説明

穀粉含有生地及びその製造方法

【課題】穀粉含有生地に多量の乳化剤、加工澱粉等の添加物を使用しなくとも、加熱調理後に食感改質、老化防止効果が得られる風味良好な穀粉含有生地を提供する。
【解決手段】αアミラーゼ、マルトース生成αアミラーゼ、穀粉および水を含有する穀粉含有生地。αアミラーゼの添加量は穀粉100gに対して、0.3〜8単位、マルトース生成αアミラーゼは10〜600単位が好ましく、両者の酵素活性の比率は1:1〜1:2000が好ましい。αアミラーゼとマルトース生成αアミラーゼを穀粉生地に添加する手段として、該酵素を含有する油脂組成物を調製して穀粉含有生地製造時に添加する。
【効果】穀粉含有生地は、加熱調理後に食感改質、老化防止効果のある穀粉含有食品が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀粉含有生地及びその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、αアミラーゼとマルトース生成αアミラーゼを配合することによる加熱調理後の食感改質と老化防止効果に優れた穀粉含有生地である。
【背景技術】
【0002】
穀粉含有食品は、穀粉に含まれる澱粉が老化してしまうことから、時間が経過するとともに食感が変わり、食味が落ちてしまう。したがって、穀粉含有食品は、製造後速やかに賞味することが好ましいが、工場での製造から消費者に届いて消費されるまでに時間がかかるのは避けられず、品質を維持できる商品を製造するためにこれまで様々な工夫がなされてきた。
【0003】
例えば、グリセリン脂肪酸エステルやプロピレングリコール脂肪酸エステル等の乳化剤と増粘多糖類を使用するベーカリー製品用の油脂組成物(特許文献1)や、加工澱粉入り油中水型乳化油脂組成物(特許文献2)など、品質改良剤が研究開発されている。
【特許文献1】特開2005−00048
【特許文献2】特開平11−155482
【0004】
しかしながら上記の文献にある効果は、老化防止効果は認められるものの、多量の乳化剤や増粘多糖類、加工澱粉を使用することにより、穀粉含有食品に乳化剤の風味が残ったり、くちゃついたガム様の食感になりやすかったりと、おいしさの面では改良の余地があるものであった。また、乳化剤や増粘多糖類、加工澱粉は添加物表示が必要であり、添加物表示を避けたいという要望に応えられるものではなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、穀粉含有生地に多量の乳化剤、加工澱粉等の添加物を使用しなくとも、加熱調理後に食感改質、老化防止効果が得られる風味良好な穀粉含有生地を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
αアミラーゼは、穀粉含有生地に添加すると、澱粉を分解し、食感をソフトにする効果がある一方で、適正な添加量を過ぎて加えると生地にべたつきが生じて作業性を悪くし、加熱調理後の製品にくちゃついた好ましくない食感を付与するものであった。また、少量で効果的ではあるものの、適正な添加量の範囲が狭く使いにくいものであった。そこで、αアミラーゼを穀粉含有生地の種類を問わずに簡便に使用できるように鋭意検討した結果、αアミラーゼとマルトース生成αアミラーゼとを併用することで上記の欠点を補うことができることを見いだし、本発明を完成するにいたった。そして併用により、穀粉生地の冷凍耐性が向上し、またボリューム感のある穀粉含有食品が得られることを見いだした。
【0007】
すなわち、本発明の第1の発明は、αアミラーゼ、マルトース生成αアミラーゼ、穀粉、及び水を含有する穀粉含有生地である。
本発明の第2の発明は、前記穀粉が、米粉を含むことを特徴とする第1の発明に記載の穀粉含有生地である。
本発明の第3の発明は、第1の発明、又は第2の発明に記載の穀粉含有生地を冷凍した穀粉含有冷凍生地である。
本発明の第4の発明は、αアミラーゼ、マルトース生成αアミラーゼ、穀粉、及び水を用いたことを特徴とする穀粉含有生地の製造方法である。
本発明の第5の発明は、αアミラーゼ、マルトース生成αアミラーゼ、穀粉、及び水を用いたことを特徴とする穀粉含有冷凍生地の製造方法である。
本発明の第6の発明は、αアミラーゼ、マルトース生成αアミラーゼ、及び油脂を含むことを特徴とする穀粉含有生地用油脂組成物である。
本発明の第7の発明は、さらに、水を含むことを特徴とする第6の発明に記載の穀粉含有生地用油脂組成物である。
本発明の第8の発明は、第6の発明、又は第7の発明に記載の穀粉含有生地用油脂組成物、穀粉、及び水を含有することを特徴とする穀粉含有生地である。
本発明の第9の発明は、前記穀粉が、米粉を含むことを特徴とする第8の発明に記載の穀粉含有生地である。
本発明の第10の発明は、第8の発明、又は第9の発明に記載の穀粉含有生地を冷凍した穀粉含有冷凍生地である。
本発明の第11の発明は、第6の発明、又は第7の発明に記載の穀粉含有生地用油脂組成物、穀粉、及び水を用いたことを特徴とする穀粉含有生地の製造方法である。
本発明の第12の発明は、第6の発明、又は第7の発明に記載の穀粉含有生地用油脂組成物、穀粉、及び水を用いたことを特徴とする穀粉含有冷凍生地の製造方法である。
本発明の第13の発明は、第1の発明、第2の発明、第8の発明及び第9の発明のいずれかの発明に記載の穀粉含有生地、又は第3の発明若しくは第10の発明に記載の穀粉含有冷凍生地を加熱調理してなる穀粉含有食品である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の穀粉含有生地を使用することによって、多量の加工澱粉や乳化剤等を使用しなくても、もしくはそれら添加物表示が必要な添加物を使用しなくても、加熱調理後にソフトな食感や食味の向上等の食感が改質された穀粉含有食品が提供可能となった。該穀粉含有食品は、老化防止効果に優れるので、商業的に流通させることができる。また本発明の穀粉含有生地は、冷凍生地としても冷凍耐性に優れ、ボリューム感のある穀粉含有食品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の穀粉含有生地とは、小麦粉と必要に応じて小麦粉以外の穀粉(たとえば米粉、とうもろこし、ライ麦、そば、大豆粉等)に水を加え、必要に応じてマーガリン、ショートニンなどの油脂類、糖類、脱脂粉乳、脱脂乳、牛乳などの乳製品、卵と卵加工品、食塩、かん水、イースト、乳化剤、香料、調味料などの副材料を加えて混捏した生地をいう。穀粉含有生地には、パン生地(食パン、テーブルロール、菓子パン、調理パン、フランスパン、ライブレッドなど)、イースト菓子生地(シュトーレン、パネトーネ、クグロフ、ブリオッシュ、ドーナツなど)、ペストリー生地(デニッシュ、クロワッサン、パイなど)、ケーキ生地(バターケーキ、スポンジ、ビスケット、クッキー、ドーナツ、ブッセ、ホットケーキ、ワッフルなど)、和菓子生地(饅頭、乳菓、蒸しパン、かすてら饅頭、どら焼き、など)、麺類生地(うどん、そば、中華めん、パスタなど)、点心生地(餃子、焼売、饅頭、ワンタン、春巻きなど)が挙げられる。
【0010】
本発明の穀粉含有冷凍生地とは、上記の穀粉含有生地を冷凍させたものをいう。
【0011】
本発明の穀粉含有生地及び穀粉含有冷凍生地において、生地中の穀粉の含量は、10〜80質量%であることが好ましく、15〜75質量%であることがより好ましく、20〜60質量%であることが最も好ましい。
そして、生地中の穀粉としては、小麦粉のみを使用することができる。また、小麦粉以外の穀粉も使用することができ、その場合、穀粉中の小麦粉以外の穀粉含量は0.1〜70質量%であることが好ましく、0.1〜50質量%であることがより好ましく、0.1〜40質量%であることがさらにより好ましく、20〜40質量%であることが最も好ましい。穀粉中の小麦粉含量は30〜99.9質量%であることが好ましく、50〜99.9質量%であることがより好ましく、60〜99.9質量%であることがさらにより好ましく、60〜80質量%であることが最も好ましい。
【0012】
また本発明の穀粉含有生地及び穀粉含有冷凍生地には、生地中に水が18〜88質量%であることが好ましい。さらにのぞましくは、23〜83質量%、最ものぞましくは38〜78質量%である。
【0013】
本発明の穀粉含有生地及び穀粉含有冷凍生地に使用するαアミラーゼは、澱粉に作用し、多糖およびオリゴ糖を生成する能力を有する酵素をいう。これら酵素の由来は特に限定されず、動植物、カビ、細菌などから得られた市販の酵素を用いることができる。加熱調理後に酵素が完全に失活するよう、至適温度が60〜80℃の中温域活性型αアミラーゼや60℃未満の常温域活性のαアミラーゼを使用することがのぞましい。例えば、ノボザイムズジャパン(株)のαアミラーゼ(商品名:FUNGAMYL)や天野エンザイム(株)のαアミラーゼ(商品名:ビオザイムF10SDや商品名:クライスターゼL1)などが挙げられる。
【0014】
本発明の穀粉含有生地及び穀粉含有冷凍生地に使用するマルトース生成αアミラーゼは、澱粉に作用し、主としてマルトースを生成する能力を有する酵素をいう。これら酵素の由来は特に限定されず、動植物、カビ、細菌、遺伝子組み換えなどから得られた市販の酵素を用いることができる。例えば、ノボザイムズジャパン(株)のマルトース生成αアミラーゼ(商品名:NOVAMYLE)が挙げられる。
【0015】
本発明の穀粉含有生地及び穀粉含有冷凍生地には、αアミラーゼとマルトース生成αアミラーゼとを併用する必要がある。併用することにより初めて、穀粉含有生地のべたつきを防止し、加熱調理後の穀粉含有食品には、柔らかいだけでコシがない食感ではなく、柔らかさを保ちつつ、歯切れの良い好ましいソフトな食感を付与できる。その他の好ましい効果として、αアミラーゼとマルトース生成αアミラーゼの併用により穀粉生地の冷凍耐性が向上し、また穀粉含有食品にはボリューム感が得られる。
【0016】
αアミラーゼの適正添加量は、穀粉100gに対して酵素活性0.3〜8単位が好ましい。αアミラーゼの添加量がこの範囲にあると、適度な食感改質効果やボリュームアップ効果が期待できるのでのぞましい。添加量は、のぞましくは0.4〜4単位、最ものぞましくは、0.5〜3単位、さらに最ものぞましくは、0.5〜1単位である。αアミラーゼの酵素活性の単位は、AZCL−アミロースを基質に酵素を作用させ、1分間に1マイクロモルのグルコースに相当する還元糖を生成する酵素量を1単位と定義する。還元糖の測定は、還元糖の定量法第2版(福井作蔵著 学会出版センター)を参照して行なうことができる。
【0017】
マルトース生成αアミラーゼの適正添加量は、穀粉100gに対して酵素活性10〜600単位が好ましい。マルトース生成アミラーゼの添加量がこの範囲にあると、効率よく老化防止効果が得られるのでのぞましい。添加量は、のぞましくは12〜400単位、最ものぞましくは、15〜200単位、さらに最ものぞましくは、15〜50単位である。マルトース生成αアミラーゼの酵素活性の単位は、マルトトリオースを基質に酵素を作用させ、1分間に1マイクロモルのマルトースを生成する酵素量を1単位と定義する。マルトースの測定は、還元糖の定量法第2版(福井作蔵著 学会出版センター)を参照して行なうことができる。
【0018】
αアミラーゼとマルトース生成αアミラーゼの酵素活性の比率は、αアミラーゼ:マルトース生成αアミラーゼが1:1〜1:2000が好ましい。比率がこの範囲内にあると、酵素の併用効果がより発揮されるのでのぞましい。比率は、のぞましくは1:3〜1:1000、最ものぞましくは、1:5〜1:400、さらに最ものぞましくは、1:5〜1:50である。
【0019】
本発明の穀粉含有冷凍生地は、穀粉含有生地を冷凍することによって得られる。すなわち、生地の配合や製造法は穀粉含有生地と同じくし、その後に生地を冷凍する工程を経て得られるものである。穀粉含有生地はできるだけ早く凍結させるよう、温度が低く、冷風を循環させるような機能のある急速凍結庫などを利用することがのぞましい。−25℃〜−70℃の温度で10〜60分間の冷凍工程で製造することが好ましい。
穀粉含有冷凍生地は、例えば、冷凍うどん、冷凍パスタなどの麺類生地や、冷凍パン生地などが挙げられる。
【0020】
本発明の穀粉含有冷凍生地は、特にパン生地へ応用した場合には良好な冷凍耐性が得られる。冷凍したパン生地の焼成品は、内層の膜が厚くなり、食感はソフトさが失われ、膨らみが悪くボリュームが小さくなる傾向がある。本発明のαアミラーゼとマルトース生成αアミラーゼとを併用した穀粉含有生地にすることにより、冷凍・解凍の工程を経た焼成品でも、食感改質、老化防止、ボリュームアップした製品に改善できる。冷凍パン生地は、混捏後、発酵前の生地を適当な重量で分割したものを冷凍することが好ましい。冷凍したパン生地は解凍後、必要に応じて成形し、発酵工程を経て焼成することができる。
【0021】
本発明の穀粉含有生地及び穀粉含有冷凍生地は、小麦粉以外の穀粉として特に米粉を用いた場合に食感改質、老化防止、ボリュームアップなどの効果を発揮する。米粉は、小麦粉に比べて蛋白含有量が少なく澱粉含有量が多い。したがって、パン類に用いた場合は、生地中のグルテン含有量が減り、澱粉含有量が増えることから、膨らみが悪く、べたついた食感で老化の早い製品になりやすい。しかし、本発明のαアミラーゼとマルトース生成αアミラーゼとを併用した穀粉含有生地とすることにより、米粉含有パンの食感をソフトで老化防止効果あるものに改善できる。
米粉を穀粉含有生地及び穀粉含有冷凍生地に使用する場合は、穀粉中の米粉含量は0.1〜70質量%であることが好ましく、0.1〜50質量%であることがより好ましく、0.1〜40質量%であることがさらにより好ましく、20〜40質量%であることが最も好ましい。穀粉中の小麦粉含量は30〜99.9質量%であることが好ましく、50〜99.9質量%であることがより好ましく、60〜99.9質量%であることがさらにより好ましく、60〜80質量%であることが最も好ましい。
【0022】
本発明の穀粉含有生地及び穀粉含有冷凍生地は、それぞれの穀粉含有生地を調製するのに一般的に用いられる方法によって製造できる。例えば、パン生地であれば、直捏法(ストレート法)、中種法、オールインミックス法、老麺法、加糖中種法、液種法などの製法、ケーキ生地であればシュガーバッター法、共立て法、別立て法、オールインミックス法などが挙げられる。αアミラーゼ及びマルトース生成αアミラーゼが粉体である場合は、穀粉中の澱粉に作用しやすい穀粉に直接混ぜ合わせて製造することがのぞましい。また、αアミラーゼ及びマルトース生成αアミラーゼが液体である場合は、水に加えて製造することができる。
【0023】
本発明の穀粉含有生地及び穀粉含有冷凍生地の製造法は、穀粉にαアミラーゼとマルトース生成αアミラーゼを添加して、上記のような一般的な方法で製造することができるが、αアミラーゼとマルトース生成αアミラーゼを分散させた油脂組成物を製造し、油脂組成物を原材料の一つとして添加する方法も有効である。本発明で好ましい穀粉100gへのαアミラーゼの添加量は、0.3〜8単位であるが、この酵素活性に相当する酵素量は、例えば酵素活性が500単位/gのαアミラーゼを使用した場合、穀粉100gに対して0.6mg〜16mgと非常に少ない添加量となる。穀粉への添加をより簡便にするために、αアミラーゼとマルトース生成αアミラーゼを油脂組成物の形にして添加することは、穀粉への分散に優れ、添加効果も現れやすい。
【0024】
本発明の油脂組成物に用いられる油脂は、特に限定されるものではない。より具体的には、パーム油、パーム核油、ヤシ油、大豆油、菜種油、ひまわり油、紅花油、米油、綿実油、コーン油、オリーブ油、牛脂、豚脂、乳脂、カカオ脂、シア脂、サル脂、マンゴー核油、イリッペ脂等の各種動植物性油脂、これらの各種動植物性油脂から選択された1種または2種以上の動植物性油脂を必要に応じて水素添加、エステル交換、分別等の加工をして得られる各種加工油脂、これら各種動植物性油脂及び各種加工油脂から選択された1種または2種以上の油脂を適宜配合することができる。
【0025】
本発明の油脂組成物は、油脂以外の他の成分を含有することができる。他の成分としては、水、乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸、レシチン、ポリソルベートなど)、乳製品(牛乳、クリーム、粉乳など)、安定剤(寒天、カラギーナン、ペクチン、カゼインナトリウムなど)、塩味剤(食塩、塩化カリウムなど)、酸味料(酢酸、乳酸、グルコン酸など)、糖類や糖アルコール類、甘味料(ステビア、アスパルテームなど)、着色料(β−カロテン、カラメル、紅麹色素など)、酸化防止剤(トコフェロール、茶抽出物、アスコルビン酸など)、αアミラーゼ及びマルトース生成αアミラーゼ以外の酵素、植物蛋白、卵及び各種卵加工品、香料、調味料、pH調整剤、植物ステロール、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、ココアマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材が挙げられる。これらの他の成分は油脂組成物中0.1〜10質量%の範囲で含有するのが好ましく、のぞましくは0.1〜8質量%、最ものぞましくは0.1〜5質量%である。
【0026】
油脂組成物の製造法は特に制限されるものではないが、一般的には油脂と油脂以外の他の成分を含有する油相を溶解し、必要に応じて水と油脂以外の他の成分を含有する水相を加えて乳化させた後、冷却・結晶化させることによって可塑性油脂組成物として得ることができる。冷却・結晶化には、急冷混練できるコンビネーター、オンレーター、ボテーターなどで製造することがのぞましい。必要により選択した油脂及び水以外の他の成分は、それぞれの成分の分散しやすさや製造しやすさを考慮して、油相または水相のどちらに添加してもよい。αアミラーゼ、マルトース生成αアミラーゼは、油相または水相のどちらに分散させてもよい。
【0027】
水を含有する油脂組成物の場合は、可塑性を有する油相となるような油脂を選択することが好ましい。油脂は油脂組成物中50〜95質量%の範囲で含有するのが好ましく、のぞましくは60〜90質量%、最ものぞましくは70〜90質量%である。水は油脂組成物中3〜40質量%の範囲で含有するのが好ましく、のぞましくは4〜30質量%、最ものぞましくは5〜20質量%である。αアミラーゼ、マルトース生成αアミラーゼは酵素活性の強さによって異なるが、それぞれ油脂組成物中0.02〜10質量%の範囲で含有するのが好ましい。のぞましくは0.03〜5質量%、最ものぞましくは0.04〜3質量%である。αアミラーゼ、マルトース生成αアミラーゼ、油脂、水以外の他の成分を配合する場合は、油脂組成物中0.1〜10質量%の範囲で含有するのが好ましく、のぞましくは0.1〜8質量%、最ものぞましくは0.1〜5質量%である。乳化系は油中水型、水中油型のどちらの状態でもかまわないが、油中水型のほうがより好ましい。
【0028】
水を含有しない油脂組成物の場合にも、可塑性を有する油相となるような油脂を選択することが好ましい。αアミラーゼ、マルトース生成αアミラーゼは酵素活性の強さによって異なるが、それぞれ油脂組成物中0.02〜10質量%の範囲で含有するのが好ましい。のぞましくは0.03〜5質量%、最ものぞましくは0.04〜3質量%以下である。油脂以外の他の成分を配合する場合は、油脂組成物中0.1〜10質量%の範囲で含有するのが好ましく、のぞましくは0.1〜8質量%、最ものぞましくは0.1〜5質量%である。
【0029】
本発明の油脂組成物は、上述のような製造法により可塑性油脂組成物として得ることができ、製菓製パンに使用されるショートニングやマーガリン、ファットスプレッドの形態で供給することができる。本発明の油脂組成物は、穀粉含有生地及び穀粉含有冷凍生地を製造する際に、ショートニング、マーガリン、ファットスプレッドを添加する一般的な方法で生地に添加することができる。穀粉含有生地及び穀粉含有冷凍生地への使用量は、穀粉に対して1〜60質量%の範囲が好ましく、のぞましくは、1〜40質量%、最ものぞましくは1〜30質量%である。
【0030】
本発明の油脂組成物を用いた穀粉含有生地及び穀粉含有冷凍生地において、生地中の穀粉の含量は、10〜80質量%であることが好ましく、15〜75質量%であることがより好ましく、20〜60質量%であることが最も好ましい。
そして、生地中の穀粉としては、小麦粉のみを使用することができる。また、小麦粉以外の穀粉も使用することができ、その場合、穀粉中の小麦粉以外の穀粉含量は0.1〜70質量%であることが好ましく、0.1〜50質量%であることがより好ましく、0.1〜40質量%であることがさらにより好ましく、20〜40質量%であることが最も好ましい。穀粉中の小麦粉含量は30〜99.9質量%であることが好ましく、50〜99.9質量%であることがより好ましく、60〜99.9質量%であることがさらにより好ましく、60〜80質量%であることが最も好ましい。
【0031】
本発明の油脂組成物を用いた穀粉含有生地及び穀粉含有冷凍生地に米粉を使用する場合は、穀粉中の米粉含量は0.1〜70質量%であることが好ましく、0.1〜50質量%であることがより好ましく、0.1〜40質量%であることがさらにより好ましく、20〜40質量%であることが最も好ましい。穀粉中の小麦粉含量は30〜99.9質量%であることが好ましく、50〜99.9質量%であることがより好ましく、60〜99.9質量%であることがさらにより好ましく、60〜80質量%であることが最も好ましい。
【0032】
本発明の油脂組成物を用いた穀粉含有生地及び穀粉含有冷凍生地には、生地中に水が18〜88質量%であることが好ましい。さらにのぞましくは、23〜83質量%、最ものぞましくは38〜78質量%である。
【0033】
本発明の油脂組成物を用いた穀粉含有生地及び穀粉含有冷凍生地は、それぞれの穀粉含有生地を調製するのに一般的に用いられる方法によって製造できる。例えば、パン生地であれば、直捏法(ストレート法)、中種法、オールインミックス法、老麺法、加糖中種法、液種法などの製法、ケーキ生地であればシュガーバッター法、共立て法、別立て法、オールインミックス法などが挙げられる。油脂組成物はその中でショートニング、マーガリン、ファットスプレッドを一般的に添加する方法で生地に添加することができる。
【0034】
本発明の油脂組成物を用いた穀粉含有冷凍生地は、穀粉含有生地を冷凍することで得ることができる。穀粉含有生地はできるだけ早く凍結させるよう、温度が低く、冷風を循環させるような機能のある急速凍結庫などを利用することがのぞましい。−25℃〜−70℃の温度で10〜60分間の冷凍工程で製造することが好ましい。
【0035】
本発明の穀粉含有生地、または穀粉含有冷凍生地を加熱調理することにより、本発明の穀粉含有食品を製造することができる。すなわち本発明の穀粉含有食品とは、穀粉含有生地をオーブン、直焼きで焼成する他、電子レンジ調理、煮る、蒸す、揚げるなどの加熱調理したものをいう。加熱調理によって、穀粉含有生地中の澱粉がα化し、尚且つ添加したαアミラーゼとマルトース生成αアミラーゼの活性を失活することができる。生地の中心温度は90℃以上になるよう加熱することがのぞましい。
本発明の穀粉含有食品としては、例えば、パン類(食パン、テーブルロール、菓子パン、調理パン、フランスパン、ライブレッドなど)、イースト菓子(シュトーレン、パネトーネ、クグロフ、ブリオッシュ、ドーナツなど)、ペストリー(デニッシュ、クロワッサン、パイなど)、ケーキ(バターケーキ、スポンジ、ビスケット、クッキー、ドーナツ、ブッセ、ホットケーキ、ワッフルなど)和菓子(饅頭、乳菓、蒸しパン、かすてら饅頭、どら焼き、など)麺類(うどん、そば、中華めん、パスタなど)、点心(餃子、焼売、饅頭、ワンタン、春巻きなど)などが挙げられる。
【実施例】
【0036】
次に例を挙げ、本発明を詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれらの例になんら制限されるものではない。
【0037】
〔油脂組成物〕
表1、表2の配合のとおり、油相と水相を調合して両者を混合乳化後、急冷混練して油脂組成物を得た。表中の油脂混合物は、パーム油(日清オイリオグループ(株)製、商品名:精製パーム)40質量%、大豆白絞油(日清オイリオグループ(株)製、商品名:日清大豆白絞油(S))35質量%、大豆硬化油(日清オイリオグループ(株)製、商品名:大豆硬化油34)25質量%、を溶解混合したものである。レシチンはペースト状レシチン(日清オイリオグループ(株)製、商品名:レシチンDX)、MGはモノグリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン(株)製、商品名:エマルジーP100)、着色料はパームカロテン(ライオン(株)製、商品名:ハイアルファSF)、αアミラーゼ(ノボザイムズジャパン(株)製、商品名:FUNGAMYL)、マルトース生成αアミラーゼ(ノボザイムズジャパン(株)製、商品名:NOVAMYLE)を使用した。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
〔食パン評価〕
表1、表2の油脂組成物を表3の配合と製法のとおり、食パン評価を行った。表中の対穀粉(%)は、穀粉100に対するその他の材料の割合を示している。また油脂組成物をショートニングに置き換え、別に酵素を加えた配合を実施例8とした。
【0041】
【表3】

強力粉(日本製粉(株)製、商品名:イーグル)
イースト(オリエンタル酵母(株)製、商品名:レギュラーイースト)
ショートニング(日清オイリオグループ(株)製、商品名:日清ロイヤルショート20)
【0042】
〔評価方法〕
捏ね上げた生地の状態で作業性を評価し、生地の作業性が非常に良好は◎、良好は○、通常程度は△、不良は×として評価した。食感、老化については、プルマン焼成品を20mmにスライスした食パンで評価を行った。食感が非常に良好は◎、良好は○、通常程度は△、不良は×として評価した。老化については、3日後の老化は認められなったものに◎、2日後の老化が認められなかったものに○、1日後に老化が認められなったものに△、1日後に老化が認められたものに×として評価した。
ボリュームについては、ワンローフ焼成品の体積を計測した。比容積6.0以上は◎、比容積5.8以上は○、比容積5.7以上は△、比容積5.7未満を×で評価した。体積の計測は株式会社アステックス製のSELNAC−WinVMで計測した。
比容積の計算方法は、比容積=焼成後のワンローフの体積(cm)/焼成後生地重量(g)である。
すべての評価項目で◎、○、△は合格、×は不合格と判定した。
【0043】
〔食パン評価結果〕
食パン評価の結果と穀粉に対しての酵素活性は表4、表5のとおりであった。
【0044】
【表4】

【0045】
【表5】

【0046】
〔米粉食パン評価〕
表3の本捏配合の強力粉を米粉(群馬製粉(株)製、商品名:リファリーヌ)に置き換えて米粉食パンの評価を行った。評価基準は食パン評価と同様である。使用した油脂組成物、テスト結果は表6のとおりであった。
【0047】
〔米粉食パン評価結果〕
米粉食パン評価の結果と穀粉に対しての酵素活性は表6のとおりであった。
【0048】
【表6】

【0049】
〔全粒粉食パン評価〕
表3の本捏配合の強力粉を、全粒粉(日清製粉(株)製、商品名:パン用全粒粉)に置き換えて全粒粉食パンの評価を行った。評価基準は食パン評価と同様である。使用した油脂組成物、テスト結果は表7のとおりであった。
【0050】
〔全粒粉食パン評価結果〕
全粒粉食パン評価の結果と穀粉に対しての酵素活性は表7のとおりであった。
【0051】
【表7】

【0052】
〔冷凍生地・食パン評価〕
表8の配合と製法のとおり、冷凍生地・食パン評価を行った。表中の対穀粉(%)は、穀粉100に対するその他の材料の割合を示している。評価基準は食パン評価と同様である。使用した油脂組成物、テスト結果は表9のとおりであった。
【0053】
【表8】

強力粉(日本製粉(株)製、商品名:イーグル)
イースト(オリエンタル酵母(株)製、商品名:MXイースト)
【0054】
〔冷凍生地・食パン評価結果〕
冷凍生地・食パン評価の結果と穀粉に対しての酵素活性は表9のとおりであった。
【0055】
【表9】

【0056】
〔饅頭評価〕
表10配合で工程の手順どおりに饅頭を作製し、評価を行った。表中の対穀粉(%)は、穀粉100に対するその他の材料の割合を示している。
〔饅頭工程〕
上白糖に水を徐々に加えて、充分にすり混ぜ、砂糖をよく溶かす。次に薄力粉とベーキングパウダー、酵素を合わせて振るったものを加えて混ぜ合わせる。ひとまとめにした生地を20gに分割して中餡60gを包み、成形する。強めの蒸気でおよそ15分蒸し、粗熱をとって饅頭を得た。
【0057】
【表10】

薄力粉(日清製粉(株)製、商品名:フラワー)
ベーキングパウダー(愛国産業(株)製、商品名:ベーキングパウダー蒸しもの用)
αアミラーゼ1(ノボザイムズジャパン(株)製、商品名:FUNGAMYL)
αアミラーゼ2(天野エンザイム(株)製、商品名: ビオザイムF10SD)
マルトース生成αアミラーゼ(ノボザイムズジャパン(株)製、商品名:NOVAMYLE)
【0058】
〔饅頭評価結果〕
饅頭評価の結果と穀粉に対しての酵素活性は表11のとおりであった。作業性、食感、老化の評価基準は食パン評価の評点と同じである。体積の計測は行わなかったが、目視では実施例13、14は皮生地の浮きが良いことが観察された。
【0059】
【表11】

【0060】
〔米粉蒸しパン評価〕
表12配合で工程の手順どおりに饅頭を作製し、評価を行った。表中の対穀粉(%)は、穀粉100に対するその他の材料の割合を示している。
〔米粉蒸しパン工程〕
全卵、牛乳、溶かした油脂組成物を合わせて良く混ぜる。そこへ薄力粉、米粉、上白糖、ベーキングパウダーを合わせてふるったものを加えてさらに良く混ぜる。生地340gを型に流し入れ、強めの蒸気でおよそ20分蒸し、粗熱をとって米粉蒸しパンを得た。
【0061】
【表12】

薄力粉(日清製粉(株)製、商品名:フラワー)
米粉(群馬製粉(株)製、商品名:リファリーヌ)
ベーキングパウダー(愛国産業(株)製、商品名:ベーキングパウダー蒸しもの用)
【0062】
〔米粉蒸しパン評価結果〕
米粉蒸しパン評価の結果と穀粉に対しての酵素活性は表13のとおりであった。食感、老化の評価基準は食パン評価の評点と同じである。体積の計測は行わなかったが、目視では実施例15のボリュームが大きいことが観察された。
【0063】
【表13】

【0064】
〔クッキー評価〕
表14配合で工程の手順どおりにクッキーを作製し、評価を行った。表中の対穀粉(%)は、穀粉100に対するその他の材料の割合を示している。
〔クッキー工程〕
全卵に重曹と炭酸アンモニウムを溶解させ、シュガーバッター法で常法どおりに生地を仕込む。モールド成形して170℃のオーブンで焼成し、クッキーを得た。
【0065】
【表14】

ショートニング(日清オイリオグループ(株)製、商品名:日清ロイヤルショート20)
薄力粉(日清製粉(株)製、商品名:フラワー)
【0066】
〔クッキー評価結果〕
クッキー評価の結果と穀粉に対しての酵素活性は表15のとおりであった。作業性、食感の評価基準は食パン評価の評点と同じである。
【0067】
【表15】

【0068】
〔バターケーキ評価〕
表16配合で工程の手順どおり、バターケーキを作製し、評価を行った。表中の対穀粉(%)は、穀粉100に対するその他の材料の割合を示している。
〔バターケーキ工程〕
シュガーバッター法で常法どおりに仕込み、生地350gをパウンドケーキ型に入れて170℃のオーブンで40分焼成してバターケーキを得た。
【0069】
【表16】

マーガリン(日清オイリオグループ(株)製、商品名:日清ロイヤルシャープ180)
薄力粉(日清製粉(株)製、商品名:フラワー)
ベーキングパウダー(愛国産業(株)製、商品名:ベーキングパウダー焼きもの用)
【0070】
〔バターケーキ評価結果〕
バターケーキ評価の結果と穀粉に対しての酵素活性は表17のとおりであった。作業性、食感、老化の評価基準は食パン評価の評点と同じである。
【0071】
【表17】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の穀粉含有生地を使用することによって、多量の乳化剤、加工澱粉等を使用しなくても、加熱調理後に、ソフトな食感や食味の向上等の食感が改質された穀粉含有食品が提供可能となった。また、該穀粉含有食品は、老化防止効果に優れるので、商業的に流通させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
αアミラーゼ、マルトース生成αアミラーゼ、穀粉、及び水を含有することを特徴とする穀粉含有生地。
【請求項2】
前記穀粉が、米粉を含むことを特徴とする請求項1に記載の穀粉含有生地。
【請求項3】
請求項1、又は2に記載の穀粉含有生地を冷凍した穀粉含有冷凍生地。
【請求項4】
αアミラーゼ、マルトース生成αアミラーゼ、穀粉、及び水を用いたことを特徴とする穀粉含有生地の製造方法。
【請求項5】
αアミラーゼ、マルトース生成αアミラーゼ、穀粉、及び水を用いたことを特徴とする穀粉含有冷凍生地の製造方法。
【請求項6】
αアミラーゼ、マルトース生成αアミラーゼ、及び油脂を含むことを特徴とする穀粉含有生地用油脂組成物。
【請求項7】
さらに、水を含むことを特徴とする請求項6に記載の穀粉含有生地用油脂組成物。
【請求項8】
請求項6、又は7に記載の穀粉含有生地用油脂組成物、穀粉、及び水を含有することを特徴とする穀粉含有生地。
【請求項9】
前記穀粉が、米粉を含むことを特徴とする請求項8に記載の穀粉含有生地。
【請求項10】
請求項8、又は9に記載の穀粉含有生地を冷凍した穀粉含有冷凍生地。
【請求項11】
請求項6、又は7に記載の穀粉含有生地用油脂組成物、穀粉、及び水を用いたことを特徴とする穀粉含有生地の製造方法。
【請求項12】
請求項6、又は7に記載の穀粉含有生地用油脂組成物、穀粉、及び水を用いたことを特徴とする穀粉含有冷凍生地の製造方法。
【請求項13】
請求項1、2、8、及び9のいずれか1項に記載の穀粉含有生地、又は請求項3若しくは10に記載の穀粉含有冷凍生地を加熱調理してなる穀粉含有食品。

【公開番号】特開2010−148487(P2010−148487A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333067(P2008−333067)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】