説明

磁石回転子

【課題】回転子ヨークの開口端に巻き加締め加工を行うことなく、磁石保護カバーの外鍔部とヨークの周壁部との間のシールを確実に図ることができる磁石回転子を提供する。
【解決手段】回転子ヨークの周壁部101の内周に永久磁石2を固定し、磁石2を保護する磁石保護カバー4を取りつける。磁石保護カバー4の外鍔部402の内周寄りの部分に回転子ヨークの開口方向に突出した環状の凸部403を形成して、回転子ヨークの開口端寄りの周壁部101aと環状の凸部403との間に環状の接着剤溜まり5を形成するとともに、回転子ヨークの開口端寄りの周壁部内に、接着剤溜まり5内に開口し、回転子ヨークの周方向に連続した溝部101bを形成して、接着剤溜まり5内及び溝部101b内に接着剤6を充填することにより磁石保護カバー4の外鍔部402と回転子ヨークの周壁部101との間をシールする構造にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに取り付けられる磁石発電機の回転子として用いるのに好適な磁石回転子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンに取り付けられる磁石発電機の回転子は、特許文献1に示されているように、周壁部と該周壁部の軸線方向の一端側に形成された底壁部とを有して周壁部の軸線方向の他端が開口端となっているカップ状の回転子ヨークと、この回転子ヨークの周壁部の周方向に並べて配置されて該周壁部の内周に固定された複数の永久磁石とを備えていて、回転子ヨークの底壁部の中央に設けられたボス部がエンジンの回転軸に取り付けられる。
【0003】
磁石回転子において、永久磁石として希土類磁石などの比較的脆弱な磁石を用いる場合には、発電機の組立時に永久磁石が破損するのを防止するため、永久磁石を覆う保護カバーが設けられる。磁石保護カバーは、ステンレス鋼などの薄板からなっていて、回転子ヨークの周壁部に固定された複数の永久磁石の内周を覆う筒状部と、該筒状部の軸線方向の一端側に形成された外鍔部とを一体に有し、筒状部を複数の永久磁石の内周に位置させ、外鍔部を回転子ヨークの開口端側で永久磁石の外端面に当接させた状態で配置される。
【0004】
エンジンの回転軸に取り付けられた磁石回転子の内側には電機子鉄心とこの電機子鉄心に巻回された電機子コイルとからなる固定子が配置され、この固定子と磁石回転子とにより磁石発電機が構成される。
【0005】
エンジンに取り付けられる磁石発電機においては、電機子コイルを冷却するために、磁石回転子及び固定子をケース内に配置して、電機子コイルにエンジンオイルを吹きかける方法をとることがある。この場合、永久磁石を保護するために磁石保護カバーを取り付けた磁石回転子が用いられていると、オイルが磁石保護カバーの内側に侵入して溜まり、やがて侵入したオイルがタール状になって、磁石回転子の重量バランスに狂いが生じるおそれがある。
【0006】
また、船外機のように海上で使用されるエンジンに取り付けられる磁石回転子において、磁石保護カバーの内側に塩水が侵入すると、磁石が劣化したり、磁石保護カバーの内側で析出した塩分が固化して、回転子の重量バランスが狂ったりするおそれがある。
【0007】
そこで特許文献1に示された磁石回転子では、磁石保護カバーの外鍔部と回転子ヨークの周壁部との間を、接着剤と、巻き加締め加工とによりシールするようにしている。特許文献1に示された磁石回転子においては、回転子ヨークの周壁部の開口端寄りの部分に薄肉の巻き加締め部が形成されるとともに、回転子ヨークの周壁部の巻き加締め部と他の部分との間に形成された段部に周設溝が設けられ、この周設溝内に、磁石保護カバーの外鍔部の外周に形成された環状の挿入部が挿入される。そして、周設溝内に接着剤が充填された後、巻き加締め部が磁石保護カバー側に加締められて磁石保護カバーの外鍔部が磁石に対して固定され、加締められた巻き加締め部により、接着剤が充填された周設溝が覆われる。
【特許文献1】実開平6−2954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に示された磁石回転子において、巻き加締め部を加締めた後に、磁石保護カバーの外鍔部の外周部が挿入された周設溝内に接着剤を充填することは困難である。そのため、巻き加締め部を加締める前に周設溝内に接着剤を充填することになるが、巻き加締め部を加締める前に接着剤を充填した場合には、巻き加締め部を加締める際に接着剤に生じる応力により、接着剤に亀裂が生じたり、接着剤が周設溝の内面から剥がれたりすることがあるため、接着剤によるシール効果が損なわれることがある。巻き加締め部の加締めのみによりシールを図ることはできないため、接着剤によるシール効果が損なわれると、磁石保護カバー内にオイルや塩水などが侵入するのを防ぐことができない。
【0009】
また特許文献1に示された磁石回転子では、回転子ヨークの周壁部の巻き加締め部を加締める工程を行う必要があるため、製造工数が多くなり、製造コストが高くなるのを避けられない。
【0010】
本発明の目的は、面倒な巻き加締め加工を行うことなく、磁石保護カバーの外鍔部と回転子ヨークの周壁部との間のシールを確実に図ることができるようにした磁石回転子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、周壁部と該周壁部の軸線方向の一端側に形成された底壁部とを有して前記周壁部の軸線方向の他端が開口端となっているカップ状の回転子ヨークと、回転子ヨークの周方向に並べて配置されて回転子ヨークの周壁部の内周に固定された複数の永久磁石と、複数の永久磁石の内周を覆う筒状部と該筒状部の軸線方向の一端側に形成された外鍔部とを一体に有して筒状部を複数の永久磁石の内側に位置させ、外鍔部を回転子ヨークの開口端側で永久磁石の外端面を覆うように配置された磁石保護カバーとを備えた磁石回転子を対象とする。
【0012】
本発明においては、磁石保護カバーの外鍔部の内周寄りの部分に回転子ヨークの開口方向に突出した環状の凸部が形成されて、回転子ヨークの開口端寄りの周壁部と環状の凸部との間に回転子ヨークの周方向に連続した環状の接着剤溜まりが形成される。また上記接着剤溜まり内に開口し、回転子ヨークの周方向に連続した溝部が回転子ヨークの開口端寄りの周壁部内に形成され、接着剤溜まり内及び溝部内に接着剤が充填されて磁石保護カバーの外鍔部と回転子ヨークの周壁部との間がシールされる。
【0013】
なお磁石保護カバーの筒状部の軸線方向の他端側は、回転子ヨークの底壁部に当接させて該底壁部に接着するなど、従来から行われていたシール手段と同様の手段によりシールすればよい。
【0014】
上記のように構成すると、接着剤が接着剤溜まり内に充填されるだけでなく、回転子ヨークの周壁部内に設けられた溝部内にも充填されるため、接着剤層と回転子ヨークの周壁部の内面との間に形成される液体の侵入経路の沿面距離を長くすることができる。従って、仮に接着剤層と回転子ヨークの周壁部の内面との界面の一部で接着剤の剥離が生じたとしても、液体の侵入経路全体に隙間が広がってシールが破られることはなく、磁石保護カバーの外鍔部と回転子ヨークの周壁部との間のシールが確実に図られる。
【0015】
また、上記のように構成すると、接着剤層の一部が回転子ヨークの周方向に連続している溝部内に食い込んだ状態で配置されるため、接着剤層が磁石保護カバーの外鍔部から剥離するのを防ぐことができる。従って、回転子ヨークの周壁部の開口端を加締めることなく、磁石保護カバーの固定を確実に図ることができる。
【0016】
本発明の好ましい態様では、回転子ヨークの開口端付近の周壁部の内径が拡大されて、該周壁部の内径が拡大された部分と他の部分との間に形成された段部に回転子ヨークの周方向に連続した環状の突き当て面が形成される。この場合、磁石保護カバーの外鍔部は、複数の永久磁石の外端面の上を越えて突き当て面上に達するように設けられる。また外鍔部の筒状部寄りの部分が回転子ヨークの開口方向に凸な山形の形状に湾曲されることにより外鍔部の筒状部寄りの部分に回転子ヨークの開口方向に突出し、回転子ヨークの周方向に連続した環状の凸部が形成され、回転子ヨークの周壁部の内径が拡大された部分と磁石保護カバーの外鍔部の環状の凸部との間に回転子ヨークの周方向に連続した接着剤溜まりが形成される。更にまた、突き当て面付近で接着剤溜まり内に開口し、回転子ヨークの周方向に連続した溝部が回転子ヨークの開口端寄りの周壁部内に形成され、接着剤溜まり内及び溝部内に接着剤が充填されて磁石保護カバーの外鍔部と回転子ヨークの周壁部との間がシールされる。
【0017】
上記溝部は、その最深部が回転子ヨークの周壁部内で前記突き当て面よりも回転子ヨークの底壁部側に寄った位置に位置するように設けられていることが好ましい。
【0018】
このように、溝部の最深部が、回転子ヨークの周壁部の段部に形成された突き当て面よりも回転子ヨークの底壁部寄りに位置するように溝部を設けておくと、溝部の最深部を突き当て面の延長上に位置させた場合に比べて、接着剤層と回転子ヨークの周壁部の内面との間に形成される液体の侵入経路の沿面距離を更に長くすることができるため、シール効果を高めることができる。
【0019】
また上記のように、溝部の最深部を回転子ヨークの周壁部の段部に形成された突き当て面よりも回転子ヨークの底壁部寄りに位置させるように設ける場合、溝部は、回転子ヨークの径方向に対して回転子ヨークの開口端側に傾斜した方向に開口するように設けるのが好ましい。
【0020】
このように構成すると、回転子ヨークの開口端側から斜めに切削工具を差し込んで回転子ヨークの開口端寄りの周壁部に切削加工を施すことにより、最深部が突き当て面よりも回転子ヨークの底壁部側に寄った位置にある溝部を容易に形成することができる。
【0021】
磁石保護カバーの外鍔部は、その外周部が前記溝部内に配置されるように設けられていることが好ましい。
【0022】
溝部の最深部を、前記突き当て面よりも回転子ヨークの底壁部側に寄った位置に位置させ、かつ該溝部を回転子ヨークの径方向に対して回転子ヨークの開口端側に傾斜した方向に開口するように設ける場合に、磁石保護カバーの外鍔部の外周部を溝部内に配置するようにしておくと、溝部内に充填された接着剤が磁石保護カバーの外鍔部の外周寄りの部分の両面に接触して該外鍔部を挟持した状態になるため、溝部内の接着剤に磁石保護カバーの外鍔部をより確実に保持させることができ、磁石保護カバーの外鍔部の固定強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、磁石保護カバーの外鍔部の内周寄りの部分に回転子ヨークの開口方向に突出した環状の凸部を形成して、回転子ヨークの開口端寄りの周壁部と環状の凸部との間に回転子ヨークの周方向に連続した環状の接着剤溜まりを形成するとともに、回転子ヨークの開口端寄りの周壁部内に、上記接着剤溜まり内に開口し、回転子ヨークの周方向に連続した溝部を形成して、接着剤溜まり内に接着剤を充填するだけでなく、回転子ヨークの周壁部内の溝部内にも接着剤を充填することにより磁石保護カバーの外鍔部と回転子ヨークの周壁部との間をシールする構造にしたので、接着剤層と回転子ヨークの周壁部の内面との間に形成される液体の侵入経路の沿面距離を長くして、磁石保護カバーの外鍔部と回転子ヨークの周壁部との間のシールを確実に図ることができる。
【0024】
また、本発明によれば、接着剤層の一部が回転子ヨークの周方向に連続している溝部内に食い込んだ状態で配置されるため、接着剤層が磁石保護カバーの外鍔部から剥離するのを防ぐことができる。従って、回転子ヨークの周壁部の開口端を加締めることなく、磁石保護カバーの固定を確実に図ることができる。
【0025】
本発明において、回転子ヨークの周壁部内で溝部の最深部が突き当て面よりも更に回転子ヨークの底壁部寄りに位置した状態になるように溝部を設けた場合には、溝部の最深部の軸線方向位置を突き当て面の延長上に位置させた場合に比べて、接着剤層と回転子ヨークの周壁部の内面との間に形成される液体の侵入経路の沿面距離を更に長くすることができるため、シール効果を高めることができる。
【0026】
また本発明において、回転子ヨークの周壁部内に設ける溝部の最深部を、突き当て面よりも回転子ヨークの底壁部側に寄った位置に位置させ、かつ該溝部を回転子ヨークの径方向に対して回転子ヨークの開口端側に傾斜した方向に開口するように設けるとともに、磁石保護カバーの外鍔部の外周部を溝部内に配置するようにした場合には、溝部内に充填された接着剤を磁石保護カバーの外鍔部の外周寄りの部分の両面に接触させて接着剤層により該外鍔部を挟持した状態にすることができるため、溝部内の接着剤により磁石保護カバーの外鍔部をより確実に保持して磁石保護カバーの外鍔部の固定強度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係わる磁石回転子の縦断面図、図2は、図1のA部の拡大断面図、図3は、図2の要部を更に拡大して示した断面図、図4は本実施形態で用いる回転子ヨークの周壁部の開口端寄りの部分の断面図である。
【0028】
図1ないし図4において、1は周壁部101と該周壁部の軸線方向の一端側に形成された底壁部102とを一体に有して、周壁部101の軸線方向の他端が開口端1aとなっているカップ状の回転子ヨークである。回転子ヨーク1の底壁部102の中央部には、該回転子ヨークの内側に突出したボス部103が形成され、このボス部103が図示しないエンジンの回転軸に取り付けられる。
【0029】
回転子ヨーク1の開口端付近の周壁部101の内径が拡大されて、該周壁部の内径が拡大された部分101aと他の部分との間に段部105が形成されている。段部105には、回転子ヨークの軸線と直交し、回転子ヨークの周方向に連続して伸びる環状の突き当て面105aが形成されている。この突き当て面は、後記する磁石保護カバーの外鍔部を突き当てるために用いられる。
【0030】
2は、回転子ヨーク1の周方向に沿って環状をなすように並べて配置されて周壁部101の内周に固定された複数の弧状の永久磁石である。図示の永久磁石2は希土類磁石からなっている。一連の永久磁石2,2,…は、それぞれの外端面(回転子ヨークの開口方向に向けられる軸線方向端面)2a,2a,…(図2参照)を突き当て面105aと同一面上に位置させた状態で配置され、それぞれの内端面(回転子ヨークの底壁部102側に向けられる軸線方向端面)が回転子ヨークの底壁部102寄りの周壁部内周に形成された段部104にスペーサ3を介して突き当てられることにより、回転子ヨークの軸線方向に位置決めされている。スペーサ3は、例えばアルミニウム等の非磁性材料(強磁性材料以外の材料)からなるリング状の部材からなっていて、永久磁石2の厚み以下の厚みを有している。永久磁石2,2,…及びスペーサ3は、周壁部101の内周に接着剤により固定されている。
【0031】
回転子ヨーク1の周壁部の内周に固定された永久磁石2,2,…の一連の複数の着磁領域が、交互に磁化の方向を異ならせて回転子ヨークの径方向に着磁されることにより、回転子ヨークの周方向に交互に異なる磁極が並ぶ所定極数の磁石界磁が構成されている。
【0032】
永久磁石2,2,…を保護するために磁石保護カバー4が設けられている。磁石保護カバー4は、ステンレス鋼等の薄板をプレス成形したものからなっていて、図2に示したように、永久磁石2,2,…の内周を覆う筒状部401と、この筒状部の軸線方向の一端側に形成された外鍔部402とを一体に有している。磁石保護カバー4は、筒状部401を永久磁石2,2,…の内側に位置させ、外鍔部402を回転子ヨーク1の開口端1a側で永久磁石の外端面2aに突き当てた状態で配置されている。
【0033】
本実施形態では、磁石保護カバーの外鍔部402の筒状部401寄りの部分が回転子ヨークの開口方向に凸な山形の形状に湾曲されることにより、外鍔部402の筒状部寄りの部分に回転子ヨークの開口方向に突出し、回転子ヨークの周方向に連続した環状の凸部403が形成され、回転子ヨークの周壁部101の内径が拡大された部分101aと磁石保護カバー4の外鍔部402の環状の凸部403との間に回転子ヨーク1の周方向に連続した接着剤溜まり5が形成されている。
【0034】
また、回転子ヨーク1の開口端寄りの周壁部101内に突き当て面105a付近で接着剤溜まり5内に開口し、回転子ヨーク1の周方向に連続した溝部101bが前記形成されている。本実施形態では、溝部101bが、回転子ヨーク1の径方向に対して回転子ヨーク1の開口端側に傾斜した方向に開口するように、回転子ヨークの軸線に対して斜めに設けられていて、図4に示したように、その最深部101b1が回転子ヨークの周壁部101内で突き当て面105aよりも、距離Lだけ回転子ヨークの底壁部102側に寄った位置に位置するように設けられている。
【0035】
磁石保護カバー4の外鍔部402は、複数の永久磁石2,2,…の外端面2aを越えて、回転子ヨークに設けられた突き当て面105aの上に達し、更に溝部101b側に伸びるように設けられていて、磁石保護カバーの外鍔部402の外周部が溝部101b内に挿入されている。そして、接着剤溜まり5内及び溝部101b内に接着剤6が充填されて磁石保護カバーの外鍔部402と回転子ヨークの周壁部101との間がシールされている。
【0036】
また磁石保護カバー4の筒状部401の軸線方向の他端側は、回転子ヨーク1の底壁部102の外周部寄りの内面に当接した状態で配置されるように形成されていて、筒状部401の軸線方向の他端の外周面と底壁部102の周壁部101寄りの部分との間に、回転子ヨークの周方向に連続して接着剤7が塗布され、この接着剤7により、磁石保護カバー4の筒状部401の他端が、その全周に亘って回転子ヨークの底壁部内面に接着されて、磁石保護カバー4の他端と回転子ヨークの底壁部102との突き当て部がシールされている。
【0037】
本実施形態のように、磁石保護カバー4の外鍔部402の内周寄りの部分に回転子ヨーク1の開口方向に突出した環状の凸部403を形成して、回転子ヨークの開口端寄りの周壁部101aと環状の凸部403との間に回転子ヨークの周方向に連続した環状の接着剤溜まり5を形成するとともに、回転子ヨーク1の開口端1a寄りの周壁部101内に、接着剤溜まり5内に開口し、回転子ヨーク1の周方向に連続した溝部101bを形成して、接着剤溜まり5内に接着剤6を充填するだけでなく、回転子ヨークの周壁部101内の溝部101b内にも接着剤6を充填することにより、磁石保護カバー4の外鍔部402と回転子ヨーク1の周壁部101との間をシールする構造にすると、接着剤層と回転子ヨーク1の周壁部101の内面との間に形成される液体の侵入経路の沿面距離d(図2及び図3参照)を、図6に示すように、溝部101bを形成しない場合に比べて長くして、磁石保護カバー4の外鍔部401と回転子ヨーク1の周壁部との間のシールを確実に図ることができる。
【0038】
また、上記のように構成すると、接着剤層の一部が回転子ヨーク1の周方向に連続している溝部101b内に食い込んだ状態で配置されるため、接着剤層が磁石保護カバーの外鍔部402から剥離するのを防ぐことができる。従って、回転子ヨークの周壁部101の開口端を加締めることなく、磁石保護カバー4の固定を確実に行うことができる。
【0039】
更に上記実施形態のように、回転子ヨークの周壁部101内で溝部101bの最深部101b1が突き当て面105aよりも距離Lだけ回転子ヨークの底壁部寄りに位置した状態(図4参照)になるように溝部101bを設けた場合には、接着剤層と回転子ヨークの周壁部の内面との間に形成される液体の侵入経路の沿面距離dを長くすることができるため、シール効果を高めることができる。
【0040】
また上記の実施形態のように、回転子ヨークの周壁部内で溝部101bの最深部101b1を突き当て面105aよりも回転子ヨークの底壁部102側に寄った位置に位置させ、かつ該溝部102を回転子ヨーク1の径方向に対して回転子ヨークの開口端1a側に傾斜した方向に開口させるように設けるとともに、磁石保護カバー4の外鍔部402の外周部を溝部101b内に挿入するようにした場合には、図3に示したように、溝部101b内に充填された接着剤6を磁石保護カバーの外鍔部402の外周寄りの部分の両面に接触させて接着剤層により外鍔部402を挟持した状態にすることができるため、溝部101b内の接着剤6により磁石保護カバーの外鍔部402をより確実に保持して、磁石保護カバーの外鍔部402の固定強度を高めることができる。
【0041】
上記実施形態のように、溝部101bの最深部101b1が突き当て面105aよりも距離Lだけ回転子ヨークの底壁部102寄りに位置した状態になるように溝部101bを設けた場合には、接着剤層と回転子ヨークの周壁部の内面との間に形成される液体の侵入経路の沿面距離dを特に長くすることができるため、シール効果を高めることができるが、本発明はこのように溝部101bを形成する例に限定されるものではなく、例えば、図5に示すように、溝部101bの最深部101b1を、突き当て面105aの延長上か、または突き当て面105aの延長上よりも回転子ヨークの開口端側に位置させるように、溝部101bを設けるようにしてもよい。このように構成した場合も、溝部101bを設けない場合に比べて、接着剤層と回転子ヨークの周壁部の内面との間に形成される液体の侵入経路の沿面距離dを長くしてシール効果を高めることができる。
【0042】
上記の実施形態では、各永久磁石2の外端面を突き当て面105aと同一平面上に位置させて、磁石保護カバー4の外鍔部402を永久磁石2の外端面(回転子ヨークの開口方向を向いた面)に当接させているが、磁石保護カバー4は、その外鍔部402が永久磁石2の外端面を覆うように配置されればよく、必ずしも、上記の例のように、外鍔部402を永久磁石2の外端面に当接させる必要はない。例えば、各永久磁石2の外端面が、突き当て面105aよりも回転子ヨークの底壁部側に後退した位置に配置されるように各永久磁石2を取りつけて、各永久磁石2の外端面と磁石保護カバーの外鍔部402との間に隙間が形成されるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係わる磁石回転子の縦断面図である。
【図2】図1のA部の拡大断面図である。
【図3】図2の要部を更に拡大して示した断面図である。
【図4】本実施形態で用いる回転子ヨークの周壁部の開口端寄りの部分の断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係わる磁石回転子の要部の縦断面図である。
【図6】本発明の実施形態において、回転子ヨークの周壁部内に溝部を設けなかったとした場合の要部の構成を示した断面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 回転子ヨーク
101 周壁部
101a 周壁部の内径が拡大された部分
101b 溝部
101b1 溝部の最深部
102 底壁部
105 段部
105a 突き当て面
1a 開口端
2 永久磁石
4 磁石保護カバー
401 筒状部
402 外鍔部
403 環状の凸部
5 接着剤溜まり
6 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周壁部と該周壁部の軸線方向の一端側に形成された底壁部とを有して前記周壁部の軸線方向の他端が開口端となっているカップ状の回転子ヨークと、前記回転子ヨークの周方向に並べて配置されて前記周壁部の内周に固定された複数の永久磁石と、前記複数の永久磁石の内周を覆う筒状部と該筒状部の軸線方向の一端側に形成された外鍔部とを一体に有して前記筒状部を前記複数の永久磁石の内側に位置させ、前記外鍔部を前記回転子ヨークの開口端側で前記永久磁石の外端面を覆った状態で配置された磁石保護カバーとを備えた磁石回転子において、
前記磁石保護カバーの外鍔部の内周寄りの部分に前記回転子ヨークの開口方向に突出した環状の凸部が形成されて、前記回転子ヨークの開口端寄りの周壁部と前記環状の凸部との間に前記回転子ヨークの周方向に連続した環状の接着剤溜まりが形成され、
前記接着剤溜まり内に開口し、前記回転子ヨークの周方向に連続した溝部が前記回転子ヨークの開口端寄りの周壁部内に形成され、
前記接着剤溜まり内及び前記溝部内に接着剤が充填されて前記磁石保護カバーの外鍔部と前記回転子ヨークの周壁部との間がシールされていること、
を特徴とする磁石回転子。
【請求項2】
周壁部と該周壁部の軸線方向の一端側に形成された底壁部とを有して前記周壁部の軸線方向の他端が開口端となっているカップ状の回転子ヨークと、前記回転子ヨークの周方向に並べて配置されて前記周壁部の内周に固定された複数の永久磁石と、前記複数の永久磁石の内周を覆う筒状部と該筒状部の軸線方向の一端側に形成された外鍔部とを一体に有して前記筒状部を前記複数の永久磁石の内側に位置させ、前記外鍔部を前記回転子ヨークの開口端側で前記永久磁石の外端面を覆った状態で配置された磁石保護カバーとを備えた磁石回転子において、
前記回転子ヨークの開口端付近の周壁部の内径が拡大されて、該周壁部の内径が拡大された部分と他の部分との間に形成された段部に前記回転子ヨークの周方向に連続した環状の突き当て面が形成され、
前記磁石保護カバーの前記外鍔部は、前記複数の永久磁石の前記外端面の上を越えて前記突き当て面上に達するように設けられていて、前記外鍔部の前記筒状部寄りの部分が前記回転子ヨークの開口方向に凸な山形の形状に湾曲されることにより前記外鍔部の前記筒状部寄りの部分に前記回転子ヨークの開口方向に突出し、前記回転子ヨークの周方向に連続した環状の凸部が形成され、
前記回転子ヨークの周壁部の内径が拡大された部分と前記磁石保護カバーの外鍔部の前記環状の凸部との間に前記回転子ヨークの周方向に連続した接着剤溜まりが形成され、
前記突き当て面付近で前記接着剤溜まり内に開口し、前記回転子ヨークの周方向に連続した溝部が前記回転子ヨークの開口端寄りの周壁部内に形成され、
前記接着剤溜まり内及び前記溝部内に接着剤が充填されて前記磁石保護カバーの外鍔部と前記回転子ヨークの周壁部との間がシールされていること、
を特徴とする磁石回転子。
【請求項3】
前記溝部は、その最深部が前記回転子ヨークの周壁部内で前記突き当て面よりも更に前記回転子ヨークの底壁部側に寄った位置に位置するように設けられている請求項2に記載の磁石回転子。
【請求項4】
前記溝部は、前記回転子ヨークの径方向に対して前記回転子ヨークの開口端側に傾斜した方向に開口している請求項3に記載の磁石回転子。
【請求項5】
前記磁石保護カバーの外鍔部は、その外周部が前記溝部内に挿入された状態で配置されている請求項1または2に記載の磁石回転子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−104311(P2008−104311A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285867(P2006−285867)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000001340)国産電機株式会社 (191)
【Fターム(参考)】