説明

筺体床面固定具及び筺体床面固定方法

【課題】筐体背面及び筐体内下部のスペースが無くても、簡単に筐体の背面側ボルトを固定可能な筺体床面固定具及び筺体床面固定方法を提供する。
【解決手段】上部円柱の径が下部円柱の径より大きい2重円柱形状を有する固定ピン4を床面2に固定し、固定ピン4の上部円柱の径より大きい径を有する大径穴と下部円柱の径より僅かに大きい径を有する長円穴を連結した形状の連結穴31を有するスライド式サポート3を、少なくとも連結穴31より大きい開口部を持つ筐体1の底板上に配置し、連結穴31の大径穴に固定ピン4を貫通させるように筐体1を床面2上に降着させ、スライド式サポート3をガイド5に沿ってスライドさせて、連結穴31の長円部の外周端部と固定ピン4が噛み合うようにし、その状態でスライド式サポート3を筐体1の底板に固定して筐体1を床面2に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばドライブ装置や無停電電源装置のような電力変換装置の筺体の底面と、床面またはチャンネルベースとを固定する筺体床面固定具及び筺体床面固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばドライブ装置や無停電電源装置のような電力変換装置においては、その筺体を固定するためには、床面に設けられたアンカーボルトによって直接固定するか、または床面に固定されたチャンネルベースを介してボルトによって固定するようにしている。
【0003】
床面の強度が十分で且つ床面が水平である場合には床面へ直接固定することが可能であるが、通常は、床面にチャンネルベースを取付け固定し、このチャンネルベース上に筺体を配置してチャンネルベースと筐体底面の数箇所をボルトで締め付けて固定する。そしてこの固定方法において、チャンネルベースと筐体を一体に床面に固定して作業効率を改善しようとする提案も為されている(例えば特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平11−150376号公報(全体)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された方法によれば、筐体をチャンネルベール上に設置した後に、筐体の内部から固定用ボルトを締付けて固定している。
【0005】
そのため、筐体の設置場所によっては筐体背面側のスペースが無く、背面側のボルトを締付けるために筐体正面側から内部に潜り込むか、潜り込むことが困難な場合、筐体内部に取り付けられている機器を外し、スペースを確保してから潜り込む必要があり、作業効率が著しく悪かった。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みて為されたもので、筐体背面及び筐体内下部のスペースが無い状態であっても、比較的簡単に筐体の背面側を床面に固定することが可能な筺体床面固定具及び筺体床面固定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1の発明である筺体床面固定具は、床面に固定され、上部円柱の径が下部円柱の径より大きい2重円柱形状を有する固定ピンと、筐体の底板上に配置され、前記固定ピンの上部円柱の径より大きい径を有する大径穴と前記下部円柱の径より僅かに大きい径を有する長円穴を連結した形状の連結穴を有するスライド式サポートと、前記筐体の底板に固定され、前記スライド式サポートを前記筐体の底板上を前記筐体の前後方向にスライドさせるためのガイドと、前記筐体と前記スライド式サポートを固定する固定手段を具備し、前記筐体の底板に施された開口部と前記連結穴の大径穴に前記固定ピンを貫通させて前記前記スライド式サポートをスライドさせたとき、前期連結穴の長円部の外周端部と前記固定ピンが噛み合うように、前記固定ピンの下部円柱の高さを、前記スライド式サポートの厚さに前記筐体の底板の厚さを加えた高さより僅かに大きくしたことを特徴としている。
【0008】
また、本発明の第2の発明である筺体床面固定方法は、上部円柱の径が下部円柱の径より大きい2重円柱形状を有する固定ピンを床面に固定し、前記固定ピンの上部円柱の径より大きい径を有する大径穴と前記下部円柱の径より僅かに大きい径を有する長円穴を連結した形状の連結穴を有するスライド式サポートを、少なくとも前記連結穴より大きい開口部を持つ筐体の底板上に配置し、前記連結穴の大径穴に前記固定ピンを貫通させるように前記筐体を前記床面上に降着させ、前記前記スライド式サポートをガイドに沿ってスライドさせて、前期連結穴の長円部の外周端部と前記固定ピンが噛み合うようにし、その状態で前記スライド式サポートを前記筐体の底板に固定することにより前記筐体を前記床面に固定するようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、筐体背面及び筐体内下部のスペースが無い状態であっても、比較的簡単に筐体の背面側を床面に固定することが可能な筺体床面固定具及び筺体床面固定方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
以下、本発明の実施例1に係る筺体床面固定具及び筺体床面固定方法について、図1乃至図3を参照して説明する。
【0012】
図1は本発明の実施例1に係る筺体床面固定具及び筺体床面固定方法の説明図であり、図1(a)は側面図、図1(b)は筐体内部から見た平面図を示している。
【0013】
図1において、筐体1は床面2上に配置されている。ここで、床面2は床面そのものであってもチャンネルベースの上面であっても良い。筐体1の底面にはパネル状のスライド式サポート3がその長手方向が筐体1の背面から前面に向かうように配置されている。このスライド式サポート3の筐体1の背面側に、大径の穴と小径の長円穴を連結させた形状の連結穴31が、長円穴が筐体1の背面側となる方向に設けられている。また、筐体1の底板にも少なくとも上記の連結穴31の大きさを有する開口部が設けられている。そして、床面2には図1(a)に示されているように断面形状がT字型、即ち小径の円柱に大径の円柱を上乗せたような2重円柱形状の固定ピン4が取り付けられている。固定ピン4は例えば図1(a)に図示したように、円柱の中心部に穴を開けてボルトによって上部から床面2に固定する。
【0014】
この固定ピン4の詳細を図2に示す。図2(a)は平面図、図2(b)は正面図である。図2に示したように下部円柱41に上部円柱42を乗せ、中心部に固定用のボルト穴43が設けられている。ここで、上部円柱42の径はスライド式サポート3の連結穴31の大径穴の径より若干小さくする。また下部円柱41の径はスライド式サポート3の連結穴31の長円穴の径と略等しくして嵌合するようにし、下部円柱41の高さは、スライド式サポート3の厚さに筐体1の底板の厚さを加えた厚さより僅かに大きくなるようにする。
【0015】
スライド式サポート3を筐体1の背面から正面方向に滑らすためにガイド5が設けられている。このガイド5は、図1(b)に示すように、スライド式サポート3を筐体1の底面に押さえ込むように筐体1の底面に固定されている。
【0016】
このガイド5の断面図を図3に示す。図3は、図1(b)におけるX−X´切断面における断面図である。図3に示すように、ガイド5はスライド式サポート3を左右両方向及び上側から押えるように配置され、固定用のスタッド51を用いて床面2に固定されている。従って、スライド式サポート3はカイド5に沿って床面2の上をスライドすることが可能となっている。
【0017】
図1(b)において、筐体1の底面に設けられた前面固定用穴11は、筐体1の前面側をボルト等によって床面2に固定するためのものである。
【0018】
次に上記状態において筐体1の背面側を床面2に固定する方法について説明する。まず、筐体1を図示しないクレーンで吊るかまたはフォークリフトで持ち上げ、図1(a)に図示された状態を作り出す。そして固定ピン4と連結穴31の大径の位置を合わせた状態で図1(a)に図示した矢印Aの方向に筐体1の底面を床面2まで降着させる。上述したように固定ピン4の上部円柱42の径は連結穴31の大径穴の径より若干小さいので、上記の動作によって固定ピン4は連結穴31の大径部を貫通する。
【0019】
上記状態において、スライド式サポート3を図1(a)に図示した矢印Bの方向にスライドさせる。このスライドは、例えばスライド式サポート3の筐体前面側端部に設けられた突起部を木槌などで叩くことによって行う。
【0020】
上述したように、固定ピン4の下部円柱41の径はスライド式サポート3の連結穴31の長円穴の径と略等しく、また下部円柱41の高さは、スライド式サポート3の厚さに筐体1の底板の厚さを加えた厚さより僅かに大きくなっているので、固定ピン4の下部円柱41の外周が連結穴31の長円穴の外周端部と当接するまでスライド式サポート3は図1(a)の矢印B方向に移動する。
【0021】
このようにスライド式サポート3を筐体1の前面側に移動させた状態で、ガイド5に設けられた長円形状の固定用穴51及びスライド式サポート3のネジ穴32を用いてスライド式サポート3をガイド5に固定する。このようにすれば、スライド式サポート3はガイド5を介して筐体1の底板に固定される。
【0022】
以上説明した固定方法によれば、筐体1の背面及び筐体1内の背面側下部のスペースが無い状態でも、比較的簡単に筐体1の背面側を床面に固定することが可能となる。また、使用する固定ピン、スライド式サポート及びガイドから成る筺体床面固定具が外部に見えることがないので外観を損ねることがない。
【実施例2】
【0023】
図4は、本発明の実施例2に係る筺体床面固定具及びこれを用いた固定方法を示す平面図である。この実施例2の各部について、図1(b)の実施例1に係る筺体床面固定具及び筺体床面固定方法を示す平面図の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例2が実施例1と異なる点は、ガイド5をガイド5A及びガイド5Bの2つに分割した点、スライド式サポート3をガイド5に固定するネジ穴32に代え、スライド式サポート3Aに固定用穴33を設けた点である。
【0024】
筐体1の背面部の固定のため、スライド式サポート3Aをスライドさせ、固定ピン4の下部円柱41の外周が連結穴31の長円部の外周端部と当接する位置に来た状態で、固定用穴33が前面固定用穴11と重なるようにし、この状態で固定ボルトによってスライド式サポート3Aと筐体1の底板を共締め固定する。
【0025】
以上の実施例2の構成、方法によれば、筐体1の前面及び背面の床面への固定のためのボルトが1箇所となり作業工程を改善することができる。
【0026】
尚、筐体1の前面の固定ボルトが床面に埋め込まれたアンカーボルトであるような場合には、固定用穴33をスライド式サポート3Aの長手方向に長円となる形状とし、筐体1の設置時にアンカーボルトを前面固定用穴11及び固定用穴33を貫通させ、その状態でスライド式サポート3Aをスライドさせて固定すれば良い。
【実施例3】
【0027】
図5(a)、図5(b)は、夫々本発明の実施例3に係る筺体床面固定具及び筺体床面固方法に用いられるスライド式サポート3Bの平面図及び側面図である。
【0028】
図5に図示したようにスライド式サポート3Bは、連結穴31における長円穴の部分においてテーパ34を有する構造となっている。即ち、図5(b)に示したようにスライド式サポート3Bの連結穴31における大径穴部の厚さをh1、長円穴より右側の部分の厚さをh1より大きいh2とし、その中間部におけるスライド式サポート3Bの厚さを連続的に変化させる。そしてh1は図3(b)における下部円柱41の高さと筐体1の底板の厚さを加えた厚さより若干小さくし、h2は下部円柱41の高さと筐体1の底板の厚さを加えた厚さより僅かに大きくする。
【0029】
以上のように、テーパ部34を持つスライド式サポート3Bを用いれば、図1(a)に示した矢印Aの方向に筐体1を降着させたあと、矢印Bの方向にスライド式サポート3Bをスライドさせるとき、固定ピン4とスライド式サポート3Bとの噛合いがより強固で確実なものになり、筐体1の背面側の上下方向への固定をより強固にすることができる。
【実施例4】
【0030】
図6(a)、図6(b)は、夫々本発明の実施例4に係る筺体床面固定具及びこれを用いた固定方法に用いられる固定ピン4Aの平面図及び正面図である。
【0031】
この実施例4の各部について、図2(a)、図2(b)の実施例1に係る筺体床面固定具及び筺体床面固定方法に用いられる固定ピン4を示す平面図及び正面図の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例4が実施例1と異なる点は、下部円柱41の下部に大径の底部円柱44を設けた点である。
【0032】
底部円柱44の径は上部円柱42と略同一とし、その高さは、筐体1の底板の厚さと略同一にする。そしてこの場合は、下部円柱41の高さはスライド式サポート3の厚さより僅かに大きくなるようにする。
【0033】
この実施例4によれば、固定ピン4Aの下端部に設けた底部円柱44が筐体1を床またはチャンネルベース上に降着させて設置する際のガイドとなるため、より精度良く筐体11を降着、設置することが可能となる。
【0034】
尚、底部円柱44をその内周径が下部円柱41と等しくなるような中空の円柱とし、下部円柱41を貫通させるように設置しても良い。
【実施例5】
【0035】
図7は、本発明の実施例5に係る筺体床面固定具及び筺体床面固定方法に用いられる固定ピン4Bの正面図である。
【0036】
この実施例5の各部について、図2(b)の実施例1に係る筺体床面固定具及び筺体床面固定方法に用いられる固定ピン4を示す正面図の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例5が実施例1と異なる点は、上部円柱42Aに上部方向の径を次第に小さくするようなテーパ部を設けた点である。
【0037】
このような固定ピン4Bを用いることによって、図1(a)に示した据付状態における固定ピン4と連結穴31の位置合わせを容易に行うことが可能となる。尚、図7においては、円柱42Aの外周部全てにテーパ部を設けているが、上端の一部の外周部にテーパ部を設ける構造としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施例1に係る筺体床面固定具及び筺体床面固定方法の説明図。
【図2】本発明の実施例1における固定ピンの形状説明図。
【図3】本発明の実施例1におけるガイドの断面図。
【図4】本発明の実施例2に係る筺体床面固定具及び筺体床面固定方法の説明図。
【図5】本発明の実施例3におけるスライド式サポートの説明図。
【図6】本発明の実施例4における固定ピンの説明図。
【図7】本発明の実施例5における固定ピンの説明図。
【符号の説明】
【0039】
1 筐体
2 床面
3、3A、3B スライド式サポート
4、4A、4B 固定ピン
5、5A、5B ガイド
11 前面固定用穴
31 連結穴
32 ネジ穴
33 固定用穴
34 テーパ部
41 下部円柱
42 上部円柱
43 ボルト穴
44 底部円柱
51 固定用穴
52 スタッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面に固定され、上部円柱の径が下部円柱の径より大きい2重円柱形状を有する固定ピンと、
筐体の底板上に配置され、前記固定ピンの上部円柱の径より大きい径を有する大径穴と前記下部円柱の径より僅かに大きい径を有する長円穴を連結した形状の連結穴を有するスライド式サポートと、
前記筐体の底板に固定され、前記スライド式サポートを前記筐体の底板上を前記筐体の前後方向にスライドさせるためのガイドと、
前記筐体と前記スライド式サポートを固定する固定手段を具備し、
前記筐体の底板に施された開口部と前記連結穴の大径穴に前記固定ピンを貫通させて前記前記スライド式サポートをスライドさせたとき、前期連結穴の長円部の外周端部と前記固定ピンが噛み合うように、
前記固定ピンの下部円柱の高さを、前記スライド式サポートの厚さに前記筐体の底板の厚さを加えた高さより僅かに大きくしたことを特徴とする筺体床面固定具。
【請求項2】
前記固定手段は、
前記スライド式サポートに設けられたネジ穴を用い、
前記ガイドを介してボルトで固定するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の筺体床面固定具。
【請求項3】
前記固定手段は、
前記筐体の底板に設けられた前記筐体の前面固定用穴と、
前記スライド式サポートに設けられた固定用穴を位置合わせし、
固定用ボルトで共締め固定するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の筺体床面固定具。
【請求項4】
前記スライド式サポートは、
その厚さが前記大径穴から前記長円穴方向に向かって次第に厚くなっていくテーパ部を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の筺体床面固定具。
【請求項5】
前記固定ピンの床面からの高さが前記筐体の底板の厚さと同等となる前記下部円柱の下端部分の円柱径を、
前記上部円柱の径と同等としたことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の筺体床面固定具。
【請求項6】
前記固定ピンの前記上部円柱は、
その径が下方から上方に向かって次第に小さくなっていくテーパ部を有することを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の筺体床面固定具。
【請求項7】
上部円柱の径が下部円柱の径より大きい2重円柱形状を有する固定ピンを床面に固定し、
前記固定ピンの上部円柱の径より大きい径を有する大径穴と前記下部円柱の径より僅かに大きい径を有する長円穴を連結した形状の連結穴を有するスライド式サポートを、少なくとも前記連結穴より大きい開口部を持つ筐体の底板上に配置し、
前記連結穴の大径穴に前記固定ピンを貫通させるように前記筐体を前記床面上に降着させ、前記スライド式サポートをガイドに沿ってスライドさせて、前期連結穴の長円部の外周端部と前記固定ピンが噛み合うようにし、
その状態で前記スライド式サポートを前記筐体の底板に固定することにより前記筐体を前記床面に固定するようにしたことを特徴とする筺体床面固定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−47789(P2008−47789A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223824(P2006−223824)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】