説明

竹繊維縄の製造方法、竹繊維束の製造方法および竹繊維縄

【課題】高弾性率で、補強材などに有用な竹繊維縄が得られる竹繊維縄の製造方法、及び、高強度で、補強材などに有用な竹繊維束を、高い収率で得られる竹繊維束の製造方法の提供。
【解決手段】竹繊維束を用い、複数の竹繊維束を撚って縄状に形成する撚り工程と、縄状に形成された竹繊維束に樹脂を含浸させる樹脂含浸工程と、樹脂を含浸した竹繊維束を、強度が樹脂硬化時の最終到達強度の70〜100%に到達するまで、撚り合わせていない竹繊維束の破断荷重の6〜20%となる条件で引張荷重をかけて張架しながら乾燥し、竹繊維縄を得る張架工程と、を有する竹繊維縄の製造方法、及び、竹材料の厚み方向の内皮側から1/3以上の領域を除去した残余の領域における竹材料を、長辺が繊維束に平行となるよう短冊状に切断して竹片を得る竹片作製工程と、該竹片の繊維質を結束している物質を除去して解繊し竹繊維束を得る解繊工程と、を有する竹繊維束の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は竹繊維縄の製造方法、特には、高弾性率であり、補強材などに有用な竹繊維縄の製造方法およびそれにより得られた竹繊維縄、並びに該竹繊維縄の製造方法に好適に用いられ、高強度な竹繊維束を製造することができる竹繊維束の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への関心の高まりから、天然材料としての竹繊維が注目されている。竹の導管や師管を形成する繊維束鞘は、高強度のセルロース細胞およびリグニンの集合体であり、この繊維束を取り出すことで、高強度でかつ所定の長さを有する竹繊維束が得られる。このような所定の長さを有する繊維束は高強度で靭性に優れ、且つ、生分解性を有するため、繊維補強材として注目され、例えば、繊維を補強材とする複合樹脂ボード、建設工事に用いられる木質系ボード、繊維補強された無機系(セメント系)ボード、木質系ブロック、繊維補強された無機系ブロックに用いられる補強繊維などへの利用が期待されている。
【0003】
従来からの竹繊維の利用としては、パルプなどの短繊維を得るため、強アルカリや強酸による加水分解反応や熱分解反応による解繊が一般に行われており、また、このような繊維を効率よく取り出すため、竹材を冷凍し、解凍した上で、解繊処理を施す技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、竹材を圧延装置により竹の生長方向に粗砕する第一工程と、該粗砕品を特定の機構を有するハンマーミル型粉砕装置により繊維化する第二工程と、繊維化された竹材(竹繊維)中に混在する竹材内側の薄皮部を分離する第三工程と、によって竹繊維を製造する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
更に、圧力缶体に竹材を入れて水蒸気を噴出して圧力缶体内の温度を100℃以上にし、竹材中の繊維と繊維とをつなぎ止めているリグニン層に熱を与え、次に缶体内の圧力を瞬間的に開放する操作を数回〜数十回行うことで竹繊維を痛めることなくリグニン層だけを分解し竹繊維を取り出す技術が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
また更には、長手方向に間隔を以って裁断された竹材を圧縮して、開裂させて、平板状に圧縮形成し、該平板状の竹材を加熱水蒸気の雰囲気下で蒸煮し、蒸煮された竹材を常圧下で常温より高い温度下で解繊することにより綿状の竹繊維を製造する技術が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
しかし、これらの方法によって得られる竹繊維においても、十分な弾性を得ることが出来なかった。
【特許文献1】特開2005−153160号公報
【特許文献2】特開平6−15616号公報
【特許文献3】特開2003−155677号公報
【特許文献4】特開2005−193405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記問題点を考慮してなされた本発明の目的は、高弾性率であり、補強材などに有用な竹繊維縄を製造することができる竹繊維縄の製造方法、および上記本発明の竹繊維縄の製造方法により得られた、高弾性率の竹繊維縄を提供することにある。
また、本発明のさらなる目的は、本発明の竹繊維縄の製造方法に好適に用いられ、高強度である竹繊維束を、高い収率で製造することができる竹繊維束の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の本発明によって解決される。
即ち、本発明の構成は以下の通りである。
<1> 竹繊維束を複数撚り合わせて縄状に形成する撚り工程と、縄状に形成された竹繊維束に樹脂を含浸させる樹脂含浸工程と、樹脂を含浸した縄状の竹繊維束を、強度が樹脂硬化時の最終到達強度の70〜100%に到達するまで、撚り合わせていない竹繊維束の破断荷重の6〜20%となる条件で引張荷重をかけて張架しながら樹脂を硬化させる張架工程と、を有し、樹脂硬化後に荷重を解放して樹脂含有竹繊維縄を得ることを特徴とする竹繊維縄の製造方法。
<2> 前記<1>に記載の竹繊維縄の製造方法に用いる竹繊維束を製造する方法であって、竹材料の厚み方向の内皮側から1/3以上の領域を除去した残余の領域における竹材料を、長辺が繊維束に平行となるよう短冊状に切断して竹片を得る竹片作製工程と、該竹片の繊維質を結束している物質を除去して解繊し竹繊維束を得る解繊工程と、を有することを特徴とする竹繊維束の製造方法。
<3> 前記竹片作製工程において、竹材料の厚み方向の内皮側から2/3以上の領域を除去した残余の領域における竹材料から竹片を作製することを特徴とする前記<2>に記載の竹繊維束の製造方法。
<4> 前記解繊工程は、前記竹片に対しpH10〜14のアルカリ水溶液中でアルカリ処理を施すことで、竹片の繊維質を結束している物質を除去して解繊し竹繊維束を得る工程であることを特徴とする前記<2>または<3>に記載の竹繊維束の製造方法。
<5> 前記解繊工程は、前記竹片を圧力装置内に配置し、該圧力装置内で10気圧以上の圧力を加える加圧処理と、前記圧力装置内の圧力を開放する減圧処理と、を施すことで、竹片の繊維質を結束している物質を除去して解繊し竹繊維束を得る工程であることを特徴とする前記<2>または<3>に記載の竹繊維束の製造方法。
<6> 前記<1>に記載の竹繊維縄の製造方法により得られたことを特徴とする竹繊維縄。
【0007】
尚、本発明における竹繊維束とは、竹材料から低密度の柔組織を除去して得られた密度1.0以上で長さ10mm以上の繊維状組織の集合体を指す。竹繊維では、ヘミセルロースを多く含む柔組織を除去した後に残るセルロースがリグニンで接着された繊維状の集合体であり、元々導管や師管の周囲にあった繊維束鞘に相当する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高弾性率であり、補強材などに有用な竹繊維縄を製造することができる竹繊維縄の製造方法、および上記本発明の竹繊維縄の製造方法により得られた、高弾性率の竹繊維縄を提供することができる。
更には、本発明の竹繊維縄の製造方法に好適に用いられ、高強度である竹繊維束を、高い収率で製造することができる竹繊維束の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<竹繊維束およびその製造方法>
本発明の竹繊維束の製造方法は、後述の本発明の竹繊維縄の製造方法に好適に用い得る竹繊維束を製造する方法である。
本発明の竹繊維束の製造方法においては、竹材料において、内皮方向から厚み方向1/3以上の領域を除去し、厚み方向の外側2/3未満の領域で得られた竹材料を原料として使用することを特徴とする。
原料となる竹材料を得るには、まず、竹を繊維束に略垂直方向に切断して節を除去し、節と節との間の竹を用い、該竹材料を、長辺が繊維束に平行となるよう短冊状に切断する。このとき、まず短冊状に切断し、その後、内皮側1/3以上の領域から得られた切断片を除去してもよく、内皮側から厚み方向に少なくとも1/3以上の領域を切断し除去したのち、短冊状に切断して原料となる竹片を作製してもよい。
本発明の製造方法では、このように、竹材料の厚み方向の内皮側から1/3以上の領域を除去した残余の領域における竹材料を、長辺が繊維束に平行となるよう短冊状に切断して竹片を得る(I)竹片作製工程と、該竹片の繊維質を結束している物質を除去して解繊し竹繊維束を得る(II)解繊工程と、を有することを特徴とする。
以下、この方法を工程順に説明する。
【0010】
〔(I)竹片作製工程〕
この(I)竹片作製工程では、竹材料を、長辺が繊維束に平行となるよう短冊状に切断すると共に、内皮側から厚み方向に少なくとも1/3以上(より好ましくは2/3以上)の領域を切断し除去し、残余の領域を原料として竹片を作製する。除去される内皮側の領域が上記範囲未満である場合、強度に優れた竹繊維束を得ることができず、また収率も低下する。
なお、上記のように内皮側を除去し、残余の領域から得られる竹片を原料とすることにより、高強度の竹繊維束が得られるが、除去した内皮側の竹材料は、柔細胞を多く含むため、糖化などの手法によってエネルギーへ転換できる可能性もあるため、除去した内皮側の竹材料を他の目的に分別利用することができる。
【0011】
(I)竹片作製工程においては竹材料を短冊状に切断するが、短冊状の木片の長辺に相当する方向を繊維束の方向と平行にすることで短冊の長辺と略同一、即ち、竹片の長辺と同一或いは僅かに短い長さの繊維束を得ることができる。
これらの竹片の大きさには特に制限はないが、例えば、後述のアルカリ処理や爆砕処理を施す場合には、処理容器(アルカリ溶液槽や圧力装置等)に入る大きさであって、取り扱いが可能な重量の範囲であることが好ましい。また、アルカリ処理を施す場合には、アルカリの効果を及ぼしやすい断面の大きさであることを考慮して選択すればよい。例えば、竹片の長さは得ようとする竹繊維束の長さに応じて、10mm以上であることが必要であり、50mm以上であることが好ましく、取り扱い性の観点から、長さは1000mm以下であることが好ましい。
また、竹材料を短冊状に切断する際には、得られる竹繊維束の均一性の観点からは節部を含まないことが好ましく、また、得られる竹繊維束の長さが長いほど、補強材などの種々の応用に適することから、節と節との間を長辺とする竹片を得ることが好ましい。
また、竹片の断面積(繊維束方向に垂直の切断面における断面積)は、引き続き行われる解繊処理効果の観点から、30cm以内であることが好ましく、断面積が30cmの場合、例えば、厚さ5mm、幅60mm程度となる。
【0012】
竹材料を切断する方法としては、特に限定されるものではなく、不要な内側部分を除去した後切断してもよく、まず、切断して竹片を作製し、内皮側の不要部分を除いてもよいが、外皮側の2/3未満の領域(より好ましくは1/3未満の領域)を無駄なく有効に使用する観点から、好ましくは、(1)まず竹材料を繊維束に平行な方向に切断して短冊状に分割し、その後短冊状に分割した竹材料の内皮側を更に切断して除去する方法が好ましく挙げられる。
また、(2)竹材料を圧縮して開裂させ平板状に形成し、その後平板状に形成された竹材料の内皮側を切断して除去する方法も好ましく用いることができる。竹材料を圧縮して開裂させ平板状に形成する方法としては、ロールによって圧縮する方法、油圧プレスにより圧縮する方法等が挙げられる。
【0013】
ここで本発明における竹材料とは、節を取り除いた竹を指し、用いられる竹材料には特に制限はない。導管、師管を形成する繊維束鞘の強度、得られる繊維束の靭性という観点からは、孟宗竹、マダケなどが好ましく挙げられる。
【0014】
〔(II)解繊工程〕
この(II)解繊工程では、竹片の繊維質を結束している物質を除去して解繊し竹繊維束を得る。解繊する方法としては、特に限定されるものではないが、(A)アルカリ処理を施す方法、(B)爆砕処理を施す方法、等が挙げられる。
【0015】
(A)アルカリ処理を施す方法
アルカリ処理を施すことで、竹片の繊維質を結束している物質、例えば、リグニン層等の繊維質を結束している物質が除去され、繊維束鞘を中心とする繊維束が得られる。
このアルカリ処理では、pH10〜14のアルカリ水溶液を用いることが好ましく、pH12以上の条件であることがより好ましい。このようなアルカリ水溶液中に、前記(I)工程で得られた竹片を浸漬する。
アルカリ処理工程における、アルカリ水溶液の温度は、40〜100℃に維持されることが好ましく、更には60〜80℃の範囲であることがより好ましい。アルカリ水溶液中での処理時間は、竹材料の種類、竹片のサイズ、アルカリ溶液の濃度、温度により適宜選択されるが、3〜24時間の範囲であることが好ましい。
【0016】
アルカリ水溶液は、公知のアルカリ剤、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、
などを用い、pHを測定しながら、これらを適切な量、水に溶解して調整することができる。pHの微調整は、アンモニアや無機酸類などの公知のpH調整剤を用いて行うこともできる。また、pHの測定は公知の方法、例えば、pH電極を用いる方法や、呈色反応を示すpH試験紙による方法などにより行うことができる。
アルカリ水溶液の溶媒となる水には特に制限はなく、工業用水、水道水、イオン交換水、純水などを用いることができるが、アルカリ性の調整や、酵素に対する影響を考慮して、有機質の不純物が少なく、酸性物質を含まない水を選択して用いることが好ましい。
特に好ましくは、1000mlあたり水酸化ナトリウム1.0〜10.0gを溶解させた水溶液が用いられる。
【0017】
所定時間浸漬し、アルカリ処理を経た後、竹片から繊維束同士を互いに接着させていたリグニン、ヘミセルロースなどが除去され、直径0.1〜3mm程度、長さが短冊状に加工した竹片の長さとほぼ同一の繊維束が得られる。ここで、アルカリ水溶液を除去し、その後過剰の水で洗浄して残存するアルカリ成分を除去し、以下に挙げるような任意の方法で解繊し、繊維束を取り出す。
上記解繊の方法としては、櫛を用いて手作業で処理物を抄く方法、機械的に振動や衝撃を加えて、柔組織をふるい落とす方法などが挙げられる。
(A)アルカリ処理を施す方法を用いることにより、短冊状に加工された竹片の長さと略同一の長さを有し、繊維束の表面における不純物の付着を良好に抑制した高純度な竹繊維束を得ることができる。また、本発明においてアルカリ処理を適用した場合、竹繊維束の収率が高いことから、アルカリ水溶液の廃液を低減することができる。
【0018】
(B)爆砕処理を施す方法
竹片に対し圧力装置内で高い圧力を加える加圧処理と、前記圧力装置内の圧力を開放する減圧処理と、を行う爆砕処理を施すことで、竹片の繊維質を結束している物質、例えば、リグニン層等の繊維質を結束している物質が除去され、繊維束鞘を中心とする繊維束が得られる。
この爆砕処理では、圧力装置内で高い圧力が加えられるが、該圧力は10気圧以上であることが好ましく、12〜15気圧であることがより好ましい。また、圧力装置内の最高到達温度は、170〜180℃であることが好ましく、更には180℃であることがより好ましい。加圧処理の時間は、竹材料の種類、竹片のサイズ等により適宜選択されるが、1〜6時間の範囲であることが好ましい。上記の条件にて加圧処理が施された後、圧力装置内の圧力が瞬時に開放されることにより減圧処理が施される。
また、上記加圧処理および減圧処理は複数回繰り返すことも好ましい。2回目以降の加圧処理における気圧および温度は上記と同様である。
上記爆砕処理に用いられる圧力装置の例としては、オートクレーブや木材乾燥装置等が挙げられる。
【0019】
ここで、上記爆砕処理の一例を挙げて説明する。
まず、竹片を圧力装置内に封入し、蒸気を供給して圧力装置内を加熱加圧する。第一回目の加圧サイクルでは、圧力装置内の気圧を10気圧、温度を180℃に維持し、30分〜1時間加熱加圧を行う。その後圧力装置を開放し蒸気を放出して減圧する。次いで、再び圧力装置を密閉し蒸気を供給する。第二回目以降の加圧サイクルでは、圧力装置内の気圧および温度を第一回目と同様にし、30分〜1時間加熱加圧を行う。その後圧力装置を開放し蒸気を放出して減圧する。以下、この第二回目以降の加熱・減圧サイクルを所望の回数繰り返すことができる。用いる竹片の大きさ(厚み等)にもよるが、上記加熱・減圧サイクルは1〜5回繰り返すことが好ましい。
【0020】
爆砕処理を経た後、竹片から繊維束同士を互いに接着させていたリグニン、ヘミセルロースなどが除去され、直径0.1〜3mm程度、長さが短冊状に加工した竹片の長さとほぼ同一の繊維束が得られる。次いで、以下に挙げるような任意の方法で解繊し、繊維束を取り出す。
上記解繊の方法としては、櫛を用いて手作業で処理物を抄く方法、機械的に振動や衝撃を加えて、柔組織をふるい落とす方法などが挙げられる。
(B)爆砕処理を施す方法を用いることにより、物理的な処理であってアルカリ水溶液等の廃液を排出することがないため、環境配慮の面で好ましい方法によって竹繊維束を製造することができる。
【0021】
上記(I)切断工程および(II)解繊工程を経て得られた本発明の竹繊維束は、高強度である。また、短冊状に加工した竹片の長さと略同一の長さを有し、後述の竹繊維縄の製造に用いる場合などにおいても加工性に優れる。
このように本発明の竹繊維束は、軽量、高強度であり、且つ生分解性を有する。また、以下のように撚って縄状に形成し、竹繊維縄として好適に用いられる。
【0022】
<竹繊維縄の製造方法>
本発明の竹繊維縄の製造方法は、竹繊維束を複数撚り合わせて縄状に形成する撚り工程と、縄状に形成された竹繊維束に樹脂を含浸させる樹脂含浸工程と、樹脂を含浸した縄状の竹繊維束を、強度が樹脂硬化時の最終到達強度の70〜100%に到達するまで、撚り合わせていない竹繊維束の破断荷重の6〜20%となる条件で引張荷重をかけて張架しながら樹脂を硬化させる張架工程と、を有し、樹脂硬化後に荷重を解放して樹脂含有竹繊維縄を得ることを特徴とする。
尚、本発明の竹繊維縄の製造方法に用いる竹繊維束としては、上述した本発明の竹繊維束の製造方法によって得られる竹繊維束を用いることが好ましい。
以下、この方法を工程順に説明する。
【0023】
〔(i)撚り工程〕
この(i)撚り工程では、複数の竹繊維束を撚って縄状に形成する。例えば、前述の方法により製造された竹繊維束は、短冊状に加工した竹片の長さと略同一の長さを有しており、竹繊維縄の製造においても優れた加工性を得ることができる。
竹繊維束を撚る方法としては、手綯いして撚る方法、撚り機によって撚る方法、組紐機により紐打ちする方法等が挙げられる。
撚り工程に用いる竹繊維束の本数は、用いる竹繊維束の太さや長さ、得ようとする竹繊維縄の太さや長さ等によっても異なるが、繊維間の長さ方向の接合を効率的に得ること、部位間のばらつきを低減することなどの観点から、3〜100本の竹繊維束を用いて撚る態様、或いは、予め撚り合わせた細撚り体をさらに2〜32組撚り合わせる態様などをとることが好ましい。
撚り工程を経て、複数本の竹繊維束が撚り合わされて縄状に形成されたものが得られる。
【0024】
〔(ii)樹脂含浸工程〕
この(ii)樹脂含浸工程では、(i)撚り工程で縄状に形成された竹繊維束に樹脂を含浸させる。
用いる樹脂としては、二液の混合によって化学反応を生じ硬化する二液式の樹脂、熱やエネルギー放射などの外的要因によって化学反応を生じ硬化する一液式の樹脂、溶質が溶媒に溶解しており該溶媒の気化によって硬化する樹脂、コンクリートモルタル等、竹繊維束に含浸させることができるものであれば特に限定されるものではない。
尚、竹繊維束に含浸させやすいという観点からより低粘度であること、硬化時の肉やせが少ないことが好ましく、上記の中でも化学反応により硬化する樹脂がより好ましい。より具体的には、エポキシ樹脂、イソシアネート系樹脂、ユリア樹脂、フェノール樹脂が挙げられる。
また、上記樹脂を含浸させる方法としては、縄状に形成された竹繊維束を樹脂中に浸漬する方法、縄状に形成された竹繊維束に樹脂を塗布する方法、縄状に形成された竹繊維束に張力を与えながら樹脂包埋する方法等が用いられる。
【0025】
〔(iii)張架工程〕
この(iii)張架工程では、樹脂を含浸した竹繊維束を、強度が樹脂硬化時の最終到達強度の70〜100%に到達するまで、撚り合わせていない竹繊維束の破断荷重の6〜20%となる条件で引張荷重をかけて張架しながら樹脂を硬化させ、硬化後に荷重を解放して竹繊維縄を得る。引張荷重を上記範囲に制御し、樹脂の硬化による強度が上記範囲に到達するまでの時間張架することにより、高弾性率であり、補強材などに有用な竹繊維縄を製造することができる。
尚、上記張架は、強度が樹脂硬化時の最終到達強度の少なくとも70〜100%に到達するまで行われ、80〜100%に到達するまで行うことが特に好ましい。また、引張荷重は撚り合わせていない竹繊維束の破断荷重の6〜20%であり、撚り合わせていない竹繊維束の破断荷重の10〜20%であることが特に好ましい。
ここで、「撚り合わせていない竹繊維束の(単位断面積あたりの)破断荷重」は、撚り合わせていない竹繊維束に樹脂を含浸させ、これを張架して破断するまで荷重を掛け、破断した時点での引張荷重を測定して単位断面積あたりの破断荷重を算出することができる。
前記「撚り合わせていない竹繊維束の破断荷重の6〜20%となる条件」とは、上記「撚り合わせていない竹繊維束の(単位断面積あたりの)破断荷重」の6〜20%となる引張荷重を、張架工程において竹繊維束に掛けることを意味する。
【0026】
さらに、この張架工程の開始は、樹脂含浸工程を完了し樹脂の硬化が始まる前、または、縄の撚りを抑制するため、樹脂の硬化開始後、強度が樹脂硬化時の最終到達強度の50%を超えないうちに行うことが好ましい。
尚、縄の撚りを抑制する目的で、張架工程は、鉛直に張った縄におもりをかける方法で行わずに、おもり側を滑車等で荷重の向きを変えることにより、縄が容易に回転しないようにする方法でもよい。
【0027】
上記断面積とは、縄状に形成された竹繊維束において径方向(太さ方向)に切断した断面積を表す。
また、上記強度あるいは最終到達強度(引張強度(MPa))の測定は、測定装置としてORIENTEC社製、商品名:STA−1150型万能材料試験機を用い、試験片を当該試験機に装着後、竹繊維束のみに荷重がかかるように台紙を切断し、荷重速度を1分間あたり2mmに調整して測定することができる。
【0028】
張架する方法としては、樹脂含浸工程後、ただちに一端を固定し反対側の端部におもりを吊るす方法や、油圧式のジャッキ等により両端に加力する方法、油圧式のジャッキ等により両端に加力して両端を固定する方法等が挙げられ、これらの中でも簡便で低コストであるという観点から、一端を固定し反対側の端部におもりを吊るす方法がより好ましい。
【0029】
また、上記張架工程は樹脂の硬化工程も兼ねており、用いる樹脂等によって、張架すると共に乾燥の環境を調節することが好ましい。例えば樹脂として低粘性のエポキシ樹脂を用いる場合であれば、その乾燥温度は、20〜120℃であることが好ましい。また、架橋を形成するとで硬化する樹脂を用いた場合、その硬化時間に適した時間を選択する。この場合、25℃前後の常温で張架工程を実施してもよいが、硬化反応促進の目的で、40〜110℃に加熱したり、50〜120℃の温風を吹き付けたりすることもできる。
【0030】
上記(i)撚り工程、(ii)樹脂含浸工程および(iii)張架工程を経て、樹脂の硬化が確認された後、荷重を除くことにより、竹繊維縄が得られる。得られた竹繊維縄は、高弾性率の部材であり、繊維質補強材などとして好適に用いることができる。
このような竹繊維縄の用途としては、木材の補強材、鉄筋の代替材料等が挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<竹繊維束の作製>
〔実施例1、2〕
竹材料(孟宗竹)の節を除くように切断し、さらに繊維束に平行な方向に切断して環状の部分を8〜32個に短冊状に分割した。次いで、短冊状に分割した竹材料を、外皮側から
・外層(最大厚み部分1.5mm、
竹材料の総厚みに対する前記最大厚み部分の比率20%(1/3以下))
・中層(最大厚み部分2.0mm、
竹材料の総厚みに対する前記最大厚み部分の比率26%(1/3以下))
・内層(最小厚み部分4.0mm、
竹材料の総厚みに対する前記最小厚み部分の比率53%(1/3以上))
の3層に分割した竹片を得た。
外層(実施例1)、中層(実施例2)、内層(比較例1)のそれぞれの竹片を、アルカリ水溶液(NaOH 8質量%溶液、pH14、温度100℃)に4〜12時間浸漬してアルカリ処理を施した。処理後、組織全体が軟化し、繊維束を容易に解繊できる状態となった。これを溶液中から取りだし、水洗し、その後櫛を用いて手解繊し竹繊維束を得た。収率を下記表1に示す。また、(1gの竹繊維束を得るのに使用したアルカリ水溶液の量)を下記表1に示す。
【0032】
上記より得た3種の竹繊維束の引張強度(MPa)を、以下の方法により測定した。結果を下記表1に示す。
各実施例および比較例それぞれの繊維束から、見かけ上1本から数本(質量で繊維長さ150mmあたり約0.025g)の繊維になるまで分離を行い、無作為にそれぞれ10本を抽出した。選んだ繊維を厚紙の台紙に挟み、長さ20mmで試験ができるよう繊維を配して試験体とした。試験片は20℃・65%RH下で質量が恒量に達するまで養生し、試験に用いた。
上記試験片を用い、測定装置としてORIENTEC社製、商品名:STA−1150型万能材料試験機を用い、試験片を当該試験機に装着後、繊維束のみに荷重がかかるように台紙を切断し、荷重速度を1分間あたり2mmに調整して引張強度(MPa)を測定した。
【0033】
以上より、竹材料は外皮側に近いほど高収率で竹繊維束を得ることができ、必要とするアルカリ水溶液の量も少なくて済むことが確認された。また外皮側に近いほど高強度であることが確認された。
【0034】
〔実施例3〕
実施例1、2に使用した外層と中層に該当する部分の双方から得られた竹片を混合して原料として用いたこと以外は、実施例1と同様にして竹繊維束を得た。
・(最大厚み部分3.5mm、
竹材料の総厚みに対する前記最大厚み部分の比率46%(2/3以下))
【0035】
〔比較例2〕
実施例3において、切断して除去する内皮側の領域を以下の範囲としたこと以外は、実施例3と同様にして竹繊維束を得た。
・(最小厚み部分1.0mm、
竹材料の総厚みに対する前記最小厚み部分の比率13%(1/3未満))
【0036】
【表1】

【0037】
<竹繊維縄の作製>
〔比較例3および実施例4〜7〕
竹繊維束として上記実施例2で得られた竹繊維束を用い、二本撚り・S巻き(右縄)にて手綯いした。得られた縄の外径は下記表2の通りである。この縄を下記表2に示す条件で荷重を負荷して張架し、その状態でエポキシ樹脂(コニシ(株)製、超低粘度型エポキシ樹脂、ボンドE205)を塗布含浸させた。除荷後、常温(25℃)にて1週間養生し、各実施例における竹繊維縄を得た。
【0038】
尚、張架直後(除荷直後)の竹繊維縄の強度と、樹脂が完全に硬化しきった後(除荷後7日間放置した後)の最終到達強度とを、前述の引張強度(MPa)に記載の測定方法により測定した。
【0039】
次いで、得られた竹繊維縄の弾性率を測定した。
まず、竹繊維縄を150mmに切り、両端部を補強材料で補強して試験体とした。ひずみの測定には2枚の箔ゲージを対象になるように接着し、絶縁テープにて養生して、計算にはその平均値を用いた。試験は、万能試験機(ORIENTEC製、商品名:STA−1150)を用い、単純引張にて行った。荷重速度は1mm/minとした。結果を下記表2に示す。
【0040】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
竹繊維束を複数撚り合わせて縄状に形成する撚り工程と、縄状に形成された竹繊維束に樹脂を含浸させる樹脂含浸工程と、樹脂を含浸した縄状の竹繊維束を、強度が樹脂硬化時の最終到達強度の70〜100%に到達するまで、撚り合わせていない竹繊維束の破断荷重の6〜20%となる条件で引張荷重をかけて張架しながら樹脂を硬化させる張架工程と、を有し、樹脂硬化後に荷重を解放して樹脂含有竹繊維縄を得ることを特徴とする竹繊維縄の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の竹繊維縄の製造方法に用いる竹繊維束を製造する方法であって、
竹材料の厚み方向の内皮側から1/3以上の領域を除去した残余の領域における竹材料を、長辺が繊維束に平行となるよう短冊状に切断して竹片を得る竹片作製工程と、該竹片の繊維質を結束している物質を除去して解繊し竹繊維束を得る解繊工程と、を有することを特徴とする竹繊維束の製造方法。
【請求項3】
前記竹片作製工程において、竹材料の厚み方向の内皮側から2/3以上の領域を除去した残余の領域における竹材料から竹片を作製することを特徴とする請求項2に記載の竹繊維束の製造方法。
【請求項4】
前記解繊工程は、前記竹片に対しpH10〜14のアルカリ水溶液中でアルカリ処理を施すことで、竹片の繊維質を結束している物質を除去して解繊し竹繊維束を得る工程であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の竹繊維束の製造方法。
【請求項5】
前記解繊工程は、前記竹片を圧力装置内に配置し、該圧力装置内で10気圧以上の圧力を加える加圧処理と、前記圧力装置内の圧力を開放する減圧処理と、を施すことで、竹片の繊維質を結束している物質を除去して解繊し竹繊維束を得る工程であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の竹繊維束の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の竹繊維縄の製造方法により得られたことを特徴とする竹繊維縄。


【公開番号】特開2009−154387(P2009−154387A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334953(P2007−334953)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】