説明

粘着性熱伝導シート

【課題】高い熱伝導性と難燃性を有し、かつ被配設体との密着性、取り扱い性に優れた両面で粘着性の異なる粘着性熱伝導シートを提供する。
【解決手段】アクリル系ポリウレタン樹脂を主体とするバインダ樹脂に、無官能性アクリルポリマー、熱伝導性充填剤および難燃剤を含有してなる表面層および裏面層を有する多層熱伝導シートであって、表面層の粘着力が0.10N/25mm未満、裏面層の粘着力が0.10N/25mm以上であり、かつ該熱伝導シートの引張強度が0.5MPa以上である粘着性熱伝導シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シートに関する。更に詳しくは、優れた熱伝導性及び難燃性を有し、被配設体との密着性に優れた粘着性熱伝導シートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導シートは、電子部品等の発熱体からの放熱を促すものであり、電気、電子装置の内部において、発熱源となる電子部品と、放熱板や筐体パネル等のヒートシンクとなる部材との間に介在されるように配置して使用される。そこで、熱伝導シートは、優れた熱伝導性と共に高い難燃性が求められている。また、近年、電子機器の小型化や高集積化が進展する中、発生するシロキサンガスが電子機器の接点不良の原因となるシリコーン系樹脂から非シリコーン系樹脂への転換が求められており、更に、熱伝導シートの電子機器への装着時の作業性向上の点から薄型で粘着性を有する熱伝導シートが望まれている。
【0003】
このような、要求に応えるべくシリコーン系樹脂やゴムに代えてアクリル系ポリウレタン樹脂やアクリル系樹脂を使用することが提案されている(特許文献1、2)。特許文献1には、アクリル系ポリウレタン樹脂が優れた熱伝導性とバランスのとれた粘着性を有することが記載されている。また、特許文献2には、水和金属化合物を所定の割合で含有する、架橋密度の異なるアクリル系熱伝導シート層を積層する多層熱伝導シートが開示されている。この多層熱伝導シートは、ハロゲン含有難燃剤や赤リン、シリコーン系樹脂を用いず、優れた熱伝導性および難燃性を有するとともに取り扱い性や被配設体との密着性に優れていると記載されている。
【0004】
【特許文献2】特開2002−030212号公報
【特許文献3】特開2005−354002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、熱伝導シートの被配設体への設置は、発熱源となる電子部品と筐体パネル等のヒートシンクとなる部材の間であり、電子部品から部材へ効率良く熱伝導を行う為に、熱伝導シートはその両面に粘着性を有し、電子部品、熱伝導シートそして部材ができるだけ密着配置することが望まれる。ところで、一般に熱伝導シートの被配設体への設置は、通常先ず電子部品を設置し、次に熱伝導シートを貼着した後、最終的に筐体パネルを熱伝導シートに貼着させながら嵌合等により装着する。この場合、電子部品に貼着した熱伝導シートは、電子部品の形状に沿ってしっかりと貼着すると同時に、貼着時の位置面のズレ等の修正に対応できる必要がある。一方、筐体パネルに貼着した熱伝導シートは、筐体パネルの形状に沿ってしっかりと貼着すると同時に、接合時の調整や修理等の為の開閉時に容易にパネルから剥がれることが必要である。このように、熱伝導シートはその両面において求められる粘着性が異なると共に、上記操作に耐え得る強度を有することが必要である。
【0006】
上記文献1には、アクリル系ポリウレタン樹脂が優れた熱伝導性とバランスのとれた粘着性を有することが記載されているが、難燃性について記載がなく、両面で異なる粘着性を有する熱伝導シートについての記載も無い。また、上記文献2には、水和金属化合物および難燃剤を含有する、優れた熱伝導性および難燃性を有するとともに取り扱い性や被配設体との密着性に優れた多層熱伝導シートが開示されているが、使用する樹脂は、単官能(メタ)アクリル単量体を主体とし、トリアジン骨格含有化合物で架橋したアクリル系樹脂に係るものである。
かかる状況下、本発明の目的は、高い熱伝導性と難燃性を有し、かつ被配設体との密着性、取り扱い性に優れた両面で粘着性の異なるアクリル系ポリウレタン樹脂を主体とする熱伝導シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、アクリル系ポリウレタン樹脂を主体としたバインダ樹脂に、無官能性アクリルポリマー、熱伝導性充填剤および難燃剤を含有させた多層熱伝導シートにおいて、表面層(「第一層」という場合がある。)および裏面層(「第二層」という場合がある。)のそれぞれの粘着力と、熱伝導シート全体の引張強度を特定の範囲にコントロールすることにより上記課題を解決した。
【0008】
即ち、本発明は、次の(1)から(8)に係るものである。
(1) アクリル系ポリウレタン樹脂を主体とするバインダ樹脂に、無官能性アクリルポリマー、熱伝導性充填剤および難燃剤を含有してなる表面層および裏面層を有する多層熱伝導シートであって、表面層の粘着力が0.10N/25mm未満、裏面層の粘着力が0.10N/25mm以上であり、かつ該熱伝導シートの引張強度が0.5MPa以上である粘着性熱伝導シート。
(2) アクリル系ポリウレタン樹脂が、1分子中に少なくとも2個の水酸基を有するアクリルポリマーと1分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する多官能性イソシアネートの反応により得られたものである前記(1)に記載の粘着性熱伝導シート。
(3) 前記熱伝導シートが、表面層および裏面層の2層からなる前記(1)または(2)に記載の粘着性熱伝導シート。
(4) 前記熱伝導シートの表面層の引張強度が0.7MPa以上であり、裏面層の引張強度が0.1MPa以上である前記(1)から(3)のいずれかに記載の粘着性熱伝導シート。
(5) アクリル系ポリウレタン樹脂と無官能性アクリルポリマーの割合が、アクリル系ポリウレタン樹脂100重量部に対し、無官能性アクリルポリマーが表面層で10〜60重量部、裏面層で50〜120重量部である前記(1)から(4)いずれかに記載の粘着性熱伝導シート。
(6) 前記熱伝導シートの熱伝導率が、0.5W/mK以上である前記(1)から(5)のいずれかに記載の粘着性熱伝導シート。
(7) 難燃剤が、リン系化合物、金属水酸化物、膨張黒鉛および窒素化合物から選ばれた少なくとも1種のノンハロゲン難燃剤である前記(1)から(6)のいずれかに記載の粘着性熱伝導シート。
(8) 前記性熱伝導シートの片面または両面に剥離フィルムを有する前記(1)から(7)のいずれかに記載の粘着性熱伝導シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱伝導シートは、表裏両面で粘着性の異なる多層熱伝導シートであり、高い熱伝導性と難燃性を有し、かつ被配設体との密着性、取り扱い性に優れた熱伝導シートであり、電子部品等の伝熱媒体として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明につき具体的に説明する。
本発明は、アクリル系ポリウレタン樹脂を主体とするバインダ樹脂に、無官能性アクリルポリマー、熱伝導性充填剤および難燃剤を含有してなる表面層および裏面層を有する多層熱伝導シートであって、表面層の粘着力が0.10N/25mm未満、裏面層の粘着力が0.10N/25mm以上であり、かつ熱伝導シートの引張強度が0.5MPa以上である粘着性熱伝導シートに係るものである。
即ち、アクリル系ポリウレタン樹脂を主体とするバインダ樹脂に、無官能性アクリルポリマー、熱伝導性充填剤および難燃剤を含有してなる表面層(第一層)と、アクリル系ポリウレタン樹脂を主体とするバインダ樹脂に、無官能性アクリルポリマー、熱伝導性充填剤および難燃剤を含有してなる表面層(第二層)を少なくとも有する多層熱伝導シートであり、表面層の粘着力が0.10N/25mm未満であり、一方、裏面層の粘着力が0.10N/25mm以上であり、かつ熱伝導シートの全体の引張強度が0.5MPa以上である粘着性熱伝導シートに関する。
多層シートは、少なくとも上記表裏2層を含むものであり、中間層として表裏2層と同様な性質を有する粘着層やその他の層を本発明の目的および効果を損なわない範囲で含むことができる。多層シートは、好ましくは、上記表裏2層からなる2層シートである。この場合は、後述のように表面層の引張強度が0.7MPa以上であり、裏面層の引張強度が0.1MPa以上であることが望ましい。
【0011】
本発明において、アクリル系ポリウレタン樹脂とは、1分子中に少なくとも2個の水酸基を有するアクリルポリマーと1分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する多官能性イソシアネートとを触媒の存在下に重付加反応させたものである。本発明のアクリル系ポリウレタン樹脂では、そのポリオール成分としてアクリルポリマーが使用される。なお、アクリルポリマーとは、アクリル系ポリマーとメタクリル系ポリマーの両方をさす。
【0012】
アクリルポリマーの成分としては、例えば、水酸基を有するヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタアクリレートのモノマーが挙げられる。
また、イソオクチルアクリレート、2 −エチルヘキシルアクリレート、n −ブチルアクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレートなどのモノマーが挙げられる。
更に、物性調整の為にメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、酢酸ビニルなどのモノマーを適宜加えてもよい。これらのアクリルポリマーは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
これらのモノマーは、ラジカル等の触媒下に、通常の方法で付加重合によりアクリルポリマーとすることができる。本発明の水酸基を有するアクリルポリマーとしては、比較的分子量が小さい液状物が好適に使用される。
【0013】
アクリル系ポリウレタン樹脂の形成のために上記したアクリルポリマーと重付加反応させる多官能性のイソシアネートは、イソシアネート基を分子中に2つ以上有するイソシアネート化合物であり、例えば、テトラメチレン−1 ,4 −ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;シクロヘキサン−1 ,3―ジイソシアネート、シクロヘキシルメタン−4 ,4 −ジイソシアネート等の脂環族イソシアネート;トリレン−2 ,4 −ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4 ,4 −ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物を挙げることができる。これらのイソシアネート化合物は、単量体でもよく、2量体以上のものであってもよい。
【0014】
アクリルポリマーと多官能性イソシアネートの重付加反応は、適当な触媒の存在下において実施する。ここで使用する触媒は、例えば、ジブチル錫ジラウレート、オクテン酸鉛等の有機金属系触媒やトリエチレンジアミン、ノルマルメチルモルフォリン等のアミン系触媒が使用され、特に限定されるものではない。また、重付加反応は、アクリルポリマー及び多官能性イソシアネートを出発物質として使用して、触媒の存在下において、ポリウレタン樹脂の製造に一般的に使用されている重合方法に順じて実施することができる。
なお、本発明において、バインダ樹脂の主体であるアクリルポリマーと多官能性イソシアネートとの反応は、後述の無官能性アクリルポリマー、熱伝導充填剤や難燃剤を混合する前に行うこともできるが、通常は、これらの化合物を混合後に行われる。
【0015】
水酸基のアクリルポリマー中への導入は、上記水酸基を有するモノマーを使用する以外にも、水酸基を有する重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることにより行うことができる。なお、アクリルポリマー中の水酸基に対する多官能性イソシアネート中のイソシアネート基の割合は、水酸基を完全に反応させるべくイソシアネート基の割合を少し多くなるようにすることが好ましい。水酸基が残ると、製品化後に何らかの影響で更に硬化が進行することがあり、製品の物性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0016】
なお、本発明において表面層(第一層)を構成するアクリル系ポリウレタン樹脂の前駆体となるアクリルポリマーとしては、裏面層(第二層)にくらべ水酸基の含有量が多く、分子量の小さいものが使用される。水酸基の含有量(OHV:mgKOH/g)としては、20〜80、好ましくは40〜60であり、分子量(Mw)は、3000〜10000、好ましくは5000〜8000のものが好適に使用される。
一方、裏面層(第二層)を構成するアクリル系ポリウレタン樹脂の前駆体となるアクリルポリマーとしては、表面層(第一層)にくらべ水酸基の含有量が少なく、分子量の大きいものが使用される。水酸基の含有量(OHV:mgKOH/g)としては、10〜40、好ましくは20〜30であり、分子量(Mw)は、7000〜15000、好ましくは8000〜12000のものが好適に使用される。
このような構成とすることにより、水酸基を有するアクリルポリマーはイソシアネートと反応し、本発明のバインダ樹脂として好適に使用され、また、熱伝導剤や難燃剤を混合した粘着性熱伝導シートとして本発明の目的を達成できる。
【0017】
このようなアクリル系ポリウレタン樹脂の前駆体となるアクリルポリマーとしては、市販品として、アルホン(ARUFON:東亞合成株式会社製)UH2000シリーズやアクトフロー(綜研化学株式会社製)UTシリーズが好適に使用できる。
上記、表面層および裏面層に好適なアクリルポリマーとするためには、これらの商品(グレード)を2種或いは3種以上適宜ブレンドして調整することが好ましい。
【0018】
本発明において無官能性アクリルポリマーとは、分子中に水酸基等の官能基を有しないアクリルポリマーであり、分子量が1000〜3000で液状のものが好適に使用される。
無官能性アクリルポリマーは、一種の可塑剤としての役目を果たしシートに適度の柔軟性を付与すると共に、粘着性を付与する役割を果たす。
本発明の特徴の一つは、バインダ樹脂としてのアクリル系ポリウレタンと無官能性アクリルポリマーとの組み合わせにある。一般に可塑剤として広く用いられているトリクレジルホスフェートやフタル酸エステル類等の他の可塑剤を用いても、粘着性が劣り、また、可塑剤が120℃でブリードする為、本発明の目的を達成できない。
【0019】
無官能性アクリルポリマーの成分としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2 −エチルヘキシルアクリレート、n −ブチルアクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレートなどのモノマーが挙げられる。
これらのアクリルポリマーは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。これらのモノマーは、ラジカル等の触媒下に、通常の方法で付加重合によりアクリルポリマーとすることができる。本発明の無官能性アクリルポリマーとしては、比較的分子量が小さい液状物が好適に使用される。
【0020】
このようなアクリル系ポリウレタン樹脂としては、市販品として、アルホン(ARUFON:東亞合成株式会社製)UP-1000シリーズが好適に使用できる。
これらの商品は、バインダ樹脂の硬さや引張強度をコントロールするために、2種又は3種以上の異なる品番のものを適宜混合して用いることができる。
【0021】
アクリル系ポリウレタン樹脂と無官能性アクリルポリマーとの配合割合は本発明の重要なポイントの一つである。後述するように、本発明では熱伝導シートを構成する第一の層と第二の層では要求される粘着力と引張強度が異なる為、使用するアクリル系ポリウレタン樹脂および無官能性アクリルポリマーの種類により配合割合は適宜変更されるが、一般にはアクリル系ポリウレタン樹脂中の水酸基を有するアクリルポリマー100重量部に対し無官能性アクリルポリマーの添加量は第一層で10〜60重量部、好ましくは20〜50重量部であり、第二層で50〜120重量部、好ましくは60〜100重量部である。即ち、第二層でより粘着性を付与するため、無官能性アクリルポリマーの添加量は第一層よりも多くなる。
【0022】
本発明のアクリル系ポリウレタン樹脂を主体とするバインダ樹脂とは、アクリル系ポリウレタン樹脂を主成分として含有することをいい、例えば、更に粘着性を付与する為に粘着剤のような他の化合物や樹脂を本発明の目的、効果を損なわない範囲で適宜追加することができる。
【0023】
また、本発明の多層熱伝導シートとは、少なくとも表面層(第一層)および裏面層(第二層)を有する粘着性熱伝導シートであり、その間に更に中間層(複数であってもよい)を有することができる。中間層としては、上記第一層、第二層と同様な粘着層や難燃性付与層が挙げられる。多層熱伝導シートの中でも好ましくは、表面層(第一層)および裏面層(第二層)をからなる2層シートである。
【0024】
次に、本発明において使用される熱伝導性充填剤の例としては、熱伝導性物質はアルミニウム、銅、銀などの金属、アルミナ、マグネシアなどの金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素などの窒化物、カーボンナノチューブなどから選ばれた1種又は2種以上の粉状、繊維状、針状、燐片状、球状などの物質が挙げられる。これらの中でも水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物が好適に使用される。
本発明においては熱伝導性充填剤として、金属酸化物、金属水酸化物を使用する場合は、その平均粒子径は0 .1〜50μmであることが好ましく、一般には充填密度を上げる為に、その平均粒径の範囲内で比較的粒径の大きな粒子と小さな粒子を混合して使用される。また、添加量はバインダ樹脂100重量部に対し、300〜700重量部、好ましくは400〜600重量部である。添加量が少ないと熱伝導効率が悪くなり、多すぎると各層の柔軟性が少なくなる。
粘着性熱伝導シートは、被配設体からの放熱効率の観点から、その熱伝導率が0.5W/mK以上,好ましくは0.9W/mK、更に好ましくは1.0W/mKである。
【0025】
本発明において、難燃剤としては、従来から使用されている水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物や実質的にハロゲンを含有しない難燃剤(「ハロゲン不含難燃剤」ということがある。)が使用できる。
金属水酸化物、特に水酸化アルミニウムは上記熱伝導性充填剤としても、また本難燃剤の両方の効果を有することから本発明で有用である。
また、ハロゲン不含難燃剤としては、例えば有機リン化合物、膨張黒鉛、ポリフェニレンエーテル、又はトリアジン骨格含有化合物を挙げることができる。これらのうち、難燃性の効果を発現する上で最も好ましいものは、有機リン化合物である。有機リン化合物としては、リン酸エステル類、芳香族縮合リン酸エステル類、ポリリン酸アンモニウム類等を挙げることができる。なかでも、ポリリン酸アンモニウム類が好ましく用いられる。なお、これらの難燃剤を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
この難燃剤の含量は、バインダ樹脂100部に対し、10〜60重量部、好ましくは20〜40重量部であり、10重量部未満では所望の難燃効果が得られず、60重重量部を超えると熱伝導性が損なわれる。
【0026】
本発明の粘着性熱伝導シートは、第一の層の粘着力が0.10N/25mm未満、第二の層の粘着力が0.10N/25mm以上である熱伝導シートに係るものである。好ましくは、第一の層の粘着力が0.09N/25mm未満、第二の層の粘着力が0.12N/25mm以上である。
第一の層の粘着力が0.10N/25mm以上であると、電子部品等との粘着性が有すぎてズレ等の調整が困難となり、一方、第二の層の粘着力が0.10N/25mm未満であると筐体等との粘着性が少なくシートの脱落が起こるおそれがある。
【0027】
次に、本発明の熱伝導シートは、引張強度が0.5MPa以上、好ましくは0.6MPa以上、より好ましくは1.0MPa以上であることが必要である。熱伝導シートの引張強度が0.5MPa未満であると、後述の剥離シートを剥がすときに破断する恐れがあるばかりでなく、製品として被着体に貼合したり、貼合したものを修正・調整する際に破断が生じる。
更に、本発明の粘着性熱伝導シートが表面層および裏面層の2層にて構成される場合は、第一層の引張強度が0.7MPa以上、好ましくは1.0MPa以上であり、第二層の引張強度が0.1MPa以上、好ましくは0.2MPa以上であることが好ましい。このような範囲にコントロールすることにより、被着体との密着性、取り扱いに優れた熱伝導シートを得ることができる。
なお、本発明で熱伝導シートとは、熱伝導フィルムを含む概念であり、通常厚みが200〜5000μmで使用される。
【0028】
なお、本発明の粘着性熱伝導シートは、通常、その片面又は両面に剥離フィルムを貼合したものとして使用される。剥離フィルムとしては、延伸ポリプロピレン(OPP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、紙等があげられ、なかでもPETが好適に使用される。なお、剥離シートの厚さは、通常10〜75μmである。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、粘着性熱伝導シートの物性評価は次の方法によった。
【0030】
(1)熱伝導率(単位:W/m・K)
ASTM D5470に準拠して測定した。
(2)粘着力(単位:N/25mm)
JIS Z0237に準拠して測定した。
(3)引張強度(単位:MPa)
JIS K6251に準拠して測定した。
(4)難燃性
UL−94V 燃焼試験に準拠して測定した。
【0031】
実施例1〜3
塗工液の調整
バインダ樹脂のプレポリマー成分として液状の水酸基含有アクリルポリマー、アルホンUH−2032(東亜合成化学工業株式会社製、Mw:2000、OH値:110)および同UH−2000(Mw:11000、OH値:20)、また、無官能性アクリルポリマーとして、アルホンUP−1021(東亜合成化学工業株式会社製、(Mw:1600、OH基を含まず))を使用した。ここに、OH値は、官能基としての水酸基の含有率(単位: mgKOH/g)を示す。これらのアクリルポリマーに、更にイソシアネートおよび反応触媒並びに熱伝導性充填剤、難燃剤を配合し、第一層用の塗工液及び第二層用の塗工液を調整した。各実施例における各成分の配合割合(固形物換算)を表1に示すとおり、配合割合は、いずれも液状水酸基含有アクリルポリマーの合計量を100重量部として、無官能性アクリルポリマーその他の各成分の量を設定した。
なお、熱伝導性充填剤としては、粒子径40μmと1μmの水酸化アルミニウムを、重量比8:2の割合で混合したものを使用した。また、難燃剤としては、ポリリン酸アンモニウムを使用した。
【0032】
まず、上記バインダ樹脂、熱伝導充填剤、及び難燃剤の所定量を混合容器に入れて遊星式撹拌装置で撹拌して混合した。次いで樹脂硬化剤としてイソシアネート(日本ポリウレタン株式会社製、商品名;コロネートHX)と反応触媒(ジブチルスズジラウリレート)を加え、さらに有機溶剤として前記配合物全体対し4重量%量のメチルエチルケトンを加えて減圧し脱泡しながら均一になるまで撹拌し、塗工液を調整した。
【0033】
(2)塗工処理
次に、図1を参照しながら塗工方法について説明する。
塗工装置(株式会社ヒラノテクシード製、コンマダイレクトコーター;型番TM-MC)を使用して、粘着性熱伝導シートを作製した。本実施例の熱伝導シートの支持材となる剥離フィルムとして、第一層用、第二層用ともに送り出しロールに巻回された厚み50μmのPETフィルムを用いた。
剥離フィルム(PETフィルム)を送り出しロール1から塗工機のバックロール2に送り、その上に第一層用の塗工液を乗せ、PETフィルム上とコンマヘッド3との間隙を400μmに調整し均一に塗工した。そして乾燥炉4に送り、温度60℃、通過時間10分間の条件下で揮発分を蒸発させ、第一層用の樹脂乾燥被膜を有する塗工シートとして、案内ロール6,7を経ていったん巻き取ロール9に巻き取った。この塗工シートは、さらに巻き取ったロールごと乾燥機内(図示せず。)に収容し、温度80℃、60分間の条件下で剥離フィルム上の樹脂被膜を完全に硬化させて第一層用の被膜を有する塗工シートを得た。このときの塗工シート上に形成された被膜の膜厚は250μmであった。
次に、巻取ロールに巻き取られた第一層用の被膜を有する塗工シートを、再び前記送り出しロール1の位置に戻し、第一層用の被膜上に第二層用の塗工液を乗せ、PETフィルム上とコンマヘッド3との間隙を650μmに調整し、第一層用の塗工処理のときと同様、均一に塗工した。そして乾燥炉4に送り、温度70℃、通過時間10分間の条件下で揮発分を蒸発させた。この塗工シートに積層した第二層用の被膜上に、前記と同じ剥離フィルムを送り出しロール10からラミネータロール8に供給し、剥離フィルムを第二層用の被膜上に貼合しつつ巻き取りロール9に巻き取った。この塗工シートは、さらに巻き取ったロールごと乾燥機内(図示せず。)に収容し、温度80℃、60分間の条件下で塗工フィルム上の樹脂被膜を完全に硬化させ、本実施例の粘着性熱伝導シートを得た。この熱伝導シートの総膜厚は500μm(剥型フイルム含で600μm)であった。なお、本実施例の検証試験に用いる試験片は、各試験に必要な所定長さに裁断した粘着性熱伝導シートを用いた。配合割合、試験結果を併せて表1、表2にそれぞれ示した。
得られた熱伝導シートは、両面で粘着力を有し、熱伝導率、引張強度も本発明の目的を満足するものであった。また、難燃性もV0相当であった。
【0034】
実施例4
実施例1〜3において、樹脂硬化剤としてイソシアネートのグレードをコロネートL(日本ポリウレタン株式会社製、商品名)に変えた以外は、同様に塗工液の調整を行い、また粘着性熱伝導シートを作製した。この熱伝導シートの総膜厚は500μmであった。配合割合、試験結果を併せて表1、表2に示した。また、信頼性試験として、120℃で保持後の粘着力、熱伝導率、引張強度、伸び率、硬度を評価したが、100時間経過後もそれぞれの物性にほとんど変化はなく、2000時間経過後も本発明の要件(表面層の粘着力が0.10N/25mm未満、裏面層の粘着力が0.10N/25mm以上であり、かつ該熱伝導シートの引張強度が0.5MPa以上)を満たすものであった。
【0035】
比較例1、2
(1)塗工液の調整
アクリル系ポリウレタン樹脂として、表1に示すとおり2種類の液状水酸基含有アクリルポリマーUH−2032とUH−2000の配合比率を1:3の割合で混合し、前記各実施例における第一層用と第二層用の各樹脂比率を、ほぼ平均化した割合とした。そして、アクリル系ポリウレタン樹脂の合計重量を100重量部として、無官能性アクリルポリマー及び各化合物の配合割合を表1に示すように設定した。
なお可塑剤については、無官能性アクリルポリマーは、比較例1の場合に添加せず、比較例2の場合に前記各実施例の第一層用と第二層用の平均量を添加した。
上記実施例1から3の場合と同様に塗工液の調整をおこなった。
【0036】
(2)塗工処理
各比較例における熱伝導シートの作製は、前記各実施例1から3の場合と同じ方法で行った。ただし、各比較例では、2層塗工ではなく1層塗工とし、乾燥後の膜厚を実施例の総膜厚と同じ50μmとなるよう調整した。
得られた比較例の熱伝導シートの膜厚は各々500μmであった。比較例の配合割合、試験結果を併せて表1、表2に示した。
【0037】
比較例1、2の熱伝導シートは、単一層からなり、比較例1のシートは粘着力0.1N/25mm以上という裏面層の要件を満たさなかった。一方、比較例2のシートは粘着力0.1N/25mm未満という表面層の要件を満たさなかった。また、引張強度も0.5MPa未満であった。
【0038】
比較例3
実施例4において、無官能性アクリルポリマー(UP−1021)に代え、可塑剤であるトリクレジルホスフェート(TCP)(第八化学工業株式会社製)を使用した以外は、同様に塗工液の調整を行い、また粘着性熱伝導シートを作製した。この熱伝導シートの総膜厚は500μmであった。配合割合、試験結果を併せて表1、表2に示した。また、信頼性試験として、120℃で保持後の熱伝導率、引張強度、伸び(%)、硬度を評価した。
【0039】
無官能性アクリルポリマーの代わりにTCPを使用した比較例3の粘着性熱伝導シートは、初期の粘着力、引張強度は、本発明の粘着性熱伝導シートの要件を満足する(表2)。しかしながら、120℃保持100時間後の熱伝導シートは、各物性が劣化し、特に硬度が増加してシートの柔軟性が低下し、製品として使用できないものであった。120℃保持100時間後の比較例3の熱伝導シートの表面を観察すると、明らかにTCPのブリードが確認された。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明により、優れた熱伝導性及び難燃性を有し、被配設体との密着性に優れた熱伝導シートが提供される。本発明のシートは、非シリコーン系の樹脂からなり電子機器の熱伝導シートとして好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の粘着性熱伝導シートの製造に用いる装置の概念図である。
【符号の説明】
【0044】
1 送り出しロール
2 バックロール
3 コンマヘッド
4 乾燥炉
5 案内ロール
6 案内ロール
7 案内ロール
8 ラミネータロール
9 巻き取りロール
10 送り出しロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系ポリウレタン樹脂を主体とするバインダ樹脂に、無官能性アクリルポリマー、熱伝導性充填剤および難燃剤を含有してなる表面層および裏面層を有する多層熱伝導シートであって、表面層の粘着力が0.10N/25mm未満、裏面層の粘着力が0.10N/25mm以上であり、かつ該熱伝導シートの引張強度が0.5MPa以上であることを特徴とする粘着性熱伝導シート。
【請求項2】
アクリル系ポリウレタン樹脂が、1分子中に少なくとも2個の水酸基を有するアクリルポリマーと1分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する多官能性イソシアネートの反応により得られたものである請求項1に記載の粘着性熱伝導シート。
【請求項3】
前記熱伝導シートが、表面層および裏面層の2層からなることを特徴とする請求項1または2に記載の粘着性熱伝導シート。
【請求項4】
前記熱伝導シートの表面層の引張強度が0.7MPa以上であり、裏面層の引張強度が0.1MPa以上である請求項1から3のいずれかに記載の粘着性熱伝導シート。
【請求項5】
アクリル系ポリウレタン樹脂と無官能性アクリルポリマーの割合が、アクリル系樹脂やアクリル系ポリウレタン樹脂中の水酸基を有するアクリルポリマー100重量部に対し、無官能性アクリルポリマーが表面層で10〜60重量部、裏面層で50〜120重量部である請求項1から4のいずれかに記載の粘着性熱伝導シート。
【請求項6】
前記熱伝導シートの熱伝導率が、0.5W/mK以上である請求項1から5のいずれかに記載の粘着性熱伝導シート。
【請求項7】
難燃剤が、リン系化合物、金属水酸化物、膨張黒鉛および窒素化合物から選ばれた少なくとも1種のノンハロゲン難燃剤である請求項1から6のいずれかに記載の粘着性熱伝導シート。
【請求項8】
前記熱伝導シートの片面または両面に剥離フィルムを有することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の粘着性熱伝導シート。

【図1】
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【公開番号】特開2010−93077(P2010−93077A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262082(P2008−262082)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(391020078)日本ジッパーチュービング株式会社 (13)
【Fターム(参考)】