説明

細胞培養装置及び細胞培養方法

【課題】培養槽内の細胞に対して酸素を供給する時の気泡によるダメージを低減できる培養装置及び培養方法を提供すること。
【解決手段】酸化しにくい培地とこの培地よりも酸化しやすい培地とを夫々第1の調製槽10及び第2の調製槽20に貯留し、第1の調製槽10内の培地に酸素ガスを溶解させ、これらの第1の調製槽10及び第2の調製槽20から培地を各々培養槽1内に供給して、培養槽1内において細胞の培養を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養槽内において細胞の培養を行う培養装置及び培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ医薬品例えばワクチンや抗体を製造するにあたって、例えば動物細胞を培養して、増殖した細胞やこの細胞から生成した生成物からタンパク質などの有効成分を抽出・精製し、上記のバイオ医薬品などの原料として用いる方法が知られている。この培養は、例えばバッチ式あるいは連続式の培養槽に貯留した細胞に対して、細胞の栄養分(糖やビタミン、無機塩などの培地成分)を含む培地及び酸素ガスを供給して培養液中において行われる。
【0003】
培地(培養液)に上記の酸素ガスを供給する方法としては、例えば先端側に多数のガス吐出口が形成された管状のスパージャーを培地中に浸漬し、このスパージャーを介して培地中に酸素ガスを含む気泡をバブリングする方法が知られている。しかしながらこの方法では、細胞を包む細胞膜の強度が小さく、気泡の破泡などによって生じる物理的な衝撃により、細胞がダメージを受けてしまう場合がある。特に、動物細胞は、このような物理的な衝撃に弱いという特性がある。
【0004】
そこで、培地中に気泡を発生させないで酸素ガスを溶解させる方法として、例えば培地中に酸素ガスを透過する透過膜例えばシリコンチューブやシリコン膜などを浸漬しておき、この酸素透過膜を介して酸素ガスを培地に溶解させる方法が知られている。しかしこの方法では、酸素ガスの溶解量を多くするためには、できるだけ膜表面積を大きくする必要があり、結果として、多くの酸素透過膜を培地に浸漬することが必要となる。一方、培地(培養槽)の体積は有限であるため浸漬できる量が限られており、溶存酸素濃度を十分高い値に維持するのは極めて困難となる。また、培地に酸素透過膜を浸漬すると、培養槽の洗浄性や無菌環境の維持が困難になるおそれがあり、酸素透過膜を介してコンタミネーションが発生するおそれもある。また、酸素透過膜の取り扱いも煩雑になってしまう欠点がある。
【0005】
以上のことから、大量の通気による酸素ガスの溶解方法を採用した場合、気泡の破泡によって生じる物理的な衝撃により細胞がダメージを受けてしまうこと、酸素透過膜を介して酸素ガスを溶解する方法では培地への十分な量の酸素ガスの供給が難しいことから、実験レベルでは培養できることが知られている動物細胞であっても、工業的に培養する場合、上記の理由によって収率が低くなり、現実的に事業として成立しない。
【0006】
特許文献1には、ウイルスを細胞と共に培養する方法において、培養槽の外部で酸素透過膜を用いて培地に酸素ガスを供給する技術が記載されているが、上記の課題を解決することはできない。また、特許文献2には、スクリーン3aを介して培養槽1と液中通気槽2とを区画して、この液中通気槽2において培地に酸素ガスを溶解させる技術が記載されているが、酸素ガスによる培地への影響については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−187868
【特許文献2】特開平7−203945
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、培養槽内の細胞に対して酸素を供給する時の気泡によるダメージを低減できる培養装置及び培養方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の細胞培養装置は、
培養槽内において細胞の培養を行う培養装置において、
細胞を培養するための培養槽と、
培地を貯留した第1の調製槽と、
前記第1の調製槽中の培地よりも酸化されやすい成分を含む培地を貯留した第2の調製槽と、
前記第1の調製槽内に酸素ガスを供給する手段と、
前記第1の調製槽および前記第2の調製槽から各々培地を前記培養槽に供給する手段とを備えたことを特徴とする。
前記第1の調製槽中の培地および前記第2の調製槽中の培地の少なくとも一方に対して不活性ガスを供給する手段を備えていても良い。
【0010】
本発明の細胞培養方法は、
培養槽内において細胞の培養を行う培養方法において、
酸素ガスが溶解している培地を貯留した前記第1の調製槽及び、前記第1の調製槽中の培地よりも酸化されやすい成分を含む培地を貯留した前記第2の調製槽から、各々培地を前記培養槽に供給し、この培養槽において細胞の培養を行うことを特徴とする。
前記第1の調製槽中の培地および前記第2の調製槽中の培地の少なくとも一方は、不活性ガスが供給された培地であっても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、培養槽内において細胞の培養を行うにあたり、酸化しにくい成分を含有する培地と酸化しやすい成分を含有する培地とを別々の調製槽に貯留し、酸化しにくい成分を含有する培地を貯留した調製槽内に酸素ガスを溶解させ、当該培地を介して培養槽に酸素を供給して細胞の培養を行う。そのため、培養槽内において気泡の発生が起こらないか、あるいは抑えられるので、細胞へのダメージを低減しつつ細胞に対して要求酸素量を供給することができる。また、酸化しやすい成分を含有する培地については、酸素を供給する調製槽とは別個の調製槽から培養槽中に供給するので、当該培地については酸化を抑えることができる。また、培養槽には基本的には酸素透過膜などを設ける必要がないので、培養槽の洗浄を容易に行うことができ、かつ無菌環境を容易に維持できることにより、さらに培養槽の取り扱いが容易になり、コンタミネーションの発生確率を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の細胞培養装置の一例を示す概略図である。
【図2】上記の培養装置において細胞の培養に用いられる培地の成分の一例を示す構成図である。
【図3】上記の培養装置を用いて行われる細胞の培養の様子を示す模式図である。
【図4】上記の培養装置における培地の添加量の一例を示す模式図である。
【図5】上記の培養装置における酸素ガスの添加量の一例を示す模式図である。
【図6】上記の培養装置における作用を示す模式図である。
【図7】上記の培養装置における培地の添加量の一例を示す模式図である。
【図8】上記の培養装置における酸素ガスの添加量の一例を示す模式図である。
【図9】上記の培養装置の他の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の細胞、例えば動物細胞を培養するための細胞培養装置の実施の形態の一例について、図1を参照して説明する。この培養装置は、細胞を培養するための培養槽1と、この培養槽1に培地を各々供給するための第1の調製槽10及び第2の調製槽20と、を備えており、後述するように、第1の調製槽10から供給される培地及びこの培地と共に供給される酸素ガス、第2の調製槽20から供給される培地によって、培養槽1内において細胞が培養されるように構成されている。培養槽1において調製(混合)される培地の各培地成分の一例について図2に示すと、上記の第1の調製槽10にはこれらの各成分のうち、酸化しにくい成分が溶解した培地が貯留され、第2の調製槽20には第1の調製槽10中の成分よりも酸化しやすい成分が溶解した培地が貯留されている。具体的には、酸化しにくい成分とは、例えば無機塩・糖類などであり、酸化しやすい成分とは、例えばアミノ酸やビタミン類等である。そして、これら各培地成分は、培養槽1内において所定の濃度や添加量となるよう調整される。
【0014】
次に、培養装置の具体的な構成について説明する。第1の調製槽10内には、例えば多数のガス吐出口が形成されたスパージャーなどの気体吐出部11aが培地中に浸漬されており、この気体吐出部11aから伸びる気体供給路11を介して、酸素供給源12及び不活性ガス供給源13から、酸素ガスまたは空気と不活性ガス例えば窒素(N2)ガスとが夫々培地中に供給(バブリング)できるように構成されている。図1中14、15は夫々バルブ及び流量調整部であり、後述の制御部50によって、第1の調製槽10内に供給する酸素ガス及び窒素ガスの給断や流量調整が行われる。また、この図1中16は培地中の溶存酸素濃度を測定するためのDO(溶存酸素)計などの溶存酸素測定手段であり、17は第1の調製槽10内の培地を撹拌するための攪拌機である。
【0015】
この第1の調製槽10には、培地を培養に適した温度に加熱・冷却するためのジャケットなどの加熱・冷却手段18が設けられている。また、第1の調製槽10には、図示を省略するが、外部から培地を補充するための供給口と、当該第1の調製槽10内における培地の上方領域を例えば加圧状態に保ちながら酸素ガスや窒素ガスを外部に排出するための排出口が形成されており、また後述の分岐管63が接続されている。第1の調製槽10と培養槽1との間には、バルブ31及び流量調整部32が介設された供給路33が設けられており、この供給路33を介して培養槽1に酸素ガスの溶解した培地が供給されるように構成されている。この例では、上記のバルブ31、流量調整部32及び第1の供給路33により、培地を第1の調製槽10から培養槽1に供給する手段が構成されている。
【0016】
第2の調製槽20には、内部に貯留された培地の酸化を抑えるために、不活性ガス例えば窒素ガスを供給するための不活性ガス供給路21の一端側が接続されており、不活性ガス供給路21の他端側は、流量調整部22及びバルブ23を介して既述の不活性ガス供給源13に接続されている。また、第2の調製槽20と培養槽1との間には、バルブ24及び流量調整部25が介設された供給路26が配置されており、この供給路26を介して培養槽1に培地が供給される。この例では、上記のバルブ24、流量調整部25及び第2の供給路26により、培地を調製槽20から培養槽1に供給する手段が構成されている。尚、この第2の調製槽20には、上記の第1の調製槽10と同様に加熱・冷却手段を設けても良い。
【0017】
培養槽1の内部には、例えば粒径が数百μm程度のポリマー(樹脂)からなるマイクロキャリア40が多数収納されており、このマイクロキャリア40は、当該マイクロキャリア40の表面に細胞を付着させて培養を進行させるための担体(足場)をなすものである。また、この培養槽1には、既述の第1の調製槽10と同様に、内部に貯留された培地に含まれる溶存酸素の濃度を測定するためのDO計などの溶存酸素測定手段45と、培地を撹拌するための攪拌機46と、当該培養槽1内の培地を培養に適した温度に加熱・冷却するための加熱・冷却手段47と、が設けられている。なお、培養槽1内にマイクロキャリア40を収納し、このマイクロキャリア40に細胞を付着させて培養を行ったが、培養液に浮遊して増殖する細胞の場合には、このマイクロキャリア40を配置しなくとも良い。
【0018】
また、培養槽1の内部には、一端側が下側に向かって開口する培養液抜き出し管(沈降管)41が設けられており、この培養液抜き出し管41の他端側は、培養槽1の外部に伸び出して例えばチューブポンプなどの送液装置42、バルブ43及び流量調整部44を介して図示しない回収部に接続されている。培養槽1から培養液抜き出し管41を介して取り出された培養液は、この回収部においてバイオ医薬品などを製造するための有効成分例えば細胞の生成物などが抽出されたり、不要な成分が廃棄されたりすることになる。上記の送液装置42と流量調整部44との間における培養液抜き出し管41には、バルブ61及び流量調整部62が介設された分岐管63が接続されており、培養液抜き出し管41を介して回収される培養液の一部が既述の第1の調製槽10に戻されるように構成されている。
なお、培養液に浮遊して増殖する細胞の場合には、遠心分離や濾過分離により培養液と細胞などの分離を行うことができる。
【0019】
また、この培養装置には、例えば各バルブ14、23、24、31、43、61や流量調整部15、22、25、32、44、62に制御信号を出力して酸素ガス、窒素ガス、培地及び培養液の給断と流量調整とを行うための制御部50が設けられている。この制御部50は、培養槽1において細胞の培養が適切に行われるように、後述のように、例えば予め設定された供給シーケンスに応じて、あるいは細胞の代謝速度(培養槽1内における溶存酸素濃度の減少速度)に応じて、各調製槽10、20からの培地、酸素ガス及び培養液の給断や供給量を調整するようにプログラムが組まれている。このプログラムは、例えば予め細胞培養の実験を行うことにより上記の供給量が設定されている。
【0020】
次に、本発明の細胞の培養方法について図3〜図6を参照して説明する。先ず、培養槽1に細胞(マイクロキャリア40)を含む水溶液、各調製槽10、20に培地を貯留して、図1の加熱・冷却手段18、47により第1の調製槽10内及び培養槽1内を夫々細胞の培養に適した温度に保持すると共に、第2の調製槽20内に窒素ガスを供給してバブリングし、培地の溶存酸素を除去する。次いで、図3(a)に示すように、第1の調製槽10の培地を撹拌しながら当該第1の調製槽10に酸素ガスを供給し(バブリングし)、酸素ガスを溶解させる。そして、培地中の溶存酸素濃度が次第に高くなり、同図(b)に示すように、例えば第1の調製槽10には酸素濃度が飽和した飽和水溶液が得られる。次いで、同図(c)に示すように、第1の調製槽10から酸素濃度の飽和した培地を培養槽1に供給すると共に、第2の調製槽20から窒素ガスにより酸化が抑えられた培地を培養槽1に供給する。
【0021】
培養槽1内に、第1の調製槽10内の酸素ガスが溶解した培地と、第2の調製槽20内の培地が供給されると、細胞によりこれらの培地及び酸素ガスが速やかに消費されていく。そして、細胞が培地及び酸素ガスを消費していくにつれて、生成物や老廃物などが生成すると共に、細胞の個体数が増えていく。この時、培養槽1内において、これらの培地、生成物及び老廃物などを含む培養液の液量が所定の量よりも多くなると、送液装置42によって培養液抜き出し管41を介して培養液が外部に排出されていく。この送液装置42における培養液の送液(排出)速度は、培養槽1内の細胞(マイクロキャリア40)が培養液と共に外部に排出されないように、細胞の付着したマイクロキャリア40の終末沈降速度よりも遅い速度に設定されることになる。即ち、培養槽1内の培養液が培養液抜き出し管41から吸引されると、培養液と共にマイクロキャリア40も吸引されて培養槽1内において上昇しようとするが、培養液の排出速度がマイクロキャリア40の沈降速度よりも遅く設定されているので、マイクロキャリア40は培養槽1内の下方に留まり、培養液だけが培養槽1から排出されることになる。また、培養液中に残った未反応の酸素ガスの有効利用を図るため、培養槽1から抜き出される培養液のうち、一部が分岐管63を介して第1の調製槽10に戻される場合もある。
【0022】
そして、時間の経過と共に細胞の個体数が増えていくと、培地及び酸素ガスの消費量も増えていくので、培養槽1内の培地及び酸素ガスが不足しないように、既述のように予め培養実験などにより設定されていた各調製槽10、20内の培地や酸素ガスの供給シーケンスに応じて、これらの供給量が調整されることになる。このような供給シーケンスについて一例を示すと、例えば図4に示すように、第1の調製槽10内の培地の供給と停止とが間隔をおいて複数回行われると共に、第1の調製槽10内の培地の供給量が段階的に増えていく。第2の調製槽20内の培地については、例えば第1の調製槽10内の培地の供給量に対して数分の1の供給量に設定され、酸素ガスについては、図5に示すように、例えば第1の調製槽10内の培地の供給量に応じた供給量に設定される。そして、第1の調製槽10及び第2の調製槽20内の培地の貯留量が不足してくると、例えば図6に示すように、図示しない外部の貯留槽から調製槽10、20に培地が夫々補充される。尚、培養槽1内の培地における酸素濃度については、図5中点線で示している。また、培養槽1には、培地及び酸素ガスと共に、細胞についても図示しない供給路から供給される場合もある。
【0023】
こうして所定の期間例えば数日から数週間程度の培養が終了すると、培養槽1から外部に取り出された培養液あるいは培養槽1内において増殖した細胞から、内部に含まれる有効成分などが精製され、バイオ医薬品例えば抗体の原料として用いられることになる。尚、図3(b)、(c)において、酸素ガスの溶解している培地について、ハッチングを付して示している。
【0024】
上述の実施の形態によれば、培養槽1内において細胞の培養を行うにあたり、酸化しにくい培地と酸化しやすい培地とを夫々第1の調製槽10及び第2の調製槽20に貯留し、第1の調製槽10内の培地に酸素ガスを溶解させ、これらの第1の調製槽10及び第2の調製槽20から培地を各々培養槽1内に供給して、培養槽1内において細胞の培養を行っている。そのため、培養槽1内において気泡の発生が起こらないか、あるいは培養槽1内において直接バブリングする場合よりも気泡の発生が抑えられるので、細胞へのダメージを低減しつつ細胞に対して要求酸素量を供給することができる。また、酸化しやすい培地については酸素が供給される第1の調製槽10とは別の第2の調製槽20から培養槽1内に供給しているので、酸化の抑えられた環境(第2の調製槽20内)に貯留されることになり、当該培地は培養槽1内に供給されると細胞により速やかに消費されていく。従って、培地を分けることなく、一度に培地全量を培養槽1内に供給し、この培養槽1内に酸素ガスを供給する場合に比べて、培地の酸化が抑えられることになる。そのため、培養槽1内の培地の組成を予め設定していた設定値に極めて近い値に保つことができるので、細胞を速やかに培養することができる。このことから、細胞へのダメージを抑えながら十分な量の酸素ガス及び培地を供給できるので、従来では収率が低く現実的に事業として培養できないと考えられている細胞であっても、高い収率で培養できる。
【0025】
更に、細胞に酸素ガスを供給するにあたって、培養槽1内には酸素透過膜などを浸漬しておく必要がないので、培養槽1の取り扱いや洗浄あるいは培養槽1内の無菌環境の維持が容易となるし、また酸素透過膜を介したコンタミネーションの発生を抑制することができる。
また、第1の調製槽10内の培地に酸素ガスを飽和させているので、培養槽1内に酸素ガスを速やかに供給することができるし、また培養槽1内の酸素ガス濃度の調整が容易になる。
【0026】
上記の例では、既述の図4及び図5に記載したように、第1の調製槽10から供給される培地及びこの培地と共に供給される酸素ガス、第2の調製槽20から供給される培地をいわば間欠的に供給したが、例えば図7に示すように、連続的に第1の調製槽10内の培地の供給量が増えていくようにしても良いし、また第2の調製槽20内の培地については第1の調製槽10内の培地の供給量とは無関係に供給量を調整しても良い。酸素ガスの供給量についても、図8に示すように、第1の調製槽10内の培地の供給量に対応させなくとも良い。この場合において、例えば第1の調製槽10内の培地の供給量に対して酸素ガスの供給量を減少させたい場合には、例えば第1の調製槽10において培地に窒素ガスを供給し、当該培地に溶解している酸素ガスを追い出すようにしても良いし、あるいは所定の時間培地を静置して、酸素ガスが培地から自然に抜け出ていくようにしても良い。このように培地及び酸素ガスの供給量を互いに独立して個別に調整することによって、培養槽1内において不足した成分を個別に補充することができるので、例えば培養槽1内の環境の変化(細胞の個体数の増加速度、溶存酸素量の変化)に柔軟に対応できる。
【0027】
また、培地及び酸素ガスの供給方法としては、例えば培養槽1内の培地中の酸素濃度が一定となるように酸素ガスや第1の調製槽10内の培地の供給量を調整しても良い。更に、培養槽1内の細胞や生成物の濃度あるいは培養槽1から排出される二酸化炭素の濃度を測定し、この測定結果に基づいて第1の調製槽10から供給される培地及びこの培地と共に供給される酸素ガス、第2の調製槽20から供給される培地の供給量を調整しても良い。更にまた、制御部50により培地及び酸素ガスの供給量を調整したが、例えば作業者がマニュアルでこれらの供給量を調整しても良い。
【0028】
また、上記の例では第1の調製槽10及び第2の調製槽20を各々1つずつ設けたが、各々複数配置しても良い。このような例について具体的に説明すると、例えば図9では第2の調製槽20を2つ設けており、これらの第2の調製槽20、20には夫々上記の酸化しやすい培地成分のうち互いに異なる種類の成分が貯留されている。そして、この培養装置では、第1の調製槽10から酸素ガスの溶解した培地が培養槽1内に供給され、第2の調製槽20、20からは酸化しやすい培地が培養槽1内に各々供給されて細胞の培養が行われることになる。このように第2の調製槽20を2つ設けることによって、細胞の培養中に培養槽1内において不足する成分だけを当該培養槽1内に供給できるので、培養槽1内の環境変化や様々な細胞の培養により一層柔軟に対応できるし、コスト的にも有利である。
【0029】
更に、第1の調製槽10と第2の調製槽20とに夫々酸化しにくい培地と酸化しやすい培地とを貯留したが、酸化しやすい培地と共に、酸化しにくい培地の成分の一部を第2の調製槽20に貯留しても良い。つまり、第1の調製槽10に酸化しやすい成分が含まれていなければ、第2の調製槽20に酸化しにくい成分が含まれていても良い。この場合において、第2の調製槽20内の培地の供給量が第1の調製槽10内の培地の供給量に比べて少ない場合には、例えば第1の調製槽10内の培地成分のうち希少で高価な成分については第2の調製槽20内の培地と共に供給するようにしても良い。また、第1および第2の調製槽10、20内の培地の各々において、例えば水への溶解度が互いに大きく異なる成分が含まれている場合には、例えば調製槽10(20)とは別の大型の調製槽10(20)を設置して、この大型の調製槽10(20)において水への溶解度の低い成分を溶解させ、当該成分を他の培地とは別系統で培養槽1内に供給するようにしても良い。
【0030】
上記の例では、溶存酸素測定手段16、45を用いて第1の調製槽10及び培養槽1内の溶存酸素濃度を測定したが、これらの溶存酸素測定手段16、45を設けずに、例えば第1の調製槽10においては、酸素ガスが培地に十分に溶解するまで酸素ガスの供給時間を長く設定しても良い。また、第1の調製槽10において培地に酸素ガスを溶解させるにあたり、培地内への酸素ガスのバブリングに代えて、あるいはバブリングと共に、培地の上方気相領域に酸素ガスを供給して当該培地の液面に対して酸素ガスを加圧状態に保つことによって、培地に酸素ガスを溶解させるようにしても良い。
【0031】
更に、培養槽1から培地を抜き出さずに、この培養槽1内において培地の液量が増えていくようにしても良い。また、第2の調製槽20内の培地の酸化を抑えるために窒素ガスを供給したが、大気雰囲気において酸化がそれ程進行しない場合などには、第2の調製槽20内を大気雰囲気としても良い。また、培養槽1内にマイクロキャリア40を収納し、このマイクロキャリア40に細胞を付着させて培養を行ったが、培養液に浮遊して増殖する細胞の場合には、このマイクロキャリア40を配置しなくとも良い。その場合において培養槽1から培地を抜き出す時には、細胞の流出を抑えるために、例えば膜分離や遠心分離などが行われることになる。
【0032】
また、培養槽1から分岐管63を介して培養液の一部を第1の調製槽10に循環させるにあたり、例えば膜などを備えた分離装置を分岐管63に介設し、この分離装置において培養液から二酸化炭素を分離しても良いし、培養液を循環させなくても良い。更に、第1の調製槽10内の培地は、酸素ガスの濃度が飽和状態となった培地を培養槽1内に供給したが、酸素濃度の低い(飽和していない)培地を培養槽1内に供給しても良い。なお、第1の調製槽10から培地と共に供給する酸素ガスの量だけでは培養槽1内において酸素ガスの量が不足する場合には、培養槽1内において培地(培養液)に酸素ガスを直接バブリングしても良い。この場合であっても、培養槽1内に供給する酸素ガスの全量を当該培養槽1内においてバブリングする場合に比べて、細胞へのダメージを少なくすることができる。
また、細胞の培養以外にも、例えば微生物を培養する場合においても本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0033】
1 培養槽
10 第1の調製槽
12 酸素ガス供給源
20 第2の調製槽
21 不活性ガス供給路
26 供給路
24、31 バルブ
25、32 流量調整手段
33 供給路
40 マイクロキャリア
41 培養液抜き出し管
42 送液装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養槽内において細胞の培養を行う培養装置において、
細胞を培養するための培養槽と、
培地を貯留した第1の調製槽と、
前記第1の調製槽中の培地よりも酸化されやすい成分を含む培地を貯留した第2の調製槽と、
前記第1の調製槽内に酸素ガスを供給する手段と、
前記第1の調製槽および前記第2の調製槽から各々培地を前記培養槽に供給する手段とを備えたことを特徴とする細胞培養装置。
【請求項2】
前記第1の調製槽中の培地および前記第2の調製槽中の培地の少なくとも一方に対して不活性ガスを供給する手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養装置。
【請求項3】
培養槽内において細胞の培養を行う培養方法において、
酸素ガスが溶解している培地を貯留した前記第1の調製槽及び、前記第1の調製槽中の培地よりも酸化されやすい成分を含む培地を貯留した前記第2の調製槽から、各々培地を前記培養槽に供給し、この培養槽において細胞の培養を行うことを特徴とする細胞培養方法。
【請求項4】
前記第1の調製槽中の培地および前記第2の調製槽中の培地の少なくと一方は、不活性ガスが供給された培地であることを特徴とする請求項3に記載の細胞培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−83263(P2011−83263A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240725(P2009−240725)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【Fターム(参考)】