真核細胞において組換えタンパク質を細胞外に放出させるためのポリヌクレオチド
【課題】組換えタンパク質を真核細胞宿主で発現させ、細胞外に放出させることにより、組換えタンパク質を効率的に製造する方法の提供。
【解決手段】小胞体移行性シグナル配列とAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなる糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチド、及び小胞体移行性シグナル配列を融合させても効率的に宿主外へ放出されない目的蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いるポリヌクレオチドであって、前記目的タンパク質を糖鎖修飾に依存して宿主細胞外に放出させるポリヌクレオチド。
【解決手段】小胞体移行性シグナル配列とAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなる糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチド、及び小胞体移行性シグナル配列を融合させても効率的に宿主外へ放出されない目的蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いるポリヌクレオチドであって、前記目的タンパク質を糖鎖修飾に依存して宿主細胞外に放出させるポリヌクレオチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真核細胞で発現させようとするタンパク質をコードするポリヌクレオチドにシグナル配列及び糖鎖付加配列を連結させ、該タンパク質を真核細胞又は動物で発現させ、細胞外に放出させる方法、並びにその方法に用いるポリヌクレオチド、ベクター及び宿主細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子より翻訳されるタンパク質は生体における機能において重要な役割を担っている。遺伝子組換え技術の発展により、目的遺伝子の発現方法及びその精製法が開発されてきた。
【0003】
哺乳類のタンパク質の発現は、本来発現している細胞において発現させるのが望ましいが、その細胞が用いられないときは、タンパク質の折りたたみ等を考慮すると系統的に本来の細胞に近い細胞が望ましい。このため、ほ乳類の組換えタンパク質の製造には、真核細胞を用いるのが好ましい。しかしながら、多くの組換えタンパク質は細胞内で生産され、細胞内に蓄積する。このようなタンパク質を製造するためには、複雑な精製工程が必要になるため、タンパク質の製造に時間がかかり、また大量に製造することも困難であった。
【0004】
このため、酵母を用いた組換えタンパク質の製造において、細胞内で発現させる組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列にシグナル配列を連結させて、発現させた組換えタンパク質を細胞外に放出させる方法やそのためのベクターが種々開発されていた(特許文献1〜3を参照)。
【0005】
しかしながら、従来法では、例えば比較的高分子量のタンパク質の細胞外への放出効率は必ずしも高くなく、組換えタンパク質をより効率的に細胞外へ放出する系の開発が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】米国特許第5010003号公報
【特許文献2】米国特許第4588684号公報
【特許文献3】国際公開第WO00/09718号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、組換えタンパク質を真核細胞宿主で発現させ、細胞外に放出させることにより、組換えタンパク質を効率的に利用する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、組換えタンパク質を宿主細胞内で発現させ、細胞外に放出させる方法において、従来の技術よりも効率的にタンパク質を製造する方法について鋭意検討を行った。本発明者らは、組換えタンパク質を宿主細胞内で発現させる際に、製造しようとする目的の組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチドの上流に小胞体移行性のシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドを融合して発現させ、さらに糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドを連結させるなどの工夫により、糖鎖修飾させることにより、目的のタンパク質を効率的に細胞外に放出(分泌)させることができることを見出した。
【0009】
この際、小胞体移行性である、インターロイキン4、インターロイキン5、インターロイキン6、インターロイキン12、インターロイキン13又はインターロイキン31のシグナル配列として例示されるシグナル配列と例示したインターロイキンの糖鎖付加配列を利用することにより、効率的に目的のタンパク質を宿主細胞外に放出できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
また、前記の小胞体移行性シグナル配列と人工的に設計した糖鎖付加配列を融合させることにより発現させたタンパク質の細胞外への放出は小胞体移行性シグナル配列の種類にはあまり依存せず、糖鎖修飾の存在に大きく依存し、一方で放出されるペプチド配列の構造には大きくは依存していないことを見出した。
【0011】
本発明において、小胞体移行性シグナル配列と糖鎖付加配列を融合したタンパク質として用いることにより、その下流に融合タンパク質として発現させた目的タンパク質は、接着細胞である繊維芽細胞Cos-1細胞、及び浮遊細胞で上皮細胞であるFreestyle293-F細胞によって発現させたところ、糖鎖付加配列の挿入により糖鎖が付加され、効率的に細胞外に目的タンパク質が放出されることが証明された。また、この効率の良いタンパク質放出は、繊維芽細胞及び上皮細胞で観察され、また、浮遊細胞及び接着細胞で観察されたことより、細胞種に依存しないことが示された。
【0012】
変異体の解析により、糖鎖が付加されないとタンパク質は効率的に細胞外に放出されないことが判明し、また糖鎖分解酵素による解析で糖鎖付加配列を導入したタンパク質ではN型糖鎖付加の修飾がされていることが証明された。
【0013】
また、人工的に設計した糖鎖付加配列によっても、タンパク質の放出が促進されたことより、N-型糖鎖の存在自体の重要性が認められ、一次構造よりも糖鎖修飾の重要性が高いことが証明された。
【0014】
2種類の蛍光タンパク質、及び全長では放出されないサイトカインであるマウスインターロイキン33及び核タンパク質であるヒトp53タンパク質が本発明の方法で培養上清中に効率的に放出されたことより、本発明の有効性が証明された。
【0015】
小胞体移行性シグナル配列の比較では、タンパク質放出に関しては多少の差こそあれ優劣はつけがたく、糖鎖付加による影響に比べて小さく、小胞体移行性シグナル配列の存在こそが重要で、余り種類は問わない結果となった。しかし、マウスインターロイキン33のシグナル配列では、ほとんど細胞外放出が行われなかったので、シグナル配列の選択の不必要性を示唆するものではない。
【0016】
比較的大きいヒトの癌抑制遺伝子産物であるヒトp53タンパク質が活性を持って放出されたことより、本発明の手法は活性型のタンパク質の生産についても有用性が認められた。
【0017】
また、低タンパク質培地中へのタンパク質の放出により、タンパク質精製が非常に容易にできたことより、生産のみならず精製を含めたタンパク質生産に有用であることが確認された。
【0018】
すなわち、本発明の態様は以下のとおりである。
[1] 小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、タンパク質にAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列が付加された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、宿主真核細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いるポリヌクレオチドであって、前記タンパク質を宿主真核細胞外に放出させるためのポリヌクレオチド。
[2] 小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、タンパク質にO型-糖鎖付加配列が付加された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、宿主真核細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いるポリヌクレオチドであって、前記タンパク質を宿主真核細胞外に放出させるためのポリヌクレオチド。
【0019】
[3] 小胞体移行性シグナル配列が、マウスインターロイキン4のシグナル配列(配列番号1)、マウスインターロイキン5のシグナル配列(配列番号3)、マウスインターロイキン6のシグナル配列(配列番号5)、マウスインターロイキン12のシグナル配列(配列番号7)、マウスインターロイキン13のシグナル配列(配列番号9)、マウスインターロイキン31のシグナル配列(配列番号11)、ヒトインターロイキン13(配列番号13)のシグナル配列及びヒトインターロイキン31のシグナル配列(配列番号15)からなる群から選択される、[1]又は[2]のポリヌクレオチド。
[4] [1]〜[3]のいずれかのポリヌクレオチドを含む、組換えタンパク質を発現し宿主真核細胞外に放出させるための発現ベクター。
[5] [4]の発現ベクターを含む宿主真核細胞。
【0020】
[6] 小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、Asn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドを含み、前記小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチドの下流でありかつ該N型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドの上流若しくは下流に、発現させようとする目的タンパク質をコードする外来遺伝子を導入可能なマルチクローニング部位を含む、宿主真核細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いる発現ベクターであって、前記目的タンパク質を宿主真核細胞外に放出させるための発現ベクター。
【0021】
[7] 小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、O型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドを含み、前記小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチドの下流でありかつ該O型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドの上流若しくは下流に、発現させようとする目的タンパク質をコードする外来遺伝子を導入可能なマルチクローニング部位を含む、宿主真核細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いる発現ベクターであって、前記目的タンパク質を宿主細胞外に放出させるための発現ベクター。
[8] [1]〜[3]のいずれかのポリヌクレオチドを宿主真核細胞に導入し、該宿主真核細胞を培養し、前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させ細胞外に放出させ、細胞培養上清より目的タンパク質を回収することを含む、タンパク質の製造方法。
【0022】
[9] [6]又は[7]の発現ベクターを宿主真核細胞に導入し、該宿主真核細胞を培養し、前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させ細胞外に放出させ、細胞培養上清より目的タンパク質を回収することを含む、タンパク質の製造方法。
[10] [8]又は[9]の方法により製造されたタンパク質。
[11] タンパク質にAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列が付加され、該N型-糖鎖付加配列にN型-糖鎖が結合し糖鎖修飾された[10]のタンパク質。
[12] 天然において糖鎖修飾されないタンパク質にAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列が付加され、該N型-糖鎖付加配列にN型-糖鎖が結合した、[11]の糖鎖修飾されたタンパク質。
【0023】
[13] タンパク質にO型-糖鎖付加配列が付加され、該O型-糖鎖付加配列にO型-糖鎖が結合し糖鎖修飾された[10]のタンパク質。
[14] 天然において糖鎖修飾されないタンパク質にO型-糖鎖付加配列が付加され、該O型-糖鎖付加配列にO型-糖鎖が結合した、[13]の糖鎖修飾されたタンパク質。
[15] [1]〜[3]のいずれかのポリヌクレオチドを非ヒト動物に導入し、該動物体内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させ、該タンパク質に対する抗体を製造させることを含む、DNA免疫による抗体の製造方法。
[16] 小胞体移行性シグナル配列とAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなる糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチド及び、小胞体移行性シグナル配列を融合させても効率的に宿主外へ放出されない目的蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いるポリヌクレオチドであって、前記目的タンパク質を糖鎖修飾に依存して宿主細胞外に放出させるポリヌクレオチド。
【発明の効果】
【0024】
小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、Asn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチド若しくはO型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチド並びに目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを宿主真核細胞に導入し、該細胞を培養し、タンパク質を発現させた場合、糖鎖修飾された目的タンパク質は効率的に宿主細胞外に放出される。この方法により、本来細胞外に放出されない導入タンパク質を発現させ、細胞外に放出させることにより、目的のタンパク質を効率的に精製することができる。また、本来放出されるタンパク質においても、糖鎖付加に留意して設計することにより、細胞外への放出効率を向上させることができ、その後の精製等を効率的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明におけるシグナル配列は、小胞体に存在するGTP結合性の調節タンパク質であるシグナル認識粒子(signal recognition particle: SRP)タンパク質に結合する、15〜30アミノ酸よりなり、さらに主にN末端にある5〜10個の連続する疎水性アミノ酸よりなる疎水性コアを有する小胞体移行性のシグナル配列である。
【0026】
疎水性アミノ酸には、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンが含まれる。シグナル配列中の疎水性アミノ酸は同じアミノ酸であってもよいし、異なるアミノ酸であってもよい。
【0027】
リボソームにおけるタンパク質の翻訳の際、最初にシグナル部分が合成され、SRPがシグナル配列を認識する。その後、翻訳が一時的に中止され、SRPはリボソームと結合し、この複合体が小胞体膜上のSRP受容体に結合する。シグナル配列がSRPから解離し、小胞体膜にある小孔を貫通して小胞体内に移動すると翻訳が再開され、タンパク質が小胞体内に入る。そしてシグナル配列が小胞体内のペプチダーゼによって切除され、タンパク質がゴルジ体に輸送され、細胞外に放出される。
【0028】
本発明のシグナル配列は、小胞体移行性シグナルとしての作用を有する配列ならば限定されないが、好ましくはシグナルペプチド認識機構によって、認識され切断されるペプチド配列である。このようなシグナル配列として、例えば、インターロイキン4、インターロイキン5、インターロイキン6、インターロイキン12、インターロイキン13、若しくはインターロイキン31のシグナル配列が挙げられる。マウスインターロイキン4、マウスインターロイキン5、マウスインターロイキン6、マウスインターロイキン12、マウスインターロイキン13及びマウスインターロイキン31のシグナル配列をコードする塩基配列を、それぞれ配列番号1、3、5、7、9及び11に表し、これらのシグナル配列のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号2、4、6、8、10及び12に表す。また、ヒトインターロイキン13、及びヒトインターロイキン31のシグナル配列をコードする塩基配列を、それぞれ配列番号13及び15に表し、これらのシグナル配列のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号14及び16に表す。
【0029】
シグナル配列を有するタンパク質のシグナル配列を利用する場合、シグナル配列部分をコードするポリヌクレオチドのみを目的のタンパク質の上流に連結させてもよいし、シグナル配列を有する該タンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、シグナル配列部分を含む連続する断片をコードするポリヌクレオチドを目的のタンパク質の上流に連結させてもよい。
【0030】
N型-糖鎖付加配列(N型-糖鎖修飾配列)は、アミノ酸配列、Asn-X-(Thr/Ser)で表されるN型-糖鎖付加配列である。ここで、Xはプロリン以外の任意のアミノ酸であり、Thr/SerはThr又はSerを示す。N-結合型糖鎖がAsn-X-(Thr/Ser)(NXT/S)のAsnにN-結合型で結合する。該配列の具体例として、NYS、NYT、NAS、NAT、NTS、NTT等が挙げられる。糖鎖付加配列が存在するとタンパク質が小胞体に移行後ゴルジ体において糖鎖が付加され、非調節性に細胞外へ放出される。
【0031】
本発明において、N型-糖鎖付加配列のみならず、O型-糖鎖付加配列を用いることもできる。EGFPタンパク質と融合させ発現させた実験において、細胞外放出タンパク質はO型-糖鎖修飾を示す電気泳動上で分子量の増加が示されており、これはN型のみならずO型-糖鎖修飾も同様の細胞外放出効率を上昇させる活性を有することを示す。
【0032】
本発明において、組換えタンパク質として産生させ細胞外に放出させる目的のタンパク質は限定されず、あらゆるタンパク質を本発明の方法で生産することができる。
【0033】
好ましくは、細胞外に放出されないタンパク質が列挙できる。このようなタンパク質として、例えば天然において本来糖鎖修飾されないタンパク質が挙げられる。さらに、細胞質タンパク質、核タンパク質等細胞外に放出されないタンパク質が挙げられる。さらに、シグナル配列を変換し糖鎖配列が付加されたことにより、非調節的に放出される細胞外分泌タンパク質を挙げることができる。このようなタンパク質として、例えばマウスIL-33が挙げられる。
【0034】
糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドを、細胞外に放出させる目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドに連結させて用いる場合、糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドは、目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドの上流(5'側)に連結しても、下流(3'側)に連結してもよい。この場合、小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、タンパク質にO型-糖鎖付加配列が付加された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。
【0035】
配列番号17にマウスインターロイキン31のシグナル配列をコードするポリヌクレオチドの下流(3'側)にN型-糖鎖修飾配列を連結したポリヌクレオチドの配列(GSS-artificial)を示す。該ポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列(GSSアミノ酸)を配列番号18に示す。配列番号18に表されるアミノ酸において糖鎖付加配列が小胞体移行性シグナル配列の下流に存在している。しかしながら、この糖鎖付加配列は人工的に設計されたものであり、天然には存在しない。N型-糖鎖が付加され得るアミノ酸は4箇所存在する。この配列の下流に蛍光タンパク質を融合させたところ、糖鎖が付加され細胞外に放出された。従って、糖鎖付加配列は天然に存在する糖鎖付加配列に限定されない。
【0036】
また、天然において小胞体移行性シグナル配列及び糖鎖付加配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、そのタンパク質の遺伝子が含むシグナル配列をコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを利用することもできる。この場合、そのタンパク質の遺伝子のシグナル配列からタンパク質をコードするORF(open reading frame)の少なくとも糖鎖付加配列までの連続するポリヌクレオチドを製造しようとする目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドの上流(5'側)に連結して用いることができる。また、目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドに天然のタンパク質のシグナル配列を含む全長配列をコードするポリヌクレオチドを連結してもよい。
【0037】
このようなシグナル配列及び糖鎖付加配列を含む天然のタンパク質をコードするポリヌクレオチドとして、インターロイキン13及びインターロイキン31をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。インターロイキン13及びインターロイキン31が由来する動物種は限定されないが、ヒト、マウス由来のものが好適に用い得る。
【0038】
例えば、配列番号19に表されるシグナル配列を含むマウスインターロイキン31をコードするポリヌクレオチド、配列番号21に表されるシグナル配列を含むヒトインターロイキン31をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。それぞれのポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列を配列番号20及び配列番号22に示す。
【0039】
これらの塩基配列と相補的な配列からなる塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドであって、配列番号19又は21に表される塩基配列からなるポリヌクレオチドがコードするタンパク質の活性を有するタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドも用いることができる。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、「1XSSC、0.1% SDS、37℃」程度の条件であり、より厳しい条件としては「0.5XSSC、0.1% SDS、42℃」程度の条件であり、さらに厳しい条件としては「0.2XSSC、0.1% SDS、65℃」程度の条件である。このようにハイブリダイゼーションの条件が厳しくなるほど高い相同性を有するDNAの単離、検出を期待しうる。ただし、上記のSSC、SDS及び温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であればハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、ポリヌクレオチド濃度、ポリヌクレオチドの長さ、ハイブリダイゼーションの反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。また、配列番号19又は21に表される塩基配列とBLAST等の相同性検索プログラムを用いて該プログラムのデフォルト(初期設定)のパラメータを用いて算出される80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上の同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドも用いることができる。
【0040】
なお、マウスインターロイキン33に例示されるように、発現させようとする目的タンパク質が天然において糖鎖付加配列を有する場合、小胞体移行性シグナル配列と融合させることにより、この糖鎖付加配列に糖鎖が付加され、細胞外放出が促進される。このような状況では、この天然において存在する糖鎖付加配列を利用することができるので、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの上流又は下流に糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドを連結する必要は必ずしもない。マウスインターロイキン33の塩基配列を配列番号23に、そのアミノ酸配列を配列番号24に示す。この場合も、このポリヌクレオチドは本発明の「小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、タンパク質にO型-糖鎖付加配列若しくはAsp-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列が付加された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド」に包含される。また、配列番号23に表される塩基配列と相補的な配列からなる塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドであって、配列番号23に表される塩基配列からなるポリヌクレオチドがコードするタンパク質の活性を有するタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドも用いることができる。さらに、配列番号23に表される塩基配列とBLAST等の相同性検索プログラムを用いて該プログラムのデフォルト(初期設定)のパラメータを用いて算出される80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上の同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドも用いることができる。
【0041】
本発明は、目的のタンパク質を宿主細胞で発現させ、該宿主細胞外に放出(分泌)させるためのポリヌクレオチドを包含し、該ポリヌクレオチドは、小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、O型-糖鎖付加配列若しくはAsp-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチド並びに目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。該ポリヌクレオチドは小胞体移行性シグナルをコードするポリヌクレオチドの下流に、糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチド及び目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドと糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドは、目的のタンパク質に糖鎖付加配列が付加された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドであってもよい。該融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチドの下流に存在する。糖鎖付加配列は、複数連結してもよい。すなわち、本発明のタンパク質を真核細胞で発現させ細胞外に放出させるために用いるポリヌクレオチドは、例えば、小胞体移行性シグナルをコードするポリヌクレオチド-{Asn-X-(Thr/Ser)}N(Nは、1〜5の整数)をコードするポリヌクレオチド-目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドからなる。また、小胞体移行性シグナルをコードするポリヌクレオチド、糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチド及び目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドの間には、他のヌクレオチド配列が含まれていてもよい。
【0042】
実際、赤色蛍光タンパク質(Dsred)及び緑色蛍光タンパク質(EGFP)を用いた実験において、NYTNNYSNISNNYSの配列(配列番号96)で示される人工的に設計された14アミノ酸からなるN型-糖鎖付加配列において、小胞体移行性シグナル配列の下流に発現させると糖鎖が付加され、またそれに伴い生産されたタンパク質の細胞外放出が誘起されることが示された。
【0043】
このポリヌクレオチドの上流には、プロモーターが作動可能に連結されていてもよい。本発明で用いられるプロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応した適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば宿主が酵母である場合は、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが好ましい。動物細胞を宿主として用いる場合は、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター、HSV-TKプロモーターなどが挙げられる。また、薬剤(インデューサー)の添加等の特定の条件下で誘導的に作用する誘導性のプロモーターを用いてもよい。
【0044】
本発明の真核細胞において目的組換えタンパク質を発現し細胞外に分泌させるためのポリヌクレオチドは、さらに、当該技術分野で公知の、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加部位、選択マーカー、SV40複製オリジン等を含んでいてもよい。
【0045】
本発明は、小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、タンパク質にO型-糖鎖付加配列若しくはAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列が付加された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、並びにプロモーター等を含む、宿主細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いる発現カセットをも包含する。
【0046】
本発明は、小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、タンパク質にAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列が付加された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを宿主真核細胞に導入し、該宿主真核細胞を培養し、前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させ細胞外に放出させ、細胞培養上清より目的タンパク質を回収することを含む、タンパク質の製造方法を包含する。
【0047】
本発明の真核細胞において目的組換えタンパク質を発現し細胞外に放出させるためのポリヌクレオチドは、ベクターに組込み宿主真核細胞に導入すればよい。
【0048】
本発明の方法で用いる真核細胞としては、酵母、昆虫細胞、鳥類細胞、両生類細胞、爬虫類細胞、哺乳類細胞が挙げられる。
【0049】
酵母としては、例えば、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AH22、AH22R-、NA87-11A、DKD-5D、20B-12、スキゾサッカロマイセス ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)NCYC1913、NCYC2036、ピキア パストリス(Pichia pastoris)等が挙げられる。
【0050】
昆虫細胞としては、Sf21などの夜盗蛾細胞等が挙げられる。
両生類細胞としては、アフリカツメガエル卵細胞等が挙げられる。
【0051】
哺乳類細胞としては、例えば、HEK293細胞、FreeStyle293細胞、FL細胞などのヒト細胞; COS-7、Veroなどのサル細胞;CHO、dhfr遺伝子欠損CHO細胞などのチャイニーズハムスター細胞;マウスL細胞、マウスAtT-20細胞、マウスミエローマ細胞などのマウス細胞;ラットGH3細胞などのラット細胞等が挙げられる。
【0052】
発現ベクターとしては、pKA1、pCDM8、pSVK3、pSVL、pBK-CMV、pBK-RSV、EBVベクター、pRS、pYE82などが例示できる。また、pIND/V5-His、pFLAG-CMV-2、pEGFP-N1、pEGFP-C1などを発現ベクターとして用いれば、Hisタグ、FLAGタグ、GFPなど各種タグを付加した融合タンパク質として発現させることもできる。
【0053】
これらの細胞の中でも、低タンパク質濃度条件下で培養し得る細胞を用いた場合、培養上清からの精製が容易に行えるので望ましい。低タンパク質濃度条件下で培養し得る細胞として、例えば、FreeStyle293細胞が挙げられる。
【0054】
ベクターは、小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、O型-糖鎖付加配列若しくはAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチド及び目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いるポリヌクレオチドを含む。本発明は、このような組換えタンパク質を発現し宿主細胞外に放出させるための発現ベクター及び該ベクターを導入した宿主細胞を包含する。
【0055】
さらに、目的のタンパク質を連結させる部位として、マルチクローニング部位を含ませておきその部位に目的のタンパク質をコードする外来遺伝子を組込んでもよい。この場合、本発明のベクターは、小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチドの下流にO型-糖鎖付加配列若しくはAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチド並びに目的タンパク質をコードする外来遺伝子を導入可能なマルチクローニング部位を含む宿主細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いる発現ベクターである。
【0056】
酵母への組換えベクターの導入方法は、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばエレクトロポレーション法[Becker, D.M. et al.:Methods. Enzymol., 194: 182(1990)]、スフェロプラスト法[Hinnen, A. et al.:Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 75: 1929(1978)]、酢酸リチウム法[Itoh, H.:J. Bacteriol., 153:163(1983)]等が挙げられる。動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
【0057】
本発明の真核細胞において目的組換えタンパク質を発現し細胞外に分泌させるためのポリヌクレオチドを含むベクターを導入した宿主真核細胞を培養することにより、目的のタンパク質を発現させ、細胞外すなわち培養上清中に放出させることができる。培養は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
【0058】
培養終了後、公知の方法で細胞と上清とを分離し、上清を集める。このようにして得られた培養上清、あるいは抽出液中に含まれるタンパク質の精製は、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて行なうことができる。細胞内からの抽出と比べ、放出されたタンパク質は不純物若しくは夾雑物も少なく、また抽出時における界面活性剤の使用も不必要であり、この点からも活性タンパク質として回収する上で有効である。例えば、尿素などの変性剤や界面活性剤による処理、超音波処理、酵素消化、塩析や溶媒沈殿法、透析、遠心分離、限外濾過、ゲル濾過、SDS-PAGE、等電点電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0059】
産生されたタンパク質から糖鎖を糖鎖分解酵素を用いて取り除くこともできる。しかしながら、糖鎖付加により新たな活性を発現タンパク質に付与することもあり、この場合は、糖鎖付加配列は有用な糖鎖タンパク質の調製にも有効である。
【0060】
本発明は、本発明の方法により製造されたタンパク質を包含する。該タンパク質は、翻訳された後、細胞内で各種修飾を受ける場合がある。従って、修飾されたタンパク質も本発明のタンパク質の範囲に含まれる。このような翻訳後の修飾としては、N末端メチオニンの脱離、N末端アセチル化、細胞内プロテアーゼによる限定分解、ミストレイル化、イソプレニル化、リン酸化などが例示できる。
【0061】
本発明の小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、タンパク質にO型-糖鎖付加配列若しくはAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列が付加された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むタンパク質発現ベクターは、DNA免疫に利用することができる。具体的には、真核細胞用発現ベクターを注射や遺伝子銃によって、動物の筋肉や皮膚に導入した後、発現タンパク質が血中に放出されるため、免疫が生じ、目的タンパク質に反応する血清を採取することにより作製することができる。動物としては、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ニワトリなどが用いられる。免疫した動物の脾臓から採取したB細胞とミエローマを融合させてハイブリドーマを作成すれば、モノクローナル抗体を産出することができる。
【0062】
また細胞外に導入タンパク質が放出されるため、遺伝子治療及びDNAワクチンにも使用できる。さらに、細胞外分泌タンパク質を生産する細胞を樹立することにより、細胞治療にも応用できる。また細胞内に存在し通常は自己と認識されているタンパク質を細胞外に放出させて免疫原性を誘導し、自己免疫疾患モデルマウスの作成に用いることも出来る。
【実施例】
【0063】
次に実施例を示しこの発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、この発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、DNAの組換えに関する基本的な操作及び酵素反応は、文献(“Molecular Cloning, Laboratory Manual” Cold Spring Harbor Laboratory, 1989)に従った。制限酵素及び各種修飾酵素は特に記載のない場合には、Invitrogen社製のものを用いた。各酵素反応の緩衝液組成及び反応条件は付属の説明書に従った。
【0064】
方法
(1)発現ベクターの構築
N末端にKozak配列及びEcoRIサイト、C末端にXhoIサイトを配置したcDNAを作製するため、プライマー配列(配列番号25及び配列番号26)を用いて、Balb/Cマウスの脾臓細胞のcDNAをテンプレートとして、Phusion PCR kit(Finnzyme社、フィンランド)の使用説明書に基づいて、PCRを行った。96℃2分+(98℃15秒、58℃15秒、72℃1分)×35+72℃1分の条件で行った。PCRについて以下特に記載しない場合は、前述の条件を用いた。
【0065】
得られたPCRフラグメント(574b.p.)をATP(Invitrogen社)存在下、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(Invitrogen社)によりリン酸化し、クローニングベクターpBluescript2SK+のEcoRVサイトに平滑末端の形でクローニングを行い、GenebankのクローンXM_132344における当該領域と一致する配列番号27で表される配列を含むクローンを得た。
【0066】
マウスIL-31のC末端にEGFPタンパク質及びヒスチジンタグと融合させるため、このプラスミドをテンプレートとし、N末端にKozak配列及びEcoRIサイトを配置し、C末端側の終了コドンをXhoIサイトに変更する配列を持ったプライマー配列(配列番号25及び配列番号28)を用いて、PCRを行ない、pBluescript2Sk+のEcoRVサイトにサブクローニングを行い、変異が無く全長のcDNAを持つクローン(mIL31-fus/pBSK2+)を得た。
【0067】
同様にマウスIL-4、5、6、12及び13をC末端にEGFPタンパク質及びヒスチジンタグと融合させるため、N末端にKozak配列及びEcoRIサイトを配置し、C末端側の終了コドンをBamHIサイトに変更する配列を持ったプライマーを用いてBalb/Cマウスの脾臓細胞のcDNAをテンプレートとして、PCRを行ない、mIL-31の時と同様にpBluescript2SK+のEcoRVサイトにサブクローニングを行い、変異が無く全長のcDNAを持つクローン(mIL-x-fus/pBSK2+(X=4,5,6,12,13))を得た。マウスIL-4には配列番号29及び30で表されるプライマーを、IL-5には配列番号31及び32で表されるプライマーを、IL-6には配列番号33及び34で表されるプライマーを、IL-12には配列番号35及び36で表されるプライマーを、IL-13には配列番号37及び38で表されるプライマーをそれぞれ用いた。
【0068】
クラゲ蛍光タンパク質(EGFP)を用いて解析を行うため、哺乳類発現ベクターpcDNA3.1-MH-A+(Invitrogen社)のHindIIIからXhoIサイトの間にプライマー配列(配列番号39及び配列番号40)をアニールしたマルチプルクローニングサイトの変更を行ない、HindIII、EcoRI、BamHI及びXhoIの位置を変更したプラスミドpcDNA3.1-modified+ を得た。
【0069】
緑色蛍光タンパク質(EGFP)発現ベクターであるpEGFP-C1(Clonetech社)をテンプレートとして、配列番号41及び42で表されるプライマーを用いてPCRを行い、EGFPのcDNAを増幅した。得られたフラグメントをpBluescript2SK+のEcoRVサイトにサブクローニングを行い、PCR及びオリゴ合成中に変異の入らなかったクローンを選択した。このプラスミドを制限酵素BamHIとSalIで切断し、切り出されたフラグメントをプラスミドpcDNA3.1-modified+のBamHIからXhoIサイトの間にサブクローニングを行い、EGFP発現ベクターEGFP-H/pcDNA3.1ベクターを得た。
【0070】
この発現ベクターはCMVプロモーターの下流に以下のポリヌクレオチド配列(配列番号43)を持ち、配列番号44のタンパク質(EGFP-H)を発現する。
この変更により、XhoIサイトはライゲーションにより、新しい位置に移動している。
【0071】
この作成したベクター(EGFP-H/pcDNA3.1)のEcoRIとBamHIの間に、mIL-X-fus/pBSK2+ (X=4,5,6,12,13)をEcoRIとBamHIで切断したフラグメントを挿入し、マウス全長インターロイキンとEGFPとヒスチジンタグの融合タンパク質を発現するベクター(mIL-X-EGFPH/pcDNA3.1)(X=4,5,6,12,13)を得た。
【0072】
mIL-4-EGFPH/pcDNA3.1発現ベクターは配列番号45で表されるタンパク質(mIL-4-EGFPH)を発現させる。mIL-5-EGFPH/pcDNA3.1発現ベクターは配列番号46で表されるタンパク質(mIL-5-EGFPH)を発現させる。mIL-6-EGFPH/pcDNA3.1発現ベクターは配列番号47で表されるタンパク質(mIL-6-EGFPH)を発現させる。mIL-12-EGFPH/pcDNA3.1発現ベクターは配列番号48で表されるタンパク質(mIL-12-EGFPH)を発現させる。mIL-13-EGFPH/pcDNA3.1発現ベクターは配列番号49で表されるタンパク質(mIL-13-EGFPH)を発現させる。
【0073】
同様にmIL31-fus/pBSK2+をEcoRIとXhoIで切断し、得られたフラグメントをこの作成したベクター(EGFP-MH/pcDNA3.1-MH-A+)のEcoRIとXhoIの間に導入し、マウス全長インターロイキン31とEGFPとヒスチジンタグの融合タンパク質を発現するベクター(mIL-31-EGFPH/pcDNA3.1)を得た。
【0074】
mIL-31-EGFPH/pcDNA3.1発現ベクターは配列番号50で表されるタンパク質(mIL-31-EGFPH)を発現させる。
【0075】
マウスインターロイキン31の細胞外分泌に必要な領域を決定するため、ベクター(mIL-31-EGFPH/pcDNA3.1)の改変を行った。mIL-31-EGFPH/pcDNA3.1をテンプレートとして、発現ベクターのCMVプロモーター領域内に存在する配列を持つプライマー(配列番号51)と以下に示すプライマーによりmIL31の一部領域をPCRにより増幅し、得られたフラグメントをEcoRIとBamHIにより切断し、EGFPH/pcDNA3.1ベクターのEcoRIとBamHIの間に導入し、各々の変異体を作成した。
【0076】
用いたプライマーの配列と得られた変異体発現ベクターの関係は以下のとおりであった。配列番号52で表されるプライマー及び配列番号51で表されるプライマーよりSS-EGFPH/pcDNA3.1が、配列番号53で表されるプライマー及び配列番号51で表されるプライマーよりΔ-EGFPH/pcDNA3.1が、配列番号54で表されるプライマー及び配列番号51で表されるプライマーよりGSS-EGFPH/pcDNA3.1が、配列番号55で表されるプライマー及び配列番号51で表されるプライマーよりGSS(DD)-EGFPH/pcDNA3.1が作成された。
【0077】
次にシグナルシーケンスと人工的な糖鎖修飾サイトを構築するため、mIL-31-EGFPH/pcDNA3.1をテンプレートとしてプライマー(配列番号51及び配列番号56)を用いてPCRを行い、シグナルシーケンスを含むフラグメントを得た。同時に合成オリゴDNA(配列番号57)をテンプレートとして、プライマー(配列番号58及び配列番号59)を用いてPCRを行い、人工的な糖鎖修飾サイトを持つフラグメントを作成した。各々のフラグメントを精製し等量混合し、このフラグメントをテンプレートとして、プライマー(配列番号51及び配列番号59)を用いてPCRを行い、PCRによって2つのフラグメントを結合させ、増幅することによりcDNAフラグメントを作成した。精製後EcoRIとBamHIにより切断し、EGFPH/pcDNA3.1ベクターのEcoRIとBamHIの間に導入し、シグナルシーケンスと人工的な糖鎖修飾サイトを持つ発現ベクターSS-Art-EGFPH/pcDNA3.1を作成した。SS-EGFPH/pcDNA3.1は配列番号60で表される、Δ-EGFPH/pcDNA3.1は配列番号61で表される、GSS-EGFPH/pcDNA3.1は配列番号62で表される、GSS(DD)-EGFPH pcDNA3.1は配列番号63で表される、SS-Art-EGFPH/pcDNA3.1は配列番号64で表されるタンパク質を各々発現させる。
【0078】
ヒト末梢単核球のcDNAをテンプレートとして、プライマー(配列番号65及び配列番号66)を用いてPCRを行い、C末端にXhoIサイトを配置した、ヒトp53タンパク質をコードするcDNAを増幅した。得られたフラグメントを、リン酸化を行い、pBluescript 2 SK+のEcoRVサイトに平滑末端によりクローニングを行った。PCRによる変異、また、プライマー合成中の変異の無いクローンを選択し、BamHI及びXhoIで切断し、pcDNA3.1-myc-His-A+のBamHI及びXhoIの間にサブクローニングし、p53発現ベクターp53H/pcDNA3.1を得た。p53H/pcDNA3.1ベクターは配列番号67で表されるタンパク質(p53タンパク質)を発現させる。
【0079】
h-p53-his/pcDNA3.1-MH-A+ベクターをBamHI及びXbaIで切断し、得られたフラグメントをSS-EGFPH/pcDNA3.1又はGSS-EGFPH/pcDNA3.1のBamHI及びXbaIサイトの間に導入し、SS-EGFPH/pcDNA3.1からSS-p53H/pcDNA3.1を、GSS-EGFPH/pcDNA3.1からGSS-p53H/pcDNA3.1を得た。SS-p53H/pcDNA3.1は配列番号68で表されるタンパク質(ss-p53Hタンパク質)を、GSS-p53H/pcDNA3.1は配列番号69で表されるタンパク質(GSS-p53Hタンパク質)をそれぞれ発現させる。
【0080】
マウスインターロイキン33の発現ベクター
マウス脾臓のcDNAをテンプレートとして、プライマー(配列番号70及び71)を用いてPCRを行い、C末端にXhoIサイトを配置した、マウスインターロイキン33(mIL-33)をコードするcDNAを増幅した。得られたフラグメントを、リン酸化を行い、pBluescript 2 SK+のEcoRVサイトに平滑末端によりクローニングを行った。PCRによる変異、また、プライマー合成中の変異の無いクローンを選択し、BamHI及びXhoIで切断し、pcDNA3.1-myc-His-A+のBamHI及びXhoIの間にサブクローニングし、mIL-33発現ベクターmIL-33H/pcDNA3.1を得た。
【0081】
このベクターをテンプレートとしてプライマー(配列番号71及び72)を用いてPCRを行い、mIL-33の成熟した部分をコードするcDNAフラグメントを増幅した。得られたフラグメントを、リン酸化を行い、pBluescript 2 SK+のEcoRVサイトに平滑末端によりクローニングを行い、PCRによる変異及びプライマー合成中の変異の無いクローンを選択し、BamHI及びXhoIで切断しSS-p53H/pcDNA3.1のBamHI及びXhoIの間にサブクローニングし、mIL31のシグナル配列の下流に成熟型mIL-33を配置した発現ベクターSS-mIL-33H/pcDNA3.1を得た。
【0082】
mIL-33H/pcDNA3.1は配列番号73で表されるタンパク質(mIL-33タンパク質)を、SS-mIL-33H/pcDNA3.1は配列番号74で表されるタンパク質(SS-mIL-33Hタンパク質)をそれぞれ発現させる。
【0083】
細胞培養
HEK-293及びCos-1細胞はDulbecco's modified Eagle’s medium(DMEM)(Gibco-Invitrogen社)、10%牛胎児血清、(Gibco-Invitrogen) (Hyclone, Logan, UT,USA)及びペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco-Invitrogen)の培地を用い、37℃5%二酸化炭素環境下で細胞培養を行った。
【0084】
FreeStyle293-T(FS-293T)(Invitrogen社)細胞はFreeStyle medium(Invitrogen社)の培地を用い、Invitrogen社のマニュアルに従って37℃8%二酸化炭素存在下でロータリーシェーカーにより振盪培養を行った。
【0085】
各種発現プラスミドはDH5α-FTに形質転換を行い、NucleoBond Xtra Midiプラスミド精製キット(Macherey-Nagel社Duren、ドイツ)の操作手引書に従って精製を行った。またトランスフェクションはHEK-293及びCos-1細胞はLipofectamine2000(Invitrogen社)を、FS293-T細胞は293fectin(Invitrogen社)を用いて操作手引書に従い、行った。この際、血清を用いる際はLow immunogloblin fetal bovine serum (Invitrogen社)を替わりに用い、ウエスタンブロットにおけるイムノグロブリンの非特異的検出を防いだ。
【0086】
トランスフェクションの後、3日後に細胞上清を取り、2000gで5分間遠心を行い、細胞上清とした。HEK-293及びCos-1細胞は上清を取り除いた後、培地と同量のPBSで2回洗浄し、培地と同量の0.5%SDS含有PBSで細胞を溶解し、100℃で5分過熱処理を行った。FreeStyle-293Tの場合は細胞を遠心法によりPBSバッファーで洗浄し、培地と同量の0.5%SDS含有PBSで細胞を溶解し、100℃で5分過熱処理を行った。
(PBS: 137 mMNaCl, 8.1 mMNa2HPO4, 2.68 mM KCl and 1.47 mM KH2PO4, pH7.4)
【0087】
ウエスタンブロット
細胞上清と細胞分画抽出液をToyobo社のCanGetSignalキット(富山、日本)のプロトコルに従って、Hybond-P(PVDF)メンブラン(Amersham)を用いてウエスタンブロットを行った。1次抗体にはAnti-His-tag抗体(PM002、MBL 日本)を用い、2次抗体にはAnti-rabbit-IgG-HRPコンジュゲート抗体(Cat.NA934V GE healthcare社 UK)を用い、Amersham社(Oakville, Ontario, Canada)ECL plus検出キットのプロトコルに従って、Hyperfilm-ECL(Amersham社)に感光させ検出を行った。
【0088】
得られた画像はBio-rad社の画像読取装置Chem Doc XRSを用いて、電子画像化し、デンシトメトリーは付属のQuantity Oneソフトウエアーにより行った。
【0089】
Art-DsredH/pcDNA3.1の作成
赤色蛍光タンパク質発現ベクターpDsRed-Monomer-C1(クロンテック社)を鋳型として、プライマー(配列番号75及び配列番号76)を用いてPCRを行い、蛍光タンパク質をコードするcDNAを増幅し、電気泳動後精製し、684塩基からなる配列番号77で表される塩基配列をコードするcDNAを得た。
【0090】
配列番号78で表されるプライマーをリン酸化し、これに配列番号79で表されるプライマーを等量混合し、アニールさせ、平滑化を行い配列番号80で表されるcDNAを得た。配列番号74及び配列番号80で表されるcDNAをライゲーションし、精製後、このcDNAを鋳型として燐酸化された配列番号79及び配列番号74で表されるプライマーを用いてPCRを行い、配列番号81に表される747塩基のcDNAを得、このcDNAをpBluescript2SK+のEcoRVサイトにサブクローニングし、プライマー合成中及びPCR中に変異の無い人工糖鎖付加サイトと赤色蛍光タンパクタンパク質をコードするcDNAを含むプラスミドを得た。Invitrogen社pcDNA3.1-MH-A+ ベクターのEcoRVとXbaIで切断し配列番号82及び83で表される合成DNAをアニールさせたものを挿入したサブクローン化したプラスミドをXhoIとEcoRIで切断し、配列番号81に表される配列もつプラスミドをEcoRIとSalIで切断し精製した747塩基のcDNAをサブクローニングし、糖鎖付加配列を含む赤色蛍光タンパク質を発現するベクターであるArt-DsredH/pcDNA3.1を得た。
【0091】
Art-DsredH/pcDNA3.1は配列番号84で表されるタンパク質(Art-DsredHタンパク質)を発現させる。
【0092】
マウスインターロイキン(IL-4/5/6/12/13)のシグナル配列の単離
マウスIL-4のシグナル配列を単離するため、mIL-4-EGFPH/pcDNA3.1のプラスミドを鋳型とし、プライマー(配列番号51及び配列番号85)を用いPCRを行い、精製後、HindIIIとBamHIで切断し、プラスミドArt-DsredH/pcDNA3.1のHindIIIとBamHIとの間にサブクローニングを行い、目的の構造をもつクローンを選択し、マウスIL-4のシグナル配列と人工糖鎖付加配列と赤色蛍光タンパク質及びヒスチジンタグを融合タンパク質として発現させるベクターSS(mIL4)-Art-DsredH/pcDNA3.1を得た。
【0093】
マウスIL-5のシグナル配列を単離するため、mIL-5-EGFPH/pcDNA3.1のプラスミドを鋳型とし、プライマー(配列番号51及び配列番号86)を用いPCRを行い、精製後、HindIIIとBamHIで切断し、プラスミドArt-DsredH/pcDNA3.1のHindIIIとBamHIとの間にサブクローニングを行い、目的の構造をもつクローンを選択し、マウスIL-5のシグナル配列と人工糖鎖付加配列と赤色蛍光タンパク質及びヒスチジンタグを融合タンパク質として発現させるベクターSS(mIL5)-Art-DsredH/pcDNA3.1を得た。
【0094】
マウスIL-6のシグナル配列を単離するため、mIL-6-EGFPH/pcDNA3.1のプラスミドを鋳型とし、プライマー(配列番号51及び配列87)を用いPCRを行い、精製後、HindIIIとBamHIで切断し、プラスミドArt-DsredH/pcDNA3.1のHindIIIとBamHIとの間にサブクローニングを行い、目的の構造をもつクローンを選択し、マウスIL-6のシグナル配列と人工糖鎖付加配列と赤色蛍光タンパク質及びヒスチジンタグを融合タンパク質として発現させるベクターSS(mIL6)-Art-DsredH/pcDNA3.1を得た。
【0095】
マウスIL-12のシグナル配列を単離するため、mIL-12-EGFPH/pcDNA3.1のプラスミドを鋳型とし、プライマー(配列番号51及び配列番号88)を用いPCRを行い、精製後、HindIIIとBamHIで切断し、プラスミドArt-DsredH/pcDNA3.1のHindIIIとBamHIとの間にサブクローニングを行い、目的の構造をもつクローンを選択し、マウスIL-12のシグナル配列と人工糖鎖付加配列と赤色蛍光タンパク質及びヒスチジンタグを融合タンパク質として発現させるベクター SS(mIL12)-Art-DsredH/pcDNA3.1を得た。
【0096】
マウスIL-13のシグナル配列を単離するため、mIL-5-EGFPH/pcDNA3.1のプラスミドを鋳型とし、プライマー(配列番号51及び89)を用いPCRを行い、精製後、HindIIIとBamHIで切断し、プラスミドArt-DsredH/pcDNA3.1のHindIIIとBamHIとの間にサブクローニングを行い、目的の構造をもつクローンを選択し、マウスIL-13のシグナル配列と人工糖鎖付加配列と赤色蛍光タンパク質及びヒスチジンタグを融合タンパク質として発現させるベクター SS(mIL13)-Art-DsredH/pcDNA3.1を得た。
【0097】
マウスIL-31のシグナルペプチドを含む発現ベクターSS-EGFP-MH/pcDNA3.1-MH-A+をHindIIIとBamHIで切断し、電気泳動によりマウスIL-31のシグナルペプチドを含むcDNAを精製し、プラスミドArt-DsredH/pcDNA3.1のHindIIIとBamHIとの間にサブクローニングを行い、マウスIL-31のシグナル配列と人工糖鎖付加配列と赤色蛍光タンパク質及びヒスチジンタグを融合タンパク質として発現させるベクター SS(mIL31)-Art-DsredH/pcDNA3.1を得た。
【0098】
上記の手法で作成した発現ベクターは、SS(mIL4)-Art-DsredH/pcDNA3.1が配列番号90で表されるタンパク質を、SS(mIL5)-Art-DsredH/pcDNA3.1が配列番号91で表されるタンパク質を、SS(mIL6)-Art-DsredH/pcDNA3.1が配列番号92で表されるタンパク質を、SS(mIL12)-Art-DsredH/pcDNA3.1が配列番号93で表されるタンパク質を、SS(mIL13)-Art-DsredH/pcDNA3.1が配列番号94で表されるタンパク質を、SS(mIL31)-Art-DsredH/pcDNA3.1が配列番号95で表されるタンパク質を、CMVプロモーターによりそれぞれ発現させる。
【0099】
DsRedタンパク質の発現
プラスミドArt-DsredH/pcDNA3.1及びSS(mIL-X)-Art-DsredH/pcDNA3.1(X=4,5,6,12,13,31)を、それぞれFreestyle-293F及びCos-1細胞にEGFPタンパク質発現ベクターと同様の手法でトランスフェクトを行い、上清及び細胞分画のタンパク質の抽出液を得て、12.5%のSDS-PAGEにより電気泳動を行い、融合タンパク質のC末端に配置されたヒスチジンタグをウエスタンブロット法により検出した。
【0100】
タンパク質の精製
FreeStyle293培地中に放出されたヒスチジンタグ付きタンパク質は遠心により上清を分離後、50mM Tris HCl (pH=7.4)、食塩濃度を0.5N、10mMイミダゾール(ナカライ社)、0.05%Chaps(同人化学)に調整し、Qiagen社のNi-NTA Superflowセファロース(Cat. 30430)にかけて、ヒスチジンタグ付きタンパク質を吸着させた。カラムを50mM Tris HCl (pH=7.4)、食塩濃度を0.5N、10mMイミダゾール、Chaps0.05%のバッファーで洗浄後、PBSバッファーで洗浄し、0.5N食塩、250mMイミダゾールを含むバッファーで溶出した。溶出液をMillipore社のAmicon Ultra-15限外ろ過濃縮フィルター(Cat.UFC901024)で濃縮し、PBS中で透析を行った。得られたサンプルをSDS-PAGE電気泳動を行い、クマジー染色を行った。
【0101】
p53タンパク質の活性はActive Motif社のTransAM p53(Cat. 41196)を用いて、添付説明書に従って計測した。
【0102】
結果
配列番号45(mIL-4-EGFPHタンパク質)、配列番号46(mIL-5-EGFPHタンパク質)、配列番号47(mIL-6-EGFPHタンパク質)、配列番号48(mIL-12-EGFPHタンパク質)、配列番号49(mIL-13-EGFPHタンパク質)及び配列番号50(mIL-31-EGFPHタンパク質)で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させ、細胞分画及び細胞上清を試料としてSDS-PAGEにより電気泳動後、C末端のヒスチジンタグを認識する抗体でウエスタンブロット法により発現タンパク質を検出した結果を図1に示す。図1中Cは細胞分画を、Sは上清分画を示す。図1に示すように、インターロイキン6はN型糖鎖付加配列を持たないが、上清に糖鎖修飾したと思われるタンパク質が放出されている。インターロイキン13と31の融合タンパク質が効率的に培地中に放出されている。
【0103】
配列番号44(EGFP-H)、配列番号60(SS-EGFPH/pcDNA3.1)、配列番号61(Δ-EGFPH/pcDNA3.1)、配列番号62(GSS-EGFPH/pcDNA3.1)、配列番号63(GSS(DD)-EGFPH/pcDNA3.1)、配列番号50(mIL-31-EGFPH)及び配列番号64(SS-Art-EGFPH/pcDNA3.1)で表されるアミノ酸配列の各種変異体についてシグナル配列及び糖鎖付加配列の配置の模式図を図2に示す。図中、黒三角で示した部分は、各変異体におけるN-型糖鎖の付加位置を示し、数字はアミノ酸の位置を示す。
【0104】
配列番号44、60、61、62及び63で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させ、細胞分画及び細胞上清を試料としてSDS-PAGEにより電気泳動後、C末端のヒスチジンタグを認識する抗体でウエスタンブロット法により発現タンパク質を検出した結果を図3に示す。図3中、泳動写真の下のCは細胞分画を示し、Sは上清分画を示す。また、aはSS-EGFPH(配列番号60)、bはΔ-EGFPH(配列番号61)、cはGSS-EGFPH(配列番号62)、dはGSS(DD)-EGFPH(配列番号63)を示す。図3に示すようにシグナル配列だけではなく、N型糖鎖付加配列を持った時に特に融合タンパク質が効率的に培地中に放出されているのがわかる。
【0105】
配列番号44、60、61、62及び63で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてCos-1細胞に発現させ、細胞分画及び細胞上清を試料としてSDS-PAGEにより電気泳動後、C末端のヒスチジンタグを認識する抗体でウエスタンブロット法により発現タンパク質を検出した結果を図4に示す。図4中、泳動写真の下のCは細胞分画を示し、Sは上清分画を示す。また、aはEGFPH(配列番号44)、bはSS-EGFPH(配列番号60)、cはΔ-EGFPH(配列番号61)、dはGSS-EGFPH(配列番号62)、eはGSS(DD)-EGFPH(配列番号63)を示す。図4に示すように浮遊細胞だけではなく接着細胞においても図3と同じことが確認できる。
【0106】
配列番号62(GSS(DD)-EGFPH)及び配列番号63(GSS-EGFPH)で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させ、細胞分画及び上清分画を試料としてN-glycosydase Fで変性条件で処理し、N型糖鎖を除去し、各々のサンプルを12.5%SDS-PAGEで電気泳動しC末端のヒスチジンタグを検出したウエスタンブロット解析の結果を図5に示す。図5中、泳動写真の下のCは細胞分画をSは上清分画を示す。GSS-EGFPHの細胞分画及び上清分画とも糖鎖の除去により分子量が低下していることがわかる。GSS-EGFPHの細胞分画の糖鎖付加より上清分画の糖鎖付加が多いことがわかる。糖鎖除去後は両者とも予想される分子量である為、他のタンパク質修飾とは考えられない。
【0107】
配列番号64(GSS(ART)-EGFPH)のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させ、細胞分画及び、細胞上清を試料としてSDS-PAGEにより電気泳動後、C末端のヒスチジンタグを認識する抗体でウエスタンブロット法により発現タンパク質を検出した結果を図6に示す。図6中、泳動写真の下のCは細胞分画をSは上清分画を示す。図6に示すように、人工的に設計した糖鎖修飾配列でも糖鎖が付き、EGFPタンパク質が放出された。
【0108】
配列番号67(p53H/pcDNA3.1)、配列番号68(SS-p53H/pcDNA3.1)及び配列番号69(GSS-p53H/pcDNA3.1)のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させ、細胞分画及び細胞上清を試料としてSDS-PAGEにより電気泳動後、C末端のヒスチジンタグを認識する抗体でウエスタンブロット法により発現タンパク質を検出した結果を図7に示す。図7中、泳動写真の下のCは細胞分画をSは上清分画を示す。図7に示すように、小胞体移行シグナル配列を糖鎖付加配列を付加したGSS-p53Hの発現タンパク質のみ上清にp53タンパク質が検出された。
【0109】
配列番号67(p53)、配列番号69(GSS-p53)のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させ、その上清分画に放出されたp53タンパク質の配列選択的DNA結合能をTrans-AMキットにて測定し、その選択的DNA配列結合能を450nmの吸光度として計測した結果を図8に示す。p53タンパク質の活性はActive Motif社のTransAM p53(Cat. 41196)を用いて、添付説明書に従って計測した。図8に示すように、GSSを付加することにより、活性型p53タンパク質が細胞外に放出された。
【0110】
配列番号69に表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させ、その上清をニッケルキレートカラムにより精製したものの解析の結果を図9に示す。
【0111】
FreeStyle293培地中に放出されたヒスチジンタグが付加されたタンパク質は遠心により上清を分離後、50mM Tris HCl (pH=7.4)、食塩濃度を0.5N、10mMイミダゾール(ナカライ社)、0.05%Chaps(同人化学)に調整し、Qiagen社のNi-NTA Superflowセファロース(Cat. 30430)にかけて、ヒスチジンタグ付きタンパク質を吸着させた。カラムを50mM Tris HCl(pH=7.4)、食塩濃度を0.5N、10mMイミダゾール、Chaps0.05%のバッファーで洗浄後、PBSバッファーで洗浄し、0.5N食塩、250mMイミダゾールを含むバッファーで溶出し、溶出液をMillipore社のAmicon Ultra-15限外ろ過濃縮フィルター(Cat.UFC901024)で濃縮し、PBS中で透析を行った。得られたサンプルをSDS-PAGE電気泳動を行い、クマジー染色を行った。
【0112】
WBは精製前のC末端のヒスチジンタグによるウエスタンブロット解析を示し、CBBは精製されたタンパク質についてクマジー染色を行った像を示す。矢頭はp53タンパク質の位置を示す。
【0113】
図9に示すように、放出されたタンパク質のみが精製され、ウエスタンブロットの像と一致した。
【0114】
配列番号73(インターロイキン33)及び配列番号74(インターロイキン31のシグナル配列とインターロイキン33の成熟タンパク質を融合させたタンパク質)のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させ、細胞分画及び上清分画を試料としてSDS-PAGEにより電気泳動を行い、C末端に付加してあるヒスチジンタグを検出したウエスタンブロット解析の結果を示す。図10中、泳動写真の下のCは細胞分画をSは上清分画を示す。
【0115】
図10に示すように、インターロイキン33のシグナル配列では、上清にタンパク質が放出されないが、インターロイキン31のシグナル配列に置換することにより、上清にインターロイキン33のタンパク質が糖鎖が付加された形で放出された。
【0116】
配列番号84(Art-Dsredタンパク質)、配列番号90(mIL4)、配列番号91(mIL5)、配列番号92(mIL6)、配列番号93(mIL12)、配列番号94(mIL13)及び配列番号95(mIL31)のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させ、細胞分画及び上清分画を試料としてSDS-PAGEにより電気泳動を行い、C末端に付加してあるヒスチジンタグを検出したウエスタンブロット解析の結果を図11に示す。図11中、泳動写真の下のCは細胞分画をSは上清分画を示す。
【0117】
図11は、放出されるタンパク質の比較を示すので、各マウスインターロイキンのシグナル配列の放出に関わる影響がわかる。シグナル配列が無い配列番号84に表されるアミノ酸配列からなるタンパク質は放出されなかったが、シグナル配列がある場合、どのタンパク質も効率的に放出された。また人工的な糖鎖付加配列も細胞外放出に有効であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】配列番号45、46、47、48、49及び50で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させたタンパク質のウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図2】配列番号44、60、61、62、63、50及び64で表されるアミノ酸配列の各種変異体についてシグナル配列及び糖鎖付加配列の配置を模式的に表した図である。
【図3】配列番号60、61、62及び63で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させたタンパク質のウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図4】配列番号44、60、61、62及び63で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてCos-1細胞に発現させたタンパク質のウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図5】配列番号62及び63で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させたタンパク質のウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図6】配列番号64のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させたタンパク質のウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図7】配列番号67、68及び69で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させたタンパク質のウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図8】配列番号67及び69で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させたp53タンパク質の配列選択的DNA結合能を示す図である。
【図9】配列番号69で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させ、その上清をニッケルキレートカラムにより精製した結果を示す図である。
【図10】配列番号73及び74で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させたタンパク質のウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図11】配列番号84、90、91、92、93、94及び95で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させたタンパク質のウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、真核細胞で発現させようとするタンパク質をコードするポリヌクレオチドにシグナル配列及び糖鎖付加配列を連結させ、該タンパク質を真核細胞又は動物で発現させ、細胞外に放出させる方法、並びにその方法に用いるポリヌクレオチド、ベクター及び宿主細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子より翻訳されるタンパク質は生体における機能において重要な役割を担っている。遺伝子組換え技術の発展により、目的遺伝子の発現方法及びその精製法が開発されてきた。
【0003】
哺乳類のタンパク質の発現は、本来発現している細胞において発現させるのが望ましいが、その細胞が用いられないときは、タンパク質の折りたたみ等を考慮すると系統的に本来の細胞に近い細胞が望ましい。このため、ほ乳類の組換えタンパク質の製造には、真核細胞を用いるのが好ましい。しかしながら、多くの組換えタンパク質は細胞内で生産され、細胞内に蓄積する。このようなタンパク質を製造するためには、複雑な精製工程が必要になるため、タンパク質の製造に時間がかかり、また大量に製造することも困難であった。
【0004】
このため、酵母を用いた組換えタンパク質の製造において、細胞内で発現させる組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列にシグナル配列を連結させて、発現させた組換えタンパク質を細胞外に放出させる方法やそのためのベクターが種々開発されていた(特許文献1〜3を参照)。
【0005】
しかしながら、従来法では、例えば比較的高分子量のタンパク質の細胞外への放出効率は必ずしも高くなく、組換えタンパク質をより効率的に細胞外へ放出する系の開発が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】米国特許第5010003号公報
【特許文献2】米国特許第4588684号公報
【特許文献3】国際公開第WO00/09718号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、組換えタンパク質を真核細胞宿主で発現させ、細胞外に放出させることにより、組換えタンパク質を効率的に利用する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、組換えタンパク質を宿主細胞内で発現させ、細胞外に放出させる方法において、従来の技術よりも効率的にタンパク質を製造する方法について鋭意検討を行った。本発明者らは、組換えタンパク質を宿主細胞内で発現させる際に、製造しようとする目的の組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチドの上流に小胞体移行性のシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドを融合して発現させ、さらに糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドを連結させるなどの工夫により、糖鎖修飾させることにより、目的のタンパク質を効率的に細胞外に放出(分泌)させることができることを見出した。
【0009】
この際、小胞体移行性である、インターロイキン4、インターロイキン5、インターロイキン6、インターロイキン12、インターロイキン13又はインターロイキン31のシグナル配列として例示されるシグナル配列と例示したインターロイキンの糖鎖付加配列を利用することにより、効率的に目的のタンパク質を宿主細胞外に放出できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
また、前記の小胞体移行性シグナル配列と人工的に設計した糖鎖付加配列を融合させることにより発現させたタンパク質の細胞外への放出は小胞体移行性シグナル配列の種類にはあまり依存せず、糖鎖修飾の存在に大きく依存し、一方で放出されるペプチド配列の構造には大きくは依存していないことを見出した。
【0011】
本発明において、小胞体移行性シグナル配列と糖鎖付加配列を融合したタンパク質として用いることにより、その下流に融合タンパク質として発現させた目的タンパク質は、接着細胞である繊維芽細胞Cos-1細胞、及び浮遊細胞で上皮細胞であるFreestyle293-F細胞によって発現させたところ、糖鎖付加配列の挿入により糖鎖が付加され、効率的に細胞外に目的タンパク質が放出されることが証明された。また、この効率の良いタンパク質放出は、繊維芽細胞及び上皮細胞で観察され、また、浮遊細胞及び接着細胞で観察されたことより、細胞種に依存しないことが示された。
【0012】
変異体の解析により、糖鎖が付加されないとタンパク質は効率的に細胞外に放出されないことが判明し、また糖鎖分解酵素による解析で糖鎖付加配列を導入したタンパク質ではN型糖鎖付加の修飾がされていることが証明された。
【0013】
また、人工的に設計した糖鎖付加配列によっても、タンパク質の放出が促進されたことより、N-型糖鎖の存在自体の重要性が認められ、一次構造よりも糖鎖修飾の重要性が高いことが証明された。
【0014】
2種類の蛍光タンパク質、及び全長では放出されないサイトカインであるマウスインターロイキン33及び核タンパク質であるヒトp53タンパク質が本発明の方法で培養上清中に効率的に放出されたことより、本発明の有効性が証明された。
【0015】
小胞体移行性シグナル配列の比較では、タンパク質放出に関しては多少の差こそあれ優劣はつけがたく、糖鎖付加による影響に比べて小さく、小胞体移行性シグナル配列の存在こそが重要で、余り種類は問わない結果となった。しかし、マウスインターロイキン33のシグナル配列では、ほとんど細胞外放出が行われなかったので、シグナル配列の選択の不必要性を示唆するものではない。
【0016】
比較的大きいヒトの癌抑制遺伝子産物であるヒトp53タンパク質が活性を持って放出されたことより、本発明の手法は活性型のタンパク質の生産についても有用性が認められた。
【0017】
また、低タンパク質培地中へのタンパク質の放出により、タンパク質精製が非常に容易にできたことより、生産のみならず精製を含めたタンパク質生産に有用であることが確認された。
【0018】
すなわち、本発明の態様は以下のとおりである。
[1] 小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、タンパク質にAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列が付加された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、宿主真核細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いるポリヌクレオチドであって、前記タンパク質を宿主真核細胞外に放出させるためのポリヌクレオチド。
[2] 小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、タンパク質にO型-糖鎖付加配列が付加された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、宿主真核細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いるポリヌクレオチドであって、前記タンパク質を宿主真核細胞外に放出させるためのポリヌクレオチド。
【0019】
[3] 小胞体移行性シグナル配列が、マウスインターロイキン4のシグナル配列(配列番号1)、マウスインターロイキン5のシグナル配列(配列番号3)、マウスインターロイキン6のシグナル配列(配列番号5)、マウスインターロイキン12のシグナル配列(配列番号7)、マウスインターロイキン13のシグナル配列(配列番号9)、マウスインターロイキン31のシグナル配列(配列番号11)、ヒトインターロイキン13(配列番号13)のシグナル配列及びヒトインターロイキン31のシグナル配列(配列番号15)からなる群から選択される、[1]又は[2]のポリヌクレオチド。
[4] [1]〜[3]のいずれかのポリヌクレオチドを含む、組換えタンパク質を発現し宿主真核細胞外に放出させるための発現ベクター。
[5] [4]の発現ベクターを含む宿主真核細胞。
【0020】
[6] 小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、Asn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドを含み、前記小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチドの下流でありかつ該N型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドの上流若しくは下流に、発現させようとする目的タンパク質をコードする外来遺伝子を導入可能なマルチクローニング部位を含む、宿主真核細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いる発現ベクターであって、前記目的タンパク質を宿主真核細胞外に放出させるための発現ベクター。
【0021】
[7] 小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、O型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドを含み、前記小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチドの下流でありかつ該O型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドの上流若しくは下流に、発現させようとする目的タンパク質をコードする外来遺伝子を導入可能なマルチクローニング部位を含む、宿主真核細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いる発現ベクターであって、前記目的タンパク質を宿主細胞外に放出させるための発現ベクター。
[8] [1]〜[3]のいずれかのポリヌクレオチドを宿主真核細胞に導入し、該宿主真核細胞を培養し、前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させ細胞外に放出させ、細胞培養上清より目的タンパク質を回収することを含む、タンパク質の製造方法。
【0022】
[9] [6]又は[7]の発現ベクターを宿主真核細胞に導入し、該宿主真核細胞を培養し、前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させ細胞外に放出させ、細胞培養上清より目的タンパク質を回収することを含む、タンパク質の製造方法。
[10] [8]又は[9]の方法により製造されたタンパク質。
[11] タンパク質にAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列が付加され、該N型-糖鎖付加配列にN型-糖鎖が結合し糖鎖修飾された[10]のタンパク質。
[12] 天然において糖鎖修飾されないタンパク質にAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列が付加され、該N型-糖鎖付加配列にN型-糖鎖が結合した、[11]の糖鎖修飾されたタンパク質。
【0023】
[13] タンパク質にO型-糖鎖付加配列が付加され、該O型-糖鎖付加配列にO型-糖鎖が結合し糖鎖修飾された[10]のタンパク質。
[14] 天然において糖鎖修飾されないタンパク質にO型-糖鎖付加配列が付加され、該O型-糖鎖付加配列にO型-糖鎖が結合した、[13]の糖鎖修飾されたタンパク質。
[15] [1]〜[3]のいずれかのポリヌクレオチドを非ヒト動物に導入し、該動物体内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させ、該タンパク質に対する抗体を製造させることを含む、DNA免疫による抗体の製造方法。
[16] 小胞体移行性シグナル配列とAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなる糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチド及び、小胞体移行性シグナル配列を融合させても効率的に宿主外へ放出されない目的蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いるポリヌクレオチドであって、前記目的タンパク質を糖鎖修飾に依存して宿主細胞外に放出させるポリヌクレオチド。
【発明の効果】
【0024】
小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、Asn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチド若しくはO型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチド並びに目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを宿主真核細胞に導入し、該細胞を培養し、タンパク質を発現させた場合、糖鎖修飾された目的タンパク質は効率的に宿主細胞外に放出される。この方法により、本来細胞外に放出されない導入タンパク質を発現させ、細胞外に放出させることにより、目的のタンパク質を効率的に精製することができる。また、本来放出されるタンパク質においても、糖鎖付加に留意して設計することにより、細胞外への放出効率を向上させることができ、その後の精製等を効率的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明におけるシグナル配列は、小胞体に存在するGTP結合性の調節タンパク質であるシグナル認識粒子(signal recognition particle: SRP)タンパク質に結合する、15〜30アミノ酸よりなり、さらに主にN末端にある5〜10個の連続する疎水性アミノ酸よりなる疎水性コアを有する小胞体移行性のシグナル配列である。
【0026】
疎水性アミノ酸には、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンが含まれる。シグナル配列中の疎水性アミノ酸は同じアミノ酸であってもよいし、異なるアミノ酸であってもよい。
【0027】
リボソームにおけるタンパク質の翻訳の際、最初にシグナル部分が合成され、SRPがシグナル配列を認識する。その後、翻訳が一時的に中止され、SRPはリボソームと結合し、この複合体が小胞体膜上のSRP受容体に結合する。シグナル配列がSRPから解離し、小胞体膜にある小孔を貫通して小胞体内に移動すると翻訳が再開され、タンパク質が小胞体内に入る。そしてシグナル配列が小胞体内のペプチダーゼによって切除され、タンパク質がゴルジ体に輸送され、細胞外に放出される。
【0028】
本発明のシグナル配列は、小胞体移行性シグナルとしての作用を有する配列ならば限定されないが、好ましくはシグナルペプチド認識機構によって、認識され切断されるペプチド配列である。このようなシグナル配列として、例えば、インターロイキン4、インターロイキン5、インターロイキン6、インターロイキン12、インターロイキン13、若しくはインターロイキン31のシグナル配列が挙げられる。マウスインターロイキン4、マウスインターロイキン5、マウスインターロイキン6、マウスインターロイキン12、マウスインターロイキン13及びマウスインターロイキン31のシグナル配列をコードする塩基配列を、それぞれ配列番号1、3、5、7、9及び11に表し、これらのシグナル配列のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号2、4、6、8、10及び12に表す。また、ヒトインターロイキン13、及びヒトインターロイキン31のシグナル配列をコードする塩基配列を、それぞれ配列番号13及び15に表し、これらのシグナル配列のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号14及び16に表す。
【0029】
シグナル配列を有するタンパク質のシグナル配列を利用する場合、シグナル配列部分をコードするポリヌクレオチドのみを目的のタンパク質の上流に連結させてもよいし、シグナル配列を有する該タンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、シグナル配列部分を含む連続する断片をコードするポリヌクレオチドを目的のタンパク質の上流に連結させてもよい。
【0030】
N型-糖鎖付加配列(N型-糖鎖修飾配列)は、アミノ酸配列、Asn-X-(Thr/Ser)で表されるN型-糖鎖付加配列である。ここで、Xはプロリン以外の任意のアミノ酸であり、Thr/SerはThr又はSerを示す。N-結合型糖鎖がAsn-X-(Thr/Ser)(NXT/S)のAsnにN-結合型で結合する。該配列の具体例として、NYS、NYT、NAS、NAT、NTS、NTT等が挙げられる。糖鎖付加配列が存在するとタンパク質が小胞体に移行後ゴルジ体において糖鎖が付加され、非調節性に細胞外へ放出される。
【0031】
本発明において、N型-糖鎖付加配列のみならず、O型-糖鎖付加配列を用いることもできる。EGFPタンパク質と融合させ発現させた実験において、細胞外放出タンパク質はO型-糖鎖修飾を示す電気泳動上で分子量の増加が示されており、これはN型のみならずO型-糖鎖修飾も同様の細胞外放出効率を上昇させる活性を有することを示す。
【0032】
本発明において、組換えタンパク質として産生させ細胞外に放出させる目的のタンパク質は限定されず、あらゆるタンパク質を本発明の方法で生産することができる。
【0033】
好ましくは、細胞外に放出されないタンパク質が列挙できる。このようなタンパク質として、例えば天然において本来糖鎖修飾されないタンパク質が挙げられる。さらに、細胞質タンパク質、核タンパク質等細胞外に放出されないタンパク質が挙げられる。さらに、シグナル配列を変換し糖鎖配列が付加されたことにより、非調節的に放出される細胞外分泌タンパク質を挙げることができる。このようなタンパク質として、例えばマウスIL-33が挙げられる。
【0034】
糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドを、細胞外に放出させる目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドに連結させて用いる場合、糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドは、目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドの上流(5'側)に連結しても、下流(3'側)に連結してもよい。この場合、小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、タンパク質にO型-糖鎖付加配列が付加された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。
【0035】
配列番号17にマウスインターロイキン31のシグナル配列をコードするポリヌクレオチドの下流(3'側)にN型-糖鎖修飾配列を連結したポリヌクレオチドの配列(GSS-artificial)を示す。該ポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列(GSSアミノ酸)を配列番号18に示す。配列番号18に表されるアミノ酸において糖鎖付加配列が小胞体移行性シグナル配列の下流に存在している。しかしながら、この糖鎖付加配列は人工的に設計されたものであり、天然には存在しない。N型-糖鎖が付加され得るアミノ酸は4箇所存在する。この配列の下流に蛍光タンパク質を融合させたところ、糖鎖が付加され細胞外に放出された。従って、糖鎖付加配列は天然に存在する糖鎖付加配列に限定されない。
【0036】
また、天然において小胞体移行性シグナル配列及び糖鎖付加配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、そのタンパク質の遺伝子が含むシグナル配列をコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを利用することもできる。この場合、そのタンパク質の遺伝子のシグナル配列からタンパク質をコードするORF(open reading frame)の少なくとも糖鎖付加配列までの連続するポリヌクレオチドを製造しようとする目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドの上流(5'側)に連結して用いることができる。また、目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドに天然のタンパク質のシグナル配列を含む全長配列をコードするポリヌクレオチドを連結してもよい。
【0037】
このようなシグナル配列及び糖鎖付加配列を含む天然のタンパク質をコードするポリヌクレオチドとして、インターロイキン13及びインターロイキン31をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。インターロイキン13及びインターロイキン31が由来する動物種は限定されないが、ヒト、マウス由来のものが好適に用い得る。
【0038】
例えば、配列番号19に表されるシグナル配列を含むマウスインターロイキン31をコードするポリヌクレオチド、配列番号21に表されるシグナル配列を含むヒトインターロイキン31をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。それぞれのポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列を配列番号20及び配列番号22に示す。
【0039】
これらの塩基配列と相補的な配列からなる塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドであって、配列番号19又は21に表される塩基配列からなるポリヌクレオチドがコードするタンパク質の活性を有するタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドも用いることができる。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、「1XSSC、0.1% SDS、37℃」程度の条件であり、より厳しい条件としては「0.5XSSC、0.1% SDS、42℃」程度の条件であり、さらに厳しい条件としては「0.2XSSC、0.1% SDS、65℃」程度の条件である。このようにハイブリダイゼーションの条件が厳しくなるほど高い相同性を有するDNAの単離、検出を期待しうる。ただし、上記のSSC、SDS及び温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であればハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、ポリヌクレオチド濃度、ポリヌクレオチドの長さ、ハイブリダイゼーションの反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。また、配列番号19又は21に表される塩基配列とBLAST等の相同性検索プログラムを用いて該プログラムのデフォルト(初期設定)のパラメータを用いて算出される80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上の同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドも用いることができる。
【0040】
なお、マウスインターロイキン33に例示されるように、発現させようとする目的タンパク質が天然において糖鎖付加配列を有する場合、小胞体移行性シグナル配列と融合させることにより、この糖鎖付加配列に糖鎖が付加され、細胞外放出が促進される。このような状況では、この天然において存在する糖鎖付加配列を利用することができるので、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの上流又は下流に糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドを連結する必要は必ずしもない。マウスインターロイキン33の塩基配列を配列番号23に、そのアミノ酸配列を配列番号24に示す。この場合も、このポリヌクレオチドは本発明の「小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、タンパク質にO型-糖鎖付加配列若しくはAsp-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列が付加された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド」に包含される。また、配列番号23に表される塩基配列と相補的な配列からなる塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドであって、配列番号23に表される塩基配列からなるポリヌクレオチドがコードするタンパク質の活性を有するタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドも用いることができる。さらに、配列番号23に表される塩基配列とBLAST等の相同性検索プログラムを用いて該プログラムのデフォルト(初期設定)のパラメータを用いて算出される80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上の同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドも用いることができる。
【0041】
本発明は、目的のタンパク質を宿主細胞で発現させ、該宿主細胞外に放出(分泌)させるためのポリヌクレオチドを包含し、該ポリヌクレオチドは、小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、O型-糖鎖付加配列若しくはAsp-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチド並びに目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。該ポリヌクレオチドは小胞体移行性シグナルをコードするポリヌクレオチドの下流に、糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチド及び目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドと糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドは、目的のタンパク質に糖鎖付加配列が付加された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドであってもよい。該融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチドの下流に存在する。糖鎖付加配列は、複数連結してもよい。すなわち、本発明のタンパク質を真核細胞で発現させ細胞外に放出させるために用いるポリヌクレオチドは、例えば、小胞体移行性シグナルをコードするポリヌクレオチド-{Asn-X-(Thr/Ser)}N(Nは、1〜5の整数)をコードするポリヌクレオチド-目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドからなる。また、小胞体移行性シグナルをコードするポリヌクレオチド、糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチド及び目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドの間には、他のヌクレオチド配列が含まれていてもよい。
【0042】
実際、赤色蛍光タンパク質(Dsred)及び緑色蛍光タンパク質(EGFP)を用いた実験において、NYTNNYSNISNNYSの配列(配列番号96)で示される人工的に設計された14アミノ酸からなるN型-糖鎖付加配列において、小胞体移行性シグナル配列の下流に発現させると糖鎖が付加され、またそれに伴い生産されたタンパク質の細胞外放出が誘起されることが示された。
【0043】
このポリヌクレオチドの上流には、プロモーターが作動可能に連結されていてもよい。本発明で用いられるプロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応した適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば宿主が酵母である場合は、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが好ましい。動物細胞を宿主として用いる場合は、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター、HSV-TKプロモーターなどが挙げられる。また、薬剤(インデューサー)の添加等の特定の条件下で誘導的に作用する誘導性のプロモーターを用いてもよい。
【0044】
本発明の真核細胞において目的組換えタンパク質を発現し細胞外に分泌させるためのポリヌクレオチドは、さらに、当該技術分野で公知の、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加部位、選択マーカー、SV40複製オリジン等を含んでいてもよい。
【0045】
本発明は、小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、タンパク質にO型-糖鎖付加配列若しくはAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列が付加された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、並びにプロモーター等を含む、宿主細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いる発現カセットをも包含する。
【0046】
本発明は、小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、タンパク質にAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列が付加された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを宿主真核細胞に導入し、該宿主真核細胞を培養し、前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させ細胞外に放出させ、細胞培養上清より目的タンパク質を回収することを含む、タンパク質の製造方法を包含する。
【0047】
本発明の真核細胞において目的組換えタンパク質を発現し細胞外に放出させるためのポリヌクレオチドは、ベクターに組込み宿主真核細胞に導入すればよい。
【0048】
本発明の方法で用いる真核細胞としては、酵母、昆虫細胞、鳥類細胞、両生類細胞、爬虫類細胞、哺乳類細胞が挙げられる。
【0049】
酵母としては、例えば、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AH22、AH22R-、NA87-11A、DKD-5D、20B-12、スキゾサッカロマイセス ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)NCYC1913、NCYC2036、ピキア パストリス(Pichia pastoris)等が挙げられる。
【0050】
昆虫細胞としては、Sf21などの夜盗蛾細胞等が挙げられる。
両生類細胞としては、アフリカツメガエル卵細胞等が挙げられる。
【0051】
哺乳類細胞としては、例えば、HEK293細胞、FreeStyle293細胞、FL細胞などのヒト細胞; COS-7、Veroなどのサル細胞;CHO、dhfr遺伝子欠損CHO細胞などのチャイニーズハムスター細胞;マウスL細胞、マウスAtT-20細胞、マウスミエローマ細胞などのマウス細胞;ラットGH3細胞などのラット細胞等が挙げられる。
【0052】
発現ベクターとしては、pKA1、pCDM8、pSVK3、pSVL、pBK-CMV、pBK-RSV、EBVベクター、pRS、pYE82などが例示できる。また、pIND/V5-His、pFLAG-CMV-2、pEGFP-N1、pEGFP-C1などを発現ベクターとして用いれば、Hisタグ、FLAGタグ、GFPなど各種タグを付加した融合タンパク質として発現させることもできる。
【0053】
これらの細胞の中でも、低タンパク質濃度条件下で培養し得る細胞を用いた場合、培養上清からの精製が容易に行えるので望ましい。低タンパク質濃度条件下で培養し得る細胞として、例えば、FreeStyle293細胞が挙げられる。
【0054】
ベクターは、小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、O型-糖鎖付加配列若しくはAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチド及び目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いるポリヌクレオチドを含む。本発明は、このような組換えタンパク質を発現し宿主細胞外に放出させるための発現ベクター及び該ベクターを導入した宿主細胞を包含する。
【0055】
さらに、目的のタンパク質を連結させる部位として、マルチクローニング部位を含ませておきその部位に目的のタンパク質をコードする外来遺伝子を組込んでもよい。この場合、本発明のベクターは、小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチドの下流にO型-糖鎖付加配列若しくはAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチド並びに目的タンパク質をコードする外来遺伝子を導入可能なマルチクローニング部位を含む宿主細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いる発現ベクターである。
【0056】
酵母への組換えベクターの導入方法は、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばエレクトロポレーション法[Becker, D.M. et al.:Methods. Enzymol., 194: 182(1990)]、スフェロプラスト法[Hinnen, A. et al.:Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 75: 1929(1978)]、酢酸リチウム法[Itoh, H.:J. Bacteriol., 153:163(1983)]等が挙げられる。動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
【0057】
本発明の真核細胞において目的組換えタンパク質を発現し細胞外に分泌させるためのポリヌクレオチドを含むベクターを導入した宿主真核細胞を培養することにより、目的のタンパク質を発現させ、細胞外すなわち培養上清中に放出させることができる。培養は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
【0058】
培養終了後、公知の方法で細胞と上清とを分離し、上清を集める。このようにして得られた培養上清、あるいは抽出液中に含まれるタンパク質の精製は、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて行なうことができる。細胞内からの抽出と比べ、放出されたタンパク質は不純物若しくは夾雑物も少なく、また抽出時における界面活性剤の使用も不必要であり、この点からも活性タンパク質として回収する上で有効である。例えば、尿素などの変性剤や界面活性剤による処理、超音波処理、酵素消化、塩析や溶媒沈殿法、透析、遠心分離、限外濾過、ゲル濾過、SDS-PAGE、等電点電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0059】
産生されたタンパク質から糖鎖を糖鎖分解酵素を用いて取り除くこともできる。しかしながら、糖鎖付加により新たな活性を発現タンパク質に付与することもあり、この場合は、糖鎖付加配列は有用な糖鎖タンパク質の調製にも有効である。
【0060】
本発明は、本発明の方法により製造されたタンパク質を包含する。該タンパク質は、翻訳された後、細胞内で各種修飾を受ける場合がある。従って、修飾されたタンパク質も本発明のタンパク質の範囲に含まれる。このような翻訳後の修飾としては、N末端メチオニンの脱離、N末端アセチル化、細胞内プロテアーゼによる限定分解、ミストレイル化、イソプレニル化、リン酸化などが例示できる。
【0061】
本発明の小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、タンパク質にO型-糖鎖付加配列若しくはAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列が付加された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むタンパク質発現ベクターは、DNA免疫に利用することができる。具体的には、真核細胞用発現ベクターを注射や遺伝子銃によって、動物の筋肉や皮膚に導入した後、発現タンパク質が血中に放出されるため、免疫が生じ、目的タンパク質に反応する血清を採取することにより作製することができる。動物としては、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ニワトリなどが用いられる。免疫した動物の脾臓から採取したB細胞とミエローマを融合させてハイブリドーマを作成すれば、モノクローナル抗体を産出することができる。
【0062】
また細胞外に導入タンパク質が放出されるため、遺伝子治療及びDNAワクチンにも使用できる。さらに、細胞外分泌タンパク質を生産する細胞を樹立することにより、細胞治療にも応用できる。また細胞内に存在し通常は自己と認識されているタンパク質を細胞外に放出させて免疫原性を誘導し、自己免疫疾患モデルマウスの作成に用いることも出来る。
【実施例】
【0063】
次に実施例を示しこの発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、この発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、DNAの組換えに関する基本的な操作及び酵素反応は、文献(“Molecular Cloning, Laboratory Manual” Cold Spring Harbor Laboratory, 1989)に従った。制限酵素及び各種修飾酵素は特に記載のない場合には、Invitrogen社製のものを用いた。各酵素反応の緩衝液組成及び反応条件は付属の説明書に従った。
【0064】
方法
(1)発現ベクターの構築
N末端にKozak配列及びEcoRIサイト、C末端にXhoIサイトを配置したcDNAを作製するため、プライマー配列(配列番号25及び配列番号26)を用いて、Balb/Cマウスの脾臓細胞のcDNAをテンプレートとして、Phusion PCR kit(Finnzyme社、フィンランド)の使用説明書に基づいて、PCRを行った。96℃2分+(98℃15秒、58℃15秒、72℃1分)×35+72℃1分の条件で行った。PCRについて以下特に記載しない場合は、前述の条件を用いた。
【0065】
得られたPCRフラグメント(574b.p.)をATP(Invitrogen社)存在下、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(Invitrogen社)によりリン酸化し、クローニングベクターpBluescript2SK+のEcoRVサイトに平滑末端の形でクローニングを行い、GenebankのクローンXM_132344における当該領域と一致する配列番号27で表される配列を含むクローンを得た。
【0066】
マウスIL-31のC末端にEGFPタンパク質及びヒスチジンタグと融合させるため、このプラスミドをテンプレートとし、N末端にKozak配列及びEcoRIサイトを配置し、C末端側の終了コドンをXhoIサイトに変更する配列を持ったプライマー配列(配列番号25及び配列番号28)を用いて、PCRを行ない、pBluescript2Sk+のEcoRVサイトにサブクローニングを行い、変異が無く全長のcDNAを持つクローン(mIL31-fus/pBSK2+)を得た。
【0067】
同様にマウスIL-4、5、6、12及び13をC末端にEGFPタンパク質及びヒスチジンタグと融合させるため、N末端にKozak配列及びEcoRIサイトを配置し、C末端側の終了コドンをBamHIサイトに変更する配列を持ったプライマーを用いてBalb/Cマウスの脾臓細胞のcDNAをテンプレートとして、PCRを行ない、mIL-31の時と同様にpBluescript2SK+のEcoRVサイトにサブクローニングを行い、変異が無く全長のcDNAを持つクローン(mIL-x-fus/pBSK2+(X=4,5,6,12,13))を得た。マウスIL-4には配列番号29及び30で表されるプライマーを、IL-5には配列番号31及び32で表されるプライマーを、IL-6には配列番号33及び34で表されるプライマーを、IL-12には配列番号35及び36で表されるプライマーを、IL-13には配列番号37及び38で表されるプライマーをそれぞれ用いた。
【0068】
クラゲ蛍光タンパク質(EGFP)を用いて解析を行うため、哺乳類発現ベクターpcDNA3.1-MH-A+(Invitrogen社)のHindIIIからXhoIサイトの間にプライマー配列(配列番号39及び配列番号40)をアニールしたマルチプルクローニングサイトの変更を行ない、HindIII、EcoRI、BamHI及びXhoIの位置を変更したプラスミドpcDNA3.1-modified+ を得た。
【0069】
緑色蛍光タンパク質(EGFP)発現ベクターであるpEGFP-C1(Clonetech社)をテンプレートとして、配列番号41及び42で表されるプライマーを用いてPCRを行い、EGFPのcDNAを増幅した。得られたフラグメントをpBluescript2SK+のEcoRVサイトにサブクローニングを行い、PCR及びオリゴ合成中に変異の入らなかったクローンを選択した。このプラスミドを制限酵素BamHIとSalIで切断し、切り出されたフラグメントをプラスミドpcDNA3.1-modified+のBamHIからXhoIサイトの間にサブクローニングを行い、EGFP発現ベクターEGFP-H/pcDNA3.1ベクターを得た。
【0070】
この発現ベクターはCMVプロモーターの下流に以下のポリヌクレオチド配列(配列番号43)を持ち、配列番号44のタンパク質(EGFP-H)を発現する。
この変更により、XhoIサイトはライゲーションにより、新しい位置に移動している。
【0071】
この作成したベクター(EGFP-H/pcDNA3.1)のEcoRIとBamHIの間に、mIL-X-fus/pBSK2+ (X=4,5,6,12,13)をEcoRIとBamHIで切断したフラグメントを挿入し、マウス全長インターロイキンとEGFPとヒスチジンタグの融合タンパク質を発現するベクター(mIL-X-EGFPH/pcDNA3.1)(X=4,5,6,12,13)を得た。
【0072】
mIL-4-EGFPH/pcDNA3.1発現ベクターは配列番号45で表されるタンパク質(mIL-4-EGFPH)を発現させる。mIL-5-EGFPH/pcDNA3.1発現ベクターは配列番号46で表されるタンパク質(mIL-5-EGFPH)を発現させる。mIL-6-EGFPH/pcDNA3.1発現ベクターは配列番号47で表されるタンパク質(mIL-6-EGFPH)を発現させる。mIL-12-EGFPH/pcDNA3.1発現ベクターは配列番号48で表されるタンパク質(mIL-12-EGFPH)を発現させる。mIL-13-EGFPH/pcDNA3.1発現ベクターは配列番号49で表されるタンパク質(mIL-13-EGFPH)を発現させる。
【0073】
同様にmIL31-fus/pBSK2+をEcoRIとXhoIで切断し、得られたフラグメントをこの作成したベクター(EGFP-MH/pcDNA3.1-MH-A+)のEcoRIとXhoIの間に導入し、マウス全長インターロイキン31とEGFPとヒスチジンタグの融合タンパク質を発現するベクター(mIL-31-EGFPH/pcDNA3.1)を得た。
【0074】
mIL-31-EGFPH/pcDNA3.1発現ベクターは配列番号50で表されるタンパク質(mIL-31-EGFPH)を発現させる。
【0075】
マウスインターロイキン31の細胞外分泌に必要な領域を決定するため、ベクター(mIL-31-EGFPH/pcDNA3.1)の改変を行った。mIL-31-EGFPH/pcDNA3.1をテンプレートとして、発現ベクターのCMVプロモーター領域内に存在する配列を持つプライマー(配列番号51)と以下に示すプライマーによりmIL31の一部領域をPCRにより増幅し、得られたフラグメントをEcoRIとBamHIにより切断し、EGFPH/pcDNA3.1ベクターのEcoRIとBamHIの間に導入し、各々の変異体を作成した。
【0076】
用いたプライマーの配列と得られた変異体発現ベクターの関係は以下のとおりであった。配列番号52で表されるプライマー及び配列番号51で表されるプライマーよりSS-EGFPH/pcDNA3.1が、配列番号53で表されるプライマー及び配列番号51で表されるプライマーよりΔ-EGFPH/pcDNA3.1が、配列番号54で表されるプライマー及び配列番号51で表されるプライマーよりGSS-EGFPH/pcDNA3.1が、配列番号55で表されるプライマー及び配列番号51で表されるプライマーよりGSS(DD)-EGFPH/pcDNA3.1が作成された。
【0077】
次にシグナルシーケンスと人工的な糖鎖修飾サイトを構築するため、mIL-31-EGFPH/pcDNA3.1をテンプレートとしてプライマー(配列番号51及び配列番号56)を用いてPCRを行い、シグナルシーケンスを含むフラグメントを得た。同時に合成オリゴDNA(配列番号57)をテンプレートとして、プライマー(配列番号58及び配列番号59)を用いてPCRを行い、人工的な糖鎖修飾サイトを持つフラグメントを作成した。各々のフラグメントを精製し等量混合し、このフラグメントをテンプレートとして、プライマー(配列番号51及び配列番号59)を用いてPCRを行い、PCRによって2つのフラグメントを結合させ、増幅することによりcDNAフラグメントを作成した。精製後EcoRIとBamHIにより切断し、EGFPH/pcDNA3.1ベクターのEcoRIとBamHIの間に導入し、シグナルシーケンスと人工的な糖鎖修飾サイトを持つ発現ベクターSS-Art-EGFPH/pcDNA3.1を作成した。SS-EGFPH/pcDNA3.1は配列番号60で表される、Δ-EGFPH/pcDNA3.1は配列番号61で表される、GSS-EGFPH/pcDNA3.1は配列番号62で表される、GSS(DD)-EGFPH pcDNA3.1は配列番号63で表される、SS-Art-EGFPH/pcDNA3.1は配列番号64で表されるタンパク質を各々発現させる。
【0078】
ヒト末梢単核球のcDNAをテンプレートとして、プライマー(配列番号65及び配列番号66)を用いてPCRを行い、C末端にXhoIサイトを配置した、ヒトp53タンパク質をコードするcDNAを増幅した。得られたフラグメントを、リン酸化を行い、pBluescript 2 SK+のEcoRVサイトに平滑末端によりクローニングを行った。PCRによる変異、また、プライマー合成中の変異の無いクローンを選択し、BamHI及びXhoIで切断し、pcDNA3.1-myc-His-A+のBamHI及びXhoIの間にサブクローニングし、p53発現ベクターp53H/pcDNA3.1を得た。p53H/pcDNA3.1ベクターは配列番号67で表されるタンパク質(p53タンパク質)を発現させる。
【0079】
h-p53-his/pcDNA3.1-MH-A+ベクターをBamHI及びXbaIで切断し、得られたフラグメントをSS-EGFPH/pcDNA3.1又はGSS-EGFPH/pcDNA3.1のBamHI及びXbaIサイトの間に導入し、SS-EGFPH/pcDNA3.1からSS-p53H/pcDNA3.1を、GSS-EGFPH/pcDNA3.1からGSS-p53H/pcDNA3.1を得た。SS-p53H/pcDNA3.1は配列番号68で表されるタンパク質(ss-p53Hタンパク質)を、GSS-p53H/pcDNA3.1は配列番号69で表されるタンパク質(GSS-p53Hタンパク質)をそれぞれ発現させる。
【0080】
マウスインターロイキン33の発現ベクター
マウス脾臓のcDNAをテンプレートとして、プライマー(配列番号70及び71)を用いてPCRを行い、C末端にXhoIサイトを配置した、マウスインターロイキン33(mIL-33)をコードするcDNAを増幅した。得られたフラグメントを、リン酸化を行い、pBluescript 2 SK+のEcoRVサイトに平滑末端によりクローニングを行った。PCRによる変異、また、プライマー合成中の変異の無いクローンを選択し、BamHI及びXhoIで切断し、pcDNA3.1-myc-His-A+のBamHI及びXhoIの間にサブクローニングし、mIL-33発現ベクターmIL-33H/pcDNA3.1を得た。
【0081】
このベクターをテンプレートとしてプライマー(配列番号71及び72)を用いてPCRを行い、mIL-33の成熟した部分をコードするcDNAフラグメントを増幅した。得られたフラグメントを、リン酸化を行い、pBluescript 2 SK+のEcoRVサイトに平滑末端によりクローニングを行い、PCRによる変異及びプライマー合成中の変異の無いクローンを選択し、BamHI及びXhoIで切断しSS-p53H/pcDNA3.1のBamHI及びXhoIの間にサブクローニングし、mIL31のシグナル配列の下流に成熟型mIL-33を配置した発現ベクターSS-mIL-33H/pcDNA3.1を得た。
【0082】
mIL-33H/pcDNA3.1は配列番号73で表されるタンパク質(mIL-33タンパク質)を、SS-mIL-33H/pcDNA3.1は配列番号74で表されるタンパク質(SS-mIL-33Hタンパク質)をそれぞれ発現させる。
【0083】
細胞培養
HEK-293及びCos-1細胞はDulbecco's modified Eagle’s medium(DMEM)(Gibco-Invitrogen社)、10%牛胎児血清、(Gibco-Invitrogen) (Hyclone, Logan, UT,USA)及びペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco-Invitrogen)の培地を用い、37℃5%二酸化炭素環境下で細胞培養を行った。
【0084】
FreeStyle293-T(FS-293T)(Invitrogen社)細胞はFreeStyle medium(Invitrogen社)の培地を用い、Invitrogen社のマニュアルに従って37℃8%二酸化炭素存在下でロータリーシェーカーにより振盪培養を行った。
【0085】
各種発現プラスミドはDH5α-FTに形質転換を行い、NucleoBond Xtra Midiプラスミド精製キット(Macherey-Nagel社Duren、ドイツ)の操作手引書に従って精製を行った。またトランスフェクションはHEK-293及びCos-1細胞はLipofectamine2000(Invitrogen社)を、FS293-T細胞は293fectin(Invitrogen社)を用いて操作手引書に従い、行った。この際、血清を用いる際はLow immunogloblin fetal bovine serum (Invitrogen社)を替わりに用い、ウエスタンブロットにおけるイムノグロブリンの非特異的検出を防いだ。
【0086】
トランスフェクションの後、3日後に細胞上清を取り、2000gで5分間遠心を行い、細胞上清とした。HEK-293及びCos-1細胞は上清を取り除いた後、培地と同量のPBSで2回洗浄し、培地と同量の0.5%SDS含有PBSで細胞を溶解し、100℃で5分過熱処理を行った。FreeStyle-293Tの場合は細胞を遠心法によりPBSバッファーで洗浄し、培地と同量の0.5%SDS含有PBSで細胞を溶解し、100℃で5分過熱処理を行った。
(PBS: 137 mMNaCl, 8.1 mMNa2HPO4, 2.68 mM KCl and 1.47 mM KH2PO4, pH7.4)
【0087】
ウエスタンブロット
細胞上清と細胞分画抽出液をToyobo社のCanGetSignalキット(富山、日本)のプロトコルに従って、Hybond-P(PVDF)メンブラン(Amersham)を用いてウエスタンブロットを行った。1次抗体にはAnti-His-tag抗体(PM002、MBL 日本)を用い、2次抗体にはAnti-rabbit-IgG-HRPコンジュゲート抗体(Cat.NA934V GE healthcare社 UK)を用い、Amersham社(Oakville, Ontario, Canada)ECL plus検出キットのプロトコルに従って、Hyperfilm-ECL(Amersham社)に感光させ検出を行った。
【0088】
得られた画像はBio-rad社の画像読取装置Chem Doc XRSを用いて、電子画像化し、デンシトメトリーは付属のQuantity Oneソフトウエアーにより行った。
【0089】
Art-DsredH/pcDNA3.1の作成
赤色蛍光タンパク質発現ベクターpDsRed-Monomer-C1(クロンテック社)を鋳型として、プライマー(配列番号75及び配列番号76)を用いてPCRを行い、蛍光タンパク質をコードするcDNAを増幅し、電気泳動後精製し、684塩基からなる配列番号77で表される塩基配列をコードするcDNAを得た。
【0090】
配列番号78で表されるプライマーをリン酸化し、これに配列番号79で表されるプライマーを等量混合し、アニールさせ、平滑化を行い配列番号80で表されるcDNAを得た。配列番号74及び配列番号80で表されるcDNAをライゲーションし、精製後、このcDNAを鋳型として燐酸化された配列番号79及び配列番号74で表されるプライマーを用いてPCRを行い、配列番号81に表される747塩基のcDNAを得、このcDNAをpBluescript2SK+のEcoRVサイトにサブクローニングし、プライマー合成中及びPCR中に変異の無い人工糖鎖付加サイトと赤色蛍光タンパクタンパク質をコードするcDNAを含むプラスミドを得た。Invitrogen社pcDNA3.1-MH-A+ ベクターのEcoRVとXbaIで切断し配列番号82及び83で表される合成DNAをアニールさせたものを挿入したサブクローン化したプラスミドをXhoIとEcoRIで切断し、配列番号81に表される配列もつプラスミドをEcoRIとSalIで切断し精製した747塩基のcDNAをサブクローニングし、糖鎖付加配列を含む赤色蛍光タンパク質を発現するベクターであるArt-DsredH/pcDNA3.1を得た。
【0091】
Art-DsredH/pcDNA3.1は配列番号84で表されるタンパク質(Art-DsredHタンパク質)を発現させる。
【0092】
マウスインターロイキン(IL-4/5/6/12/13)のシグナル配列の単離
マウスIL-4のシグナル配列を単離するため、mIL-4-EGFPH/pcDNA3.1のプラスミドを鋳型とし、プライマー(配列番号51及び配列番号85)を用いPCRを行い、精製後、HindIIIとBamHIで切断し、プラスミドArt-DsredH/pcDNA3.1のHindIIIとBamHIとの間にサブクローニングを行い、目的の構造をもつクローンを選択し、マウスIL-4のシグナル配列と人工糖鎖付加配列と赤色蛍光タンパク質及びヒスチジンタグを融合タンパク質として発現させるベクターSS(mIL4)-Art-DsredH/pcDNA3.1を得た。
【0093】
マウスIL-5のシグナル配列を単離するため、mIL-5-EGFPH/pcDNA3.1のプラスミドを鋳型とし、プライマー(配列番号51及び配列番号86)を用いPCRを行い、精製後、HindIIIとBamHIで切断し、プラスミドArt-DsredH/pcDNA3.1のHindIIIとBamHIとの間にサブクローニングを行い、目的の構造をもつクローンを選択し、マウスIL-5のシグナル配列と人工糖鎖付加配列と赤色蛍光タンパク質及びヒスチジンタグを融合タンパク質として発現させるベクターSS(mIL5)-Art-DsredH/pcDNA3.1を得た。
【0094】
マウスIL-6のシグナル配列を単離するため、mIL-6-EGFPH/pcDNA3.1のプラスミドを鋳型とし、プライマー(配列番号51及び配列87)を用いPCRを行い、精製後、HindIIIとBamHIで切断し、プラスミドArt-DsredH/pcDNA3.1のHindIIIとBamHIとの間にサブクローニングを行い、目的の構造をもつクローンを選択し、マウスIL-6のシグナル配列と人工糖鎖付加配列と赤色蛍光タンパク質及びヒスチジンタグを融合タンパク質として発現させるベクターSS(mIL6)-Art-DsredH/pcDNA3.1を得た。
【0095】
マウスIL-12のシグナル配列を単離するため、mIL-12-EGFPH/pcDNA3.1のプラスミドを鋳型とし、プライマー(配列番号51及び配列番号88)を用いPCRを行い、精製後、HindIIIとBamHIで切断し、プラスミドArt-DsredH/pcDNA3.1のHindIIIとBamHIとの間にサブクローニングを行い、目的の構造をもつクローンを選択し、マウスIL-12のシグナル配列と人工糖鎖付加配列と赤色蛍光タンパク質及びヒスチジンタグを融合タンパク質として発現させるベクター SS(mIL12)-Art-DsredH/pcDNA3.1を得た。
【0096】
マウスIL-13のシグナル配列を単離するため、mIL-5-EGFPH/pcDNA3.1のプラスミドを鋳型とし、プライマー(配列番号51及び89)を用いPCRを行い、精製後、HindIIIとBamHIで切断し、プラスミドArt-DsredH/pcDNA3.1のHindIIIとBamHIとの間にサブクローニングを行い、目的の構造をもつクローンを選択し、マウスIL-13のシグナル配列と人工糖鎖付加配列と赤色蛍光タンパク質及びヒスチジンタグを融合タンパク質として発現させるベクター SS(mIL13)-Art-DsredH/pcDNA3.1を得た。
【0097】
マウスIL-31のシグナルペプチドを含む発現ベクターSS-EGFP-MH/pcDNA3.1-MH-A+をHindIIIとBamHIで切断し、電気泳動によりマウスIL-31のシグナルペプチドを含むcDNAを精製し、プラスミドArt-DsredH/pcDNA3.1のHindIIIとBamHIとの間にサブクローニングを行い、マウスIL-31のシグナル配列と人工糖鎖付加配列と赤色蛍光タンパク質及びヒスチジンタグを融合タンパク質として発現させるベクター SS(mIL31)-Art-DsredH/pcDNA3.1を得た。
【0098】
上記の手法で作成した発現ベクターは、SS(mIL4)-Art-DsredH/pcDNA3.1が配列番号90で表されるタンパク質を、SS(mIL5)-Art-DsredH/pcDNA3.1が配列番号91で表されるタンパク質を、SS(mIL6)-Art-DsredH/pcDNA3.1が配列番号92で表されるタンパク質を、SS(mIL12)-Art-DsredH/pcDNA3.1が配列番号93で表されるタンパク質を、SS(mIL13)-Art-DsredH/pcDNA3.1が配列番号94で表されるタンパク質を、SS(mIL31)-Art-DsredH/pcDNA3.1が配列番号95で表されるタンパク質を、CMVプロモーターによりそれぞれ発現させる。
【0099】
DsRedタンパク質の発現
プラスミドArt-DsredH/pcDNA3.1及びSS(mIL-X)-Art-DsredH/pcDNA3.1(X=4,5,6,12,13,31)を、それぞれFreestyle-293F及びCos-1細胞にEGFPタンパク質発現ベクターと同様の手法でトランスフェクトを行い、上清及び細胞分画のタンパク質の抽出液を得て、12.5%のSDS-PAGEにより電気泳動を行い、融合タンパク質のC末端に配置されたヒスチジンタグをウエスタンブロット法により検出した。
【0100】
タンパク質の精製
FreeStyle293培地中に放出されたヒスチジンタグ付きタンパク質は遠心により上清を分離後、50mM Tris HCl (pH=7.4)、食塩濃度を0.5N、10mMイミダゾール(ナカライ社)、0.05%Chaps(同人化学)に調整し、Qiagen社のNi-NTA Superflowセファロース(Cat. 30430)にかけて、ヒスチジンタグ付きタンパク質を吸着させた。カラムを50mM Tris HCl (pH=7.4)、食塩濃度を0.5N、10mMイミダゾール、Chaps0.05%のバッファーで洗浄後、PBSバッファーで洗浄し、0.5N食塩、250mMイミダゾールを含むバッファーで溶出した。溶出液をMillipore社のAmicon Ultra-15限外ろ過濃縮フィルター(Cat.UFC901024)で濃縮し、PBS中で透析を行った。得られたサンプルをSDS-PAGE電気泳動を行い、クマジー染色を行った。
【0101】
p53タンパク質の活性はActive Motif社のTransAM p53(Cat. 41196)を用いて、添付説明書に従って計測した。
【0102】
結果
配列番号45(mIL-4-EGFPHタンパク質)、配列番号46(mIL-5-EGFPHタンパク質)、配列番号47(mIL-6-EGFPHタンパク質)、配列番号48(mIL-12-EGFPHタンパク質)、配列番号49(mIL-13-EGFPHタンパク質)及び配列番号50(mIL-31-EGFPHタンパク質)で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させ、細胞分画及び細胞上清を試料としてSDS-PAGEにより電気泳動後、C末端のヒスチジンタグを認識する抗体でウエスタンブロット法により発現タンパク質を検出した結果を図1に示す。図1中Cは細胞分画を、Sは上清分画を示す。図1に示すように、インターロイキン6はN型糖鎖付加配列を持たないが、上清に糖鎖修飾したと思われるタンパク質が放出されている。インターロイキン13と31の融合タンパク質が効率的に培地中に放出されている。
【0103】
配列番号44(EGFP-H)、配列番号60(SS-EGFPH/pcDNA3.1)、配列番号61(Δ-EGFPH/pcDNA3.1)、配列番号62(GSS-EGFPH/pcDNA3.1)、配列番号63(GSS(DD)-EGFPH/pcDNA3.1)、配列番号50(mIL-31-EGFPH)及び配列番号64(SS-Art-EGFPH/pcDNA3.1)で表されるアミノ酸配列の各種変異体についてシグナル配列及び糖鎖付加配列の配置の模式図を図2に示す。図中、黒三角で示した部分は、各変異体におけるN-型糖鎖の付加位置を示し、数字はアミノ酸の位置を示す。
【0104】
配列番号44、60、61、62及び63で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させ、細胞分画及び細胞上清を試料としてSDS-PAGEにより電気泳動後、C末端のヒスチジンタグを認識する抗体でウエスタンブロット法により発現タンパク質を検出した結果を図3に示す。図3中、泳動写真の下のCは細胞分画を示し、Sは上清分画を示す。また、aはSS-EGFPH(配列番号60)、bはΔ-EGFPH(配列番号61)、cはGSS-EGFPH(配列番号62)、dはGSS(DD)-EGFPH(配列番号63)を示す。図3に示すようにシグナル配列だけではなく、N型糖鎖付加配列を持った時に特に融合タンパク質が効率的に培地中に放出されているのがわかる。
【0105】
配列番号44、60、61、62及び63で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてCos-1細胞に発現させ、細胞分画及び細胞上清を試料としてSDS-PAGEにより電気泳動後、C末端のヒスチジンタグを認識する抗体でウエスタンブロット法により発現タンパク質を検出した結果を図4に示す。図4中、泳動写真の下のCは細胞分画を示し、Sは上清分画を示す。また、aはEGFPH(配列番号44)、bはSS-EGFPH(配列番号60)、cはΔ-EGFPH(配列番号61)、dはGSS-EGFPH(配列番号62)、eはGSS(DD)-EGFPH(配列番号63)を示す。図4に示すように浮遊細胞だけではなく接着細胞においても図3と同じことが確認できる。
【0106】
配列番号62(GSS(DD)-EGFPH)及び配列番号63(GSS-EGFPH)で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させ、細胞分画及び上清分画を試料としてN-glycosydase Fで変性条件で処理し、N型糖鎖を除去し、各々のサンプルを12.5%SDS-PAGEで電気泳動しC末端のヒスチジンタグを検出したウエスタンブロット解析の結果を図5に示す。図5中、泳動写真の下のCは細胞分画をSは上清分画を示す。GSS-EGFPHの細胞分画及び上清分画とも糖鎖の除去により分子量が低下していることがわかる。GSS-EGFPHの細胞分画の糖鎖付加より上清分画の糖鎖付加が多いことがわかる。糖鎖除去後は両者とも予想される分子量である為、他のタンパク質修飾とは考えられない。
【0107】
配列番号64(GSS(ART)-EGFPH)のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させ、細胞分画及び、細胞上清を試料としてSDS-PAGEにより電気泳動後、C末端のヒスチジンタグを認識する抗体でウエスタンブロット法により発現タンパク質を検出した結果を図6に示す。図6中、泳動写真の下のCは細胞分画をSは上清分画を示す。図6に示すように、人工的に設計した糖鎖修飾配列でも糖鎖が付き、EGFPタンパク質が放出された。
【0108】
配列番号67(p53H/pcDNA3.1)、配列番号68(SS-p53H/pcDNA3.1)及び配列番号69(GSS-p53H/pcDNA3.1)のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させ、細胞分画及び細胞上清を試料としてSDS-PAGEにより電気泳動後、C末端のヒスチジンタグを認識する抗体でウエスタンブロット法により発現タンパク質を検出した結果を図7に示す。図7中、泳動写真の下のCは細胞分画をSは上清分画を示す。図7に示すように、小胞体移行シグナル配列を糖鎖付加配列を付加したGSS-p53Hの発現タンパク質のみ上清にp53タンパク質が検出された。
【0109】
配列番号67(p53)、配列番号69(GSS-p53)のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させ、その上清分画に放出されたp53タンパク質の配列選択的DNA結合能をTrans-AMキットにて測定し、その選択的DNA配列結合能を450nmの吸光度として計測した結果を図8に示す。p53タンパク質の活性はActive Motif社のTransAM p53(Cat. 41196)を用いて、添付説明書に従って計測した。図8に示すように、GSSを付加することにより、活性型p53タンパク質が細胞外に放出された。
【0110】
配列番号69に表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させ、その上清をニッケルキレートカラムにより精製したものの解析の結果を図9に示す。
【0111】
FreeStyle293培地中に放出されたヒスチジンタグが付加されたタンパク質は遠心により上清を分離後、50mM Tris HCl (pH=7.4)、食塩濃度を0.5N、10mMイミダゾール(ナカライ社)、0.05%Chaps(同人化学)に調整し、Qiagen社のNi-NTA Superflowセファロース(Cat. 30430)にかけて、ヒスチジンタグ付きタンパク質を吸着させた。カラムを50mM Tris HCl(pH=7.4)、食塩濃度を0.5N、10mMイミダゾール、Chaps0.05%のバッファーで洗浄後、PBSバッファーで洗浄し、0.5N食塩、250mMイミダゾールを含むバッファーで溶出し、溶出液をMillipore社のAmicon Ultra-15限外ろ過濃縮フィルター(Cat.UFC901024)で濃縮し、PBS中で透析を行った。得られたサンプルをSDS-PAGE電気泳動を行い、クマジー染色を行った。
【0112】
WBは精製前のC末端のヒスチジンタグによるウエスタンブロット解析を示し、CBBは精製されたタンパク質についてクマジー染色を行った像を示す。矢頭はp53タンパク質の位置を示す。
【0113】
図9に示すように、放出されたタンパク質のみが精製され、ウエスタンブロットの像と一致した。
【0114】
配列番号73(インターロイキン33)及び配列番号74(インターロイキン31のシグナル配列とインターロイキン33の成熟タンパク質を融合させたタンパク質)のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させ、細胞分画及び上清分画を試料としてSDS-PAGEにより電気泳動を行い、C末端に付加してあるヒスチジンタグを検出したウエスタンブロット解析の結果を示す。図10中、泳動写真の下のCは細胞分画をSは上清分画を示す。
【0115】
図10に示すように、インターロイキン33のシグナル配列では、上清にタンパク質が放出されないが、インターロイキン31のシグナル配列に置換することにより、上清にインターロイキン33のタンパク質が糖鎖が付加された形で放出された。
【0116】
配列番号84(Art-Dsredタンパク質)、配列番号90(mIL4)、配列番号91(mIL5)、配列番号92(mIL6)、配列番号93(mIL12)、配列番号94(mIL13)及び配列番号95(mIL31)のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させ、細胞分画及び上清分画を試料としてSDS-PAGEにより電気泳動を行い、C末端に付加してあるヒスチジンタグを検出したウエスタンブロット解析の結果を図11に示す。図11中、泳動写真の下のCは細胞分画をSは上清分画を示す。
【0117】
図11は、放出されるタンパク質の比較を示すので、各マウスインターロイキンのシグナル配列の放出に関わる影響がわかる。シグナル配列が無い配列番号84に表されるアミノ酸配列からなるタンパク質は放出されなかったが、シグナル配列がある場合、どのタンパク質も効率的に放出された。また人工的な糖鎖付加配列も細胞外放出に有効であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】配列番号45、46、47、48、49及び50で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させたタンパク質のウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図2】配列番号44、60、61、62、63、50及び64で表されるアミノ酸配列の各種変異体についてシグナル配列及び糖鎖付加配列の配置を模式的に表した図である。
【図3】配列番号60、61、62及び63で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させたタンパク質のウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図4】配列番号44、60、61、62及び63で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてCos-1細胞に発現させたタンパク質のウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図5】配列番号62及び63で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させたタンパク質のウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図6】配列番号64のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させたタンパク質のウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図7】配列番号67、68及び69で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させたタンパク質のウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図8】配列番号67及び69で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させたp53タンパク質の配列選択的DNA結合能を示す図である。
【図9】配列番号69で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させ、その上清をニッケルキレートカラムにより精製した結果を示す図である。
【図10】配列番号73及び74で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させたタンパク質のウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図11】配列番号84、90、91、92、93、94及び95で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを保有する発現ベクターを用いてFreestyle-293F細胞に発現させたタンパク質のウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、タンパク質にAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列が付加された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、宿主真核細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いるポリヌクレオチドであって、前記タンパク質を宿主真核細胞外に放出させるためのポリヌクレオチド。
【請求項2】
小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、タンパク質にO型-糖鎖付加配列が付加された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、宿主真核細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いるポリヌクレオチドであって、前記タンパク質を宿主真核細胞外に放出させるためのポリヌクレオチド。
【請求項3】
小胞体移行性シグナル配列が、マウスインターロイキン4のシグナル配列(配列番号1)、マウスインターロイキン5のシグナル配列(配列番号3)、マウスインターロイキン6のシグナル配列(配列番号5)、マウスインターロイキン12のシグナル配列(配列番号7)、マウスインターロイキン13のシグナル配列(配列番号9)、マウスインターロイキン31のシグナル配列(配列番号11)、ヒトインターロイキン13(配列番号13)のシグナル配列及びヒトインターロイキン31のシグナル配列(配列番号15)からなる群から選択される、請求項1又は2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む、組換えタンパク質を発現し宿主真核細胞外に放出させるための発現ベクター。
【請求項5】
請求項4記載の発現ベクターを含む宿主真核細胞。
【請求項6】
小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、Asn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドを含み、前記小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチドの下流でありかつ該N型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドの上流若しくは下流に、発現させようとする目的タンパク質をコードする外来遺伝子を導入可能なマルチクローニング部位を含む、宿主真核細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いる発現ベクターであって、前記目的タンパク質を宿主真核細胞外に放出させるための発現ベクター。
【請求項7】
小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、O型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドを含み、前記小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチドの下流でありかつ該O型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドの上流若しくは下流に、発現させようとする目的タンパク質をコードする外来遺伝子を導入可能なマルチクローニング部位を含む、宿主真核細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いる発現ベクターであって、前記目的タンパク質を宿主細胞外に放出させるための発現ベクター。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを宿主真核細胞に導入し、該宿主真核細胞を培養し、前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させ細胞外に放出させ、細胞培養上清より目的タンパク質を回収することを含む、タンパク質の製造方法。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の発現ベクターを宿主真核細胞に導入し、該宿主真核細胞を培養し、前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させ細胞外に放出させ、細胞培養上清より目的タンパク質を回収することを含む、タンパク質の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の方法により製造されたタンパク質。
【請求項11】
タンパク質にAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列が付加され、該N型-糖鎖付加配列にN型-糖鎖が結合し糖鎖修飾された請求項10記載のタンパク質。
【請求項12】
天然において糖鎖修飾されないタンパク質にAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列が付加され、該N型-糖鎖付加配列にN型-糖鎖が結合した、請求項11記載の糖鎖修飾されたタンパク質。
【請求項13】
タンパク質にO型-糖鎖付加配列が付加され、該O型-糖鎖付加配列にO型-糖鎖が結合し糖鎖修飾された請求項10記載のタンパク質。
【請求項14】
天然において糖鎖修飾されないタンパク質にO型-糖鎖付加配列が付加され、該O型-糖鎖付加配列にO型-糖鎖が結合した、請求項13記載の糖鎖修飾されたタンパク質。
【請求項15】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを非ヒト動物に導入し、該動物体内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させ、該タンパク質に対する抗体を製造させることを含む、DNA免疫による抗体の製造方法。
【請求項1】
小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、タンパク質にAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列が付加された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、宿主真核細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いるポリヌクレオチドであって、前記タンパク質を宿主真核細胞外に放出させるためのポリヌクレオチド。
【請求項2】
小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、タンパク質にO型-糖鎖付加配列が付加された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、宿主真核細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いるポリヌクレオチドであって、前記タンパク質を宿主真核細胞外に放出させるためのポリヌクレオチド。
【請求項3】
小胞体移行性シグナル配列が、マウスインターロイキン4のシグナル配列(配列番号1)、マウスインターロイキン5のシグナル配列(配列番号3)、マウスインターロイキン6のシグナル配列(配列番号5)、マウスインターロイキン12のシグナル配列(配列番号7)、マウスインターロイキン13のシグナル配列(配列番号9)、マウスインターロイキン31のシグナル配列(配列番号11)、ヒトインターロイキン13(配列番号13)のシグナル配列及びヒトインターロイキン31のシグナル配列(配列番号15)からなる群から選択される、請求項1又は2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む、組換えタンパク質を発現し宿主真核細胞外に放出させるための発現ベクター。
【請求項5】
請求項4記載の発現ベクターを含む宿主真核細胞。
【請求項6】
小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、Asn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドを含み、前記小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチドの下流でありかつ該N型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドの上流若しくは下流に、発現させようとする目的タンパク質をコードする外来遺伝子を導入可能なマルチクローニング部位を含む、宿主真核細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いる発現ベクターであって、前記目的タンパク質を宿主真核細胞外に放出させるための発現ベクター。
【請求項7】
小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの下流に、O型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドを含み、前記小胞体移行性シグナル配列をコードするポリヌクレオチドの下流でありかつ該O型-糖鎖付加配列をコードするポリヌクレオチドの上流若しくは下流に、発現させようとする目的タンパク質をコードする外来遺伝子を導入可能なマルチクローニング部位を含む、宿主真核細胞内で組換えタンパク質を製造するために用いる発現ベクターであって、前記目的タンパク質を宿主細胞外に放出させるための発現ベクター。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを宿主真核細胞に導入し、該宿主真核細胞を培養し、前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させ細胞外に放出させ、細胞培養上清より目的タンパク質を回収することを含む、タンパク質の製造方法。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の発現ベクターを宿主真核細胞に導入し、該宿主真核細胞を培養し、前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させ細胞外に放出させ、細胞培養上清より目的タンパク質を回収することを含む、タンパク質の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の方法により製造されたタンパク質。
【請求項11】
タンパク質にAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列が付加され、該N型-糖鎖付加配列にN型-糖鎖が結合し糖鎖修飾された請求項10記載のタンパク質。
【請求項12】
天然において糖鎖修飾されないタンパク質にAsn-X-(Thr/Ser)(Xはプロリンを除くアミノ酸)で表される配列からなるN型-糖鎖付加配列が付加され、該N型-糖鎖付加配列にN型-糖鎖が結合した、請求項11記載の糖鎖修飾されたタンパク質。
【請求項13】
タンパク質にO型-糖鎖付加配列が付加され、該O型-糖鎖付加配列にO型-糖鎖が結合し糖鎖修飾された請求項10記載のタンパク質。
【請求項14】
天然において糖鎖修飾されないタンパク質にO型-糖鎖付加配列が付加され、該O型-糖鎖付加配列にO型-糖鎖が結合した、請求項13記載の糖鎖修飾されたタンパク質。
【請求項15】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを非ヒト動物に導入し、該動物体内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させ、該タンパク質に対する抗体を製造させることを含む、DNA免疫による抗体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−291139(P2009−291139A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149275(P2008−149275)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(506248672)
【出願人】(501026318)
【出願人】(000103840)オリエンタル酵母工業株式会社 (60)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(506248672)
【出願人】(501026318)
【出願人】(000103840)オリエンタル酵母工業株式会社 (60)
【Fターム(参考)】
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