説明

癌の予防・治療剤

本発明は、神経成長因子2/ニューロトロフィン-3を中和し、神経成長因子と交差反応しない、神経成長因子2/ニューロトロフィン-3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体を含有してなる、腎臓癌または膀胱癌の予防または治療剤、並びにこれらの癌の診断剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経成長因子2/ニューロトロフィン-3に対する中和抗体の新規用途、詳細には特定の癌(膀胱癌、腎臓癌など)の予防・治療、並びに診断への使用に関する。
【0002】
(発明の背景)
神経成長因子2(NGF2;ニューロトロフィン-3(NT-3)ともいう。以下、NGF2/NT-3と略記する。)は、神経栄養因子(ニューロトロフィン)ファミリーに属し、神経成長因子(NGF;NGF1ともいう)と脳由来神経栄養因子(BDNF)の両方に密接に関連する。NGF2/NT-3蛋白質は、哺乳類の神経細胞の生存、増殖および分化を促進し、また、種々の蛋白質・酵素等を誘導することから、神経損傷や他の神経障害の治療に利用し得ることが記載されている(特許文献1〜3)。一方で、過剰なNGF2/NT-3の作用は、感覚性ニューロンの異常再生や慢性疼痛、あるいは認知症などの神経障害を誘発する可能性が示唆されており、これらの疾患の治療に抗NGF2/NT-3中和抗体を使用しうることが記載されている(特許文献4〜6)。
【0003】
NGF2/NT-3の発現がいくつかの特定の癌で上昇しており、抗NGF2/NT-3中和抗体がこれらの癌の増殖を抑制し得ることが報告されている。例えば、Sheila J. Miknyoczkiらは、組換えNGF2/NT-3に対するウサギポリクローナル中和抗体がXenograft実験で前立腺癌細胞の増殖を抑制したと記載している(特許文献7、非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、NGF2/NT-3の腎臓癌および膀胱癌との関連や、これらの癌の治療および診断における抗NGF2/NT-3中和抗体の使用については、これまで全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US 5,656,435
【特許文献2】US 5,712,100
【特許文献3】EP 0418590
【特許文献4】US 5,180,820
【特許文献5】US 6,933,276
【特許文献6】特開平6−189787号公報
【特許文献7】US 6,548,062
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Clinical Cancer Research 8: 1924-1931, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、腎臓癌および膀胱癌の新規予防・治療剤、および診断剤を提供することである。本発明の別の目的は、抗NGF2/NT-3中和抗体の新規な医薬用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特開平6-189787号公報に記載の抗ヒトNGF2/NT-3中和抗体(3W3抗体)が、腎臓癌および膀胱癌の細胞の増殖を抑制することを見出した。
【0009】
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]神経成長因子2/ニューロトロフィン-3(NGF2/NT-3とも略記する)を中和し、NGFと交差反応しない、NGF2/NT-3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体を含有してなる、腎臓癌の予防・治療剤。
[2]NGF2/NT-3を中和し、NGFと交差反応しない、NGF2/NT-3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体を含有してなる、膀胱癌の予防・治療剤。
[3]抗体がハイブリドーマ3W3細胞株(FERM BP-3932)から産生されうるモノクローナル抗体である、[1]または[2]記載の剤。
[4]NGF2/NT-3がヒトNGF2/NT-3である、[1]または[2]記載の剤。
[5]抗体がヒト化抗体もしくはヒト抗体である、[1]または[2]記載の剤。
[6]抗体がヒト−非ヒトキメラ抗体である、[1]または[2]記載の剤。
[7]NGF2/NT-3を中和し、NGFと交差反応しない、NGF2/NT-3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体を含有してなる、腎臓癌の診断剤。
[8]NGF2/NT-3を中和し、NGFと交差反応しない、NGF2/NT-3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体を含有してなる、膀胱癌の診断剤。
[9]哺乳動物に対して、NGF2/NT-3を中和し、NGFと交差反応しない、NGF2/NT-3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体の有効量を投与することを含む、腎臓癌の予防または治療方法。
[10]哺乳動物に対して、NGF2/NT-3を中和し、NGFと交差反応しない、NGF2/NT-3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体の有効量を投与することを含む、膀胱癌の予防または治療方法。
[11]NGF2/NT-3を中和し、NGFと交差反応しない、NGF2/NT-3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体を用いることを含む、腎臓癌の診断方法。
[12]NGF2/NT-3を中和し、NGFと交差反応しない、NGF2/NT-3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体を用いることを含む、膀胱癌の診断方法。
[13]腎臓癌の予防または治療剤を製造するための、NGF2/NT-3を中和し、NGFと交差反応しない、NGF2/NT-3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体の使用。
[14]膀胱癌の予防または治療剤を製造するための、NGF2/NT-3を中和し、NGFと交差反応しない、NGF2/NT-3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体の使用。
[15]腎臓癌の診断剤を製造するための、NGF2/NT-3を中和し、NGFと交差反応しない、NGF2/NT-3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体の使用。
[16]膀胱癌の診断剤を製造するための、NGF2/NT-3を中和し、NGFと交差反応しない、NGF2/NT-3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体の使用。
【発明の効果】
【0011】
抗NGF2/NT-3中和抗体は、腎臓癌および膀胱癌の細胞の増殖を抑制することができるので、該抗体を含有する医薬は、これらの癌の予防および/または治療剤として有用である。また、抗NGF2/NT-3抗体は、腎臓癌および膀胱癌の診断や、NGF2/NT-3の発現を抑制することによりこれらの癌に対して予防および/または治療効果を発揮する薬剤のスクリーニングなどにも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、3W3抗体のNGF2/NT-3中和活性を示す。
【図2】図2は、3W3抗体の重鎖のアミノ酸配列および予測されるCDRを示す。
【図3】図3は、3W3抗体の軽鎖のアミノ酸配列および予測されるCDRを示す。
【図4A】図4(すなわち、4Aおよび4B)は、膀胱癌細胞に対する3W3抗体の抗腫瘍活性を示す。図4Aは、control抗体(-◆-)または3W3抗体(-■-)を投与後の腫瘍サイズの変化を、図4Bは各抗体投与後の体重の変化を示す。
【図4B】図4(すなわち、4Aおよび4B)は、膀胱癌細胞に対する3W3抗体の抗腫瘍活性を示す。図4Aは、control抗体(-◆-)または3W3抗体(-■-)を投与後の腫瘍サイズの変化を、図4Bは各抗体投与後の体重の変化を示す。
【図5A】図5(すなわち、5Aおよび5B)は、腎臓癌細胞に対する3W3抗体の抗腫瘍活性を示す。図5Aは、control抗体(-◆-)または3W3抗体(-■-)を投与後の腫瘍サイズの変化を、図5Bは各抗体投与後の体重の変化を示す。
【図5B】図5(すなわち、5Aおよび5B)は、腎臓癌細胞に対する3W3抗体の抗腫瘍活性を示す。図5Aは、control抗体(-◆-)または3W3抗体(-■-)を投与後の腫瘍サイズの変化を、図5Bは各抗体投与後の体重の変化を示す。
【図6A】図6は、小細胞肺癌細胞に対する3W3抗体の抗腫瘍活性を示す。図6Aは、control抗体または3W3抗体(1mg又は10mg)を投与後の腫瘍サイズの変化を、図6Bは各抗体投与後の体重の変化を示す。
【図6B】図6は、小細胞肺癌細胞に対する3W3抗体の抗腫瘍活性を示す。図6Aは、control抗体または3W3抗体(1mg又は10mg)を投与後の腫瘍サイズの変化を、図6Bは各抗体投与後の体重の変化を示す。
【0013】
(発明の詳細な説明)
抗NGF2/NT-3抗体
本発明で用いられる抗体は、NGF2/NT-3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体であって、NGF2/NT-3を中和し、神経成長因子(すなわち、NGF1)等の他の神経栄養因子と交差反応性を有しない(NGF2/NT-3を特異的に認識する)抗体である(以下、本発明の抗体ともいう)。
【0014】
本発明の抗体により認識されるNGF2/NT-3は、配列番号:2で表されるアミノ酸配列中アミノ酸番号123〜241で示されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を含む蛋白質である。ここで、配列番号:2で表されるアミノ酸配列は、ヒトNGF2/NT-3アイソフォーム1(Refseq番号: NP_001096124.1)の初期翻訳産物(プレプロ蛋白質)のアミノ酸配列を示し、そのうちアミノ酸番号123〜241で示されるアミノ酸配列は、成熟ヒトNGF2/NT-3のアミノ酸配列を示す。以下、特に断らない場合は、該成熟ヒトNGF2/NT-3のアミノ酸配列を単に「配列番号:2で表されるアミノ酸配列」と略記する。「配列番号:2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列」としては、ヒトNGF2/NT-3のその他のアイソフォーム[但し、現在知られているヒトNGF2/NT-3アイソフォーム2(Refseq番号: NP_002518.1)はアイソフォーム1のシグナルペプチドのN末側13アミノ酸残基を欠く以外はアイソフォーム1と全く同一であるので、成熟蛋白質としては区別できない]や、アレル変異体(例えば、アレル頻度1%未満)、遺伝子多型(例えば、マイナーアレル頻度1%以上)等のように、天然に見出される、配列番号:2で表されるアミノ酸配列とは完全に一致しないが同一の機能を有する蛋白質のアミノ酸配列を意味する。
【0015】
上記変異もしくは多型蛋白質は、通常、配列番号:2で表される塩基配列と約90%以上、好ましくは約95%以上、より好ましくは約97%以上、特に好ましくは約98%以上、最も好ましくは約99%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含む。ここで「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮されるものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Gly、Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換は蛋白質の表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science, 247:1306-1310 (1990)を参照)。
【0016】
本明細書におけるアミノ酸配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。アミノ酸配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム(version 2.0)に組み込まれている(Altschulら, Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402 (1997))]、Needlemanら, J. Mol. Biol., 48: 444-453 (1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、MyersおよびMiller, CABIOS, 4: 11-17 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version 2.0)に組み込まれている]、Pearsonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられ、それらも同様に好ましく用いられ得る。
【0017】
上記変異もしくは多型蛋白質は、通常、(i)配列番号:2で表されるアミノ酸配列中の1〜10個程度、好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(ii)配列番号:2で表されるアミノ酸配列に1〜10個程度、好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(iii)配列番号:2で表されるアミノ酸配列に1〜10個程度、好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(iv)配列番号:2で表されるアミノ酸配列中の1〜10個程度、好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、または(v)それらを組み合わせたアミノ酸配列を含む。
【0018】
上記のようにアミノ酸配列が挿入、欠失または置換されている場合、その挿入、欠失または置換の位置は、特に限定されない。
【0019】
本発明の抗体は、ヒト以外の温血動物(例、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ハムスター、ラット、マウス、ニワトリなど)にも広く適用可能である。したがって、本発明の抗体が認識するNGF2/NT-3エンティティは、上記ヒト蛋白質だけでなく他の温血動物におけるそれらのオルソログをも包含することは明らかである。この場合、該オルソログとヒト遺伝子との相同性は特に制限されず、高いことが望ましいが、例えば約70%以上、好ましくは約80%、特に好ましくは約90%以上であってよい。他の哺乳動物におけるオルソログは、配列番号:2で表されるアミノ酸配列自体もしくは公共データベースのaccession番号(例えばRefseq No.の場合、NP_001096124.1など)をクエリーにして、ヒト以外の哺乳動物の蛋白質データベースに対してBLASTやFASTAを用いて検索をかけるか、あるいは、例えばJackson研究所から提供されるMouse Genome Informatics(http://www.informatics.jax.org/)でaccession番号や遺伝子記号/遺伝子名をキーワードにして検索をかけ、ヒットしたデータのMammalian Orthologyの情報にアクセスする等によって、その配列情報を取得することができる。現在知られている限り、成熟NGF2/NT-3のアミノ酸配列はすべての哺乳動物(例、ヒト、チンパンジー、ウシ、イヌ、ラット、マウスなど)で完全一致している。
【0020】
本明細書において、蛋白質およびペプチドは、ペプチド標記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)で記載される。
【0021】
配列番号:2で表わされるアミノ酸配列を含むNGF2/NT-3は、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO-)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)の何れであってもよい。ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基、例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基、例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基もしくはα-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル、ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
【0022】
NGF2/NT-3がC末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化またはエステル化されているものも本発明におけるNGF2/NT-3に含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
【0023】
さらに、NGF2/NT-3には、N末端のアミノ酸残基(例、メチオニン残基)のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成するN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖蛋白質などの複合蛋白質なども含まれる。
本発明の抗体が認識するNGF2/NT-3の部分ペプチドは、前記したNGF2/NT-3蛋白質の部分アミノ酸配列を有するペプチドであって、抗原性を有するものである限り、何れのものであってもよく、例えば、配列番号:2で表されるアミノ酸配列中アミノ酸番号123〜241で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列のうち、3個以上、好ましくは6個以上の連続するアミノ酸を1種あるいは2種以上含有するペプチドなどが挙げられる。
【0024】
該部分ペプチドも、NGF2/NT-3蛋白質と同様、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO-)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)の何れであってもよい。ここでエステルにおけるRとしては、NGF2/NT-3について前記したと同様のものが挙げられる。該部分ペプチドがC末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化またはエステル化され得、かかるアミドやエステルもNGF2/NT-3の部分ペプチドに含まれる。この場合のエステルとしては、例えば、C末端のエステルと同様のものなどが用いられ得る。
【0025】
さらに、本発明で用いられる部分ペプチドには、前記したNGF2/NT-3蛋白質と同様に、N末端のアミノ酸残基(例、メチオニン残基)のアミノ基が保護基で保護されているもの、N末端領域が生体内で切断され生成したグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基が適当な保護基で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖ペプチドなどの複合ペプチドなども含まれる。
【0026】
該部分ペプチドは、NGF2/NT-3蛋白質と同様に、本発明の抗体作製のための抗原として用いることができる。
【0027】
NGF2/NT-3またはその部分ペプチドは遊離体であってもよいし、塩であってもよい(本明細書において、特に断らない限り同様である)。そのような塩としては、生理学的に許容される酸(例、無機酸、有機酸)や塩基(例、アルカリ金属、アルカリ土類金属)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。このような塩としては、例えば、無機酸(例、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが用いられる。
【0028】
本発明の抗体は、上記NGF2/NT-3またはその部分ペプチドを認識し得る抗体であれば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の何れであってもよい。抗体のアイソタイプは特に限定されないが、好ましくはIgG、IgMまたはIgA、特に好ましくはIgGが挙げられる。
【0029】
本発明の抗体は、標的抗原を特異的に認識し結合するための相補性決定領域(CDR)を少なくとも有するものであれば特に制限はなく、完全抗体分子の他、例えばFab、Fab'、F(ab’)2等のフラグメント、scFv、scFv-Fc、ミニボディー、ダイアボディー等の遺伝子工学的に作製されたコンジュゲート分子、あるいはポリエチレングリコール(PEG)等の蛋白質安定化作用を有する分子等で修飾されたそれらの誘導体などであってもよい。
【0030】
本発明の抗体は、自体公知の抗体または抗血清の製造法に従って製造することができる。以下に、本発明の抗体の免疫原調製法および該抗体の製造法の典型的な例について説明する。
【0031】
(1)抗原の調製
本発明の抗体を調製するために使用される抗原としては、上記したNGF2/NT-3またはその部分ペプチド、あるいはそれと同一の抗原決定基を1種あるいは2種以上有する(合成)ペプチドなど、何れのものも使用することができる(以下、これらを単に本発明の抗原と称することもある)。
【0032】
NGF2/NT-3またはその部分ペプチドは、例えば、(a)ヒト、サル、ラット、マウス、ニワトリなどの温血動物の組織または細胞から公知の方法あるいはそれに準ずる方法を用いて調製、(b)ペプチド・シンセサイザー等を使用する公知のペプチド合成方法で化学的に合成、(c)NGF2/NT-3またはその部分ペプチドをコードするDNAを含有する形質転換体を培養、あるいは(d)NGF2/NT-3またはその部分ペプチドをコードする核酸を鋳型として無細胞転写/翻訳系を用いて生化学的に合成することによって製造される。
【0033】
(a)温血動物の組織または細胞からNGF2/NT-3を調製する場合
NGF2/NT-3は、ヒトや他の温血動物の細胞[例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくは癌細胞など]もしくはそれらの細胞が存在するあらゆる組織[例えば、脳、脳の各部位(例、嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆のう、骨髄、副腎、皮膚、筋肉(例、平滑筋、骨格筋)、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、脂肪組織(例、白色脂肪組織、褐色脂肪組織)など]等から、自体公知の蛋白質の精製方法によって製造することができる。例えば、温血動物の組織または細胞を培地中で培養し、その上清画分をそのまま(または必要に応じて濃縮して)抗原として用いることもできる。あるいは、該上清から塩析、透析、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーを組み合わせることにより、得られたNGF2/NT-3を単離・精製することもできる。得られたNGF2/NT-3をそのまま免疫原とすることもできるし、ペプチダーゼ等を用いた限定分解により部分ペプチドを調製してそれを免疫原とすることもできる。
【0034】
上記方法で得られるNGF2/NT-3またはその部分ペプチドが遊離体である場合は、公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆に該蛋白質または該部分ペプチドが塩で得られた場合は、公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
【0035】
(b)化学的に本発明の抗原を調製する場合
該合成ペプチドとしては、例えば上述の(a)の方法を用いて天然材料より精製したNGF2/NT-3と同一の構造を有するもの、具体的には、該タンパク質のアミノ酸配列において3個以上、好ましくは6個以上の連続するアミノ酸からなる任意の箇所のアミノ酸配列を1種あるいは2種以上含有するペプチドなどが含まれる。
【0036】
ペプチドの合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれによってもよい。すなわち、NGF2/NT-3またはその部分ペプチドを構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的のペプチドを製造することができる。公知の縮合方法や保護基の脱離としては、例えば、以下の(i)〜(v)に記載された方法が挙げられる。
【0037】
(i)M. BodanszkyおよびM.A. Ondetti、ペプチド・シンセシス (Peptide Synthesis), Interscience Publishers, New York (1966年)
(ii)SchroederおよびLuebke、ザ・ペプチド(The Peptide), Academic Press, New York (1965年)
(iii)泉屋信夫他、ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株) (1975年)
(iv)矢島治明および榊原俊平、生化学実験講座 1、タンパク質の化学IV、205、(1977年)
(v)矢島治明監修、続医薬品の開発、第14巻、ペプチド合成、広川書店
【0038】
このようにして得られたペプチドは、本発明で使用された部分ペプチドを得るために公知の精製法(例えば、溶媒抽出・蒸留・カラムクロマトグラフィー・液体クロマトグラフィー・再結晶)と組み合わせて精製単離することができる。
【0039】
上記方法で得られる部分ペプチドが遊離体である場合は、公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆に部分ペプチドが塩で得られた場合は、公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
【0040】
(c)DNAを含有する形質転換体を用いて本発明の抗原を製造する場合
NGF2/NT-3またはその部分ペプチドをコードするDNAは、公知のクローニング方法〔例えば、Molecular Cloning 2nd ed.(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法など〕に従って作製することができる。該クローニング方法は、(1)NGF2/NT-3をコードする遺伝子配列(例えば、配列番号:1で表される塩基配列)に基づきデザインしたDNAプローブを用い、cDNAライブラリーからハイブリダイゼーション法によりNGF2/NT-3またはその部分ペプチドをコードするDNAを単離する方法や、(2)NGF2/NT-3をコードする遺伝子配列に基づきデザインしたDNAプライマーを用い、cDNAを鋳型としてPCR法によりNGF2/NT-3またはその部分ペプチドをコードするDNAを調製し、該DNAを宿主に適合する発現ベクターに挿入する方法などが挙げられる。該発現ベクターで宿主を形質転換して得られる形質転換体を適当な培地中でインキュベートすることにより、所望の抗原を得ることができる。
【0041】
(d)無細胞転写/翻訳系を利用する場合、上記(c)と同様の方法により調製した抗原またはその断片をコードするDNAを挿入した発現ベクター(例えば、該DNAがT7、SP6プロモーター等の制御下におかれた発現ベクターなど)を鋳型とし、該プロモーターに適合するRNAポリメラーゼおよび基質(NTPs)を含む転写反応液を用いてmRNAを合成した後、該mRNAを鋳型として公知の無細胞翻訳系(例、大腸菌、ウサギ網状赤血球、コムギ胚芽等の抽出液)を用いて翻訳反応を行わせる方法などが挙げられる。塩濃度等を適当に調整することにより、転写反応と翻訳反応を同一反応液中で一括して行うこともできる。
【0042】
免疫原としては完全な成熟NGF2/NT-3やその部分ペプチドを用いることができる。部分ペプチドとしては、例えば3個以上の連続するアミノ酸残基からなるもの、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上、いっそう好ましくは6個以上の連続するアミノ酸残基を含むものが挙げられる。あるいは、該部分ペプチドとしては、例えば20個以下の連続するアミノ酸残基からなるもの、好ましくは18個以下、より好ましくは15個以下、いっそう好ましくは12個以下の連続するアミノ酸残基を含むものが挙げられる。これらのアミノ酸残基の一部(例、1ないし数個)は置換可能な基(例、Cys、水酸基等)によって置換されていてもよい。免疫原として用いられるペプチドは、このような部分アミノ酸配列を1ないし数個含むアミノ酸配列を有する。
【0043】
NGF2/NT-3またはその部分ペプチドを発現する温血動物細胞自体を抗原として直接用いることもできる。温血動物細胞としては、上記(a)項で述べたような天然の細胞、上記(c)項で述べたような方法で形質転換した細胞などを用いることができる。形質転換に用いる宿主としては、ヒト、サル、ラット、マウス、ハムスター、ニワトリなどから採取した細胞であれば何れのものでも良く、HEK293、COS7、CHO-K1、NIH3T3、Balb3T3、FM3A、L929、SP2/0、P3U1、B16、またはP388などが好ましく用いられる。NGF2/NT-3またはその部分ペプチドを発現する天然の温血動物細胞または形質転換した温血動物細胞は、組織培養に用いられる培地(例、RPMI1640)または緩衝液(例、Hanks’ Balanced Salt Solution)に懸濁された状態で免疫動物に注射することができる。免疫方法としては、抗体産生を促すことのできる方法であれば何れの方法でも良く、静脈内注射、腹腔内注射、筋肉内注射または皮下注射などが好ましく用いられる。
【0044】
さらに別の態様においては、NGF2/NT-3またはその部分ペプチドをコードするDNAを挿入した発現ベクターを免疫動物に直接遺伝子導入して、該動物体内でNGF2/NT-3またはその部分ペプチドを産生させる、DNA免疫法を用いることもでき、例えば、NGF2/NT-3の高次構造を認識する抗体を作製する場合等に好ましく用いられ得る。
【0045】
本発明の抗原は、免疫原性を有していれば不溶化したものを直接免疫することもできるが、分子内に1ないし数個の抗原決定基しか有しない低分子量(例えば、分子量約3,000以下)の抗原を用いる場合には、これらの抗原は通常免疫原性の低いハプテン分子なので、適当な担体(キャリアー)に結合または吸着させた複合体として免疫することができる。担体としては天然もしくは合成の高分子を用いることができる。天然高分子としては、例えばウシ、ウサギ、ヒトなどの哺乳動物の血清アルブミンや例えばウシ、ウサギなどの哺乳動物のサイログロブリン、例えばニワトリのオボアルブミン、例えばウシ、ウサギ、ヒト、ヒツジなどの哺乳動物のヘモグロビン、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)などが用いられる。合成高分子としては、例えばポリアミノ酸類、ポリスチレン類、ポリアクリル類、ポリビニル類、ポリプロピレン類などの重合物または共重合物などの各種ラテックスなどが挙げられる。
【0046】
該キャリアーとハプテンとの混合比は、本発明の抗原に対する抗体が効率よく産生されれば、どのようなものでもどのような比率でもよい。抗体の作製にあたり常用されている高分子キャリアーを、重量比でハプテン1に対し0.1〜100で使用することができる。
【0047】
ハプテンとキャリアーのカプリングには、種々の縮合剤を用いることができる。例えば、チロシン、ヒスチジン、トリプトファンを架橋できるビスジアゾ化ベンジジンなどのジアゾニウム化合物、アミノ基同士を架橋できるグルタルアルデビトなどのジアルデヒド化合物、トルエン−2,4-ジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物、チオール基同士を架橋できるN,N’-o-フェニレンジマレイミドなどのジマレイミド化合物、アミノ基とチオール基を架橋できるマレイミド活性エステル化合物、アミノ基とカルボキシル基とを架橋できるカルボジイミド化合物などが好都合に用いられる。アミノ基同士を架橋する際にも、一方のアミノ基にジチオピリジル基を有する活性エステル試薬(例えば、3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸N-スクシンイミジル(SPDP)など)を反応させた後還元することによりチオール基を導入し、他方のアミノ基にマレイミド活性エステル試薬によりマレイミド基を導入後、両者を反応させることもできる。
【0048】
(2)モノクローナル抗体の作製
(a)モノクローナル抗体産生細胞の作製
抗原は、温血動物に対して、例えば腹腔内注入、静脈注入、皮下注射、皮内注射などの方法によって、抗体産生が可能な部位にそれ自体単独で、あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は通常1〜6週毎に1回ずつ、計2〜10回程度行われる。用いられる温血動物としては、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ニワトリが挙げられる。抗Ig抗体産生の問題を回避するためには投与対象と同一種の哺乳動物を用いることが好ましいが、モノクローナル抗体作製には一般にマウスおよびラットが好ましく用いられる。
【0049】
ヒトに対する人為的免疫感作は倫理的に困難であることから、本発明の抗体がヒトを投与対象とする場合には、(i)後述する方法に従って作製されるヒト抗体産生動物(例、マウス)を免疫してヒト抗体を得る、(ii)後述する方法に従ってキメラ抗体、ヒト化抗体もしくは完全ヒト抗体を作製する、あるいは(iii)体外免疫法とウイルスによる細胞不死化、ヒト−ヒト(もしくはヒト−マウス)ハイブリドーマ作製技術、ファージディスプレイ法等とを組み合わせてヒト抗体を得ることが好ましい。体外免疫法は、通常の免疫では抗体産生が抑制される抗原に対する抗体を取得できる可能性があることの他、ng〜μgオーダーの抗原量で抗体を得ることが可能であること、免疫が数日間で終了することなどから、不安定で大量調製の困難な抗原に対する抗体を得る方法として、非ヒト動物由来の抗体を調製する場合にも好ましく用いられ得る。
【0050】
体外免疫法に用いられる動物細胞としては、ヒトおよび上記した温血動物(好ましくはマウス、ラット)の末梢血、脾臓、リンパ節などから単離されるリンパ球、好ましくはBリンパ球等が挙げられる。例えば、マウスやラット細胞の場合、4〜12週齢程度の動物から脾臓を摘出・脾細胞を分離し、適当な培地(例、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、ハムF12培地等)で洗浄した後、抗原を含む胎仔ウシ血清(FCS;5〜20%程度)添加培地に浮遊させて4〜10日間程度CO2インキュベーターなどを用いて培養する。抗原濃度としては、例えば0.05〜5μgが挙げられるがこれに限定されない。同一系統の動物(1〜2週齢程度が好ましい)の胸腺細胞培養上清を常法に従って調製し、培地に添加することが好ましい。
【0051】
ヒト細胞の体外免疫では、胸腺細胞培養上清を得ることは困難なので、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6等数種のサイトカインおよび必要に応じてアジュバント物質(例、ムラミルジペプチド等)を抗原とともに培地に添加して免疫感作を行うことが好ましい。
【0052】
モノクローナル抗体の作製に際しては、抗原を免疫された温血動物(例、マウス、ラット)もしくは動物細胞(例、ヒト、マウス、ラット)から抗体価の上昇が認められた個体もしくは細胞集団をそれぞれ選択し、最終免疫の2〜5日後に脾臓またはリンパ節を採取もしくは体外免疫後4〜10日間培養した後に細胞を回収して抗体産生細胞を単離し、これと骨髄腫細胞とを融合させることにより抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。血清中の抗体価の測定は、例えば標識化抗原と抗血清とを反応させた後、抗体に結合した標識剤の活性を測定することにより行うことができる。
【0053】
骨髄腫細胞は多量の抗体を分泌するハイブリドーマを産生し得るものであれば特に制限はないが、自身は抗体を産生もしくは分泌しないものが好ましく、また、細胞融合効率が高いものがより好ましい。ハイブリドーマの選択を容易にするために、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)感受性の細胞株を用いることが好ましい。例えばマウス骨髄腫細胞としてはNS-1、P3U1、SP2/0、AP-1等が、ラット骨髄腫細胞としてはR210.RCY3、Y3-Ag 1.2.3等が、ヒト骨髄腫細胞としてはSKO-007、GM 1500-6TG-2、LICR-LON-HMy2、UC729-6等が挙げられる。
【0054】
融合操作は既知の方法、例えばケーラーとミルスタインの方法[ネイチャー(Nature)、256巻、495頁(1975年)]に従って実施することができる。融合促進剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウィルスなどが挙げられるが、好ましくはPEGなどが用いられる。PEGの分子量は特に制限はないが、低毒性で且つ粘性が比較的低いPEG1000〜PEG6000が好ましい。PEG濃度としては例えば10〜80%程度、好ましくは30〜50%程度が例示される。PEGの希釈用溶液としては無血清培地(例、RPMI1640)、5〜20%程度の血清を含む完全培地、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス緩衝液等の各種緩衝液を用いることができる。所望によりDMSO(例、10〜20%程度)を添加することもできる。融合液のpHとしては、例えば4〜10程度、好ましくは6〜8程度が挙げられる。
【0055】
抗体産生細胞(脾細胞)数と骨髄細胞数との好ましい比率は、1:1〜20:1程度であり、通常20〜40℃、好ましくは30〜37℃で通常1〜10分間インキュベートすることにより効率よく細胞融合を実施できる。
【0056】
抗体産生細胞株はまた、リンパ球をトランスフォームし得るウイルスに抗体産生細胞を感染させて該細胞を不死化することによっても得ることができる。そのようなウイルスとしては、例えばエプスタイン−バー(EB)ウイルス等が挙げられる。大多数の人は伝染性単核球症の無症状感染としてこのウイルスに感染した経験があるので免疫を有しているが、通常のEBウイルスを用いた場合にはウイルス粒子も産生されるので、適切な精製を行うべきである。ウイルス混入の可能性のないEBシステムとして、Bリンパ球を不死化する能力を保持するがウイルス粒子の複製能力を欠損した組換えEBウイルス(例えば、潜伏感染状態から溶解感染状態への移行のスイッチ遺伝子における欠損など)を用いることもまた好ましい。
【0057】
マーモセット由来のB95-8細胞はEBウイルスを分泌しているので、その培養上清を用いれば容易にBリンパ球をトランスフォームすることができる。この細胞を例えば血清及びペニシリン/ストレプトマイシン(P/S)添加培地(例、RPMI1640)もしくは細胞増殖因子を添加した無血清培地で培養した後、濾過もしくは遠心分離等により培養上清を分離し、これに抗体産生Bリンパ球を適当な濃度(例、約107細胞/mL)で浮遊させて、通常20〜40℃、好ましくは30〜37℃で通常0.5〜2時間程度インキュベートすることにより抗体産生B細胞株を得ることができる。ヒトの抗体産生細胞が混合リンパ球として提供される場合、大部分の人はEBウイルス感染細胞に対して傷害性を示すTリンパ球を有しているので、EBウイルスのトランスフォーメーション頻度を高めるためには、例えばヒツジ赤血球等とEロゼットを形成させることによってTリンパ球を予め除去しておくことが好ましい。また、可溶性抗原を結合したヒツジ赤血球を抗体産生Bリンパ球と混合し、パーコール等の密度勾配を用いてロゼットを分離することにより標的抗原に特異的なリンパ球を選別することができる。さらに、大過剰の抗原を添加することにより抗原特異的なBリンパ球はキャップされて表面にIgGを提示しなくなるので、抗IgG抗体を結合したヒツジ赤血球と混合すると抗原非特異的なBリンパ球のみがロゼットを形成する。従って、この混合物からパーコール等の密度勾配を用いてロゼット非形成細胞層を採取することにより、抗原特異的Bリンパ球を選別することができる。
【0058】
トランスフォーメーションによって無限増殖能を獲得したヒト抗体分泌細胞は、抗体分泌能を安定に持続させるためにマウスもしくはヒトの骨髄腫細胞と戻し融合させることができる。骨髄腫細胞としては上記と同様のものが用いられ得る。
【0059】
ハイブリドーマのスクリーニング、育種は通常HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加して、5〜20% FCSを含む動物細胞用培地(例、RPMI1640)もしくは細胞増殖因子を添加した無血清培地で行われる。ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンの濃度としては、例えばそれぞれ約0.1mM、約0.4μMおよび約0.016mM等が挙げられる。ヒト−マウスハイブリドーマの選択にはウワバイン耐性を用いることができる。ヒト細胞株はマウス細胞株に比べてウワバインに対する感受性が高いので、10-7〜10-3M程度で培地に添加することにより未融合のヒト細胞を排除することができる。
【0060】
ハイブリドーマの選択にはフィーダー細胞やある種の細胞培養上清を用いることが好ましい。フィーダー細胞としては、ハイブリドーマの出現を助けて自身は死滅するように生存期間が限られた異系の細胞種、ハイブリドーマの出現に有用な増殖因子を大量に産生し得る細胞を放射線照射等して増殖力を低減させたもの等が用いられる。例えば、マウスのフィーダー細胞としては、脾細胞、マクロファージ、血液、胸腺細胞等が、ヒトのフィーダー細胞としては、末梢血単核細胞等が挙げられる。細胞培養上清としては、例えば上記の各種細胞の初代培養上清や種々の株化細胞の培養上清が挙げられる。
【0061】
また、ハイブリドーマは、抗原を蛍光標識して融合細胞と反応させた後、蛍光活性化セルソータ(FACS)を用いて抗原と結合する細胞を分離することによっても選択することができる。この場合、標的抗原に対する抗体を産生するハイブリドーマを直接選択することができるので、クローニングの労力を大いに軽減することが可能である。
【0062】
標的抗原に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのクローニングには種々の方法が使用できる。
【0063】
アミノプテリンは多くの細胞機能を阻害するので、できるだけ早く培地から除去することが好ましい。マウスやラットの場合、ほとんどの骨髄腫細胞は10〜14日以内に死滅するので、融合2週間後からはアミノプテリンを除去することができる。但し、ヒトハイブリドーマについては通常融合後4〜6週間程度はアミノプテリン添加培地で維持される。ヒポキサンチン、チミジンはアミノプテリン除去後1週間以上後に除去するのが望ましい。即ち、マウス細胞の場合、例えば融合7〜10日後にヒポキサンチンおよびチミジン(HT)添加完全培地(例、10% FCS添加RPMI1640)の添加または交換を行う。融合後8〜14日程度で目視可能なクローンが出現する。クローンの直径が1mm程度になれば培養上清中の抗体量の測定が可能となる。
【0064】
抗体量の測定は、例えば標的抗原またはその誘導体あるいはその部分ペプチド(抗原決定基として用いた部分アミノ酸配列を含む)を直接あるいは担体とともに吸着させた固相(例、マイクロプレート)にハイブリドーマ培養上清を添加し、次に放射性物質(例、125I、131I、3H、14C)、酵素(例、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素)、蛍光物質(例、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート)、発光物質(例、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン)などで標識した抗免疫グロブリン(IgG)抗体(もとの抗体産生細胞が由来する動物と同一種の動物由来のIgGに対する抗体が用いられる)またはプロテインAを加え、固相に結合した標的抗原(抗原決定基)に対する抗体を検出する方法、抗IgG抗体またはプロテインAを吸着させた固相にハイブリドーマ培養上清を添加し、上記と同様の標識剤で標識した標的抗原またはその誘導体あるいはその部分ペプチドを加え、固相に結合した標的抗原(抗原決定基)に対する抗体を検出する方法などによって行うことができる。
【0065】
クローニング方法としては限界希釈法が通常用いられるが、軟寒天を用いたクローニングやFACSを用いたクローニング(上述)も可能である。限界希釈法によるクローニングは、例えば以下の手順で行うことができるがこれに限定されない。
【0066】
上記のようにして抗体量を測定して陽性ウェルを選択する。適当なフィーダー細胞を選択して96ウェルプレートに添加しておく。抗体陽性ウェルから細胞を吸い出し、完全培地(例、10% FCSおよびP/S添加RMPI1640)中に30細胞/mLの密度となるように浮遊させ、フィーダー細胞を添加した96ウェルプレートにこの懸濁液0.1mL(3細胞/ウェル)加え、残りの細胞懸濁液を10細胞/mLに希釈して別のウェルに同様にまき(1細胞/ウェル)、さらに残りの細胞懸濁液を3細胞/mLに希釈して別のウェルにまく(0.3細胞/ウェル)。目視可能なクローンが出現するまで2〜3週間程度培養し、抗体量を測定・陽性ウェルを選択し、選択された細胞を同様に再度クローニングする。ヒト細胞の場合はクローニングが比較的困難なので、10細胞/ウェルのプレートも調製しておく。通常2回のサブクローニングでモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを得ることができるが、その安定性を確認するためにさらに数ヶ月間定期的に再クローニングを繰り返すことが望ましい。
【0067】
ハイブリドーマはインビトロまたはインビボで培養することができる。
【0068】
インビトロでの培養法としては、上記のようにして得られるモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを、細胞密度を例えば105〜106細胞/mL程度に保ちながら、また、FCS濃度を徐々に減らしながら、ウェルプレートから徐々にスケールアップしていく方法が挙げられる。
【0069】
インビボでの培養法としては、例えば、腹腔内にミネラルオイルを注入して形質細胞腫(MOPC)を誘導したマウス(ハイブリドーマの親株と組織適合性のマウス)に、5〜10日後に106〜107細胞程度のハイブリドーマを腹腔内注射し、2〜5週間後に麻酔下で腹水を採取する方法が挙げられる。
【0070】
(b)モノクローナル抗体の精製
モノクローナル抗体の分離精製は、自体公知の方法、例えば、免疫グロブリンの精製法[例、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例、DEAE、QEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相あるいはプロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法など]に従って行うことができる。
【0071】
以上のようにして、ハイブリドーマを温血動物の生体内又は生体外で培養し、その体液または培養物から抗体を採取することによって、モノクローナル抗体を製造することができる。
【0072】
本発明の抗体を癌予防・治療に利用する場合、該抗体は抗腫瘍活性を持つものでなければならないので、得られたモノクローナル抗体の抗腫瘍活性の程度について調べる必要がある。抗腫瘍活性は、抗体の存在下および非存在下における癌細胞の増殖、アポトーシス誘導などを比較することにより測定することができる。
【0073】
このようにして得られる本発明のモノクローナル抗体の具体例として、特開平6-189787号公報に記載のマウス抗ヒトNGF2/NT-3中和抗体(3W3抗体)が挙げられる。3W3抗体を産生するマウスハイブリドーマ3W3細胞は、平成4(1992)年7月15日付で旧通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所(現独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(IPOD);〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1-1-1 つくばセンター 中央第6)に受託番号FERM BP-3932として寄託されている。
【0074】
3W3抗体は、配列番号:4で表されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜445で示されるアミノ酸配列からなる重鎖と、配列番号:6で表されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜218からなる軽鎖とで構成される。
【0075】
(3)キメラ/ヒト化/ヒト抗体の作製
好ましい一実施態様において、本発明の抗体はヒトを投与対象とする医薬品として使用されることから、本発明の抗体(好ましくはモノクローナル抗体)はヒトに投与した場合に抗原性を示す危険性が低減された抗体、具体的には、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、非ヒト(例、マウス)−ヒトキメラ抗体などであり、特に好ましくは完全ヒト抗体である。ヒト化抗体およびキメラ抗体は、後述する方法に従って遺伝子工学的に作製することができる。完全ヒト抗体は、上記したヒト−ヒト(もしくはヒト−マウス)ハイブリドーマより製造することも可能ではあるが、大量の抗体を安定に且つ低コストで提供するためには、後述するヒト抗体産生動物(例、マウス)またはファージディスプレイ法を用いて製造することが望ましい。
【0076】
(i)キメラ抗体の作製
本明細書において「キメラ抗体」とは、重鎖および軽鎖の可変領域(VHおよびVL)の配列がある温血動物種に由来し、定常領域(CHおよびCL)の配列が他の温血動物種に由来する抗体を意味する。可変領域の配列は、例えばマウス等の容易にハイブリドーマを作製することができる動物種由来であることが好ましく、定常領域の配列は投与対象となる動物種由来であることが好ましい。
【0077】
キメラ抗体の作製法としては、例えば米国特許第6,331,415号に記載される方法あるいはそれを一部改変した方法などが挙げられる。具体的には、まず、上述のようにして得られるモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ(例えば、マウス−マウスハイブリドーマ)から、常法に従ってmRNAもしくは全RNAを調製し、逆転写反応によりcDNAを合成する。該cDNAを鋳型として、適当なプライマー(例えば、センスプライマーとしてVHおよびVLの各N末端配列またはシグナル配列をコードする塩基配列を含むオリゴDNA、アンチセンスプライマーとして各鎖のJ領域をコードする塩基配列とハイブリダイズするオリゴDNA(例えばBio/Technology, 9: 88-89, 1991参照))を用い、常法に従ってPCRでVHおよびVLをコードするDNAを増幅・精製する。例えば、上述の3W3抗体は、配列番号:4で表されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜121で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域(VH)と、配列番号:6で表されるアミノ酸配列中アミノ酸番号1〜111で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域(VL)とを有する。したがって、3W3抗体の重鎖および軽鎖をコードする塩基配列情報(それぞれ配列番号:3および配列番号:5で表される塩基配列)を基にしてプライマーセットを作製し、3W3細胞から調製したcDNAを鋳型としてPCRを行うことにより、配列番号:3で表される塩基配列中塩基番号107〜469で示されるVHをコードする塩基配列を含むDNA断片、並びに配列番号:5で表される塩基配列中塩基番号84〜416で示されるVLをコードする塩基配列を含むDNA断片を増幅することができる。これらのDNA断片は分泌シグナル配列をコードする塩基配列を5’側にさらに含んでいてもよい。また、該DNA断片の両端にはクローニングのための制限酵素認識部位を連結するのが好ましい。
【0078】
同様の方法により、他の温血動物(例、ヒト)のリンパ球等より調製したRNAからRT-PCRによりCHおよびCLをコードするDNAを増幅・精製する。常法を用いてVHとCH、VLとCLをそれぞれ連結し、得られたキメラ重鎖DNAおよびキメラ軽鎖DNAを、それぞれ適当な発現ベクター(例えば、CHO細胞、COS細胞、マウス骨髄腫細胞等で転写活性を有するプロモーター(例、CMVプロモーター、SV40プロモーター等)を含むベクターなど)に挿入する。キメラ重鎖DNAおよびキメラ軽鎖DNAが分泌シグナル配列をコードする塩基配列を含まない場合は、上記宿主細胞で分泌シグナルとして機能しうるペプチドをコードする塩基配列を、プロモーターの下流に含む分泌発現ベクターに、該DNAを挿入することができる。両鎖をコードするDNAは別個のベクターに挿入してもよいし、1個のベクターにタンデムに挿入してもよい。上記発現ベクターとして、ヒトIgγ1の定常領域をコードするDNAを含むAG-γ1およびヒトIgκの定常領域をコードするDNAを含むAG-κ(WO 94/20632を参照)等の、予めヒト抗体由来のCHまたはCLをコードするDNAを含むものを利用すれば、これに非ヒト抗体のVHまたはVLをコードするDNAを挿入するだけで、本発明のヒト−非ヒトキメラ抗体遺伝子を有する発現ベクターを構築し得るので好ましい。
【0079】
得られたキメラ重鎖およびキメラ軽鎖発現ベクターで宿主細胞を形質転換する。宿主細胞としては、動物細胞、例えば上記したマウス骨髄腫細胞の他、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、サル由来のCOS-7細胞、Vero細胞、ラット由来のGHS細胞などが挙げられる。形質転換は動物細胞に適用可能ないかなる方法を用いてもよいが、好ましくはエレクトロポレーション法などが挙げられる。宿主細胞に適した培地中で一定期間培養後、培養上清を回収して上記と同様の方法で精製することにより、キメラモノクローナル抗体を単離することができる。あるいは、宿主細胞としてウシ、ヤギ、ニワトリ等のトランスジェニック技術が確立し、且つ家畜(家禽)として大量繁殖のノウハウが蓄積されている動物の生殖系列細胞を用い、常法によってトランスジェニック動物を作製することにより、得られる動物の乳汁もしくは卵から容易に且つ大量にキメラモノクローナル抗体を得ることもできる。さらに、トウモロコシ、イネ、コムギ、ダイズ、タバコなどのトランスジェニック技術が確立し、且つ主要作物として大量に栽培されている植物細胞を宿主細胞として、プロトプラストへのマイクロインジェクションやエレクトロポレーション、無傷細胞へのパーティクルガン法やTiベクター法などを用いてトランスジェニック植物を作製し、得られる種子や葉などから大量にキメラモノクローナル抗体を得ることも可能である。
【0080】
得られたキメラモノクローナル抗体をパパインで分解すればFabが、ペプシンで分解すればF(ab’)2がそれぞれ得られる。
【0081】
また、マウスVHおよびVLをコードするDNAを適当なリンカー、例えば1〜40アミノ酸、好ましくは3〜30アミノ酸、より好ましくは5〜20アミノ酸からなるペプチド(例、[Ser-(Gly)m]nもしくは[(Gly)m-Ser]n(mは0〜10の整数、nは1〜5の整数)等)をコードするDNAを介して連結することによりscFvとすることができ、さらにCH3をコードするDNAを適当なリンカーを介して連結することによりminibodyとしたり、CH全長をコードするDNAを適当なリンカーを介して連結することによりscFv-Fcとすることもできる。このような遺伝子工学的に修飾(共役)された抗体分子をコードするDNAは、適当なプロモーターの制御下におくことにより大腸菌や酵母などの微生物で発現させることができ、大量に抗体分子を生産することができる。
【0082】
マウスVHおよびVLをコードするDNAを1つのプロモーターの下流にタンデムに挿入して大腸菌に導入すると、モノシストロニックな遺伝子発現によりFvと呼ばれる二量体を形成する。また、分子モデリングを用いてVHおよびVLのFR中の適当なアミノ酸をCysに置換すると、両鎖の分子間ジスルフィド結合によりdsFvと呼ばれる二量体が形成される。
【0083】
(ii)ヒト化抗体
本明細書において「ヒト化抗体」とは、可変領域に存在する相補性決定領域(CDR)以外のすべての領域(即ち、定常領域および可変領域中のフレームワーク領域(FR))の配列がヒト由来であり、CDRの配列のみが他の哺乳動物種由来である抗体を意味する。他の哺乳動物種としては、例えばマウス等の容易にハイブリドーマを作製することができる動物種が好ましい。
【0084】
ヒト化抗体の作製法としては、例えば米国特許第5,225,539号、第5,585,089号、第5,693,761号および第5,693,762号に記載される方法あるいはそれらを一部改変した方法などが挙げられる。具体的には、上記キメラ抗体の場合と同様にして、ヒト以外の哺乳動物種(例、マウス)由来のVHおよびVLをコードするDNAを単離した後、常法により自動DNAシークエンサー(例、Applied Biosystems社製等)を用いてシークエンスを行い、得られる塩基配列もしくはそこから推定されるアミノ酸配列を公知の抗体配列データベース[例えば、Kabat database (Kabatら,「Sequences of Proteins of Immunological Interest」,US Department of Health and Human Services, Public Health Service, NIH編, 第5版, 1991参照) 等]を用いて解析し、両鎖のCDRおよびFRを決定する。例えば、3W3抗体の場合、重鎖のCDRは、配列番号:4で表されるアミノ酸配列中アミノ酸番号26〜35(CDR-H1)、50〜66(CDR-H2)および102〜110(CDR-H3)であり、軽鎖のCDRは、配列番号:6で表されるアミノ酸配列中アミノ酸番号24〜38(CDR-L1)、54〜60(CDR-L2)および93〜100(CDR-H3)であると推定される。決定されたFR配列に類似したFR配列を有するヒト抗体の軽鎖および重鎖をコードする塩基配列[例、ヒトκ型軽鎖サブグループIおよびヒト重鎖サブグループIIもしくはIII(Kabatら,1991(上述)を参照)]のCDRコード領域を、決定された異種CDRをコードする塩基配列で置換した塩基配列を設計し、該塩基配列を20〜40塩基程度のフラグメントに区分し、さらに該塩基配列に相補的な配列を、前記フラグメントと交互にオーバーラップするように20〜40塩基程度のフラグメントに区分する。各フラグメントをDNAシンセサイザーを用いて合成し、常法に従ってこれらをハイブリダイズおよびライゲートさせることにより、ヒト由来のFRと他の哺乳動物種由来のCDRを有するVHおよびVLをコードするDNAを構築することができる。より迅速かつ効率的に他の哺乳動物種由来CDRをヒト由来VHおよびVLに移植するには、PCRによる部位特異的変異誘発を用いることが好ましい。そのような方法としては、例えば特開平5-227970号公報に記載の逐次CDR移植法等が挙げられる。また、ヒト化抗体のVHおよびVLをコードするDNAを全合成してもよい。
【0085】
なお、上記のような方法によるヒト化抗体の作製において、CDRのアミノ酸配列のみを鋳型のヒト抗体FRに移植しただけでは、オリジナルの非ヒト抗体よりも抗原結合活性が低下することがある。このような場合、CDRの周辺のFRアミノ酸のいくつかを併せて移植することが効果的である。移植される非ヒト抗体FRアミノ酸としては、各CDRの立体構造を維持するのに重要なアミノ酸残基が挙げられ、そのようなアミノ酸残基はコンピュータを用いた立体構造予測により推定することができる。
【0086】
このようにして得られるVHおよびVLをコードするDNAを、上記キメラ抗体の場合と同様の方法でヒト由来のCHおよびCLをコードするDNAとそれぞれ連結して適当な宿主細胞に導入したり、あるいはヒト化抗体遺伝子を全合成して適当な宿主細胞に導入することにより、ヒト化抗体を産生する細胞あるいはトランスジェニック動植物を得ることができる。
【0087】
CDRグラフティングを用いずにヒト化抗体を作製する代替的方法として、例えば、抗体間での保存された構造−機能相関に基づいて、非ヒト可変領域内のどのアミノ酸残基が置換し得る候補であるかを決定する方法が挙げられる。この方法は、例えばEP 0571613 B1、US 5,766,886、US 5,770,196、US 5,821,123、US 5,869,619等の記載に従って実施することができる。また、当該方法を用いたヒト化抗体作製は、もととなる非ヒト抗体のVHおよびVLの各アミノ酸配列情報が得られれば、例えば、Xoma社が提供する受託抗体作製サービスを利用することにより容易に行うことができる。
【0088】
ヒト化抗体もキメラ抗体と同様に遺伝子工学的手法を用いてscFv、scFv-Fc、minibody、dsFv、Fvなどに改変することができ、適当なプロモーターを用いることで大腸菌や酵母などの微生物でも生産させることができる。
【0089】
ヒト化抗体作製技術は、例えばハイブリドーマの作製技術が確立していない他の動物種に好ましく投与し得るモノクローナル抗体を作製するのにも応用することができる。例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリなどの家畜(家禽)として広く繁殖されている動物やイヌやネコなどのペット動物などが対象として挙げられる。
【0090】
(iii)ヒト抗体産生動物を用いた完全ヒト抗体の作製
内因性免疫グロブリン(Ig)遺伝子をノックアウト(KO)した非ヒト温血動物に機能的なヒトIg遺伝子を導入し、これを抗原で免疫すれば、該動物由来の抗体の代わりにヒト抗体が産生される。従って、マウス等のようにハイブリドーマ作製技術が確立している動物を用いれば、従来のマウスモノクローナル抗体の作製と同様の方法によって完全ヒトモノクローナル抗体を取得することが可能となる。まず、ヒトIgの重鎖および軽鎖のミニ遺伝子を通常のトランスジェニック(Tg)技術を用いて導入したマウスと、内因性マウスIg遺伝子を通常のKO技術を用いて不活性化したマウスとを交配して得られたヒト抗体産生マウス(Immunol. Today, 17: 391-397, 1996を参照)を用いて作製されたヒトモノクローナル抗体のいくつかは既に臨床段階にあり、現在までのところ抗ヒトIgヒト抗体(HAHA)の産生は報告されていない。
【0091】
その後、Abgenix社[商品名:XenoMouse(Nat. Genet., 15: 146-156, 1997; 米国特許第5,939,598号等を参照)]やMedarex社[商品名:Hu-Mab Mouse(Nat. Biotechnol., 14: 845-851, 1996; 米国特許第5,545,806号等を参照)]が酵母人工染色体(YAC)ベクターを用いてより大きなヒトIg遺伝子を導入したTgマウスを作製し、よりレパートリーに富んだヒト抗体を産生し得るようになった。しかしながら、ヒトIg遺伝子は、例えば重鎖の場合、約80種のV断片、約30種のD断片および6種のJ断片が様々に組み合わされたVDJエクソンが抗原結合部位をコードすることによりその多様性を実現しているため、その全長は重鎖が約1.5Mb(14番染色体)、κ軽鎖が約2Mb(2番染色体)、λ軽鎖が約1Mb(22番染色体)に達する。ヒトにおけるのと同様の多様な抗体レパートリーを他の動物種で再現するためには、各Ig遺伝子の全長を導入することが望ましいが、従来の遺伝子導入ベクター(プラスミド、コスミド、BAC、YAC等)に挿入可能なDNAは通常数kb〜数百kbであり、クローニングしたDNAを受精卵に注入する従来のトランスジェニック動物作製技術ではIg遺伝子の全長の導入は困難であった。
【0092】
Tomizukaら(Nat. Genet., 16: 133-143, 1997)は、Ig遺伝子を担持するヒト染色体の自然断片(hCF)をマウスに導入して(染色体導入(TC)マウス)、完全長ヒトIg遺伝子を有するマウスを作製した。即ち、まず、重鎖遺伝子を含む14番染色体およびκ軽鎖遺伝子を含む2番染色体を例えば薬剤耐性マーカー等で標識したヒト染色体を有するヒト−マウスハイブリッド細胞を48時間程度紡錘糸形成阻害剤(例、コルセミド)で処理して、1〜数本の染色体もしくはその断片が核膜に被包されたミクロセルを調製し、微小核融合法によりマウスES細胞に染色体を導入する。薬剤を含む培地を用いてヒトIg遺伝子を有する染色体もしくはその断片を保持するハイブリッドES細胞を選択し、通常のKOマウス作製の場合と同様の方法によりマウス胚へ顕微注入する。得られるキメラマウスからコートカラーを指標にする等して生殖系列キメラを選択し、ヒト14番染色体断片を伝達するTCマウス系統(TC(hCF14))およびヒト2番染色体断片を伝達するTCマウス系統(TC(hCF2))を樹立する。常法により内因性重鎖遺伝子およびκ軽鎖遺伝子をKOされたマウス系統(KO(IgH)およびKO(Igκ))を作製し、これら4系統の交配を繰り返すことにより、4種の遺伝子改変をすべて有するマウス系統(ダブルTC/KO)を樹立することができる。
【0093】
上記のようにして作製されるダブルTC/KOマウスに、通常のマウスモノクローナル抗体を作製する場合と同様の方法を適用すれば、抗原特異的ヒトモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを作製することができる。しかしながら、κ軽鎖遺伝子を含むhCF2がマウス細胞内で不安定なため、ハイブリドーマ取得効率は通常のマウスの場合に比べて低いという欠点がある。
【0094】
一方、前記Hu-Mab Mouseはκ軽鎖遺伝子の約50%を含むが、可変領域クラスターが倍加した構造を有するため完全長を含む場合と同等のκ鎖の多様性を示し(他方、重鎖遺伝子は約10%しか含まないので重鎖の多様性は低く、抗原に対する応答性が不十分である)、且つYACベクター(Igκ-YAC)によりマウス染色体中に挿入されているので、マウス細胞内で安定に保持される。この利点を生かし、TC(hCF14)マウスとHu-Mab Mouseとを交配してhCF14とIgκ-YACとを安定に保持するマウス(商品名:KMマウス)を作製することにより、通常のマウスと同等のハイブリドーマ取得効率および抗体の抗原親和性を得ることができる。
【0095】
さらに、より完全にヒトにおける多様な抗体レパートリーを再現するために、λ軽鎖遺伝子をさらに導入したヒト抗体産生動物を作製することもできる。かかる動物は、上記と同様の方法でλ軽鎖遺伝子を担持するヒト22番染色体もしくはその断片を導入したTCマウス(TC(hCF22))を作製し、これと上記ダブルTC/KOマウスやKMマウスとを交配することにより得ることもできるし、あるいは、例えば重鎖遺伝子座とλ軽鎖遺伝子座とを含むヒト人工染色体(HAC)を構築してマウス細胞に導入することにより得ることもできる(Nat. Biotechnol., 18: 1086-1090, 2000)。
【0096】
本発明の抗体を医薬品として利用する場合はモノクローナル抗体であることが望ましいが、ポリクローナル抗体であってもよい。本発明の抗体がポリクローナル抗体である場合には、ハイブリドーマの利用を要しないので、ハイブリドーマ作製技術は確立されていないがトランスジェニック技術は確立されている動物種、好ましくはウシ等の有蹄動物を用いて、上記と同様の方法によりヒト抗体産生動物を作製すれば、より大量のヒト抗体を安価に製造することも可能である(例えば、Nat. Biotechnol., 20: 889-894, 2002参照)。得られるヒトポリクローナル抗体は、ヒト抗体産生動物の血液、腹水、乳汁、卵など、好ましくは乳汁、卵を採取し、上記と同様の精製技術を組み合わせることによって精製することができる。
【0097】
(iv)ファージディスプレイヒト抗体ライブラリーを用いた完全ヒト抗体の作製
完全ヒト抗体を作製するもう1つのアプローチはファージディスプレイを用いる方法である。この方法はPCRによる変異がCDR以外に導入される場合があり、そのため臨床段階で少数のHAHA産生の報告例があるが、その一方で宿主動物に由来する異種間ウイルス感染の危険性がない点や抗体の特異性が無限である(禁止クローンや糖鎖などに対する抗体も容易に作製可能)等の利点を有している。
ファージディスプレイヒト抗体ライブラリーの作製方法としては、例えば、以下のものが挙げられるが、これに限定されない。
【0098】
用いられるファージは特に限定されないが、通常繊維状ファージ(Ffバクテリオファージ)が好ましく用いられる。ファージ表面に外来タンパク質を提示する方法としては、g3p、g6p〜g9pのコートタンパク質のいずれかとの融合タンパク質として該コートタンパク質上で発現・提示させる方法が挙げられるが、よく用いられるのはg3pもしくはg8pのN末端側に融合させる方法である。ファージディスプレイベクターとしては、1)ファージゲノムのコートタンパク質遺伝子に外来遺伝子を融合した形で導入して、ファージ表面上に提示されるコートタンパク質をすべて外来タンパク質との融合タンパク質として提示させるものの他、2)融合タンパク質をコードする遺伝子を野生型コートタンパク質遺伝子とは別に挿入して、融合タンパク質と野生型コートタンパク質とを同時に発現させるものや、3)融合タンパク質をコードする遺伝子を有するファージミドベクターを持つ大腸菌に野生型コートタンパク質遺伝子を有するヘルパーファージを感染させて融合タンパク質と野生型コートタンパク質とを同時に発現するファージ粒子を産生させるものなどが挙げられるが、1)の場合は大きな外来タンパク質を融合させると感染能力が失われるため、抗体ライブラリーの作製のためには2)または3)のタイプが用いられる。
【0099】
具体的なベクターとしては、Holtら(Curr. Opin. Biotechnol., 11: 445-449, 2000)に記載されるものが例示される。例えば、pCES1(J. Biol. Chem., 274: 18218-18230, 1999参照)は、1つのラクトースプロモーターの制御下にg3pのシグナルペプチドの下流にκ軽鎖定常領域をコードするDNAとg3pシグナルペプチドの下流にCH3をコードするDNA、His-tag、c-myc tag、アンバー終止コドン(TAG)を介してg3pコード配列とが配置されたFab発現型ファージミドベクターである。アンバー変異を有する大腸菌に導入するとg3pコートタンパク質上にFabを提示するが、アンバー変異を持たないHB2151株などで発現させると可溶性Fab抗体を産生する。また、scFv発現型ファージミドベクターとしては、例えばpHEN1(J. Mol. Biol., 222:581-597, 1991)等が用いられる。
【0100】
一方、ヘルパーファージとしては、例えばM13-KO7、VCSM13等が挙げられる。
【0101】
また、別のファージディスプレイベクターとして、抗体遺伝子の3’末端とコートタンパク質遺伝子の5’末端にそれぞれシステインをコードするコドンを含むDNA配列を連結し、両遺伝子を同時に別個に(融合タンパク質としてではなく)発現させて、導入されたシステイン残基同士によるS-S結合を介してファージ表面のコートタンパク質上に抗体を提示し得るようにデザインされたもの(Morphosys社のCysDisplayTM技術)等も挙げられる。
【0102】
ヒト抗体ライブラリーの種類としては、ナイーブ/非免疫(non-immunized)ライブラリー、合成ライブラリー、免疫(immunized)ライブラリー等が挙げられる。
【0103】
ナイーブ/非免疫ライブラリーは、正常なヒトが保有するVHおよびVL遺伝子をRT-PCRにより取得し、それらをランダムに上記のファージディスプレイベクターにクローニングして得られるライブラリーである。通常、正常人の末梢血、骨髄、扁桃腺などのリンパ球由来のmRNA等が鋳型として用いられる。疾病履歴などのV遺伝子のバイアスをなくすため、抗原感作によるクラススイッチが起こっていないIgM由来のmRNAのみを増幅したものを特にナイーブライブラリーと呼んでいる。代表的なものとしては、Cambridge Antibody Technology社のライブラリー(J. Mol. Biol., 222: 581-597, 1991; Nat. Biotechnol., 14: 309-314, 1996参照)、Medical Research Council社のライブラリー(Annu. Rev. Immunol., 12: 433-455, 1994参照)、Dyax社のライブラリー(J. Biol. Chem., 1999 (上述); Proc. Natl. Acad. Sci. USA,14: 7969-7974, 2000参照)等が挙げられる。
【0104】
合成ライブラリーは、ヒトB細胞内の機能的な特定の抗体遺伝子を選び、V遺伝子断片の、例えばCDR3等の抗原結合領域の部分を適当な長さのランダムなアミノ酸配列をコードするDNAで置換し、ライブラリー化したものである。最初から機能的なscFvやFabを産生するVHおよびVL遺伝子の組み合わせでライブラリーを構築できるので、抗体の発現効率や安定性に優れているとされる。代表的なものとしては、Morphosys AG社のHuCALライブラリー(J.Mol. Biol., 296: 57-86, 2000参照)、BioInvent社のライブラリー(Nat. Biotechnol., 18: 852, 2000参照)、Crucell社のライブラリー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92: 3938, 1995; J. Immunol. Methods, 272: 219-233, 2003参照)等が挙げられる。
【0105】
免疫ライブラリーは、癌、自己免疫疾患、感染症等の患者やワクチン接種を受けた者など、標的抗原に対する血中抗体価が上昇したヒトから採取したリンパ球、あるいは上記体外免疫法により標的抗原を人為的に免疫したヒトリンパ球等から、上記ナイーブ/非免疫ライブラリーの場合と同様にしてmRNAを調製し、RT-PCR法によってVHおよびVL遺伝子を増幅し、ライブラリー化したものである。最初から目的の抗体遺伝子がライブラリー中に含まれるので、比較的小さなサイズのライブラリーからでも目的の抗体を得ることができる。
【0106】
ライブラリーの多様性は大きいほどよいが、現実的には、以下のパンニング操作で取り扱えるファージ数(1011〜1013ファージ)と通常のパンニングでクローンの単離および増幅に必要なファージ数(100〜1,000ファージ/クローン)を考慮すれば、108〜1011クローン程度が適当であり、約108クローンのライブラリーで通常10-9オーダーのKd値を有する抗体をスクリーニングすることができる。
【0107】
標的抗原に対する抗体をファージディスプレイ法で選別する工程をパンニングという。具体的には、例えば、抗原を固定化した担体とファージライブラリーとを接触させ、非結合ファージを洗浄除去した後、結合したファージを担体から溶出させ、大腸菌に感染させて該ファージを増殖させる、という一連の操作を3〜5回程度繰り返すことにより抗原特異的な抗体を提示するファージを濃縮する。抗原を固定化する担体としては、通常の抗原抗体反応やアフィニティークロマトグラフィーで用いられる各種担体、例えばアガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラス、金属などからなるマイクロプレート、チューブ、メンブレン、カラム、ビーズなど、さらには表面プラズモン共鳴(SPR)のセンサーチップなどが挙げられる。抗原の固定化には物理的吸着を用いてもよく、また、タンパク質あるいは酵素等を不溶化、固定化するのに用いられる化学結合を用いる方法でもよい。例えばビオチン−(ストレプト)アビジン系等が好ましく用いられる。標的抗原である内因性リガンドがペプチドなどの小分子である場合には、抗原決定基として用いた部分が担体との結合により被覆されないように特に注意する必要がある。非結合ファージの洗浄には、BSA溶液などのブロッキング液(1-2回)、Tween等の界面活性剤を含むPBS(3-5回)などを順次用いることができる。クエン酸緩衝液(pH5)などの使用が好ましいとの報告もある。特異的ファージの溶出には、通常酸(例、0.1M塩酸など)が用いられるが、特異的プロテアーゼによる切断(例えば、抗体遺伝子とコートタンパク質遺伝子との連結部にトリプシン切断部位をコードする遺伝子配列を導入することができる。この場合、溶出するファージ表面には野生型コートタンパク質が提示されるので、コートタンパク質のすべてが融合タンパク質として発現しても大腸菌への感染・増殖が可能となる)や可溶性抗原による競合的溶出、あるいはS-S結合の還元(例えば、前記したCysDisplayTMでは、パンニングの後、適当な還元剤を用いて抗体とコートタンパク質とを解離させることにより抗原特異的ファージを回収することができる)による溶出も可能である。酸で溶出した場合は、トリスなどで中和した後で溶出ファージを大腸菌に感染させ、培養後、常法によりファージを回収する。
【0108】
パンニングにより抗原特異的抗体を提示するファージが濃縮されると、これらを大腸菌に感染させた後プレート上に播種してクローニングを行う。各クローンから再度ファージを回収し、上述の抗体価測定法(例、ELISA、RIA、FIA等)やFACSあるいはSPRを利用した測定により抗原結合活性を確認する。
【0109】
選択された抗原特異的抗体を提示するファージクローンからの抗体の単離・精製は、例えば、ファージディスプレイベクターとして抗体遺伝子とコートタンパク質遺伝子の連結部にアンバー終止コドンが導入されたベクターを用いる場合には、該ファージをアンバー変異を持たない大腸菌(例、HB2151株)に感染させると、可溶性抗体分子が産生されペリプラズムもしくは培地中に分泌されるので、細胞壁をリゾチームなどで溶解して細胞外画分を回収し、上記と同様の精製技術を用いて行うことができる。His-tagやc-myc tagを導入しておけば、IMACや抗c-myc抗体カラムなどを用いて容易に精製することができる。また、パンニングの際に特異的プロテアーゼによる切断を利用する場合には、該プロテアーゼを作用させると抗体分子がファージ表面から分離されるので、上記と同様の精製操作を実施することにより目的の抗体を精製することができる。
【0110】
ヒト抗体産生動物およびファージディスプレイヒト抗体ライブラリーを用いた完全ヒト抗体作製技術は、他の動物種のモノクローナル抗体を作製するのにも応用することができる。例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリなどの家畜(家禽)として広く繁殖されている動物やイヌやネコなどのペット動物などが対象として挙げられる。非ヒト動物においては標的抗原の人為的免疫に対する倫理的問題が少ないので、免疫ライブラリーの利用がより有効である。
【0111】
(4)ポリクローナル抗体の作製
本発明のポリクローナル抗体は、それ自体公知あるいはそれに準じる方法に従って製造することができる。例えば、免疫抗原(タンパク質もしくはペプチド抗原)自体、あるいはそれとキャリアータンパク質との複合体をつくり、上記のモノクローナル抗体の製造法と同様に温血動物に免疫を行い、該免疫動物から本発明の抗体含有物を採取して、抗体の分離精製を行う。
【0112】
温血動物を免疫するために用いられる免疫抗原とキャリアータンパク質との複合体に関し、キャリアータンパク質の種類およびキャリアータンパク質とハプテンとの混合比は、キャリアータンパク質に架橋させて免疫したハプテンに対して抗体が効率良くできれば、どのようなものをどのような比率で架橋させてもよいが、例えば、ウシ血清アルブミンやウシサイログロブリン、ヘモシアニン等を重量比でハプテン1に対し、約0.1〜約20、好ましくは約1〜約5の割合でカプルさせる。
【0113】
また、ハプテンとキャリアータンパク質のカプリングには、種々の縮合剤を用いることができるが、グルタルアルデヒドやカルボジイミド、マレイミド活性エステル、チオール基、ジチオビリジル基を含有する活性エステル試薬等が用いられる。
【0114】
縮合生成物は、温血動物に対して、抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常約1〜約6週毎に1回ずつ、計約2〜約10回程度行われる。
【0115】
ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された温血動物の血液、腹水など、好ましくは血液から採取することができる。
【0116】
抗血清中のポリクローナル抗体価は、上記の抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。ポリクローナル抗体の分離精製は、上記のモノクローナル抗体の分離精製と同様の免疫グロブリンの分離精製法に従って行うことができる。
【0117】
(5)融合/修飾抗体の作製
当業者であれば、周知技術に基づいて、上記いずれかの抗体(抗体フラグメントを含む)と他のペプチドやタンパク質との融合抗体を作製することや、修飾剤を結合させた修飾抗体を作製することも可能である。融合に用いられる他のペプチドやタンパク質は、抗体の結合活性を低下させないものである限り特に限定されず、例えば、ヒト血清アルブミン、各種tagペプチド、人工ヘリックスモチーフペプチド、マルトース結合タンパク質、グルタチオンSトランスフェラーゼ、各種毒素、その他多量化を促進しうるペプチドまたはタンパク質等が挙げられる。修飾に用いられる修飾剤は、抗体の結合活性を低下させないものである限り特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、糖鎖、リン脂質、リポソーム、低分子化合物等が挙げられる。
【0118】
抗NGF2/NT-3中和抗体の医薬用途
本発明の抗体は、腎臓癌および/または膀胱癌の増殖を抑制する作用を有するので、これらの癌の予防・治療剤として使用することができる。本発明の抗体は、NGF2/NT-3を中和する。ここで「NGF2/NT-3を中和する」とは、NGF2/NT-3とその受容体であるTrkファミリー蛋白質およびp75NGFRとの相互作用によるシグナル伝達の阻害を含むがそれに限定されず、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)、補体依存性細胞傷害活性(CDC活性)、癌細胞の増殖阻害、アポトーシスの誘導などを包括した概念として定義される。
【0119】
本発明の抗体は腎臓癌および膀胱癌の増殖を抑制するが、該抗体はNGF2/NT-3を特異的に認識してNGF2/NT-3の活性を遮断(中和)するものであるから、NGF2/NT-3および/またはその受容体であるTrkファミリー蛋白質およびp75NGFRを発現する他の癌をも予防および/または治療するのに使用することができる。したがって、本発明はまた、本発明の抗体を含有してなるNGF2/NT-3および/またはTrkファミリー蛋白質およびp75NGFRを産生する癌の予防・治療剤を提供する。
【0120】
NGF2/NT-3および/またはTrkファミリー蛋白質およびp75NGFRを産生する癌としては、腎臓癌、膀胱癌の他、例えば、膵臓癌、前立腺癌、肺癌、卵巣癌、メラノーマなどが挙げられる。
【0121】
本発明の抗体は低毒性であり、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、哺乳動物(例、ヒト、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的または非経口的に投与することができる。
【0122】
本発明の抗体は、それ自体を投与しても良いし、または適当な医薬組成物として投与しても良い。投与に用いられる医薬組成物としては、本発明の抗体と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものであっても良い。このような医薬組成物(製剤)は、経口または非経口投与に適する剤形として提供される。医薬組成物中の抗体含量は、剤形、投与量などにより異なるが、例えば約0.1〜100重量%である。
【0123】
非経口投与のための医薬組成物としては、例えば、注射製剤、坐剤等が用いられ、注射製剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、点滴注射剤、筋肉注射剤等の剤形を包含しても良い。このような注射製剤は、公知の方法に従って調製できる。注射製剤の調製方法としては、例えば、本発明の抗体を通常注射製剤に用いられる無菌の水性液、または油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製できる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等が用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO-50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕等と併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。したがって、調製された注射製剤は、必要に応じて、例えばメンブレンフィルター等を用いた濾過滅菌などの滅菌処理を行い、適当なアンプルに充填されることが好ましい。
【0124】
注射製剤は、上記液剤を真空乾燥などによって粉末とし、用時溶解(分散)して使用することもできる。真空乾燥法の例としては、凍結乾燥法、スピードバックコンセントレーター(SAVANT社)を用いる方法などが挙げられる。凍結乾燥を行う際には、-10℃以下に冷却されたサンプルを用いて、実験室ではフラスコ中で、工業的にはトレイを用いて、あるいはバイアル中で凍結乾燥させることが好ましい。スピードバックコンセントレーターを用いる場合は、0〜30℃程度で、約20mmHg以下、好ましくは約10mmHg以下の真空度で行われる。乾燥させる液剤中には、リン酸塩などの緩衝剤を添加してpHを3〜10程度とすることが好ましい。真空乾燥により得られる粉末製剤は長期間安定な製剤として、用時注射用に水、生理食塩水、リンゲル液等に溶解、もしくはオリーブ油、ゴマ油、綿実油、トウモロコシ油、プロピレングリコール等に分散することにより注射製剤とすることができる。
【0125】
直腸投与に用いられる坐剤は、上記抗体またはその塩を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製されても良い。
【0126】
経口投与のための医薬組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。このような医薬組成物は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有していても良い。錠剤用の担体、賦形剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウム等が用いられる。
【0127】
上記の非経口投与用または経口投与用医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。このような投薬単位の剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤等が挙げられる。本発明の抗体の量は、単位用量の製剤当たり通常2〜2000mgであり、とりわけ注射剤では約2〜約2000mgの量、その他の単位用量の製剤では2〜2000mgの量であることが好ましい。
【0128】
必要に応じて、上記医薬組成物を細胞内に運搬しやすくするために、リポソームに封入することもできる。好ましいリポソームは、正電荷リポソーム、正電荷コレステロール、膜透過性ペプチド結合リポソームなどである(中西守ら、タンパク質核酸酵素、44: 1590-1596 (1999)、二木史朗、化学と生物、43: 649-653 (2005)、Clinical Cancer Research 59: 4325-4333 (1999) など)。
【0129】
投与は、非経口投与(例えば静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、皮内、経皮、経粘膜投与など)または経口投与により行われ得るが、好ましくは、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、経皮、経粘膜投与などである。
【0130】
本発明の抗体を含有する上記製剤の投与量および本発明の抗体の投与量は、投与対象、対象疾患、症状、投与ルートなどによっても異なるが、例えば、成人の腎臓癌および膀胱癌の治療・予防のために使用する場合には、抗体を1回量として、0.05〜50mg/kg体重程度、好ましくは0.125〜20mg/kg体重程度、さらに好ましくは0.25〜10mg/kg体重程度を、静脈内注射により投与するのが好都合である。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量してもよい。投与回数(期間)としては、例えば1〜2週間に1回の頻度で数回(例えば2または3回)、あるいは2〜3週間に1回の頻度で約2ヶ月間等が挙げられるが、それらに限定されない。
【0131】
なお前記した各医薬組成物は、上記抗体との配合により好ましくない相互作用を生じない限り他の活性成分を含有してもよい。
【0132】
さらに、本発明の抗体は、他の薬剤(併用剤とも言う)、例えばアルキル化剤(例、サイクロフォスファミド、イフォスファミド等)、代謝拮抗剤(例、メソトレキセート、5-フルオロウラシル等)、抗癌性抗生物質(例、マイトマイシン、アドリアマイシン等)、植物由来抗癌剤(例、ビンクリスチン、ビンデシン、タキソール等)、シスプラチン、カルボプラチン、エトポキシド、イリノテカンなどと併用してもよい。本発明の抗体および上記は、同時または異なった時間に、同一または異なった経路で患者に投与すればよい。
【0133】
必要に応じて、本発明の抗体に上記併用薬を結合させて投与することができる。本発明の抗体は、NGF2/NT-3が存在する標的疾患部位またはその近傍に併用剤を運搬するとともに、NGF2/NT-3の機能を阻害し、一方、併用剤は、疾患の症状を治療、軽減または改善する。
【0134】
抗体と併用剤との結合は、好ましくはリンカーを介して行われる。リンカーは、例えば置換または未置換の脂肪族性アルキレン鎖を含み、その両末端に、抗体または併用剤の官能基と結合可能な基、例えばN-ヒドロキシスクシンイミド基、エステル基、チオール基、イミドカルボネート基、アルデヒド基などを含むものである(抗体工学入門、地人書館、1994年)。
【0135】
抗ヒトNGF2/NT-3抗体の診断薬用途
本発明はまた、本発明の抗体を含有してなる腎臓癌または膀胱癌の診断剤を提供する。
【0136】
本発明の抗体は、NGF2/NT-3を特異的に認識することができるので、被験液中のNGF2/NT-3の定量などに使用することができる。したがって、被験哺乳動物から採取した生体試料(例、血液、血漿、尿、生検サンプルの培養上清など)中のNGF2/NT-3量を、本発明の抗体を用いて測定することにより、該動物体内におけるNGF2/NT-3の発現の度合を調べることができ、ひいては癌の診断に用いることができる。被験液中のNGF2/NT-3量の特異的測定は、具体的には、
(i)本発明の抗体と、試料液および標識化されたNGF2/NT-3とを競合的に反応させ、該抗体に結合した標識化されたNGF2/NT-3を検出することにより試料液中のNGF2/NT-3を定量する方法や、
(ii)試料液と、担体上に固定化した本発明の抗体および標識化された本発明の抗体とを、同時あるいは連続的に反応させた後、固定化担体上の標識剤の量(活性)を測定することにより、試料液中のNGF2/NT-3を定量する方法等が挙げられる。固定化した抗体と標識化された抗体は、同じ抗体でも、また別の抗体であってもよい。
【0137】
上記(ii)の定量法においては、2種の抗体はNGF2/NT-3の異なる部分を認識するものであってもよい。例えば、一方の抗体がNGF2/NT-3のN末端部を認識する抗体であれば、他方の抗体としてC末端部と反応するものを用いることができる。
【0138】
標識物質を用いる上記測定法に標識された剤形で用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔125I〕、〔131I〕、〔3H〕、〔14C〕などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン−(ストレプト)アビジン系を用いることもできる。
【0139】
被験液としては、被験哺乳動物から採取した生体試料(例、血液、血漿、尿、生検サンプルの培養上清など)を用いることができる。腎臓癌または膀胱癌の診断用の生体試料としては、例えば尿や対象臓器の生検サンプルの培養上清が好ましく、低侵襲性であることから尿が特に好ましい。
【0140】
本発明の抗体を用いるNGF2/NT-3の定量法は、特に制限されるべきものではなく、試料液中の抗原量に対応した、抗体、抗原もしくは抗体−抗原複合体の量を化学的または物理的手段により検出し、これを既知量の抗原を含む標準液を用いて作製した標準曲線より算出する測定法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。例えば、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法およびサンドイッチ法が好適に用いられる。感度、特異性の点で、例えば、後述するサンドイッチ法および競合法を用いるのが好ましい。
【0141】
抗原あるいは抗体の固定化にあたっては、物理吸着を用いてもよく、また通常タンパク質あるいは酵素等を不溶化・固定化するのに用いられる化学結合を用いてもよい。免疫担体としては、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラス等が挙げられる。
【0142】
サンドイッチ法においては固定化した本発明の抗体に試料液を反応させ(1次反応)、さらに標識化した別の本発明の抗体を反応させ(2次反応)た後、固定化担体上の標識剤の量もしくは活性を測定することにより、試料液中のNGF2/NT-3を定量することができる。1次反応と2次反応は逆の順序で行っても、また、同時に行ってもよいし、時間をずらして行ってもよい。標識化および固定化の方法は前記のそれらに準じることができる。サンドイッチ法による免疫測定法において、固相化抗体あるいは標識化抗体に用いられる抗体は必ずしも1種類である必要はなく、測定感度を向上させる目的で2種類以上の抗体の混合物を用いてもよい。
【0143】
本発明の抗体は、サンドイッチ法以外の測定システム、例えば、競合法、イムノメトリック法あるいはネフロメトリーなどにも用いることができる。
【0144】
競合法では、試料液中のNGF2/NT-3と標識したNGF2/NT-3とを抗体に対して競合的に反応させた後、未反応の標識抗原(F)と、抗体と結合した標識抗原(B)とを分離し(B/F分離)、B、Fいずれかの標識量を測定することにより、試料液中のNGF2/NT-3を定量する。本反応法には、抗体として可溶性抗体を用い、ポリエチレングリコールや前記抗体(1次抗体)に対する2次抗体を用いてB/F分離を行う液相法、および、1次抗体として固相化抗体を用いるか(直接法)、あるいは1次抗体は可溶性のものを用い、2次抗体として固相化抗体を用いる(間接法)固相化法とが用いられる。
【0145】
イムノメトリック法では、試料液中のNGF2/NT-3と固相化したNGF2/NT-3とを一定量の標識化抗体に対して競合反応させた後、固相と液相を分離するか、あるいは試料液中のNGF2/NT-3と過剰量の本発明の標識化抗体とを反応させ、次に固相化したNGF2/NT-3を加えて未反応の本発明の標識化抗体を固相に結合させた後、固相と液相を分離する。次に、いずれかの相の標識量を測定し試料液中の本発明の蛋白質量を定量する。
【0146】
ネフロメトリーでは、ゲル内あるいは溶液中で抗原抗体反応の結果生じた不溶性の沈降物の量を測定する。試料液中のNGF2/NT-3の量がわずかであり、少量の沈降物しか得られない場合にもレーザーの散乱を利用するレーザーネフロメトリーが好適に用いられる。
【0147】
これら個々の免疫学的測定法を本発明の定量方法に適用するにあたっては、特別の条件、操作等は必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作法に当業者の通常の技術的配慮を加えてNGF2/NT-3の測定系を構築できる。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書を参照することができる。
【0148】
例えば、入江 寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江 寛編「続ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「Methods in ENZYMOLOGY」 Vol. 70 (Immunochemical Techniques (Part A))、同書 Vol. 73 (Immunochemical Techniques (Part B))、同書 Vol. 74 (Immunochemical Techniques (Part C))、同書 Vol. 84 (Immunochemical Techniques (Part D: Selected Immunoassays))、同書 Vol. 92 (Immunochemical Techniques (Part E: Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、同書 Vol. 121 (Immunochemical Techniques (Part I: Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies))(以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。
【0149】
以上のようにして、本発明の抗体を用いることにより、被験液中のNGF2/NT-3の量、ひいては被験哺乳動物体内のNGF2/NT-3の発現量を感度よく定量することができる。したがって、イムノアッセイの結果、被験液中のNGF2/NT-3の増加が検出された場合は、被験動物は腎臓癌または膀胱癌を発症しているか、あるいは将来発症する可能性が高いと診断することができる。
【0150】
本発明の抗体はNGF2/NT-3を特異的に認識するものであるから、NGF2/NT-3を過剰発現する他の癌の診断にも用いることができる。したがって、本発明はまた、本発明の抗体を含有してなるNGF2/NT-3を産生する癌の診断剤を提供する。NGF2/NT-3を産生する癌としては、腎臓癌、膀胱癌の他、例えば、膵臓癌、前立腺癌、肺癌、卵巣癌、グリオーマ、メラノーマなどが挙げられる。
【0151】
本発明の抗体を適当な標識剤で標識して被験哺乳動物に投与し、生体内での該抗体の局在化を、該標識剤を直接検出(画像化)することにより調べることができる。このような標識剤としては、例えば、適当な半減期を有する放射性同位元素を用いることが好ましい。より好ましくは、放射性同位元素は、シンチグラフィや、単光子放射計算断層撮影(SPECT)およびポジトロン断層撮影(PET)などの各種断層撮影において通常使用される核種である。シンチグラフィやSPECTに用いられる核種としては、例えば、99mTc、201Ti、67Ga、111In、123I、131I、125I、169Yb、186Re、99Mo等が挙げられる。特に好ましくは、99mTcが挙げられる。PET核種としては、例えば、15O、13N、11C、18F等が挙げられる。
【0152】
放射性同位元素による抗体の標識は、各放射性同位元素について自体公知の方法を用いて行うことができる。例えば、99mTcで抗体を標識する場合、例えばRADIOISOTOPES, 53: 155-178 (2004) に記載の手法に従って行うことができる。詳細には、抗体に、必要に応じてリンカーを介して適当な配位子(例:DTPA、HMPAO、DMSA、MAAなど)を結合し、これをバイアルなどの容器に封入する。99Mo-99mTcジェネレータより溶出した過テクネチウム酸イオン(99mTcO4-)を適当な還元剤(例:塩化第一スズなど)を用いて+1、+3、+4もしくは+5価の酸化数の状態にまで還元し、これをトレーサー化合物を封入した容器中に注入して振とうすることにより、99mTc標識されたトレーサー化合物を得ることができる。99mTcは目的の配位子と直接反応させてもよいし、あるいは最初にグルコン酸や酒石酸などの配位能の弱い配位子と反応させて該配位子との錯体を生成させた後、配位能の強い配位子を作用させて配位子交換を行ってもよい。リンカーとしては、テクネチウム錯体の製造に通常用いられているものを適宜選択して用いることができる。
【0153】
SPECTやPETなどの放射性同位元素を用いる画像診断以外にも、本発明の抗体は、例えば、ガドリニウム、ヨード、フッ素などで標識することにより、MRIやCTなどの画像診断用の非放射性の造影剤として調製することもできる。あるいは、緑色蛍光蛋白質(GFP)などの蛍光物質や化学発光物質を生成するレポーター(例、ルシフェラーゼなど)で本発明の抗体を標識することもできる。
【0154】
標識された本発明の抗体は、本発明の上記抗体の場合と同様に医薬組成物として製剤化することができ、同様の投与経路で投与することができる。抗体の投与量は、例えば注射製剤の形では、1回あたり、0.001〜1mg/kg、好ましくは0.005〜0.2mg/kgを静脈内投与するのが好都合である。抗体が放射性同位元素で標識されている場合、単位用量あたり約0.0001〜10mCi、好ましくは約0.01〜0.1mCiの放射能強度を有する。単位用量の注射剤の容量としては、例えば、約0.01〜10mlである。
【0155】
標識剤として放射性同位元素を用いた場合、被験動物体内での抗体の局在化は、例えばシンチグラフィー、単光子放射計算断層撮影(SPECT)、ポジトロン断層撮影(PET)等、好ましくはSPECTもしくはPETにより検出・画像化される。シンチグラフィーの場合、標識した抗体を投与した後、その体内分布をシンチカメラにより描出する。SPECTおよびPETの場合、それぞれ専用の断層撮像装置を用いて横断断層面を描画する。撮像開始時間は、標識剤の核種にもよるが、例えば、トレーサーの投与直後〜72時間後、好ましくは5分後〜24時間後、より好ましくは10分後〜4時間後が挙げられる。
【0156】
標識剤としてルシフェラーゼを用いた場合、標識した抗体を投与した後、ルシフェリンをさらに投与し、超高感度冷却CCDカメラを搭載したリアルタイムin vivoイメージング装置(例えば、住商ファーマインターナショナル(株)のIVIS200など)を用いて、化学発光をデジタル画像として可視化することにより、抗体を検出することができる。他の蛍光もしくは発光物質を標識剤として用いた場合も、自体公知の方法を用いて該標識を検出することにより、本発明の抗体の体内分布を描出することができる。
【0157】
その結果、腎臓または膀胱に本発明の抗体の集積が認められた場合、被験哺乳動物は腎臓癌または膀胱癌を発症しているか、あるいは将来発症する可能性が高いと診断することができる。腎臓および膀胱以外の、NGF2/NT-3を産生する癌を生じ得る臓器・組織(例えば、膵臓、前立腺、肺、卵巣など)の付近に本発明の抗体の集積が認められた場合、被験哺乳動物は当該臓器または組織の癌を発症しているか、あるいは将来発症する可能性が高いと診断することができる。
【0158】
本明細書において、塩基やアミノ酸などを略号で表示する場合、IUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclature による略号あるいは当該分野における慣用略号に基づくものであり、その例を下記する。またアミノ酸に関し光学異性体があり得る場合は、特に明示しなければL体を示すものとする。
DNA :デオキシリボ核酸
cDNA :相補的デオキシリボ核酸
A :アデニン
T :チミン
G :グアニン
C :シトシン
RNA :リボ核酸
mRNA :メッセンジャーリボ核酸
dATP :デオキシアデノシン三リン酸
dTTP :デオキシチミジン三リン酸
dGTP :デオキシグアノシン三リン酸
dCTP :デオキシシチジン三リン酸
ATP :アデノシン三リン酸
EDTA :エチレンジアミン四酢酸
SDS :ドデシル硫酸ナトリウム
Gly :グリシン
Ala :アラニン
Val :バリン
Leu :ロイシン
Ile :イソロイシン
Ser :セリン
Thr :スレオニン
Cys :システイン
Met :メチオニン
Glu :グルタミン酸
Asp :アスパラギン酸
Lys :リジン
Arg :アルギニン
His :ヒスチジン
Phe :フェニルアラニン
Tyr :チロシン
Trp :トリプトファン
Pro :プロリン
Asn :アスパラギン
Gln :グルタミン
pGlu :ピログルタミン酸
Sec :セレノシステイン(selenocysteine)
【0159】
本明細書の配列表の配列番号は、以下の配列を示す。
〔配列番号:1〕
ヒトNGF2/NT-3をコードするcDNAの塩基配列を示す。
〔配列番号:2〕
ヒトNGF2/NT-3のアミノ酸配列を示す。
〔配列番号:3〕
3W3抗体の重鎖をコードするcDNAの塩基配列を示す。
〔配列番号:4〕
3W3抗体の重鎖のアミノ酸配列を示す。
〔配列番号:5〕
3W3抗体の軽鎖をコードするcDNAの塩基配列を示す。
〔配列番号:6〕
3W3抗体の軽鎖のアミノ酸配列を示す。
【0160】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0161】
参考例1:3W3抗体のNGF2/NT-3中和活性
293T細胞(2.4 x 106細胞)を10cmディッシュに播種し、10% FBSを含有するDMEM中、37℃で24時間インキュベートした。Lipofectamine2000 (Invitrogen) を用いて、3種のプラスミドDNA(pCMV6-TrkC tv1 (Origene) 12μg、pFA2-Elk1 (Stratagene) 4μg、pFR-Luc (Stratagene) 8μg)で該細胞をトランスフェクトした後、37℃で65時間さらにインキュベートした。ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(dPBS)で2回洗浄した後、enzyme-free cell-dissociation buffer (Invitrogen) 1.5 mlを用いて細胞を剥離した。0.5% FBSを含有するDMEM 9 mlを加え、遠心分離により細胞を回収し、0.5% FBSを含有するDMEM 20 ml中に細胞を再懸濁した。細胞懸濁液を96-ウェルプレート(白底)中に100μl/wellとなるように分注し、37℃で一晩インキュベートした。各ウェルに種々の濃度(0.01-1 μg/ml)でマウス抗ヒトNGF2/NT-3中和抗体(3W3抗体)を添加し、次いで組換えヒトNGF2/NT-3(30 ng/ml)を添加して、37℃で24時間インキュベートした後、Bright-Glo reagent (Promega) を用いてルシフェラーゼ活性を測定した。結果を図1に示す。NGF2/NT-3によるElk1シグナル活性化は、3W3抗体の用量依存的に阻害され、IC50は約6.0 x 10-10 Mであった。
【0162】
参考例2:3W3抗体重鎖および軽鎖のcDNAクローニングおよび配列決定
(1)RNA抽出および精製
ハイブリドーマ3W3を培養し、RNAiso (TaKaRa) を用いてtotal RNAを回収、DNase I処理を行った後、フェノール処理、クロロホルム処理を行い、エタノール沈殿により精製した。
(2)抗体可変領域断片のクローニングと配列決定
Total RNA 1μgを鋳型に、random primer (9mer) を用いてReverse Transcriptase M-MLV(RNase H free)によりRT反応を行った。このRT反応液の一部を鋳型とし、LA Taq (TaKaRa) を用いて可変領域のPCR増幅を行った。PCR反応に用いたH鎖、L鎖増幅用primerは、Mouse scFv Module Recombinant Phage Antibody system(アマシャムバイオサイエンス)添付のprimerセット(Heavy Primers(アマシャム 27-1586-01)、Light Primer Mix(アマシャム 27-1583-01))を用いた。
得られた各増幅産物は、常法によりアガロース電気泳動を行った後ゲルから精製し、pMD20-TベクターにTAクローニングを行いシークエンス解析した。シークエンス反応には、Big Dye Terminator v3.1 CycleSequencing Kit (Applied Biosystems)を使用し、添付の同社プロトコールに従ってABI PRISM3730シーケンサーを用いて解析し、3W3抗体可変領域断片の塩基配列を決定した。
(3)5’-RACE、3’-RACEによるcDNA末端のクローニングと配列解析
(2)で得られたH鎖およびL鎖可変領域断片の配列を基にprimerを作製し、5’-RACEおよび3’-RACEにより、可変領域の両側の遺伝子配列を解析した。
作製したprimerの配列(5’ → 3’)を以下に示す。
H鎖5’- RACE用primer:AGACGGCAGAGTCCACAGAGGTCAAAC(配列番号:7)
H鎖3’- RACE用primer:ACCTCTGTGGACTCTGCCGTCTATTTCTG(配列番号:8)
L鎖5’- RACE用primer:TGTCCCAGACCCACTGCCACTAAACC(配列番号:9)
L鎖3’- RACE用primer:CAACAGAAACCAGGACAGCCACCCA(配列番号:10)
5’-RACEおよび3’-RACEは、SMARTTMRACE cDNA Amplification Kit (Clontech) を用い、同キットに添付のプロトコールに従って行った。得られたPCR産物の解析は上記(2)と同様に行った。
(4)全長cDNAのクローニングと配列決定
(3)で得られたH鎖およびL鎖の5’側および3’側cDNA配列を基にprimerを作製し、RT-PCRにより全長cDNAをクローニングし、その配列解析を行った。
作製したprimerの配列を以下に示す。
H鎖5’- primer:GATGATCAGTGTCCTCTCT(配列番号:11)
H鎖3’- primer:AGGGTCCCAAGGCAGTGCT(配列番号:12)
L鎖5’- primer:ATCCTCTCATCTAGTTCTC(配列番号:13)
L鎖3’- primer:GTGCAAAGACTCACTTTATTG(配列番号:14)
Total RNA 1μgを鋳型に、random primer (9mer) を用いてReverse Transcriptase M-MLV(RNase H free)によりRT反応を行った。このRT反応液の一部を鋳型とし、PrimeSTAR HS DNA polymerase (TaKaRa) を用いて全長cDNAのPCR増幅を行った。得られたPCR産物の解析は上記(2)と同様に行った。
重鎖cDNAの塩基配列を配列番号:3に、推定アミノ酸配列を配列番号:4にそれぞれ示す。軽鎖cDNAの塩基配列を配列番号:5に、推定アミノ酸配列を配列番号:6にそれぞれ示す。常法に従って、重鎖および軽鎖の各相補性決定領域(CDR)を予測した。結果を図2(重鎖)および図3(軽鎖)に示す。
【0163】
実施例1:膀胱癌細胞に対する抗ヒトNGF2/NT-3中和抗体の抗腫瘍活性
ヌードマウスxenograftモデルを用いて、TSU-Pr1ヒト膀胱癌細胞に対する抗ヒトNGF2/NT-3中和抗体の抗腫瘍作用を調べた。インビトロで培養、増殖させた後回収したTSU-Pr1細胞の懸濁液を、matrigel (invitrogen) と体積比1:1で混合、雌ヌードマウスの皮下に移植 (5 x 106細胞/mouse) し、その翌日から抗体の投与を開始した。抗ヒトNGF2/NT-3中和抗体としてマウスモノクローナル抗体3W3、コントロール抗体としてマウス抗HIV-1 gp120モノクローナル抗体クローンG115(ATCC #CRL-2395)を用い、400 μg/mouseの投与量で週2回の腹腔内投与を行った。移植後7日目より間歇的に腫瘍サイズをノギスで測定し、上記抗体それぞれの投与群における腫瘍増殖を評価した(腫瘍体積は次の計算式で算出: 腫瘍体積 (mm3) = 腫瘍の長さ(mm) x [腫瘍の幅(mm)]2 / 2 )。その結果、3W3投与群において腫瘍サイズの有意な抑制が認められた(図4A)。具体的には、移植42日後の腫瘍体積は、3W3投与群においてcontrol群の50%であった。試験期間中、体重増加の抑制は見られず(図4B)、行動や形態にも目立った異常は認められなかった。この結果から、抗ヒトNGF2/NT-3中和抗体は、安全で効果的な膀胱癌治療薬となり得ることが示された。
【0164】
実施例2:腎臓癌細胞に対する抗ヒトNGF2/NT-3中和抗体の抗腫瘍活性
ヌードマウスxenograftモデルを用いてACHNヒト腎臓癌細胞に対する抗ヒトNGF2/NT-3中和抗体の抗腫瘍作用を調べた。インビトロで培養、増殖させた後回収したACHN細胞の懸濁液を、雌ヌードマウスの皮下に移植(1 x 107細胞/ mouse)し、その翌日から抗体の投与を開始した。抗ヒトNGF2/NT-3中和抗体としてマウスモノクローナル抗体3W3、コントロール抗体としてマウス抗HIV-1 gp120モノクローナル抗体クローンG115(ATCC #CRL-2395)を用い、20 mg / kgの投与量で週2回の静脈内投与を行った。移植後7日目より間歇的に腫瘍サイズをノギスで測定し、上記抗体それぞれの投与群における腫瘍増殖を評価した(腫瘍体積は次の計算式で算出: 腫瘍体積 (mm3) = 腫瘍の長さ(mm) x[腫瘍の幅(mm)]2 / 2 )。その結果、3W3群において腫瘍サイズの有意な抑制が認められた(図5A)。具体的には移植56日後の腫瘍体積は、3W3群においてcontrol群の36%であった。試験期間中、体重増加の抑制は見られず(図5B)、行動や形態にも目立った異常は認められなかった。この結果から、抗ヒトNGF2/NT-3中和抗体は、安全で効果的な腎臓癌治療薬となり得ることが示された。
【0165】
参考例3:小細胞肺癌細胞に対する抗ヒトNGF2/NT-3中和抗体の抗腫瘍活性
ヌードマウスxenograftモデルを用いてCOR-L88ヒト小細胞肺癌細胞に対する抗ヒトNGF2/NT-3中和抗体の抗腫瘍作用を調べた。インビトロで培養、増殖させた後回収したCOR-L88細胞の懸濁液を、雌ヌードマウスの頸背部皮下に移植(1 x 107細胞/ mouse)し、皮下移植22日後に腫瘍体積を測定し、腫瘍体積により3群にランダマイズした。抗ヒトNGF2/NT-3中和抗体としてマウスモノクローナル抗体3W3を用い、1 mg/kgおよび10 mg/kgの投与量で週2回の静脈内投与を行った。群分け日より間歇的に腫瘍サイズをノギスで測定し、上記抗体それぞれの投与群における腫瘍増殖を評価した(腫瘍体積は次の計算式で算出: 腫瘍体積 (mm3) = 腫瘍の長さ(mm) x[腫瘍の幅(mm)]2 / 2 )。その結果、3W3 10 mg投与群において腫瘍サイズの有意な抑制が認められた(図6A)。具体的には移植49日後の腫瘍体積で比較した場合、control群に対し3W3投与群で31%の抑制であった。試験期間中、体重増加の抑制は見られず(図6B)、行動や形態にも目立った異常は認められなかった。この結果から、抗ヒトNGF2/NT-3中和抗体は、安全で効果的な小細胞肺癌治療薬となり得ることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明によれば、神経成長因子2/ニューロトロフィン-3を中和し、神経成長因子と交差反応しない、神経成長因子2/ニューロトロフィン-3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体を含有してなる、腎臓癌および膀胱癌の予防または治療剤が提供できる。
【0167】
本出願は、米国仮特許出願61/204,827(出願日:2009年1月12日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
【0168】
本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明であろう。本発明は、本発明が本明細書に詳細に記載された以外の方法で実施され得ることを意図する。したがって、本発明は添付の「請求の範囲」の精神および範囲に包含される全ての変更を含むものである。
【0169】
ここで述べられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経成長因子2/ニューロトロフィン−3を中和し、神経成長因子と交差反応しない、神経成長因子2/ニューロトロフィン−3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体を含有してなる、腎臓癌の予防または治療剤。
【請求項2】
神経成長因子2/ニューロトロフィン−3を中和し、神経成長因子と交差反応しない、神経成長因子2/ニューロトロフィン−3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体を含有してなる、膀胱癌の予防または治療剤。
【請求項3】
抗体がハイブリドーマ3W3細胞株(FERM BP−3932)から産生されうるモノクローナル抗体である、請求項1または2記載の剤。
【請求項4】
神経成長因子2/ニューロトロフィン−3がヒト神経成長因子2/ニューロトロフィン−3である、請求項1または2記載の剤。
【請求項5】
抗体がヒト化抗体もしくはヒト抗体である、請求項1または2記載の剤。
【請求項6】
抗体がヒト−非ヒトキメラ抗体である、請求項1または2記載の剤。
【請求項7】
神経成長因子2/ニューロトロフィン−3を中和し、神経成長因子と交差反応しない、神経成長因子2/ニューロトロフィン−3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体を含有してなる、腎臓癌の診断剤。
【請求項8】
神経成長因子2/ニューロトロフィン−3を中和し、神経成長因子と交差反応しない、神経成長因子2/ニューロトロフィン−3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体を含有してなる、膀胱癌の診断剤。
【請求項9】
哺乳動物に対して、神経成長因子2/ニューロトロフィン−3を中和し、神経成長因子と交差反応しない、神経成長因子2/ニューロトロフィン−3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体の有効量を投与することを含む、腎臓癌の予防または治療方法。
【請求項10】
哺乳動物に対して、神経成長因子2/ニューロトロフィン−3を中和し、神経成長因子と交差反応しない、神経成長因子2/ニューロトロフィン−3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体の有効量を投与することを含む、膀胱癌の予防または治療方法。
【請求項11】
神経成長因子2/ニューロトロフィン−3を中和し、神経成長因子と交差反応しない、神経成長因子2/ニューロトロフィン−3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体を用いることを含む、腎臓癌の診断方法。
【請求項12】
神経成長因子2/ニューロトロフィン−3を中和し、神経成長因子と交差反応しない、神経成長因子2/ニューロトロフィン−3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体を用いることを含む、膀胱癌の診断方法。
【請求項13】
腎臓癌の予防または治療剤を製造するための、神経成長因子2/ニューロトロフィン−3を中和し、神経成長因子と交差反応しない、神経成長因子2/ニューロトロフィン−3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体の使用。
【請求項14】
膀胱癌の予防または治療剤を製造するための、神経成長因子2/ニューロトロフィン−3を中和し、神経成長因子と交差反応しない、神経成長因子2/ニューロトロフィン−3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体の使用。
【請求項15】
腎臓癌の診断剤を製造するための、神経成長因子2/ニューロトロフィン−3を中和し、神経成長因子と交差反応しない、神経成長因子2/ニューロトロフィン−3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体の使用。
【請求項16】
膀胱癌の診断剤を製造するための、神経成長因子2/ニューロトロフィン−3を中和し、神経成長因子と交差反応しない、神経成長因子2/ニューロトロフィン−3またはその部分ペプチドあるいはその塩に対する抗体の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【公表番号】特表2012−515158(P2012−515158A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545099(P2011−545099)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【国際出願番号】PCT/JP2010/050460
【国際公開番号】WO2010/079850
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】