説明

移動吊り足場装置

【課題】ハンガーレールの間隔が長手方向に沿って変化する場合であっても、円滑にハンガーレールに沿って移動できる移動吊り足場装置を提供する。
【解決手段】トラス梁11は、間隔がL1からL2に変化する構造材1R,1L間に伸縮自在に架け渡されており、構造材1R,1Lに設置された一対のハンガーレール10R,10Lに走行部12R,12Lを介して吊り下げ支持され、ハンガーレール10R,10Lの一方(10R)に走行部12Rを介して外端が吊り下げ支持された第1トラス梁11Aと、ハンガーレール10R,10Lの他方(10L)に走行部12Lを介して外端が吊り下げ支持された第2トラス梁11Bとからなり、第1トラス梁11A上に第2トラス梁11Bを重ねて、第1トラス梁11Aの内端を第2トラス梁11Bの下縁に沿って移動可能に支持し、第2トラス梁11Bの内端を第1トラス梁11Aの上縁に沿って移動可能に支持している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁,高架式の道路や鉄道,ビル等の構築物の建設工事、これら構築物に対する高所の点検・塗装・補修工事等に用いられ、高所に形成したレールに沿って吊り足場を移動させる移動吊り足場装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動吊り足場装置は、本出願人によって各種のものが提案されており、地上から順次足場を組み上げることができない橋の裏面や高層建築物の側面などに架設される足場として、多くの実績を積んでいる。この移動吊り足場装置は、架設,撤去を最小限の資材によって短時間で行うことができ、省資材による低コスト、工期の短縮化が可能になるだけでなく、高い安全性を確保することができ、更には道路規制等、工事周辺への影響を最小限に抑えることができるものとして、高い評価を受けている。
【0003】
下記特許文献1に示されたものは、その一例であり、これを図1によって説明する。同図(a)は移動吊り足場装置の架設状態を示す説明図であり、同図(b)はI部分の拡大部分断面図である。
【0004】
この移動吊り足場装置は、橋梁Aにおける支持梁A1のリブ部A1aに固定具J1でハンガーレールJ2を吊り下げ固定することで、一対のハンガーレールJ2を橋梁Aの長手方向に沿った両側に設置し、このハンガーレールJ2に沿って橋梁Aの幅方向に延びるトラス梁Bに形成される足場(図示省略)を移動可能に架設するものである。
【0005】
そして、この移動吊り足場装置は、ハンガーレールJ2に支持されてハンガーレールJ2に沿って走行可能な上走行部J3と、この上走行部J3に対して、垂直な吊り下げ部材J4を介して垂直軸回りに回転可能に連結された下走行部J5とを備え、下走行部J5がトラス梁Bの上辺部に形成されたラックレールB1に沿って走行可能に支持されることで、トラスト梁Bを橋梁Aの幅方向に移動可能にしている。また、トラスト梁Bの下辺部にもラックレールB2が形成されており、このラックレールB2に図示省略の走行部を支持させることでトラスト梁Bに対して水平又は垂直に移動可能な足場(床部)を架設することが可能になる。
【0006】
同図(b)に示すように、ハンガーレールJ2は逆T字形の断面を有するレールであって、その下面にラック歯J2aが形成されており、前述のラックレールB1,B2にもその上面又は下面に同様のラック歯B1a,B2aが形成されている。そして、上走行部J3にはハンガーレールJ2のラック歯J2aに噛み合うピニオン輪J3aが回動可能に内装されると共に、ラック歯J2aの裏側縁に当接支持される支持輪J2bが回動可能に内装されており、下走行部J5にも同様に、ラックレールB1のラック歯B1aに噛み合うピニオン輪J5aが回動可能に内装されると共に、ラック歯B1aの裏側縁に当接支持される支持輪J5bが回動可能に内装されている。
【0007】
【特許文献1】特許第2802307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような従来の移動吊り足場装置は、一対のハンガーレールが平行に並べられて、その間隔が一定になっていることが前提になっており、長さが一定のトラス梁を平行のハンガーレール間に架け渡した状態で、ハンガーレールに沿って移動させるようにしている。
【0009】
しかしながら、構築物の形態によっては、構築物の構造材に沿って設置した一対のハンガーレールの間隔が長手方向に沿って変化する場合がある。例えば、一対のハンガーレールの間隔が長手方向に沿って随時狭くなったり広くなったりする場合には、一対のハンガーレール間に架け渡されるトラス梁の長さは一対のハンガーレール間の間隔が最も広い箇所で充分な架け渡しが可能な長さを必要とするので、一対のハンガーレール間の間隔が狭い部分では、ハンガーレールから外に張り出すトラス梁の部分が大きくなって、隣接する構造材や移動障害物と干渉を起こし、円滑な足場の移動を行うことができなくなる問題が生じる。
【0010】
本発明は、このような問題に対処するために提案されたものであって、一対のハンガーレールの間隔が長手方向に沿って変化する場合であっても、ハンガーレールの外側への張り出し幅に変化が生じることなく、円滑にハンガーレールに沿った移動を行うことができる移動吊り足場装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、このような目的を達成するために、以下の特徴を具備するものである。
【0012】
一つには、構築物の構造材の長手方向に沿って一対のハンガーレールを設置し、該一対のハンガーレール間に足場を構築するトラス梁を前記ハンガーレールに沿って移動可能に吊り下げた移動吊り足場装置において、前記トラス梁を前記ハンガーレールの間隔変化に応じて伸縮自在に構成したことを特徴とする。
【0013】
また一つには、前述の特徴に加えて、前記トラス梁は、前記ハンガーレールの一方に走行部を介して外端が吊り下げ支持された第1トラス梁と、前記ハンガーレールの他方に走行部を介して外端が吊り下げ支持された第2トラス梁とからなり、前記第1トラス梁上に前記第2トラス梁を重ねて、前記第1トラス梁の内端を前記第2トラス梁の下縁に沿って移動可能に支持し、前記第2トラス梁の内端を前記第1トラス梁の上縁に沿って移動可能に支持したことを特徴とする。
【0014】
また一つには、前述の特徴に加えて、前記トラス梁は、前記ハンガーレールの一方に走行部を介して外端が吊り下げ支持された第1トラス梁と、前記ハンガーレールの他方に走行部を介して外端が吊り下げ支持された第2トラス梁と、前記第1トラス梁及び前記第2トラス梁の下方に重ねて支持される第3トラス梁とからなり、前記第1トラス梁及び前記第2トラス梁の内端を前記第3トラス梁の上縁に沿って移動可能に支持し、前記第3トラス梁の一方の外端を前記第1トラス梁の下縁に沿って移動可能に支持すると共に、前記第3トラス梁の他方の外端を前記第2トラス梁の下縁に沿って移動可能に支持したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
このような特徴によると、構築物の形態によって一対のハンガーレール間の間隔が長手方向に沿って変化する場合であっても、足場を構築するトラス梁の長さを伸縮させて一対のハンガーレール間隔の変化に応じた移動吊り足場を形成することができる。したがって、どのような構築物の形態であっても、隣接する構造材や移動障害物に干渉を起こすことなく、円滑に吊り足場を移動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。図2は、移動吊り足場装置の設置状態を示した平面図である。ここでは、屋根付きスタジアム等の構築物の構造材(屋根を形成する梁材)に移動吊り足場装置を設置した状態を示している。構造材1R,1Lは、ドーナツ状の屋根を形成するための梁材であって、図示の右側に行くに従って間隔が徐々に狭まるように敷設されている。この構造材1R,1Lの長手方向に沿って一対のハンガーレール10R,10Lが設置され、このハンガーレール10R,10L間に足場Sを構築するトラス梁11,11をハンガーレール10R,10Lに沿って移動可能に吊り下げている。この際、トラス梁11,11は、ハンガーレール10R,10Lの間隔変化に応じて伸縮自在に構成されている。
【0017】
図3は、伸縮自在に構成されるトラス梁11の一構成例を示した正面図である。トラス梁11は、間隔がL1(図3(a)参照)からL2(図3(b)参照)に変化する構造材1R,1L間に伸縮自在に架け渡されており、構造材1R,1Lに設置された一対のハンガーレール10R,10Lに走行部12R,12Lを介して吊り下げ支持されている。
【0018】
そして、トラス梁11は、ハンガーレール10R,10Lの一方(10R)に走行部12Rを介して外端が吊り下げ支持された第1トラス梁11Aと、ハンガーレール10R,10Lの他方(10L)に走行部12Lを介して外端が吊り下げ支持された第2トラス梁11Bとからなり、第1トラス梁11A上に第2トラス梁11Bを重ねて、第1トラス梁11Aの内端を第2トラス梁11Bの下縁に沿って移動可能に支持し、第2トラス梁11Bの内端を第1トラス梁11Aの上縁に沿って移動可能に支持している。
【0019】
ここで、第1トラス梁11Aの内端は移動支持枠13に固定ボルト13aで固定されており、移動支持枠13が第1トラス梁11Aを第2トラス梁11Bに対して移動可能に支持している。また、第2トラス梁11Bの内端は移動支持枠14に固定ボルト14aで支持されており、移動支持枠14が第2トラス梁11Bを第1トラス梁11Aに対して移動可能に支持している。
【0020】
図4は、移動支持枠13,14を説明するためのトラス梁11の断面図(同図(a)が図3におけるA−A断面図、同図(b)が図3におけるB−B断面図)である。移動支持枠13は、前述したように、トラス梁11Aの内端に固定ボルト13aで固定されると共に、トラス梁11Bの上下縁に当接するローラ13bを備えて、トラス梁11Bに対してトラス梁11Aを移動可能に支持している。また、移動支持枠14も、トラス梁11Bの内端に固定ボルト14aで固定されると共に、トラス梁11Aの上下縁に当接するローラ14bを備えて、トラス梁11Aに対してトラス梁11Bを移動可能に支持している。さらに、左右のトラス梁11,11(11A,11A及び11B,11B)間は、足場Sを形成する布板15でそれぞれ連結されている。
【0021】
図5は、トラス梁11の外端を吊り下げ支持するための具体的な構造を示した説明図である。構造材1L(1R)には、吊り下げ支持ピン20が設けられており、この吊り下げ支持ピン20にハンガーレール10L(10R)が吊り下げ支持されている。そして、このハンガーレール10L(10R)に走行部12L(12R)を介してトラス梁11B(11A)の外端が吊り下げ支持されている。
【0022】
ハンガーレール10L(10R)は逆T字形の断面を有するレールであって、その下面に波形のラック歯10aが形成されている。また、走行部12L(12R)にはハンガーレール10L(10R)のラック歯10aに噛み合うピニオン輪12aが回動可能に内装されると共に、ハンガーレール10R(10L)におけるラック歯10aの裏側縁に当接支持される支持輪12b,12cが回動可能に内装されている。そして、吊り下げ支持部材21の上端が走行部12L(12R)に軸支され、吊り下げ支持部材21の下端がトラス梁11B(11A)の外端にボルト21A等で連結支持されている。
【0023】
図6は、伸縮自在に構成されるトラス梁11の他の構成例を示した正面図である。トラス梁11は、前述の構成例と同様に、構造材1R,1L間に伸縮自在に架け渡されており、構造材1R,1Lに設置された一対のハンガーレール10R,10Lに走行部12R,12Lを介して吊り下げ支持されている。
【0024】
この例では、トラス梁11は、ハンガーレール10R,10Lの一方(10R)に走行部12Rを介して外端が吊り下げ支持された第1トラス梁11Xと、ハンガーレール10R,10Lの他方(10L)に走行部12Lを介して外端が吊り下げ支持された第2トラス梁11Yと、第1トラス梁11X及び第2トラス梁11Yの下方に重ねて支持される第3トラス梁11Zとからなり、第1トラス梁11X及び第2トラス梁11Yの内端を第3トラス梁11Zの上縁に沿って移動可能に支持し、第3トラス梁11Zの一方の外端を第1トラス梁11Xの下縁に沿って移動可能に支持すると共に、第3トラス梁11Zの他方の外端を第2トラス梁11Yの下縁に沿って移動可能に支持している。
【0025】
ここで、第1トラス梁11X及び第2トラス梁11Yの内端は移動支持枠14に固定ボルト14aで固定されており、移動支持枠14が第1トラス梁11X及び第2トラス梁11Yを第3トラス梁11Zに対して移動可能に支持している。また、第3トラス梁11Zの外端は移動支持枠13に固定ボルト13aで支持されており、移動支持枠13が第3トラス梁11Zを第1トラス梁11X又は第2トラス梁11Yに対して移動可能に支持している。ここで用いられる移動支持枠13,14は図4で説明したものと同様の構造を備えている。また、ここでも左右のトラス梁11(11X,11Y,11Z)は、足場Sを形成する布板(図示省略)でそれぞれ連結されている。
【0026】
更に、この例では、トラス梁11(11X,11Y,11Z)の伸縮に際して、第3トラス梁11Zの一方端側を第1トラス梁11X又は第2トラス梁11Y側に固定して、他端側を第2トラス梁11Y又は第1トラス梁11Xに対して移動可能にすることができる。これによると、トラス梁11X,11Y,11Z間の相対移動を一方側に限定するので、より安定した作業が可能になる。
【0027】
このような実施形態によると、間隔が変化する構造材1L,1Rに沿って移動吊り足場を形成するに際して、トラス梁11を伸縮自在に構成することで、構造材1L,1Rに沿って設置される一対のハンガーレール10R,10Lから外に張り出すトラス梁11の張り出し幅を一定に保った状態で、ハンガーレール10R,11Lに沿ってトラス梁11を移動させることができる。
【0028】
これによって、構造材1L,1Rの外側に他の構造材が隣接する場合や移動障害物が存在する様な場合であっても、このような移動障害物等に干渉を起こすことなく、円滑に吊り足場を移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】従来技術の説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係る移動吊り足場装置の設置状態を示した平面図である。
【図3】本発明の実施形態におけるトラス梁の一構成例を示した正面図である。
【図4】本発明の実施形態における移動支持枠を説明するための断面図(同図(a)が図3におけるA−A断面図、同図(b)が図3におけるB−B断面図)である。
【図5】本発明の実施形態におけるトラス梁の外端を吊り下げ支持するための具体的な構造を示した説明図である。
【図6】本発明の実施形態におけるトラス梁の他の構成例を示した正面図である。
【符号の説明】
【0030】
1R,1L 構造材
10R,10L ハンガーレール
11(11A,11B,11X,11Y,11Z) トラス梁
12R,12L 走行部
13,14 移動支持枠
15 布板
20 吊り下げ支持ピン
21 吊り下げ支持部材
S 足場

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構築物の構造材の長手方向に沿って一対のハンガーレールを設置し、該一対のハンガーレール間に足場を構築するトラス梁を前記ハンガーレールに沿って移動可能に吊り下げた移動吊り足場装置において、
前記トラス梁を前記ハンガーレールの間隔変化に応じて伸縮自在に構成したことを特徴とする移動吊り足場装置。
【請求項2】
前記トラス梁は、前記ハンガーレールの一方に走行部を介して外端が吊り下げ支持された第1トラス梁と、前記ハンガーレールの他方に走行部を介して外端が吊り下げ支持された第2トラス梁とからなり、
前記第1トラス梁上に前記第2トラス梁を重ねて、前記第1トラス梁の内端を前記第2トラス梁の下縁に沿って移動可能に支持し、前記第2トラス梁の内端を前記第1トラス梁の上縁に沿って移動可能に支持した、ことを特徴とする請求項1に記載の移動吊り足場装置。
【請求項3】
前記トラス梁は、前記ハンガーレールの一方に走行部を介して外端が吊り下げ支持された第1トラス梁と、前記ハンガーレールの他方に走行部を介して外端が吊り下げ支持された第2トラス梁と、前記第1トラス梁及び前記第2トラス梁の下方に重ねて支持される第3トラス梁とからなり、
前記第1トラス梁及び前記第2トラス梁の内端を前記第3トラス梁の上縁に沿って移動可能に支持し、前記第3トラス梁の一方の外端を前記第1トラス梁の下縁に沿って移動可能に支持すると共に、前記第3トラス梁の他方の外端を前記第2トラス梁の下縁に沿って移動可能に支持した、ことを特徴とする請求項1に記載の移動吊り足場装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−13998(P2008−13998A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−185570(P2006−185570)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(000240547)米山工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】