説明

破損容器の修復方法

【課題】 本発明は、脆性素材からなる容器の破損箇所を、優れた作業性で、かつ意匠性及び物理性能が優れた修復容器に修復する方法を提供するものである。
【解決手段】 本発明は、脆性素材からなる容器の破損箇所を、補填成分によって形状を回復させる工程、補填箇所に転写シールを貼付する工程および焼成する工程を含む容器の修復方法を提供する。本発明の修復方法は、脆性素材からなる容器、特に業務用の食器の破損箇所の修復に好適に適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、破損容器の修復方法の修復方法に関する。さらに詳しくは、本発明は陶磁器製やガラス製などの脆性材質からなる破損容器の修復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
身の回りで使用される食器などの容器に於いて、陶磁器、ガラスなどの脆性を特性とした素材によるものは少なくない。そのような容器は、脆性素材であるが故に衝撃や熱により破壊されることは少なくない。その様な食器・容器の破壊に関し、容器縁部分に対する打撃等の衝撃により、同部分に欠け状の破損が生じ、その破損が基となって容器の破壊に至ることも少なくない。
【0003】
この様な破損に対し、釉薬やガラス成分を盛り焼成して修復する手法は、従来より行われており、そのような手法を改善する提案もなされている(例えば特許文献1)。しかしながら、この様な手法では、外観に破損状況がそのまま現れてしまう事が多く、意匠的に不自然であったり外観を損ねる事が少なくない。さらに、修復における釉薬やガラス成分を盛る過程で、破損前と同様の形状に近づける事は困難であり、作業性で大きな課題となっていた。
【0004】
一方、破損容器の修復には、古来より漆・膠・紙・金・銀を用いたり、蒔絵等の技法を使って修復する「繕い」・「接ぎ」・「継ぎ」の伝統技法がある。このような修復方法は意匠的には優れた評価が得られるが、高度の熟練技術と長い作業時間を要するために実用的でない上に、修復材料と容器素材の物性が大きく違うため、業務用の食器などの容器用の修復方法としての使用することは難しい。
【0005】
また、破損容器の修復としては、樹脂系パテや、珪酸系の非加熱硬化成分を盛っただけの修復方法も見られるが、修復の作業性、修復後の容器の意匠性や物性性能などの点で十分とは言い難いものであった。
【0006】
【特許文献1】特開2003−335584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、従来技術における欠点を改善すべく、脆性素材からなる容器の破損箇所を修復するにあたり、修復の作業性がよく、かつ修復された容器の意匠性及び物理性能が優れている満足を方法の開発を行った結果本発明に到達した。
本発明は、脆性素材からなる容器、特に業務用の食器の破損箇所を、優れた作業性で、かつ意匠性及び物理性能が優れた修復容器に修復する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、脆性素材からなる容器の破損箇所を、補填成分によって形状を回復させる工程、補填箇所に転写シールを貼付する工程および焼成する工程を含む容器の修復方法を提供する。
【0009】
前記脆性素材が陶磁器またはガラスである、前記した修復方法は、本発明の好ましい態様である。
前記補填成分が珪石、カオリン、粘土、長石、陶石、灰類、石灰、亜鉛華およびタルクから選ばれた成分を基材とするものである、前記した修復方法は、本発明の好ましい態様である。
また、前記容器が食器である前記した修復方法は、本発明の好ましい態様である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、脆性素材からなる容器、特に業務用の食器の破損箇所を、優れた作業性で、優れた意匠性及び物理性能を有する容器に修復する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、脆性素材からなる容器の破損箇所を、補填成分によって形状を回復させる工程、補填箇所に転写シールを貼付する工程および焼成する工程を含む容器の修復方法を提供するものである。
【0012】
脆性素材としては、陶磁器、ガラス、セラミクスなどを挙げることができる。特に容器として業務用の食器を考えるとき、陶磁器またはガラスを好ましいものとして挙げることができる。
【0013】
容器の破損箇所を補填成分によって形状を回復させる形状の補填は、容器において破損した部分の形状を補填成分により補い、原形状に回復させるものであって、修復後の形状を自然に見せることを目的とするものである。補填に用いる成分としては、釉薬やガラス成分・配土成分を主成分とするものが好ましい。補填成分は流動体もしくはペースト状であることが好ましい。
【0014】
容器が陶磁器製である場合、補填成分として粉体である釉薬原料を水で練ったものか泥漿状にしたものが汎用性が高いので好ましい。容器の破損部分が大きい場合には、セルベン・シャモット等の焼成体の粉末を混ぜてもよい。
【0015】
容器がガラス製である場合、補填成分としてガラス粉体を水・油等の流動体で練ったもの、または珪酸ソーダーなどの珪酸化合物を主体としたものをペースト状にしたものが汎用性が高いので好ましい。
【0016】
陶磁器製容器用に好ましい補填成分の例として、珪石、カオリン、粘土、長石、陶石、灰類、石灰、亜鉛華、タルクなどの混合物を基材とし、それにケイ酸、アルミナおよびアルカリ類(カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム)などの化学物質を含有させたものを挙げることができる。
【0017】
本発明の転写シールは、台紙などの基材の上に、柄等の意匠を施すための顔料、コーティング用のガラス成分、樹脂成分などが層を形成するようにシート状に加工されていて、使用に際して基材を予め剥がしてシート状物を貼付するか、貼ってから基材を剥がすことによってシート状物を貼付できるようにしたものである。本発明の転写シールを貼付する工程とは、このような利用方法によって該シート状物を貼付することをいう。
転写シールの役割は、破損部分を隠したり、破損部分を効果的に見せて修復陽気の意匠的価値を高めることにある。
【0018】
また転写シールの別の役割として、転写シールはシート状であるため、硬化していない補填剤の上に被せることで、補填剤の形状をなだらかに整えることができることがある。多くの食器などの容器形状において、緩やかな曲面が大きな割合を占めるので、転写シールによって付与される平面性・直線性が、補修後形状を自然に整えるのに有効に働く。
【0019】
転写シールにより、補填した面が生地と自然でかつ連続な形状に修復できることので、転写シールを貼るタイミングは、乾燥または酸化・加水等によって補填成分が固化していないときが好ましい。
本発明の転写シールとして、従来の陶磁器におけるイングレーズ用の転写シールを用いることも可能である。陶磁器・強化磁器に用いる場合、耐高温焼成である顔料を用いたイングレーズ用の転写シールであることが好ましい。
また、本発明の転写シールには柄は必須ではなく、柄が無くてもよい。
【0020】
本発明の転写シールは、顔料保護と同時に顔料の媒体となる硝子層と、意匠を目的とした顔料層との2種類の層構造から構成されていることが好ましいが、これに限定されるものではない。また、顔料層が形成されている場合、顔料の色数に応じて複数層で構成されていてもよい。本発明の転写シールは、上記2種類の層に加えて、形状補填を目的として硝子成分の層を加えた3種類の層構造から構成されていてもよい。
【0021】
また、転写シールは、通常の顔料を用いずに、形状の補填または、損傷部のコーティングを目的として釉薬または硝子フリットを配合したものであってもよい。この時、配合される釉薬または硝子フリットに顔料または発色性の金属イオンが含まれていてもよい。
【0022】
本発明において焼成工程の前に修復する容器を乾燥する工程があってもよい。乾燥工程は破損容器の形状の補填後、容器を乾燥させる工程であって、乾燥方法には特に制限はなく、従前公知の乾燥方法を適宜選択して採用することができる。
【0023】
本願発明の焼成工程における、焼結の条件は、修復後の強度等の物性の観点から、容器素材の焼結温度・熱量と同等であることが好ましい。しかし焼成後に於ける補填成分の熱膨張・硬度・融点などの物性によっては、容器素材の焼結温度・熱量を下回る条件で焼成を行ってもかまわない。
ガラス製容器の修復に於ける焼成に関しては、焼成後半もしくは焼成後に、徐冷の工程を設けることが望ましい。
【0024】
容器の破損が微少である場合、転写シールにおけるガラス成分をもって欠けた部分の窪みを目立たぬよう補うことができるので、転写シールを本発明の補填成分とすることができる。この場合、補填成分によって原形状に回復させる工程と、補填箇所に転写シールを貼付する工程とを、破損箇所に転写シールを貼付することによって同時に行わせることになるが、このような態様も本発明の実施態様である。
【0025】
本発明の修復方法は、打撃等の衝撃により同部分へ生じる小さな欠け状の破損(チップ)に対しては、特に有効である。業務用食器などの容器においては、脆性素材であるために衝撃に弱くチップ破損を含む縁部の欠けが発生しやすく、そのチップ破損が容器の破損へと繋がる傾向があるので、本発明はこのような容器の破壊を防止するのに有効である。
【0026】
図1には、陶磁器製食器の破損箇所を示す部分写真が示されている。このような破損箇所を修復する手順が図2の概略図によって示されているが、破損箇所は補填成分によって形状を回復させ、続いて補填箇所に転写シールを貼付することによって形状が整えられるて、その後焼成して修復食器とされる。修復後の食器は図3に示されるように、破損箇所がきれいに修復されているとともに、転写シールによって花柄が付されていて美観をも付与されていることがわかる。
【0027】
図4は、補填成分によって原形状に回復させる工程と、補填箇所に転写シールを貼付する工程とを、破損箇所に転写シールを貼付することによって同時に行わせることによって修復された修復後の食器が示されているが、この場合にもきれいに修復されていることがわかる。
【0028】
また、本発明の補填成分を、生地や釉を適宜選択して使用することによって意匠的な効果を演出することが可能である。
【実施例】
【0029】
以下に本特許を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものでない。
【0030】
(実施例1、2、参考例)
直径133mmのボウル形状の学校給食用アルミナ強化磁器製食器を試験食器として用い、その縁部において破損部の最大長さ4mm程度のチップ破損をさせ、破損部に強化磁器用釉薬を水で溶いたものを補填成分として盛って形状を回復させた。
補填用釉薬が乾かぬうちに、イングレース用転写シールを補填用釉薬の形を整えながら破損該当部に貼った。乾燥後強化磁器の本焼成温度1300℃で焼成した。
修復後の試験食器(第1法:実施例1、第2法:実施例2)と、未破損品(参考例)について、下記の試験法で縁部に対する衝撃試験を行った。修復後の試験食器は未破損品に対し平均強度で同等程度の強度を保つことが確認された。測定結果を下記表1に示した。
【0031】
衝撃試験法
ASTM C368−88に準拠とした深型容器のリムに対する衝撃試験(リムインパクト試験)を行った。試験機は、衝撃試験機RA-112(リサーチアシスト有限会社製)を用いた。
試験検体数5個以上での測定とした。
衝撃試験に於ける打点は、2つの方法で行った。1つは、食器内部に最も引っ張り応力がかかると推定される打点位置に修復箇所を一致させる方法(第1法)である。もう一つは、食器外部に最も引っ張り応力がかかると推定される打点位置から10〜15mm程度の距離の円周上に、修復箇所を一致させる方法(第2法)である。
【0032】
【表1】

【0033】
(実施例3)
実施例1で用いたその縁部において破損部の最大長さ4mm程度のチップ破損をさせた学校給食用アルミナ強化磁器製食器の破損箇所に、イングレース用転写シール[高温度用顔料・硝子成分の層と、PVOH(ポリビニルアルコール)系のフィルムの層がシート状に形成されているもの]を破損該当部に貼った後、強化磁器の本焼成温度1300℃で焼成した。この例は補填成分の働きをイングレース用転写シールによって実施した例である。焼成後の食器は、図4に示すように、破損箇所が修復されたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によって提供される修復方法は、脆性素材からなる容器の破損箇所を、優れた作業性で、優れた意匠性及び物理性能を有する容器に修復する方法である。
本発明によって提供される修復方法は、特に業務用の食器の修復に好適に適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1の強化磁器食器の破損箇所を示す部分図である。
【図2】本発明の修復方法を説明する概略図である。
【図3】実施例1において修復された食器の修復箇所を示す部分図である。
【図4】実施例4において修復された食器の修復箇所を示す部分図である。
【符号の説明】
【0036】
1.容器
2.破損箇所
3.補填成分
4.転写シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性素材からなる容器の破損箇所を、補填成分によって形状を回復させる工程、補填箇所に転写シールを貼付する工程および焼成する工程を含む容器の修復方法。
【請求項2】
前記脆性素材が陶磁器またはガラスである、請求項1に記載の修復方法。
【請求項3】
前記補填成分が珪石、カオリン、粘土、長石、陶石、灰類、石灰、亜鉛華およびタルクから選ばれた成分を基材とするものである、請求項1または2に記載の修復方法。
【請求項4】
前記容器が食器である請求項1〜3のいずれかに記載の修復方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−263163(P2009−263163A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114662(P2008−114662)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000176176)三信化工株式会社 (34)
【Fターム(参考)】