眼科手術用レーザのための光学システム
眼科手術のためのレーザシステムは、パルスレーザビームを生成するレーザ光源と、パルスレーザビームを、Z軸を横断するXY方向に走査するXYスキャナと、XY走査されたレーザビームをZ軸に沿って走査するZスキャナと、XYZ走査されたレーザビームの焦点を標的領域に集光する対物レンズとを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2009年7月29日に出願された米国特許出願番号第12/511,958号、「Optical System for Ophthalmic Surgical Laser」の優先権を主張し、この文献の全体は、引用によって本願に援用される。
【0002】
本発明は、フェムト秒レーザによる前眼部(anterior segment of the eye)の手術のためのシステムに関し、詳しくは、レーザビームを眼に集光し、走査しながらレーザビームの光学的歪みを最小化する実施の形態に関する。
【背景技術】
【0003】
本出願は、レーザパルスによって引き起こされる光破壊(photodisruption)による、前眼部内の水晶体のレーザ手術のための技術及びシステムの具体例及び実施の形態を開示する。水晶体の除去のための様々な水晶体手術処置では、水晶体を、小さい切込みを介して眼から取り除くことができる小さい破片に分解するために、様々な技術を利用する。これらの処置は、手動の機械的器具、超音波、加熱された流体又はレーザを使用することがあり、断片化を達成するためにプローブを眼に挿入する必要性、及びこのような水晶体断片化の技術に関連する精度が限定的であること等を含む重大な短所を有する傾向がある。
【0004】
光破壊レーザ技術は、水晶体にレーザパルスを供給し、プローブを挿入することなく、水晶体を光学的に断片化し、この結果、改善された水晶体除去の可能性を提供できる。レーザ誘起光破壊は、レーザ眼科手術において広く使用されており、Nd:YAGレーザは、レーザ誘起光破壊(laser induced photodisruption)による水晶体断片化を含むレーザ光源として、広く使用されている。幾つかの既存のシステムは、パルスエネルギが数mJのナノ秒レーザ(E. H. Ryan et al.Americal Journal of Ophthalmology 104: 382-386, October 1987; R. R. Kruger et al.Ophthalmology 108: 2122-2129, 2001)及び数十J(A. Gwon et al.J. Cataract Refract Surg.21, 282-286, 1995)のピコ秒レーザを使用する。これらの比較的長いパルスは、外科的に処置されるスポットに比較的大量のエネルギを加え、この結果、処置の精度及び制御についてかなりの制限があり、望ましくない結果が生じるリスクも比較的高い。
【0005】
これと平行して、角膜手術に関連する分野では、ナノ秒パルス及びピコ秒パルスに代えて、数百フェムト秒の継続時間のパルスを用いることによって、パルス幅をより短くし、集光を向上させることができることが知られている。フェムト秒パルスは、1パルスあたりに加えられるエネルギがより小さく、このため、処置の精度及び安全性が大幅に向上する。
【0006】
現在、幾つかの企業が、レーシック(LASIK)フラップや角膜移植等の角膜に対する眼科的処置のためのフェムト秒レーザ技術を商品化している。これらの企業には、米国のIntralase Corp./Advanced Medical Optics、ドイツの20/10 Perfect Vision Optische Gerate GmbH、ドイツのCarl Zeiss Meditec, Inc.及びスイスのZiemer Ophthalmic Systems AGが含まれる。
【0007】
なお、これらのシステムは、角膜手術の要求に基づいて設計されている。重要な点として、レーザフォーカスの深度範囲は、通常、角膜の厚さ、すなわち、約1mm未満である。したがって、これらの設計は、眼の水晶体に対して手術を実行するために検討すべき課題についてのソリューションを提供しない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
簡潔且つ包括的に言えば、眼科手術のためのレーザシステムは、パルスレーザビームを生成するレーザ光源と、パルスレーザビームを、Z軸を横断するXY方向に走査するXYスキャナと、XY走査されたレーザビームをZ軸に沿って走査するZスキャナと、XYZ走査されたレーザビームの焦点を標的領域に集光する対物レンズとを備え、集光された走査レーザビームは、標的領域内において、単位をmmとして、任意のアジマス角φにおける動径座標(z,r)において、開口数NA及びストレール比Sを有し、(z,r)=(0.0,0.3)の近傍では、NAは、0.25から0.40の間であり、Sは、0.8〜1.0の間であり、NA及びSは、(z,r)=(0.3,6.2)の近傍でNAが0.25から0.40、Sが0.8〜1.0、(z,r)=(8.0,0.0)の近傍でNAが0.15から0.35、Sが0.8〜1.0、及び(z,r)=(7.4,4.0)の近傍でNAが0.15から0.35、Sが0.8〜1.0の各標的範囲の少なくとも1つに収まる。
【0009】
ある具体例では、NA及びSは、3個の各標的範囲のうちの2個の範囲内に収まる。ある具体例では、NA及びSは、3個の各標的範囲の全ての範囲内に収まる。
【0010】
動径座標(z,r)の近傍は、動径座標が動径座標(z,r)からP(radial)%より大きく逸脱しない点を含み、P(radial)は、10%、20%及び30%のうちの1つである。
【0011】
ある具体例では、(z,r)=(0.0,0.3)の近傍では、NAは、0.30から0.35の間であり、Sは、0.8〜1.0の間であり、NA及びSは、(z,r)=(0.3,6.2)の近傍でNAが0.30から0.35、Sが0.8〜1.0、(z,r)=(8.0,0.0)の近傍でNAが0.20から0.25、Sが0.8〜1.0、及び(z,r)=(7.4,4.0)の近傍でNAが0.20から0.25、Sが0.8〜1.0の各標的範囲の少なくとも1つに収まる。
【0012】
ある具体例では、NA及びSは、3個の各標的範囲のうちの2個の範囲内に収まる。ある具体例では、NA及びSは、3個の各標的範囲の全ての範囲内に収まる。
【0013】
ある具体例では、動径座標(z,r)の近傍は、動径座標が動径座標(z,r)からP(radial)%より大きく逸脱しない点を含み、P(radial)は、10%、20%及び30%のうちの1つである。
【0014】
ある具体例では、NA及びSの値は、患者インタフェースを介して、人間の眼及び眼のモデルのうちの何れかに光学的に接続されたレーザシステムに関する値である。
【0015】
ある具体例では、眼のモデルは、厚さが約0.6mmであり、屈折率が約1.38である角膜領域と、厚さが2mmから4mmまでの範囲内であり、屈折率が約1.34である前眼房領域と、厚さが3mmから5mmまでの範囲内であり、屈折率が約1.42の水晶体領域とを表す第1の表面、第2の表面及び第3の表面を有し、3つの表面は、全て、−100m−1から−80m−1までの範囲内の曲率を有する。
【0016】
ある具体例では、レーザシステムは、レーザ光源とXYスキャナとの間に配設された前置補償器を更に備える。ある具体例では、前置補償器はレーザビームをZ走査する可動レンズを有する。
【0017】
ある具体例では、Zスキャナは、Z焦点深度及び開口数NAを実質的に独立して調整するように構成されている。
【0018】
ある具体例では、Zスキャナは、第1のレンズグループと、可動ビームスキャナとを備える。
【0019】
ある具体例では、Zスキャナは、対物レンズの前段に、対物レンズから分離されて位置している。
【0020】
ある具体例では、眼科手術のためのレーザシステムは、パルスレーザビームを生成するレーザ光源と、パルスレーザビームを、Z軸を横断するXY方向に走査するXYスキャナと、XY走査されたレーザビームをZ軸に沿って走査するZスキャナと、XYZ走査されたレーザビームの焦点を標的領域に集光する対物レンズとを備え、集光された走査レーザビームは、焦点半径を有する焦点を有し、焦点半径は、標的領域内でrf(max)より小さく、標的領域は、Z軸に沿って約8mm、XY方向に約10mmの拡がりを有している。
【0021】
ある具体例では、rf(max)は、2μmまたは4μmであり、人間の眼及び人間の眼のモデルの何れかに接続されたレーザシステムに関する値である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】手術用レーザ送達システム1を示す図である。
【図2】ガウス波面G及び収差波面Wを示す図である。
【図3−1】図3Aは、最適な焦点面における光線を示す図である。図3Bは、走査された焦点面における光線を示す図である。
【図3−2】図3Cは、焦点半径の定義を示す図である。
【図4】ストレール比SとRMS波面誤差ωとの間の関係を示す図である。
【図5】眼科手術のための参照点を示す図である。
【図6A】前置補償器200の動作を概念的に説明する図である。
【図6B】前置補償器200の動作を概念的に説明する図である。
【図7A】効率的なZ走査機能の様々な用途を示す図である。
【図7B】効率的なZ走査機能の様々な用途を示す図である。
【図8A】前置補償器200の具体例を示す図である。
【図8B】前置補償器200の具体例を示す図である。
【図8C】前置補償器200の具体例を示す図である。
【図8D】前置補償器200の具体例を示す図である。
【図9】2個のZスキャナを有するレーザ送達システム1の具体例を示す図である。
【図10】0個、1個又は2個のZ深度スキャナ及び0個、1個又は2個のNA変更器を含む構成の表を示す図である。
【図11A】2個の走査ミラーを有するXYスキャナを示す図である。
【図11B】3個の走査ミラーを有するXYスキャナを示す図である。
【図11C】4個の走査ミラーを有するXYスキャナを示す図である。
【図12A】開口数の関数としての収差及びZ焦点深度の関数として対応する光学開口数NAopt(z)を示す図である。
【図12B】開口数の関数としての収差及びZ焦点深度の関数として対応する光学開口数NAopt(z)を示す図である。
【図12C】開口数の関数としての収差及びZ焦点深度の関数として対応する光学開口数NAopt(z)を示す図である。
【図12D】開口数の関数としての収差及びZ焦点深度の関数として対応する光学開口数NAopt(z)を示す図である。
【図13A】第1のビーム拡大器ブロック400及び可動ビーム拡大器ブロックを500の設定を示す図である。
【図13B】第1のビーム拡大器ブロック400及び可動ビーム拡大器ブロックを500の設定を示す図である。
【図14】Zスキャナ450の中間焦点面を示す図である。
【図15】対物レンズ700の具体例を示す図である。
【図16】標的領域内の曲がった焦点面を示す図である。
【図17】XYスキャナ傾斜角のノモgを示す図である。
【図18】可動ビーム拡大器位置のノモgを示す図である。
【図19】演算的制御方法のステップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の幾つかの実施の形態は、フェムト秒レーザパルスを使用した眼の水晶体の手術のためのシステムを含む。また、幾つかの統合型の実施の形態では、角膜及び水晶体の両方の外科的処置を実行できる。眼の水晶体における眼科手術は、角膜の処置とは異なる質的要求に関連する。
【0024】
ここに説明する水晶体手術用レーザシステムと、角膜用のシステムとの間の主な相違点は、以下の通りである。
【0025】
1.フェムト秒レーザパルスは、高い信頼度で生成される。高繰返し率フェムト秒パルス(high repetition rate femtosecond pulse)では、使用する1パルスあたりのエネルギが遙かに小さく、システムのオペレータに対して、より高度な制御及び精度が提供される。しかしながら、フェムト秒パルスを高い信頼度で生成することは、幾つかの既存のシステムで使用されているナノ秒パルス及びピコ秒パルスに比べて、困難な課題を有する。
【0026】
2.手術用レーザビームは、角膜及び前の眼房を含む最大5mmの屈折媒体を介して伝播して、手術標的、すなわち水晶体に到達するまでに、大きく屈折する。一方、角膜手術のために用いられるレーザビームは、ミリメートル以下の深度で集光され、したがって、手術システムから角膜に入射する際、実質的に屈折しない。
【0027】
3.手術用レーザ送達システムは、例えば、典型的な深度が5mmである水晶体の表面/前部から、典型的な深度が10mmである水晶体の背面/後部までの手術領域の全体を走査するように構成される。この5mm以上の深度の走査範囲、すなわち、「Z走査範囲(Z scanning range)」は、角膜に対する手術で用いられる1mmの深度走査範囲に比べて、かなり深い。通常、手術用の光学素子、特に、ここで使用する高開口数光学素子(high numerical aperture optics)は、特定の動作深度にレーザビームを集光するように最適化される。角膜の処置では、1mmの深度の走査は、最適化された動作深度からの逸脱は僅かである。一方、水晶体手術における5〜10mmの走査では、システムは、固定された最適化された動作深度から大きく離れて駆動されることがある。したがって、水晶体手術用レーザ送達システムでは、水晶体手術に要求される深い深度走査範囲を走査できるように、より精度が高められた適応化された光学素子を使用する。
【0028】
4.幾つかの実施の形態は、角膜及び水晶体の両方について手術を実行できるように構成されているという意味で、統合型である。これらの統合型の実施の形態では、深度走査範囲は、5mmではなく、最大10mmとなることもあり、より困難な課題を有する。
【0029】
5.例えば、レーシックの多くのバリエーション等の角膜の外科的処置では、レーザビームは、光軸に対して直交するように走査される(「XY平面内」)。典型的な処置では、XY走査範囲は、10mmの直径の角膜の中心部分だけをカバーする。但し、統合型の手術システムでは、更なるカットを形成してもよい。カットの1つのタイプは、吸引ニードル及び周知の手術器具による眼の内部へのアクセスを提供するエントリカットである。他のタイプのカットには、角膜輪部減張切開術(limbal relaxing incision:LRI)があり、これは、血管弓(vascular arcade)の前部の角膜輪部に切込みの対を作ることを伴う。これらの弓形の切込みの長さ、深さ及び位置を調整することによって角膜乱視に変化を引き起こすことができる。エントリカット及びLRIは、通常、12mmの直径で、角膜の辺縁に配置することができる。XY走査直径を10mmから12mmに増加させることは、LASIKフラップの通常の直径に比べて20%の増加だけであるが、軸外収差は、焦点面でフィールド径のより高いパワーに比例して大きくなるので、このような直径において、レーザ送達システムの軸外収差を制御下に維持することは、難しい課題である。
【0030】
6.水晶体レーザ手術は、高度なイメージングシステムによるガイダンスを必要とすることがある。幾つかのイメージングシステムでは、角膜輪部血管(limbal blood vessels)が特定され、これは、幾つかの場合、眼の手術前の診断の間に特定される参照座標に対して、手術時に、眼球の回転のアラインメント(cyclo-rotational alignment)を較正するための眼の上の参照マークとして機能する。手術領域の周辺部上で選択される血管は、手術によって乱されない可能性が最も高く、したがって、最も信頼性が高い。しかしながら、このような周辺の血管に向けられるイメージングシステムは、10mmより大きい、例えば12mmの半径を有する領域をイメージングする撮像光学素子を必要とする。
【0031】
7.レーザビームは、眼内で光路に沿って伝播しながら、様々な収差を生じる。レーザ送達システムは、これらの収差を補償することによって、精度を向上させることができる。これらの収差の更なる側面として、これらの収差は、光の周波数に依存し、この事実は、「色収差」と呼ばれている。これらの周波数依存収差を補償することは、システムにとっての更なる課題である。これらの色収差の補償は、レーザシステムのレーザビームの帯域幅が広いほど、より困難になる。なお、ビームのスペクトル帯域幅は、パルス幅に反比例する。したがって、フェムト秒パルスの帯域幅は、ピコ秒パルスの帯域幅よりも、1桁以上広く、フェムト秒レーザシステムでは、遙かに高度な色補償が必要である。
【0032】
8.高繰返し率フェムト秒レーザ手術システムを用いる外科的処置では、標的組織内の標的箇所に対する絶対的位置と、先行するパルスに対する相対的位置との両方の意味において、各パルスの位置決めに高い精度が必要である。例えば、レーザシステムは、マイクロ秒の桁である場合もあるパルス間の時間内で、僅か数μmだけビームの方向を変える必要があることもある。2つの連続するパルス間の時間が短く、パルス配置のための精度要求が高いため、既存の低繰返し率水晶体手術システムで使用されているような手動の目標設定は、不適切又は不可能である。
【0033】
9.レーザ送達システムは、屈折媒体を介して、眼の水晶体の手術箇所(surgical volume)の全体にフェムト秒レーザパルスを送達すると共に、このフェムト秒レーザパルスの時間的、スペクトル的及び空間的な完全性を維持するように構成される。
【0034】
10.レーザビームが十分高いエネルギ密度で手術領域内の組織だけに供給され、組織切除術等の手術の効果を引き起こすことを確実にするため、レーザ送達システムは、通常とは異なる高い開口数(numerical aperture:NA)を有する。この高いNAは、スポットサイズを小さくし、外科的処置のために必要な制御及び精度を提供する。開口数の典型的な範囲は、0.3より大きいNA値を含むことができ、この場合、スポットサイズは、3μm以下になる。
【0035】
11.水晶体手術のためのレーザの光路の複雑性のために、レーザ送達システムは、高性能コンピュータで管理されたイメージングシステムを含むことによって高度な精度及び制御を達成するが、角膜手術システムは、このようなイメージングシステムなしで、又は低レベルのイメージングで、満足できる制御を達成できる。なお、システムの手術及びイメージングの機能、並びに慣例的な観察ビーム(observational beams)は、全て異なるスペクトル帯域で動作する。具体例として、手術用レーザは、1.0〜1.1μmの帯域の波長で動作し、観察ビームは、0.4〜0.7μmの可視帯域の波長で動作し、イメージングビームは、0.8〜0.9μmの帯域の波長で動作することがある。光学部品を共通又は共有にしてビームパスを結合することによって、レーザ手術システムの光学素子には、厳しい色彩要求が課される。
【0036】
相違点1〜11は、幾つかの具体例によって、(1)水晶体に対する、(2)フェムト秒パルスを用いる眼科レーザ手術では、角膜手術とは質的に異なり、ナノ秒レーザパルス又はピコ秒レーザパルスのみを用いる水晶体手術からも質的に異なる要求が生じることを示している。
【0037】
図1は、レーザ送達システム1を示している。詳細な説明を行う前に注意する点として、幾つかの実施の形態では、図1のレーザ送達システムは、イメージングシステム又は観察システム(observational system)に組み合わされる。レーシック治療等の幾つかの角膜の処置では、アイトラッカ(eye tracker)が、通常、眼の表面に対するイメージング及び画像処理アルゴリズムによって、虹彩の中心の識別等、視覚的目印による眼の位置基準を確立する。しかしながら、外科的処置は、眼の最も外側の層である角膜に対して実行されるので、既存のアイトラッカは、二次元空間内で特徴を認識及び分析するのみであり、深度情報を欠いている。角膜を平坦化して、表面を真の二次元として扱うことすらある。
【0038】
眼の深い内部にある水晶体内にレーザビームを集光する場合、状況は、かなり異なる。水晶体は、調節(accommodation)によって、先の測定と手術との間だけではなく、手術中にも位置、形状、厚さ及び直径が変化することがある。また、機械的手段によって眼に手術器具を取り付けることによって、眼の形状が予測不能に変化することがある。このような取り付けデバイスは、吸気リング(suction ring)による眼の固定、又は平坦なレンズ若しくは曲面のレンズによる圧平が含まれる。更に、手術中の患者の動きによっても更なる変化が生じることがある。これらの変化によって、眼内の視覚的目印が最大で数ミリメートルも変位することがある。したがって、水晶体又はこの他の眼の内部の一部に精密なレーザ手術を実行する場合、例えば、角膜又は角膜輪部の前面等の眼の表面の機械的な参照及び固定では、不十分である。
【0039】
この問題を解決するために、レーザ送達システム1は、R.M.Kurtz、F.Raksi及びM.Karavitisによる同時に継続中の米国特許出願番号第12/205,844号に開示されているようなイメージングシステムと組み合わせることができ、この文献の全体は、引用によって本願に援用される。このイメージングシステムは、手術領域の部分をイメージングして、眼の内部の特徴に基づいて、3次元位置基準を確立するように構成されている。これらのイメージは、手術の前に作成し、個体差及び変化を考慮して、外科的処置と平行して更新できる。これらのイメージを用いて、レーザビームを、高度な精度及び制御で、所望の位置に安全に方向付けることができる。
【0040】
幾つかの具体例では、イメージングシステムは、光干渉断層法(optical coherence tomography:OCT)システムであってもよい。イメージングシステムのイメージングビームは、独立したイメージング光路を有していてもよく、手術用ビームと部分的又は完全に共有された光路を有していてもよい。部分的又は完全に共有された光路を有するイメージングシステムでは、コストが低減され、イメージングシステム及び手術システムの較正が簡素化される。また、イメージングシステムは、レーザ送達システム1のレーザと同じ光源を用いてもよく、異なる光源を用いてもよい。また、イメージングシステムは、自らのビーム走査サブシステムを有していてもよく、レーザ送達システム1のスキャニングサブシステムを利用してもよい。上述した同時に係属中の特許出願には、このようなOCTシステムの複数の異なるアーキテクチャが開示されている。
【0041】
また、レーザ送達システム1は、視覚的観察光学素子(visual observation optics)と組み合わせて実現してもよい。観察光学素子は、手術用レーザのオペレータが手術用レーザビームの効果を観察し、観察に応じてビームを制御することを補助することができる。
【0042】
最後に、赤外線、したがって、不可視の手術用レーザビームを用いる幾つかの具体例では、可視の周波数で動作する更なる追跡レーザを使用することができる。可視の追跡レーザは、赤外線の手術用レーザの経路を追跡するように設けてもよい。追跡レーザは、標的組織に如何なる破壊も引き起こさないように十分低いエネルギで動作させてもよい。観察光学素子は、標的組織から反射した追跡レーザをレーザ送達システム1のオペレータに方向付けるように構成してもよい。
【0043】
図1では、イメージングシステム及び視覚観察光学素子に関連するビームは、例えば、ビームスプリッタ/ダイクロイックミラー600を介して、レーザ送達システム1にカップリングすることができる。本出願では、レーザ送達システム1と、イメージングシステム、観察システム及び追跡システムとの様々な組合せについては、詳細には説明しない。このような多くの組合せは、本願に援用される米国特許出願第12/205,844号に詳細に説明されており、これは全て本発明の総合的な範囲に含まれる。
【0044】
図1は、レーザ送達システム1を示すレーザエンジン100、前置補償器200、XYスキャナ300、第1のビーム拡大器ブロック400、可動ビーム拡大器ブロック500、ビームスプリッタ/ダイクロイックミラー600、対物レンズ700及び患者インタフェース800を含み、第1のビーム拡大器ブロック400及び可動ビーム拡大器ブロック500は、まとめてZスキャナ450と呼ばれる。
【0045】
以下の多くの具体例では、Z方向とは、実質的にレーザビームの光路に沿った方向又は光学素子の光軸に沿った方向を意味する。Z方向を横断する方向は、XY方向と呼ぶ。横断(transverse)という用語は、広義に使用し、幾つかの具体例では、横断方向及びZ方向は、厳密に直交していなくてもよい。幾つかの具体例では、横断方向は、動径座標(radial coordinates)によってよりよく記述される。したがって、ここに説明する具体例において、横断方向、XY方向又は動径方向は、Z方向に概ね直交する(但し、厳密でなくてもよい。)類似の方向を意味する。
【0046】
1.レーザエンジン100
レーザエンジン100は、所定のレーザパラメータを有するレーザパルスを出射するレーザを含むことができる。これらのレーザパラメータは、1フェムト秒〜100ピコ秒の範囲内、10フェムト秒〜10ピコ秒の範囲内、又は幾つかの実施の形態では、100フェムト秒〜1ピコ秒の範囲内に収まるパルス幅を含むことができる。レーザパルスは、0.1μJ〜1000μJの範囲内、他の実施の形態では、1μJ〜100μJの範囲内の1パルスあたりのエネルギを有することができる。パルスは、10kHz〜100MHzの範囲内、他の実施の形態では、100kHz〜1MHzの範囲内の繰返し周波数を有することができる。他の実施の形態は、これらの範囲の限界の組合せ内に収まるレーザパラメータ、例えば、1〜1000フェムト秒の範囲内のパルス幅を有することができる。特定の処置のためのレーザパラメータは、例えば、術前処置の間、又は患者に関する何らかのデータ、例えば、患者の年齢に基づく計算に基づいて、これらの広い範囲から選択できる。
【0047】
レーザエンジン100の具体例は、Nd:ガラス及びNd:TAGレーザ、並びに様々な種類の他のレーザを含むことができる。レーザエンジンの動作波長は、赤外線又は可視光の範囲内であってもよい。幾つかの実施の形態では、動作波長は、700nm〜2μmの範囲内であってもよい。幾つかの場合、動作波長は、1.0〜1.1μm範囲内であってもよく、例えば、Yb又はNdに基づく赤外線範囲内のレーザを用いてもよい。
【0048】
幾つかの具体例では、レーザパルスのレーザパラメータは、調整可能又は変更可能であってもよい。手術用レーザ送達システム1のオペレータが複雑な手術の間に、レーザパラメータを変更できるように、レーザパラメータは、短い切替時間で調整可能であってもよい。このようなパラメータの変更は、レーザ送達システム1の感知又はイメージングサブシステムによる読取値に応じて開始してもよい。
【0049】
他のパラメータ変更は、多段階処置の一部として実行してもよく、この間、レーザ送達システムは、先に第1の外科的処置のために使用し、続いて第2の異なる外科的処置のために使用してもよい。具体例として、眼の水晶体の領域内で先に1つ以上の手術ステップ、例えば、切嚢術ステップを実行し、続いて眼の角膜の領域で第2の外科的処置を実行してもよい。これらの処置は、様々な順序で実行できる。
【0050】
1パルスあたりのエネルギが比較的低く、1秒あたり数万〜数十万ショット又はこれ以上のパルス繰返し率で動作する高繰返し率パルスレーザを手術用途に使用して、ある利点を達成することができる。このようなレーザは、比較的低い1パルスあたりのエネルギを用いることによって、レーザ誘起光破壊によって生じる組織の影響を局部に限定する。例えば、幾つかの具体例では、破壊される組織の大きさを数μm又は数十μmに限定することができる。このように組織の影響を局部に限定することにより、レーザ手術の精度を向上させることができ、これは、ある外科的処置で望ましい場合がある。このような手術の様々な具体例では、数百、数千又は数百万ものパルスを一連のスポットに送達することができ、これらのスポットは、連続していてもよく、略々連続していてもよく、制御された距離だけ離間していてもよい。これらの具体例は、望まれる何らかの手術の効果、例えば、組織の切開、分離又は断片化を達成できる。
【0051】
パルス及び走査パターンのパラメータは、様々な手法で選択できる。例えば、これらは、術前に測定された水晶体の光学的又は構造的な特性に基づいて選択してもよい。また、レーザエネルギ及びスポット分離も、術前に測定された水晶体の光学的又は構造的な特性に基づいて、又は年齢に依存するアルゴリズムに基づいて選択してもよい。
【0052】
2.前置補償器(precompensator)200
図2は、レーザビームの波面が、幾つかの異なる形式で及び幾つかの異なる理由で、理想的な振る舞いから逸脱することがあることを示している。これらの逸脱を大きくまとめて収差と呼ぶ。収差(及び他の波面歪み)によって、実際の像点は、理想的な近軸ガウス像点(paraxial Gaussian image points)から逸脱する。図2は、出射瞳ExPを介して出射される光の波面を示している。歪みのない球状の波面Gは、出射瞳から出て、波面Gの曲率中心である点P1に一点に収束する。Gは、ガウス基準球(Gaussian reference sphere)とも呼ばれる。収差波面Wは、Gから逸れ、異なる点P2に収束する。
【数1】
【0053】
一般に、収差ΔWは、出射瞳及び焦点面における座標に依存する。したがって、この収差ΔWは、相関関数とみなすこともでき、これは、光軸上でP1からr’だけ逸れたP2に像が収束する点の集合が表面W上に位置し、出射孔ExPにおける動径距離rにおいて、ΔWの量だけ基準球Gから逸れることを表している。回転対称系では、ΔWは、r及びr’における二重冪級数展開(double power series expansion)の表現で表すことができる。
【数2】
【0054】
ここで、r’は、焦点面における像点P2の動径座標であり、rは、瞳における点Q1の動径座標である。角度依存性は、球面角Θによって表される。n=2p+mは、正の整数であり、2l+manmは、収差波面Wの膨張係数である。これは、例えば、「Optical Imaging and Aberrations, Part I. Ray Geometrical Optics by Virendra N. Mahajan, SPIE Optical Engineering Press」に説明されている。収差項の次数iは、i=2l+m+nによって与えられる。
【0055】
i=4までの項は、一次収差(primary aberrations)、すなわち、球面収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲収差及びゆがみ収差に関連する。これらの一次収差と、2l+manm収差係数との間の実際の関係は、文献に記載されている。点オブジェクトをイメージングするシステムに関しては、収差項の像半径(image radius)r’に対する明示的な依存性は、出射瞳の光軸の線的な範囲、例えばその半径をaとして、無次元変数ρ=r/aを導入することによって消去できる。
【数3】
【0056】
ここで、
【数4】
【0057】
である。
【0058】
この式の利点は、収差係数anmの全てが長さの次元を有し、出射瞳における対応する収差の最大値を表す点である。例えば、この式では、球面収差は、収差係数a40によって特徴付けられる。
【0059】
収差係数anmを用いた収差の表現は、数学的によく定義されているが、これは、経験的に、必ずしもアクセスしやすい手法というわけではない。したがって、次に、3つの代替となる収差測定について説明する。
【0060】
経験的なアクセス可能性及び検査可能性と同様な問題として、眼等の生体組織内でのビームの振る舞いは、測定が容易でないことがある。ここで、眼内の光線は、生理的に適切な塩分濃度を有する塩水内の光線に非常に類似した振る舞いを示すという研究を利用することができ、ここでは、これらの光線を量的に測定及び記述できる。したがって、本明細書では、眼内のレーザ送達システムの振る舞いについて説明する場合、その説明は、説明される眼組織内及び対応する塩水内の何れかにおける振る舞いを指すものとする。
【0061】
図3A〜図3Cは、収差の第2の測定を示す。深度Aの焦点面210でビームを集光するように構成されたレーザ送達システム1は、深度Bの動作焦点面211にビームを集光するよう操作された場合、球面収差を引き起こすことがある。このような状況は、例えば、3次元走査処置の間、レーザビームの焦点が焦点面210から焦点面211まで移動された場合に生じる。
【0062】
図3Aは、レーザ送達システム1が、最適な焦点面210に光線を集光している場合を示している。光線は、非常に狭い径範囲、すなわち半径rf(A)の最適な焦点面210上の点(「焦点」)を通過する。この径範囲rf(A)は、光ビームの回折等の様々な理由のために、ゼロより大きいことがある。焦点の半径は、複数の手法で定義することができる。rf(A)の一般的な定義は、画面の位置を軸方向、すなわちZ方向に沿って変化させた際の画面上の光点の最小半径である。このZ深度は、「最小錯乱点(point of least confusion)」と呼ばれることもある。この定義は、後に図3Cを用いて更に厳密にされる。
【0063】
図3Bは、レーザ送達システム1が最適な焦点面210からある距離、例えば、数ミリメートル離れて、動作焦点面211において焦点を走査する場合を示している。この図から明らかなように、光線は、半径rf(A)より大きい半径rf(B)の焦点を通過し、球面収差を引き起こす。収差係数anmと焦点半径rfとを関係付ける様々な精度の数式が研究されてきた。焦点半径rfは、amn収差係数に比べて、収差を定量化するために、経験的にアクセスしやすい測定である場合もある。
【0064】
図3Cは、焦点半径rfのより定量的な定義を示している。図3Cは、ビームの図心(重心)から半径r内の点に含まれるエネルギを示している。焦点半径rfの広く受け入れられている定義は、ビームのエネルギの50%が含まれる半径である。「A」の符号が付された曲線は、回折限界ビーム(diffraction limited beam)において、図3Aのように、ビームが最適な焦点面210に集光されると、ビームのエネルギの50%の半径r=0.8μmの点に含まれ又は閉じ込められることを示しており、rf(A)の有用な定義を提供している。
【0065】
レーザ誘起光学破壊(laser induced optical breakdown:LIOB)に基づく外科的処置では、良好に又は厳密に画定された焦点内にレーザビームのエネルギを伝えれば、精度及び効率をより高め、望ましくない効果をより少なくすることができる。LIOBは、強度(プラズマ)閾値を有する非線形性の高いプロセスであり、通常、プラズマ閾値より高い強度のビームに曝された組織は、プラズマに変わり、プラズマ閾値を下回る強度のビームに曝された組織では、プラズマ遷移は起こらない。したがって、収差によって焦点が広くなると、焦点面でプラズマ閾値より高い強度を達成するビームの割合が低下し、強度が閾値を下回るビームの割合が増加する。この閾値を下回るビームの一部は、標的組織によって有効に吸収されず、眼組織を介して伝播し続け、多くの場合、網膜に達し、望ましくない網膜の曝露を引き起こす可能性がある。
【0066】
角膜の厚さは、実質的に0.6mmであり、希にこれより厚いこともあるが、それでも1mmを超えることはないため、角膜を治療することが目的の外科的処置では、焦点面は、通常、最適又は公称の深度から約0.6mmだけZ方向に(光軸に沿って)走査又は移動される。「B」の符号が付された曲線は、ビームの焦点面が、その最適な焦点面210から動作焦点面211に1mm(角膜の処置のための予測の上限)移動した場合、rf(B)=1.8μmの焦点半径内にビームのエネルギの50%が含まれることを示している。この移動によって収差が生じるが、その測定値は、限定的である。このため、幾つかの既存の角膜用レーザシステムは、この収差を全く補償せず、他のシステムでも、補償のレベルは限定的である。
【0067】
収差係数amn及び焦点半径rf以外の収差の第3の測定値は、所謂ストレール比(Strehl ratio)Sである。システムのストレール比Sは、点光源から出射されるビームのシステムの焦点面におけるビームのピーク強度を、回折限界において動作する同等な完全なイメージングシステムの理論上の最大ピーク強度で除算した値として定義することができる。また、これと同等な別の定義をする文献も知られており、これらもストレール比Sの定義の範囲に含まれる。
【0068】
この定義より、Sの値が小さい程、収差が大きいことになる。収差がないビームでは、S=1であり、一般的に、S>0.8であるとき、イメージングシステムは、回折限界であるとされる。
【0069】
収差の第4の定義は、ω、すなわち二乗平均平方根(root-mean-square:RMS)波面誤差(wavefront error)であり、これは、図2の歪みのない波面Gからの収差波面Wの逸脱ΔWを出射瞳ExPにおける全体の波面に亘って平均化したものである。ωは、ビームの波長の単位で表現され、これによって、無次元量となる。
【0070】
図4は、比較的小さい収差ω及びSは、収差のタイプにかかわらず、以下の経験式によって関係付けられることを示している。
【数5】
【0071】
eは、自然対数の底である。
【0072】
上述した4つの収差の測定値は、全て、レーザ送達システム1の問題を診断し、設計を最適化するために有用である。したがって、以下では、包括的な用語「収差測定値」は、これらの測定値又はこれと等価の値の何れかを指すものとする。なお、収差が増加したことは、収差係数amn、焦点半径rf及びRMS波面誤差ωの増加、又はストレール比Sの減少によって把握される。
【0073】
特定の具体例では、これらの収差測定値の間の関係は、球面収差係数a40及び対応するストレール比Sを示すことによって表される。この具体例では、手術用レーザシステムは、眼の組織内に、その表面下の異なる深度でレーザビームを集光する。レーザビームは、1μmの波長及びNA=0.3開口数で回折限界となり、通常の入射角で組織の表面に集光される。この具体例の数値は、走査される深度と等しい厚さの面平行プレートをシステムの焦点面の近傍に追加し、塩水について計算を行うことによって近似させることができる。
【0074】
組織の表面は、式(2)及び(3)によって特徴付けられる収差をビームに導入する。収差係数a40によって特徴付けられる球面収差は、表面においてゼロであり、ストレール比は、正にその構造によって、S=1である。
【0075】
レーシック手術は、通常、0.1mmの深度でフラップを形成する。これらの深度では、ストレール比Sは、約0.996まで僅かに減少する。概ね角膜の後面にあたる0.6mmの深度においても、Sは、約0.85である。このピーク強度の減少は、無視できる程ではないが、レーザビーム強度を調整することによって補償することができる。
【0076】
一方、眼の水晶体の前面を特徴付ける5mmの深度では、ストレール比は、S=0.054にまで減少することがある。この深度及びストレール比では、ビーム強度は、プラズマ閾値を大きく下回り、この結果、ビームは、LIOBを発生させることができない。レーザパワーを増加させることによってピーク強度のこの劇的な損失を補償しようとすると、望ましくない作用、例えば、網膜の重大な過剰曝露又は気泡サイズの過剰な膨張等を避けられない。
【0077】
表1は、上述したストレール比に対応する球面収差a40を示している。この表から明らかなように、球面収差は、組織深度に対して略々線形に増加するが、ストレール比Sは、非線形的に振る舞う。
【表1】
【0078】
水晶体リーシス、切嚢術又は水晶体に関する他の外科的処置を実行することを目的とする外科的処置では、焦点面は、水晶体の全体の深度に亘って走査されることも多く、この深度は、最大5mmとなることもある。更に、統合角膜−水晶体システムでは、総合的な走査深度は、角膜から水晶体後面までの約10mmとなることがある。図3Cにおいて「C」の符号が付された曲線は、このような場合において、焦点半径は、rf(C)=18μmまで大きくなることを示しており、この値は、rf(A)及びrf(B)と同じプロット上で現れたとしても、大きすぎる。幾つかの実施の形態では、最適な焦点面が深度走査範囲の中間になるように選択することができ、レーザビームは、±5mmの深度範囲で走査してもよい。この場合、rf(C)は、10μmまで低減できる。
【0079】
これらの大きいrf(C)値は、他の3個の収差測定値、a40、S及びωにおいて、大きな収差として反映される。明らかに、僅か数十ミリメートルを走査する角膜の処置に比べて、水晶体手術におけるこのような大きな収差は、これらの望ましくない結果を補償又は管理するために、レーザ送達システム1の設計に多くの課題を生じさせる。
【0080】
水晶体手術に関連する大きな収差測定値の問題を解決するために、幾つかの実施の形態は、球面収差を前置補償し、収差測定値を改善する前置補償器200を含む。これらの収差は、標的組織内で、又はレーザ送達システム1内の光路の一部に沿って、又は全体の光路に沿って大きくなることがある。
【0081】
図5は、収差測定値rf(C)a40、S及びωが、焦点深度z及びその光軸からの半径距離rに依存しているので、以下では、収差測定値がある値となると記述した場合、これは、収差測定値が幾つかの選択された参照点において、記述した値となることを意味することを示している(実際の寸法は反映していない)。一組の関連する参照点は、それらの円筒座標(z,r):P1=(0,0),P2=(2,6),P3=(5,0),P4=(8,0),P5=(8,3)によって記述でき、これらの単位は全てミリメートル(mm)である。眼の主な構造は、略々円筒対称を示すので、これらのP参照点は、何れのアジマス角φにも位置できる。したがって、これらのP点は、アジマス角φを省いて、それらの3つの円筒座標のうちの2つのみによって参照することができる。P1は、中心に位置する角膜の処置のための典型的な点であり、P2は、角膜辺縁の処置のための典型的な点であり、P3は、水晶体の前部領域に関連し、P4は、水晶体の後部領域に関連し、P5は、水晶体縁辺の参照点である。また、レーザ送達システムの収差を特徴付けるために他の参照点を採用してもよい。幾つかの場合、収差測定値は、動作波面又は照射面積に亘って平均された収差測定値を指すこともある。
【0082】
収差測定値は、幾つかの異なる手法で判定できる。レーザビームの波面は、コンピュータ支援設計(computer-aided designCAD)プロセスにおいて、選択された光路のセクション、例えば、標的組織のモデル又はレーザ送達システム1のセクションに亘って、追跡できる。或いは、レーザビームの収差は、実際のレーザ送達システム内で測定してもよく、これらの2つの手法を組合せて測定してもよい。
【0083】
したがって、幾つかの具体例では、前置補償器200によって導入される前置補償は、標的組織自体を含むこともある光路の選択された部分に沿って収差測定値を判定、算出又は測定し、次に、判定/算出/測定された収差の予め選択された部分で補償する必要がある前置補償の量を決定することによって、選択できる。
【0084】
球面収差は、主に近軸光線(axial rays)に影響するので、前置補償器200は、球面収差を効率的に補正又は前置補償できる。他のタイプの収差、例えば、横収差、非点収差及びコマ収差は、光軸からオフセットしている光線を含む角度がゼロではない光線(non-zero angle rays)及び軸外光線(field rays)に影響する。レーザエンジン100によって生成されるレーザビームは、本質的には軸ビームであるが、光路の様々なブロック、最も顕著には、XYスキャナ300が、この軸ビームを、軸外光線を含む角度がゼロではないビームに変質させる。
【0085】
したがって、XYスキャナ300の後段に前置補償器が配置される設計では、ビームの軸外光線が幾つかの異なる収差を生じさせることがある。このような異なる収差の出現によって、(1)ビームの最適化では、複数の収差を補償する必要がある場合があり、(2)異なるタイプの収差は、互いに独立していないために、設計に困難な課題が生じる。すなわち、1つのタイプの収差を補償すると、通常、望ましくない他のタイプの収差が引き起こる。
【0086】
したがって、XYスキャナの後段に補償器を配置するアーキテクチャでは、球面収差は、通常、望ましくない他のタイプの収差を導入する犠牲を払いながら、限定的な程度だけ補償される。
【0087】
これに対し、本発明のレーザ送達システム1の実施の形態は、XYスキャナ300の前段に前置補償器200を設けることができる。この設計によって、前置補償器200は、望ましくない他のタイプの収差を導入することなく、球面収差を補償することができる。
【0088】
幾つかの具体例では、前置補償器200によって軸内前置補償を導入し、レーザ送達システムの後段のセグメント又は標的組織によって引き起こされる軸外収差を前置補償することによって、上述した軸内収差及び軸外収差の相互依存を逆に利用することができる。
【0089】
図6A及び図6Bは、前置補償器200の理想的な動作を説明する図である。
【0090】
図6Aは、前置補償器がないレーザ送達システム1を示している。一般的に、光路セグメント301は、あるレベルの球面収差を導入することがある。これは、光路セグメント301に入る歪みのない波面と、光路セグメント301を出る収差を有する波面とによって示されている。このセグメントは、光路の如何なるセグメントであってもよく、例えば、標的組織の一部、標的組織の全体、又はレーザ送達システム1内の経路の一部であってもよい。
【0091】
図6Bは、前置補償器200が、補償的(又は相補的)な波面の歪み導入できることを示している。この前置補償された波面は、光路セグメント301に入り、光路セグメント301からは、歪みが低減された又は歪みがない波面が出力される。
【0092】
既存のシステムでは、専用の補償器がないものもある。他の機能も有し、XYスキャナの後段に配設されるレンズグループのレンズによって、分散的な方式で、球面収差を補償するシステムもある。これらの既存のシステムでは、レンズのパラメータは、異なる機能の間で妥協的に選択され、したがって、それらの性能には制約がある。
【0093】
一方、レーザ送達システム1の実施の形態は、XYスキャナ300の前段に配置された専用の前置補償器200を有することができる。幾つかの実施の形態では、前置補償器200は、レーザエンジン100からレーザビームを受光する第1の光学ユニット又はレンズグループである。レーザビームは、その位置のために、(XYスキャナ300によって引き起こされる可能性がある)角度がゼロではない光線及び軸外光線を発達させることなく、前置補償器200に到達するため、これらの実施の形態は、ハイレベルな前置補償を達成できる。また、前置補償は、前置補償器200の主要な機能であり、したがって、別の機能も担うレンズを用いて補償を行う既存のシステムとは異なり、設計上の妥協を限定的にすることができるため、この前置補償は、効率的である。
【0094】
これらの理由から、このような具体例では、他のタイプの収差に影響を与え又はこれらを導入することなく、高いレベルで球面収差を補正することができる。
【0095】
収差の理論では、複合レンズシステムの球面収差は、概ね、個々のコンポーネントの球面収差の総和であることが知られている。したがって、レーザ送達システム1の幾つかの具体例では、前置補償器200が、符号が逆で同量の収差を導入するように設計することによって、望ましくない量の球面収差を前置補償することができる。
【0096】
具体例として、眼組織内の焦点深度が、最適な焦点面から5mm移動した場合、球面収差a40は、−2.0μmである(表1に基づく)。したがって、幾つかの具体例では、前置補償器200は、a40=+2.0μmの収差測定値を導入できる。第1の概算において、この前置補償は、焦点の5mmのシフトによって引き起こる球面収差を実質的に除去でき、したがって、ストレール比をS=0.054からS=1まで増加させる。(この収差の単純な具体例では、他のソースを無視している。)
以下の幾つかの具体例は、「前置補償されない」レーザ送達システム1、すなわち、前置補償器200が取り除かれたレーザ送達システムの収差測定値と、「前置補償された」レーザ送達システム、すなわち、前置補償器200が取り除かれていないシステムの収差測定値とを比較することによって特徴付けられる。
【0097】
幾つかの具体例では、前置補償器200を設置すると、ストレール比は、前置補償されないレーザ送達システム1の値S<S(precomp)から前置補償されたレーザ送達システム1の値S>S(precomp)に向上する。幾つかの具体例では、例えば、S(precomp)は、0.6、0.7、0.8又は0.9であってもよい。
【0098】
上述のように、ここでは、及び以下では、ストレール比Sは、上述した5個の参照点P1〜P5におけるストレール比S(P1)〜S(P5)、他の所定の参照点のストレール比、5個の参照点上のストレール比の平均、動作波面に亘る平均の何れかを指す。
【0099】
またストレール比は、レーザエンジン100からレーザビームを受け取り、対物レンズ700で終わり、及び眼の標的組織内に焦点を形成するレーザ送達システム1の全体についての言及であってもよい。他の幾つかの場合、この用語は、空気を含む他の標的についての言及であってもよい。幾つかの具体例では、この用語は、レーザ送達システム1のサブシステムについての言及であってもよい。
【0100】
幾つかの具体例では、前置補償がないレーザ送達システム1に前置補償器200を追加することによって、関連する帯域幅を有するパルスについて、ピコ秒より長い継続時間を有するレーザパルスのフーリエ限界帯域幅(transform-limited bandwidth)より少なくとも1桁、ストレール比を、S=S(precomp)を下回る前置補償されていない値から、S=S(precomp)を上回る前置補償された値に向上させることができる。上述のように、S(precomp)は、例えば、0.6、0.7、0.8又は0.9であってもよい。
【0101】
幾つかの具体例では、レーザ送達システム1に前置補償器200を追加することによって、0.4μmから1.1μmまでの範囲の波長に亘って、ストレール比を、S=S(precomp)を下回る前置補償されていない値から、S=S(precomp)を上回る前置補償された値に向上させることができる。上述のように、S(precomp)は、例えば、0.6、0.7、0.8又は0.9であってもよい。
【0102】
幾つかの具体例では、前置補償器200を追加することによって、システム開口数を、前置補償器200なしのレーザ送達システム1に対応するNA=NA(precomp)を下回る前置補償されていない値から、前置補償器200によるNA=NA(precomp)を上回る前置補償された値に増加させることができる。幾つかの具体例では、例えば、NA(precomp)の値は、0.2、0.25、0.3又は0.35であってもよい。
【0103】
幾つかの具体例では、前置補償器200を、前置補償器200を有さないレーザ送達システム1に追加することによって、標的組織内の焦点半径rfを、rf(precomp)を上回る前置補償されていない値から、前置補償器200を有するレーザ送達システム1に対応するrf(precomp)を下回る前置補償された値に減少させることができる。幾つかの具体例では、rf(precomp)は、2μm、3μm又は4μmであってもよい。
【0104】
幾つかの具体例では、前置補償器200を設けることによって、RMS波面誤差を、前置補償がないレーザ送達システム1の値ω<ω(precomp)から前置補償されたレーザ送達システム1の値ω>ω(precomp)に増加させることができる。幾つかで具体例では、ω(precomp)は、例えば、全てレーザビームの波長の単位で、0.06、0.07、0.08又は0.09であってもよい。
【0105】
幾つかの具体例では、前置補償器200を設けることによって、球面収差係数を、前置補償がないレーザ送達システム1値a40>a40(precomp)から、前置補償されたレーザ送達システム1の値a40<a40(precomp)に増加させることができる。幾つかの具体例では、a40(precomp)は、例えば、2μm、3μm又は4μmであってもよい。
【0106】
幾つかの具体例では、前置補償がないレーザ送達システム1に前置補償器200を設けることによって、RMS波面誤差ω、球面収差測定値a40及び焦点半径rfの収差測定値の少なくとも1つを、前置補償されていない値から、少なくとも前置補償パーセンテージP(precomp)だけ減少させることができ、又はストレール比Sを、少なくとも前置補償パーセンテージP(precomp)だけ増加させることができる。幾つかの具体例では、P(precomp)は、例えば、10%、20%、30%又は40%であってもよい。
【0107】
上述したように、これらの収差測定値の何れも参照点P1〜P5、他の所定の参照点又は複数の参照点における値の平均の何れに属していてもよく、又は波面に亘る平均であってもよい。
【0108】
幾つかの実施の形態では、前置補償器200は、非球面収差、例えば、一次収差又はより高次の収差を補償することができる。幾つかの場合、これは、軸外光線の前置補償も実行できる。
【0109】
幾つかの具体例では、前置補償器200は、RMS波面誤差を0.075より大きく増加させることなく、又はストレール比を例えば、0.8の値を有するS(precomp)より上に保ちながら、他のタイプの収差を前置補償する。
【0110】
幾つかの具体例では、前置補償器200は、前置補償器200を出るビームrbの半径を、rb=rb(precomp)を上回る値に増加させることができ、ここで、rb(precomp)は、例えば、5mm又は8mmであってもよい。
【0111】
これらの幾つかの機能は、1つ以上の可動レンズを前置補償器200に含めることによって達成することができる。位置アクチュエータは、1又は複数の可動レンズを駆動して、前置補償器200の幾つかのレンズ間の距離を変更することができる。
【0112】
1つの可動レンズを有する具体例では、前置補償器200の可動レンズは、レーザ送達システム1の焦点面又は焦点を光軸に沿って0.3〜4.0mm移動させることができる。他の具体例では、これらを0.5〜2.0mm移動させることができる。
【0113】
幾つかの具体例では、可動レンズが中間位置にあって、上述した5個の参照点P1〜P5におけるストレール比S(low)の少なくとも1つがS=S(movable)を下回る場合、可動レンズを移動させて、ストレール比S(low)を、S=S(movable)を上回る値に増加させることができる。S(movable)は、0.6、0.7、0.8又は0.9であってもよい。
【0114】
幾つかの具体例では、可動レンズを移動させて、ストレール比Sを0.6〜0.9の範囲内で変更することができる。他の具体例では、この範囲は、0.70−0.85である。
【0115】
前置補償器200は、XYスキャナ300又は他のビーム拡大器の前に位置するので、ビーム半径は、まだ小さい。したがって、可動レンズは、小さくすることができる。更に、可動レンズが小さいため、位置アクチュエータは、可動レンズを非常に高速に移動させることができ、焦点深度を非常に迅速に変更することができる。これらの実施の形態では、この特徴によって、深度走査又はZ走査を加速し、通常は、より速いXY走査速度に劣らないZ走査速度を実現することができる。
【0116】
幾つかの典型的な既存のシステムでは、収差は、主にレンズ等の光学手段によって補償される。ここに開示する可動レンズ前置補償器200は、1又は複数の高速可動レンズを利用して、この機能を実行することができる。詳しくは、レーザビームがXYスキャナ300によって走査される場合、1又は複数の可動レンズは、XY走査に関連する収差が所望のレベルに補償されるように十分速い速度で移動させることができる。
【0117】
図7Aは、この側面が、平面又は曲面の患者インタフェース208の接触面に実質的に追従して、横断的な手術カット206を実行する際に有用であることを示している。小さい可動レンズの速度によって、Z走査は、XY走査に必要とされる速度で実行され、所望の曲線のカットを形成することが可能になる。
【0118】
幾つかの具体例では、曲線のカット又は曲がった標的線の曲率又は半径は、1mm、10mm及び100mmより小さくすることができる。
【0119】
図7Bは、高いZ走査速度の他の有用な側面を示している。ほとんどの光学システムの焦点面は、ある程度曲がっている。実質的に直線の横断方向のカットを作成することが望まれ、したがって、焦点面の曲率に追従しない場合、横断方向のXY走査と同時に焦点深度を継続的に再調整して、焦点面の曲率を補償する必要がある。例えば、ラスタ走査パターンによる半径方向のカット又は平面状のカットでは、半径方向又はXY座標の変更は、非常に速い場合がある。これらの処置では、高速なZ走査速度が、望ましい真っ直ぐなカットを形成することに役立つ。
【0120】
更に、高いZ走査速度は、角膜の処置等の外科的処置を高速に実行するために有用である場合もある。
【0121】
幾つかの具体例では、可動レンズ前置補償器200は、焦点の最大横断走査速度の少なくとも5%の軸方向速度で、レーザ送達システムの焦点深度を変更できる。幾つかの具体例では、焦点の最大横断走査速度の少なくとも10%の軸方向速度でこれを行うことができる。他の実施の形態では、焦点の最大横断走査速度の少なくとも20%の軸方向速度でこれを行うことができる。
【0122】
幾つかの具体例では、可動レンズ前置補償器200は、Z走査時間内に焦点のZ座標を0.5〜1mm変更することができる。
【0123】
幾つかの具体例では、このZ走査時間は、10〜100ナノ秒、100ナノ秒〜1ミリ秒、1ミリ秒〜10ミリ秒及び10ミリ秒〜100ミリ秒の範囲内であってもよい。
【0124】
幾つかの具体例では、レンズグループの可動レンズは、Z移動範囲内で移動でき、第1の収差測定値を少なくとも可動パーセンテージP(movable)だけ減少させる。ここで、第1の収差測定値は、球面収差係数a40、RMS波面誤差ω、焦点半径rfであってもよく、可動パーセンテージP(movable)は、10%、20%、30%及び40%であってもよい。
【0125】
幾つかの具体例では、レンズグループの可動レンズは、Z移動範囲内で移動し、ストレール比Sを少なくとも可動パーセンテージP(movable)だけ増加させてもよく、これは、10%、20%、30%及び40%であってもよい。
【0126】
幾つかの具体例では、可動レンズ前置補償器200は、可動レンズを移動させることによって、レーザ送達システム1の開口数NA、Z焦点深度、収差測定値の何れか1つ及びビーム直径を実質的に独立して変更することができる。換言すれば、可動レンズを移動させることによって、他の3つの特徴を変更することなくレーザ送達システム1のこれらの4つの特徴の何れか1つを変更することができる。これらの実施の形態は、実施の形態のオペレータに優れた制御を提供する。
【0127】
前置補償器200の幾つかの機能は、ビーム調整(beam conditioning)又はビーム拡大(beam expanding)とも呼ばれる。これに対応して、ある既存のシステムでは、類似の機能を有するブロックは、ビーム調整器又はビーム拡大器と呼ばれることもある。
【0128】
幾つかの実施の形態では、前置補償器200は、1個のレンズを含むだけで上述の機能を達成する。
【0129】
幾つかの実施の形態では、前置補償器200は、2個〜5個のレンズによって、上述の機能を達成する。
【0130】
図8Aは、レンズ221、レンズ222及びレンズ223を含む3レンズ前置補償器200の実施の形態を示している。
【0131】
図8Bは、レンズ221’、可動レンズ222’及びレンズ223’を含む3レンズ可動レンズ前置補償器200’の実施の形態を示している。
【0132】
図8Cは、レンズ231〜234を含む4レンズ前置補償器200”の実施の形態を示している。
【0133】
図8Dは、レンズ231’、可動レンズ232’、レンズ233’及びレンズ234’を含む4レンズ可動レンズ前置補償器200”’の実施の形態を示している。
【0134】
表2〜4は、図8A及び図8Bの前置補償器200、200’の様々な3レンズ具体例を示している。前置補償器200の実施の形態は、薄レンズを用いて実現できる。したがって、これらは、個々のレンズの屈折力及び隣のレンズからの距離によって記述することができる。
【0135】
表2は、図8Aにも示す前置補償器200の3個の固定されたレンズの実施の形態を示している。表2の列1は、レンズ番号を示し、列2は、ディオプトリDi(i=1,2,3)を単位として測定された屈折力であり,列3は、レンズiとレンズi+1との間の距離di(i=1,2)である。
【表2】
【0136】
表3は、図8Bに示すような2つの可動レンズ222’、223’を有する前置補償器200’の可能な具体例を示しており、列3及び列4の2つの構成A及び構成Bには、レンズ間隔diA及びdiBを示している。レンズ間隔diは、diAとdiBとの間で連続的に変更することができる。
【表3】
【0137】
表4は、様々な具体例において、上述したパラメータDi及びdiが、多くの設計上の検討事項、例えば、異なるビームサイズ及び使用可能な空間等に応じて、広範囲な間隔で値を想定できることを示している。これらの具体例の幾つかのパラメータは、換算係数aによって屈折力を換算し及び対応する換算係数1/aによって距離を換算することによって、表2及び表3の実施の形態と組み合わせることができる。更に、許容係数t1〜t3によって屈折力を更に変更して、異なる許容誤差及び設計例に対応することができる。
【0138】
表4は、これらの関係をまとめて示している。
【表4】
【0139】
幾つかの具体例では、換算係数は、0.3〜3の範囲内であってもよく、許容係数t1、t2及びt3は、0.8〜1.2の範囲内であってもよい。
【0140】
同様に、表5は、前置補償器200”の4個のレンズの様々な具体例を示しており、レンズ231、232、233、234は、図8Cに示すように、固定レンズである。
【表5】
【0141】
表6は、1つの可動レンズの232’を含む図8Dの前置補償器200”’の4個のレンズの具体例を示している。
【表6】
【0142】
3レンズの具体例と同様に、4レンズの前置補償器200”、200”’のパラメータは、広い範囲で値を想定できる。これらの具体例の幾つかのパラメータは、表4と同様に、それぞれ、換算係数a、1/a、t1、t2、t3及びt4によって、互いに関連させることができる。換算係数は、0.2〜5の範囲内であってもよく、許容係数t1〜t4は、0.7〜1.3の範囲内であってもよい。
【0143】
他の実施の形態では、他の組合せ及び範囲が採用される。このシステムは、多くの異なる機能のために最適化され、この結果、異なる選択が行われるので、これらの範囲内で、レーザ送達システム1の多くの実施の形態が可能である。設計上の妥協及び最適化制約によって、それぞれが独自の利点を有する多くの具体例が想到される。上の表2〜6には、パラメータの範囲によって、多くの可能性が示されている。
【0144】
前置補償器200’の1つの可動レンズ具体例では、可動レンズは、レーザシステムの特徴の1つを実質的に独立して変更することができる。これらのパラメータは、Z焦点深度、開口数NA、収差測定値の何れか及び出射ビームの直径を含む。例えば、これらの具体例では、オペレータは、例えば、Z焦点深度を変更することなく、例えば、レーザ送達システム1の開口数を変更することができる。
【0145】
幾つかの具体例では、前置補償器200は、2つの独立して動く要素を有する。このような具体例では、オペレータは、レーザビームの2つの特徴を独立して制御でき、例えば、収差を固定したまま、ビーム直径及び開口数NAを制御することができる。
【0146】
図9は、様々な光学ブロックのZ走査機能を強調したレーザ送達システム1’の実施の形態を示している。詳しくは、レーザエンジン100は、レーザビームを生成し、このレーザビームは、第1のZスキャナ250に供給される。第1のZスキャナ250は、レーザエンジン100からレーザビームを受け取り、レーザ送達システム1’の光軸に沿って、第1のZインターバルに亘って、レーザ送達システム1’の焦点を走査する。第1のZスキャナ250から出たビームは、XYスキャナ300に供給され、XYスキャナ300は、実質的にレーザシステムの光軸を横断する方向にレーザビームを走査する。そして、出射されたXY走査レーザビームは、第2のZスキャナ450に供給され、第2のZスキャナ450は、レーザシステムの光軸に沿って、第2のZインターバルに亘って、レーザシステムの焦点を走査する。
【0147】
幾つかの実施の形態では、第1のZスキャナ250は、第1のZインターバルが角膜の外科的処置に適するように構成され、第2のZスキャナ450は、第2のZインターバルが前眼部の外科的処置に適するように構成される。
【0148】
幾つかの実施の形態では、第1のZインターバルは、0.05〜1mmの範囲内にあり、第2のZインターバルは、1〜5mmの範囲内にある。
【0149】
幾つかの実施の形態では、第1のZインターバルは、1〜5mmの範囲内にあり、第2のZインターバルは、5〜10mmの範囲内にある。
【0150】
幾つかの実施の形態では、第1のZスキャナ250は、第1のZ走査時間で、0.05〜1mmの第1のZインターバルに亘って、焦点を走査するように構成される。第1のZ走査時間は、10ナノ秒〜100ナノ秒、100ナノ秒〜1ミリ秒、1ミリ秒〜10ミリ秒及び10ミリ秒〜100ミリ秒の範囲のうちの何れかに含まれていてもよい。
【0151】
幾つかの実施の形態では、第2のZスキャナ450は、第2のZ走査時間で、1mm〜5mmの第2のZインターバルに亘って焦点を走査するように構成される。第2のZ走査時間は、10ミリ秒〜100ミリ秒及び100ミリ秒〜1秒の範囲のうちの何れかに含まれていてもよい。
【0152】
幾つかの実施の形態では、第1のZスキャナ250は、レーザビームの開口数を10%以上変更するように構成される。
【0153】
幾つかの実施の形態では、第2のZスキャナ450は、レーザビームの開口数を10%以上変更するように構成される。
【0154】
幾つかの実施の形態では、第1のZスキャナ250は、レーザビームの開口数を25%以上変更するように構成される。
【0155】
幾つかの実施の形態では、第2のZスキャナ450は、レーザビームの開口数を25%以上変更するように構成される。
【0156】
図10は、上述した要素の多くの変形例をまとめた表を示している。ここに示されているように、幾つかの具体例は、0個のZ深度スキャナ、XYスキャナ300の前段の1個のZ深度スキャナ、XYスキャナ300の後段の1個のZ深度スキャナ、及びXYスキャナ300の前後に1つずつの2個のZ深度スキャナを有することができる。
【0157】
更に、幾つかの具体例は、0個のNAコントローラ、XYスキャナ300の前段の1つのNAコントローラ、XYスキャナ300の後段の1つのNAコントローラ、及びXYスキャナ300の前後に1つずつの2個のNAコントローラを有することができる。
【0158】
ここで、Zスキャナ及びNAコントローラは、極めて包括的に言えば、それぞれ、Z深度及び開口数NAを変更できる単一のレンズ又はレンズグループを指す。幾つかの場合、これらの変更器(modifiers)は、変更器のレンズを同時に動かしてビームのNA又はZ深度を変更する単一の電気アクチュエータによってアクティブ化又は制御できる。
【0159】
Zスキャナ及びNAコントローラの両方は、図9の第1のZスキャナ250及び第2のZスキャナ450に収容することができる。幾つかの場合、対応する光学素子は、別個であり、他の具体例では、同じZスキャナブロック250又は450に収容されるZスキャナ及びNAコントローラが1つ以上のレンズ、可動レンズ又は電気アクチュエータを共有してもよい。
【0160】
図10に示すように、0個のZスキャナ及び1個又は2個のNAコントローラは、固定されたZ深度で動作しながら、XY走査の間、NAを制御できる。
【0161】
1個のZスキャナ及び0個のNAコントローラによって、Z走査を実行できる。
【0162】
1個のZスキャナ及び1個又は2個のNAコントローラは、Z走査に加えて、NAの制御を実行できる。
【0163】
2個のZスキャナは、1個又は2個のNAコントローラに組み合わされると、2個の速度でZ走査を実行でき、NAも制御できる。
【0164】
また、幾つかの具体例では、可変の開口及び瞳等の非レンズ光学素子も使用される。
【0165】
更に、ここに示す16個の組合せの多くは、球面収差等の選択された収差を前置補償するように構成することができる。
【0166】
図10は、様々なシステム特性、例えば、ビームのZ深度、その開口数NA及びストレール比S等の収差測定値で表される収差が互いに独立して制御又は調整できることを示している。このような実施の形態は、レーザ送達システム1のオペレータに優れた制御及び精度を提供する。
【0167】
類似の実施の形態においては、ビーム特徴の他の組合せについて、このような二重ビーム調整を実行できる。例えば、収差コントローラ及びビーム直径コントローラに関して、4×4=16個の組合せを有する同様の表を作成できる。ここでは、0個、1個又は2個の収差コントローラと、0個、1個又は2個のビーム直径コントローラとの全ての組合せが可能である。
【0168】
ビーム特徴のリストは、Z焦点深度、開口数NA、ビーム半径、及び何らかの収差測定値、例えば、ストレール比S、焦点半径rf、RMS波面誤差ω及び球面収差測定a40を含む。
【0169】
3.XYスキャナ300
XYスキャナ300は、前置補償器200から前置補償されたビームを、直接的に、又は幾つかの中間光学素子を通過させて間接的に受け取ることができる。XYスキャナ300の機能は、前置補償器200から受け取ったビームを、レーザ送達システム1の光軸を実質的に横断する方向に走査することである。様々な実施の形態では、「横断」方向は、必ずしも光軸に直交していなくてもよく、光軸に対して実質的な角度を形成するあらゆる方向を含むことができる。
【0170】
幾つかの実施の形態では、XYスキャナ300は、走査レーザビームを出射し、これは、レーザ送達システム1を介して伝播し、手術領域に到達し、ゼロから最大5〜14mmのXY走査範囲に亘って、横断方向に走査される。幾つかの具体例では、XY走査範囲の最大値は、8〜12mmである。
【0171】
図11Aは、XYスキャナ300がXスキャナ及びYスキャナを含むことができることを示している。幾つかの既存の設計では、Xスキャナ及びYスキャナは、それぞれ1個のミラー、すなわち、単一のX走査ミラー310及び単一のY走査ミラー320を含む。このような設計では、X走査ミラー310によって偏向されたビームは、X走査ミラー310の向きに応じて異なる点でY走査ミラー320に衝突する。具体的には、X走査ミラー310が位置310aにある場合、入射ビーム331は、ビーム332aとして反射され、X走査ミラーが位置310bに回転すると、入射ビームは、ビーム332bとして反射される。
【0172】
これらの2つのビームの332a、332bは、異なる位置でY走査ミラー320に衝突し、したがって、Y走査ミラー320が位置320aに固定されていても、これらは、それぞれ2個の異なる反射ビーム333aa、333baになる。更に、Y走査ミラー320自体も位置320aから位置320bまで回転した場合、2個の入射ビーム332a、332bは、2個の更なる反射ビーム333ab、333bbになり、これら4個のビーム333aa、333ab、333ba及び333bbは、全て異なる方向に伝播する。
【0173】
この問題は、ピボット点の概念に関連して特徴付けることができる。走査光学素子のピボット点の1つの定義は、走査光学素子を出る全ての光線が通過する点とすることができる。この概念は、非可動の屈折素子の焦点をスキャナ等の可動光学素子に適用したものである。
【0174】
この表現を用いると、上述の問題は、図11Aにおいて、X走査ミラー310自体の上に固定されているXスキャナピボット点315Xとして表すことができる。出射された走査ビームは、X走査ミラー310上の単一のピボット点315Xから出て、後段の光学素子に入り、この結果、様々な角度に伝播する。2個のミラー設計のこの相違によって、幾つかの異なるタイプの望ましくない収差が生じることがある。
【0175】
図11Bは、Xスキャナ310が2個のミラー311、312を含むことによってこの問題を解決する既存の3ミラーXYスキャナ300’を示している。図面を明瞭にするために、ミラーは、側面から示している。この設計では、X走査ミラー311、312は、連携してX走査機能を実行する。図11Bに示すように、第1のX走査ミラー311がその向きを311aから311bに変えると、第2のX走査ミラー312は、連携して、312aから312bに回転できる。これらの連携した走査回転によって、2個の回転状態における偏向されたビーム332a、332bは、X走査ミラーから離れたピボット点315Xを通過する。
【0176】
Xスキャナピボット点315XをX走査ミラー自体から離すことによって、その位置を調整できる。図11Bの設計では、X走査ミラーは、ピボット点315Xが実質的にY走査ミラー320上になるように設計されている。このような設計によって、図11AのXスキャナ310の問題は、実質的に解決され、対応する収差は、大幅に減少する。
【0177】
但し、この設計でも、Y走査ミラー320については、図11Aの設計と類似の問題がある。図11Bの設計では、Yスキャナピボット点315Yは、Y走査ミラーに固定されたままである。
【0178】
光学システムの入射瞳は、システムの前部から見た、開口絞りの像である。出射瞳は、画像空間の開口絞りの像である。複数のグループのレンズを有する光学システムでは、入射瞳及び出射瞳の位置は、多くの場合、慎重に調整される。多くの設計では、1個のレンズグループの出射瞳は、後段のレンズグループの入射瞳に一致される。
【0179】
XYスキャナ310の場合、ピボット点を出射瞳と見なすことができる。幾つかの実施の形態では、この出射瞳は、Zスキャナ450等の後段のレンズグループの入射瞳に一致する。なお、レンズグループの入射瞳は、スキャナブロックを配置することができないレンズグループの物理的な境界内にあることもある。この場合、スキャナブロックは、スキャナブロックの物理的な境界の外で、ピボット点の位置を任意に選択できることが望ましい。
【0180】
図11Cは、この問題を解決するための4ミラー設計を示している。XYスキャナ300”においても、Xスキャナ310は、2個のX走査ミラー311、312を含む。但し、Yスキャナも、2個のY走査ミラー321、322を含む。
【0181】
XYスキャナ300”は、Y走査ミラーからYスキャナピボット点315Yを引き離す。したがって、XYスキャナ300”は、Yスキャナを制御でき、すなわちピボット点315Yを所定の位置に移動させることができる。ある具体例では、Y走査出射ピボット点315Yを後段のレンズグループの入射瞳340に移動させる。幾つかの具体例では、Xピボット点315Xも、同じ位置に動かすことができる。
【0182】
この設計の他の側面として、XYスキャナ300”は、(1)出射された走査ビームとレーザ送達システム1の光軸との間の角度αと、(2)光軸からの距離dによって特徴付けられる、走査ビームが後段の光学素子の入射瞳に衝突する位置とを実質的に個別に制御することができる。これらの制御が略々独立していることによって、XYスキャナ300”は、収差が最小化された走査ビームを提供でき、及び手術領域の周辺領域を含む周辺領域の非点収差及びコマ収差を制御できる。
【0183】
XYスキャナ300”’の幾つかの具体例は、1個のX走査ミラー310及び1個のY走査ミラー320のみを含み、これらはそれぞれ、「高速ステアリング」タイプである。個々の高速ステアリングミラーは、2つの回転軸を巡って角運動が可能である。また、これらの高速ステアリングミラーの対は、光軸を横断する平面内でビーム角及びビーム位置を制御することもできる。
【0184】
幾つかの具体例では、XYスキャナ300”’は、XY走査範囲に亘ってレーザビームを走査するように構成され、この範囲の最大値は、レーザシステムの焦点面において、5mmより長く、15mmより短い。
【0185】
幾つかの具体例では、第1及び第2のXY高速ステアリングミラーによって生成されるXピボット点と、第1及び第2のXY高速ステアリングミラーによって生成されるYピボット点とは、一致する。
【0186】
4.Zスキャナ450
上述したように、眼の手術システムは、角膜の処置で走査されるインターバルより遙かに大きいインターバルに亘って焦点を走査できるような設計を有することによって、前方のセグメントの手術、又は水晶体手術を実行するように構成される。幾つかの具体例では、Z走査は、5mm〜10mm、又は0mm〜15mmのZ走査範囲内で、Z走査経路上で実行される。(本明細書の全体に亘って、「xmm〜ymmの範囲内の走査」という表現は、開始値がxmm以上であり、終了値がymm以下である走査経路を意味し、走査範囲の全体に達しない全ての走査経路を包含するものとする。)
ここで、「X、Y、Z」の割当は、様々な具体例に亘って、広義に解釈される。Zは、典型的には、光軸を指し、これは、幾何学的な軸に近いものであってもよい。但し、眼等の標的組織内のZ方向は、レーザ送達システム1の光軸に完全に平行ではなくてもよい。また、これらの2つの間の如何なる中間軸(compromise axis)もZ方向と呼ぶことができる。また、X、Y方向は、必ずしもZ軸に直交していなくてもよい。これらは、Z方向に対して実質的な角度を形成する如何なる方向であってもよい。また、幾つかの具体例では、レーザ送達システム1の走査について説明するために、動径座標系を用いた方がより適切である場合もある。それらの具体例では、XY走査は、適切な動径座標によってパラメータ化された、Z軸に平行ではない如何なる走査であってもよい。
【0187】
図1は、レーザ送達システム1の幾つかの具体例では、Zスキャナ450に第1のビーム拡大器ブロック400及び可動ビーム拡大器ブロック500を含ませることによって、これらの困難な課題を有するZ走査範囲を達成することを示している。様々な具体例において、第1のビーム拡大器ブロック400は、可動ブロックであっても固定ブロックであってもよい。第1のビーム拡大器ブロック400と可動ビーム拡大器ブロック500との間の距離は、例えば、位置アクチュエータによって調整できる。
【0188】
図2A及び図2Bを用いて既に説明したように、焦点が標的組織の最適位置から離れると、収差が増加する。これらの収差は、幾何学的光線を追跡することによって理解でき、有限の範囲のレンズに起因するので、通常、「幾何学的収差」と呼ばれる。これらの幾何学的収差は、Zスキャナ450の開口数をより小さくすることによって制限できる。したがって、幾何学的収差は、Z焦点深度及び開口数NAの両方に依存する。
【0189】
更に、開口数NAを小さくすることで、光の波動性から第2の収差源が生じる。これらの収差は、所謂「回折収差(diffraction aberration)」を生じさせる。この第2のタイプの収差は、開口数を小さくすると、焦点半径を増加させる。
【0190】
図12A及び図12Bは、眼の前方のセグメントにおける幾何学的収差及び回折収差を、上述の収差測定値の1つ、例えば、焦点半径rfによって特徴付けられるZスキャナ450の開口サイズの関数として示している。幾何学的収差は、開口サイズと共に増加し、一方、回折収差は、これに伴って減少するので、これらの2つの収差の合計として定義される総収差は、最適な収差において最適な最小値を示し、これは、最適な収差値NAoptに対応する。
【0191】
ここで、通常の定義では、開口数NA及び開口サイズの関係は、像が形成される物質の屈折率をnとして、NA=n*SinArTan(開口サイズ/(2*焦点長))と表される。
【0192】
これらの曲線は、特定のZ焦点深度についての曲線であり、図12Aは、1mmのZ焦点深度、図12Bは、8mmのZ焦点深度についての曲線を示している。Z焦点深度が異なれば幾何学的収差も異なるので、総収差曲線の最小点、したがって、システムの全体の最適な開口サイズ及び最適な開口数NAoptは、Z焦点深度に依存し、すなわち、NAopt=NAopt(z)である。具体的には、Z焦点深度が増加すると、この特定の実例においては、Z焦点深度が1mmから8mmに増加すると、最適な開口サイズ及びNAoptは、32mmから25mmに減少する。したがって、角膜及び水晶体の両方の手術のために使用されることが意図されたレーザ送達システムは、より広い範囲の開口及び対応するNA範囲をカバーする必要がある。この要求は、設計をかなり難しくする。
【0193】
後により詳細に説明するように、図12A及び図12Bは、収差が、典型的な角膜のZ焦点深度である1mmのZ焦点深度では、広い平坦な最適条件を示し、水晶体手術に典型的なZ焦点深度では、領域がより狭く、鋭くなることも示している。
【0194】
また、収差は、他の3つの収差測定値S、ω又はa40でも特徴付けることができ、これら全てから、最適条件を示す曲線が得られる。上の4つの収差測定値の何れも、上述の5個の参照点P(1)〜P(5)の何れにも対応でき、これらの参照点の幾つか又は全てに亘る平均であってもよく、他の参照点に対応していてもよい。
【0195】
幾つかの具体例では、様々なZ焦点深度において、実質的に最適な開口数NAopt(z)に開口サイズ及び対応するNAを調整でき、収差測定値で測定される総収差を最小化することができる。この機能によって、総収差を大幅に低減することができる。ここで、上述のように、収差は、上述した5参照点P1〜P5の何れかにおいて、4つの収差測定値rf、S、ω又はa40のうちの1つによって測定できる。最適な収差は、最小の収差測定値rf、ω若しくはa40、又は最大のストレール比Sに対応する。
【0196】
最適な収差が達成できない、又は設計上の制約によって、最適値から離れた収差を避けられない他の幾つかの具体例においても、可動ビーム拡大器ブロック500は、Zスキャナ450の第2のブロックが可動でなく、したがって、開口数を調整できない実質的に同じレーザシステムの収差測定値と比較して、収差測定値rf、ω若しくはa40の値を更に少なくともP(MovableExpander)%低減し、又はこれに対応してストレール比Sの値を少なくともP(MovableExpander)%増加させることができる。幾つかの具体例では、P(MovableExpander)は、20%、30%、40%又は50%であってもよい。ここで、上述と同様、収差測定値rf、S、ω又はa40は、5個の参照点P1〜P5の何れかにおいて測定できる。
【0197】
幾つかの具体例では、開口数NAを調整可能なZスキャナ450を有するレーザシステムは、ストレール比Sが0.8を下回る、Zスキャナが開口数を調整できない実質的に同じレーザシステムに比べて、ストレール比Sを増加させて0.8を上回らせることができる。
【0198】
更なる設計課題は、レーザ送達システムを最適な開口サイズ及び対応する開口数NAopt(z)に調整することによって固定されたZ焦点深度において総収差を最小化するだけではなく、Z焦点深度を走査しながら、Zに依存する最適な開口数NAopt(z)に近い値にシステムを維持することである。典型的な具体例では、焦点深度の増加に伴って、最適な開口数は、減少する。
【0199】
Z焦点深度がZ走査範囲内で走査されると最適な開口が変化するこの問題を解決するために、レーザ送達システム1の具体例は、変化するZ焦点深度自体から実質的に独立して、Zスキャナ450の分離されたパラメータとして開口数NA(z)を変更する能力を有する。
【0200】
2つの量、ここでは、Z焦点深度及び開口数NAが実質的に独立して制御される具体例は、この様式を実現するために、通常、1対の制御パラメータを有する。この具体例は、第1のビーム拡大器ブロック400と可動ビーム拡大器ブロック500との間の制御可能な距離と、これらのブロックの何れかに含まれ、第2の光学コントローラによって調整できる可動レンズの位置との対を含む。他の具体例としては、Zスキャナ450の2個のブロック内のあらゆる組合せにおける2個の可動レンズがある。なお、上述のように、第1のビーム拡大器ブロック400は、固定ブロックとして実現してもよく、可動ブロックとして実現してもよい。
【0201】
幾つかの具体例では、Z焦点深度が走査されるのにしたがって、Z焦点深度のシーケンスにおいて、開口数NAを最適な開口数値NAopt(z)のシーケンスに調整して、最適な総収差値のシーケンスを実現してもよい。
【0202】
上述のように、最適な総収差は、収差測定値rf、ω又はa40の何れかの最小値又はストレール比Sの最大値によって捕捉することができる。Z走査範囲は、例えば、5〜10mm又は0〜15mmであってもよい。Z焦点深度は、半径r1=0mm、r2=3mm、他の半径r、又は例えば、r<3mmの制約がある可変半径r(z)で走査することができる。
【0203】
表7は、具体例を示しており、ここでは、第2の列は、眼の標的組織内における(−0.14mm、11.65mm)のZ走査範囲内でのZ焦点深度の走査を示し、第3の列は、対応するNAopt(z)の値を示している。Zスキャナ450の具体例は、この範囲でZ焦点深度を調整でき、及びこれらの焦点深度において、開口数NAを最適値NAopt(z)に調整することができる。
【表7】
【0204】
幾つかの他の実施の形態では、Z焦点深度は、0mm〜10mmのZ走査範囲内で走査してもよい。走査の間に、開口数は、0.4〜0.1の範囲内で変更してもよく、他の実施の形態では、0.35〜0.15に変更する。
【0205】
図12Cは、8mm、4mm、2mm及び0mmのZ焦点深度のシーケンスに対応する最適な開口数Nopt(z)のシーケンスを示す収差曲線の同様のシーケンスを示している。
【0206】
図12Dは、最適な開口数Nopt(z)を対応するZ焦点深度の関数として明示的に示している。
【0207】
上述したように、Z焦点深度及び開口数NAを別個に調整可能にするには、通常、独立して調整可能な2つの制御パラメータが必要である。しかしながら、幾つかの具体例では、Z及びNAを別個に独立して調整することができない場合がある。これらの具体例では、これに代えて、各Z焦点深度について、オペレータによる別個のNA調整ステップなしで、開口数を最適値NAopt(z)又は少なくともNAopt(z)の付近に自動的に調整する。例えば、NAは、P(track)%内でNAopt(z)を追跡してもよく、ここで、P(track)は、10%、20%又は30%であってもよい。
【0208】
これらの具体例は、単一の統合された可調整コントローラのみを有する。現在説明している具体例では、この統合されたコントローラは、標的領域においてZ焦点深度を制御していることをシステムのユーザに表示するだけであってもよい。なお、コントローラは、レーザ送達システム1のユーザによって実行される独立したチューニングステップなしで、同時に開口数NAがNAopt(z)を追跡するように開口数NAを調整する統合された開口調整器を含んでいてもよい。
【0209】
幾つかの具体例では、第1のビーム拡大器400と可動ビーム拡大器500との間の距離を調整することによって、この機能を適切に実行できる。他の具体例では、単一の可動レンズは、この様式を提供できる。更に他の具体例では、2個の調整器の組合せを使うことができる。
【0210】
これらの具体例は、レーザ送達システム1のオペレータに簡単な制御機能を提供する。このような単一の、統合された制御機能を達成することは、設計上の困難が伴うため、幾つかの具体例では、他のブロック、例えば、前置補償器200、XYスキャナ300及び対物レンズ700と連携して、これらの統合制御機能を実行する。
【0211】
様々な設計上の制約のために、最適な総収差値が達成できない又は達成されない幾つかの具体例では、Z走査経路に沿ったZ焦点深度のシーケンスにおいて、Z走査範囲内で開口数NAを開口数値のシーケンスに調整して、Zスキャナ450が開口数NAを調整できないレーザシステムに対して、総収差を少なくともP(scan)%減少させることができる。幾つかの具体例では、P(scan)は、20%、30%、40%又は50%であってもよい。
【0212】
上述のように、総収差は、先に説明した収差測定値rf、ω又はa40によって特徴付けることができる。同様に、収差の低下は、ストレール比Sの対応する増加によって特徴付けることもできる。Z走査経路は、レーザシステムの光軸又はZ軸から半径Rの距離において、Z軸に平行な経路であってもよい。幾つかの具体例では、Z走査経路は、光学的なZ軸から半径r1=0mmとr2=3mmとの間に位置できる。
【0213】
総収差は、幾つかの異なる手法で測定できる。総収差は、Z走査経路に亘って平均化された総収差又は走査パスに沿った総収差の最大値又は最小値を指すことができる。総収差の低下は、これらの可能性の何れに関する言及であってもよい。
【0214】
幾つかの具体例では、開口数NAは、角膜の処置が実行される際の第1の値から、前方のセグメントの処置が実行される際の第2の値に調整できる。幾つかの具体例では、第1の値は、0.2〜0.5の範囲内にあり、第2の値は、0.1〜0.3の範囲にある。他の具体例では、第1の値は、0.25〜0.35の範囲内にあってもよく、第2の値は、0.15〜0.25の範囲内にあってもよい。
【0215】
このZスキャナ450の具体例は、既存の角膜レーザ送達システムとは、以下を含む様々な点が異なる。
【0216】
1.角膜レーザ送達システムでは、設計の簡潔性を確実にするために、通常、開口数は、焦点深度のZ走査の間、変化しないことが要求される。1mmの典型的なZ走査によって引き起こされる総収差は、角膜レーザ送達システムの精度にとって深刻な制約要因とならないので、この設計は、角膜手術においては十分である。一方、レーザ送達システム1の具体例は、可変の開口数NAを有し、例えば、手術用の5〜10mmの長いZインターバルに亘って、開口を最適な開口に調整し続ける。これは、もちろん、Z焦点深度から実質的に独立して調整可能な開口数NAの様式によって、達成される。
【0217】
2.また、典型的な既存の角膜のシステムは、対物レンズ700の複雑な実現例の一部として、対物レンズ700内にそれらのZスキャナを有するが、本発明のZスキャナ450は、対物レンズ700の前段に配置される。ここで、対物レンズ700とは、レーザ送達システム1の最後のレンズグループを指し、これは、XYスキャナ及びZスキャナの機能的な機械的ハウジングとは別の機能的な機械的ハウジング内に配設される。機能的な機械的ハウジングという用語は、人間工学又は外観を考慮して設計された送達システムのハウジング全体を指すのではなく、複数のレンズを互いに保持し、これらの実際の光学的機能を実行するためのハウジングを指す。この具体例の対物レンズ700は、通常、光路内で、Zスキャナ450から出たXYZ走査ビームを偏向するミラー600の後段に配設される。
【0218】
3.図12A及び図12Bは、水晶体手術用の光学システムの設計における更なる課題を示している。これらの図から明らかなように、総収差は、1mmの典型的な角膜のZ焦点深度においては、広くて、平坦な最適領域を示し、したがって、(1)他の検討事項についてシステムパラメータを最適化でき、(2)広いZ走査範囲を用いることができ、及び(3)必要とされるシステムパラメータのチューニングの精度は高くなくてもよく、如何なる場合も焦点サイズを大きく劣化させることはない。これとは対照的に、水晶体手術システムに関しては、(1)システムパラメータを他の検討事項について最適化し、(2)Z走査範囲をより広くし、及び(3)システムパラメータのチューニングの精度を低めた場合、焦点サイズは、急速に悪化する。
【0219】
Zスキャナ450の実施の形態の更なる側面では、イメージングサブシステム又は視覚的な観察用の光学サブシステムを含むレーザ送達システムは、ミラー600を介して、レーザ送達システム1にカップリングされる、これらのサブシステムの何れかに関連するビームを有する。ミラー600は、例えば、ダイクロイックミラーであってもよい。典型的な手術システムでは、対物レンズ700とは、ミラー600の後段の光路に配設されたレンズグループを指す。
【0220】
Zスキャナ450をミラー600の前段に設け、対物レンズ700から独立させることは、重要な設計上の考慮点であり、これは、対物レンズ700は、患者の眼等のように標的組織に実質的に直接接触するので、対物レンズ700の重量も重要な因子であるためでもある。したがって、対物レンズ700の重量又は質量を最小化することによって、レーザ送達システム1の具体例は、眼に加わる圧力を低減することができる。この圧力は、眼自体を変形させ、この結果、外科的処置の精度を低下させるので、眼に加わる圧力を緩和する設計によって、眼科手術の精度が大幅に向上する。
【0221】
表8及び表9は、第1のビーム拡大器ブロック400及び可動ビーム拡大器ブロック500の様々な実施の形態の幾つかの関連するパラメータの範囲を示している。各ビーム拡大器ブロックは、2〜10個レンズを有することができ、幾つかの実施の形態では、上述の機能を行うように構成された3〜5個のレンズを有する。
【0222】
表8は、個々の表面に関して、厚レンズのグループについて説明する工業規格上の取り決めを用いて、5レンズの第1のビーム拡大器ブロック400の実施の形態を示している。第1のビーム拡大器ブロック400は、以下の範囲のパラメータ(括弧内に示している)を有するレンズ411、412、413、414、415を含むことができる。
【表8】
【0223】
幾つかの実施の形態では、第1のビーム拡大器ブロック400は、XYスキャナ300に面する入射側から順番に、正の屈折力を有する第1のレンズグループ、入射側に面して凸面を有するメニスカスレンズ、及び入射側に面して凹面を有する第2のレンズを含む。
【0224】
他の具体例は、換算係数aによって、表8の具体例に関連付けられ、5個の換算されたレンズを有し、第2の列の曲率は、aに乗算され、第3の列の距離は、1/aに乗算され、屈折率nは、変更されない。換算係数aは、0.3〜3の間の値を想定できる。
【0225】
表9は、以下の範囲のパラメータを有するレンズ511、512、513、514を含む4レンズの可動ビーム拡大器ブロック500の実施の形態を示している。
【表9】
【0226】
可動ビーム拡大器ブロック500の幾つかの具体例は、第1のビーム拡大器ブロック400に面する入射側から順番に、入射側に面して凹面を有するメニスカスレンズ、負の屈折力を有する負レンズ及び正の屈折力を有する正レンズグループを含む。
【0227】
他の具体例は、換算係数aによって、表9の具体例に関連付けられ、4個の換算されたレンズを有し、第2の列の曲率は、aに乗算され、第3の列の距離は、1/aに乗算され、屈折率nは、変更されない。換算係数aは、0.3〜3の間の値を想定できる。
【0228】
図13A及び図13Bは、第1のビーム拡大器ブロック400と可動ビーム拡大器ブロック500との間の距離が異なる2つの構成で、表8及び表9の実施の形態を示している。幾つかの具体例では、可動ビーム拡大器ブロック500は、d=5〜50mmの範囲内の距離で、第1のビーム拡大器ブロック400に対して移動させることができる。
【0229】
これらの図面は、Zスキャナ450の動作時の設計上の検討事項を示している。
【0230】
図13Aは、可動ビーム拡大器ブロック500が第1のビーム拡大器ブロック400から比較的遠い位置にある場合を示している。この場合、組み合わされたアセンブリを出るビームは、(1)収束する光線(convergent rays)、(2)出射瞳ExPより大きい直径、(3)焦点長が固定された対物レンズがZスキャナ450の出射瞳の近傍に配置される場合、より浅いZ焦点深度を有し、及びこの結果、(4)焦点は、より大きい開口数NAを有するビームによって形成される。
【0231】
図13Bは、図13Aの場合に比べて、可動ビーム拡大器ブロック500が第1のビーム拡大器400により近い場合を示している。ここで、ビームは、(1)発散する光線(divergent rays)、(2)出射瞳ExPより小さい直径、(3)焦点長が固定された対物レンズがZスキャナ450の出射瞳の近傍に配置される場合、より深いZ焦点深度を有し、この結果、(4)焦点は、より小さい開口数NAを有するビームによって形成される。
【0232】
要約すれば、より浅いZ焦点深度では、焦点は、NAが大きいビームによって生成され、Z焦点深度が増加すれば、開口数NAは、減少する。開口数NAの相対的な変化は、ビーム拡大器ブロック400、500の出射瞳ExPの位置及びフォーカシング対物レンズ700の入射瞳の位置を最適化することによって最適化できる。これらの具体例は、前置補償器200の機能を使用しないで、異なる焦点深度で開口数を最適化するための代替となる手法である。
【0233】
上述のように、開口数NAは、前置補償器200を用いて、又はこれを用いることなく、広範囲に亘って調整できる。レーザ送達システム1全体では、前置補償器200、第1のビーム拡大器ブロック400又は可動ビーム拡大器ブロック500を制御することによって、又はこれらのブロックを組合せて制御することによって、開口数NAを調整できる。現実の具体例における実際の選択は、例えば、走査範囲、走査速度及び複雑性等の他のより高次のシステムレベルの要求に基づいて行われる。また、他の数値範囲を有する具体例を構成して、上述した機能の幾つか又は全てを実行することもできる。
【0234】
図14は、Zスキャナ450の更なる側面を示している。XYスキャナ300の出射ピボット点PP(XY)から出る3つの異なる特徴的ビームが示されている。なお、3つの特徴的ビームは、全て、Zスキャナ450によって、対物レンズ700の入射ピボット点PP(O)に集光されている。PP(O)の位置は、例えば、可動ビーム拡大器500を動かすことによって調整できる。
【0235】
後述するように、XYスキャナ300のミラーから離れたピボット点PP(O)を生成するレーザ送達システムは、例えば、PP(O)ピボット点が対物レンズ700内に収まる実施の形態において、有用な特徴を有する。
【0236】
他の実施の形態では、XYスキャナ300は、Zスキャナ450への距離より遠い出射ピボット点PP(XY)を有する。これらの実施の形態では、Zスキャナ450は、XYスキャナ300の出射ピボット点PP(XY)を対物レンズ700の入射ピボット点PP(O)に変更するだけである。
【0237】
何れの場合も、これらの具体例は、第1のビーム拡大器ブロック400と可動ビーム拡大器ブロック500との間に位置する中間焦点面451の存在を利用する。この中間焦点面451の存在は、3つの特徴的ビームの焦点が、実質的に同じz座標において、一列に並んでいることによって示されている。逆に、このような中間焦点面を有さない具体例は、ピボット点PP(O)を調整可能とすることに適さない。
【0238】
5.対物レンズ700
幾つかの具体例では、Zスキャナ450によって出射されたレーザビームは、ビームスプリッタ/ダイクロイックミラー600によって、対物レンズ700に向けて偏向される。また、このミラー600を介して様々な補助光をレーザ送達システム1にカップリングすることができる。補助光源は、光干渉断層法イメージング(optical coherence tomography imaging:OCT)システム、照明システム、視覚的観察ブロックに関連する光を含むことができる。
【0239】
対物レンズ700は、レーザエンジン100からXYスキャナ300及びZスキャナ450を介して伝播するXYZ走査レーザビーム及び手術標的領域への補助光のための共有された光路を提供できる。様々な具体例において、対物レンズ700は、対物レンズグループを含むことができる。幾つかの具体例では、対物レンズグループのレンズは、互いに対して移動しない。したがって、対物レンズ700は、Z走査機能の統合された一部であるが、可変の又は動的な形式では、Z走査に貢献しない。これらの具体例では、焦点のZ焦点深度を動かすために、対物レンズ700において、レンズ位置が調整されることはない。
【0240】
対物レンズ700の具体例は、手術用パルスレーザビームの球面収差、コマ収差及び高次収差の少なくとも1つを制御できる。
【0241】
対物レンズ700は、異なる波長の光を誘導するので、対物レンズ700の具体例は、色消しされたレンズグループ(achromatized lens groups)を使用する。補助光の波長は、例えば、0.4〜0.9μmの範囲内である場合があり、手術光の波長は、1.0〜1.1μm範囲内である場合がある。対物レンズ700の具体例は、使用される光の波長の範囲内、上述の具体例では、0.4μm〜1.1μmの範囲内で、所定の値より下に色収差を保つ。
【0242】
対物レンズ700の重量又は質量は、重要な検討課題である。幾つかの具体例では、対物レンズは、患者の眼と機械的に接触する。したがって、対物レンズは、眼に圧力を加える。この圧力は、圧力がない状態から眼を歪ませ、標的を選択し、手術用レーザビームを正確に方向付けることをより難しくする。
【0243】
更に、外科的処置の間に患者が動く場合、対物レンズは、患者の動きに応じて、最も小さい抵抗で動くことができることが望ましい。対物レンズの重量は、バネ装置又は釣り合い重りによって静的にバランスをとることができるが、これらの対策では、動的な力又は慣性力を低減することはできない。実際には、このような対策によって、これらの力は大きくなる。これらの検討事項の全てが、対物レンズ700の重量又は質量を低減することの有効性を示している。
【0244】
眼の外科的処置に関連する重要な力及び対応する対物レンズ質量は、多くの手法で特定することができる。眼に加わる様々な影響に関する概説は、例えば、「Determination of Significant Parameters for Eye Injury Risk from Projectiles; Duma SM, Ng TP, Kennedy EA, Stitzel JD, Herring IP, Kuhn F. J Trauma.2005 Oct; 59(4):960-4.」に開示されている。この論文は、眼に影響を与える対物レンズを概説し、(1)角膜上皮剥離のような軽傷、水晶体脱臼のような中傷、網膜損傷のような重傷を含む眼への異なるタイプのダメージに対応する対物レンズの臨界的なエネルギ値を示している。また、この論文は、(2)数%の可能性を表す低確率から、約50%の可能性を表す中確率及び略々確実な負傷の可能性を指す高確率まで、負傷の確率を割り当てている。この論文は、更に、(3)影響を与える総エネルギ及び影響を受ける領域によって正規化されたエネルギに基づいて、影響を与える対物レンズの形状に基づく影響シナリオを分類している。
【0245】
これらの結果は、対物レンズ700の機械的支持システムの全面的故障(total breakdown)によって生じる可能性が最も高い負傷を調べることによって、眼の手術の特定のケースに適用できる。このような故障によって、典型的には20〜25mmの垂直な経路で対物レンズ700の全体が自由落下し、対物レンズのエネルギの全てが眼自体に加わる。臨界質量は、周知の物理原理に基づいて、対物レンズの自由落下をモデリングする公表されている臨界的エネルギ値から算出できる。
【0246】
この長さの垂直な経路は、以下の設計原理に由来する。対物レンズ700を垂直な摺動ステージに取り付けることによって、ガントリによるレーザ送達システム1の眼への安全で信頼できるドッキングを提供することができる。垂直なガントリは、対物レンズ700を、垂直な移動範囲内で位置決めされるように収容するので、このような設計は、ガントリに対する精度及び力の要求を容易にする。更に、一旦、眼がドッキングされると、これらの設計では、レーザ送達システム1への眼の取付を解除することなく、レーザ光源100に対して眼を垂直に動かすことができる。これらの動きは、患者の動き又は手術台の動きのために生じることがある。対物レンズ700の垂直な移動範囲は、20〜25mmであり、この範囲内で、ガントリの力及び患者の動きを効果的且つ安全に緩和する。
【0247】
最後に、(5)対物レンズ700の光学素子、例えば、対物レンズグループ内のガラスレンズ単体の「光学的」質量(optical mass)によって、対物レンズの全体の質量の下限が決まり、ハウジングの及び対物レンズの制御システムの質量を低減する対策は様々にあるが、レンズの質量を低減することは、遙かに困難であるという意味において、設計上の検討事項も臨界的な質量に影響を及ぼす。本システムにおいて、対物レンズの総質量は、レンズのみの「光学的」質量の2〜3倍となることがある。
【0248】
これらの基準の幾つかからは、より鋭い臨界質量の定義が導き出され、他の基準からは、滑らかにクロスオーバーする依存性だけが導き出され、それら自体からは、鋭い定義は導き出されない。
【0249】
上述の(1)〜(4)の分類の可能な組合せから、臨界質量MCに関して、4つの比較的鋭く、有意義な定義を以下のように特定できる。
【0250】
(1)MC1=400g:M<MC1の対物レンズは、最悪の故障シナリオにおいても、患者に損傷を与える危険性が実質的にない。
【0251】
(2)MC2=750g:MC1<M<MC2の状況では、総影響エネルギによって、角膜上皮剥離が引き起こる可能性が10%より大きくなることがある。
【0252】
(3)MC3=1,300〜1,400g:MC2<M<MC3の状況では、如何なる影響シナリオにおいても、角膜上皮剥離が引き起こる可能性が50%になることがある。
【0253】
(4)MC4=3300g:MC3<M<MC4範囲の質量では、幾つかの影響シナリオは、角膜上皮剥離が略々確実に引き起こり、中傷又はそれより重い損傷が生じる可能性もゼロではなくなる。
【0254】
これらの確率の全ては、もちろん、対物レンズの機械的支持システムの全面的故障が実際に生じる僅かな確率に乗算するべきである。しかしながら、眼科の用途では、如何に可能性が低くても、予想可能な負傷シナリオを防ぐために、細心の対策を施す必要があり、上述した臨界質量が問題となる。
【0255】
したがって、上述の検討事項は、対物レンズ700の総質量及び光学的質量に関する明確な評価基準に基づいて、4つの臨界質量を特定する。したがって、設計段階で、上述の臨界質量MC4〜MC1を超えないように対物レンズの質量を低減する対物レンズ700の実施の形態によって、安全な外科的処置の可能性が質的に向上する。
【0256】
眼科用のフェムト秒レーザのための既存の対物レンズは、5000gを超える質量を有し、これらの4つの臨界質量の最大値を大幅に超えている。例外は、Manziによる米国の特許出願公開番号2003/0053219号であり、ここには、レンズのみの光学的質量が約1000gであるレンズシステムが開示されており、総質量は、2,000〜3,000gとなると考えられる。Manziの設計は、他の既存の対物レンズより軽いが、それでもかなり大きい質量を有する。対物レンズ内のレンズ素子は、Z焦点制御のために用いられるので、これは、主として対物レンズの統合された部分であるZスキャナに起因する。Manziでは、精密機械加工されたハウジング、レンズのための精密な直線的ガイド及びサーボモータのために、追加的な質量が必要であり、これらによって、総質量は、結局、5000gを上回る値になってしまう。
【0257】
一方、対物レンズ700の様々な実施の形態の質量は、上述した4つの質量範囲である0〜400g、400〜750g、750〜1350g及び1350〜3300gの何れかに含ませることができる。この質量は、光学的質量又は総質量の何れであってもよい。例えば、対物レンズ700の具体例のレンズは、130g未満の質量を有することができる。これらのレンズを精密な金属ハウジングに取り付け、アセンブリの総質量を400gにすることができる。
【0258】
対物レンズ700の実施の形態は、Z走査機能を除外し、独立したZスキャナ450を設け、これを独立した機能的又は機械的ハウジングに収容することによって、400g、750g、1350g、及び3300g未満へのこのような顕著な質量の低減を達成する。ここで「機能的又は機械的ハウジング」という用語は、全体の非機能的な設計上の考慮から、独立したZスキャナ450を対物レンズ700と同じ汎用のコンテナに収容することもあるが、このような汎用のコンテナは、光学的機能又は機械的な目的には寄与していないという事実を指している。
【0259】
幾つかの実施の形態では、対物レンズ700の光学的特徴を調整することによって、少なくとも幾つかの動的なZ走査機能を実行する類似の対物レンズに比べて、対物レンズ700の質量をP(mass)%低減できる。このような特徴は、対物レンズ700に統合されるZスキャナ450の全体の特徴であってもよく、対物レンズ700に統合される可動ビーム拡大器ブロック500の特徴であってもよく、対物レンズ700に統合される1個以上の可動走査レンズの特徴であってもよい。P(mass)は、10%、50%又は100%であってもよい。
【0260】
対物レンズ700の他の関連する側面及び手術用レーザシステム1の対応する設計は、図14を用いて説明した通りであり、ここでは、Zスキャナ450の実施の形態は、対物レンズの入射ピボット点PP(O)にXYZ走査レーザビームを集光することができることを示した。対物レンズ700内に入射ピボット点PP(O)を有する実施の形態では、ビームがこの内部のピボット点PP(O)に向かって収束するので、光路の大部分に亘って、ビーム半径rbが非常に小さくなる。更に、ビーム半径rbが小さいビームは、より小さいレンズで制御でき、対物レンズ700の総合的な質量を大幅に削減することができる。
【0261】
上述の設計上の考察に基づく対物レンズ700の具体例を表10に要約し、図15に示す。対物レンズ700の具体例は、Zスキャナ450から手術用パルスレーザビームを受け取る第1のレンズグループと、第1のレンズグループから手術用パルスレーザビームを受け取り、手術用レーザビームを標的領域に集光する第2のレンズグループとを含む。
【0262】
表10は、表面1〜16によって、図15の対物レンズ700を更に詳細に示している。対物レンズ700は、9個のレンズL1〜L9を有し、表面17を介して、患者インタフェース800に面している。上述と同様に、括弧は、想定できる対応するパラメータの範囲を示している。(表面1、2は、2個で1組のレンズL1/L2を定義し、表面8、9は、2個で1組のレンズL5/L6を定義するので、表面の数は、18ではなく、16である。)
【表10】
【0263】
他の具体例では、上述の設計上の検討事項を比較的よく満足させる異なるパラメータ範囲で、異なる数のレンズを用いることができる。
【0264】
幾つかの具体例では、対物レンズ700は、幾つかのレンズグループによって記述できる。例えば、対物レンズ700は、Zスキャナ450からXYZ走査レーザビームを受け取る第1のレンズグループと、第1のレンズグループからレーザビームを受け取る第2のレンズグループとを含むことできる。第2のレンズグループは、屈折率が1.54〜1.72の範囲で、入射面の曲率が37.9〜65 1/mの範囲で、出射面の曲率が−15.4〜5.2 1/mの範囲の第1のレンズを含むことができる。更に、また、第2のレンズグループは、第1のレンズから0〜6.5mmの範囲の距離だけ離れて設けられ、屈折率が1.56〜1.85の範囲で、入射面の曲率が−55.1〜−21.8 1/mの範囲で、出射面の曲率が11.4〜26.8 1/mの範囲の第2のレンズを含むことができる。対物レンズ700は、第2のレンズを介して、患者インタフェース800にレーザビームを出射できる。
【0265】
幾つかの具体例では、対物レンズ700の有効焦点距離は、70mm未満である。
【0266】
幾つかの実施の形態は、対物レンズ700から患者インタフェース800までの距離は、20mm未満である。
【0267】
幾つかの設計では、レーザ送達システム1の焦点面の曲率は、20 1/mより大きい。
【0268】
また、市販の光学設計ソフトウェアパッケージ、例えば、Zemax Development Corporation社のZemax、Optical Research Associates社のCode Vを用いて本明細書に亘って記述した設計原理に従う対物レンズ700及び手術用レーザシステム1の全体の他の多くの具体例を実現することができる。
【0269】
6.総合的なシステムの光学的性能
様々な具体例において、サブシステム前置補償器200、XYスキャナ300、Zスキャナ450及び対物レンズ700のパラメータは、相互依存した形式で最適化でき、これにより、総合的なレーザ送達システム1の光学的性能は、例えば、眼科手術用途のために独自の有用性を有する特性を示すことができる。
【0270】
表11A及び表11Bは、第1の具体例及び第2の具体例における総合的なレーザ送達システム1の光学的性能を開口数NA及びストレール比Sに関して要約したものである。ここでも、光学的性能は、上述の参照点P1〜P5と同様な参照点によって特徴付けられる。表11A及び表11Bは、構成A、B、C、Dを有するそのコンポーネントによって、レーザ送達システム1の光学的性能を示しており、これらは、それぞれ角膜の中心(A)、角膜の周辺部(B)、水晶体の中心(C)、水晶体の周辺部(D)にレーザビームを送達する。これらの参照点は、水晶体に眼科手術を実行する際の課題に関連する手術対象となる大きな体積体を表している。
【0271】
表11A及び表11Bでは、特定の値を有する参照点の動径座標を示している。なお、他の実施の形態では、NA及びSは、これらの特定の動径座標の「周囲」の同じ各範囲における値を想定している。幾つかの場合、「周囲」という用語は、示された動径座標値のP(radial)%内の動径座標の範囲を指し、P(radial)10%、20%及び30%であってもよい。例えば、7.2mm及び8.8mmの範囲内のz動径座標を有する点は、「水晶体、中心」参照点のz=8.0mm動径座標のP(radial)=10%以内の近傍にある。
【0272】
更に、幾つかの実施の形態では、NA及びSは、B、C及びDの構成についてリストされたそれらの3個の各範囲のうちの1個のみに含まれる。他の実施の形態では、NA及びSは、表11A及び表11B内で、B、C及びDの構成についてリストされたそれらの3個の各範囲のうちの2個のみに含まれる。
【0273】
これらから明らかなように、ここに開示したレーザ送達システムは、水晶体手術の体積体の全体に亘って、実質的に回折限界の光学的性能に良好に修正される。
【表11】
【0274】
ストレール比Sが0.8を上回る同様の設計は、上にリストした設計と均等であるとみなすことができ、これらの設計は、全て、回折限界のシステムであるとみなされる。
【0275】
ストレール比S以外に、他の収差測定値、例えば、焦点半径rfを用いて、レーザ送達システム1の総合的な光学的性能を特徴付けることもできる。大きいストレール比と大きい開口数NAの組合せは、小さい焦点半径rfと言い換えることができ構成A〜Dに亘って、焦点半径rfは、眼の標的領域内において、幾つかの具体例では、2μm未満、他の具体例では、4μm未満、更に他の具体例では、10μm未満となる。
【0276】
レーザ送達システムの性能をより正確に特徴付け、角膜及び水晶体のビーム伝播への実質的な影響を表すために、表11A及び表11BのNA及びS値は、光学的設計の統合された部分として、眼を含むシステムを設計することによって導出されている。幾つかの設計では、眼は、その自然の形式でモデル化される。他では、実際の手術条件を表すために、ある程度の眼の圧平を含ませている。
【0277】
表12は、図15の人間の眼のモデル850によって示されている関連する眼の組織の単純なモデルを要約したものである。(表面の番号は、表10の番号の続きとなるように選択してあり、患者インタフェース800を角膜組織に接続する表面である表面18から始まる。)眼の組織は、厚さ0.6mmの角膜(共有された表面18を介して患者インタフェースから入る。)、房水(表面19を介して、角膜から入る。)及び水晶体(表面20を介して、房水から入る。)によってモデル化できる。眼の表面の分離は、レンズ表面1〜16の分離と同様に扱われる。
【表12】
【0278】
表11A及び表11BのNA及びS値は、この眼の組織のモデルを用いて算出した。同等の眼のモデルでは、同様な収差測定値が得られる。
【0279】
別の更なる側面では、幾らかの歪み及び像面湾曲を光学手段によって修正しないことによって、レーザ送達システム1の全体の光学的設計の幾つかの実現を単純化できる。
【0280】
図16は、幾つかのシステムにおいては、この設計原理によって、手術システムの位置の精度が不利になることを示している。正方形のドットは、XYスキャナ300のミラーが1度のステップで走査を行い、及びZスキャナ450が、可動ビーム拡大器500を5mmのステップで動かすことによって、Z焦点深度を走査した際の焦点の位置を示している。この図から明らかなように、Z焦点深度を一定に保ちながら、焦点の位置をXY走査することによって画定される「焦点面」は、湾曲している。側部の周辺部では、カット深度がより浅くなり、これは像面湾曲が補正されていないレンズの既知の振る舞いと一致する。
【0281】
同様に、XYスキャナ300のミラーを固定したまま、Zスキャナ450がZ焦点深度を走査すると、焦点の横方向の位置が変化する。設計を更に複雑にする要因として、動径方向又は横方向のXY位置も、Z焦点深度も、それぞれのスキャナ位置について線形の依存性を示さない。XY平面では、これらの歪みは、樽形歪み又は糸巻形歪みと呼ばれる。(多くの具体例では、第3の座標であるXYスキャナ300のアジマス角は、変化しないで焦点の位置のアジマス角に反映され、したがって、無視することができる。)
図17は、レーザ送達システム1の幾つかの具体例による上述した課題に対する演算的ソリューションを示している。スキャナ座標は、球座標(ζ,χ,φ)によって与えられ、ここで、ζは、Zスキャナ450の位置であり、χは、XYスキャナ300の光軸からの傾斜角であり、φは、アジマス角である。焦点位置は、焦点円筒座標(z,r,φ)によって与えられ、zは、Z焦点深度であるであり、rは、光軸からの動径距離であり、φは、アジマス角である。
【0282】
焦点の位置のアジマス角は、スキャナのアジマス角と実質的に同じであることができ、したがって、示していない。残りのXY座標及びZスキャナ座標(ζ,χ)は、それぞれの走査インターバル内で離散化でき、走査グリッド及びCij=(ζi,χj)である対応するスキャナ行列Cijが定義される。実際のスキャナ座標の値を(ζi0,χj0)とすると、スキャナ行列Cijは、この特定の対(i0,j0)において1になり、他の全ての対(i,j)において0になる。
【0283】
同様に、焦点位置は、二次元焦点マトリクスSklによって特徴付けることができ、ここで、Sklは、離散化された動径座標及びZ焦点深度座標(zk,rl)に関連付けられる。スキャナ行列Cij及び焦点行列Sklを用いて、レーザ送達システム1の光学的性能は、4次元行列Tijklによって特徴付けることができ、これは、スキャナ座標(ζi,χj)を焦点座標(zk,rl)にどのように変換するかを示しており、包括的に言えば、S=TCであり、詳しくは、以下の通りとなる。
【数6】
【0284】
伝達行列Tijklは、スキャナ行列Cijと焦点行列Sklとの間の線形の関係を表しているが、幾つかの他の具体例では、スキャナ行列Cijと焦点行列Sklとの間に非線形的な関係が存在していてもよい。これらの具体例では、式(5)は、非線形関係によって置き換えられる。
【0285】
レーザ送達システム1は、コンピュータによるレイトレーシング、物理的な較正又は両方の組合せによって、伝達行列Tの要素を最適化するように設計することができる。このような目的のために使用することができる物理的な較正法の具体例については、米国特許公開番号US2009/0131921号に説明されている。
【0286】
伝達行列Tは、通常、可逆であり、これを用いて、焦点行列Sklの要素をスキャナ行列Cijに関係付ける逆伝達行列T−1を生成することができる。
【0287】
これに代えて、幾つかの実施の形態では、標的領域内の所望の焦点行列Sklによって、コンピュータによる設計プロセスを開始して、例えば、レイトレーシングを用いて、対応するスキャナ行列Cijを再構築することによって、逆伝達行列T−1を直接的に算出してもよい。
【0288】
図17及び図18は、このような関係を示している。これらの図は、z軸及びr軸上に示す(zk,rl)焦点座標にビームを集光するために、XYスキャナ300又はZスキャナ450をどの(ζi,χj)スキャナ座標にチューニングできるかを示すノモgである。
【0289】
図17は、(z,r)焦点座標に対応するXYスキャナ300の傾斜角を示している。一例として、破線は、z=6mmのZ深度及びr=4mmの動径位置を達成するために、6.4度のXYスキャナ傾斜角を用いることができることを示している。
【0290】
図18は、同じ(z,r)=(4,6)の焦点座標を達成するために、ζ=15.5mmのZスキャナ位置を用いることができることを示している。演算上、このノモgは、ルックアップテーブルとしてコンピュータメモリに保存してもよい。保存されたルックアップ座標の間の値は、2次元線形補完又は2次補完によって速やかに算出できる。
【0291】
伝達行列T及び逆伝送行列T−1に関する知識によって、レーザ送達システム1の実施の形態は、光学的手法に代えて、演算的手法によって、図16の収差を修正することができる。これらの実施の形態は、XYスキャナ300及びZスキャナ450の少なくとも1つを制御して、レーザ送達システム1の光学的歪みを制御することができるコンピュータコントローラを含むことができる。
【0292】
図19は、例えば、標的領域において、所定のZ焦点深度Zにおける平坦な焦点面に沿って、光学的歪を低減して、走査パターンに沿った走査が望まれる場合、コンピュータコントローラは、以下のコンピュータ制御メソッド900のステップを実行できることを示している。
【0293】
(910)光学的歪みが低減された標的領域内の走査パターンに対応する入射(zk,rl)焦点座標及び焦点行列Sklの要素の少なくとも一方を受け取る。
【0294】
(920)所定の逆伝達行列(T−1)ijklを用いて、入射(zk,rl)焦点座標又は焦点行列Sklの要素に対応する(ζi,χj)スキャナ座標及びスキャナ行列Cijの要素のうちの少なくとも一方を算出し、又は保存されたメモリから読み出す。
【0295】
(930)算出された(ζi,χj)スキャナ座標に基づいて、Zスキャナ450及びXYスキャナ300の少なくとも一方を制御して、入射(zk,rl)焦点座標又は焦点行列Sklの要素に基づいて、焦点を走査する。
【0296】
このような演算コントローラを有するレーザ送達システムは、このようなコントローラを有さない同じ又は同様のレーザシステムに比べて、光学的歪みを低減させることができる。低減の度合いは、幾つかの実施の形態では、最大10%であってもよく、他の実施の形態では、最大30%であってもよい。
【0297】
低減される光学的歪みは、収差、像面湾曲、樽形歪み、糸巻形歪み、曲がった焦点面、Z軸に平行であることが意図された走査ラインの屈曲のうちの何れであってもよい。
【0298】
幾つかの具体例では、演算コントローラは、前置補償器200、XYスキャナ300、Zスキャナ450及び対物レンズ700を含むレーザ送達システムの他のブロックと提携してこれらの機能を実行し、上述したこれらのブロックの特徴の何れを利用してもよい。
【0299】
コンピュータ制御の原理に基づいて光学収差を低減する同様な具体例の数は非常に多い。例えば、幾つかの実施の形態における演算コントローラは、臨界曲率値を下回る曲率を有する焦点面に亘って、焦点を走査できてもよい。他の具体例では、演算コントローラの適切な動作によって、所定の形状を有する表面を走査できる。
【0300】
本明細書は、多くの詳細事項を含んでいるが、これらの詳細事項は、任意の発明の範囲又は特許請求の範囲を限定するものとは解釈されず、特定の実施の形態の特定の特徴の記述として解釈される。本明細書おいて、別個の実施の形態の文脈で開示した幾つかの特徴を組み合わせて、単一の実施の形態として実現してもよい。逆に、単一の実施の形態の文脈で開示した様々な特徴は、複数の実施の形態に別個に具現化してもよく、適切な如何なる部分的組合せとして具現化してもよい。更に、以上では、幾つかの特徴を、ある組合せで機能するものと説明しているが、初期的には、そのように特許請求している場合であっても、特許請求された組合せからの1つ以上の特徴は、幾つかの場合、組合せから除外でき、特許請求された組合せは、部分的組合せ又は部分的な組合せの変形に変更してもよい。
【0301】
イメージ誘導レーザ手術技術、装置及びシステムの多くの具体例を開示した。本出願において説明し例示したことから、変形例、拡張例及び他の具体例を想到できることは明らかである。
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2009年7月29日に出願された米国特許出願番号第12/511,958号、「Optical System for Ophthalmic Surgical Laser」の優先権を主張し、この文献の全体は、引用によって本願に援用される。
【0002】
本発明は、フェムト秒レーザによる前眼部(anterior segment of the eye)の手術のためのシステムに関し、詳しくは、レーザビームを眼に集光し、走査しながらレーザビームの光学的歪みを最小化する実施の形態に関する。
【背景技術】
【0003】
本出願は、レーザパルスによって引き起こされる光破壊(photodisruption)による、前眼部内の水晶体のレーザ手術のための技術及びシステムの具体例及び実施の形態を開示する。水晶体の除去のための様々な水晶体手術処置では、水晶体を、小さい切込みを介して眼から取り除くことができる小さい破片に分解するために、様々な技術を利用する。これらの処置は、手動の機械的器具、超音波、加熱された流体又はレーザを使用することがあり、断片化を達成するためにプローブを眼に挿入する必要性、及びこのような水晶体断片化の技術に関連する精度が限定的であること等を含む重大な短所を有する傾向がある。
【0004】
光破壊レーザ技術は、水晶体にレーザパルスを供給し、プローブを挿入することなく、水晶体を光学的に断片化し、この結果、改善された水晶体除去の可能性を提供できる。レーザ誘起光破壊は、レーザ眼科手術において広く使用されており、Nd:YAGレーザは、レーザ誘起光破壊(laser induced photodisruption)による水晶体断片化を含むレーザ光源として、広く使用されている。幾つかの既存のシステムは、パルスエネルギが数mJのナノ秒レーザ(E. H. Ryan et al.Americal Journal of Ophthalmology 104: 382-386, October 1987; R. R. Kruger et al.Ophthalmology 108: 2122-2129, 2001)及び数十J(A. Gwon et al.J. Cataract Refract Surg.21, 282-286, 1995)のピコ秒レーザを使用する。これらの比較的長いパルスは、外科的に処置されるスポットに比較的大量のエネルギを加え、この結果、処置の精度及び制御についてかなりの制限があり、望ましくない結果が生じるリスクも比較的高い。
【0005】
これと平行して、角膜手術に関連する分野では、ナノ秒パルス及びピコ秒パルスに代えて、数百フェムト秒の継続時間のパルスを用いることによって、パルス幅をより短くし、集光を向上させることができることが知られている。フェムト秒パルスは、1パルスあたりに加えられるエネルギがより小さく、このため、処置の精度及び安全性が大幅に向上する。
【0006】
現在、幾つかの企業が、レーシック(LASIK)フラップや角膜移植等の角膜に対する眼科的処置のためのフェムト秒レーザ技術を商品化している。これらの企業には、米国のIntralase Corp./Advanced Medical Optics、ドイツの20/10 Perfect Vision Optische Gerate GmbH、ドイツのCarl Zeiss Meditec, Inc.及びスイスのZiemer Ophthalmic Systems AGが含まれる。
【0007】
なお、これらのシステムは、角膜手術の要求に基づいて設計されている。重要な点として、レーザフォーカスの深度範囲は、通常、角膜の厚さ、すなわち、約1mm未満である。したがって、これらの設計は、眼の水晶体に対して手術を実行するために検討すべき課題についてのソリューションを提供しない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
簡潔且つ包括的に言えば、眼科手術のためのレーザシステムは、パルスレーザビームを生成するレーザ光源と、パルスレーザビームを、Z軸を横断するXY方向に走査するXYスキャナと、XY走査されたレーザビームをZ軸に沿って走査するZスキャナと、XYZ走査されたレーザビームの焦点を標的領域に集光する対物レンズとを備え、集光された走査レーザビームは、標的領域内において、単位をmmとして、任意のアジマス角φにおける動径座標(z,r)において、開口数NA及びストレール比Sを有し、(z,r)=(0.0,0.3)の近傍では、NAは、0.25から0.40の間であり、Sは、0.8〜1.0の間であり、NA及びSは、(z,r)=(0.3,6.2)の近傍でNAが0.25から0.40、Sが0.8〜1.0、(z,r)=(8.0,0.0)の近傍でNAが0.15から0.35、Sが0.8〜1.0、及び(z,r)=(7.4,4.0)の近傍でNAが0.15から0.35、Sが0.8〜1.0の各標的範囲の少なくとも1つに収まる。
【0009】
ある具体例では、NA及びSは、3個の各標的範囲のうちの2個の範囲内に収まる。ある具体例では、NA及びSは、3個の各標的範囲の全ての範囲内に収まる。
【0010】
動径座標(z,r)の近傍は、動径座標が動径座標(z,r)からP(radial)%より大きく逸脱しない点を含み、P(radial)は、10%、20%及び30%のうちの1つである。
【0011】
ある具体例では、(z,r)=(0.0,0.3)の近傍では、NAは、0.30から0.35の間であり、Sは、0.8〜1.0の間であり、NA及びSは、(z,r)=(0.3,6.2)の近傍でNAが0.30から0.35、Sが0.8〜1.0、(z,r)=(8.0,0.0)の近傍でNAが0.20から0.25、Sが0.8〜1.0、及び(z,r)=(7.4,4.0)の近傍でNAが0.20から0.25、Sが0.8〜1.0の各標的範囲の少なくとも1つに収まる。
【0012】
ある具体例では、NA及びSは、3個の各標的範囲のうちの2個の範囲内に収まる。ある具体例では、NA及びSは、3個の各標的範囲の全ての範囲内に収まる。
【0013】
ある具体例では、動径座標(z,r)の近傍は、動径座標が動径座標(z,r)からP(radial)%より大きく逸脱しない点を含み、P(radial)は、10%、20%及び30%のうちの1つである。
【0014】
ある具体例では、NA及びSの値は、患者インタフェースを介して、人間の眼及び眼のモデルのうちの何れかに光学的に接続されたレーザシステムに関する値である。
【0015】
ある具体例では、眼のモデルは、厚さが約0.6mmであり、屈折率が約1.38である角膜領域と、厚さが2mmから4mmまでの範囲内であり、屈折率が約1.34である前眼房領域と、厚さが3mmから5mmまでの範囲内であり、屈折率が約1.42の水晶体領域とを表す第1の表面、第2の表面及び第3の表面を有し、3つの表面は、全て、−100m−1から−80m−1までの範囲内の曲率を有する。
【0016】
ある具体例では、レーザシステムは、レーザ光源とXYスキャナとの間に配設された前置補償器を更に備える。ある具体例では、前置補償器はレーザビームをZ走査する可動レンズを有する。
【0017】
ある具体例では、Zスキャナは、Z焦点深度及び開口数NAを実質的に独立して調整するように構成されている。
【0018】
ある具体例では、Zスキャナは、第1のレンズグループと、可動ビームスキャナとを備える。
【0019】
ある具体例では、Zスキャナは、対物レンズの前段に、対物レンズから分離されて位置している。
【0020】
ある具体例では、眼科手術のためのレーザシステムは、パルスレーザビームを生成するレーザ光源と、パルスレーザビームを、Z軸を横断するXY方向に走査するXYスキャナと、XY走査されたレーザビームをZ軸に沿って走査するZスキャナと、XYZ走査されたレーザビームの焦点を標的領域に集光する対物レンズとを備え、集光された走査レーザビームは、焦点半径を有する焦点を有し、焦点半径は、標的領域内でrf(max)より小さく、標的領域は、Z軸に沿って約8mm、XY方向に約10mmの拡がりを有している。
【0021】
ある具体例では、rf(max)は、2μmまたは4μmであり、人間の眼及び人間の眼のモデルの何れかに接続されたレーザシステムに関する値である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】手術用レーザ送達システム1を示す図である。
【図2】ガウス波面G及び収差波面Wを示す図である。
【図3−1】図3Aは、最適な焦点面における光線を示す図である。図3Bは、走査された焦点面における光線を示す図である。
【図3−2】図3Cは、焦点半径の定義を示す図である。
【図4】ストレール比SとRMS波面誤差ωとの間の関係を示す図である。
【図5】眼科手術のための参照点を示す図である。
【図6A】前置補償器200の動作を概念的に説明する図である。
【図6B】前置補償器200の動作を概念的に説明する図である。
【図7A】効率的なZ走査機能の様々な用途を示す図である。
【図7B】効率的なZ走査機能の様々な用途を示す図である。
【図8A】前置補償器200の具体例を示す図である。
【図8B】前置補償器200の具体例を示す図である。
【図8C】前置補償器200の具体例を示す図である。
【図8D】前置補償器200の具体例を示す図である。
【図9】2個のZスキャナを有するレーザ送達システム1の具体例を示す図である。
【図10】0個、1個又は2個のZ深度スキャナ及び0個、1個又は2個のNA変更器を含む構成の表を示す図である。
【図11A】2個の走査ミラーを有するXYスキャナを示す図である。
【図11B】3個の走査ミラーを有するXYスキャナを示す図である。
【図11C】4個の走査ミラーを有するXYスキャナを示す図である。
【図12A】開口数の関数としての収差及びZ焦点深度の関数として対応する光学開口数NAopt(z)を示す図である。
【図12B】開口数の関数としての収差及びZ焦点深度の関数として対応する光学開口数NAopt(z)を示す図である。
【図12C】開口数の関数としての収差及びZ焦点深度の関数として対応する光学開口数NAopt(z)を示す図である。
【図12D】開口数の関数としての収差及びZ焦点深度の関数として対応する光学開口数NAopt(z)を示す図である。
【図13A】第1のビーム拡大器ブロック400及び可動ビーム拡大器ブロックを500の設定を示す図である。
【図13B】第1のビーム拡大器ブロック400及び可動ビーム拡大器ブロックを500の設定を示す図である。
【図14】Zスキャナ450の中間焦点面を示す図である。
【図15】対物レンズ700の具体例を示す図である。
【図16】標的領域内の曲がった焦点面を示す図である。
【図17】XYスキャナ傾斜角のノモgを示す図である。
【図18】可動ビーム拡大器位置のノモgを示す図である。
【図19】演算的制御方法のステップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の幾つかの実施の形態は、フェムト秒レーザパルスを使用した眼の水晶体の手術のためのシステムを含む。また、幾つかの統合型の実施の形態では、角膜及び水晶体の両方の外科的処置を実行できる。眼の水晶体における眼科手術は、角膜の処置とは異なる質的要求に関連する。
【0024】
ここに説明する水晶体手術用レーザシステムと、角膜用のシステムとの間の主な相違点は、以下の通りである。
【0025】
1.フェムト秒レーザパルスは、高い信頼度で生成される。高繰返し率フェムト秒パルス(high repetition rate femtosecond pulse)では、使用する1パルスあたりのエネルギが遙かに小さく、システムのオペレータに対して、より高度な制御及び精度が提供される。しかしながら、フェムト秒パルスを高い信頼度で生成することは、幾つかの既存のシステムで使用されているナノ秒パルス及びピコ秒パルスに比べて、困難な課題を有する。
【0026】
2.手術用レーザビームは、角膜及び前の眼房を含む最大5mmの屈折媒体を介して伝播して、手術標的、すなわち水晶体に到達するまでに、大きく屈折する。一方、角膜手術のために用いられるレーザビームは、ミリメートル以下の深度で集光され、したがって、手術システムから角膜に入射する際、実質的に屈折しない。
【0027】
3.手術用レーザ送達システムは、例えば、典型的な深度が5mmである水晶体の表面/前部から、典型的な深度が10mmである水晶体の背面/後部までの手術領域の全体を走査するように構成される。この5mm以上の深度の走査範囲、すなわち、「Z走査範囲(Z scanning range)」は、角膜に対する手術で用いられる1mmの深度走査範囲に比べて、かなり深い。通常、手術用の光学素子、特に、ここで使用する高開口数光学素子(high numerical aperture optics)は、特定の動作深度にレーザビームを集光するように最適化される。角膜の処置では、1mmの深度の走査は、最適化された動作深度からの逸脱は僅かである。一方、水晶体手術における5〜10mmの走査では、システムは、固定された最適化された動作深度から大きく離れて駆動されることがある。したがって、水晶体手術用レーザ送達システムでは、水晶体手術に要求される深い深度走査範囲を走査できるように、より精度が高められた適応化された光学素子を使用する。
【0028】
4.幾つかの実施の形態は、角膜及び水晶体の両方について手術を実行できるように構成されているという意味で、統合型である。これらの統合型の実施の形態では、深度走査範囲は、5mmではなく、最大10mmとなることもあり、より困難な課題を有する。
【0029】
5.例えば、レーシックの多くのバリエーション等の角膜の外科的処置では、レーザビームは、光軸に対して直交するように走査される(「XY平面内」)。典型的な処置では、XY走査範囲は、10mmの直径の角膜の中心部分だけをカバーする。但し、統合型の手術システムでは、更なるカットを形成してもよい。カットの1つのタイプは、吸引ニードル及び周知の手術器具による眼の内部へのアクセスを提供するエントリカットである。他のタイプのカットには、角膜輪部減張切開術(limbal relaxing incision:LRI)があり、これは、血管弓(vascular arcade)の前部の角膜輪部に切込みの対を作ることを伴う。これらの弓形の切込みの長さ、深さ及び位置を調整することによって角膜乱視に変化を引き起こすことができる。エントリカット及びLRIは、通常、12mmの直径で、角膜の辺縁に配置することができる。XY走査直径を10mmから12mmに増加させることは、LASIKフラップの通常の直径に比べて20%の増加だけであるが、軸外収差は、焦点面でフィールド径のより高いパワーに比例して大きくなるので、このような直径において、レーザ送達システムの軸外収差を制御下に維持することは、難しい課題である。
【0030】
6.水晶体レーザ手術は、高度なイメージングシステムによるガイダンスを必要とすることがある。幾つかのイメージングシステムでは、角膜輪部血管(limbal blood vessels)が特定され、これは、幾つかの場合、眼の手術前の診断の間に特定される参照座標に対して、手術時に、眼球の回転のアラインメント(cyclo-rotational alignment)を較正するための眼の上の参照マークとして機能する。手術領域の周辺部上で選択される血管は、手術によって乱されない可能性が最も高く、したがって、最も信頼性が高い。しかしながら、このような周辺の血管に向けられるイメージングシステムは、10mmより大きい、例えば12mmの半径を有する領域をイメージングする撮像光学素子を必要とする。
【0031】
7.レーザビームは、眼内で光路に沿って伝播しながら、様々な収差を生じる。レーザ送達システムは、これらの収差を補償することによって、精度を向上させることができる。これらの収差の更なる側面として、これらの収差は、光の周波数に依存し、この事実は、「色収差」と呼ばれている。これらの周波数依存収差を補償することは、システムにとっての更なる課題である。これらの色収差の補償は、レーザシステムのレーザビームの帯域幅が広いほど、より困難になる。なお、ビームのスペクトル帯域幅は、パルス幅に反比例する。したがって、フェムト秒パルスの帯域幅は、ピコ秒パルスの帯域幅よりも、1桁以上広く、フェムト秒レーザシステムでは、遙かに高度な色補償が必要である。
【0032】
8.高繰返し率フェムト秒レーザ手術システムを用いる外科的処置では、標的組織内の標的箇所に対する絶対的位置と、先行するパルスに対する相対的位置との両方の意味において、各パルスの位置決めに高い精度が必要である。例えば、レーザシステムは、マイクロ秒の桁である場合もあるパルス間の時間内で、僅か数μmだけビームの方向を変える必要があることもある。2つの連続するパルス間の時間が短く、パルス配置のための精度要求が高いため、既存の低繰返し率水晶体手術システムで使用されているような手動の目標設定は、不適切又は不可能である。
【0033】
9.レーザ送達システムは、屈折媒体を介して、眼の水晶体の手術箇所(surgical volume)の全体にフェムト秒レーザパルスを送達すると共に、このフェムト秒レーザパルスの時間的、スペクトル的及び空間的な完全性を維持するように構成される。
【0034】
10.レーザビームが十分高いエネルギ密度で手術領域内の組織だけに供給され、組織切除術等の手術の効果を引き起こすことを確実にするため、レーザ送達システムは、通常とは異なる高い開口数(numerical aperture:NA)を有する。この高いNAは、スポットサイズを小さくし、外科的処置のために必要な制御及び精度を提供する。開口数の典型的な範囲は、0.3より大きいNA値を含むことができ、この場合、スポットサイズは、3μm以下になる。
【0035】
11.水晶体手術のためのレーザの光路の複雑性のために、レーザ送達システムは、高性能コンピュータで管理されたイメージングシステムを含むことによって高度な精度及び制御を達成するが、角膜手術システムは、このようなイメージングシステムなしで、又は低レベルのイメージングで、満足できる制御を達成できる。なお、システムの手術及びイメージングの機能、並びに慣例的な観察ビーム(observational beams)は、全て異なるスペクトル帯域で動作する。具体例として、手術用レーザは、1.0〜1.1μmの帯域の波長で動作し、観察ビームは、0.4〜0.7μmの可視帯域の波長で動作し、イメージングビームは、0.8〜0.9μmの帯域の波長で動作することがある。光学部品を共通又は共有にしてビームパスを結合することによって、レーザ手術システムの光学素子には、厳しい色彩要求が課される。
【0036】
相違点1〜11は、幾つかの具体例によって、(1)水晶体に対する、(2)フェムト秒パルスを用いる眼科レーザ手術では、角膜手術とは質的に異なり、ナノ秒レーザパルス又はピコ秒レーザパルスのみを用いる水晶体手術からも質的に異なる要求が生じることを示している。
【0037】
図1は、レーザ送達システム1を示している。詳細な説明を行う前に注意する点として、幾つかの実施の形態では、図1のレーザ送達システムは、イメージングシステム又は観察システム(observational system)に組み合わされる。レーシック治療等の幾つかの角膜の処置では、アイトラッカ(eye tracker)が、通常、眼の表面に対するイメージング及び画像処理アルゴリズムによって、虹彩の中心の識別等、視覚的目印による眼の位置基準を確立する。しかしながら、外科的処置は、眼の最も外側の層である角膜に対して実行されるので、既存のアイトラッカは、二次元空間内で特徴を認識及び分析するのみであり、深度情報を欠いている。角膜を平坦化して、表面を真の二次元として扱うことすらある。
【0038】
眼の深い内部にある水晶体内にレーザビームを集光する場合、状況は、かなり異なる。水晶体は、調節(accommodation)によって、先の測定と手術との間だけではなく、手術中にも位置、形状、厚さ及び直径が変化することがある。また、機械的手段によって眼に手術器具を取り付けることによって、眼の形状が予測不能に変化することがある。このような取り付けデバイスは、吸気リング(suction ring)による眼の固定、又は平坦なレンズ若しくは曲面のレンズによる圧平が含まれる。更に、手術中の患者の動きによっても更なる変化が生じることがある。これらの変化によって、眼内の視覚的目印が最大で数ミリメートルも変位することがある。したがって、水晶体又はこの他の眼の内部の一部に精密なレーザ手術を実行する場合、例えば、角膜又は角膜輪部の前面等の眼の表面の機械的な参照及び固定では、不十分である。
【0039】
この問題を解決するために、レーザ送達システム1は、R.M.Kurtz、F.Raksi及びM.Karavitisによる同時に継続中の米国特許出願番号第12/205,844号に開示されているようなイメージングシステムと組み合わせることができ、この文献の全体は、引用によって本願に援用される。このイメージングシステムは、手術領域の部分をイメージングして、眼の内部の特徴に基づいて、3次元位置基準を確立するように構成されている。これらのイメージは、手術の前に作成し、個体差及び変化を考慮して、外科的処置と平行して更新できる。これらのイメージを用いて、レーザビームを、高度な精度及び制御で、所望の位置に安全に方向付けることができる。
【0040】
幾つかの具体例では、イメージングシステムは、光干渉断層法(optical coherence tomography:OCT)システムであってもよい。イメージングシステムのイメージングビームは、独立したイメージング光路を有していてもよく、手術用ビームと部分的又は完全に共有された光路を有していてもよい。部分的又は完全に共有された光路を有するイメージングシステムでは、コストが低減され、イメージングシステム及び手術システムの較正が簡素化される。また、イメージングシステムは、レーザ送達システム1のレーザと同じ光源を用いてもよく、異なる光源を用いてもよい。また、イメージングシステムは、自らのビーム走査サブシステムを有していてもよく、レーザ送達システム1のスキャニングサブシステムを利用してもよい。上述した同時に係属中の特許出願には、このようなOCTシステムの複数の異なるアーキテクチャが開示されている。
【0041】
また、レーザ送達システム1は、視覚的観察光学素子(visual observation optics)と組み合わせて実現してもよい。観察光学素子は、手術用レーザのオペレータが手術用レーザビームの効果を観察し、観察に応じてビームを制御することを補助することができる。
【0042】
最後に、赤外線、したがって、不可視の手術用レーザビームを用いる幾つかの具体例では、可視の周波数で動作する更なる追跡レーザを使用することができる。可視の追跡レーザは、赤外線の手術用レーザの経路を追跡するように設けてもよい。追跡レーザは、標的組織に如何なる破壊も引き起こさないように十分低いエネルギで動作させてもよい。観察光学素子は、標的組織から反射した追跡レーザをレーザ送達システム1のオペレータに方向付けるように構成してもよい。
【0043】
図1では、イメージングシステム及び視覚観察光学素子に関連するビームは、例えば、ビームスプリッタ/ダイクロイックミラー600を介して、レーザ送達システム1にカップリングすることができる。本出願では、レーザ送達システム1と、イメージングシステム、観察システム及び追跡システムとの様々な組合せについては、詳細には説明しない。このような多くの組合せは、本願に援用される米国特許出願第12/205,844号に詳細に説明されており、これは全て本発明の総合的な範囲に含まれる。
【0044】
図1は、レーザ送達システム1を示すレーザエンジン100、前置補償器200、XYスキャナ300、第1のビーム拡大器ブロック400、可動ビーム拡大器ブロック500、ビームスプリッタ/ダイクロイックミラー600、対物レンズ700及び患者インタフェース800を含み、第1のビーム拡大器ブロック400及び可動ビーム拡大器ブロック500は、まとめてZスキャナ450と呼ばれる。
【0045】
以下の多くの具体例では、Z方向とは、実質的にレーザビームの光路に沿った方向又は光学素子の光軸に沿った方向を意味する。Z方向を横断する方向は、XY方向と呼ぶ。横断(transverse)という用語は、広義に使用し、幾つかの具体例では、横断方向及びZ方向は、厳密に直交していなくてもよい。幾つかの具体例では、横断方向は、動径座標(radial coordinates)によってよりよく記述される。したがって、ここに説明する具体例において、横断方向、XY方向又は動径方向は、Z方向に概ね直交する(但し、厳密でなくてもよい。)類似の方向を意味する。
【0046】
1.レーザエンジン100
レーザエンジン100は、所定のレーザパラメータを有するレーザパルスを出射するレーザを含むことができる。これらのレーザパラメータは、1フェムト秒〜100ピコ秒の範囲内、10フェムト秒〜10ピコ秒の範囲内、又は幾つかの実施の形態では、100フェムト秒〜1ピコ秒の範囲内に収まるパルス幅を含むことができる。レーザパルスは、0.1μJ〜1000μJの範囲内、他の実施の形態では、1μJ〜100μJの範囲内の1パルスあたりのエネルギを有することができる。パルスは、10kHz〜100MHzの範囲内、他の実施の形態では、100kHz〜1MHzの範囲内の繰返し周波数を有することができる。他の実施の形態は、これらの範囲の限界の組合せ内に収まるレーザパラメータ、例えば、1〜1000フェムト秒の範囲内のパルス幅を有することができる。特定の処置のためのレーザパラメータは、例えば、術前処置の間、又は患者に関する何らかのデータ、例えば、患者の年齢に基づく計算に基づいて、これらの広い範囲から選択できる。
【0047】
レーザエンジン100の具体例は、Nd:ガラス及びNd:TAGレーザ、並びに様々な種類の他のレーザを含むことができる。レーザエンジンの動作波長は、赤外線又は可視光の範囲内であってもよい。幾つかの実施の形態では、動作波長は、700nm〜2μmの範囲内であってもよい。幾つかの場合、動作波長は、1.0〜1.1μm範囲内であってもよく、例えば、Yb又はNdに基づく赤外線範囲内のレーザを用いてもよい。
【0048】
幾つかの具体例では、レーザパルスのレーザパラメータは、調整可能又は変更可能であってもよい。手術用レーザ送達システム1のオペレータが複雑な手術の間に、レーザパラメータを変更できるように、レーザパラメータは、短い切替時間で調整可能であってもよい。このようなパラメータの変更は、レーザ送達システム1の感知又はイメージングサブシステムによる読取値に応じて開始してもよい。
【0049】
他のパラメータ変更は、多段階処置の一部として実行してもよく、この間、レーザ送達システムは、先に第1の外科的処置のために使用し、続いて第2の異なる外科的処置のために使用してもよい。具体例として、眼の水晶体の領域内で先に1つ以上の手術ステップ、例えば、切嚢術ステップを実行し、続いて眼の角膜の領域で第2の外科的処置を実行してもよい。これらの処置は、様々な順序で実行できる。
【0050】
1パルスあたりのエネルギが比較的低く、1秒あたり数万〜数十万ショット又はこれ以上のパルス繰返し率で動作する高繰返し率パルスレーザを手術用途に使用して、ある利点を達成することができる。このようなレーザは、比較的低い1パルスあたりのエネルギを用いることによって、レーザ誘起光破壊によって生じる組織の影響を局部に限定する。例えば、幾つかの具体例では、破壊される組織の大きさを数μm又は数十μmに限定することができる。このように組織の影響を局部に限定することにより、レーザ手術の精度を向上させることができ、これは、ある外科的処置で望ましい場合がある。このような手術の様々な具体例では、数百、数千又は数百万ものパルスを一連のスポットに送達することができ、これらのスポットは、連続していてもよく、略々連続していてもよく、制御された距離だけ離間していてもよい。これらの具体例は、望まれる何らかの手術の効果、例えば、組織の切開、分離又は断片化を達成できる。
【0051】
パルス及び走査パターンのパラメータは、様々な手法で選択できる。例えば、これらは、術前に測定された水晶体の光学的又は構造的な特性に基づいて選択してもよい。また、レーザエネルギ及びスポット分離も、術前に測定された水晶体の光学的又は構造的な特性に基づいて、又は年齢に依存するアルゴリズムに基づいて選択してもよい。
【0052】
2.前置補償器(precompensator)200
図2は、レーザビームの波面が、幾つかの異なる形式で及び幾つかの異なる理由で、理想的な振る舞いから逸脱することがあることを示している。これらの逸脱を大きくまとめて収差と呼ぶ。収差(及び他の波面歪み)によって、実際の像点は、理想的な近軸ガウス像点(paraxial Gaussian image points)から逸脱する。図2は、出射瞳ExPを介して出射される光の波面を示している。歪みのない球状の波面Gは、出射瞳から出て、波面Gの曲率中心である点P1に一点に収束する。Gは、ガウス基準球(Gaussian reference sphere)とも呼ばれる。収差波面Wは、Gから逸れ、異なる点P2に収束する。
【数1】
【0053】
一般に、収差ΔWは、出射瞳及び焦点面における座標に依存する。したがって、この収差ΔWは、相関関数とみなすこともでき、これは、光軸上でP1からr’だけ逸れたP2に像が収束する点の集合が表面W上に位置し、出射孔ExPにおける動径距離rにおいて、ΔWの量だけ基準球Gから逸れることを表している。回転対称系では、ΔWは、r及びr’における二重冪級数展開(double power series expansion)の表現で表すことができる。
【数2】
【0054】
ここで、r’は、焦点面における像点P2の動径座標であり、rは、瞳における点Q1の動径座標である。角度依存性は、球面角Θによって表される。n=2p+mは、正の整数であり、2l+manmは、収差波面Wの膨張係数である。これは、例えば、「Optical Imaging and Aberrations, Part I. Ray Geometrical Optics by Virendra N. Mahajan, SPIE Optical Engineering Press」に説明されている。収差項の次数iは、i=2l+m+nによって与えられる。
【0055】
i=4までの項は、一次収差(primary aberrations)、すなわち、球面収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲収差及びゆがみ収差に関連する。これらの一次収差と、2l+manm収差係数との間の実際の関係は、文献に記載されている。点オブジェクトをイメージングするシステムに関しては、収差項の像半径(image radius)r’に対する明示的な依存性は、出射瞳の光軸の線的な範囲、例えばその半径をaとして、無次元変数ρ=r/aを導入することによって消去できる。
【数3】
【0056】
ここで、
【数4】
【0057】
である。
【0058】
この式の利点は、収差係数anmの全てが長さの次元を有し、出射瞳における対応する収差の最大値を表す点である。例えば、この式では、球面収差は、収差係数a40によって特徴付けられる。
【0059】
収差係数anmを用いた収差の表現は、数学的によく定義されているが、これは、経験的に、必ずしもアクセスしやすい手法というわけではない。したがって、次に、3つの代替となる収差測定について説明する。
【0060】
経験的なアクセス可能性及び検査可能性と同様な問題として、眼等の生体組織内でのビームの振る舞いは、測定が容易でないことがある。ここで、眼内の光線は、生理的に適切な塩分濃度を有する塩水内の光線に非常に類似した振る舞いを示すという研究を利用することができ、ここでは、これらの光線を量的に測定及び記述できる。したがって、本明細書では、眼内のレーザ送達システムの振る舞いについて説明する場合、その説明は、説明される眼組織内及び対応する塩水内の何れかにおける振る舞いを指すものとする。
【0061】
図3A〜図3Cは、収差の第2の測定を示す。深度Aの焦点面210でビームを集光するように構成されたレーザ送達システム1は、深度Bの動作焦点面211にビームを集光するよう操作された場合、球面収差を引き起こすことがある。このような状況は、例えば、3次元走査処置の間、レーザビームの焦点が焦点面210から焦点面211まで移動された場合に生じる。
【0062】
図3Aは、レーザ送達システム1が、最適な焦点面210に光線を集光している場合を示している。光線は、非常に狭い径範囲、すなわち半径rf(A)の最適な焦点面210上の点(「焦点」)を通過する。この径範囲rf(A)は、光ビームの回折等の様々な理由のために、ゼロより大きいことがある。焦点の半径は、複数の手法で定義することができる。rf(A)の一般的な定義は、画面の位置を軸方向、すなわちZ方向に沿って変化させた際の画面上の光点の最小半径である。このZ深度は、「最小錯乱点(point of least confusion)」と呼ばれることもある。この定義は、後に図3Cを用いて更に厳密にされる。
【0063】
図3Bは、レーザ送達システム1が最適な焦点面210からある距離、例えば、数ミリメートル離れて、動作焦点面211において焦点を走査する場合を示している。この図から明らかなように、光線は、半径rf(A)より大きい半径rf(B)の焦点を通過し、球面収差を引き起こす。収差係数anmと焦点半径rfとを関係付ける様々な精度の数式が研究されてきた。焦点半径rfは、amn収差係数に比べて、収差を定量化するために、経験的にアクセスしやすい測定である場合もある。
【0064】
図3Cは、焦点半径rfのより定量的な定義を示している。図3Cは、ビームの図心(重心)から半径r内の点に含まれるエネルギを示している。焦点半径rfの広く受け入れられている定義は、ビームのエネルギの50%が含まれる半径である。「A」の符号が付された曲線は、回折限界ビーム(diffraction limited beam)において、図3Aのように、ビームが最適な焦点面210に集光されると、ビームのエネルギの50%の半径r=0.8μmの点に含まれ又は閉じ込められることを示しており、rf(A)の有用な定義を提供している。
【0065】
レーザ誘起光学破壊(laser induced optical breakdown:LIOB)に基づく外科的処置では、良好に又は厳密に画定された焦点内にレーザビームのエネルギを伝えれば、精度及び効率をより高め、望ましくない効果をより少なくすることができる。LIOBは、強度(プラズマ)閾値を有する非線形性の高いプロセスであり、通常、プラズマ閾値より高い強度のビームに曝された組織は、プラズマに変わり、プラズマ閾値を下回る強度のビームに曝された組織では、プラズマ遷移は起こらない。したがって、収差によって焦点が広くなると、焦点面でプラズマ閾値より高い強度を達成するビームの割合が低下し、強度が閾値を下回るビームの割合が増加する。この閾値を下回るビームの一部は、標的組織によって有効に吸収されず、眼組織を介して伝播し続け、多くの場合、網膜に達し、望ましくない網膜の曝露を引き起こす可能性がある。
【0066】
角膜の厚さは、実質的に0.6mmであり、希にこれより厚いこともあるが、それでも1mmを超えることはないため、角膜を治療することが目的の外科的処置では、焦点面は、通常、最適又は公称の深度から約0.6mmだけZ方向に(光軸に沿って)走査又は移動される。「B」の符号が付された曲線は、ビームの焦点面が、その最適な焦点面210から動作焦点面211に1mm(角膜の処置のための予測の上限)移動した場合、rf(B)=1.8μmの焦点半径内にビームのエネルギの50%が含まれることを示している。この移動によって収差が生じるが、その測定値は、限定的である。このため、幾つかの既存の角膜用レーザシステムは、この収差を全く補償せず、他のシステムでも、補償のレベルは限定的である。
【0067】
収差係数amn及び焦点半径rf以外の収差の第3の測定値は、所謂ストレール比(Strehl ratio)Sである。システムのストレール比Sは、点光源から出射されるビームのシステムの焦点面におけるビームのピーク強度を、回折限界において動作する同等な完全なイメージングシステムの理論上の最大ピーク強度で除算した値として定義することができる。また、これと同等な別の定義をする文献も知られており、これらもストレール比Sの定義の範囲に含まれる。
【0068】
この定義より、Sの値が小さい程、収差が大きいことになる。収差がないビームでは、S=1であり、一般的に、S>0.8であるとき、イメージングシステムは、回折限界であるとされる。
【0069】
収差の第4の定義は、ω、すなわち二乗平均平方根(root-mean-square:RMS)波面誤差(wavefront error)であり、これは、図2の歪みのない波面Gからの収差波面Wの逸脱ΔWを出射瞳ExPにおける全体の波面に亘って平均化したものである。ωは、ビームの波長の単位で表現され、これによって、無次元量となる。
【0070】
図4は、比較的小さい収差ω及びSは、収差のタイプにかかわらず、以下の経験式によって関係付けられることを示している。
【数5】
【0071】
eは、自然対数の底である。
【0072】
上述した4つの収差の測定値は、全て、レーザ送達システム1の問題を診断し、設計を最適化するために有用である。したがって、以下では、包括的な用語「収差測定値」は、これらの測定値又はこれと等価の値の何れかを指すものとする。なお、収差が増加したことは、収差係数amn、焦点半径rf及びRMS波面誤差ωの増加、又はストレール比Sの減少によって把握される。
【0073】
特定の具体例では、これらの収差測定値の間の関係は、球面収差係数a40及び対応するストレール比Sを示すことによって表される。この具体例では、手術用レーザシステムは、眼の組織内に、その表面下の異なる深度でレーザビームを集光する。レーザビームは、1μmの波長及びNA=0.3開口数で回折限界となり、通常の入射角で組織の表面に集光される。この具体例の数値は、走査される深度と等しい厚さの面平行プレートをシステムの焦点面の近傍に追加し、塩水について計算を行うことによって近似させることができる。
【0074】
組織の表面は、式(2)及び(3)によって特徴付けられる収差をビームに導入する。収差係数a40によって特徴付けられる球面収差は、表面においてゼロであり、ストレール比は、正にその構造によって、S=1である。
【0075】
レーシック手術は、通常、0.1mmの深度でフラップを形成する。これらの深度では、ストレール比Sは、約0.996まで僅かに減少する。概ね角膜の後面にあたる0.6mmの深度においても、Sは、約0.85である。このピーク強度の減少は、無視できる程ではないが、レーザビーム強度を調整することによって補償することができる。
【0076】
一方、眼の水晶体の前面を特徴付ける5mmの深度では、ストレール比は、S=0.054にまで減少することがある。この深度及びストレール比では、ビーム強度は、プラズマ閾値を大きく下回り、この結果、ビームは、LIOBを発生させることができない。レーザパワーを増加させることによってピーク強度のこの劇的な損失を補償しようとすると、望ましくない作用、例えば、網膜の重大な過剰曝露又は気泡サイズの過剰な膨張等を避けられない。
【0077】
表1は、上述したストレール比に対応する球面収差a40を示している。この表から明らかなように、球面収差は、組織深度に対して略々線形に増加するが、ストレール比Sは、非線形的に振る舞う。
【表1】
【0078】
水晶体リーシス、切嚢術又は水晶体に関する他の外科的処置を実行することを目的とする外科的処置では、焦点面は、水晶体の全体の深度に亘って走査されることも多く、この深度は、最大5mmとなることもある。更に、統合角膜−水晶体システムでは、総合的な走査深度は、角膜から水晶体後面までの約10mmとなることがある。図3Cにおいて「C」の符号が付された曲線は、このような場合において、焦点半径は、rf(C)=18μmまで大きくなることを示しており、この値は、rf(A)及びrf(B)と同じプロット上で現れたとしても、大きすぎる。幾つかの実施の形態では、最適な焦点面が深度走査範囲の中間になるように選択することができ、レーザビームは、±5mmの深度範囲で走査してもよい。この場合、rf(C)は、10μmまで低減できる。
【0079】
これらの大きいrf(C)値は、他の3個の収差測定値、a40、S及びωにおいて、大きな収差として反映される。明らかに、僅か数十ミリメートルを走査する角膜の処置に比べて、水晶体手術におけるこのような大きな収差は、これらの望ましくない結果を補償又は管理するために、レーザ送達システム1の設計に多くの課題を生じさせる。
【0080】
水晶体手術に関連する大きな収差測定値の問題を解決するために、幾つかの実施の形態は、球面収差を前置補償し、収差測定値を改善する前置補償器200を含む。これらの収差は、標的組織内で、又はレーザ送達システム1内の光路の一部に沿って、又は全体の光路に沿って大きくなることがある。
【0081】
図5は、収差測定値rf(C)a40、S及びωが、焦点深度z及びその光軸からの半径距離rに依存しているので、以下では、収差測定値がある値となると記述した場合、これは、収差測定値が幾つかの選択された参照点において、記述した値となることを意味することを示している(実際の寸法は反映していない)。一組の関連する参照点は、それらの円筒座標(z,r):P1=(0,0),P2=(2,6),P3=(5,0),P4=(8,0),P5=(8,3)によって記述でき、これらの単位は全てミリメートル(mm)である。眼の主な構造は、略々円筒対称を示すので、これらのP参照点は、何れのアジマス角φにも位置できる。したがって、これらのP点は、アジマス角φを省いて、それらの3つの円筒座標のうちの2つのみによって参照することができる。P1は、中心に位置する角膜の処置のための典型的な点であり、P2は、角膜辺縁の処置のための典型的な点であり、P3は、水晶体の前部領域に関連し、P4は、水晶体の後部領域に関連し、P5は、水晶体縁辺の参照点である。また、レーザ送達システムの収差を特徴付けるために他の参照点を採用してもよい。幾つかの場合、収差測定値は、動作波面又は照射面積に亘って平均された収差測定値を指すこともある。
【0082】
収差測定値は、幾つかの異なる手法で判定できる。レーザビームの波面は、コンピュータ支援設計(computer-aided designCAD)プロセスにおいて、選択された光路のセクション、例えば、標的組織のモデル又はレーザ送達システム1のセクションに亘って、追跡できる。或いは、レーザビームの収差は、実際のレーザ送達システム内で測定してもよく、これらの2つの手法を組合せて測定してもよい。
【0083】
したがって、幾つかの具体例では、前置補償器200によって導入される前置補償は、標的組織自体を含むこともある光路の選択された部分に沿って収差測定値を判定、算出又は測定し、次に、判定/算出/測定された収差の予め選択された部分で補償する必要がある前置補償の量を決定することによって、選択できる。
【0084】
球面収差は、主に近軸光線(axial rays)に影響するので、前置補償器200は、球面収差を効率的に補正又は前置補償できる。他のタイプの収差、例えば、横収差、非点収差及びコマ収差は、光軸からオフセットしている光線を含む角度がゼロではない光線(non-zero angle rays)及び軸外光線(field rays)に影響する。レーザエンジン100によって生成されるレーザビームは、本質的には軸ビームであるが、光路の様々なブロック、最も顕著には、XYスキャナ300が、この軸ビームを、軸外光線を含む角度がゼロではないビームに変質させる。
【0085】
したがって、XYスキャナ300の後段に前置補償器が配置される設計では、ビームの軸外光線が幾つかの異なる収差を生じさせることがある。このような異なる収差の出現によって、(1)ビームの最適化では、複数の収差を補償する必要がある場合があり、(2)異なるタイプの収差は、互いに独立していないために、設計に困難な課題が生じる。すなわち、1つのタイプの収差を補償すると、通常、望ましくない他のタイプの収差が引き起こる。
【0086】
したがって、XYスキャナの後段に補償器を配置するアーキテクチャでは、球面収差は、通常、望ましくない他のタイプの収差を導入する犠牲を払いながら、限定的な程度だけ補償される。
【0087】
これに対し、本発明のレーザ送達システム1の実施の形態は、XYスキャナ300の前段に前置補償器200を設けることができる。この設計によって、前置補償器200は、望ましくない他のタイプの収差を導入することなく、球面収差を補償することができる。
【0088】
幾つかの具体例では、前置補償器200によって軸内前置補償を導入し、レーザ送達システムの後段のセグメント又は標的組織によって引き起こされる軸外収差を前置補償することによって、上述した軸内収差及び軸外収差の相互依存を逆に利用することができる。
【0089】
図6A及び図6Bは、前置補償器200の理想的な動作を説明する図である。
【0090】
図6Aは、前置補償器がないレーザ送達システム1を示している。一般的に、光路セグメント301は、あるレベルの球面収差を導入することがある。これは、光路セグメント301に入る歪みのない波面と、光路セグメント301を出る収差を有する波面とによって示されている。このセグメントは、光路の如何なるセグメントであってもよく、例えば、標的組織の一部、標的組織の全体、又はレーザ送達システム1内の経路の一部であってもよい。
【0091】
図6Bは、前置補償器200が、補償的(又は相補的)な波面の歪み導入できることを示している。この前置補償された波面は、光路セグメント301に入り、光路セグメント301からは、歪みが低減された又は歪みがない波面が出力される。
【0092】
既存のシステムでは、専用の補償器がないものもある。他の機能も有し、XYスキャナの後段に配設されるレンズグループのレンズによって、分散的な方式で、球面収差を補償するシステムもある。これらの既存のシステムでは、レンズのパラメータは、異なる機能の間で妥協的に選択され、したがって、それらの性能には制約がある。
【0093】
一方、レーザ送達システム1の実施の形態は、XYスキャナ300の前段に配置された専用の前置補償器200を有することができる。幾つかの実施の形態では、前置補償器200は、レーザエンジン100からレーザビームを受光する第1の光学ユニット又はレンズグループである。レーザビームは、その位置のために、(XYスキャナ300によって引き起こされる可能性がある)角度がゼロではない光線及び軸外光線を発達させることなく、前置補償器200に到達するため、これらの実施の形態は、ハイレベルな前置補償を達成できる。また、前置補償は、前置補償器200の主要な機能であり、したがって、別の機能も担うレンズを用いて補償を行う既存のシステムとは異なり、設計上の妥協を限定的にすることができるため、この前置補償は、効率的である。
【0094】
これらの理由から、このような具体例では、他のタイプの収差に影響を与え又はこれらを導入することなく、高いレベルで球面収差を補正することができる。
【0095】
収差の理論では、複合レンズシステムの球面収差は、概ね、個々のコンポーネントの球面収差の総和であることが知られている。したがって、レーザ送達システム1の幾つかの具体例では、前置補償器200が、符号が逆で同量の収差を導入するように設計することによって、望ましくない量の球面収差を前置補償することができる。
【0096】
具体例として、眼組織内の焦点深度が、最適な焦点面から5mm移動した場合、球面収差a40は、−2.0μmである(表1に基づく)。したがって、幾つかの具体例では、前置補償器200は、a40=+2.0μmの収差測定値を導入できる。第1の概算において、この前置補償は、焦点の5mmのシフトによって引き起こる球面収差を実質的に除去でき、したがって、ストレール比をS=0.054からS=1まで増加させる。(この収差の単純な具体例では、他のソースを無視している。)
以下の幾つかの具体例は、「前置補償されない」レーザ送達システム1、すなわち、前置補償器200が取り除かれたレーザ送達システムの収差測定値と、「前置補償された」レーザ送達システム、すなわち、前置補償器200が取り除かれていないシステムの収差測定値とを比較することによって特徴付けられる。
【0097】
幾つかの具体例では、前置補償器200を設置すると、ストレール比は、前置補償されないレーザ送達システム1の値S<S(precomp)から前置補償されたレーザ送達システム1の値S>S(precomp)に向上する。幾つかの具体例では、例えば、S(precomp)は、0.6、0.7、0.8又は0.9であってもよい。
【0098】
上述のように、ここでは、及び以下では、ストレール比Sは、上述した5個の参照点P1〜P5におけるストレール比S(P1)〜S(P5)、他の所定の参照点のストレール比、5個の参照点上のストレール比の平均、動作波面に亘る平均の何れかを指す。
【0099】
またストレール比は、レーザエンジン100からレーザビームを受け取り、対物レンズ700で終わり、及び眼の標的組織内に焦点を形成するレーザ送達システム1の全体についての言及であってもよい。他の幾つかの場合、この用語は、空気を含む他の標的についての言及であってもよい。幾つかの具体例では、この用語は、レーザ送達システム1のサブシステムについての言及であってもよい。
【0100】
幾つかの具体例では、前置補償がないレーザ送達システム1に前置補償器200を追加することによって、関連する帯域幅を有するパルスについて、ピコ秒より長い継続時間を有するレーザパルスのフーリエ限界帯域幅(transform-limited bandwidth)より少なくとも1桁、ストレール比を、S=S(precomp)を下回る前置補償されていない値から、S=S(precomp)を上回る前置補償された値に向上させることができる。上述のように、S(precomp)は、例えば、0.6、0.7、0.8又は0.9であってもよい。
【0101】
幾つかの具体例では、レーザ送達システム1に前置補償器200を追加することによって、0.4μmから1.1μmまでの範囲の波長に亘って、ストレール比を、S=S(precomp)を下回る前置補償されていない値から、S=S(precomp)を上回る前置補償された値に向上させることができる。上述のように、S(precomp)は、例えば、0.6、0.7、0.8又は0.9であってもよい。
【0102】
幾つかの具体例では、前置補償器200を追加することによって、システム開口数を、前置補償器200なしのレーザ送達システム1に対応するNA=NA(precomp)を下回る前置補償されていない値から、前置補償器200によるNA=NA(precomp)を上回る前置補償された値に増加させることができる。幾つかの具体例では、例えば、NA(precomp)の値は、0.2、0.25、0.3又は0.35であってもよい。
【0103】
幾つかの具体例では、前置補償器200を、前置補償器200を有さないレーザ送達システム1に追加することによって、標的組織内の焦点半径rfを、rf(precomp)を上回る前置補償されていない値から、前置補償器200を有するレーザ送達システム1に対応するrf(precomp)を下回る前置補償された値に減少させることができる。幾つかの具体例では、rf(precomp)は、2μm、3μm又は4μmであってもよい。
【0104】
幾つかの具体例では、前置補償器200を設けることによって、RMS波面誤差を、前置補償がないレーザ送達システム1の値ω<ω(precomp)から前置補償されたレーザ送達システム1の値ω>ω(precomp)に増加させることができる。幾つかで具体例では、ω(precomp)は、例えば、全てレーザビームの波長の単位で、0.06、0.07、0.08又は0.09であってもよい。
【0105】
幾つかの具体例では、前置補償器200を設けることによって、球面収差係数を、前置補償がないレーザ送達システム1値a40>a40(precomp)から、前置補償されたレーザ送達システム1の値a40<a40(precomp)に増加させることができる。幾つかの具体例では、a40(precomp)は、例えば、2μm、3μm又は4μmであってもよい。
【0106】
幾つかの具体例では、前置補償がないレーザ送達システム1に前置補償器200を設けることによって、RMS波面誤差ω、球面収差測定値a40及び焦点半径rfの収差測定値の少なくとも1つを、前置補償されていない値から、少なくとも前置補償パーセンテージP(precomp)だけ減少させることができ、又はストレール比Sを、少なくとも前置補償パーセンテージP(precomp)だけ増加させることができる。幾つかの具体例では、P(precomp)は、例えば、10%、20%、30%又は40%であってもよい。
【0107】
上述したように、これらの収差測定値の何れも参照点P1〜P5、他の所定の参照点又は複数の参照点における値の平均の何れに属していてもよく、又は波面に亘る平均であってもよい。
【0108】
幾つかの実施の形態では、前置補償器200は、非球面収差、例えば、一次収差又はより高次の収差を補償することができる。幾つかの場合、これは、軸外光線の前置補償も実行できる。
【0109】
幾つかの具体例では、前置補償器200は、RMS波面誤差を0.075より大きく増加させることなく、又はストレール比を例えば、0.8の値を有するS(precomp)より上に保ちながら、他のタイプの収差を前置補償する。
【0110】
幾つかの具体例では、前置補償器200は、前置補償器200を出るビームrbの半径を、rb=rb(precomp)を上回る値に増加させることができ、ここで、rb(precomp)は、例えば、5mm又は8mmであってもよい。
【0111】
これらの幾つかの機能は、1つ以上の可動レンズを前置補償器200に含めることによって達成することができる。位置アクチュエータは、1又は複数の可動レンズを駆動して、前置補償器200の幾つかのレンズ間の距離を変更することができる。
【0112】
1つの可動レンズを有する具体例では、前置補償器200の可動レンズは、レーザ送達システム1の焦点面又は焦点を光軸に沿って0.3〜4.0mm移動させることができる。他の具体例では、これらを0.5〜2.0mm移動させることができる。
【0113】
幾つかの具体例では、可動レンズが中間位置にあって、上述した5個の参照点P1〜P5におけるストレール比S(low)の少なくとも1つがS=S(movable)を下回る場合、可動レンズを移動させて、ストレール比S(low)を、S=S(movable)を上回る値に増加させることができる。S(movable)は、0.6、0.7、0.8又は0.9であってもよい。
【0114】
幾つかの具体例では、可動レンズを移動させて、ストレール比Sを0.6〜0.9の範囲内で変更することができる。他の具体例では、この範囲は、0.70−0.85である。
【0115】
前置補償器200は、XYスキャナ300又は他のビーム拡大器の前に位置するので、ビーム半径は、まだ小さい。したがって、可動レンズは、小さくすることができる。更に、可動レンズが小さいため、位置アクチュエータは、可動レンズを非常に高速に移動させることができ、焦点深度を非常に迅速に変更することができる。これらの実施の形態では、この特徴によって、深度走査又はZ走査を加速し、通常は、より速いXY走査速度に劣らないZ走査速度を実現することができる。
【0116】
幾つかの典型的な既存のシステムでは、収差は、主にレンズ等の光学手段によって補償される。ここに開示する可動レンズ前置補償器200は、1又は複数の高速可動レンズを利用して、この機能を実行することができる。詳しくは、レーザビームがXYスキャナ300によって走査される場合、1又は複数の可動レンズは、XY走査に関連する収差が所望のレベルに補償されるように十分速い速度で移動させることができる。
【0117】
図7Aは、この側面が、平面又は曲面の患者インタフェース208の接触面に実質的に追従して、横断的な手術カット206を実行する際に有用であることを示している。小さい可動レンズの速度によって、Z走査は、XY走査に必要とされる速度で実行され、所望の曲線のカットを形成することが可能になる。
【0118】
幾つかの具体例では、曲線のカット又は曲がった標的線の曲率又は半径は、1mm、10mm及び100mmより小さくすることができる。
【0119】
図7Bは、高いZ走査速度の他の有用な側面を示している。ほとんどの光学システムの焦点面は、ある程度曲がっている。実質的に直線の横断方向のカットを作成することが望まれ、したがって、焦点面の曲率に追従しない場合、横断方向のXY走査と同時に焦点深度を継続的に再調整して、焦点面の曲率を補償する必要がある。例えば、ラスタ走査パターンによる半径方向のカット又は平面状のカットでは、半径方向又はXY座標の変更は、非常に速い場合がある。これらの処置では、高速なZ走査速度が、望ましい真っ直ぐなカットを形成することに役立つ。
【0120】
更に、高いZ走査速度は、角膜の処置等の外科的処置を高速に実行するために有用である場合もある。
【0121】
幾つかの具体例では、可動レンズ前置補償器200は、焦点の最大横断走査速度の少なくとも5%の軸方向速度で、レーザ送達システムの焦点深度を変更できる。幾つかの具体例では、焦点の最大横断走査速度の少なくとも10%の軸方向速度でこれを行うことができる。他の実施の形態では、焦点の最大横断走査速度の少なくとも20%の軸方向速度でこれを行うことができる。
【0122】
幾つかの具体例では、可動レンズ前置補償器200は、Z走査時間内に焦点のZ座標を0.5〜1mm変更することができる。
【0123】
幾つかの具体例では、このZ走査時間は、10〜100ナノ秒、100ナノ秒〜1ミリ秒、1ミリ秒〜10ミリ秒及び10ミリ秒〜100ミリ秒の範囲内であってもよい。
【0124】
幾つかの具体例では、レンズグループの可動レンズは、Z移動範囲内で移動でき、第1の収差測定値を少なくとも可動パーセンテージP(movable)だけ減少させる。ここで、第1の収差測定値は、球面収差係数a40、RMS波面誤差ω、焦点半径rfであってもよく、可動パーセンテージP(movable)は、10%、20%、30%及び40%であってもよい。
【0125】
幾つかの具体例では、レンズグループの可動レンズは、Z移動範囲内で移動し、ストレール比Sを少なくとも可動パーセンテージP(movable)だけ増加させてもよく、これは、10%、20%、30%及び40%であってもよい。
【0126】
幾つかの具体例では、可動レンズ前置補償器200は、可動レンズを移動させることによって、レーザ送達システム1の開口数NA、Z焦点深度、収差測定値の何れか1つ及びビーム直径を実質的に独立して変更することができる。換言すれば、可動レンズを移動させることによって、他の3つの特徴を変更することなくレーザ送達システム1のこれらの4つの特徴の何れか1つを変更することができる。これらの実施の形態は、実施の形態のオペレータに優れた制御を提供する。
【0127】
前置補償器200の幾つかの機能は、ビーム調整(beam conditioning)又はビーム拡大(beam expanding)とも呼ばれる。これに対応して、ある既存のシステムでは、類似の機能を有するブロックは、ビーム調整器又はビーム拡大器と呼ばれることもある。
【0128】
幾つかの実施の形態では、前置補償器200は、1個のレンズを含むだけで上述の機能を達成する。
【0129】
幾つかの実施の形態では、前置補償器200は、2個〜5個のレンズによって、上述の機能を達成する。
【0130】
図8Aは、レンズ221、レンズ222及びレンズ223を含む3レンズ前置補償器200の実施の形態を示している。
【0131】
図8Bは、レンズ221’、可動レンズ222’及びレンズ223’を含む3レンズ可動レンズ前置補償器200’の実施の形態を示している。
【0132】
図8Cは、レンズ231〜234を含む4レンズ前置補償器200”の実施の形態を示している。
【0133】
図8Dは、レンズ231’、可動レンズ232’、レンズ233’及びレンズ234’を含む4レンズ可動レンズ前置補償器200”’の実施の形態を示している。
【0134】
表2〜4は、図8A及び図8Bの前置補償器200、200’の様々な3レンズ具体例を示している。前置補償器200の実施の形態は、薄レンズを用いて実現できる。したがって、これらは、個々のレンズの屈折力及び隣のレンズからの距離によって記述することができる。
【0135】
表2は、図8Aにも示す前置補償器200の3個の固定されたレンズの実施の形態を示している。表2の列1は、レンズ番号を示し、列2は、ディオプトリDi(i=1,2,3)を単位として測定された屈折力であり,列3は、レンズiとレンズi+1との間の距離di(i=1,2)である。
【表2】
【0136】
表3は、図8Bに示すような2つの可動レンズ222’、223’を有する前置補償器200’の可能な具体例を示しており、列3及び列4の2つの構成A及び構成Bには、レンズ間隔diA及びdiBを示している。レンズ間隔diは、diAとdiBとの間で連続的に変更することができる。
【表3】
【0137】
表4は、様々な具体例において、上述したパラメータDi及びdiが、多くの設計上の検討事項、例えば、異なるビームサイズ及び使用可能な空間等に応じて、広範囲な間隔で値を想定できることを示している。これらの具体例の幾つかのパラメータは、換算係数aによって屈折力を換算し及び対応する換算係数1/aによって距離を換算することによって、表2及び表3の実施の形態と組み合わせることができる。更に、許容係数t1〜t3によって屈折力を更に変更して、異なる許容誤差及び設計例に対応することができる。
【0138】
表4は、これらの関係をまとめて示している。
【表4】
【0139】
幾つかの具体例では、換算係数は、0.3〜3の範囲内であってもよく、許容係数t1、t2及びt3は、0.8〜1.2の範囲内であってもよい。
【0140】
同様に、表5は、前置補償器200”の4個のレンズの様々な具体例を示しており、レンズ231、232、233、234は、図8Cに示すように、固定レンズである。
【表5】
【0141】
表6は、1つの可動レンズの232’を含む図8Dの前置補償器200”’の4個のレンズの具体例を示している。
【表6】
【0142】
3レンズの具体例と同様に、4レンズの前置補償器200”、200”’のパラメータは、広い範囲で値を想定できる。これらの具体例の幾つかのパラメータは、表4と同様に、それぞれ、換算係数a、1/a、t1、t2、t3及びt4によって、互いに関連させることができる。換算係数は、0.2〜5の範囲内であってもよく、許容係数t1〜t4は、0.7〜1.3の範囲内であってもよい。
【0143】
他の実施の形態では、他の組合せ及び範囲が採用される。このシステムは、多くの異なる機能のために最適化され、この結果、異なる選択が行われるので、これらの範囲内で、レーザ送達システム1の多くの実施の形態が可能である。設計上の妥協及び最適化制約によって、それぞれが独自の利点を有する多くの具体例が想到される。上の表2〜6には、パラメータの範囲によって、多くの可能性が示されている。
【0144】
前置補償器200’の1つの可動レンズ具体例では、可動レンズは、レーザシステムの特徴の1つを実質的に独立して変更することができる。これらのパラメータは、Z焦点深度、開口数NA、収差測定値の何れか及び出射ビームの直径を含む。例えば、これらの具体例では、オペレータは、例えば、Z焦点深度を変更することなく、例えば、レーザ送達システム1の開口数を変更することができる。
【0145】
幾つかの具体例では、前置補償器200は、2つの独立して動く要素を有する。このような具体例では、オペレータは、レーザビームの2つの特徴を独立して制御でき、例えば、収差を固定したまま、ビーム直径及び開口数NAを制御することができる。
【0146】
図9は、様々な光学ブロックのZ走査機能を強調したレーザ送達システム1’の実施の形態を示している。詳しくは、レーザエンジン100は、レーザビームを生成し、このレーザビームは、第1のZスキャナ250に供給される。第1のZスキャナ250は、レーザエンジン100からレーザビームを受け取り、レーザ送達システム1’の光軸に沿って、第1のZインターバルに亘って、レーザ送達システム1’の焦点を走査する。第1のZスキャナ250から出たビームは、XYスキャナ300に供給され、XYスキャナ300は、実質的にレーザシステムの光軸を横断する方向にレーザビームを走査する。そして、出射されたXY走査レーザビームは、第2のZスキャナ450に供給され、第2のZスキャナ450は、レーザシステムの光軸に沿って、第2のZインターバルに亘って、レーザシステムの焦点を走査する。
【0147】
幾つかの実施の形態では、第1のZスキャナ250は、第1のZインターバルが角膜の外科的処置に適するように構成され、第2のZスキャナ450は、第2のZインターバルが前眼部の外科的処置に適するように構成される。
【0148】
幾つかの実施の形態では、第1のZインターバルは、0.05〜1mmの範囲内にあり、第2のZインターバルは、1〜5mmの範囲内にある。
【0149】
幾つかの実施の形態では、第1のZインターバルは、1〜5mmの範囲内にあり、第2のZインターバルは、5〜10mmの範囲内にある。
【0150】
幾つかの実施の形態では、第1のZスキャナ250は、第1のZ走査時間で、0.05〜1mmの第1のZインターバルに亘って、焦点を走査するように構成される。第1のZ走査時間は、10ナノ秒〜100ナノ秒、100ナノ秒〜1ミリ秒、1ミリ秒〜10ミリ秒及び10ミリ秒〜100ミリ秒の範囲のうちの何れかに含まれていてもよい。
【0151】
幾つかの実施の形態では、第2のZスキャナ450は、第2のZ走査時間で、1mm〜5mmの第2のZインターバルに亘って焦点を走査するように構成される。第2のZ走査時間は、10ミリ秒〜100ミリ秒及び100ミリ秒〜1秒の範囲のうちの何れかに含まれていてもよい。
【0152】
幾つかの実施の形態では、第1のZスキャナ250は、レーザビームの開口数を10%以上変更するように構成される。
【0153】
幾つかの実施の形態では、第2のZスキャナ450は、レーザビームの開口数を10%以上変更するように構成される。
【0154】
幾つかの実施の形態では、第1のZスキャナ250は、レーザビームの開口数を25%以上変更するように構成される。
【0155】
幾つかの実施の形態では、第2のZスキャナ450は、レーザビームの開口数を25%以上変更するように構成される。
【0156】
図10は、上述した要素の多くの変形例をまとめた表を示している。ここに示されているように、幾つかの具体例は、0個のZ深度スキャナ、XYスキャナ300の前段の1個のZ深度スキャナ、XYスキャナ300の後段の1個のZ深度スキャナ、及びXYスキャナ300の前後に1つずつの2個のZ深度スキャナを有することができる。
【0157】
更に、幾つかの具体例は、0個のNAコントローラ、XYスキャナ300の前段の1つのNAコントローラ、XYスキャナ300の後段の1つのNAコントローラ、及びXYスキャナ300の前後に1つずつの2個のNAコントローラを有することができる。
【0158】
ここで、Zスキャナ及びNAコントローラは、極めて包括的に言えば、それぞれ、Z深度及び開口数NAを変更できる単一のレンズ又はレンズグループを指す。幾つかの場合、これらの変更器(modifiers)は、変更器のレンズを同時に動かしてビームのNA又はZ深度を変更する単一の電気アクチュエータによってアクティブ化又は制御できる。
【0159】
Zスキャナ及びNAコントローラの両方は、図9の第1のZスキャナ250及び第2のZスキャナ450に収容することができる。幾つかの場合、対応する光学素子は、別個であり、他の具体例では、同じZスキャナブロック250又は450に収容されるZスキャナ及びNAコントローラが1つ以上のレンズ、可動レンズ又は電気アクチュエータを共有してもよい。
【0160】
図10に示すように、0個のZスキャナ及び1個又は2個のNAコントローラは、固定されたZ深度で動作しながら、XY走査の間、NAを制御できる。
【0161】
1個のZスキャナ及び0個のNAコントローラによって、Z走査を実行できる。
【0162】
1個のZスキャナ及び1個又は2個のNAコントローラは、Z走査に加えて、NAの制御を実行できる。
【0163】
2個のZスキャナは、1個又は2個のNAコントローラに組み合わされると、2個の速度でZ走査を実行でき、NAも制御できる。
【0164】
また、幾つかの具体例では、可変の開口及び瞳等の非レンズ光学素子も使用される。
【0165】
更に、ここに示す16個の組合せの多くは、球面収差等の選択された収差を前置補償するように構成することができる。
【0166】
図10は、様々なシステム特性、例えば、ビームのZ深度、その開口数NA及びストレール比S等の収差測定値で表される収差が互いに独立して制御又は調整できることを示している。このような実施の形態は、レーザ送達システム1のオペレータに優れた制御及び精度を提供する。
【0167】
類似の実施の形態においては、ビーム特徴の他の組合せについて、このような二重ビーム調整を実行できる。例えば、収差コントローラ及びビーム直径コントローラに関して、4×4=16個の組合せを有する同様の表を作成できる。ここでは、0個、1個又は2個の収差コントローラと、0個、1個又は2個のビーム直径コントローラとの全ての組合せが可能である。
【0168】
ビーム特徴のリストは、Z焦点深度、開口数NA、ビーム半径、及び何らかの収差測定値、例えば、ストレール比S、焦点半径rf、RMS波面誤差ω及び球面収差測定a40を含む。
【0169】
3.XYスキャナ300
XYスキャナ300は、前置補償器200から前置補償されたビームを、直接的に、又は幾つかの中間光学素子を通過させて間接的に受け取ることができる。XYスキャナ300の機能は、前置補償器200から受け取ったビームを、レーザ送達システム1の光軸を実質的に横断する方向に走査することである。様々な実施の形態では、「横断」方向は、必ずしも光軸に直交していなくてもよく、光軸に対して実質的な角度を形成するあらゆる方向を含むことができる。
【0170】
幾つかの実施の形態では、XYスキャナ300は、走査レーザビームを出射し、これは、レーザ送達システム1を介して伝播し、手術領域に到達し、ゼロから最大5〜14mmのXY走査範囲に亘って、横断方向に走査される。幾つかの具体例では、XY走査範囲の最大値は、8〜12mmである。
【0171】
図11Aは、XYスキャナ300がXスキャナ及びYスキャナを含むことができることを示している。幾つかの既存の設計では、Xスキャナ及びYスキャナは、それぞれ1個のミラー、すなわち、単一のX走査ミラー310及び単一のY走査ミラー320を含む。このような設計では、X走査ミラー310によって偏向されたビームは、X走査ミラー310の向きに応じて異なる点でY走査ミラー320に衝突する。具体的には、X走査ミラー310が位置310aにある場合、入射ビーム331は、ビーム332aとして反射され、X走査ミラーが位置310bに回転すると、入射ビームは、ビーム332bとして反射される。
【0172】
これらの2つのビームの332a、332bは、異なる位置でY走査ミラー320に衝突し、したがって、Y走査ミラー320が位置320aに固定されていても、これらは、それぞれ2個の異なる反射ビーム333aa、333baになる。更に、Y走査ミラー320自体も位置320aから位置320bまで回転した場合、2個の入射ビーム332a、332bは、2個の更なる反射ビーム333ab、333bbになり、これら4個のビーム333aa、333ab、333ba及び333bbは、全て異なる方向に伝播する。
【0173】
この問題は、ピボット点の概念に関連して特徴付けることができる。走査光学素子のピボット点の1つの定義は、走査光学素子を出る全ての光線が通過する点とすることができる。この概念は、非可動の屈折素子の焦点をスキャナ等の可動光学素子に適用したものである。
【0174】
この表現を用いると、上述の問題は、図11Aにおいて、X走査ミラー310自体の上に固定されているXスキャナピボット点315Xとして表すことができる。出射された走査ビームは、X走査ミラー310上の単一のピボット点315Xから出て、後段の光学素子に入り、この結果、様々な角度に伝播する。2個のミラー設計のこの相違によって、幾つかの異なるタイプの望ましくない収差が生じることがある。
【0175】
図11Bは、Xスキャナ310が2個のミラー311、312を含むことによってこの問題を解決する既存の3ミラーXYスキャナ300’を示している。図面を明瞭にするために、ミラーは、側面から示している。この設計では、X走査ミラー311、312は、連携してX走査機能を実行する。図11Bに示すように、第1のX走査ミラー311がその向きを311aから311bに変えると、第2のX走査ミラー312は、連携して、312aから312bに回転できる。これらの連携した走査回転によって、2個の回転状態における偏向されたビーム332a、332bは、X走査ミラーから離れたピボット点315Xを通過する。
【0176】
Xスキャナピボット点315XをX走査ミラー自体から離すことによって、その位置を調整できる。図11Bの設計では、X走査ミラーは、ピボット点315Xが実質的にY走査ミラー320上になるように設計されている。このような設計によって、図11AのXスキャナ310の問題は、実質的に解決され、対応する収差は、大幅に減少する。
【0177】
但し、この設計でも、Y走査ミラー320については、図11Aの設計と類似の問題がある。図11Bの設計では、Yスキャナピボット点315Yは、Y走査ミラーに固定されたままである。
【0178】
光学システムの入射瞳は、システムの前部から見た、開口絞りの像である。出射瞳は、画像空間の開口絞りの像である。複数のグループのレンズを有する光学システムでは、入射瞳及び出射瞳の位置は、多くの場合、慎重に調整される。多くの設計では、1個のレンズグループの出射瞳は、後段のレンズグループの入射瞳に一致される。
【0179】
XYスキャナ310の場合、ピボット点を出射瞳と見なすことができる。幾つかの実施の形態では、この出射瞳は、Zスキャナ450等の後段のレンズグループの入射瞳に一致する。なお、レンズグループの入射瞳は、スキャナブロックを配置することができないレンズグループの物理的な境界内にあることもある。この場合、スキャナブロックは、スキャナブロックの物理的な境界の外で、ピボット点の位置を任意に選択できることが望ましい。
【0180】
図11Cは、この問題を解決するための4ミラー設計を示している。XYスキャナ300”においても、Xスキャナ310は、2個のX走査ミラー311、312を含む。但し、Yスキャナも、2個のY走査ミラー321、322を含む。
【0181】
XYスキャナ300”は、Y走査ミラーからYスキャナピボット点315Yを引き離す。したがって、XYスキャナ300”は、Yスキャナを制御でき、すなわちピボット点315Yを所定の位置に移動させることができる。ある具体例では、Y走査出射ピボット点315Yを後段のレンズグループの入射瞳340に移動させる。幾つかの具体例では、Xピボット点315Xも、同じ位置に動かすことができる。
【0182】
この設計の他の側面として、XYスキャナ300”は、(1)出射された走査ビームとレーザ送達システム1の光軸との間の角度αと、(2)光軸からの距離dによって特徴付けられる、走査ビームが後段の光学素子の入射瞳に衝突する位置とを実質的に個別に制御することができる。これらの制御が略々独立していることによって、XYスキャナ300”は、収差が最小化された走査ビームを提供でき、及び手術領域の周辺領域を含む周辺領域の非点収差及びコマ収差を制御できる。
【0183】
XYスキャナ300”’の幾つかの具体例は、1個のX走査ミラー310及び1個のY走査ミラー320のみを含み、これらはそれぞれ、「高速ステアリング」タイプである。個々の高速ステアリングミラーは、2つの回転軸を巡って角運動が可能である。また、これらの高速ステアリングミラーの対は、光軸を横断する平面内でビーム角及びビーム位置を制御することもできる。
【0184】
幾つかの具体例では、XYスキャナ300”’は、XY走査範囲に亘ってレーザビームを走査するように構成され、この範囲の最大値は、レーザシステムの焦点面において、5mmより長く、15mmより短い。
【0185】
幾つかの具体例では、第1及び第2のXY高速ステアリングミラーによって生成されるXピボット点と、第1及び第2のXY高速ステアリングミラーによって生成されるYピボット点とは、一致する。
【0186】
4.Zスキャナ450
上述したように、眼の手術システムは、角膜の処置で走査されるインターバルより遙かに大きいインターバルに亘って焦点を走査できるような設計を有することによって、前方のセグメントの手術、又は水晶体手術を実行するように構成される。幾つかの具体例では、Z走査は、5mm〜10mm、又は0mm〜15mmのZ走査範囲内で、Z走査経路上で実行される。(本明細書の全体に亘って、「xmm〜ymmの範囲内の走査」という表現は、開始値がxmm以上であり、終了値がymm以下である走査経路を意味し、走査範囲の全体に達しない全ての走査経路を包含するものとする。)
ここで、「X、Y、Z」の割当は、様々な具体例に亘って、広義に解釈される。Zは、典型的には、光軸を指し、これは、幾何学的な軸に近いものであってもよい。但し、眼等の標的組織内のZ方向は、レーザ送達システム1の光軸に完全に平行ではなくてもよい。また、これらの2つの間の如何なる中間軸(compromise axis)もZ方向と呼ぶことができる。また、X、Y方向は、必ずしもZ軸に直交していなくてもよい。これらは、Z方向に対して実質的な角度を形成する如何なる方向であってもよい。また、幾つかの具体例では、レーザ送達システム1の走査について説明するために、動径座標系を用いた方がより適切である場合もある。それらの具体例では、XY走査は、適切な動径座標によってパラメータ化された、Z軸に平行ではない如何なる走査であってもよい。
【0187】
図1は、レーザ送達システム1の幾つかの具体例では、Zスキャナ450に第1のビーム拡大器ブロック400及び可動ビーム拡大器ブロック500を含ませることによって、これらの困難な課題を有するZ走査範囲を達成することを示している。様々な具体例において、第1のビーム拡大器ブロック400は、可動ブロックであっても固定ブロックであってもよい。第1のビーム拡大器ブロック400と可動ビーム拡大器ブロック500との間の距離は、例えば、位置アクチュエータによって調整できる。
【0188】
図2A及び図2Bを用いて既に説明したように、焦点が標的組織の最適位置から離れると、収差が増加する。これらの収差は、幾何学的光線を追跡することによって理解でき、有限の範囲のレンズに起因するので、通常、「幾何学的収差」と呼ばれる。これらの幾何学的収差は、Zスキャナ450の開口数をより小さくすることによって制限できる。したがって、幾何学的収差は、Z焦点深度及び開口数NAの両方に依存する。
【0189】
更に、開口数NAを小さくすることで、光の波動性から第2の収差源が生じる。これらの収差は、所謂「回折収差(diffraction aberration)」を生じさせる。この第2のタイプの収差は、開口数を小さくすると、焦点半径を増加させる。
【0190】
図12A及び図12Bは、眼の前方のセグメントにおける幾何学的収差及び回折収差を、上述の収差測定値の1つ、例えば、焦点半径rfによって特徴付けられるZスキャナ450の開口サイズの関数として示している。幾何学的収差は、開口サイズと共に増加し、一方、回折収差は、これに伴って減少するので、これらの2つの収差の合計として定義される総収差は、最適な収差において最適な最小値を示し、これは、最適な収差値NAoptに対応する。
【0191】
ここで、通常の定義では、開口数NA及び開口サイズの関係は、像が形成される物質の屈折率をnとして、NA=n*SinArTan(開口サイズ/(2*焦点長))と表される。
【0192】
これらの曲線は、特定のZ焦点深度についての曲線であり、図12Aは、1mmのZ焦点深度、図12Bは、8mmのZ焦点深度についての曲線を示している。Z焦点深度が異なれば幾何学的収差も異なるので、総収差曲線の最小点、したがって、システムの全体の最適な開口サイズ及び最適な開口数NAoptは、Z焦点深度に依存し、すなわち、NAopt=NAopt(z)である。具体的には、Z焦点深度が増加すると、この特定の実例においては、Z焦点深度が1mmから8mmに増加すると、最適な開口サイズ及びNAoptは、32mmから25mmに減少する。したがって、角膜及び水晶体の両方の手術のために使用されることが意図されたレーザ送達システムは、より広い範囲の開口及び対応するNA範囲をカバーする必要がある。この要求は、設計をかなり難しくする。
【0193】
後により詳細に説明するように、図12A及び図12Bは、収差が、典型的な角膜のZ焦点深度である1mmのZ焦点深度では、広い平坦な最適条件を示し、水晶体手術に典型的なZ焦点深度では、領域がより狭く、鋭くなることも示している。
【0194】
また、収差は、他の3つの収差測定値S、ω又はa40でも特徴付けることができ、これら全てから、最適条件を示す曲線が得られる。上の4つの収差測定値の何れも、上述の5個の参照点P(1)〜P(5)の何れにも対応でき、これらの参照点の幾つか又は全てに亘る平均であってもよく、他の参照点に対応していてもよい。
【0195】
幾つかの具体例では、様々なZ焦点深度において、実質的に最適な開口数NAopt(z)に開口サイズ及び対応するNAを調整でき、収差測定値で測定される総収差を最小化することができる。この機能によって、総収差を大幅に低減することができる。ここで、上述のように、収差は、上述した5参照点P1〜P5の何れかにおいて、4つの収差測定値rf、S、ω又はa40のうちの1つによって測定できる。最適な収差は、最小の収差測定値rf、ω若しくはa40、又は最大のストレール比Sに対応する。
【0196】
最適な収差が達成できない、又は設計上の制約によって、最適値から離れた収差を避けられない他の幾つかの具体例においても、可動ビーム拡大器ブロック500は、Zスキャナ450の第2のブロックが可動でなく、したがって、開口数を調整できない実質的に同じレーザシステムの収差測定値と比較して、収差測定値rf、ω若しくはa40の値を更に少なくともP(MovableExpander)%低減し、又はこれに対応してストレール比Sの値を少なくともP(MovableExpander)%増加させることができる。幾つかの具体例では、P(MovableExpander)は、20%、30%、40%又は50%であってもよい。ここで、上述と同様、収差測定値rf、S、ω又はa40は、5個の参照点P1〜P5の何れかにおいて測定できる。
【0197】
幾つかの具体例では、開口数NAを調整可能なZスキャナ450を有するレーザシステムは、ストレール比Sが0.8を下回る、Zスキャナが開口数を調整できない実質的に同じレーザシステムに比べて、ストレール比Sを増加させて0.8を上回らせることができる。
【0198】
更なる設計課題は、レーザ送達システムを最適な開口サイズ及び対応する開口数NAopt(z)に調整することによって固定されたZ焦点深度において総収差を最小化するだけではなく、Z焦点深度を走査しながら、Zに依存する最適な開口数NAopt(z)に近い値にシステムを維持することである。典型的な具体例では、焦点深度の増加に伴って、最適な開口数は、減少する。
【0199】
Z焦点深度がZ走査範囲内で走査されると最適な開口が変化するこの問題を解決するために、レーザ送達システム1の具体例は、変化するZ焦点深度自体から実質的に独立して、Zスキャナ450の分離されたパラメータとして開口数NA(z)を変更する能力を有する。
【0200】
2つの量、ここでは、Z焦点深度及び開口数NAが実質的に独立して制御される具体例は、この様式を実現するために、通常、1対の制御パラメータを有する。この具体例は、第1のビーム拡大器ブロック400と可動ビーム拡大器ブロック500との間の制御可能な距離と、これらのブロックの何れかに含まれ、第2の光学コントローラによって調整できる可動レンズの位置との対を含む。他の具体例としては、Zスキャナ450の2個のブロック内のあらゆる組合せにおける2個の可動レンズがある。なお、上述のように、第1のビーム拡大器ブロック400は、固定ブロックとして実現してもよく、可動ブロックとして実現してもよい。
【0201】
幾つかの具体例では、Z焦点深度が走査されるのにしたがって、Z焦点深度のシーケンスにおいて、開口数NAを最適な開口数値NAopt(z)のシーケンスに調整して、最適な総収差値のシーケンスを実現してもよい。
【0202】
上述のように、最適な総収差は、収差測定値rf、ω又はa40の何れかの最小値又はストレール比Sの最大値によって捕捉することができる。Z走査範囲は、例えば、5〜10mm又は0〜15mmであってもよい。Z焦点深度は、半径r1=0mm、r2=3mm、他の半径r、又は例えば、r<3mmの制約がある可変半径r(z)で走査することができる。
【0203】
表7は、具体例を示しており、ここでは、第2の列は、眼の標的組織内における(−0.14mm、11.65mm)のZ走査範囲内でのZ焦点深度の走査を示し、第3の列は、対応するNAopt(z)の値を示している。Zスキャナ450の具体例は、この範囲でZ焦点深度を調整でき、及びこれらの焦点深度において、開口数NAを最適値NAopt(z)に調整することができる。
【表7】
【0204】
幾つかの他の実施の形態では、Z焦点深度は、0mm〜10mmのZ走査範囲内で走査してもよい。走査の間に、開口数は、0.4〜0.1の範囲内で変更してもよく、他の実施の形態では、0.35〜0.15に変更する。
【0205】
図12Cは、8mm、4mm、2mm及び0mmのZ焦点深度のシーケンスに対応する最適な開口数Nopt(z)のシーケンスを示す収差曲線の同様のシーケンスを示している。
【0206】
図12Dは、最適な開口数Nopt(z)を対応するZ焦点深度の関数として明示的に示している。
【0207】
上述したように、Z焦点深度及び開口数NAを別個に調整可能にするには、通常、独立して調整可能な2つの制御パラメータが必要である。しかしながら、幾つかの具体例では、Z及びNAを別個に独立して調整することができない場合がある。これらの具体例では、これに代えて、各Z焦点深度について、オペレータによる別個のNA調整ステップなしで、開口数を最適値NAopt(z)又は少なくともNAopt(z)の付近に自動的に調整する。例えば、NAは、P(track)%内でNAopt(z)を追跡してもよく、ここで、P(track)は、10%、20%又は30%であってもよい。
【0208】
これらの具体例は、単一の統合された可調整コントローラのみを有する。現在説明している具体例では、この統合されたコントローラは、標的領域においてZ焦点深度を制御していることをシステムのユーザに表示するだけであってもよい。なお、コントローラは、レーザ送達システム1のユーザによって実行される独立したチューニングステップなしで、同時に開口数NAがNAopt(z)を追跡するように開口数NAを調整する統合された開口調整器を含んでいてもよい。
【0209】
幾つかの具体例では、第1のビーム拡大器400と可動ビーム拡大器500との間の距離を調整することによって、この機能を適切に実行できる。他の具体例では、単一の可動レンズは、この様式を提供できる。更に他の具体例では、2個の調整器の組合せを使うことができる。
【0210】
これらの具体例は、レーザ送達システム1のオペレータに簡単な制御機能を提供する。このような単一の、統合された制御機能を達成することは、設計上の困難が伴うため、幾つかの具体例では、他のブロック、例えば、前置補償器200、XYスキャナ300及び対物レンズ700と連携して、これらの統合制御機能を実行する。
【0211】
様々な設計上の制約のために、最適な総収差値が達成できない又は達成されない幾つかの具体例では、Z走査経路に沿ったZ焦点深度のシーケンスにおいて、Z走査範囲内で開口数NAを開口数値のシーケンスに調整して、Zスキャナ450が開口数NAを調整できないレーザシステムに対して、総収差を少なくともP(scan)%減少させることができる。幾つかの具体例では、P(scan)は、20%、30%、40%又は50%であってもよい。
【0212】
上述のように、総収差は、先に説明した収差測定値rf、ω又はa40によって特徴付けることができる。同様に、収差の低下は、ストレール比Sの対応する増加によって特徴付けることもできる。Z走査経路は、レーザシステムの光軸又はZ軸から半径Rの距離において、Z軸に平行な経路であってもよい。幾つかの具体例では、Z走査経路は、光学的なZ軸から半径r1=0mmとr2=3mmとの間に位置できる。
【0213】
総収差は、幾つかの異なる手法で測定できる。総収差は、Z走査経路に亘って平均化された総収差又は走査パスに沿った総収差の最大値又は最小値を指すことができる。総収差の低下は、これらの可能性の何れに関する言及であってもよい。
【0214】
幾つかの具体例では、開口数NAは、角膜の処置が実行される際の第1の値から、前方のセグメントの処置が実行される際の第2の値に調整できる。幾つかの具体例では、第1の値は、0.2〜0.5の範囲内にあり、第2の値は、0.1〜0.3の範囲にある。他の具体例では、第1の値は、0.25〜0.35の範囲内にあってもよく、第2の値は、0.15〜0.25の範囲内にあってもよい。
【0215】
このZスキャナ450の具体例は、既存の角膜レーザ送達システムとは、以下を含む様々な点が異なる。
【0216】
1.角膜レーザ送達システムでは、設計の簡潔性を確実にするために、通常、開口数は、焦点深度のZ走査の間、変化しないことが要求される。1mmの典型的なZ走査によって引き起こされる総収差は、角膜レーザ送達システムの精度にとって深刻な制約要因とならないので、この設計は、角膜手術においては十分である。一方、レーザ送達システム1の具体例は、可変の開口数NAを有し、例えば、手術用の5〜10mmの長いZインターバルに亘って、開口を最適な開口に調整し続ける。これは、もちろん、Z焦点深度から実質的に独立して調整可能な開口数NAの様式によって、達成される。
【0217】
2.また、典型的な既存の角膜のシステムは、対物レンズ700の複雑な実現例の一部として、対物レンズ700内にそれらのZスキャナを有するが、本発明のZスキャナ450は、対物レンズ700の前段に配置される。ここで、対物レンズ700とは、レーザ送達システム1の最後のレンズグループを指し、これは、XYスキャナ及びZスキャナの機能的な機械的ハウジングとは別の機能的な機械的ハウジング内に配設される。機能的な機械的ハウジングという用語は、人間工学又は外観を考慮して設計された送達システムのハウジング全体を指すのではなく、複数のレンズを互いに保持し、これらの実際の光学的機能を実行するためのハウジングを指す。この具体例の対物レンズ700は、通常、光路内で、Zスキャナ450から出たXYZ走査ビームを偏向するミラー600の後段に配設される。
【0218】
3.図12A及び図12Bは、水晶体手術用の光学システムの設計における更なる課題を示している。これらの図から明らかなように、総収差は、1mmの典型的な角膜のZ焦点深度においては、広くて、平坦な最適領域を示し、したがって、(1)他の検討事項についてシステムパラメータを最適化でき、(2)広いZ走査範囲を用いることができ、及び(3)必要とされるシステムパラメータのチューニングの精度は高くなくてもよく、如何なる場合も焦点サイズを大きく劣化させることはない。これとは対照的に、水晶体手術システムに関しては、(1)システムパラメータを他の検討事項について最適化し、(2)Z走査範囲をより広くし、及び(3)システムパラメータのチューニングの精度を低めた場合、焦点サイズは、急速に悪化する。
【0219】
Zスキャナ450の実施の形態の更なる側面では、イメージングサブシステム又は視覚的な観察用の光学サブシステムを含むレーザ送達システムは、ミラー600を介して、レーザ送達システム1にカップリングされる、これらのサブシステムの何れかに関連するビームを有する。ミラー600は、例えば、ダイクロイックミラーであってもよい。典型的な手術システムでは、対物レンズ700とは、ミラー600の後段の光路に配設されたレンズグループを指す。
【0220】
Zスキャナ450をミラー600の前段に設け、対物レンズ700から独立させることは、重要な設計上の考慮点であり、これは、対物レンズ700は、患者の眼等のように標的組織に実質的に直接接触するので、対物レンズ700の重量も重要な因子であるためでもある。したがって、対物レンズ700の重量又は質量を最小化することによって、レーザ送達システム1の具体例は、眼に加わる圧力を低減することができる。この圧力は、眼自体を変形させ、この結果、外科的処置の精度を低下させるので、眼に加わる圧力を緩和する設計によって、眼科手術の精度が大幅に向上する。
【0221】
表8及び表9は、第1のビーム拡大器ブロック400及び可動ビーム拡大器ブロック500の様々な実施の形態の幾つかの関連するパラメータの範囲を示している。各ビーム拡大器ブロックは、2〜10個レンズを有することができ、幾つかの実施の形態では、上述の機能を行うように構成された3〜5個のレンズを有する。
【0222】
表8は、個々の表面に関して、厚レンズのグループについて説明する工業規格上の取り決めを用いて、5レンズの第1のビーム拡大器ブロック400の実施の形態を示している。第1のビーム拡大器ブロック400は、以下の範囲のパラメータ(括弧内に示している)を有するレンズ411、412、413、414、415を含むことができる。
【表8】
【0223】
幾つかの実施の形態では、第1のビーム拡大器ブロック400は、XYスキャナ300に面する入射側から順番に、正の屈折力を有する第1のレンズグループ、入射側に面して凸面を有するメニスカスレンズ、及び入射側に面して凹面を有する第2のレンズを含む。
【0224】
他の具体例は、換算係数aによって、表8の具体例に関連付けられ、5個の換算されたレンズを有し、第2の列の曲率は、aに乗算され、第3の列の距離は、1/aに乗算され、屈折率nは、変更されない。換算係数aは、0.3〜3の間の値を想定できる。
【0225】
表9は、以下の範囲のパラメータを有するレンズ511、512、513、514を含む4レンズの可動ビーム拡大器ブロック500の実施の形態を示している。
【表9】
【0226】
可動ビーム拡大器ブロック500の幾つかの具体例は、第1のビーム拡大器ブロック400に面する入射側から順番に、入射側に面して凹面を有するメニスカスレンズ、負の屈折力を有する負レンズ及び正の屈折力を有する正レンズグループを含む。
【0227】
他の具体例は、換算係数aによって、表9の具体例に関連付けられ、4個の換算されたレンズを有し、第2の列の曲率は、aに乗算され、第3の列の距離は、1/aに乗算され、屈折率nは、変更されない。換算係数aは、0.3〜3の間の値を想定できる。
【0228】
図13A及び図13Bは、第1のビーム拡大器ブロック400と可動ビーム拡大器ブロック500との間の距離が異なる2つの構成で、表8及び表9の実施の形態を示している。幾つかの具体例では、可動ビーム拡大器ブロック500は、d=5〜50mmの範囲内の距離で、第1のビーム拡大器ブロック400に対して移動させることができる。
【0229】
これらの図面は、Zスキャナ450の動作時の設計上の検討事項を示している。
【0230】
図13Aは、可動ビーム拡大器ブロック500が第1のビーム拡大器ブロック400から比較的遠い位置にある場合を示している。この場合、組み合わされたアセンブリを出るビームは、(1)収束する光線(convergent rays)、(2)出射瞳ExPより大きい直径、(3)焦点長が固定された対物レンズがZスキャナ450の出射瞳の近傍に配置される場合、より浅いZ焦点深度を有し、及びこの結果、(4)焦点は、より大きい開口数NAを有するビームによって形成される。
【0231】
図13Bは、図13Aの場合に比べて、可動ビーム拡大器ブロック500が第1のビーム拡大器400により近い場合を示している。ここで、ビームは、(1)発散する光線(divergent rays)、(2)出射瞳ExPより小さい直径、(3)焦点長が固定された対物レンズがZスキャナ450の出射瞳の近傍に配置される場合、より深いZ焦点深度を有し、この結果、(4)焦点は、より小さい開口数NAを有するビームによって形成される。
【0232】
要約すれば、より浅いZ焦点深度では、焦点は、NAが大きいビームによって生成され、Z焦点深度が増加すれば、開口数NAは、減少する。開口数NAの相対的な変化は、ビーム拡大器ブロック400、500の出射瞳ExPの位置及びフォーカシング対物レンズ700の入射瞳の位置を最適化することによって最適化できる。これらの具体例は、前置補償器200の機能を使用しないで、異なる焦点深度で開口数を最適化するための代替となる手法である。
【0233】
上述のように、開口数NAは、前置補償器200を用いて、又はこれを用いることなく、広範囲に亘って調整できる。レーザ送達システム1全体では、前置補償器200、第1のビーム拡大器ブロック400又は可動ビーム拡大器ブロック500を制御することによって、又はこれらのブロックを組合せて制御することによって、開口数NAを調整できる。現実の具体例における実際の選択は、例えば、走査範囲、走査速度及び複雑性等の他のより高次のシステムレベルの要求に基づいて行われる。また、他の数値範囲を有する具体例を構成して、上述した機能の幾つか又は全てを実行することもできる。
【0234】
図14は、Zスキャナ450の更なる側面を示している。XYスキャナ300の出射ピボット点PP(XY)から出る3つの異なる特徴的ビームが示されている。なお、3つの特徴的ビームは、全て、Zスキャナ450によって、対物レンズ700の入射ピボット点PP(O)に集光されている。PP(O)の位置は、例えば、可動ビーム拡大器500を動かすことによって調整できる。
【0235】
後述するように、XYスキャナ300のミラーから離れたピボット点PP(O)を生成するレーザ送達システムは、例えば、PP(O)ピボット点が対物レンズ700内に収まる実施の形態において、有用な特徴を有する。
【0236】
他の実施の形態では、XYスキャナ300は、Zスキャナ450への距離より遠い出射ピボット点PP(XY)を有する。これらの実施の形態では、Zスキャナ450は、XYスキャナ300の出射ピボット点PP(XY)を対物レンズ700の入射ピボット点PP(O)に変更するだけである。
【0237】
何れの場合も、これらの具体例は、第1のビーム拡大器ブロック400と可動ビーム拡大器ブロック500との間に位置する中間焦点面451の存在を利用する。この中間焦点面451の存在は、3つの特徴的ビームの焦点が、実質的に同じz座標において、一列に並んでいることによって示されている。逆に、このような中間焦点面を有さない具体例は、ピボット点PP(O)を調整可能とすることに適さない。
【0238】
5.対物レンズ700
幾つかの具体例では、Zスキャナ450によって出射されたレーザビームは、ビームスプリッタ/ダイクロイックミラー600によって、対物レンズ700に向けて偏向される。また、このミラー600を介して様々な補助光をレーザ送達システム1にカップリングすることができる。補助光源は、光干渉断層法イメージング(optical coherence tomography imaging:OCT)システム、照明システム、視覚的観察ブロックに関連する光を含むことができる。
【0239】
対物レンズ700は、レーザエンジン100からXYスキャナ300及びZスキャナ450を介して伝播するXYZ走査レーザビーム及び手術標的領域への補助光のための共有された光路を提供できる。様々な具体例において、対物レンズ700は、対物レンズグループを含むことができる。幾つかの具体例では、対物レンズグループのレンズは、互いに対して移動しない。したがって、対物レンズ700は、Z走査機能の統合された一部であるが、可変の又は動的な形式では、Z走査に貢献しない。これらの具体例では、焦点のZ焦点深度を動かすために、対物レンズ700において、レンズ位置が調整されることはない。
【0240】
対物レンズ700の具体例は、手術用パルスレーザビームの球面収差、コマ収差及び高次収差の少なくとも1つを制御できる。
【0241】
対物レンズ700は、異なる波長の光を誘導するので、対物レンズ700の具体例は、色消しされたレンズグループ(achromatized lens groups)を使用する。補助光の波長は、例えば、0.4〜0.9μmの範囲内である場合があり、手術光の波長は、1.0〜1.1μm範囲内である場合がある。対物レンズ700の具体例は、使用される光の波長の範囲内、上述の具体例では、0.4μm〜1.1μmの範囲内で、所定の値より下に色収差を保つ。
【0242】
対物レンズ700の重量又は質量は、重要な検討課題である。幾つかの具体例では、対物レンズは、患者の眼と機械的に接触する。したがって、対物レンズは、眼に圧力を加える。この圧力は、圧力がない状態から眼を歪ませ、標的を選択し、手術用レーザビームを正確に方向付けることをより難しくする。
【0243】
更に、外科的処置の間に患者が動く場合、対物レンズは、患者の動きに応じて、最も小さい抵抗で動くことができることが望ましい。対物レンズの重量は、バネ装置又は釣り合い重りによって静的にバランスをとることができるが、これらの対策では、動的な力又は慣性力を低減することはできない。実際には、このような対策によって、これらの力は大きくなる。これらの検討事項の全てが、対物レンズ700の重量又は質量を低減することの有効性を示している。
【0244】
眼の外科的処置に関連する重要な力及び対応する対物レンズ質量は、多くの手法で特定することができる。眼に加わる様々な影響に関する概説は、例えば、「Determination of Significant Parameters for Eye Injury Risk from Projectiles; Duma SM, Ng TP, Kennedy EA, Stitzel JD, Herring IP, Kuhn F. J Trauma.2005 Oct; 59(4):960-4.」に開示されている。この論文は、眼に影響を与える対物レンズを概説し、(1)角膜上皮剥離のような軽傷、水晶体脱臼のような中傷、網膜損傷のような重傷を含む眼への異なるタイプのダメージに対応する対物レンズの臨界的なエネルギ値を示している。また、この論文は、(2)数%の可能性を表す低確率から、約50%の可能性を表す中確率及び略々確実な負傷の可能性を指す高確率まで、負傷の確率を割り当てている。この論文は、更に、(3)影響を与える総エネルギ及び影響を受ける領域によって正規化されたエネルギに基づいて、影響を与える対物レンズの形状に基づく影響シナリオを分類している。
【0245】
これらの結果は、対物レンズ700の機械的支持システムの全面的故障(total breakdown)によって生じる可能性が最も高い負傷を調べることによって、眼の手術の特定のケースに適用できる。このような故障によって、典型的には20〜25mmの垂直な経路で対物レンズ700の全体が自由落下し、対物レンズのエネルギの全てが眼自体に加わる。臨界質量は、周知の物理原理に基づいて、対物レンズの自由落下をモデリングする公表されている臨界的エネルギ値から算出できる。
【0246】
この長さの垂直な経路は、以下の設計原理に由来する。対物レンズ700を垂直な摺動ステージに取り付けることによって、ガントリによるレーザ送達システム1の眼への安全で信頼できるドッキングを提供することができる。垂直なガントリは、対物レンズ700を、垂直な移動範囲内で位置決めされるように収容するので、このような設計は、ガントリに対する精度及び力の要求を容易にする。更に、一旦、眼がドッキングされると、これらの設計では、レーザ送達システム1への眼の取付を解除することなく、レーザ光源100に対して眼を垂直に動かすことができる。これらの動きは、患者の動き又は手術台の動きのために生じることがある。対物レンズ700の垂直な移動範囲は、20〜25mmであり、この範囲内で、ガントリの力及び患者の動きを効果的且つ安全に緩和する。
【0247】
最後に、(5)対物レンズ700の光学素子、例えば、対物レンズグループ内のガラスレンズ単体の「光学的」質量(optical mass)によって、対物レンズの全体の質量の下限が決まり、ハウジングの及び対物レンズの制御システムの質量を低減する対策は様々にあるが、レンズの質量を低減することは、遙かに困難であるという意味において、設計上の検討事項も臨界的な質量に影響を及ぼす。本システムにおいて、対物レンズの総質量は、レンズのみの「光学的」質量の2〜3倍となることがある。
【0248】
これらの基準の幾つかからは、より鋭い臨界質量の定義が導き出され、他の基準からは、滑らかにクロスオーバーする依存性だけが導き出され、それら自体からは、鋭い定義は導き出されない。
【0249】
上述の(1)〜(4)の分類の可能な組合せから、臨界質量MCに関して、4つの比較的鋭く、有意義な定義を以下のように特定できる。
【0250】
(1)MC1=400g:M<MC1の対物レンズは、最悪の故障シナリオにおいても、患者に損傷を与える危険性が実質的にない。
【0251】
(2)MC2=750g:MC1<M<MC2の状況では、総影響エネルギによって、角膜上皮剥離が引き起こる可能性が10%より大きくなることがある。
【0252】
(3)MC3=1,300〜1,400g:MC2<M<MC3の状況では、如何なる影響シナリオにおいても、角膜上皮剥離が引き起こる可能性が50%になることがある。
【0253】
(4)MC4=3300g:MC3<M<MC4範囲の質量では、幾つかの影響シナリオは、角膜上皮剥離が略々確実に引き起こり、中傷又はそれより重い損傷が生じる可能性もゼロではなくなる。
【0254】
これらの確率の全ては、もちろん、対物レンズの機械的支持システムの全面的故障が実際に生じる僅かな確率に乗算するべきである。しかしながら、眼科の用途では、如何に可能性が低くても、予想可能な負傷シナリオを防ぐために、細心の対策を施す必要があり、上述した臨界質量が問題となる。
【0255】
したがって、上述の検討事項は、対物レンズ700の総質量及び光学的質量に関する明確な評価基準に基づいて、4つの臨界質量を特定する。したがって、設計段階で、上述の臨界質量MC4〜MC1を超えないように対物レンズの質量を低減する対物レンズ700の実施の形態によって、安全な外科的処置の可能性が質的に向上する。
【0256】
眼科用のフェムト秒レーザのための既存の対物レンズは、5000gを超える質量を有し、これらの4つの臨界質量の最大値を大幅に超えている。例外は、Manziによる米国の特許出願公開番号2003/0053219号であり、ここには、レンズのみの光学的質量が約1000gであるレンズシステムが開示されており、総質量は、2,000〜3,000gとなると考えられる。Manziの設計は、他の既存の対物レンズより軽いが、それでもかなり大きい質量を有する。対物レンズ内のレンズ素子は、Z焦点制御のために用いられるので、これは、主として対物レンズの統合された部分であるZスキャナに起因する。Manziでは、精密機械加工されたハウジング、レンズのための精密な直線的ガイド及びサーボモータのために、追加的な質量が必要であり、これらによって、総質量は、結局、5000gを上回る値になってしまう。
【0257】
一方、対物レンズ700の様々な実施の形態の質量は、上述した4つの質量範囲である0〜400g、400〜750g、750〜1350g及び1350〜3300gの何れかに含ませることができる。この質量は、光学的質量又は総質量の何れであってもよい。例えば、対物レンズ700の具体例のレンズは、130g未満の質量を有することができる。これらのレンズを精密な金属ハウジングに取り付け、アセンブリの総質量を400gにすることができる。
【0258】
対物レンズ700の実施の形態は、Z走査機能を除外し、独立したZスキャナ450を設け、これを独立した機能的又は機械的ハウジングに収容することによって、400g、750g、1350g、及び3300g未満へのこのような顕著な質量の低減を達成する。ここで「機能的又は機械的ハウジング」という用語は、全体の非機能的な設計上の考慮から、独立したZスキャナ450を対物レンズ700と同じ汎用のコンテナに収容することもあるが、このような汎用のコンテナは、光学的機能又は機械的な目的には寄与していないという事実を指している。
【0259】
幾つかの実施の形態では、対物レンズ700の光学的特徴を調整することによって、少なくとも幾つかの動的なZ走査機能を実行する類似の対物レンズに比べて、対物レンズ700の質量をP(mass)%低減できる。このような特徴は、対物レンズ700に統合されるZスキャナ450の全体の特徴であってもよく、対物レンズ700に統合される可動ビーム拡大器ブロック500の特徴であってもよく、対物レンズ700に統合される1個以上の可動走査レンズの特徴であってもよい。P(mass)は、10%、50%又は100%であってもよい。
【0260】
対物レンズ700の他の関連する側面及び手術用レーザシステム1の対応する設計は、図14を用いて説明した通りであり、ここでは、Zスキャナ450の実施の形態は、対物レンズの入射ピボット点PP(O)にXYZ走査レーザビームを集光することができることを示した。対物レンズ700内に入射ピボット点PP(O)を有する実施の形態では、ビームがこの内部のピボット点PP(O)に向かって収束するので、光路の大部分に亘って、ビーム半径rbが非常に小さくなる。更に、ビーム半径rbが小さいビームは、より小さいレンズで制御でき、対物レンズ700の総合的な質量を大幅に削減することができる。
【0261】
上述の設計上の考察に基づく対物レンズ700の具体例を表10に要約し、図15に示す。対物レンズ700の具体例は、Zスキャナ450から手術用パルスレーザビームを受け取る第1のレンズグループと、第1のレンズグループから手術用パルスレーザビームを受け取り、手術用レーザビームを標的領域に集光する第2のレンズグループとを含む。
【0262】
表10は、表面1〜16によって、図15の対物レンズ700を更に詳細に示している。対物レンズ700は、9個のレンズL1〜L9を有し、表面17を介して、患者インタフェース800に面している。上述と同様に、括弧は、想定できる対応するパラメータの範囲を示している。(表面1、2は、2個で1組のレンズL1/L2を定義し、表面8、9は、2個で1組のレンズL5/L6を定義するので、表面の数は、18ではなく、16である。)
【表10】
【0263】
他の具体例では、上述の設計上の検討事項を比較的よく満足させる異なるパラメータ範囲で、異なる数のレンズを用いることができる。
【0264】
幾つかの具体例では、対物レンズ700は、幾つかのレンズグループによって記述できる。例えば、対物レンズ700は、Zスキャナ450からXYZ走査レーザビームを受け取る第1のレンズグループと、第1のレンズグループからレーザビームを受け取る第2のレンズグループとを含むことできる。第2のレンズグループは、屈折率が1.54〜1.72の範囲で、入射面の曲率が37.9〜65 1/mの範囲で、出射面の曲率が−15.4〜5.2 1/mの範囲の第1のレンズを含むことができる。更に、また、第2のレンズグループは、第1のレンズから0〜6.5mmの範囲の距離だけ離れて設けられ、屈折率が1.56〜1.85の範囲で、入射面の曲率が−55.1〜−21.8 1/mの範囲で、出射面の曲率が11.4〜26.8 1/mの範囲の第2のレンズを含むことができる。対物レンズ700は、第2のレンズを介して、患者インタフェース800にレーザビームを出射できる。
【0265】
幾つかの具体例では、対物レンズ700の有効焦点距離は、70mm未満である。
【0266】
幾つかの実施の形態は、対物レンズ700から患者インタフェース800までの距離は、20mm未満である。
【0267】
幾つかの設計では、レーザ送達システム1の焦点面の曲率は、20 1/mより大きい。
【0268】
また、市販の光学設計ソフトウェアパッケージ、例えば、Zemax Development Corporation社のZemax、Optical Research Associates社のCode Vを用いて本明細書に亘って記述した設計原理に従う対物レンズ700及び手術用レーザシステム1の全体の他の多くの具体例を実現することができる。
【0269】
6.総合的なシステムの光学的性能
様々な具体例において、サブシステム前置補償器200、XYスキャナ300、Zスキャナ450及び対物レンズ700のパラメータは、相互依存した形式で最適化でき、これにより、総合的なレーザ送達システム1の光学的性能は、例えば、眼科手術用途のために独自の有用性を有する特性を示すことができる。
【0270】
表11A及び表11Bは、第1の具体例及び第2の具体例における総合的なレーザ送達システム1の光学的性能を開口数NA及びストレール比Sに関して要約したものである。ここでも、光学的性能は、上述の参照点P1〜P5と同様な参照点によって特徴付けられる。表11A及び表11Bは、構成A、B、C、Dを有するそのコンポーネントによって、レーザ送達システム1の光学的性能を示しており、これらは、それぞれ角膜の中心(A)、角膜の周辺部(B)、水晶体の中心(C)、水晶体の周辺部(D)にレーザビームを送達する。これらの参照点は、水晶体に眼科手術を実行する際の課題に関連する手術対象となる大きな体積体を表している。
【0271】
表11A及び表11Bでは、特定の値を有する参照点の動径座標を示している。なお、他の実施の形態では、NA及びSは、これらの特定の動径座標の「周囲」の同じ各範囲における値を想定している。幾つかの場合、「周囲」という用語は、示された動径座標値のP(radial)%内の動径座標の範囲を指し、P(radial)10%、20%及び30%であってもよい。例えば、7.2mm及び8.8mmの範囲内のz動径座標を有する点は、「水晶体、中心」参照点のz=8.0mm動径座標のP(radial)=10%以内の近傍にある。
【0272】
更に、幾つかの実施の形態では、NA及びSは、B、C及びDの構成についてリストされたそれらの3個の各範囲のうちの1個のみに含まれる。他の実施の形態では、NA及びSは、表11A及び表11B内で、B、C及びDの構成についてリストされたそれらの3個の各範囲のうちの2個のみに含まれる。
【0273】
これらから明らかなように、ここに開示したレーザ送達システムは、水晶体手術の体積体の全体に亘って、実質的に回折限界の光学的性能に良好に修正される。
【表11】
【0274】
ストレール比Sが0.8を上回る同様の設計は、上にリストした設計と均等であるとみなすことができ、これらの設計は、全て、回折限界のシステムであるとみなされる。
【0275】
ストレール比S以外に、他の収差測定値、例えば、焦点半径rfを用いて、レーザ送達システム1の総合的な光学的性能を特徴付けることもできる。大きいストレール比と大きい開口数NAの組合せは、小さい焦点半径rfと言い換えることができ構成A〜Dに亘って、焦点半径rfは、眼の標的領域内において、幾つかの具体例では、2μm未満、他の具体例では、4μm未満、更に他の具体例では、10μm未満となる。
【0276】
レーザ送達システムの性能をより正確に特徴付け、角膜及び水晶体のビーム伝播への実質的な影響を表すために、表11A及び表11BのNA及びS値は、光学的設計の統合された部分として、眼を含むシステムを設計することによって導出されている。幾つかの設計では、眼は、その自然の形式でモデル化される。他では、実際の手術条件を表すために、ある程度の眼の圧平を含ませている。
【0277】
表12は、図15の人間の眼のモデル850によって示されている関連する眼の組織の単純なモデルを要約したものである。(表面の番号は、表10の番号の続きとなるように選択してあり、患者インタフェース800を角膜組織に接続する表面である表面18から始まる。)眼の組織は、厚さ0.6mmの角膜(共有された表面18を介して患者インタフェースから入る。)、房水(表面19を介して、角膜から入る。)及び水晶体(表面20を介して、房水から入る。)によってモデル化できる。眼の表面の分離は、レンズ表面1〜16の分離と同様に扱われる。
【表12】
【0278】
表11A及び表11BのNA及びS値は、この眼の組織のモデルを用いて算出した。同等の眼のモデルでは、同様な収差測定値が得られる。
【0279】
別の更なる側面では、幾らかの歪み及び像面湾曲を光学手段によって修正しないことによって、レーザ送達システム1の全体の光学的設計の幾つかの実現を単純化できる。
【0280】
図16は、幾つかのシステムにおいては、この設計原理によって、手術システムの位置の精度が不利になることを示している。正方形のドットは、XYスキャナ300のミラーが1度のステップで走査を行い、及びZスキャナ450が、可動ビーム拡大器500を5mmのステップで動かすことによって、Z焦点深度を走査した際の焦点の位置を示している。この図から明らかなように、Z焦点深度を一定に保ちながら、焦点の位置をXY走査することによって画定される「焦点面」は、湾曲している。側部の周辺部では、カット深度がより浅くなり、これは像面湾曲が補正されていないレンズの既知の振る舞いと一致する。
【0281】
同様に、XYスキャナ300のミラーを固定したまま、Zスキャナ450がZ焦点深度を走査すると、焦点の横方向の位置が変化する。設計を更に複雑にする要因として、動径方向又は横方向のXY位置も、Z焦点深度も、それぞれのスキャナ位置について線形の依存性を示さない。XY平面では、これらの歪みは、樽形歪み又は糸巻形歪みと呼ばれる。(多くの具体例では、第3の座標であるXYスキャナ300のアジマス角は、変化しないで焦点の位置のアジマス角に反映され、したがって、無視することができる。)
図17は、レーザ送達システム1の幾つかの具体例による上述した課題に対する演算的ソリューションを示している。スキャナ座標は、球座標(ζ,χ,φ)によって与えられ、ここで、ζは、Zスキャナ450の位置であり、χは、XYスキャナ300の光軸からの傾斜角であり、φは、アジマス角である。焦点位置は、焦点円筒座標(z,r,φ)によって与えられ、zは、Z焦点深度であるであり、rは、光軸からの動径距離であり、φは、アジマス角である。
【0282】
焦点の位置のアジマス角は、スキャナのアジマス角と実質的に同じであることができ、したがって、示していない。残りのXY座標及びZスキャナ座標(ζ,χ)は、それぞれの走査インターバル内で離散化でき、走査グリッド及びCij=(ζi,χj)である対応するスキャナ行列Cijが定義される。実際のスキャナ座標の値を(ζi0,χj0)とすると、スキャナ行列Cijは、この特定の対(i0,j0)において1になり、他の全ての対(i,j)において0になる。
【0283】
同様に、焦点位置は、二次元焦点マトリクスSklによって特徴付けることができ、ここで、Sklは、離散化された動径座標及びZ焦点深度座標(zk,rl)に関連付けられる。スキャナ行列Cij及び焦点行列Sklを用いて、レーザ送達システム1の光学的性能は、4次元行列Tijklによって特徴付けることができ、これは、スキャナ座標(ζi,χj)を焦点座標(zk,rl)にどのように変換するかを示しており、包括的に言えば、S=TCであり、詳しくは、以下の通りとなる。
【数6】
【0284】
伝達行列Tijklは、スキャナ行列Cijと焦点行列Sklとの間の線形の関係を表しているが、幾つかの他の具体例では、スキャナ行列Cijと焦点行列Sklとの間に非線形的な関係が存在していてもよい。これらの具体例では、式(5)は、非線形関係によって置き換えられる。
【0285】
レーザ送達システム1は、コンピュータによるレイトレーシング、物理的な較正又は両方の組合せによって、伝達行列Tの要素を最適化するように設計することができる。このような目的のために使用することができる物理的な較正法の具体例については、米国特許公開番号US2009/0131921号に説明されている。
【0286】
伝達行列Tは、通常、可逆であり、これを用いて、焦点行列Sklの要素をスキャナ行列Cijに関係付ける逆伝達行列T−1を生成することができる。
【0287】
これに代えて、幾つかの実施の形態では、標的領域内の所望の焦点行列Sklによって、コンピュータによる設計プロセスを開始して、例えば、レイトレーシングを用いて、対応するスキャナ行列Cijを再構築することによって、逆伝達行列T−1を直接的に算出してもよい。
【0288】
図17及び図18は、このような関係を示している。これらの図は、z軸及びr軸上に示す(zk,rl)焦点座標にビームを集光するために、XYスキャナ300又はZスキャナ450をどの(ζi,χj)スキャナ座標にチューニングできるかを示すノモgである。
【0289】
図17は、(z,r)焦点座標に対応するXYスキャナ300の傾斜角を示している。一例として、破線は、z=6mmのZ深度及びr=4mmの動径位置を達成するために、6.4度のXYスキャナ傾斜角を用いることができることを示している。
【0290】
図18は、同じ(z,r)=(4,6)の焦点座標を達成するために、ζ=15.5mmのZスキャナ位置を用いることができることを示している。演算上、このノモgは、ルックアップテーブルとしてコンピュータメモリに保存してもよい。保存されたルックアップ座標の間の値は、2次元線形補完又は2次補完によって速やかに算出できる。
【0291】
伝達行列T及び逆伝送行列T−1に関する知識によって、レーザ送達システム1の実施の形態は、光学的手法に代えて、演算的手法によって、図16の収差を修正することができる。これらの実施の形態は、XYスキャナ300及びZスキャナ450の少なくとも1つを制御して、レーザ送達システム1の光学的歪みを制御することができるコンピュータコントローラを含むことができる。
【0292】
図19は、例えば、標的領域において、所定のZ焦点深度Zにおける平坦な焦点面に沿って、光学的歪を低減して、走査パターンに沿った走査が望まれる場合、コンピュータコントローラは、以下のコンピュータ制御メソッド900のステップを実行できることを示している。
【0293】
(910)光学的歪みが低減された標的領域内の走査パターンに対応する入射(zk,rl)焦点座標及び焦点行列Sklの要素の少なくとも一方を受け取る。
【0294】
(920)所定の逆伝達行列(T−1)ijklを用いて、入射(zk,rl)焦点座標又は焦点行列Sklの要素に対応する(ζi,χj)スキャナ座標及びスキャナ行列Cijの要素のうちの少なくとも一方を算出し、又は保存されたメモリから読み出す。
【0295】
(930)算出された(ζi,χj)スキャナ座標に基づいて、Zスキャナ450及びXYスキャナ300の少なくとも一方を制御して、入射(zk,rl)焦点座標又は焦点行列Sklの要素に基づいて、焦点を走査する。
【0296】
このような演算コントローラを有するレーザ送達システムは、このようなコントローラを有さない同じ又は同様のレーザシステムに比べて、光学的歪みを低減させることができる。低減の度合いは、幾つかの実施の形態では、最大10%であってもよく、他の実施の形態では、最大30%であってもよい。
【0297】
低減される光学的歪みは、収差、像面湾曲、樽形歪み、糸巻形歪み、曲がった焦点面、Z軸に平行であることが意図された走査ラインの屈曲のうちの何れであってもよい。
【0298】
幾つかの具体例では、演算コントローラは、前置補償器200、XYスキャナ300、Zスキャナ450及び対物レンズ700を含むレーザ送達システムの他のブロックと提携してこれらの機能を実行し、上述したこれらのブロックの特徴の何れを利用してもよい。
【0299】
コンピュータ制御の原理に基づいて光学収差を低減する同様な具体例の数は非常に多い。例えば、幾つかの実施の形態における演算コントローラは、臨界曲率値を下回る曲率を有する焦点面に亘って、焦点を走査できてもよい。他の具体例では、演算コントローラの適切な動作によって、所定の形状を有する表面を走査できる。
【0300】
本明細書は、多くの詳細事項を含んでいるが、これらの詳細事項は、任意の発明の範囲又は特許請求の範囲を限定するものとは解釈されず、特定の実施の形態の特定の特徴の記述として解釈される。本明細書おいて、別個の実施の形態の文脈で開示した幾つかの特徴を組み合わせて、単一の実施の形態として実現してもよい。逆に、単一の実施の形態の文脈で開示した様々な特徴は、複数の実施の形態に別個に具現化してもよく、適切な如何なる部分的組合せとして具現化してもよい。更に、以上では、幾つかの特徴を、ある組合せで機能するものと説明しているが、初期的には、そのように特許請求している場合であっても、特許請求された組合せからの1つ以上の特徴は、幾つかの場合、組合せから除外でき、特許請求された組合せは、部分的組合せ又は部分的な組合せの変形に変更してもよい。
【0301】
イメージ誘導レーザ手術技術、装置及びシステムの多くの具体例を開示した。本出願において説明し例示したことから、変形例、拡張例及び他の具体例を想到できることは明らかである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスレーザビームを生成するレーザ光源と、
前記パルスレーザビームを、Z軸を横断するXY方向に走査するXYスキャナと、
前記XY走査されたレーザビームをZ軸に沿って走査するZスキャナと、
前記XYZ走査されたレーザビームの焦点を標的領域に集光する対物レンズとを備え、
前記集光された走査レーザビームは、前記標的領域内において、単位をmmとして、任意のアジマス角φにおける動径座標(z,r)において、開口数NA及びストレール比Sを有し、
(z,r)=(0.0,0.3)の近傍では、前記NAは、0.25から0.40の間であり、前記Sは、0.8〜1.0の間であり、
前記NA及びSは、
(z,r)=(0.3,6.2)の近傍でNAが0.25から0.40、Sが0.8〜1.0、
(z,r)=(8.0,0.0)の近傍でNAが0.15から0.35、Sが0.8〜1.0、及び
(z,r)=(7.4,4.0)の近傍でNAが0.15から0.35、Sが0.8〜1.0
の各標的範囲の少なくとも1つに収まる、
眼科手術のためのレーザシステム。
【請求項2】
前記NA及びSは、前記3個の各標的範囲のうちの2個の範囲内に収まる、請求項1記載のレーザシステム。
【請求項3】
前記NA及びSは、前記3個の各標的範囲の全ての範囲内に収まる、請求項1記載のレーザシステム。
【請求項4】
前記動径座標(z,r)の近傍は、動径座標が前記動径座標(z,r)からP(radial)%より大きく逸脱しない点を含み、
前記P(radial)は、10%、20%及び30%のうちの1つである、
請求項1記載のレーザシステム。
【請求項5】
前記動径座標(z,r)=(0.0,0.3)の近傍では、前記NAは、0.30から0.35の間であり、前記Sは、0.8〜1.0の間であり、
前記NA及びSは、
(z,r)=(0.3,6.2)の近傍でNAが0.30から0.35、Sが0.8〜1.0、
(z,r)=(8.0,0.0)の近傍でNAが0.20から0.25、Sが0.8〜1.0、及び
(z,r)=(7.4,4.0)の近傍でNAが0.20から0.25、Sが0.8〜1.0
の各標的範囲の少なくとも1つに収まる、
請求項1記載のレーザシステム。
【請求項6】
前記NA及びSは、前記3個の各標的範囲のうちの2個の範囲内に収まる、請求項5記載のレーザシステム。
【請求項7】
前記NA及びSは、前記3個の各標的範囲の全ての範囲内に収まる、請求項5記載のレーザシステム。
【請求項8】
前記動径座標(z,r)の近傍は、動径座標が前記動径座標(z,r)からP(radial)%より大きく逸脱しない点を含み、
前記P(radial)は、10%、20%及び30%のうちの1つである、
請求項5記載のレーザシステム。
【請求項9】
前記NA及びSの値は、患者インタフェースを介して、人間の眼及び眼のモデルのうちの何れかに光学的に接続されたレーザシステムに関する値である、請求項1記載のレーザシステム。
【請求項10】
前記眼のモデルは、
厚さが約0.6mmであり、屈折率が約1.38である角膜領域と、
厚さが2mmから4mmまでの範囲内であり、屈折率が約1.34である前眼房領域と、
厚さが3mmから5mmまでの範囲内であり、屈折率が約1.42の水晶体領域とを表す第1の表面、第2の表面及び第3の表面を有し、
前記3つの表面は、全て、−100m−1から−80m−1までの範囲内の曲率を有する、
請求項9記載のレーザシステム。
【請求項11】
前記レーザ光源と前記XYスキャナとの間に配設された前置補償器を更に備える、請求項1記載のレーザシステム。
【請求項12】
前記前置補償器は、前記レーザビームをZ走査する可動レンズを有する、請求項11記載のレーザシステム。
【請求項13】
前記Zスキャナは、Z焦点深度及び開口数NAを実質的に独立して調整するように構成されている、請求項1記載のレーザシステム。
【請求項14】
前記Zスキャナは、
第1のレンズグループと、
可動ビームスキャナとを備える、
請求項1記載のレーザシステム。
【請求項15】
前記Zスキャナは、前記対物レンズの前段に、前記対物レンズから分離されて位置している、請求項1記載のレーザシステム。
【請求項16】
パルスレーザビームを生成するレーザ光源と、
前記パルスレーザビームを、Z軸を横断するXY方向に走査するXYスキャナと、
前記XY走査されたレーザビームをZ軸に沿って走査するZスキャナと、
前記XYZ走査されたレーザビームの焦点を標的領域に集光する対物レンズとを備え、
前記集光された走査レーザビームは、焦点半径を有する焦点を有し、
前記焦点半径は、前記標的領域内でrf(max)より小さく、
前記標的領域は、Z軸に沿って約8mm、XY方向に約10mmの拡がりを有している、
眼科手術のためのレーザシステム。
【請求項17】
前記rf(max)は、2μmである、請求項16記載のレーザシステム。
【請求項18】
前記rf(max)は、4μmである、請求項16記載のレーザシステム。
【請求項19】
前記rf(max)は、人間の眼及び人間の眼のモデルの何れかに接続されたレーザシステムに関する値である、請求項16記載のレーザシステム。
【請求項1】
パルスレーザビームを生成するレーザ光源と、
前記パルスレーザビームを、Z軸を横断するXY方向に走査するXYスキャナと、
前記XY走査されたレーザビームをZ軸に沿って走査するZスキャナと、
前記XYZ走査されたレーザビームの焦点を標的領域に集光する対物レンズとを備え、
前記集光された走査レーザビームは、前記標的領域内において、単位をmmとして、任意のアジマス角φにおける動径座標(z,r)において、開口数NA及びストレール比Sを有し、
(z,r)=(0.0,0.3)の近傍では、前記NAは、0.25から0.40の間であり、前記Sは、0.8〜1.0の間であり、
前記NA及びSは、
(z,r)=(0.3,6.2)の近傍でNAが0.25から0.40、Sが0.8〜1.0、
(z,r)=(8.0,0.0)の近傍でNAが0.15から0.35、Sが0.8〜1.0、及び
(z,r)=(7.4,4.0)の近傍でNAが0.15から0.35、Sが0.8〜1.0
の各標的範囲の少なくとも1つに収まる、
眼科手術のためのレーザシステム。
【請求項2】
前記NA及びSは、前記3個の各標的範囲のうちの2個の範囲内に収まる、請求項1記載のレーザシステム。
【請求項3】
前記NA及びSは、前記3個の各標的範囲の全ての範囲内に収まる、請求項1記載のレーザシステム。
【請求項4】
前記動径座標(z,r)の近傍は、動径座標が前記動径座標(z,r)からP(radial)%より大きく逸脱しない点を含み、
前記P(radial)は、10%、20%及び30%のうちの1つである、
請求項1記載のレーザシステム。
【請求項5】
前記動径座標(z,r)=(0.0,0.3)の近傍では、前記NAは、0.30から0.35の間であり、前記Sは、0.8〜1.0の間であり、
前記NA及びSは、
(z,r)=(0.3,6.2)の近傍でNAが0.30から0.35、Sが0.8〜1.0、
(z,r)=(8.0,0.0)の近傍でNAが0.20から0.25、Sが0.8〜1.0、及び
(z,r)=(7.4,4.0)の近傍でNAが0.20から0.25、Sが0.8〜1.0
の各標的範囲の少なくとも1つに収まる、
請求項1記載のレーザシステム。
【請求項6】
前記NA及びSは、前記3個の各標的範囲のうちの2個の範囲内に収まる、請求項5記載のレーザシステム。
【請求項7】
前記NA及びSは、前記3個の各標的範囲の全ての範囲内に収まる、請求項5記載のレーザシステム。
【請求項8】
前記動径座標(z,r)の近傍は、動径座標が前記動径座標(z,r)からP(radial)%より大きく逸脱しない点を含み、
前記P(radial)は、10%、20%及び30%のうちの1つである、
請求項5記載のレーザシステム。
【請求項9】
前記NA及びSの値は、患者インタフェースを介して、人間の眼及び眼のモデルのうちの何れかに光学的に接続されたレーザシステムに関する値である、請求項1記載のレーザシステム。
【請求項10】
前記眼のモデルは、
厚さが約0.6mmであり、屈折率が約1.38である角膜領域と、
厚さが2mmから4mmまでの範囲内であり、屈折率が約1.34である前眼房領域と、
厚さが3mmから5mmまでの範囲内であり、屈折率が約1.42の水晶体領域とを表す第1の表面、第2の表面及び第3の表面を有し、
前記3つの表面は、全て、−100m−1から−80m−1までの範囲内の曲率を有する、
請求項9記載のレーザシステム。
【請求項11】
前記レーザ光源と前記XYスキャナとの間に配設された前置補償器を更に備える、請求項1記載のレーザシステム。
【請求項12】
前記前置補償器は、前記レーザビームをZ走査する可動レンズを有する、請求項11記載のレーザシステム。
【請求項13】
前記Zスキャナは、Z焦点深度及び開口数NAを実質的に独立して調整するように構成されている、請求項1記載のレーザシステム。
【請求項14】
前記Zスキャナは、
第1のレンズグループと、
可動ビームスキャナとを備える、
請求項1記載のレーザシステム。
【請求項15】
前記Zスキャナは、前記対物レンズの前段に、前記対物レンズから分離されて位置している、請求項1記載のレーザシステム。
【請求項16】
パルスレーザビームを生成するレーザ光源と、
前記パルスレーザビームを、Z軸を横断するXY方向に走査するXYスキャナと、
前記XY走査されたレーザビームをZ軸に沿って走査するZスキャナと、
前記XYZ走査されたレーザビームの焦点を標的領域に集光する対物レンズとを備え、
前記集光された走査レーザビームは、焦点半径を有する焦点を有し、
前記焦点半径は、前記標的領域内でrf(max)より小さく、
前記標的領域は、Z軸に沿って約8mm、XY方向に約10mmの拡がりを有している、
眼科手術のためのレーザシステム。
【請求項17】
前記rf(max)は、2μmである、請求項16記載のレーザシステム。
【請求項18】
前記rf(max)は、4μmである、請求項16記載のレーザシステム。
【請求項19】
前記rf(max)は、人間の眼及び人間の眼のモデルの何れかに接続されたレーザシステムに関する値である、請求項16記載のレーザシステム。
【図1】
【図2】
【図3−1】
【図3−2】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図12D】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3−1】
【図3−2】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図12D】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公表番号】特表2013−500768(P2013−500768A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522912(P2012−522912)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/042960
【国際公開番号】WO2011/017019
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(510060361)アルコン レンゼックス, インコーポレーテッド (27)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/042960
【国際公開番号】WO2011/017019
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(510060361)アルコン レンゼックス, インコーポレーテッド (27)
【Fターム(参考)】
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