説明

直流き電電源の過電流保護装置

【課題】過電流の検出感度を高め、確実な保護を行うことができる。
【解決手段】定電圧源としての電力貯蔵装置を直流き電変電所に並列に設置し、電力貯蔵装置および直流き電変電所の出力電流を個別に遮断できるき電遮断器2,5と保護継電器6,7を設けた直流き電電源の過電流保護装置であって、変換器10は電力貯蔵装置および直流き電変電所の出力電流を個別に検出する電流検出器8,9の出力電流を加算した電流を求め、保護継電器は変換器の変換出力を基に保護演算をそれぞれ個別に行い、き電遮断器を個別にトリップする。
変換器は、電流検出器の出力電流の加算値を、両保護継電器の入力範囲にスケール変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力貯蔵装置などを直流き電変電所に並列に設置した直流き電電源に係り、特に直流き電系統の過電流保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直流き電系統の事故には、き電線の地絡事故や過電圧などがあり、これら事故の種別にそれぞれ対応できる保護装置が設けられている。例えば、地絡事故には過電流検出と過電流方向によって事故点を特定およびそれを含む区間のき電遮断器の開放を行う保護装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
定電圧源としての電力貯蔵装置を直流き電変電所に並列に設置した直流き電電源は、電力貯蔵装置によって、き電変電所の交流電源に対する負荷平準化を図ったり、電気車からの回生電力を電力貯蔵装置の充電電力として蓄積することで電力の有効利用を図ることができる。
【0004】
この電力貯蔵装置を直流き電変電所に並列に設置した直流き電電源の過電流保護装置としては、き電変電所の出力フィーダ電流検出による過電流保護装置と、電力貯蔵装置出力電流検出による過電流保護装置がある。
【特許文献1】特開2000−333359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のように、定電圧源としての電力貯蔵装置を直流き電変電所に並列に設置した直流き電電源では、き電系統で発生した事故への事故電流供給はき電変電所と電力貯蔵装置に分流される。この為、電力貯蔵装置の充電状態等によって、双方が担う事故電流の比率がその都度異なるため、事故判定のための電流検出感度の低減、更には事故を検出できない場合がある。
【0006】
このことを詳細に説明する。図2は、従来の直流き電電源の要部構成を示し、電圧制御機能を持たないシリコン整流器1とき電遮断器(54F)2で主回路を構成する直流き電変電所に並列に、電力貯蔵媒体3と電圧制御用チョッパ4およびき電遮断器(54CP)5で主回路を構成する電力貯蔵装置を設置する。なお、電力貯蔵媒体3は、例えば電気二重層キャパシタや二次電池とされる。また、電圧制御用チョッパ4は、例えば半導体パワー素子で昇降圧チョッパに構成され、電力貯蔵媒体3の充放電を可能にする。
【0007】
図2の構成において、電圧制御用チョッパ4で電力貯蔵装置の出力電圧を一定に制御する場合、個別に運転(直流き電変電所を停止して電力貯蔵装置のみ運転、または逆に電力貯蔵装置を停止して直流き電変電所のみ運転)する状態では、各々の機器を保護するために、き電用遮断器2、5を個別に設け、保護継電器(50F)6、(50CP)7も個別に設ける。8、9は電流検出器であり、例えばホール素子で構成され、電流Is、Icpをそれぞれ電圧信号で検出する。
【0008】
しかし、直流き電変電所と電力貯蔵装置を同時に運転した場合には、き電系統での事故発生時に直流き電変電所と電力貯蔵装置に事故電流が分担され、各々の保護継電器が動作しない状態が発生する。図2において、短絡故障点には直流き電変電所から電流Isが流れ、電力貯蔵装置から電流Icpが流れ、故障点には(Is+Icp)の電流が流れる。この時、電流Isはき電変電所の内部抵抗により決定され、電流Icpは電力貯蔵装置の性能と電力貯蔵媒体の残存容量によって決まる。
【0009】
しかし、電力貯蔵装置の残存容量は放電とともに減少するため、Icpも減少する。電力貯蔵装置の残存容量が放電を行う容量以下となった場合に電力貯蔵装置は出力を停止し、直流き電変電所出力電流のみとなる。
【0010】
上記のように、電力貯蔵装置が運転中は事故電流が分担され、き電変電所の電流Isが減少しているため、保護継電器(50F)6では事故検出が不可能となり、同様に、保護継電器(50CP)7側も事故検出が不可能となり、電力貯蔵装置が停止してから保護を行うこととなり、検出遅れが発生し、ケースによっては保護ができない場合が生じる。
【0011】
保護継電器(50F)6,(50CP)7が共に動作しない場合を、図3に示す電気回路定数の例を参照して具体的に説明する。図3に示す回路定数では下記の式が成立する。
【0012】
(a)電圧制御用チョッパ4の1次側電力と2次側電力は等しい。したがって、Vc×Ic=Vcp×Icp…(1)
(b)直流き電変電所から故障点を見た場合の電圧、電流は、1620V=Is×0.06+0.465×(Is+Icp)+300V…(2)
(c)電力貯蔵装置から故障点を見た場合の電圧、電流は、Vcp=0.465×(Is+Icp)+300V…(3)
(d)電力貯蔵装置の電圧制御用チョッパ4は装置が過大とならないように電力貯蔵媒体3の放電電流が2000Aを超えた場合には2000Aに制限するリミッタ機能を有する。
【0013】
以上の(1)〜(3)式の関係から、Is,Icp,Vcp,Vc,Icを求めると、Icが2000A以上となるため、電圧制御用チョッパ4のリミッタ機能により2000Aとなることから、Ic=2000A、Is=1566A、Icp=1716A、Vs=Vcp=1526V、故障電流=3282Aとなる。
【0014】
ここで、保護継電器(50F、50CP)の動作電流を2200Aに設定し、電力貯蔵媒体3が設置されていない場合には、故障電流=(1620−300)/(0.06+0.465)=2514Aであり、2200Aを超過するため、保護継電器(50F)6は動作し、故障電流に対して保護が行われる。一方、電力貯蔵装置が並列に設置されている場合、故障電流3282AをIs,Icpで分担するため、Is,Icpが共に2200A以下であり、保護継電器(50F,50CP)が共に動作しない。
【0015】
後者の場合、故障電流が継続し、電力貯蔵媒体の残存容量が低下して電力貯蔵装置が停止した後に、変電所出力電流と短絡電流が等しくなったときに、保護継電器(50F)6が動作する。電力貯蔵装置の放電時間は貯蔵媒体の容量等により数十秒となり、これが検出遅れ時間になる。
【0016】
なお、図3は、電力貯蔵装置の電圧制御用チョッパ容量からチョッパの2次側に電流リミッタを設けた場合であるが、2次側にリミッタを設けない構成でも同様の問題がある。
【0017】
また、電圧制御機能を持たないシリコン整流器で主回路を構成するき電変電所と、一定電圧制御機能を持つ順変換器で主回路を構成するき電変電所を並列に設置する場合も同様の問題がある。
【0018】
本発明の目的は、過電流の検出感度を高め、確実な保護を行うことができる直流き電電源の過電流保護装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、前記の課題を解決するため、直流き電変電所と定電圧源(電力貯蔵装置または一定電圧制御機能を持つき電変電所)で個々に過電流検出と保護を行っていた従来の保護装置に代えて、直流き電変電所の出力電流と定電圧源の出力電流を加算した電流を基にして、直流き電変電所の保護演算と定電圧源の保護演算をそれぞれ個別に行うものであり、以下の構成を特徴とする。
【0020】
(1)定電圧源を直流き電変電所に並列に設置し、定電圧源および直流き電変電所の出力電流を個別に遮断できるき電遮断器と保護継電器を設けた直流き電電源の過電流保護装置であって、
定電圧源および直流き電変電所の出力電流を個別に検出する両電流検出器の出力電流を加算した電流を求め、この加算電流に基づく変換出力を行う変換器を設け、
定電圧源および直流き電変電所の前記保護継電器は、前記変換器の変換出力を基に保護演算をそれぞれ個別に行い、前記き電遮断器を個別にトリップする構成としたことを特徴とする。
【0021】
(2)前記変換器は、前記電流検出器の出力電流の加算値を、前記両保護継電器の入力範囲にスケール変換する構成にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
以上のとおり、本発明によれば、直流き電変電所の出力電流と定電圧源の出力電流を加算した電流を基にして、直流き電変電所の保護継電器の保護演算と定電圧源の保護継電器の保護演算をそれぞれ個別に行うため、過電流の検出感度を高め、確実な保護を行うことができる。
【0023】
また、変換器は、電流検出器の出力電流の加算値を、両保護継電器の入力範囲にスケール変換することで、既設の保護継電器用電流検出器や保護継電器の変更や交換が不要になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、本発明の実施形態を示す直流き電電源の要部構成図であり、直流き電変電所に並列接続する定電圧源として電力貯蔵装置とした例で、直流き電変電所の出力電流と電力貯蔵装置の出力電流を加算した電流を基にして、直流き電変電所の保護継電器の保護演算と電力貯蔵装置の保護継電器の保護演算をそれぞれ個別に行うことにより、過電流の検出感度を高め、確実な保護が得られるようにする。
【0025】
図1が図2と異なる部分は、電流検出器8,9の両電流検出信号を加算して保護継電器6,7の共通の電流検出信号とする変換器10を設けた点にある。
【0026】
図1では、電流検出器8,9の電流検出出力がそれぞれDC0〜10Vの例で示し、電流検出器8,9の出力を直列接続することにより、直流き電変電所の出力電流と電力貯蔵装置の出力電流の加算値を作成し、この加算電圧の範囲DC0〜20Vを変換器10により保護継電器の入力範囲DC0〜10Vにスケール変換して各々の保護継電器6,7の過電流保護演算信号とする。
【0027】
例えば、変換器10は電流検出器8,9の変流比が20kA/10Vの場合、入力40kA/20Vとし、出力を40kA/10Vとすることにより、保護継電器6,7は既設のものをそのまま利用できる。
【0028】
上記の例では、出力電流検出器として、ホール素子構成の電流検出器を例で挙げているが、他の方法による電流検出器(例、分流器とアイソレータ)でもよい。
【0029】
本実施形態によれば、直流き電変電所の単独運転であっても、直流き電変電所と電力貯蔵装置の並行運転であっても、変換器10の入力側には故障電流に対応した変流比の信号が入力されるため、確実に保護継電器が動作する。
【0030】
具体的には、図3に示す電気回路定数になる装置構成において、前記の(1)〜(3)式の関係、および電圧制御用チョッパ4のリミッタ機能によりIc=2000Aとなることから、Ic=2000A、Is=1566A、Icp=1716A、Vs=Vcp=1526V、故障電流=3282Aとなる。そして、保護継電器(50F、50CP)の動作電流を2200Aと設定した場合、電力貯蔵媒体3が設置されていない場合には、故障電流=(1620−300)/(0.06+0.465)=2514Aであり、2200Aを超過するため、保護継電器(50F)6は動作し、故障電流に対して保護が行われる。また、電力貯蔵装置が並列に設置されている場合、故障電流3282AをIs,Icpで分担するが、それぞれの電流Is,Icpを加算した電流3282Aが保護継電器6,7の入力となるため、保護継電器6,7が共に直ちに応動し、き電遮断器2,5を共に遅れなくトリップさせる。また、保護継電器6,7の検出感度が高くなる。
【0031】
なお、電力貯蔵装置の電圧制御用チョッパ容量からチョッパの2次側に電流リミッタを設けた場合であるが、2次側にリミッタを設けない構成でも確実な保護動作を得ることができる。
【0032】
また、電圧制御機能を持たないシリコン整流器で主回路を構成するき電変電所と、一定電圧制御機能を持つ順変換器で主回路を構成するき電変電所を並列に設置する場合も同様の保護動作を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態を示す直流き電電源の要部構成図。
【図2】従来の直流き電電源の要部構成図。
【図3】直流き電電源の電気回路定数の例。
【符号の説明】
【0034】
1 整流器
2、5 き電遮断器
3 電力貯蔵媒体
4 電圧制御用チョッパ
6、7 保護継電器
8、9 電流検出器
10 変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定電圧源を直流き電変電所に並列に設置し、定電圧源および直流き電変電所の出力電流を個別に遮断できるき電遮断器と保護継電器を設けた直流き電電源の過電流保護装置であって、
定電圧源および直流き電変電所の出力電流を個別に検出する両電流検出器の出力電流を加算した電流を求め、この加算電流に基づく変換出力を行う変換器を設け、
定電圧源および直流き電変電所の前記保護継電器は、前記変換器の変換出力を基に保護演算をそれぞれ個別に行い、前記き電遮断器を個別にトリップする構成としたことを特徴とする直流き電電源の過電流保護装置。
【請求項2】
前記変換器は、前記電流検出器の出力電流の加算値を、前記両保護継電器の入力範囲にスケール変換する構成にしたことを特徴とする請求項1に記載の直流き電電源の過電流保護装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−39797(P2010−39797A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202518(P2008−202518)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】