説明

稲根株の回収処理方法

【課題】汚染源を吸収している稲根株を簡易な方法で効率良く回収し、田の土壌状態を稲根株の回収前後で変化させない、稲根株の回収処理方法を提供する。
【解決手段】
稲根株を掘り起こす工程、稲根株を回収する工程、稲根株を洗浄台に固定する工程、洗浄台の稲根株を根の正面方向から風流又は水流を噴射して洗浄する工程を行い、稲根株を回収処理する。回収工程で根の周囲の土壌を粗落としする。回収した稲根株に付着する土壌を乾燥する。根に付着した土壌を埋設位置付近に戻す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、稲根株の回収処理方法であって、特に、田を傷めずに稲の根に付着した土壌を効率良く除去しうる稲根株の回収処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カドミウム(Cd)などの重金属により汚染された田の浄化のために、大学などの研究機関では、重金属等で汚染された土壌を植物で浄化処理するファイトレメディエーションの研究が行われている。
例えば、重金属等をより多く吸収する植物の特定・改良や、刈り取り易い部分である茎、葉、実などにより多くの重金属等を賦存させる品種の開発が行われている。また、重金属等の吸収効率のよい植物としてある品種の稲が特定されているが、浄化期間として5年以上を必要とされているので、実用化にはあと一歩のところにある。
【0003】
ここで、稲などの植物においては、回収が困難な根には依然として高い比率で汚染物質が蓄積されることが知られている(稲穂:茎:根株に4:2:4程度の割合)。
しかし、根株部分には吸収された重金属の多くが賦存しているものの、根株の回収方法(機械)は現在のところ確立されていない。
【0004】
また、稲根株を回収する際は、根の周囲に付着している栄養価の高い土壌を田畑に戻し、田が痩せないようにすることも必要となる。このため、根の間の泥を効率良く田へ戻さなければならないが、稲の根は多数の細い根に分かれており、根の間に泥を挟んでいるので、この泥の除去方法にも有効な手段がない。
【0005】
このため、稲根株の回収と泥の除去の方法が確立すれば、稲による金属汚染田の浄化期間が半減し、3年程度に短縮され実用化されると期待されている。
なお、現在、汚染田の浄化は客土によっているが、客土用の土が十分にないこと、多額の費用を要することが問題となっている。
【0006】
一方、特許文献1や特許文献2には、切株や針葉樹根株を破砕して利用する方法が提案されているが、強固に植設された根株を効率よく回収する方法は提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭58−166003号公報
【0008】
【特許文献2】特開2006−233022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、汚染源を吸収している稲根株を簡易な方法で効率良く回収し、田の土壌状態を稲根株の回収前後で変化させない、稲根株の回収処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、稲根株に付着した土壌を風流又は水流で効率よく除去することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、稲根株に付着した土壌を風流又は水流で効率よく除去することとしたため、汚染源を吸収している稲根株を簡易な方法で効率良く回収し、田の土壌状態を稲根株の回収前後で変化させない、稲根株の回収処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】洗浄台及び稲根株と付着土壌の設置状態(凹部固定)の上面図及びA−A´断面図である。
【図2】洗浄台及び稲根株と付着土壌の設置状態(クロス部固定)の上面図及びA−A´断面図である。
【図3】凹部の形状例を示す上面図及びA−A´断面図である。
【図4】掘り起こし工程の様子を示す写真である。
【図5】用いた熊手と粗落とし後の稲根株を示す写真である。
【図6】洗浄作業の様子と洗浄後の稲根株を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の稲根株の回収処理方法について詳細に説明する。なお、本発明において「稲根株」とは、稲の根と根から延出している茎(茎の下方部)とを示す。
【0014】
本発明の稲根株の回収処理方法は、田に植設された稲根株を掘り起こし(工程1)、掘り起こした稲根株を回収し(工程2)、稲根株を洗浄台に固定し(工程3)、稲根株の根の正面方向からから風流又は水流を噴射する(工程4)ことで、田から稲根株を回収するとともに根に付着していた土壌を除去するものである。
【0015】
ここで、掘り起こし工程では、鋤などの農機具を用いた人力による掘り起こしの他、田の面積に応じてトラクターなどの大型機械を用いることができる。掘り起こしの深さは、稲の植設具合によるが、代表的には10〜30cm、好ましくは10〜20cmであることが良い。
【0016】
回収工程では、人力や機械により稲根株を回収すればよい。回収した稲根株は、後工程の洗浄作業の負担を軽減するために、根の周囲に付着している土壌を粗落としすることが好ましい。かかる粗落としには、付着土壌中の水分量が少ないときは、叩き落としたり、振るい落とすことができ、付着土壌中の水分量が多いときは、根の間隙を梳くことのできる熊手などの道具を適宜使用して付着土壌を取り除くことがよい。なお、回収工程で、稲根株に付着している土壌を乾燥して水分量を減少させてもよい。
【0017】
次に、回収した稲根株は洗浄台へ固定する。このときの洗浄台は、稲根株の根が上方を向くように設置可能な構成であればよい。例えば、板の上に一定間隔に稲根株の茎部分の設置が可能な突起を設けた固定板、ビールケースのように箱内に一定幅の凹部を有し、上下方向の通風性/通気性が確保されたものを利用できる。また、箱内の隣接する凹部の側壁同士で形成される部分(仕切りが十字にクロスする部分など)を利用して稲根株を固定することもできる。凹部の幅としては、洗浄工程で除去される土壌が稲根株から隔離される余裕があれば特に限定されないが、代表的には50〜100mm程度、好ましくは70〜90mm程度であることがよい。凹部側面のクロスする部分を利用する場合も同様の間隔に設置することがよい。また洗浄台の素材は、撥水性のある樹脂などがよく、洗浄作業に耐えられる強度を有する範囲でメッシュ構造とするのがよい。洗浄台の代表例(凹部固定、クロス部固定)を図1、2に、その他の凹部形状例を図3に示す。
【0018】
次に、洗浄台への固定後に洗浄工程として、風流又は水流を根に噴射して付着している土壌を除去する。風流又は水流は、茎の成長方向に対して180°反対側から±90°までの範囲から噴射すればよい。
風流は付着土壌の水分含有量が少ない場合に利用できる。このときの風圧は、付着土壌が除去でき、根を破壊しない程度であればよい。具体的には1.0〜1.8MPa、好ましくは1.3〜1.5MPaであるのがよい。この範囲未満では付着土壌の除去が不十分となり、この範囲を超えると根株が破壊されてしまう。
水流は付着土壌の水分含有量が多い場合や粘着性の強い土壌が付着している場合に有効である。このときの水圧は、付着土壌が除去でき、根を破壊しない程度の水圧であればよい。具体的には1.5〜3.5MPa、好ましくは2.0〜3.0MPaであればよい。この範囲未満では付着土壌の除去が不十分となり、この範囲を超えると根株が破壊されてしまう。
また、洗浄台に固定した稲根株が風流や水流で飛び散らないようにするため、洗浄台上の稲根株をネットなどで覆うことも好ましい。
【0019】
なお、洗浄手段として、ミキサーなどの攪拌を用いる洗浄も考えられるが、この場合には、洗浄に多量の水を用いる問題、付着土壌の団粒構造を破壊してしまう問題が生じるため好ましくないことを本発明者は確認している。ここで、土壌の団粒構造とは、土壌粒子が空孔を残しながら小さな固まりを形成しており、空気を含む水の循環性に富み、稲の支持力もよいという作物の育成に適した構造をいう。
なお、この団粒構造が破壊されると、土壌の質が変わり、耐力が落ちる(ヘドロ化)。その結果、稲が倒れやすくなる、耕運機などの取り回しが困難になる、土壌養分が抜けて稲に養分が行かなくなる、などの弊害が起こりやすい。
【0020】
前記洗浄工程は、根株の埋設位置又はその近傍で行い、稲根株に付着した土壌を埋設位置付近に戻すことが好ましい。これは栄養分の高い付着土壌を元の田に戻すことで田が痩せるのを防ぐためである。
なお、一旦稲根株を田の外に持ち出し、外部施設で洗浄の上、土を均等に戻すことも考えられるが、費用面からは埋設位置付近で洗浄作業を行い、除去された土壌が自然に田に戻る方法が最も効率的である。
【0021】
以上説明したように、本発明の稲根株の回収処理方法により、簡易な方法で稲根株を効率良く回収することができ、このときに田の土壌状態を稲根株の回収前後で変化させないことが可能となる。これにより、従来検討されていなかった汚染源を吸収している稲穂や茎だけでなく、稲根株をも効率的に除去することで田の汚染を短期間に浄化することが可能となる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を次の実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0023】
(実施例1)
1.掘り起こし工程
小型耕運機を用いて、稲刈り後の根株が残っている試験田(1反・10a)を掘り起こした。試験田の状態は表面にひび割れが確認できる程度に乾燥しており、付着土壌の水分含有率が低い状態であった。
【0024】
2.根株の回収工程
掘り起こした根株を手作業で15株回収するとともに、根の周囲に付着している土壌を、熊手を用いて粗落としした。掘り起こし直後の根株の平均質量は、1株あたり約1533g、粗落とし後の根株の平均質量は、1株あたり約491gであった。また、回収工程は15株で3分20秒を要した。用いた熊手と粗落とし後の稲根株を図5に示す。
【0025】
3.稲根株の洗浄工程
稲根株を洗浄台(縦350mm×横430mm×高さ150mmのメッシュ状ケース内に固定用凹部:80mm×80mm×100mmを15個備える)に根が上方となるように茎側(刈り込み部)を固定し、小型空気圧縮機(型式7.5P−14VA5/6、HITACHI製)を用いて、根の周囲に付着している土壌を1.3MPaの風圧にて吹き飛ばして除去した。
洗浄前の稲根株の質量は15株の合計で約7.4kgであったが、洗浄後は15株の合計で約2.2kg(1株145g)となった。また、洗浄工程は15株あたり70秒を要した。
【0026】
このように、固定用凹部を有する洗浄台に稲根株を固定して洗浄することで、圧縮空気により稲根株が動かされることを防止でき、稲根株をひと塊にまとめて洗浄でき、時間の短縮と付着土壌の除去効率を上げることができる。
また、稲根株を差し込んだ洗浄台をまとめて効率よく洗浄処理するため、また圧縮空気の通り抜けをよくするために、カゴ状の洗浄台の上に複数の固定具を設置することが好ましい。また、カゴ状の洗浄台は3箱程度を1度に洗浄できる大きさが扱いやすい。
【0027】
(実施例2)
掘り起こし工程は、試験田の状態がぬかり気味であったため、大型トラクターを用いて10分間を要した。この様子を図4に示す。水分が多い田ではぬかるため、重量のある大型耕運機またはキャタピラ式の耕運機が必要となる。なお、ジャガイモなどの回収機では、根株を粉々にしてしまうことが多いので、利用できないことを本発明者は調査済みである。
実施例1と同様に回収後、高圧洗浄機(型式:WS1010、HONDA製)を用いて、根の周囲に残留している土壌を2.5MPaの水流で洗い流した。洗浄前の稲根株の質量は15株の合計で約9.4kg、洗浄後の稲根株の質量は15株の合計で約3.2kg(1株215g)であった。また、洗浄工程は15株あたり60秒、7Lの水を要した。この作業の様子と洗浄後の稲根株を図6に示す。
また、稲根株を差し込んだ固定具をまとめて効率よく洗浄処理するため、また洗浄水の排水をよくするために、カゴ状の洗浄台の上に複数の固定具を設置することが好ましい。このカゴ状の洗浄台は傾斜させたほうが洗浄しやすい。また、カゴ状の洗浄台は3箱程度を1度に洗浄できる大きさが扱いやすい。
なお、本例では移動しながら洗浄作業を行ったが、この場合は付着土壌が元の位置の近傍に戻るので土壌の変化が少ない。また、水洗浄の利用水量は田に影響を及ぼすものではない。
【0028】
(実施例3)
回収工程での粗落としを省略した以外は、実施例2と同様の手順を繰返して、稲根株の回収処理、洗浄工程を行った。洗浄前の稲根株の質量は15株の合計で12.3kg、洗浄後の稲根株の質量は、15株の合計で3.0kgであった。また、洗浄工程は15株あたり3分20秒、23Lの水を要した。
【0029】
(比較例1)
手順2までは実施例1と同様に稲根株を15株回収し、手順3の洗浄工程で0.5MPaの圧縮空気を用いた以外は実施例1と同様に付着土壌を除去した。
洗浄前(粗落とし後)の稲根株の質量は15株の合計で約7.8kg(1株あたり約519g)であったが、洗浄後は15株の合計で約6.5kg(1株431g)となった。
このように、圧縮空気の圧力が減少すると稲根株の付着土壌を十分に除去できないことがわかる。
【0030】
(比較例2)
手順2までは実施例2と同様に行い、稲根株を回収した。
その後に、洗浄工程として、稲根株をコンクリートミキサー(100L容量)に30Lの水と稲根株15株を投入し、回転速度22rpmにて洗浄を行った。洗浄前の稲根株の質量は15株の合計で約24.0kgであり、実施例2に対して2倍以上(3分)の洗浄を続けたが15株の合計で約11.3kgまでしか洗浄されなかった。
なお、本発明者の事前調査では、上記コンクリートミキサーを用いた場合は、一度に15株程度までが限界であり、30株では全く洗浄できなかった。
【0031】
【表1】

【0032】
以上のように、稲根株を回収し、洗浄するまでの処理効率は、比較例に比べて実施例の方が良好であり、本発明の方法であれば効率よく稲根株を回収処理できることがわかる。
また、比較例2で用いたミキサーは田での移動が困難であり、1か所での洗浄作業となることから、水交換時に作業場所にぬかるみが発生し、大型農機の障害となること、洗浄後の土が作業場所に大量に積みあがることが問題となった。このため、田では作付けの全作業について土の横移動がほとんどないため、作業後に平坦にすることが必要になる。
更に、高圧水洗浄機による洗浄では、1反・10aの田を10〜20区画に分けて、各区画で作業することができ、極力少ない水使用量で洗浄することができるので、水による田のダメージがほとんどないと言える。具体的には、15株あたり7Lの水使用量で高圧洗浄を行い1反(21000株と仮定)について回収処理を行っても、通常の降雨量に相当する程度に過ぎない。
7L(高圧洗浄水) × 21000株/15株 = 9800L
9800L/1000平米 = 9.8mmの雨に相当
更にまた、ミキサーによる洗浄では、泥の団粒構造が破壊されて砂と黒土に分離されることが大きな問題となるのに対し、高圧空気又は水を用いる洗浄機では付着土壌を高圧で吹き飛ばすため、団粒構造の破壊も最小限ですむ。
【0033】
なお、本発明の回収処理方法を行うにあたり、田の各区画への移動は、果物などを運ぶ小型キャリアに、発電機、コンプレッサー、高圧洗浄機、水タンクなどをセットして運搬することができる。また、洗浄用の固定具は樹脂製や木製の軽量なメッシュ構造で十分なため、人手で運搬することもできる。各区画の一部に洗浄による泥が偏った場合は、人手でレーキを用いて平坦にするか、小型のブルドーザにより平坦にすることがよい。
洗浄した根株は、フレコンバックに入れて焼却工場に運搬し、焼却すればよい。焼却に当たっては、土壌とともに焼却でき、さらに焼却の煙から金属を回収する設備を持つ工場での処分が好ましい。
【符号の説明】
【0034】
1 稲根株
2 付着土壌

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程1〜4
1.稲根株を掘り起こす工程
2.掘り起こした稲根株を回収する工程
3.稲根株を洗浄台に固定する工程
4.洗浄台の稲根株を根の正面方向から風流を1.0〜1.8MPaの圧力で噴射して洗浄する工程
を行うことを特徴とする稲根株の回収処理方法。
【請求項2】
以下の工程1〜4
1.稲根株を掘り起こす工程
2.掘り起こした稲根株を回収する工程
3.稲根株を洗浄台に固定する工程
4.洗浄台の稲根株を根の正面方向から水流を1.5〜3.5MPaの圧力で噴射して洗浄する工程
を行うことを特徴とする稲根株の回収処理方法。
【請求項3】
前記回収工程で、回収した稲根株に付着している土壌を粗落としすることを特徴とする請求項1又は2に記載の稲根株の回収処理方法。
【請求項4】
前記回収工程で、回収した稲根株に付着している土壌を乾燥することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の稲根株の回収処理方法。
【請求項5】
前記洗浄工程を稲根株の埋設位置又はその近傍で行うことにより、根に付着した土壌を埋設位置付近に戻すことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の稲根株の回収処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−115214(P2012−115214A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268635(P2010−268635)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】