説明

研削装置

【課題】 砥石の摩耗による影響を低減して研削加工することができる研削装置を提供する。
【解決手段】 円周面を有する円筒体Aを回転可能に支持する支持体と、前記円筒体Aを回転させつつ前記円周面を研削加工する砥石3と、該砥石3を回転駆動する電動モータ4と、前記支持体1を該砥石3の回転中心線と交差する方向へ移動させる移動手段と、前記砥石3及び前記円筒体Aの周速比を設定する手段と、該手段により設定された周速比に基づいて前記砥石3の回転数を制御する制御部とを備えており、研削加工中における砥石3及び円筒体Aの周速比を等周速比となるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は円周面を有する被研削物の円周面を研削加工する研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は従来の研削装置のレイアウト構成を示す模式図である。転がり軸受の内輪、外輪等の円筒体を研削加工して所定の寸法に仕上げる研削装置は例えば「非特許文献1」に記載されている。図7の研削装置は、円筒体100を回転可能に支持する支持体101と、該支持体101を前記円筒体100のラジアル方向へ移動(切込移動)させる第1の移動手段102と、前記円筒体100を回転させつつ該円筒体100の円周面を研削加工する円柱形の砥石103と、該砥石103を回転駆動する電動モータ104と、前記砥石103を回転中心線方向へ移動させる第2の移動手段105とを備える。
【0003】
この研削装置による円筒体100の研削加工は、円筒体100を支持体101に回転可能に載置し、電動モータ104により砥石103を回転させ、第2の移動手段105により砥石103を円筒体100の内側へ移動させ、第1の移動手段102により支持体101を移動させ、前記円筒体100の円周面を砥石103に接触させ、該砥石103の回転力により円筒体100を従動回転させ、該円筒体100及び砥石103の回転速度差(円筒体1:砥石50)により円筒体100の内側の円周面を研削加工し、研削加工時間の経過に伴って第1の移動手段102により支持体101を微量に移動させ、円筒体100を砥石103に押圧するように構成されている。
【非特許文献1】機械工学便覧 改訂第5版 日本機械学会編の17−156頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、以上のように構成された研削装置は、研削加工時間の経過に伴って砥石が摩耗し、しかも、砥石の摩耗量は砥石の大きさ、砥石の回転速度等によって異なり、複数の円筒体間の寸法精度を高精度に維持することが難しいため、研削加工時間を、最適な加工時間よりも若干長い時間に設定することにより、寸法精度の維持を図っている。
【0005】
しかしながら、以上のような対策も寸法精度に影響を及ぼしている要素が明確でなく、研削加工時間の調整も経験に基づくものであるため、改善策が要望されていた。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、主たる目的は砥石の摩耗による影響を低減して研削加工することができる研削装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明に係る研削装置は、円周面を有する被研削物を回転可能に支持する支持体と、前記被研削物を回転させつつ前記円周面を研削加工する砥石と、該砥石を回転駆動する電動モータと、前記支持体又は前記砥石を該砥石の回転中心線と交差する方向へ移動させる移動手段とを備えた研削装置において、前記砥石及び前記被研削物の周速比を設定する手段と、該手段により設定された周速比に基づいて前記砥石の回転数を制御する制御部とを備えることを特徴とする。
【0008】
第1発明にあっては、研削加工時間の経過に伴って砥石が摩耗した場合においても、設定された周速比に基づいて砥石の回転数を制御するため、研削加工時に被研削物に加わる研削負荷を均等化することができ、複数の被研削物間の寸法精度を高精度に維持することができる。
【0009】
第2発明に係る研削装置は、前記制御部は、前記手段により設定された周速比に基づいて回転数を演算する手段と、該手段により演算された回転数を前記電動モータの駆動回路へ出力する手段とを有することを特徴とする。
【0010】
第2発明にあっては、研削加工時に、砥石及び被研削物の周速比を設定する手段に基づいて電動モータの駆動回路へ駆動信号が出力され、砥石の回転数を低速に補正することができるため、研削加工時に被研削物に加わる研削負荷を均等化することができ、複数の被研削物間の寸法精度を高精度に維持することができる。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、研削加工時に被研削物に加わる研削負荷を均等化することができ、複数の被研削物間の寸法精度を高精度に維持することができる。
【0012】
第2発明によれば、研削加工時に被研削物に加わる研削負荷を均等化することができ、複数の被研削物間の寸法精度を高精度に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。図1は本発明に係る研削装置のレイアウト構成を示す模式図である。
図に示す研削装置は転がり軸受の内輪、外輪等の円筒体Aからなる被研削物(以下円筒体という)の内側円周面を研削加工するものであり、円筒体Aを回転可能に支持する支持体1と、該支持体1をボールねじ機構を介して円筒体Aのラジアル方向へ移動(切込移動)させる第1の電動モータ2と、円筒体Aと同芯的に配置される円柱形の砥石3と、該砥石3を回転駆動する第2の電動モータ4と、第2の電動モータ4及び砥石3を該砥石3の回転中心線方向へ移動させる第3の電動モータ5と、砥石目立て用の円柱形のドレッサ6と、該ドレッサ6を回転駆動するドレッサ用の第4の電動モータ7と、ドレッサ6及び第4の電動モータ7を砥石3のラジアル方向へ移動させる移動手段と、第1〜第4の電動モータ2,4,5,7の駆動回路を制御する制御部8と、該制御部8に入力された緒条件等を表示する表示部9とを備える。
【0014】
支持体1は円筒体Aを保持する回転可能な回転部材を備える切込台1aからなり、該切込台1aの裏側に回転軸が回転のみ可能に支持されており、該回転軸に第1の電動モータ2の出力軸2aが連動連結されている。回転軸と切込台1aとの間には回転軸の回転を軸長方向への移動に変換するボールねじ機構が設けられており、第1の電動モータ2の駆動により、切込台1aを回転部材とともに回転軸の軸線方向へ移動させるように構成されている。
【0015】
砥石3は円筒体Aの内側に挿入配置される程度に小径の円柱形をなしており、軸受部材10に回転可能に支持された軸体11の一端部に取着されている。軸受部材10と電動モータ4とは、砥石3の回転中心線方向へ移動可能とした架台12に支持されており、該架台12が第3の電動モータ5により移動される。電動モータ4の出力軸4aには大径の伝動輪13が嵌合固定されており、軸体11には伝動輪13に比べて1/10程度の大きさとした小径の伝動輪14が嵌合固定されており、出力軸4aの回転を約10倍に増速して砥石3に伝動するように構成されている。
【0016】
第3の電動モータ5の出力軸と架台12との間には、出力軸の回転を軸長方向への移動に変換するボールねじ機構が設けられており、第3の電動モータ5の駆動により、架台12を砥石3及び第2の電動モータ4とともに砥石3の回転中心線方向、換言すれば研削加工位置及び非研削加工位置へ移動させるように構成されている。
【0017】
ドレッサ6及び第4の電動モータ7は、支持部材15に支持されており、該支持部材15を移動させることによりドレッサ6を砥石3と接離する方向へ移動させるように構成されている。
【0018】
以上のように構成された研削装置による円筒体Aの研削加工は、円筒体Aを回転部材に保持し、第3の電動モータ5の駆動により砥石3を研削加工位置(円筒体Aの内側)へ移動させ、第2の電動モータ4の駆動により砥石3を回転させ、第1の電動モータ2の駆動により円筒体A(回転部材)を砥石3と接触する方向へ移動させ、円筒体Aを砥石3に接触させる。この接触した状態で砥石3の回転力が円筒体A及び回転部材に伝動され、該円筒体A及び回転部材が砥石3の回転方向へ従動回転する。この円筒体A及び回転部材の回転速度と、砥石3の回転速度との回転速度差により、円筒体Aの内側の円周面を研削加工し、研削加工時間の経過に伴って第1の電動モータ2による切込台1aの切込移動速度が微量に調整される。
【0019】
粗研削加工においては、次の工程で研削加工が行われる。
(1) 割出→砥石と円筒体とが確実に接触しない位置まで第3の電動モータ5により砥石を高速で移動させる。
(2) 準急→砥石と円筒体との接触が予想される工程(砥石にダメージを与えないように第3の電動モータ5により砥石を低速で移動させる。)
(3) 黒皮→砥石と円筒体との接触を検知した後、円筒体表面の加工が粗い状態での研削(砥石にダメージを与えないように第2の電動モータ4により砥石を低速回転させ、低速で研削する。)
(4) 粗→本研削(第2の電動モータ4により砥石を高速回転させ、高速で研削する。)
(5) 仕上→仕上研削(第2の電動モータ4により砥石を低速回転させ、低速で研削する。)
(6) スパークアウト→砥石の軸体11の弾性変形の戻りを考慮した研削を行う。
【0020】
図2は制御部のブロック図である。
マイクロプロセッサを用いてなる制御部8には、予め実験により得られたデータに基づいて適正な周速比であると設定された砥石3及び円筒体Aの設定周速比Vs/Vw、砥石3の研削時における回転数Ns(rpm )及び研削加工前の砥石直径Ds(mmφ )、円筒体Aの内周の研削仕上内径Dw(mmφ )及び円筒体Aの設定回転数Nw(rpm )、砥石3及び円筒体Aの種類等の諸条件を入力する入力部16と、設定された研削工程で研削加工を開始するための研削開始用のスイッチ17と、回転数制御を行うか否かを選択するための回転数制御用のスイッチ18とが接続されており、出力部には第1〜第4の電動モータ2,4,5,7の駆動回路20,40,50,70が接続されており、入力部16が入力した諸条件等は表示部9に表示される。また、制御部8には、円筒体Aの周速度Vw(m/min )を演算する第1の演算部と、設定周速比Vs/Vwに基づいて砥石3の周速度Vso(m/min )を演算する第2の演算部と、この第2の演算部が演算した周速度Vso(m/min )に基づいて砥石3の回転数Nso(rpm )を演算する第3の演算部と、第3の演算部が演算した回転数Nso(rpm )を電動モータ2,4,5,7の駆動回路20,40,50,70へ出力する手段とを有する。また、制御部8には研削装置の基本メニューとして砥石3の許容回転数が設定されており、この許容回転数を超えて砥石3を回転させることができないようになっている。
【0021】
円筒体Aの周速度Vw(m/min )は、円筒体の設定回転数Nw(rpm )と、円筒体Aの研削仕上内径Dw(mmφ )とに基づいて
Vw=Nw×Dw×π
の式により算出する。
砥石3の周速度Vs(m/min )は、砥石3の回転数Ns(rpm )と、研削加工前の砥石直径Ds(mmφ )とに基づいて
Vs=Ns×Ds×π
の式により算出する。
砥石3及び円筒体Aの設定周速比は
Vs/Vw
の式により算出する。
【0022】
図3は周速比と表面粗さ(品質)との関係を示すグラフである。図3では周速比31以下では表面粗さが1.8以上であり、周速比38以上では表面粗さが2.0以上であったが、周速比32〜37では表面粗さが1.73以下であり、品質がよいため、この周速比32〜37の範囲を適正周速比であると設定する。
【0023】
以上の構成において、研削作業を行う場合、
1. 砥石3、円筒体Aを選択し、砥石直径及び円筒体Aの内径を測定する。
2. 砥石3、円筒体Aの諸条件を入力する。
3. 円筒体Aの回転速度を設定する。
4. 実験により得られたデータに基づいて設定された設定周速比を入力し、回転数の制御を開始するためのスイッチ18をオンにする。
5. 制御部8に入力した諸条件等を表示部9に表示し、表示部9を見て諸条件等を確認する。
6. 研削開始用のスイッチ17をオンにする。
【0024】
図4は砥石の回転数制御を行う制御部8の動作内容を示すフローチャートである。電源がオンされた後、制御部8が制御動作を開始する。円筒体Aの設定回転数Nw(rpm )と、円筒体Aの研削仕上内径Dw(mmφ )とがオペレータにより入力部16に入力され、この回転数等の諸条件が入力部16から制御部8に取込まれ(S1)、表示部9に表示される。32〜37の範囲の値がオペレータにより入力部16に設定周速比Vs/Vwとして入力され、この設定周速比Vs/Vwが入力部16から制御部8に取込まれ(S2)、表示部9に表示される。回転数制御用のスイッチ18がオンされているか否かを判定し(S3)、スイッチ18がオンされている場合、円筒体Aの回転数Nw(rpm )と、円筒体Aの研削仕上内径Dw(mmφ )とに基づいて円筒体Aの内周の周速度Vw(m/min )を Vw=Nw×Dw×π
として算出し、さらに、S2で取込んだ設定周速比Vs/Vwと円筒体Aの内周の周速度Vwとに基づいて砥石3の周速度Vsoを
Vso=Vw×(Vs/Vw)
の式により演算し、研削加工前の砥石直径Ds(mmφ )と、砥石3の周速度Vsとに基づいて砥石3の回転数Nsを
Vs/(Ds×π)
として算出し(S4)する。次いで、砥石3の回転数Nsoが許容回転数以下であるか否かを判定し(S5)、許容回転数以下でない場合、設定周速比Vs/Vwを再入力する必要があることを表示部9に表示し(S6)、S2へ戻り、入力待ちの状態になる。S5において許容回転数以下である場合、砥石3の回転数Nsoを第2の電動モータ4の駆動回路40へ出力し、第2の電動モータ4及び砥石3の回転数Nsoを調整し(S7)、制御を終了する。この制御終了後に研削開始用のスイッチ17がオンされ、研削加工が開始される。
【0025】
図5は回転数を制御しない場合の研削力と砥石直径における切込速度との関係を示すグラフであり、図6は回転数を制御した場合の研削力と砥石直径における切込速度との関係を示すグラフである。
【0026】
図5は砥石直径(大)30.86mmφ、砥石直径(中)28.98mmφ、砥石直径(小)27.90mmφの三種類の砥石3を用いてあるが、砥石直径が大きい程研削力は大きく、砥石直径が小さい程研削力は小さく、砥石直径の違いによる研削力の差は大である。
【0027】
図6は砥石直径(大)30.86mmφ、砥石直径(中)38.98mmφ、砥石直径(小)27.90mmφの三種類の砥石3を用いてあるが、設定周速比Vs/Vwに基づいて砥石3の回転数Nsoを制御しているため、砥石直径の違いによる研削力の差は小さい。
【0028】
以上のように設定周速比Vs/Vwに基づいて砥石3の回転数Nsoを制御することにより、表面粗さを小さくすることができ、品質を向上できる。
【0029】
尚、以上説明した実施の形態では円筒体Aを被研削物とし、該被研削物を砥石3が研削することについて説明したが、その他、円筒体Aを研削するための砥石3を被研削物とし、ドレッサ6を砥石とし、該ドレッサ6からなる砥石と円筒体研削用の砥石3からなる被研削物との周速比を前記の実施の形態と同様に設定し、この設定された周速比に基づいてドレッサ6からなる砥石の回転数を前記の実施の形態と同様に制御するように構成してもよい。
【0030】
また、以上説明した実施の形態では、円筒体Aを支持する支持体1を砥石3の回転中心線と交差する方向へ移動させるように構成したが、その他、砥石3を、円筒体Aを支持する支持体1に対して砥石3の回転中心線と交差する方向へ移動させるように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る研削装置のレイアウト構成を示す模式図である。
【図2】本発明に係る研削装置の制御部のブロック図である。
【図3】本発明に係る研削装置の周速比と表面粗さとの関係を示すグラフである。
【図4】本発明に係る研削装置の回転数の制御を行う制御部の動作内容を示すフローチャートである。
【図5】本発明に係る研削装置の回転数を制御しない場合の研削力と砥石直径における切込速度との関係を示すグラフである。
【図6】本発明に係る研削装置の回転数を制御した場合の研削力と砥石直径における切込速度との関係を示すグラフである。
【図7】従来の研削装置のレイアウト構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0032】
A 円筒体(被研削物)
1 支持体
2 第1の電動モータ(移動手段)
3 砥石
4 第2の電動モータ
8 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周面を有する被研削物を回転可能に支持する支持体と、前記被研削物を回転させつつ前記円周面を研削加工する砥石と、該砥石を回転駆動する電動モータと、前記支持体又は前記砥石を該砥石の回転中心線と交差する方向へ移動させる移動手段とを備えた研削装置において、前記砥石及び前記被研削物の周速比を設定する手段と、該手段により設定された周速比に基づいて前記砥石の回転数を制御する制御部とを備えることを特徴とする研削装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記手段により設定された周速比に基づいて回転数を演算する手段と、該手段により演算された回転数を前記電動モータの駆動回路へ出力する手段とを有する請求項1記載の研削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−88264(P2006−88264A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−276180(P2004−276180)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】