説明

発電機および時計

【課題】ステーターの内部に発生する磁束密度を十分に確保しつつ、コギングトルクの低減化を図ることが可能となる発電機の提供。
【解決手段】この発明は、ローター1と、ステーター2とを備えた発電機であって、ローター1はローター磁石11を有する。そして、ステーター2のローター磁石11を取り囲む部分の厚さを、ローター磁石11の厚さに比べて厚くした。具体的には、ステーター2のローター磁石11を取り囲む部分の厚さは、ローター磁石11の厚さの1.5倍以上であって5倍以下になるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子時計などの時計に適用される発電機、およびその発電機を備える時計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、時計などに適用される発電機としては、ローターと、ローターを囲むステーターとを備え、ローターに設けたローター磁石が、ステーターの一部に形成される配置孔内に回転可能に配置されるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
ところで、時計などに適用される発電機では、ステーターに巻かれているコイル(巻線)に所定の交流電圧を発生させるために、漏れ磁束を防止してステーターの内部に所定量の磁束を発生させる必要がある。また、ローターはゼンマイが解ける力を利用して回転させるようにしているので、ローターの回転動作の開始時に、ローターの回転を円滑に開始させるには、コギングトルクが小さいことが望まれる。
しかし、従来の発電機では、ステーターの内部に発生する磁束密度を十分に確保しつつ、コギングトルクの低減化を図ることができるような構造になっておらず、その解決が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−214665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の幾つかの態様の目的は、ステーターの内部に発生する磁束密度を十分に確保しつつ、コギングトルクの低減化を図ることができる発電機などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決し本発明の目的を達成するために、本発明の各態様は、以下のように構成される。
本発明の発電機の第1の態様は、ローターと、ステーターとを備えた発電機であって、前記ローターはローター磁石を有し、前記ステーターの前記ローター磁石を取り囲む部分の厚さを、前記ローター磁石の厚さに比べて厚くした。
本発明の発電機の第2の態様は、第1の態様において、前記ステーターの前記ローター磁石を取り囲む部分の厚さは、前記ローター磁石の厚さの1.5倍以上であって5倍以下である。
【0006】
本発明の発電機の第3の態様は、第1または第2の態様において、前記ローター磁石は2極の永久磁石からなり、前記ステーターはバルク状の金属ガラスからなる。
本発明の時計の態様は、発電機を備えた時計であって、前記発電機は、本発明の発電機の第1〜第3の態様のうちの何れかである。
このような構成の本発明の態様によれば、ステーターの内部に発生する磁束密度を十分に確保しつつ、コギングトルクの低減化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施形態の全体構成を示す平面図である。
【図2】図1の主要部の断面図である。
【図3】実施形態の発電効率の向上を説明する図である。
【図4】実施形態のコギングトルクの低減を説明する図である。
【図5】実施形態の効果を確認するためにシミュレーションを実施した際の発電機の構成例を示す平面図である。
【図6】図5の発電機の主要部の斜視図である。
【図7】ステーターの厚さとステーターの竿部の磁束密度の関係を示すシミュレーション結果である。
【図8】ローター角度とトルクの関係を示し、ステーターの厚さを変化させた場合における、それらの関係を示すシミュレーション結果である。
【図9】図8の結果に基づいて求めた、ステーターの厚さとコギングトルクの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
(発電機の実施形態の構成)
図1は、本発明の発電機の実施形態の構成を示す平面図である。図2は、図1の実施形態の主要部の断面図である。
本発明の実施形態に係る発電機は、例えば時計に適用されるものであり、図1に示すように、ローター1と、ローター1が回転可能に配置されるステーター2と、ステーター2の一部に巻き回されるコイル3A、3Bと、を備えている。
ローター1は、図1および図2に示すように、ローター磁石11と、ローター磁石11を取り付ける回転軸12と、を備えている。
【0009】
ローター磁石11は、中央に貫通孔を有する円筒形(円板形)の永久磁石であり、所定の径と所定の厚さh2を有する。ローター磁石11の貫通孔には、回転軸12が取り付けられている。また、ローター磁石11は、例えば2極の永久磁石であり、アルニコ磁石、フェライト磁石、ボンド磁石、サマリウムコバルト磁石、ネオジム鉄ボロン磁石などが使用でき、必要な性能、例えば保持力、最大エネルギー積などの性能やコストなどによって選択される。
回転軸12は、図示しない軸受けに回転可能に軸受けされている。また、回転軸12は、図示しないゼンマイが解ける力を利用して回転するとともに、所定速度に調整されて回転するようになっている。
【0010】
ステーター2は、図1に示すように、一対のステーター本体21、22と、継鉄23とからなる。
ステーター本体21、22の一端側には、ローター1を取り囲んで配置するために、所定の厚さh1を有するローター配置部21A、21Bを備えている(図2参照)。ローター配置部21A、21Bには、図1に示すように半円弧状の切欠き部がそれぞれ設けられ、その切欠き部によってローター配置孔24が形成されている。そして、ローター配置孔24内に、ローター1が回転可能に配置されている。また、ステーター本体21、22の他端側は、継鉄23で接続されている。ステーター本体21、22の一部には、コイル3A、3Bが巻き回されている。
【0011】
ステーター本体21、22および継鉄23の各々は、例えばバルク状(塊状)の金属ガラスからなり、金属ガラスの溶融物を鋳造によって成形したものである。金属ガラスとしては、コバルト基金属ガラス合金を使用することができる。
ここで、ステーター2は、図1の例では一対のステーター本体21、22と継鉄23とに分割されているが、これらを一体に形成するようにしても良い。この場合には、ステーター2はバルク状の金属ガラスから構成する。
このように構成される実施形態では、ゼンマイ(図示せず)が解ける力によってローター1が回転すると、この回転によってステーター2に巻き回されるコイル3A、3Bに起電力が発生する。この起電力によって図示しない制御回路が動作し、制御回路はローター1の回転速度が一定になるように調整する。
【0012】
次に、ローター磁石11の厚さと、ステーター2の厚さの関係について、図2を参照して説明する。
ステーター2のローター磁石11を取り囲む部分の厚さh1、言い換えると、ステーター2のローター配置部21A、21Bの厚さ(ローター配置孔24の長さと同じ)h1は、ローター磁石11の厚さh2よりも厚くなるように設定されている。
ここで、ステーター2のローター磁石11を取り囲む部分の厚さh1は、以下では単にステーター2の厚さh1と呼ぶことにする。
【0013】
具体的には、ステーター2の厚さh1は、ローター磁石11の厚さh2の1.5倍以上であって5.0倍以下になるように設定されている。これを式で表すと、次の(1)式のようになる。
1.5≦(h1/h2)≦5.0 ・・・(1)
例えば、ローター磁石11の厚さh2を0.3〔mm〕とし、ステーター2の厚さh1を0.6〔mm〕とした場合には、(h1/h2)=2.0となり、上記の設定条件を満たすことになる。
【0014】
(実施形態の作用効果)
次に、ステーター2の厚さh1を、ローター磁石11の厚さh2よりも厚く設定した場合の作用効果について、図3および図4を参照して説明する。
この実施形態では、発電効率が向上させることができるので、この点について図3を参照して説明する。
図3(A)に示すように、厚さh1が厚さh2よりも薄い場合には、磁束の方向は図示のようになり、ローター磁石11からステーター2に至る磁束の一部は漏れ磁束となるので、その漏れ磁束の分だけステーター2の内部における総磁束量が減少する。
【0015】
一方、図3(B)に示すように、実施形態のように厚さh1を厚さh2よりも相対的に厚くした場合には、図示のように、ローター磁石11からの磁束はステーター2の厚み方向の上下に分散してステーター2にトラップ(捕捉)されるようになる。このため、ステーター2とローター磁石11との間の空隙(エアギャップ)の磁束密度は図3(A)の場合よりも低くなるが、漏れ磁束が減少するようになる。
この結果、ステーター2の内部における総磁束量は図3(A)の場合よりも増加するので、発電効率が大幅に向上する。
【0016】
また、この実施形態では、コギングトルクを低減できるので、この点について図4を参照して説明する。
図4(A)に示すように、厚さh1が厚さh2よりも薄い場合には、磁束の方向は図示のようになり、ローター磁石11からステーター2に至る磁束の一部は漏れ磁束となる。このため、ローター磁石11とステーター2との間の磁束は、その漏れ磁束の分だけ減少するが、その間の磁束密度は比較的大きい。
【0017】
一方、図4(B)に示すように、実施形態のように厚さh1を厚さh2よりも相対的に厚くした場合には、図示のように、ローター磁石11からの磁束はステーター2の厚み方向の上下に分散してステーター2にトラップされるようになる。このため、ステーター2とローター磁石11との間の空隙の磁束密度は図4(A)の場合よりも小さくなる。
この結果、この実施形態ではコギングトルクを大幅に低減することができる。このため、ゼンマイなどの外部の力によってローター1を回転させる際に、その回転の初期に必要な力を従来に比べて大幅に低減することができる。
【0018】
(シミュレーションの結果)
次に、この実施形態の上記の作用効果を確認するためにシミュレーションを行ったので、その結果について、図5〜図9を参照して説明する。
このシミュレーションは、時計の発電機に適用した場合であり、発電機は図5および図6に示すような構成とした。
そして、ステーター2の磁気特性(材料)は(Co66FeSi1514Nb)を使用し、ローター磁石11の磁気特性(材料)は(SmCo17)を使用した。また、ローター磁石11の厚さh2は0.3〔mm〕で一定とし、ローター磁石11とステーター2との間の空隙(エアギャップ)なども一定とした。ここで、空隙は0.65〔mm〕とした。
このような条件の下で、ステーター2の厚さh1を、0.25〔mm〕、0.50〔mm〕、1.00〔mm〕、および1.50〔mm〕と順次変化させ、以下のようなシミュレーション結果を得た。
【0019】
図7は、ステーター2の厚さh1を変化させた場合に、その変化とステーター2の竿部24の磁束密度の変化の関係を示す結果である。
図7によれば、ステーター2の厚さh1が増加すると、この増加に伴ってステーター2の竿部24の磁束密度も増加することがわかる。これは、ステーター2の厚さh1を増加すると、ローター磁石11から出る磁束がステーター2の厚くなる部分でトラップされ(図3(B)参照)、その分だけ漏れ磁束が減少する。この結果、その漏れ磁束の減少分に応じて、ステーター2の竿部25の磁束密度が増加するからであると考えられる。
図8は、ローター角度(ローター磁石11の電気角)とトルクの関係を示し、ステーター2の厚さh1を変化させた場合における、それらの関係を示す結果である。図9は、図8の結果に基づいて求めた、ステーター2の厚さh1の厚さとコギングトルクの関係を示している。
【0020】
図8および図9によれば、ステーター2の厚さh1が増加すると、この増加に伴ってコギングトルクが減少することがわかる。これは、ステーター2の厚さh1を増加すると、図4(B)に示すように、ローター磁石11からの磁束はステーター2の厚み方向の上下に分散してステーター2にトラップされるようになる。
このため、ステーター2の厚さh1が増加するに伴い、ローター磁石11とステーター2との間の空隙では、図7に示すように磁束の総量が増加するが、磁束密度は減少する。本実施形態の要求性能上、ステーター2に流れる磁束量は多くする必要がないため、ステーター2を厚くすることによって増加する磁束量は一定量以上必要ない。
【0021】
そこで、ローター磁石11の着磁量を減少させて、ステーター2に流れる磁束量を一定量に調整することにより、ローター1とステーター2間の空隙部におけるより一層の磁束密度の低減が可能となり、コギングトルクを大幅に低減できる。
この例によれば、ステーター2の厚さh1が0.25〔mm〕の場合と比較すると、その厚さh1が1.50〔mm〕の場合には磁束密度を25〔%〕増加できた。また、コギングトルクは、18〔%〕程度まで低減でき、最大で82〔%〕低減できた。
【0022】
次に、上記のシミュレーションの結果に基づき、ステーター2の厚さh1と、ローター磁石11の厚さh2との関係について、以下に検討する。
この例では、ローター磁石11の厚さh2を0.30〔mm〕とした場合に、ステーター2の厚さh1の実用上の範囲を決定する場合について、図7および図9を参照して説明する。
図7によれば、ステーター2の厚さh1を0.50〔mm〕にした場合に、その厚さh1を0.30〔mm〕にした場合と比較すると、磁束密度が10%程度増加する。また、図9によれば、同じ条件の下では、コギングトルクは急激に減少する。
【0023】
このため、ローター磁石11の厚さh2が0.30〔mm〕の下で、上記の磁束密度の増加とコギングトルクの減少の両者を満足するには、h1/h2=0.50/0.30≒1.67となる。
さらに、図7によれば、ステーター2の厚さh1をさらに厚くしていけば、これに伴って磁束密度も増加していき、ステーター2の厚さh1を1.50〔mm〕にした場合には、磁束密度が図示の値になり、磁束密度の増加はその後に飽和すると推定される。
【0024】
一方、図9によれば、ステーター2の厚さh1をさらに厚くしていけば、これに伴ってコギングトルクも減少するが、ステーター2の厚さh1が1.50〔mm〕以上になると、コギングトルクの減少はなくなると推定される。
そこで、ローター磁石11の厚さh2が0.30〔mm〕で、ステーター2の厚さh1を1.50〔mm〕とすると、h1/h2=1.50/0.30=5.0となり、h1/h2の上限はh1/h2=5.0となる。
【0025】
以上の検討により、図7および図9によれば、ローター磁石11の厚さh2が0.30〔mm〕の場合には、ステーター2の厚さh1と、ローター磁石11の厚さh2の関係は以下の(2)式に示す範囲が実用的な範囲となる。
1.67≦(h1/h2)≦5.0 ・・・(2)
ここで、図7や図9に示すシミュレーションの結果は、ローター磁石11の厚さh2が0.30〔mm〕の場合であるが、例えばローター磁石11の厚さh2を0.20〔mm〕あるいは0.40〔mm〕のように増減する場合には、同じような傾向の結果が得られると推定される。一方、時計の発電機では、薄型化、小型化が要請されるので、ステーター2の厚さh1を考慮する必要がある。さらには、h1/h2の設定には、ある程度の余裕を持たせる必要がある。
【0026】
そこで、これらの点を勘案し、この実施形態では、ステーター2の厚さh1と、ローター磁石11の厚さh2の関係は、上述の(1)式を満たすようにした。
以上をまとめると、h1/h2の決定には、以下の点を考慮すれば良い。すなわち、ステーター2の内部の磁束密度の増加が飽和しない有効な範囲(図7参照)、ステーター2の厚さh1を厚くしてもコギングトルクの減少が一定とならない有効な範囲(図9参照)、および時計の構造上ステーター2の厚さh1が必要以上に厚くならない実用的な範囲を考慮して決定すれば良い。
【0027】
(時計の実施形態)
次に、本発明の時計の実施形態について説明する。
この実施形態に係る時計は、上記の実施形態に係る発電機、この発電機のローター1を回転させるためのゼンマイ(図示せず)、発電機が発生する起電力(電圧)によって駆動する制御回路(図示せず)など、を備えている。
このような構成の時計では、ゼンマイが解ける力によって発電機のローター1が回転すると、この回転によってステーター2に巻き回されるコイル3A、3Bに起電力が発生する。この起電力によって制御回路が動作し、制御回路はローター1の回転速度が一定になるように調整する。
このように、実施形態に係る時計では、上述したようにコギングトルクが低減された発電機を備えるようにした。このため、ゼンマイの力によってローター1を回転させる際に、その回転の初期に必要な力を従来に比べて大幅に低減することができる。
【符号の説明】
【0028】
1・・・ローター、2・・・ステーター、3A、3B・・・コイル、11・・・ローター磁石、12・・・回転軸、21、22・・・ステーター本体、21A、22A・・・ローター配置部、23・・・継鉄、24・・・ローター配置孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローターと、ステーターとを備えた発電機であって、
前記ローターはローター磁石を有し、
前記ステーターの前記ローター磁石を取り囲む部分の厚さを、前記ローター磁石の厚さに比べて厚くしたことを特徴とする発電機。
【請求項2】
前記ステーターの前記ローター磁石を取り囲む部分の厚さは、前記ローター磁石の厚さの1.5倍以上であって5倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の発電機。
【請求項3】
前記ローター磁石は2極の永久磁石からなり、前記ステーターはバルク状の金属ガラスからなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の発電機。
【請求項4】
発電機を備えた時計であって、
前記発電機は、請求項1乃至請求項3のうちの何れか1項に記載の発電機であることを特徴とする時計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−206873(P2010−206873A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46879(P2009−46879)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】