説明

真空吸着具

【課題】 装置全体の小型化を図ることができ、精密部品搬送用に適した真空吸着具を提供する。
【解決手段】 真空吸着具10は、先端面12aに開口する貫通孔13が設けられた中空の取付部材12と、先端面12aに対向して配置される後端面28と被搬送物Wに接触する吸着面26とに開口する吸引孔27が設けられた吸着パッド23と、後端部15が取付部材12に固定され先端部が吸着パッド23に固定され、貫通孔13及び吸引孔27とに連通する連通室17を区画形成する弾性筒体14とを有している。取付部材12の先端面12aと吸着パッド23の後端面28のそれぞれには永久磁石32,34が固定されており、永久磁石34には、弾性筒体14の膨張収縮時に、貫通孔13内を摺動して取付部材12に対する吸着パッド23の移動方向を制限する位置決め部材37が固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被搬送物を吸着して搬送するための真空吸着具に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック基板、ガラス基板、及び液晶ディスプレイ等を有する電子機器を製造するラインには、これらを被搬送物としてある位置から他の位置まで搬送する工程がある。このような工程には搬送ロボット等の搬送装置が使用されており、搬送装置には被搬送物を吸着保持しながら搬送するための真空吸着具が装着されたタイプがあり、このタイプの吸着具はガラス基板などの板状の部材のみならず、小型の電子部品の吸着搬送にも使用されている。
【0003】
従来の真空吸着具には合成ゴムなどの弾性材料等からなる吸着パッドを有し、被搬送物に吸着パッドを押し付けて吸着面を被搬送物に密着させてから被搬送物を真空吸着するようにしたものがある。このような真空吸着具にあっては、吸着パッドの押付け力が弱すぎると吸着面と被搬送物との気密性が悪くなって吸着力が低下してしまうが、一方で押付け力が強すぎると被搬送物や吸着パッドを損傷させてしまいかねない。また、被搬送物に対する押付け時の衝撃を緩和する必要もある。
【0004】
従来の真空吸着具には、搬送装置に固定される筒体に対して吸着パッドを備える軸部材を往復動自在に設けるとともに、筒体と軸部材との間にコイルバネを設け、コイルバネを介して吸着パッドを押し付けることにより、被搬送物に対する押付け力を調節するとともに被搬送物に対する押付け時の衝撃を吸収するようにしたものがある。しかしながら、コイルバネを用いるタイプの真空吸着具においては、軸部材の往復動ストロークとバネ変位によるバネ力とが線形関係にあるため、一定の往復動ストロークが得られないと一定のバネ力を得ることができず、吸着面の押付け力を一定にすることができなかった。この点、特許文献1及び2には、コイルバネの代わりに筒体と軸部材のそれぞれに相互に反発しあう向きに永久磁石を設けるようにした技術が開示されており、可動側である軸部材のストローク変化に係わらず一定の押付け力を作用させることができる旨の記載がある。
【特許文献1】特開2002−54671号公報
【特許文献2】特開2003−71769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に開示される技術においては、軸部材の外周面上と筒体の内周面上とに相互に反発しあう向きに永久磁石が設けられているため、吸着具全体を径方向に小型化することが困難な構造となっており、小型部品を搬送するための真空吸着具として適さなかった。また、軸部材の往復動にともなって永久磁石同士が衝突して金属粉を発生させるおそれがあり、僅かな粉塵でも障害となる精密部品搬送用の真空吸着具として適さなかった。
【0006】
本発明の目的は、装置全体の小型化を図ることができ、精密部品搬送用に適した真空吸着具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の真空吸着具は、真空供給源に連通し先端面に開口する貫通孔が設けられた中空の取付部材と、前記先端面に対向して配置される後端面と被搬送物に接触する吸着面とに開口する吸引孔が設けられた吸着パッドと、後端部が前記取付部材に固定され先端部が前記吸着パッドに固定され、前記貫通孔及び前記吸引孔とに連通する連通室を区画形成する蛇腹状の弾性筒体と、前記取付部材の前記先端面に固定される第1の永久磁石と、前記吸着パッドの前記後端面に固定され前記第1の永久磁石に反発する第2の永久磁石とを有することを特徴とする。
【0008】
本発明の真空吸着具は、前記先端面と前記後端面のうち少なくともいずれか一方に凹部を形成し当該凹部内に前記永久磁石を固定することにより、前記弾性筒体の収縮時における前記永久磁石同士の衝突を回避することを特徴とする。
【0009】
本発明の真空吸着具は、前記第1の永久磁石には前記貫通孔と前記連通室とに連通する連通孔が形成され、前記第2の永久磁石には前記吸引孔と前記連通室とに連通する連通孔が形成されることを特徴とする。
【0010】
本発明の真空吸着具は、前記第1の永久磁石及び前記第2の永久磁石のそれぞれは同一の磁極が相互に対向するように配置された永久磁石であることを特徴とする。
【0011】
本発明の真空吸着具は、前記弾性筒体の膨張収縮時に、孔内を摺動して前記取付部材に対する前記吸着パッドの移動方向を制限する位置決め部材を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の真空吸着具は、前記位置決め部材は、前記取付部材と前記吸着パッドの少なくともいずれか一方に形成される位置決め孔、又は前記貫通孔、前記吸引孔、若しくは前記連通孔のうちの少なくとも1つの孔内を摺動することを特徴とする。
【0013】
本発明の真空吸着具は、前記位置決め孔内を摺動する前記位置決め部材はピン部材であることを特徴とする。
【0014】
本発明の真空吸着具は、前記位置決め部材は側壁に通気孔が形成された円筒部材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、吸着パッドに押付け力を作用させるための永久磁石を弾性筒体の内部で相互に対向して配置される取付部材の先端面と吸着パッドの後端面のそれぞれに固定するようにしているので、吸着具全体が径方向に大型化することがなく、真空吸着具の小型化を図ることができる。
【0016】
本発明によれば、連通室内の真空により先端面と後端面とが接触するまで弾性筒体を収縮させても、第1と第2の永久磁石同士が衝突することがないので衝突に伴う金属粉の発生を回避することができ、精密部品の搬送に適した真空吸着具を提供することができる。また、蛇腹部が過度に折り曲げられることがないので、蛇腹部が繰り返し弾性変形してもスプリング効果が失われることなく、蛇腹部が変形したままになることが防止され、長期間にわたって被搬送物の離脱を容易に行うことができる。
【0017】
本発明によれば、ピン部材などの位置決め部材が位置決め孔などの孔内を摺動することにより、弾性筒体の膨張収縮時の取付部材に対する吸着パッドの移動方向を制限することができるので、永久磁石同士の反発力によって、取付部材の中心軸と吸着パッドの中心軸とが相対的にずれることを防止することができる。これにより、被搬送物を吸着保持する際には、連通室内に真空を供給して先端面と後端面とが接触するまで弾性筒体を収縮させることにより一定の押付け力を被搬送物に作用させることができ、永久磁石の磁力等を調節しておくことにより最適な押付け力で吸着パッドを押し付けることができるとともに、永久磁石同士の反発力により押付け時の衝撃力を緩和することができる。位置決め部材として側壁に通気孔が形成された円筒部材を用いることにより、連通室内に真空を供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の一実施の形態である真空吸着具の外観を示す斜視図であり、図2は図1の断面図である。
【0019】
この真空吸着具10は、一端部に大径の頭部11が設けられた金属製の取付部材12を有し、この取付部材12には一端から他端に連なって貫通孔13が形成されており、貫通孔13の一端は取付部材12の先端面12aに開口しており、貫通孔13の他端は真空ポンプ等を備えた図示しない真空供給源に連通している。取付部材12は一点鎖線で示す被搬送物Wを移動するための搬送ロボット等の搬送装置に取り付けられることになる。
【0020】
取付部材12には導電性のゴムからなる弾性筒体14が装着されるようになっており、この弾性筒体14は取付部材12の外側に嵌合して固定される円筒形状の後端部15と、これに一体なった蛇腹部16とを有し、蛇腹部16内は貫通孔13に連通する連通室17となっている。蛇腹部16は後端部側から先端に向けて徐々に外径が大きくなったテーパ部16aとこのテーパ部16aから先端に向けて徐々に外径が小さくなったテーパ部16bとを有し、蛇腹部16は両方のテーパ部16a,16bがこれらの境界を中心として弾性変形することによって軸方向に伸縮自在となっている。
【0021】
後端部15には取付部材12の頭部11が入り込む凹部18が形成され、取付部材12の外周には雄ねじ19が形成されている。弾性筒体14は、凹部18内に頭部11を入り込ませた状態のもとでワッシャ20を取付部材12の外側に組み付け、ナット21を雄ねじ19にねじ結合することにより取付部材12に装着される。
【0022】
蛇腹部16の先端には径方向外方に突出するフランジ部22が蛇腹部16に一体となって設けられており、弾性筒体14の先端部には吸着パッド23が装着されている。この吸着パッド23は弾性筒体14の先端部内に嵌合される筒部24と、この筒部24から径方向外方に突出するフランジ部25とを有し、フランジ部25の先端面が被搬送物Wの表面に接触する吸着面26となっており、連通室17を介して貫通孔13に連通し被搬送物Wに開口する吸引孔27が設けられている。
【0023】
取付部材12の先端面12aに対向して配置される筒部24の後端面28はストッパ面となっており、吸着面26に被搬送物Wを密着させた状態のもとで、真空供給源から貫通孔13,連通室17を介して吸引孔27を真空にして弾性筒体14が収縮したときに、蛇腹部16のテーパ部16a,16bが密着する前に後端面28が後端部15の取付部材12の先端面12aに接触して蛇腹部16の密着が回避される。これにより、過度に蛇腹部16が収縮することを防止できる。
【0024】
吸着パッド23は、金属粉末、樹脂粉末、あるいはセラミックス粉末のいずれか又はこれらの混合粉末を焼結して形成されており多孔質構造となっている。吸着パッド23を多孔質構造として所定の気孔率に設定することにより吸着パッド23には通気性を持たせることができる。吸着パッド23は焼結材料により形成することなく、発泡樹脂を用いても同様に通気性を有する多孔質構造とすることができる。吸着パッド23を焼結金属により形成すると、導電性を持たせることができ、樹脂やセラミックスの粉末を用いて焼結する場合でも金属粉末を含有させることにより導電性を持たせることができる。発泡樹脂や樹脂粉末を用いて吸着パッド23を形成する場合にも導電性樹脂を用いることにより吸着パッド23に導電性を持たせることができる。
【0025】
吸着パッド23の後端部には、テーパ部16bの内周面に係合する大径の係合部29が設けられており、弾性筒体14の先端部の内径を広げるようにして吸着パッド23の筒部24を弾性筒体14の先端部に挿入することにより吸着パッド23は弾性筒体14に装着される。吸着パッド23のフランジ部25の外周面と、フランジ部25の背面と、筒部24の外周面には封孔処理が施されており、それぞれの面の気孔は封孔処理層30により封止されている。さらに、後端面28にも封孔処理層30が施されている。
【0026】
取付部材12の先端面12a上には貫通孔13よりも大径の凹部31が形成されており、その凹部31内にはリング状の第1の永久磁石32が固定されている。また、吸着パッド23の後端面28上には吸引孔27よりも大径の凹部33が形成されており、その凹部33内にはリング状の第2の永久磁石34が固定されている。本実施の形態においては、凹部31の深さは永久磁石32の厚みよりも大きい値に設定されており、また、凹部33の深さは永久磁石34の厚みよりも大きい値に設定されている。このように、永久磁石32,34のそれぞれは弾性筒体14に内蔵されており、吸引孔27を真空にして弾性筒体14を収縮させることにより後端面28と先端面12aとが接触した場合でも、永久磁石32,34同士の衝突を回避することができるようになっている。
【0027】
これらの永久磁石32,34は同一の磁極(例えばS極)が相互に対向するように配置されており、これらの永久磁石32,34間には常時反発力が作用している。また、永久磁石32の中央部には貫通孔13と連通室17とを連通させる連通孔35が形成されており、永久磁石34の中央部には吸引孔27と連通室17とを連通させる連通孔36が形成されており、それぞれの連通孔35,36を介して吸引孔27に真空が供給されるようになっている。
【0028】
図2に示すように、連通室17には、一端部が永久磁石34の連通孔36に嵌め込まれ他端部が永久磁石32の連通孔35を貫通して貫通孔13内に配置される位置決め部材37が内蔵されている。この位置決め部材37は、弾性筒体14の膨張時及び収縮時のいずれにおいても、その他端部が貫通孔13内に配置される長さに設定されており、弾性筒体14の膨張収縮時には貫通孔13及び連通孔35内を相対的に摺動することによって、取付部材12及び永久磁石32に対して吸着パッド23及び永久磁石34の移動方向が制限されるようになっている。本実施の形態においては、貫通孔13及び連通孔35のそれぞれは、ほぼ取付部材12の中心軸上に形成されており、吸着パッド23及び永久磁石34は取付部材12の中心軸に略一致する特定の方向にのみ移動することができる。
【0029】
図3は図2に示す位置決め部材の斜視図である。位置決め部材37は側壁37aに複数の通気孔37bが形成された通気性を有する円筒部材であり、その両端部は開口しており、アルミニウムや合成樹脂などの非磁性材料により形成される。よって、貫通孔13内に供給された真空は、位置決め部材37を通って吸引孔27に供給されるとともに、通気孔37bを介して連通室17内に供給される一方、永久磁石32に吸引されることなく、貫通孔13及び連通孔35内を摺動することができる。
【0030】
なお、位置決め部材37は、樹脂粉末などの焼結材料や発泡樹脂を用いて形成され通気性を有する多孔質構造の円筒部材であっても良い。また、位置決め部材37は、その一端部を永久磁石32の連通孔35に嵌め込むようにしても良く、取付部材12に固定したりこれと一体のものとして形成しても良く、その場合には位置決め部材の他端部が吸引孔27や連通孔36内に配置され、弾性筒体14の膨張収縮時には吸引孔27や連通孔36内を相対的に摺動することによって、取付部材12及び永久磁石32に対して吸着パッド23及び永久磁石34の移動方向が制限されることになる。
【0031】
上述した真空吸着具10は、部品供給ステージ38などの第1の位置から加工ステージなどの第2の位置との間を移動する搬送装置に取り付けられて被搬送物Wを吸着して第1の位置から第2の位置までの間を吸着保持する。吸着する際には真空供給源からの真空を吸引孔27に供給した状態のもとで、吸着パッド23を被搬送物Wに押し付けると吸着面26が被搬送物Wの表面に接触し、吸引孔27内の真空によって被搬送物Wの表面が吸着面26に押し付けられるとともに、多孔質の吸着面26は気孔を介して吸引孔27内に連通しているので、吸着面26全体が吸着力を発揮して被搬送物Wの表面に密着する。
【0032】
被搬送物Wの吸着時には、連通室17内の真空によって蛇腹部16が収縮しようとするが、蛇腹部16が収縮すると永久磁石32,34同士が相互に接近することになるため、永久磁石32,34の間に作用する反発力が強くなる。この反発力は、搬送装置に取り付けられた取付部材12に対して吸着パッド23が引き離される方向つまり被搬送物Wを押圧する方向に作用するので、被搬送物Wに対して吸着面26を所定の押付け力で密着させることができ、吸着面26と被搬送物Wとの気密性を高め吸着力を向上させることができる。とくに、先端面12aと後端面28とが接触するまで弾性筒体14を収縮させることにより永久磁石32,34の間に一定の反発力を発生させることができ、これらの永久磁石32,34の間に作用する反発力により、被搬送物Wに対する押付け力を一定にすることができる。このように押付け力を制限することができるので、押付け力が強すぎて被搬送物Wや吸着パッド23を損傷させてしまうことがない。
【0033】
このように、被搬送物Wに対しては吸引孔27の部分と吸着面26全体が吸着力を発揮して真空吸着具10が被搬送物Wに密着するとともに、永久磁石32,34同士の反発力によって吸着面26と被搬送物Wとの気密性を高めることができ、被搬送物Wの吸引保持力を高めることができる。また、蛇腹部16の最大収縮量は後端面28が先端面12aに当接することにより規制されるので、蛇腹部16の密着が防止されるとともに、永久磁石32,34同士が衝突して金属粉を発生させることがなく、また、後端面28に封孔処理層30を形成することにより、先端面12aと後端面28との接触に起因する接触部からの発塵を防止できる。加えて、蛇腹部16は過度に折り曲げられることがなくなり、蛇腹部16を繰り返し弾性変形させてもスプリング効果が失われることなく、蛇腹部16が変形したままになることを防止でき、長期間に渡って被搬送物Wの離脱を容易に行うことができる。
【0034】
さらに、弾性筒体14の膨張収縮時には位置決め部材37が貫通孔13及び連通孔35内を摺動することによって、吸着パッド23及び永久磁石34は取付部材12の中心軸に略一致する特定の方向にのみ移動することから、永久磁石32,34の間に所定の反発力を発生させることができ、先端面12aと後端面28とが接触するまで弾性筒体14を収縮させることにより一定の押付け力を被搬送物Wに作用させることができる。また、第1と第2の永久磁石32,34同士の反発力によって、取付部材12の中心軸と吸着パッド23の中心軸とが相対的にずれることがなく、被搬送物Wを吸着する過程や搬送中に吸着パッド23がずれて被搬送物Wの表面に傷をつけることがないという効果が得られる。
【0035】
搬送終了後の被搬送物Wは、真空供給源から吸引孔27対する真空供給を停止して吸引孔27内に外気を導入すると、自重で所定の位置に落下する。このときに、吸引孔27内に圧縮空気を間歇的に供給して積極的に真空状態を解除し、被搬送物Wを迅速に落下させるようにしても良い。
【0036】
弾性筒体14および吸着パッド23を導電性とすることにより、被搬送物Wには搬送過程で静電気が発生することなく、搬送前に静電気が帯電していた場合には真空吸着具10を介して静電気は放電される。吸着パッド23はゴム製ではなく、金属粉末などから形成されており、その材料にはプロセス油、加硫促進剤および劣化防止剤などが含有されていないので、吸着面26が被搬送物Wの表面に密着してもこれらの析出物が被搬送物Wの表面に付着することがなく、吸着面26の吸着跡が被搬送物Wの表面に付着することを防止できる。
【0037】
被搬送物Wの吸着搬送は1つの真空吸着具10によって行うようにしても良く、被搬送物Wのサイズによっては複数の真空吸着具10を用いるようにしても良い。従来技術と異なり、永久磁石32,34を弾性筒体14の内部で相互に対向して配置される取付部材12の先端面12aと吸着パッド23の後端面28のそれぞれに配置するようにしているので、真空吸着具10全体が径方向に大型化することがなく、真空吸着具10の小型化を図ることができ、複数の真空吸着具10を用いる場合でもコンパクトに配置することができる。なお、吸着パッド23の気孔が目詰まりしたときには、吸着パッド23を弾性筒体14から取り外して洗浄したり、新品の吸着パッド23に交換することにより、吸着パッド23の通気性を維持することができる。
【0038】
図4は本発明の他の実施の形態である真空吸着具の全体構成を示す断面図である。なお、図2に示される部材と共通する部材には同一の符合を付して重複した説明を省略する。
【0039】
この真空吸着具40が備える弾性筒体41の蛇腹部16の先端には径方向外方に突出するスカート部42が蛇腹部16に一体となって設けられており、吸着パッド43の後端部には、テーパ部16bの内周面に係合する大径の係合部44が設けられており、弾性筒体41の先端部の内径を広げるようにして吸着パッド43の筒部45を弾性筒体41の先端部に挿入することにより吸着パッド43は弾性筒体41の内部に装着される。この吸着パッド43は、吸着パッド23と異なり、筒部45から径方向外方に突出するようなフランジ部を有さず、弾性筒体41のスカート部42は蛇腹部16とスカート部42との境界を中心として外方に広がる向きに弾性変形することによって広い範囲で被搬送物Wに密着するようになっている。
【0040】
吸着パッド43の先端面は吸着面46となっており、この吸着パッド43には、吸着面46と取付部材12の先端面12aに対向して配置される後端面47とに開口する吸引孔48及び位置決め孔49が形成されている。この位置決め孔49は取付部材12の中心軸とほぼ平行して吸引孔48の外周側に形成されており、その内部には一端部が取付部材12に固定された位置決め部材50の他端部が摺動自在に配置されている。この位置決め部材50は中実のピン部材であり、上述の位置決め部材37と同様、弾性筒体14の膨張時及び収縮時のいずれにおいても、その他端部が位置決め孔49内に配置される長さに設定されており、弾性筒体14の膨張収縮時には吸着パッド43に対して相対的に位置決め孔49内を摺動することによって、取付部材12及び永久磁石32に対して吸着パッド43及び永久磁石34の移動方向を特定の方向に制限している。
【0041】
なお、位置決め部材50は、その一端部を吸着パッド43や永久磁石32,34に固定したり、吸着パッド43と一体のものとして形成しても良く、他方、位置決め孔49を取付部材12や永久磁石32,34に形成するようにしても良い。
【0042】
このような真空吸着具40においては、吸着パッド43を被搬送物Wに押し付けると吸着面46およびスカート部42が被搬送物Wの表面に接触し、吸引孔48内の真空によって被搬送物Wの表面が吸着面46およびスカート部42に押し付けられる。ここで、蛇腹部16の収縮に伴って相互に接近する永久磁石32,34の間に作用する反発力によって、被搬送物Wに対して吸着面46およびスカート部42を所定の押付け力で密着させることができ、更に、先端面12aと後端面28とが接触するまで弾性筒体41を収縮させることにより永久磁石32,34の間に一定の反発力を発生させ、これらの永久磁石32,34による被搬送物Wに対する押付け力を一定にすることができる。また、弾性筒体14の膨張収縮時には位置決め部材50が位置決め孔49内を摺動することによって、吸着パッド43及び永久磁石34の移動が特定の方向にのみ制限されていることから、永久磁石32,34の間に所定の反発力を発生させることができ、第1と第2の永久磁石32,34同士の反発力によって、取付部材12の中心軸と吸着パッド43の中心軸とが相対的にずれることがない。
【0043】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。たとえば、真空吸着具10にあっては、被搬送物Wのサイズによってはフランジ部25を有することなく、筒部24のみの吸着パッド23を用いることも可能であり、その場合には筒部24の外周面と後端面28には封孔処理層30が形成されることになる。また、前記実施の形態においては、部品供給ステージ38から加工ステージへ被搬送物Wを搬送する場合に適用されているが、加工ステージに換えて検査ボードに被搬送物Wを搬送する場合など他の用途に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施の形態である真空吸着具の外観を示す斜視図である。
【図2】図1の断面図である。
【図3】図2に示す位置決め部材の斜視図である。
【図4】本発明の他の実施の形態である真空吸着具の全体構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0045】
10 真空吸着具
12 取付部材
12a 先端面
13 貫通孔
14 弾性筒体
16 蛇腹部
16a,16b テーパ部
17 連通室
23 吸着パッド
24 筒部
25 フランジ部
26 吸着面
27 吸引孔
28 後端面
29 係合部
30 封孔処理層
31 凹部
32 永久磁石
33 凹部
34 永久磁石
35 連通孔
36 連通孔
37 位置決め部材
40 真空吸着具
41 弾性筒体
42 スカート部
43 吸着パッド
44 係合部
45 筒部
46 吸着面
47 後端面
48 吸引孔
49 位置決め孔
50 位置決め部材
W 被搬送物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空供給源に連通し先端面に開口する貫通孔が設けられた中空の取付部材と、
前記先端面に対向して配置される後端面と被搬送物に接触する吸着面とに開口する吸引孔が設けられた吸着パッドと、
後端部が前記取付部材に固定され先端部が前記吸着パッドに固定され、前記貫通孔及び前記吸引孔とに連通する連通室を区画形成する蛇腹状の弾性筒体と、
前記取付部材の前記先端面に固定される第1の永久磁石と、
前記吸着パッドの前記後端面に固定され前記第1の永久磁石に反発する第2の永久磁石とを有することを特徴とする真空吸着具。
【請求項2】
請求項1記載の真空吸着具において、前記先端面と前記後端面のうち少なくともいずれか一方に凹部を形成し当該凹部内に前記永久磁石を固定することにより、前記弾性筒体の収縮時における前記永久磁石同士の衝突を回避することを特徴とする真空吸着具。
【請求項3】
請求項1または2記載の真空吸着具において、前記第1の永久磁石には前記貫通孔と前記連通室とに連通する連通孔が形成され、前記第2の永久磁石には前記吸引孔と前記連通室とに連通する連通孔が形成されることを特徴とする真空吸着具。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の真空吸着具において、前記第1の永久磁石及び前記第2の永久磁石のそれぞれは同一の磁極が相互に対向するように配置された永久磁石であることを特徴とする真空吸着具。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の真空吸着具において、前記弾性筒体の膨張収縮時に、孔内を摺動して前記取付部材に対する前記吸着パッドの移動方向を制限する位置決め部材を有することを特徴とする真空吸着具。
【請求項6】
請求項5記載の真空吸着具において、前記位置決め部材は、前記取付部材と前記吸着パッドの少なくともいずれか一方に形成される位置決め孔、又は前記貫通孔、前記吸引孔、若しくは前記連通孔のうちの少なくとも1つの孔内を摺動することを特徴とする真空吸着具。
【請求項7】
請求項6記載の真空吸着具において、前記位置決め孔内を摺動する前記位置決め部材はピン部材であることを特徴とする真空吸着具。
【請求項8】
請求項6記載の真空吸着具において、前記位置決め部材は側壁に通気孔が形成された円筒部材であることを特徴とする真空吸着具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−212718(P2006−212718A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25691(P2005−25691)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(000145611)株式会社コガネイ (142)
【Fターム(参考)】