説明

発電装置付電子時計

【課題】回転錘車から切換車への増速比を大きくしても、切換車での軸部と切換歯車との間での摩耗を少なくでき、従来のような連結装置を省いて薄型化でき、かつ切換車内での負荷変動を小さくして耐久性を向上させることができる発電装置付電子時計の提供。
【解決手段】回転錘1と一体で回転する回転錘車2と、ロータ6の回転によって発電する発電装置5と、回転錘車2の回転をロータ6に伝達してロータ6を一方向に回転させる切換車3とを備え、切換車3は、回転錘車2の回転が伝達されるラチェット車19と、このラチェット車19が一体に設けられた切換車真20と、切換車真20の軸部22に対して回転自在に挿入された切換歯車23と、この切換歯車23に設けられてラチェット車19の回転方向を規制する切換爪26とを備え、軸部22には摩擦係数低減手段としてのルビー製の石25を介して切換歯車23が軸支されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電装置付電子時計に関する。
【背景技術】
【0002】
発電装置付電子時計では、回転錘の回転を発電装置のロータに伝達して発電し、この発電による電気エネルギでステップモータを動作させ、ステップモータで輪列を駆動して運針させている。また、発電装置付電子時計の中には、回転錘の回転による発電に加えて、巻真を回転させることで前記ロータを回転させ、よって発電させる構成のものもある。巻真操作と回転錘の回転の両方により発電する構成では、巻真操作時に巻真の回転が回転錘側に伝達するのを防止する必要があり、また、回転錘がいずれの方向に回転した場合でもロータを所定方向に回転させる必要がある(巻真操作は通常、一方向への回転操作が一般的である)。従って、このような要求を満足させるためには、回転錘車と噛み合う一対の切換車を配置することが行われる(例えば特許文献1)。
【0003】
この切換車は、回転錘車と噛み合うラチェット車と、ラチェット車と同軸上で回転する切換歯車とを備え、切換歯車上にはラチェット車の回転方向を規制する切換爪が設けられている。そして一対の切換車では、ラチェット車によるロック方向が互いに反対とされているとともに、互いの切換歯車同士が噛み合い、かつ一方の切換車の回転が連結装置を介してロータに伝達される。このような構成では、回転錘がいずれの方向に回転してもロータを一定の方向に回転させることが可能である。そして、この一方の切換歯車に巻真操作側の手巻発電輪列を噛み合わせることで、巻真の回転が回転錘に伝わらないようにすることが可能である。なお、巻真の回転が回転錘に伝達されないようにする構成は、揺動車や適宜な滑り機構を用いることで実現できる。
一方、回転錘の回転をロータに伝達する増速輪列中の車には、かなを有する軸部とこれに嵌め込まれる歯車との間に摩擦力による滑り機構を設け、時計の落下時のように衝撃が加わった場合には、回転錘で生じる衝撃付加トルクが滑り機構以降に伝達されないようにし、動力伝達部の耐衝撃性能を向上させることも知られている(特許文献2)。
【0004】
【特許文献1】特許第3607359号公報
【特許文献2】特許第2586358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1で用いられている切換車では、ラチェット車の軸部と切換歯車との摩耗を少なくするために、回転錘車からラチェット車への間の増速比をさほど大きくしない設定になっており、増速比が小さいことで回転速度が上がらない分を連結装置で補っている。すなわち、特許文献1では、回転錘の機械的エネルギを連結装置のばねに徐々に蓄積した後、所定量のエネルギが蓄えられた時点でばねを一気に開放することにより、発電装置のロータを高速回転させて十分な発電が行われように構成されている。
しかしながら、連結装置を用いると、特許文献1の図からもわかるように、時計の厚みが非常に大きくなり、小型化が阻害されるという問題がある。
【0006】
また、回転錘車からラチェット車への間の増速比を小さくしているので、回転錘からの機械的エネルギを連結装置に効率よく蓄積するためには、回転錘の僅かな振れでラチェット車を確実にロックさせる必要があり、切換爪の数を多くすることが求められる。
しかし、切換爪の数が多いと、ラチェット車のロックされない方向への回転時には、切換爪をラチェット車が頻繁に乗り越えていくことになり、切換車内での負荷変動が大きくなって耐久性が低下するという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、回転錘車から切換車への増速比を大きくしても、切換車での軸部と切換歯車との間での摩耗を少なくできるとともに、従来のような連結装置を省いて薄型化でき、かつ切換車内での負荷変動を小さくして発電性能を向上させながら耐久性をも向上させることができる発電装置付電子時計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発電装置付電子時計は、回転錘と一体で回転する回転錘車と、ロータの回転によって発電する発電装置と、回転錘車の回転を増速して前記ロータに伝達し、かつ当該ロータを一方向に回転させる切換車とを備えた発電装置付電子時計であって、前記切換車は、前記回転錘車の回転が伝達されるラチェット車と、このラチェット車が一体に設けられた切換車真と、切換車真の軸部に対し摩擦係数低減手段を介して回転自在に軸支された切換歯車と、この切換歯車に設けられて前記ラチェット車の回転方向を規制する切換爪とを備え、前記摩擦係数低減手段は、前記切換歯車と一体に回転するとともに、当該摩擦係数低減手段と前記軸部との間には隙間が形成されていることを特徴とする。
ここで、摩擦係数低減手段としては、前記軸部よりも硬質な非磁性材料、例えば、ルビーなどによる石や、各種のベアリング等を採用できる。また、第1に、摩擦係数低減手段と軸部との間の隙間には注油が施されていることが好ましく、第2に、摩擦係数低減手段の軸受部分の内周面(軸部との接触面)の硬さは、軸部表面よりも硬いことが好ましい。さらに、第3には、軸部表面は鏡面仕上げされていることが好ましく、第4には、摩擦係数低減手段と軸部とは周方向に沿って互いに線接触していることが好ましい。
【0009】
このような本発明によれば、軸部と切換歯車との間に摩擦係数低減手段が介装されるので、回転錘車から切換車への増速比を大きくしても、軸部および切換歯車間相互の摩耗を良好に抑制できる。また、従来のような連結装置を用いなくとも摩耗を防止できるので、時計自身の小型化を促進できる。しかも、増速比を大きくすることにより、僅かな回転錘の振れでラチェット車を確実にロックできるので、ラチェット車の歯数あるいは切換爪の数(特許文献1のような構造の場合)を少なくでき、このことにより、ラチェット車の歯を切換爪が乗り越える際の軸部への負荷変動を軽減でき、耐久性を向上させることができる。さらに、本発明では、摩擦係数低減手段と軸部との間には隙間が形成されているので、前記特許文献2に記載されたような、「摩擦力によるスリップ機構」(軸部およびばね性を有した歯車は圧入固定されている)を採用した場合に比べて、軸部および歯車間相互の寸法公差を大きくとることができ、部品を容易に製造でき、組み立ても簡単にできる。
【0010】
なお、摩擦係数低減手段としてルビーなどの石を用いた場合には、時計の裏蓋を内部視認可能な材料、例えば透明ガラスなどで形成することが望ましく、このような場合には、ルビーを直接視認できる構造では勿論であるが、直接視認できない構造であっても、ルビーから放たれる紅色を帯びた光が切換歯車やラチェット車に反射し、その反射した紅色光により部品の周囲に優美性を醸し出すことができ、時計としての装飾性を向上させることができる。特にルビーが切換歯車と一体で回転することによる優美さは格別であり、周囲の機械的な動きに連動して回転することで、機械部品とは思えないほど調和のとれた気品の良さを付与できる。
【0011】
本発明の発電装置付電子時計において、前記ラチェット車は、前記回転錘の回転角度(振れ角度)にして2〜18°の範囲内で前記切換爪によりロックされることが望ましい。
このような本発明によれば、回転錘が少なくとも18°以上の角度で回転することで、その回転をロータに伝達して発電できるため、発電性能を確実に維持できる。18°を越えてもラチェット車がロックされないようでは、回転錘が極端に大きく振れることの少ない日常生活中において、回転錘の回転が思うようにロータに伝達されず、発電を効率よく行うことができない。反対に、2°よりも少ない回転角度でロックされてしまうと、回転錘の慣性力が十分でない状態でロックされることになり、回転錘エネルギによる適正な誘起電圧が得られない可能性がある。
【0012】
本発明の発電装置付電子時計において、前記切換車真には、前記回転錘車と噛み合う切換かなが設けられ、前記ラチェット車の歯は円弧歯形とされ、前記切換爪の一端は付勢ばねに押圧され、かつ他端は当該付勢ばねにより前記ラチェット車の歯面に付勢されていることを特徴とする。
このような本発明では、前記特許文献1のような構成とは異なり、回転錘車が直接ラチェット車と噛み合うことがない。従って、ラチェット車の歯形状をなだらかな円弧状にでき、切換爪がラチェット車の歯を乗り越える際の負荷をより低減できる。
【0013】
本発明の発電装置付電子時計では、前記切換歯車は非磁性材料で形成されていることが望ましい。
ここで、非磁性材料としては、銅系の金属材料や合成樹脂等を一般的に採用できる。
発電装置のロータに回転を伝達する切換歯車は、比較的ロータに近い位置に配置されることになるが、このような切換歯車が磁性材料で形成されていると、電磁変換機からなる発電装置の磁気回路近傍に磁性材が存在することになるから、発電装置本来の磁気回路以外に、その磁性材との間で磁束が閉じるようになり、切換歯車のコギングトルクが大きくなるうえ、本来の磁気回路の総磁束数が減って発電性能が低下する。従って、切換歯車を非磁性材料にて形成することにより、このような問題が生じるのを防止できる。
なお、ラチェット車や切換爪も非磁性材料にて形成されることが望ましい。一方で、時計がより小型になると、ラチェット車や切換爪は、強度上の問題から鉄系材料を選択しなくてはならない。その場合は、ラチェット車の回転軌跡や切換爪の回転軌跡径は、切換歯車の回転軌跡径よりも小さいことが望ましく、さらに、前記発電ロータのロータ磁石の回転軌跡径と平面的に重ならないようになっていることが望ましい。
【0014】
本発明の発電装置付電子時計では、前記回転錘車および互いの切換歯車同士が噛み合う一対の前記切換車を備えた自動巻発電輪列と、巻真操作により一方の切換車を回転させる手巻発電輪列とを備えていることを特徴とする。
このような本発明では、自動巻発電輪列により自動的に発電が行われるのに加え、巻真操作による手動操作によっても、手巻発電輪列を介して発電できる。しかも、切換車を一対備えることで、巻真操作によって回転錘が回転するのを確実に防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、切換車の軸部での摩耗負荷が石やベアリングなどの摩擦係数低減手段によって低減するので、回転錘車から切換車への間の増速比を大きくしても、軸部と切換歯車との間での摩耗を抑制できる。また、増速比を大きくできることで、従来のような連結装置を用いなくとも発電装置のロータを十分に高速で回転させることができ、連結装置を不要にして薄型化を実現できる。しかも、増速比が大きいことにより、回転錘の僅かな振れで切換車側の回転量を確実に稼ぐことができるので、ラチェット車の歯数を少なくでき、切換車内での負荷変動を小さくして耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係る発電装置付電子時計(以下、電子時計と称する)の要部を模式的に示す平面図。図2,図3は、電子時計を示す断面図である。
電子時計は、回転錘1と一体で回転する回転錘車2を備えており、回転錘車2の回転が一対の切換車3,4に伝達され、その回転が一方の切換車3から発電装置5のロータ6に伝達され、発電が行われる。このような回転錘車2および切換車3,4により自動巻発電輪列が構成される。この自動巻発電輪列は、回転錘1側から見て増速輪列である。
【0017】
ここで、発電装置5は電磁変換機であり、ロータ6の回転により生じるコイル5Aでの誘起電圧は、トランジスタを用いた図示しない同期整流回路にて整流される。整流された電荷は二次電池に蓄えられ、二次電池で蓄えられた電荷により回路ブロック上の制御回路や、運針用のステップモータが駆動される。このような発電装置5はまた、製品仕様から決まってくる回転錘バランス量(回転錘エネルギ)に、ロータ6の引きトルク(コギングトルク)+発電時の電磁ブレーキによるトルク+機械損失(ほぞ摩擦等)が打ち負けることで、適正な誘起電圧が得られるような設定となっている。
【0018】
運針用のステップモータは、通常の電子時計に用いられるものと同じであるため、ここでの詳細な図示および説明を省略する。そして、そのようなステップモータで駆動される駆動輪列が図2に示されている。駆動輪列は、前記ステップモータのロータと噛み合う五番車7を備え、五番車7の回転が秒車(四番車)8に伝達される。この秒車8には秒針が取り付けられる。秒車8の回転は三番車9を介して秒車8と同軸の二番車10に減速して伝達される。この二番車10の筒かなには分針が取り付けられる。二番車10の回転はさらに、日の裏車を介して筒車11に減速して伝達される。筒車11には時針が取り付けられる。このような輪列構成も通常の電子時計と同じである。さらに、電子時計の裏蓋1Aは、ガラス部分を有しており、内部のムーブメントが視認可能になっている。
【0019】
また、本実施形態の電子時計では、回転錘1による回転の他、巻真操作によってもロータ6を回転させ、よって発電させることが可能である。図1、図3には、そのような巻真操作によって発電させるための手巻発電輪列が示されている。手巻発電輪列は、巻真12の回転操作によって回転するきち車13を備えている。きち車13の回転は、丸穴車14を介して揺動車15に伝達され、揺動車15の回転が第一手巻伝え車16に伝達され、第一手巻伝え車16の回転は、第二手巻伝え車17および第三手巻伝え車18を介して自動巻輪列の切換車3に伝達される。このような手巻発電輪列も巻真12側から見て増速輪列である。
【0020】
この手巻発電輪列において、揺動車15は、巻真12の一方向への回転時にのみ第一手巻伝え車16のかな16Aと噛み合うようになっている。具体的には、揺動車15が取り付けられた受け29にはスリット29Aが設けられており、このスリット29A内に揺動車15の支持軸15Aが摺動自在に嵌め込まれている。従って、図1の場合でいえば、巻真操作により丸穴車14が反時計方向に回転した場合には、揺動車15が時計方向に回転しながら第一手巻伝え車16の中心側に移動し、かな16Aと噛み合う。一方、第一手巻伝え車16が自動巻発電輪列側からの駆動により時計方向に回転すると、揺動車15が反時計方向に回転しながらかな16Aから離間し、第一手巻伝え車16との噛み合いが外れる。このような構成により、回転錘1の回転が巻真12に伝達されないようになっている。
【0021】
図4には自動巻発電輪列が拡大して示されており、図5には自動巻発電輪列の切換車3,4の断面が示されている。切換車3,4のそれぞれは、ラチェット車19が一体に形成された切換車真20を備えており、この切換車真20に設けられた筒状部20Aには、切換かな21Aが形成されたかな部材21が挿入されている。従って、切換かな21Aとラチェット車19は一体で回転する。切換車真20の軸方向の略中央に形成された軸部22には、切換歯車23が当該軸部22に対して回転自在に挿入されている。この切換歯車23の図5中の下面は、切換車真20に圧入された切換歯車座24で受けられている。
【0022】
この際、切換歯車23の打込穴23A内には、軸部22よりも硬質な非磁性材料からなる部品が設けられる。本実施形態では、ルビーからなる環状の石(摩擦係数低減手段)25が打ち込まれており、切換歯車23が石25と一体で軸部22周りを隙間を有した状態で回転する。石25の内周面25Aは、中央に向かって突出したなだらかな曲面で形成され、内周面25Aと軸部22の表面とは互いに略線接触している。このことにより、3部品(切換車真20、かな部材21、切換歯車23)の軸心間に加工誤差によるずれが生じても、このずれを良好に吸収することができる。また、石25よりも軟質な非磁性材料が使用される切換歯車23にそのような石25が打ち込まれていることで、軸部22および切換歯車23の摩耗を格段に抑制でき、耐久性を大幅に向上させることができる。さらに、切換歯車23および石25として、共に非磁性材料が使用されているので、コイル5Aからの磁束が切換車3,4に流れることが抑止されて、発電効率をあげることができる。
なお、ラチェット車19や切換爪26も非磁性材料にて形成されることが望ましい。一方で、電子時計がより小型になると、ラチェット車19や切換爪26は、強度上の問題から鉄系材料を選択しなくてはならない。その場合は、ラチェット車19の回転軌跡や切換爪26の回転軌跡径は、切換歯車23の回転軌跡径よりも小さいことが望ましい。そして、ラチェット車19の回転軌跡や切換爪26の回転軌跡径は、回転軸方向からみてロータ6のロータ磁石の回転軌跡径と平面的に重ならないようになっていることが望ましい。
【0023】
従来、高速回転するロータは、回転時に中に浮いた状態で回転できるようにほぞ部分のあがきが設定されており、高速回転に対応した耐久性が十分に確保されている。詳細には、適正なあがき設定がなされていることで、高透磁率材料からなるステータとロータ磁石との間に発生する磁力のつり合いによりロータが浮いた状態になり、高速回転に対応できるのである。本実施形態でのロータ6でも同様である。すなわち、図2に示すように、ロータ6のほぞ部分には、上あがきS1、下あがきS2が設定されている。しかしながら、従来では、ロータに回転を伝達する切換車は、ロータに次いで高速回転するのにもかかわらず、切換歯車と軸部との摩耗等については全く考慮されていなかった。
【0024】
そこで、本実施形態では、切換歯車23に石25を打ち込んで軸部22に対する摩擦係数を小さくし、切換歯車23および軸部22間相互の摩耗を抑制して耐久性を向上させている。加えて、切換車3,4において、切換歯車23のあがきは、石25とこれに軸方向に対向する面との間で決められており、この点でも軸部22側の摩耗を確実に抑制できるようになっている。さらに、切換車真20は径寸法の大きい筒状部20Aを有し、この筒状部20Aがボールベアリング40で支持されているので、切換車3,4の高速回転時の摩擦が極めて小さい。以上の構成により、高速回転する切換車3,4を有した自動巻発電輪列や、これに連結された手巻発電輪列などにおいては、輪列全体の信頼性を向上させることができる。
【0025】
さらに、本実施形態において、軸部22周りには注油が施されている。ラチェット車19の下面と石25との間の隙間Aは、石25の内周面と時億部22表面との間の隙間Bよりも大きくなっており、潤滑用の油が毛細管現象により隙間Bの方に流動しやすく、軸部22と石25との間を確実に潤滑して耐摩耗性を一層向上させている。また、軸部22の表面粗さは0.1Sより小さく、本実施形態では鏡面仕上げされており、この点でも耐摩耗性の向上が図られている。なお、軸部22は炭素工具鋼(SK材)で、表面硬度はHv硬度で700〜800Hv、これに対してルビー製の石25の表面硬度は1800〜2200Hvである。
【0026】
さて、切換車3,4を構成する切換歯車23は、回動自在な切換爪26と、切換爪26の一端を押圧し、かつ他端をラチェット車19の歯面に対して付勢する付勢ばね27を備えている。ラチェット車19が形成された切換車真20、かな部材21、切換爪26、および付勢ばね27を固定する固定ピン28,29はそれぞれ、鉄系の材料で形成されている。付勢ばねは、例えばコエリンバー合金製である。ロータ6に近接している切換歯車23および切換歯車座24は、非磁性材である銅系の材料で形成されている。ラチェット車19の歯形は円弧歯形であり、その表面を切換爪26の他端が滑動する。本実施形態では、ラチェット車19の歯数は6枚であり、歯数が多過ぎるとなだらかな円弧歯形を実現するのが困難となり、切換爪26がラチェット車19の歯を乗り越えるのに要するトルクが大きくなって軸部22にかかるトルク変動(軸負荷)が大きくなる。
【0027】
また、本実施形態では、回転錘車2から各切換車3,4への増速比が10/1〜15/1に設定され、切換車3からロータ6への増速比が7/1に設定されている。従って、回転錘車2からロータ6までは70/1〜105/1の増速比である。発電装置付電子時計では、回転錘車2からロータ6までの増速比は、30/1〜200/1に設定されることが望ましい。
【0028】
さらに、回転錘車2から各切換車3,4への増速比が10/1に設定され、かつラチェット車19の歯数が6枚とされている本実施形態では、回転錘1が少なくとも4〜6°回転することで必ず切換爪26がラチェット車19をロックすることになる。電子時計を腕にはめて日常生活をおくる場合、回転錘1が少なくとも18°回転する中でラチェット車19をロックさせることが望まれる。この4〜6°振れることでロックする構成は、実用携帯試験を行った結果、腕時計サイズの発電装置付電子時計に好適であることが確かめられた。18°を越えてロックするようでは、回転錘1の回転がロータ6に伝わり難くなり、回転錘1の無駄な振れが多くなって発電効率が低下する。また、2°より小さい回転角度でロックしてしまうと、回転錘1の慣性力が小さいうちにロックされることになるため、ロータ6を良好に回転させることができず、発電効率が低下する。従って、4〜6°振れることでロックする本実施形態では、良好な発電効率を実現できるといえる。
【0029】
このような自動巻初電輪列において、切換車3,4に設けられたラチェット車19の回転規制方向は互いに反対方向であり、この構成によって回転錘1がいずれの方向に回転した場合でも、ロータ6を常に一方向に回転させることが可能である。例えば図4において、回転錘1が時計回りに振れると、切換車3では切換かな21Aを介してラチェット車19が反時計方向に回転し、ラチェット車19が切換爪26でロックされないことで、ラチェット車19の回転は切換歯車23には伝わらない。
【0030】
また、回転錘1が時計方向に回転している場合には、切換車4においても、ラチェット車19が反時計方向に回転する。そして、この切換車4ではラチェット車19の規制方向が切換車3と異なるために、ラチェット車19と同期して切換歯車23も反時計方向に回転する。従って、この回転が切換車3側の切換歯車23に伝達され、切換歯車23が時計方向に回転し、ロータ6が反時計方向に回転して発電する。
【0031】
一方、回転錘1が反時計方向に振れた場合、切換車3では切換かな21Aを介してラチェット車19が時計方向に回転し、ラチェット車19は切換爪26でロックされて切換歯車23も時計方向に回転する。これにより、ロータ6は、先程と同様に反時計方向に回転して発電する。また、回転錘1が反時計方向に回転すると、切換車4側ではラチェット車19が時計方向に回転するが、その回転はロックされないので、切換歯車23に伝達されない。その代わり、切換歯車23は切換車3側の切換歯車23によって反時計方向に回転することになる。
【0032】
ところで、切換車3側における切換歯車23の時計方向の回転は、手巻発電輪列の第三手巻伝え車18を反時計方向に回転させ、第二手巻伝え車17を介して第一手巻伝え車16を反時計方向に回転させる。このため、この第1手巻伝え車16のかな16Aに揺動車15が噛み合うことはなく、回転錘1の回転は自動巻発電輪列側から巻真12には伝達されず、回転錘1が振れても巻真12が回転することはない。
【0033】
これに対して、切換車3側での切換歯車23の時計方向の回転は、手巻発電輪列側からの回転が伝達された場合の回転方向と同じでもある。つまり、揺動車15が第一手巻伝え車16と噛み合うように巻真12を回転させると、手巻発電輪列の第三手巻伝え車18は最終的に、反時計方向に回転することになり、切換車3の切換歯車23を時計方向に回転させ、ロータ6を反時計方向に回転させて発電する。
【0034】
しかし、第三手巻伝え車18により切換歯車23を時計方向に回転させた場合には、切換爪26がラチェット車19の歯を乗り越えるだけであるから、ラチェット車19に回転が伝達されず、切換かな21Aを介して回転錘1が回転することはない。同様に、切換車3の切換歯車23と噛み合っている切換車4側の切換歯車23は、切換車3側から伝達される回転により反時計方向に回転するのであるが、この場合もやはり、切換爪26がラチェット車19の歯を乗り越えるだけであり、切換車4側からも回転錘1が回転することはない。すなわち、手巻発電輪列側からの回転で回転錘1が回転することもない。
【0035】
ところで、巻真操作による発電中において、回転錘1は手巻発電輪列側からの回転で振れることはないが、回転錘1自身の機能によっていずれかの方向に振れることはある。しかしながら、このような場合には、回転錘1が自らいずれの方向に回転した場合でも、結果的に切換車3の切換歯車23を時計方向に回転させることには変わりないので、結果として巻真操作による発電をアシストすることになる。
【0036】
本実施形態の電子時計ではさらに、回転錘車2が環状のばね部材30(図1)で付勢されることで、回転錘1と一体で回転するようになっている。このようなばね部材30は常に回転錘1と一体で回転するように軸側に固定されており、発電装置5のロータ6が破損するのを防止する機構として作用する。すなわち、落下等の衝撃により回転錘1が急激に振れた場合など、回転錘1およびばね部材30は共に、ばね部材30の付勢力を越えて回転するため、回転錘車2に対して空回りすることになる。従って、急激な振れがロータ6まで伝達されず、ロータ6が破損するのを防止できる。
【0037】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、回転錘車2とロータ6との間には、一対の切換車3,4が設けられていたが、さらに中間車を追加した構成であってもよい。また、切換車が一つのみ設けられ、回転錘の一方向の回転のみがロータに伝達される場合でも、本発明に含まれる。
【0038】
さらに、前記実施形態では、切換歯車23には石25が打ち込まれていたが、図6に示すように、軸部22と切換歯車23との間にベアリング41を配置することで、摩耗を抑制する構造であってもよい。つまり、このベアリング41が本発明に係る摩擦係数低減手段である。そして、この場合、ボールとボールとの間に形成される隙間がそのまま軸部22とベアリング41との間に形成される隙間となり、この隙間がすなわち請求項1の発明での「隙間」に相当する。
また、前記実施形態のように石25が用いられる場合、軸部22と接触する石25の内周面には、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)処理等の硬質皮膜が施されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、切換車を介して回転錘の回転がロータに伝達されるように構成された発電装置付電子時計に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係る発電装置付電子時計の要部を示す平面図。
【図2】発電装置付電子時計を示す断面図。
【図3】発電装置付電子時計の別の部位を示す断面図。
【図4】自動巻発電輪列を拡大して示す平面図。
【図5】切換車を拡大して示す断面図。
【図6】本発明の変形例を示す得断面図。
【符号の説明】
【0041】
1…回転錘、2…回転錘車、6…ロータ、5…発電装置、3,4…切換車、19…ラチェット車、20…切換車真、21A…切換かな、23…切換歯車、25…摩擦係数低減手段である石、26…切換爪、27…付勢ばね、41…摩擦係数低減手段であるベアリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転錘と一体で回転する回転錘車と、ロータの回転によって発電する発電装置と、回転錘車の回転を増速して前記ロータに伝達し、かつ当該ロータを一方向に回転させる切換車とを備えた発電装置付電子時計であって、
前記切換車は、前記回転錘車の回転が伝達されるラチェット車と、このラチェット車が一体に設けられた切換車真と、切換車真の軸部に対し摩擦係数低減手段を介して回転自在に軸支された切換歯車と、この切換歯車に設けられて前記ラチェット車の回転方向を規制する切換爪とを備え、
前記摩擦係数低減手段は、前記切換歯車と一体で回転するとともに、当該摩擦係数低減手段と前記軸部との間には隙間が形成されている
ことを特徴とする発電装置付電子時計。
【請求項2】
請求項1に記載の発電装置付電子時計において、
前記ラチェット車は、前記回転錘の回転角度にして2〜18°の範囲内で前記切換爪によりロックされる
ことを特徴とする発電装置付電子時計。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の発電装置付電子時計において、
前記切換車真には、前記回転錘車と噛み合う切換かなが設けられ、
前記ラチェット車の歯は円弧歯形とされ、
前記切換爪の一端は付勢ばねに押圧され、かつ他端は当該付勢ばねにより前記ラチェット車の歯面に付勢されている
ことを特徴とする発電装置付電子時計。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の発電装置付電子時計において、
前記切換歯車は非磁性材料で形成されている
ことを特徴とする発電装置付電子時計。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の発電装置付電子時計において、
前記回転錘車および互いの切換歯車同士が噛み合う一対の前記切換車を備えた自動巻発電輪列と、
巻真操作により一方の切換車を回転させる手巻発電輪列とを備えている
ことを特徴とする発電装置付電子時計。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の発電装置付電子時計において、
前記摩擦係数低減手段の軸受部分の内周面の硬さが前記軸部の表面の硬さよりも硬いか、前記軸部の表面が鏡面仕上げされているか、前記摩擦係数低減手段と前記軸部とは周方向に沿って互いに線接触しているかのうち、少なくともいずれか1つの事項が適用されている
ことを特徴とする発電装置付電子時計。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の発電装置付電子時計において、
前記摩擦係数低減手段はルビー製の石であるとともに、
裏蓋は時計内部を視認可能なガラス部分を有している
ことを特徴とする発電装置付電子時計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−76301(P2008−76301A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257679(P2006−257679)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】