説明

種子中の油脂量の評価方法及び油脂含量が変化した植物体のスクリーニング方法

【課題】種子中の油脂量及びその遺伝的変化を評価する。
【解決手段】オレオシン-GFP融合タンパク質などの、オイルボディ特異的タンパク質と蛍光タンパク質の融合タンパク質を発現させ、GFPなどの蛍光タンパク質の子葉中の蛍光強度に基づいて、植物体の種子に含まれる油脂量及びその変化を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種子中の油脂量の評価方法及び油脂含量が変化した植物体のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オイルボディ(油体、リピッドボディ(脂質体)と呼ばれる場合もある)は植物、特に油糧作物の種子細胞中に多量に存在する細胞内小器官である。オイルボディはオレオシンやステロレオシン、カレオシンと呼ばれる特異的なタンパク質を含んだ一層のリン脂質膜で形成され、内部には植物油脂がトリアシルグリセロール(TAG、中性脂肪、中性脂質)の形で、特に植物種子中に大量に蓄積している。従来、オイルボディに蓄積された油脂を分析する手法としては、種子を破壊して油脂成分を抽出し、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等を用いた分析方法であった。このような方法では、脂質分解阻害剤を添加したり、処理温度に低温条件が必要であったり、また、油脂成分の分解の危険性があった。
【0003】
一方、非特許文献1には、オイルボディの大きさがオレオシンの存在量に影響されることが開示されている。また、非特許文献2には、オレオシン遺伝子とGFP(緑色蛍光タンパク質、green fluorescent protein)遺伝子を融合させることにより、GFP由来の蛍光によって植物細胞中の小器官であるオイルボディを可視化できることが開示されている。しかしながら、オイルボディを観察できたとしても、オイルボディの数や形状と、オイルボディに蓄積される油脂量や油脂種との相関については未解明であった。特に、子葉でのオイルボディの形状や数と種子中の油脂量との相関については未解明であった。子葉中では発育の過程で、光合成も行いながらも貯蔵デンプンや貯蔵タンパク質、貯蔵油脂など様々な貯蔵化合物を分解利用していくので、子葉中のオイルボディの形状や数から、種子中の油脂量を推察することは困難と考えられていた。
【0004】
【非特許文献1】Siloto, R. M. P. Et al., Plant Cell 18, 1961-1974, (2006)
【非特許文献2】Wahlroos et al., GENESIS, 35 (2): 125-132, (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、非破壊で種子中の油脂量を評価すること、また、種子中の油脂量の変化を非破壊で判定することで、種子中の油脂量が変化した植物変異体をスクリーニングすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討し、オレオシン-GFP融合タンパク質を発現させ、GFP蛍光強度に基づいて植物体の種子に含まれる油脂量を判定できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下を包含する。
(1)オイルボディ特異的に存在するタンパク質と可視光によって検出可能なタンパク質の融合タンパク質を発現する植物体における子葉中の可視光強度を測定する工程と、上記工程で測定した可視光強度に基づいて種子中の油脂含量を判定する工程とを含む、種子中の油脂量の評価方法。
(2)上記オイルボディ特異的に存在するタンパク質がオレオシン、ステロレオシン及びカレオシンからなる群から選ばれるいずれか1のタンパク質であることを特徴とする(1)記載の評価方法。
(3)上記オイルボディ特異的に存在するタンパク質がオレオシンであることを特徴とする(1)記載の評価方法。
(4)上記可視光によって検出可能なタンパク質がGFP(緑色蛍光タンパク質、green fluorescent protein)であることを特徴とする(1)記載の評価方法。
(5)上記油脂含量を判定する工程では、子葉中の可視光強度の総和を算出し、当該総和と種子中の油脂含量とが正に相関する関係から判定することを特徴とする(1)記載の評価方法。
【0008】
(6)可視光強度総和測定と、パルスNMRを用いた非破壊種子の油脂含量定量方法を用いた測定値とから、可視光強度総和と種子中の油脂含量とが正に相関する関係を判定する工程をさらに含むことを特徴とする(5)記載の評価方法。
(7)上記可視光強度総和測定が、蛍光顕微鏡、蛍光分光光度計、蛍光タイタープレートリーダー又は蛍光画像解析装置で測定することを特徴とする(6)記載の評価方法。
(8)上記植物体は、変異原処理が施された植物細胞又は植物細胞培養物から得られたものであることを特徴とする(1)記載の評価方法。
(9)上記植物体が油糧植物であることを特徴とする(1)記載の評価方法。
(10)上記植物体が双子葉植物であることを特徴とする(1)記載の評価方法。
【0009】
(11)上記植物体がアブラナ科植物であることを特徴とする(1)記載の評価方法。
(12)上記植物体がシロイヌナズナであることを特徴とする(1)記載の評価方法。
(13)上記可視光強度を、蛍光顕微鏡、蛍光分光光度計、蛍光タイタープレートリーダー又は蛍光画像解析装置で測定することを特徴とする(1)記載の評価方法。
(14)オイルボディ特異的に存在するタンパク質と可視光によって検出可能なタンパク質の融合タンパク質を発現する植物細胞、植物細胞培養物又は植物体由来の子葉中の可視光強度を測定する事に基づいて、種子中の油脂含量が変化した植物種、植物品種又は植物変異体を選抜するスクリーニング方法。
(15)上記オイルボディ特異的に存在するタンパク質がオレオシン、ステロレオシン及びカレオシンからなる群から選ばれるいずれか1のタンパク質であることを特徴とする(14)記載のスクリーニング方法。
【0010】
(16)上記オイルボディ特異的に存在するタンパク質がオレオシンであることを特徴とする(14)記載のスクリーニング方法。
(17)上記可視光によって検出可能なタンパク質がGFP(緑色蛍光タンパク質、green fluorescent protein)であることを特徴とする(14)記載のスクリーニング方法。
(18)オイルボディ特異的に存在するタンパク質と可視光によって検出可能なタンパク質の融合タンパク質を発現する植物細胞、植物細胞培養物又は植物体に変異原処理を行う工程と、上記変異原処理後、子葉中の可視光強度を測定する工程と、上記工程で測定した可視光強度に基づいて、上記変異原処理に起因する種子中の油脂含量の変化を判定する工程とを含む、油脂含量が変化した植物体のスクリーニング方法。
(19)上記オイルボディ特異的に存在するタンパク質がオレオシン、ステロレオシン及びカレオシンからなる群から選ばれるいずれか1のタンパク質であることを特徴とする(18)記載のスクリーニング方法。
(20)上記オイルボディ特異的に存在するタンパク質がオレオシンであることを特徴とする(18)記載のスクリーニング方法。
【0011】
(21)上記可視光によって検出可能なタンパク質がGFP(緑色蛍光タンパク質、green fluorescent protein)であることを特徴とする(18)記載のスクリーニング方法。
(22)上記油脂含量の変化を判定する工程では、子葉中の可視光強度の総和を算出し、当該総和と種子中の油脂含量とが正に相関する関係から判定することを特徴とする(19)記載のスクリーニング方法。
(23)可視光強度総和測定と、パルスNMRを用いた非破壊種子の油脂含量定量方法を用いた測定値とから、可視光強度総和と種子中の油脂含量とが正に相関する関係を判定する工程をさらに含むことを特徴とする(22)のスクリーニング方法。
(24)上記可視光強度総和測定が、蛍光顕微鏡、蛍光分光光度計、蛍光タイタープレートリーダー又は蛍光画像解析装置で測定することを特徴とする(23)記載のスクリーニング方法。
(25)上記植物体が油糧植物であることを特徴とする(18)記載のスクリーニング方法。
【0012】
(26)上記植物体が双子葉植物であることを特徴とする(18)記載のスクリーニング方法。
(27)上記植物体がアブラナ科植物であることを特徴とする(18)記載のスクリーニング方法。
(28)上記植物体がシロイヌナズナであることを特徴とする(18)記載のスクリーニング方法。
(29)上記可視光強度を、蛍光顕微鏡、蛍光分光光度計、蛍光タイタープレートリーダー又は蛍光画像解析装置で測定することを特徴とする(18)記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、操作が簡便で大量のサンプルを一度に定量計測できる可視光計測をするだけで、非破壊で種子中の油脂量を評価する評価方法が提供できる。また、本発明によれば、操作が簡便で大量のサンプルを一度に定量計測できる可視光計測をするだけで、種子中の油脂量が変化した植物種、植物品種又は植物変異体をスクリーニングするスクリーニング方法が提供できる。本発明に係る評価方法及びスクリーニング方法は、種子中の油脂量又はその遺伝的変化を非破壊で評価できるため非常に簡便なものとなる。種子中の油脂量は遺伝的な量的形質であり、これを簡便、且つ大量に定量計測できる方法は産業上の優位性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
本発明では、オレオシン-GFP融合遺伝子を用いてモデル植物であるシロイヌナズナを形質転換し、形質転換シロイヌナズナから採取した子葉に含まれるオイルボディを蛍光により可視化した。具体的には、採取した種子を発芽させ、展開した子葉における蛍光を観察することで種子に含まれていたオイルボディを観察することができる。この形質転換シロイヌナズナに突然変異を誘発(変異原処理)してオイルボディの形状や数といった各種性状の変化を観察するとともに、油脂含量や油性組成の変化を測定した。驚くべきことに、オイルボディの各種性状のうち子葉中の蛍光総和(換言すれば、単位面積あたりの蛍光強度)と、種子に含まれる油脂量との間に正の相関があることが明らかになった。
【0015】
以上の知見に基づいて、植物種子における油脂含量及びその変化は、オイルボディ特異的に存在するタンパク質と可視光によって検出可能なタンパク質の融合タンパク質をコードする遺伝子を発現する植物体において子葉中の可視光強度を測定することによって測定・評価できることが明らかとなった。本発明に係る評価方法は、上述した知見に基づいており、種子中の油脂量を定量的に評価するものである。また、本発明に係るスクリーニング方法は、上述した知見に基づいており、変異原処理に起因して遺伝的に種子中の油脂量が変化した変異植物をスクリーニングする方法である。このスクリーニング方法は遺伝的に種子中の油脂量が変化していれば有効であり、変異植物だけでなく、種子中の油脂量が変化した植物種、植物品種にも適用可能である。
【0016】
本発明においては、先ず、オイルボディ特異的に存在するタンパク質と可視光によって検出可能なタンパク質の融合タンパク質を発現する植物体を準備する。ここで、オイルボディ特異的に存在するタンパク質としては、オレオシン、ステロレオシン及びカレオシン等の膜タンパク質を挙げることができる。また、融合タンパク質としては、これら膜タンパク質のうち1種を用いたものでも良いし、複数種のタンパク質を用いたものでも良い。可視光によって検出可能なタンパク質としては、蛍光タンパク質及び発光タンパク質を挙げることができる。蛍光タンパク質としては、GFP(緑色蛍光タンパク質、green fluorescent protein)だけでなく、同様の効果を持つタンパク質と知られる各種GFP変異型タンパク質(YFP(yellow fluorescent protein)、RFP(red fluorescent protein)、OFP(orange fluorescent protein)及びBFP(blue fluorescent protein)など)や、その他の蛍光発光能のあるタンパク質を使用することができる。発光タンパク質としては、例えばルシフェラーゼ等を挙げることができる。特に、可視光によって検出可能なタンパク質としては、上述したような蛍光タンパク質を使用することが好ましい。蛍光タンパク質は、従来公知の蛍光測定手段によって非常に高精度に定量的解析が可能であるためである。なお、以下においては、オレオシンとGFPの融合タンパク質(以下、オレオシン-GFP融合タンパク質と表記する)を代表例として記述するが、上記融合タンパク質としてはオレオシン-GFP融合タンパク質に限定されないことは明らかである。
【0017】
ここでオレオシン-GFP融合タンパク質は、従来公知の遺伝子工学的手法によって当該融合タンパク質をコードする融合遺伝子を取得することで所望の植物体で発現させることができる。一例として、オレオシン-GFP融合タンパク質をコードする融合遺伝子の塩基配列及びオレオシン-GFP融合タンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1及び2に示す。
【0018】
本発明において、オレオシン-GFP融合タンパク質としては、配列番号2に示すアミノ酸配列を含むものに限定されず、配列番号2に示すアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸残基が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を含み、オイルボディの膜中に存在し、且つ蛍光を呈するタンパク質であってもよい。ここで、複数のアミノ酸残基とは、2〜40個、好ましくは2〜30個、より好ましくは2〜20個、更に好ましくは2〜10個、最も好ましくは2〜5個のアミノ酸を意味する。
【0019】
また、オレオシン-GFP融合タンパク質としては、配列番号2に示したアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するタンパク質でもよい。前記相同性は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、最も好ましくは95%以上である。
【0020】
前記アミノ酸の欠失、付加、及び置換は、前記タンパク質をコードする遺伝子を、当該技術分野で公知の手法によって改変することによって行うことができる。遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法又はGapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA Bio社製)やMutant-G(TAKARA Bio社製))などを用いて、あるいは、TAKARA Bio社のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキットを用いて変異が導入される。また、変異導入方法としては、EMS(エチルメタンスルホン酸)、5-ブロモウラシル、2-アミノプリン、ヒドロキシルアミン、N-メチル-N’-ニトロ-Nニトロソグアニジン、その他の発ガン性化合物に代表されるような化学的変異剤を使用する方法でも良いし、X線、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、イオンビームに代表されるような放射線処理や紫外線処理による方法でも良い。
【0021】
さらに、オレオシン-GFP融合タンパク質をコードする遺伝子としては、配列番号1に示す塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、オイルボディの膜中に存在し、且つ蛍光を呈するタンパク質をコードするDNAを含む。ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、45℃、6×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)でのハイブリダイゼーション、その後の50〜65℃、0.2〜1×SSC、0.1%SDSでの洗浄が挙げられ、或いはそのような条件として、65〜70℃、1×SSCでのハイブリダイゼーション、その後の65〜70℃、0.3×SSCでの洗浄を挙げることができる。
【0022】
なお、上述したオレオシン-GFP融合タンパク質をコードする遺伝子は、その塩基配列が確定されると、その後は化学合成によって、又はクローニングされたcDNAを鋳型としたPCRによって、あるいは該塩基配列を有するDNA断片をプローブとしてハイブリダイズさせることによって、種々の植物より得ることができる。
【0023】
以上で説明した本発明に係るオレオシン-GFP融合タンパク質をコードする遺伝子は、植物ゲノム中における野生型のオレオシン遺伝子を置換するように改変することで、所望の植物内で機能的に発現することとなる。或いは、本発明において、上記融合タンパク質をコードする遺伝子は、植物ゲノム内の野生型オレオシン遺伝子を欠損させた植物体内に発現可能なように導入しても良い。さらに、本発明において、上記融合タンパク質をコードする遺伝子は、植物ゲノム内の野生型オレオシン遺伝子を欠損させず、当該融合タンパク質をコードする遺伝子が過剰発現するように導入してもよい。
【0024】
上述したオレオシン-GFP融合タンパク質をコードする遺伝子を植物細胞へ導入し、発現させるためのベクターとしては、pBI系のベクター、pUC系のベクター、pTRA系のベクターが好適に用いられる。pBI系及びpTRA系のベクターは、アグロバクテリウムを介して植物に目的遺伝子を導入することができる。pBI系のバイナリーベクター又は中間ベクター系が好適に用いられ、例えば、pBI121、pBI101、pBI101.2、pBI101.3等が挙げられる。pUC系のベクターは、植物に遺伝子を直接導入することができ、例えば、pUC18、pUC19、pUC9等が挙げられる。また、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、インゲンマメモザイクウイルス(BGMV)、タバコモザイクウイルス(TMV)等の植物ウイルスベクターも用いることができる。
【0025】
上述したオレオシン-GFP融合タンパク質をコードする遺伝子は、その遺伝子の機能が発揮されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、ベクターには、プロモーター、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、5'-UTR配列などを連結することができる。なお、選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ビアラホス耐性遺伝子等が挙げられる。
【0026】
「プロモーター」としては、植物細胞において機能し、植物の特定の組織内あるいは特定の発育段階において発現を導くことのできるDNAであれば、植物由来のものでなくてもよい。具体例としては、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来ユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーター、タバコ由来PRタンパク質プロモーター等が挙げられる。
【0027】
「ターミネーター」は、前記プロモーターにより転写された遺伝子の転写を終結できる配列であればよい。具体例としては、ノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Tnos)、カリフラワーモザイクウイルスポリAターミネーター等が挙げられる。
【0028】
「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ、例えばCaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域が好適である。
【0029】
また、上述したオレオシン-GFP融合タンパク質をコードする遺伝子を有する発現ベクターを用いて、形質転換植物を定法に従って作製することができる。形質転換植物は、上記発現ベクターを、導入した遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。形質転換の対象は、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束等、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子等)を含む)又は植物細胞である。
【0030】
形質転換に用いられる植物としては、双子葉植物、単子葉植物、例えばアブラナ科、イネ科、ナス科、マメ科、ヤナギ科等に属する植物(下記参照)が挙げられるが、これらの植物に限定されるものではない。
【0031】
アブラナ科:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、アブラナ(Brassica rapa、Brassica napus)、キャベツ(Brassica oleracea var. capitata)、ナタネ(Brassica rapa、Brassica napus)、ナノハナ(Brassica rapa、Brassica napus)、ハクサイ(Brassica rapa var. pekinensis)、チンゲンサイ(Brassica rapa var. chinensis)、カブ(Brassica rapa var. rapa)、ノザワナ(Brassica rapa var. hakabura)、ミズナ(Brassica rapa var. lancinifolia)、コマツナ(Brassica rapa var. peruviridis)、パクチョイ(Brassica rapa var. chinensis)、ダイコン(Brassica Raphanus sativus)、ワサビ(Wasabia japonica)など。
ナス科:タバコ(Nicotiana tabacum)、ナス(Solanum melongena)、ジャガイモ(Solaneum tuberosum)、トマト(Lycopersicon lycopersicum)、トウガラシ(Capsicum annuum)、ペチュニア(Petunia)など。
マメ科:ダイズ(Glycine max)、エンドウ(Pisum sativum)、ソラマメ(Vicia faba)、フジ(Wisteria floribunda)、ラッカセイ(Arachis. hypogaea)、ミヤコグサ(Lotus corniculatus var. japonicus)、インゲンマメ(Phaseolus vulgaris)、アズキ(Vigna angularis)、アカシア(Acacia)など。
キク科:キク(Chrysanthemum morifolium)、ヒマワリ(Helianthus annuus)など。
ヤシ科:アブラヤシ(Elaeis guineensis、Elaeis oleifera)、ココヤシ(Cocos nucifera)、ナツメヤシ(Phoenix dactylifera)、ロウヤシ(Copernicia)
ウルシ科:ハゼノキ(Rhus succedanea)、カシューナットノキ(Anacardium occidentale)、ウルシ(Toxicodendron vernicifluum)、マンゴー(Mangifera indica)、ピスタチオ(Pistacia vera)
ウリ科:カボチャ(Cucurbita maxima、Cucurbita moschata、Cucurbita pepo)、キュウリ(Cucumis sativus)、カラスウリ(Trichosanthes cucumeroides)、ヒョウタン(Lagenaria siceraria var. gourda)
バラ科:アーモンド(Amygdalus communis)、バラ(Rosa)、イチゴ(Fragaria)、サクラ(Prunus)、リンゴ(Malus pumila var. domestica)など。
ナデシコ科:カーネーション(Dianthus caryophyllus)など。
ヤナギ科:ポプラ(Populus trichocarpa、Populus nigra、Populus tremula)
イネ科:トウモロコシ(Zea mays)、イネ(Oryza sativa)、オオムギ(Hordeum vulgare)、コムギ(Triticum aestivum)、タケ(Phyllostachys)、サトウキビ(Saccharum officinarum)など。
ユリ科:チューリップ(Tulipa)、ユリ(Lilium)など。
【0032】
上述したオレオシン-GFP融合タンパク質をコードする遺伝子を有する発現ベクター又はDNA断片を植物中に導入する方法としては、アグロバクテリウム法、PEG-リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、パーティクルガン法(ボンバードメント法)、マイクロインジェクション法等が挙げられる。例えばアグロバクテリウム法を用いる場合は、プロトプラストを用いる場合と組織片を用いる場合がある。プロトプラストを用いる場合は、Tiプラスミドをもつアグロバクテリウムと共存培養する方法、スフェロプラスト化したアグロバクテリウムと融合する方法(スフェロプラスト法)、組織片を用いる場合は、リーフディスクにより対象植物の無菌培養葉片に感染させる方法(リーフディスク法)、カルス(未分化培養細胞)に感染させる方法、直接花組織に浸透させる方法等により行うことができる。また、単子葉植物のアグロバクテリウム法による形質転換には、アセトシリンゴンが形質転換率を高めるのに使用できる。
【0033】
上述したオレオシン-GFP融合タンパク質をコードする遺伝子が植物に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。例えば、形質転換植物からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCRを行った後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応等により増幅産物を確認する方法でもよい。
【0034】
形質転換の結果、得られる腫瘍組織やシュート、毛状根、種子などは、そのまま細胞培養、組織培養又は器官培養に用いることが可能であり、また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライド等)の投与などにより植物体に再生させることができる。培養細胞からの植物体の再生は、一般的には、適当な種類のオーキシンとサイトカイニンを混ぜた培地の上で根を分化させてから、サイトカイニンを多く含む培地に移植させシュートを分化させた後にホルモンを含まない土壌に移植することによって行う。
【0035】
このようにして、上述したオレオシン-GFP融合タンパク質をコードする遺伝子が導入された形質転換植物を準備することができる。得られた形質転換植物においては、オイルボディの膜中にオレオシン-GFP融合タンパク質が発現しており、GFPなどの蛍光タンパク質に由来する蛍光を観察することでオイルボディを可視化することができる。
【0036】
本発明においては、次に、オレオシン-GFP融合タンパク質を発現する植物体の子葉における蛍光強度を測定する。すなわち、上述したように作製された形質転換植物から採取した種子を発芽させ、展開した子葉における蛍光強度を測定する、蛍光強度を測定する手法及び装置としては、特に限定されないが、例えば、蛍光顕微鏡、蛍光分光光度計、蛍光タイタープレートリーダー又は蛍光画像解析装置等を挙げることができる。
【0037】
ここで、子葉の蛍光強度としては、子葉において観察される蛍光強度の総和を算出する。具体的には、画像の蛍光総和a=sum(蛍光強度×画素数)として算出することができる。ただし、蛍光強度と各蛍光強度をもつ画素数は同一条件・同一面積・同一画素数で取得した共焦点画像から計算する。
【0038】
このように算出した蛍光強度の総和に基づいて種子中の油脂量を評価することができる。すなわち、子葉におけるGFPなどの蛍光タンパク質由来蛍光強度の総和と、種子中の油脂量とは正の相関関係があり、これにより、子葉におけるGFPなどの蛍光タンパク質由来蛍光強度の総和に基づいて種子中の油脂量を評価することができる。具体的には、変異原処理を施した植物細胞又は植物細胞培養物から再生された植物体における子葉の蛍光強度の総和を算出し、未処理の植物体における子葉の蛍光強度の総和と比較する。その結果、未処理の植物体における子葉の蛍光強度の総和と比較して、変異原処理後の植物体における子葉の蛍光強度の総和が有意に増加していれば、変異原処理によって種子中の油脂量が増加するような変異が導入されたことになる。このように、変異原処理後に得られた植物体における子葉の蛍光強度の総和を算出することによって、種子中の油脂量が増加するといった特徴を有する変異植物体をスクリーニングすることができる。逆に、未処理の植物体における子葉の蛍光強度の総和と比較して、変異原処理後の植物体における子葉の蛍光強度の総和が有意に低下していれば、変異原処理によって種子中の油脂量が低下するような変異が導入されたことになる。このように、変異原処理後に得られた植物体における子葉の蛍光強度の総和を算出することによって、種子中の油脂量が低下するといった特徴を有する変異植物体をスクリーニングすることができる。
【0039】
ここで、変異原処理としては、特に限定されず、広く突然変異の誘発に用いられている化学的変異原及び/又は物理的変異原による処理を用いることができる。化学的突然変異源として、例えばメタンスルホン酸エチル(EMS)、エチルニトロソ尿素(ENS)、2-アミノプリン、5-ブロモウラシル(5-BU)、アルキル化剤などが用いることができる。また、物理的変異原としては、放射線、紫外線等を用いることができる。これらの変異原を用いた変異の誘発は公知の方法で行うことができる。
【0040】
種子中の油脂量を評価する対象は、変異原処理後の植物変異体だけでなく、異なる植物種や植物品種を対象とする事もできる。
【0041】
種子中の油脂量は、ナタネ、ダイズ、ヒマワリ、パームヤシなどの油糧作物において最も重要な表現型である。種子中の油脂量と言った表現型はいわゆる量的表現型であり、複雑な遺伝子型がからみあって影響している。本発明に係る評価方法及びスクリーニング方法によれば、種子中の油脂量及びその変化を、種子を破砕し油脂成分を抽出精製し定量分析すると言った手間のかかる工程を必要とせず、簡便でハイスループットに判定することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
本実施例では、モデル植物として広く利用されているシロイヌナズナを、オレオシン-GFP融合遺伝子を発現するように形質転換し、蛍光観察によりオイルボディを観察できる形質転換植物を作出した。その後、得られた形質転換植物に変異処理を施し、オイルボディの性状の変化を指標にして、種子内の油脂量が変動した変異体を同定した。以下、具体的な実験フロー及び実験結果を詳述する。
【0043】
材料と方法
<植物材料>
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)コロンビア生態型を用いた。植物は、定法に従い、種子滅菌、無菌寒天培地(1/2ムラシゲスクーグ培地、0.8%寒天)で7日間22℃明条件下で発芽させた。その後、バーミキュライト:パーライト=1:1を入れた鉢に植え、22℃で16時間明、8時間暗条件下で育成した。
【0044】
<オレオシン−GFP遺伝子の作成>
キアゲン社のRNeasy plant mini kitを用いてシロイヌナズナの鞘からRNAを単離し、インビトロジェン社のSuperScript III first strand synthesis system for RT-PCRを用いて逆転写反応を行った。得られたcDNAとプライマー1(3’AAAAAGCAGGCTCAATGGCGGATACAGCTAGAGGA3’:配列番号3)とプライマー2(3’CTCGCCCTTGCTCACCATAGTAGTGTGCTGGCCACC3’:配列番号4)を用いてPCRを行い、オレオシンS3 cDNAの両端にattB1配列の一部とGFP遺伝子の一部を持つDNA断片Aを増幅した。同時に、オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質GFPをコードするcDNAとプライマー3(3’GGTGGCCAGCACACTACTATGGTGAGCAAGGGCGAG3’:配列番号5)、プライマー4(3’AGAAAGCTGGGTCTTACTTGTACAGCTCGTCCAT3’:配列番号6)を用いたPCRにより、GFP cDNAの両端にオレオシンS3 cDNAの一部とattB2配列の一部が付加されたDNA断片Bを増幅した。次いで、DNA断片AとDNA断片B、プライマー5(3’GGGG ACA AGT TTG TAC AAA AAA GCA GGC T3’:配列番号7)とプライマー6(3’GGGG AC CAC TTT GTA CAA GAA AGC TGG G3’:配列番号8)を混ぜ合わせ、さらにPCRをおこなうことで、両側にattB1およびattB2配列を持つオレオシン-GFP融合遺伝子を作成した。オレオシン-GFP融合遺伝子の塩基配列及び当該遺伝子産物のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号1及び2に示した。
【0045】
得られた融合遺伝子は、インビトロジェン社のGateway systemプロトコールに従い、pDONR221ベクターを介して、CaMV 35Sプロモーターの下流にattR1とattR2配列を持ち、カナマイシン耐性マーカーを含むTiベクターにクローニングした。得られたプラスミドは、エレクトロポレーション法によりアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefacience C58C1 rifR)へ導入、これをTi-OleGとした。
【0046】
<シロイヌナズナへの形質転換>
オレオシン-GFP融合遺伝子は、アグロバクテリウム法を用いてシロイヌナズナのゲノムへ導入した。まず、Ti-OleGをYEB培地(5g/l polypeptone、5g/l beef extract、1g/l yeast extract、5g/l sucrose、0.5g/l MgSO4)にてA600=0.8-1.0になるまで28℃で増殖させた後、遠心分離により集菌した。得られた菌体はA600=0.8になるようにinfiltration液(10mM MgCl2、5% sucrose、0.05% Silwet L-77)に懸濁した。開花中のシロイヌナズナ花茎をこの懸濁液に1分間浸した後、結実した種子を採取した。採取した種子は、種子滅菌処理後に25mg/l カナマイシンを含む無菌寒天培地に播種し、カナマイシン耐性を指標にしてオレオシン-GFP融合遺伝子がゲノムに挿入された形質転換シロイヌナズナを単離した。得られた形質転換シロイヌナズナから種子を採取し、後代でカナマイシン耐性マーカーをホモで持つ形質転換体を選抜し、これをOleGと名付けた。
【0047】
<形質転換体の変異原処理>
OleGの種子を0.2%エチルメタンスルホン酸液で16時間処理後、バーミキュライト:パーライト=1:1を入れた鉢に播種した。22℃で16時間明、8時間暗条件下で後代の種子を採取し、これをM2種子とした。
【0048】
<GFP蛍光観察>
変異体のスクリーニングには、蛍光実体顕微鏡(Carl Zeiss SteREO Lumar V12)を用いた。OleGおよびM2種子を垂直に立てた無菌寒天培地で暗所6日間発芽させ、蛍光実体顕微鏡(Carl Zeiss)下で黄化子葉、胚軸および根の各細胞におけるオレオシン-GFP融合タンパク質のGFP蛍光を観察した。OleGとはGFP蛍光の強度や分布が異なるものを変異体として同定した。
【0049】
OleGおよび変異体におけるオレオシン-GFP融合タンパク質のGFP蛍光を比較するためには、共焦点レーザー顕微鏡(Carl Zeiss LSM 510)を用いた。暗所6日間発芽させたOleGおよび変異体から、黄化子葉、胚軸、根を切り取り、スライドクラスにマウントした。各細胞におけるGFP蛍光像を同一条件下で撮影し、顕微鏡付属の画像解析ソフトウエアを用いて、同一面積内での画素に対する蛍光強度の度数分布を計算し、蛍光総和a=sum(蛍光強度×画素数)を算出した。
【0050】
<種子タンパク質の電気泳動およびイムノブロット解析>
20粒の種子を40μlのSDSサンプルバッファ中で破砕した後、遠心上清を種子タンパク質のサンプルとした。定法に従い、15μlのサンプルをSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。電気泳動後のゲルは、0.2%クマシーブリリアントブルーR250溶液(25%メタノール、10%酢酸を含む)で染色した。
【0051】
イムノブロット解析には、5μlのサンプルをSDSポリアクリルアミドゲルで電気泳動した後、セミドライブロット法を用いてゲル中のタンパク質をニトロセルロール膜に転写した。ニトロセルロール膜に転写されたタンパク質の抗タンパク質抗体を用いた検出は、GEヘルスケアバイオサイエンスのプロトコルに従い、ECL Western blotting detection reagentsを用いて行った。その際、1次抗体(抗オレオシン抗体もしくは抗GFP抗体)および2次抗体はともに1/5000希釈したものを用いた。発光の検出には富士フイルム製の発光イメージアナライザーLAS-1000 plusを用いた。
【0052】
<種子細胞の電子顕微鏡観察>
半切した種子を固定液(4%パラホルムアルデヒド、1%グルタルアルデヒド、10% DMSO、0.05Mカコジル酸バッファpH7.4)で固定した。固定後のサンプルをエポン812樹脂に包埋、Leica製ミクロトーム Ultracut UCTを用いて超薄切片を作成した。超薄切片は4%酢酸ウランおよび0.4%クエン酸鉛で電子染色後、電子顕微鏡(日立製作所H-7600)にて観察を行った。
【0053】
<種子の油脂量測定>
静電気除電処理を行いながら薬包紙を用いて種子を精密電子天秤で重量測定し、種子重量が10〜12mgになるように量りとった。種子は、パルスNMR用の試験管に入れ、Resonance製MARAN-23パルスNMRを用いて1H-パルスNMR緩和時間値から種子中の油脂含量(重量%)を求めた。詳しい測定手順についてはパルスNMR測定マニュアルに従った。
【0054】
<種子の油脂に含まれる脂肪酸組成分析>
1 mg-5 mg程度の種子サンプルの重量を測定後、1.5 mlマイクロテストチューブに入れた。マイクロテストチューブに3 mmφのタングステンカーバイドビーズを1粒添加後、さらに450μlのメタノール、0.2%(w/v)の濃度でメタノール溶媒と混合したブチルヒドロキシトルエン溶液を50μl、内部標準物質として0.2% C15:0脂肪酸10μlを加えた。これら各種試薬とサンプルを加えたマイクロテストチューブをRetsch製Mixer Mill Type MM301を用いて1/20s頻度で1分間振動させ、種子を粉砕した。サンプルを、10 mlのスクリューキャップ付試験管に移した。さらにマイクロテストチューブ内部をメタノール250μlで2回洗浄し、洗浄メタノール液を上記試験管に加え、試料液を約1 mlとした。これに10%塩酸/メタノール液を1 ml添加し、80℃で1時間処理をした後、1.5 mlのn-ヘキサンを加え、ヴォルテックスミキサーで撹拌し、n-ヘキサン層を10 mlスピッツ管に移した。1 mlのn-ヘキサンでさらにメタノリシスに用いた試験管内部を洗浄し、洗浄n-ヘキサン液層を上記スピッツ管に加えた。得られたn-ヘキサン溶媒溶液を40℃で窒素ガスパージし、脂肪酸メチルエステルを乾固した。乾固した脂肪酸メチルエステルをn-ヘキサン500μlで溶解し、GC-FIDにより各種脂肪酸メチルエステルを分離・定量した。定量にあたっては、内部標準(C15:0脂肪酸)の面積値を参照した。
【0055】
結果と考察
<オイルボディ形成不全変異体スクリーニング法の確立>
オレオシンとGFP(green fluorescent protein)の融合タンパク質をコードする融合遺伝子(Oleosin-GFP)を作製し、これをカリフラワーモザイクウイルス由来35SプロモーターDNA下流に連結した(図1A)。このDNAコンストラクトをアグロバクテリウム法を用いてシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のゲノムDNA中に導入し、形質転換シロイヌナズナを作製、oleGと名付けた。暗黒条件下で6日間発芽後のoleG子葉を蛍光顕微鏡観察を用いて観察した結果が図1Bである。図1Bより、オイルボディ膜がGFP蛍光で標識されており、多数の小さなオイルボディが凝集体として集まった状態で存在していることがわかる。また、暗黒条件下で発芽した子葉以外にも胚や明条件下で発芽した緑色子葉中や本葉中・花弁中でもオイルボディが存在することがわかった。
【0056】
オイルボディへの植物油脂蓄積メカニズムに関与する遺伝子を決定するために、oleG種子をエチルメタンスルホン酸で変異処理し、後代M2種子を得た。暗黒下で6日間発芽したM2植物の蛍光顕微鏡観察を行い、oleGと比較して蛍光強度の異なる変異体A(図1C)及び変異体B(図1D)を取得した。これらの変異体は発芽した子葉中のGFP蛍光強度がoleGよりも低下していた。
【0057】
<GFP蛍光総和と種子の脂質含量の関係>
OleG、変異体A及び変異体Bについて、暗黒下で6日間発芽した子葉のGFP蛍光を同一条件、同一面積、同一画素数のレーザー共焦点顕微鏡画像として取得し、各画像のGFP蛍光強度に対する画素数の度数分布からGFP蛍光総和a(a=sum(蛍光強度×画素数))を求めた。OleGの蛍光総和を100%とすると、変異体Aの蛍光総和は37.9%、変異体Bは85.1%となった。一方、OleG、変異体A及び変異体Bの種子に含まれる脂質含量(平均値±標準偏差)を測定したところ、それぞれ34.66%±0.43%、26.91%±0.34%、32.34%±0.49%であった。
【0058】
これらの結果に基づいてGFP蛍光総和と種子の脂質含量との関係を図2及び表1に示した。
【0059】
【表1】

【0060】
図2及び表1に示すように、オレオシ-GFP融合タンパク質に起因する子葉中の蛍光総和と非破壊で測定した種子中の油脂含量とが相関(y=8.1331x-180.25、R2=0.9959)があることが明らかとなった。本実施例の結果から、オレオシ-GFP融合タンパク質を発現させた形質転換植物における子葉の蛍光強度を測定するだけで、種子中の油脂含量が容易に判定できることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】Aはオレオシン-GFP融合遺伝子を模式的に示す構成図であり、B〜DはそれぞれOleG、変異体A及び変異体Bの暗所発芽6日目における子葉の蛍光写真である。
【図2】GFP蛍光総和%と種子の脂質含量との関係を示す特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルボディ特異的に存在するタンパク質と可視光によって検出可能なタンパク質の融合タンパク質を発現する植物体における子葉中の可視光強度を測定する工程と、
上記工程で測定した可視光強度に基づいて種子中の油脂含量を判定する工程とを含む、種子中の油脂量の評価方法。
【請求項2】
上記オイルボディ特異的に存在するタンパク質がオレオシン、ステロレオシン及びカレオシンからなる群から選ばれるいずれか1のタンパク質であることを特徴とする請求項1記載の評価方法。
【請求項3】
上記オイルボディ特異的に存在するタンパク質がオレオシンであることを特徴とする請求項1記載の評価方法。
【請求項4】
上記可視光によって検出可能なタンパク質がGFP(緑色蛍光タンパク質、green fluorescent protein)であることを特徴とする請求項1記載の評価方法。
【請求項5】
上記油脂含量を判定する工程では、子葉中の可視光強度の総和を算出し、当該総和と種子中の油脂含量とが正に相関する関係から判定することを特徴とする請求項1記載の評価方法。
【請求項6】
可視光強度総和測定と、パルスNMRを用いた非破壊種子の油脂含量定量方法を用いた測定値とから、可視光強度総和と種子中の油脂含量とが正に相関する関係を判定する工程をさらに含むことを特徴とする請求項5記載の評価方法。
【請求項7】
上記可視光強度総和測定が、蛍光顕微鏡、蛍光分光光度計、蛍光タイタープレートリーダー又は蛍光画像解析装置で測定することを特徴とする請求項6記載の評価方法。
【請求項8】
上記植物体は、変異原処理が施された植物細胞又は植物細胞培養物から得られたものであることを特徴とする請求項1記載の評価方法。
【請求項9】
上記植物体が油糧植物であることを特徴とする請求項1記載の評価方法。
【請求項10】
上記植物体が双子葉植物であることを特徴とする請求項1記載の評価方法。
【請求項11】
上記植物体がアブラナ科植物であることを特徴とする請求項1記載の評価方法。
【請求項12】
上記植物体がシロイヌナズナであることを特徴とする請求項1記載の評価方法。
【請求項13】
上記可視光強度を、蛍光顕微鏡、蛍光分光光度計、蛍光タイタープレートリーダー又は蛍光画像解析装置で測定することを特徴とする請求項1記載の評価方法。
【請求項14】
オイルボディ特異的に存在するタンパク質と可視光によって検出可能なタンパク質の融合タンパク質を発現する植物細胞、植物細胞培養物又は植物体由来の子葉中の可視光強度を測定する事に基づいて、種子中の油脂含量が変化した植物種、植物品種又は植物変異体を選抜するスクリーニング方法。
【請求項15】
上記オイルボディ特異的に存在するタンパク質がオレオシン、ステロレオシン及びカレオシンからなる群から選ばれるいずれか1のタンパク質であることを特徴とする請求項14記載のスクリーニング方法。
【請求項16】
上記オイルボディ特異的に存在するタンパク質がオレオシンであることを特徴とする請求項14記載のスクリーニング方法。
【請求項17】
上記可視光によって検出可能なタンパク質がGFP(緑色蛍光タンパク質、green fluorescent protein)であることを特徴とする請求項14記載のスクリーニング方法。
【請求項18】
オイルボディ特異的に存在するタンパク質と可視光によって検出可能なタンパク質の融合タンパク質を発現する植物細胞、植物細胞培養物又は植物体に変異原処理を行う工程と、
上記変異原処理後、子葉中の可視光強度を測定する工程と、
上記工程で測定した可視光強度に基づいて、上記変異原処理に起因する種子中の油脂含量の変化を判定する工程とを含む、油脂含量が変化した植物体のスクリーニング方法。
【請求項19】
上記オイルボディ特異的に存在するタンパク質がオレオシン、ステロレオシン及びカレオシンからなる群から選ばれるいずれか1のタンパク質であることを特徴とする請求項18記載のスクリーニング方法。
【請求項20】
上記オイルボディ特異的に存在するタンパク質がオレオシンであることを特徴とする請求項18記載のスクリーニング方法。
【請求項21】
上記可視光によって検出可能なタンパク質がGFP(緑色蛍光タンパク質、green fluorescent protein)であることを特徴とする請求項18記載のスクリーニング方法。
【請求項22】
上記油脂含量の変化を判定する工程では、子葉中の可視光強度の総和を算出し、当該総和と種子中の油脂含量とが正に相関する関係から判定することを特徴とする請求項18記載のスクリーニング方法。
【請求項23】
可視光強度総和測定と、パルスNMRを用いた非破壊種子の油脂含量定量方法を用いた測定値とから、可視光強度総和と種子中の油脂含量とが正に相関する関係を判定する工程をさらに含むことを特徴とする請求項22のスクリーニング方法。
【請求項24】
上記可視光強度総和測定が、蛍光顕微鏡、蛍光分光光度計、蛍光タイタープレートリーダー又は蛍光画像解析装置で測定することを特徴とする請求項23記載のスクリーニング方法。
【請求項25】
上記植物体が油糧植物であることを特徴とする請求項18記載のスクリーニング方法。
【請求項26】
上記植物体が双子葉植物であることを特徴とする請求項18記載のスクリーニング方法。
【請求項27】
上記植物体がアブラナ科植物であることを特徴とする請求項18記載のスクリーニング方法。
【請求項28】
上記植物体がシロイヌナズナであることを特徴とする請求項18記載のスクリーニング方法。
【請求項29】
上記可視光強度を、蛍光顕微鏡、蛍光分光光度計、蛍光タイタープレートリーダー又は蛍光画像解析装置で測定することを特徴とする請求項18記載のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−201435(P2009−201435A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48485(P2008−48485)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【Fターム(参考)】