説明

経皮冠動脈インターベンションを行うためのエノキサパリンの使用

経皮冠動脈インターベンションを必要とする患者において、経皮冠動脈インターベンションを行う方法を説明しており、該方法は、鞘の挿入の後、且つ経皮冠動脈インターベンションの前に、患者に、有効量のエノキサパリンナトリウムを含むボーラスを静脈内投与することを含む。また、ヒトの経皮冠動脈インターベンションを受けた患者における血栓症(例えば血栓の出現)を、その患者をエノキサパリンで処理することによって予防または治療する方法も説明する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、アメリカ合衆国法典第35巻第119条(e)に基づき、2005年9月2日付けで出願された仮出願番号60/713,329の優先権を主張する(その全内容は、参照により本発明に含める)。
【0002】
本発明は、経皮冠動脈インターベンションを必要とする患者において、経皮冠動脈インターベンションを行う方法に関し、本方法は、鞘の挿入の後に、且つ、経皮冠動脈インターベンション(「PCI」)の前に、患者に、有効量のエノキサパリンナトリウム(場合によっては、本明細書において「エノキサパリン」とも言う)を含むボーラスを静脈内投与することを含む。本発明はまた、ヒトの経皮冠動脈インターベンションを受けた患者における血栓症(例えば血栓の出現)を、その患者をエノキサパリンで処理することによって予防または治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
エノキサパリンナトリウムは、サノフィ−アベンティス(Sanofi−Aventis)より、ロベノックス(Lovenox(R))(他国においてはクレキサン(Clexane(R)))という商標で入手可能である。既知のエノキサパリンナトリウムの用法としては以下に示すものが挙げられる:
【表1】

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、経皮冠動脈インターベンションを必要とする患者において、経皮冠動脈インターベンションを行う方法を提供する。本使用は、鞘の挿入の後、且つ経皮冠動脈インターベンションの前に、患者に有効量のエノキサパリンを含むボーラスを静脈内投与することを含む。
【0005】
また、血栓症の予防を必要とする人間の患者において血栓症を予防する方法も提供される。本使用は、鞘の挿入の後、且つ経皮冠動脈インターベンションの前に、患者に有効量のエノキサパリンを含むボーラスを静脈内投与することを含む。
【0006】
また、血栓症の治療を必要とする人間の患者において血栓症を治療する方法も提供される。本使用は、鞘の挿入の後、且つ経皮冠動脈インターベンションの前に、患者に有効量のエノキサパリンを含むボーラスを静脈内投与することを含む。
【課題を解決するための手段】
【0007】
図1は、STEEPLE研究における48時間でのCABGに関連しない大出血および小出血を示す。P値は、エノキサパリン群とUFH群との比較である。CABGに関連しない大出血および小出血に関して、48時間での調節された群間の差の95%信頼区間:エノキサパリン0.5mg/kg、および、UFH(−4.8〜−0.5%)、エノキサパリン0.75mg/kg、および、UFH(−4.1%〜0.0%);非劣性限界は2.6%である。
【0008】
図2は、STEEPLE研究(多変量解析)における、48時間でのCABGに関連しない大出血および小出血に関する危険因子のオッズ比と95%信頼区間を示す。
【0009】
図3は、STEEPLE研究における、30日の全原因死亡率および致命的ではない心筋梗塞に関するカプラン・マイヤー曲線を示す。
【0010】
図4は、STEEPLE研究の設定を示す。ACT、活性化凝固時間;CABG、冠動脈バイパス移植;GP、糖タンパク質;IV、静脈内;MI、心筋梗塞;PCI、経皮冠動脈インターベンション;UTVR、緊急血管再開通術。
【0011】
図5は、48時間におけるCABGに関連しない大出血または小出血のSTEEPLE研究に関する部分集団の解析であり、エノキサパリン0.5mg/kg(A)、および、0.75mg/kg(B)(UFHを伴う)の比較を示す。
【0012】
本明細書で用いられる「エノキサパリンナトリウム」は、米国食品医薬品局(FDA)、または、米国外のその他のあらゆる管理機関によって承認された低分子ヘパリン(LMWH)を意味し、例えば、ロベノックス(R)(エノキサパリンナトリウム注射剤)、クレキサン(R)、または、クレキサン(klexane(R))、および、FDA、または、米国外のその他のあらゆる管理機関によって承認されたあらゆるLMWHであり、これらは列挙された薬物としてロベノックス(R)(エノキサパリンナトリウム注射剤)、クレキサン(R)、または、クレキサン(R)の適用に従う。エノキサパリンナトリウムは、サノフィ−アベンティスより入手可能であり、米国では、エノキサパリンナトリウム注射剤の形態で、ロベノックス(R)(他国においてはクレキサン(R))という商標で販売されている。一般的に、エノキサパリンナトリウムは、ブタ腸粘膜から誘導されたヘパリンベンジルエステルのアルカリ分解により得られる。その構造は、例えば、非還元末端に2−0−スルホ−4−エンピラノスロン酸(enepyranosuronic acid)基を有すること、および、鎖の還元末端に2−N,6−0−ジスルホ−D−グルコサミンを有することを特徴とする。平均分子量は、約4500ダルトンである。分子量分布は、以下の通りである:
2000ダルトン未満の分子量 ≦20%
2000〜8000ダルトンの分子量 ≧68%
8000ダルトンを超える分子量 ≦18%
【0013】
エノキサパリンナトリウム注射剤は、エノキサパリンナトリウムを含む滅菌水溶液である。エノキサパリンナトリウム注射剤は、サノフィ−アベンティスより入手可能であり、100mg/mlの充填済み注射器(30mg/0.3mLの充填済み注射器、40mg/0.4mLの充填済み注射器、60mg/0.6mLの充填済み注射器、80mg/0.8mLの充填済み注射器、および、100mg/1.0mLの充填済み注射器)、目盛り付きの充填済み注射器、複数回の用量に分けられたバイアル(300mg/3.0mLの複数回の用量に分けられたバイアル)、および、アンプル(30mg/0.3mL)が挙げられる。濃度100mg/mLのエノキサパリンナトリウム注射剤は、エノキサパリンナトリウム10mg(およその抗Xa因子活性は、注射用水0.1mLあたり1000IU[W.H.O.First International Low Molecular Weight Heparin Reference Standardを参考にした])を含む。またエノキサパリンナトリウム注射剤は、サノフィ−アベンティスより、150mg/mlの目盛り付きの充填済み注射器(90mg/0.6mLの充填済み注射器、120mg/0.8mLの充填済み注射器、および、150mg/1.0mLの充填済み注射器)としても入手可能である。濃度150mg/mLのエノキサパリンナトリウム注射剤は、注射用水0.1mLあたりエノキサパリンナトリウム15mg(およその抗Xa因子活性は、1500 IU[W.H.O.First International Low Molecular Weight Heparin Reference Standardを参考にした])を含む。
【0014】
エノキサパリンナトリウム注射剤の充填済み注射器、および、目盛り付きの充填済み注射器は、保存剤を含有しておらず、単回投与の注射としての使用だけを目的とする。また、複数回の用量に分けられたバイアルや、保存剤として15mg/1.0mLのベンジルアルコールを含むものもある。注射剤のpHは、5.5〜7.5である。またエノキサパリンナトリウム注射剤は、血液透析の指示薬として動脈経路に投与してもよい。
【0015】
本明細書で用いられるように、エノキサパリンナトリウムを1日1回投与すると述べられる場合、これは、例えば、24時間プラスマイナス4時間毎に1回投与することを意味する。
【0016】
用語「を予防する」、「を予防すること」および「予防」は、最終的には少なくとも1種の病気または状態の症状(例えば血栓症)を示す可能性があるが、まだそのような病気または状態の症状を示していない個体において、個体が所定期間にわたって病気または状態の症状を発症させる機会を減少させるために行われる治療的な投与を意味する。このように減少させることによって、例えば、患者における病気または状態のうち少なくとも1種の症状の発症を遅延させる効果を示す場合がある。
【0017】
本明細書で用いられる用語「を治療する」、「を治療すること」または「治療」は、すでに少なくとも1種の病気または状態の症状(例えば血栓症)を示す個体、または、これまでに少なくとも1種の病気または状態の症状を示している個体への治療的な投与を意味する。
【0018】
「体重」は、実際の秤量、または、エノキサパリンナトリウム投与前の推定によって決定される患者の質量を意味する。患者の体重が、エノキサパリンナトリウムの第一の用量の投与前に推定される場合、それに続くあらゆるエノキサパリンの投与の前に、患者の質量を実際の秤量によって決定してもよく、それに応じて、次回の用量に関して患者に投与されるエノキサパリンの量を調節してもよい。
【0019】
「kg」は、キログラムで示した患者の体重を意味する。
【0020】
「経皮冠動脈インターベンション」(PCI)は、罹患した心臓動脈を有する患者、例えば、血流を減少させ流れを細くする可能性がある脂肪、コレステロール、および、その他の血液由来の物質の蓄積(プラークと言う)によって引き起こされる胸部の痛み、または、動脈を完全にブロックする大きな血餅によって引き起こされる心臓発症に罹った患者を治療するために用いられる様々な処置を包含する。典型的には、PCIは、細長い先端にバルーンが付いたチューブ(カテーテル)を鼠径部の動脈から心臓動脈中の問題のある部位へ突き通すことによって行われる(これは、経皮経管冠動脈形成術(また、PTCAとしても知られている)、冠状動脈バルーン拡張、または、バルーン血管形成術と称される)。次に、バルーンを膨らませ、プラークを圧縮し、血液がより容易に流れるように狭くなった冠状動脈を拡張する(広げる)。これは、拡張可能な金属ステントの挿入を伴うことが多い。ステントとは、PTCAの後に、動脈の開きを支えるために用いられるワイヤーメッシュチューブである。
【0021】
「鞘」とは、動脈に挿入され、カテーテルを所定の場所へ導くのに用いられるチューブまたはその他の装置である。
【0022】
経皮冠動脈インターベンションを必要とする患者において、経皮冠動脈インターベンションを行う方法が提供され、本方法は、鞘の挿入の後、且つ経皮冠動脈インターベンションの前に、患者に有効量のエノキサパリンを含むボーラスを静脈内投与することを含む。また、ヒトの経皮冠動脈インターベンションを受けた患者における血栓症(例えば血栓の出現)を、その患者をエノキサパリンで処理することによって予防または治療する方法も提供される。
【0023】
具体的な実施態様において、エノキサパリンは、経皮冠動脈インターベンションの直前に投与される。
【0024】
具体的な実施態様において、鞘の除去は、経皮冠動脈インターベンションの直後に起こる。具体的な実施態様において、鞘の除去は、経皮冠動脈インターベンションの4〜6時間後に行われる。
【0025】
具体的な実施態様において、エノキサパリンは、患者において、0.5〜1.8IU/mLの抗Xaレベルが達成されるような量で投与される。
【0026】
具体的な実施態様において、エノキサパリンは、患者において、0.5〜1.2IU/mLの抗Xaレベルが達成されるような量で投与される。
【0027】
具体的な実施態様において、エノキサパリンは、ACTを調節したUFH処方計画と比較して、あらゆる出血の主要評価項目を減少させるのに十分な量で投与される。
【0028】
具体的な実施態様において、エノキサパリンは、0.5mg/kgの用量で投与される。具体的な実施態様において、エノキサパリンは、0.75mg/kgの用量で投与される。
【0029】
エノキサパリンナトリウムの投与は、例えば、注射器を用いた静脈注射によって直接なされ、さらなる例を挙げれば、予め確立された静脈内経路に注射してもよい。エノキサパリンの大量の投与は、例えば、約10秒またはそれ未満で、または、約10〜約20秒、または、約15〜約30秒、または、約30秒〜約1分間、または、約1〜約5分間、または、約5〜約10分間、または、約10〜約30分間で投与してもよい。
【0030】
具体的な実施態様において、患者は、経皮冠動脈インターベンションを受ける前にUFHが投与された被検体と比較して、大出血の有意な減少を示す。具体的な実施態様において、大出血の有意な減少は、少なくとも25%である。具体的な実施態様において、大出血の有意な減少は、少なくとも40%である。具体的な実施態様において、大出血の有意な減少は、少なくとも55%である。
【0031】
具体的な実施態様において、患者は、UFHを投与される被検体の場合の速度と比較して有意に高い速度で目標の抗凝血レベルを達成する。具体的な実施態様において、患者は、UFHを投与される被検体の場合の速度よりも少なくとも2倍速い速度で目標の抗凝血レベルを達成する。具体的な実施態様において、患者は、UFHを投与される被検体の場合の速度よりも少なくとも3倍速い速度で目標の抗凝血レベルを達成する。具体的な実施態様において、患者は、UFHを投与される被検体の場合の速度よりも4倍速い速度で目標の抗凝血レベルを達成する。
【0032】
具体的な実施態様において、患者は、経皮冠動脈インターベンション中に、エノキサパリンの第二のボーラスが投与される。具体的な実施態様において、第二のボーラスにおけるエノキサパリンの量は、最初に投与されたエノキサパリンの量より少ない。具体的な実施態様において、第二のボーラスにおけるエノキサパリンの量は、最初に投与されたエノキサパリンの量の約半分である。
【0033】
具体的な実施態様において、患者は、少なくとも1種の追加の治療剤が投与される。このような「併用治療」(または「組み合わせ療法」)は、以下の例を含んでいてもよい:
処方計画において、連続的な方法で各物質を投与し、薬物の組み合わせの有益な作用を提供すること;および/または、
実質的に同時になるような方法(例えば、これらの活性物質が固定した比率で含まれる1回の注入、または、各物質ごとに複数回の別々の注射など)による、上述の成分の併用投与。
【0034】
従って、本明細書において説明される方法は、投与の順番を限定しない;エノキサパリンナトリウムは、その他の物質の投与の前に、それと同時に、または、その後のいずれかに投与してもよい。加えて、エノキサパリンナトリウムは、単独で投与してもよいし、または、他の治療(例えば薬剤溶出ステント)と組み合わせて投与してもよい。
【0035】
具体的な実施態様において、少なくとも1種の追加の治療剤は、アスピリン、および、チエノピリジンから選択される。具体的な実施態様において、少なくとも1種の追加の治療剤は、クロピドグレル、および、GPIIb/IIIa阻害剤から選択される。具体的な実施態様において、少なくとも1種の追加の治療剤は、GPIIb/IIIa阻害剤から選択される。GPIIb/IIIa阻害剤としては、アブシキシマブ(レオプロ(ReoPro(R))として販売されている)、チロフィバン(アグラスタット(Aggrastat(R))として販売されている)、および、エプチフィバチド(インテグレリン(Integrelin(R))として販売されている)が挙げられる。
【0036】
具体的な実施態様において、エノキサパリンは、GPIIb/IIIa阻害剤が投与されない場合とほぼ同じ量で投与される。
【0037】
従って、ヒトPCI患者を治療するための併用療法の方法が提供され、本方法は、
患者に鞘を挿入した後、および、その処置の前に、患者に有効量のエノキサパリンを含むボーラスを静脈内投与すること;および、
少なくとも1種の追加の治療剤を投与すること、
を含む。
【0038】
また、ヒトPCI患者において血栓症を予防または治療する方法も提供され、本方法は、
患者に鞘を挿入した後、および、その処置の前に、患者に有効量のエノキサパリンを含むボーラスを静脈内投与すること;および、
少なくとも1種の追加の治療剤を投与すること、
を含む。
【0039】
また、経皮冠動脈インターベンションを必要とする患者において、経皮冠動脈インターベンションを行う方法も提供され、本方法は、
患者に鞘を挿入した後、および、その処置の前に、患者に有効量のエノキサパリンを含むボーラスを静脈内投与すること;および、
患者の血管に、薬剤溶出ステントを移植すること、
を含む。
【0040】
具体的な実施態様において、血栓症の予防は、血栓の出現の予防を含む。具体的な実施態様において、血栓症の治療は、血栓の出現の治療を含む。
【0041】
エノキサパリンナトリウムの用法を提供することにおいて、エノキサパリンナトリウムの投与のための用法は、具体的な指標に基づく。それぞれの指標に関して、本明細書で示されたヒトPCI患者における血栓の出現の予防および/または治療方法などの方法が提供される。
【0042】
関連分野の当業者であれば当然ながら、本明細書において説明されている使用および用途に対するその他の適切な改変や適応が適切であり、本発明の範囲またはそれらのあらゆる実施態様から逸脱することなくこのような改変や適応をなすことが可能であるということは容易に明らかになるであろう。ここで本発明を詳細に説明したが、本発明は、以下の本発明の実施例を参照することによってより明解に理解されると予想され、これら実施例は、単に説明のために示されたものであって、本発明を制限することは目的としない。
【0043】
実施例1:患者の治療
患者は、PCIの候補として識別した。鞘の挿入の後に、ただしPCIの前に、患者に、患者の体重1kgあたり0.5mgの投与量のエノキサパリンナトリウムを、静脈内ボーラスで、約20秒間投与した。患者が経験した抗Xaレベルを中心に解析したところ、患者は、1IU/mLの抗Xaレベルを達成したと決定された。
【0044】
実施例2:患者の治療
患者は、PCIの候補として識別した。鞘の挿入の後に、ただしPCIの前に、患者に、患者の体重1kgあたり0.75mgの投与量のエノキサパリンナトリウムを静脈内ボーラスで約20秒間投与した。患者が経験した抗Xaレベルを中心に解析したところ、患者は、1IU/mLの抗Xaレベルを達成したと決定された。
【0045】
実施例3:STEEPLE研究
米国心臓病学会/米国心臓協会(American College of Cardiology/American Heart Association;ACC/AHA)、および、欧州心臓病学会(European Society of Cardiology;(ESC)のガイドラインによれば、PCIの最中に、活性化凝固時間(ACT)を調節した静脈内未分画ヘパリン(UFH)を使用することを推奨している。しかしながら、UFHには、例えば、凝固の際のその予測不可能な作用、繰り返し凝固をモニターすることの必要性、治療域の制限、血小板活性化の誘導、および、血小板減少症の危険のような限定があるため、PCIの最中の抗凝血の処方計画を改善することが注目されている。
【0046】
エノキサパリンのような低分子量ヘパリン(LMWH)は、急性冠症候群(ACS)患者におけるPCIの最中の凝固防止剤として比較的頻繁に用いられるが、選択的な処置の際にも用いられる。これらは、より安定で、かつ予想可能な凝固防止剤の用量応答(従って、凝固をモニターする必要性がない);より長い半減期;および、より大きい抗Xa因子:IIa活性(それにより、トロンビン生成および活性化をより少なくすることができる)を示す。LMWHは、血小板活性化の減少、フォン−ウィルブランド因子の放出および炎症に関連する。
【0047】
小規模および/または非比較試験によって、糖タンパク質(GP)IIb/IIIa阻害剤を投与した、または、それらを投与しないPCIを受けた患者における、エノキサパリン1mg/kg、0.75mg/kg、および、0.5mg/kgの単一の静脈内ボーラスの実行可能性を示した。しかしながら、これらの制御を行わない研究では、UFHを用いた標準的な抗凝血と比較した明確な結論を得ることはできず、PCIの最中におけるエノキサパリンの最適な静脈内ボーラス用量は、確立されないままである。PCIを受けた患者における静脈内LMWH、および、静脈内UFHの使用を比較するための無作為研究からのデータのメタ解析から、LMWHを用いた場合の虚血性イベントの出現および大出血の減少に対する有意ではない傾向において差がないことがわかった。
【0048】
方法
患者
STEEPLEとは、前向き無作為化非盲検の並行群間試験であり、非緊急PCIを受けた患者における、ACTを調節した静脈内UFH処方計画に対するエノキサパリン0.5mg/kgおよび0.75mg/kgの静脈内投与の安全性および有効性を評価するために行われる。2004年1月〜2004年12月の間に、オーストラレーシア、欧州および北米における9ヵ国々の124つの地域にわたって、3528人の患者を無作為化した。
【0049】
患者が、大腿アプローチを用いた単一または複数の血管の非緊急PCIを受ける予定がある場合、加えて、近年の血栓崩壊、計画された段階的な処置、出血の危険の増加、上記処置の前に非経口の抗血栓血小板凝集阻止薬を用いた治療、または、薬物を研究するための既知の過敏症などの除外基準のどれも満たしていない場合、そのような患者はこの試験を受ける条件を満たす。この試験は、ヘルシンキ宣言(2004年東京)に従って、且つ現地ごとの規制を守って行われた。全ての患者は、各地域の治験審査委員会を介してインフォームド・コンセントを受け、上記試験の同意を得た。
【0050】
試験方法
資格のある患者は、無作為化されて、現行のガイドラインに従って、凝固をモニターしないで、ACTを調節したUFHの静脈内ボーラス、または、エノキサパリン0.5mg/kgもしくは0.75mg/kgの静脈内投与を受けた。患者を1:1:1の比率で無作為化し、計画されたGPIIb/IIIa阻害剤の使用に従って階層化した。全ての患者に、現地の慣例に従ってアスピリン(75〜500mg/日)、および、チエノピリジンが投与された。全ての付随する薬物療法の使用は現地の管理規制に従った。
【0051】
鞘の挿入の後、且つ、処置の直前にエノキサパリンの単一の静脈内ボーラスを投与されたエノキサパリン群のいずれかに患者を無作為化した。調査員が、付随するGPIIb/IIIa阻害剤治療の開始を選択したかどうかに関係なく、無作為化された投与量が用いられた。並列のGPIIb/IIIa阻害剤治療を受けなかったUFH群に無作為化された患者に、操作員の標準的な技法に基づいて最初のUFHのボーラス(70〜100IU/kg)を投与し、目標のACT(300〜350秒)を達成した。同様に、並列のGPIIb/IIIa阻害剤治療を受けた患者に、最初の静脈内ボーラス(50〜70IU/kg)を投与し、目標のACT(200〜300秒)を達成した。ACTの目標の下限に到達しなかった患者だけに、PCIの開始前に追加のUFHのボーラスを投与した。ACT測定値が推奨範囲を下回った場合、処置中にUFHを再度投与した。全ての拠点において、標準化したヘモクロン(Hemochron) 装置を用いてACTを測定した。エノキサパリンを投与された患者において処置が2時間より長く継続する場合、追加のボーラス(元の用量の半分)が推奨される。閉鎖装置は現地の規制で許可されたものである。UFH群において150〜180秒のACT、エノキサパリン0.75mg/kgの群においてPCI後に4〜6時間のACT、および、エノキサパリン0.5mg/kgの群においてPCIの直後のACTで、鞘の除去を許可した。重要なことには、エノキサパリンを投与された患者において、鞘の除去の前に抗凝血のモニターまたは検証は必要ではなかった。
【0052】
評価項目
試験の主要評価項目は、指標となるPCIの48時間後における非冠動脈バイパス移植に関連する(CABGに関連しない)大出血および小出血発生率であった。大出血とは、死に至る出血イベントと定義され;腹膜後の、頭蓋内、または、眼球内で起こり;特定の治療を必要とする血行動態の悪化に至り;このイベントを止めるか、または制御するための(外科的または内視鏡の)介入または閉鎖された空間の減圧術を必要とし;少なくとも1単位の濃厚赤血球または全血の輸注の必要が臨床的に明白であり;または、3g/dL以上のヘモグロビンを減少させること(または、10%以上のヘマトクリットを減少させること)が臨床的に明白である。小出血とは、大出血の基準に満たないが、以下の特徴の少なくとも1種に相当するあらゆる出血イベントと定義される:外傷とは無関係の肉眼的血尿;長時間の、または、介入を必要とする鼻血;胃腸の出血;喀血;結膜下出血;5cmより大きい血腫、または、長期の、または新規の入院に至る血腫;2g/dL以上<3g/dL未満のヘモグロビンの減少が臨床的に明白であること;少なくとも1単位の濃厚赤血球または全血の何らかの輸注を用いた3g/dL以上の何らかのヘモグロビンの減少;または、制御されていない出血のために硫酸プロタミンを投与すること。
【0053】
主要な有効性の副次評価項目は、上記処置の開始および最後における治療的な抗凝血の達成である。処置の開始および最後の両方において、0.5〜1.8IU/mLの目標の抗Xaレベル(中心に解析された)を達成したエノキサパリン投与患者の比率を、目標のACT(GPIIb/IIIa阻害剤の場合、200〜300秒、または、それを用いない場合、300〜350秒)を達成したUFH患者の比率と比較した。その他の副次的な結果の測定値は、以下の通りである:
【0054】
1.指標となるPCI後の48時間までのCABGに関連しない大出血の複合的な評価項目、全原因死亡率、致命的ではない心筋梗塞(2以上の新しい有意なQ波と定義される)、総クレアチンキナーゼの上昇若しくは正常値上限の2倍以上のMB分画、または、30日での緊急血管再開通術である。
【0055】
2.全原因死亡率若しくは致命的ではない心筋梗塞、および、全原因死亡率、致命的ではない心筋梗塞、または、緊急血管再開通術の複合的な評価項目であり、どちらが最初に起こったかは問わない。
【0056】
全てのイベントは、盲検での独立臨床事象委員会(independent clinical events committee)が判定した。
【0057】
統計的分析
まず、2700人の患者からなるサンプルサイズを、以下に基づいて計算した:48時間までの全ての出血の発生率が、UFH群に関して7.0%であり、それに対応する発生率が、エノキサパリン群において3.7%以下であったこと(47%の危険の減少);エノキサパリン対UFH群のそれぞれの比較に関して2.5%の第1種の両面の誤差率を使用したこと、それにより5%の包括的アルファレベルを示すこと;調整を行わないカイ二乗検定の使用;80%の出力;および、患者の約2%は治療されない可能性があるという仮定。計画された中間評価においてサンプルサイズを再評価したところ、総体的な出血率(3.5%)は、予想の4.8%よりも低かったため、最終的に3690人の患者を設定した。包括解析群で解析を行い、無作為化の時間を調節した。出血、および、目標の抗Xa、および、ACT解析のために、GPIIb/IIIa阻害剤の使用に関しても調整を行った。プロトコールごとの個体群の結果は、包括解析群に類似していた。SAS統計ソフトウェア・バージョン8.2(SASインスティテュート社(SAS Institute Inc),ケアリー,ノースカロライナ州,米国)を用いて解析を行った。ロジスティック回帰分析を用いて、エノキサパリンとUFH群との間で主要評価項目の発生率を比較した。UFHに対するエノキサパリンの優越性が観察されなかった場合、イベント率の差の両面の調節された信頼区間を計画通りに用いて、エノキサパリンのUFHに対する非劣性を試験した;非劣性限界をUFH群において観察された出血率の30%に設定した。
【0058】
ロジスティック回帰モデルを用いて、目標の抗XaまたはACT評価項目を解析した。複合的な四重の評価項目の目的は、イベント率の差の両面信頼区間を用いてエノキサパリン用量の非劣性を示すことである;非劣性限界を、UFH群において観察された比率の39%に設定した。30日までのその他の副次評価項目のための時間事象分析を、コックスの比例ハザードモデルを用いて行った。一次および二次解析のために、各エノキサパリン用量をUFHと比較した。多重度に関するSimesの調整を適用して、包括的な第1種の誤差が0.05であることを確認した:両方のP値が0.05以下である場合、いずれも有意である;最高のP値が0.05より大きい場合、その他のP値が0.025以下で有意である。
【0059】
独立データモニタリング委員会(independent data monitoring committee;DMC)が、試験の進行をモニターし、患者の安全性が脅かされないようにした。3216人の無作為化された患者において報告された重篤な有害反応全てを検討した後、DMCは、エノキサパリン0.5mg/kg群への無作為化を中止することを推奨した。数は少ないが、その時点でのデータから、エノキサパリン0.5mg/kg群における全原因死亡率が、UFH群またはエノキサパリン0.75mg/kg群のいずれかよりも高い傾向にあることが示唆された。しかしながら、0.5mg/kg群とUFH群との間に有意差はなかった。また、2種のエノキサパリン群を一緒にUFH群と比較して解析した場合も有意差はなかった。運営委員会がDMCの推奨に同意しなかったが、無難なアプローチに従い、試験が完了する期間中の短時間、エノキサパリン0.5mg/kg群において記録を中断した。
【0060】
結果
患者の特徴
2004年1月〜2004年12月の間に、3528人の患者を、エノキサパリン0.5mg/kgを静脈内投与される群(1070人の患者)、エノキサパリン0.75mg/kgを静脈内投与される群(1228人の患者)、または、UFHを静脈内投与される群(1230人の患者)に無作為化した。基準となる特徴について、3つの治療群間で十分なバランスを取った(表1)。
【0061】
患者の評価可能性は3つの群間で類似していた:被検体の98.2%は、主要評価項目に関して評価可能であり、92.1%は、抗XaまたはACT測定に関して評価可能であり、97.0%は、複合的な四重の評価項目に関して評価可能であり、および、全ての無作為化された被検体は、30日における時間事象分析に関して評価可能であった。
【0062】
処置の特徴
3つの群は、全ての手続き上の特徴に関して同等であった(表1)。UFHを受けた患者のうち16.5%が、ACTが短いために少なくとも1回の追加のボーラスが投与された。長期間(2時間を越える)の処置のためのエノキサパリンの少なくとも1回の追加のボーラスは、エノキサパリン0.5mg/kgを投与された患者の0.6%に施され、エノキサパリン0.75mg/kgを投与された患者の0.2%に施された。PCIの開始および最後におけるACTの中央値は、UFHのみが投与された患者の場合、336および292秒であり、UFHをGPIIb/IIIa阻害剤と共に投与された患者の場合、300および255秒であった。
【0063】
主要評価項目
48時間におけるCABGに関連しない大出血および小出血は、エノキサパリン0.5mg/kg群の患者の6.0%、エノキサパリン0.75mg/kg群の患者6.6%、および、UFH群の患者の8.7%で起こった(図1)。これは、エノキサパリン0.5mg/kgを用いると、UFHと比較して、主要評価項目において有意な31%の減少を示し、UFHに対する優越性に関する基準を満たす(P=0.014)。UFHと比較したエノキサパリン0.75mg/kgを支持する有意ではない傾向(24%の減少;P=0.052)が観察され、予め特定された非劣性の基準を満たしていた(様々な−4.1%〜0.0%の95%信頼区間、2.6%の非劣性限界を除く)。この有益な作用は、主としてCABGに関連しない大出血の減少によって生じたものであり、この場合の大出血は、UFHと比較して、エノキサパリン0.5mg/kg群(1.2%対2.8%、P=0.005)、および、0.75mg/kg群(1.2%対2.8%、P=0.007)の両方において有意に減少した(図1)。エノキサパリン群およびUFHのいずれの間でも、小出血の比率における有意差はなかった。48時間までの輸注速度は極めて遅く、すなわちエノキサパリン0.5mg/kg、0.75mg/kg、および、UFH群それぞれに関して、0.5%、0.8%、および、1.0%であった。
【0064】
主要評価項目に関する全ての主要な部分集団にわたり、矛盾のない結果が見出された。多変量解析によれば、主要評価項目の有意な独立した相関は、エノキサパリン0.5mg/kgを用いた治療を含む(図2)。
【0065】
副次評価項目
有意により多くのエノキサパリンを投与された患者が、ACTを調節したUFHを受けた患者と比較して、予め指定された目標の抗凝血レベル(主要な有効性の副次評価項目)を達成した(表2)。
【0066】
ACSの治療において十分な抗凝血レベルに相当するより狭い抗Xa範囲が選択された場合(0.5〜1.2IU/mL)、患者の75.5%および59.4%が、エノキサパリン0.5mg/kgおよび0.75mg/kgそれぞれに関して目標の抗Xaに達し、UFHが維持された場合と比較して有意な差を示した(両方の比較に関してP<0.001)。PCIの開始時において、抗Xaレベルの中央値は0.81であり、エノキサパリン0.5および0.75mg/kg群それぞれに関して1.09IU/mLであった;PCIの最後において、これらの値はそれぞれ0.68および0.93IU/mLであった。
【0067】
複合的な四重の評価項目は、UFHを投与される患者の8.4%と比較して、エノキサパリン0.5mg/kgを投与された患者の7.2%、および、エノキサパリン0.75mg/kgを投与された患者の7.9%で起こり、これらは、両方のエノキサパリン用量について非劣性に関して予め指定された基準を満たしていた(表2)。30日での全原因死亡率または致命的ではない心筋梗塞の発生率は、いずれかの用量のエノキサパリン、または、UFHを投与された患者間で類似していた(図3)。表2に、30日における全原因死亡率、致命的ではない心筋梗塞、または、緊急血管再開通術の複合的な値、および、個々の構成要素を報告する。
【0068】
考察
STEEPLEは、エノキサパリン静脈内投与が、薬剤溶出ステント、クロピドグレル、および、GPIIb/IIIa阻害剤の使用を含むPCIの現状において、未分画ヘパリンを超える優れた安全性を有することを実証するための、最初の大規模な無作為比較試験である。エノキサパリン(0.5mg/kg)は、ACTを調節したUFH処方計画と比較して、あらゆる出血の主要評価項目を有意に減少させた。重要なことに、両方のエノキサパリン群が、UFHに比べて極めて有意な57%の大出血の減少を示した。有効性に関して、両方のエノキサパリン用量によって、UFHと比較して、30日の虚血性イベントから同様の保護が提供された。これらの発見から、四重の評価項目に関して、エノキサパリンを用いた場合の有意ではない減少が説明される;非劣性の試験は、両方のエノキサパリン群に関して十分であった。エノキサパリンを用いた場合に観察された臨床的な利点は、UFHと比較して優れた使用の容易さを備えている点である;エノキサパリンは、PCIの開始前に、抗凝血をモニターする必要のない単一の静脈内ボーラスとして用いられ、類似の用量が、GPIIb/IIIa阻害剤と共に、または、それらを伴わないで用いられ、エノキサパリン0.5mg/kgを用いたPCIの直後に鞘の除去を行ってもよい。
【0069】
なかでもACC/AHAおよびESCのガイドラインに基づいてSTEEPLE試験で用いられるヘパリン投与は、これまで公開された出血の合併症の最も低い比率を示している。それにもかかわらず、この試験で用いられたエノキサパリン法は、UFHと比較してそれでもかなり低い大出血および小出血の合併症を示した。
【0070】
エノキサパリンによって、目標の抗凝血レベルを達成した患者の比率が、UFHと比較して有意に4倍増加した。これは、慎重かつ入念な凝固のモニターを必要とするUFHよりも優れたエノキサパリンの生物学的利用率を強調するものである。制御を要するという試験の性質のために厳密なモニターが必要であったが、UFHが投与された患者の80%は、処置時間の最中に抗凝血の目標の範囲に入らず、すなわち「現実の世界」での実施においては、その比率はさらに高くなる可能性が高い。このような目標の範囲から外れている患者が、目標の範囲内の患者よりも悪い結果を示すかどうかは不明である。ACTと、虚血または出血イベントとの関連は低いことが試験によって実証されたため、UFHに関する患者のACT値の系統的な測定値は疑わしくなる。それに対して、不安定狭心症または非ST上昇型心筋梗塞に罹った患者の大規模な非選択的な群において、抗Xaレベルが、独立して30日での死亡率に関連することが示された。しかしながら、PCIを受けた患者に関するエノキサパリンを用いた場合の最適な抗Xaレベルは、それでもなお未知であり、STEEPLE試験データのさらなる解析で調査されるであろう。より狭い抗Xa範囲(0.5〜1.2IU/mL)を目標にする場合でも、エノキサパリンは、UFHの抗凝血よりも有意に予想可能であり、かつ安定のままであり、従って、より多くの患者が、0.5mg/kgのエノキサパリン用量を用いた場合の目標に達した。
【0071】
エノキサパリンを用いた場合に見られる重要な安全性の利点は、虚血性イベント数を増加させるという代償を払わない点である。全原因死亡率および心筋梗塞、難しい臨床転帰の指標の二重の評価項目は、3つの治療群間で類似していた。エノキサパリンおよびUFHで治療した患者間に、虚血性の三重の評価項目、または、複合的な評価項目のあらゆる個々の構成要素(例えば死亡率など)における有意差はなかった。この試験における死亡率は低く、その他の近年のPCI試験と同等であった(n=18;0.5%)。低用量のエノキサパリン群の早期終結は、DMCからの要望に応えた無難な工程であり、これは、UFH群に対して明白であるが有意ではない全原因死亡率の増加に基づく。死亡原因、加えて、試験の評価項目として捕らえられなかったその他の有害イベントのさらなる評価から、エノキサパリン用量と虚血性イベントとの関係は示唆されなかった。複合的な有効性の評価項目の全ての構成要素は、エノキサパリン0.5mg/kg群において、その他の2群よりも低いこと(ただし、全原因死亡率は極めてまれなイベントであるため、これを除く)を考えれば、これは、死亡率に関して観察された有意ではない傾向は、偶然によるものであることを示す。エノキサパリン0.5mg/kg群の早すぎる中止にもかかわらず、1,070人の患者はすでに無作為化され、その他の治療群と比較するのに適切かつ十分にバランスのとれた群となった。
【0072】
STEEPLEの結果によれば、エノキサパリン(GPIIb/IIIa阻害剤を用いた、または、それらを用いない)は、非緊急PCIにおけるUFHの有利な代替物とみられる。REPLACE−2試験によれば、死亡、心筋梗塞、緊急の血管再生および大出血の主要評価項目に関して、ビバリルジン、加えてGPIIb/IIIa阻害剤は、UFH、加えて計画されたGPIIb/IIIa阻害剤に対して非劣性であったことが示された。しかしながら、ビバリルジンは、ボーラスとして投与され、それに続いて静脈内注入で投与される。それに対して、エノキサパリンは、単一のボーラスとして投与される。
【0073】
まとめると、STEEPLE試験によって、エノキサパリンの静脈内投与は、選択的PCIを受けるように計画された患者の管理を簡単にするために、カテーテル検査室におけるUFHによる抗凝血の魅力的な代替物であることが確認された。
【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【0076】
【表4】

【0077】
具体的な実施態様を参照しながらエノキサパリンナトリウムの投与を説明したが、本発明を上記の具体的な形態に限定することは目的とせず、それとは逆に、以下の請求項によって定義される本発明の本質および範囲に含まれるような代替法、改変および等価体を包
含することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】STEEPLE研究における48時間でのCABGに関連しない大出血および小出血を示す。
【図2】STEEPLE研究(多変量解析)における、48時間でのCABGに関連しない大出血および小出血に関する危険因子のオッズ比と95%信頼区間を示す。
【図3】STEEPLE研究における、30日の全原因死亡率および致命的ではない心筋梗塞に関するカプラン・マイヤー曲線を示す。
【図4】STEEPLE研究の設定を示す。
【図5】48時間におけるCABGに関連しない大出血または小出血のSTEEPLE研究に関する部分集団の解析を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経皮冠動脈インターベンションを必要とする患者において、経皮冠動脈インターベンションを行うための医薬を製造するためのエノキサパリンの使用であって、鞘の挿入の後、且つ経皮冠動脈インターベンションの前に、患者に有効量のエノキサパリンを含むボーラスを静脈内投与することを含む、上記使用。
【請求項2】
経皮冠動脈インターベンションの直後に、鞘の除去が行われる、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
経皮冠動脈インターベンションの4〜6時間後に、鞘の除去が行われる、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
経皮冠動脈インターベンション中に、エノキサパリンの第二のボーラスを投与することをさらに含む、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
第二のボーラスにおけるエノキサパリンの量は、最初に投与されたエノキサパリンの量より少なく、好ましくは最初に投与されたエノキサパリンの量の約半分である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
エノキサパリンは、患者において0.5〜1.8IU/mL、より好ましくは0.5〜1.2IU/mLの抗Xaレベルが達成されるような量で投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
エノキサパリンは、ACTを調節したUFH処方計画と比較して、あらゆる出血の主要評価項目を減少させるのに十分な量で投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
エノキサパリンは.0.5mg/kgの用量で投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
エノキサパリンは、0.75mg/kgの用量で投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
患者は、経皮冠動脈インターベンションを受ける前にUFHが投与された被検体と比較して、大出血の有意な減少を示し、好ましくは、この大出血の有意な減少は、少なくとも25%、より好ましくは少なくとも40%〜55%である、請求項1に記載の使用。
【請求項11】
少なくとも1種の追加の治療剤を投与することをさらに含む、請求項1に記載の使用。
【請求項12】
少なくとも1種の追加の治療剤は、アスピリン、チエノピリジン、クロピドグレル、および、GPIIb/IIIa阻害剤から選択される、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
エノキサパリンは、GPIIb/IIIa阻害剤が投与されない場合とほぼ同じ量で投与される、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
患者の血管に、薬剤溶出ステントを移植することをさらに含む、請求項1に記載の使用。
【請求項15】
患者は、UFHを投与される被検体の場合の速度と比較して有意に高い速度で目標の抗凝血レベルを達成する、請求項1に記載の使用。
【請求項16】
患者は、UFHを投与される被検体の場合の速度よりも少なくとも2倍速い速度で、好ましくはUFHを投与される被検体の場合の速度よりも少なくとも3倍〜4倍速い速度で目標の抗凝血レベルを達成する、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
血栓症の治療または予防を必要とする人間の患者において血栓症を治療または予防するためのエノキサパリンの使用であって、鞘の挿入の後、且つ経皮冠動脈インターベンションの前に、該患者に有効量のエノキサパリンを含むボーラスを静脈内投与することを含む、上記使用。
【請求項18】
経皮冠動脈インターベンションの直後に、好ましくは経皮冠動脈インターベンションの4〜6時間後に、鞘の除去が行われる、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
経皮冠動脈インターベンション中に、エノキサパリンの第二のボーラスを投与することをさらに含む、請求項17に記載の使用。
【請求項20】
第二のボーラスにおけるエノキサパリンの量は、最初に投与されたエノキサパリンの量より少なく、好ましく最初に投与されたエノキサパリンの量の約半分である、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
エノキサパリンは、患者において、0.5〜1.8IU/mL、好ましくは0.5〜1.2IU/mLの抗Xaレベルが達成されるような量で投与される、請求項17に記載の使用。
【請求項22】
エノキサパリンは、ACTを調節したUFH処方計画と比較して、あらゆる出血の主要評価項目を減少させるのに十分な量で投与される、請求項17に記載の使用。
【請求項23】
エノキサパリンは、0.5mg/kg、好ましくは0.75mg/kgの用量で投与される、請求項17に記載の使用。
【請求項24】
患者は、経皮冠動脈インターベンションを受ける前にUFHが投与された被検体と比較して、大出血の有意な減少を示し、好ましくは、この大出血の有意な減少は、少なくとも25%〜55%である、請求項17に記載の使用。
【請求項25】
少なくとも1種の追加の治療剤を投与することをさらに含む、請求項17に記載の使用。
【請求項26】
少なくとも1種の追加の治療剤は、アスピリン、チエノピリジン、クロピドグレル、および、GPIIb/IIIa阻害剤から選択される、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
エノキサパリンは、GPIIb/IIIa阻害剤が投与されない場合とほぼ同じ量で投与される、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
患者の血管に、薬剤溶出ステントを移植することをさらに含む、請求項17に記載の使用。
【請求項29】
患者は、UFHを投与される被検体の場合の速度と比較して有意に高い速度で、好ましくはUFHを投与される被検体の場合の速度よりも少なくとも2倍〜4倍速い速度で目標の抗凝血レベルを達成する、請求項17に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−502560(P2010−502560A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528602(P2008−528602)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【国際出願番号】PCT/IB2006/003673
【国際公開番号】WO2007/026265
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(301014948)アベンティス・ファーマ・ソシエテ・アノニム (14)
【Fターム(参考)】