説明

硫化処理された酸化鉄を用いた水銀除去用吸着剤およびその製造方法

【課題】酸化鉄を硫化処理して硫黄を蓄積した後、気相水銀を除去する吸着剤およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】硫化処理ガスの全体積を基準として硫黄化合物0.001〜2体積%、酸素1〜50体積%およびキャリアガス48.0〜98.999体積%からなる硫化処理ガスで硫化処理された酸化鉄を含む水銀除去用吸着剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水銀を吸着除去する水銀除去用吸着剤に係り、さらに詳しくは、硫黄化合物および酸素を含む硫化処理ガスで硫化処理された酸化鉄を用いた水銀除去用吸着剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業革命以後、産業化の加速化に伴って環境問題が急速に深化してきている。特に、汚染排出源から排出される重金属は、大きい憂慮を生んでいる。その中でも、水銀は、他の重金属とは異なる高い揮発性、強い有害性および体内への蓄積特性によりさらに関心の対象となる汚染物質であって、燃焼装置から大気中に排出される場合、粒子状に排出される他の重金属とは異なり、元素状態である気体状に主に排出されるものと知られている。
【0003】
現在、水銀を除去する方法として、EPA(The U.S Environmental Protection Agency)の発表資料によれば、活性炭噴霧法(Activated carbon injection)、カーボンフィルタ層(Carbon filter beds)、セレニウムフィルタ法(Selenium filters)、添着活性炭吸着法(Treated activated carbon adsorption)、水処理(Wet scrubbing)などがあり、この中でも活性炭を用いた方法が多く研究されている。ところが、この方法は、1gの水銀を除去するために約100,000gの活性炭を使用しなければならないので高いコストがかかり、物理吸着された水銀が活性炭から脱着するおそれがあるうえ、独立した場所に密閉、埋め立てさせなければならないなどの問題点がある。
【0004】
水銀の除去に硫黄を用いる方法はいろんな研究者によって研究されており、酸化物または水酸化物上に硫黄を添加する研究も盛んに行われている。活性炭に硫黄を添着させる方法だけでなく、最近は、メソポーラス物質に硫黄を添着させて水銀を除去しようとする方法も開発されている。ところが、この方法は、価格が高くて商用化には限界がある。
【0005】
したがって、本特許では、酸化物のうち低価で生産可能な鉄酸化物を水銀吸着剤として使用しようとし、且つ鉄酸化物自体は水銀を吸着する能力が劣るから硫黄処理によって水銀吸着性能を極大化しようとする。
【0006】
硫黄処理の観点によれば、焼却炉、埋め立て発電所などの産業場から有害な硫黄水素を排出する。この硫黄水素は、大気汚染物質として大気中に排出する際には、排出規制値に合わせて除去した後、排気させなければならない。このような硫黄水素を除去する吸着剤として鉄酸化物を用いることができ、その結果、自然に鉄酸化物に硫黄を添着させることができる。そのような原理を利用すると、低価の鉄酸化物を硫黄処理するにおいて大気汚染物質を除去する相乗効果をもたらすと共に、後で廃吸着剤をさらに水銀吸着剤として使用することが可能な資源リサイクルの効果ももたらすことができる。
【0007】
一方、近年、環境保存と資源リサイクルに対する関心が集中しながら、様々な産業廃棄物のリサイクルに対する関心が高まっているが、特に産業廃棄物発生量の中で高い比重を占めている廃棄物酸化鉄のリサイクルに対する関心は高いが、リサイクルに対する技術開発の微々によって全量埋め立てによる資源の浪費が激しい実情である。
【0008】
特に、硫酸第一鉄および硫酸第二鉄は、主に加水分解またはアルカリで処理して酸化鉄顔料として製造されるか、それ自体を廃水処理の凝集剤として用い、場合によっては磁性材料および亜鉄酸塩(ferrite)として用いられているが、鉄鋼および二酸化チタニウムの製造工程から発生する硫酸第一鉄および硫酸第二鉄の量に比べてその需要量および需要先が足りないため、廃棄処分される量が多量であるという問題点があり、これによりポリ硫酸第二鉄の場合、45ウォン/Kgの低価で取引されている実情である。このようなポリ硫酸第二鉄溶液の組成を表1に示す。
【0009】
【表1】

【0010】
前記酸化鉄は、通常、製鉄工程で熱延鋼板を冷延鋼板に製造するために、表面のスケールおよび汚染物質を18%の塩酸で洗浄する工程から発生した溶液を処理する途中で副産物として発生し、或いは酸化チタンを硫酸法で製造する工程から発生するポリ硫酸第二鉄から製造できる。
【0011】
【特許文献1】欧州特許 EP 1 308 198 (B1)
【特許文献2】米国特許 US 6,328,939 (B1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明者らは、水銀を除去する際に、低価で供給可能な鉄酸化物を合成し、その鉄酸化物を硫化させることにより、水銀吸着剤として使用可能であるという点に着目し、本発明を完成した。
本発明は、上述した問題点を克服するために導出されたもので、その目的とするところは、硫黄化合物及び酸素を含む硫化処理ガスで硫化処理された酸酸化物を含む水銀除去用吸着剤およびその製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、前記鉄酸化物として、イルメナイトを用いた酸化チタンの製造工程などで製造されるポリ硫酸第二鉄から酸化鉄を合成し、前記合成された酸化鉄を硫化処理することにより、排ガスに含まれている水銀を吸着除去することが可能な水銀除去用吸着剤およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明のある観点によれば、硫化処理ガスの全体積を基準として硫黄化合物0.001〜2体積%、酸素1〜50体積%およびキャリアガス48.0〜98.999体積%からなる硫化処理ガスで硫化処理された酸化鉄を含む水銀除去用吸着剤を提供する。
【0015】
本発明の他の観点によれば、酸化鉄を、硫化処理ガスの全体積を基準として硫黄化合物0.001〜2体積%、酸素1〜50体積%およびキャリアガス48〜98.999体積%からなる硫化処理ガスで硫化処理したことを含む、水銀除去用吸着剤の製造方法を提供する。
【0016】
本発明に係る水銀除去用吸着剤によって処理される水銀は、一般な気相水銀を意味するが、好ましくは排ガス、特に好ましくは発電所、焼却炉などから排出される排ガスに含まれている気相水銀、または水銀を使用する水銀電池などの電池、水銀蛍光灯などの蛍光灯、または歯科のアマルガムなどから排出される気相水銀を意味し、特定的に前記気相水銀のうちHg、HgCl、HgClを含む気相水銀を意味する。
ここで、前記Hgは純粋なHg、すなわち元素水銀を意味する。
【0017】
本発明に係る水銀除去用吸着剤を構成する鉄酸化物は、硫化処理されて吸着剤として使用できるものであればいずれの酸化鉄、例えばFeO、Fe(OH)、Fe(OH)、FeO(OH)、Fe、Feなどでも構わなく、好ましくは非晶質の球形粒子を持つFeO(OH)構造式を含む。
【0018】
一方、本発明に係る酸化鉄は、特定的にポリ硫酸第二鉄から製造される酸化鉄を使用することができるところ、前記ポリ硫酸第二鉄から製造される酸化鉄の製造方法をより簡略に説明すると、まず、ポリ硫酸第二鉄とアルカリ水溶液を適正の濃度で準備し、混合と攪拌によって懸濁液を製造する。製造された懸濁液から濾過と洗浄段階を経て生成物を得た後、乾燥段階を経て最終生成物としての酸化鉄を製造する。
【0019】
ここで、前記ポリ硫酸第二鉄は、当業界で通常用いられるポリ硫酸第二鉄であればいずれでも構わないが、好ましくはイルメナイトを用いて酸化チタンを製造する工程で製造されるポリ硫酸第二鉄、酸化チタンの副産物である固相の硫酸第一鉄を原料として製造されたポリ硫酸第二鉄または鉄鋼の製造工程中の酸洗工程から廃スラグの形で発生する酸化鉄(Fe)に水と硫酸を混合して製造されたポリ硫酸第二鉄であればいずれのものを使用してもよく、より好ましくはイルメナイトを用いて酸化チタンを製造する工程で製造されるポリ硫酸第二鉄を使用することが良い。
【0020】
特に、硫酸第一鉄および硫酸第二鉄を資材または顔料用として合成した酸化鉄は、吸着剤としての物性が非常に劣る。ところが、本発明の方法で鉄酸化物を製造する場合には、既存の鉄酸化物より優れた物性を持つ鉄酸化物を製造することができる。
【0021】
一方、本発明に係るアルカリ水溶液は、前記ポリ硫酸第二鉄を中和させることが可能な物質であればいずれのものを使用しても構わず、代表的に使用可能な物質は、炭酸アンモニウム[(NHCO]、重炭酸アンモニウム(NHHCO)、アンモニア(NH)、水酸化ナトリウム(NaOH)またはこれらの混合物を使用することがよく、特に好ましくは重炭酸アンモニウムまたは水酸化ナトリウムを使用することがよい。
【0022】
一方、本発明に係る水銀除去用吸着剤は、ポリ硫酸第二鉄から製造される酸化鉄を硫黄含有ガスに接触させて硫化鉄および元素硫黄を生成する。ここで、前記形成された硫化鉄および元素硫黄は、気相水銀と反応して硫化水銀(HgS)を形成する。
【0023】
本発明に係る酸化鉄を硫黄処理して硫化鉄を形成するための方法は、酸化鉄を、硫黄化合物および酸素を含むガス、すなわち硫化処理ガスに露出させる方法であればいずれの方法でも構わない。硫黄含有ガスに酸化鉄を露出させる方法として、元素硫黄を高温で気化させて酸素と共に酸化鉄に露出させることにより硫化鉄を形成させる方法、および/または酸化鉄を例えば硫化水素などのガスに酸素と共に露出させて硫化水素自体を吸着させる方法などを使用することができるが、好ましくは硫化水素および酸素の混合ガスに酸化鉄を露出させ、悪臭物質である硫化水素を処理すると同時に硫化鉄を形成させることがよい。
【0024】
ここで、前記酸化鉄を硫化処理するための硫化処理ガスは、硫化処理ガスの全体積を基準として硫黄化合物0.001〜2体積%、好ましくは約1体積%、酸素1〜50体積%、好ましくは3〜20体積%、およびキャリアガス48〜98.999体積%からなり、前記キャリアガスは、当業界で通常用いられるキャリアガス、例えば窒素および/または埋め立て発電所や精油工場、人糞処理工場、下水処理工場などから発生するガスなどを使用することがよい。
【0025】
この際、前記硫黄化合物を用いて酸化鉄を硫化処理することは発熱反応なので、前記硫黄化合物は硫化処理ガスの全体積を基準として2体積%、好ましくは約1体積%を超えないことがよい。
また、本発明に係る硫黄処理は、硫黄化合物だけでなく、酸素を共に使用して酸化鉄を処理するところ、下記反応式1よび反応式2に示すように、酸素雰囲気中で硫黄化合物 によって酸化鉄を硫化処理すると、酸化鉄は実質的に変化せず、硫黄のみが酸化鉄の空隙内に蓄積されるが(反応式1参照)、無酸素雰囲気中で硫黄化合物によって酸化鉄を処理する場合、酸化鉄が硫化鉄に変わる(反応式2)
【0026】
[反応式1]
2FeO(OH)+3HS→FeS+FeS+4H
FeS+FeS+3/2O+HO→2FeO(OH)+3S
【0027】
[反応式2]
2FeO(OH)+3HS→FeS+FeS+4H
【0028】
ここで、前記反応式1は、硫黄化合物および酸素を含む硫化処理ガスを用いて酸化鉄を硫化処理する場合の反応メカニズムを示し、前記反応式2は、酸素なしに硫黄化合物のみで酸化鉄を硫化処理する場合の反応メカニズムを示す。
【0029】
一方、本発明に係る硫化水素および酸素の混合ガス、すなわち硫化処理ガスに酸化鉄を露出させて酸化鉄を硫化処理する方法において、前記硫化水素および酸素を人為的に酸化鉄に注入させる方法もあるが、経済的な側面、および産業場から発生する廃ガスを処理する側面を考慮して、埋め立て発電所や精油工場、人糞処理工場、下水処理工場などから発生する硫化水素の移動経路に酸化鉄を露出させると同時に、前記硫化水素に露出された酸化鉄に空気を共に供給して硫化水素を吸着除去することにより、汚染源から発生する硫化水素を処理すると同時に、自然に酸化鉄を硫化処理する方法を使用することがよい。
【発明の効果】
【0030】
上述したように、本発明は、酸化鉄を硫化処理して硫黄を蓄積した後、気相水銀を除去する吸着剤を提供するという効果がある。
また、本発明は、産業現場から発生する廃棄物を用いて酸化鉄を合成し、排ガスに含まれている水銀を除去する吸着剤を製造することにより、資源をリサイクルすることができるうえ、環境汚染を減少させることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明に係る水銀除去用吸着剤の製造方法をより詳細に説明する。ここで、本発明に係る水銀除去用吸着剤として用いられる酸化鉄は、通常の酸化鉄であればいずれのものを使用しても構わないが、本発明の容易な説明のために、ポリ硫酸第二鉄から合成されて製造される酸化鉄を用いた水銀除去用吸着剤を特定して説明する。
【0032】
本発明に係る水銀除去用吸着剤を製造するためには、まず、i)ポリ硫酸第二鉄と水とを混合、攪拌してpH1〜2、濃度0.5〜1Mのポリ硫酸第二鉄水溶液を製造する段階と、ii)前記段階i)のポリ硫酸第二鉄水溶液に1〜2Mのアルカリ水溶液を連続的に滴下させてポリ硫酸第二鉄水溶液のpHを徐々に増加させることにより、懸濁液を製造する段階と、iii)前記段階ii)の懸濁液を約pH8まで増加させた後、アルカリ水溶液の滴下を中断し、pHが約8に維持されるまで約1時間攪拌する段階と、iv)前記段階iii)が終了した後、超純水を用いて沈殿物を濾過する段階と、v)前記段階iv)の沈殿物を約100〜150℃の温度で乾燥させて酸化鉄を製造する段階と、vi)前記段階v)の酸化鉄を硫化処理する段階とを含む。
【0033】
ここで、前記段階vi)の硫化処理は、硫化処理ガスの全体積を基準として硫黄化合物0.001〜2体積%、酸素1〜50体積%およびキャリアガス48〜98.999体積%からなる硫化処理ガスに酸化鉄を露出させることである。
【0034】
必要に応じて、前記段階v)と段階vi)との間、または段階vi)の後に、水銀除去用吸着剤の形態を成形する押出成形段階をさらに備えることができるが、これは、最終的に製造される水銀除去用吸着剤の使用用途および方法に応じてボール(ball)、ペレット(pellet)またはハニカム(honeycomb)の形に押出成形することであって、より詳しくは、前記段階v)によって乾燥した酸化鉄を押出成形した後、硫化処理し、或いは前記段階vi)の硫化処理が終了した後、最終的に水銀除去用吸着剤を押出成形することができ、好ましくは、乾燥した酸化鉄を押出成形した後、硫化処理することがよい。
【0035】
本発明に係るポリ硫酸水溶液に滴下するアルカリ水溶液は、前記ポリ硫酸第二鉄を中和させることが可能な物質であればいずれのものを使用しても構わないが、好ましくは炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、アンモニア、水酸化ナトリウムまたはこれらの混合物、特に好ましくは重炭酸アンモニウムを水に溶解させて1Mの濃度を持つように製造されることがよい。
【0036】
前記段階v)の沈殿物を乾燥するにおいて、前記乾燥温度は製造される酸化鉄の構造に影響を及ぼすので、前記乾燥温度を急激に上昇させるか、或いは150℃以上の温度で乾燥させる場合には、酸化鉄の構造がFeO(OH)からFeの形に製造されるので、乾燥温度を少なくとも150℃以下、好ましくは100〜150℃、特に好ましくは110〜120℃に維持すると同時に、前記沈殿物の乾燥温度を低温、好ましくは20℃から徐々に上昇させた後、高温、好ましくは100〜150℃に維持しなければならない。
【0037】
本発明によって製造された酸化鉄の押出成形によって水銀除去用吸着剤の形が決定される。よって、前記押出成形は、当業界で通常用いられる押出成形方法であればいずれのものを使用しても構わないが、好ましくは製造された酸化鉄または硫化処理された酸化鉄をミリング(milling)して微細粉末に製造し、製造された微細粉末を通常の有無機結合剤、例えばメチルセルロース(methylcellulose)、PVA(polyvinyl alcohol)、デキストリン(dextrin)などと架橋剤、例えばアルミナゾル(aluminasol)、コロイダルシリカ(colloidal silica)などと混合して押出機で成形することにより、水銀除去用吸着剤を製造する。
【0038】
前述したように製造された本発明に係る水銀除去用吸着剤は、気相水銀、好ましくは排ガスに含まれている気相水銀を吸着除去する吸着剤、またはこれと類似の汚染物質、例えば重金属などを吸着除去するものとして用いられる。
【0039】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。ところが、下記の実施例は本発明を具体的に説明するためのもので、本発明の範囲を限定するものではない。
【0040】
<実施例1>
酸化鉄の製造
11%のFe3+イオンを含有したポリ硫酸第二鉄(コスモ化学製、韓国)溶液78mLを水427mLと混合して0.5M(Fe3+基準)濃度のポリ硫酸第二鉄水溶液を製造した。
その後、製造されたポリ硫酸第二鉄水溶液のpHを1〜2に維持した後、攪拌器(CERAMAG MIDI、IKA Works、イタリア)を用いて600〜800rpmで約60分間攪拌した。
【0041】
その次、炭酸アンモニウム(ドクサン薬品製、韓国)96gを水1000mLに溶解させて沈殿剤として1Mのアルカリ水溶液を製造した後、前記ポリ硫酸第二鉄水溶液に滴下させた。
この際、前記アルカリ水溶液の滴下の際に沈殿物が生成され、生成された粒子の凝集現象が発生するので、前記ポリ硫酸第二鉄水溶液を攪拌するための攪拌器で320rpm以上の速度で強く攪拌し、アルカリ水溶液を約0.084ml/sの速度でゆっくり滴下させ、生成される沈殿物の凝集現象を抑制した。
【0042】
その後、前記ポリ硫酸第二鉄水溶液にアルカリ水溶液を滴下させるとともに、前記ポリ硫酸第二鉄水溶液のpHを約3程度に増加させて赤褐色の懸濁液を製造した。
その次に、連続的に前記アルカリ水溶液を滴下させながら赤褐色の懸濁液のpHを8となるまでゆっくり増加させ、前記懸濁液のpHが8に達すると、アルカリ水溶液の滴下を中断した後、1時間以上攪拌を持続しながらpHの変化を確認した後、懸濁液のpHが変化しなければ懸濁液の攪拌を中断した。
その後、前記懸濁液に含まれている陰イオンを除去するために、超純水を用いて沈殿物を多数回にわたって濾過し、濾過された沈殿物を約110℃の温度で乾燥させて酸化鉄22.5gを製造した。
【0043】
製造された酸化鉄の物性を測定するためにXRD(RINT2200、Rigaku、日本)およびBET(ASAP2010、Micrometrics、米国)を測定し、その結果を表2と図2に示した。
【0044】
図2に示すように、製造された酸化鉄は、結晶性が殆どない非晶質であり、BET分析結果、製造された酸化鉄の比表面積は360〜430m/gであり、気孔体積は0.24〜0.46cm/gであり、気孔直径は25〜45Åであった。
【0045】
<実施例2>
酸化鉄の製造
実施例1と同一の方法で行うが、炭酸アンモニウムを用いた1Mのアルカリ水溶液の代わりに、重炭酸アンモニウム(NHHCO)[ドクサン薬品製、韓国]を用いた1Mのアルカリ水溶液を使用した。
その結果を表2および図2に示した。
【0046】
<実施例3>
酸化鉄の製造
実施例1と同一の方法で行うが、沈殿剤として、炭酸アンモニウムを用いた1Mのアルカリ水溶液の代わりに、水酸化アンモニウム(NHOH)[ドクサン薬品製、韓国]を用いた1Mのアルカリ水溶液を使用した。
その結果を表2および図2に示した。
【0047】
<実施例4>
酸化鉄の製造
実施例1と同一の方法で行うが、炭酸アンモニウムを用いた1Mのアルカリ水溶液の代わりに、水酸化ナトリウム(NaOH)[ドクサン薬品製、韓国]を用いた1Mのアルカリ水溶液を使用した。
その結果を表2および図2に示した。
【0048】
【表2】

【0049】
<実施例5>
酸化鉄の硫化処理および硫化水素の除去
流入口と流出口が対向配置された直径36mm、高さ200mmのガラス反応器を製作した後、その内部に、実施例1によって製造された酸化鉄60cmを充填した。
その後、前記ガラス反応器の流入口に、10%HS/Nのバランスを持つ硫化水素ガスを全流量に対して2%濃度にして酸素濃度3%の空気と共に流量1,000cm/minで流入させ、酸化鉄を硫化処理することにより、水銀除去用吸着剤を製造した。
【0050】
その後、前記流出口を介して流出するガスの硫化水素濃度を検知管[4LL、Gastech、日本]で測定した。この際、漏れる硫化水素の濃度が10ppm(TLV値)時点を破壊時点とした。ここで、前記TLV(Threshold limit value)値とは、ACGIH(American Conference of Governmental industrial Hygienists, Inc.)で設定した有害ガスの漏れ程度であって、事業場から漏れる有害ガスの安定な程度を示す数値を意味する。以上の方法によって、合成された酸化鉄の硫化水素吸着性能を評価することができる。
【0051】
また、TLV値以上に漏出した後、流入口と流出口の位置を変えてさらに硫化水素を注入し、硫化処理が生じない酸化鉄の部分を縮小化し、このような方法を繰り返し行うことにより、硫化処理された水銀除去吸着剤を製造した。
その結果を表3に示した。
【0052】
<実施例6>
酸化鉄の硫化処理および硫化水素の除去
実施例5と同様の方法で行うが、実施例1によって製造された酸化鉄の代わりに、実施例2によって製造された酸化鉄を使用した。
その結果を表3に示した。
【0053】
<実施例7>
酸化鉄の硫化処理および硫化水素の除去
実施例5と同一の方法で行うが、実施例1によって製造された酸化鉄の代わりに、実施例3によって製造された酸化鉄を使用した。
その結果を表3に示した。
【0054】
<実施例8>
酸化鉄の硫化処理および硫化水素の除去
実施例5と同一の方法で行うが、実施例1によって製造された酸化鉄の代わりに、実施例4によって製造された酸化鉄を使用した。
その結果を表3に示した。
【0055】
<比較実施例1>
実施例5と同一の方法で行うが、酸素を含む空気の流入なしに、ガラス反応器の流入口に、10%HS/Nのバランスを持つ硫化水素ガスを全流量に対して2%濃度にして、1,000cm/minの流量で流入させて酸化鉄を硫化処理した。
その結果を表3に示した。
【0056】
<比較実施例2>
比較実施例1と同一の方法で行うが、実施例1によって製造された酸化鉄の代わりに、実施例2によって製造された酸化鉄を使用した。
その結果を表3に示した。
【0057】
<比較実施例3>
比較実施例1と同一の方法で行うが、実施例1によって製造された酸化鉄の代わりに、実施例3によって製造された酸化鉄を使用した。
その結果を表3に示した。
【0058】
<比較実施例4>
比較実施例1と同一の方法で行うが、実施例1によって製造された酸化鉄の代わりに、実施例4によって製造された酸化鉄を使用した。
その結果を表3に示した。
【0059】
【表3】

【0060】
表3に示すように、実施例5に係るポリ硫酸第二鉄と炭酸アンモニウムとの間で製造された酸化鉄が、実施例6〜実施例8から製造された酸化鉄に比べて比較的多量の硫化水素を処理することができる。これは、実施例5によって製造された酸化鉄が広い比表面積、大きい気孔体積および大きい気孔サイズを持つため、多量の硫黄を添着することができるためである。
【0061】
また、表3より、硫黄化合物と酸素混合ガスを用いて酸化鉄を酸化処理した実施例5〜実施例8が、同一の条件で酸素なしに硫黄化合物のみで酸化鉄を酸処理した比較実施例1〜比較実施例4よりさらに多量の硫化水素を処理することが分かる。
【0062】
<実施例9>
水銀吸着性能評価
流入口と流出口が対向配置された直径25mm、高さ200mmのSUS反応器を製作した後、その内部に、実施例5によって硫化処理された水銀除去用吸着剤20cmを充填した。
【0063】
その後、液体水銀をガス反応管[ガラス加工品]に入れた後、25〜28℃の温度範囲でバブリングして気相水銀を製造し、製造された気相水銀を90cm/minの流量にして、前記反応器の流入口に流入させた。この際、窒素をキャリアガスとして用いて、前記反応器に流入する水銀を含んだ総流量を1000cm/minに維持し、その濃度は表4に示した。
その次に、前記反応器の流出口を介して流出する水銀の濃度を、水銀分析器[VM−3000、mercury instruments analytical technologies、ドイツ]を用いて測定した。
その結果を表4に示した。
【0064】
<実施例10>
水銀吸着
実施例9と同一の方法で行うが、実施例5によって硫化処理された水銀除去用吸着剤の代わりに、実施例6によって製造された水銀除去用吸着剤を使用した。
その結果を表4に示した。
【0065】
<実施例11>
水銀吸着
実施例9と同一の方法で行うが、実施例5によって硫化処理された水銀除去用吸着剤の代わりに、実施例7によって製造された水銀除去用吸着剤を使用した。
その結果を表4に示した。
【0066】
<実施例12>
水銀吸着
実施例9と同一の方法で行うが、実施例5によって硫化処理された水銀除去用吸着剤の代わりに、実施例8によって製造された水銀除去用吸着剤を使用した。
その結果を表4に示した。
【0067】
<比較実施例5>
実施例9と同一の方法で行うが、実施例5によって硫化処理された水銀除去用吸着剤の代わりに、比較実施例1によって製造された水銀除去用吸着剤を使用した。
その結果を表4に示した。
【0068】
<比較実施例6>
実施例9と同一の方法で行うが、実施例5によって硫化処理された水銀除去用吸着剤の代わりに、比較実施例2によって製造された水銀除去用吸着剤を使用した。
その結果を表4に示した。
【0069】
<比較実施例7>
実施例9と同一の方法で行うが、実施例5によって硫化処理された水銀除去用吸着剤の代わりに、比較実施例3によって製造された水銀除去用吸着剤を使用した。
その結果を表4に示した。
【0070】
<比較実施例8>
実施例9と同一の方法で行うが、実施例5によって硫化処理された水銀除去用吸着剤の代わりに、比較実施例4によって製造された水銀除去用吸着剤を使用した。
その結果を表4に示した。
【0071】
【表4】

【0072】
表4に示すように、硫化水素を多く吸着させた実施例9に使用された実施例5による合成酸化鉄が、原子水銀を除去する吸着性能も高いことが分かった。これは、合成した酸化鉄の中でも、実施例1に係るポリ硫酸第二鉄と炭酸アンモニウムで合成された酸化鉄が最も多量の水銀を処理することができることを示す。
【0073】
また、表4より、硫黄化合物と酸素混合ガスを用いて酸化鉄を酸化処理した実施例9〜実施例12が、同一の条件で酸素なしに硫黄化合物のみで酸化鉄を酸処理した比較実施例5〜比較実施例8よりさらに多い気相水銀を処理することが分かった。
【0074】
以上説明したように、本発明の属する技術分野における当業者は、本発明がその技術的思想または必須的特徴を変更しなくても他の具体的な形態で実施できるのを理解することができるであろう。したがって、以上述べた一実施例は、全ての面で例示的なものに過ぎず、限定的なものではないと理解すべきである。本発明の範囲には、詳細な説明よりは特許請求の範囲の意味および範囲、並びにその等価概念から導出される全ての変更または変形された形態も含まれると解釈すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に係る水銀除去用吸着剤の製造方法を示す流れ図である。
【図2】本発明の実施例1〜4によって製造された酸化鉄のXRD測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化処理ガスの全体積を基準として硫黄化合物0.001〜2体積%、酸素1〜50体積%およびキャリアガス48.0〜98.999体積%からなる硫化処理ガスで硫化処理された酸化鉄を含む水銀除去用吸着剤。
【請求項2】
前記水銀が、Hg、HgCl、HgClであることを特徴とする、請求項1に記載の水銀除去用吸着剤。
【請求項3】
前記水銀が、発電所、焼却炉、水銀電池、歯科のアマルガムまたは水銀蛍光灯などから排出される気相水銀であることを特徴とする、請求項1または2に記載の水銀除去用吸着剤。
【請求項4】
前記酸化鉄が、FeO、Fe(OH)、Fe(OH)、FeO(OH)、Fe、およびFeよりなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の水銀除去用吸着剤。
【請求項5】
酸化鉄を、硫化処理ガスの全体積を基準として硫黄化合物0.001〜2.0体積%、酸素1〜50体積%およびキャリアガス48.0〜98.999体積%からなる硫化処理ガスで硫化処理したことを含む、水銀除去用吸着剤の製造方法。
【請求項6】
前記酸化鉄を、硫化処理する前または硫化処理した後に押出成形することをさらに含むことを特徴とする、請求項5に記載の水銀除去用吸着剤の製造方法。
【請求項7】
前記押出成形によって水銀除去用吸着剤がボール、タブレット、ペレットまたはハニカムの形に製造されることを特徴とする、請求項5に記載の水銀除去用吸着剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−246432(P2008−246432A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93560(P2007−93560)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(502073968)コキャット インコーポレイテッド (1)
【出願人】(503389688)ドン ヤン コンストラクション カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】