説明

示差屈折率検出器

【課題】
リファレンスセル内が参照液で充分置換されたかどうかのパージ判定を自動的に行なうことにより個人差をなくし、不必要な待機時間を短縮する。
【解決手段】
パージ判定部46では、リファレンス流路に切り替えられて待機時間を経過した後、測定流路に切り替えられ、その後、再びリファレンス流路に切り替えられとき、測定流路からリファレンス流路への切替えの前後での受光素子34の出力の変動量を変動量閾値設定部44に保持された閾値と比較してリファレンスセルのパージ完了を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高速液体クロマトグラフなどの分析装置で検出器として用いられる示差屈折計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフの検出器の1つとして示差屈折計が用いられている。示差屈折計では、測定光の光軸に対して傾斜した隔壁で仕切られた2つのセルをサンプルセルとリファレンスセルとして、サンプルセルに試料溶液を流し、リファレンスセルに参照液を流すか保持する。そのフローセルの両セルを通ってきた測定光を透過させ、その透過光をミラーにより反射させて再びフローセルの両セルを透過させた測定光を受光素子上にスリット像として結像させ、そのスリット像の変位を検出する(特許文献1参照。)。
【0003】
フローセルの両セル内の液体が同じ時は、光は傾斜した隔壁面で屈折することなく受光素子に結像される。一方、サンプルセルとリファレンスセル内の溶液が異なる時は、光は傾斜した隔壁面で屈折され、受光素子に結像される。
測定は、両セル内の液体が参照液の場合を基準とし、サンプルセル内に試料溶液を導入して、その出力と基準値との差に基づいて屈折率を求める。
【0004】
リファレンスセル内に参照液を導入するには、リファレンスセルとサンプルセルをフローセル外の流路によって接続し、サンプルセルを介してリファレンスセルに参照液を流す。
液体クロマトグラフではリファレンスセルには試料成分を含まない移動相を参照液として保持する。測定する溶出液が変わったとき、リファレンスセルに保持されている先の溶出液を新たな溶出液の移動相に置換(パージ)するが、リファレンスセルの置換が充分に行なわれなかった場合はベースラインが移動してピークの高さなどに影響を及ぼすため、リファレンスセルの置換は充分に行なう必要がある。
リファレンスセル内の参照液の置換は、サンプルセルを経てリファレンスセルに参照液として移動相を流すことにより行なう。リファレンスセル内が充分置換されたかどうかの判断は、移動相がリファレンスセルを通らず、サンプルセルだけを通るように流路を切り替えた直後の出力値の変動量(以下RI値の変動量という)を目視で観察して行なっていた。
【特許文献1】特開平8−1290004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
示差屈折率検出器のパージはユーザーによってなされるため、ユーザーは、リファレンスセルに参照液が流れるように流路を切り替える操作と、流路を切り替えた後、所定の待機時間経過後に再び流路を切り替える操作を行なわなければならない。
そして、リファレンスセル内が参照液によって充分に置換されたかどうかの判断はユーザーにゆだねられている。そのため、パージの仕方に個人差が発生し、リファレンスセル内が充分置換されたという第三者的保証がない。また、パージのために必要以上の時間を待機することもある。
本発明は、リファレンスセル内が参照液で充分置換されたかどうかのパージ判定を自動的に行なうことにより、個人差をなくし、不必要な待機時間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、測定光の光軸に対して傾斜した隔壁で仕切られたサンプルセルとリファレンスセルを備えたフローセルと、このフローセルで屈折された測定光を受光する受光素子と、上記フローセルの両セルにスリットを通ってきた測定光を透過させ、上記受光素子上に上記スリットの像を結像させる光学系とを備え、上記受光素子の出力から上記スリット像の変位を求めて上記フローセルを流れる液の屈折率変化を検出する示差屈折率検出器において、上記フローセルにつながる流路は、サンプルセルのみに液を供給する測定流路と、サンプルセルを経てリファレンスセルにも液を供給するリファレンス流路とを構成し、かつ両流路の間を切り換える流路切換え機構を備え、さらにリファレンスセルの溶媒置換を自動的に判定するパージ判定制御部を備える。
【0007】
パージ判定制御部は、図1に示されるように、パージ判定に対する上記受光素子34の出力変動に対する閾値を保持する変動量閾値設定部44と、流路がリファレンス流路に切り替えられた状態での待機時間を保持する待機時間設定部42と、リファレンス流路に切り替えられて待機時間を経過した後、測定流路に切り替えられ、その後、再びリファレンス流路に切り替えられとき、測定流路からリファレンス流路への切替えの前後での受光素子34の出力の変動量を変動量閾値設定部44に保持された閾値と比較してリファレンスセルのパージ完了を判定するパージ判定部46と、パージ判定動作開始時に流路をリファレンス流路に切り替え、パージ判定部46がパージが完了したと判定するまではリファレンス流路で待機時間を経過したときに測定流路に切り替え、その後、再びリファレンス流路に切り替え、パージ判定部46がパージが完了したと判定したときに測定流路に切り替えてその後のリファレンス流路への切替えを停止するように上記流路切換え機構の切換え動作を制御する流路切替え制御部48とを備えている。
【0008】
変動量閾値は、ユーザーが入力してもよいし、制御部によって設定されてもよい。
待機時間は、ユーザーが入力してもよいし、制御部によって設定されてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、パージ判定部によってリファレンスセルのパージ完了を判定するようにしたので、パージ操作に関して個人差のないデータであることを保証でき、ユーザーがパージの進行を装置の前に座って監視しなくてよくなり、パージ操作が自動化される。
【0010】
リファレンスセルを満たす参照液はサンプルセルを経て供給されるため、リファレンスセルにサンプルセルを流れる試料溶液の溶媒と同じ溶媒を満たすことができるため、検出感度がよくなる。
リファレンスセル内の状態を再現しやすいため、追試験を行なう必要がある場合などに有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
図2は本発明の示差屈折率検出器の一実施例を示す光学系の概略図である。
20は光源であり、光源20からの測定光はレンズ22とスリット24及びレンズ26を経てフローセル1に照射される。フローセル1は入射光軸に対して傾斜した隔壁30で仕切られたサンプルセル1sとリファレンスセル1rを備え、セル1sにはカラムからの試料溶液が流れ、セル1rには参照液が満たされる。フローセル1の隔壁30の傾斜角は所望の感度に応じて設定されるが、例えば図のセル1では入射光軸に対する傾斜角は45°である。32はフローセル1を透過した測定光を反射して再びフローセル1に戻すミラーである。測定光は隔壁30を通過することにより試料溶液と参照液との屈折率の差に応じて屈折し、受光素子34に導かれる。
【0012】
フローセル1を透過した測定光は受光素子34上に測定光のスリット像を結像する。フローセル1における試料溶液と参照液との屈折率の差に応じてスリット像が受光素子34上で移動し、受光素子34からはその移動量に応じた出力信号が検出される。
【0013】
図3は同実施例における装置内の流路図である。
フローセル1の隔壁30で仕切られたサンプルセル1s及びリファレンスセル1rは、それぞれ入口3s,3rと出口5s,5rを備えている。セル1sの入口3sは溶液注入用の入口ポート11と接続されている。セル1sの出口5sとセル1rの入口3rはT型ジョイント7を介する流路によって接続されており、T型ジョイント7の残りの一端は電磁弁9の一方のポート(A側)に接続されている。
セル1rの出口5rは電磁弁9の他方のポート(B側)に接続され、電磁弁9の共通のポートは出口ポート13に接続されている。
【0014】
入口ポート11から流路に注入された溶液は、電磁弁9がA側のときは、
(A)入口3s、サンプルセル1s、出口5s、T型ジョイント7、測定流路6s及び電磁弁9から出口ポート13の順に流れ、
電磁弁9がB側のときは、
(B)入口3s、サンプルセル1s、出口5s、T型ジョイント7、リファレンス流路6r、入口3r、リファレンスセル1r、出口5r、リファレンス流路6r及び電磁弁9から出口ポート13の順に流れる。
電磁弁9は図1に示されたパージ判定制御部の流路切替え制御部48で制御されて流路の切替えを行なうものであり、T型ジョイント7を介して電磁弁9のA側とB側を切り替える。
入口ポート11及び出口ポート13は、それぞれ図示していないカラムやドレインなどと接続することで、液体クロマトグラフ用検出器として使用できる。
【0015】
試料溶液の屈折率を測定する時は、電磁弁9のA側を開ける。この時、セル1sを通過した液はセル1rを通らず出口ポート13に流れ、セル1r内の液は封入された状態となる(RFlowがオフ)。
一方、測定開始前にセル1sとセル1r内に屈折率の等しい溶媒を流す時は、電磁弁9のB側を開ける。この時セル1sを通過した液はセル1rを通過して出口ポート13に流れる(Rflowスイッチがオン)。
【0016】
同実施例における装置中のパージ判定制御部は図1に示されたものであり、液体クロマトグラフやその他の分析装置内の制御装置、又は外部のコンピュータにより実現される。
パージ判定部46にパージが充分であると判定された場合、パージ完了とともに、ユーザー又はシステムコントローラーなどシステム側に完了したことを知らせる。
【0017】
図4を参照して同実施例による自動パージの判断手順を詳細に示す。
測定開始前にセル1r内の参照液を新たな測定対象である試料溶液の溶媒で置換するパージ操作を行なう。
ユーザー又はシステムコントローラーによりパージ開始信号が送られて自動パージを開始すると、電磁弁9はリファレンス流路6rに切り替えられる。
パージ判定部46は待機時間設定部42によって設定されたリファレンス流路6rでの待機時間を経過したかどうかを判定する。
待機時間は、流路の容量、流量又はRI値の変動量設定値に応じて適当な時間を設定しておく。
待機時間が経過したら電磁弁9が測定流路6s側に切り替えられて、RI値が測定される。このときのRI値を「RI1」とする。
次に、再び電磁弁9がリファレンス流路6r側に切り替えられて、RI値が測定される。このときのRI値を「RI2」とする。
【0018】
パージ判定部46はRI値が変動したかどうかを判定する。判定はRI値変動量ΔRI(=RI1−RI2)が閾値より小さいか否かにより行なわれる。入口ポート11からセル1rの出口5rまでの流路中の溶液が参照液に充分置換されていない場合、RI値の変動が起こる。
パージ制御部46はこのRI値の変動量が変動量閾値設定部44による閾値以上であれば、パージ不十分と判断し、再び電磁弁9により流路を切り替えてRI値変動量ΔRIの測定とパージ判定を行なう。
【0019】
パージ判定制御部によるパージ判定は、RI値変動量ΔRIが閾値より小さくなるまで繰り返される。
RI値変動量ΔRIが閾値より小さくなってパージが完了したと判断された場合、電磁弁9により流路は測定流路6s側に切り替えられて、その後の流路切換えが停止される。また、自動パージが終了したことをシステム又はユーザーに知らせる。これで、自動パージは終了となる。
【0020】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は高速液体クロマトグラフなどにおいて検出器として示差屈折率検出器を用いた場合、測定前のリファレンス溶液によるパージを自動化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のパージ判定制御部の機能を示したブロック図である。
【図2】同実施例の光学系における概略図である。
【図3】同実施例の装置内流路を示す流路図である。
【図4】同実施例の自動パージの判断手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0023】
1 フローセル
1s サンプルセル
1r リファレンスセル
3s,3r 入口
5s,5r 出口
6s 測定流路
6r リファレンス流路
7 T型ジョイント
9 電磁弁
11 入口ポート
13 出口ポート
34 受光素子
42 待機時間設定部
44 変動量閾値設定部
46 パージ判定部
48 流路切替え制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定光の光軸に対して傾斜した隔壁で仕切られたサンプルセルとリファレンスセルを備えたフローセルと、このフローセルで屈折された測定光を受光する受光素子と、前記フローセルの両セルにスリットを通ってきた測定光を透過させ、前記受光素子上に前記スリットの像を結像させる光学系とを備え、前記受光素子の出力から前記スリット像の変位を求めて前記フローセルを流れる液の屈折率変化を検出する示差屈折率検出器において、
前記フローセルにつながる流路は、サンプルセルのみに液を供給する測定流路と、サンプルセルを経てリファレンスセルにも液を供給するリファレンス流路とを構成し、かつ両流路の間を切り換える流路切換え機構を備え、
さらにリファレンスセルの溶媒置換を自動的に判定するパージ判定制御部を備え、このパージ判定制御部は、パージ判定に対する前記受光素子出力の変動に対する閾値を保持する変動量閾値設定部と、
流路がリファレンス流路に切り替えられた状態での待機時間を保持する待機時間設定部と、
リファレンス流路に切り替えられて待機時間を経過した後、測定流路に切り替えられ、その後、再びリファレンス流路に切り替えられとき、測定流路からリファレンス流路への切替えの前後での前記受光素子出力の変動量を変動量閾値設定部に保持された閾値と比較してリファレンスセルのパージ完了を判定するパージ判定部と、
パージ判定動作開始時に流路をリファレンス流路に切り替え、パージ判定部がパージが完了したと判定するまではリファレンス流路で待機時間を経過したときに測定流路に切り替え、その後、再びリファレンス流路に切り替え、パージ判定部がパージが完了したと判定したときに測定流路に切り替えてその後のリファレンス流路への切替えを停止するように前記流路切換え機構の切換え動作を制御する流路切替え制御部と、
を備えていることを特徴とする示差屈折率検出器。
【請求項2】
前記変動量閾値はユーザーが入力するものである請求項1に記載の示差屈折率検出器。
【請求項3】
前記変動量閾値は制御部によって設定されるものである請求項1に記載の示差屈折率検出器。
【請求項4】
前記待機時間はユーザーが入力するものである請求項2又は3に記載の示差屈折率検出器。
【請求項5】
前記待機時間は制御部によって設定されるものである請求項2又は3に記載の示差屈折率検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−162262(P2006−162262A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−349516(P2004−349516)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】