説明

直流モータおよび直流モータの巻線方法

【課題】スロットを整流子片の半数とする構成を採用しつつ、高出力化にも対応することができる直流モータおよび直流モータの巻線方法を提供する。
【解決手段】6つのブラシ15を設けたので、ブラシ15を6つ未満とする場合に比べて、1つのブラシ当たりの負荷電流が低減される。また、同電位となるべき整流子片41間を接続する均圧線も存在しない。さらに、各ティース36の逆巻線33aおよび順巻線33bは、互いに異なる正負のブラシ間における同位相の整流子片41に導通される。このため、同極で分散された3つのブラシ15の各整流子片41に対する接触タイミングが同期しない場合であれ、互いに120°だけ位相がずれた3組の逆巻線33aおよび順巻線33bの少なくとも一方は、同時に励磁または非励磁の状態になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシ付きの直流モータおよび直流モータの巻線方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブラシ付きの直流モータとしては、たとえば特許文献1に示される構成が知られている。当該直流モータは、6つの磁極を有する円筒状のヨーク、ヨークの内部に回転可能に設けられる電機子、および電機子と一体回転する整流子を備えてなる。電機子の鉄心は9つのティースを有し、各ティースには巻き方向が異なる2つの巻線が設けられている。整流子は、回転方向に沿って並ぶ18枚の整流子片を有している。各整流子片には、各巻線の巻き始めの端部および巻き終わりの端部が掛けまわされている。また、同電位となる整流子片同士は均圧線により短絡されている。各整流子片には、2つのブラシが摺接する。両ブラシを介して各巻線に給電することにより、各巻線に磁界が形成される。そして、ヨークの磁極との間に生じる磁気的な吸引力および反発力によって電機子が回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−27829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のものも含め直流モータには、より高い出力が求められることもある。この場合、直流モータに供給する電流を増大させることが考えられる。ところが、特許文献1の直流モータにおいて電流を増大させた場合には、ブラシの寿命が懸念される。すなわち、一のブラシで負担する電流が増大するので、整流火花によって生じる電気的摩耗が助長されるおそれがある。また、供給される電流が大きくなるほど均圧線の径を大きく設定する必要がある。このため、均圧線の配設スペースを確保しにくくなることも懸念される。このように、特許文献1の直流モータは、高出力化の観点から改善の余地があった。
【0005】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、スロットを整流子片の半数とする構成を採用しつつ、高出力化にも対応することができる直流モータおよび直流モータの巻線方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、6つの磁極を有する円筒状のヨークと、ヨークの内部に回転可能に設けられて当該回転方向に並ぶ9つのティースを有する鉄心と、各ティースに対して順方向に巻回された第1の巻線と、各ティースに対して第1の巻線とは逆方向に巻回された第2の巻線と、鉄心と一体回転可能に設けられて回転方向に並ぶ18枚の整流子片を有する整流子と、ヨークの内部に保持されて各整流子片に対する摺接を通じて各巻線へ給電する2つを1組とする3組のブラシと、を備え、同一のティースに設けられる第1および第2の巻線は、互いに異なる正極側のブラシと負極側のブラシとの間における同位相の整流子片に導通されることをその要旨とする。
【0007】
本発明によれば、6つのブラシを設けたので、ブラシを6つ未満とする場合に比べて、1つのブラシ当たりの負荷電流が低減される。電気的摩耗も抑制されるので、ブラシの寿命が確保される。また、同電位となるべき整流子片間を接続する均圧線も存在しない。このため、均圧線の配設スペースを確保する必要はない。したがって、直流モータの高出力化に対応することが可能である。
【0008】
ここで、6つのブラシを設ける場合には、つぎのような問題が懸念される。すなわち、同極(正極または負極)で分散された3つのブラシを各整流子片に対して同期接触させるのが理想であるところ、各ブラシの組み付け誤差などに起因して、各ブラシの整流子片に対する接触タイミングがずれるおそれがある。すると、第1および第2の巻線に対する給電タイミング、ひいては第1および第2の巻線の励磁および非励磁のタインミングについても同期しなくなる。
【0009】
そしてたとえば、各ティースに設けられる第1および第2の巻線がそれぞれ同じ正極側のブラシと負極側のブラシとの間の整流子片に導通されるようにした場合、換言すれば同じ正極側のブラシからの給電により励磁されるようにした場合には、つぎのような状況が発生する。すなわち、互いに120°だけ位相がずれた3組の第1および第2の巻線は、本来同じタイミングで励磁状態あるいは非励磁状態となるところ、当該3組のうち1組または2組が励磁され、残りの2組または1組が励磁されないといった状況が発生する。このため、各ティースと各磁極との間におけるトルクの発生タイミングがずれてトルクが偏在化する。したがって、直流モータの円滑な回転が阻害されて、回転むらなどが発生するおそれがある。
【0010】
この点、本発明によれば、各ティースに設けられる第1および第2の巻線は、互いに異なる正負のブラシ間における同位相の整流子に導通される。すなわち、各ティースに設けられる第1および第2の巻線は、それぞれ異なる正極側のブラシからの給電により励磁される。このため、同極(正極または負極)で分散された3つのブラシの各整流子片に対する接触タイミングが同期しない場合であれ、各組の第1および第2の巻線の少なくとも一方は、同時に励磁または非励磁の状態になる蓋然性が高められる。したがって、電機子の回転方向における磁界の不均衡、ひいてはモータトルクの偏在が抑制されて、直流モータの円滑な回転が可能となる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の直流モータにおいて、第1の巻線の両端は、それぞれ整流子の回転方向における少なくとも180°だけ位相がずれた2つの整流子片に接続されることをその要旨とする。
【0012】
通常、電機子は回転軸を介してヨークに支持される。そして回転軸の端部はヨークの外部に突出し、この突出した部分を介して直流モータの回転を外部機器などに伝達する。直流モータの用途によっては、回転軸に曲げ方向の外力が印加されることもある。この場合、整流子と各巻線とをつなぐ巻線リード部分に、圧縮応力あるいは引張応力が発生するおそれがある。
【0013】
この点、本発明によれば、第1の巻線の両端は、それぞれ整流子の回転方向における少なくとも180°だけ位相がずれた2つの整流子片に接続される。このため、各巻線と各巻線リード部分が接続される各整流子片とは、回転軸を挟んで互いに反対側に位置する。したがって、回転軸に曲げ方向の外力が印加された場合、リード部分の第1の端部側には引張応力あるいは圧縮応力が発生し、第2の端部側には圧縮応力あるいは引張応力が発生する。すなわち、リード部分において、引張応力と圧縮応力とが相殺される。このため、巻線のリード部分の疲労などによる損傷が抑制される。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の直流モータにおいて、第1の巻線における巻き始め端部または巻き終わり端部は、直近の整流子片に接続されてなることをその要旨とする。
【0015】
本発明によれば、各第1の巻線の端部と各整流子片との間の巻線リード部分の長さが短くなる。このため、巻線リード部分が短縮される分だけ巻線抵抗損が小さくなる。
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の直流モータにおいて、第1の巻線における巻き始め端部および巻き終わりの端部は、それぞれ交わらずに同じ方向へ延び、かつ互いに隣り合う2つの整流子片に接続されてなることをその要旨とする。
【0016】
本発明によれば、第1の巻線における巻き始め端部および巻き終わり端部、正確には各巻線リード部分が重なることがない。
請求項5に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の直流モータにおいて、第2の巻線における巻き始め端部および巻き終わりの端部は、互いに交わって同じ方向に沿って延び、かつ当該第2の巻線の近傍において互いに隣り合う2つの整流子片に接続されてなることをその要旨とする。
【0017】
本発明によれば、各第2の巻線の端部と各整流子片との間の巻線リード部分の長さを短くすることが可能となる。このため、巻線リード部分が短縮される分だけ巻線抵抗損が小さくなる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、6つの磁極を有する円筒状のヨークと、ヨークの内部に回転可能に設けられて当該回転方向に並ぶ9つのティースを有する鉄心と、各ティースに対して順方向に巻回された第1の巻線と、各ティースに対して第1の巻線とは逆方向に巻回された第2の巻線と、鉄心と一体回転可能に設けられて回転方向に並ぶ18枚の整流子片を有する整流子と、ヨークの内部に保持されて各整流子片に対する摺接を通じて各巻線へ給電する2つを1組とする3組のブラシと、を備えてなる直流モータの巻線方法において、同一のティースに設けられる第1および第2の巻線は、互いに異なる正極側のブラシと負極側のブラシとの間における同位相の整流子片に導通されるように、かつ第1の巻線および第2の巻線を一連で巻装することをその要旨とする。
【0019】
本発明によれば、請求項1に記載の発明と同様の効果を得ることができる。また、第1の巻線および第2の巻線の巻装作業が一連の動作で行われる。一筆書きのように連続で巻装作業を行うことができるため、巻線を形成する毎に導線を切断するなどの作業が不要である。このため、巻線作業の工数を低減することが可能になる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、スロットを整流子片の半数とする構成を採用しつつ、高出力化にも対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】一実施の形態の直流モータを軸線に沿って切断した断面図。
【図2】(a)は、第1の実施の形態における電機子の展開図、(b)は回転軸に曲げ方向の外力が印加された状態の巻線リード部分を示す電機子などの概略的な正面図。
【図3】第2の実施の形態における電機子の展開図。
【図4】第3の実施の形態における電機子の展開図。
【図5】第4の実施の形態における電機子の展開図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1の実施の形態>
以下、本発明を具体化した第1の実施の形態を図1および図2(a),(b)に基づいて説明する。
【0023】
<直流モータの概略構成>
図1に示すように、直流モータ11は、筒状の固定子12、ならびに固定子12の内部に回転可能に支持される電機子13および整流子14、ならびに固定子12の内部に固定されて整流子14に摺接する複数個のブラシ15を備えてなる。
【0024】
<固定子>
固定子12は、円筒状のヨークハウジング21、およびヨークハウジング21の内周面に固定された6個の永久磁石22を備えている。ヨークハウジング21は、有蓋筒状のフロントハウジング23、およびフロントハウジング23の開口部を閉塞する有底筒状のエンドハウジング24を有している。各永久磁石22は、フロントハウジング23の周方向に沿って等角度間隔に、かつ正極および負極が交互となるように設けられている。
【0025】
<電機子>
電機子13は、回転軸31に外嵌して固定された鉄心32、および鉄心32に巻装されたエナメル被覆の巻線33を備えてなる。
【0026】
回転軸31は、フロントハウジング23のボス23aおよびエンドハウジング24のボス24aにそれぞれ設けられた2つの軸受34,35を介してヨークハウジング21に対して回転可能に支持されている。回転軸31の第1の端部はフロントハウジング23を貫通して外部へ突き出ている。回転軸31の第2の端部は、エンドハウジング24の内部に位置している。
【0027】
鉄心32は、複数枚の電磁鋼板が積層されることにより円柱状をなしている。鉄心32は、その半径方向において各永久磁石22と隙間を介して対向している。鉄心32の外周部には、回転軸31を中心として放射状に延びる9つのT字型のティース36が形成されている。各ティース36は、鉄心32の円周方向に沿って等角度間隔で設けられている。また、各ティース36は、鉄心32の軸方向における全長にわたって設けられている。互いに隣り合うティース36の間には、合計9つの蟻溝状のスロット37が形成されている。各ティース36には、後述する巻線手順によって、巻線33が巻装されている。巻線33は、導線が逆方向に巻回された逆巻線33a、および導線が順方向に巻回された順巻線33bからなる。
【0028】
<整流子>
整流子14は、鉄心32のエンドハウジング24側に設けられている。整流子14は、図示しない円筒状の絶縁体の周面にティース36の個数の2倍、すなわち18個の整流子片(セグメント)41が固定されてなる。各整流子片41は、整流子14の軸方向へ延びる短冊状の金属片からなるとともに、互いに絶縁された状態で絶縁体の周方向に沿って等間隔で並んでいる。各整流子片41の鉄心32側の端部には、外径側に折り返されたライザ42が一体形成されている。ライザ42には、巻線33における巻き始め端部、および巻き終わり端部がそれぞれ掛け回わされる。巻線33は、ヒュージングによりライザ42に固定される。これにより、各整流子片41と各整流子片41に対応する巻線33とが電気的に接続される。
【0029】
<ブラシ>
6つのブラシ15は、エンドハウジング24の内周面に設けられた6つのブラシホルダ51にそれぞれ収容されている。各ブラシホルダ51は、合成樹脂材料により有底筒状に形成されている。各ブラシホルダ51は、エンドハウジング24の円周方向において等角度間隔に、かつヨークハウジング21の軸方向において各永久磁石22と対応するように設けられている。
【0030】
各ブラシ15と各ブラシホルダ51の底壁との間には、圧縮コイルばね52が介在されている。各ブラシ15は、圧縮コイルばね52の弾性力により常時各ブラシホルダ51から突出する方向へ付勢される。各ブラシ15の各ブラシホルダ51から突出する方向への変位は、各ブラシ15の先端が整流子14の外周面に当接することにより規制される。整流子14の回転に伴い、各ブラシ15の先端は整流子14(各整流子片41)の外周面に摺接する。外部電源からの電力は、各ブラシ15を介して整流子14に供給される。
【0031】
なお、6つのブラシ15のうち3つのブラシ15は正電位が印加される正極ブラシ、残りの3つは負電位が印加される負極ブラシである。正極となるブラシ15と負極となるブラシ15は、整流子14の円周方向において等間隔に設けられる。
【0032】
<巻線の巻装手順>
つぎに、巻線の巻装手順を図2(a)に基づいて説明する。図2(a)は、電機子13および整流子14の展開図である。同図において、互いに隣接するティース36,36間の空隙はスロット37に相当する。また同図では、各整流子片41に1番〜18番、各ティース36に1番〜9番の番号を付して区別する。さらに図2(a)では、1,2番の整流子片41間、7,8番の整流子片41間および13,14番の整流子片41間にそれぞれ正極となるブラシ15が、4,5番の整流子片41間、10,11番の整流子片41間および16,17番の整流子片41間にそれぞれ負極となるブラシ15が接触した状態を示す。
【0033】
さて、巻線33が、たとえば2番の整流子片41から巻き始められた場合、まず2番の整流子片41のライザ42(図2(a)では図示略。以下同じ。)に導線を掛け回した後、当該導線を3番のティース36と4番のティース36との間のスロット37に引き込む。そして、3番のティース36に導線を特定回数だけ逆方向に巻装して逆巻線33aを形成する。続いて、2番のティース36と3番のティース36との間のスロット37から導線を引き出して、9番の整流子片41のライザ42に掛け回した後、7番のティース36と8番のティース36との間のスロット37に引き込む。そして、8番のティース36に導線を特定回数だけ順方向に巻装して順巻線33bを形成する。続いて、8番のティース36と9番のティース36との間のスロット37から導線を引き出して、4番の整流子片41のライザ42に掛け回す。ここまでを1パターンとして、以後、同様のパターンでの巻装作業を連続して繰り返す。本例では、合計9回だけ同じ巻装パターンを繰り返せば、巻線作業は完了となる。
【0034】
この巻線手順を経ることにより、各ティース36の逆巻線33aおよび順巻線33bは、互いに異なる正極となるブラシ15と負極となるブラシ15との間における同位相の整流子片41に導通される。たとえば、図2(a)の状態において、3番のティース36における逆巻線33aの第1端は1,2番の整流子片41,41間の正極となるブラシ15に、同じく第2端は4,5番の整流子片41,41間の負極となるブラシ15にそれぞれ導通する。また、3番のティース36における順巻線33bの第1端は16,17番の整流子片41,41間の負極となるブラシ15に、同じく第2端は1,2番の整流子片41,41間の正極となるブラシ15にそれぞれ導通する。
【0035】
<巻線の作用>
つぎに、前述のように巻装された巻線の作用を説明する。
本例のように6つのブラシ15を設ける場合には、つぎのような問題が懸念される。すなわち、同極(正極または負極)で分散された3つのブラシ15を各整流子片41に対して同期接触させるのが理想であるところ、各ブラシ15の組み付け誤差などに起因して、各ブラシ15の整流子片41に対する接触タイミングがずれるおそれがある。すると、各逆巻線33aおよび各順巻線33bに対する給電タイミング、ひいては各逆巻線33aおよび各順巻線33bの励磁および非励磁のタインミングについても同期しなくなる。
【0036】
そしてたとえば、各ティース36に設けられる逆巻線33aおよび順巻線33bがそれぞれ同じ正極側のブラシ15と負極側のブラシ15との間の整流子片41に導通されるようにした場合、換言すれば同じ正極側のブラシ15からの給電により励磁されるようにした場合には、つぎのような状況が発生する。すなわち、互いに120°だけ位相がずれた3組の逆巻線33aおよび順巻線33bは、本来同じタイミングで励磁状態あるいは非励磁状態となるところ、当該3組のうち1組または2組が励磁され、残りの2組または1組が励磁されないといった状況が発生する。このため、各ティース36と各永久磁石22との間におけるトルクの発生タイミングがずれて、トルクが偏在化する。したがって、直流モータ11の円滑な回転が阻害されて、回転むらなどが発生するおそれがある。
【0037】
この点、本例によれば、各ティース36に設けられる逆巻線33aおよび順巻線33bは、互いに異なる正負のブラシ15間における同位相の整流子14に導通される。すなわち、各ティース36に設けられる逆巻線33aおよび順巻線33bは、それぞれ異なる正極側のブラシ15からの給電により励磁される。たとえば、3番のティース36の逆巻線33aは、1,2番の整流子片41,41間に存在する正極となるブラシ15からの給電により励磁される。同じく3番のティース36の順巻線33bは、16,17番の整流子片41,41間に存在する負極となるブラシ15からの給電により励磁される。このため、同極(正極または負極)で分散された3つのブラシ15の各整流子片41に対する接触タイミングが同期しない場合であれ、各組の逆巻線33aおよび順巻線33bの少なくとも一方は、同時に励磁または非励磁の状態になる蓋然性が高められる。したがって、トルクの発生タイミングの不均衡、ひいてはトルクの偏在が抑制されて、直流モータ11の円滑な回転が可能となる。
【0038】
<実施の形態の効果>
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)6つのブラシ15を設けたので、ブラシ15を6つ未満とする場合に比べて、1つのブラシ当たりの負荷電流が低減される。電気的摩耗も抑制されるので、ブラシ15の寿命が確保される。また、同電位となるべき整流子片41間を接続する均圧線も存在しない。このため、均圧線の配設スペースを確保する必要はない。したがって、直流モータ11の高出力化に対応することが可能である。
【0039】
(2)さらに、前述したように、各ティース36に設けられる逆巻線33aおよび順巻線33bは、互いに異なる正負のブラシ間における同位相の整流子片41に導通される。このため、同極(正極または負極)で分散された3つのブラシ15の各整流子片41に対する接触タイミングが同期しない場合であれ、互いに120°だけ位相がずれた3組の逆巻線33aおよび順巻線33bの少なくとも一方は、同時に励磁または非励磁の状態になる。したがって、モータトルクの偏在が抑制されて、直流モータの円滑な回転が実現される。
【0040】
(3)直流モータ11の用途によっては、回転軸31の外端部に曲げ方向の外力が印加されることもある。この場合、整流子14と各巻線33とをつなぐ巻線リード部分に、圧縮応力あるいは引張応力が発生するおそれがある。この点、本例によれば、順巻線33bの両端は、それぞれ整流子14の回転方向における少なくとも180°だけ位相がずれた2つの整流子片41に接続される。このため、図2(b)に示されるように、各順巻線33bと各巻線リード部分が接続される各整流子片41とは、回転軸31を挟んで互いに反対側に位置する。したがって、回転軸31の外端部に曲げ方向の外力が印加された場合、リード部分の第1の端部側には引張応力あるいは圧縮応力が発生し、第2の端部側には圧縮応力あるいは引張応力が発生する。すなわち、リード部分において、引張応力と圧縮応力とが相殺される。このため、順巻線33bのリード部分の疲労などによる損傷が抑制される。
【0041】
<第2の実施の形態>
つぎに、本発明の第2の実施の形態を説明する。本例は、巻線の巻き方の点で前記第1の実施の形態と異なり、基本的には先の図1に示される直流モータと同様の構成を有している。したがって、前記第1の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その重複する説明を省略する。
【0042】
さて、図3に示すように、巻線33が、たとえば2番の整流子片41から巻き始められた場合、まず2番の整流子片41のライザ42(図3では図示略。以下同じ。)に導線を掛け回した後、当該導線を3番のティース36と4番のティース36との間のスロット37に引き込む。そして、3番のティース36に導線を特定回数だけ逆方向に巻装して逆巻線33aを形成する。続いて、2番のティース36と3番のティース36との間のスロット37から導線を引き出して、9番の整流子片41のライザ42に掛け回した後、7番のティース36と8番のティース36との間のスロット37に引き込む。そして、8番のティース36に導線を特定回数だけ順方向に巻装して順巻線33bを形成する。続いて、8番のティース36と9番のティース36との間のスロット37から導線を引き出して、8番のティース36に対する直近の整流子片41、ここでは16番の整流子片41のライザ42に掛け回す。ここまでを1パターンとして、以後、同様のパターンでの巻装作業を連続して繰り返す。本例では、合計9回だけ同じ巻装パターンを繰り返せば、巻線作業は完了となる。本例の巻線パターンは、図2(a)に示される巻線パターンにおける順巻線33bの第2端(番号の大きい整流紙片41に接続される側の端部)を、6つの整流子片41分だけ番号が小さくなる方へずらしたものとなる。
【0043】
この巻線手順を経ることにより、各ティース36の逆巻線33aおよび順巻線33bは、互いに異なる正極となるブラシ15と負極となるブラシ15との間における同位相の整流子片41に導通される。たとえば、図3の状態において、3番のティース36における逆巻線33aの第1端は1,2番の整流子片41,41間の正極となるブラシ15に、同じく第2端は16,17番の整流子片41,41間の負極となるブラシ15にそれぞれ導通する。また、3番のティース36における順巻線33bの第1端は16,17番の整流子片41,41間の負極となるブラシ15に、同じく第2端は13,14番の整流子片41,41間の正極となるブラシ15にそれぞれ導通する。
【0044】
したがって、本実施の形態によれば、第1の実施の形態の(1),(2)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(4)順巻線33bの第2端は、当該順巻線33bが設けられるティース36に対する直近の整流子片41に接続される。このため、直近の整流子片41に接続しない場合に比べて、順巻線33bの第2端と整流子片41とを接続する巻線33のリード部分の長さが短縮される。巻線33のリード部分が短縮される分だけ巻線33の抵抗損失も小さくなる。
【0045】
<第3の実施の形態>
つぎに、本発明の第3の実施の形態を説明する。本例は、巻線の巻装パターンの点で第2の実施の形態と異なる。
【0046】
さて、図4に示すように、巻線33が、たとえば2番の整流子片41から巻き始められた場合、まず2番の整流子片41のライザ42(図4では図示略。以下同じ。)に導線を掛け回した後、当該導線を3番のティース36と4番のティース36との間のスロット37に引き込む。そして、3番のティース36に導線を特定回数だけ逆方向に巻装して逆巻線33aを形成する。続いて、2番のティース36と3番のティース36との間のスロット37から導線を引き出して、9番の整流子片41のライザ42に掛け回した後、7番のティース36と8番のティース36との間のスロット37に引き込む。そして、8番のティース36に導線を特定回数だけ順方向に巻装して順巻線33bを形成する。続いて、8番のティース36と9番のティース36との間のスロット37から導線を引き出して、10番の整流子片41のライザ42に掛け回す。ここまでを1パターンとして、以後、同様のパターンでの巻装作業を連続して繰り返す。本例においても、合計9回だけ同じ巻装パターンを繰り返せば、巻線作業は完了となる。本例の巻線パターンは、図2(a)に示される巻線パターンにおける順巻線33bの第2端(番号の大きい整流紙片41に接続される側の端部)を、6つの整流子片41分だけ番号が小さくなる方へずらしたものとなる。
【0047】
この巻線手順を経ることにより、各ティース36の逆巻線33aおよび順巻線33bは、互いに異なる正極となるブラシ15と負極となるブラシ15との間における同位相の整流子片41に導通される。たとえば、図4の状態において、3番のティース36における逆巻線33aの第1端は1,2番の整流子片41,41間の正極となるブラシ15に、同じく第2端は10,11番の整流子片41,41間の負極となるブラシ15にそれぞれ導通する。また、3番のティース36における順巻線33bの第1端は16,17番の整流子片41,41間の負極となるブラシ15に、同じく第2端は7,8番の整流子片41,41間の正極となるブラシ15にそれぞれ導通する。
【0048】
したがって、本実施の形態によれば、第1の実施の形態の(1),(2)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(5)順巻線33bの第1端および第2端と整流子片41とをそれぞれ接続する巻線33のリード部分は、交差せず同方向へ延びる。このため、順巻線33bの両端リード部分が重なることがない。
【0049】
<第4の実施の形態>
つぎに、本発明の第4の実施の形態を説明する。本例は、巻線の巻装パターンの点で第1の実施の形態と異なる。
【0050】
さて、図5に示すように、巻線33が、たとえば8番の整流子片41から巻き始められた場合、まず8番の整流子片41のライザ42(図5では図示略。以下同じ。)に導線を掛け回した後、当該導線を3番のティース36と4番のティース36との間のスロット37に引き込む。そして、3番のティース36に導線を特定回数だけ逆方向に巻装して逆巻線33aを形成する。続いて、2番のティース36と3番のティース36との間のスロット37から導線を引き出して、9番の整流子片41のライザ42に掛け回した後、7番のティース36と8番のティース36との間のスロット37に引き込む。そして、8番のティース36に導線を特定回数だけ順方向に巻装して順巻線33bを形成する。続いて、8番のティース36と9番のティース36との間のスロット37から導線を引き出して、4番の整流子片41のライザ42に掛け回す。ここまでを1パターンとして、以後、同様のパターンでの巻装作業を連続して繰り返す。本例においても、合計9回だけ同じ巻装パターンを繰り返せば、巻線作業は完了となる。本例の巻線パターンは、図2(a)に示される巻線パターンにおける逆巻線33aの第1端(番号の小さい整流紙片41に接続される側の端部)を、6つの整流子片41分だけ番号が大きくなる方へずらしたものとなる。
【0051】
この巻線手順を経ることにより、各ティース36の逆巻線33aおよび順巻線33bは、互いに異なる正極となるブラシ15と負極となるブラシ15との間における同位相の整流子片41に導通される。たとえば、図5の状態において、3番のティース36における逆巻線33aの第1端は4,5番の整流子片41,41間の負極となるブラシ15に、同じく第2端は7,8番の整流子片41,41間の正極となるブラシ15にそれぞれ導通する。また、3番のティース36における順巻線33bの第1端は16,17番の整流子片41,41間の負極となるブラシ15に、同じく第2端は13,14番の整流子片41,41間の正極となるブラシ15にそれぞれ導通する。
【0052】
したがって、本実施の形態によれば、第1の実施の形態の(1)〜(3)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(6)逆巻線33aの第2端は、第1の実施の形態に比べて、自身に近い整流子片41に接続される。このため、逆巻線33aの第2端と整流子片41とを接続する巻線33のリード部分の長さが短縮される。巻線33のリード部分が短縮される分だけ巻線33の抵抗損失も小さくなる。
【0053】
<直流モータの用途>
なお、各実施の形態の直流モータの用途は様々であるところ、たとえば自動車のアンチロックブレーキシステム(ABS)の駆動源となるABSモータとして使用することができる。ABSは、ブレーキ圧を断続的に緩めることによりタイヤのロックを防ぐシステムである。そして、ABSモータは、減圧のために吐出されたブレーキ液を、再び元の油圧シリンダに押し戻す油圧ポンプを駆動する。
【符号の説明】
【0054】
11…直流モータ、14…整流子、15…ブラシ、21…ヨークハウジング(ヨーク)、22…永久磁石(磁極)、32…鉄心、33a…逆巻線(第2の巻線)、33b…順巻線(第1の巻線)、36…ティース、41…整流子片。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
6つの磁極を有する円筒状のヨークと、
ヨークの内部に回転可能に設けられて当該回転方向に並ぶ9つのティースを有する鉄心と、
各ティースに対して順方向に巻回された第1の巻線と、
各ティースに対して第1の巻線とは逆方向に巻回された第2の巻線と、
鉄心と一体回転可能に設けられて回転方向に並ぶ18枚の整流子片を有する整流子と、
ヨークの内部に保持されて各整流子片に対する摺接を通じて各巻線へ給電する2つを1組とする3組のブラシと、を備え、
同一のティースに設けられる第1および第2の巻線は、互いに異なる正極側のブラシと負極側のブラシとの間における同位相の整流子片に導通される直流モータ。
【請求項2】
請求項1に記載の直流モータにおいて、
第1の巻線の両端は、それぞれ整流子の回転方向における少なくとも180°だけ位相がずれた2つの整流子片に接続される直流モータ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の直流モータにおいて、
第1の巻線における巻き始め端部または巻き終わり端部は、直近の整流子片に接続されてなる直流モータ。
【請求項4】
請求項1に記載の直流モータにおいて、
第1の巻線における巻き始め端部および巻き終わりの端部は、それぞれ交わらずに同じ方向へ延び、かつ互いに隣り合う2つの整流子片に接続されてなる直流モータ。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の直流モータにおいて、
第2の巻線における巻き始め端部および巻き終わりの端部は、互いに交わって同じ方向に沿って延び、かつ当該第2の巻線の近傍において互いに隣り合う2つの整流子片に接続されてなる直流モータ。
【請求項6】
6つの磁極を有する円筒状のヨークと、
ヨークの内部に回転可能に設けられて当該回転方向に並ぶ9つのティースを有する鉄心と、
各ティースに対して順方向に巻回された第1の巻線と、
各ティースに対して第1の巻線とは逆方向に巻回された第2の巻線と、
鉄心と一体回転可能に設けられて回転方向に並ぶ18枚の整流子片を有する整流子と、
ヨークの内部に保持されて各整流子片に対する摺接を通じて各巻線へ給電する2つを1組とする3組のブラシと、を備えてなる直流モータの巻線方法において、
同一のティースに設けられる第1および第2の巻線は、互いに異なる正極側のブラシと負極側のブラシとの間における同位相の整流子片に導通されるように、かつ第1の巻線および第2の巻線を一連で巻装する直流モータの巻線方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−99109(P2013−99109A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239524(P2011−239524)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】