説明

磁性材料のSiO2薄膜形成方法

【課題】磁性材料の渦電流損失を低減するために電気抵抗値を高くする磁性材料のSiO薄膜形成方法を提供する。
【解決手段】鉄およびケイ素を主成分とする磁性材料の表面にSiO薄膜を形成する磁性材料のSiO薄膜形成方法であって、前記磁性材料に対して還元処理を行うことで、前記磁性材料の表面のFe酸化物を除去するFe酸化物除去工程と、前記Fe酸化物除去工程によりFe酸化物が除去された磁性材料に対して酸化処理を行うことで、前記磁性材料の表面にSiO薄膜を形成する酸化処理工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性材料に対して酸化処理を施してSiO薄膜を形成するSiO薄膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電磁気を利用した製品には電磁鋼板や磁性粉末等の磁性材料を加工・成形した部品が使用されており、このような磁性材料の性能を向上するため、具体的には電気抵抗率を高めるために弱酸化性雰囲気下で酸化処理を施してSiO被膜を形成する技術は公知となっている(例えば、特許文献1、2及び3参照)。
【0003】
特許文献1においては、電磁鋼板に酸化処理を施しSiOを形成し、被膜の密着性を高める絶縁被膜形成方法が記載されている。
【0004】
特許文献2及び特許文献3においては、磁性粉末に酸化処理を施し、酸化反応性の高い第2元素を主に酸化させ酸化被膜を形成する手法が記載されている。
【0005】
上述したような従来技術においてはFe‐Si系が代表例として上げられており、磁性材料を酸化処理することにより磁性材料の表層部付近に、ケイ素酸化物SiOを形成させて、電気抵抗率を向上させる等の磁性材料の性能向上を図っている。
【0006】
上述した従来技術を理解に供するために工程フローとしてまとめて比較すると、図6に示す従来手法‐1は特許文献1に記載された手法であり、素材となる鋼板を酸化処理後、塗布液等を用いた絶縁コーティングを行う工程となっている。図6に示す従来手法‐2は特許文献2及び特許文献3に記載の磁性粉末等の製造方法であり、素材を酸化処理するだけの工程に留まっている。また、図6に示す従来手法‐3は特許文献3に記載の磁性粉末の製造方法であり、素材を酸化処理工程と、酸化処理工程後の酸素成分の拡散防止処理を行う工程とを一組として、それを繰り返す工程となっている。
【特許文献1】特許第2698003号公報
【特許文献2】特開2005−146315号公報
【特許文献3】特許第4010296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術においては、もともと磁性材料の表面にあった、あるいは経時的に酸化されることにより生じた磁性材料表面の酸化物の影響により均質なSiO被膜が形成されず、磁性材料としての特性要求レベルを満足することができる高い電気抵抗率が得られないという問題点があった。
【0008】
また、前述した上記特許文献1では、電磁鋼板に塗布した絶縁膜との密着性を高めるために絶縁膜塗布前に、酸化処理を施しSiO膜を生成させることを目的としており、酸化処理による抵抗アップ効果(SiO形成による電気抵抗率を向上させる効果。以下、抵抗アップ効果という)は実現できていない。
【0009】
また、上記特許文献3は上記特許文献1に記載の発明を鋼板から粉末に置き換えたものであり、酸化処理と酸素成分の拡散防止処理が交互に行われており、抵抗についても言及しているが、酸化処理による抵抗アップ効果は実現できていない。
【0010】
上述した従来技術のいずれにおいても、酸化処理のみを行ってSiOを形成させた製造方法では、抵抗アップ効果を期待することはできず、軟磁性材料として用いる場合には渦電流損失が大きくなってしまうという問題点がある。
【0011】
本発明においては、以上の問題点を鑑みなされたもので、磁性材料の渦電流損失を低減するために電気抵抗値を高くする磁性材料のSiO薄膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0013】
本発明者等が鋭意検討したところ、上述した何れの従来技術においても弱酸化性雰囲気中で酸化処理を実施しSiOを形成させているが、抵抗アップ効果が十分に作用しないのは均質なSiOが形成されていないためであることを磁性材料の表面分析などにより突き止めた。
具体的には、SiO自身は高い電気抵抗率であるが、磁性材料上においてSiOの形成ムラが存在すると著しく電気抵抗率が悪化し、磁性材料表面においてSiO未形成箇所が存在すると所望の電気抵抗率が得られなくなってしまう。その原因として、SiO未形成箇所には主としてFe酸化物が存在しており、そのFe酸化物の存在のためSiOは膜として均質にはなり得ず、電気抵抗率が悪化する。本発明者等は均質なSiO膜の形成阻害要因(=SiO未形成箇所=Fe酸化物などの存在)はFe酸化物が磁性材料の酸化処理前から既に自然酸化物等として存在していることが主原因であることを突き止め、この原因を取り除く方法を検討することにより本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、請求項1においては、
鉄およびケイ素を主成分とする磁性材料の表面にSiO薄膜を形成する磁性材料のSiO薄膜形成方法であって、
前記磁性材料に対して還元処理を行うことで、前記磁性材料の表面のFe酸化物を除去するFe酸化物除去工程と、
前記Fe酸化物除去工程によりFe酸化物が除去された磁性材料に対して酸化処理を行うことで、前記磁性材料の表面にSiO薄膜を形成する酸化処理工程と、を有するものである。
【0015】
請求項2においては、
前記Fe酸化物除去工程は、CとHのどちらか一方、またはその両方を用いて前記磁性材料に対して還元処理を行うことで、前記磁性材料の表面のFe酸化物を除去するものである。
【0016】
請求項3においては、
前記酸化処理工程は、前記酸化処理を行うことで、磁性材料表面のSiのみを優先的に酸化させ、前記磁性材料の表面にSiO薄膜を形成させるものである。
【0017】
請求項4においては、
前記酸化処理工程による酸化処理後の前記磁性材料表面には、Fe酸化物が存在していないものである。
【0018】
請求項5においては、
前記Fe酸化物が、FeOであるものである。
【発明の効果】
【0019】
磁性材料表面に、より均質なSiO薄膜を形成することができるため、磁性材料として望まれる高い電気抵抗率が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施形態である工程フローを示す図、図2はXPS分析による磁性材料最表面のSi元素状態分析結果を示す図、図3はXPS分析による磁性材料最表面のFe元素状態分析結果を示す図、図4はSiO薄膜の形成イメージ図であり、(a)は本発明に係るSiO薄膜形成方法より形成されたSiO薄膜の形成イメージ図、(b)は従来法により形成されたSiO薄膜の形成イメージ図である。図5は酸化処理後の抵抗値を示す図、図6は従来手法の工程フローを示す図である。
以下に、磁性材料であるFe−Si系磁性粉末に対して、その表面にSiO薄膜を形成するSiO薄膜形成方法について説明するが、特に磁性粉末に限定するものでなく、FeとSiを主成分とする磁性材料であれば粉末、鋼板等の形状を問わず広く磁性材料一般に適用できるものである。
【0021】
次に、図1を用いて磁性材料である素材の表面にSiO薄膜を形成するSiO薄膜形成方法について説明する。図1に示すように、SiO薄膜形成方法の主な流れは、被処理物である素材に対してC(カーボン)もしくはHにより還元処理を行うことで、前記磁性材料の表面のFe酸化物を除去するFe酸化物除去工程と、前記Fe酸化物除去工程によりFe酸化物が除去された磁性材料に対して酸化処理を行うことで、前記磁性材料の表面にSiO薄膜を形成する酸化処理工程と、を順に行うものである。以下、これらの各工程について具体的に説明する。
【0022】
(被処理物:素材)
まず、前述した各工程で行われる処理に対する被処理物となる磁性材料(素材)について説明する。
被処理物である素材としては、FeとSiを主成分とする磁性材料であり、鋼板、粉末等の形状は問わないが、本実施形態では、軟磁性材料の一例である、FeおよびSiを主成分とするFe−Si系磁性粉末を用いた例について説明する。
【0023】
Fe−Si系磁性粉末は、電気抵抗率が比較的高く、比較的安価であることから、軟質磁性粉末として多用されているものである。このFe−Si系磁性粉末におけるSi量は、比抵抗値、磁束密度等との兼ね合いで決定される。例えば、Si量は、1〜10質量%、1〜7質量%さらには2〜5質量%であると好適である。Si量が過少では電気抵抗率が小さく渦電流損の低減を図れず、Si量が過多となると磁性特性が低下したりして好ましくない。
【0024】
Fe−Si系磁性粉末は、所定量のSiと残部Feと不可避不純物とからなる合金粉末でも良いし、その二元系に限らず、炭素(以下、Cとする)、アルミニウム(Al)、ズズ(Sn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等を適宜含んでも良い。
【0025】
磁性粉末は、ガスアトマイズや水アトマイズ等のアトマイズ粉末でも良いし、合金インゴットをボールミル等で粉砕する粉砕粉でも良い。
【0026】
また、後述するFe酸化物除去工程において、C(カーボン)を用いて還元を行う場合には素材にもともとCが含まれていてもかまわないし、素材に対して浸炭処理を行ってCを添加してもかまわない。
【0027】
次に、前記Fe酸化物除去工程について説明する。
【0028】
<Fe酸化物除去工程>
素材粉末の表面には、もともとFe酸化物が存在しているため、このFe酸化物を除去するためにFe酸化物除去工程を行う。Fe酸化物除去工程においては、電気炉等の加熱手段により加熱を行いながら還元処理を行うものであるが、後述する還元処理条件を満たす還元雰囲気中にて、素材を所定温度、所定の露点及び所定の還元処理時間にて加熱を行い、素材粉末表面に存在するFe酸化物を還元して素材粉末の表面からFe酸化物を除去する工程である。また、Fe酸化物除去工程後は、連続して後述する酸化処理工程を行う。
なお、ここでいうFe酸化物とはFeO、Fe等のFeOで表されるFe酸化物のことである。
【0029】
また、前記Fe酸化物除去工程で行う前記還元処理としては、CとHのどちらか一方を用いて行うことが可能であり、もしくは、CとHの両方を用いて前記素材粉末に対して還元処理を行うことで、前記素材粉末の表面に存在するFe酸化物を除去してもかまわない。
【0030】
前記電気炉には、例えば、還元処理用ガス及び酸化処理用ガスを電気炉内に導入する各ガス配管の途中に、ガスの露点を調整することが可能である露点調整装置が接続されている。この露点調整装置の下流側にある、電気炉の入口側の露点と出口側の露点とを、静電容量式の露点計等で測定する構成とするようにすれば良い。
【0031】
(Fe酸化物除去工程の条件)
Fe酸化物除去工程において、Cを還元処理に用いる場合の還元処理の条件としては、加熱温度700〜1300℃が望ましい。また、CO反応(C+O→CO)を考慮してCO分圧(PCO)は1Pa以下が望ましい。
また、Cの代わりにHを還元処理に用いる場合の還元処理の条件としては、加熱温度700〜1300℃が望ましい。また、露点は−40℃以下が望ましい。露点が−40℃よりも高くなるとFe酸化物が還元処理によって除去される前にSiOが生成してくるので、好ましくない。
また、CとHの両方を還元処理に用いる場合の還元処理の条件としては、上記Cの場合とHの場合の両方の条件を満たした条件で行えばよい。
また、前記還元処理時間としては、1〜4時間程度で十分に処理可能であるが、特に限定するものではなく、素材形状、処理量及び使用装置の仕様等の条件に応じて適宜設定してもかまわない。
なお、還元性雰囲気は特に限定するものではなく、例えばアンモニアガス等を用いてもかまわない。
【0032】
次に、前述したFe酸化物除去工程が終了後、連続してFe酸化物が除去された素材に対して酸化処理を行う酸化処理工程について説明する。
【0033】
<酸化処理工程>
酸化処理工程においては、例えば、前述したFe酸化物除去工程と同様の電気炉を用いて、酸化性雰囲気中(例えば、所定の酸素濃度(酸素分圧)に保持された酸化雰囲気である水素気流中)で、Fe酸化物除去工程において還元処理された素材(Fe−Si系磁性粉末)の表面を所定温度及び所定の露点である酸化雰囲気中の酸化処理条件(本実施形態においては、温度条件:700〜1300℃、露点条件:50℃以下が好適である)で加熱処理を行って、素材の表面に薄いケイ素酸化膜SiOを均一に形成する。
なお、素材の表面に形成するケイ素酸化膜の膜厚は、加熱する温度条件や加熱時間や素材のSiの含有量によって適宜調整することができる。
また、前記露点条件を50℃以下で酸化処理を行うことで、素材表面のSiのみを優先的に酸化させることが可能となり、効率よくSiO薄膜を作製することができる。
【0034】
また、前述した酸化処理の温度条件範囲で加熱すれば、Feよりも酸化速度が速いSiが素材粉末の表面層に拡散して酸化され、素材粉末の表面がSiの酸化物で均一に覆われる。
【0035】
前記酸化雰囲気は、通常、水素ガスの気流中または一酸化炭素ガスの気流中で形成される場合が多く、酸化雰囲気を水素気流中で形成する場合、例えば、水蒸気分圧(PH2O)の水素分圧(PH2)に対する分圧比(PH2O/PH2)が1x10−5〜10x10−1となるようにすると良い。
【0036】
また、酸化雰囲気を一酸化炭素気流中で形成する場合、例えば、二酸化炭素分圧(PCO2)の一酸化炭素(Pco)に対する分圧比(PCO2/Pco)が1x10−6〜1x10−1となるようにすると良い。
【0037】
また、酸化雰囲気を水素気流中で形成する場合、その酸化雰囲気は、例えば、前記水素気流中の露点(温度)を管理することでも達成できる。露点は、市販の露点温度計等により容易に観察できる。本実施形態の場合、前述したように水素気流中の水蒸気の露点を+50℃以下とすると良い。ちなみに、露点(温度)とは、気体中の水蒸気が飽和に達して結露する温度であり、例えば、相対湿度100%のときの周囲温度である。酸化雰囲気中の水分量が少ないとこの露点温度が低くなり、逆に、酸化雰囲気中の水分量が多いとこの露点温度が高くなる。要するに、酸化雰囲気中に水分がどの程度含有されているかを示す指標であって、露点温度と酸化雰囲気自体の温度とは無関係である。ただし、熱処理を実施する電気炉の雰囲気ガスの出入口において、ガス圧が1気圧の条件下で行われ、ここでいう露点は1気圧下(0.1MPa)における値を意味する。
なお、前記酸化処理工程において、電気炉以外の加熱手段を用いて素材の表面にSiO薄膜を形成してもかまわない。
【実施例】
【0038】
次に、本発明に係る実施例について説明する。
素材(原料)であるFeおよびSiを主成分とする磁性粉末(本実施例においては、磁性粉末の組成:Fe‐6%Si‐0.5%C。単位は質量%である)を、前述した電気炉内に入れて、該電気炉内を真空排気した後、電気炉内に還元雰囲気となる還元性ガス(本実施例では水素ガスを用いており、還元処理条件:CO分圧10−2、露点−70℃)を導入した。この還元性ガス及び後述する酸化性ガスを電気炉内に導入するためのガス配管の途中には、還元性ガス及び後述する酸化性ガスの露点を調整可能である露点調整装置を接続した。この露点調整装置の下流側にある、電気炉の入口側の露点と出口側の露点とを、静電容量式の露点計で測定した。そして、電気炉内の露点が一定値に安定するようにした。なお、本実施例の場合、電気炉内の露点は、熱処理直後(電気炉直後)の上記入口側の露点(入口露点)にほぼ等しいと考えて取り扱っている(以下、同様)。また、露点は、露点調整後の還元性ガス及び後述する酸化性ガスを1気圧下での状態で特定したものである。
【0039】
次に、前記露点が安定したのを確認後、電気炉内の温度を所定の昇温速度で昇温させて、1100℃で1時間保持した後に冷却した。こうして、還元性を有する水素気流中からなる還元雰囲気中である電気炉内において加熱温度1100℃、露点−70℃及びCO分圧10−2の条件で所定時間の還元処理を行った(Fe酸化物除去工程)。このFe酸化物除去工程における還元処理によって、素材である磁性粉末中のCと、もともと素材表面に存在するFeO、Fe内のO(酸素)とが反応してCOを生成し(CO反応)、Fe酸化物であるFeO、FeがFeへと変化(還元)し、FeO、Feが素材表面から除去された(後述するXPS分析結果参照)。さらに、このFe酸化物除去工程後、電気炉内を水蒸気分圧(PH2O)の水素分圧(PH2)に対する分圧比(PH2O/PH2)が0.2程度となる水素気流(酸化性ガス)からなる酸化雰囲気中の電気炉内において加熱温度1100℃及び露点0℃の条件で所定時間(本実施例においては1時間)の酸化処理工程を行った。この酸化処理工程により、磁性粉末の表面に絶縁被膜である二酸化ケイ素(SiO)被膜が形成された。
なお、前述した還元処理条件であるCO分圧を1Pa以下(本実施例では10−2)としているのは上述したCO反応の平衡をCO生成側に進むようにするための条件である。
【0040】
次に、上述したFe酸化物除去工程及び酸化処理工程を素材に施して表面にSiOを形成した磁性粉末について、XPS分析(XPS:X−ray Photoelectron Spectroscopy)による磁性粉末の最表面のSi元素状態の分析を行った。その結果、図2に示すように、本実施例のように本発明に係るSiO薄膜形成方法により素材表面にSiOを形成した磁性粉末(図2の(a))、従来手法としてFe酸化物処理工程を行わずに酸化処理工程のみを行って表面にSiOを形成した比較用磁性粉末(図2の(b)、特許文献3の方法)及び原料である未処理の素材(図2の(c))のそれぞれのSiOピークを比較することで明らかなように、上述したFe酸化物除去工程及び酸化処理工程を連続して行ったことにより、本実施例により作製された磁性粉末においてSiO薄膜が十分に形成されていることがわかった(図2の(a))。
【0041】
また、上述したFe酸化物除去工程及び酸化処理工程を施して形成した磁性粉末及び従来法である酸化処理のみを行った磁性粉末(比較用試料)について、XPS分析によるそれぞれの最表面のFe元素状態の分析を行った。その結果、図3に示すように、従来法で処理された比較用試料である磁性粉末では、FeO・Feピークが出現しており処理後の磁性粉末の表面にFe酸化物であるFeO、Fe(FeOで表されるFe酸化物)が残留していることがわかるが(図3の(b))、本実施例により作製された磁性粉末においてはFeO・Feピークが出現しておらず表面にFe酸化物であるFeO、Fe(FeOで表されるFe酸化物)の残留は認められない(図3の(a))。この結果は、本発明に係るSiO薄膜形成方法により、均質なSiO薄膜が形成されたことを示すものである。
【0042】
このような分析結果から、本発明に係る方法と従来法とは、酸化処理後のSiO薄膜の形成状態が異なることが考えられる。図4(b)は、従来法(酸化処理のみを実施する方法)によって形成されたSiO薄膜をイメージしたものであり、もともと表面に点在するFe酸化物であるFeO、Feの存在のために磁性粉末の表面に均一なSiO薄膜を作製することができない。一方、図4(a)は、本発明に係るSiO薄膜形成方法によって形成されたSiO薄膜をイメージしたものであり、まず、Fe酸化物であるFeO、Feを予めFe酸化処理工程により除去しているため、素材表面にはFe酸化物であるFeO、Fe(FeOで表されるFe酸化物)が存在していない。そのため、磁性材料の表面に均一なSiO薄膜を作製することができると考えられる。
【0043】
また、酸化処理後の抵抗値について、従来法によるものと本発明によるものとを比較すると、図5に示すように、本発明に係るSiO薄膜形成方法によって形成された磁性粉末の抵抗値(図5(a))が従来手法によって形成された磁性粉末の抵抗値(図5(b))と比べて大きく向上していることがわかる。すなわち、本発明のSiO薄膜形成方法を適用することにより抵抗アップ効果が得られたのである。すなわち、図4で示したように、素材粉末の処理前の表面にFe酸化物が存在している場合では、抵抗アップ効果が得られないのである。したがって、本発明で行うFe酸化物除去工程を従来手法の前段階に導入すれば、磁性材料の抵抗アップを図れるのである。
なお、本実施例では磁性材料として磁性粉末について説明したが、鋼材についても上述した同様の処理条件によりSiO薄膜を形成することは可能である。
【0044】
このように、鉄およびケイ素を主成分とする磁性材料の表面にSiO薄膜を形成する磁性材料のSiO薄膜形成方法であって、前記磁性材料に対して還元処理を行うことで、前記磁性材料の表面のFe酸化物を除去するFe酸化物除去工程と、前記Fe酸化物除去工程によりFe酸化物が除去された磁性材料に対して酸化処理を行うことで、前記磁性材料の表面にSiO薄膜を形成する酸化処理工程と、を有するという磁性材料のSiO薄膜形成方法を適用することにより、磁性材料表面に、より均質なSiO薄膜を形成することができるため、磁性材料として望まれる高い電気抵抗率が得られる。
【0045】
前記Fe酸化物除去工程においては、CとHのどちらか一方、またはその両方を用いて前記磁性材料に対して還元処理を行うことで、前記磁性材料の表面のFe酸化物を除去する磁性材料のSiO薄膜形成方法を適用することが可能であり、原料組成、原料の形態及び処理数量等を考慮して還元処理方法を適宜選択することが可能である。
【0046】
本発明は、従来法において問題点として特定できていなかったFeO、Fe(抵抗値が低くなる阻害要因)を特定したことにより、本発明に係るSiO薄膜形成方法を見出したものであり、素材表面に酸化処理によりSiO薄膜を形成するに際し、酸化処理の前処理としてFe酸化物を還元するFe酸化物除去工程を設け、素材に対して還元処理と酸化処理とを連続して行うようにすることで、より均質なSiO薄膜を形成する手法が確立できたものであり、従来から行われている酸化処理のみによるSiO薄膜を形成する工程に本発明を随時導入することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態である工程フローを示す図。
【図2】XPS分析による磁性材料最表面のSi元素状態分析結果を示す図。
【図3】XPS分析による磁性材料最表面のFe元素状態分析結果を示す図。
【図4】SiO薄膜の形成イメージ図であり、(a)は本発明に係るSiO薄膜形成方法より形成されたSiO薄膜の形成イメージ図、(b)は従来法により形成されたSiO薄膜の形成イメージ図。
【図5】酸化処理後の抵抗値を示す図。
【図6】従来手法の工程フローを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄およびケイ素を主成分とする磁性材料の表面にSiO薄膜を形成する磁性材料のSiO薄膜形成方法であって、
前記磁性材料に対して還元処理を行うことで、前記磁性材料の表面のFe酸化物を除去するFe酸化物除去工程と、
前記Fe酸化物除去工程によりFe酸化物が除去された磁性材料に対して酸化処理を行うことで、前記磁性材料の表面にSiO薄膜を形成する酸化処理工程と、を有することを特徴とする磁性材料のSiO薄膜形成方法。
【請求項2】
前記Fe酸化物除去工程は、CとHのどちらか一方、またはその両方を用いて前記磁性材料に対して還元処理を行うことで、前記磁性材料の表面のFe酸化物を除去することを特徴とする請求項1に記載の磁性材料のSiO薄膜形成方法。
【請求項3】
前記酸化処理工程は、前記酸化処理を行うことで、磁性材料表面のSiのみを優先的に酸化させ、前記磁性材料の表面にSiO薄膜を形成させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁性材料のSiO薄膜形成方法。
【請求項4】
前記酸化処理工程による酸化処理後の前記磁性材料表面には、Fe酸化物が存在していないことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の磁性材料のSiO薄膜形成方法。
【請求項5】
前記Fe酸化物が、FeOであることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の磁性材料のSiO薄膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−40666(P2010−40666A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199966(P2008−199966)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000220435)株式会社ファインシンター (27)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】