説明

発酵させたポリ不飽和脂肪酸をベースとした水産養殖場のため魚飼料

本発明は、発酵によって得られた少なくとも1種のバイオマスまたは前記バイオマスから得られた油抽出物を含む飼料に関する。
前記飼料は、長鎖の、ポリ不飽和ω−3脂肪酸が豊富であり、養殖魚中の天然脂肪酸プロフィールの維持に寄与することができるか、または前記プロフィールを回復させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵によって得られたポリ不飽和脂肪酸に基づいた水産養殖場用の飼料に関し、特に魚および甲殻類、好ましくはサケの飼料としての使用に適した飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
開放性または閉鎖性水産養殖場における食用魚、特にサケの飼育(すなわち、制御された環境における魚の養殖)は、長く最先端技術であった。今日消費されるサケのほぼ半分、軟体動物の40パーセントおよび淡水魚の65パーセントは、現在そのような養殖場で生産されている。
【0003】
特にサケの肉には、他の水産養殖場で養殖される他の海水魚(たとえばタラ類、成魚のタラおよび若いタラ)や、甲殻類(たとえばエビ)と同様に、高い割合の長鎖ポリ不飽和ω−3脂肪酸、とりわけC22:n3ドコサヘキサエン酸(DHA)が存在する。これは、動物の健康にとって、そして人間の栄養にとっても、非常に貴重であり、不可欠の重要性を持っている。たとえば、魚の「ヒトラ(Hitra)」病の治療のための長鎖ポリ不飽和ω−3脂肪酸の給餌は、欧州特許出願公開第0322114号明細書から知られる。また、PCTの国際公開第00/62625号パンフレットには、長鎖ポリ不飽和ω−3脂肪酸の同時給餌による、魚色素アスタキサンチンの高い生体利用度について記載されている。
【0004】
これらの長鎖ポリ不飽和ω−3脂肪酸の天然の生成体は海洋微細藻類であって、その脂肪は、自由に生きている魚の飼料連鎖を通して濃縮する。水産養殖場においては、ω−3脂肪酸というこの天然資源は存在しない。そのため、魚油または魚粉で強化した魚の飼料に頼ることが必要である。しかしながら、これらのω−3リッチの魚食品添加物の資源は、主に魚類廃棄物から得ており、特に水産養殖によって生産される養殖魚の大きな増加を背景に、海洋の乱獲や混獲魚の有効利用の増大によっていよいよ乏しくなりつつある。
【0005】
この問題を解決するために、たとえば欧州特許出願公開第1346647号(A1)明細書および国際公開第03/075677(A1)号明細書では、たとえばαリノレン酸のような、中程度の長さの鎖のω−3脂肪酸が豊富な植物油またはその抽出物の給餌について記載されている。特に以下のものが生成源として挙げられている:大豆粉、小麦、ヒマワリ粉、および亜麻仁油、なたね油またはダイズ油のような特定の植物油。
【0006】
しかしながら、前述の先行技術は、上記の脂肪酸の生成源が、たとえばDHAのような長鎖ω−3脂肪酸に変換しないか、変換されても非常に限定された程度であるという点において不利である。結果として、長鎖ポリ不飽和ω−3脂肪酸をもつ養殖魚の供給不足に陥り、ひいては、魚体中の脂肪酸類の不自然な変化につながり、それは消費者によって享受されない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先行技術を考慮すると、本発明の目的は、養殖魚の中の脂肪酸類の変化に至らず、そのことによって、魚肉中の長鎖ポリ不飽和のω−3脂肪酸の自然の比率の回復および維持を達成しうる、魚の飼料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題及び、それ以上明示的には記述されないが、序文で論じられた関連事項から困難なく誘導もしくは推論される課題は、本発明の特許請求の範囲において明記された事項によって達成される。
【0009】
有益な飼料は、請求項1で明記された調製によって提供される。本発明による飼料は、発酵によって得られた少なくとも1種のバイオマス、またはそこから得られた油抽出物(それは長鎖ポリ不飽和n−3脂肪酸が豊富である)を含む。さらに、前記飼料は、通常使用される添加物、たとえば植物粉体、ビタミン、無機塩類、抗酸化剤、およびその他の当業者に周知の飼料添加物を含むことができる。
【0010】
魚の飼料として再利用できる原料をベースとしてω−3脂肪酸の主に天然の資源を利用できるようにすることによって、上記の目的は、驚くほど単純な方法で解決される。さらに、倫理的異議および魚の飼料のための魚粉の使用に反対する環境保護懸念に基づいた異議もまた、この方法で払拭される。
【0011】
したがって、とりわけ、本発明は、微生物からなるバイオマスに基づいている魚の飼料(そこでは前記バイオマスは全脂肪酸含量(TFA、全脂肪酸)に対して少なくとも20面積%のDHAを含む)に関する。特に、前記バイオマス自体は、更なる処理をしない飼料であってもよい。
【0012】
他の好ましい態様に従えば、本発明はまた、従来の飼料をDHA含有バイオマス(希釈効果のために、より高いDHA含量のバイオマスが好ましい)と混合することによって作られる。
前記バイオマスが、DHAに加えてEPAをも含む場合はさらに好ましい。また、前記バイオマスからの脂質抽出物をバイオマスの代わりに飼料として使用することもできる。この脂質抽出物は従来の飼料と混合されることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において、ω−3脂肪酸(n−3脂肪酸)は、少なくとも2個以上の二重結合(そこでは、少なくとも2個以上の二重結合の最初のものは炭素原子C3とC4の間に位置を占めている)を含む鎖長12個以上の炭素原子を持つ長鎖不飽和脂肪酸(PUFA)を意味すると受け取られる。本発明に従えば、n−3脂肪酸は、遊離脂肪酸、エステル、トリグリセリド、リン脂質、または、他の誘導体として存在することができ、あるいは、化学的または生体触媒的エステル交換反応によって、たとえば適当な酵素(リパーゼ)の助けによって、変換されたり、濃縮されたりすることができる。これらの物質の全ては、これ以降、用語n−3脂肪酸またはn−3活性体(両用語は、同義的に使用される)と略される。
【0014】
既知の中鎖または長鎖のn−3脂肪酸の例を下表に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
本発明の範囲内の優先性は、発酵によって得られたバイオマスまたはそれから得られた油抽出物に与えられ、それらはドコサヘキサエン酸およびエイコサペンタエン酸を含むが、DHAが特に好ましい。
【0017】
DHAの生成源として使用される好ましい微生物は、ストラメノパイル類(Stramenopiles)[すなわちラビリンツラ菌門(Labyrinthulomycota)]に、特に好ましくはヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)、(ヤブレツボカビ科(Thraustochytriidea))、に、とりわけシゾキトリウム属(Schizochytrium)、ヤブレツボカビ属(Thraustochytrium)およびウルケニア属(Ulkenia)に、そしてまた渦鞭毛植物門(Dinophyta)に、好ましくは海産渦鞭毛藻類(Crypthecodinium)特にC.cohniiに属する有機体であり、それらは、TFA(全脂肪酸)の少なくとも20面積%、好ましくはTFAの少なくとも30面積%、および特に好ましくはTFA DHAの少なくとも40面積%の濃度でDHAを生成するのに適している。この場合、n−3脂肪酸の生産に関して、以下の特許公報は、とりわけ、参照することによって取り入れられている:国際公開第9l/07498号、国際公開第91/11918号、国際公開第96/33263号および国際公開第98/03671号パンフレット。
【0018】
また、EPAおよび/またはDHAのさらに適当な生成源は、たとえばミドリムシ(特開昭60−l96157号公報)のような微細藻類、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)、フェオダクチルム(Phaeodactylum)、およびその他[トノン(Tonon)ら、「4種類の微細藻類における長鎖ポリ不飽和脂肪酸の生産およびトリアシルグリセロールへの配分」、『植物化学(Phytochemistry)』、2002年、p.15〜24]、あるいは、バクテリア、好ましくは、たとえばシュワネラ属(Shewanella)、ビブリオ属(Vibrio)またはモリテラ属(Moritella)[チョウ(Cho)およびモウ(Mo)、「エイコサペンタエン酸生成海洋バクテリアのスクリーニングおよび特性評価」、『バイオテクノロジー・レターズ(Biotechnology Letters)』、1999年、p.215〜21 8;特開2000−245442号公開;特開昭63−216490号公開、特開2001−309797号公開]である。
【0019】
n−3脂肪酸のさらに可能な生成源は、トランスジェニック生物、好ましくは微生物および植物である。特別の優先性は、ウルケニア属からのバイオマスまたは脂質抽出物に与えられる。
【0020】
自由に生きている動物は餌の種類の大きな多様さの複雑な混合物を食しているのに、そのような低い複雑さの(すなわち1種類の微生物のみに基づいた)組成物が、魚体中の天然脂肪酸類を保存するのに十分であることは特に驚くべきことであった。
【0021】
従って、前記バイオマスは、少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも50重量%の、そして特に好ましくは少なくとも90重量%の、極めて特に好ましくは最低99重量%のウルケニア属からなるのがよく、そして、最も好ましくは、全くウルケニア属のみからなるのがよい。
【0022】
この点で、驚くべきことに、本発明によるバイオマスの群を抜いて最良の生成源は、ウルケニア属であることが分かった。それは調査された全ての他の微生物を凌いでいる。これは、本発明によって給餌された魚の、増殖にだけでなく、活力および大部分天然の脂肪酸類にもあてはまる。
【0023】
ω−3リッチのバイオマスは、直接水産養殖における飼料として使用されるか、または従来の飼料に混ぜられる。従って、前記バイオマスの流動性は、当業者に周知の種々の方法(粉砕、乾燥比率、造粒)によって適応させられる。
【0024】
前記バイオマスは、湿った、またはやや湿った状況でも与えられる。
【0025】
脂質抽出物の場合には、通常の魚飼料との混合が好ましい。
【0026】
魚飼料は、通常水産養殖において使用される飼料であると考えられており、したがって、たとえば甲殻類に対してと同様に魚に対しても適している。
【0027】
本発明はまた、本発明による飼料で生産される、動物、特に魚および/または甲殻類に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物からなる少なくとも1種のバイオマスを含む飼料であって、前記バイオマスが、全脂肪酸含量(TFA、全脂肪酸)に対して少なくとも20面積%のDHA、および、適用可能な場合には、従来の魚飼料添加物を含む飼料。
【請求項2】
さらにEPAを含む、請求項1に記載の飼料。
【請求項3】
前記バイオマスが、少なくとも10重量%の、好ましくは少なくとも50重量%の、そして特に好ましくは少なくとも90重量%の、極めて好ましくは少なくとも99重量%のウルケニア属(Ulkenia)、そして最も好ましくはウルケニア属のみ、からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の飼料。
【請求項4】
前記バイオマスの代わりに、前記バイオマスの脂質抽出物が使用されるということを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の飼料。
【請求項5】
動物の天然脂肪酸類を保存した状態で、養殖魚及びエビ等の甲殻類を生産する方法であって、請求項1から4のいずれか1項に記載の飼料が与えられることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法によって得られる魚及び甲殻類。

【公表番号】特表2007−535955(P2007−535955A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−511991(P2007−511991)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【国際出願番号】PCT/EP2005/004745
【国際公開番号】WO2005/107493
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(506365290)ニュートリノヴァ ニュートリション スペシャリティーズ アンド フード イングリーディエンツ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【Fターム(参考)】