説明

眼鏡レンズの製造方法

【課題】機能性膜付きセミフィニッシュドレンズから眼鏡レンズを高い生産性をもって製造するための手段を提供する。
【解決手段】一方の面が光学面であり、他方の面が非光学面2bであるセミフィニッシュドレンズ1の該非光学面2bを研磨加工して光学面を創成する工程を含む眼鏡レンズの製造方法。前記セミフィニッシュドレンズ1は、レンズ基材11bの光学面上にアクリル系コーティング11aを有し、ここで、前記アクリル系コーティング11a表面の水に対する接触角は90°以下であり、前記研磨加工前に、前記アクリル系コーティング11a表面に、保護フィルム46を該フィルムの粘着層を介して貼着し、前記研磨加工を、前記保護フィルム46表面をブロック治具37に固着した状態でレンズ基材11bの非光学面2bを研磨することによって行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズの製造方法に関するものであり、詳しくは、セミフィニッシュドレンズの非光学面を研磨加工することにより光学面を創成する工程を含む眼鏡レンズの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズの製造工程では、仕上がり寸法よりも肉厚のレンズ(セミフィニッシュドレンズ)を量産保管しておき、受注を受けた後にユーザーのニーズに応じて所望の光学特性を有する製品レンズ(フィニッシュドレンズ)に仕上げることが広く行われている。通常、このセミフィニッシュドレンズは、物体側表面は注型重合中にモールド表面が転写されることにより光学面に仕上げられる。他方、眼球側表面(凹面)は機械加工(研削ないしは切削)によりレンズ処方に応じた所望の面形状に加工される。ただし、そのままの状態では凹面上に機械加工痕が残存しているため光学レンズとして使用することはできない。そこで通常、上記機械加工後には、研磨加工が行われる。この研磨加工を経て、両面が所望の光学面に仕上げられた製品レンズを得ることができる。通常、上記研磨加工は、予め光学面側に傷防止用の保護フィルムを貼着した状態で保護フィルム表面をブロック治具に固着した状態で行われる(例えば特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−183714号公報
【特許文献2】特許第4084081号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のセミフィニッシュドレンズは、光学面側に被膜を有さない、いわゆるノンコートレンズであることが一般的であった。これに対し近年、光学面上に機能性膜を形成したセミフィニッシュドレンズが製造されている。これは、機能性膜を形成することで、加工中に光学面に傷が付くことや異物が付着することを防止することができ、また、大気中の水分や酸素による腐食を防止することもできるためである。更に、セミフィニッシュドレンズの状態で既に機能性膜が形成されていれば、受注を受けた後に機能性膜を形成する必要がないため、受注を受けてから製品レンズを出荷するまでの期間を短縮できるという利点もある。
【0005】
しかし本発明者が上記機能性膜付きセミフィニッシュドレンズの非光学面の研磨を行ったところ、研磨中のレンズの固定が不十分であり、研磨加工が困難な場合があることが判明した。この点について本発明者が更に検討したところ、保護フィルムと機能性膜との密着性が不十分であり研磨加工時の負荷に耐えられないことが、研磨中にレンズが十分に固定されない理由であることも判明した。
【0006】
かかる状況下、本発明は、機能性膜付きセミフィニッシュドレンズから眼鏡レンズを高い生産性をもって製造するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、機能性膜としてアクリル系コーティングを有するセミフィニッシュドレンズにおいて、研磨中に固定不良が多発する傾向があることが判明した。そこで本発明者は、アクリル系コーティングと保護フィルムとの密着性について更に検討を重ねた結果、アクリル系コーティング表面(被貼着面)の水に対する接触角が90°以下となるように制御することにより、研磨中の固定不良の発生を回避できることを見出すに至った。この理由について本発明者は、アクリル系コーティングの親水性を高めることが保護フィルムの粘着層との密着性向上に寄与するからであると推察している。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0008】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]一方の面が光学面であり、他方の面が非光学面であるセミフィニッシュドレンズの該非光学面を研磨加工して光学面を創成する工程を含む眼鏡レンズの製造方法であって、
前記セミフィニッシュドレンズは、レンズ基材の光学面上にアクリル系コーティングを有し、ここで、前記アクリル系コーティング表面の水に対する接触角は90°以下であり、
前記研磨加工前に、前記アクリル系コーティング表面に、保護フィルムを該フィルムの粘着層を介して貼着し、
前記研磨加工を、前記保護フィルム表面をブロック治具に固着した状態でレンズ基材の非光学面を研磨することによって行う、前記製造方法。
[2]前記アクリル系コーティングは、無機酸化物粒子およびアクリレート系化合物を含む塗布膜を硬化させることにより形成された被覆層である、[1]に記載の製造方法。
[3]前記無機酸化物粒子は、シリカコロイド粒子である、[2]に記載の製造方法。
[4]前記粘着層はアクリル系粘着剤からなる、[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記セミフィニッシュドレンズは、前記レンズ基材とアクリル系コーティングとの間に偏光層を有する、[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アクリル系コーティングを形成したセミフィニッシュドレンズの非光学面を、安定に固定した状態で研磨加工により光学面に仕上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明において使用可能な研磨装置の概略構成図である。
【図2】研磨対象のセミフィニッシュドレンズをブロック治具に取り付けた状態を示す断面図である。
【図3】揺動装置と研磨治具の首振り旋回運動の説明図である。
【図4】研磨治具の一例を示す平面図である。
【図5】図4に示す研磨治具に研磨パッドを取り付けた状態を示す平面図である。
【図6】研磨治具の一例を示す底面図である。
【図7】図5のXII-XII線断面図である。
【図8】研磨対象のレンズの移動軌跡の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、一方の面が光学面であり、他方の面が非光学面であるセミフィニッシュドレンズの該非光学面を研磨加工して光学面を創成する工程を含む眼鏡レンズの製造方法に関する。前記セミフィニッシュドレンズは、レンズ基材の光学面上にアクリル系コーティングを有し、前記研磨加工前に、前記アクリル系コーティング表面に、保護フィルムを該フィルムの粘着層を介して貼着し、前記研磨加工を、前記保護フィルム表面をブロック治具に固着した状態でレンズ基材の非光学面を研磨することによって行う。ただし保護フィルム粘着層の被貼着面であるアクリル系コーティング表面の水に対する接触角が90°を超えると、保護フィルムとアクリル系コーティングとの密着が不十分なため、研磨中にセミフィニッシュドレンズをブロック治具上に安定に固着することができず研磨不良が発生してしまう。そこで本発明では、保護フィルムの粘着層を貼着するアクリル系コーティング表面の水に対する接触角は、90°以下とする。研磨中にセミフィニッシュドレンズをより安定に固定するためには、前記接触角は70°以下であることが好ましく、65°以下であることがより好ましい。なお本発明において、水に対する接触角とは、温度20〜25℃、湿度30〜60%RHの測定環境下にて測定した値をいうものとする。
【0012】
アクリル系コーティング表面の水に対する接触角が小さくなるほど、保護フィルムとアクリル系コーティングとの密着性は高まる。密着性が高いほど、保護フィルムを剥離除去するために強い力を加える必要があり、また剥離除去後に保護フィルムの粘着剤がアクリル系コーティング表面に残留する場合もあるため、研磨後に保護フィルムを剥離除去する際の作業性の観点からは、前記接触角は、40°以上であることが好ましく、50°以上であることがより好ましい。ただし、研磨不良の発生をより一層低減するためには、前記接触角は小さいほど好ましいため、その下限値は特に限定されるものではない。
【0013】
本発明におけるアクリル系コーティングとは、アクリレート系化合物を含む塗布膜を硬化させることにより得られる被覆層である。なお、本発明における「アクリル系コーティング」との語には、メタクリル系コーティングも含むものとし、「アクリレート系化合物」との語には、メタクリレート系化合物も含むものとする。また、以下の(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートを含むものとする。
アクリレート系化合物としては、好ましくはアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有する化合物であり、より好ましくは分子中に少なくとも2個のアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有する多官能アクリレート化合物である。多官能アクリレート化合物は、架橋構造を形成することにより高強度の塗膜を形成することができるため、研磨中ないし研磨前後の工程において、セミフィニッシュドレンズの光学面側の最表面を保護するハードコート層として機能し得るものであり、更にはフィニッシュドレンズに加工された後にもレンズの耐衝撃性や耐スクラッチ性向上に寄与し得るものである。
【0014】
アクリル系コーティングを形成するために使用するアクリレート系化合物としては、具体的には、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタグリセロールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、グリセリントリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、ペンタグリセロールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、グリセリントリメタクリレート、ジペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、トリス(メタクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ホスファゼン化合物のホスファゼン環にアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基が導入されたホスファゼン系アクリレート化合物またはホスファゼン系メタクリレート化合物、分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネートと少なくとも1個のアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基および水酸基を有するポリオール化合物との反応により得られるウレタンアクリレート化合物やウレタンメタクリレート化合物、分子中に少なくとも2個のカルボン酸ハロゲン化物と少なくとも1個のアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基および水酸基を有するポリオール化合物との反応により得られるポリエステルアクリレート化合物、ポリエステルメタクリレート化合物、ならびに上記各化合物の2量体、3量体などのようなオリゴマーなどが挙げられる。また、フッ素含有アクリレート化合物を使用することもできる。フッ素含有アクリレート化合物の具体例としては、特開2011−32352号公報に記載の式(I)の化合物を挙げることができ、その詳細については同公報を参照できる。
【0015】
これらの化合物はそれぞれ単独または2種以上を混合して用いることができる。なお、上記の(メタ)アクリレートの他に、アクリル系コーティングを形成するための塗料組成物の硬化時の固形分に対して、好ましくは10.0質量%以下の、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の中から選択される少なくとも1種の単官能(メタ)アクリレートを配合してもよい。
【0016】
また、前記塗料組成物には、形成されるアクリル系コーティングの硬度を調整する目的で重合性オリゴマーを添加することができる。このようなオリゴマーとしては、末端(メタ)アクリレートポリメチルメタクリレート、末端スチリルポリ(メタ)アクリレート、末端(メタ)アクリレートポリスチレン、末端(メタ)アクリレートポリエチレングリコール、末端(メタ)アクリレートアクリロニトリル−スチレン共重合体、末端(メタ)アクリレートスチレン−メチル(メタ)アクリレート共重合体などのマクロモノマーを挙げることができる。その含有量は塗料組成物の硬化時の固形分に対して、好ましくは5.0〜50.0質量%である。
【0017】
上記重合性成分は、溶剤と混合した状態の溶液として用いてもよい。また、重合性成分として市販されているものを用いることも可能である。市販の化合物として具体的には、「NKハードM101」(新中村化学(株)製、ウレタンアクリレート化合物)、「NKエステルA−TMM−3L」(新中村化学(株)製、テトラメチロールメタントリアクリレート)、「NKエステルA−9530」(新中村化学(株)製、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)、「KAYARAD(登録商標) DPHAシリーズ」(日本化薬(株)製、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート化合物)、「KAYARAD(登録商標) DPCAシリーズ」(日本化薬(株)製、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート化合物の誘導体)、「アロニックス(登録商標)M−8560」(東亜合成(株)製、ポリエステルアクリレート化合物)、「ニューフロンティア(登録商標)TEICA」(第一工業製薬(株)製、トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート)、「PPZ」(共栄社化学(株)製、ホスファゼン系メタクリレート化合物)などが例示される。また、アクリル系コーティング形成のための塗料組成物は、公知の光重合開始剤、レベリング剤等の各種添加剤を含むこともできる。一例として、レベリング剤としては特開2011−32352号公報段落[0064]に記載されている化合物等のフッ素含有化合物を使用することができるが、光重合開始剤、レベリング剤等の各種添加剤の種類および使用量は、特に限定されるものではなく適宜設定することができる。
【0018】
アクリル系コーティングに親水性を付与し、その表面の水に対する接触角を90°以下に制御するためには、アクリル系コーティング形成用の塗料組成物に親水性向上に寄与する成分を添加すればよい。そのような成分としては、無機酸化物粒子を挙げることができる。親水性向上の観点から好ましい無機酸化物粒子としては、シリカ、ジルコニア、アルミナ、アルミナ−マグネシウム複合酸化物などの無機酸化物粒子を挙げることができる。無機酸化物粒子の粒径は、耐擦傷性と光学特性とを両立する観点から、5〜30nmの範囲であることが好ましい。アクリル系コーティング形成用塗料組成物への無機酸化物粒子の添加量は、アクリル系コーティング表面の接触角を所望の範囲に制御し得る範囲に設定すればよいが、通常、塗料組成物の固形分あたり5〜80質量%程度である。また、上記無機酸化物粒子は、アクリル系コーティング中での分散性の点から、コロイド粒子であることが好ましい。また、シリカコロイド粒子は、粒子表面に親水性基であるOH基が多く存在するため、親水性向上成分として添加することが特に好ましい。
【0019】
上記塗料組成物に使用される成分は、通常、溶剤で希釈して用いられる。溶剤としては、ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノールなどのアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、セロソルブ類などから適宜選択して用いることができる。これらの有機溶剤は、必要に応じて数種類を混合して用いてもよい。溶剤の種類および使用量は、用いる成分の種類や使用量、塗布方法、目的とするコーティング厚などに応じて適宜選択される。
【0020】
上記アクリル系コーティング形成用塗料組成物を、セミフィニッシュドレンズの光学面上に直接または他の層を介して間接的に塗布し、必要に応じて乾燥させて形成した塗布膜に硬化処理を施すことにより、セミフィニッシュドレンズの光学面側最表面にアクリル系コーティングを形成することができる。塗布には、ディップ法、スピンコート法等の公知の塗布法を用いることができる。塗布条件は、所望の膜厚のアクリル系コーティングを形成できるように適宜設定すればよい。硬化処理は、通常光照射により行われる。照射する光は、例えば電子線または紫外線であり、照射する光の種類および照射条件は、使用する重合性成分の種類に応じて適宜選択される。形成されるアクリル系コーティングの厚さは、耐スクラッチ性の点からは0.5〜10μm程度であることが好ましい。
または、アクリル系コーティングは、調光性能を有するフォトクロミック層であってもよい。この場合、アクリル系コーティングには、フォトクロミック色素およびフォトクロミック層に通常添加される各種添加剤が含まれる。フォトクロミック色素および添加剤の詳細については、WO2008/001578A1段落[0076]〜[0097]等を参照できる。アクリル系コーティングがフォトクロミック層である場合、その厚さは、フォトクロミック特性を良好に発現させる観点から、10μm以上であることが好ましく、20〜60μmであることが更に好ましい。
【0021】
上記アクリル系コーティングを有するセミフィニッシュドレンズのレンズ基材は、特に限定されるものではなく、例えば、ウレタン系、エピチオ系、ポリカーボネート系、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR39)等のプラスチックレンズに通常使用される各種樹脂を挙げることができる。また、アクリル系コーティングとレンズ基材との間には、任意に一層以上の機能性膜が形成されていてもよい。例えば、光学面上に偏光層を有するセミフィッシュドレンズは、研磨加工後にそのまま製品レンズ(偏光レンズ)として出荷することができるため、受注を受けてから出荷までの時間を短縮でき好ましい。本発明において、偏光層の形成方法については、公知の方法を何ら制限なく適用することができる。偏光レンズの製造工程の詳細については、例えば、特表2008−527401号公報、特開2009−237361号公報、国際公開第2008/106034号、国際公開第2009/029198号、特開2010−256895号公報、特開2010−134424号公報、特開2010−102234号公報等を参照できる。なお、偏光層とレンズ基材との間には、偏光層に含まれる二色性色素を均一に配列させ良好な偏光性能を発揮させるために、配列層が形成されていることが好ましい。配列層の詳細についても、上記公報を参照できる。
【0022】
次に、上記アクリル系コーティングを光学面側最表面に有するセミフィニッシュドレンズをフィニッシュドレンズに加工し、眼鏡レンズを得る工程について説明する。
【0023】
非光学面は、凸面、平面、凹面等の任意の形状であることができるが、通常のセミフィニッシュドレンズにおいては凹面である。非光学面の研磨は、金属製の研磨皿、弾性材料からなる凸部を有する研磨体等の公知の研磨治具により行うことができる。弾性材料からなる凸部を有する研磨体は、被研磨面に押し付ける際に弾性研磨体が若干変形するため研磨治具の凸形状が被研磨面の凹面形状に完全に対応していない場合であっても研磨を行うことができる。したがって、1つの研磨体により対応可能なアイテム数が増えるため金属製の研磨皿を用いる方法と比べて用意すべき研磨治具の数を大きく減らすことができる点で有利である。
【0024】
弾性材料からなる凸部を有する研磨体としては、凸部全体が弾性材料からなるものを用いることができ、または、凸部が内部に空洞(中空構造)を有するバルーン部材であり、この空洞に流体を供給することによりバルーン部材に張りを与えながら研磨を行うことができる研磨体を用いることもできる。後者の研磨体は、流体により加える圧力によっても研磨条件を制御することができるため、形状精度を高めるうえで有利である。
【0025】
弾性材料としては、弾性体としての性質を有し、JIS k 6253(デュロメータタイプAまたはタイプE)により定義される硬さ5〜70程度のものが好ましい。具体例としては、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびシリコンゴムなどの合成ゴム等を挙げることができる。前記バルーン部材としては、弾性材料部分の厚さが1〜10mm程度のものが好適である。このバルーン部材に供給される流体としては、通常、圧縮空気、窒素、水等の液体が使用される。バルーン部材を含む研磨治具の具体的構成については、例えば特開2004−261954号公報段落[0033]〜[0037]、特開2008−183714号公報段落[0036]〜[0057]等を参照できる。
【0026】
研磨時には通常、研磨治具の凸部上に研磨パッドが配置される。この研磨パッドは、研磨剤を保持し研磨効率を高める役割を果たすものである。研磨パッドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、発泡ポリウレタン、フェルト、不織布、羊毛等の繊維性の布、合成樹脂等を材料とするものを用いることができる。研磨パッドの形状および配置方法については、例えば特開2004−261954号公報段落[0034]、特開2008−183714号公報段落[0026]〜[0027]、[0058]〜[0061]等を参照できる。
【0027】
研磨時には、通常研磨治具上に研磨パッドを配置した状態で、研磨治具を被研磨面に押し付けた状態で両面を相対的に移動(摺動)させることにより、被研磨面(非光学面)を研磨する。ここで通常、研磨治具と被研磨面との間に研磨剤が供給される。研磨剤としては、研磨処理に通常使用される市販のスラリーを使用することができる。または、アルミナ、ダイヤモンドパウダー等の研磨砥粒を水または水系溶媒に分散させることにより調製したスラリーを使用することもできる。
【0028】
研磨時の研磨治具、研磨対象であるセミフィニッシュドレンズの動作は、通常の研磨工程と同様とすることができる。好ましくは、研磨治具を被研磨面(非光学面)に押し付けた状態で、研磨治具を首振り旋回運動させ、かつセミフィニッシュドレンズを往復運動させることにより、研磨の軌跡が1周毎に少しずつずれる無軌道研磨軌跡で被研磨面を研磨する。
【0029】
上記動作が可能な研磨装置の一例を、以下に図面に基づき説明する。
図1は本発明において使用可能な研磨装置の概略構成図である。
同図において、全体を符号30で示す研磨装置は、床面に設置された装置本体32と、この装置本体32に紙面において左右方向(矢印X方向)に移動自在でかつ水平な軸33を中心として紙面と直交する方向(矢印AB方向)に回動自在に配設されたアーム34と、このアーム34を左右方向に往復移動させるとともに紙面と直交する方向に回動させる図示しない駆動装置と、前記アーム34に設けられセミフィニッシュドレンズ(以下、単に「レンズ」ともいう)1を、ブロック治具37を介して保持するレンズ取付部36と、このレンズ取付部36の下方に位置するように前記装置本体32に配設され、図示しない駆動装置により垂直な軸線Kを中心として首振り旋回運動(自転はしない)を行う揺動装置38等を備えている。
【0030】
図2はレンズ1をブロック治具37に固着させた状態を示す断面図である。レンズ1は、レンズ基材11bの光学面上にアクリル系コーティング11aを有する。非光学面2bは、予め3次元NC制御を行うカーブジェネレータ等によって所定の面形状に機械加工されている。この面が、被研磨面となる。一方、アクリル系コーティング11aの最表面2aには、傷防止用の保護フィルム46が、該フィルムの粘着層を介して貼着される。
【0031】
保護フィルム46としては、例えば、基材フィルム上に粘着層を有する粘着テープを用いることができる。このような粘着テープは公知の方法で作製することができ、また市販品としても入手可能である。粘着層は、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤等から形成することができる。中でも、アクリル系粘着剤から形成された粘着層(アクリル系粘着層)を有する保護フィルムは、本発明において好ましい保護フィルムである。アクリル系コーティングとの親和性に優れるため、アクリル系コーティングと保護フィルムとの密着性をより強固にすることができるからである。アクリル系粘着層の粘着成分については、例えば特許第3935619号明細書段落[0010]〜[0013]を参照できる。粘着層の厚さは、特に限定されるものではないが、通常10〜40μm程度である。粘着層を有する保護フィルムのその他詳細についても、上記特許第3935619号明細書の記載を参照できる。
【0032】
図2において、レンズ1を保持するブロック治具37は、金属製(工具鋼等)のヤトイ44と、このヤトイ44とレンズ1を接合する接着剤45とで構成されている。ヤトイ44の背面側には、前記レンズ取付部36に対して嵌合する嵌合凹部47が形成されている。この嵌合凹部47は、ハメアイの方向性を有している。接着剤45としては、通常低融点のアロイ(例えば、Bi、Pb、Sn、In、Gaの合金、融点約49℃)が用いられる。接着剤45によってレンズ1をヤトイ44に接合するには、例えばLOH社製のレイアウトブロッカーと呼ばれる装置が用いられる。ヤトイ44としては、レンズ1の度数、外径、凸面2aの曲率に応じて大きさの異なるものが用いられる。
【0033】
図3において、前記揺動装置38は、垂直な回転軸21の上端に垂直方向に所要角度(α)傾斜して取付けられており、上端面に前記研磨治具39が着脱可能に設置されている。回転軸48は研磨時に軸線周りに回転する。揺動装置38は回転軸48が回転すると、回転軸48の軸線周りを首振り旋回運動するように構成されている。回転軸48に対する揺動装置38の傾斜角度αは、例えば、5°である。図3は揺動装置38と研磨治具39の首振り旋回運動の軌跡50を示す。揺動装置38は、首振り旋回運動において回転軸48の周りを公転するだけで自転はしない。
【0034】
図4〜図7において、前記研磨治具39は、弾性材料によってカップ状に形成された下面側が開放するバルーン部材51と、このバルーン部材51の下面側開口部を閉塞し内部を気密に保持する固定具52と、前記バルーン部材51の内部に圧縮空気を供給するバルブ53とで構成されている。
【0035】
前記バルーン部材51は、ドーム部51Aと、このドーム部51Aの外周より下方に向かって一体に延設された略楕円形の筒部51Bと、この筒部51Bの下端に一体に延設された環状の内フランジ51Cとで構成されている。
【0036】
前記固定具52は、内側固定具55と外側固定具56の2部材からなり、これらによってバルーン部材51の内フランジ51Cを内側と外側から挟持することにより、バルーン部材51の下面側開口部を気密に封止している。このため、バルーン部材51の内部は、密閉空間57を形成している。内側固定具55は、バルーン部材51の筒部51Bの内側の形状と略同一の大きさの楕円板からなり、下面外周部に前記内フランジ51Cが嵌合する環状溝58が形成されている。
【0037】
前記外側固定具56は、上方が開放するカップ状に形成されていることにより、円板状の底板56Aと、この底板56Aの上面外周に一体に突設された円筒部56Bとからなり、この円筒部56B内に前記内側固定具55が前記バルーン部材51の筒部51Bとともに嵌挿される。円筒部56Bは、外形が円形で、内形がバルーン部材51の筒部51Bの外形と略同一の大きさの楕円形に形成されている。そして、外側固定具56は、内側固定具55が複数個の止めねじ60によって一体的に結合された後、前記揺動装置38の上面に、前記バルーン部材51の基準軸方向(図3の矢印F方向)を、被研磨面2bの基準軸方向である、前記アーム34の往復移動方向(図1のX方向)と一致させて取付けられる。
【0038】
前記バルブ53は逆止弁からなり、前記内側固定具55に取付けられている。
【0039】
前記ドーム部材51の密閉空間57に圧縮空気を前記バルブ53を介して供給すると、ドーム部51Aは上方に膨張し、ドーム部51Aの中心軸を含む断面の平均曲率が短軸方向(図5の矢印G方向)で最大、長軸方向(矢印F方向)で最小なトーリック面となる。この場合、ドーム部51Aの曲率は、ドーム部51Aの中央高さ(頂点高さ)に対応して変化するため、適宜な装置によってドーム中央の高さを測定し調整することにより、ドーム部51Aの曲率を所望の曲率とすることができる。
【0040】
研磨パッド40は、前記締付部材76によって前記研磨治具39に着脱自在に取付けられる。前記締付部材76は、適宜な太さの線ばねをリング状に塑性変形させて両端部を重ね合わせたもので、自然状態では前記外側固定具56の外径より小さい直径を有し、両端部76a,76bが外側にそれぞれ略直角に折り曲げられている。
【0041】
前記研磨パッド40を研磨治具39に取付けるには、先ず圧縮空気の供給によってバルーン部材51のドーム部51Aを所定のドーム形状に膨張させた後、その上に研磨パッド40の研磨部70を載置する。次に、締付部材76の両端部76a、76bを指先で挟んでその間隔を弾性に抗して狭めることにより締付部材76を拡径化し、この状態で締付部材76を研磨パッド40の固定片71に上方から押しつけてこれらの固定片71を下方に折り曲げ外側固定具56の外周に接触させる。そして、両端部76a、76bから指先を離すと、締付部材76は元の形状に復帰して固定片71を外側固定具56の外周に締付け固定し、もって研磨パッド40の取付けが終了する。
【0042】
このような構造からなる研磨装置30によるレンズ1の研磨は、以下の手順によって行うことができる。
先ず、アーム34のレンズ取付部36にレンズ1をブロック治具37に固着する。次に、揺動装置38の上面に研磨パッド40が取付けられた研磨治具39を設置する。レンズ取付部36にレンズ1を取付ける際には、レンズ1の被研磨面2bの基準軸方向がアーム34の往復移動方向(図1の矢印X方向)と一致するように取付けることが好ましい。研磨治具39を揺動装置38に設置する際には、バルーン部材51の基準軸方向(F方向)をアーム34の往復移動方向(矢印X方向)と一致させて設置することが好ましい。
【0043】
レンズ1がレンズ取付部36に取付けられると、昇降装置41によってレンズ1を下降させ、非光学面2bを研磨パッド40の表面に押し付ける。この状態で研磨剤を研磨パッド40の表面に供給し、アーム34を左右方向に往復移動させるとともに軸33を中心として前後方向に回動させる。このようなアーム34の動きによるレンズ1の移動軌跡を図8に示す。
【0044】
また、回転軸21の回転によって揺動装置38を図3に示すように首振り旋回運動させる。このようなレンズ1と揺動装置38の運動により、研磨の軌跡が1周毎に少しずつずれる無軌道研磨軌跡でレンズ1の非光学面2bを前記研磨パッド40と研磨剤によって研磨し、所望の面形状を有する光学面に仕上げる。
【0045】
非光学面の研磨は1段階の研磨で行ってもよく、2段階以上の研磨で行ってもよい。カーブジェネレータによって切削加工された非光学面には、NC制御によるバックラッシュ等に起因する加工段差が含まれている場合があるので、その場合には光学面を得るために加工段差を研磨によって除去する必要がある。したがって、その場合には、非光学面の研磨工程を荒研磨と仕上げ研磨の2段階研磨とすることが好ましい。例えば、荒研磨においては、研磨砥粒の平均粒径が1.6〜1.8μmのものを用い、温度を8〜14℃に制御して研磨することができる。また、研磨時間は2〜6分、研磨圧は5〜400ミリバール、回転速度は400〜1000rpmとすることができる。
【0046】
次に、仕上げ研磨においては、例えば、研磨砥粒の平均粒径が0.8μm程度のものを用いて研磨することができる。研磨時間は30秒〜1分程度、研磨圧は5〜400ミリバール、回転速度は400〜1000rpmとすることができる。このように研磨条件を変えて研磨することにより、加工段差を確実に取り除くことができる。
【0047】
上記研磨加工後のレンズは、任意に洗浄等の後工程を行った後、製品レンズとして出荷することができる。また、アクリル系コーティングおよび/または創成した光学面上に、撥水膜、反射防止膜等の機能性膜を、公知の方法で形成して製品レンズとして出荷することも可能である。
本発明によれば、光学面側最表面にアクリル系コーティングを有するセミフィニッシュドレンズを、ブロック治具上に安定に固着した状態で研磨加工を行うことができるため、所望の面形状の光学面を、研磨不良を起こすことなく容易に創成することができる。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明を実施例により更に説明する。ただし本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
1.アクリル系コーティング液の調製
プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)1800質量部に、アクリレート系化合物(ジペンタエリスリトールのε−カプロラクトン付加アクリレート(日本化薬製KAYARAD DPCA-60))900質量部、オルガノシリカゾル(日産化学工業製MIBK−ST、固形分量:100質量部、固形分中のシリカコロイド粒子含有量:10質量%)333質量部、および光重合開始剤(チバジャパンビジョン製Irugacure184)45質量部を混合して、ハードコート層形成用のアクリル系コーティング液を調製した。
【0050】
2.ハードコート層の形成
注型重合法により得られた、一方が凸面(光学面)、他方が凹面のポリウレタンウレアンレンズ(HOYA株式会社製商品名フェニックス、φ75mm)の凸面上に、上記1.で調製したアクリル系コーティング液をスピンコート(1000rpmで、30秒保持)により塗布した。塗布後、紫外線照射装置によりUV照射光量1200mJ/cm2で硬化し、厚さ3.9μmのハードコート層を形成した。
【0051】
3.ハードコート層表面の接触角の測定
協和界面化学製接触角測定装置(CONTACT-ANGLE METER型番CA-D)を用いて、上記2.で形成したハードコート層表面の水に対する接触角を測定(測定環境:温度23.4℃、湿度38%)したところ、60°であった。
【0052】
4.凹面の機械加工
上記2.の処理後のレンズの凹面を3次元NC制御を行うカーブジェネレータによって所定の面形状に切削加工した。
【0053】
5.凹面の研磨加工
厚さ約100μmのポリオレフィンフィルム上にアクリル系粘着剤からなる厚さ約30μmの粘着層が積層された市販の保護フィルム(ビッグテクノス株式会社製)を用意し、上記4.で研削加工を施したレンズの凸面に、粘着層を介して貼着した。その後、図2に示すようにレンズをブロック治具に固定した。レンズの固定には、LOH社製のレイアウトブロッカーと呼ばれるアロイブロッカーを使用した。
次いで、ブロック治具に固着した状態で、図1に示す研磨装置にレンズを取り付け、図4〜7に示す研磨治具により研磨時間5分、研磨圧200ミリバール、回転速度530rpm、研磨剤として平均粒径0.8μmのアルミナを水に分散させたスラリーを使用して、前述の手順に従って研磨加工を行った。研磨パッドとしては厚さ約2mmの羊毛製の研磨パッドを使用し、バルーン部材としては、外径90φmm、JIS k 6253(デュロメータタイプE)で定義される硬度50、素材厚み約3mmのスチレンブタジエンゴム(SBR)を使用した。
【0054】
6.研磨加工後の保護フィルム密着状態の評価
上記5.の研磨加工後、ブロック治具からレンズを取り外し保護フィルムと被貼着面との密着状態を目視で観察した。中心部に保護フィルムの浮きや剥がれがなく、かつ浮きや剥がれが観察される面積が約4割以下の場合を「○」、中心部を含めて保護フィルムの浮きや剥がれが観察される面積が約6割以上の場合を「×」と評価した。
【0055】
7.保護フィルム剥離後の粘着剤残りの評価
東京計器株式会社製引張圧縮試験機Little Star(500Nのロードセル搭載)にて、引張速度30mm/minで上記6.の評価後に被貼着面上から保護フィルムを剥離除去した。保護フィルム除去後のハードコート層表面を目視で観察し、粘着剤の残り具合を目視で観察した。粘着剤の残りが目視で観察されない場合を「○」、観察される場合を「×」と評価した。
【0056】
[実施例2、3、比較例1]
アクリル系コーティング液の処方およびハードコート層の膜厚を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の処理および評価を行った。
【0057】
[実施例4]
レンズ凸面上に以下の方法で偏光層を形成した後に、偏光層表面にハードコート層を形成した点を除き、実施例2と同様の処理および評価を行った。
(1)配列層の形成
レンズ凸面上に、真空蒸着法により、厚さ0.2μmのSiO膜を形成した。
形成されたSiO膜に、研磨剤含有ウレタンフォーム(研磨剤:フジミインコーポレーテッド社製商品名POLIPLA203A、平均粒径0.8μmのAl23粒子、ウレタンフォーム:上記レンズ凹面の曲率とほぼ同形状)を用いて、一軸研磨加工処理を回転数350rpm、研磨圧50g/cm2の条件で30秒間施した。研磨処理を施したレンズは純水により洗浄、乾燥させた。
(2)偏光層の形成
レンズを乾燥後、研磨処理面上に、二色性色素〔商品名「Varilight solution 2S」、スターリング オプティクス インク(Sterling Optics Inc)社製〕の約5質量%水溶液2〜3gを用いてスピンコートを施し、偏光層を形成した。スピンコートは、色素水溶液を回転数300rpmで供給し、8秒間保持、次に回転数400rpmで供給し45秒間保持、さらに1000rpmで供給し12秒間保持することで行った。スピンコート後、塩化鉄濃度が0.15M、水酸化カルシウム濃度が0.2MであるpH3.5の水溶液を調製し、この水溶液に上記で得られたレンズをおよそ30秒間浸漬し、その後引き上げ、純水にて充分に洗浄を施した。この工程により、水溶性であった色素は難溶性に変換される。
その後、レンズをγ−アミノプロピルトリエトキシシラン10質量%水溶液に15分間浸漬した後に純水で3回洗浄し、85℃で30分間熱硬化した。さらに、冷却後、レンズを空気中にてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2質量%水溶液に30分浸漬した後、100℃の炉で30分間熱硬化、硬化後冷却して色素保護膜を形成(固定化処理)した。
以上の処理後、形成された偏光層の厚さは、約1μmであった。
【0058】
[参考例1]
ハードコート層を形成せずレンズ凸面に直接保護フィルムを貼着させた点を除き、実施例1と同様の処理および評価を行った。
【0059】
上記実施例1〜4および参考例1では、研磨中にレンズの固定不良は確認されなかったが、比較例1では研磨中にレンズがぐらつき不安定となる現象が確認された。
【0060】
以上説明した実施例1〜4、比較例1および参考例1の詳細を、下記表1に示す。
【表1】

【0061】
表1に示す全サンプルにて、保護フィルム剥離後に被貼着面に保護フィルムの粘着剤残りは見られず保護フィルム剥離除去は容易であった。しかし研磨中に固定不良が確認された比較例1では、表1に示すように研磨加工後の保護フィルム密着状態の評価結果は「×」であり保護フィルムの浮きや剥がれが広範な範囲で観察された。これに対し、固定不良なく安定な研磨が可能であった実施例1〜4では、上記評価結果は「○」であった。したがって、比較例1における固定不良は、保護フィルムと被貼着面との密着性が不十分であったことにより発生したこと、および、被貼着面であるハードコート層表面の水に対する接触角が90°を超えると密着性が低下すること、が確認できる。実施例1〜4では、ハードコート層形成用のアクリル系コーティング液にシリカコロイド粒子を添加したことによりハードコート層表面の接触角が低下し(親水性が高まり)、レンズ表面に近い値になったことが、密着性向上に寄与していると考えている。
【0062】
以上の結果から、水に対する接触角が90°以下となる表面を有するアクリル系コーティングを形成することで、レンズ基材の光学面上に光学面の保護等の目的でアクリル系コーティングを形成したセミフィニッシュドレンズにおいて、光学面創成のための研磨加工を安定に実施可能となることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、眼鏡レンズの製造分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面が光学面であり、他方の面が非光学面であるセミフィニッシュドレンズの該非光学面を研磨加工して光学面を創成する工程を含む眼鏡レンズの製造方法であって、
前記セミフィニッシュドレンズは、レンズ基材の光学面上にアクリル系コーティングを有し、ここで、前記アクリル系コーティング表面の水に対する接触角は90°以下であり、
前記研磨加工前に、前記アクリル系コーティング表面に、保護フィルムを該フィルムの粘着層を介して貼着し、
前記研磨加工を、前記保護フィルム表面をブロック治具に固着した状態でレンズ基材の非光学面を研磨することによって行う、前記製造方法。
【請求項2】
前記アクリル系コーティングは、無機酸化物粒子およびアクリレート系化合物を含む塗布膜を硬化させることにより形成された被覆層である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記無機酸化物粒子は、シリカコロイド粒子である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記粘着層はアクリル系粘着剤からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記セミフィニッシュドレンズは、前記レンズ基材とアクリル系コーティングとの間に偏光層を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−187703(P2012−187703A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−33919(P2012−33919)
【出願日】平成24年2月20日(2012.2.20)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】