説明

筋かい固定金物および筋かいパネル

【課題】たすき掛け筋かいの交差部分の固定を確実に行って強度の向上を図るとともに、簡易な施工を可能とする。
【解決手段】筋かい22の交差部分22aを固定する筋かい固定金物11において、交差部分22aの谷間22bで筋かい22の厚さ方向に沿って延びる本体部12と、本体部12の側部に設けられて、筋かいの上記谷間22bにおける両側の傾斜面22cに固定される斜片部13,13と、交差部分22aの谷間22bに取り付けられる間柱23の端部を固定する起立片とを備えた筋かい固定金物11。この筋かい固定金具11を用いて、筋かい22と間柱23を固定してパネル化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸組の強度を向上するために用いられる筋かいの交差部分を固定するための筋かい固定金物に関し、より詳しくは、かかる力をより効果的に減殺して軸組の変形を防げるような筋かい固定金物と、これを用いた筋かいパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
筋かいの交差部分を固定する金物としては、たとえば下記特許文献1に開示されたものがある。この金物は、柱と横架材で囲まれた空間内に斜めに突っ張るように固定される筋かいの中央部分を一体的にするためのもので、筋かいの幅寸法に対応する幅の略長方形板状に形成されている。この金物によって固定される筋かいは、対角線上に掛け渡される長い部材と、これの中間部に突き合わされる2本の短い部材とからなり、金物はこれらの交差部分に重合されて釘により固定される。なお、金物の長手方向における両側の一端部と他端部とには、筋かいを構成する各部材を位置決めするための位置決め縁が折曲により一体に設けられている。
【0003】
そしてこの金物で固定された筋かいは、四方の枠体と、中央に設けられる縦材と、奥側の一面に張り付けられる化粧板に結合して一体のパネルとされる。このようなパネルを用いれば、柱と横架材でできる開口に嵌め込むだけで固定できるので、現場での作業を単純化し、工期を短縮することができる利点がある。
【0004】
【特許文献1】特開2004‐339868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような構造の金物で行う筋かいの交差部分の固定は、筋かいの厚さ方向の一面を単に一体的に保持するものであり、筋かいに作用する引っ張りや圧縮の力を考慮して、筋かいの角度を積極的に保とうとするものではない。金物には上記のような位置決め縁が存在するが、この位置決め縁には、筋かいの角度を積極的に保持する機能はない。
【0006】
そこでこの発明は、筋かいの交差部分の角度を確実に保持するようにして筋かいの交差部分の固定を行うことで、引っ張りに強い木材の特性を生かして、強度を向上できるようにするとともに、簡易な施工ができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのための手段は、筋かいの交差部分を固定する筋かい固定金物であって、上記交差部分の谷間で筋かいの厚さ方向に沿って延びる本体部と、該本体部の側部に設けられて、筋かいの上記谷間における両側の傾斜面に固定される斜片部を備えた固定金物である。なお、筋交いの交差部分は、1本の長い部材に2本の短い部材を突き合わせて構成するほか、2本の長い部材を重ね合わせるようにして構成することもできる。
【0008】
筋かいに固定された2個の斜片部が本体部を介して一体であり、筋かいの一方側に引っ張りや圧縮の力がかかったときに、筋交いの他方側に力を伝達して、この他方側にかかる力を緩和する。
【0009】
上記の斜片部の縁には、筋かいの厚さ方向の面に当接する当接片を形成するとよい。当接片は、片側の縁に形成することも、両側の縁に形成することもできる。当接縁が筋かいの厚さ方向での位置を規制し、より強固な固定が可能である。
【0010】
また、上記本体部の側部に、筋かいの交差部分に取り付けられる間柱の端部を固定する起立片が立設されるとよい。間柱も一体に固定できる。
【0011】
別の手段は、筋かいが、または筋かいと間柱が、上記の筋かい固定金物で固定された筋かいパネルである。
【0012】
間柱を固定する場合には、筋かいの端部と間柱との間隔を保持する間隔保持具を備えるとよい。筋かいと間柱の位置関係が安定し、取り扱いや嵌め込みが容易である。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、この発明によれば、筋かい固定金具を筋かいの間の谷間に嵌め込むように固定し、筋かいの内側において筋かいの固定状態を保持するので、より強固な固定状態を得られる。
【0014】
しかも、筋かいの一方側にかかった引っ張りまたは圧縮の力を筋かいの他方側に減殺して伝えるので、引っ張りに強いという木材の利点を生かして、耐力を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
図1は、木造建築の軸組における筋かいの交差部分を固定する筋かい固定金物11(以下、「金物」という。)の斜視図であり、図2は、この金物11を用いて構成した筋かいパネル21の正面図である。この筋かいパネル21は、図3に示したように柱材31,31と横架材32,32で囲まれた開口部33内に嵌め込んで、図4に示したような状態で使用されるものであり、軸組の強度を向上する。
【0016】
上記の金物11は、図1に示したように1枚の金属板をプレス加工などして製造され、筋かい22の交差部分22aにおける筋かいの谷間22bで筋かい11の厚さ方向に沿って延びる本体部12と、この本体部12の両側縁に設けられて、筋かい22の谷間22bにおける両側の傾斜面22cに固定される2枚の斜片部13,13と、同じく本体部12の両側縁に設けられて間柱23の端部を固定する2本の起立片14,14とを有する。
【0017】
なお、図2に示したように、この例の金物11で固定する筋かい22は、同一形状の2本の筋かい部材24,24を互いに重ね合わせて交差させるものである。このため、金物11のそれぞれ2枚の斜片部13,13と起立片14,14は、本体部12の対角線上の位置に配設される。
【0018】
上記の本体部12は、重ね合わせた2本の筋かい部材24,24の厚さに対応する長さか、それよりも長い適宜長さの長方形板状に形成されている。この本体部12は、間柱23の端面(小口)を受ける受け部にもなる部分であるが、筋かい22の谷間22bに食い込むように三角形状に形成することもできる。この場合には、間柱23の端部もそれに対応する形成に加工する。
【0019】
上記の斜片部13は、筋かい22の谷間22bの傾斜角に沿った角度で斜め上外方に向けて延びる。この角度は、金物11を用いた筋かいパネル21を嵌め込む部分(開口部33)の形状に応じて適宜設定される。そして、各斜片部13,13における本体部12の長さ方向中間側の縁には、直角に折り曲げられた当接片13aが形成されている。当接片13aは、筋かい部材24の厚さ方向の内側の面に当接する部分である。
【0020】
これら斜片部13,13と当接片13aには、複数の貫通孔15…が適宜形成され、筋かい部材24,24に対する固定は釘(図示せず)により行う。
【0021】
上記の起立片14,14は、本体部12の両側縁から垂直に起立する長方形板状に形成される。これらの起立片14,14は、間柱23の端部の側面に固定される部分で、釘止め用の複数の貫通孔15…が形成されている。図中14aは、本体部12の幅方向で対向している斜片部13の貫通孔15…に釘を刺すときの便宜のためのぬすみである。
【0022】
このような形状に構成された金物11は、重ね合わせた状態で交差させた2本の筋かい部材24,24の交差部分22aの上下両側の谷間22b,22bに取り付けて使用される。そしてこの金物11には、2本の間柱23の端部を固定する。2本の間柱23,23は、筋かい部材24,24の端部に略対応する位置まで延び、柱材31,31と横架材32,32によって形成された開口部33に嵌め込め込んだときに開口部33内で突っ張るように設定されている。
【0023】
筋かい部材24,24と間柱23,23の固定は、上述のように釘で行えばよく、必要に応じてその他の適宜の手段を付加的に用いることもできる。図5は、金物11による固定状態を示す拡大図であり、この図に示すように2本の筋かい部材24,24は中間部分が一定の角度に保持された状態で固定される。なお、交差部22aの上下の谷間22b,22bに固定される金物11は同一形状である。
【0024】
また、筋かい部材24,24と間柱23の端部間には、図7、図8に示したように、筋かい部材24,24と間柱23との間隔を保持する間隔保持具25が固定される。この間隔保持具25は、金属板をプレス加工などして製造され、筋かい部材24,24の端部における直角をなす2つの端面を覆う筋かい部材固定部25aと、間柱23の側面に沿う間柱固定部25bと、これらを連結する連結部25cとを有する。いずれも方形板状に形成されるとともに、複数の貫通孔25d…が形成され、釘による固定に備えている。なお、図示例では、上記の連結部25cの幅を狭く(細く)設定したが、筋かい部材2本分の幅に設定した筋かい部材固定部25aと同一の幅に形成することもできる。また、間隔保持具25は、間柱23部分で分けないで筋かい22の幅に対応する長さに形成することもできる。
【0025】
このような間隔保持具25の取り付けにより、筋かい部材24,24と間柱23の間隔は固定され、1枚の筋かいパネル21となる。
【0026】
このようにして構成された筋かいパネル21は、図3、図6に示したように柱材31,31と横架材32,32によって囲まれた開口部23に嵌め込んで使用される。嵌め込んだ後の固定は適宜行うが、上記の間隔保持具25の使用されていない貫通孔25dも利用して行う。これによって開口部33の隅部の強固な緊結に資する。そして固定後は、真壁や大壁の形態を考慮して、上から構造用合板を張り付けるなどの適宜の作業を行い、所望の外壁や間仕切り壁などを構成する。なお、図6では便宜上、間隔保持具25を省略して図示した。
【0027】
上記のような金物11を用いて構成された筋かいパネル21では、金物11における各筋かい部材24,24に固定された2個の斜片部13,13が本体部12を介して一体であり、一方側の筋かい部材24に引っ張りや圧縮の力がかかったときに、他方側の筋かい部材24に力を伝達して、この他方側の筋かい部材24にかかる力を緩和する。具体的には、軸組が横力を受けると交差した2本の筋かい部材24,24のうちの一方は引っ張りの、他方は圧縮の作用を受けて開口部33が変形しようとするが、このときに金物11が筋かい22の交差部分22aの谷間22bに食い込んだ状態で筋かい22の内側において各筋かい部材24,24のなす角度を一定に保ちながら傾こうとする。これにより、一方の筋かい部材24にかかった引っ張り力が他方の筋かい部材24にかかる圧縮の作用に対して、この圧縮によってかかる力と反対側に向けた力を作用する。すなわち、圧縮の力を緩和する。いわば引っ張りに強い木材の利点を活用して、開口部33の変形を防止する。このため、高い強度をえられる。
【0028】
筋かい部材24を固定する金物11の斜片部13の縁には、筋かい部材24の厚さ方向の面に当接する当接片13aが形成されているので、筋かい部材24を筋かい部材24の厚さ方向でも位置規制できて、強固な固定状態を得られる。
【0029】
その上、間柱23も一体に固定できるので、さらなる強度の向上を図ることができる。しかも、間柱23は間隔保持具25によって筋かい部材24と一定の間隔になるように固定されているので、強度は高い。
【0030】
しかも、間隔保持具25によって、金物11と2本の筋かい部材24,24と2本の間柱23,23とが強固に一体化できるので、取り扱いが容易であるとともに、嵌め込み作業も容易に行える。
【0031】
以下、その他の形態について説明する。この説明において、先の構成と同一または同等の部分については同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0032】
図9は、他の例に係る金物11とこれを用いた筋かいパネル21の固定状態を示す横断面図である(便宜上、間隔保持具の図示を省略している。)。先の例では、交差する2本の筋かい部材24,24を相互に重合させたが、図9に示した筋かいパネル21では、筋かい部材24,24同士の間に隙間を設けて、各筋かい部材24,24の厚み方向側の面が、柱材31,31と面一になるようにしている。この場合には、図示しないが、筋かい部材24,24の間にスペーサや緩衝部材、柱材同士を連結する長ボルトなどを介在させるとよい。
【0033】
図10は、縦横の比が図2に示したものと異なる筋かいパネル21の正面図である。この図に示すように、金物11の斜片部13,13の角度の設定を適宜変えることによって、様々な大きさの開口部に固定できる筋かいパネル21が得られる。なお、図10に示した例では、金物11に固定した間柱23のほかに2本の間柱26,26も一体化している。すなわち、筋かい部材24の端部と中間部との間に、上下に延びる間柱26を2本固定する。そして、筋かい部材24の端部と各間柱23,26,26との間には、間隔保持具25…を取り付けている。
【0034】
図11は、金物11の他の例に係る斜視図であり、この金物11は、1本の長い筋かい部材(図示せず)と2本の短い筋かい部材(図示せず)とかなる筋かいの交差部分に固定するのに用いられるものである。この金物11は、本体部12の両側縁から、その長さ全体に斜片部13,13を延設し、これら斜片部13,13の幅方向の中間部を切り起こして起立片14,14を備えた構造である。そして、斜片部13,13の両側縁には当接片13a,13aが形成されている。
【0035】
このような構造の金物11では、図示を省略するが、各筋かい部材を交差するように結合するとともに、各筋かい部材の谷間に嵌め込むように固定し、その上で、起立片を利用して間柱を固定する。そして、間隔保持具を取り付けて、筋かいパネルを得る。
【0036】
これら図9、図10に示した筋かいパネル21や、図11に示した金物11を用いた筋かいパネルを固定した軸組では、上述したようにして各筋かい部材24,24にかかる負荷が緩和されるので、強度の向上を図ることができる。
【0037】
以上はこの発明を実施するための一形態であって、この発明の上記の構成のみに限定されるもではなく、その他の形態を採用することができる。
たとえば、筋かい固定金物は、筋かいの交差部分の4箇所の谷間のすべてに固定するもよい。
また、起立片に対して、上記の当接片と同様の構造を設けることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】筋かい固定金物の斜視図。
【図2】筋かいパネルの正面図。
【図3】筋かいパネルの使用方法を示す説明図。
【図4】筋かいパネルの使用状態の正面図。
【図5】筋かいパネルの要部の正面図。
【図6】筋かいパネルの固定状態の横断面図。
【図7】筋かいパネルの上端部の正面図。
【図8】間隔保持具の斜視図。
【図9】他の例に係る筋かいパネル固定金具を用いた筋かいパネルの使用状態の横断面図。
【図10】他の例に係る筋かいパネルの正面図。
【図11】他の例に係る筋かいパネルの斜視図。
【符号の説明】
【0039】
11…筋かい固定金物
12…本体部
13…斜片部
13a…当接片
14…起立片
21…筋かいパネル
22…筋かい
22a…交差部分
22b…谷間
22c…傾斜面
23…間柱
25…間隔保持具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋かいの交差部分を固定する筋かい固定金物であって、
上記交差部分の谷間で筋かいの厚さ方向に沿って延びる本体部と、
該本体部の側部に設けられて、筋かいの上記谷間における両側の傾斜面に固定される斜片部を備えた
筋かい固定金物。
【請求項2】
前記斜片部の縁に、筋かいの厚さ方向の面に当接する当接片が形成された
請求項1に記載の筋かい固定金物。
【請求項3】
前記本体部の側部に、筋かいの交差部分に取り付けられる間柱の端部を固定する起立片が立設された
請求項1または請求項2に記載の筋かい固定金物。
【請求項4】
前記請求項1または請求項2に記載の筋かい固定金物と、該筋かい固定金物に固定された筋かいとを有する
筋かいパネル。
【請求項5】
前記請求項3に記載の筋かい固定金物と、該筋かい固定金物に固定された筋かいおよび間柱とを有する
筋かいパネル。
【請求項6】
前記筋かいの端部と間柱との間隔を保持する間隔保持助具が備えられた
請求項5に記載の筋かいパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−167712(P2009−167712A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7793(P2008−7793)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(591000757)株式会社アクト (20)
【Fターム(参考)】