説明

細胞分離装置およびコラゲナーゼ除去方法

【課題】生体由来細胞へ与える損傷を抑えながらコラゲナーゼを確実に除去し、健全な生体由来細胞の回収率を向上させる装置と方法の提供。
【解決手段】生体由来細胞Bを含有する生体組織AをコラゲナーゼDを含む酵素溶液で分解して得られた分解溶液を内部に収容する収容体5と、該収容体5内に固定されコラゲナーゼDを吸着する吸着体4とを備える細胞分離装置1。分解溶液を収容体5内に収容するだけでコラゲナーゼDが除去され、撹拌および遠心分離による洗浄処理を省くことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞分離装置およびコラゲナーゼ除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体組織から幹細胞や未分化細胞などの生体由来細胞を分離する装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。分離して得られた生体由来細胞は、例えば、生体内に注入され、再生医療に用いられている。昨今、このような幹細胞が豊富に含まれる生体組織として脂肪組織が注目され、脂肪組織から脂肪由来細胞を抽出する技術の開発が進められている。
【0003】
脂肪組織内では、繊維状のコラーゲンが網のように結合して脂肪由来細胞を覆うことにより構造が保持されている。したがって、脂肪組織から脂肪由来細胞を分離するためにはコラーゲンの網を分解する必要があり、コラーゲンの分解酵素であるコラゲナーゼの溶液中で脂肪組織の分解処理を行う。その後、洗浄液の注入、撹拌、遠心分離および上清の排出を繰り返して段階的にコラゲナーゼを除去する。この際に、最終生成物内に残留したコラゲナーゼが脂肪由来細胞やこれを用いた治療の効果に影響を及ぼす可能性があるため、コラゲナーゼの残留量が一定の水準以下になるまで脂肪由来細胞を徹底的に洗浄する必要がある。
【0004】
一方、コラーゲンは一般的に、3本のα鎖と呼ばれるペプチド鎖が螺旋状に巻きつき、各α鎖間で水素結合を形成した3重螺旋構造を有している。α鎖は、「‐(グリシン)‐(アミノ酸X)‐(アミノ酸Y)‐」のアミノ酸配列が繰り返す一次構造を有している。また、コラーゲンは動物の皮の真皮を構成しており、動物から採取した皮を革製品に加工するときは、皮をなめしてコラーゲン同士を化学的に架橋し、構造を強固にしてから使用される(例えば、特許文献2参照。)。また、皮をなめすため、蛋白質と強く結合する性質を有するタンニンが古くから使用されている。
【0005】
【特許文献1】特表2007−524396号公報
【特許文献2】特開2005−239706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、洗浄液内での懸濁と遠心分離とを繰り返すことにより脂肪由来細胞が損傷を受け、増殖能が低下したり死滅したりする。その結果、最終的に得られる健全な脂肪由来細胞の数が減少して脂肪由来細胞の回収効率が向上せず、一度の処理で十分な数の脂肪由来細胞を得るのが難しいという問題がある。また、体内から採取できる脂肪組織の量は限られているため、可能な限り回収率を向上させたいという要求がある。
【0007】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、生体由来細胞へ与える損傷を抑えながらコラゲナーゼを確実に除去し、健全な生体由来細胞の回収率を向上させることができる細胞分離装置およびコラゲナーゼ除去方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、生体由来細胞を含有する生体組織をコラゲナーゼを含む酵素溶液で分解して得られた分解溶液を内部に収容する収容体と、該収容体内に固定され前記コラゲナーゼを吸着する吸着体とを備える細胞分離装置を提供する。
【0009】
本発明によれば、分解溶液が収容体内に収容されると、分解溶液内に含まれるコラゲナーゼが吸着体によって吸着される。すなわち、分解溶液を収容体内に収容させるだけで分解溶液内からコラゲナーゼが除去されるので、収容体内に収容された分解溶液を回収することにより、コラゲナーゼを除去するために従来行われている懸濁および遠心分離による洗浄処理を省くことが可能となる。
【0010】
これにより、生体由来細胞への損傷を低減しながらコラゲナーゼを除去し、健全な生体由来細胞の回収率を向上させることができる。
また、収容体として、従来の細胞分離装置で用いられている容器や送液管路などを用いることにより、新たにコラゲナーゼ除去用の容器等の追加が不要となる。
【0011】
上記発明にいては、前記吸着体が、前記コラゲナーゼの基質であるペプチドまたはタンパク質が互いに架橋されて形成されている改変ペプチドまたは改変タンパク質からなることとしてもよい。
このようにすることで、コラゲナーゼは、改変ペプチドまたは改変タンパク質を基質として認識して結合し、これらと複合体を形成する。しかし、改変ペプチドまたは改変タンパク質は、互いに架橋されているためコラゲナーゼによって分解されず、その結果、コラゲナーゼは改変ペプチドまたは改変タンパク質と解離せずに複合体を形成したまま吸着体に捕捉される。
【0012】
このように、コラゲナーゼの基質を用いることにより、吸着体を分解溶液内のコラゲナーゼのみに特異的に作用させ、生体由来細胞への影響を抑えながらコラゲナーゼのみを除去することが可能になる。
【0013】
上記発明においては、前記ペプチドが、3重螺旋構造のコラーゲンを構成しているα鎖であることとしてもよい。
このようにすることで、コラゲナーゼがコラーゲンに結合するが、コラーゲンは分子内でα鎖同士が架橋されているため分解されず、コラゲナーゼはコラーゲンによって捕捉される。これにより、分解溶液内のコラゲナーゼのみを特異的に除去することができる。また、コラーゲンは、細胞の増殖能やその他の機能を維持させるため従来細胞培養等に用いられており、生体への安全性も確認されている。したがって、処理過程による生体由来細胞への損傷や機能の低下などをさらに抑える効果が期待でき、また、生体由来細胞の安全性も確保できる。
【0014】
また、上記発明においては、前記タンパク質または前記ペプチドが、植物から抽出された植物タンニンによって架橋されていることとしてもよい。
植物タンニンは、植物の組織中に存在しているポリフェノールの一種であり、生体への安全性が高い。また、植物タンニンは従来皮のなめし剤として用いられ、ペプチドおよびタンパク質を互いに架橋して強固な構造を形成することが知られている。したがって、天然の植物タンニンを用いることにより、生体由来細胞のより高い安全性を確保しながら、コラゲナーゼによって分解されない改変ペプチドまたは改変タンパク質を形成させることができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記改変ペプチドまたは前記改変タンパク質が、前記収容体の内壁を、固相を形成して覆っていることとしてもよい。
このようにすることで、改変ペプチドまたは改変タンパク質を簡易に収容体に設けることができ、また、分解溶液と改変ペプチドまたは改変タンパク質との接触面積を広く確保され、効率良くコラゲナーゼを除去することができる。
【0016】
また、上記発明においては、前記生体組織が、生体から採取された脂肪組織であり、前記生体由来細胞が、前記脂肪組織に内包されている脂肪由来細胞であることとしてもよい。
このようにすることで、コラゲナーゼにより脂肪組織から分離された脂肪由来細胞の洗浄工程を省くことが可能となり、健全な脂肪由来細胞の回収率を向上させることができる。
【0017】
また、本発明は、生体由来細胞を含有する生体組織をコラゲナーゼにより分解して得られた分解溶液を、前記コラゲナーゼを吸着する吸着分子に接触させる接触ステップを備えるコラゲナーゼ除去方法を提供する。
【0018】
本発明によれば、接触ステップを行うことにより、分解溶液内のコラゲナーゼが吸着分子に吸着され、コラゲナーゼが除去された分解溶液を得ることができる。これにより、懸濁および遠心分離による洗浄が不要になり、あるいは、その回数を減らすことが可能となり、生体由来細胞が受ける損傷を低減して、健全な生体由来細胞の回収率を向上させることができる。
【0019】
上記発明においては、前記吸着分子が、前記コラゲナーゼの基質であるペプチドまたはタンパク質が互いに架橋されて形成されている改変ペプチドまたは改変タンパク質であることとしてもよい。
また、上記発明においては、前記ペプチドが、3重螺旋構造のコラーゲンを構成しているα鎖であることとしてもよい。
【0020】
また、上記発明においては、前記ペプチドまたは前記タンパク質が、植物から抽出された植物タンニンにより架橋されていることとしもよい。
また、上記発明においては、前記生体組織が、生体から採取された脂肪組織であり、前記生体由来細胞が、前記脂肪組織に内包されている脂肪由来細胞であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、生体由来細胞へ与える損傷を抑えながらコラゲナーゼを確実に除去し、健全な生体由来細胞の回収率を向上させることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の一実施形態に係る細胞分離装置1について、図1〜図2を参照して以下に説明する。なお、本実施形態においては、脂肪組織Aから脂肪由来細胞Bを分離する工程を例に挙げて説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置1は、図1に示されるように、脂肪組織Aを分解処理する分解処理部2と、細胞懸濁懸を遠心分離して濃縮する濃縮部3と、分解処理部2および濃縮部3に接続され、内壁が改変コラーゲン(改変ペプチド、改変タンパク質)Cの層(吸着体)4で覆われたチューブ(収容体)5と、該チューブ5内の液体に送りをかけるチューブポンプ6とを備えている。
【0023】
分解処理部2は、生体から吸引などの方法により採取された脂肪組織Aと、該脂肪組織Aを分解するコラゲナーゼDが含まれた酵素溶液とを収容する処理容器2aを備えている。処理容器2a内で脂肪組織Aと酵素溶液が撹拌されると、脂肪組織Aに含まれるコラーゲンが分解されて脂肪組織Aに内包されていた脂肪由来細胞Bが開放され、コラゲナーゼD、分解組織および脂肪由来細胞Bを含む分解溶液となる。分解溶液は静置されて、脂肪組織Aが分解されて生じた脂肪分を含む上層と、脂肪由来細胞Bを含む下層とに層分離された後、下層の分解溶液のみ、つまり脂肪由来細胞Bの細胞懸濁液が処理容器2aの底面に設けられた排出口2bからチューブ5内へ排出される。
【0024】
濃縮部3は、遠心分離機3aと、該遠心分離機3aに装着された遠心分離容器3bとを備えている。処理容器2a内から送られてきた細胞懸濁液は、遠心分離容器3b内に収容されて遠心分離機3aで遠心分離され、脂肪由来細胞Bの細胞塊と上清とに分離される。
【0025】
チューブ5の内壁5aは、合成により得られた合成α鎖(ペプチド)を植物タンニンにより架橋した改変コラーゲンCの層4によって覆われている。
合成α鎖は、例えば、「‐(グリシン)‐(プロリン)‐(リジン)‐」の3つのアミノ酸配列を20〜50回繰り返して合成する。そして、合成α鎖の溶液中に植物タンニンを添加して、合成α鎖同士が植物タンニンで架橋された改変コラーゲンCを合成する。
【0026】
改変コラーゲンCは、物理的吸着、または、架橋剤によりチューブ5の内壁5aに固相化される。物理的吸着の場合、改変コラーゲンCの溶液をチューブ5内に満たして静置した後、洗浄液によりチューブ5内を洗浄して改変コラーゲンCを固相化する。架橋剤を用いる場合、例えば、シリコーン製やプラスチック製のチューブ5の内壁5aをアミノシラン処理してアミノ基を生成し、チューブ5内に植物タンニンを添加した改変コラーゲンC溶液を満たす。改変コラーゲンCは、植物タンニンを介して内壁5a表面のアミノ基と架橋され、また、改変コラーゲンC同士がタンニンにより架橋されてチューブ内壁5aに固相化される。
【0027】
細胞懸濁液がチューブ5内を通過すると、図2に示されるように、コラゲナーゼDが改変コラーゲンCを基質として認識して結合し、改変コラーゲンCとの複合体を形成する。改変コラーゲンCは各合成α鎖が架橋されていてコラゲナーゼDによって分解されないため、コラゲナーゼDは改変コラーゲンCから解離せずに複合体の状態でチューブ5の内壁5aの改変コラーゲンCの層4において捕捉されるようになっている。
【0028】
このように構成された細胞分離装置1を用いて脂肪組織Aから脂肪由来細胞B分離するには、図3に示されるように、処理容器2a内で脂肪組織Aを攪拌して分解処理する(ステップS1)。続いて、チューブポンプ6が作動すると処理容器2a内の細胞懸濁液がチューブ5内に排出され、チューブ5内の改変コラーゲンCの層4に接触させられながら遠心分離容器3b内へ送液される(接触ステップ、ステップS2)。そして、コラゲナーゼDが除去された細胞懸濁液を遠心分離すると(ステップS3)、脂肪組織Aから分離されたコラゲナーゼDを含まない脂肪由来細胞Bの細胞塊が得られる。
なお、本発明に係るコラゲナーゼ除去方法は、上記のステップS2である。
【0029】
このように、本実施形態によれば、細胞分離装置1の細胞懸濁液と接触する位置に固相化された改変コラーゲンCを設けておくだけで、細胞懸濁液内のコラゲナーゼDが除去され、遠心分離容器3b内には、コラゲナーゼDを含まない細胞懸濁液が送液される。すなわち、撹拌と遠心分離による洗浄処理を省く、または、その回数を大幅に減らすことができる。
【0030】
これにより、脂肪由来細胞Bへ与える損傷を大幅に低減して健全な脂肪由来細胞Bの回収率を向上させ、容易に所望の量の脂肪由来細胞Bを得ることができるという利点がある。また、チューブ5内に、コラゲナーゼDを吸着させる吸着体として改変コラーゲンCの層4を設けることにより、従来の細胞分離装置に新たな構成の追加が不要となるという利点がある。
【0031】
さらに、チューブ5をコイル状に巻いて流路を延長してコラゲナーゼDと改変コラーゲンCとの接触面積を増大し、図示しないヒータなどの加温手段によりチューブ5内を約37度に加温することにより、コラゲナーゼDの改変コラーゲンCとの結合を促進してより確実にコラゲナーゼDを除去することができる。
また、従来ディスポーザブルで使用されているチューブ5内に吸着体を設けることにより、チューブ5のみを改変コラーゲンCの保管に適した環境で保存することが可能である。また、コラゲナーゼDの吸着効率が低下しても容易に新しいものへ交換でき、コラゲナーゼDの除去効率のばらつき等を防ぐことができる。
【0032】
また、吸着体として、従来細胞培養等で用いられている固相化されたコラーゲンを採用し、さらに、改変コラーゲンCの合成と固相化において、生体親和性の高い植物由来の植物タンニンを架橋剤として用いることにより、脂肪由来細胞Bのより高い安全を確保することができる。
【0033】
また、改変コラーゲンCは、コラゲナーゼDが基質として認識する認識部位の構造が保持されていればよく、その生体機能の維持は不要である。また、改変コラーゲンCを互いに架橋することにより構造が強固になり、温度変化や水流などの外的な影響を受けにくくなる。これにより、コラゲナーゼDを吸着させる分子として抗体などの生体活性の維持が必要なものを用いる場合と比較して、使用や管理が大幅に容易なるという利点がある。また、構造が明らかで様々な用途で広く用いられているコラーゲンを用いることにより、簡易にかつ安価に吸着体を設けることができる。
【0034】
なお、上記実施形態においては、吸着体として固相化された改変コラーゲンCの層4をチューブ5の内壁5aに設けることとしたが、吸着体はコラゲナーゼDを含む分解溶液または細胞懸濁液が接触する位置に固定されていればよい。例えば、処理容器2aまたは遠心分離容器3bの内壁が改変コラーゲンCでコートされていてもよい。
【0035】
また、吸着体として、改変コラーゲンCが表面に結合された担体や、シート状に形成された改変コラーゲンC等を用い、これらが充填されたカラムや内部に配置された流路などをチューブ5の途中位置に配置することとしてもよい。さらに、改変コラーゲンCは、各α鎖が架橋されていればよく、例えば、なめし処理を施した革を用いても同様の効果を得ることができる。
【0036】
また、上記実施形態においては、コラゲナーゼDを捕捉させるために改変コラーゲンCを用いることとしたが、コラゲナーゼDの基質として一般に知られているゼラチンやフィブロネクチンを架橋した改変ゼラチンや改変フィブロネクチンなどでも、改変コラーゲンCと同様の効果が期待できる。
【0037】
また、上記のような改変タンパク質や改変ペプチドの他に、コラゲナーゼDに対する抗体を用いてもよい。また、生体分子を特異的に標識するために従来用いられている方法を用いてもよく、例えば、プロテインAやビオチンなどが固相化された吸着体と、抗体と結合したコラゲナーゼまたはアビジンで標識されたコラゲナーゼとを使用しても、コラゲナーゼDを特異的かつ高効率で吸着して除去することができる。
【0038】
また、上記実施形態においては、植物タンニンによって合成α鎖同士を架橋することとしたが、これに代えて、化学架橋剤で架橋することとしてもよい。
また、上記実施形態においては、植物タンニンによってチューブ内壁に改変コラーゲンを固相化することとしたが、これに代えて、化学架橋剤で固相化してもよい。
例えば、本実施形態の場合、リジン残基同士を架橋するために一般的に用いられる化学架橋剤、具体的には、DSS(Disuccinimidyl suberate)リンカー等が用いられる。
【0039】
また、上記実施形態においては、合成α鎖を構成する繰り返しアミノ酸配列として、「‐(グリシン)‐(プロリン)‐(リジン)」を用いたが、コラゲナーゼが基質として認識可能なアミノ酸配列であればよい。例えば、合成α鎖が、一般的にコラーゲンを構成するアミノ酸であるヒドロキシプロリンやアラニン等を含んでいてもよい。
【0040】
また、上記実施形態において、脂肪由来細胞Bには、血管内皮細胞、繊維芽細胞、造血幹細胞、血球系の細胞、脂肪由来の幹細胞などが含まれる。ここで、幹細胞は、細胞治療などの目的で脂肪組織から採取される細胞であり、多分化能、自己再生能を有する細胞を指す。また、脂肪組織Aとして、ヒト由来の皮下脂肪組織、内臓脂肪組織、白色脂肪組織、褐色脂肪組織等でよく、ヒト等の脂肪部位をハサミ等の鋭利な器具で採取されたものなどであってもよい。
【0041】
また、上記実施形態においては、脂肪組織から脂肪由来細胞を分離する処理過程を一例に挙げて説明したが、脂肪組織以外の他の生体組織、例えば、上皮組織や軟骨組織、臓器から採取した組織などでもよく、生体組織の分解にコラゲナーゼが用いられる場合であれば適用可能である。
【0042】
本発明のコラゲナーゼ除去方法の実施例について、以下に説明する。
[実施例1]
「‐(グリシン)‐(プロリン)‐(リジン)‐」の繰り返しアミノ酸配列が20〜50回繰り返す人工α鎖を化学合成した。該人工α鎖の溶液中に植物タンニンを添加して人工α鎖同士を架橋し、本実施例に係る改変コラーゲンを合成した。
【0043】
アミノシラン処理し内壁表面にアミノ基を有するプラスチック容器を作製した。該プラスチック容器内に改変コラーゲン溶液を収容して植物タンニンを添加し、改変コラーゲンの未反応のリジン残基とアミノ基とを植物タンニンにより架橋して、プラスチック容器の内壁に固相化された改変コラーゲンの層を形成した。
このようにして作製されたプラスチック容器、および、比較例として未処理のプラスチック容器の内部にそれぞれコラゲナーゼ溶液を貯留して30分間室温で静置した。
【0044】
静置後、各容器内の反応溶液を限外濾過フィルタ(ミリポア社製、50kDa)に移して遠心分離により濃縮し、各反応溶液内に含まれる成分をSDS PAGEにより調べた。比較例の反応溶液からはコラゲナーゼのバンドが検出されたのに対し、本実施例の反応溶液からはコラゲナーゼのバンドが検出されなかった。
以上の結果から、溶液中のコラゲナーゼが改変コラーゲンによって吸着され、溶液中から除去されることが確認された。
【0045】
[実施例2]
約3cm×3cmの大きさのなめし処理された革の表面を紙やすりでこすって毛羽立たせ、革の表面積を増大させた。このように処理された革を、容器内に収容された10mlの0.1μg/mlコラゲナーゼ/PBS溶液に浸漬させて10分間静置した。本実施例の比較例として、革を入れない0.1μg/mlコラゲナーゼ/PBS溶液を用意した。
【0046】
静置後、本実施例と比較例の各容器内の溶液に含まれる成分をSDS PAGEで調べた。比較例の溶液からはコラゲナーゼのバンドが検出されたのに対し、革と反応させた溶液からはコラゲナーゼのバンドが検出されなかった。
以上の結果から、溶液中のコラゲナーゼが革によって吸着され、溶液内から除去されることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞分離装置の全体構成を示す図である。
【図2】図1の細胞分離装置のチューブ内において、改変コラーゲンの層によってコラゲナーゼが除去される作用を説明する図である。
【図3】図1の細胞分離装置を用いた細胞分離方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0048】
1 細胞分離装置
2 分解処理部
2a 処理容器
2b 排出口
3 濃縮部
3a 遠心分離機
3b 遠心分離容器
4 改変コラーゲンの層(吸着体)
5 チューブ(収容体)
6 チューブポンプ
A 脂肪組織(生体組織)
B 脂肪由来細胞(生体由来細胞)
C 改変コラーゲン(改変ペプチド、改変タンパク質)
D コラゲナーゼ
S2 接触ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体由来細胞を含有する生体組織をコラゲナーゼを含む酵素溶液で分解して得られた分解溶液を内部に収容する収容体と、
該収容体内に固定され前記コラゲナーゼを吸着する吸着体とを備える細胞分離装置。
【請求項2】
前記吸着体が、前記コラゲナーゼの基質であるペプチドまたはタンパク質が互いに架橋されて形成されている改変ペプチドまたは改変タンパク質からなる請求項1に記載の細胞分離装置。
【請求項3】
前記ペプチドが、3重螺旋構造のコラーゲンを構成しているα鎖である請求項2に記載の細胞分離装置。
【請求項4】
前記タンパク質または前記ペプチドが、植物から抽出された植物タンニンによって架橋されている請求項2または請求項3に記載の細胞分離装置。
【請求項5】
前記改変ペプチドまたは前記改変タンパク質が、前記収容体の内壁を、固相を形成して覆っている請求項2から請求項4のいずれかに記載の細胞分離装置。
【請求項6】
前記生体組織が、生体から採取された脂肪組織であり、
前記生体由来細胞が、前記脂肪組織に内包されている脂肪由来細胞である請求項1から請求項5のいずれかに記載の細胞分離装置。
【請求項7】
生体由来細胞を含有する生体組織をコラゲナーゼにより分解して得られた分解溶液を、前記コラゲナーゼを吸着する吸着分子に接触させる接触ステップを備えるコラゲナーゼ除去方法。
【請求項8】
前記吸着分子が、前記コラゲナーゼの基質であるペプチドまたはタンパク質が互いに架橋されて形成されている改変ペプチドまたは改変タンパク質である請求項7に記載のコラゲナーゼ除去方法。
【請求項9】
前記ペプチドが、3重螺旋構造のコラーゲンを構成しているα鎖である請求項8に記載のコラゲナーゼ除去方法。
【請求項10】
前記ペプチドまたは前記タンパク質が、植物から抽出された植物タンニンにより架橋されている請求項8または請求項9に記載のコラゲナーゼ除去方法。
【請求項11】
前記生体組織が、生体から採取された脂肪組織であり、
前記生体由来細胞が、前記脂肪組織に内包されている脂肪由来細胞である請求項7から請求項10のいずれかに記載のコラゲナーゼ除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−124814(P2010−124814A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306547(P2008−306547)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】