説明

移植機

【課題】疎植株間の状態で植付駆動軸を不等速回転させる場合、不等速変換機構の減速域では、植付機構の慣性力により、植付駆動軸の回転が駆動力よりも先行するといった伝動機構のガタに起因する問題が起こる。その対策として不等速変換機構から植付駆動軸に至る伝動機構中に周期的に制動力を作用させるブレーキ機構を設けているが、植付駆動軸を不等速回転から等速回転に切換えた状態で植付作業を行う時は、当該ブレーキ機構が発現する周期的な制動力が逆効果となり、植付機構の動作がギクシャクしてしまうといった不具合を起していた。
【解決手段】ブレーキ機構88による制動力を、植付駆動軸20の不等速回転時は強く作用させる一方、植付駆動軸20の等速回転時は弱く作用させるように切換えることができる制動力切換え手段101を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標準的な植付株間から広株間(疎植株間)まで複数段に切換えることができると共に、植付駆動軸を等速または不等速回転に切換える速度切換え機構を備えた乗用型田植機等の移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、乗用型田植機等の移植機においては、植付駆動軸の回転に周期的な速度変動を生じさせる不等速変換機構を設け、植付周期(植付株間)を変えることなく植付機構の苗掻取動作速度及び土中動作速度を増速させることによって、当該植付機構の苗掻取性能と植付性能の向上を図ると共に、植付株間の設定を広くしても苗の引き摺りを抑制できるように構成したものがある。
【0003】
そして、上述の如く植付株間の設定を広くした状態(疎植株間の状態)で植付駆動軸を不等速回転させる場合、不等速変換機構の減速域では、植付機構の慣性力により、植付駆動軸の回転が駆動力よりも先行するといった問題が起こる。この問題は、不等速変換機構から植付駆動軸に至る伝動機構のガタ(バックラッシュ)に起因しており、前記ガタが大きくなると、植付爪により掻取られた苗が植付機構の受ける衝撃等によって脱落する可能性があると共に、当該植付機構の動作がギクシャクすることから、その対策として前記不等速変換機構から植付駆動軸に至る伝動機構中に、該伝動機構に対して周期的に制動力を作用させるブレーキ機構を設け、該ブレーキ機構によって不等速変換機構の減速域における植付駆動軸の先行回転を制動するように構成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−180562号公報(第4−7頁、図15−図18)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述したブレーキ機構は、植付株間の設定及び植付駆動軸の等速または不等速回転と関係なく常時同等の制動力が作用するものであり、例えば植付株間の設定を広くした状態(疎植株間の状態)から標準的な植付株間に切換え、且つ植付駆動軸を不等速回転から等速回転に切換えた状態で植付作業を行う時は、当該ブレーキ機構が発現する周期的な制動力が逆効果となり、植付機構の動作がギクシャクしてしまうといった不具合を起していた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、植付駆動軸の回転に伴って苗載台から苗を掻取り、この苗を土中に植え付ける複数の植付機構と、車速に対する前記植付機構の相対的な動作速度を複数段に変速する株間変速機構と、前記植付駆動軸を等速または不等速回転に切換える速度切換え機構を設けると共に、該速度切換え機構から植付駆動軸に至る伝動機構中に、該伝動機構に対して周期的に制動力を作用させるブレーキ機構を備えた移植機において、前記ブレーキ機構による制動力を、植付駆動軸の不等速回転時は強く作用させる一方、植付駆動軸の等速回転時は弱く作用させるように切換えることができる制動力切換え手段を設けたことを第1の特徴としている。
そして、前記ブレーキ機構による制動力を、複数の植付機構の各植付駆動軸に作用させるように構成したことを第2の特徴としている。
また、前記制動力切換え手段により、複数の植付機構の各植付駆動軸に作用する制動力の強弱切換えを同時に行えるように構成したことを第3の特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、植付機構の植付駆動軸を等速または不等速回転に切換える速度切換え機構から植付駆動軸に至る伝動機構中に、該伝動機構に対して周期的に制動力を作用させるブレーキ機構を備え、このブレーキ機構による制動力を、植付駆動軸の不等速回転時は強く作用させる一方、植付駆動軸の等速回転時は弱く作用させるように切換えることができる制動力切換え手段を設けたことによって、例えば植付株間の設定を広くした状態(疎植株間の状態)から標準的な植付株間に切換え、且つ植付駆動軸を不等速回転から等速回転に切換えた状態で植付作業を行う時は、前記ブレーキ機構による制動力を強から弱へとワンタッチで容易に切換えることができるので、当該ブレーキ機構が発現する周期的な制動力が逆効果となり、通常の植付作業状態における植付機構の動作がギクシャクしてしまうといった従来の不具合が解消される。
そして、請求項2の発明によれば、前記ブレーキ機構による制動力を、複数の植付機構の各植付駆動軸に作用させるように構成したことによって、不等速変換機構から植付駆動軸に至る伝動機構の最終伝動軸である植付駆動軸に制動力を作用させて、当該伝動機構全体のガタ取りを効率よく行うことができる。
また、請求項3の発明によれば、前記制動力切換え手段により、複数の植付機構の各植付駆動軸に作用させる制動力の強弱切換えを同時に行えるように構成したことによって、各植付駆動軸に作用させる制動力の強弱切換え一度にまとめて行えるので作業時間の短縮が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1及び図2は、移植機の一例である乗用型田植機の走行機体1を示す側面図と平面図、また図3は、エンジン2とミッションケース3の周辺を示す側面図であって、該走行機体1は、機体前部に搭載したエンジン2と、エンジン2の動力を入力するミッションケース3と、フロントアクスルケース4を介して取付けた左右一対の前輪5と、リヤアクスルケース6を介して取付けた左右一対の後輪7とを備えている。そして、エンジン2の動力は、ベルト式または油圧式無段変速装置8を介してミッションケース3に入力されると共に、ミッションケース3内の変速機構により変速された後、前後輪5,7の車軸及び植付PTO軸9(図5参照)に伝達される。
【0008】
また、走行機体1の後部には、昇降リンク機構11を介して植付作業機12を連結している。この植付作業機12は、昇降リンク機構11の後部に備えるリンクホルダ13にローリング自在に連結した植付フレーム14と、該植付フレーム14の上方に左右往復動自在に支持した苗載せ台15と、図4に示すように、植付フレーム14の左右略中間部に設けた分岐伝動部である入力ケース16と、植付フレーム14の左右方向に所定間隔を存して取り付けられて後方に延出する複数の植付伝動ケース17と、該植付伝動ケース17の後端部に設けた左右一対の植付機構18と、植付伝動ケース14の下方に上下揺動自在に設けた圃場面を整地するフロート19等を備えている。
【0009】
更に詳しくは、上述した入力ケース16内の伝動機構は、ミッションケース3の植付PTO軸9から植付動力を入力し、この植付動力を、入力ケース16内のベベルギヤB1,B2を介して入力ケース16から左右に突出する出力軸21に伝達すると共に、該出力軸21に連結する左右の植付伝動軸22L,22Rを介して各植付伝動ケース17に伝達している。そして、各植付伝動ケース17に伝達された植付動力は、植付伝動ケース17内の図示しないチェン伝動機構を介して植付伝動ケース17の後端部に軸支した植付駆動軸20に伝達される。
【0010】
また、植付機構18は、植付駆動軸20の回転に伴って回転する回転ケース25と、その両端部に設けた一対の植付爪支持ケース26を備えている。この植付爪支持ケース26は、先端部の植付爪27が所定の軌跡を描くように、回転ケース25に内装した図示しな
太陽ギヤ、該太陽ギヤに噛合する一対の中間ギヤ、両中間ギヤに噛合する遊星ギヤ等の不等速ギヤ列によって姿勢がコントロールされるようになっている。即ち、回転ケース25が回転すると、植付爪27が苗載せ台15の下端部からマット苗を掻取った後、前方に膨らむ円弧を描きながら土中の植付位置に達し、その後、直線的に上昇する半月状の静止軌跡(走行停止時の植付爪27の先端運動軌跡)を描くように構成してある。これにより、回転ケース25が一回転する毎に二回の植付けが実行される。(図9参照)
【0011】
そして、植付機構18の植付動作速度は、車速に連動しており、車速に対する相対的な植付動作速度を変速することによって、植付機構18の植付株間が調節される。また、植付走行時における植付爪27の先端軌跡は、植付株間を広げるべく車速に対する植付作動速度を遅くすると、機体進行に伴う植付爪27の前方移動量が土中で大きくなり、植え付けた苗が引き摺られてしまう。したがって、植付株間を広げる場合には、上述した植付機構18の静止軌跡を変えることなく、一周期中の植付動作速度を不等速に変化させることによって、植付爪27の土中動作速度を速くして苗の引き摺りを防止する必要がある。以下、この不具合を解決するための構成(速度切換え機構)について説明する。
【0012】
図5に示すように、ミッションケース3内の伝動機構は、入力軸31に入力された動力を、入力軸31に回転自在に支持した筒軸32と、この筒軸32に並列する中間伝動軸33と、該中間伝動軸33に並列する株間変速軸34と、該株間変速軸34に回転自在に外嵌する筒軸35と、該筒軸35に回転自在に外嵌する筒軸36とを経由して植付PTO軸9に伝達するように構成してある。
【0013】
そして、入力軸31と筒軸32との間には、主クラッチ機構37が設けてあり、その入り切り動作に応じて、走行動力及び植付動力が断続されるようになっている。主クラッチ機構37の伝動下手側となる筒軸32には、走行動力を取り出すギヤ38と、植付動力を取り出すギヤ39とを一体的に設けてあり、この伝動ギヤ39は、常時噛合するギヤ41を介して中間伝動軸33に植付動力を伝達している。
【0014】
また、中間伝動軸33と株間変速軸34の伝動上手側端部との間には、第一株間変速機構51を設けている。この第一株間変速機構51は、図6に示すように、中間伝動軸33に一体的に設けた二枚のギヤ52,53と、株間変速軸34にスプライン嵌合する変速ギヤ54を備えている。変速ギヤ54は、図7及び図8に示すように、三つのギヤ部54a,54b,54cを有し、各ギヤ部54a,54b,54cが前記二枚のギヤ52,53に対して選択的に噛み合うことによって、三段の株間変速を可能にしている。
【0015】
そして、株間変速軸34の伝動下手側端部と筒軸35の伝動上手側端部との間には、トルクリミッタ55を設けている。このトルクリミッタ55に伝達される植付動力は等速回転であり、それによって当該トルクリミッタ55の確実且つ安定したリミット動作がなされる。
【0016】
また、筒軸35の伝動下手側端部には、第二株間変速機構61を構成する変速ギヤ62をスプライン嵌合してある。この変速ギヤ62は、中間伝動軸33に回転自在に支持したギヤ63に噛み合う位置と、側面の噛合歯62aが筒軸36の噛合歯36aに噛み合う位置とに変速操作される。即ち、変速ギヤ62の噛合歯62aが筒軸36の噛合歯36aに噛み合う状態では、筒軸35の回転が変速されることなく、筒軸36に植付動力が伝達される一方、変速ギヤ62がギヤ63に噛み合う状態では、そのギヤ比によって植付動力が変速されるようになっている。これにより、第二株間変速機構61による二段の変速と、第一株間変速機構51による三段の変速とを組み合せることによって、六段階の株間調整を行うことができる。
【0017】
そして、中間伝動軸33に回転自在に支持したギヤ63には、不等速変換機構71を構成する偏心ギヤ72を一体的に設けている。この偏心ギヤ72は、筒軸36に一体的に設けた偏心ギヤ73と常時噛合する。つまり、第二株間変速機構61のギヤ62,63同士を噛み合わせた場合には、筒軸35の動力が不等速変換機構71を経由して筒軸36に伝達されることになる。これにより、植付動力を二段階に変速するだけでなく、等速、不等速の切換えを行うことができる。
【0018】
また、筒軸36は、伝動下手側端部からベベルギヤB3,B4を介して植付PTO軸9に植付動力を伝達する。更に詳しくは、植付PTO軸9側のべベルギヤB4は、植付PTO軸9に回転自在に設けてあり、植付クラッチ機構75を介して植付PTO軸9に連結される。この植付クラッチ機構75は、噛み合い位置が一箇所だけに限られた噛み合いクラッチであり、不等速変換機構71の伝動下手側で植付動力を断続しても、不等速変換機構71の増速位置にズレを生じることがない。
【0019】
そして、ミッションケース3は、第一株間変速機構51を変速操作するための第一シフタ軸76と、第二株間変速機構61を変速操作するための第二シフタ軸77をスライド自在に支持している。第一シフタ軸76の内端部には、変速ギヤ54に係合するシフタフォーク78を設ける一方、外端部には、第一株間変速レバー79を連結してある。この第一株間変速レバー79の操作位置は、第一デテント機構81によって規制してあり、上述した三段の株間変速が行える。
【0020】
また、第二シフタ軸77の内端部には、変速ギヤ62に係合するシフタフォーク82を設ける一方、外端部には、第二株間変速レバー83を連結してある。この第二株間変速レバー83の操作位置は、第二デテント機構84によって規制してあり、上述した二段の株間変速が行える。そして、第二株間変速機構61においては、株間変速と共に植付動力の等速、不等速の切換えがなされるので、第二株間変速レバー83は、株間変速操作具と等速、不等速切換え操作具として兼用されることになる。
【0021】
上述した第一株間変速機構51と第二株間変速機構61の組み合せによって調節可能な六段階の株間(Kl〜K6)が、Kl<K2<K3<K4<K5<K6であるとすると、これら六段階の株間(Kl〜K6)は第一株間変速レバー79及び第二株間変速レバー83が下記の位置に操作されたとき現出する。
Kl:第一株間変速レバー(小)、第二株間変速レバー(小)
K2:第一株間変速レバー(中)、第二株間変速レバー(小)
K3:第一株間変速レバー(大)、第二株間変速レバー(小)
K4:第一株間変速レバー(小)、第二株間変速レバー(大)
K5:第一株間変速レバー(中)、第二株間変速レバー(大)
K6:第一株間変速レバー(大)、第二株間変速レバー(大)
【0022】
即ち、上記K1〜K3の小株間側からK4〜K6の広株間側への変速は、第二株間変速レバー83の(小)→(大)株間側への変速操作によってなされ、それに伴って植付動力も等速伝動経路から不等速伝動経路に切換えられて、植付機構18の回転が等速回転から不等速回転に切換えられる。
【0023】
叙述の如く構成した乗用型田植機は、苗載せ台15から苗を掻取って囲場に移植する植付機構18と、車速に対する植付機構18の相対的な動作速度を複数段に変速する株間変速機構51,61と、植付機構18の一周期中の植付動作速度を不等速に変化させる不等速変換機構71とを備え、この不等速変換機構71を経由する不等速伝動経路(筒軸35→変速ギヤ62→ギヤ63→不等速変換機構71→筒軸36)と、不等速変換機構71を経由しない等速伝動経路(筒軸25→変速ギヤ62→筒軸36)とを構成すると共に、両伝動経路の切換えを第二株間変速機構61の変速ギヤ62で行なえるように構成してある。即ち、第二株間変速機構61の変速ギヤ62を速度切換え機構(回転変速機構)として利用することによって、部品点数を削減してコストダウンを図るだけでなく、第二株間変速機構61及び不等速変換機構71をコンパクトに構成することができる。
【0024】
しかも、植付機構18の回転数が高く駆動負荷の大きい小株間(K1〜K3)側に第二株間変速機構61が変速操作されると、その植付動力は自動的に負荷変動の少ない等速伝動経路に切換えられて植付機構18は等速回転し、それによって当該植付機構18の植付走行時における土中動作速度が不要に増速されることはなく、更に負荷変動による振動の低減も図ることができる。一方、植付機構18の回転数が低く駆動負荷の小さい広株間(K4〜K6)側に第二株間変速機構61が変速操作された時は、その植付動力は自動的に不等速伝動経路に切換えられて植付機構18は不等速回転し、それによって当該植付機構18の静止軌跡を変えることなく植付一周期中の動作速度を不等速に変化させることができる。したがって、植付走行時における植付爪27の土中動作速度を増速させるように植付一周期を設定すれば、広株間における苗の引き摺りを防止することができる。また、第二株間変速機構61の変速操作によって等速、不等速の切換えが自動的に行われるため、当該変速操作を簡略化できるだけでなく、株間に適さない等速、不等速の切換えが行われることもない。
【0025】
また、図9は、回転ケース25の回転に伴う植付爪27の静止軌跡を示す側面図であって、当該回転ケース25は、上述の植付動力伝動経路に介設した不等速変換機構71によって、その回転速度に増速域A,Cと減速域B,Dが発生する。これにより、各植付爪27の掻取運動速度および土中運動速度が増速される一方、掻取苗を保持している中間運動域の運動速度が減速される。また、各増速域A、Cには、略180゜ずらして二つの最速位置E、Fが存在し、各減速域B、Dには、略180゜ずらして二つの最遅位置G、Hが存在する。そして、一方の最速位置Eは、植付爪27が苗を植付けた直後(土中)となるように設定すると共に、他方の最速位置Fは、植付爪27がマット苗を掻取る時に合致するように設定してある。
【0026】
即ち、植付爪27が苗を植付けた直後を最速位置Eに設定すると、土中における植付爪27の運動速度が増速されるので、機体進行に伴う植付爪27の土中における前方移動量が小さくなる。また、苗を植え付けた直後における植付爪27の引き上げ速度が速くなり、この植付爪27と植え付けられた苗との干渉を回避できるようになる。しかも、前記最速位置Eに対して略180゜ずらして設定した他方の最速位置Fは、植付爪27がマット苗を掻取るタイミングと一致させてあり、それによってマット苗の迅速な掻取りが可能となり、当該マット苗やその床土の不要なバラケを減少させることができる。
【0027】
しかし、上述した構成のものでは、植付株間の設定を広くした状態(疎植株間K4〜K6の状態)で植付駆動軸20(回転ケース25)を不等速回転させる場合、不等速変換機構71の減速域B,Dでは、植付機構18の慣性力により、植付駆動軸20の回転が駆動力よりも先行するといった問題が起こる。
【0028】
この問題は、不等速変換機構71から植付駆動軸20に至る伝動機構のガタ(バックラッシュ)に起因しており、前記ガタが大きくなると、植付爪27により掻取られた苗が植付機構18の受ける衝撃等によって脱落する可能性があると共に、当該植付機構18の動作がギクシャクすることから、その対策として前記不等速変換機構71から植付駆動軸20に至る伝動機構中に、該伝動機構に対して周期的に制動力を作用させるブレーキ機構88(図10参照)を設け、該ブレーキ機構88によって不等速変換機構71の減速域B,Dにおける植付駆動軸20の先行回転を制動できるように構成している。
【0029】
ブレーキ機構88は、図10に示すように、カム91、アーム支持ケース92、ブレーキアーム93、連結アーム94、付勢ロッド95、及びブラケット96等を備えて構成している。前記カム91は、180゜ずらして形成した二つのブレーキ作用域91a,91aと、180゜ずらして形成した二つのブレーキ解除域91b,91bとを交互に有する非円形カムであり、不等速変換機構71から植付駆動軸20に至る伝動機構の最終伝動軸である植付駆動軸20に一体的に取り付けてある。アーム支持ケース92は、植付伝動ケース17の後端部に螺設してあり、ブレーキアーム93の支軸部93aを回動自在に支持している。
【0030】
そして、ブレーキアーム93は、先端部にローラ93bを有し、このローラ93bは、植付伝動ケース17内でカム91のカム面に当接する。ブレーキアーム93の支軸93aは、植付伝動ケース17から突出して連結アーム94の基端部と一体的に連結している。
付勢ロッド95は、植付伝動ケース17に螺設したブラケット96と、連結アーム94の先端部に設けた連結ピン94aとの間に介設してあり、圧縮スプリング95aによって連結アーム94を引張り方向に付勢している。これにより、ブレーキアーム93のローラ93bは、付勢ロッド95の付勢力でカム91のカム面に弾圧状に当接して、植付駆動軸20に制動力を作用させることができる。
【0031】
即ち、ブレーキ機構88は、図11に示すように、ローラ93bがカム91の底部から頂部に至るまでの間(制動力作用域91a)で植付駆動軸20に制動力を作用させる一方、ローラ93bがカム91の頂部から底部に至るまでの間(制動力解除域91b)で植付駆動軸20への制動力を解除することになる。したがって、制動力作用域91aでは、上述した不等速変換機構71から植付駆動軸20に至る伝動機構全体のガタ取りが効率よく行われるので、不等速変換機構71の減速域において、慣性による植付駆動軸20の先行回転を防止することができるようになる。
【0032】
次に、ブレーキ機構88の制動力作用域、及び制動力解除位置の設定について、図9に基づいて説明する。図示するように、植付爪27が最速位置Fを過ぎると、植付駆動軸20に対するブレーキ機構88の制動作用が開始され、その制動力は、最遅位置Gの手前で最大となる。つまり、ブレーキ機構88の制動力作用域は、植付機構18の苗掻取位置近傍と最遅位置近傍との間に設定してあり、この区間で不等速変換機構71が植付動力を減速しても、植付駆動軸20の慣性による先行回転が規制される。これにより、植付駆動軸20の先行回転によって衝撃が発生するといった問題点を解消することができる。
【0033】
更に、植付爪27が最遅位置Gを過ぎ、土中突入位置に達すると、ブレーキ機構88において制動力の解除が開始され、最速位置Eの手前で制動力解除が終了する。つまり、ブレーキ機構88の制動力を、不等速変換機構71の増速域で解除することにより、制動力解除の反力で植付機構18が先行動作することを防止している。しかも、ブレーキ機構88の制動力解除位置は、植付爪27が下死点に到達する直前位置となるため、制動力解除の反力を利用して植付機構18の下死点越えを補助することができる。
【0034】
ところが、上述したブレーキ機構88は、植付株間の設定及び植付駆動軸20の等速または不等速回転と関係なく常時同等の作用するものであり、例えば植付株間の設定を広くした状態(疎植株間の状態)から標準的な植付株間に切換え、且つ植付駆動軸20を不等速回転から等速回転に切換えた状態で植付作業を行う時は、当該ブレーキ機構88が発現する周期的な制動力が逆効果となり、植付機構18の動作がギクシャクしてしまうといった不具合が起こる。
【0035】
そこで本発明では、図10に示すように、ブレーキ機構88による制動力の強弱をワンタッチで切換えることができる制動力切換え手段101を設けている。この制動力切換え手段101は、ブレーキ機構88を構成する付勢ロッド95を圧縮スプリング95aを介して弾発支持する支持プレート102と、該支持プレート102の先端に連結する連結ピン103aを備えると共に、ブラケット96に設けた支点Pを中心として回動自在な回動アーム103と、該回動アーム103と一体に形成した操作レバー104を備え、該操作レバー104による図中K矢印方向の回動操作量は、支点Pを中心とするブラケット96に設けた円弧状の長穴96aに内接する回動アーム103の連結ピン103aによって規制される。尚、図中符号105は、支点Pを中心とする操作レバー104の回動操作を、その支点越え方向に常時付勢する引張スプリングである。
【0036】
上述した構成により、操作レバー104は、支点Pを中心として図中M位置とM´位置とに切換え(回動)操作することができ、この時、連結アーム94先端部の連結ピン94aと回動アーム103の連結ピン103a間の芯間寸法Lは、M位置>M´位置の関係に切換わる。つまり、操作レバー104をM位置に操作した時は、不等速回転する植付駆動軸20に対してブレーキ機構88による適正な強い制動力を作用させることができるように、付勢ロッド95に対する圧縮スプリング95aの弾発力を設定してあるが、操作レバー104をM位置からM´位置に切換え操作すると、上述した芯間寸法Lが短くなり、それに伴って付勢ロッド95に対する圧縮スプリング95aの弾発力も低下するので、植付駆動軸20に対するブレーキ機構88の制動力が弱く作用するようになる。
【0037】
以上説明したように、植付機構18の植付駆動軸20を等速または不等速回転に切換える速度切換え機構62から植付駆動軸20に至る伝動機構中に、該伝動機構に対して周期的に制動力を作用させるブレーキ機構88を備え、このブレーキ機構88による制動力を、植付駆動軸20の不等速回転時は強く作用させる一方、植付駆動軸20の等速回転時は弱く作用させるように切換えることができる制動力切換え手段101を設けたことによって、例えば植付株間の設定を広くした状態(疎植株間K4〜K6の状態)から標準的な植付株間(小株間K1〜K3の状態)に切換え、且つ植付駆動軸20を不等速回転から等速回転に切換えた状態で植付作業を行う時は、前記ブレーキ機構88による制動力を強から弱へとワンタッチで容易に切換えることができるので、当該ブレーキ機構88が発現する周期的な制動力が逆効果となり、通常の植付作業状態における植付機構18の動作がギクシャクしてしまうといった従来の不具合が解消される。更に、前記ブレーキ機構88による制動力を、複数の植付機構18の各植付駆動軸20に作用させるように構成しているので、不等速変換機構71から植付駆動軸20に至る伝動機構の最終伝動軸である植付駆動軸20に制動力を作用させて、当該伝動機構全体のガタ取りを効率よく行うことができる。
【0038】
また、上述した実施例では、ブレーキ機構88による制動力の強弱を切換える操作レバー104を、各植付伝動ケース17に螺設したブラケット96に個別に設けているが、これらのブラケット96の後端には、苗載せ台15から苗を掻取って囲場に移植する複数の植付機構18を保護すべくパイプ材からなるガード体106(図1及び図2参照)を一体的に固設してあり、このガード体106を操作具として利用すれば、各植付駆動軸20に作用させる制動力の強弱切換えを同時に行える制動力切換え手段101を構成することができる。尚、ガード体106は、各植付機構18の作動軌跡の外側から各植付伝動ケース17に螺設したブラケット96に取り付けてある。
【0039】
つまり、図12に示すように、ブレーキ機構88を構成する付勢ロッド95を圧縮スプリング95aを介して弾発支持する支持プレート102の先端を、ブラケット96に突設した連結ピン96bと連結すると共に、各植付伝動ケース17に螺設される当該ブラケット96の螺設部に長穴96cを形成し、この長穴96cを利用してガード体106を把持しながら図中S矢印方向にブラケット96をスライドさせ、次いで図中U矢印方向に持ち上げ可能に構成すれば、連結アーム94先端部の連結ピン94aとブラケット96に突設した連結ピン96b間の芯間寸法Lが短くなり、それに伴って付勢ロッド95に対する圧縮スプリング95aの弾発力は低下するので、各植付駆動軸20に対するブレーキ機構88の制動力が弱く作用するようになる。このように、制動力切換え手段101を構成すれば、各植付駆動軸20に作用させる制動力の強弱切換え一度にまとめて行えるので作業時間の短縮が図れる。
【0040】
また、以上説明した制動力切換え手段101は、何れも乗用型田植機のオペレータが走行機体1から降りて植付作業機12の後側から操作しなければならず面倒であり、オペレータが座席111に着座した状態で当該制動力切換え手段101を操作できるように、その操作具(例えば、操作レバー104)を図示しないリンクやワイヤ等を介して走行機体1の適切な位置に設けてもよい。あるいは、第二株間変速レバー83により植付株間の設定を広くした状態(疎植株間の状態)から標準的な植付株間に切換える時、即ち植付動力を不等速伝動経路から等速伝動経路に切換えて、植付機構18の回転を不等速回転から等速回転に切換える際、当該第二株間変速レバー83の切換え操作に連動して制動力切換え手段101が所望状態に作用するように構成してもよい。
【0041】
尚、図13に示すものは、上述したブレーキ機構88を構成する付勢ロッド95の弾発力、即ち付勢ロッド95を弾発する圧縮スプリング95aのタワミ量を簡単に微調整できるように、付勢ロッド95を支持する支持プレート102の先端にアジャスタボルト113を連結し、このアジャスタボルト113の先端を植付伝動ケース17に螺設したブラケット96の外側に突出させると共に、当該アジャスタボルト113に螺合するナット114をブラケット96の外側から締付け調整可能に構成したものである。
【0042】
同じく、図14に示すものは、図中Z矢印方向に沿って締付け調整可能なアジャスタボルト116をブラケット96に螺挿すると共に、このアジャスタボルト116先端部のブラケット96の部位に、支持プレート102の先端に固設したスライドピン102aが前記Z矢印方向に摺動自在に案内されるガイド部材117を設け、当該アジャスタボルト116を締付け調整することによって、連結アーム94先端部の連結ピン94aと支持プレート102先端のスライドピン102aの芯間寸法Lを調整可能に構成したものであり、このものでもブレーキ機構88を構成する付勢ロッド95の弾発力を簡単に微調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】乗用型田植機の側面図。
【図2】乗用型田植機の平面図。
【図3】エンジンとミッションケースの周辺を示す側面図。
【図4】植付作業機の動力伝動経路を示す展開図。
【図5】ミッションケースの展開図。
【図6】植付動力の伝動系を示す展開図。
【図7】株間変速機構及び不等速変換機構を示す展開図。
【図8】第二株間変速機構の操作系を示す展開図。
【図9】植付爪の静止軌跡を示す側面図。
【図10】制動力切換え手段の第一実施例を示す側面図。
【図11】ブレーキ機構におけるカムの作用図。
【図12】制動力切換え手段の第二実施例を示す側面図。
【図13】付勢ロッドの弾発力微調整方法の第一実施例を示す側面図。
【図14】付勢ロッドの弾発力微調整方法の第二実施例を示す側面図。
【符号の説明】
【0044】
15 苗載せ台
18 植付機構
20 植付駆動軸
51 株間変速機構(第一)
61 株間変速機構(第二)
62 速度切換え機構
88 ブレーキ機構
101 制動力切換え手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植付駆動軸(20)の回転に伴って苗載せ台(15)から苗を掻取り、この苗を土中に植え付ける複数の植付機構(18)と、車速に対する前記植付機構(18)の相対的な動作速度を複数段に変速する株間変速機構(51,61)と、前記植付駆動軸(20)を等速または不等速回転に切換える速度切換え機構(62)を設けると共に、該速度切換え機構(62)から植付駆動軸(20)に至る伝動機構中に、該伝動機構に対して周期的に制動力を作用させるブレーキ機構(88)を備えた移植機において、前記ブレーキ機構(88)による制動力を、植付駆動軸(20)の不等速回転時は強く作用させる一方、植付駆動軸(20)の等速回転時は弱く作用させるように切換えることができる制動力切換え手段(101)を設けたことを特徴とする移植機。
【請求項2】
前記ブレーキ機構(88)による制動力を、複数の植付機構(18)の各植付駆動軸(20)に作用させるように構成した請求項1に記載の移植機。
【請求項3】
前記制動力切換え手段(101)により、複数の植付機構(18)の各植付駆動軸(20)に作用させる制動力の強弱切換えを同時に行えるように構成した請求項2に記載の移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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