成を共通とする箇所には同一符号を付けて、説明を省略することにする。
本実施形態は、偏向素子を用いている点で第1実施形態と共通である。すなわち、第1実施形態では、液晶ライトバルブの前段に偏向素子を配置しているが、本実施形態では、液晶ライトバルブ24R、24G,24Bから射出された光を偏向させる点で第1実施形態と異なる。
【0057】
リアプロジェクタ40は、図6に示すように、投射レンズ27とスクリーン10との間に、第1実施形態と同様の構成を有する液晶素子41と位相板42とを備えている。すなわち、液晶素子41に印加する電圧を0V、20Vと変化させると、液晶素子41から射出される光は、液晶素子41の内部の液晶分子の状態に応じた偏光面を有する光となる。また、本実施形態の位相板42は、第1実施形態の位相板34を面内で90度回転させて配置されている。そのため、液晶素子41及び位相板42を介してスクリーン10に投射された光は、スクリーン10の左方10cから右方10dに向かって移動するようになっている。
なお、図6は、クロスダイクロイックプリズム26を省略した図となっている。
【0058】
液晶ライトバルブ24Rの画素24aについて説明する。なお、液晶ライトバルブ24Rは複数の画素24aを有するが、図7では簡略のため2つの画素のみ図示している。
画素24aは、遮光膜45により区画されており、区画された領域のほぼ半分の領域に画素スイッチング用素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下、TFTと略記する)46a,配線等が配置されたTFT形成領域46が形成されている。また、画素24aの残りの半分の領域は、透過領域(開口領域)47となっている。
また、液晶ライトバルブ24Rの画素24aの透過領域47の寸法Sが、画素24aのピッチTより小さくなっている。
【0059】
また、位相板42に入射した光の偏光面は、時間とともに変化しているので、位相板42に入射した光は、図6に示すように、偏光面に応じた角度で位相板42の入射端面42aにおいて屈折することになる。これにより、位相板42から射出される光は、光P(一点鎖線で示す)の状態からスクリーン10上を移動しながら光Q(破線で示す)の状態まで行き来して移動する。また、図6に示す位相板42から射出される光の移動は、液晶ライトバルブ24Rのある1画素における偏向を示したものである。
【0060】
次に、1画素から射出された光により照射されるスクリーン10の投射領域Mについて説明する。
位相板42から射出され、スクリーン10に投影される光による照明領域M1は、図8に示すように、照明領域M2,M3,M4,M5の順に、スクリーン10の投射領域Mのスクリーン10の左方から右方へ移動する。このとき、スクリーン10の照明領域M1〜照明領域M5における散乱中心の並びは、領域ごとに異なるものになる。図8の照明領域M1〜照明領域M5に描いた模様はスペックルパターンを模式的に表したものであり、図8から、スペックルパターンは、各照明領域M1〜照明領域M5ごとに異なることが分る。
【0061】
本実施形態に係るリアプロジェクタ40では、液晶ライトバルブ24R,24G,24Bから射出された光による照明領域M1〜照明領域M5が、スクリーン10上を移動するため照明領域M1〜照明領域M5に応じて、スクリーン10における散乱中心が異なることになる。これにより、スクリーン10から射出される光の散乱状態が様々に変化して視認されていた干渉縞が動き、干渉縞のパターンがより複雑に変化することになる。その結果、第1実施形態と同様に、シンチレーションによる不快感を抑え、画像が良好に視認されるという効果を得ることができる。
【0062】
また、液晶ライトバルブ24R,24G,24Bの高精細化の流れの中、回折損失のため、液晶ライトバルブ24R,24G,24Bの画素のピッチTは6μm程度が限界と言われている。また、高精細化で1つの画素に占めるTFTの占有率が相対的に大きくなり、本実施形態のように、透過領域47の開口率は50%程度まで落ち込んでいる。しかしながら、本発明は、液晶ライトバルブ24R,24G,24Bの画素24aの透過領域47の寸法Sが、画素24aのピッチTより小さくなるほど、液晶ライトバルブ24R,24G,24Bの各画素24aから射出された光による照明領域M1から照明領域M5までの移動量を大きくすることができるので、よりシンチレーションを抑えることが可能となる。
【0063】
[第2実施形態の変形例1]
なお、液晶ライトバルブ24RのTFT51が、図9に示すように、右下の角部に形成されている場合、照明領域M10が対角線方向に移動するように、液晶ライトバルブ24Rから射出された光を偏向させれば良い。
【0064】
[第2実施形態の変形例2]
また、照明領域を移動させる方向としては、図10(a)に示すように、遮光膜45の分だけ照明領域M11を左右に移動させても良い。このときの1画素の透過領域の形状は、図10(b)に示すようになり、液晶ライトバルブ24Rが動く際、1画素のうちTFT形成領域46が通過しない領域56は、照明領域M11が重なる領域55に比べて明るくなる。
以上の変形例1及び変形例2から、液晶ライトバルブ24RのTFT51が、右下の角部に形成されている場合でも、照明領域M10,M11を移動させることで、スペックルパターンが異なるため、本実施形態と同様に、シンチレーションを抑えることが可能となる。
【0065】
[第3実施形態]
次に、本発明に係る第3実施形態について、図11から図14を参照して説明する。
本実施形態に係るリアプロジェクタは、液晶ライトバルブから射出した光を偏向させる点で第2実施形態と同様であり、偏向手段が圧電素子を備えた可動部65である点で第2実施形態と異なる。
【0066】
図11(a)に示すように、液晶ライトバルブ24Rの外周に可動部65が設けられており、液晶ライトバルブ24Rは、可動部65により移動(振動)可能となっている。
次に、可動部65の構成について説明する。
可動部65は、第1圧電素子66と、第2圧電素子67と、第1スライダー68と、第2スライダー69とを備えている。
第1スライダー68は、図11(b)に示すように、液晶ライトバルブ24Rを囲む額縁状であり、第1スライダー68の水平方向に延びる両内側面68a,68bが、液晶ライトバルブ24Rの水平方向に延びる両外側面24b,24cに接触している。また、液晶ライトバルブ24Rの垂直方向に延びる両外側面24d,24eと、第1スライダー68の垂直方向に延びる両内側面68c,68dとの間にはそれぞれ隙間が設けられている。これら隙間のうち液晶ライトバルブ24Rの端面24eと第1スライダー68の側面68dとの隙間には、液晶ライトバルブ24Rと第1スライダー68とに接触して、第1圧電素子66が設けられている。
【0067】
第2スライダー69は、第1スライダー68を囲む額縁状であり、第2スライダー69の垂直方向に延びる両内側面69a,69bが、第1スライダー68の垂直方向に延びる両外側面68e,68fに接触している。また、第1スライダー68の水平方向に延びる両外側面68g,68hと、第2スライダー69との水平方向に延びる両内側面69c,69dとの間にはそれぞれ隙間が設けられている。これら隙間のうち第1スライダー68の側面68gと第2スライダー69の側面69cとの隙間には、第1スライダー68と第2スライダー69とに接触して、第2圧電素子67が設けられている。
【0068】
液晶ライトバルブ24Rは、横方向のスライド(x方向の移動)及び縦方向のスライド(y方向の移動)が可能となっている。
まず、横方向のスライド構造について説明する。
第1スライダー68の両側面68a,68bには、図12に示すように、V溝71が長手方向に沿って形成されている。また、液晶ライトバルブ24Rの両側面24b,24c側の端部は、V溝71内で摺動可能な傾斜面になっている。これらにより、液晶ライトバルブ24Rは横方向にスライド可能となっている。
また、液晶ライトバルブ24Rの端部には、V溝71に嵌合可能な形状である接触部73が設けられている。この接触部73は、耐摩耗性の高いセラミック等の材料で形成されている。さらに、V溝71の表面には、潤滑グリス、あるいはDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)の膜が成膜されている。これらにより、V溝71内を液晶ライトバルブ24Rが摺動しても、耐摩耗性、低摩擦化された構造であるため、液晶ライトバルブ24Rの端部が磨耗することはない。
【0069】
次に、縦方向のスライド構造について説明する。
第2スライダー69の両側面69a,69bには、図12に示すように、横方向のスライド構造と同様の構造,表面加工が施されたV溝72が長手方向に沿って形成されている。そして、第1スライダー68の両側面68e,68f側の端部は、V溝72内で摺動可能な傾斜面になっている。また、第1スライダー68の端部には、上記接触部73と同様の材料からなる接触部74が設けられている。
このような構成で、液晶ライトバルブ24Rは第1スライダー68に支持され、第1スライダー68は第2スライダー69に支持されている。
【0070】
第1,第2圧電素子66,67としては、ピエゾアクチュエータを用いる。ピエゾアクチュエータは位置決め精度が高いので、最も好適である。また、ピエゾアクチュエータでは変位量がnmオーダーとなってしまう。そこで、第1,第2圧電素子66,67は、図13に示すように、薄板状のピエゾ膜75と電極76とを交互に積層した構成にする。このように、ピエゾ膜75を積層することにより、変位量を大きくすることが可能となる。また、第1,第2圧電素子66,67は、電極76に電圧が印加されることにより伸縮する。
【0071】
すなわち、液晶ライトバルブ24Rは、第1,第2圧電素子66,67の伸縮により、図11(a)に示す垂直方向(x軸方向)及び水平方向(y軸方向)に移動(振動)可能となっており、焦点方向(z軸方向)には動かない構造となっている。実際に液晶ライトバルブ24Rが動く変位量は、1画素のピッチ(本実施形態では約10μm)以下となっている。
【0072】
本実施形態に係るリアプロジェクタ60では、第1,第2圧電素子66,67により液晶ライトバルブ24Rを移動させることで、液晶ライトバルブ24Rの各画素24aから射出された光による照明領域がスクリーン10上を移動する。すなわち、偏向手段がピエゾアクチュエータであるため、音及び振動の発生を抑制することができる。したがって、圧電素子の駆動に伴う騒音の発生を防止し、静粛性の高いリアプロジェクタ60を提供することが可能となる。
また、本実施形態では、圧電素子を2つ用いて、液晶ライトバルブ24Rを2軸方向で移動させているため、1軸方向で移動させる場合に比べて、スクリーンから射出される光のスペックルパターンがより異なることになる。したがって、多種のスペックルパターンが、人間の眼の残像特性によって積分平均化されるため、より干渉縞が視認されなくなる。
【0073】
なお、液晶ライトバルブ24Rと第1スライダーとの嵌合、第1スライダーと第2スライダーとの嵌合は、リニアベアリングによる構成であっても良い。
また、本実施形態では、偏向手段として、第1圧電素子66,第2圧電素子67を用いたが、弾性材で支持しただけの構造であっても良い。
また、第1,第2圧電素子66,67として積層ピエゾ素子を用いたが、変位量が小さくても良い場合は、単層のピエゾアクチュエータであっても良い。
【0074】
また、偏向手段として、第1,第2圧電素子66,67を用いたが、図14に示すように、電磁式のアクチュエータを用いても良い。電磁式のアクチュエータとは、磁石81とコイル82とを組み合わせて構成されるソレノイド、ボイスコイルモータ(VCM)、リニアモータである。
具体的な電磁式のアクチュエータの構成は、固定部83に形成されたコイル82と、電磁力によって振動する磁石81とからなっている。また、磁石81の一端面81aには、液晶ライトバルブ24R、あるいは第1スライダー68が固定され、固定部83の一端面83aには、第1スライダー68、あるいは第2スライダー69が固定されている。この構成では、コイル82に電流を加えることにより、磁石81が直進運動し、本実施形態と同様に液晶ライトバルブ24R及び第1スライダー68を移動させることができる。
【0075】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記各実施形態において、背面投射型のプロジェクタ(リアプロジェクタ)を例に挙げて説明したが、フロント投射型のプロジェクタ(画像表示装置)であっても良い。
また、空間光変調装置として、透過型の液晶ライトバルブを用いた例を示したが、反射型の液晶ライトバルブ、及び、微小ミラーアレイデバイスを空間光変調装置として用いることもできる。その際には、投射光学系の構成は適宜変更される。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の第1実施形態に係る画像表示装置の概略構成図である。
【図2】図1の投射光学系の概略構成図である。
【図3】図2の投射光学系の赤色光側を示す概略構成図である。
【図4】図1のスクリーンに投射される光の照射領域を示す平面図である。
【図5】図1のスクリーンに投射される光の照射領域の移動を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る画像表示装置の投射光学系の赤色側を示す概略構成図である。
【図7】図6の画像表示装置の空間光変調装置の一部を示す図である。
【図8】図6のスクリーンに投射される光の照射領域の移動を示す図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る画像表示装置の変形例を示す図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る画像表示装置の変形例を示す図である。
【図11】本発明の第3実施形態に係る画像表示装置の偏向手段を斜視図である。
【図12】図11の偏向手段の摺動構造を示す断面図である。
【図13】図11の偏向手段の圧電素子を示す断面図である。
【図14】本発明の第3実施形態に係る画像表示装置の変形例を示す図である。
【図15】シンチレーションの原理を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
1,40…リアプロジェクタ(画像表示装置)、21R…赤色レーザ光源(光源装置)、21G…緑色レーザ光源(光源装置)、21B…青色レーザ光源(光源装置)、24R,24G,24B…液晶ライトバルブ(空間光変調装置)、24a…画素、31…レンチキュラレンズアレイ(集光手段)、32,65…偏向素子(偏光手段)、33,41…液晶素子、34,42…位相板(光学部材)、47…透過領域(開口領域)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を射出する光源装置と、
該光源装置から射出された光を画像信号に応じて変調する空間光変調装置と、
該空間光変調装置により変調された光を被投射面に投射する投射装置と、
前記光源装置から射出され前記空間光変調装置に入射する光を偏向させる偏向手段とを備え、
前記光源装置から射出された光が、前記空間光変調装置の表示領域の一部を照明するとともに、前記光が前記偏向手段によって偏向されることにより、前記光によって照明される照明領域が前記被投射面上を移動可能とされたことを特徴とする画像表示装置。
【請求項2】
前記偏向手段が、偏光面を回転させる液晶素子と複屈折性を有する光学部材とを備えることを特徴とする請求項1に記載の画像表示装置。
【請求項3】
前記偏向手段が、ホログラム素子であることを特徴とする請求項1に記載の画像表示装置。
【請求項4】
前記光源装置から射出された光をライン状の光に集光する集光手段を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項5】
前記光源装置から射出された光を点状の光に集光する集光手段を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項6】
前記空間光変調装置に入射する光が一つの光線であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項7】
前記空間光変調装置に入射する光が複数の光線であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項8】
光を射出する光源装置と、
複数の画素を有するとともに該光源装置から射出された光を画像信号に応じて変調する空間光変調装置と、
該空間光変調装置により変調された光を被投射面に投射する投射装置と、
前記空間光変調装置から射出する光を偏向させる偏向手段とを備え、
前記空間光変調装置の各画素の開口領域の寸法が前記画素のピッチより小さく、
前記空間光変調装置から射出する光が前記偏向手段によって偏向されることにより、前記空間光変調装置の各画素から射出された光による前記被投射面上の照明領域が、前記空間光変調装置の画素のピッチより小さい範囲内で被投射面上を移動可能とされたことを特徴とする画像表示装置。
【請求項9】
前記偏向手段が、偏光面を回転させる液晶素子と複屈折性を有する光学部材とを備えることを特徴とする請求項8に記載の画像表示装置。
【請求項10】
前記偏向手段が、前記空間光変調装置を移動させる圧電素子であることを特徴とする請求項8に記載の画像表示装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−26616(P2008−26616A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199262(P2006−199262)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】