説明

砥粒固着ドリル及びその製造方法

【課題】電着ドリルの刃先部への切粉の付着による破損を減少する。
【解決手段】本発明の砥粒固着ドリルは、回転軸の先端部に設けられて対象部材を切削する刃先(17)を含む刃先部(12)と、回転軸の後端部に設けられて回転力が付与されるシャンク部(11)と、刃先部に刃先からシャンク部に向かって回転軸回りに螺旋状に形成されて刃先(17)で発生する切屑をシャンク部側に排出する螺旋状溝(14)と、刃先部(12)に砥粒を固着してなる砥粒層(30)と、を備える砥粒固着ドリルであって、螺旋状溝(14)の少なくとも刃先(17)近傍の溝内(16)には砥粒層(30)が存在しない、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドリルに関するものであり、より詳しくはダイヤモンドなどの砥粒を刃先部に電着して、ガラスやシリコンなどの硬く脆い材料の切削に好適なドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスやシリコンなどの脆性材料の加工はその加工時間の短さ、設備投資の抑制面から「超音波加工」から「機械加工」に移行しつつある。
【0003】
ガラスやシリコンなどの機械加工において、ドリルにダイヤモンド砥粒などをニッケルめっきなどで固着した工具(以下、「電着ドリル」という。)が使用されることが多い。例えば、特開2010−17611号公報(特許文献1)の図2には、厚さ約7mmのシリコンウエハを加工して円筒状のシリコンチューブを多数形成する例が示されている。このような、シリコンチューブの形成には穴あけ加工に電着ドリルが使用されている。例えば、特開平11−165313号公報(特許文献2)にはダイヤモンド電着ドリルの例が紹介されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−17611号公報
【特許文献2】特開平11−165313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、電着ドリルを使用することによって硬脆性材料を切削し、穴あけ加工をすることができる。
【0006】
しかしながら、シリコンの切削などでは切粉が微細化し、ドリルの刃先部の電着の凹凸面に付着する。このため、通常切削の際に用いるドリルへの加工クーラントのかけ流しでは切粉の排出効率が悪くなる。その結果、電着ドリルの刃先部の破断などが生じてドリルの寿命を短くする。これでは機械加工の利点が生かせない。
【0007】
よって、本発明は、電着ドリルの刃先部への切粉の付着による破損を減少することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成する本発明の態様の一つの砥粒固着ドリルは、回転軸の先端部に設けられて対象部材を切削する刃先を含む刃先部と、上記回転軸の後端部に設けられて回転力が付与されるシャンク部と、上記刃先部に上記刃先から上記シャンク部に向かって上記回転軸回りに螺旋状に形成されて上記刃先で発生する切屑を上記シャンク部側に排出する螺旋状溝と、上記刃先部に砥粒を固着してなる砥粒層と、を備える砥粒固着ドリルであって、上記螺旋状溝の少なくとも上記刃先近傍の溝内には上記砥粒層が存在しない、ことを特徴とする。
【0009】
かかる構成とすることによって砥粒固着ドリルの刃先付近の螺旋状溝(切粉を排出する逃げ溝)内に(砥粒層が存在することによって)切粉が付着して切粉の排出が出来なくなることを回避することができる。切粉の排出が出来なくなると、切刃の砥粒の脱落、ドリル刃の破損などが生じ得る。
【0010】
好ましくは、上記刃先部の上記螺旋状溝の溝内面に上記砥粒層が存在しない構成とする。それにより、切粉の逃げ溝となる螺旋状溝に(砥粒層によって)切粉が付着することを回避することが可能となる。
【0011】
好ましくは、上記砥粒はダイヤモンドやアルミナなどの硬質砥粒であり、電着によって上記刃先部に固着されて上記砥粒層を形成する。それにより、シリコン、ガラス、グラファイトなどの脆性材料を切削(機械加工)することができる。
【0012】
好ましくは、上記螺旋状溝内の砥粒層の非形成領域の長さは周期的なドリルの洗浄間隔に対応して設定される。それにより、螺旋状溝の一部の砥粒層が除去されている場合に、切粉が螺旋溝内の残りの砥粒層に至る前に除去される。
【0013】
また、本発明の一態様は、砥粒固着ドリルの製造方法において、(1) ドリルの螺旋状溝の内壁面を絶縁膜で被覆する過程と、(2) 上記ドリルの露出している表面にニッケル電着法によって硬質砥粒を固着する過程と、(3) 上記ドリルの螺旋状溝から上記絶縁膜の被覆を剥離する過程と、を含む。
【0014】
かかる構成とすることによって、刃先部のドリル表面に硬質砥粒を固着すると共に切粉を回収する螺旋溝に砥粒が存在しない砥粒固着ドリルを得ることができる。
【0015】
好ましくは、上記絶縁膜が、絶縁性酸化膜、絶縁性樹脂膜、絶縁テープのうちの少なくともいずれかである。それにより、螺旋溝内への砥粒の固着を妨げることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ドリルの刃先部の表面に砥粒を固着した砥粒固着ドリルにおいて切粉を移動する螺旋溝内には砥粒層を含まない構造としたので溝内への切粉の付着が減少し、電着ドリルの刃先部への切粉の付着による破損を減少することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例のドリルを説明する説明図である。
【図2】実施例のドリルの先端(切刃)部を説明する説明図である。
【図3】本発明の他の実施例を説明する説明図である。
【図4】実施例のドリルの使用結果を説明する説明図である。
【図5】比較例のドリルの使用結果を説明する説明図である。
【図6】参考例のドリルを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、発明の実施形態を通じて本発明を説明する。各図において、対応する部分には同一符号を付し、かかる部分の説明は省略する。
【0019】
(実施例の要点)
本発明では、ドリルの螺旋状の溝(逃げ溝)にダイヤモンドなどの砥粒のない電着ドリルとする。電着による逃げ溝部の凹凸をなくすことで、逃げ溝に付着する切粉を抑制することが可能となり、結果的に切刃の電着を破損することなく加工が可能となる。また、製造方法としては、通常通りにドリル全体に砥粒をニッケルめっきで電着した後、逃げ溝部の電着砥粒を取り除くか、逃げ溝部にあらかじめマスキングを行い、ニッケルめっきそのものが載らないようにする。なお、電着はニッケルめっきに限定されるものではない。
【0020】
(実施例1)
図1は本発明の実施例の砥粒固着ドリルの正面図、図2はその底面図であり、ドリルを刃先側から見た状態を示している。両図中、螺旋状溝14に相当する部分は斜線で示されている。また、砥粒層30に相当する部分は梨地で示めされている。
【0021】
図1及び図2に示すように、本実施形態によるドリルはドリルの回転軸を中心とした略円柱状に形成されており、その後端側(図1の上方向に相当する。)部分は図示しない工作機械の回転軸に把持されるシャンク部11となっている。また、ドリルの先端側(図1の下方向に相当する。)部分は刃先部12となっている。刃先部の12の先端には対象物を切削加工する刃先17a、17bが設けられている。
【0022】
刃先部12の外周には、この刃先部12の先端に位置する刃先17a,17bから回転軸の後端側に向かう一対の螺旋状の溝(切屑排出溝)14a,14bが、回転軸に対して対称に形成されている。これら螺旋状溝14a,14bの内周面15a,15bにおけるドリル回転方向T前方側を向く部分の先端側がすくい面16a,16bとなっている。切刃17a,17bには所定の先端角、例えば、120度、90度などの角度が付されている。
【0023】
刃先部12における一対の螺旋状溝14a,14bを除いた外周面、すなわち円柱状の刃先部12における螺旋状の外周面であるランド部19は、回転軸を中心とした断面略円弧状をなすマージン部20と、このマージン部20のドリル回転方向Tの後方側に連なり、マージン部20の断面がなす円弧よりも一段小さい外径を有する軸線を中心とした断面略円弧状をなす二番取り面21と、を含んで構成されている(図2参照)。
【0024】
図1に梨地で示すように、ドリル先端の切刃部にダイヤモンドなどの硬質材料を砥粒として固着した砥粒層30が形成される。砥粒層30は、切刃17a,17bを含むドリルの選択部全体(図2参照)、ランド部19に形成されている。しかし、切刃17a,17b直後のすくい面16、螺旋状溝14の内周面15には砥粒層30は設けられていない。後述するように、砥粒層30は、ダイヤモンド、アルミナなどの硬質物資をニッケル電着法で螺旋状の溝部(切屑排出溝)15を除くドリル表面(刃先部)に形成している。
【0025】
このような切屑(あるいは切粉)を排出する溝に砥粒層を設けないことによって螺旋状の溝部14の内壁(内周面)に切屑(あるいは切粉)の付着を回避することができる。
【0026】
なお、ドリルにおける刃先部12の表面全体、すなわち、刃先部12の外周面であるランド部19の表面、螺旋状溝14の内周面15、刃先部12の表面全体に対して、TiC、TiN、TiCN、TiAlN等の1種または複数種の硬質皮膜を被覆することができる。例えば、特開2004−299017号公報に記載のポリッシュ加工技術を適用することができる。
【0027】
このように、切屑排出抵抗を小さくすることができているため、切屑詰まりの発生を防止して、切屑を円滑に加工穴から排出することが可能となり、切屑詰まりに起因する刃先部12の折損などが生じることもなく、確実かつ安定した穴明け加工を継続することができる。
【0028】
(実施例2)
図3は、本発明の第2の実施例を示している。この例においては、第1の実施例よりも刃先部12のより広い範囲で砥粒層30の電着が行われている。そして、螺旋状溝14全体ではなく、螺旋状の溝の刃先から後方にある距離の範囲だけ砥粒層を溝内には形成しないようにしている。脆性材料をドリルにクーラントを付与しながら切削するときに、ドリルで切削された切粉が螺旋状溝の内面に沿ってシャンク部11側に移動するが、次に脆性材料からドリルを抜いて洗浄をするまでの間、間に合う程度の移動距離に螺旋状溝内の砥粒層が除かれていれば刃先の破損は回避され得る。
なお、脆性材料からドリルを抜いて洗浄をするまでの時間周期(洗浄間隔)は、加工穴の深さおよび脆性材料の種類・加工環境の温度などの加工条件を考慮して決定することが好ましい。
【0029】
(実施例3)
螺旋状溝に砥粒層のない砥粒固着ドリルの製造方法について説明する。
【0030】
(1) 砥粒層を除去する方法
このような砥粒固着ドリルは、例えば、図6に示すように、市販されているドリルの先端部の領域全体(切刃17、ランド部19、螺旋溝14など)にダイヤモンドの砥粒を電着して砥粒層30を形成する。その後、ドリルの切刃17、ランド部19など(螺旋溝以外の部分)をマスキングし、研磨材を吹き付けるサンドブラスター処理によって螺旋状溝の部分の砥粒層30を除去する。それにより、図1に示すような、螺旋状溝の部分に砥粒層30のない砥粒固着ドリルを得ることができる。
【0031】
(2) 砥粒層を形成しない方法
上記の方法の他に、実施例の砥粒固着ドリルは、ダイヤモンドなどの硬質砥粒を電着法によってドリルに固着する際に、ドリルの螺旋溝を絶縁材でマスキングすることによっても得ることができる。この砥粒固着ドリルの製造方法は、概略、(1)ドリルの螺旋状溝の内壁面を絶縁膜で被覆する過程と、(2)上記ドリルの露出している表面にニッケル電着法によって硬質砥粒を固着する過程と、(3)上記ドリルの螺旋状溝から上記絶縁膜の被覆を剥離する過程と、を含む。
【0032】
例えば、市販(あるいは公知)のドリルを洗浄して表面を清浄にする。次に、ドリルの螺旋状溝部14に刃先17のエッジの部分から柄部11に向かって絶縁テープを張ってマスキングを行う。次に、ニッケル電着法によってダイヤモンドなどの硬質砥粒をドリル先端部に固着する。ニッケル電着法による砥粒の固着については公知の技術(例えば、特開平9−66468号公報)を使用することが出来る。次に、マスキングテープを取り除いてドリルの螺旋状溝を露出する。それにより、図1に示すような、螺旋状溝の部分に砥粒層30のない砥粒固着ドリルを得ることができる。
【0033】
マスキングは、マスキングテープを用いる場合の他、アクリル系の樹脂などを螺旋状溝に塗布し、電着の後にアルカリ液などに浸漬して取り除いても良い。また、フォトレジスト(樹脂)を用いてマスキングを行い、電着後に現像処理して除去しても良い。
【0034】
(3) 溝内への絶縁性膜のコーテイング
ドリルの螺旋状の溝の表面に絶縁性の膜(硬質皮膜)をコーテイングしても上述のマスキングテープと同様の効果を得ることができる。例えば、導電性の低い、窒化チタン、炭化チタンなどのチタン化合物、酸化鉄などの絶縁性の(金属)酸化物膜などを螺旋状の溝の内面にコーテイングすることで電着の際に溝内に砥粒が固着されることを回避可能である。
【0035】
(参考例)
図6は、ドリルの刃先部の先端部全体に砥粒層30を電着した参考例を示している。同図において、図1と対応する部分には同一符号を付している。螺旋状の溝14内への砥粒層30の有無以外に図1との違いがないので説明を省略する。
【0036】
(効果の比較説明)
図4及び図5は、実施例の効果を説明する図である。
図4(A)は電着ドリルの螺旋状溝から砥粒を除いたドリルの研削加工使用前の状態を示している。
図4(B)は電着ドリルの研削加工使用後の状態を示している。ドリルの直径は1.3mmである。この研削加工では、ドリルにクーラントを与えながら8mmの厚さのシリコン板に297個の穴を開口して一枚のウエハの加工を終えた。ドリルの刃先のすくい面16には、切粉の付着は少なく、ドリルの刃先に破損は生じていない。
【0037】
図5(A)は、電着ドリルの螺旋状溝から砥粒を除かないドリルの研削加工使用前の状態を示している。ドリル他の条件は図4の場合と同じである。
図5(B)は電着ドリルの研削加工使用後の状態を示している。ドリルの刃先のすくい面16には切粉が多く付着している。研削加工を継続すると、ウエハの厚さの約1/3まで切削したところで刃先が破損した。刃先には砥粒層(ダイヤモンド電着)が全く残っていなかった(図5(C))。ドリルにクーラントをかけ流しても、ドリルは回転しているため逃げ溝に付着してしまった切粉を落とすのは困難である。
【0038】
このように、ドリルの螺旋状溝内に砥粒層を形成しないことで切刃部分(すくい面16など)への切粉の付着を防ぎ、切刃で切削された切粉の回収(移動)をよくすることができる。
【0039】
上記発明の実施の形態を通じて説明された実施例は、用途に応じて適宜に組み合わせて、又は変更若しくは改良を加えて用いることができ、本発明は上述した実施形態の記載に限定されるものではない。そのような組み合わせ又は変更若しくは改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明を適用することによって、ドリルの寿命延長によるコスト削減、加工時間の短縮、ドリルドレッシング(ドリルの目立て研磨)の削減などをはかることが可能となる。
【符号の説明】
【0041】
11 シャンク(柄)部
12 刃先部
14,14a,14b 螺旋状溝(切屑排出溝)
15,15a,15b 螺旋状溝の内周面
16,16a,16b すくい面
17,17a,17b 切刃
19 ランド部
20 マージン部
21 二番取り面
30 砥粒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の先端部に設けられて対象部材を切削する刃先を含む刃先部と、
前記回転軸の後端部に設けられて回転力が付与されるシャンク部と、
前記刃先部に前記刃先から前記シャンク部に向かって前記回転軸回りに螺旋状に形成されて前記刃先で発生する切屑を前記シャンク部側に排出する螺旋状溝と、
前記刃先部に砥粒を固着してなる砥粒層と、を備える砥粒固着ドリルであって、
前記螺旋状溝の少なくとも前記刃先近傍の溝内には前記砥粒層が存在しない、
ことを特徴とする砥粒固着ドリル。
【請求項2】
前記刃先部の前記螺旋状溝の溝内面に前記砥粒層が存在しない、ことを特徴とする請求項1に記載の砥粒固着ドリル。
【請求項3】
前記砥粒はダイヤモンドやアルミナなどの硬質の砥粒であり、電着によって前記刃先部に固着されて前記砥粒層を形成する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の砥粒固着ドリル。
【請求項4】
前記螺旋状溝内の砥粒層の非形成領域の長さは周期的なドリルの洗浄間隔に対応して設定される、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の砥粒固着ドリル。
【請求項5】
砥粒固着ドリルの製造方法であって、
(1) ドリルの螺旋状溝の内壁面を絶縁膜で被覆する過程と、
(2) 前記ドリルの露出している表面にニッケル電着法によってダイヤモンド砥粒を固着する過程と、
(3) 前記ドリルの螺旋状溝から前記絶縁被覆を剥離する過程と、
を備える砥粒固着ドリルの製造法。
【請求項6】
前記絶縁膜が、絶縁性酸化膜、絶縁性樹脂膜、絶縁テープのうちの少なくともいずれかである、請求項5に記載の電着ドリルの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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