結腸直腸癌におけるPODXLタンパク質
本開示は、結腸直腸癌を有する哺乳動物対象が第1のグループに属するか、または第2のグループに属するかを判定する方法を提供し、ここで第1のグループの対象の予後が第2のグループの対象の予後より良好であり、この方法は、a)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部におけるPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;b)工程a)からの前記サンプル値を所定の基準値と比較する工程;および前記サンプル値が前記基準値より高い場合、c1)対象が前記第2のグループに属すると結論付ける工程;および前記サンプル値が前記基準値以下である場合、c2)対象が前記第1のグループに属すると結論付ける工程を含む。関連する使用、手段および治療方法もまた提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結腸直腸癌予後診断および結腸直腸癌治療の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
癌
癌は、西洋における最も多い疾患および死亡の原因である。一般に、罹患率は、ほとんどの形態の癌について、年齢と共に増加している。一般的健康状態の向上によりヒト集団の寿命が続伸しているため、癌が影響を及ぼし得る個体数が増加している。最も多い癌タイプの原因はなお、大部分が不明であるが、環境因子(食事、喫煙、UV照射など)および遺伝的因子(p53、APC、BRCA1、XPなどのような「癌遺伝子」における生殖細胞系列変異)と癌の発達の危険性との間の関連を提供する知識体系が増大している。
【0003】
癌は、本質的に細胞の疾患であり、そして正味の細胞増殖および秩序に反する(anti−social)挙動を伴う形質転換された細胞集団として定義されているという事実にもかかわらず、細胞生物学的観点から見ると、癌の定義は、完全には満足できるものではない。悪性形質転換は、不可逆的な遺伝的変更に基づく悪性表現型への転移を表す。このことは正式には証明されていないが、悪性形質転換は、1個の細胞から生じ、その細胞を起源として、その後、腫瘍が発達する(「癌の形成」ドグマ)と考えられている。発癌は、癌が発生するプロセスであり、究極的に悪性腫瘍の増殖をもたらす多数の事象を含むことが一般的に認められている。この多段階プロセスは、変異の付加およびおそらくはまたエピジェネティックな事象のようないくつかの律速段階を含み、前癌増殖のステージ後に癌の形成をもたらす。段階的変化は、細胞分裂、反秩序的な(asocial)挙動および細胞死を決定する生命の規則的経路におけるエラー(変異)の累積に関係する。これらの変化のそれぞれは、周囲の細胞と比較して、選択的なダーウィン(Darwinian)増殖の利点を提供し得、腫瘍細胞集団の正味の増殖を生じる。悪性腫瘍は、必ずしも形質転換された腫瘍細胞自体のみではなく、また、支持間質として作用する周囲の正常細胞からもなる。この補充された癌間質は、結合組織、血管および他の様々な正常細胞、例えば、形質転換された腫瘍細胞に、腫瘍増殖の継続に必要なシグナルを供給するために共同で作用する炎症細胞からなる。
【0004】
最も多い癌の形態は、体細胞において生じ、そして主に、上皮、例えば、前立腺上皮、乳腺上皮、結腸上皮、尿路上皮および皮膚上皮由来であり、その次に多い形態として、造血系統を起源とする癌、例えば、白血病およびリンパ腫、神経外胚葉、例えば、悪性神経膠腫、ならびに軟部組織腫瘍、例えば、肉腫が続く。
【0005】
癌診断および予後
腫瘍から採取した組織切片の顕微鏡的評価は、長年の間、癌の診断を決定するための絶対的基準である。例えば、疑わしい腫瘍由来の生検材料を回収し、そして顕微鏡下で調べる。確定診断を得るためには、腫瘍組織をホルマリン中で固定し、組織学的に処理(histo−processed)し、そしてパラフィン包埋する。得られるパラフィンブロックから、組織切片を生成し、そして組織化学的、即ち、ヘマトキシリン−エオシン染色、および免疫組織化学的(IHC)方法の両方を使用して、染色する。次いで、外科的標本を、肉眼および顕微鏡分析を含む病理学的技術により評価する。この分析は、しばしば、特異的診断、即ち、腫瘍タイプを分類し、そして腫瘍の悪性度を格付けするための基礎を形成する。
【0006】
悪性腫瘍は、各癌タイプに特異的な分類スキームに従って、いくつかのステージに分類することができる。固形腫瘍の最も一般的な分類システムは、腫瘍−リンパ節−転移(TNM)分類である。Tの分類は、原発腫瘍の局所進展度、即ち、腫瘍がどれだけ広範に周囲組織に浸潤し、そして増殖したかについて説明する一方、Nの分類およびMの分類は、腫瘍がどれだけ転移を発達させてきたかを説明しており、Nの分類は、腫瘍のリンパ節への拡大を説明し、そしてMの分類は、他の離れた器官における腫瘍の増殖について説明している。初期のステージとして:T0〜1、N0、M0が挙げられ、リンパ節転移陰性の局在性の腫瘍を表す。より進行期のステージとして:より広範な増殖を伴う局在性の腫瘍を表すT2〜4、N0、M0が挙げられ、そしてリンパ節に転移した腫瘍を表すT1〜4、N1〜3、M0が挙げられ、そして離れた器官において転移が検出された腫瘍を表すT1〜4、N1〜3、M1が挙げられる。腫瘍の分類は、しばしば、外科的、放射線学的および病理組織学的分析を含むいくつかの形態の検査に基づく。分類に加えて、ほとんどの腫瘍タイプの悪性度のレベルを格付けするための分類システムも存在する。格付けシステムは、腫瘍組織サンプルの形態学的評価に依存し、そして所与の腫瘍において見出される顕微鏡的特徴に基づく。これらの格付けシステムは、腫瘍細胞の分化、増殖および異形の程度に基づき得る。一般的に用いられる格付けシステムの例として、前立腺癌を格付けするGleasonおよび乳癌を格付けするNottingham Histological Grade(NHG)が挙げられる。
【0007】
的確な分類および格付けは、正確な診断に極めて重要であることが多く、そして予後を予測するための道具を提供し得る。特定の腫瘍の診断および予後情報は、続いて、所与の癌患者の適切な処置ストラテジーを決定し得る。組織切片の組織化学染色に加えて、腫瘍に関する更なる情報を得るための一般に用いられる方法は、免疫組織化学染色である。IHCは、特異的抗体を使用する組織および細胞におけるタンパク質発現パターンの検出を可能にする。臨床診断においてIHCを使用すると、組織化学的に染色した腫瘍組織切片から評価される組織構造および細胞形態学に関する情報に加えて、異なる細胞集団における免疫反応性を検出することが可能になる。IHCは、原発腫瘍の分類および格付けを含む的確な診断を支持すること、ならびに起源が不明な転移の診断に関係し得る。今日の臨床診療において最も一般に使用される抗体として、細胞タイプ「特異的」タンパク質、例えば、PSA(前立腺)、MelanA(メラノサイト)およびサイログロブリン(甲状腺)に対する抗体、ならびに中間径フィラメント(上皮細胞、間葉細胞、グリア細胞)、白血球分化(CD)抗原(造血(hematopoetic)細胞、リンパ系(lympoid)細胞の下位分類)および悪性能のマーカー、例えば、Ki67(増殖)、p53(通例、変異した腫瘍抑制因子遺伝子)およびHER−2(増殖因子受容体)を認識する抗体が挙げられる。
【0008】
IHCの他に、遺伝子増幅を検出するためのインサイチュハイブリダイゼーションおよび変異分析の遺伝子配列決定の使用も、癌診断内の発展している技術である。加えて、転写物、タンパク質または代謝物の網羅的分析もすべて、関連の情報を追加する。しかし、これらの分析のほとんどはなお、基礎研究を想定しており、そして臨床医学における使用のための評価および標準化は未だ行われていない。
【0009】
結腸および直腸由来の腺癌(結腸直腸癌)
腺癌として現れる悪性上皮性腫瘍である結腸直腸癌は、世界的に最も多く見られる形態のヒト癌である。Parkinらにより提供されるGLOBOCAN 2002データベースのデータは、毎年約100万件の新規結腸直腸癌症例が特定されていることを示している(Parkin DM et al(2005) CA Cancer J Clin 55,74−108)。さらに、世界の結腸直腸癌発生率はすべての癌の約9.4%であり、結腸直腸癌は西洋諸国における死亡原因の第2位をなしている。結腸直腸癌の5年生存率は西洋諸国においては約60%であるが、東欧およびインドでは30%もの低さである。
【0010】
治療の成功には、通常、早期発見、および腫瘍の切除を伴う手術が決定的に重要である。限局性腫瘍、即ち転移性の疾患に進行していない腫瘍については、腫瘍ならびに周囲の腸および組織の根治切除を伴う外科的介入が実施される。結腸直腸腫瘍は、デュークス期A〜Dに従い、または最近ではTNM分類に従い、いくつかの病期に分類される。初期腫瘍(デュークス期AおよびB)は概して比較的良好な転帰と関連付けられ、一方、転移を呈する後期腫瘍(デュークス期CおよびD)は低い生存率を示す。残念ながら、結腸直腸腫瘍は検出時までに相当のサイズに成長していることが多く、転移が珍しくない。腫瘍は典型的には所属リンパ節に転移するが、肝臓および肺への遠隔転移もまたよく見られる。
【0011】
症状は、遠位消化管のどこに腫瘍が位置するかに依存し、腸障害、下痢、便秘、疼痛および貧血症(腫瘍からの腸内出血に続発する)が挙げられる。現行の診断法は、多くの場合に患者病歴、臨床検査および内視鏡検査(直腸鏡検査法および結腸鏡検査法)に基づき、場合により続いて放射線学的マッピングが行われ、腫瘍成長の広範さが判断される。内視鏡検査と共に、疑わしい病変部からの組織生検が実施される。
【0012】
判別的な診断法では、GI管の腺細胞に豊富にある中間径フィラメントマーカーであるサイトケラチン20(CK20)を一般に使用して、結腸直腸癌を含むGI管の原発腫瘍が診断される。いくつかの他の腺癌もまたCK20抗体について陽性となり得る一方、すべての結腸直腸癌が陽性であるとは限らないため、CK20マーカーは理想的でない。
【0013】
現在、追加的な予後データを提供する一般に認められた悪性度評価体系またはバイオマーカーはなく、予後情報は主に腫瘍病期分類から得られる。例えば、低悪性度の腫瘍と、高悪性度腫瘍から転移性の疾患に発展して生存可能性が低下するリスクが低い腫瘍とを区別することができるバイオマーカーは利用可能でない。従って、患者転帰を予測し、かつ治療介入を含む患者管理の指針とするために用いることのできる分子マーカーが極めて必要とされている。
【0014】
エンドポイント分析
癌のアジュバント治療による治験のエンドポイント分析から、患者が特定の治療法にどのように応答するかについて重要な情報が得られる。全生存率(OS)が長年にわたり標準的な主要エンドポイントと考えられている。OSは、原因、例えば死因が癌か否かに関係なく、死亡までの時間を考慮する。追跡不能例は打ち切り、局所再発、遠隔転移、続発性原発結腸直腸癌、および続発性の他の原発癌は無視する。
【0015】
今日では、多くのタイプの癌で利用可能な有効な治療が増加しており、そのためアジュバント治療の効果をより好適に評価することが可能な代替エンドポイントが必要となっている。従って、アジュバント治療がOSを改善することを実証するために必要なかなり長期の追跡は、治療の奏効程度についての初期の指標となる他の臨床エンドポイントによって補足されることが多い。
【0016】
本開示では、OS分析によって患者コホートを評価したが、しかしながら代替エンドポイント、即ち無病生存率(DFS)もまた考慮した。DFSの分析は、同じ癌に関連する任意のイベント、即ちあらゆる癌の再発までの時間を含み、かつ同じ癌による死亡はイベントである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
簡単な説明
本開示のいくつかの態様の目的は、結腸直腸癌の予後の確定方法を提供することである。
【0018】
さらに、本開示のいくつかの態様の目的は、結腸直腸癌の治療関連情報の入手方法および/または結腸直腸癌治療の実施方法を提供することである。
【0019】
また、本開示のいくつかの態様の目的は、上記の方法の一方または双方を実施する手段ならびに予後または治療関連情報の入手に有用な他の使用または手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
以下は、その態様のいくつかにおいて本発明により提供される様々な特徴および組み合わせの提供を目的として提示される本開示の実施形態の非制限的な項目別のリストである。
【0021】
項目
1.結腸直腸癌を有する哺乳動物対象が第1のグループに属するか、または第2のグループに属するかを判定する方法であって、第1のグループの対象の予後が第2のグループの対象の予後より良好であり、
a)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部におけるPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)からの前記サンプル値を所定の基準値と比較する工程;および
前記サンプル値が前記基準値より高い場合、
c1)対象が前記第2のグループに属すると結論付ける工程;および
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c2)対象が前記第1のグループに属すると結論付ける工程
を含む方法。
【0022】
2.第1のグループおよび第2のグループの各々が2つのサブグループαおよびβを有し、および第1のグループおよび第2のグループの各々においてサブグループαの対象の予後がサブグループβの対象の予後より良好である、項目1に記載の方法であって、
d)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部におけるCOX−2タンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
e)工程d)からの前記サンプル値を所定の基準値と比較する工程;および
工程d)からのサンプル値が工程e)の基準値より高い場合、
f1)対象がサブグループβに属すると結論付ける工程;および
工程d)からのサンプル値が工程e)の基準値以下である場合、
f2)対象がサブグループαに属すると結論付ける工程
をさらに含む、方法。
【0023】
3.工程a)のサンプルと工程d)のサンプルとは、組織サンプル、体液サンプル、糞便サンプルおよび細胞診サンプルからなる群から選択される同じタイプのサンプルである、項目2に記載の方法。
【0024】
4.工程a)のサンプルと工程d)のサンプルとが同じサンプルである、項目3に記載の方法。
【0025】
5.結腸直腸癌を有する哺乳動物対象の予後を判定する方法であって、
a)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)において得られたサンプル値を基準予後に関連する基準値と比較する工程;および、
前記サンプル値が前記基準値より高い場合、
c1)前記対象の予後が前記基準予後より不良であると結論付ける工程;または
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c2)前記対象の予後が前記基準予後と同等またはそれより良好であると結論付ける工程
を含む方法。
【0026】
6.結腸直腸癌を有する対象に結腸直腸癌治療レジメンによる治療が必要でないかどうかを判定する方法であって、
a)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)において得られたサンプル値を基準値と比較する工程;および、
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c)前記対象に前記結腸直腸癌治療レジメンによる治療が必要でないと結論付ける工程
を含む方法。
【0027】
7.結腸直腸癌を有する対象に対する無治療ストラテジー方法であって、
a)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)において得られたサンプル値を基準値と比較する工程;および、
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c)前記対象を結腸直腸癌治療レジメンにより治療することを取り止める工程
を含む方法。
【0028】
8.結腸直腸癌はCOX−2低である、項目6または7に記載の方法。
【0029】
9.結腸直腸癌を有する対象の治療方法であって、
a)対象からのサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)において得られたサンプル値を基準値と比較する工程;および、前記サンプル値が前記基準値より高い場合、
c)前記対象を結腸直腸癌治療レジメンで治療する工程
を含む方法。
【0030】
10.前記結腸直腸癌はCOX−2高である、項目9に記載の方法。
【0031】
11.前記結腸直腸癌治療レジメンはネオアジュバント療法および/またはアジュバント療法である、項目6〜10のいずれか一項に記載の方法。
【0032】
12.前記ネオアジュバント療法は放射線療法であり、および前記アジュバント療法は、結腸直腸癌化学療法、結腸直腸癌免疫療法、放射線療法およびそれらの組み合わせから選択される、項目11に記載の方法。
【0033】
13.前記結腸直腸癌は結腸に位置する、項目1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【0034】
14.前記結腸直腸癌はS状結腸に位置する、項目1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【0035】
15.前記結腸直腸癌は直腸に位置する、項目1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【0036】
16.前記結腸直腸癌は結腸直腸カルシノーマである、項目1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【0037】
17.前記予後は、全生存率または無病生存率などの生存確率である、項目1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【0038】
18.生存確率は、5年、10年または15年生存確率である、項目17に記載の方法。
【0039】
19.前記サンプルは、体液サンプル、糞便サンプルまたは細胞診サンプルである、項目1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【0040】
20.前記体液サンプルは、血液、血漿、血清、脳脊髄液、尿、精液および滲出液からなる群から選択される、項目19に記載の方法。
【0041】
21.前記サンプルは、前記対象からの腫瘍細胞などの細胞を含む、項目1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【0042】
22.前記サンプルは組織サンプルである、項目1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【0043】
23.前記組織サンプルは腫瘍細胞を含む、項目23に記載の方法。
【0044】
24.前記組織サンプルは結腸または直腸に由来する、項目24に記載の方法。
【0045】
25.前記組織サンプルはS状結腸に由来する、項目20に記載の方法。
【0046】
26.工程a)の評価は、前記サンプルの細胞の細胞膜および/または細胞質に限定される、項目21〜25のいずれか一項に記載の方法。
【0047】
27.工程a)の評価は、前記サンプルの腫瘍細胞の細胞膜および/または細胞質に限定される、項目26に記載の方法。
【0048】
28.前記対象はヒトである、項目1〜27のいずれか一項に記載の方法。
【0049】
29.前記基準値は、基準サンプル中の所定量のPODXLタンパク質に対応する値である、項目1〜28のいずれか一項に記載の方法。
【0050】
30.工程a)のサンプル値は、サンプル中の検出可能なPODXLタンパク質に対応する1か、またはサンプル中の検出不能なPODXLタンパク質に対応する0かのいずれかとして決定される、項目1〜29のいずれか一項に記載の方法。
【0051】
31.工程b)の基準値は、検出可能なPODXLタンパク質を有しない基準サンプルに対応する、項目1〜30のいずれか一項に記載の方法。
【0052】
32.工程b)またはe)の基準値は0である、項目1〜31のいずれか一項に記載の方法。
【0053】
33.前記基準値は、細胞質画分、細胞質強度、または細胞質画分と細胞質強度との関数である、項目1〜32のいずれか一項に記載の方法。
【0054】
34.前記b)の基準値は弱い細胞質強度である、項目33に記載の方法。
【0055】
35.前記b)の基準値は細胞質強度不在である、項目33に記載の方法。
【0056】
36.前記b)の基準値は60%以下の細胞質画分である、項目33に記載の方法。
【0057】
37.前記b)の基準値は、5%以下、例えば1%以下の細胞質画分である、項目36に記載の方法。
【0058】
38.PODXLタンパク質のアミノ酸配列は、
i)配列番号1;および
ii)配列番号1と少なくとも85%同一である配列
から選択される配列を含む、項目1〜37のいずれか一項に記載の方法。
【0059】
39.PODXLタンパク質のアミノ酸配列は、
i)配列番号2または3;および
ii)配列番号2または3と少なくとも85%同一である配列
から選択される配列を含むか、またはそれからなる、項目1〜38のいずれか一項に記載の方法。
【0060】
40.工程a)は、
aI)工程a)の前記サンプルに、評価しようとするPODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な定量可能な親和性リガンドを適用する工程であって、前記適用は、サンプル中に存在するPODXLタンパク質との親和性リガンドの結合を可能にする条件下で実施される工程;および
aII)前記サンプルに結合した親和性リガンドを定量して、前記量を評価する工程
を含む、項目1〜39のいずれか一項に記載の方法。
【0061】
41.工程a)は、
a1)前記サンプルまたは工程a)に、定量しようとするPODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な定量可能な親和性リガンドを適用する工程であって、前記適用は、サンプル中に存在するPODXLタンパク質との親和性リガンドの結合を可能にする条件下で実施される工程;
a2)非結合親和性リガンドを取り除く工程;および
a3)サンプルとの会合において残留する親和性リガンドを定量して、前記量を評価する工程
を含む、項目1〜40のいずれか一項に記載の方法。
【0062】
42.定量可能な親和性リガンドは、抗体、そのフラグメントおよびその誘導体からなる群から選択される、項目40または41に記載の方法。
【0063】
43.前記定量可能な親和性リガンドは、アミノ酸配列が配列番号1の配列からなるペプチドで動物を免疫化する工程を含む方法により得ることが可能である、項目42に記載の方法。
【0064】
44.前記定量可能な親和性リガンドはオリゴヌクレオチド分子である、項目40または41に記載の方法。
【0065】
45.定量可能な親和性リガンドは、ブドウ球菌プロテインAおよびそのドメイン、リポカリン、アンキリンリピートドメイン、セルロース結合ドメイン、γクリスタリン、緑色蛍光タンパク質、ヒト細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4、プロテアーゼ阻害剤、PDZドメイン、ペプチドアプタマー、スタフィロコッカルヌクレアーゼ、テンダミスタット、フィブロネクチンIII型ドメインおよびジンクフィンガーからなる群から選択される足場から誘導されるタンパク質リガンドである、項目40または41に記載の方法。
【0066】
46.前記定量可能な親和性リガンドは、アミノ酸配列が配列番号1の配列からなるペプチドとの選択的相互作用が可能である、項目40〜45のいずれか一項に記載の方法。
【0067】
47.定量可能な親和性リガンドは、蛍光染料および金属、発色団染料、化学発光化合物および生物発光タンパク質、酵素、放射性同位元素、粒子および量子ドットからなる群から選択される標識を含む、項目40〜46のいずれか一項に記載の方法。
【0068】
48.前記定量可能な親和性リガンドは、定量可能な親和性リガンドを認識することが可能な2次親和性リガンドを使用して検出される、項目40〜47のいずれか一項に記載の方法。
【0069】
49.定量可能な親和性リガンドを認識することが可能な前記2次親和性リガンドは、蛍光染料および金属、発色団染料、化学発光化合物および生物発光タンパク質、酵素、放射性同位元素、粒子および量子ドットからなる群から選択される標識を含む、項目48に記載の方法。
【0070】
50.a)PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な定量可能な親和性リガンド;
b)a)の定量可能な親和性リガンドの量を定量するのに必要な試薬;
c)COX−2タンパク質との選択的相互作用が可能な定量可能な親和性リガンド;および
d)c)の定量可能な親和性リガンドの量を定量するのに必要な試薬
を含む、結腸直腸癌の予後を確定するためのキットであって、
b)およびd)の試薬が同じであるか、または異なる、キット。
【0071】
51.a)および/またはc)の親和性リガンドは、抗体、そのフラグメントおよびその誘導体からなる群から選択される、項目50に記載のキット。
【0072】
52.a)の親和性リガンドは、アミノ酸配列が配列番号1の配列からなるタンパク質で動物を免疫化する工程を含む方法により得ることができる、項目51に記載のキット。
【0073】
53.a)および/またはc)の親和性リガンドは、ブドウ球菌プロテインAおよびそのドメイン、リポカリン、アンキリンリピートドメイン、セルロース結合ドメイン、γクリスタリン、緑色蛍光タンパク質、ヒト細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4、プロテアーゼ阻害剤、PDZドメイン、ペプチドアプタマー、スタフィロコッカルヌクレアーゼ、テンダミスタット、フィブロネクチンIII型ドメインおよびジンクフィンガーからなる群から選択される足場から誘導されるタンパク質リガンドである、項目50に記載のキット。
【0074】
54.a)および/またはc)の親和性リガンドは、オリゴヌクレオチド分子である、項目50に記載のキット。
【0075】
55.a)の親和性リガンドは、
i)配列番号2または3;および
ii)配列番号2または3と少なくとも85%同一である配列
から選択される配列を含むか、またはそれからなるPODXLタンパク質との選択的相互作用が可能である、項目50〜54のいずれか一項に記載のキット。
【0076】
56.a)の親和性リガンドは、
i)配列番号1;および
ii)配列番号1と少なくとも85%同一である配列
から選択される配列を含むか、またはそれからなるPODXLタンパク質との選択的相互作用が可能である、項目50〜55のいずれか一項に記載のキット。
【0077】
57.a)および/またはc)の親和性リガンドは、蛍光染料および金属、発色団染料、化学発光化合物および生物発光タンパク質、酵素、放射性同位元素、粒子および量子ドットからなる群から選択される標識を含む、項目50〜56のいずれか一項に記載のキット。
【0078】
58.b)および/またはd)の前記試薬は、前記定量可能な親和性リガンドを認識することが可能な2次親和性リガンドを含む、項目50〜57のいずれか一項に記載のキット。
【0079】
59.前記2次親和性リガンドは、蛍光染料または金属、発色団染料、化学発光化合物および生物発光タンパク質、酵素、放射性同位元素、粒子および量子ドットからなる群から選択される標識を含む、項目58に記載のキット。
【0080】
60.基準値を提供するための少なくとも1つの基準サンプルをさらに含む、項目50〜59のいずれか一項に記載のキット。
【0081】
61.少なくとも1つの基準サンプルは、検出可能なPODXLタンパク質を含まない組織サンプルである、項目60に記載のキット。
【0082】
62.少なくとも1つの基準サンプルはPODXLタンパク質を含み、および/または少なくとも1つの基準サンプルはCOX−2を含む、項目60または61に記載のキット。
【0083】
63.少なくとも1つの基準サンプルは、弱い細胞質強度に対応するPODXLタンパク質の量を含む、項目60〜62のいずれか一項に記載のキット。
【0084】
64.少なくとも1つの基準サンプルは、細胞質強度不在に対応するPODXLタンパク質の量を含む、項目60〜62のいずれか一項に記載のキット。
【0085】
65.少なくとも1つの基準サンプルは、60%以下の細胞質画分に対応するPODXLタンパク質の量を含む、項目60〜62のいずれか一項に記載のキット。
【0086】
66.少なくとも1つの基準サンプルは、5%以下、例えば1%以下の細胞質画分に対応するPODXLタンパク質の量を含む、項目65に記載のキット。
【0087】
67.少なくとも1つの基準サンプルは、PODXLタンパク質基準値より高い値に対応するPODXLタンパク質の量を含む、項目60〜66のいずれか一項に記載のキット。
【0088】
68.少なくとも1つの基準サンプルは、強い細胞質強度に対応するPODXLタンパク質の量を含む、項目67に記載のキット。
【0089】
69.少なくとも1つの基準サンプルは、75%以上の細胞質画分に対応するPODXLタンパク質の量を含む、項目67または68に記載のキット。
【0090】
70.基準値より高い値(陽性基準値)に対応するPODXLタンパク質の量を含む第1の基準サンプル;および
前記基準値以下の値(陰性基準値)に対応するPODXLタンパク質の量を含む第2の基準サンプル
を含む、項目60〜69のいずれか一項に記載のキット。
【0091】
71.少なくとも1つの基準サンプルは、COX−2基準値より高い値に対応するCOX−2の量を含む、項目60〜70のいずれか一項に記載のキット。
【0092】
72.少なくとも1つの基準サンプルは、強い細胞質強度に対応するCOX−2の量を含む、項目71に記載のキット。
【0093】
73.少なくとも1つの基準サンプルは、75%以上の細胞質画分に対応するCOX−2タンパク質の量を含む、項目71または72に記載のキット。
【0094】
74.基準値より高い値(陽性基準値)に対応するCOX−2の量を含む第1の基準サンプル;および
前記基準値以下の値(陰性基準値)に対応するCOX−2の量を含む第2の基準サンプル
を含む、項目60〜73のいずれか一項に記載のキット。
【0095】
75.前記1つ以上の基準サンプルは細胞系統を含む、項目60〜74のいずれか一項に記載のキット。
【0096】
76.結腸直腸癌の予後マーカーとしてのPODXLタンパク質のインビトロでの使用。
【0097】
77.前記タンパク質は、結腸直腸癌を有する対象からの生体試料中に提供される、項目76に記載の使用。
【0098】
78.前記タンパク質は、腫瘍細胞を含む結腸直腸組織サンプル中に提供される、項目77に記載の使用。
【0099】
79.前記結腸直腸組織サンプルは結腸サンプルである、項目78に記載の使用。
【0100】
80.前記結腸直腸組織サンプルはS状結腸サンプルである、項目79に記載の使用。
【0101】
81.結腸直腸癌を有する哺乳動物対象についての予後の確定用予後診断剤を選択または精製するための、PODXLタンパク質、またはその抗原活性フラグメントのインビトロでの使用。
【0102】
82.結腸直腸癌を有する哺乳動物対象についての予後の確定用予後診断剤を産生するための免疫化における抗原としての、PODXLタンパク質、またはその抗原活性フラグメントの使用。
【0103】
83.PODXLタンパク質のアミノ酸配列は、
i)配列番号1;および
ii)配列番号1と少なくとも85%同一である配列
から選択される配列を含む、項目76〜82のいずれか一項に記載の使用。
【0104】
84.PODXLタンパク質のアミノ酸配列は、
i)配列番号2または3;および
ii)配列番号2または3と少なくとも85%同一である配列
から選択される配列を含むか、またはそれからなる、項目76〜83のいずれか一項に記載の使用。
【0105】
85.PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドの、結腸直腸癌の予後診断剤としてのインビトロでの使用。
【0106】
86.前記予後診断剤は、PODXLタンパク質、またはその抗原活性フラグメントとの選択的相互作用が可能な親和性リガンドである、項目85に記載の使用。
【0107】
87.結腸直腸癌を有する哺乳動物対象についての予後のインビボでの確定用予後診断剤の製造における、PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドの使用。
【0108】
88.前記親和性リガンドは、アミノ酸配列が配列番号1の配列からなるペプチドで動物を免疫化する工程を含む方法により得ることができる、項目85〜87のいずれか一項に記載の使用。
【0109】
89.前記親和性リガンドは、アミノ酸配列が配列番号1の配列からなるペプチドとの選択的相互作用が可能である、項目85〜88のいずれか一項に記載の使用。
【0110】
90.20アミノ酸以下、例えば15アミノ酸以下からなり、かつ配列番号10〜15から選択されるアミノ酸配列を含むPODXLタンパク質フラグメントとの選択的相互作用が可能な親和性リガンド。
【0111】
91.結腸直腸癌を有する対象の治療に使用するための、PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンド。
【0112】
92.PODXLタンパク質の細胞外領域である配列番号6または7との選択的相互作用が可能な、項目91に記載の親和性リガンド。
【0113】
93.アミノ酸配列が配列番号1の配列からなるペプチドとの選択的相互作用が可能である、項目92に記載の親和性リガンド。
【0114】
94.モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である、項目91〜93のいずれか一項に記載の親和性リガンド。
【0115】
95.前記結腸直腸癌は、結腸癌、例えばS状結腸癌である、項目91〜94のいずれか一項に記載の親和性リガンド。
【0116】
96.PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドの有効量を投与する工程を含む、結腸直腸癌を有する対象の治療方法。
【0117】
97.親和性リガンドは、PODXLタンパク質の細胞外領域である配列番号6または7との選択的相互作用が可能である、項目96に記載の方法。
【0118】
98.親和性リガンドは、アミノ酸配列が配列番号1の配列からなるペプチドとの選択的相互作用が可能である、項目97に記載の方法。
【0119】
99.親和性リガンドは、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体、またはそのフラグメントである、項目96〜98のいずれか一項に記載の方法。
【0120】
100.項目90〜94のいずれか一項に記載の治療用親和性リガンドを産生するための免疫化における抗原としての、PODXLタンパク質、またはその抗原活性フラグメントの使用。
【0121】
101.PODXLタンパク質は、細胞外領域である配列番号6または7またはその部分配列からなる、項目100に記載の使用。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】S状結腸癌と診断された279人の対象の生存率分析の結果を示す。簡単に説明すると、対象をPODXLタンパク質発現に基づき4グループに分けた。「0」は、細胞質強度(CI)不在かつ<1%の細胞質画分(CF)を表す。「1」は、弱いCIかつ>1%のCFを表す。「2」は、中等度のまたは強いCIかつ1〜50%のCFを表す。最後に「3」は、中等度のまたは強いCIかつ>50%のCFを表す。図1Aは全生存率(OS)を示し、図1Bは無病生存率(DFS)を示す。
【図2】S状結腸癌と診断された279人の対象の生存率分析の結果を示す。簡単に説明すると、対象をPODXLタンパク質発現に基づき2グループに分け、ここで「低」は、図1による「0」または「1」を表し、「高」は、図1による「2」または「3」を表す。図2AはOSを示し、図2BはDFSを示す。
【図3】S状結腸癌と診断された279人の対象の生存率分析の結果を示す。簡単に説明すると、対象をPODXLタンパク質発現に基づき2グループに分け、ここで「低」は、図1による「0」を表し、「高」は、図1による「1」、「2」または「3」を表す。図3AはOSを示し、図3BはDFSを示す。
【図4】S状結腸癌と診断された279人の対象の生存率分析の結果を示す。簡単に説明すると、対象をPODXLタンパク質およびCOX−2の発現に基づき4グループに分けた。「0」は、PODXLタンパク質低かつCOX−2低である対象を表す。「1」は、PODXLタンパク質低かつCOX−2高である対象を表す。「2」は、PODXLタンパク質高かつCOX−2低である対象を表す。最後に「3」は、PODXLタンパク質高かつCOX−2高である対象を表す。「PODXLタンパク質低」および「PODXLタンパク質高」は図2のとおりである。「COX−2低」は、<10%のCFおよび/または不在の、弱い、もしくは中等度のCIである。「COX−2高」は、≧10%のCFかつ強いCIである。
【図5】S状結腸癌と診断された279人の対象の生存率分析の結果を示す。簡単に説明すると、対象をPODXLタンパク質およびCOX−2の発現に基づき2グループに分けた。「0」は、PODXLタンパク質低および/またはCOX−2低である対象を表す。「1」=PODXL高かつCOX−2高である対象を表す。「PODXLタンパク質低」および「PODXLタンパク質高」は図2のとおりである。「COX−2低」は、<10%のCFおよび/または不在の、弱い、もしくは中等度のCIである。「COX−2高」は、≧10%のCFかつ強いCIである。図5AはOSを示し、図5BはDFSを示す。
【図6】結腸直腸癌と診断された112人の対象のOS分析の結果を示す。図6Aでは、対象を図1と同じ方法で4グループに分けた。図6Bでは、対象を図2と同じ方法で2グループに分けた。
【図7】結腸癌と診断された50人の対象のOS分析の結果を示す。簡単に説明すると、対象を図2と同じ方法で2グループに分けた。
【図8A】結腸直腸癌と診断された112人の対象のOS分析の結果を示す。簡単に説明すると、対象をPODXLタンパク質およびCOX−2の発現に基づき4グループに分けた。「0」は、PODXLタンパク質低かつCOX−2低である対象を表す。「1」は、PODXLタンパク質低かつCOX−2高である対象を表す。「2」は、PODXLタンパク質高かつCOX−2低である対象を表す。最後に「3」は、PODXLタンパク質高かつCOX−2高である対象を表す。「PODXLタンパク質低」および「PODXLタンパク質高」は図2のとおりである。「COX−2低」は、<10%のCFおよび/または不在のもしくは弱いCIである。「COX−2高」は、≧10%のCFかつ中等度のまたは強いCIである。
【図8B】結腸直腸癌と診断された112人の対象のOS分析の結果を示す。簡単に説明すると、対象をPODXLタンパク質およびCOX−2の発現に基づき2グループに分けた。「0」は、PODXLタンパク質低および/またはCOX−2低である対象を表す。「1」=PODXL高かつCOX−2高である対象を表す。「PODXLタンパク質低」は、不在のまたは弱いCIである。「PODXLタンパク質高」は、中等度のまたは強いCIである。「COX−2低」は、<10%のCFおよび/または不在のもしくは弱いCIである。「COX−2高」は、≧10%のCFかつ中等度のまたは強いCIである。
【図9A】270人の結腸直腸癌患者(結腸直腸癌コホートII)についての全生存率を、IHC分析により決定されるとおりの不在の、弱い、中等度の、および強いPODXL発現(スコア0〜3)で示す。「0」は、細胞質強度(CI)不在かつ<1%の細胞質画分(CF)を表す。「1」は、弱いCIかつ>1%のCFを表す。「2」は、中等度のまたは強いCIかつ1〜50%のCFを表す。最後に「3」は、中等度のまたは強いCIかつ>50%のCFを表す。
【図9B】270人の結腸直腸癌患者(結腸直腸癌コホートII)についての全生存率を、不在のまたは弱いPODXL発現(実線)、および中等度のまたは高いPODXL発現(点線)で示す。「不在または弱い」は、図9Aによる「0」または「1」を表し、「中等度または高い」は、図9Aによる「2」または「3」を表す。
【図10A】高度に分化した腫瘍を有する結腸直腸癌コホートIIの患者21人についての全生存率を示す。簡単に説明すると、対象をPODXLタンパク質発現に基づき2グループに分けた。PODXL発現の不在(実線)が図9Aによる「0」を表し、PODXLについて陽性染色された腫瘍(点線)が、図9Aによる「1」、「2」または「3」を表す。
【図10B】PODXL発現について分析したデュークス期Aの腫瘍を有する結腸直腸癌コホートIIの患者42人についての全生存率を示す。簡単に説明すると、対象をPODXLタンパク質発現に基づき2グループに分けた。不在のまたは弱いPODXL発現(実線)が、図9Aによる「0」または「1」を表し、PODXLについて陽性染色された腫瘍(点線)が、図9Aによる「2」または「3」を表す。
【図11】インビトロでのヒト結腸癌生細胞の表面に対するポリクローナル抗PODXL抗体の結合を示す。図の垂直線によって示されるとおり、漸増濃度の抗PODXL抗体をCACO−2細胞に添加した。約5時間後、同様に図の垂直線によって示されるとおり、抗PODXL抗体を除去し、細胞を洗浄して、新鮮な完全培地のみとインキュベートした。従って、5時間後以降は保持相を見ることができる。
【図12】抗PODXLポリクローナル抗体のエピトープマッピングを示す。長さが15アミノ酸(aa)で10aaが重複する、全PrEST領域(配列番号1)を網羅する26の異なるペプチドに結合する抗体を示す。y軸は蛍光強度を表す。
【発明を実施するための形態】
【0123】
従って、本開示の第1の態様として、結腸直腸癌を有する哺乳動物対象が第1のグループに属するか、または第2のグループに属するかを判定する方法が提供され、ここで第1のグループの対象の予後は第2のグループの対象の予後より良好であり、この方法は、
a)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部におけるPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)からの前記サンプル値を所定の基準値と比較する工程;および
前記サンプル値が前記基準値より高い場合、
c1)対象が前記第2のグループに属すると結論付ける工程;および
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c2)対象が前記第1のグループに属すると結論付ける工程
を含む。
【0124】
PODXLタンパク質のレベルが結腸直腸癌を有する対象の予後を示し得るという知見に基づく本態様には、数多くの利点がある。一般に、予後の確定は医師による適切な治療方針の選択を促進し得るため、極めて重要であり得る。例えば、予後不良の癌形態が特定される場合、痛みを伴う、または他のいかなる意味においても不快な、通常は回避される治療が、いずれにしても考慮され得る。さらに、予後良好の癌形態を特定し得る場合、過剰な治療が回避され得る。さらなる例として、その一定レベルの発現が一定の疾患進行パターンと相関するマーカーとしてのPODXLタンパク質は、例えば、予測または予後を立てるための、または治療レジメンを選択するためのパネルにおいて大きい可能性がある。
【0125】
第1の態様の方法において、結腸直腸癌対象が第1のグループに属するか、または第2のグループに属するかが決定され、ここで第1のグループの対象は、概して第2のグループの対象より予後が良好である。結腸直腸癌対象のこの2つのグループへの分割は、対象のサンプル値を基準値と比較することにより決定される。本開示では、概して比較的長期間生存する対象と、概して比較的短期間生存する対象とを区別するために、様々な基準値を用い得ることが示される。従って、基準値がそれぞれの群のサイズを決定する因子であり;基準値が低いほど、第1のグループの対象が少数となり、被験対象が第1のグループに属する可能性が低くなる。一般的にPODXL発現レベルが高くなるほど生存時間は短くなるため、ある場合には、特に予後が不良である対象を特定するために高い基準値が選択され得る。本開示を指針として、当業者は過度の負担を伴うことなく関連する基準値を選択し得る。これについては以下でさらに考察する。
【0126】
第1のグループおよび第2のグループは、被験対象と同じ、または同様の病期、分化度および/または位置の結腸直腸癌を有する対象のみからなってもよい。さらに、グループは、同じ、または同様の年齢、人種、性別、遺伝的な(異端の(heretic))特徴または医学的状態もしくは病歴を有する対象のみからなってもよい。
【0127】
従って、医師は第1の態様に従う方法を用いて結腸直腸癌対象の予後に関するさらなる情報を得ることができ、次にはその情報により、最も適切な治療レジメンの選択が促進され得る。例えば、第1の態様の方法を用いて第2のグループに属することが示された対象には、他の場合に考慮され得たものより攻撃性の高い治療が与えられてもよく、逆も同様であり得る。
【0128】
さらに、本発明者らは、対象からのサンプルにおいてCOX−2タンパク質のレベルも計測する場合に、さらにより詳細な予後が得られ得ることを理解した。これは図4、図5および図8に示され、以下でさらに考察する。
【0129】
従って、第1の態様の実施形態において、第1のグループおよび第2のグループの各々は2つのサブグループαおよびβを有し、ここで第1のグループおよび第2のグループの各々においてサブグループαの対象の予後がサブグループβの対象の予後より良好であり、この方法は、
d)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部におけるCOX−2タンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
e)工程d)からの前記サンプル値を所定の基準値と比較する工程;および
工程d)からのサンプル値が工程e)の基準値より高い場合、
f1)対象がサブグループβに属すると結論付ける工程;および
工程d)からのサンプル値が工程e)の基準値以下である場合、
f2)対象がサブグループαに属すると結論付ける工程
をさらに含む。
【0130】
図4および図8aに見られるとおり、PODXLおよびCOX−2の双方のタンパク質とも基準値より高いレベルを発現する対象は特に予後が不良であり、一方、PODXLおよびCOX−2の双方のタンパク質とも基準値以下のレベルを発現する対象は、特に予後が良好である。
【0131】
従ってPODXLタンパク質のレベルを計測することにより得られる予後情報は、同様にCOX−2タンパク質のレベルを計測することによりさらに確定的となり得る。
【0132】
いくつかの実施形態において、工程a)のサンプルと工程d)のサンプルとは、組織サンプル、体液サンプル、糞便サンプルおよび細胞診サンプルからなる群について選択される同じタイプのサンプルであってもよい。従って、対象から1つのタイプのサンプルを採取するだけで十分であり得るため、試験手順が簡略化され、対象の生体に対する不快な/痛みを伴う干渉を最小限に抑えることができる。工程a)のサンプルおよび工程d)のサンプルもまた同じサンプルであってよく、これによってさらに手順が簡略化され、不快感/痛みが低減される。
【0133】
PODXLタンパク質およびCOX−2タンパク質の双方の計測に関する実施形態は、以下に提供される第1の態様の構成ならびに第2の態様に準用される。
【0134】
被験対象の予後はまた、基準予後に対して決定されてもよい。従って、第1の態様の第1の構成として、結腸直腸癌を有する哺乳動物対象の予後を判定する方法であって、
a)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)において得られたサンプル値を基準予後に関連する基準値と比較する工程;および、
前記サンプル値が前記基準値より高い場合、
c1)前記対象の予後が前記基準予後より不良であると結論付ける工程;および/または
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c2)前記対象の予後が前記基準予後と同等またはそれより良好であると結論付ける工程
を含む方法が提供される。
【0135】
しかしながら、同じ概念に密接に関係し、かつそれに包含されるc1)とc2)とは、2つの代替的な結論を提供する。
【0136】
本開示では、様々な予後に対応する種々のPODXLタンパク質値(サンプル値)が提示される。典型的には、低いサンプル値は高いサンプル値と比べてより良好な予後と関連付けられる。第1の態様の第1の構成の方法において、サンプル値が基準値と比較され、サンプル値が基準値以下である場合、その対象の予後は、基準値に関連する基準予後と同等か、またはそれ以上に良好であると結論付けられる。
【0137】
従って、本方法は基準値に適合され得る。その場合、その状況下で関連性があると考えられるサンプル値から始めて、そのサンプル値に等しい基準値を選択してもよい。続いて、当該の基準値に関連する基準予後が確定され得る。本開示を指針として、当業者は、所与の基準値に対応する基準予後をどのように確定すればよいか理解する。例えば、以下の実施例セクション3またはセクション4の記載内容に従い、関連する癌患者グループにおけるサンプル値と生存率データとの間の関係を調べてもよい。そこに記載される手順は、所与の基準値に適合され得る。次に、所与の基準値に対応する予後を基準予後として選択することができる。
【0138】
また、上記の方法は、所与の基準予後に適合され得る。その場合、その状況下で、例えば適切な治療法を選択するために関連性があると考えられる基準予後から始めて、対応する基準値を確定してもよい。本開示を指針として、当業者は、所与の基準予後に対応する基準値をどのように確定すればよいか理解する。例えば、癌患者グループにおけるサンプル値と生存率データとの間の関係を、以下の実施例セクション3またはセクション4のとおりに調べてもよく、しかしながらそこに記載される手順は、所与の基準予後に対応する基準値の確定に適合させることができる。例えば、所与の基準予後と相関する基準値が見つかるまで、種々の基準値を試験してもよい。
【0139】
従って、基準予後は、例えば関連する対象集団を調べることによって得られた、それ以前に確定された予後に基づき得る。このような基準集団は、被験対象の年齢、性別、人種、デュークス期および/または医学的状態および病歴が一致するように選択され得る。さらに、予後は、母集団における背景リスク、統計的な予後/リスクまたは対象の調査に基づく仮定に適合され得る。このような調査はまた、対象の年齢、性別、人種、デュークス癌病期、閉経状態および/または医学的状態および病歴を含み得る。従って、医師は、例えば基準予後を、対象の結腸直腸癌病歴、腫瘍の病期、腫瘍の形態、腫瘍の位置、閉経状態、転移の存在および広がりおよび/またはさらなる癌の特徴に適合させることができる。
【0140】
本開示の発明概念はまた、特定の治療レジメンを取り止める判断の根拠となり得る。
【0141】
例えば、添付の図に示されるとおり、低いPODXLタンパク質レベルを示す対象の予後は、一般的に、高いPODXLタンパク質レベルを示す対象の予後より良好である。本開示の教示の提供により、医師はPODXLタンパク質低の対象の予後を、特定のアジュバント治療レジメンを回避して、代わりに攻撃性の低いアジュバント治療レジメンを選択するほどに良好であると考えることができる。例えば、併用療法ではなく単独療法が選択されてもよく、または治療剤がより低用量で処方されてもよい。また、ある場合には、判断は、あらゆる種類のアジュバント治療を取り止めることであってもよい。結論として、本開示は対象を過剰治療から解放し得る。
【0142】
従って、第1の態様の第2の構成として、結腸直腸癌を有する対象に結腸直腸癌治療レジメンによる治療が必要でないかどうかを判定する方法であって、
a)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)において得られたサンプル値を基準値と比較する工程;および、
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c)前記対象に前記結腸直腸癌治療レジメンによる治療が必要でないと結論付ける工程
を含む方法が提供される。
【0143】
さらに、第1の態様の第3の構成として、結腸直腸癌を有する対象に対する無治療ストラテジー方法であって、
a)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)において得られたサンプル値を基準値と比較する工程;および、
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c)前記対象を結腸直腸癌治療レジメンにより治療することを取り止める工程
を含む方法が提供される。
【0144】
例えば、第5の構成の工程c)の取り止める工程は、工程a)〜b)の完了から少なくとも1週間、例えば工程a)〜b)の完了から少なくとも1ヶ月間、例えば工程a)〜b)の完了から少なくとも3ヶ月間、例えば工程a)〜b)の完了から少なくとも6ヶ月間、例えば工程a)〜b)の完了から少なくとも1年間、例えば工程a)〜b)の完了から少なくとも2年間にわたり、治療を取り止めることであり得る。
【0145】
あるいは、工程c)の取り止める工程は、その次に本方法が実施されるまで、または結腸直腸癌腫瘍が再発するまで、治療を取り止めることであり得る。
【0146】
上記に考察され、かつ図4に示されるとおり、PODXLタンパク質およびCOX−2の双方について比較的低いレベルを示す対象は特に予後が良好であり、従って特定の治療が必要でなくてもよい。
【0147】
従って、第1の態様の第2および第3の構成の方法の実施形態は、COX−2の計測を含み得る(上記を参照)。また、第1の態様の第2および第3の構成の実施形態において、対象はCOX−2低であり得る。
【0148】
「COX−2低」は、対象から計測されたCOX−2レベルが基準レベル以下であることを指す。従って「COX−2高」は、対象から計測されたCOX−2レベルが基準レベルより高いことを指す。従って「COX−2高」は常に、少なくとも、対象の生体の関連する一部または対象の生体からの関連するサンプル中における検出可能なCOX−2に対応する。例えば、「COX−2高」は、COX−2の評価が関わる第1の態様の上記の実施形態の記載内容によればCOX−2サンプル値が基準値より高いことであり得る。本開示では、2つの異なる定義の「COX−2高」が用いられる。一つの定義は、対象からのサンプルが≧10%のCFかつ中等度のまたは強いCIを示すことである。もう一つの定義は、対象からのサンプルが≧10%のCFかつ強いCIを示すことである。対象が「COX−2高」でない場合、それは「COX−2低」である。一般に、対象が「COX−2高」であるか、または「COX−2低」であるかの決定に用いられるカットオフは、その区分けが臨床的に関連性のあるものとなるように選択されなければならない。10%のCF(CIと関係なく)もまた、カットオフとして用いられ得る(Lambropoulou M et al(2009) J Cancer Res Clin Oncol,Sep 16も参照のこと)。本開示の教示を考慮すれば、当業者は、「COX−2高」と「COX−2低」とをどのように区別すれば関連する予後情報を得られるかについて理解する。
【0149】
第1の態様の代替的構成として、結腸直腸癌を有する哺乳動物対象についての予後を確定する方法であって、
a)対象からのサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;および
b)工程a)のサンプル値を対象の予後と関係付ける工程
を含む方法が提供される。
【0150】
本開示に関連して、「予後の確定」は、具体的な予後または予後間隔を確定することを指す。
【0151】
代替的構成の実施形態では、サンプルは事前に得られたサンプルであり得る。
【0152】
工程b)の関係付ける工程は、対象の予後を確定するために生存率データを得られたサンプル値に関連させる任意の方法を指す。
【0153】
一般に、結腸直腸癌を有する患者に好適な治療方針を判断するとき、治療の責任を負う医師は、免疫組織化学的評価の結果、患者の年齢、腫瘍の型、病期および悪性度、全身状態および病歴、例えば結腸直腸癌病歴などのいくつかのパラメータを考慮し得る。判断における指針とするため、医師は、第1の態様に従いPODXLタンパク質試験を実施してもよく、または実施すべきPODXLタンパク質試験を発注してもよい。さらに医師は、医師自身が工程c)、および場合によりb)を実施する一方で、実験室の研究員などの他の誰かに工程a)、および場合により工程b)の実施を割り振ってもよい。
【0154】
本開示の発明の概念はまた、様々な治療レジームを適用する根拠にもなり得る。
【0155】
例えば、添付の図に示されるとおり、高いPODXLタンパク質レベルを示す対象の予後は、一般的に、低いPODXLタンパク質レベルを示す対象の予後と比べて不良である。本開示の教示を前提とすれば、従って医師は、PODXLタンパク質高の対象の予後を、特定のアジュバント治療レジメンが適切であるほど不良であると考えることができる。対象が同時にCOX2高である場合、その治療の好適性をさらに強く示すものであり得る。従って本開示は、これまで治療が不十分であった集団の正確な治療をもたらし得る。
【0156】
従って、本開示の第2の態様として、結腸直腸癌を有する対象の治療方法であって、
a)対象からのサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)において得られたサンプル値を基準値と比較する工程;
および、前記サンプル値が前記基準値より高い場合、
c)前記対象を結腸直腸癌治療レジメンで治療する工程
を含む方法が提供される。
【0157】
一実施形態によれば、本方法は、
d)および、前記サンプル値が前記基準値以下である場合、前記対象を結腸直腸癌治療レジメンで治療することを取り止めるさらなる工程
を含み得る。
【0158】
第2の態様の一実施形態において、工程b)の基準値は基準予後と関連付けられてもよく、および工程c)の前記治療レジメンは、基準予後より不良である予後に適合され得る。第2の態様のかかる実施形態において、本方法は、d)および、前記サンプル値が前記基準値以下である場合、前記対象を、基準予後と同等またはそれより良好な予後であって、適切な治療レジメンが無治療であってもよい予後に適合された治療レジメンで治療するさらなる工程を含み得る。
【0159】
第2の態様の実施形態は、例えばCOX−2の計測を含み得る(上記を参照)。また、第2の態様の実施形態において、対象はCOX−2高であり得る。
【0160】
工程c)の治療は、例えば、PODXLタンパク質またはCOX−2情報が利用可能でない条件下で標準的であり得た治療と比べてより包括的な治療であってもよい。
【0161】
対象は、アジュバント療法が通常であれば過剰かつ不必要な痛みを伴うと考えられ得るような進行期にある結腸直腸癌を有し得る。しかしながら、その場合に医師は、PODXLタンパク質(および場合によりCOX−2)値が低いことを理由に当該の対象がより長期間生存する確率が高い場合に、いずれにしろアジュバント療法の適用を決定し得る。
【0162】
従って、第2の態様の第1の構成として、デュークス期CまたはDなどの進行期の結腸直腸癌を有する対象の治療方法であって、
a)対象からのサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、前記評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程b)において得られたサンプル値を基準値と比較する工程;および、
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c)生存を長期化させるために前記対象を結腸直腸癌治療レジメンで治療する工程
を含む方法が提供される。
【0163】
さらに、前記サンプル値が基準値より高い場合、対象は対症療法のみによって治療されてもよい。
【0164】
第2の態様に従う治療の責任を負う医師は、医師自身が工程c)、および場合により工程b)を実施する一方で、実験室の研究員などの他の誰かに工程a)、および場合により工程b)の実施を割り振ってもよい。
【0165】
治療方法は、判断および治療に限られてもよい。従って、第2の態様の代替的構成として、結腸直腸癌を有する対象の治療方法であって、
α)対象からのサンプル中のPODXLタンパク質レベルに対応するサンプル値を基準値と比較する工程;および,
前記サンプル値が前記基準値より高い場合、
β)前記対象をアジュバント結腸直腸癌治療レジメンで治療する工程
を含む方法が提供される。
【0166】
対象からのサンプル中のPODXLタンパク質レベルに対応するサンプル値を得る数多くの方法が、本開示に記載される。
【0167】
本開示の方法の工程a)に関して、PODXLタンパク質の量が増加すると、典型的に、サンプル値も増加し、その逆は生じない。しかし、いくつかの実施形態では、評価された量は、所定の数の個別のサンプル値のいずれかに対応し得る。そのような実施形態では、第1の量および第2の増加した量は、同じサンプル値に対応し得る。いずれにせよ、本開示に関して、PODXLタンパク質の量が増加しても、サンプル値は減少しない。
【0168】
しかし、好ましくないながら等価な形で、工程b)とc)との間の適合条件が逆転するならば、評価量がサンプル値と逆の関係にあってもよい。例えば、語句「サンプル値が基準値より高い場合」が「サンプル値が基準値より低い場合」に置き換えられる場合、工程b)とc)との間の適合条件が逆になる。
【0169】
本開示に関連して、「予後」は、疾患およびその治療の経過または転帰の予測を指す。例えば、予後はまた、生存または疾患からの回復の可能性の判断、ならびに対象の予想生存時間の予測も指し得る。予後には、具体的には、3年、5年、10年または任意の他の期間などの、将来のある期間にわたって対象が生存する可能性を確定することが関わり得る。予後はさらに、単一の値により表されても、または値の範囲により表されてもよい。
【0170】
さらに、本開示の方法に関連して、「事前に得られた」は、方法の実施前に得られたことを指す。従って、対象から事前に得られたサンプルが方法で用いられる場合、その方法には対象からサンプルを得る工程は含まれず、即ちサンプルは、方法とは別の工程で対象から予め得られたものである。
【0171】
本開示の方法および使用はいずれも、治療方法を除いては、特に指示されない限りすべてインビトロで実行され得る。
【0172】
さらに、本開示に関連して、「結腸直腸癌を有する哺乳動物対象」は、原発性または続発性結腸直腸腫瘍を有する哺乳動物対象、または結腸および/または直腸から腫瘍を除去したことがある哺乳動物対象を指し、ここで腫瘍の除去は、任意の適切な種類の手術または治療法によって腫瘍を死滅させるか、または除去することを指す。本開示の態様の方法および使用において、「結腸直腸癌を有する哺乳動物対象」はまた、哺乳動物対象が使用または方法の実施時点で結腸直腸癌を有することが疑われ、後に結腸直腸癌の診断が確定される場合も指す。
【0173】
従って、結腸に位置する結腸直腸癌を有する対象は、結腸から腫瘍を除去したことがある対象を指し得る。
【0174】
さらに、本開示に関連して、「基準値」は、対象についての予後または好適な治療方針に関して判断を下し、または結論を出すことに関連すると認められた所定の値を指す。
【0175】
また、本開示に関連して、基準予後に「関連する」基準値とは、実験上のデータおよび/または臨床的に関連する仮定に基づき対応する基準予後を割り当てられた基準値を指す。例えば、基準値は関連する対象グループにおける平均PODXLタンパク質値であってもよく、および基準予後は同じグループにおける平均生存率であってもよい。さらに、基準値は、基準値を示す対象グループの予後データから直接導き出された基準予後に割り当てられる必要はない。基準予後は、例えば基準値以下を示す対象の予後に対応してもよい。即ち、基準値が0〜2段階において1である場合、基準予後は、値0または1を示す対象の予後であってもよい。従って基準予後はまた、利用可能なデータの性質に適合され得る。上記でさらに考察しているとおり、基準予後は他のパラメータにも同様に適合され得る。
【0176】
上記の態様の方法の工程a)には、サンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、その量に対応するサンプル値を決定する工程が含まれる。「サンプルの少なくとも一部」は、予後を確定し、または好適な治療に関して結論を出すための、サンプルの1つ以上の関連する部分を指す。当業者は、本方法の実施時に存在する状況下でどの1つ以上の部分が関連するかを理解している。例えば、細胞を含むサンプルを評価する場合、当業者はサンプルの腫瘍細胞のみを、または腫瘍細胞の細胞膜/細胞質のみを考慮し得る。
【0177】
さらに、工程a)では量が評価され、その量に対応するサンプル値が決定される。従って、サンプル値を得るのにPODXLタンパク質の量の正確な計測は不要である。例えば、PODXLタンパク質の量は、染色した組織サンプルの目視検査によって評価されてもよく、次に評価された量に基づきサンプル値が、例えば高または低として分類されてもよい。
【0178】
工程a)の評価および決定には、ある種のサンプル処理または操作が必要である。単に検査のみからサンプル値を決定することは不可能である。そのような評価および決定のための様々な技法が当業者には周知であり、そのいくつかは以下に提供する。従って本開示の方法は、工程a)を実施するためのいかなる具体的な1つまたは複数の技法にも限定されるものではない。
【0179】
第1および第2の態様の治療レジメンは、例えばアジュバント療法および/またはネオアジュバント療法であってもよい。ネオアジュバント療法は、特に直腸癌の場合には、例えば放射線療法であってもよい。適切なアジュバント療法は、主に化学療法および免疫療法である。さらに、アジュバント治療は化学療法および/または免疫療法の放射線療法との併用であってもよい。
【0180】
全般的な方針は、対象がPODXLタンパク質高であると認められる場合、対象がPODXLタンパク質低であると認められる場合と比べてより包括的な治療が適用されることである。
【0181】
例えば、対象がデュークス期Bの結腸直腸癌を有する場合、アジュバント治療レジメンは化学療法であり得る。つまり、上記の方法のいくつかによれば、対象がPODXLタンパク質高(かつ場合によりCOX−2高)である場合、化学療法剤が対象に投与されることになる。しかしながら、対象がPODXLタンパク質低(かつ場合によりCOX−2低)である場合、化学療法剤による治療は不要とみなされ得るため、従って対象に投与されない。
【0182】
別の例として、対象がデュークス期Cの結腸直腸癌を有する場合、治療レジメンは2種以上の化学療法剤の組み合わせであり得る。つまり、上記の方法のいくつかによれば、対象がPODXLタンパク質高(かつ場合によりCOX−2高)である場合、その組み合わせが対象に投与されることになる。しかしながら、対象がPODXLタンパク質低(かつ場合によりCOX−2低)である場合、その組み合わせは不要とみなされ得るため、従って対象に適用されない。その場合、1種の治療剤による治療が必要とみなされ得る。
【0183】
あるいは、その組み合わせはいずれの場合にも適用されるが、しかしながら対象がPODXLタンパク質高である場合には比較的高用量で、および対象がPODXLタンパク質低である場合には比較的低用量で適用される。ここで、「比較的高用量」は、「比較的低用量」と比べて高い。例えば、対象からのサンプル値が基準値以下である場合、当該技術分野の範囲内で通常量とみなされる用量を減少させ、対象からのサンプル値が基準値より高い場合、増加させてもよい。
【0184】
化学療法剤の非制限的例は、5−フルオロウラシル(5−FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))およびオキサリプラチン(Eloxatin(登録商標))である。5−フルオロウラシル、カペシタビンおよびオキサリプラチンは、現行では術後のアジュバントとして、例えば5−フルオロウラシルを単独で、あるいは例えば5−フルオロウラシル、ロイコボリンおよびオキサリプラチンを含むFOLFOXのように組み合わせで、投与されている。これらの薬物はまた転移性疾患の治療にも使用され、しかしこのときは多くの場合に組み合わせで、および/またはテガフール−ウラシル(UFT(登録商標))、ロイコボリン(フォリン酸(folonic acid))および/またはイリノテカン(Camptosar(登録商標))を含めた他の化学療法剤と共に使用される。
【0185】
免疫療法剤の非制限的例は、ベバシズマブ(Avastin(登録商標))およびセツキシマブ(Erbitux(登録商標))である。
【0186】
適用され得る免疫療法の別の例は、以下で本開示の第8および第9の態様に関連して考察する。従って免疫療法は、PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドの適用であり得る。そのような親和性リガンドの様々な実施形態は、以下で第8の態様に関連して考察する。
【0187】
第1および第2の態様の治療レジメンはまた、COX−2阻害治療を含んでもよく、またはそれからなってもよい。この実施形態は、対象がPODXLタンパク質高およびCOX−2高の双方である場合に特に関連する。
【0188】
第1および第2の態様の実施形態において、予後は生存確率であってもよく、および基準予後は基準生存確率であってもよく、ここで双方の生存率とも同じ種類の生存率である。背景セクションで説明したとおり、「生存率」を計測する方法はいくつかある。第1および第2の態様の生存率は、例えば無再発生存率、全生存率または無病生存率であり得る。さらに、「生存率」は、5年、10年または15年など、種々の期間にわたって計測され得る。従って、生存率は、5年、10年または15年生存率であり得る。
【0189】
上記の態様の方法の実施形態では、対象は種々の型および/または病期の結腸直腸癌を有し得る。
【0190】
これらの態様のいくつかの実施形態において、対象となる結腸直腸癌は、リンパ節転移陰性の結腸直腸癌、即ちリンパ節転移の病期まで進行していない結腸直腸癌であってもよい。他の同様の実施形態において、対象となる結腸直腸癌は、デュークス期AまたはBのいずれかである。さらに他の実施形態において、対象となる結腸直腸癌は結腸直腸腺腫または結腸直腸カルシノーマである。これらの実施形態において、対象が高いPODXLタンパク質発現を示すと決定することは、将来にわたる疾患進行の予後診断に極めて有用であり得、従って十分な情報を得たうえでの将来の疾患管理に関する判断の根拠となり得る。そのような比較的初期の疾患に罹患している対象のグループ内でPODXLタンパク質発現が高い対象は、より侵攻性の高い疾患を発症するリスクが比較的高いものと思われる。従ってリンパ節転移陰性の結腸直腸癌またはデュークス期AまたはBの結腸直腸癌を有する対象の間での高いPODXLタンパク質発現は、それらの対象をより綿密にモニタし、および/または高いPODXLタンパク質発現を示さない対象と異なる形で治療すべきであることを示し得る。従って本開示に従う方法は、PODXLタンパク質マーカーにより追加的な予後情報を提供することで、かかる対象についての特定の期間にわたる生存機会を高め、および/または生存時間を延ばす可能性を提供する。
【0191】
本発明者らは、本開示の知見があらゆるデュークス期の結腸直腸癌に適用されることを見出した。換言すれば、予後との関連性は、対象とする結腸直腸癌の病期とは無関係のように思われる。
【0192】
デュークス期Aの結腸直腸癌を有する対象は、従来アジュバント化学療法によっては治療されなかった。しかしながら、本開示の教示を指針として、医師は、高いPODXLタンパク質発現を示すそのような対象に、いずれにしろアジュバント治療を提供することを判断し得る。
【0193】
従って、上記の態様の方法の実施形態では、結腸直腸癌はデュークス期Aである。代替的または補足的な実施形態では、前記結腸直腸癌は、上記のTNM病期分類体系に従うところのT1〜2、N0およびM0である。
【0194】
デュークス期Bの癌を有する対象に関して、アジュバント療法を適用するか否かの判断は特に困難であり得る。従って、特にデュークス期Bの対象は、PODXLタンパク質の計測を用いて予後良好を判断した後の治療から明らかとなり得る。従って、いくつかの実施形態において、上記の態様の方法の結腸直腸癌はデュークス期Bであってもよい。
【0195】
デュークス期Cの結腸直腸癌を有する対象は、通常はアジュバント治療で治療される。そのような対象が比較的不良な予後であることが認められる場合、併用治療がより重い副作用を引き起こし、かつより高価であるとしても、単独治療より併用アジュバント治療が適切であると考えられ得る。
【0196】
従って、いくつかの実施形態において、上記の態様の方法の結腸直腸癌は、転移性の結腸直腸癌であってもよい。同様の実施形態において、対象となる結腸直腸癌はデュークス期CまたはD、好ましくはCであってもよい。
【0197】
漿膜層に浸潤する結腸直腸癌(T4)は、通常、特に侵襲性が高いとみなされる。従って、そのような結腸直腸癌を有する対象は、一般的に予後が比較的不良で、腫瘍が腹腔に広がるリスクを有する。本発明者らは、漿膜に浸潤する結腸直腸腫瘍においてPODXLタンパク質が過剰発現することを見出した。従って、高レベルのPODXLタンパク質発現は、漿膜浸潤腫瘍の(ひいては予後不良の)指標である。さらに、本発明者らは、漿膜浸潤と転移癌との間に関係があると見ている。従って、高レベルのPODXLタンパク質発現はまた、転移リスクの指標でもあり得る。従って、高レベルのPODXLを有する結腸直腸癌対象は、本開示の一実施形態によれば、転移について検査され、および/または転移の発生についてモニタされ得る。
【0198】
従って、第1の態様の実施形態において、第1のグループおよび第2のグループは、その方法の対象と同じ病期、悪性度および/または型の癌を有する対象からなり得る。
【0199】
結論として、本開示の方法は、個別化された治療レジメンの基礎となる情報をもたらし得る。
【0200】
上記の態様の方法の実施形態では、サンプルは体液サンプルであってもよい。例えば体液サンプルは、血液、血漿、血清、脳脊髄液、尿、精液、リンパ液および滲出液からなる群から選択されてもよい。あるいは、サンプルは細胞診サンプルまたは糞便サンプルであってもよい。
【0201】
ここで、血液(または血液由来)サンプルが特に興味深い。本発明者らは、PODXLタンパク質を発現する細胞が血管に向かって移動し、従って循環系に漏出し易いことに注目した。さらに、抗PODXL抗体は生細胞を結合することが示されており(実施例、セクション8を参照のこと)、PODXLタンパク質は血中に検出されている。従って、工程a)には、循環腫瘍細胞中で発現するPODXLタンパク質の量を評価することが含まれ得る。
【0202】
PODXLタンパク質発現のレベルは、好ましくは細胞内で計測され得る。従って、体液、細胞診または糞便サンプルは、例えば腫瘍細胞などの細胞を含み得る。
【0203】
上記の態様の方法のさらなる実施形態において、サンプルは組織サンプル、例えば結腸直腸組織サンプル(結腸または直腸に由来するサンプル)、例えば結腸直腸腫瘍組織サンプルであってもよい。組織サンプルは、免疫組織化学を用いたPODXLタンパク質発現解析を促進する。
【0204】
図7の結果は、直腸以外の結腸直腸腫瘍由来の組織サンプルの調査に基づく。従って、上記の態様の方法の実施形態では、サンプルは結腸に由来する組織サンプルであってもよい。
【0205】
実施例、セクション3の結果は、S状結腸由来の組織サンプルの調査に基づく。従って、上記の態様の方法の実施形態では、サンプルは、S状結腸に由来する組織サンプルであってもよい。
【0206】
さらに、本発明者らは、PODXLタンパク質の細胞膜/細胞質発現が予後の判定または治療の選択に関連することに注目した。従って工程a)の評価は、前記サンプルの細胞、例えば腫瘍細胞の細胞膜/細胞質に限定され得る。従って、組織サンプルの調査時、腫瘍細胞の細胞膜/細胞質のみが考慮され得る。そのような調査は、例えば免疫組織化学的染色により促進され得る。
【0207】
実施例、セクション3およびセクション4における組織サンプルは、ヒトの男性および女性由来であってもよく、および本発明者らは、PODXLタンパク質の予後との関連性が対象の性別と無関係であることを見出した。従って、上記の態様の方法の対象はヒトであり、さらに、上記の態様の方法の対象は男性であっても、または女性であってもよい。
【0208】
上記の態様に従う方法を実施するとき、基準値としてゼロを使用することが、その場合には工程a)でサンプル中にPODXLタンパク質が存在するか否かが確定されるだけでよいため、好都合であり得る。図3は、ゼロ(即ち検出不能なPODXLタンパク質)が、異なる予後の2つのサブグループを確定するための有効カットオフ値であることを示す。
【0209】
従って、上記の態様の方法の実施形態では、工程a)のサンプル値は、サンプル中の検出可能なPODXLタンパク質に対応する1か、またはサンプル中の検出不能なPODXLタンパク質に対応する0かのいずれかであり得る。従って、かかる実施形態において、サンプルの評価はデジタルである:PODXLタンパク質は存在するか否かのいずれかとみなされる。本開示に関連して、「検出不能なPODXLタンパク質」は、極めて少量であるため、通常の作業環境では工程a)を実施する人または装置による検出が不可能なPODXLタンパク質の量を指す。「通常の作業環境」は、当業者が本開示の方法の実施に適切であると認め得る実験室的方法および技法を指す。
【0210】
同様に、上記の態様の方法の実施形態では、工程d)のサンプル値は、サンプル中の検出可能なCOX−2に対応する1か、またはサンプル中の検出不能なCOX−2に対応する0かのいずれかであり得る。
【0211】
従って、本開示の方法の実施形態では、工程b)の基準値は0であってもよい。従って本開示の方法のさらなる実施形態では、工程b)の基準値は、検出可能なPODXLタンパク質を有しない基準サンプルに対応し得ることになる(下記参照)。
【0212】
同様に、本開示の方法の実施形態では、工程e)の基準値は0であってもよい。従って本開示の方法のさらなる実施形態では、工程e)の基準値は、検出可能なCOX−2を有しない基準サンプルに対応し得ることになる(下記参照)。
【0213】
基準値より高いPODXLタンパク質のサンプル値、またはそのようなサンプル値が得られる対象は、ときに本明細書では「PODXLタンパク質高」であると称される。さらに、基準値以下であるPODXLタンパク質のサンプル値、またはそのようなサンプル値が得られる対象は、ときに本明細書では「PODXLタンパク質低」であると称される。
【0214】
同様に、基準値より高いCOX−2のサンプル値、またはそのようなサンプル値が得られる対象は、ときに本明細書では「COX−2高」であると称される。さらに、基準値以下であるCOX−2タンパク質のサンプル値、またはそのようなサンプル値が得られる対象は、ときに本明細書では「COX−2低」であると称される。
【0215】
本開示に関連して、用語「サンプル値」および「基準値」は広義に解釈すべきである(以下の考察ではCOX−2およびその定量に準用される)。これらの値を得るためのPODXLタンパク質の定量は、自動的手段によるか、サンプルの目視もしくは顕微鏡検査に基づくスコア化システムによるか、またはそれらの組み合わせによって行うことができる。しかしながら、当業者、例えば組織病理学分野の当業者は、PODXLタンパク質発現について染色した前記サンプルからの組織スライドの検査によってサンプル値および基準値を決定することも可能である。従って基準値より高いサンプル値の決定は、目視または顕微鏡検査時に、サンプルからの組織スライドが基準組織スライドの場合と比べてより濃染される、および/またはより大きい割合の染色細胞を示すことの決定に対応し得る。サンプル値はまた、言葉で記述された基準値などの文献上の基準、または基準画像により得られる基準値と比較してもよい。従って、サンプル値および/または基準値は、ある場合には、検査および比較時に当業者が決定する心証に基づく値であってもよい。
【0216】
例えば、当業者はサンプルをPODXLタンパク質高または低として分類することができ、ここでサンプルは、それが過去に検査された基準サンプルと比べて多いPODXLタンパク質を含む場合には高として分類され、それが同じまたは少ない場合には低として分類される。このような評価は、サンプル、および必要であれば基準サンプルを、例えばPODXLタンパク質について選択的な抗体を含む染色溶液で染色することにより促進され得る。
【0217】
本開示の方法の工程の1つ以上は、装置において実現され得る。例えば、工程a)および場合により工程b)は自動分析装置で実施されてもよく、そのような装置は、免疫組織化学的分析に適合されたプラットホームに基づき得る。例として、当該の対象からの1つ以上の腫瘍組織サンプルが免疫組織化学的分析用に手動で調製され、次に自動分析装置に負荷されてもよく、この装置は工程a)のサンプル値を提供し、および場合によっては工程b)の基準値との比較も実施する。次に、分析を実施する操作者、分析を発注する医師または装置それ自体が、工程c)の結論を導き出し得る。従って、工程c)の結論を導き出すように適合されたソフトウェアが装置に実装され得る。
【0218】
結腸直腸癌対象に関する予後の確定または治療の判断に関連することが認められ、対象からのサンプル値との比較として使用される基準値は、様々な方法で提供され得る。本開示の教示を理解することで、当業者は過度の負担を伴うことなく、本開示の方法を実施するための関連する基準値を提供することができる。
【0219】
上記の態様の方法の実施者は、例えば基準値を所望の情報に適合させ得る。例えば、基準値は、最も重要な予後情報、例えば、PODXLタンパク質高の生存率曲線とPODXLタンパク質低の生存率曲線との間の最も大きい隔たりをもたらすように適合されてもよく(図を参照のこと)、この隔たりは、第1の態様の第1のグループと第2のグループとの間の最も大きい生存率の差に対応する。あるいは、基準値は、特に良好な予後または特に不良な予後を示す対象グループが選び出されるように選択されてもよい。
【0220】
上記の態様の方法の実施形態では、基準値は、方法の対象の健常な組織、例えば健常な結腸直腸組織、または間質組織におけるPODXLタンパク質の発現量に対応し得る。別の例として、基準値は、別の同等の対象由来の正常組織の標準的なサンプルにおいて計測されるPODXLタンパク質の発現量により提供され得る。別の例として、基準値は、腫瘍組織、例えば結腸直腸腫瘍組織の基準サンプルなどの、腫瘍細胞を含む基準サンプルにおいて計測されるPODXLタンパク質の発現量により提供され得る。基準サンプルのタンパク質発現量は、好ましくは予め確立され得る。
【0221】
さらに基準値は、例えば、癌細胞系統などの、所定量または制御された量のPODXLタンパク質を発現する細胞系統を含む基準サンプルにおいて計測されるPODXLタンパク質の発現量により提供され得る。当業者は、そのような細胞系統をどのように提供すればよいかについて、例えばRhodes et al.(2006) The biomedical scientist,p 515−520の開示を指針として理解する。
【0222】
従って、基準値は、所定量のPODXLタンパク質を発現する細胞を含む基準サンプルにおいて計測されるPODXLタンパク質の量により提供され得る。従って、本開示の方法の実施形態では、基準値は、基準サンプルにおけるPODXLタンパク質の発現量に対応する所定の値であってもよい。
【0223】
しかしながら、基準サンプル中のPODXLタンパク質の量は、基準値に直接対応する必要はない(これについては以下でさらに考察する)。基準サンプルはまた、方法の実施者が様々な基準値を評価するのに役立つPODXLタンパク質の量も提供し得る。例えば、1つ以上の基準サンプルは、「陽性」基準値および/または「陰性」基準値を提供することにより、基準値の心的イメージを作り出すのに役立ち得る。
【0224】
サンプル、例えば対象から事前に得られたサンプルまたは基準サンプル中のPODXLタンパク質を定量するための一つの別法は、サンプル中で特定のレベルを超えるPODXLタンパク質発現を示す細胞画分を決定することである。この画分は、例えば、全細胞のPODXLタンパク質発現を考慮する「細胞画分」;細胞の細胞膜/細胞質のPODXLタンパク質発現のみを考慮する「細胞質画分」;または細胞の核のPODXLタンパク質発現のみを考慮する「核画分」であり得る。核画分または細胞質画分は、例えば、関連する細胞集団の<1%、1〜50%、>50%の免疫反応性細胞として分類することができる。「細胞質画分」は、細胞膜/細胞質において陽性染色を示すサンプル中の関連する細胞の百分率に対応し、ここで細胞膜/細胞質における中等度の、または明瞭かつ強力な免疫活性が陽性とみなされ、および細胞膜/細胞質において認められない、または微弱な免疫活性が陰性とみなされる。病理学分野の当業者は、方法の実施時に存在する条件下でどの細胞が関連するかを理解し、その一般的知識および本開示の教示に基づいて細胞質画分または核画分を決定することができる。関連する細胞は、例えば腫瘍細胞であってもよい。
【0225】
サンプル、例えば対象から事前に得られたサンプルまたは基準サンプル中のPODXLタンパク質発現を定量するためのもう一つの別法は、サンプルの全体的な染色強度を決定することである。この強度は、例えば、全細胞のPODXLタンパク質発現を考慮する「細胞強度」;細胞の細胞膜/細胞質のPODXLタンパク質発現のみを考慮する「細胞質強度」、または細胞の核のPODXLタンパク質発現のみを考慮する「核強度」であり得る。細胞質強度および核強度は、臨床病理組織学的診断法で用いられる基準に従い主観的に評価される。細胞質強度判定の結果は以下のように分類され得る:不在=サンプルの関連する細胞の細胞膜/細胞質に全体的な免疫活性なし、弱い=サンプルの関連する細胞の細胞膜/細胞質における全体的な免疫活性が微弱である、中等度=サンプルの関連する細胞の細胞膜/細胞質における全体的な免疫活性が中等度である、または強い=サンプルの関連する細胞の細胞膜/細胞質における全体的な免疫活性が明瞭かつ強力である。いくつかの実施形態では、不在の値および弱い値は合わせて不在/弱い値とされ得る。当業者は、方法の実施時に存在する条件下でどの細胞が関連するかを理解し、その一般的知識および本開示の教示に基づいて核強度または細胞質強度を決定することができる。関連する細胞は、例えば腫瘍細胞であってもよい。
【0226】
本発明者らは、PODXLタンパク質の細胞膜/細胞質発現が予後の確定に特に関連することを見出した。
【0227】
このように、上記の態様の方法の実施形態では、基準値は、細胞質画分、細胞質強度またはそれらの組み合わせであり得る。従ってサンプル値は、細胞質画分、細胞質強度またはそれらの組み合わせであり得る。
【0228】
図に見られるとおり、PODXLタンパク質の細胞質発現に基づく1つより多い基準値が、生存率についての予後が比較的良好か、または比較的不良かの判定に関連する基準値として機能し得る。
【0229】
従って、上記の態様の方法の実施形態では、工程b)の基準値は、95%以下、例えば90%以下、例えば85%以下、例えば80%以下、例えば75%以下、例えば70%以下、例えば65%以下、例えば60%以下、例えば55%以下、例えば50%以下、例えば45%以下、例えば40%以下、例えば35%以下、例えば30%以下、例えば25%以下、例えば20%以下、例えば15%以下、例えば10%以下、例えば5%以下、例えば2%以下、例えば1%以下、例えば0%の細胞質画分である。
【0230】
さらに、上記の態様の方法の実施形態では、工程b)の基準値は、PODXLタンパク質発現の中等度の細胞質強度以下、例えばPODXLタンパク質発現の弱い細胞質強度以下、例えばPODXLタンパク質発現の細胞質強度不在であってもよい。
【0231】
本開示の結果は、細胞質強度と細胞質画分との組み合わせまたは関数である基準値に基づく。
【0232】
例えば、各サンプルに0〜3の値が割り当てられてもよく、ここで:
「0」は、陰性の細胞質強度かつ<1%の細胞質画分を表し、
「1」は、弱い細胞質強度かつ1〜100%の細胞質画分を表し、
「2」は、中等度のまたは強い細胞質強度かつ1〜50%の細胞質画分を表し、および
「3」は、中等度のまたは強い細胞質強度かつ>50%の細胞質画分を表す。
【0233】
カットオフ線は、例えば1と2との間(図2、図6B、図7)、または0と1との間(図3)に引かれてもよい。
【0234】
従って、不在または中等度の細胞質強度が、特に関連する基準値であり得る。さらに、低い細胞質画分、例えば0〜25%(または0〜10%)または中間の細胞質画分、例えば25〜75%(または40〜60%)もまた、特に関連する基準値であり得る。
【0235】
また、工程c)において結論付ける際の基準は、例えば、サンプル値が1%の細胞質画分より高く、かつ細胞質強度不在より高いことであってもよい。さらに、工程c)において結論付ける際の基準は、例えば、サンプル値が1%の細胞質画分より高く、かつ弱い細胞質強度より高いことであってもよい。
【0236】
工程e)の(COX−2に関する)基準値は、例えば、0〜50%、例えば0〜25%、例えば5〜15%の細胞質画分であってもよい。さらにそれは、例えば、不在、弱い、または中等度の細胞質強度であってもよい。またそれは、細胞質画分と細胞質強度との組み合わせまたは関数であってもよい。
【0237】
当業者は、強度値または画分値である他の基準値もまた本発明の範囲に含まれることを理解している。同様に、当業者は、画分および強度の他の組み合わせまたは関数もまた本発明の範囲に含まれることを理解している。従って基準値には、2つ、場合によってはさらに多くの基準が関与し得る。
【0238】
一般に、強度値および/または画分値の基準値としての選択は、染色手順、例えば用いられる抗PODXL抗体および染色試薬に依存し得る。
【0239】
本開示を指針として、当業者、例えば病理学者は、細胞画分、細胞質画分もしくは核画分などの画分、または細胞強度、細胞質強度もしくは核強度などの強度をもたらす評価をどのように実施すればよいか理解する。例えば、当業者は、特定の画分または強度の外観を確定するための所定量のPODXLタンパク質を含む基準サンプルを使用してもよい。
【0240】
しかしながら、基準サンプルは、実際の基準値を提供するためのみならず、基準値に対応する量と比べてPODXLタンパク質の量が高いサンプルの例を提供するためにも使用され得る。例として、免疫組織化学的染色などの組織化学的染色では、当業者は、高量のPODXLタンパク質を有する染色サンプルの外観、例えば陽性基準を確定するための基準サンプルを使用することができる。続いて当業者は、より低量のPODXLタンパク質を有するサンプルの外観、例えば基準値に対応するPODXLタンパク質の量を有するサンプルの外観を評価することができる。換言すれば、当業者は基準サンプルを使用して、基準サンプルより低いPODXLタンパク質の量に対応する基準値の心的イメージを作り出すことができる。代替的に、または補足的に、そのような評価において当業者は、低量のPODXLタンパク質を有するか、または検出可能なPODXLタンパク質を含まない別の基準サンプルを使用して、かかるサンプルの外観を、例えば「陰性基準」として確定してもよい。
【0241】
例えば、基準値として弱い細胞質強度が用いられる場合、2つの基準サンプルが用いられ得る:検出可能なPODXLタンパク質を有しない、従って細胞質強度不在に対応する第1の基準サンプル(これは基準値より低い);および強い細胞質強度に対応するPODXLタンパク質の量を有する第2の基準サンプル(これは基準値より高い)。
【0242】
従って、評価では、当業者は、高量のPODXLタンパク質を有するサンプルの外観を確定するための基準サンプルを使用することができる。このような基準サンプルは、高量のPODXLタンパク質を発現する組織を含むサンプル、例えばPODXLタンパク質の高発現が予め確定されている結腸直腸腫瘍組織を含むサンプルであってもよい。
【0243】
従って、基準サンプルは強い細胞質強度(CI)の例を提供してもよい。強いCIのサンプルの外観が分かることで、次に当業者はサンプルを、不在、弱い、中等度および強いのCIカテゴリーに分けることができる。この分類は、検出可能なPODXLタンパク質を含まない基準サンプル(陰性基準)、即ち細胞質強度不在を提供する基準サンプルによってさらに促進され得る。また、基準サンプルは、細胞質画分(CF)が75%より高いサンプルの例を提供してもよい。75%より多い陽性細胞を有するサンプルの外観が分かることで、次に当業者は、例えば陽性細胞率がより低い他のサンプルのCFを評価することができる。この分類は、PODXLタンパク質を本質的に含まない基準サンプル(陰性基準)、即ち低いCF(<1%または0など)を提供する基準サンプルによってさらに促進され得る。
【0244】
上述するとおり、制御された量のPODXLタンパク質を発現する細胞系統を、基準として、特に陽性基準として使用することができる。
【0245】
1つ以上の画像もまた、「基準サンプル」として提供され得る。例えばかかる画像は、特定の細胞強度および/または画分を示す特定の条件にある間に特定の抗体で染色された腫瘍組織スライドの例を示し得る。「基準サンプル」に関する上記の考察が、画像に準用される。
【0246】
基準サンプルに関する上記の考察はCOX−2状態の決定に準用される。
【0247】
細胞系統または画像はまた、本開示に従うキット(下記参照)の一部も形成し得る。
【0248】
さらに当業者は、当該の対象に存在するPODXLタンパク質が関連する遺伝子によってコードされ、かつ関連する発現パターンを呈する限り、上記の態様に従う方法の有用性はそうしたタンパク質の任意の特定の変異体の定量に限定されないことを認識すべきである。非制限的例として、PODXLタンパク質は、
i)配列番号1;および
ii)配列番号1と少なくとも85%同一である配列
から選択される配列を含み得る。
【0249】
いくつかの実施形態において、上記の配列ii)は、配列番号1と少なくとも90%同一、少なくとも91%同一、少なくとも92%同一、少なくとも93%同一、少なくとも94%同一、少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一または少なくとも99%同一である。
【0250】
別の非制限的例として、PODXLタンパク質は、
i)配列番号2または3;および
ii)配列番号2と少なくとも85%同一である配列
から選択される配列を含んでもよく、またはそれからなってもよい。
【0251】
配列番号2および3は、PODXLタンパク質の2つのスプライス変異体である。配列番号1は、それぞれのスプライス変異体の細胞外領域に共通する小領域である。
【0252】
いくつかの実施形態では、上記の配列ii)は、配列番号2または3に少なくとも90%同一、少なくとも91%同一、少なくとも92%同一、少なくとも93%同一、少なくとも94%同一、少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一または少なくとも99%同一である。
【0253】
本開示に関して使用される用語「%同一」は、次のとおりに計算される。CLUSTAL Wアルゴリズム(Thompson, J.D., Higgins, D.G. and Gibson, T.J., Nucleic Acids Research, 22: 4673−4680 (1994))を使用して、問い合わせ配列を標的配列に対してアラインする。各位置におけるアミノ酸残基を比較し、そして標的配列において同一の応答を有する問い合わせ配列における位置の百分率を同一%として報告する。また、標的配列は、比較する位置の数を決定する。結果的に、本開示に関して、標的配列より短い問い合わせ配列は、標的配列に対して、決して100%同一になり得ない。例えば、85アミノ酸の問い合わせ配列は、100アミノ酸の標的配列に対して、最大で85%同一であり得る。
【0254】
いくつかの実施形態において、上記の態様の方法の工程a)は、
対象から生物学的材料を得て、生物学的材料の関連する部分を切除または選択して前記サンプルを得て、および場合によりサンプルを固相に配置して工程a)の評価を促進することを含み得る。従って工程a)は、例として、前記対象の結腸または直腸から組織材料を得て、場合により組織材料をパラフィンまたはホルマリンに固定化し、組織材料を組織学的に処理して前記サンプルをなす切片を得て、および場合により前記サンプルを、ガラススライドなどの顕微鏡検査用透明スライドにマウントすることを含み得る。
【0255】
上記の態様の方法の実施形態では、PODXLタンパク質は、PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能である検出可能および/または定量可能な親和性リガンドのサンプルへの適用を介して、検出および/または定量することができる。親和性リガンドの適用は、サンプル中の任意のPODXLタンパク質への親和性リガンドの結合を可能にする条件下で実施される。
【0256】
具体化するために、上記の態様の方法の実施形態では、工程a)は、以下を含み得る:
a1)前記サンプルに、評価しようとするPODXLタンパク質との選択的相互作用が可能である定量可能な親和性リガンドを適用する工程であって、前記適用は、前記サンプルに存在するPODXLタンパク質への前記親和性リガンドの結合を可能にする条件下で実施される;
a2)非結合親和性リガンドを取り出す工程;および
a3)前記サンプルとの会合において残留する親和性リガンドを定量して、前記量を評価する工程。
【0257】
「サンプルとの会合において残留する親和性リガンド」は、工程a2)において取り出されなかった親和性リガンド、例えば、サンプルに結合した親和性リガンドを指す。ここで、結合は、例えば、抗体と抗原との間の相互作用であってもよい。
【0258】
しかしながら、a2)に従う結合しなかった親和性リガンドの除去、例えば洗浄は、必ずしも必要というわけではない。従って、上記の態様の方法のいくつかの実施形態では、工程a)は、
aI)前記サンプルに、評価するPODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な定量可能な親和性リガンドを適用する工程であって、前記適用が、前記サンプル中に存在するPODXLタンパク質との前記親和性リガンドの結合を可能にする条件下で実施される、工程;
aII)前記サンプルと結合した親和性を定量して前記量を評価する工程
を含み得る。
【0259】
上記の2つの実施形態は、工程d)(COX−2の検出)に準用される。
【0260】
本開示に関連して、例えば親和性リガンドの、その標的または抗原との「特異的な」または「選択的な」相互作用とは、それが、特異的相互作用と非特異的相互作用との、または選択的相互作用と非選択的相互作用との違いが有意となるような相互作用であることを意味する。2つのタンパク質間の相互作用は、ときに解離定数によって計測される。解離定数は2つの分子間の結合の強度(または親和性)を記述する。典型的には抗体とその抗原との間の解離定数は10−7〜10−11Mである。しかしながら、高い特異性が必ずしも高親和性を必要とするわけではない。そのカウンターパートに対して親和性が低い(モル範囲の)分子が、はるかに高親和性の分子と同程度の特異性を有することが示されている。本開示の場合、特異的または選択的な相互作用とは、特定の方法を使用して、組織サンプル中、または天然に存在する、もしくは処理された生体液の体液サンプル中で他のタンパク質が存在する所与の条件下で、特異的タンパク質の存在および/または量、標的タンパク質を決定することができる程度を指す。換言すれば、特異性または選択性は、関連するタンパク質間を区別する能力である。特異的と選択的とは、本記載ではときに同義的に用いられる。例えば、抗体の特異性または選択性は、以下の実施例、セクション2のとおりに決定されてもよく、ここではそれぞれタンパク質アレイセットアップ、懸濁液ビーズアレイおよび多重競合アッセイを使用して分析が実施される。特異性および選択性の決定については、Nilsson P et al.(2005) Proteomics 5:4327−4337にも記載されている。
【0261】
適切な親和性リガンドを選択または製造すること、ならびに検出および/または定量に適切なフォーマットおよび条件を選択することは、当業者の能力の範囲内にあるとみなされる。しかしながら、有用と認められ得る親和性リガンドの例、ならびに検出および/または定量用のフォーマットおよび条件の例を、例示として以下に提供する。
【0262】
従って、本開示の実施形態では、親和性リガンドは、抗体、そのフラグメントおよびその誘導体、即ち、免疫グロブリン足場に基づく親和性リガンドからなる群から選択され得る。抗体およびそのフラグメントまたは誘導体は、単離され得、および/または単一特異的であり得る。抗体は、マウス、ウサギ、ヒトおよび他の抗体を含む任意の起源のモノクローナルおよびポリクローナル抗体、ならびに部分的にヒト化された抗体、例えば、部分的にヒト化されたマウス抗体のような異なる種由来の配列を含むキメラ抗体を含む。ポリクローナル抗体は、好適な抗原による動物の免疫化によって産生される。定義された特異性を有するモノクローナル抗体は、KoehlerおよびMilstein(Koehler G and Milstein C (1976) Eur. J. Immunol. 6:511−519)によって開発されたハイブリドーマ技術を使用して、産生させることができる。本開示の抗体フラグメントおよび誘導体は、抗体(それらはそのフラグメントまたは誘導体である)と同じ抗原(例えば、PODXLタンパク質)との選択的相互作用が可能である。抗体フラグメントおよび誘導体は、無傷(intact)な免疫グロブリンタンパク質の重鎖(CH1)の第1の定常ドメイン、軽鎖(CL)の定常ドメイン、重鎖(VH)の可変ドメインおよび軽鎖(VL)の可変ドメインからなるFabフラグメント;2つの可変抗体ドメインVHおよびVLからなるFvフラグメント(Skerra A and Plueckthun A (1988) Science 240:1038−1041);可撓性ペプチドリンカーによって共に連結された2つのVHおよびVLドメインからなる一本鎖Fvフラグメント(scFv)(Bird RE and Walker BW (1991) Trends Biotechnol. 9:132−137);Bence Jonesダイマー(Stevens FJ et al. (1991) Biochemistry 30:6803−6805);ラクダ科重鎖ダイマー(Hamers−Casterman C et al. (1993) Nature 363:446−448)および単一可変ドメイン(Cai X and Garen A (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 93:6280−6285;Masat L et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 91:893−896)、ならびに例えば、コモリザメ由来のNew Antigen Receptor(NAR)のような単一ドメイン足場(Dooley H et al. (2003) Mol. Immunol. 40:25−33)および可変重鎖ドメインに基づくミニボディ(Skerra A and Plueckthun A (1988) Science 240:1038−1041)を含む。
【0263】
配列番号1は、免疫化のために設計された、例えば、成熟タンパク質から切断除去されるため、大腸菌(E.coli)における効率的な発現を確実にするために膜貫通領域を含まず、そしていずれのシグナルペプチドも含まないように設計された。結果的に、本開示に従う抗体またはそのフラグメントもしくはその誘導体は、例えば、アミノ酸配列が配列番号1を含む、好ましくは、配列番号1からなるタンパク質でウサギのような動物を免疫化する工程を含むプロセスによって入手可能であるものであり得る。例えば、免疫化プロセスは、フロイント完全アジュバント中のタンパク質による1次免疫を含み得る。また、免疫化プロセスは、少なくとも2回、2〜6週間の間隔で、フロイント不完全アジュバント中のタンパク質によりブーストすることをさらに含み得る。所与の標的に対する抗体またはそのフラグメントもしくは誘導体の産生方法は、当該技術分野において公知である。
【0264】
本開示に関して、「単一特異的抗体」は、それ自体の抗原に対してアフィニティー精製されているポリクローナル抗体の集団の1つであり、それによって、他の抗血清タンパク質および非特異的抗体からそのような単一特異的抗体を分離している。このアフィニティー精製は、その抗原に選択的に結合する抗体を生じる。本開示の場合、ポリクローナル抗血清は、標的タンパク質に選択的な単一特異的抗体を得るための2工程の免疫アフィニティーに基づくプロトコルによって、精製される。捕捉因子として固定化されたタグタンパク質を使用する1次枯渇工程において、抗原フラグメントの包括的親和性タグに対する抗体を取り出す。第1の枯渇工程後、抗原に特異的な抗体を富化するために、捕捉因子として抗原を伴う第2のアフィニティーカラム上で、血清を単離する(また、Nilsson P et al. (2005) Proteomics 5:4327−4337も参照のこと)。
【0265】
ポリクローナルおよびモノクローナル抗体、ならびにそれらのフラグメントおよび誘導体は、上記の方法態様に従うPODXLタンパク質の検出および/または定量化におけるような選択的生体分子認識を必要とするアプリケーションにおいて、親和性リガンドを従来どおり選択する。しかし、当業者は、選択的結合リガンドのハイスループット作製および低コスト生産システムの需要が増加しているため、新たな生体分子多様性技術が、最近10年間の間に開発されてきたことを知っている。これは、生体分子認識アプリケーションにおいて結合リガンドとして有用であることが同様に証明されており、そして免疫グロブリンの代わりに、または免疫グロブリンと共に使用することができる免疫グロブリンならびに非免疫グロブリン起源の両方の新規のタイプの親和性リガンドの作製を可能にした。
【0266】
親和性リガンドの選択に必要な生体分子多様性は、複数の可能な足場分子のうちの1つのコンビナトリアル操作によって作製することができ、次いで、特異的および/または選択的親和性リガンドが、適切な選択プラットホームを使用して、選択される。足場分子は、免疫グロブリンタンパク質由来(Bradbury AR and Marks JD (2004) J. Immunol. Meths. 290:29−49)、非免疫グロブリンタンパク質由来(Nygren PA and Skerra A (2004) J. Immunol. Meths. 290:3−28)、またはオリゴヌクレオチド由来(Gold L et al. (1995) Annu. Rev. Biochem. 64:763−797)であってもよい。
【0267】
多数の非免疫グロブリンタンパク質足場が、新規の結合タンパク質の開発において支持構造として使用されている。本開示に従って使用するためのPODXLタンパク質に対する親和性リガンドを作製するのに有用なそのような構造の非制限的例には、ブドウ球菌プロテインAおよびそのドメインならびにこれらのドメインの誘導体、例えば、プロテインZ(Nord K et al. (1997) Nat. Biotechnol. 15:772−777);リポカリン(Beste G et al. (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 96:1898−1903);アンキリンリピートドメイン(Binz HK et al. (2003) J. Mol. Biol. 332:489−503);セルロース結合ドメイン(CBD)(Smith GP et al. (1998) J. Mol. Biol. 277:317−332; Lehtioe J et al. (2000) Proteins 41:316−322);γクリスタリン(Fiedler U and Rudolph R, WO01/04144);緑色蛍光タンパク質(GFP)(Peelle B et al. (2001) Chem. Biol. 8:521−534);ヒト細胞障害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA−4)(Hufton SE et al. (2000) FEBS Lett. 475:225−231;Irving RA et al. (2001) J. Immunol. Meth. 248:31−45);プロテアーゼ阻害剤、例えば、Knottinタンパク質(Wentzel A et al. (2001) J. Bacteriol. 183:7273−7284;Baggio R et al. (2002) J. Mol. Recognit. 15:126−134)およびKunitzドメイン(Roberts BL et al. (1992) Gene 121:9−15;Dennis MS and Lazarus RA (1994) J. Biol. Chem. 269:22137−22144);PDZドメイン(Schneider S et al. (1999) Nat. Biotechnol. 17:170−175);ペプチドアプタマー、例えば、チオレドキシン(Lu Z et al. (1995) Biotechnology 13:366−372;Klevenz B et al. (2002) Cell. Mol. Life Sci. 59:1993−1998);スタフィロコッカルヌクレアーゼ(Norman TC et al. (1999) Science 285:591−595);テンダミスタット(McConell SJ and Hoess RH (1995) J. Mol. Biol. 250:460−479;Li R et al. (2003) Protein Eng. 16:65−72);フィブロネクチンIII型ドメインに基づくトリネクチン(Koide A et al. (1998) J. Mol. Biol. 284:1141−1151;Xu L et al. (2002) Chem. Biol. 9:933−942);ならびにジンクフィンガー(Bianchi E et al. (1995) J. Mol. Biol. 247:154−160;Klug A (1999) J. Mol. Biol. 293:215−218;Segal DJ et al. (2003) Biochemistry 42:2137−2148)がある。
【0268】
非免疫グロブリンタンパク質足場の上記の例として、新規の結合特異性の作製に使用される単一の無作為化ループを提示する足場タンパク質、堅牢な2次構造を伴うタンパク質足場が挙げられ、ここで、 タンパク質表面から突出している側鎖が、新規の結合特異性の作製、および新規の結合特異性の作製に使用される非連続的超可変ループ領域を示す足場のために無作為化される。
【0269】
非免疫グロブリンタンパク質に加えて、オリゴヌクレオチドもまた、親和性リガンドとして使用してもよい。一本鎖核酸は、アプタマーまたはデコイと呼ばれ、良好に定義された3次元構造に折り畳まれ、そして高い親和性および特異性でそれらの標的に結合する。(Ellington AD and Szostak JW (1990) Nature 346:818−822;Brody EN and Gold L (2000) J. Biotechnol. 74:5−13;Mayer G and Jenne A (2004) BioDrugs 18:351−359)。オリゴヌクレオチドリガンドは、RNAまたはDNAのいずれかであり得、そして広範な標的分子クラスに結合することができる。
【0270】
上記の足場構造のいずれかの変異体のプールから定義された親和性リガンドを選択するために、多くの選択プラットホームが、好適な標的タンパク質に対する新規の特異的なリガンドの単離に利用可能である。選択プラットホームとして、ファージディスプレイ(Smith GP (1985) Science 228:1315−1317)、リボソームディスプレイ(Hanes J and Plueckthun A (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 94:4937−4942)、酵母ツーハイブリッドシステム(Fields S and Song O (1989) Nature 340:245−246)、酵母ディスプレイ(Gai SA and Wittrup KD (2007) Curr Opin Struct Biol 17:467−473)、mRNAディスプレイ(Roberts RW and Szostak JW (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 94:12297−12302)、細菌ディスプレイ(Daugherty PS (2007) Curr Opin Struct Biol 17:474−480、Kronqvist N et al. (2008) Protein Eng Des Sel 1−9、Harvey BR et al. (2004) PNAS 101(25):913−9198)、マイクロビーズディスプレイ(Nord O et al. (2003) J Biotechnol 106:1−13、WO01/05808)、SELEX(System Evolution of Ligands by Exponential Enrichment)(Tuerk C and Gold L (1990) Science 249:505−510)およびタンパク質フラグメント相補性アッセイ(PCA)(Remy I and Michnick SW (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 96:5394−5399)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0271】
それ故、本開示の実施形態では、親和性リガンドは、上記で列挙したタンパク質足場のうちのいずれかから誘導された非免疫グロブリン親和性リガンドであってもよく、またはオリゴヌクレオチド分子であってもよい。
【0272】
PODXLタンパク質フラグメントの配列番号1は、他のヒトタンパク質と低い相同性を有する独特な配列からなり、そして作製されたアフィニティー試薬の交差反応性を最小限にするように設計された。結果的に、本開示の実施形態では、親和性リガンドは、配列番号1からなるポリペプチドとの選択的相互作用が可能であり得る。
【0273】
「配列番号1の配列からなるポリペプチドとの選択的相互作用が可能な親和性リガンド」は、配列番号1フラグメントを、PODXLタンパク質の別の重複しない一部からなるフラグメントと識別することが可能である。
【0274】
以下の実施例、セクション6およびセクション7に示すとおり、配列番号1内には6個のエピトープ領域が同定されている。従って、本開示の実施形態において、親和性リガンドは、20アミノ酸以下、例えば15アミノ酸以下からなり、かつ配列番号10〜15から選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドとの選択的相互作用が可能であり得る。
【0275】
PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドの検出および/または定量は、生物学的相互作用に基づくアッセイにおいて結合試薬を検出および/または定量するための当業者に公知の任意の方法で達成することができる。従って、上記の任意の親和性リガンドを使用して、PODXLタンパク質の存在を定量的および/または定性的に検出することができる。これらの「1次」親和性リガンドは、検出、視覚化および/または定量を可能にするため、それ自体が様々なマーカーで標識されてもよく、または次に2次標識親和性リガンドによって検出されてもよい。これは、数多くの標識の任意の1つ以上を使用して達成することができ、標識は、当業者に公知の数多くの技法の任意の1つ以上を用いて、かついかなる過度の実験も関与することのないものとして、PODXLタンパク質と相互作用可能な親和性リガンドと、または任意の2次親和性リガンドとコンジュゲート化することができる。
【0276】
1次および/または2次親和性リガンドにコンジュゲートすることができる標識の非制限的例として、蛍光染料または金属(例えば、フルオレセイン、ローダミン、フィコエリトリン、フルオレスカミン)、発色団染料(例えば、ロドプシン)、化学発光化合物(例えば、ルミナール、イミダゾール)、生物発光タンパク質(例えば、ルシフェリン、ルシフェラーゼ)、およびハプテン(例えば、ビオチン)が挙げられる。多様な他の有用な蛍光物質および発色団については、Stryer L (1968) Science 162:526−533およびBrand L and Gohlke JR (1972) Annu. Rev. Biochem. 41:843−868に記載されている。親和性リガンドは、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ラクタマーゼ)、放射性同位元素(例えば、3H、14C、32P、35Sまたは125I)および粒子(例えば、金)で標識することができる。本開示に関して、「粒子」は、分子を標識するのに適切な粒子、例えば、金属粒子を指す。さらに、親和性リガンドはまた、蛍光半導体ナノ結晶(量子ドット)で標識することができる。量子ドットは、より優れた量子収量を有し、そして有機蛍光団と比較してより光安定性であり、従って、より容易に検出される(Chan et al. (2002) Curr Opi Biotech. 13: 40−46)。様々な化学、例えば、アミン反応またはチオール反応を使用して、異なるタイプの標識を、親和性リガンドにコンジュゲートすることができる。しかし、アミンおよびチオール以外の他の反応基、例えば、アルデヒド、カルボン酸およびグルタミンを使用することもできる。
【0277】
上記の方法態様は、いくつかの既知の形式および設定のいずれかで利用することができ、その非制限的選択について以下で考察する。
【0278】
組織学に基づく設定では、そのPODXLタンパク質標的に結合した標識親和性リガンドの検出、局在および/または定量化は、可視化技術、例えば、光学顕微鏡または免疫蛍光顕微鏡に関係し得る。他の方法は、フローサイトメトリーまたはルミノメトリーを介する検出に関係し得る。
【0279】
例えば、被験体から取り出した腫瘍組織サンプル(生検)のような生物学的サンプルは、HMGCRタンパク質の検出および/または定量化に使用することができる。生検のような生物学的サンプルは、事前に得られたサンプルであってもよい。ある方法において事前に得られたサンプルを使用する場合、ヒトまたは動物身体に対して実践される方法の工程はない。親和性リガンドを、PODXLタンパク質の検出および/または定量化のために、生物学的サンプルに適用してもよい。この手順は、PODXLタンパク質の検出を可能にするだけではなく、加えて、その発現の分布および相対的レベルを示すこともできる。
【0280】
親和性リガンド上の標識の可視化の方法として、フルオロメトリー、ルミノメトリーおよび/または酵素的技術を挙げることができるが、これらに限定されない。蛍光は、蛍光標識を特定の波長の光に暴露し、その後、特定の波長領域において放射された光を検出および/または定量することによって、検出および/または定量される。発光タグ化親和性リガンドの存在は、化学反応中に発生する発光によって、検出および/または定量することができる。酵素反応の検出は、化学反応から生じるサンプルの色のシフトによるものである。当業者は、適切な検出および/または定量化のために、異なる多様なプロトコルを改変することができることを知っている。
【0281】
上記の態様の方法の実施形態では、生物学的サンプルを、ニトロセルロースもしくは適用される生物学的サンプルに存在するPODXLタンパク質を固定化することが可能な他の任意の固相支持体マトリックスのような固相支持体またはキャリアに固定化することができる。本発明において有用ないくつかの周知の固体状態支持材料として、ガラス、炭水化物(例えば、Sepharose)、ナイロン、プラスチック、ウール、ポリスチレン、ポリエテン(polyethene)、ポリプロピレン、デキストラン、アミラーゼ、フィルム、樹脂、セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、アルミナ、ガブロおよびマグネタイトが挙げられる。生物学的サンプルの固定化後、PODXLタンパク質に特異的な1次親和性リガンドは、例えば、本開示の実施例、セクション3に記載のように適用することができる。1次親和性リガンドがそれ自体で標識されない場合、支持マトリックスを、当該分野において公知の1つ以上の適切な緩衝液で洗浄することができ、続いて、2次標識親和性リガンドに暴露し、もう1回、緩衝液で洗浄して、結合していない親和性リガンドを取り出すことができる。その後、従来の方法で、選択的親和性リガンドを検出および/または定量することができる。親和性リガンドの結合特性は、固体状態支持体によって変動し得るが、当業者は、日常的な実験によって、それぞれの決定のための作動および至適アッセイ条件を決定することが可能であるべきである。
【0282】
結果的に、上記の態様の方法の実施形態では、b1)の定量可能な親和性リガンドは、定量可能な親和性リガンドを認識することが可能な2次親和性リガンドを使用して、検出することができる。それ故、a3)またはaII)の定量化は、定量可能な親和性リガンドに対して親和性を有する2次親和性リガンドによって、行うことができる。例として、2次親和性リガンドは、抗体またはそのフラグメントもしくは誘導体であり得る。
【0283】
例として、PODXLタンパク質の検出および/または定量化の1つの利用可能な方法は、後に酵素イムノアッセイ(例えば、EIAもしくはELISA)で検出および/または定量することができる酵素に親和性リガンドを連結させることによる。そのような技術は、良好に確立されており、そしてそれらは、当業者にとって過度の困難を伴わずに実現される。そのような方法では、生物学的サンプルは、固体材料、またはPODXLタンパク質に対する親和性リガンドにコンジュゲートされた固体材料と接触され、次いで、酵素標識された2次親和性リガンドで検出および/または定量される。この後、適切な基質を酵素標識を伴う適切な緩衝液と反応させて、例えば、分光光度計、蛍光光度計、発光測定装置を使用して、または目視手段によって、検出および/または定量される化学部分を生成させる。
【0284】
上記で述べたように、1次および2次親和性リガンドは、検出および/または定量化を可能にする放射性同位元素で標識することができる。本開示における適切な放射性標識の非制限的例には、3H、14C、32P、35Sまたは125Iがある。標識された親和性リガンドの比活性は、放射性標識の半減期、同位体の純度、および標識がどのようにして親和性リガンドに組み入れられたかに依存する。親和性リガンドは、好ましくは、周知の技術(Wensel TG and Meares CF (1983) in: Radioimmunoimaging and Radioimmunotherapy (Burchiel SW and Rhodes BA eds.) Elsevier, New York, pp 185−196)を使用して、標識される。そのような放射性標識された親和性リガンドを使用して、インビボまたはインビトロでの放射能の検出により、PODXLタンパク質を可視化することができる。例えば、γカメラ、磁気共鳴分光法または放射トモグラフィーによる放射性核種スキャニングは、インビボおよびインビトロでの検出に機能する一方、γ/βカウンター、シンチレーションカウンターおよびラジオグラフィーもまた、インビトロで使用される。
【0285】
本開示の方法を実施するため、キットが用いられ得る。従って本開示の第3の態様として、結腸直腸癌の予後を確定するためのキットが提供され、これは、
a)PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な定量可能な親和性リガンド;
b)a)の定量可能な親和性リガンドの量を定量するのに必要な試薬;
c)COX−2タンパク質との選択的相互作用が可能な定量可能な親和性リガンド;および
d)c)の定量可能な親和性リガンドの量を定量するのに必要な試薬、
を含み、ここでb)およびd)の試薬は同じであるか、または異なる。
【0286】
従って、抗PODXLタンパク質親和性リガンドおよび抗COX−2親和性リガンドの双方の定量に同じ試薬、例えば同じ2次抗体が用いられ得る。
【0287】
従って本キットは、COX−2のレベルが評価される方法に特に有用である。
【0288】
本開示の方法態様に関連して上述したとおり、第3の態様に従うキットの様々な構成要素が選択および指定され得る。
【0289】
従って、本開示に従うキットは、PODXLタンパク質およびCOX−2に対する親和性リガンド、ならびに特異的および/または選択的親和性リガンドを、それらがそれぞれの標的タンパク質に特異的および/または選択的に結合した後に定量するのに役立つ他の手段を含む。例えばキットは、標的タンパク質と親和性リガンドとによって形成された複合体を検出および/または定量するための2次親和性リガンドを含み得る。キットはまた、親和性リガンド以外の、キットの容易かつ効率的な使用を可能にする様々な補助物質も含み得る。補助物質の例として、キットの凍結乾燥タンパク質成分を溶解または再構成するための溶媒、洗浄緩衝液、標識として酵素が使用される場合に酵素活性を計測するための基質、パラフィンまたはホルマリン固定された組織サンプルを使用する場合に抗原に対する到達性を亢進させるための抗原賦活液(target retrieval solution)、および反応停止剤などの物質、例えば一般にイムノアッセイ試薬キットで用いられる、バックグラウンド染色を減少させる内因性酵素遮断溶液および/または染色の対比を増加させる対比染色溶液が挙げられる。
【0290】
キット態様の実施形態では、親和性リガンドは、方法態様に関連して上述したとおり選択することができる。
【0291】
従って、a)および/またはc)の親和性リガンドは、抗体、そのフラグメントおよびその誘導体からなる群から選択され得る。
【0292】
さらに、方法態様に関連して上述の内容によれば、検出可能な親和性リガンドは、キット態様の実施形態において、蛍光染料および金属、発色団染料、化学発光化合物および生物発光タンパク質、酵素、放射性同位元素、粒子および量子ドットからなる群から選択される標識を含み得る。あるいは、親和性リガンドの量を定量するのに必要な試薬は、定量可能な親和性リガンドを認識することが可能な1つ以上の2次親和性リガンドを含む。例として、1つ以上の定量可能な親和性リガンドを認識することが可能な1つ以上の2次親和性リガンドは、蛍光染料または金属、発色団染料、化学発光化合物および生物発光タンパク質、酵素、放射性同位元素、粒子および量子ドットからなる群から選択される標識を含む。
【0293】
キット態様に従うキットはまた、有利には、PODXLタンパク質および/またはCOX−2サンプル値との比較に用いられる1つ以上の基準値を提供し、またはもたらすための1つ以上の基準サンプルも含み得る。例えば、基準サンプルは所定量のPODXLタンパク質またはCOX−2を含み得る。そのような基準サンプルは、例えば、所定量のPODXLタンパク質またはCOX−2を含む組織サンプルまたは細胞系統サンプルによって構成され得る。次いで組織または細胞系統の基準サンプルは、当業者が、基準組織サンプルおよび対象のサンプルにおける発現レベルを手動、例えば肉眼で比較するか、または自動で比較することにより、被験サンプルにおけるタンパク質発現状態の決定に使用し得る。
【0294】
上述の細胞系統は、例えば癌細胞系統であってもよい。さらに、細胞系統は、所定量または制御された量のPODXLタンパク質を発現し得る。当業者は、かかる細胞系統をどのように提供すればよいかを、例えばRhodes et al.(2006) The biomedical scientist,p 515−520の開示を指針として理解する。例として、細胞系統はホルマリン固定されてもよい。また、そのようなホルマリン固定細胞系統はパラフィン包埋されてもよい。
【0295】
上述の組織基準サンプルは、肉眼での、または顕微鏡による評価に適合された組織サンプルであってもよい。例として、組織基準サンプルはパラフィンもしくは緩衝ホルマリンに固定化され、および/または組織学的に処理されることで、顕微鏡ガラススライドにマウントされる切片(例えば、μmの薄切片)にされる。組織基準サンプルは、抗体などの親和性リガンドによる染色にさらに適合され得る。
【0296】
従って、キット態様の実施形態において、基準サンプルは、任意の関連する基準値、例えば上記で考察した基準値の任意の一つを直接的に、または間接的に、提供するように適合され得る。
【0297】
語句「基準値を提供するための基準サンプル」は、本開示との関連においては広義に解釈されるべきである。基準サンプルは、実際に基準値に対応するPODXLタンパク質またはCOX−2の量を含んでもよいが、基準値より高い値に対応するPODXLタンパク質またはCOX−2の量を含んでもまたよい。後者の場合、「高い」値は、「高い」値より低い基準値、例えばその外観の評価用の上位基準(陽性基準)として、方法の実施者により用いられ得る。免疫組織化学分野の当業者は、そのような評価をどのように行えばよいか理解している。さらに、代替例または補足例として、当業者は、低量のPODXLタンパク質またはCOX−2を含む別の基準サンプルを使用して、そのような評価において「低い」値を、例えば陰性基準として提供してもよい。これについては、上記で方法態様に関連してさらに考察している。
【0298】
従って、キット態様の実施形態において、基準サンプルは、基準値に対応するPODXLタンパク質の量を含み得る。そのような基準値の例は、方法態様に関連して上記で考察している。
【0299】
さらに、キット態様の実施形態において、基準サンプルは、基準値に対応するCOX−2の量を含み得る。そのような基準値の例もまた、方法態様に関連して上記に考察される。
【0300】
さらに、キット態様の代替的または補足的な実施形態において、キットは、基準値より高い値に対応するPODXLタンパク質またはCOX−2の量を含む基準サンプルを含み得る。そのような基準サンプルは、例えば、75%以上の細胞質画分および/または強い細胞質強度に対応するPODXLタンパク質またはCOX−2の量を含み得る。
【0301】
さらにまた、キット態様の代替的または補足的な実施形態において、キットは、基準値以下の値、例えば、細胞質強度不在および/または<2%、例えば0%の細胞質画分に対応するPODXLタンパク質またはCOX−2の量を含む基準サンプルを含み得る。
【0302】
従って、キット態様の実施形態において、基準サンプルは、任意の関連する基準値、例えば上記で考察した基準値の任意の一つを直接的に、または間接的に、提供するように適合され得る。
【0303】
上記に提示した知見を受けて、本発明者らは、PODXLタンパク質またはそのフラグメントについてのいくつかの使用を見出した。
【0304】
従って、本開示の第4の態様として、結腸直腸癌の予後マーカーとしてのPODXLタンパク質の使用が提供される。この使用はインビトロであってもよい。
【0305】
同様に、結腸直腸癌を有する哺乳動物対象についての比較的不良な予後のマーカーとしてのPODXLタンパク質の使用が提供される。
【0306】
第4の態様の構成として、結腸直腸癌を有する対象についての漿膜浸潤または転移癌のマーカーとしてのPODXLタンパク質の使用が提供される。この構成については上記でさらに考察している。
【0307】
本開示に関連して、「予後マーカー」は、その存在が予後を示す何らかの材料を指す。従ってマーカーはバイオマーカー、例えばヒトタンパク質であってもよい。
【0308】
第4の態様の実施形態において、PODXLタンパク質は、結腸直腸腫瘍組織サンプルなどの、結腸直腸癌を有する対象からの生体試料中に提供され得る。さらに、上記で考察した理由から、結腸直腸腫瘍組織サンプルは結腸腫瘍組織サンプルであり得る。結腸腫瘍組織サンプルは、例えばS状結腸に由来してもよい。
【0309】
本開示の第5の態様として、結腸直腸癌を有する哺乳動物対象についての予後の確定用予後診断剤を産生、選択または精製するためのPODXLタンパク質、またはその抗原活性フラグメントの使用が提供される。この使用はインビトロであってもよい。
【0310】
本開示に関連して、「予後診断剤」は、予後、例えば結腸直腸癌を有する哺乳動物対象の予後の確定において有益な少なくとも1つの特性を有する薬剤を指す。例えば、予後診断剤は、予後マーカーとの選択的相互作用が可能であり得る。
【0311】
従って予後診断剤は、PODXLタンパク質またはその抗原活性フラグメントとの選択的相互作用が可能な親和性リガンドであってもよい。そのような親和性リガンドの例については、方法態様に関連して上記で考察している。
【0312】
本開示の教示を指針として、当業者は、予後診断剤の産生、選択または精製においてPODXLタンパク質またはフラグメントをどのように使用すればよいか理解する。例えば、この使用は、PODXLタンパク質が固定化されている固相支持体上でのアフィニティー精製を含み得る。固相支持体は、例えばカラムに配置されてもよい。さらにこの使用は、ポリペプチドが固定化されている固相支持体を使用した、PODXLタンパク質に対して特異性を有する親和性リガンドの選択を含み得る。そのような固相支持体は、ウェルプレート(96ウェルプレートなど)、磁気ビーズ、アガロースビーズまたはセファロースビーズであってもよい。さらにこの使用は、例えばデキストランマトリックスを使用した、可溶性マトリックス上の親和性リガンドの分析、またはBiacore(商標)装置などの表面プラズモン共鳴装置における使用を含んでもよく、ここで分析は、例えば、固定化されたPODXLタンパク質に対する多数の候補親和性リガンドの親和性をモニタすることを含み得る。
【0313】
また、予後診断剤を産生するため、動物の免疫化においてPODXLタンパク質またはその抗原活性フラグメントを使用することもできる。
【0314】
そのような使用は、
i)PODXLタンパク質またはその抗原活性フラグメントを抗原として使用して動物を免疫化する工程;
ii)免疫化した動物から予後診断剤を含む血清を得る工程;および場合により、
iii)血清から予後診断剤を単離する工程
を含む方法に関わり得る。
【0315】
あるいは、第1の工程に続く工程は、
ii’)免疫化した動物から細胞を得る工程であって、細胞が予後診断剤をコードするDNAを含む工程、
iii’)細胞を骨髄腫細胞と融合して少なくとも1つのクローンを得る工程、および
iv’)クローンによって発現された予後診断剤を得る工程
であってもよい。
【0316】
第4または第5の態様の実施形態において、PODXLタンパク質(またはそのフラグメント)のアミノ酸配列は、
i)配列番号1;および
ii)配列番号1と少なくとも85%同一である配列
から選択される配列を含んでもよく、またはそれからなってもよい。
【0317】
いくつかの実施形態において、配列ii)は、配列番号1と少なくとも90%同一、少なくとも91%同一、少なくとも92%同一、少なくとも93%同一、少なくとも94%同一、少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一または少なくとも99%同一である。
【0318】
さらに、第4の態様の実施形態において、PODXLタンパク質のアミノ酸配列は、
i)配列番号2または3;および
ii)配列番号2または3と少なくとも85%同一である配列
から選択される配列を含んでもよく、またはそれからなってもよい。
【0319】
いくつかの実施形態において、配列ii)は、配列番号2または3と少なくとも90%同一、少なくとも91%同一、少なくとも92%同一、少なくとも93%同一、少なくとも94%同一、少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一または少なくとも99%同一である。
【0320】
以下の実施例において実証するとおり、配列番号1のいくつかの抗原性小領域を同定した。従って、本開示の実施形態において、「抗原活性フラグメント」は25アミノ酸以下からなり、かつ配列番号10〜18から選択されるアミノ酸配列を含み得る。ここで、配列番号10〜15が好ましいとみなされ得る。さらなる実施形態では、「抗原活性フラグメント」は20アミノ酸以下、例えば15アミノ酸以下からなり得る。
【0321】
本開示の第6の態様として、PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドが提供される。
【0322】
そのような親和性リガンドの種々の実施形態については、上記で方法態様に関連して考察している。
【0323】
本開示の第7の態様として、結腸直腸癌の予後診断剤としての第6の態様に従う親和性リガンドの使用が提供される。従って親和性リガンドは、結腸直腸癌対象についての予後を確定するために使用され得る。そのような使用は、例えばインビトロで実施されてもよく、例えば、対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部におけるPODXLの量を決定することを含み得る。
【0324】
PODXLタンパク質は結腸直腸腫瘍細胞の表面で発現する。さらに本明細書では、腫瘍におけるPODXLタンパク質の発現レベルが上昇するほど、結腸直腸癌を有する対象の生存率についての予後が低下することが示される。従って本発明者らは、PODXLが結腸直腸癌における治療標的であり、PODXLタンパク質との結合能を有する抗体などの親和性リガンドが治療剤として用いられ得ると結論付ける。
【0325】
PODXLタンパク質は、細胞間接着に関与することが報告されている。いかなる特定の科学理論にも限定するものではないが、結腸直腸腫瘍細胞のPODXLタンパク質を標的化すると、細胞間相互作用が妨げられ、そのため腫瘍成長および/または増殖に影響が及び得る。さらに、プロテオグリカン(PODXLはプロテオグリカンである)は、成長因子に対する応答に関与することが示唆されている。従って、PODXLタンパク質を標的化すると、腫瘍成長に重要な成長因子シグナル伝達にも影響が及び得る。
【0326】
従って、本開示の第8の態様として、医薬品として使用するための、PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドが提供される。特に、この親和性リガンドは、結腸直腸癌を有する対象の治療に使用するためのものであり得る。
【0327】
一実施形態によれば、対象の結腸直腸腫瘍の一部はPODXLタンパク質を、例えば結腸直腸癌を有する対象の関連する基準集団の平均PODXLタンパク質発現レベルより高いレベルで発現することが分かっている。あるいは、結腸直腸腫瘍の一部は、PODXLタンパク質を、上記で考察される基準値のいずれよりも高いサンプル値に対応するレベルで発現することが分かっていてもよい。従って親和性リガンドは、一実施形態によれば、PODXLタンパク質を発現することが分かっている腫瘍を有する対象の治療においてのみ使用するためのものであり得る。対象となる腫瘍は、例えばPODXL発現状態の確定前に外科的に摘出されたものであってもよい。
【0328】
また、一実施形態によれば、第8の態様の結腸直腸癌は、上記の定義のいずれか一つによるCOX−2陽性である。
【0329】
治療所見はいかなる特定の型の結腸直腸癌にも限定されないにしろ、予後不良とPODXL発現との間に関係があることは、特に結腸癌対象(図7)およびS状結腸癌対象(図1〜図5)において示されている。従って第8の態様の結腸直腸癌は、結腸癌であってもよい。さらに結腸癌は、例えばS状結腸癌であってもよい。
【0330】
第8の態様の親和性リガンドは、PODXLタンパク質との選択的相互作用がなお可能である限り、上記で方法態様に関連して考察される親和性リガンドのいずれであってもよい。
【0331】
第8の態様の実施形態によれば、従って親和性リガンドは、PODXLタンパク質の細胞外領域(配列番号6または7)との選択的相互作用が可能であり得る。上記でさらに考察している配列番号1は、双方のスプライス変異体PODXLタンパク質の細胞外領域(配列番号6および7)の小領域である。従って、第8の態様の実施形態によれば、親和性リガンドは、アミノ酸配列の配列番号1からなるペプチドとの選択的相互作用が可能であり得る。
【0332】
配列番号1内の特異的エピトープなどの、配列番号1との選択的相互作用が可能なモノクローナル抗体は、例えば、Kohler and Milstein(Kohler,G and Milstein,C,1973,Nature 256,495−497)により開発されたハイブリドーマ技法に基づき作製され得る。配列番号1は抗原として使用されてもよく、その産生は実施例、セクション1に説明する。代替的な手法は、配列番号1内のアミノ酸配列からなるペプチドを合成し、このペプチドを抗原として使用することである。抗原はBALB/cマウス(4〜6週齢、雌性)に3週間隔で皮下注射する。免疫化前に抗原は、初回注射については完全フロイントアジュバントと、およびそれ以降の注射については不完全フロイントアジュバントと混合する。融合の3日前、マウスを静脈注射によって抗原で誘発する。免疫化したマウス由来の脾細胞をSp2/0骨髄腫細胞系統と融合させることによりハイブリドーマを生成する。次に、ELISAを用いていくつかのハイブリドーマ細胞系統をスクリーニングし、配列番号1内のアミノ酸配列からなる1つ以上のフラグメントに特異的な抗体を分泌する細胞系統を、さらなる特性決定のため同定および選択する。
【0333】
さらなる特性決定はエピトープマッピングを含んでもよく、これは、細菌ディスプレイに基づく以下のプロトコルに従い実施することができる:ベクターpAff8cをテンプレートとして使用するPCRにより、配列番号1に対応するDNAを増幅する。増幅したDNAを音波処理によって様々な長さ(約50〜150bp)に断片化し、続いてブドウ球菌ディスプレイベクター(pSCEM2)にライゲートしてS.カルノサス(S.carnosus)に形質転換する。インフレームDNAフラグメントをペプチドとしてブドウ球菌表面に提示する。抗体(配列番号1に対して選択的、上記のとおり得られる)および蛍光標識2次試薬と共にインキュベートした後、エピトープを呈する細胞およびエピトープを呈しない細胞を単離するため、フローサイトメトリーを使用して陽性細胞および陰性細胞を別々に分取する(Rockberg J et al(2008) Nature Methods vol 5.no 12:1039−45)。単離した細胞をパイロシーケンシングにより配列決定し、最後にエピトープを同定するため配列をPODXL抗原とアラインメントする。表面発現レベルのリアルタイム追跡を伴う二重標識法を用いることができる(Loefblom,J et al(2005) FEMS Microbiol Lett 248:189−198)。これにより、細胞間変動が小さいならば結合シグナルを発現レベルに関して正規化することが可能となり、異なるエピトープ集団を識別することができる。さらに、これによりまた、表面に提示された未結合ペプチドを決定するアッセイを並行して行うことも可能となる。代替的なエピトープマッピング手法は、以下のプロトコルに従うペプチドスクリーンを実施することであってもよい:次に、PODXL上の配列番号1に対応するビオチン化ペプチドからなるPEPscreenライブラリ(Sigma)を合成し得る。ペプチドは10アミノ酸の重複を有する15アミノ酸長であって、合わせてPrEST配列全体を網羅するものであってよい。次にNeutravidin(Pierce,Rockford,IL)を、製造者のプロトコルに従いカルボキシル化ビーズ(COOH Microspheres,Luminex−Corp.,Austin,TX)に固定化する。次に、Larssonら(Larsson et al(2009) J Immunol Methods 15;34(1−2):20−32,Schwenk et al(2007) Mol Cell Proteomics 6(1)125:32)により記載されるとおり、フィルター膜底を有するマイクロタイタープレート(MultiScreen−HTS、Millipore、Billerica、MA)を使用してビーズのカップリングを実施する。1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドおよびN−ヒドロキシスクシンイミドを使用して、異なるカラーコードIDを有する個別のビーズ群を活性化する。次にNeutravidin(MES中100μg/ml)をビーズに添加し、振盪器で120分間インキュベートする。次にビーズを洗浄し、再懸濁し、微量遠心管に移して、NaN3を補充したタンパク質含有緩衝液(BRE、ELISA用ブロッキング試薬、Roche,Basel,Switzerland)中に4℃で貯蔵する。カップリングしたすべてのビーズ集団を超音波洗浄器(Branson Ultrasonic Corporation,Danbury,CT)において5分間音波処理する。ビオチン化ペプチドをBRE中に20μMの濃度まで希釈して、カップリング反応に100μlの各ペプチドを使用し、カップリング反応は室温で振盪しながら60分間実行する。最後に、ビーズを3×100μlのBRE緩衝液で洗浄し、以降の使用時まで4℃で貯蔵する。PODXLタンパク質(の細胞外領域)との選択的相互作用が可能な、そのようなモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体の治療特性は、以下のプロトコルを用いて評価することができる:PODXLタンパク質を発現する細胞を5×104細胞/ウェルで24ウェル皿に播種する。24時間後、細胞を、1ng/ml〜1000ng/mlの範囲の濃度の抗体(配列番号1に対して選択的、上記のとおり得られる)の希釈物で3組処理する。PBS pH7.2で処理した細胞を対照として使用する。5日後、細胞をトリプシン処理し、各々3回計数する。未処理の培養物と比較した細胞の割合として成長阻害を計算する。次に最も高い成長阻害を示す抗体を治療抗体として選択することができる。従って当業者は、その一般的知識および本開示の教示を用いて、過度の負担を伴うことなく第8の態様の親和性リガンドを提供することができる。
【0334】
一実施形態によれば、親和性リガンドは、国際公開第2009/108932号パンフレットに従う標的組成物の一部ではない。従って、一実施形態によれば、親和性リガンドは、癌胎児性抗原(CEA)またはCD44vに対する2次抗体をさらに含む組成物の一部ではない。代替的または補足的な実施形態によれば、親和性リガンドは固相基質には結合しない。別の代替的または補足的な実施形態によれば、親和性リガンドは、基質または親和性リガンドに結合する治療剤または造影剤をさらに含む組成物の一部ではない。ここで「治療剤」は、本態様の治療用親和性リガンドとは異なる薬剤を指す。そのような治療剤の例は、国際公開第2009/108932号パンフレットの請求項28に列挙される化学療法剤である。本明細書で第8の態様に関連して記載される国際公開第2009/108932号パンフレットの開示に基づく実施形態は、第6および第7の態様に準用される。さらに、国際公開第2009/108932号パンフレットの開示は、本開示が基礎とする概念と異なる概念に基づくことが提供される。例えば、本開示の親和性リガンドは生体内イメージングを意図したものではない。また、本態様の治療効果は、別の治療剤(例えば、それ自体はPODXLタンパク質との選択的相互作用が可能でない公知の化学療法剤)の作用に頼るものではない。
【0335】
本開示の第9の態様として、結腸直腸癌を有する対象の治療方法が提供され、この方法は、PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドの有効量を投与する工程を含む。第8の態様の実施形態が第9の態様に準用される。
【0336】
従って上記から、PODXLタンパク質のレベルを検出することにより、抗PODXLタンパク質親和性リガンドに基づく免疫療法が結腸直腸癌患者に有益かどうかが判断され得ることになる。しかしながら、本開示の第8および第9の態様は、(高レベルの)PODXL発現を示す対象に限定されるものではないことに留意すべきである。
【0337】
本開示の第10の態様として、PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドによる治療が、結腸直腸癌を有する哺乳動物対象に有益となる可能性があるかどうかを判断する方法が提供され、この方法は、
a)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部におけるPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)からの前記サンプル値を所定の基準値と比較する工程;および
前記サンプル値が前記基準値より高い場合、
c)その治療が対象に有益である可能性があると結論付ける工程。
を含む。
【0338】
治療が有益となる可能性があるとは、治療を受けた場合に、治療を受けない場合と比べて生存または回復する確率がより高いことを指す。これに関連して「回復」は、結腸直腸癌状態から結腸直腸癌がない状態に戻ることを指す。「生存」は、全生存または無病生存であり得る。さらに「回復」は、無再発の回復であり得る。また、「より高い確率」は、5年目、10年目または15年目における確率上の利益が少なくとも5%、例えば少なくとも10%となることであり得る。
【0339】
第8の態様の実施形態が本態様に準用される。さらに、上記の方法態様の実施形態が本態様に準用される。
【0340】
また、本開示の第11の態様として、第8の態様に従う治療用親和性リガンドを産生するための免疫化における抗原としての、PODXLタンパク質、またはその抗原活性フラグメントの使用が提供される。PODXLタンパク質は、例えば細胞外領域(配列番号6または7)またはその部分配列からなり得る。そのような部分配列は、PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドを生成するのに十分なサイズであることが理解されるべきである。PODXLの細胞外領域の部分配列であるPODXLタンパク質の例は、以下の実施例、セクション1で生成され、かつ以下の実施例、セクション2で抗原として使用される配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドである。
【実施例】
【0341】
PODXLタンパク質に対する単一特異性抗体の作製およびそれを使用した結腸直腸癌サンプル中のPODXLタンパク質の検出
1.抗原の作製
a)材料および方法
ヒトゲノム配列をテンプレートとするバイオインフォマティクスツールを使用して、EnsEMBL Gene ID ENSG00000128567によってコードされる標的タンパク質の好適なフラグメントを選択した(Lindskog M et al(2005) Biotechniques 38:723−727,EnsEMBL,www.ensembl.org)。このフラグメントを、PODXLタンパク質ENSP00000319782(配列番号2)のアミノ酸278〜417か、あるいはスプライス変異体ENSP00000367817(配列番号3)のアミノ酸310〜447に対応する138アミノ酸長のフラグメント(配列番号1)を作製するためのテンプレートとして使用した。
【0342】
EnsEMBL登録番号ENST00000322985(配列番号4)のヌクレオチド832〜1245、あるいはスプライス変異体ENST00000378555(配列番号5)のヌクレオチド928〜1341を含むPODXL遺伝子転写産物のフラグメントを、Platinum(登録商標)Taq(Invitrogen)を有するSuperscript(商標)One−Step RT−PCR増幅キットおよびテンプレートとしてのヒト全RNAプールパネル(Human Total RNA、BD Biosciences Clontech)によって単離した。PCR増幅プライマーを介してフラグメントにフランキング制限部位NotIおよびAscIを導入し、発現ベクターへのインフレームクローニングを可能にした(順方向プライマー:CTGCCAGAGACCATGAGC(配列番号8)、逆方向プライマー:GTCCCCTAGCTTCATGTCAC(配列番号9))。次いで、下流プライマーをビオチン化して、先述のとおりの固相クローニングを可能にし、得られたビオチン化PCR産物を、Dynabeads M280 Streptavidin(Dynal Biotech)に固定化した(Larsson M et al(2000) J.Biotechnol.80:143−157)。このフラグメントを、NotI−AscI消化(New England Biolabs)により固相支持体から遊離させ、固定化金属イオンクロマトグラフィー(IMAC)精製用のヘキサヒスチジルタグおよび連鎖球菌プロテインGからの免疫増強アルブミン結合タンパク質(ABP)からなる二重親和性タグ(Sjoelander A et al(1997) J.Immunol.Methods 201:115−123;Stahl S et al(1999) Encyclopedia of Bioprocess Technology:Fermentation,Biocatalysis and Bioseparation(Fleckinger MC and Drew SW,eds) John Wiley and Sons Inc.,New York,pp 49−63)とインフレームでpAff8cベクター(Larsson M et al、上掲)にライゲートし、および大腸菌(E.coli)BL21(DE3)細胞(Novagen)に形質転換した。クローンの配列を、製造者の推奨に従いTempliPhi DNA配列決定増幅キット(GE Healthcare,Uppsala,Sweden)を使用して増幅したプラスミドDNAのダイターミネーターサイクルシーケンスにより確認した。
【0343】
発現ベクターを所有するBL21(DE3)細胞を、同じ培養培地の1mlの1晩培養物の添加によって5g/l酵母抽出物(Merck KGaA)および50mg/lカナマイシン(Sigma−Aldrich)を補充した、100mlの30g/lトリプティックソイブロス(Merck KGaA)に播種した。細胞培養物を、1リットル振盪フラスコ中37℃および150rpmで、600nmでの光学密度が0.5〜1.5に到達するまで、インキュベートした。次いで、1mMの最終濃度へのイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(Apollo Scientific)の添加によって、タンパク質発現を誘導し、そしてインキュベーションを、1晩、25℃および150rpmで継続した。2400gでの遠心分離によって、細胞を回収し、そしてペレットを、5ml溶解緩衝液(7M塩酸グアニジン、47mMのNa2HPO4、2.65mMのNaH2PO4、10mMのTris−HCl、100mMのNaCl、20mMのβ−メルカプトエタノール;pH=8.0)に再懸濁し、そして2時間、37℃および150rpmでインキュベートした。35300gでの遠心分離後、変性および可溶化したタンパク質を含有する上清を回収した。
【0344】
His6−タグ化融合タンパク質を、ASPEC XL4(商標)(Gilson)上の自動化タンパク質精製手順(Steen J et al. (2006) Protein Expr. Purif. 46:173−178)を使用する1mlのTalon(登録商標)金属(Co2+)アフィニティー樹脂(BD Biosciences Clontech)を伴うカラム上での固定化金属イオン親和性クロマトグラフィー(IMAC)によって、精製した。樹脂を、20mlの変性洗浄緩衝液(6M塩酸グアニジン、46.6mMのNa2HPO4、3.4mMのNaH2PO4、300mMのNaCl、pH8.0〜8.2)で平衡化した。次いで、澄明にした細胞溶解物を、カラムに添加した。その後、2.5ml溶出緩衝液(6M尿素、50mMのNaH2PO4、100mMのNaCl、30mM酢酸、70mM酢酸ナトリウム、pH5.0)への溶出前に、樹脂を、最低でも31.5mlの洗浄緩衝液で洗浄した。溶出した材料を、3つのプール500、700および1300μlに分画した。抗原を含有する700μl画分、ならびにプールした500および1300μl画分を、さらなる使用のために貯蔵した。
【0345】
抗原画分を、リン酸緩衝食塩水(PBS;1.9mMのNaH2PO4、8.1mMのNa2HPO4、154mMのNaCl)で1M尿素の最終濃度に希釈し、続いて、7500Daでの分子量カットオフを伴うVivapore10/20ml濃縮装置(Vivascience AG)を使用して、タンパク質濃度を増加するための濃縮工程を行った。製造者の推奨に従って、ウシ血清アルブミン標準を伴うビシンコニン酸(BCA)マイクロアッセイプロトコル(Pierce)を使用して、タンパク質濃度を決定した。タンパク質の品質を、Protein 50もしくは200アッセイ(Agilent Technologies)を使用するBioanalyzer装置上で分析した。
【0346】
b)結果
PODXLの完全長転写産物のヌクレオチド832〜1245または928〜1341(配列番号4または5)に対応する遺伝子フラグメントを、RT−PCRにより特異的プライマーを使用してヒトRNAプールから首尾よく単離した。このフラグメントは、標的タンパク質PODXLの2つのスプライス変異体(配列番号2および3)のそれぞれアミノ酸278〜415および310〜447をコードする。標的タンパク質(配列番号2または3)の138アミノ酸フラグメント(配列番号1)は、大腸菌(E.coli)での効率的な発現を確実にするため膜貫通領域を含まないように、かつ成熟タンパク質で切り離されるため、いかなるシグナルペプチドも含まないように設計した。加えてこのタンパク質フラグメントは、作製されるアフィニティー試薬の交差反応性を最小限に抑えるため、かつコンフォメーショナルエピトープの形成を可能にしながらもなお、細菌系における効率的なクローニングおよび発現を可能にする好適なサイズとするため、他のヒトタンパク質との相同性が低いユニーク配列からなるように設計した。
【0347】
正確なアミノ酸配列をコードするクローンを同定し、そして大腸菌(E.coli)での発現時、正確なサイズの単一のタンパク質を産生させ、続いて、固定化金属イオンクロマトグラフィーを使用して、精製した。溶出したサンプルを1M尿素の最終濃度に希釈し、そしてサンプルを1mlに濃縮した後、タンパク質フラグメントの濃度を、4.0mg/mlに決定し、そして純度分析に従って、98.2%純度を得た。
【0348】
2.抗体の作製
a)材料および方法
上記で得られた精製したPODXLフラグメントを抗原として使用して、国のガイドライン(スウェーデン許可番号A84−02)に従って、ウサギを免疫した。ウサギの筋肉内に、1次免疫化としてフロイント完全アジュバント中200μgの抗原を免疫し、そして4週間間隔で、フロイント不完全アジュバント中100μg抗原で3回ブーストした。
【0349】
免疫動物由来の抗血清を、3工程の免疫アフィニティーに基づくプロトコル(Agaton C et al. (2004) J. Chromatogr. A 1043:33−40;Nilsson P et al. (2005) Proteomics 5:4327−4337)によって精製した。第1の工程では、7mlの全抗血清を、10×PBSで緩衝化して、1×PBS(1.9mMのNaH2PO4、8.1mMのNa2HPO4、154mMのNaCl)の最終濃度とし、0.45μmポアサイズフィルター(Acrodisc(登録商標)、Life Science)を使用してろ過し、そしてpAff8cベクターから発現され、そして抗原タンパク質フラグメントについて上記と同じ方法で精製した二重親和性タグタンパク質His6−ABP(ヘキサヒスチジルタグおよびアルブミン結合タンパク質タグ)に結合させた5mlのN−ヒドロキシスクシンイミド−活性化Sepharose(商標)4 Fast Flow(GE Healthcare)を含有するアフィニティーカラムに適用した。第2の工程では、二重親和性タグHis6−ABPに対する抗体を枯渇させたフロースルーを、免疫化のために抗原として使用したPODXLタンパク質フラグメント(配列番号1)に結合させた1mlのHi−Trap NHS−活性化HPカラム(GE Healthcare)上、0.5ml/分の流速で充填させた。His6−ABPタンパク質およびタンパク質フラグメント抗原を、製造者によって推奨されるように、NHS活性化マトリックスに結合させた。非結合材料を、1×PBST(1×PBS、0.1%Tween20、pH7.25)で洗浄除去し、そして捕捉された抗体を、低pHグリシン緩衝液(0.2Mグリシン、1mMのEGTA、pH2.5)を使用して、溶出させた。溶出した抗体画分を自動的に回収し、そして第3の工程における効率的な緩衝液交換のために直列に接続した2つの5mlのHiTrap(商標)脱塩カラム(GE Healthcare)上に充填した。第2および第3の精製工程を、AEKTAxpress(商標)プラットホーム(GE Healthcare)上で稼動させた。抗原選択的(単一特異的)抗体(msAb)を、−20℃での長期間貯蔵のために、それぞれ、40%および0.02%の最終濃度でグリセロールおよびNaN3を補充したPBS緩衝液で溶出させた(Nilsson P et al. (2005) Proteomics 5:4327−4337)。
【0350】
アフィニティー精製した抗体画分の特異性および選択性を、抗原自体および他のタンパク質アレイ設定(Nilsson P et al. (2005) Proteomics 5:4327−4337)における他の94のヒトタンパク質フラグメントに対する結合分析によって、分析した。タンパク質フラグメントを、0.1M尿素および1×PBS(pH7.4)中40μg/mlに希釈し、そしてそれぞれの50μlを、96ウェルスポッティングプレートのウェルに移した。ピン・アンド・リング(pin−and−ring)のアレイヤー(Affymetrix 427)を使用して、タンパク質フラグメントを2回測定でスポットし、そしてエポキシスライド(SuperEpoxy,TeleChem)上に固定化した。スライドを1×PBSで洗浄(5分間)し、次いで、表面を30分間ブロックした(SuperBlock(登録商標)、Pierce)。接着性の16ウェルシリコーンマスク(Schleicher&Schuell)を、単一特異的抗体を添加する(1×PBST中で1:2000に希釈して約50ng/mlにした)前にガラス適用し、そして振盪器上で60分間インキュベートした。各スポットのタンパク質の量を定量するため、親和性タグ特異的IgY抗体を単一特異的抗体と共にインキュベートした。スライドを1×PBSTおよび1×PBSでそれぞれ2回、10分間、洗浄した。2次抗体(Alexa 647とコンジュゲートされたヤギ抗ウサギ抗体およびAlexa 555とコンジュゲートされたヤギ抗ニワトリ抗体、Molecular Probes)を1×PBST中で1:60000に希釈して30ng/mlとし、そして60分間インキュベートした。第1のインキュベーションについて行ったのと同じ洗浄手順を行った後、スライドをスピンして乾燥し、そして走査した(G2565BAアレイスキャナー、Agilent)。その後、画像を、画像分析ソフトウェア(GenePix5.1、Axon Instruments)を使用して、定量した。
【0351】
b)結果
ポリクローナル抗体製剤の品質は、抗体精製におけるストリンジェンシーの程度に依存することが証明され、そして標的タンパク質に由来するものではないエピトープに対する抗体の枯渇が、他のタンパク質との交差反応性およびバックグランド結合を回避するのに必要であることがすでに証明されている(Agaton C et al. (2004) J. Chromatogr. A 1043:33−40)。それ故、タンパク質マイクロアレイ分析を実施して、特異性が高い単一特異的ポリクローナル抗体が、His6−タグに対する抗体ならびにABP−タグに対する抗体の枯渇によって作製されたことを確実にした。
【0352】
タンパク質アレイの各スポットにおけるタンパク質の量を定量するため、1次抗体と2次抗体との組み合わせで、2色の染料標識システムを使用した。ニワトリにおいて作製したタグ特異的IgY抗体を、Alexa 555蛍光染料で標識した2次ヤギ抗ニワトリ抗体で検出した。ウサギmsAbとアレイ上のその抗原との特異的結合を、Alexa 647標識ヤギ抗ウサギ抗体で蛍光的に検出した。各タンパク質フラグメントを2組スポットした。タンパク質アレイ分析は、PODXLに対するアフィニティー精製単一特異性抗体が、正しいタンパク質フラグメントに対して高度に選択的であり、かつアレイ上で分析した他のすべてのタンパク質フラグメントに対するバックグラウンドが極めて低いことを示している。
【0353】
3)S状結腸癌TMA
a)材料および方法
Department of Pathology,Malmoe University Hospital,Swedenから、1993年〜2003年にS状結腸癌の根治的切除を経験した患者(女性148人および男性157人)を含む予測データベースから遡及的に同定された305症例からなる患者コホートからのアーカイブホルマリン固定パラフィン包埋組織を収集した。患者の年齢中央値は74歳(39〜97歳)であった。47個の腫瘍はデュークス期Aで、129個はデュークス期Bで、84個はデュークス期Cで、および45個はデュークス期Dであった。デュークス期CまたはDの腫瘍を有する癌と診断された患者の一部はアジュバント治療(5−FU)を受け、またはある場合には対症療法を受けた。死亡日に関する情報は、すべての患者について地域の死因台帳管理機関から入手した。倫理的許可は地方倫理委員会(Local Ethics Committee)から得た。
【0354】
全305症例を、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色したスライド上で組織病理学的に再評価した。次いで、S状結腸癌腫の代表的領域から1症例あたり2×1.0mmのコアを採取することによってTMAを構築した。自動化された免疫組織化学を、既に記載のとおりに実施した(Kampf C et al(2004) Clin. Proteomics 1:285−300)。簡単に述べると、ガラススライドを60℃で45分間インキュベートし、キシレン中で脱パラフィン処理し(2×15分間)、段階的アルコールで水和した。抗原賦活化のため、スライドをTRS(Target Retrieval Solution、pH6.0、Dako,Copenhagen,Denmark)に浸漬し、Decloakingチャンバ(登録商標)(Biocare Medical)において125℃で4分間沸騰させた。スライドをAutostainer(登録商標)(Dako)内に置き、内因性ペルオキシダーゼを最初にH2O2(Dako)でブロックした。スライドを、実施例、セクション2で得た1次PODXL抗体と共に、または抗COX−2抗体と共に、室温で30分間インキュベーションした。COX−2 IHCについては、1:200希釈したモノクローナル抗体(Zymed、クローン18〜7379)を使用した。それに続き、ヤギ抗ウサギペルオキシダーゼコンジュゲートEnvision(登録商標)と共に室温で30分間インキュベートした。すべての工程と工程の間で、スライドを洗浄緩衝液(Dako)中で濯いだ。最後に、ジアミノベンジジン(Dako)を色素原として使用し、Harrisヘマトキシリン(Sigma−Aldrich)を対比染色に使用した。スライドをPertex(登録商標)(Histolab)を用いてマウントした。
【0355】
免疫組織化学的に染色した組織のすべてのサンプルを、顕微鏡下で手動で評価し、認定された病理専門医がアノテートした。各サンプルのアノテーションは、IHC結果を分類するための簡素化されたスキームを用いて実施した。各組織サンプルの代表性および免疫活性を調べた。
【0356】
基本的なアノテーションパラメータとしては、細胞内局在化(核発現および/または細胞膜/細胞質発現)、染色強度および染色細胞の画分の評価が含まれた。染色強度は、臨床組織病理学的診断で用いられる基準に従い主観的に評価し、結果を以下のように分類した:不在=免疫活性なし、弱い=微弱な免疫活性、中等度=中等度の免疫活性、または強い=明瞭かつ強い免疫活性。また、染色細胞の画分も、臨床組織病理学的診断で用いられる基準に従い主観的に評価し、結果を関連する細胞集団の免疫反応性細胞割合に従い分類した。当業者は、このアノテーション手順がAllredスコアの計算と同様であることを認識するであろう。例えばAllredら(1998) Mod Pathol 11(2)、155を参照のこと。
【0357】
統計分析のため、上記内容に沿って細胞質強度(CI)および細胞質画分(CF)のレベルを評価した。(上記に説明したとおり、CIおよびCFは細胞膜/細胞質発現に基づく)。簡単に説明すると、対象をPODXLタンパク質発現に基づき4グループに分け、ここで:
「0」は、細胞質強度(CI)不在かつ<1%の細胞質画分(CF)を表し;
「1」は、弱いCIかつ>1%のCFを表し;
「2」は、中等度のまたは強いCIかつ1〜50%のCFを表し;および
「3」は、中等度のまたは強いCIかつ>50%のCFを表す。
【0358】
個々の層についての生存率の傾向に基づき、さらなる統計分析のための二分類の変数を構築した。抗PODXLタンパク質抗体を使用する分析には、PODXLタンパク質「高」および「低」の2つの定義を用いた。第1の定義では、「PODXLタンパク質高」は上記による「2」または「3」を表し、一方「PODXLタンパク質低」は上記による「0」または「1」を表した。第2の定義では、「PODXLタンパク質高」は上記による「1」、「2」または「3」を表し、一方「PODXLタンパク質低」は上記による「0」を表した。従って、2つの異なるカットオフを用いたとともに、後者を使用したときは、PODXLタンパク質発現を示す実質的にすべての対象が「高」カテゴリーとなった。
【0359】
さらに、対象をCOX−2発現に基づき2グループ(高および低)に分割し、ここで「高」は≧10%のCFかつ強いCIを表し、「低」は<10%のCFおよび/または不在、弱いもしくは中等度の細胞質強度を表した。
【0360】
上記のサンプル分類を用いて、Kaplan−Meier推定量に従い無病生存率(DFS)および全生存率(OS)を推定し、ログランク検定を使用して異なる層における生存率を比較した。すべての統計的検定は両側検定であり、<0.05のp値を有意とみなした。すべての計算は統計パッケージSPSS 17.0(SPSS Inc.Illinois,USA)で行った。
【0361】
b)結果
279個の腫瘍サンプルにおいてPODXL発現の免疫組織化学的分析を実施することができた。残りのコアは腫瘍細胞を含まないか、または組織処理中に失われたかのいずれかであった。PODXL発現解析の結果、86人の対象において細胞膜/細胞質染色が得られた。193人(69%)は発現がなかった(CI<1%)。
【0362】
コホート全体の生存率分析から、腫瘍組織におけるPODXLの発現が全生存率および無病生存率(OSおよびDFS)と有意に相関することが明らかとなった(図1〜図5)。図1Aおよび図1Bは、CIに基づき4つの異なるカテゴリーに分けたときのすべての対象のOSおよびDFSを示す。PODXL発現が不在または弱い患者については、OSおよびDFSの双方が中等度または強い発現の患者より高く、5年OSおよびDFSがそれぞれ約60%および70%であった。中等度または強いPODXL発現の患者のOSおよびDFSは、約40%であった(図1Aおよび図1B)。従って、低いCIほど比較的良好な予後を示す一方、高いCIほど比較的不良な予後を示す。二分類の変数によるOSおよびDFSの分析がこれらの知見をさらに支持している(図2A、図2B、図3Aおよび図3B)。さらに、これらの図は、比較的低いカットオフ(図3)および比較的高いカットオフ(図2)の双方でのOSおよびDFS分析から有意な結果が得られることを示す。
【0363】
次に、DFSおよびOSに対するPODXLタンパク質発現とCOX−2発現との種々の組み合わせの影響を分析した。簡単に説明すると、すべての対象をPODXLおよびCOX−2の状態に基づき4つのグループ、即ち、PODXL低かつCOX−2低であった対象、PODXL低かつCOX−2高であった対象、PODXL高かつCOX−2低であった対象およびPODXL高かつCOX−2高であった対象に分割した。分析から、これらの層がOSおよびDFSの違いに関連することが明らかとなった(図4Aおよび図4B)。驚くことに、PODXL高かつCOX−2高の患者は特に転帰不良であった一方、PODXL低かつCOX−2低の患者は特に転帰良好であった。さらに、図4によればPODXLタンパク質はCOX−2より重要性の高い予後マーカーである。一つのグループがPODXL低および/またはCOX−2低の患者からなり、かつもう一つのグループがPODXL高かつCOX−2高の患者からなる二分類の変数によるOSおよびDFSの分析が、生存転帰の違いをさらに支持している(図5Aおよび図5B)。このPODXL高の患者グループはまた、COX−2阻害治療にも特に興味深いものであり得る。
【0364】
結論として、図1〜図5に見ることができるとおり、S状結腸カルシノーマと診断された患者については、患者の予後、例えば5年年生存率などの生存確率の確定に、PODXLタンパク質をバイオマーカーとして使用することが有意義であり得る。さらに、予後データは、患者のCOX−2状態も考慮することによって精緻化され得る。
【0365】
4)結腸直腸癌TMA
a)材料および方法
Department of Pathology,Malmoe University Hospital,Swedenから、1999年〜2002年に結腸直腸カルシノーマと診断された118人の患者(女性61人および男性57人)からのアーカイブホルマリン固定パラフィン包埋組織を収集した。患者の年齢中央値は73歳(32〜88歳)であった。サンプルのうち51個は結腸から採取し、および67個は直腸から採取した。35個の腫瘍はデュークス期Aで、42個はデュークス期Bで、35個はデュークス期Cで、および6個はデュークス期Dであった。死亡日に関する情報は、すべての患者について地域の死因台帳管理機関から入手した。倫理的許可は地方倫理委員会(Local Ethics Committee)から得た。
【0366】
結腸直腸カルシノーマの全118症例を、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色したスライド上で組織病理学的に再評価した。次いで、浸潤癌の代表的領域から1症例あたり2×1.0mmのコアを採取することによりTMAを構築した。TMAを調製し、上記の実施例、セクション2に記載されるとおりに調製されるPODXL抗体および抗COX−2モノクローナル抗体(Zymed、クローン18〜7379)を希釈(1:200)して使用して、上記のセクション3に記載されるとおり自動化された免疫組織化学を実施した。
【0367】
アノテーション、分類、グループ化および統計分析を、上記のセクション3aに記載のとおり実施した。しかしながら、COX−2発現に基づくグループ化では、「高」は≧10%のCFかつ中等度のまたは強いCIを表し、および「低」は<10%のCFおよび/または不在または弱い(CI)を表した。
【0368】
b)結果
112個の腫瘍サンプルにおいてPODXL発現の免疫組織化学的分析を実施することができた。残りのコアは腫瘍細胞を含まないか、または組織処理中に失われたかのいずれかであった。PODXL発現解析の結果、67人の対象において細胞膜/細胞質染色が得られた。45人の対象(40%)は発現がなかった(CI<1%)。
【0369】
コホート全体の生存率分析から、腫瘍組織におけるPODXLの細胞膜/細胞質発現が全生存率(OS)と有意に相関することが明らかとなった(図6〜図7)。図6Aは、CIに基づき4つの異なるカテゴリーに分けたときのすべての対象のOSを示す。PODXL発現が不在または弱い患者は、中等度または強い発現の患者より高いOSを有した。図6Bに見られるとおりの二分類の変数によるOSの分析は、発現が不在または弱い患者の5年OSが60%を上回ったのに対し、中等度または強い発現の患者の5年OSは40%を下回ったことを明らかにしている。従って、低いCIは比較的良好な予後を示す一方、高いCIは比較的不良な予後を示す。OS分析から直腸サンプルを除く場合にも依然として有意な結果となり、この知見は、結腸癌の侵襲性に関する重要なマーカーとしてのPODXLをさらに支持している(図7)。
【0370】
次に、本発明者らは、結腸癌における予後不良の予測因子としてのCOX−2の提案される役割を前提として、PODXLの発現とCOX−2の発現との間の関連性について調査した。PODXLタンパク質発現とCOX−2発現との種々の組み合わせを有する患者についてのOSに対する影響を分析した。簡単に説明すると、すべての対象をPODXLおよびCOX−2の状態に基づき4つのグループ、即ち、PODXL低かつCOX−2低であった対象、PODXL低かつCOX−2高であった対象、PODXL高かつCOX−2低であった対象、およびPODXL高かつCOX−2高であった対象に分割した。分析から、これらの定義された層がOSの違いに関連することが明らかとなった(図8A)。驚くことに、PODXL高かつCOX−2高の患者は特に転帰不良であった一方、PODXL低かつCOX−2低の患者は特に転帰良好であった。一つのグループがPODXLおよび/またはCOX−2低の患者を含み、かつ第2のグループがPODXLおよびCOX−2高の患者からなる二分類の変数によるOSの分析が、生存転帰の違いをさらに支持している(図8B)。このPODXL高の患者グループはまた、COX−2阻害治療についてもまた特に興味深いものであり得る。
【0371】
従って、結腸直腸癌コホート(本セクション)の結果は、S状結腸癌コホート(セクション3)の結果と極めて類似している。従って本開示の知見は、PODXLタンパク質、場合によりCOX−2との組み合わせが、全結腸直腸領域における、ならびに結腸およびその小領域(即ちS状結腸)における予後について関連性のあるバイオマーカーであることを示している。
【0372】
5)結腸直腸癌TMA、コホートII
a)材料および方法
Department of Pathology,Malmoe University Hospital,Swedenから、1990年1月1日〜1991年12月31日に結腸直腸癌を外科的に治療した270人の患者(女性137人および男性133人)からのアーカイブホルマリン固定パラフィン包埋組織を収集した。患者の年齢中央値は73歳(37〜93歳)であった。サンプルのうち217個は結腸から採取し、51個は直腸から採取した。42個の腫瘍はデュークス期Aで、118個はデュークス期Bで、70個はデュークス期Cで、および40個はデュークス期Dであった。死亡日に関する情報は、すべての患者について地域の死因台帳管理機関から入手した。倫理的許可は地方倫理委員会(Local Ethics Committee)から得た。
【0373】
結腸直腸カルシノーマの全270症例を、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色したスライド上で組織病理学的に再評価した。浸潤癌の代表的領域から1症例あたり2×1.0mmのコアを採取することによってTMAを構築した。TMAを調製し、上記の実施例、セクション2に記載されるとおりに調製されるPODXL抗体を使用して、上記のセクション3に記載されるとおり自動化された免疫組織化学を実施した。
【0374】
アノテーション、分類、グループ化および統計分析を、上記のセクション3aに記載されるとおり実施した。
【0375】
b)結果
全270個の腫瘍サンプルにおいてPODXL発現の免疫組織化学的分析を実施することができた。PODXL発現解析の結果、121人の対象において細胞膜/細胞質染色が得られた。137人の対象(約50%)は発現がなかった(CI<1%)。
【0376】
コホート全体の生存率分析から、腫瘍組織におけるPODXLの細胞膜/細胞質発現が全生存率(OS)と有意に相関することが明らかとなった(図9)。図9は、CIに基づき4つの異なるカテゴリーに分けたときのすべての対象のOSを示す。PODXL発現が不在または弱い患者は、中等度または強い発現の患者より高いOSを有した。図10に見られるとおりの二分類の変数によるOSの分析は、発現が不在または弱い患者の5年OS(実線)が約50%であったのに対し、中等度または強い発現の患者の5年OS(点線)は30%を下回ったことを明らかにしている。従って、低いCIは比較的良好な予後を示す一方、高いCIは比較的不良な予後を示す。
【0377】
高度に分化した腫瘍を有する患者について分析すると(図11)、PODXLについて陽性染色された腫瘍を有する患者(点線)と比較して、かなり良好となったPODXL発現不在の患者(実線)との間には著しいOSの違いがある。
【0378】
デュークス期Aの腫瘍を有する患者について分析すると(図12)、PODXLの発現が不在または弱い患者(実線)が中等度または強い発現の患者(点線)より高いOSを有したことが見て分かる。PODXL発現が低い患者の5年生存率がほぼ80%であったのに対し、中等度ないし高いPODXLレベルを発現する患者の5年生存率は僅か40%に過ぎなかった。
【0379】
従ってこの結腸直腸癌コホート(本セクション)の結果は、分析した他のコホート(セクション3および4)の結果と同様である。
【0380】
6)Bioplexを使用したエピトープマッピング
a)合成ペプチドの調製
PODXLタンパク質(配列番号2または配列番号3)のタンパク質フラグメント配列番号1に対応する26個のビオチン化ペプチドからなるPEPscreenライブラリを、Sigma−Genosys(Sigma−Aldrich)により合成した。ペプチドは15アミノ酸長で10アミノ酸の重複を有し、合わせてPrEST配列(配列番号1)全体を網羅した。ペプチドを80%DMSO中に10mg/mlの最終濃度まで溶解した。
【0381】
b)ビーズカップリング
Neutravidin(Pierce,Rockford,IL)を、製造者のプロトコルに従いカルボキシル化ビーズ(BioPlex COOHビーズ,BioRad)に固定化した。既に記載されているとおり(Larsson et al(2009) J Immunol Methods 15;34(1−2):20−32,Schwenk et al(2007) Mol Cell Proteomics 6(1)125:32)、フィルター膜底を有するマイクロタイタープレート(MultiScreen−HTS,Millipore,Billerica,MA)を使用して106個のビーズのカップリングを実施した。異なるカラーコードIDを有する26の別個のビーズ群を、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノ−プロピル)カルボジイミドおよびN−ヒドロキシスクシンイミドを使用して活性化した。Neutravidin(50mMのHepes pH7.4中250μg/ml)をビーズに添加し、振盪器で120分間インキュベートした。最後にビーズを洗浄し、再懸濁し、微量遠心管に移して、PBS−BN(1×PBS、1%BSA、0.05%NaN3)中に4℃で貯蔵した。カップリングしたすべてのビーズ集団を、超音波洗浄器(Branson Ultrasonic Corporation,Danbury,CT)において3分間音波処理した。ビオチン化ペプチドをPBS−BN中に0.1mg/mlの濃度まで希釈して、カップリング反応に50μlの各ペプチドを使用し、カップリング反応は室温で振盪しながら60分間実行した。最後に、ビーズを3×100μlのBRE緩衝液で洗浄し、以降の使用時まで4℃で貯蔵した。
【0382】
c)結合特異性の決定
全26個のビーズIDを含むビーズ混合物を調製し、セクション2に記載のとおり得た10μlのウサギ抗PODXLを30μlのビーズミックスと混合して室温で60分間インキュベートした。洗浄には、フィルター底を有するマイクロタイタープレート(Millipore)を利用し、各々インキュベートした後、すべてのウェルを2×100μlのPBS−BNで洗浄した。ビーズに対し、25μlのR−フィコエリトリン標識抗ウサギIgG抗体(Jackson ImmunoResearch)を添加して、室温で30分間にわたり最後のインキュベーションを行った。
【0383】
Bio−Plex Manager 5.0ソフトウェアを備えるBioplex 200 Suspension Array機器を使用して計測を実施した。実験ごとに、1ビーズIDあたり50イベントを計数し、個々のビーズ集団に対する抗体結合性の尺度として蛍光強度中央値(MFI)を使用した。
【0384】
d)結果
ポリクローナル抗PODXL抗体の特異性について、合成ビオチン化ペプチドとカップリングしたビーズを使用するアッセイで試験した。ポリクローナル抗PODXL抗体は、PrEST配列上の6つの領域と見なすことのできるものに対応する11個のペプチド、即ち、2、3、4、5、7、8、9、18、22、24および25と結合性を示した(図12を参照のこと)。第1の領域(配列番号10)はペプチド2および3の重複に対応し、第2の領域(配列番号11)はペプチド4および5の重複に対応し、第3の領域(配列番号12)はペプチド7、8、および9の重複に対応し、第4の領域(配列番号13)はペプチド18に対応し、第5の領域(配列番号14)はペプチド22に対応し、および第6の領域(配列番号15)はペプチド24および25の重複に対応する。
【0385】
7)ポリクローナル抗PODXL抗体の分画
a)材料および方法
実施例、セクション6で抗PODXL抗体が結合することが示されたペプチドに対するポリクローナル抗体のアフィニティー精製により、ペプチド特異的抗体を得た。配列番号16、17、13、14、および18にそれぞれ対応するペプチド3、7、18、22および24を選択し、600nmolの各ビオチン化ペプチドをHiTrap(商標)ストレプトアビジン結合緩衝液で最終容積が1100μlとなるまで希釈し、1mlのHiTrap(商標)ストレプトアビジンHPカラム(GE Healthcare Bio−Sciences AB,Uppsala,Sweden)に加えて結合させた。カップリング後、カラムをHiTrap(商標)ストレプトアビジン結合緩衝液で洗浄して結合しなかったペプチドを取り除いた(およびサンプル負荷前にすべてのカラムに対してブランクランを実施した)。
【0386】
His6−ABPタグと融合した組換えPODXLフラグメント配列番号1で免疫化したニュージランドホワイトウサギから得た血清を、AEKTAxpress(商標)(GE Healthcare)液体クロマトグラフィーシステムにおいて、8本のカラムを以下のとおり直列式にして、即ち、2本の5ml His6−ABPカラム、続いて5本のエピトープ特異的ペプチドカラム、および最後にHis6−ABP−PODXL融合タンパク質カラムで精製した。サンプル負荷後、カラムを洗浄し、溶出させると同時に個別の抗体画分を得た。溶出した抗体画分を、上記のとおりBioplexを使用してエピトープマッピングした。
【0387】
b)結果
画分をエピトープマッピングすると、分画したすべての抗体がその予想されたペプチドを結合した。ペプチド7、18、22および24を結合した画分は、IHC分析によってPODXLタンパク質(配列番号2または配列番号3)を結合することが確認された。ペプチド3、7、22、および24を結合した画分は、ウエスタンブロット分析によってPODXLタンパク質(配列番号2または配列番号3)を結合することが確認された。
【0388】
8)生細胞の表面に対する抗体のインビトロ結合
a)材料および方法
セクション2に記載のとおり得られたポリクローナル抗体が培養結腸癌細胞にインビトロで結合することが、LigandTracer Green(Rigeview Instruments AB,Uppsala,Sweden)計測により決定された。実験に使用した細胞系統は結腸癌細胞系統CACO−2であった。細胞は、20%ウシ胎仔血清(Sigma、Germany)、L−グルタミン(2mM)およびPEST(ペニシリン100IU/ml、およびストレプトマイシン100μg/ml)を補充した完全培地で成長させた。抗体をアミン反応性TexasRed色素で標識し、多量のCACO−2細胞を含む円形細胞皿をアッセイに使用した。TexasRed標識手順は以下のとおり実施した:ストックバイアルから移すことができた最小量のTexasRedを100μlのDMSOに溶解した。次いで20μl容量のTexasRed溶液を100μlのホウ酸塩緩衝液pH9、約20μgの抗体と混合し、室温で60分間インキュベートした。NAP−5カラムを使用して遊離色素分子を除去した。
【0389】
LigandTracer Greenアッセイは1つの円形細胞皿を含み、CACO−2は細胞皿の局所的な部分に播種した。典型的にはnM濃度範囲の標識抗体を、二段階以上で添加した。得られる結合トレースによって、結合が起こったか否かが示される。TexasRed標識ヒト血清アルブミン(HSA)(HASあたりはるかに多い数の色素分子で標識)を陰性コントロールとして使用し、および陽性コントロールとして、市販の抗PODXL抗体3D3(Santa Cruz Biotechnology、カタログ番号:sc−23904)を使用した。
【0390】
LigandTracerアッセイの結果を確認するため、マルチウェル細胞培養皿で手動での結合試験を実施した。クロラミンT法を用いて抗体を125Iで放射性標識した。簡単に説明すると、125IをPBS中の40μgの抗体に添加し、10μlクロラミンT(PBS中2mg/ml、Sigma,USA)を添加した。60秒間インキュベートした後、25μlメタ重亜硫酸ナトリウム(PBS中2mg/ml、Sigma,USA)を添加することによって反応を停止させた。PBSと平衡化したNAP−5カラム(カットオフ5kDa、Amersham Biosciences,Uppsala,Sweden)を使用して、標識抗体を低分子量化合物から分離した。細胞に放射性標識抗体を加え、時に高濃度の未標識抗体を補充して、次いで少なくとも4時間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を速やかに4回洗浄し、トリプシン処理により遊離させ、計数し(細胞数/ml)、およびWallac 1480 Wizardガンマカウンター(Turku,Finland)で放射能(Bq/ml)を定量した。陽性コントロールとして市販の抗PODXL抗体3D3(Santa Cruz Biotechnology、カタログ番号:sc−23904)を使用し、および陰性コントロールとして、トロポニンに対するモノクローナルIgG2a抗体を使用した。
【0391】
b)結果
ポリクローナル抗PODXL抗体はインビトロで結腸癌生細胞に結合することが示された(図11)。抗PODXLのCACO−2細胞との濃度依存的な結合を認めることができ、細胞を漸増濃度の抗PODXL抗体に曝露すると、信号強度の明らかな増加によって示されるとおり結合が増加する。手動での結合試験から、陽性および陰性コントロールを使用するLigandTracerアッセイの結果が確認された(結果は示さず)。
【0392】
結腸癌患者についての予後の確定
5)非制限的例
癌患者は、腫瘍成長による症状もしくは徴候、腫瘍が成長する領域からの疼痛および苦痛を含む病巣症状、または体重減少および疲労などのより全般的な症状を示し得る。結腸直腸腫瘍の成長による徴候はまた、血便および/または機能不全、例えば下痢/便秘によっても明らかとなり得る。
【0393】
下記の説明は、結腸直腸癌がS状結腸に位置する場合を参照する。
【0394】
患者においてS状結腸癌の診断が確定した後、腫瘍組織サンプルを入手する。腫瘍組織サンプルは、先立って癌の診断中に実施された生検から、または先立って行われた腫瘍の外科的摘出による標本から入手してもよい。さらに、「陰性基準」を提供するため、PODXLタンパク質発現が低い、または本質的に欠如した組織を含むアーカイブ材料からサンプルが取られる。そのようなアーカイブ組織は、例えば、低いPODXLタンパク質発現レベルが既に確定されているS状結腸腫瘍組織であってもよい。さらに、「陽性基準」を提供するため、高いPODXLタンパク質発現レベルが既に確定されているS状結腸腫瘍組織などの、PODXLタンパク質発現が高い組織を含むアーカイブ材料からサンプルが取られる。
【0395】
サンプル材料を緩衝ホルマリンで固定して組織学的に処理し、それによりサンプル材料の薄切片(4μm)を得る。
【0396】
免疫組織化学は実施例、セクション3に記載のとおり実施する。各サンプルからの1つ以上のサンプル切片をガラススライドにマウントし、これを60℃で45分間インキュベートし、キシレン中で脱パラフィン処理し(2×15分間)(当該のサンプルがパラフィン処理された場合)、段階的アルコールで水和する。抗原賦活化のため、スライドをTRS(Target Retrieval Solution、pH6.0、DakoCytomation)中に浸漬し、Decloakingチャンバ(登録商標)(Biocare Medical)において125℃で4分間沸騰させる。スライドをAutostainer(登録商標)(DakoCytomation)内に置き、内因性ペルオキシダーゼを最初にH2O2(DakoCytomation)でブロックする。複数のサンプル切片をマウントする理由は、結果の精度を高めるためである。
【0397】
1次PODXLタンパク質特異抗体をスライドに加え、室温で30分間インキュベートし、続いて標識2次抗体;例えばヤギ抗ウサギペルオキシダーゼコンジュゲートEnvision(登録商標)と共に、室温で30分間インキュベートする。1次抗体は、例えば上記の実施例、セクション2に記載されるとおり産生してもよい。2次抗体を検出するため、ジアミノベンジジン(DakoCytomation)を色原体として使用し、Harrisヘマトキシリン(Sigma−Aldrich)対比染色で対比する。すべての工程と工程の間で、スライドは洗浄緩衝液(DakoCytomation)中で濯ぐ。次いでスライドを、Pertex(登録商標)(Histolab)マウント用媒体を用いてマウントする。
【0398】
染色手順を確認するためのツールとして、2つのコントロール細胞系統を使用してもよい;例えば、PODXLタンパク質を発現する細胞(陽性細胞系統)を有する1つのスライドおよびPODXLタンパク質発現が不明瞭で弱いか、またはない細胞(陰性細胞系統)を有する1つのスライド。当業者は、例えば、Rhodes et al.(2006) The biomedical scientist,p 515−520の開示を指針として、そのような細胞系統をどのように提供すればよいかについて理解する。コントロール系統のスライドは結腸直腸癌スライドと同じ手順で同時に染色されてもよく、即ち同じ1次抗体および2次抗体と共にインキュベートされ得る。
【0399】
例えば、S状結腸腫瘍スライド、染色基準スライド、および場合により、コントロール細胞系統を有するスライドを、ScanScope T2自動化スライド走査システム(Aperio Technologies)を20倍の倍率で使用して、光学顕微鏡下で走査してもよい。しかしながらこの走査工程は必ずしも必要でなく、ただし、例えば、スライドの調製および染色、ならびに染色したスライドの評価(下記参照)を異なる場所で、または異なる人が実施する場合には、手順がより容易となり得る。
【0400】
コントロール細胞系統を使用する場合、それらを調べることによって染色手順が確認される。細胞系統が許容できる基準から外れた染色結果、例えば当業者が認識する染色上のア−チファクトを示す場合、その生検サンプルの染色は無効とみなされ、新しいスライドで再び染色手順全体が行われる。陽性細胞系統が強い染色強度を示し、および陰性細胞系統が不明瞭で弱い染色強度を示すか、または染色強度を示さない場合、染色は有効とみなされる。
【0401】
腫瘍組織からの1つ以上の染色サンプルスライドは、臨床組織病理学的診断で用いられる基準に従い目視検査によって手動で評価され、1つ以上の結腸直腸癌スライドの免疫活性が実施例、セクション3に記載のとおり類別される。
【0402】
即ち、細胞質強度(CI)および細胞質画分(CF)が調べられる。
【0403】
CIおよびCFの判定では、評価および類別の実施者にとって、染色された基準スライド、即ち「陽性基準」および「陰性基準」を目視検査することが補助となる。
【0404】
次いで各サンプルに0〜3段階によるサンプル値が割り当てられ、ここで、
「0」は、CI不在かつ<1%のCFを表し;
「1」は、弱いCIかつ>1%のCFを表し;
「2」は、中等度のまたは強いCIかつ1〜50%のCFを表し;および
「3」は、中等度のまたは強いCIかつ>50%のCFを表す。
【0405】
次いで1つ以上のサンプル値が基準値と比較される。
【0406】
基準値は「0」または「1」、好ましくは「1」であってもよい。
【0407】
1つ以上のサンプル値またはサンプル値平均が基準値「1」以下である場合、その対象は予後が比較的良好であるグループに属すると結論付けられる。図2は、比較的良好な予後が、約60%の全5年生存率(図2A、実線)または約69%の無病5年生存率(図2B、実線)であり得ることを示す。
【0408】
しかしながら、1つ以上のサンプル値またはサンプル値平均が基準値「1」より高い場合、その対象は予後が比較的不良であるグループに属すると結論付けられる。図2は、比較的不良な予後が、約34%の全5年生存率(図2A、破線)または約38%の無病5年生存率(図2B、破線)であり得ることを示す。
【0409】
さらに、上記に概説する染色および評価プロトコルに従い、1次COX−2タンパク質特異抗体(例えばZymed、クローン18〜7379)が同じサンプルからのスライドに添加されてもよい。
【0410】
次いで、抗COX−2抗体で染色された各サンプルに「高」および「低」から選択されるサンプル値が与えられ、ここで、
「高」は、≧10%のCFかつ強いCIを表し;および
「低」は、<10%のCFおよび/または不在の、弱いまたは中等度の細胞質強度を表す。
【0411】
ここで、暗黙の基準値は「低」である。
【0412】
1つ以上のCOX−2サンプル値またはCOX−2サンプル値平均が「低」である場合、その対象は、予後が比較的良好であるサブグループに属すると結論付けられる。
【0413】
しかしながら、1つ以上のCOX−2サンプル値またはCOX−2サンプル値平均が「高」である場合、その対象は予後が比較的良好であるサブグループに属すると結論付けられる。
【0414】
従ってPODXL状態に基づく予後は、COX−2状態も調べることによって詳細となり得る。
【0415】
図4は、1つ以上のより低いPODXLサンプル値を有する対象がCOX−2低である場合、5年全生存確率は約62%(図4A)となり、および無病生存確率は約70%(図4B)となり得ることを示す。しかしながら、1つ以上のより低いPODXLサンプル値を有する対象がCOX−2高である場合、5年全生存確率は約50%(図4A)となり、および無病生存確率は約63%(図4B)となり得る。
【0416】
さらに、図4は、1つ以上のより高いPODXLサンプル値を有する対象がCOX−2低である場合、5年全生存確率は約44%(図4A)となり、および無病生存確率は約49%(図4B)となり得ることを示す。しかしながら、1つ以上のより高いPODXLサンプル値を有する対象がCOX−2高である場合、5年全生存確率は約21%(図4A)となり、および無病生存確率は約28%(図4B)となり得る。
【0417】
次いで予後は、患者の治療、または無治療に関するさらなる判断の基礎となり得る。例えば患者が、比較的高いPODXL値、従って比較的不良な予後を、特に高いCOX−2発現レベルとの組み合わせで有するグループに属することが示された場合、判断は、他の場合に考慮されたであろうものと比べて「より攻撃的な化学療法治療」を適用することであり得る。
【0418】
あるいは、予後は患者の治療、または無治療に関するさらなる判断の基礎となり得る。例えば、患者が、比較的高いPODXL値、従って比較的不良な予後を有するグループに属することが示された場合、判断は、抗PODXL抗体を使用する免疫療法を適用することであり得る。
【0419】
刊行物、DNAまたはタンパク質データの入力、および特許を含むが、これらに限定されない本出願において言及した引用したすべての材料は、本明細書において、参照により援用される。
【0420】
本発明を上記のように説明してきたが、本発明は、多くの方法で改変することができることは明らかであろう。そのような改変は、本発明の趣旨および範囲から逸脱するものと認識されるべきではなく、そのようなすべての変更は、以下の特許請求の範囲内に含まれることが、当業者には明らかであろう。
【技術分野】
【0001】
本発明は、結腸直腸癌予後診断および結腸直腸癌治療の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
癌
癌は、西洋における最も多い疾患および死亡の原因である。一般に、罹患率は、ほとんどの形態の癌について、年齢と共に増加している。一般的健康状態の向上によりヒト集団の寿命が続伸しているため、癌が影響を及ぼし得る個体数が増加している。最も多い癌タイプの原因はなお、大部分が不明であるが、環境因子(食事、喫煙、UV照射など)および遺伝的因子(p53、APC、BRCA1、XPなどのような「癌遺伝子」における生殖細胞系列変異)と癌の発達の危険性との間の関連を提供する知識体系が増大している。
【0003】
癌は、本質的に細胞の疾患であり、そして正味の細胞増殖および秩序に反する(anti−social)挙動を伴う形質転換された細胞集団として定義されているという事実にもかかわらず、細胞生物学的観点から見ると、癌の定義は、完全には満足できるものではない。悪性形質転換は、不可逆的な遺伝的変更に基づく悪性表現型への転移を表す。このことは正式には証明されていないが、悪性形質転換は、1個の細胞から生じ、その細胞を起源として、その後、腫瘍が発達する(「癌の形成」ドグマ)と考えられている。発癌は、癌が発生するプロセスであり、究極的に悪性腫瘍の増殖をもたらす多数の事象を含むことが一般的に認められている。この多段階プロセスは、変異の付加およびおそらくはまたエピジェネティックな事象のようないくつかの律速段階を含み、前癌増殖のステージ後に癌の形成をもたらす。段階的変化は、細胞分裂、反秩序的な(asocial)挙動および細胞死を決定する生命の規則的経路におけるエラー(変異)の累積に関係する。これらの変化のそれぞれは、周囲の細胞と比較して、選択的なダーウィン(Darwinian)増殖の利点を提供し得、腫瘍細胞集団の正味の増殖を生じる。悪性腫瘍は、必ずしも形質転換された腫瘍細胞自体のみではなく、また、支持間質として作用する周囲の正常細胞からもなる。この補充された癌間質は、結合組織、血管および他の様々な正常細胞、例えば、形質転換された腫瘍細胞に、腫瘍増殖の継続に必要なシグナルを供給するために共同で作用する炎症細胞からなる。
【0004】
最も多い癌の形態は、体細胞において生じ、そして主に、上皮、例えば、前立腺上皮、乳腺上皮、結腸上皮、尿路上皮および皮膚上皮由来であり、その次に多い形態として、造血系統を起源とする癌、例えば、白血病およびリンパ腫、神経外胚葉、例えば、悪性神経膠腫、ならびに軟部組織腫瘍、例えば、肉腫が続く。
【0005】
癌診断および予後
腫瘍から採取した組織切片の顕微鏡的評価は、長年の間、癌の診断を決定するための絶対的基準である。例えば、疑わしい腫瘍由来の生検材料を回収し、そして顕微鏡下で調べる。確定診断を得るためには、腫瘍組織をホルマリン中で固定し、組織学的に処理(histo−processed)し、そしてパラフィン包埋する。得られるパラフィンブロックから、組織切片を生成し、そして組織化学的、即ち、ヘマトキシリン−エオシン染色、および免疫組織化学的(IHC)方法の両方を使用して、染色する。次いで、外科的標本を、肉眼および顕微鏡分析を含む病理学的技術により評価する。この分析は、しばしば、特異的診断、即ち、腫瘍タイプを分類し、そして腫瘍の悪性度を格付けするための基礎を形成する。
【0006】
悪性腫瘍は、各癌タイプに特異的な分類スキームに従って、いくつかのステージに分類することができる。固形腫瘍の最も一般的な分類システムは、腫瘍−リンパ節−転移(TNM)分類である。Tの分類は、原発腫瘍の局所進展度、即ち、腫瘍がどれだけ広範に周囲組織に浸潤し、そして増殖したかについて説明する一方、Nの分類およびMの分類は、腫瘍がどれだけ転移を発達させてきたかを説明しており、Nの分類は、腫瘍のリンパ節への拡大を説明し、そしてMの分類は、他の離れた器官における腫瘍の増殖について説明している。初期のステージとして:T0〜1、N0、M0が挙げられ、リンパ節転移陰性の局在性の腫瘍を表す。より進行期のステージとして:より広範な増殖を伴う局在性の腫瘍を表すT2〜4、N0、M0が挙げられ、そしてリンパ節に転移した腫瘍を表すT1〜4、N1〜3、M0が挙げられ、そして離れた器官において転移が検出された腫瘍を表すT1〜4、N1〜3、M1が挙げられる。腫瘍の分類は、しばしば、外科的、放射線学的および病理組織学的分析を含むいくつかの形態の検査に基づく。分類に加えて、ほとんどの腫瘍タイプの悪性度のレベルを格付けするための分類システムも存在する。格付けシステムは、腫瘍組織サンプルの形態学的評価に依存し、そして所与の腫瘍において見出される顕微鏡的特徴に基づく。これらの格付けシステムは、腫瘍細胞の分化、増殖および異形の程度に基づき得る。一般的に用いられる格付けシステムの例として、前立腺癌を格付けするGleasonおよび乳癌を格付けするNottingham Histological Grade(NHG)が挙げられる。
【0007】
的確な分類および格付けは、正確な診断に極めて重要であることが多く、そして予後を予測するための道具を提供し得る。特定の腫瘍の診断および予後情報は、続いて、所与の癌患者の適切な処置ストラテジーを決定し得る。組織切片の組織化学染色に加えて、腫瘍に関する更なる情報を得るための一般に用いられる方法は、免疫組織化学染色である。IHCは、特異的抗体を使用する組織および細胞におけるタンパク質発現パターンの検出を可能にする。臨床診断においてIHCを使用すると、組織化学的に染色した腫瘍組織切片から評価される組織構造および細胞形態学に関する情報に加えて、異なる細胞集団における免疫反応性を検出することが可能になる。IHCは、原発腫瘍の分類および格付けを含む的確な診断を支持すること、ならびに起源が不明な転移の診断に関係し得る。今日の臨床診療において最も一般に使用される抗体として、細胞タイプ「特異的」タンパク質、例えば、PSA(前立腺)、MelanA(メラノサイト)およびサイログロブリン(甲状腺)に対する抗体、ならびに中間径フィラメント(上皮細胞、間葉細胞、グリア細胞)、白血球分化(CD)抗原(造血(hematopoetic)細胞、リンパ系(lympoid)細胞の下位分類)および悪性能のマーカー、例えば、Ki67(増殖)、p53(通例、変異した腫瘍抑制因子遺伝子)およびHER−2(増殖因子受容体)を認識する抗体が挙げられる。
【0008】
IHCの他に、遺伝子増幅を検出するためのインサイチュハイブリダイゼーションおよび変異分析の遺伝子配列決定の使用も、癌診断内の発展している技術である。加えて、転写物、タンパク質または代謝物の網羅的分析もすべて、関連の情報を追加する。しかし、これらの分析のほとんどはなお、基礎研究を想定しており、そして臨床医学における使用のための評価および標準化は未だ行われていない。
【0009】
結腸および直腸由来の腺癌(結腸直腸癌)
腺癌として現れる悪性上皮性腫瘍である結腸直腸癌は、世界的に最も多く見られる形態のヒト癌である。Parkinらにより提供されるGLOBOCAN 2002データベースのデータは、毎年約100万件の新規結腸直腸癌症例が特定されていることを示している(Parkin DM et al(2005) CA Cancer J Clin 55,74−108)。さらに、世界の結腸直腸癌発生率はすべての癌の約9.4%であり、結腸直腸癌は西洋諸国における死亡原因の第2位をなしている。結腸直腸癌の5年生存率は西洋諸国においては約60%であるが、東欧およびインドでは30%もの低さである。
【0010】
治療の成功には、通常、早期発見、および腫瘍の切除を伴う手術が決定的に重要である。限局性腫瘍、即ち転移性の疾患に進行していない腫瘍については、腫瘍ならびに周囲の腸および組織の根治切除を伴う外科的介入が実施される。結腸直腸腫瘍は、デュークス期A〜Dに従い、または最近ではTNM分類に従い、いくつかの病期に分類される。初期腫瘍(デュークス期AおよびB)は概して比較的良好な転帰と関連付けられ、一方、転移を呈する後期腫瘍(デュークス期CおよびD)は低い生存率を示す。残念ながら、結腸直腸腫瘍は検出時までに相当のサイズに成長していることが多く、転移が珍しくない。腫瘍は典型的には所属リンパ節に転移するが、肝臓および肺への遠隔転移もまたよく見られる。
【0011】
症状は、遠位消化管のどこに腫瘍が位置するかに依存し、腸障害、下痢、便秘、疼痛および貧血症(腫瘍からの腸内出血に続発する)が挙げられる。現行の診断法は、多くの場合に患者病歴、臨床検査および内視鏡検査(直腸鏡検査法および結腸鏡検査法)に基づき、場合により続いて放射線学的マッピングが行われ、腫瘍成長の広範さが判断される。内視鏡検査と共に、疑わしい病変部からの組織生検が実施される。
【0012】
判別的な診断法では、GI管の腺細胞に豊富にある中間径フィラメントマーカーであるサイトケラチン20(CK20)を一般に使用して、結腸直腸癌を含むGI管の原発腫瘍が診断される。いくつかの他の腺癌もまたCK20抗体について陽性となり得る一方、すべての結腸直腸癌が陽性であるとは限らないため、CK20マーカーは理想的でない。
【0013】
現在、追加的な予後データを提供する一般に認められた悪性度評価体系またはバイオマーカーはなく、予後情報は主に腫瘍病期分類から得られる。例えば、低悪性度の腫瘍と、高悪性度腫瘍から転移性の疾患に発展して生存可能性が低下するリスクが低い腫瘍とを区別することができるバイオマーカーは利用可能でない。従って、患者転帰を予測し、かつ治療介入を含む患者管理の指針とするために用いることのできる分子マーカーが極めて必要とされている。
【0014】
エンドポイント分析
癌のアジュバント治療による治験のエンドポイント分析から、患者が特定の治療法にどのように応答するかについて重要な情報が得られる。全生存率(OS)が長年にわたり標準的な主要エンドポイントと考えられている。OSは、原因、例えば死因が癌か否かに関係なく、死亡までの時間を考慮する。追跡不能例は打ち切り、局所再発、遠隔転移、続発性原発結腸直腸癌、および続発性の他の原発癌は無視する。
【0015】
今日では、多くのタイプの癌で利用可能な有効な治療が増加しており、そのためアジュバント治療の効果をより好適に評価することが可能な代替エンドポイントが必要となっている。従って、アジュバント治療がOSを改善することを実証するために必要なかなり長期の追跡は、治療の奏効程度についての初期の指標となる他の臨床エンドポイントによって補足されることが多い。
【0016】
本開示では、OS分析によって患者コホートを評価したが、しかしながら代替エンドポイント、即ち無病生存率(DFS)もまた考慮した。DFSの分析は、同じ癌に関連する任意のイベント、即ちあらゆる癌の再発までの時間を含み、かつ同じ癌による死亡はイベントである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
簡単な説明
本開示のいくつかの態様の目的は、結腸直腸癌の予後の確定方法を提供することである。
【0018】
さらに、本開示のいくつかの態様の目的は、結腸直腸癌の治療関連情報の入手方法および/または結腸直腸癌治療の実施方法を提供することである。
【0019】
また、本開示のいくつかの態様の目的は、上記の方法の一方または双方を実施する手段ならびに予後または治療関連情報の入手に有用な他の使用または手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
以下は、その態様のいくつかにおいて本発明により提供される様々な特徴および組み合わせの提供を目的として提示される本開示の実施形態の非制限的な項目別のリストである。
【0021】
項目
1.結腸直腸癌を有する哺乳動物対象が第1のグループに属するか、または第2のグループに属するかを判定する方法であって、第1のグループの対象の予後が第2のグループの対象の予後より良好であり、
a)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部におけるPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)からの前記サンプル値を所定の基準値と比較する工程;および
前記サンプル値が前記基準値より高い場合、
c1)対象が前記第2のグループに属すると結論付ける工程;および
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c2)対象が前記第1のグループに属すると結論付ける工程
を含む方法。
【0022】
2.第1のグループおよび第2のグループの各々が2つのサブグループαおよびβを有し、および第1のグループおよび第2のグループの各々においてサブグループαの対象の予後がサブグループβの対象の予後より良好である、項目1に記載の方法であって、
d)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部におけるCOX−2タンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
e)工程d)からの前記サンプル値を所定の基準値と比較する工程;および
工程d)からのサンプル値が工程e)の基準値より高い場合、
f1)対象がサブグループβに属すると結論付ける工程;および
工程d)からのサンプル値が工程e)の基準値以下である場合、
f2)対象がサブグループαに属すると結論付ける工程
をさらに含む、方法。
【0023】
3.工程a)のサンプルと工程d)のサンプルとは、組織サンプル、体液サンプル、糞便サンプルおよび細胞診サンプルからなる群から選択される同じタイプのサンプルである、項目2に記載の方法。
【0024】
4.工程a)のサンプルと工程d)のサンプルとが同じサンプルである、項目3に記載の方法。
【0025】
5.結腸直腸癌を有する哺乳動物対象の予後を判定する方法であって、
a)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)において得られたサンプル値を基準予後に関連する基準値と比較する工程;および、
前記サンプル値が前記基準値より高い場合、
c1)前記対象の予後が前記基準予後より不良であると結論付ける工程;または
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c2)前記対象の予後が前記基準予後と同等またはそれより良好であると結論付ける工程
を含む方法。
【0026】
6.結腸直腸癌を有する対象に結腸直腸癌治療レジメンによる治療が必要でないかどうかを判定する方法であって、
a)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)において得られたサンプル値を基準値と比較する工程;および、
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c)前記対象に前記結腸直腸癌治療レジメンによる治療が必要でないと結論付ける工程
を含む方法。
【0027】
7.結腸直腸癌を有する対象に対する無治療ストラテジー方法であって、
a)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)において得られたサンプル値を基準値と比較する工程;および、
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c)前記対象を結腸直腸癌治療レジメンにより治療することを取り止める工程
を含む方法。
【0028】
8.結腸直腸癌はCOX−2低である、項目6または7に記載の方法。
【0029】
9.結腸直腸癌を有する対象の治療方法であって、
a)対象からのサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)において得られたサンプル値を基準値と比較する工程;および、前記サンプル値が前記基準値より高い場合、
c)前記対象を結腸直腸癌治療レジメンで治療する工程
を含む方法。
【0030】
10.前記結腸直腸癌はCOX−2高である、項目9に記載の方法。
【0031】
11.前記結腸直腸癌治療レジメンはネオアジュバント療法および/またはアジュバント療法である、項目6〜10のいずれか一項に記載の方法。
【0032】
12.前記ネオアジュバント療法は放射線療法であり、および前記アジュバント療法は、結腸直腸癌化学療法、結腸直腸癌免疫療法、放射線療法およびそれらの組み合わせから選択される、項目11に記載の方法。
【0033】
13.前記結腸直腸癌は結腸に位置する、項目1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【0034】
14.前記結腸直腸癌はS状結腸に位置する、項目1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【0035】
15.前記結腸直腸癌は直腸に位置する、項目1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【0036】
16.前記結腸直腸癌は結腸直腸カルシノーマである、項目1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【0037】
17.前記予後は、全生存率または無病生存率などの生存確率である、項目1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【0038】
18.生存確率は、5年、10年または15年生存確率である、項目17に記載の方法。
【0039】
19.前記サンプルは、体液サンプル、糞便サンプルまたは細胞診サンプルである、項目1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【0040】
20.前記体液サンプルは、血液、血漿、血清、脳脊髄液、尿、精液および滲出液からなる群から選択される、項目19に記載の方法。
【0041】
21.前記サンプルは、前記対象からの腫瘍細胞などの細胞を含む、項目1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【0042】
22.前記サンプルは組織サンプルである、項目1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【0043】
23.前記組織サンプルは腫瘍細胞を含む、項目23に記載の方法。
【0044】
24.前記組織サンプルは結腸または直腸に由来する、項目24に記載の方法。
【0045】
25.前記組織サンプルはS状結腸に由来する、項目20に記載の方法。
【0046】
26.工程a)の評価は、前記サンプルの細胞の細胞膜および/または細胞質に限定される、項目21〜25のいずれか一項に記載の方法。
【0047】
27.工程a)の評価は、前記サンプルの腫瘍細胞の細胞膜および/または細胞質に限定される、項目26に記載の方法。
【0048】
28.前記対象はヒトである、項目1〜27のいずれか一項に記載の方法。
【0049】
29.前記基準値は、基準サンプル中の所定量のPODXLタンパク質に対応する値である、項目1〜28のいずれか一項に記載の方法。
【0050】
30.工程a)のサンプル値は、サンプル中の検出可能なPODXLタンパク質に対応する1か、またはサンプル中の検出不能なPODXLタンパク質に対応する0かのいずれかとして決定される、項目1〜29のいずれか一項に記載の方法。
【0051】
31.工程b)の基準値は、検出可能なPODXLタンパク質を有しない基準サンプルに対応する、項目1〜30のいずれか一項に記載の方法。
【0052】
32.工程b)またはe)の基準値は0である、項目1〜31のいずれか一項に記載の方法。
【0053】
33.前記基準値は、細胞質画分、細胞質強度、または細胞質画分と細胞質強度との関数である、項目1〜32のいずれか一項に記載の方法。
【0054】
34.前記b)の基準値は弱い細胞質強度である、項目33に記載の方法。
【0055】
35.前記b)の基準値は細胞質強度不在である、項目33に記載の方法。
【0056】
36.前記b)の基準値は60%以下の細胞質画分である、項目33に記載の方法。
【0057】
37.前記b)の基準値は、5%以下、例えば1%以下の細胞質画分である、項目36に記載の方法。
【0058】
38.PODXLタンパク質のアミノ酸配列は、
i)配列番号1;および
ii)配列番号1と少なくとも85%同一である配列
から選択される配列を含む、項目1〜37のいずれか一項に記載の方法。
【0059】
39.PODXLタンパク質のアミノ酸配列は、
i)配列番号2または3;および
ii)配列番号2または3と少なくとも85%同一である配列
から選択される配列を含むか、またはそれからなる、項目1〜38のいずれか一項に記載の方法。
【0060】
40.工程a)は、
aI)工程a)の前記サンプルに、評価しようとするPODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な定量可能な親和性リガンドを適用する工程であって、前記適用は、サンプル中に存在するPODXLタンパク質との親和性リガンドの結合を可能にする条件下で実施される工程;および
aII)前記サンプルに結合した親和性リガンドを定量して、前記量を評価する工程
を含む、項目1〜39のいずれか一項に記載の方法。
【0061】
41.工程a)は、
a1)前記サンプルまたは工程a)に、定量しようとするPODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な定量可能な親和性リガンドを適用する工程であって、前記適用は、サンプル中に存在するPODXLタンパク質との親和性リガンドの結合を可能にする条件下で実施される工程;
a2)非結合親和性リガンドを取り除く工程;および
a3)サンプルとの会合において残留する親和性リガンドを定量して、前記量を評価する工程
を含む、項目1〜40のいずれか一項に記載の方法。
【0062】
42.定量可能な親和性リガンドは、抗体、そのフラグメントおよびその誘導体からなる群から選択される、項目40または41に記載の方法。
【0063】
43.前記定量可能な親和性リガンドは、アミノ酸配列が配列番号1の配列からなるペプチドで動物を免疫化する工程を含む方法により得ることが可能である、項目42に記載の方法。
【0064】
44.前記定量可能な親和性リガンドはオリゴヌクレオチド分子である、項目40または41に記載の方法。
【0065】
45.定量可能な親和性リガンドは、ブドウ球菌プロテインAおよびそのドメイン、リポカリン、アンキリンリピートドメイン、セルロース結合ドメイン、γクリスタリン、緑色蛍光タンパク質、ヒト細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4、プロテアーゼ阻害剤、PDZドメイン、ペプチドアプタマー、スタフィロコッカルヌクレアーゼ、テンダミスタット、フィブロネクチンIII型ドメインおよびジンクフィンガーからなる群から選択される足場から誘導されるタンパク質リガンドである、項目40または41に記載の方法。
【0066】
46.前記定量可能な親和性リガンドは、アミノ酸配列が配列番号1の配列からなるペプチドとの選択的相互作用が可能である、項目40〜45のいずれか一項に記載の方法。
【0067】
47.定量可能な親和性リガンドは、蛍光染料および金属、発色団染料、化学発光化合物および生物発光タンパク質、酵素、放射性同位元素、粒子および量子ドットからなる群から選択される標識を含む、項目40〜46のいずれか一項に記載の方法。
【0068】
48.前記定量可能な親和性リガンドは、定量可能な親和性リガンドを認識することが可能な2次親和性リガンドを使用して検出される、項目40〜47のいずれか一項に記載の方法。
【0069】
49.定量可能な親和性リガンドを認識することが可能な前記2次親和性リガンドは、蛍光染料および金属、発色団染料、化学発光化合物および生物発光タンパク質、酵素、放射性同位元素、粒子および量子ドットからなる群から選択される標識を含む、項目48に記載の方法。
【0070】
50.a)PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な定量可能な親和性リガンド;
b)a)の定量可能な親和性リガンドの量を定量するのに必要な試薬;
c)COX−2タンパク質との選択的相互作用が可能な定量可能な親和性リガンド;および
d)c)の定量可能な親和性リガンドの量を定量するのに必要な試薬
を含む、結腸直腸癌の予後を確定するためのキットであって、
b)およびd)の試薬が同じであるか、または異なる、キット。
【0071】
51.a)および/またはc)の親和性リガンドは、抗体、そのフラグメントおよびその誘導体からなる群から選択される、項目50に記載のキット。
【0072】
52.a)の親和性リガンドは、アミノ酸配列が配列番号1の配列からなるタンパク質で動物を免疫化する工程を含む方法により得ることができる、項目51に記載のキット。
【0073】
53.a)および/またはc)の親和性リガンドは、ブドウ球菌プロテインAおよびそのドメイン、リポカリン、アンキリンリピートドメイン、セルロース結合ドメイン、γクリスタリン、緑色蛍光タンパク質、ヒト細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4、プロテアーゼ阻害剤、PDZドメイン、ペプチドアプタマー、スタフィロコッカルヌクレアーゼ、テンダミスタット、フィブロネクチンIII型ドメインおよびジンクフィンガーからなる群から選択される足場から誘導されるタンパク質リガンドである、項目50に記載のキット。
【0074】
54.a)および/またはc)の親和性リガンドは、オリゴヌクレオチド分子である、項目50に記載のキット。
【0075】
55.a)の親和性リガンドは、
i)配列番号2または3;および
ii)配列番号2または3と少なくとも85%同一である配列
から選択される配列を含むか、またはそれからなるPODXLタンパク質との選択的相互作用が可能である、項目50〜54のいずれか一項に記載のキット。
【0076】
56.a)の親和性リガンドは、
i)配列番号1;および
ii)配列番号1と少なくとも85%同一である配列
から選択される配列を含むか、またはそれからなるPODXLタンパク質との選択的相互作用が可能である、項目50〜55のいずれか一項に記載のキット。
【0077】
57.a)および/またはc)の親和性リガンドは、蛍光染料および金属、発色団染料、化学発光化合物および生物発光タンパク質、酵素、放射性同位元素、粒子および量子ドットからなる群から選択される標識を含む、項目50〜56のいずれか一項に記載のキット。
【0078】
58.b)および/またはd)の前記試薬は、前記定量可能な親和性リガンドを認識することが可能な2次親和性リガンドを含む、項目50〜57のいずれか一項に記載のキット。
【0079】
59.前記2次親和性リガンドは、蛍光染料または金属、発色団染料、化学発光化合物および生物発光タンパク質、酵素、放射性同位元素、粒子および量子ドットからなる群から選択される標識を含む、項目58に記載のキット。
【0080】
60.基準値を提供するための少なくとも1つの基準サンプルをさらに含む、項目50〜59のいずれか一項に記載のキット。
【0081】
61.少なくとも1つの基準サンプルは、検出可能なPODXLタンパク質を含まない組織サンプルである、項目60に記載のキット。
【0082】
62.少なくとも1つの基準サンプルはPODXLタンパク質を含み、および/または少なくとも1つの基準サンプルはCOX−2を含む、項目60または61に記載のキット。
【0083】
63.少なくとも1つの基準サンプルは、弱い細胞質強度に対応するPODXLタンパク質の量を含む、項目60〜62のいずれか一項に記載のキット。
【0084】
64.少なくとも1つの基準サンプルは、細胞質強度不在に対応するPODXLタンパク質の量を含む、項目60〜62のいずれか一項に記載のキット。
【0085】
65.少なくとも1つの基準サンプルは、60%以下の細胞質画分に対応するPODXLタンパク質の量を含む、項目60〜62のいずれか一項に記載のキット。
【0086】
66.少なくとも1つの基準サンプルは、5%以下、例えば1%以下の細胞質画分に対応するPODXLタンパク質の量を含む、項目65に記載のキット。
【0087】
67.少なくとも1つの基準サンプルは、PODXLタンパク質基準値より高い値に対応するPODXLタンパク質の量を含む、項目60〜66のいずれか一項に記載のキット。
【0088】
68.少なくとも1つの基準サンプルは、強い細胞質強度に対応するPODXLタンパク質の量を含む、項目67に記載のキット。
【0089】
69.少なくとも1つの基準サンプルは、75%以上の細胞質画分に対応するPODXLタンパク質の量を含む、項目67または68に記載のキット。
【0090】
70.基準値より高い値(陽性基準値)に対応するPODXLタンパク質の量を含む第1の基準サンプル;および
前記基準値以下の値(陰性基準値)に対応するPODXLタンパク質の量を含む第2の基準サンプル
を含む、項目60〜69のいずれか一項に記載のキット。
【0091】
71.少なくとも1つの基準サンプルは、COX−2基準値より高い値に対応するCOX−2の量を含む、項目60〜70のいずれか一項に記載のキット。
【0092】
72.少なくとも1つの基準サンプルは、強い細胞質強度に対応するCOX−2の量を含む、項目71に記載のキット。
【0093】
73.少なくとも1つの基準サンプルは、75%以上の細胞質画分に対応するCOX−2タンパク質の量を含む、項目71または72に記載のキット。
【0094】
74.基準値より高い値(陽性基準値)に対応するCOX−2の量を含む第1の基準サンプル;および
前記基準値以下の値(陰性基準値)に対応するCOX−2の量を含む第2の基準サンプル
を含む、項目60〜73のいずれか一項に記載のキット。
【0095】
75.前記1つ以上の基準サンプルは細胞系統を含む、項目60〜74のいずれか一項に記載のキット。
【0096】
76.結腸直腸癌の予後マーカーとしてのPODXLタンパク質のインビトロでの使用。
【0097】
77.前記タンパク質は、結腸直腸癌を有する対象からの生体試料中に提供される、項目76に記載の使用。
【0098】
78.前記タンパク質は、腫瘍細胞を含む結腸直腸組織サンプル中に提供される、項目77に記載の使用。
【0099】
79.前記結腸直腸組織サンプルは結腸サンプルである、項目78に記載の使用。
【0100】
80.前記結腸直腸組織サンプルはS状結腸サンプルである、項目79に記載の使用。
【0101】
81.結腸直腸癌を有する哺乳動物対象についての予後の確定用予後診断剤を選択または精製するための、PODXLタンパク質、またはその抗原活性フラグメントのインビトロでの使用。
【0102】
82.結腸直腸癌を有する哺乳動物対象についての予後の確定用予後診断剤を産生するための免疫化における抗原としての、PODXLタンパク質、またはその抗原活性フラグメントの使用。
【0103】
83.PODXLタンパク質のアミノ酸配列は、
i)配列番号1;および
ii)配列番号1と少なくとも85%同一である配列
から選択される配列を含む、項目76〜82のいずれか一項に記載の使用。
【0104】
84.PODXLタンパク質のアミノ酸配列は、
i)配列番号2または3;および
ii)配列番号2または3と少なくとも85%同一である配列
から選択される配列を含むか、またはそれからなる、項目76〜83のいずれか一項に記載の使用。
【0105】
85.PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドの、結腸直腸癌の予後診断剤としてのインビトロでの使用。
【0106】
86.前記予後診断剤は、PODXLタンパク質、またはその抗原活性フラグメントとの選択的相互作用が可能な親和性リガンドである、項目85に記載の使用。
【0107】
87.結腸直腸癌を有する哺乳動物対象についての予後のインビボでの確定用予後診断剤の製造における、PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドの使用。
【0108】
88.前記親和性リガンドは、アミノ酸配列が配列番号1の配列からなるペプチドで動物を免疫化する工程を含む方法により得ることができる、項目85〜87のいずれか一項に記載の使用。
【0109】
89.前記親和性リガンドは、アミノ酸配列が配列番号1の配列からなるペプチドとの選択的相互作用が可能である、項目85〜88のいずれか一項に記載の使用。
【0110】
90.20アミノ酸以下、例えば15アミノ酸以下からなり、かつ配列番号10〜15から選択されるアミノ酸配列を含むPODXLタンパク質フラグメントとの選択的相互作用が可能な親和性リガンド。
【0111】
91.結腸直腸癌を有する対象の治療に使用するための、PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンド。
【0112】
92.PODXLタンパク質の細胞外領域である配列番号6または7との選択的相互作用が可能な、項目91に記載の親和性リガンド。
【0113】
93.アミノ酸配列が配列番号1の配列からなるペプチドとの選択的相互作用が可能である、項目92に記載の親和性リガンド。
【0114】
94.モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である、項目91〜93のいずれか一項に記載の親和性リガンド。
【0115】
95.前記結腸直腸癌は、結腸癌、例えばS状結腸癌である、項目91〜94のいずれか一項に記載の親和性リガンド。
【0116】
96.PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドの有効量を投与する工程を含む、結腸直腸癌を有する対象の治療方法。
【0117】
97.親和性リガンドは、PODXLタンパク質の細胞外領域である配列番号6または7との選択的相互作用が可能である、項目96に記載の方法。
【0118】
98.親和性リガンドは、アミノ酸配列が配列番号1の配列からなるペプチドとの選択的相互作用が可能である、項目97に記載の方法。
【0119】
99.親和性リガンドは、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体、またはそのフラグメントである、項目96〜98のいずれか一項に記載の方法。
【0120】
100.項目90〜94のいずれか一項に記載の治療用親和性リガンドを産生するための免疫化における抗原としての、PODXLタンパク質、またはその抗原活性フラグメントの使用。
【0121】
101.PODXLタンパク質は、細胞外領域である配列番号6または7またはその部分配列からなる、項目100に記載の使用。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】S状結腸癌と診断された279人の対象の生存率分析の結果を示す。簡単に説明すると、対象をPODXLタンパク質発現に基づき4グループに分けた。「0」は、細胞質強度(CI)不在かつ<1%の細胞質画分(CF)を表す。「1」は、弱いCIかつ>1%のCFを表す。「2」は、中等度のまたは強いCIかつ1〜50%のCFを表す。最後に「3」は、中等度のまたは強いCIかつ>50%のCFを表す。図1Aは全生存率(OS)を示し、図1Bは無病生存率(DFS)を示す。
【図2】S状結腸癌と診断された279人の対象の生存率分析の結果を示す。簡単に説明すると、対象をPODXLタンパク質発現に基づき2グループに分け、ここで「低」は、図1による「0」または「1」を表し、「高」は、図1による「2」または「3」を表す。図2AはOSを示し、図2BはDFSを示す。
【図3】S状結腸癌と診断された279人の対象の生存率分析の結果を示す。簡単に説明すると、対象をPODXLタンパク質発現に基づき2グループに分け、ここで「低」は、図1による「0」を表し、「高」は、図1による「1」、「2」または「3」を表す。図3AはOSを示し、図3BはDFSを示す。
【図4】S状結腸癌と診断された279人の対象の生存率分析の結果を示す。簡単に説明すると、対象をPODXLタンパク質およびCOX−2の発現に基づき4グループに分けた。「0」は、PODXLタンパク質低かつCOX−2低である対象を表す。「1」は、PODXLタンパク質低かつCOX−2高である対象を表す。「2」は、PODXLタンパク質高かつCOX−2低である対象を表す。最後に「3」は、PODXLタンパク質高かつCOX−2高である対象を表す。「PODXLタンパク質低」および「PODXLタンパク質高」は図2のとおりである。「COX−2低」は、<10%のCFおよび/または不在の、弱い、もしくは中等度のCIである。「COX−2高」は、≧10%のCFかつ強いCIである。
【図5】S状結腸癌と診断された279人の対象の生存率分析の結果を示す。簡単に説明すると、対象をPODXLタンパク質およびCOX−2の発現に基づき2グループに分けた。「0」は、PODXLタンパク質低および/またはCOX−2低である対象を表す。「1」=PODXL高かつCOX−2高である対象を表す。「PODXLタンパク質低」および「PODXLタンパク質高」は図2のとおりである。「COX−2低」は、<10%のCFおよび/または不在の、弱い、もしくは中等度のCIである。「COX−2高」は、≧10%のCFかつ強いCIである。図5AはOSを示し、図5BはDFSを示す。
【図6】結腸直腸癌と診断された112人の対象のOS分析の結果を示す。図6Aでは、対象を図1と同じ方法で4グループに分けた。図6Bでは、対象を図2と同じ方法で2グループに分けた。
【図7】結腸癌と診断された50人の対象のOS分析の結果を示す。簡単に説明すると、対象を図2と同じ方法で2グループに分けた。
【図8A】結腸直腸癌と診断された112人の対象のOS分析の結果を示す。簡単に説明すると、対象をPODXLタンパク質およびCOX−2の発現に基づき4グループに分けた。「0」は、PODXLタンパク質低かつCOX−2低である対象を表す。「1」は、PODXLタンパク質低かつCOX−2高である対象を表す。「2」は、PODXLタンパク質高かつCOX−2低である対象を表す。最後に「3」は、PODXLタンパク質高かつCOX−2高である対象を表す。「PODXLタンパク質低」および「PODXLタンパク質高」は図2のとおりである。「COX−2低」は、<10%のCFおよび/または不在のもしくは弱いCIである。「COX−2高」は、≧10%のCFかつ中等度のまたは強いCIである。
【図8B】結腸直腸癌と診断された112人の対象のOS分析の結果を示す。簡単に説明すると、対象をPODXLタンパク質およびCOX−2の発現に基づき2グループに分けた。「0」は、PODXLタンパク質低および/またはCOX−2低である対象を表す。「1」=PODXL高かつCOX−2高である対象を表す。「PODXLタンパク質低」は、不在のまたは弱いCIである。「PODXLタンパク質高」は、中等度のまたは強いCIである。「COX−2低」は、<10%のCFおよび/または不在のもしくは弱いCIである。「COX−2高」は、≧10%のCFかつ中等度のまたは強いCIである。
【図9A】270人の結腸直腸癌患者(結腸直腸癌コホートII)についての全生存率を、IHC分析により決定されるとおりの不在の、弱い、中等度の、および強いPODXL発現(スコア0〜3)で示す。「0」は、細胞質強度(CI)不在かつ<1%の細胞質画分(CF)を表す。「1」は、弱いCIかつ>1%のCFを表す。「2」は、中等度のまたは強いCIかつ1〜50%のCFを表す。最後に「3」は、中等度のまたは強いCIかつ>50%のCFを表す。
【図9B】270人の結腸直腸癌患者(結腸直腸癌コホートII)についての全生存率を、不在のまたは弱いPODXL発現(実線)、および中等度のまたは高いPODXL発現(点線)で示す。「不在または弱い」は、図9Aによる「0」または「1」を表し、「中等度または高い」は、図9Aによる「2」または「3」を表す。
【図10A】高度に分化した腫瘍を有する結腸直腸癌コホートIIの患者21人についての全生存率を示す。簡単に説明すると、対象をPODXLタンパク質発現に基づき2グループに分けた。PODXL発現の不在(実線)が図9Aによる「0」を表し、PODXLについて陽性染色された腫瘍(点線)が、図9Aによる「1」、「2」または「3」を表す。
【図10B】PODXL発現について分析したデュークス期Aの腫瘍を有する結腸直腸癌コホートIIの患者42人についての全生存率を示す。簡単に説明すると、対象をPODXLタンパク質発現に基づき2グループに分けた。不在のまたは弱いPODXL発現(実線)が、図9Aによる「0」または「1」を表し、PODXLについて陽性染色された腫瘍(点線)が、図9Aによる「2」または「3」を表す。
【図11】インビトロでのヒト結腸癌生細胞の表面に対するポリクローナル抗PODXL抗体の結合を示す。図の垂直線によって示されるとおり、漸増濃度の抗PODXL抗体をCACO−2細胞に添加した。約5時間後、同様に図の垂直線によって示されるとおり、抗PODXL抗体を除去し、細胞を洗浄して、新鮮な完全培地のみとインキュベートした。従って、5時間後以降は保持相を見ることができる。
【図12】抗PODXLポリクローナル抗体のエピトープマッピングを示す。長さが15アミノ酸(aa)で10aaが重複する、全PrEST領域(配列番号1)を網羅する26の異なるペプチドに結合する抗体を示す。y軸は蛍光強度を表す。
【発明を実施するための形態】
【0123】
従って、本開示の第1の態様として、結腸直腸癌を有する哺乳動物対象が第1のグループに属するか、または第2のグループに属するかを判定する方法が提供され、ここで第1のグループの対象の予後は第2のグループの対象の予後より良好であり、この方法は、
a)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部におけるPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)からの前記サンプル値を所定の基準値と比較する工程;および
前記サンプル値が前記基準値より高い場合、
c1)対象が前記第2のグループに属すると結論付ける工程;および
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c2)対象が前記第1のグループに属すると結論付ける工程
を含む。
【0124】
PODXLタンパク質のレベルが結腸直腸癌を有する対象の予後を示し得るという知見に基づく本態様には、数多くの利点がある。一般に、予後の確定は医師による適切な治療方針の選択を促進し得るため、極めて重要であり得る。例えば、予後不良の癌形態が特定される場合、痛みを伴う、または他のいかなる意味においても不快な、通常は回避される治療が、いずれにしても考慮され得る。さらに、予後良好の癌形態を特定し得る場合、過剰な治療が回避され得る。さらなる例として、その一定レベルの発現が一定の疾患進行パターンと相関するマーカーとしてのPODXLタンパク質は、例えば、予測または予後を立てるための、または治療レジメンを選択するためのパネルにおいて大きい可能性がある。
【0125】
第1の態様の方法において、結腸直腸癌対象が第1のグループに属するか、または第2のグループに属するかが決定され、ここで第1のグループの対象は、概して第2のグループの対象より予後が良好である。結腸直腸癌対象のこの2つのグループへの分割は、対象のサンプル値を基準値と比較することにより決定される。本開示では、概して比較的長期間生存する対象と、概して比較的短期間生存する対象とを区別するために、様々な基準値を用い得ることが示される。従って、基準値がそれぞれの群のサイズを決定する因子であり;基準値が低いほど、第1のグループの対象が少数となり、被験対象が第1のグループに属する可能性が低くなる。一般的にPODXL発現レベルが高くなるほど生存時間は短くなるため、ある場合には、特に予後が不良である対象を特定するために高い基準値が選択され得る。本開示を指針として、当業者は過度の負担を伴うことなく関連する基準値を選択し得る。これについては以下でさらに考察する。
【0126】
第1のグループおよび第2のグループは、被験対象と同じ、または同様の病期、分化度および/または位置の結腸直腸癌を有する対象のみからなってもよい。さらに、グループは、同じ、または同様の年齢、人種、性別、遺伝的な(異端の(heretic))特徴または医学的状態もしくは病歴を有する対象のみからなってもよい。
【0127】
従って、医師は第1の態様に従う方法を用いて結腸直腸癌対象の予後に関するさらなる情報を得ることができ、次にはその情報により、最も適切な治療レジメンの選択が促進され得る。例えば、第1の態様の方法を用いて第2のグループに属することが示された対象には、他の場合に考慮され得たものより攻撃性の高い治療が与えられてもよく、逆も同様であり得る。
【0128】
さらに、本発明者らは、対象からのサンプルにおいてCOX−2タンパク質のレベルも計測する場合に、さらにより詳細な予後が得られ得ることを理解した。これは図4、図5および図8に示され、以下でさらに考察する。
【0129】
従って、第1の態様の実施形態において、第1のグループおよび第2のグループの各々は2つのサブグループαおよびβを有し、ここで第1のグループおよび第2のグループの各々においてサブグループαの対象の予後がサブグループβの対象の予後より良好であり、この方法は、
d)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部におけるCOX−2タンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
e)工程d)からの前記サンプル値を所定の基準値と比較する工程;および
工程d)からのサンプル値が工程e)の基準値より高い場合、
f1)対象がサブグループβに属すると結論付ける工程;および
工程d)からのサンプル値が工程e)の基準値以下である場合、
f2)対象がサブグループαに属すると結論付ける工程
をさらに含む。
【0130】
図4および図8aに見られるとおり、PODXLおよびCOX−2の双方のタンパク質とも基準値より高いレベルを発現する対象は特に予後が不良であり、一方、PODXLおよびCOX−2の双方のタンパク質とも基準値以下のレベルを発現する対象は、特に予後が良好である。
【0131】
従ってPODXLタンパク質のレベルを計測することにより得られる予後情報は、同様にCOX−2タンパク質のレベルを計測することによりさらに確定的となり得る。
【0132】
いくつかの実施形態において、工程a)のサンプルと工程d)のサンプルとは、組織サンプル、体液サンプル、糞便サンプルおよび細胞診サンプルからなる群について選択される同じタイプのサンプルであってもよい。従って、対象から1つのタイプのサンプルを採取するだけで十分であり得るため、試験手順が簡略化され、対象の生体に対する不快な/痛みを伴う干渉を最小限に抑えることができる。工程a)のサンプルおよび工程d)のサンプルもまた同じサンプルであってよく、これによってさらに手順が簡略化され、不快感/痛みが低減される。
【0133】
PODXLタンパク質およびCOX−2タンパク質の双方の計測に関する実施形態は、以下に提供される第1の態様の構成ならびに第2の態様に準用される。
【0134】
被験対象の予後はまた、基準予後に対して決定されてもよい。従って、第1の態様の第1の構成として、結腸直腸癌を有する哺乳動物対象の予後を判定する方法であって、
a)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)において得られたサンプル値を基準予後に関連する基準値と比較する工程;および、
前記サンプル値が前記基準値より高い場合、
c1)前記対象の予後が前記基準予後より不良であると結論付ける工程;および/または
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c2)前記対象の予後が前記基準予後と同等またはそれより良好であると結論付ける工程
を含む方法が提供される。
【0135】
しかしながら、同じ概念に密接に関係し、かつそれに包含されるc1)とc2)とは、2つの代替的な結論を提供する。
【0136】
本開示では、様々な予後に対応する種々のPODXLタンパク質値(サンプル値)が提示される。典型的には、低いサンプル値は高いサンプル値と比べてより良好な予後と関連付けられる。第1の態様の第1の構成の方法において、サンプル値が基準値と比較され、サンプル値が基準値以下である場合、その対象の予後は、基準値に関連する基準予後と同等か、またはそれ以上に良好であると結論付けられる。
【0137】
従って、本方法は基準値に適合され得る。その場合、その状況下で関連性があると考えられるサンプル値から始めて、そのサンプル値に等しい基準値を選択してもよい。続いて、当該の基準値に関連する基準予後が確定され得る。本開示を指針として、当業者は、所与の基準値に対応する基準予後をどのように確定すればよいか理解する。例えば、以下の実施例セクション3またはセクション4の記載内容に従い、関連する癌患者グループにおけるサンプル値と生存率データとの間の関係を調べてもよい。そこに記載される手順は、所与の基準値に適合され得る。次に、所与の基準値に対応する予後を基準予後として選択することができる。
【0138】
また、上記の方法は、所与の基準予後に適合され得る。その場合、その状況下で、例えば適切な治療法を選択するために関連性があると考えられる基準予後から始めて、対応する基準値を確定してもよい。本開示を指針として、当業者は、所与の基準予後に対応する基準値をどのように確定すればよいか理解する。例えば、癌患者グループにおけるサンプル値と生存率データとの間の関係を、以下の実施例セクション3またはセクション4のとおりに調べてもよく、しかしながらそこに記載される手順は、所与の基準予後に対応する基準値の確定に適合させることができる。例えば、所与の基準予後と相関する基準値が見つかるまで、種々の基準値を試験してもよい。
【0139】
従って、基準予後は、例えば関連する対象集団を調べることによって得られた、それ以前に確定された予後に基づき得る。このような基準集団は、被験対象の年齢、性別、人種、デュークス期および/または医学的状態および病歴が一致するように選択され得る。さらに、予後は、母集団における背景リスク、統計的な予後/リスクまたは対象の調査に基づく仮定に適合され得る。このような調査はまた、対象の年齢、性別、人種、デュークス癌病期、閉経状態および/または医学的状態および病歴を含み得る。従って、医師は、例えば基準予後を、対象の結腸直腸癌病歴、腫瘍の病期、腫瘍の形態、腫瘍の位置、閉経状態、転移の存在および広がりおよび/またはさらなる癌の特徴に適合させることができる。
【0140】
本開示の発明概念はまた、特定の治療レジメンを取り止める判断の根拠となり得る。
【0141】
例えば、添付の図に示されるとおり、低いPODXLタンパク質レベルを示す対象の予後は、一般的に、高いPODXLタンパク質レベルを示す対象の予後より良好である。本開示の教示の提供により、医師はPODXLタンパク質低の対象の予後を、特定のアジュバント治療レジメンを回避して、代わりに攻撃性の低いアジュバント治療レジメンを選択するほどに良好であると考えることができる。例えば、併用療法ではなく単独療法が選択されてもよく、または治療剤がより低用量で処方されてもよい。また、ある場合には、判断は、あらゆる種類のアジュバント治療を取り止めることであってもよい。結論として、本開示は対象を過剰治療から解放し得る。
【0142】
従って、第1の態様の第2の構成として、結腸直腸癌を有する対象に結腸直腸癌治療レジメンによる治療が必要でないかどうかを判定する方法であって、
a)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)において得られたサンプル値を基準値と比較する工程;および、
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c)前記対象に前記結腸直腸癌治療レジメンによる治療が必要でないと結論付ける工程
を含む方法が提供される。
【0143】
さらに、第1の態様の第3の構成として、結腸直腸癌を有する対象に対する無治療ストラテジー方法であって、
a)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)において得られたサンプル値を基準値と比較する工程;および、
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c)前記対象を結腸直腸癌治療レジメンにより治療することを取り止める工程
を含む方法が提供される。
【0144】
例えば、第5の構成の工程c)の取り止める工程は、工程a)〜b)の完了から少なくとも1週間、例えば工程a)〜b)の完了から少なくとも1ヶ月間、例えば工程a)〜b)の完了から少なくとも3ヶ月間、例えば工程a)〜b)の完了から少なくとも6ヶ月間、例えば工程a)〜b)の完了から少なくとも1年間、例えば工程a)〜b)の完了から少なくとも2年間にわたり、治療を取り止めることであり得る。
【0145】
あるいは、工程c)の取り止める工程は、その次に本方法が実施されるまで、または結腸直腸癌腫瘍が再発するまで、治療を取り止めることであり得る。
【0146】
上記に考察され、かつ図4に示されるとおり、PODXLタンパク質およびCOX−2の双方について比較的低いレベルを示す対象は特に予後が良好であり、従って特定の治療が必要でなくてもよい。
【0147】
従って、第1の態様の第2および第3の構成の方法の実施形態は、COX−2の計測を含み得る(上記を参照)。また、第1の態様の第2および第3の構成の実施形態において、対象はCOX−2低であり得る。
【0148】
「COX−2低」は、対象から計測されたCOX−2レベルが基準レベル以下であることを指す。従って「COX−2高」は、対象から計測されたCOX−2レベルが基準レベルより高いことを指す。従って「COX−2高」は常に、少なくとも、対象の生体の関連する一部または対象の生体からの関連するサンプル中における検出可能なCOX−2に対応する。例えば、「COX−2高」は、COX−2の評価が関わる第1の態様の上記の実施形態の記載内容によればCOX−2サンプル値が基準値より高いことであり得る。本開示では、2つの異なる定義の「COX−2高」が用いられる。一つの定義は、対象からのサンプルが≧10%のCFかつ中等度のまたは強いCIを示すことである。もう一つの定義は、対象からのサンプルが≧10%のCFかつ強いCIを示すことである。対象が「COX−2高」でない場合、それは「COX−2低」である。一般に、対象が「COX−2高」であるか、または「COX−2低」であるかの決定に用いられるカットオフは、その区分けが臨床的に関連性のあるものとなるように選択されなければならない。10%のCF(CIと関係なく)もまた、カットオフとして用いられ得る(Lambropoulou M et al(2009) J Cancer Res Clin Oncol,Sep 16も参照のこと)。本開示の教示を考慮すれば、当業者は、「COX−2高」と「COX−2低」とをどのように区別すれば関連する予後情報を得られるかについて理解する。
【0149】
第1の態様の代替的構成として、結腸直腸癌を有する哺乳動物対象についての予後を確定する方法であって、
a)対象からのサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;および
b)工程a)のサンプル値を対象の予後と関係付ける工程
を含む方法が提供される。
【0150】
本開示に関連して、「予後の確定」は、具体的な予後または予後間隔を確定することを指す。
【0151】
代替的構成の実施形態では、サンプルは事前に得られたサンプルであり得る。
【0152】
工程b)の関係付ける工程は、対象の予後を確定するために生存率データを得られたサンプル値に関連させる任意の方法を指す。
【0153】
一般に、結腸直腸癌を有する患者に好適な治療方針を判断するとき、治療の責任を負う医師は、免疫組織化学的評価の結果、患者の年齢、腫瘍の型、病期および悪性度、全身状態および病歴、例えば結腸直腸癌病歴などのいくつかのパラメータを考慮し得る。判断における指針とするため、医師は、第1の態様に従いPODXLタンパク質試験を実施してもよく、または実施すべきPODXLタンパク質試験を発注してもよい。さらに医師は、医師自身が工程c)、および場合によりb)を実施する一方で、実験室の研究員などの他の誰かに工程a)、および場合により工程b)の実施を割り振ってもよい。
【0154】
本開示の発明の概念はまた、様々な治療レジームを適用する根拠にもなり得る。
【0155】
例えば、添付の図に示されるとおり、高いPODXLタンパク質レベルを示す対象の予後は、一般的に、低いPODXLタンパク質レベルを示す対象の予後と比べて不良である。本開示の教示を前提とすれば、従って医師は、PODXLタンパク質高の対象の予後を、特定のアジュバント治療レジメンが適切であるほど不良であると考えることができる。対象が同時にCOX2高である場合、その治療の好適性をさらに強く示すものであり得る。従って本開示は、これまで治療が不十分であった集団の正確な治療をもたらし得る。
【0156】
従って、本開示の第2の態様として、結腸直腸癌を有する対象の治療方法であって、
a)対象からのサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)において得られたサンプル値を基準値と比較する工程;
および、前記サンプル値が前記基準値より高い場合、
c)前記対象を結腸直腸癌治療レジメンで治療する工程
を含む方法が提供される。
【0157】
一実施形態によれば、本方法は、
d)および、前記サンプル値が前記基準値以下である場合、前記対象を結腸直腸癌治療レジメンで治療することを取り止めるさらなる工程
を含み得る。
【0158】
第2の態様の一実施形態において、工程b)の基準値は基準予後と関連付けられてもよく、および工程c)の前記治療レジメンは、基準予後より不良である予後に適合され得る。第2の態様のかかる実施形態において、本方法は、d)および、前記サンプル値が前記基準値以下である場合、前記対象を、基準予後と同等またはそれより良好な予後であって、適切な治療レジメンが無治療であってもよい予後に適合された治療レジメンで治療するさらなる工程を含み得る。
【0159】
第2の態様の実施形態は、例えばCOX−2の計測を含み得る(上記を参照)。また、第2の態様の実施形態において、対象はCOX−2高であり得る。
【0160】
工程c)の治療は、例えば、PODXLタンパク質またはCOX−2情報が利用可能でない条件下で標準的であり得た治療と比べてより包括的な治療であってもよい。
【0161】
対象は、アジュバント療法が通常であれば過剰かつ不必要な痛みを伴うと考えられ得るような進行期にある結腸直腸癌を有し得る。しかしながら、その場合に医師は、PODXLタンパク質(および場合によりCOX−2)値が低いことを理由に当該の対象がより長期間生存する確率が高い場合に、いずれにしろアジュバント療法の適用を決定し得る。
【0162】
従って、第2の態様の第1の構成として、デュークス期CまたはDなどの進行期の結腸直腸癌を有する対象の治療方法であって、
a)対象からのサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、前記評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程b)において得られたサンプル値を基準値と比較する工程;および、
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c)生存を長期化させるために前記対象を結腸直腸癌治療レジメンで治療する工程
を含む方法が提供される。
【0163】
さらに、前記サンプル値が基準値より高い場合、対象は対症療法のみによって治療されてもよい。
【0164】
第2の態様に従う治療の責任を負う医師は、医師自身が工程c)、および場合により工程b)を実施する一方で、実験室の研究員などの他の誰かに工程a)、および場合により工程b)の実施を割り振ってもよい。
【0165】
治療方法は、判断および治療に限られてもよい。従って、第2の態様の代替的構成として、結腸直腸癌を有する対象の治療方法であって、
α)対象からのサンプル中のPODXLタンパク質レベルに対応するサンプル値を基準値と比較する工程;および,
前記サンプル値が前記基準値より高い場合、
β)前記対象をアジュバント結腸直腸癌治療レジメンで治療する工程
を含む方法が提供される。
【0166】
対象からのサンプル中のPODXLタンパク質レベルに対応するサンプル値を得る数多くの方法が、本開示に記載される。
【0167】
本開示の方法の工程a)に関して、PODXLタンパク質の量が増加すると、典型的に、サンプル値も増加し、その逆は生じない。しかし、いくつかの実施形態では、評価された量は、所定の数の個別のサンプル値のいずれかに対応し得る。そのような実施形態では、第1の量および第2の増加した量は、同じサンプル値に対応し得る。いずれにせよ、本開示に関して、PODXLタンパク質の量が増加しても、サンプル値は減少しない。
【0168】
しかし、好ましくないながら等価な形で、工程b)とc)との間の適合条件が逆転するならば、評価量がサンプル値と逆の関係にあってもよい。例えば、語句「サンプル値が基準値より高い場合」が「サンプル値が基準値より低い場合」に置き換えられる場合、工程b)とc)との間の適合条件が逆になる。
【0169】
本開示に関連して、「予後」は、疾患およびその治療の経過または転帰の予測を指す。例えば、予後はまた、生存または疾患からの回復の可能性の判断、ならびに対象の予想生存時間の予測も指し得る。予後には、具体的には、3年、5年、10年または任意の他の期間などの、将来のある期間にわたって対象が生存する可能性を確定することが関わり得る。予後はさらに、単一の値により表されても、または値の範囲により表されてもよい。
【0170】
さらに、本開示の方法に関連して、「事前に得られた」は、方法の実施前に得られたことを指す。従って、対象から事前に得られたサンプルが方法で用いられる場合、その方法には対象からサンプルを得る工程は含まれず、即ちサンプルは、方法とは別の工程で対象から予め得られたものである。
【0171】
本開示の方法および使用はいずれも、治療方法を除いては、特に指示されない限りすべてインビトロで実行され得る。
【0172】
さらに、本開示に関連して、「結腸直腸癌を有する哺乳動物対象」は、原発性または続発性結腸直腸腫瘍を有する哺乳動物対象、または結腸および/または直腸から腫瘍を除去したことがある哺乳動物対象を指し、ここで腫瘍の除去は、任意の適切な種類の手術または治療法によって腫瘍を死滅させるか、または除去することを指す。本開示の態様の方法および使用において、「結腸直腸癌を有する哺乳動物対象」はまた、哺乳動物対象が使用または方法の実施時点で結腸直腸癌を有することが疑われ、後に結腸直腸癌の診断が確定される場合も指す。
【0173】
従って、結腸に位置する結腸直腸癌を有する対象は、結腸から腫瘍を除去したことがある対象を指し得る。
【0174】
さらに、本開示に関連して、「基準値」は、対象についての予後または好適な治療方針に関して判断を下し、または結論を出すことに関連すると認められた所定の値を指す。
【0175】
また、本開示に関連して、基準予後に「関連する」基準値とは、実験上のデータおよび/または臨床的に関連する仮定に基づき対応する基準予後を割り当てられた基準値を指す。例えば、基準値は関連する対象グループにおける平均PODXLタンパク質値であってもよく、および基準予後は同じグループにおける平均生存率であってもよい。さらに、基準値は、基準値を示す対象グループの予後データから直接導き出された基準予後に割り当てられる必要はない。基準予後は、例えば基準値以下を示す対象の予後に対応してもよい。即ち、基準値が0〜2段階において1である場合、基準予後は、値0または1を示す対象の予後であってもよい。従って基準予後はまた、利用可能なデータの性質に適合され得る。上記でさらに考察しているとおり、基準予後は他のパラメータにも同様に適合され得る。
【0176】
上記の態様の方法の工程a)には、サンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、その量に対応するサンプル値を決定する工程が含まれる。「サンプルの少なくとも一部」は、予後を確定し、または好適な治療に関して結論を出すための、サンプルの1つ以上の関連する部分を指す。当業者は、本方法の実施時に存在する状況下でどの1つ以上の部分が関連するかを理解している。例えば、細胞を含むサンプルを評価する場合、当業者はサンプルの腫瘍細胞のみを、または腫瘍細胞の細胞膜/細胞質のみを考慮し得る。
【0177】
さらに、工程a)では量が評価され、その量に対応するサンプル値が決定される。従って、サンプル値を得るのにPODXLタンパク質の量の正確な計測は不要である。例えば、PODXLタンパク質の量は、染色した組織サンプルの目視検査によって評価されてもよく、次に評価された量に基づきサンプル値が、例えば高または低として分類されてもよい。
【0178】
工程a)の評価および決定には、ある種のサンプル処理または操作が必要である。単に検査のみからサンプル値を決定することは不可能である。そのような評価および決定のための様々な技法が当業者には周知であり、そのいくつかは以下に提供する。従って本開示の方法は、工程a)を実施するためのいかなる具体的な1つまたは複数の技法にも限定されるものではない。
【0179】
第1および第2の態様の治療レジメンは、例えばアジュバント療法および/またはネオアジュバント療法であってもよい。ネオアジュバント療法は、特に直腸癌の場合には、例えば放射線療法であってもよい。適切なアジュバント療法は、主に化学療法および免疫療法である。さらに、アジュバント治療は化学療法および/または免疫療法の放射線療法との併用であってもよい。
【0180】
全般的な方針は、対象がPODXLタンパク質高であると認められる場合、対象がPODXLタンパク質低であると認められる場合と比べてより包括的な治療が適用されることである。
【0181】
例えば、対象がデュークス期Bの結腸直腸癌を有する場合、アジュバント治療レジメンは化学療法であり得る。つまり、上記の方法のいくつかによれば、対象がPODXLタンパク質高(かつ場合によりCOX−2高)である場合、化学療法剤が対象に投与されることになる。しかしながら、対象がPODXLタンパク質低(かつ場合によりCOX−2低)である場合、化学療法剤による治療は不要とみなされ得るため、従って対象に投与されない。
【0182】
別の例として、対象がデュークス期Cの結腸直腸癌を有する場合、治療レジメンは2種以上の化学療法剤の組み合わせであり得る。つまり、上記の方法のいくつかによれば、対象がPODXLタンパク質高(かつ場合によりCOX−2高)である場合、その組み合わせが対象に投与されることになる。しかしながら、対象がPODXLタンパク質低(かつ場合によりCOX−2低)である場合、その組み合わせは不要とみなされ得るため、従って対象に適用されない。その場合、1種の治療剤による治療が必要とみなされ得る。
【0183】
あるいは、その組み合わせはいずれの場合にも適用されるが、しかしながら対象がPODXLタンパク質高である場合には比較的高用量で、および対象がPODXLタンパク質低である場合には比較的低用量で適用される。ここで、「比較的高用量」は、「比較的低用量」と比べて高い。例えば、対象からのサンプル値が基準値以下である場合、当該技術分野の範囲内で通常量とみなされる用量を減少させ、対象からのサンプル値が基準値より高い場合、増加させてもよい。
【0184】
化学療法剤の非制限的例は、5−フルオロウラシル(5−FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))およびオキサリプラチン(Eloxatin(登録商標))である。5−フルオロウラシル、カペシタビンおよびオキサリプラチンは、現行では術後のアジュバントとして、例えば5−フルオロウラシルを単独で、あるいは例えば5−フルオロウラシル、ロイコボリンおよびオキサリプラチンを含むFOLFOXのように組み合わせで、投与されている。これらの薬物はまた転移性疾患の治療にも使用され、しかしこのときは多くの場合に組み合わせで、および/またはテガフール−ウラシル(UFT(登録商標))、ロイコボリン(フォリン酸(folonic acid))および/またはイリノテカン(Camptosar(登録商標))を含めた他の化学療法剤と共に使用される。
【0185】
免疫療法剤の非制限的例は、ベバシズマブ(Avastin(登録商標))およびセツキシマブ(Erbitux(登録商標))である。
【0186】
適用され得る免疫療法の別の例は、以下で本開示の第8および第9の態様に関連して考察する。従って免疫療法は、PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドの適用であり得る。そのような親和性リガンドの様々な実施形態は、以下で第8の態様に関連して考察する。
【0187】
第1および第2の態様の治療レジメンはまた、COX−2阻害治療を含んでもよく、またはそれからなってもよい。この実施形態は、対象がPODXLタンパク質高およびCOX−2高の双方である場合に特に関連する。
【0188】
第1および第2の態様の実施形態において、予後は生存確率であってもよく、および基準予後は基準生存確率であってもよく、ここで双方の生存率とも同じ種類の生存率である。背景セクションで説明したとおり、「生存率」を計測する方法はいくつかある。第1および第2の態様の生存率は、例えば無再発生存率、全生存率または無病生存率であり得る。さらに、「生存率」は、5年、10年または15年など、種々の期間にわたって計測され得る。従って、生存率は、5年、10年または15年生存率であり得る。
【0189】
上記の態様の方法の実施形態では、対象は種々の型および/または病期の結腸直腸癌を有し得る。
【0190】
これらの態様のいくつかの実施形態において、対象となる結腸直腸癌は、リンパ節転移陰性の結腸直腸癌、即ちリンパ節転移の病期まで進行していない結腸直腸癌であってもよい。他の同様の実施形態において、対象となる結腸直腸癌は、デュークス期AまたはBのいずれかである。さらに他の実施形態において、対象となる結腸直腸癌は結腸直腸腺腫または結腸直腸カルシノーマである。これらの実施形態において、対象が高いPODXLタンパク質発現を示すと決定することは、将来にわたる疾患進行の予後診断に極めて有用であり得、従って十分な情報を得たうえでの将来の疾患管理に関する判断の根拠となり得る。そのような比較的初期の疾患に罹患している対象のグループ内でPODXLタンパク質発現が高い対象は、より侵攻性の高い疾患を発症するリスクが比較的高いものと思われる。従ってリンパ節転移陰性の結腸直腸癌またはデュークス期AまたはBの結腸直腸癌を有する対象の間での高いPODXLタンパク質発現は、それらの対象をより綿密にモニタし、および/または高いPODXLタンパク質発現を示さない対象と異なる形で治療すべきであることを示し得る。従って本開示に従う方法は、PODXLタンパク質マーカーにより追加的な予後情報を提供することで、かかる対象についての特定の期間にわたる生存機会を高め、および/または生存時間を延ばす可能性を提供する。
【0191】
本発明者らは、本開示の知見があらゆるデュークス期の結腸直腸癌に適用されることを見出した。換言すれば、予後との関連性は、対象とする結腸直腸癌の病期とは無関係のように思われる。
【0192】
デュークス期Aの結腸直腸癌を有する対象は、従来アジュバント化学療法によっては治療されなかった。しかしながら、本開示の教示を指針として、医師は、高いPODXLタンパク質発現を示すそのような対象に、いずれにしろアジュバント治療を提供することを判断し得る。
【0193】
従って、上記の態様の方法の実施形態では、結腸直腸癌はデュークス期Aである。代替的または補足的な実施形態では、前記結腸直腸癌は、上記のTNM病期分類体系に従うところのT1〜2、N0およびM0である。
【0194】
デュークス期Bの癌を有する対象に関して、アジュバント療法を適用するか否かの判断は特に困難であり得る。従って、特にデュークス期Bの対象は、PODXLタンパク質の計測を用いて予後良好を判断した後の治療から明らかとなり得る。従って、いくつかの実施形態において、上記の態様の方法の結腸直腸癌はデュークス期Bであってもよい。
【0195】
デュークス期Cの結腸直腸癌を有する対象は、通常はアジュバント治療で治療される。そのような対象が比較的不良な予後であることが認められる場合、併用治療がより重い副作用を引き起こし、かつより高価であるとしても、単独治療より併用アジュバント治療が適切であると考えられ得る。
【0196】
従って、いくつかの実施形態において、上記の態様の方法の結腸直腸癌は、転移性の結腸直腸癌であってもよい。同様の実施形態において、対象となる結腸直腸癌はデュークス期CまたはD、好ましくはCであってもよい。
【0197】
漿膜層に浸潤する結腸直腸癌(T4)は、通常、特に侵襲性が高いとみなされる。従って、そのような結腸直腸癌を有する対象は、一般的に予後が比較的不良で、腫瘍が腹腔に広がるリスクを有する。本発明者らは、漿膜に浸潤する結腸直腸腫瘍においてPODXLタンパク質が過剰発現することを見出した。従って、高レベルのPODXLタンパク質発現は、漿膜浸潤腫瘍の(ひいては予後不良の)指標である。さらに、本発明者らは、漿膜浸潤と転移癌との間に関係があると見ている。従って、高レベルのPODXLタンパク質発現はまた、転移リスクの指標でもあり得る。従って、高レベルのPODXLを有する結腸直腸癌対象は、本開示の一実施形態によれば、転移について検査され、および/または転移の発生についてモニタされ得る。
【0198】
従って、第1の態様の実施形態において、第1のグループおよび第2のグループは、その方法の対象と同じ病期、悪性度および/または型の癌を有する対象からなり得る。
【0199】
結論として、本開示の方法は、個別化された治療レジメンの基礎となる情報をもたらし得る。
【0200】
上記の態様の方法の実施形態では、サンプルは体液サンプルであってもよい。例えば体液サンプルは、血液、血漿、血清、脳脊髄液、尿、精液、リンパ液および滲出液からなる群から選択されてもよい。あるいは、サンプルは細胞診サンプルまたは糞便サンプルであってもよい。
【0201】
ここで、血液(または血液由来)サンプルが特に興味深い。本発明者らは、PODXLタンパク質を発現する細胞が血管に向かって移動し、従って循環系に漏出し易いことに注目した。さらに、抗PODXL抗体は生細胞を結合することが示されており(実施例、セクション8を参照のこと)、PODXLタンパク質は血中に検出されている。従って、工程a)には、循環腫瘍細胞中で発現するPODXLタンパク質の量を評価することが含まれ得る。
【0202】
PODXLタンパク質発現のレベルは、好ましくは細胞内で計測され得る。従って、体液、細胞診または糞便サンプルは、例えば腫瘍細胞などの細胞を含み得る。
【0203】
上記の態様の方法のさらなる実施形態において、サンプルは組織サンプル、例えば結腸直腸組織サンプル(結腸または直腸に由来するサンプル)、例えば結腸直腸腫瘍組織サンプルであってもよい。組織サンプルは、免疫組織化学を用いたPODXLタンパク質発現解析を促進する。
【0204】
図7の結果は、直腸以外の結腸直腸腫瘍由来の組織サンプルの調査に基づく。従って、上記の態様の方法の実施形態では、サンプルは結腸に由来する組織サンプルであってもよい。
【0205】
実施例、セクション3の結果は、S状結腸由来の組織サンプルの調査に基づく。従って、上記の態様の方法の実施形態では、サンプルは、S状結腸に由来する組織サンプルであってもよい。
【0206】
さらに、本発明者らは、PODXLタンパク質の細胞膜/細胞質発現が予後の判定または治療の選択に関連することに注目した。従って工程a)の評価は、前記サンプルの細胞、例えば腫瘍細胞の細胞膜/細胞質に限定され得る。従って、組織サンプルの調査時、腫瘍細胞の細胞膜/細胞質のみが考慮され得る。そのような調査は、例えば免疫組織化学的染色により促進され得る。
【0207】
実施例、セクション3およびセクション4における組織サンプルは、ヒトの男性および女性由来であってもよく、および本発明者らは、PODXLタンパク質の予後との関連性が対象の性別と無関係であることを見出した。従って、上記の態様の方法の対象はヒトであり、さらに、上記の態様の方法の対象は男性であっても、または女性であってもよい。
【0208】
上記の態様に従う方法を実施するとき、基準値としてゼロを使用することが、その場合には工程a)でサンプル中にPODXLタンパク質が存在するか否かが確定されるだけでよいため、好都合であり得る。図3は、ゼロ(即ち検出不能なPODXLタンパク質)が、異なる予後の2つのサブグループを確定するための有効カットオフ値であることを示す。
【0209】
従って、上記の態様の方法の実施形態では、工程a)のサンプル値は、サンプル中の検出可能なPODXLタンパク質に対応する1か、またはサンプル中の検出不能なPODXLタンパク質に対応する0かのいずれかであり得る。従って、かかる実施形態において、サンプルの評価はデジタルである:PODXLタンパク質は存在するか否かのいずれかとみなされる。本開示に関連して、「検出不能なPODXLタンパク質」は、極めて少量であるため、通常の作業環境では工程a)を実施する人または装置による検出が不可能なPODXLタンパク質の量を指す。「通常の作業環境」は、当業者が本開示の方法の実施に適切であると認め得る実験室的方法および技法を指す。
【0210】
同様に、上記の態様の方法の実施形態では、工程d)のサンプル値は、サンプル中の検出可能なCOX−2に対応する1か、またはサンプル中の検出不能なCOX−2に対応する0かのいずれかであり得る。
【0211】
従って、本開示の方法の実施形態では、工程b)の基準値は0であってもよい。従って本開示の方法のさらなる実施形態では、工程b)の基準値は、検出可能なPODXLタンパク質を有しない基準サンプルに対応し得ることになる(下記参照)。
【0212】
同様に、本開示の方法の実施形態では、工程e)の基準値は0であってもよい。従って本開示の方法のさらなる実施形態では、工程e)の基準値は、検出可能なCOX−2を有しない基準サンプルに対応し得ることになる(下記参照)。
【0213】
基準値より高いPODXLタンパク質のサンプル値、またはそのようなサンプル値が得られる対象は、ときに本明細書では「PODXLタンパク質高」であると称される。さらに、基準値以下であるPODXLタンパク質のサンプル値、またはそのようなサンプル値が得られる対象は、ときに本明細書では「PODXLタンパク質低」であると称される。
【0214】
同様に、基準値より高いCOX−2のサンプル値、またはそのようなサンプル値が得られる対象は、ときに本明細書では「COX−2高」であると称される。さらに、基準値以下であるCOX−2タンパク質のサンプル値、またはそのようなサンプル値が得られる対象は、ときに本明細書では「COX−2低」であると称される。
【0215】
本開示に関連して、用語「サンプル値」および「基準値」は広義に解釈すべきである(以下の考察ではCOX−2およびその定量に準用される)。これらの値を得るためのPODXLタンパク質の定量は、自動的手段によるか、サンプルの目視もしくは顕微鏡検査に基づくスコア化システムによるか、またはそれらの組み合わせによって行うことができる。しかしながら、当業者、例えば組織病理学分野の当業者は、PODXLタンパク質発現について染色した前記サンプルからの組織スライドの検査によってサンプル値および基準値を決定することも可能である。従って基準値より高いサンプル値の決定は、目視または顕微鏡検査時に、サンプルからの組織スライドが基準組織スライドの場合と比べてより濃染される、および/またはより大きい割合の染色細胞を示すことの決定に対応し得る。サンプル値はまた、言葉で記述された基準値などの文献上の基準、または基準画像により得られる基準値と比較してもよい。従って、サンプル値および/または基準値は、ある場合には、検査および比較時に当業者が決定する心証に基づく値であってもよい。
【0216】
例えば、当業者はサンプルをPODXLタンパク質高または低として分類することができ、ここでサンプルは、それが過去に検査された基準サンプルと比べて多いPODXLタンパク質を含む場合には高として分類され、それが同じまたは少ない場合には低として分類される。このような評価は、サンプル、および必要であれば基準サンプルを、例えばPODXLタンパク質について選択的な抗体を含む染色溶液で染色することにより促進され得る。
【0217】
本開示の方法の工程の1つ以上は、装置において実現され得る。例えば、工程a)および場合により工程b)は自動分析装置で実施されてもよく、そのような装置は、免疫組織化学的分析に適合されたプラットホームに基づき得る。例として、当該の対象からの1つ以上の腫瘍組織サンプルが免疫組織化学的分析用に手動で調製され、次に自動分析装置に負荷されてもよく、この装置は工程a)のサンプル値を提供し、および場合によっては工程b)の基準値との比較も実施する。次に、分析を実施する操作者、分析を発注する医師または装置それ自体が、工程c)の結論を導き出し得る。従って、工程c)の結論を導き出すように適合されたソフトウェアが装置に実装され得る。
【0218】
結腸直腸癌対象に関する予後の確定または治療の判断に関連することが認められ、対象からのサンプル値との比較として使用される基準値は、様々な方法で提供され得る。本開示の教示を理解することで、当業者は過度の負担を伴うことなく、本開示の方法を実施するための関連する基準値を提供することができる。
【0219】
上記の態様の方法の実施者は、例えば基準値を所望の情報に適合させ得る。例えば、基準値は、最も重要な予後情報、例えば、PODXLタンパク質高の生存率曲線とPODXLタンパク質低の生存率曲線との間の最も大きい隔たりをもたらすように適合されてもよく(図を参照のこと)、この隔たりは、第1の態様の第1のグループと第2のグループとの間の最も大きい生存率の差に対応する。あるいは、基準値は、特に良好な予後または特に不良な予後を示す対象グループが選び出されるように選択されてもよい。
【0220】
上記の態様の方法の実施形態では、基準値は、方法の対象の健常な組織、例えば健常な結腸直腸組織、または間質組織におけるPODXLタンパク質の発現量に対応し得る。別の例として、基準値は、別の同等の対象由来の正常組織の標準的なサンプルにおいて計測されるPODXLタンパク質の発現量により提供され得る。別の例として、基準値は、腫瘍組織、例えば結腸直腸腫瘍組織の基準サンプルなどの、腫瘍細胞を含む基準サンプルにおいて計測されるPODXLタンパク質の発現量により提供され得る。基準サンプルのタンパク質発現量は、好ましくは予め確立され得る。
【0221】
さらに基準値は、例えば、癌細胞系統などの、所定量または制御された量のPODXLタンパク質を発現する細胞系統を含む基準サンプルにおいて計測されるPODXLタンパク質の発現量により提供され得る。当業者は、そのような細胞系統をどのように提供すればよいかについて、例えばRhodes et al.(2006) The biomedical scientist,p 515−520の開示を指針として理解する。
【0222】
従って、基準値は、所定量のPODXLタンパク質を発現する細胞を含む基準サンプルにおいて計測されるPODXLタンパク質の量により提供され得る。従って、本開示の方法の実施形態では、基準値は、基準サンプルにおけるPODXLタンパク質の発現量に対応する所定の値であってもよい。
【0223】
しかしながら、基準サンプル中のPODXLタンパク質の量は、基準値に直接対応する必要はない(これについては以下でさらに考察する)。基準サンプルはまた、方法の実施者が様々な基準値を評価するのに役立つPODXLタンパク質の量も提供し得る。例えば、1つ以上の基準サンプルは、「陽性」基準値および/または「陰性」基準値を提供することにより、基準値の心的イメージを作り出すのに役立ち得る。
【0224】
サンプル、例えば対象から事前に得られたサンプルまたは基準サンプル中のPODXLタンパク質を定量するための一つの別法は、サンプル中で特定のレベルを超えるPODXLタンパク質発現を示す細胞画分を決定することである。この画分は、例えば、全細胞のPODXLタンパク質発現を考慮する「細胞画分」;細胞の細胞膜/細胞質のPODXLタンパク質発現のみを考慮する「細胞質画分」;または細胞の核のPODXLタンパク質発現のみを考慮する「核画分」であり得る。核画分または細胞質画分は、例えば、関連する細胞集団の<1%、1〜50%、>50%の免疫反応性細胞として分類することができる。「細胞質画分」は、細胞膜/細胞質において陽性染色を示すサンプル中の関連する細胞の百分率に対応し、ここで細胞膜/細胞質における中等度の、または明瞭かつ強力な免疫活性が陽性とみなされ、および細胞膜/細胞質において認められない、または微弱な免疫活性が陰性とみなされる。病理学分野の当業者は、方法の実施時に存在する条件下でどの細胞が関連するかを理解し、その一般的知識および本開示の教示に基づいて細胞質画分または核画分を決定することができる。関連する細胞は、例えば腫瘍細胞であってもよい。
【0225】
サンプル、例えば対象から事前に得られたサンプルまたは基準サンプル中のPODXLタンパク質発現を定量するためのもう一つの別法は、サンプルの全体的な染色強度を決定することである。この強度は、例えば、全細胞のPODXLタンパク質発現を考慮する「細胞強度」;細胞の細胞膜/細胞質のPODXLタンパク質発現のみを考慮する「細胞質強度」、または細胞の核のPODXLタンパク質発現のみを考慮する「核強度」であり得る。細胞質強度および核強度は、臨床病理組織学的診断法で用いられる基準に従い主観的に評価される。細胞質強度判定の結果は以下のように分類され得る:不在=サンプルの関連する細胞の細胞膜/細胞質に全体的な免疫活性なし、弱い=サンプルの関連する細胞の細胞膜/細胞質における全体的な免疫活性が微弱である、中等度=サンプルの関連する細胞の細胞膜/細胞質における全体的な免疫活性が中等度である、または強い=サンプルの関連する細胞の細胞膜/細胞質における全体的な免疫活性が明瞭かつ強力である。いくつかの実施形態では、不在の値および弱い値は合わせて不在/弱い値とされ得る。当業者は、方法の実施時に存在する条件下でどの細胞が関連するかを理解し、その一般的知識および本開示の教示に基づいて核強度または細胞質強度を決定することができる。関連する細胞は、例えば腫瘍細胞であってもよい。
【0226】
本発明者らは、PODXLタンパク質の細胞膜/細胞質発現が予後の確定に特に関連することを見出した。
【0227】
このように、上記の態様の方法の実施形態では、基準値は、細胞質画分、細胞質強度またはそれらの組み合わせであり得る。従ってサンプル値は、細胞質画分、細胞質強度またはそれらの組み合わせであり得る。
【0228】
図に見られるとおり、PODXLタンパク質の細胞質発現に基づく1つより多い基準値が、生存率についての予後が比較的良好か、または比較的不良かの判定に関連する基準値として機能し得る。
【0229】
従って、上記の態様の方法の実施形態では、工程b)の基準値は、95%以下、例えば90%以下、例えば85%以下、例えば80%以下、例えば75%以下、例えば70%以下、例えば65%以下、例えば60%以下、例えば55%以下、例えば50%以下、例えば45%以下、例えば40%以下、例えば35%以下、例えば30%以下、例えば25%以下、例えば20%以下、例えば15%以下、例えば10%以下、例えば5%以下、例えば2%以下、例えば1%以下、例えば0%の細胞質画分である。
【0230】
さらに、上記の態様の方法の実施形態では、工程b)の基準値は、PODXLタンパク質発現の中等度の細胞質強度以下、例えばPODXLタンパク質発現の弱い細胞質強度以下、例えばPODXLタンパク質発現の細胞質強度不在であってもよい。
【0231】
本開示の結果は、細胞質強度と細胞質画分との組み合わせまたは関数である基準値に基づく。
【0232】
例えば、各サンプルに0〜3の値が割り当てられてもよく、ここで:
「0」は、陰性の細胞質強度かつ<1%の細胞質画分を表し、
「1」は、弱い細胞質強度かつ1〜100%の細胞質画分を表し、
「2」は、中等度のまたは強い細胞質強度かつ1〜50%の細胞質画分を表し、および
「3」は、中等度のまたは強い細胞質強度かつ>50%の細胞質画分を表す。
【0233】
カットオフ線は、例えば1と2との間(図2、図6B、図7)、または0と1との間(図3)に引かれてもよい。
【0234】
従って、不在または中等度の細胞質強度が、特に関連する基準値であり得る。さらに、低い細胞質画分、例えば0〜25%(または0〜10%)または中間の細胞質画分、例えば25〜75%(または40〜60%)もまた、特に関連する基準値であり得る。
【0235】
また、工程c)において結論付ける際の基準は、例えば、サンプル値が1%の細胞質画分より高く、かつ細胞質強度不在より高いことであってもよい。さらに、工程c)において結論付ける際の基準は、例えば、サンプル値が1%の細胞質画分より高く、かつ弱い細胞質強度より高いことであってもよい。
【0236】
工程e)の(COX−2に関する)基準値は、例えば、0〜50%、例えば0〜25%、例えば5〜15%の細胞質画分であってもよい。さらにそれは、例えば、不在、弱い、または中等度の細胞質強度であってもよい。またそれは、細胞質画分と細胞質強度との組み合わせまたは関数であってもよい。
【0237】
当業者は、強度値または画分値である他の基準値もまた本発明の範囲に含まれることを理解している。同様に、当業者は、画分および強度の他の組み合わせまたは関数もまた本発明の範囲に含まれることを理解している。従って基準値には、2つ、場合によってはさらに多くの基準が関与し得る。
【0238】
一般に、強度値および/または画分値の基準値としての選択は、染色手順、例えば用いられる抗PODXL抗体および染色試薬に依存し得る。
【0239】
本開示を指針として、当業者、例えば病理学者は、細胞画分、細胞質画分もしくは核画分などの画分、または細胞強度、細胞質強度もしくは核強度などの強度をもたらす評価をどのように実施すればよいか理解する。例えば、当業者は、特定の画分または強度の外観を確定するための所定量のPODXLタンパク質を含む基準サンプルを使用してもよい。
【0240】
しかしながら、基準サンプルは、実際の基準値を提供するためのみならず、基準値に対応する量と比べてPODXLタンパク質の量が高いサンプルの例を提供するためにも使用され得る。例として、免疫組織化学的染色などの組織化学的染色では、当業者は、高量のPODXLタンパク質を有する染色サンプルの外観、例えば陽性基準を確定するための基準サンプルを使用することができる。続いて当業者は、より低量のPODXLタンパク質を有するサンプルの外観、例えば基準値に対応するPODXLタンパク質の量を有するサンプルの外観を評価することができる。換言すれば、当業者は基準サンプルを使用して、基準サンプルより低いPODXLタンパク質の量に対応する基準値の心的イメージを作り出すことができる。代替的に、または補足的に、そのような評価において当業者は、低量のPODXLタンパク質を有するか、または検出可能なPODXLタンパク質を含まない別の基準サンプルを使用して、かかるサンプルの外観を、例えば「陰性基準」として確定してもよい。
【0241】
例えば、基準値として弱い細胞質強度が用いられる場合、2つの基準サンプルが用いられ得る:検出可能なPODXLタンパク質を有しない、従って細胞質強度不在に対応する第1の基準サンプル(これは基準値より低い);および強い細胞質強度に対応するPODXLタンパク質の量を有する第2の基準サンプル(これは基準値より高い)。
【0242】
従って、評価では、当業者は、高量のPODXLタンパク質を有するサンプルの外観を確定するための基準サンプルを使用することができる。このような基準サンプルは、高量のPODXLタンパク質を発現する組織を含むサンプル、例えばPODXLタンパク質の高発現が予め確定されている結腸直腸腫瘍組織を含むサンプルであってもよい。
【0243】
従って、基準サンプルは強い細胞質強度(CI)の例を提供してもよい。強いCIのサンプルの外観が分かることで、次に当業者はサンプルを、不在、弱い、中等度および強いのCIカテゴリーに分けることができる。この分類は、検出可能なPODXLタンパク質を含まない基準サンプル(陰性基準)、即ち細胞質強度不在を提供する基準サンプルによってさらに促進され得る。また、基準サンプルは、細胞質画分(CF)が75%より高いサンプルの例を提供してもよい。75%より多い陽性細胞を有するサンプルの外観が分かることで、次に当業者は、例えば陽性細胞率がより低い他のサンプルのCFを評価することができる。この分類は、PODXLタンパク質を本質的に含まない基準サンプル(陰性基準)、即ち低いCF(<1%または0など)を提供する基準サンプルによってさらに促進され得る。
【0244】
上述するとおり、制御された量のPODXLタンパク質を発現する細胞系統を、基準として、特に陽性基準として使用することができる。
【0245】
1つ以上の画像もまた、「基準サンプル」として提供され得る。例えばかかる画像は、特定の細胞強度および/または画分を示す特定の条件にある間に特定の抗体で染色された腫瘍組織スライドの例を示し得る。「基準サンプル」に関する上記の考察が、画像に準用される。
【0246】
基準サンプルに関する上記の考察はCOX−2状態の決定に準用される。
【0247】
細胞系統または画像はまた、本開示に従うキット(下記参照)の一部も形成し得る。
【0248】
さらに当業者は、当該の対象に存在するPODXLタンパク質が関連する遺伝子によってコードされ、かつ関連する発現パターンを呈する限り、上記の態様に従う方法の有用性はそうしたタンパク質の任意の特定の変異体の定量に限定されないことを認識すべきである。非制限的例として、PODXLタンパク質は、
i)配列番号1;および
ii)配列番号1と少なくとも85%同一である配列
から選択される配列を含み得る。
【0249】
いくつかの実施形態において、上記の配列ii)は、配列番号1と少なくとも90%同一、少なくとも91%同一、少なくとも92%同一、少なくとも93%同一、少なくとも94%同一、少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一または少なくとも99%同一である。
【0250】
別の非制限的例として、PODXLタンパク質は、
i)配列番号2または3;および
ii)配列番号2と少なくとも85%同一である配列
から選択される配列を含んでもよく、またはそれからなってもよい。
【0251】
配列番号2および3は、PODXLタンパク質の2つのスプライス変異体である。配列番号1は、それぞれのスプライス変異体の細胞外領域に共通する小領域である。
【0252】
いくつかの実施形態では、上記の配列ii)は、配列番号2または3に少なくとも90%同一、少なくとも91%同一、少なくとも92%同一、少なくとも93%同一、少なくとも94%同一、少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一または少なくとも99%同一である。
【0253】
本開示に関して使用される用語「%同一」は、次のとおりに計算される。CLUSTAL Wアルゴリズム(Thompson, J.D., Higgins, D.G. and Gibson, T.J., Nucleic Acids Research, 22: 4673−4680 (1994))を使用して、問い合わせ配列を標的配列に対してアラインする。各位置におけるアミノ酸残基を比較し、そして標的配列において同一の応答を有する問い合わせ配列における位置の百分率を同一%として報告する。また、標的配列は、比較する位置の数を決定する。結果的に、本開示に関して、標的配列より短い問い合わせ配列は、標的配列に対して、決して100%同一になり得ない。例えば、85アミノ酸の問い合わせ配列は、100アミノ酸の標的配列に対して、最大で85%同一であり得る。
【0254】
いくつかの実施形態において、上記の態様の方法の工程a)は、
対象から生物学的材料を得て、生物学的材料の関連する部分を切除または選択して前記サンプルを得て、および場合によりサンプルを固相に配置して工程a)の評価を促進することを含み得る。従って工程a)は、例として、前記対象の結腸または直腸から組織材料を得て、場合により組織材料をパラフィンまたはホルマリンに固定化し、組織材料を組織学的に処理して前記サンプルをなす切片を得て、および場合により前記サンプルを、ガラススライドなどの顕微鏡検査用透明スライドにマウントすることを含み得る。
【0255】
上記の態様の方法の実施形態では、PODXLタンパク質は、PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能である検出可能および/または定量可能な親和性リガンドのサンプルへの適用を介して、検出および/または定量することができる。親和性リガンドの適用は、サンプル中の任意のPODXLタンパク質への親和性リガンドの結合を可能にする条件下で実施される。
【0256】
具体化するために、上記の態様の方法の実施形態では、工程a)は、以下を含み得る:
a1)前記サンプルに、評価しようとするPODXLタンパク質との選択的相互作用が可能である定量可能な親和性リガンドを適用する工程であって、前記適用は、前記サンプルに存在するPODXLタンパク質への前記親和性リガンドの結合を可能にする条件下で実施される;
a2)非結合親和性リガンドを取り出す工程;および
a3)前記サンプルとの会合において残留する親和性リガンドを定量して、前記量を評価する工程。
【0257】
「サンプルとの会合において残留する親和性リガンド」は、工程a2)において取り出されなかった親和性リガンド、例えば、サンプルに結合した親和性リガンドを指す。ここで、結合は、例えば、抗体と抗原との間の相互作用であってもよい。
【0258】
しかしながら、a2)に従う結合しなかった親和性リガンドの除去、例えば洗浄は、必ずしも必要というわけではない。従って、上記の態様の方法のいくつかの実施形態では、工程a)は、
aI)前記サンプルに、評価するPODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な定量可能な親和性リガンドを適用する工程であって、前記適用が、前記サンプル中に存在するPODXLタンパク質との前記親和性リガンドの結合を可能にする条件下で実施される、工程;
aII)前記サンプルと結合した親和性を定量して前記量を評価する工程
を含み得る。
【0259】
上記の2つの実施形態は、工程d)(COX−2の検出)に準用される。
【0260】
本開示に関連して、例えば親和性リガンドの、その標的または抗原との「特異的な」または「選択的な」相互作用とは、それが、特異的相互作用と非特異的相互作用との、または選択的相互作用と非選択的相互作用との違いが有意となるような相互作用であることを意味する。2つのタンパク質間の相互作用は、ときに解離定数によって計測される。解離定数は2つの分子間の結合の強度(または親和性)を記述する。典型的には抗体とその抗原との間の解離定数は10−7〜10−11Mである。しかしながら、高い特異性が必ずしも高親和性を必要とするわけではない。そのカウンターパートに対して親和性が低い(モル範囲の)分子が、はるかに高親和性の分子と同程度の特異性を有することが示されている。本開示の場合、特異的または選択的な相互作用とは、特定の方法を使用して、組織サンプル中、または天然に存在する、もしくは処理された生体液の体液サンプル中で他のタンパク質が存在する所与の条件下で、特異的タンパク質の存在および/または量、標的タンパク質を決定することができる程度を指す。換言すれば、特異性または選択性は、関連するタンパク質間を区別する能力である。特異的と選択的とは、本記載ではときに同義的に用いられる。例えば、抗体の特異性または選択性は、以下の実施例、セクション2のとおりに決定されてもよく、ここではそれぞれタンパク質アレイセットアップ、懸濁液ビーズアレイおよび多重競合アッセイを使用して分析が実施される。特異性および選択性の決定については、Nilsson P et al.(2005) Proteomics 5:4327−4337にも記載されている。
【0261】
適切な親和性リガンドを選択または製造すること、ならびに検出および/または定量に適切なフォーマットおよび条件を選択することは、当業者の能力の範囲内にあるとみなされる。しかしながら、有用と認められ得る親和性リガンドの例、ならびに検出および/または定量用のフォーマットおよび条件の例を、例示として以下に提供する。
【0262】
従って、本開示の実施形態では、親和性リガンドは、抗体、そのフラグメントおよびその誘導体、即ち、免疫グロブリン足場に基づく親和性リガンドからなる群から選択され得る。抗体およびそのフラグメントまたは誘導体は、単離され得、および/または単一特異的であり得る。抗体は、マウス、ウサギ、ヒトおよび他の抗体を含む任意の起源のモノクローナルおよびポリクローナル抗体、ならびに部分的にヒト化された抗体、例えば、部分的にヒト化されたマウス抗体のような異なる種由来の配列を含むキメラ抗体を含む。ポリクローナル抗体は、好適な抗原による動物の免疫化によって産生される。定義された特異性を有するモノクローナル抗体は、KoehlerおよびMilstein(Koehler G and Milstein C (1976) Eur. J. Immunol. 6:511−519)によって開発されたハイブリドーマ技術を使用して、産生させることができる。本開示の抗体フラグメントおよび誘導体は、抗体(それらはそのフラグメントまたは誘導体である)と同じ抗原(例えば、PODXLタンパク質)との選択的相互作用が可能である。抗体フラグメントおよび誘導体は、無傷(intact)な免疫グロブリンタンパク質の重鎖(CH1)の第1の定常ドメイン、軽鎖(CL)の定常ドメイン、重鎖(VH)の可変ドメインおよび軽鎖(VL)の可変ドメインからなるFabフラグメント;2つの可変抗体ドメインVHおよびVLからなるFvフラグメント(Skerra A and Plueckthun A (1988) Science 240:1038−1041);可撓性ペプチドリンカーによって共に連結された2つのVHおよびVLドメインからなる一本鎖Fvフラグメント(scFv)(Bird RE and Walker BW (1991) Trends Biotechnol. 9:132−137);Bence Jonesダイマー(Stevens FJ et al. (1991) Biochemistry 30:6803−6805);ラクダ科重鎖ダイマー(Hamers−Casterman C et al. (1993) Nature 363:446−448)および単一可変ドメイン(Cai X and Garen A (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 93:6280−6285;Masat L et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 91:893−896)、ならびに例えば、コモリザメ由来のNew Antigen Receptor(NAR)のような単一ドメイン足場(Dooley H et al. (2003) Mol. Immunol. 40:25−33)および可変重鎖ドメインに基づくミニボディ(Skerra A and Plueckthun A (1988) Science 240:1038−1041)を含む。
【0263】
配列番号1は、免疫化のために設計された、例えば、成熟タンパク質から切断除去されるため、大腸菌(E.coli)における効率的な発現を確実にするために膜貫通領域を含まず、そしていずれのシグナルペプチドも含まないように設計された。結果的に、本開示に従う抗体またはそのフラグメントもしくはその誘導体は、例えば、アミノ酸配列が配列番号1を含む、好ましくは、配列番号1からなるタンパク質でウサギのような動物を免疫化する工程を含むプロセスによって入手可能であるものであり得る。例えば、免疫化プロセスは、フロイント完全アジュバント中のタンパク質による1次免疫を含み得る。また、免疫化プロセスは、少なくとも2回、2〜6週間の間隔で、フロイント不完全アジュバント中のタンパク質によりブーストすることをさらに含み得る。所与の標的に対する抗体またはそのフラグメントもしくは誘導体の産生方法は、当該技術分野において公知である。
【0264】
本開示に関して、「単一特異的抗体」は、それ自体の抗原に対してアフィニティー精製されているポリクローナル抗体の集団の1つであり、それによって、他の抗血清タンパク質および非特異的抗体からそのような単一特異的抗体を分離している。このアフィニティー精製は、その抗原に選択的に結合する抗体を生じる。本開示の場合、ポリクローナル抗血清は、標的タンパク質に選択的な単一特異的抗体を得るための2工程の免疫アフィニティーに基づくプロトコルによって、精製される。捕捉因子として固定化されたタグタンパク質を使用する1次枯渇工程において、抗原フラグメントの包括的親和性タグに対する抗体を取り出す。第1の枯渇工程後、抗原に特異的な抗体を富化するために、捕捉因子として抗原を伴う第2のアフィニティーカラム上で、血清を単離する(また、Nilsson P et al. (2005) Proteomics 5:4327−4337も参照のこと)。
【0265】
ポリクローナルおよびモノクローナル抗体、ならびにそれらのフラグメントおよび誘導体は、上記の方法態様に従うPODXLタンパク質の検出および/または定量化におけるような選択的生体分子認識を必要とするアプリケーションにおいて、親和性リガンドを従来どおり選択する。しかし、当業者は、選択的結合リガンドのハイスループット作製および低コスト生産システムの需要が増加しているため、新たな生体分子多様性技術が、最近10年間の間に開発されてきたことを知っている。これは、生体分子認識アプリケーションにおいて結合リガンドとして有用であることが同様に証明されており、そして免疫グロブリンの代わりに、または免疫グロブリンと共に使用することができる免疫グロブリンならびに非免疫グロブリン起源の両方の新規のタイプの親和性リガンドの作製を可能にした。
【0266】
親和性リガンドの選択に必要な生体分子多様性は、複数の可能な足場分子のうちの1つのコンビナトリアル操作によって作製することができ、次いで、特異的および/または選択的親和性リガンドが、適切な選択プラットホームを使用して、選択される。足場分子は、免疫グロブリンタンパク質由来(Bradbury AR and Marks JD (2004) J. Immunol. Meths. 290:29−49)、非免疫グロブリンタンパク質由来(Nygren PA and Skerra A (2004) J. Immunol. Meths. 290:3−28)、またはオリゴヌクレオチド由来(Gold L et al. (1995) Annu. Rev. Biochem. 64:763−797)であってもよい。
【0267】
多数の非免疫グロブリンタンパク質足場が、新規の結合タンパク質の開発において支持構造として使用されている。本開示に従って使用するためのPODXLタンパク質に対する親和性リガンドを作製するのに有用なそのような構造の非制限的例には、ブドウ球菌プロテインAおよびそのドメインならびにこれらのドメインの誘導体、例えば、プロテインZ(Nord K et al. (1997) Nat. Biotechnol. 15:772−777);リポカリン(Beste G et al. (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 96:1898−1903);アンキリンリピートドメイン(Binz HK et al. (2003) J. Mol. Biol. 332:489−503);セルロース結合ドメイン(CBD)(Smith GP et al. (1998) J. Mol. Biol. 277:317−332; Lehtioe J et al. (2000) Proteins 41:316−322);γクリスタリン(Fiedler U and Rudolph R, WO01/04144);緑色蛍光タンパク質(GFP)(Peelle B et al. (2001) Chem. Biol. 8:521−534);ヒト細胞障害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA−4)(Hufton SE et al. (2000) FEBS Lett. 475:225−231;Irving RA et al. (2001) J. Immunol. Meth. 248:31−45);プロテアーゼ阻害剤、例えば、Knottinタンパク質(Wentzel A et al. (2001) J. Bacteriol. 183:7273−7284;Baggio R et al. (2002) J. Mol. Recognit. 15:126−134)およびKunitzドメイン(Roberts BL et al. (1992) Gene 121:9−15;Dennis MS and Lazarus RA (1994) J. Biol. Chem. 269:22137−22144);PDZドメイン(Schneider S et al. (1999) Nat. Biotechnol. 17:170−175);ペプチドアプタマー、例えば、チオレドキシン(Lu Z et al. (1995) Biotechnology 13:366−372;Klevenz B et al. (2002) Cell. Mol. Life Sci. 59:1993−1998);スタフィロコッカルヌクレアーゼ(Norman TC et al. (1999) Science 285:591−595);テンダミスタット(McConell SJ and Hoess RH (1995) J. Mol. Biol. 250:460−479;Li R et al. (2003) Protein Eng. 16:65−72);フィブロネクチンIII型ドメインに基づくトリネクチン(Koide A et al. (1998) J. Mol. Biol. 284:1141−1151;Xu L et al. (2002) Chem. Biol. 9:933−942);ならびにジンクフィンガー(Bianchi E et al. (1995) J. Mol. Biol. 247:154−160;Klug A (1999) J. Mol. Biol. 293:215−218;Segal DJ et al. (2003) Biochemistry 42:2137−2148)がある。
【0268】
非免疫グロブリンタンパク質足場の上記の例として、新規の結合特異性の作製に使用される単一の無作為化ループを提示する足場タンパク質、堅牢な2次構造を伴うタンパク質足場が挙げられ、ここで、 タンパク質表面から突出している側鎖が、新規の結合特異性の作製、および新規の結合特異性の作製に使用される非連続的超可変ループ領域を示す足場のために無作為化される。
【0269】
非免疫グロブリンタンパク質に加えて、オリゴヌクレオチドもまた、親和性リガンドとして使用してもよい。一本鎖核酸は、アプタマーまたはデコイと呼ばれ、良好に定義された3次元構造に折り畳まれ、そして高い親和性および特異性でそれらの標的に結合する。(Ellington AD and Szostak JW (1990) Nature 346:818−822;Brody EN and Gold L (2000) J. Biotechnol. 74:5−13;Mayer G and Jenne A (2004) BioDrugs 18:351−359)。オリゴヌクレオチドリガンドは、RNAまたはDNAのいずれかであり得、そして広範な標的分子クラスに結合することができる。
【0270】
上記の足場構造のいずれかの変異体のプールから定義された親和性リガンドを選択するために、多くの選択プラットホームが、好適な標的タンパク質に対する新規の特異的なリガンドの単離に利用可能である。選択プラットホームとして、ファージディスプレイ(Smith GP (1985) Science 228:1315−1317)、リボソームディスプレイ(Hanes J and Plueckthun A (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 94:4937−4942)、酵母ツーハイブリッドシステム(Fields S and Song O (1989) Nature 340:245−246)、酵母ディスプレイ(Gai SA and Wittrup KD (2007) Curr Opin Struct Biol 17:467−473)、mRNAディスプレイ(Roberts RW and Szostak JW (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 94:12297−12302)、細菌ディスプレイ(Daugherty PS (2007) Curr Opin Struct Biol 17:474−480、Kronqvist N et al. (2008) Protein Eng Des Sel 1−9、Harvey BR et al. (2004) PNAS 101(25):913−9198)、マイクロビーズディスプレイ(Nord O et al. (2003) J Biotechnol 106:1−13、WO01/05808)、SELEX(System Evolution of Ligands by Exponential Enrichment)(Tuerk C and Gold L (1990) Science 249:505−510)およびタンパク質フラグメント相補性アッセイ(PCA)(Remy I and Michnick SW (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 96:5394−5399)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0271】
それ故、本開示の実施形態では、親和性リガンドは、上記で列挙したタンパク質足場のうちのいずれかから誘導された非免疫グロブリン親和性リガンドであってもよく、またはオリゴヌクレオチド分子であってもよい。
【0272】
PODXLタンパク質フラグメントの配列番号1は、他のヒトタンパク質と低い相同性を有する独特な配列からなり、そして作製されたアフィニティー試薬の交差反応性を最小限にするように設計された。結果的に、本開示の実施形態では、親和性リガンドは、配列番号1からなるポリペプチドとの選択的相互作用が可能であり得る。
【0273】
「配列番号1の配列からなるポリペプチドとの選択的相互作用が可能な親和性リガンド」は、配列番号1フラグメントを、PODXLタンパク質の別の重複しない一部からなるフラグメントと識別することが可能である。
【0274】
以下の実施例、セクション6およびセクション7に示すとおり、配列番号1内には6個のエピトープ領域が同定されている。従って、本開示の実施形態において、親和性リガンドは、20アミノ酸以下、例えば15アミノ酸以下からなり、かつ配列番号10〜15から選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドとの選択的相互作用が可能であり得る。
【0275】
PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドの検出および/または定量は、生物学的相互作用に基づくアッセイにおいて結合試薬を検出および/または定量するための当業者に公知の任意の方法で達成することができる。従って、上記の任意の親和性リガンドを使用して、PODXLタンパク質の存在を定量的および/または定性的に検出することができる。これらの「1次」親和性リガンドは、検出、視覚化および/または定量を可能にするため、それ自体が様々なマーカーで標識されてもよく、または次に2次標識親和性リガンドによって検出されてもよい。これは、数多くの標識の任意の1つ以上を使用して達成することができ、標識は、当業者に公知の数多くの技法の任意の1つ以上を用いて、かついかなる過度の実験も関与することのないものとして、PODXLタンパク質と相互作用可能な親和性リガンドと、または任意の2次親和性リガンドとコンジュゲート化することができる。
【0276】
1次および/または2次親和性リガンドにコンジュゲートすることができる標識の非制限的例として、蛍光染料または金属(例えば、フルオレセイン、ローダミン、フィコエリトリン、フルオレスカミン)、発色団染料(例えば、ロドプシン)、化学発光化合物(例えば、ルミナール、イミダゾール)、生物発光タンパク質(例えば、ルシフェリン、ルシフェラーゼ)、およびハプテン(例えば、ビオチン)が挙げられる。多様な他の有用な蛍光物質および発色団については、Stryer L (1968) Science 162:526−533およびBrand L and Gohlke JR (1972) Annu. Rev. Biochem. 41:843−868に記載されている。親和性リガンドは、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ラクタマーゼ)、放射性同位元素(例えば、3H、14C、32P、35Sまたは125I)および粒子(例えば、金)で標識することができる。本開示に関して、「粒子」は、分子を標識するのに適切な粒子、例えば、金属粒子を指す。さらに、親和性リガンドはまた、蛍光半導体ナノ結晶(量子ドット)で標識することができる。量子ドットは、より優れた量子収量を有し、そして有機蛍光団と比較してより光安定性であり、従って、より容易に検出される(Chan et al. (2002) Curr Opi Biotech. 13: 40−46)。様々な化学、例えば、アミン反応またはチオール反応を使用して、異なるタイプの標識を、親和性リガンドにコンジュゲートすることができる。しかし、アミンおよびチオール以外の他の反応基、例えば、アルデヒド、カルボン酸およびグルタミンを使用することもできる。
【0277】
上記の方法態様は、いくつかの既知の形式および設定のいずれかで利用することができ、その非制限的選択について以下で考察する。
【0278】
組織学に基づく設定では、そのPODXLタンパク質標的に結合した標識親和性リガンドの検出、局在および/または定量化は、可視化技術、例えば、光学顕微鏡または免疫蛍光顕微鏡に関係し得る。他の方法は、フローサイトメトリーまたはルミノメトリーを介する検出に関係し得る。
【0279】
例えば、被験体から取り出した腫瘍組織サンプル(生検)のような生物学的サンプルは、HMGCRタンパク質の検出および/または定量化に使用することができる。生検のような生物学的サンプルは、事前に得られたサンプルであってもよい。ある方法において事前に得られたサンプルを使用する場合、ヒトまたは動物身体に対して実践される方法の工程はない。親和性リガンドを、PODXLタンパク質の検出および/または定量化のために、生物学的サンプルに適用してもよい。この手順は、PODXLタンパク質の検出を可能にするだけではなく、加えて、その発現の分布および相対的レベルを示すこともできる。
【0280】
親和性リガンド上の標識の可視化の方法として、フルオロメトリー、ルミノメトリーおよび/または酵素的技術を挙げることができるが、これらに限定されない。蛍光は、蛍光標識を特定の波長の光に暴露し、その後、特定の波長領域において放射された光を検出および/または定量することによって、検出および/または定量される。発光タグ化親和性リガンドの存在は、化学反応中に発生する発光によって、検出および/または定量することができる。酵素反応の検出は、化学反応から生じるサンプルの色のシフトによるものである。当業者は、適切な検出および/または定量化のために、異なる多様なプロトコルを改変することができることを知っている。
【0281】
上記の態様の方法の実施形態では、生物学的サンプルを、ニトロセルロースもしくは適用される生物学的サンプルに存在するPODXLタンパク質を固定化することが可能な他の任意の固相支持体マトリックスのような固相支持体またはキャリアに固定化することができる。本発明において有用ないくつかの周知の固体状態支持材料として、ガラス、炭水化物(例えば、Sepharose)、ナイロン、プラスチック、ウール、ポリスチレン、ポリエテン(polyethene)、ポリプロピレン、デキストラン、アミラーゼ、フィルム、樹脂、セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、アルミナ、ガブロおよびマグネタイトが挙げられる。生物学的サンプルの固定化後、PODXLタンパク質に特異的な1次親和性リガンドは、例えば、本開示の実施例、セクション3に記載のように適用することができる。1次親和性リガンドがそれ自体で標識されない場合、支持マトリックスを、当該分野において公知の1つ以上の適切な緩衝液で洗浄することができ、続いて、2次標識親和性リガンドに暴露し、もう1回、緩衝液で洗浄して、結合していない親和性リガンドを取り出すことができる。その後、従来の方法で、選択的親和性リガンドを検出および/または定量することができる。親和性リガンドの結合特性は、固体状態支持体によって変動し得るが、当業者は、日常的な実験によって、それぞれの決定のための作動および至適アッセイ条件を決定することが可能であるべきである。
【0282】
結果的に、上記の態様の方法の実施形態では、b1)の定量可能な親和性リガンドは、定量可能な親和性リガンドを認識することが可能な2次親和性リガンドを使用して、検出することができる。それ故、a3)またはaII)の定量化は、定量可能な親和性リガンドに対して親和性を有する2次親和性リガンドによって、行うことができる。例として、2次親和性リガンドは、抗体またはそのフラグメントもしくは誘導体であり得る。
【0283】
例として、PODXLタンパク質の検出および/または定量化の1つの利用可能な方法は、後に酵素イムノアッセイ(例えば、EIAもしくはELISA)で検出および/または定量することができる酵素に親和性リガンドを連結させることによる。そのような技術は、良好に確立されており、そしてそれらは、当業者にとって過度の困難を伴わずに実現される。そのような方法では、生物学的サンプルは、固体材料、またはPODXLタンパク質に対する親和性リガンドにコンジュゲートされた固体材料と接触され、次いで、酵素標識された2次親和性リガンドで検出および/または定量される。この後、適切な基質を酵素標識を伴う適切な緩衝液と反応させて、例えば、分光光度計、蛍光光度計、発光測定装置を使用して、または目視手段によって、検出および/または定量される化学部分を生成させる。
【0284】
上記で述べたように、1次および2次親和性リガンドは、検出および/または定量化を可能にする放射性同位元素で標識することができる。本開示における適切な放射性標識の非制限的例には、3H、14C、32P、35Sまたは125Iがある。標識された親和性リガンドの比活性は、放射性標識の半減期、同位体の純度、および標識がどのようにして親和性リガンドに組み入れられたかに依存する。親和性リガンドは、好ましくは、周知の技術(Wensel TG and Meares CF (1983) in: Radioimmunoimaging and Radioimmunotherapy (Burchiel SW and Rhodes BA eds.) Elsevier, New York, pp 185−196)を使用して、標識される。そのような放射性標識された親和性リガンドを使用して、インビボまたはインビトロでの放射能の検出により、PODXLタンパク質を可視化することができる。例えば、γカメラ、磁気共鳴分光法または放射トモグラフィーによる放射性核種スキャニングは、インビボおよびインビトロでの検出に機能する一方、γ/βカウンター、シンチレーションカウンターおよびラジオグラフィーもまた、インビトロで使用される。
【0285】
本開示の方法を実施するため、キットが用いられ得る。従って本開示の第3の態様として、結腸直腸癌の予後を確定するためのキットが提供され、これは、
a)PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な定量可能な親和性リガンド;
b)a)の定量可能な親和性リガンドの量を定量するのに必要な試薬;
c)COX−2タンパク質との選択的相互作用が可能な定量可能な親和性リガンド;および
d)c)の定量可能な親和性リガンドの量を定量するのに必要な試薬、
を含み、ここでb)およびd)の試薬は同じであるか、または異なる。
【0286】
従って、抗PODXLタンパク質親和性リガンドおよび抗COX−2親和性リガンドの双方の定量に同じ試薬、例えば同じ2次抗体が用いられ得る。
【0287】
従って本キットは、COX−2のレベルが評価される方法に特に有用である。
【0288】
本開示の方法態様に関連して上述したとおり、第3の態様に従うキットの様々な構成要素が選択および指定され得る。
【0289】
従って、本開示に従うキットは、PODXLタンパク質およびCOX−2に対する親和性リガンド、ならびに特異的および/または選択的親和性リガンドを、それらがそれぞれの標的タンパク質に特異的および/または選択的に結合した後に定量するのに役立つ他の手段を含む。例えばキットは、標的タンパク質と親和性リガンドとによって形成された複合体を検出および/または定量するための2次親和性リガンドを含み得る。キットはまた、親和性リガンド以外の、キットの容易かつ効率的な使用を可能にする様々な補助物質も含み得る。補助物質の例として、キットの凍結乾燥タンパク質成分を溶解または再構成するための溶媒、洗浄緩衝液、標識として酵素が使用される場合に酵素活性を計測するための基質、パラフィンまたはホルマリン固定された組織サンプルを使用する場合に抗原に対する到達性を亢進させるための抗原賦活液(target retrieval solution)、および反応停止剤などの物質、例えば一般にイムノアッセイ試薬キットで用いられる、バックグラウンド染色を減少させる内因性酵素遮断溶液および/または染色の対比を増加させる対比染色溶液が挙げられる。
【0290】
キット態様の実施形態では、親和性リガンドは、方法態様に関連して上述したとおり選択することができる。
【0291】
従って、a)および/またはc)の親和性リガンドは、抗体、そのフラグメントおよびその誘導体からなる群から選択され得る。
【0292】
さらに、方法態様に関連して上述の内容によれば、検出可能な親和性リガンドは、キット態様の実施形態において、蛍光染料および金属、発色団染料、化学発光化合物および生物発光タンパク質、酵素、放射性同位元素、粒子および量子ドットからなる群から選択される標識を含み得る。あるいは、親和性リガンドの量を定量するのに必要な試薬は、定量可能な親和性リガンドを認識することが可能な1つ以上の2次親和性リガンドを含む。例として、1つ以上の定量可能な親和性リガンドを認識することが可能な1つ以上の2次親和性リガンドは、蛍光染料または金属、発色団染料、化学発光化合物および生物発光タンパク質、酵素、放射性同位元素、粒子および量子ドットからなる群から選択される標識を含む。
【0293】
キット態様に従うキットはまた、有利には、PODXLタンパク質および/またはCOX−2サンプル値との比較に用いられる1つ以上の基準値を提供し、またはもたらすための1つ以上の基準サンプルも含み得る。例えば、基準サンプルは所定量のPODXLタンパク質またはCOX−2を含み得る。そのような基準サンプルは、例えば、所定量のPODXLタンパク質またはCOX−2を含む組織サンプルまたは細胞系統サンプルによって構成され得る。次いで組織または細胞系統の基準サンプルは、当業者が、基準組織サンプルおよび対象のサンプルにおける発現レベルを手動、例えば肉眼で比較するか、または自動で比較することにより、被験サンプルにおけるタンパク質発現状態の決定に使用し得る。
【0294】
上述の細胞系統は、例えば癌細胞系統であってもよい。さらに、細胞系統は、所定量または制御された量のPODXLタンパク質を発現し得る。当業者は、かかる細胞系統をどのように提供すればよいかを、例えばRhodes et al.(2006) The biomedical scientist,p 515−520の開示を指針として理解する。例として、細胞系統はホルマリン固定されてもよい。また、そのようなホルマリン固定細胞系統はパラフィン包埋されてもよい。
【0295】
上述の組織基準サンプルは、肉眼での、または顕微鏡による評価に適合された組織サンプルであってもよい。例として、組織基準サンプルはパラフィンもしくは緩衝ホルマリンに固定化され、および/または組織学的に処理されることで、顕微鏡ガラススライドにマウントされる切片(例えば、μmの薄切片)にされる。組織基準サンプルは、抗体などの親和性リガンドによる染色にさらに適合され得る。
【0296】
従って、キット態様の実施形態において、基準サンプルは、任意の関連する基準値、例えば上記で考察した基準値の任意の一つを直接的に、または間接的に、提供するように適合され得る。
【0297】
語句「基準値を提供するための基準サンプル」は、本開示との関連においては広義に解釈されるべきである。基準サンプルは、実際に基準値に対応するPODXLタンパク質またはCOX−2の量を含んでもよいが、基準値より高い値に対応するPODXLタンパク質またはCOX−2の量を含んでもまたよい。後者の場合、「高い」値は、「高い」値より低い基準値、例えばその外観の評価用の上位基準(陽性基準)として、方法の実施者により用いられ得る。免疫組織化学分野の当業者は、そのような評価をどのように行えばよいか理解している。さらに、代替例または補足例として、当業者は、低量のPODXLタンパク質またはCOX−2を含む別の基準サンプルを使用して、そのような評価において「低い」値を、例えば陰性基準として提供してもよい。これについては、上記で方法態様に関連してさらに考察している。
【0298】
従って、キット態様の実施形態において、基準サンプルは、基準値に対応するPODXLタンパク質の量を含み得る。そのような基準値の例は、方法態様に関連して上記で考察している。
【0299】
さらに、キット態様の実施形態において、基準サンプルは、基準値に対応するCOX−2の量を含み得る。そのような基準値の例もまた、方法態様に関連して上記に考察される。
【0300】
さらに、キット態様の代替的または補足的な実施形態において、キットは、基準値より高い値に対応するPODXLタンパク質またはCOX−2の量を含む基準サンプルを含み得る。そのような基準サンプルは、例えば、75%以上の細胞質画分および/または強い細胞質強度に対応するPODXLタンパク質またはCOX−2の量を含み得る。
【0301】
さらにまた、キット態様の代替的または補足的な実施形態において、キットは、基準値以下の値、例えば、細胞質強度不在および/または<2%、例えば0%の細胞質画分に対応するPODXLタンパク質またはCOX−2の量を含む基準サンプルを含み得る。
【0302】
従って、キット態様の実施形態において、基準サンプルは、任意の関連する基準値、例えば上記で考察した基準値の任意の一つを直接的に、または間接的に、提供するように適合され得る。
【0303】
上記に提示した知見を受けて、本発明者らは、PODXLタンパク質またはそのフラグメントについてのいくつかの使用を見出した。
【0304】
従って、本開示の第4の態様として、結腸直腸癌の予後マーカーとしてのPODXLタンパク質の使用が提供される。この使用はインビトロであってもよい。
【0305】
同様に、結腸直腸癌を有する哺乳動物対象についての比較的不良な予後のマーカーとしてのPODXLタンパク質の使用が提供される。
【0306】
第4の態様の構成として、結腸直腸癌を有する対象についての漿膜浸潤または転移癌のマーカーとしてのPODXLタンパク質の使用が提供される。この構成については上記でさらに考察している。
【0307】
本開示に関連して、「予後マーカー」は、その存在が予後を示す何らかの材料を指す。従ってマーカーはバイオマーカー、例えばヒトタンパク質であってもよい。
【0308】
第4の態様の実施形態において、PODXLタンパク質は、結腸直腸腫瘍組織サンプルなどの、結腸直腸癌を有する対象からの生体試料中に提供され得る。さらに、上記で考察した理由から、結腸直腸腫瘍組織サンプルは結腸腫瘍組織サンプルであり得る。結腸腫瘍組織サンプルは、例えばS状結腸に由来してもよい。
【0309】
本開示の第5の態様として、結腸直腸癌を有する哺乳動物対象についての予後の確定用予後診断剤を産生、選択または精製するためのPODXLタンパク質、またはその抗原活性フラグメントの使用が提供される。この使用はインビトロであってもよい。
【0310】
本開示に関連して、「予後診断剤」は、予後、例えば結腸直腸癌を有する哺乳動物対象の予後の確定において有益な少なくとも1つの特性を有する薬剤を指す。例えば、予後診断剤は、予後マーカーとの選択的相互作用が可能であり得る。
【0311】
従って予後診断剤は、PODXLタンパク質またはその抗原活性フラグメントとの選択的相互作用が可能な親和性リガンドであってもよい。そのような親和性リガンドの例については、方法態様に関連して上記で考察している。
【0312】
本開示の教示を指針として、当業者は、予後診断剤の産生、選択または精製においてPODXLタンパク質またはフラグメントをどのように使用すればよいか理解する。例えば、この使用は、PODXLタンパク質が固定化されている固相支持体上でのアフィニティー精製を含み得る。固相支持体は、例えばカラムに配置されてもよい。さらにこの使用は、ポリペプチドが固定化されている固相支持体を使用した、PODXLタンパク質に対して特異性を有する親和性リガンドの選択を含み得る。そのような固相支持体は、ウェルプレート(96ウェルプレートなど)、磁気ビーズ、アガロースビーズまたはセファロースビーズであってもよい。さらにこの使用は、例えばデキストランマトリックスを使用した、可溶性マトリックス上の親和性リガンドの分析、またはBiacore(商標)装置などの表面プラズモン共鳴装置における使用を含んでもよく、ここで分析は、例えば、固定化されたPODXLタンパク質に対する多数の候補親和性リガンドの親和性をモニタすることを含み得る。
【0313】
また、予後診断剤を産生するため、動物の免疫化においてPODXLタンパク質またはその抗原活性フラグメントを使用することもできる。
【0314】
そのような使用は、
i)PODXLタンパク質またはその抗原活性フラグメントを抗原として使用して動物を免疫化する工程;
ii)免疫化した動物から予後診断剤を含む血清を得る工程;および場合により、
iii)血清から予後診断剤を単離する工程
を含む方法に関わり得る。
【0315】
あるいは、第1の工程に続く工程は、
ii’)免疫化した動物から細胞を得る工程であって、細胞が予後診断剤をコードするDNAを含む工程、
iii’)細胞を骨髄腫細胞と融合して少なくとも1つのクローンを得る工程、および
iv’)クローンによって発現された予後診断剤を得る工程
であってもよい。
【0316】
第4または第5の態様の実施形態において、PODXLタンパク質(またはそのフラグメント)のアミノ酸配列は、
i)配列番号1;および
ii)配列番号1と少なくとも85%同一である配列
から選択される配列を含んでもよく、またはそれからなってもよい。
【0317】
いくつかの実施形態において、配列ii)は、配列番号1と少なくとも90%同一、少なくとも91%同一、少なくとも92%同一、少なくとも93%同一、少なくとも94%同一、少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一または少なくとも99%同一である。
【0318】
さらに、第4の態様の実施形態において、PODXLタンパク質のアミノ酸配列は、
i)配列番号2または3;および
ii)配列番号2または3と少なくとも85%同一である配列
から選択される配列を含んでもよく、またはそれからなってもよい。
【0319】
いくつかの実施形態において、配列ii)は、配列番号2または3と少なくとも90%同一、少なくとも91%同一、少なくとも92%同一、少なくとも93%同一、少なくとも94%同一、少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一または少なくとも99%同一である。
【0320】
以下の実施例において実証するとおり、配列番号1のいくつかの抗原性小領域を同定した。従って、本開示の実施形態において、「抗原活性フラグメント」は25アミノ酸以下からなり、かつ配列番号10〜18から選択されるアミノ酸配列を含み得る。ここで、配列番号10〜15が好ましいとみなされ得る。さらなる実施形態では、「抗原活性フラグメント」は20アミノ酸以下、例えば15アミノ酸以下からなり得る。
【0321】
本開示の第6の態様として、PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドが提供される。
【0322】
そのような親和性リガンドの種々の実施形態については、上記で方法態様に関連して考察している。
【0323】
本開示の第7の態様として、結腸直腸癌の予後診断剤としての第6の態様に従う親和性リガンドの使用が提供される。従って親和性リガンドは、結腸直腸癌対象についての予後を確定するために使用され得る。そのような使用は、例えばインビトロで実施されてもよく、例えば、対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部におけるPODXLの量を決定することを含み得る。
【0324】
PODXLタンパク質は結腸直腸腫瘍細胞の表面で発現する。さらに本明細書では、腫瘍におけるPODXLタンパク質の発現レベルが上昇するほど、結腸直腸癌を有する対象の生存率についての予後が低下することが示される。従って本発明者らは、PODXLが結腸直腸癌における治療標的であり、PODXLタンパク質との結合能を有する抗体などの親和性リガンドが治療剤として用いられ得ると結論付ける。
【0325】
PODXLタンパク質は、細胞間接着に関与することが報告されている。いかなる特定の科学理論にも限定するものではないが、結腸直腸腫瘍細胞のPODXLタンパク質を標的化すると、細胞間相互作用が妨げられ、そのため腫瘍成長および/または増殖に影響が及び得る。さらに、プロテオグリカン(PODXLはプロテオグリカンである)は、成長因子に対する応答に関与することが示唆されている。従って、PODXLタンパク質を標的化すると、腫瘍成長に重要な成長因子シグナル伝達にも影響が及び得る。
【0326】
従って、本開示の第8の態様として、医薬品として使用するための、PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドが提供される。特に、この親和性リガンドは、結腸直腸癌を有する対象の治療に使用するためのものであり得る。
【0327】
一実施形態によれば、対象の結腸直腸腫瘍の一部はPODXLタンパク質を、例えば結腸直腸癌を有する対象の関連する基準集団の平均PODXLタンパク質発現レベルより高いレベルで発現することが分かっている。あるいは、結腸直腸腫瘍の一部は、PODXLタンパク質を、上記で考察される基準値のいずれよりも高いサンプル値に対応するレベルで発現することが分かっていてもよい。従って親和性リガンドは、一実施形態によれば、PODXLタンパク質を発現することが分かっている腫瘍を有する対象の治療においてのみ使用するためのものであり得る。対象となる腫瘍は、例えばPODXL発現状態の確定前に外科的に摘出されたものであってもよい。
【0328】
また、一実施形態によれば、第8の態様の結腸直腸癌は、上記の定義のいずれか一つによるCOX−2陽性である。
【0329】
治療所見はいかなる特定の型の結腸直腸癌にも限定されないにしろ、予後不良とPODXL発現との間に関係があることは、特に結腸癌対象(図7)およびS状結腸癌対象(図1〜図5)において示されている。従って第8の態様の結腸直腸癌は、結腸癌であってもよい。さらに結腸癌は、例えばS状結腸癌であってもよい。
【0330】
第8の態様の親和性リガンドは、PODXLタンパク質との選択的相互作用がなお可能である限り、上記で方法態様に関連して考察される親和性リガンドのいずれであってもよい。
【0331】
第8の態様の実施形態によれば、従って親和性リガンドは、PODXLタンパク質の細胞外領域(配列番号6または7)との選択的相互作用が可能であり得る。上記でさらに考察している配列番号1は、双方のスプライス変異体PODXLタンパク質の細胞外領域(配列番号6および7)の小領域である。従って、第8の態様の実施形態によれば、親和性リガンドは、アミノ酸配列の配列番号1からなるペプチドとの選択的相互作用が可能であり得る。
【0332】
配列番号1内の特異的エピトープなどの、配列番号1との選択的相互作用が可能なモノクローナル抗体は、例えば、Kohler and Milstein(Kohler,G and Milstein,C,1973,Nature 256,495−497)により開発されたハイブリドーマ技法に基づき作製され得る。配列番号1は抗原として使用されてもよく、その産生は実施例、セクション1に説明する。代替的な手法は、配列番号1内のアミノ酸配列からなるペプチドを合成し、このペプチドを抗原として使用することである。抗原はBALB/cマウス(4〜6週齢、雌性)に3週間隔で皮下注射する。免疫化前に抗原は、初回注射については完全フロイントアジュバントと、およびそれ以降の注射については不完全フロイントアジュバントと混合する。融合の3日前、マウスを静脈注射によって抗原で誘発する。免疫化したマウス由来の脾細胞をSp2/0骨髄腫細胞系統と融合させることによりハイブリドーマを生成する。次に、ELISAを用いていくつかのハイブリドーマ細胞系統をスクリーニングし、配列番号1内のアミノ酸配列からなる1つ以上のフラグメントに特異的な抗体を分泌する細胞系統を、さらなる特性決定のため同定および選択する。
【0333】
さらなる特性決定はエピトープマッピングを含んでもよく、これは、細菌ディスプレイに基づく以下のプロトコルに従い実施することができる:ベクターpAff8cをテンプレートとして使用するPCRにより、配列番号1に対応するDNAを増幅する。増幅したDNAを音波処理によって様々な長さ(約50〜150bp)に断片化し、続いてブドウ球菌ディスプレイベクター(pSCEM2)にライゲートしてS.カルノサス(S.carnosus)に形質転換する。インフレームDNAフラグメントをペプチドとしてブドウ球菌表面に提示する。抗体(配列番号1に対して選択的、上記のとおり得られる)および蛍光標識2次試薬と共にインキュベートした後、エピトープを呈する細胞およびエピトープを呈しない細胞を単離するため、フローサイトメトリーを使用して陽性細胞および陰性細胞を別々に分取する(Rockberg J et al(2008) Nature Methods vol 5.no 12:1039−45)。単離した細胞をパイロシーケンシングにより配列決定し、最後にエピトープを同定するため配列をPODXL抗原とアラインメントする。表面発現レベルのリアルタイム追跡を伴う二重標識法を用いることができる(Loefblom,J et al(2005) FEMS Microbiol Lett 248:189−198)。これにより、細胞間変動が小さいならば結合シグナルを発現レベルに関して正規化することが可能となり、異なるエピトープ集団を識別することができる。さらに、これによりまた、表面に提示された未結合ペプチドを決定するアッセイを並行して行うことも可能となる。代替的なエピトープマッピング手法は、以下のプロトコルに従うペプチドスクリーンを実施することであってもよい:次に、PODXL上の配列番号1に対応するビオチン化ペプチドからなるPEPscreenライブラリ(Sigma)を合成し得る。ペプチドは10アミノ酸の重複を有する15アミノ酸長であって、合わせてPrEST配列全体を網羅するものであってよい。次にNeutravidin(Pierce,Rockford,IL)を、製造者のプロトコルに従いカルボキシル化ビーズ(COOH Microspheres,Luminex−Corp.,Austin,TX)に固定化する。次に、Larssonら(Larsson et al(2009) J Immunol Methods 15;34(1−2):20−32,Schwenk et al(2007) Mol Cell Proteomics 6(1)125:32)により記載されるとおり、フィルター膜底を有するマイクロタイタープレート(MultiScreen−HTS、Millipore、Billerica、MA)を使用してビーズのカップリングを実施する。1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドおよびN−ヒドロキシスクシンイミドを使用して、異なるカラーコードIDを有する個別のビーズ群を活性化する。次にNeutravidin(MES中100μg/ml)をビーズに添加し、振盪器で120分間インキュベートする。次にビーズを洗浄し、再懸濁し、微量遠心管に移して、NaN3を補充したタンパク質含有緩衝液(BRE、ELISA用ブロッキング試薬、Roche,Basel,Switzerland)中に4℃で貯蔵する。カップリングしたすべてのビーズ集団を超音波洗浄器(Branson Ultrasonic Corporation,Danbury,CT)において5分間音波処理する。ビオチン化ペプチドをBRE中に20μMの濃度まで希釈して、カップリング反応に100μlの各ペプチドを使用し、カップリング反応は室温で振盪しながら60分間実行する。最後に、ビーズを3×100μlのBRE緩衝液で洗浄し、以降の使用時まで4℃で貯蔵する。PODXLタンパク質(の細胞外領域)との選択的相互作用が可能な、そのようなモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体の治療特性は、以下のプロトコルを用いて評価することができる:PODXLタンパク質を発現する細胞を5×104細胞/ウェルで24ウェル皿に播種する。24時間後、細胞を、1ng/ml〜1000ng/mlの範囲の濃度の抗体(配列番号1に対して選択的、上記のとおり得られる)の希釈物で3組処理する。PBS pH7.2で処理した細胞を対照として使用する。5日後、細胞をトリプシン処理し、各々3回計数する。未処理の培養物と比較した細胞の割合として成長阻害を計算する。次に最も高い成長阻害を示す抗体を治療抗体として選択することができる。従って当業者は、その一般的知識および本開示の教示を用いて、過度の負担を伴うことなく第8の態様の親和性リガンドを提供することができる。
【0334】
一実施形態によれば、親和性リガンドは、国際公開第2009/108932号パンフレットに従う標的組成物の一部ではない。従って、一実施形態によれば、親和性リガンドは、癌胎児性抗原(CEA)またはCD44vに対する2次抗体をさらに含む組成物の一部ではない。代替的または補足的な実施形態によれば、親和性リガンドは固相基質には結合しない。別の代替的または補足的な実施形態によれば、親和性リガンドは、基質または親和性リガンドに結合する治療剤または造影剤をさらに含む組成物の一部ではない。ここで「治療剤」は、本態様の治療用親和性リガンドとは異なる薬剤を指す。そのような治療剤の例は、国際公開第2009/108932号パンフレットの請求項28に列挙される化学療法剤である。本明細書で第8の態様に関連して記載される国際公開第2009/108932号パンフレットの開示に基づく実施形態は、第6および第7の態様に準用される。さらに、国際公開第2009/108932号パンフレットの開示は、本開示が基礎とする概念と異なる概念に基づくことが提供される。例えば、本開示の親和性リガンドは生体内イメージングを意図したものではない。また、本態様の治療効果は、別の治療剤(例えば、それ自体はPODXLタンパク質との選択的相互作用が可能でない公知の化学療法剤)の作用に頼るものではない。
【0335】
本開示の第9の態様として、結腸直腸癌を有する対象の治療方法が提供され、この方法は、PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドの有効量を投与する工程を含む。第8の態様の実施形態が第9の態様に準用される。
【0336】
従って上記から、PODXLタンパク質のレベルを検出することにより、抗PODXLタンパク質親和性リガンドに基づく免疫療法が結腸直腸癌患者に有益かどうかが判断され得ることになる。しかしながら、本開示の第8および第9の態様は、(高レベルの)PODXL発現を示す対象に限定されるものではないことに留意すべきである。
【0337】
本開示の第10の態様として、PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドによる治療が、結腸直腸癌を有する哺乳動物対象に有益となる可能性があるかどうかを判断する方法が提供され、この方法は、
a)対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部におけるPODXLタンパク質の量を評価し、評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)からの前記サンプル値を所定の基準値と比較する工程;および
前記サンプル値が前記基準値より高い場合、
c)その治療が対象に有益である可能性があると結論付ける工程。
を含む。
【0338】
治療が有益となる可能性があるとは、治療を受けた場合に、治療を受けない場合と比べて生存または回復する確率がより高いことを指す。これに関連して「回復」は、結腸直腸癌状態から結腸直腸癌がない状態に戻ることを指す。「生存」は、全生存または無病生存であり得る。さらに「回復」は、無再発の回復であり得る。また、「より高い確率」は、5年目、10年目または15年目における確率上の利益が少なくとも5%、例えば少なくとも10%となることであり得る。
【0339】
第8の態様の実施形態が本態様に準用される。さらに、上記の方法態様の実施形態が本態様に準用される。
【0340】
また、本開示の第11の態様として、第8の態様に従う治療用親和性リガンドを産生するための免疫化における抗原としての、PODXLタンパク質、またはその抗原活性フラグメントの使用が提供される。PODXLタンパク質は、例えば細胞外領域(配列番号6または7)またはその部分配列からなり得る。そのような部分配列は、PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドを生成するのに十分なサイズであることが理解されるべきである。PODXLの細胞外領域の部分配列であるPODXLタンパク質の例は、以下の実施例、セクション1で生成され、かつ以下の実施例、セクション2で抗原として使用される配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドである。
【実施例】
【0341】
PODXLタンパク質に対する単一特異性抗体の作製およびそれを使用した結腸直腸癌サンプル中のPODXLタンパク質の検出
1.抗原の作製
a)材料および方法
ヒトゲノム配列をテンプレートとするバイオインフォマティクスツールを使用して、EnsEMBL Gene ID ENSG00000128567によってコードされる標的タンパク質の好適なフラグメントを選択した(Lindskog M et al(2005) Biotechniques 38:723−727,EnsEMBL,www.ensembl.org)。このフラグメントを、PODXLタンパク質ENSP00000319782(配列番号2)のアミノ酸278〜417か、あるいはスプライス変異体ENSP00000367817(配列番号3)のアミノ酸310〜447に対応する138アミノ酸長のフラグメント(配列番号1)を作製するためのテンプレートとして使用した。
【0342】
EnsEMBL登録番号ENST00000322985(配列番号4)のヌクレオチド832〜1245、あるいはスプライス変異体ENST00000378555(配列番号5)のヌクレオチド928〜1341を含むPODXL遺伝子転写産物のフラグメントを、Platinum(登録商標)Taq(Invitrogen)を有するSuperscript(商標)One−Step RT−PCR増幅キットおよびテンプレートとしてのヒト全RNAプールパネル(Human Total RNA、BD Biosciences Clontech)によって単離した。PCR増幅プライマーを介してフラグメントにフランキング制限部位NotIおよびAscIを導入し、発現ベクターへのインフレームクローニングを可能にした(順方向プライマー:CTGCCAGAGACCATGAGC(配列番号8)、逆方向プライマー:GTCCCCTAGCTTCATGTCAC(配列番号9))。次いで、下流プライマーをビオチン化して、先述のとおりの固相クローニングを可能にし、得られたビオチン化PCR産物を、Dynabeads M280 Streptavidin(Dynal Biotech)に固定化した(Larsson M et al(2000) J.Biotechnol.80:143−157)。このフラグメントを、NotI−AscI消化(New England Biolabs)により固相支持体から遊離させ、固定化金属イオンクロマトグラフィー(IMAC)精製用のヘキサヒスチジルタグおよび連鎖球菌プロテインGからの免疫増強アルブミン結合タンパク質(ABP)からなる二重親和性タグ(Sjoelander A et al(1997) J.Immunol.Methods 201:115−123;Stahl S et al(1999) Encyclopedia of Bioprocess Technology:Fermentation,Biocatalysis and Bioseparation(Fleckinger MC and Drew SW,eds) John Wiley and Sons Inc.,New York,pp 49−63)とインフレームでpAff8cベクター(Larsson M et al、上掲)にライゲートし、および大腸菌(E.coli)BL21(DE3)細胞(Novagen)に形質転換した。クローンの配列を、製造者の推奨に従いTempliPhi DNA配列決定増幅キット(GE Healthcare,Uppsala,Sweden)を使用して増幅したプラスミドDNAのダイターミネーターサイクルシーケンスにより確認した。
【0343】
発現ベクターを所有するBL21(DE3)細胞を、同じ培養培地の1mlの1晩培養物の添加によって5g/l酵母抽出物(Merck KGaA)および50mg/lカナマイシン(Sigma−Aldrich)を補充した、100mlの30g/lトリプティックソイブロス(Merck KGaA)に播種した。細胞培養物を、1リットル振盪フラスコ中37℃および150rpmで、600nmでの光学密度が0.5〜1.5に到達するまで、インキュベートした。次いで、1mMの最終濃度へのイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(Apollo Scientific)の添加によって、タンパク質発現を誘導し、そしてインキュベーションを、1晩、25℃および150rpmで継続した。2400gでの遠心分離によって、細胞を回収し、そしてペレットを、5ml溶解緩衝液(7M塩酸グアニジン、47mMのNa2HPO4、2.65mMのNaH2PO4、10mMのTris−HCl、100mMのNaCl、20mMのβ−メルカプトエタノール;pH=8.0)に再懸濁し、そして2時間、37℃および150rpmでインキュベートした。35300gでの遠心分離後、変性および可溶化したタンパク質を含有する上清を回収した。
【0344】
His6−タグ化融合タンパク質を、ASPEC XL4(商標)(Gilson)上の自動化タンパク質精製手順(Steen J et al. (2006) Protein Expr. Purif. 46:173−178)を使用する1mlのTalon(登録商標)金属(Co2+)アフィニティー樹脂(BD Biosciences Clontech)を伴うカラム上での固定化金属イオン親和性クロマトグラフィー(IMAC)によって、精製した。樹脂を、20mlの変性洗浄緩衝液(6M塩酸グアニジン、46.6mMのNa2HPO4、3.4mMのNaH2PO4、300mMのNaCl、pH8.0〜8.2)で平衡化した。次いで、澄明にした細胞溶解物を、カラムに添加した。その後、2.5ml溶出緩衝液(6M尿素、50mMのNaH2PO4、100mMのNaCl、30mM酢酸、70mM酢酸ナトリウム、pH5.0)への溶出前に、樹脂を、最低でも31.5mlの洗浄緩衝液で洗浄した。溶出した材料を、3つのプール500、700および1300μlに分画した。抗原を含有する700μl画分、ならびにプールした500および1300μl画分を、さらなる使用のために貯蔵した。
【0345】
抗原画分を、リン酸緩衝食塩水(PBS;1.9mMのNaH2PO4、8.1mMのNa2HPO4、154mMのNaCl)で1M尿素の最終濃度に希釈し、続いて、7500Daでの分子量カットオフを伴うVivapore10/20ml濃縮装置(Vivascience AG)を使用して、タンパク質濃度を増加するための濃縮工程を行った。製造者の推奨に従って、ウシ血清アルブミン標準を伴うビシンコニン酸(BCA)マイクロアッセイプロトコル(Pierce)を使用して、タンパク質濃度を決定した。タンパク質の品質を、Protein 50もしくは200アッセイ(Agilent Technologies)を使用するBioanalyzer装置上で分析した。
【0346】
b)結果
PODXLの完全長転写産物のヌクレオチド832〜1245または928〜1341(配列番号4または5)に対応する遺伝子フラグメントを、RT−PCRにより特異的プライマーを使用してヒトRNAプールから首尾よく単離した。このフラグメントは、標的タンパク質PODXLの2つのスプライス変異体(配列番号2および3)のそれぞれアミノ酸278〜415および310〜447をコードする。標的タンパク質(配列番号2または3)の138アミノ酸フラグメント(配列番号1)は、大腸菌(E.coli)での効率的な発現を確実にするため膜貫通領域を含まないように、かつ成熟タンパク質で切り離されるため、いかなるシグナルペプチドも含まないように設計した。加えてこのタンパク質フラグメントは、作製されるアフィニティー試薬の交差反応性を最小限に抑えるため、かつコンフォメーショナルエピトープの形成を可能にしながらもなお、細菌系における効率的なクローニングおよび発現を可能にする好適なサイズとするため、他のヒトタンパク質との相同性が低いユニーク配列からなるように設計した。
【0347】
正確なアミノ酸配列をコードするクローンを同定し、そして大腸菌(E.coli)での発現時、正確なサイズの単一のタンパク質を産生させ、続いて、固定化金属イオンクロマトグラフィーを使用して、精製した。溶出したサンプルを1M尿素の最終濃度に希釈し、そしてサンプルを1mlに濃縮した後、タンパク質フラグメントの濃度を、4.0mg/mlに決定し、そして純度分析に従って、98.2%純度を得た。
【0348】
2.抗体の作製
a)材料および方法
上記で得られた精製したPODXLフラグメントを抗原として使用して、国のガイドライン(スウェーデン許可番号A84−02)に従って、ウサギを免疫した。ウサギの筋肉内に、1次免疫化としてフロイント完全アジュバント中200μgの抗原を免疫し、そして4週間間隔で、フロイント不完全アジュバント中100μg抗原で3回ブーストした。
【0349】
免疫動物由来の抗血清を、3工程の免疫アフィニティーに基づくプロトコル(Agaton C et al. (2004) J. Chromatogr. A 1043:33−40;Nilsson P et al. (2005) Proteomics 5:4327−4337)によって精製した。第1の工程では、7mlの全抗血清を、10×PBSで緩衝化して、1×PBS(1.9mMのNaH2PO4、8.1mMのNa2HPO4、154mMのNaCl)の最終濃度とし、0.45μmポアサイズフィルター(Acrodisc(登録商標)、Life Science)を使用してろ過し、そしてpAff8cベクターから発現され、そして抗原タンパク質フラグメントについて上記と同じ方法で精製した二重親和性タグタンパク質His6−ABP(ヘキサヒスチジルタグおよびアルブミン結合タンパク質タグ)に結合させた5mlのN−ヒドロキシスクシンイミド−活性化Sepharose(商標)4 Fast Flow(GE Healthcare)を含有するアフィニティーカラムに適用した。第2の工程では、二重親和性タグHis6−ABPに対する抗体を枯渇させたフロースルーを、免疫化のために抗原として使用したPODXLタンパク質フラグメント(配列番号1)に結合させた1mlのHi−Trap NHS−活性化HPカラム(GE Healthcare)上、0.5ml/分の流速で充填させた。His6−ABPタンパク質およびタンパク質フラグメント抗原を、製造者によって推奨されるように、NHS活性化マトリックスに結合させた。非結合材料を、1×PBST(1×PBS、0.1%Tween20、pH7.25)で洗浄除去し、そして捕捉された抗体を、低pHグリシン緩衝液(0.2Mグリシン、1mMのEGTA、pH2.5)を使用して、溶出させた。溶出した抗体画分を自動的に回収し、そして第3の工程における効率的な緩衝液交換のために直列に接続した2つの5mlのHiTrap(商標)脱塩カラム(GE Healthcare)上に充填した。第2および第3の精製工程を、AEKTAxpress(商標)プラットホーム(GE Healthcare)上で稼動させた。抗原選択的(単一特異的)抗体(msAb)を、−20℃での長期間貯蔵のために、それぞれ、40%および0.02%の最終濃度でグリセロールおよびNaN3を補充したPBS緩衝液で溶出させた(Nilsson P et al. (2005) Proteomics 5:4327−4337)。
【0350】
アフィニティー精製した抗体画分の特異性および選択性を、抗原自体および他のタンパク質アレイ設定(Nilsson P et al. (2005) Proteomics 5:4327−4337)における他の94のヒトタンパク質フラグメントに対する結合分析によって、分析した。タンパク質フラグメントを、0.1M尿素および1×PBS(pH7.4)中40μg/mlに希釈し、そしてそれぞれの50μlを、96ウェルスポッティングプレートのウェルに移した。ピン・アンド・リング(pin−and−ring)のアレイヤー(Affymetrix 427)を使用して、タンパク質フラグメントを2回測定でスポットし、そしてエポキシスライド(SuperEpoxy,TeleChem)上に固定化した。スライドを1×PBSで洗浄(5分間)し、次いで、表面を30分間ブロックした(SuperBlock(登録商標)、Pierce)。接着性の16ウェルシリコーンマスク(Schleicher&Schuell)を、単一特異的抗体を添加する(1×PBST中で1:2000に希釈して約50ng/mlにした)前にガラス適用し、そして振盪器上で60分間インキュベートした。各スポットのタンパク質の量を定量するため、親和性タグ特異的IgY抗体を単一特異的抗体と共にインキュベートした。スライドを1×PBSTおよび1×PBSでそれぞれ2回、10分間、洗浄した。2次抗体(Alexa 647とコンジュゲートされたヤギ抗ウサギ抗体およびAlexa 555とコンジュゲートされたヤギ抗ニワトリ抗体、Molecular Probes)を1×PBST中で1:60000に希釈して30ng/mlとし、そして60分間インキュベートした。第1のインキュベーションについて行ったのと同じ洗浄手順を行った後、スライドをスピンして乾燥し、そして走査した(G2565BAアレイスキャナー、Agilent)。その後、画像を、画像分析ソフトウェア(GenePix5.1、Axon Instruments)を使用して、定量した。
【0351】
b)結果
ポリクローナル抗体製剤の品質は、抗体精製におけるストリンジェンシーの程度に依存することが証明され、そして標的タンパク質に由来するものではないエピトープに対する抗体の枯渇が、他のタンパク質との交差反応性およびバックグランド結合を回避するのに必要であることがすでに証明されている(Agaton C et al. (2004) J. Chromatogr. A 1043:33−40)。それ故、タンパク質マイクロアレイ分析を実施して、特異性が高い単一特異的ポリクローナル抗体が、His6−タグに対する抗体ならびにABP−タグに対する抗体の枯渇によって作製されたことを確実にした。
【0352】
タンパク質アレイの各スポットにおけるタンパク質の量を定量するため、1次抗体と2次抗体との組み合わせで、2色の染料標識システムを使用した。ニワトリにおいて作製したタグ特異的IgY抗体を、Alexa 555蛍光染料で標識した2次ヤギ抗ニワトリ抗体で検出した。ウサギmsAbとアレイ上のその抗原との特異的結合を、Alexa 647標識ヤギ抗ウサギ抗体で蛍光的に検出した。各タンパク質フラグメントを2組スポットした。タンパク質アレイ分析は、PODXLに対するアフィニティー精製単一特異性抗体が、正しいタンパク質フラグメントに対して高度に選択的であり、かつアレイ上で分析した他のすべてのタンパク質フラグメントに対するバックグラウンドが極めて低いことを示している。
【0353】
3)S状結腸癌TMA
a)材料および方法
Department of Pathology,Malmoe University Hospital,Swedenから、1993年〜2003年にS状結腸癌の根治的切除を経験した患者(女性148人および男性157人)を含む予測データベースから遡及的に同定された305症例からなる患者コホートからのアーカイブホルマリン固定パラフィン包埋組織を収集した。患者の年齢中央値は74歳(39〜97歳)であった。47個の腫瘍はデュークス期Aで、129個はデュークス期Bで、84個はデュークス期Cで、および45個はデュークス期Dであった。デュークス期CまたはDの腫瘍を有する癌と診断された患者の一部はアジュバント治療(5−FU)を受け、またはある場合には対症療法を受けた。死亡日に関する情報は、すべての患者について地域の死因台帳管理機関から入手した。倫理的許可は地方倫理委員会(Local Ethics Committee)から得た。
【0354】
全305症例を、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色したスライド上で組織病理学的に再評価した。次いで、S状結腸癌腫の代表的領域から1症例あたり2×1.0mmのコアを採取することによってTMAを構築した。自動化された免疫組織化学を、既に記載のとおりに実施した(Kampf C et al(2004) Clin. Proteomics 1:285−300)。簡単に述べると、ガラススライドを60℃で45分間インキュベートし、キシレン中で脱パラフィン処理し(2×15分間)、段階的アルコールで水和した。抗原賦活化のため、スライドをTRS(Target Retrieval Solution、pH6.0、Dako,Copenhagen,Denmark)に浸漬し、Decloakingチャンバ(登録商標)(Biocare Medical)において125℃で4分間沸騰させた。スライドをAutostainer(登録商標)(Dako)内に置き、内因性ペルオキシダーゼを最初にH2O2(Dako)でブロックした。スライドを、実施例、セクション2で得た1次PODXL抗体と共に、または抗COX−2抗体と共に、室温で30分間インキュベーションした。COX−2 IHCについては、1:200希釈したモノクローナル抗体(Zymed、クローン18〜7379)を使用した。それに続き、ヤギ抗ウサギペルオキシダーゼコンジュゲートEnvision(登録商標)と共に室温で30分間インキュベートした。すべての工程と工程の間で、スライドを洗浄緩衝液(Dako)中で濯いだ。最後に、ジアミノベンジジン(Dako)を色素原として使用し、Harrisヘマトキシリン(Sigma−Aldrich)を対比染色に使用した。スライドをPertex(登録商標)(Histolab)を用いてマウントした。
【0355】
免疫組織化学的に染色した組織のすべてのサンプルを、顕微鏡下で手動で評価し、認定された病理専門医がアノテートした。各サンプルのアノテーションは、IHC結果を分類するための簡素化されたスキームを用いて実施した。各組織サンプルの代表性および免疫活性を調べた。
【0356】
基本的なアノテーションパラメータとしては、細胞内局在化(核発現および/または細胞膜/細胞質発現)、染色強度および染色細胞の画分の評価が含まれた。染色強度は、臨床組織病理学的診断で用いられる基準に従い主観的に評価し、結果を以下のように分類した:不在=免疫活性なし、弱い=微弱な免疫活性、中等度=中等度の免疫活性、または強い=明瞭かつ強い免疫活性。また、染色細胞の画分も、臨床組織病理学的診断で用いられる基準に従い主観的に評価し、結果を関連する細胞集団の免疫反応性細胞割合に従い分類した。当業者は、このアノテーション手順がAllredスコアの計算と同様であることを認識するであろう。例えばAllredら(1998) Mod Pathol 11(2)、155を参照のこと。
【0357】
統計分析のため、上記内容に沿って細胞質強度(CI)および細胞質画分(CF)のレベルを評価した。(上記に説明したとおり、CIおよびCFは細胞膜/細胞質発現に基づく)。簡単に説明すると、対象をPODXLタンパク質発現に基づき4グループに分け、ここで:
「0」は、細胞質強度(CI)不在かつ<1%の細胞質画分(CF)を表し;
「1」は、弱いCIかつ>1%のCFを表し;
「2」は、中等度のまたは強いCIかつ1〜50%のCFを表し;および
「3」は、中等度のまたは強いCIかつ>50%のCFを表す。
【0358】
個々の層についての生存率の傾向に基づき、さらなる統計分析のための二分類の変数を構築した。抗PODXLタンパク質抗体を使用する分析には、PODXLタンパク質「高」および「低」の2つの定義を用いた。第1の定義では、「PODXLタンパク質高」は上記による「2」または「3」を表し、一方「PODXLタンパク質低」は上記による「0」または「1」を表した。第2の定義では、「PODXLタンパク質高」は上記による「1」、「2」または「3」を表し、一方「PODXLタンパク質低」は上記による「0」を表した。従って、2つの異なるカットオフを用いたとともに、後者を使用したときは、PODXLタンパク質発現を示す実質的にすべての対象が「高」カテゴリーとなった。
【0359】
さらに、対象をCOX−2発現に基づき2グループ(高および低)に分割し、ここで「高」は≧10%のCFかつ強いCIを表し、「低」は<10%のCFおよび/または不在、弱いもしくは中等度の細胞質強度を表した。
【0360】
上記のサンプル分類を用いて、Kaplan−Meier推定量に従い無病生存率(DFS)および全生存率(OS)を推定し、ログランク検定を使用して異なる層における生存率を比較した。すべての統計的検定は両側検定であり、<0.05のp値を有意とみなした。すべての計算は統計パッケージSPSS 17.0(SPSS Inc.Illinois,USA)で行った。
【0361】
b)結果
279個の腫瘍サンプルにおいてPODXL発現の免疫組織化学的分析を実施することができた。残りのコアは腫瘍細胞を含まないか、または組織処理中に失われたかのいずれかであった。PODXL発現解析の結果、86人の対象において細胞膜/細胞質染色が得られた。193人(69%)は発現がなかった(CI<1%)。
【0362】
コホート全体の生存率分析から、腫瘍組織におけるPODXLの発現が全生存率および無病生存率(OSおよびDFS)と有意に相関することが明らかとなった(図1〜図5)。図1Aおよび図1Bは、CIに基づき4つの異なるカテゴリーに分けたときのすべての対象のOSおよびDFSを示す。PODXL発現が不在または弱い患者については、OSおよびDFSの双方が中等度または強い発現の患者より高く、5年OSおよびDFSがそれぞれ約60%および70%であった。中等度または強いPODXL発現の患者のOSおよびDFSは、約40%であった(図1Aおよび図1B)。従って、低いCIほど比較的良好な予後を示す一方、高いCIほど比較的不良な予後を示す。二分類の変数によるOSおよびDFSの分析がこれらの知見をさらに支持している(図2A、図2B、図3Aおよび図3B)。さらに、これらの図は、比較的低いカットオフ(図3)および比較的高いカットオフ(図2)の双方でのOSおよびDFS分析から有意な結果が得られることを示す。
【0363】
次に、DFSおよびOSに対するPODXLタンパク質発現とCOX−2発現との種々の組み合わせの影響を分析した。簡単に説明すると、すべての対象をPODXLおよびCOX−2の状態に基づき4つのグループ、即ち、PODXL低かつCOX−2低であった対象、PODXL低かつCOX−2高であった対象、PODXL高かつCOX−2低であった対象およびPODXL高かつCOX−2高であった対象に分割した。分析から、これらの層がOSおよびDFSの違いに関連することが明らかとなった(図4Aおよび図4B)。驚くことに、PODXL高かつCOX−2高の患者は特に転帰不良であった一方、PODXL低かつCOX−2低の患者は特に転帰良好であった。さらに、図4によればPODXLタンパク質はCOX−2より重要性の高い予後マーカーである。一つのグループがPODXL低および/またはCOX−2低の患者からなり、かつもう一つのグループがPODXL高かつCOX−2高の患者からなる二分類の変数によるOSおよびDFSの分析が、生存転帰の違いをさらに支持している(図5Aおよび図5B)。このPODXL高の患者グループはまた、COX−2阻害治療にも特に興味深いものであり得る。
【0364】
結論として、図1〜図5に見ることができるとおり、S状結腸カルシノーマと診断された患者については、患者の予後、例えば5年年生存率などの生存確率の確定に、PODXLタンパク質をバイオマーカーとして使用することが有意義であり得る。さらに、予後データは、患者のCOX−2状態も考慮することによって精緻化され得る。
【0365】
4)結腸直腸癌TMA
a)材料および方法
Department of Pathology,Malmoe University Hospital,Swedenから、1999年〜2002年に結腸直腸カルシノーマと診断された118人の患者(女性61人および男性57人)からのアーカイブホルマリン固定パラフィン包埋組織を収集した。患者の年齢中央値は73歳(32〜88歳)であった。サンプルのうち51個は結腸から採取し、および67個は直腸から採取した。35個の腫瘍はデュークス期Aで、42個はデュークス期Bで、35個はデュークス期Cで、および6個はデュークス期Dであった。死亡日に関する情報は、すべての患者について地域の死因台帳管理機関から入手した。倫理的許可は地方倫理委員会(Local Ethics Committee)から得た。
【0366】
結腸直腸カルシノーマの全118症例を、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色したスライド上で組織病理学的に再評価した。次いで、浸潤癌の代表的領域から1症例あたり2×1.0mmのコアを採取することによりTMAを構築した。TMAを調製し、上記の実施例、セクション2に記載されるとおりに調製されるPODXL抗体および抗COX−2モノクローナル抗体(Zymed、クローン18〜7379)を希釈(1:200)して使用して、上記のセクション3に記載されるとおり自動化された免疫組織化学を実施した。
【0367】
アノテーション、分類、グループ化および統計分析を、上記のセクション3aに記載のとおり実施した。しかしながら、COX−2発現に基づくグループ化では、「高」は≧10%のCFかつ中等度のまたは強いCIを表し、および「低」は<10%のCFおよび/または不在または弱い(CI)を表した。
【0368】
b)結果
112個の腫瘍サンプルにおいてPODXL発現の免疫組織化学的分析を実施することができた。残りのコアは腫瘍細胞を含まないか、または組織処理中に失われたかのいずれかであった。PODXL発現解析の結果、67人の対象において細胞膜/細胞質染色が得られた。45人の対象(40%)は発現がなかった(CI<1%)。
【0369】
コホート全体の生存率分析から、腫瘍組織におけるPODXLの細胞膜/細胞質発現が全生存率(OS)と有意に相関することが明らかとなった(図6〜図7)。図6Aは、CIに基づき4つの異なるカテゴリーに分けたときのすべての対象のOSを示す。PODXL発現が不在または弱い患者は、中等度または強い発現の患者より高いOSを有した。図6Bに見られるとおりの二分類の変数によるOSの分析は、発現が不在または弱い患者の5年OSが60%を上回ったのに対し、中等度または強い発現の患者の5年OSは40%を下回ったことを明らかにしている。従って、低いCIは比較的良好な予後を示す一方、高いCIは比較的不良な予後を示す。OS分析から直腸サンプルを除く場合にも依然として有意な結果となり、この知見は、結腸癌の侵襲性に関する重要なマーカーとしてのPODXLをさらに支持している(図7)。
【0370】
次に、本発明者らは、結腸癌における予後不良の予測因子としてのCOX−2の提案される役割を前提として、PODXLの発現とCOX−2の発現との間の関連性について調査した。PODXLタンパク質発現とCOX−2発現との種々の組み合わせを有する患者についてのOSに対する影響を分析した。簡単に説明すると、すべての対象をPODXLおよびCOX−2の状態に基づき4つのグループ、即ち、PODXL低かつCOX−2低であった対象、PODXL低かつCOX−2高であった対象、PODXL高かつCOX−2低であった対象、およびPODXL高かつCOX−2高であった対象に分割した。分析から、これらの定義された層がOSの違いに関連することが明らかとなった(図8A)。驚くことに、PODXL高かつCOX−2高の患者は特に転帰不良であった一方、PODXL低かつCOX−2低の患者は特に転帰良好であった。一つのグループがPODXLおよび/またはCOX−2低の患者を含み、かつ第2のグループがPODXLおよびCOX−2高の患者からなる二分類の変数によるOSの分析が、生存転帰の違いをさらに支持している(図8B)。このPODXL高の患者グループはまた、COX−2阻害治療についてもまた特に興味深いものであり得る。
【0371】
従って、結腸直腸癌コホート(本セクション)の結果は、S状結腸癌コホート(セクション3)の結果と極めて類似している。従って本開示の知見は、PODXLタンパク質、場合によりCOX−2との組み合わせが、全結腸直腸領域における、ならびに結腸およびその小領域(即ちS状結腸)における予後について関連性のあるバイオマーカーであることを示している。
【0372】
5)結腸直腸癌TMA、コホートII
a)材料および方法
Department of Pathology,Malmoe University Hospital,Swedenから、1990年1月1日〜1991年12月31日に結腸直腸癌を外科的に治療した270人の患者(女性137人および男性133人)からのアーカイブホルマリン固定パラフィン包埋組織を収集した。患者の年齢中央値は73歳(37〜93歳)であった。サンプルのうち217個は結腸から採取し、51個は直腸から採取した。42個の腫瘍はデュークス期Aで、118個はデュークス期Bで、70個はデュークス期Cで、および40個はデュークス期Dであった。死亡日に関する情報は、すべての患者について地域の死因台帳管理機関から入手した。倫理的許可は地方倫理委員会(Local Ethics Committee)から得た。
【0373】
結腸直腸カルシノーマの全270症例を、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色したスライド上で組織病理学的に再評価した。浸潤癌の代表的領域から1症例あたり2×1.0mmのコアを採取することによってTMAを構築した。TMAを調製し、上記の実施例、セクション2に記載されるとおりに調製されるPODXL抗体を使用して、上記のセクション3に記載されるとおり自動化された免疫組織化学を実施した。
【0374】
アノテーション、分類、グループ化および統計分析を、上記のセクション3aに記載されるとおり実施した。
【0375】
b)結果
全270個の腫瘍サンプルにおいてPODXL発現の免疫組織化学的分析を実施することができた。PODXL発現解析の結果、121人の対象において細胞膜/細胞質染色が得られた。137人の対象(約50%)は発現がなかった(CI<1%)。
【0376】
コホート全体の生存率分析から、腫瘍組織におけるPODXLの細胞膜/細胞質発現が全生存率(OS)と有意に相関することが明らかとなった(図9)。図9は、CIに基づき4つの異なるカテゴリーに分けたときのすべての対象のOSを示す。PODXL発現が不在または弱い患者は、中等度または強い発現の患者より高いOSを有した。図10に見られるとおりの二分類の変数によるOSの分析は、発現が不在または弱い患者の5年OS(実線)が約50%であったのに対し、中等度または強い発現の患者の5年OS(点線)は30%を下回ったことを明らかにしている。従って、低いCIは比較的良好な予後を示す一方、高いCIは比較的不良な予後を示す。
【0377】
高度に分化した腫瘍を有する患者について分析すると(図11)、PODXLについて陽性染色された腫瘍を有する患者(点線)と比較して、かなり良好となったPODXL発現不在の患者(実線)との間には著しいOSの違いがある。
【0378】
デュークス期Aの腫瘍を有する患者について分析すると(図12)、PODXLの発現が不在または弱い患者(実線)が中等度または強い発現の患者(点線)より高いOSを有したことが見て分かる。PODXL発現が低い患者の5年生存率がほぼ80%であったのに対し、中等度ないし高いPODXLレベルを発現する患者の5年生存率は僅か40%に過ぎなかった。
【0379】
従ってこの結腸直腸癌コホート(本セクション)の結果は、分析した他のコホート(セクション3および4)の結果と同様である。
【0380】
6)Bioplexを使用したエピトープマッピング
a)合成ペプチドの調製
PODXLタンパク質(配列番号2または配列番号3)のタンパク質フラグメント配列番号1に対応する26個のビオチン化ペプチドからなるPEPscreenライブラリを、Sigma−Genosys(Sigma−Aldrich)により合成した。ペプチドは15アミノ酸長で10アミノ酸の重複を有し、合わせてPrEST配列(配列番号1)全体を網羅した。ペプチドを80%DMSO中に10mg/mlの最終濃度まで溶解した。
【0381】
b)ビーズカップリング
Neutravidin(Pierce,Rockford,IL)を、製造者のプロトコルに従いカルボキシル化ビーズ(BioPlex COOHビーズ,BioRad)に固定化した。既に記載されているとおり(Larsson et al(2009) J Immunol Methods 15;34(1−2):20−32,Schwenk et al(2007) Mol Cell Proteomics 6(1)125:32)、フィルター膜底を有するマイクロタイタープレート(MultiScreen−HTS,Millipore,Billerica,MA)を使用して106個のビーズのカップリングを実施した。異なるカラーコードIDを有する26の別個のビーズ群を、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノ−プロピル)カルボジイミドおよびN−ヒドロキシスクシンイミドを使用して活性化した。Neutravidin(50mMのHepes pH7.4中250μg/ml)をビーズに添加し、振盪器で120分間インキュベートした。最後にビーズを洗浄し、再懸濁し、微量遠心管に移して、PBS−BN(1×PBS、1%BSA、0.05%NaN3)中に4℃で貯蔵した。カップリングしたすべてのビーズ集団を、超音波洗浄器(Branson Ultrasonic Corporation,Danbury,CT)において3分間音波処理した。ビオチン化ペプチドをPBS−BN中に0.1mg/mlの濃度まで希釈して、カップリング反応に50μlの各ペプチドを使用し、カップリング反応は室温で振盪しながら60分間実行した。最後に、ビーズを3×100μlのBRE緩衝液で洗浄し、以降の使用時まで4℃で貯蔵した。
【0382】
c)結合特異性の決定
全26個のビーズIDを含むビーズ混合物を調製し、セクション2に記載のとおり得た10μlのウサギ抗PODXLを30μlのビーズミックスと混合して室温で60分間インキュベートした。洗浄には、フィルター底を有するマイクロタイタープレート(Millipore)を利用し、各々インキュベートした後、すべてのウェルを2×100μlのPBS−BNで洗浄した。ビーズに対し、25μlのR−フィコエリトリン標識抗ウサギIgG抗体(Jackson ImmunoResearch)を添加して、室温で30分間にわたり最後のインキュベーションを行った。
【0383】
Bio−Plex Manager 5.0ソフトウェアを備えるBioplex 200 Suspension Array機器を使用して計測を実施した。実験ごとに、1ビーズIDあたり50イベントを計数し、個々のビーズ集団に対する抗体結合性の尺度として蛍光強度中央値(MFI)を使用した。
【0384】
d)結果
ポリクローナル抗PODXL抗体の特異性について、合成ビオチン化ペプチドとカップリングしたビーズを使用するアッセイで試験した。ポリクローナル抗PODXL抗体は、PrEST配列上の6つの領域と見なすことのできるものに対応する11個のペプチド、即ち、2、3、4、5、7、8、9、18、22、24および25と結合性を示した(図12を参照のこと)。第1の領域(配列番号10)はペプチド2および3の重複に対応し、第2の領域(配列番号11)はペプチド4および5の重複に対応し、第3の領域(配列番号12)はペプチド7、8、および9の重複に対応し、第4の領域(配列番号13)はペプチド18に対応し、第5の領域(配列番号14)はペプチド22に対応し、および第6の領域(配列番号15)はペプチド24および25の重複に対応する。
【0385】
7)ポリクローナル抗PODXL抗体の分画
a)材料および方法
実施例、セクション6で抗PODXL抗体が結合することが示されたペプチドに対するポリクローナル抗体のアフィニティー精製により、ペプチド特異的抗体を得た。配列番号16、17、13、14、および18にそれぞれ対応するペプチド3、7、18、22および24を選択し、600nmolの各ビオチン化ペプチドをHiTrap(商標)ストレプトアビジン結合緩衝液で最終容積が1100μlとなるまで希釈し、1mlのHiTrap(商標)ストレプトアビジンHPカラム(GE Healthcare Bio−Sciences AB,Uppsala,Sweden)に加えて結合させた。カップリング後、カラムをHiTrap(商標)ストレプトアビジン結合緩衝液で洗浄して結合しなかったペプチドを取り除いた(およびサンプル負荷前にすべてのカラムに対してブランクランを実施した)。
【0386】
His6−ABPタグと融合した組換えPODXLフラグメント配列番号1で免疫化したニュージランドホワイトウサギから得た血清を、AEKTAxpress(商標)(GE Healthcare)液体クロマトグラフィーシステムにおいて、8本のカラムを以下のとおり直列式にして、即ち、2本の5ml His6−ABPカラム、続いて5本のエピトープ特異的ペプチドカラム、および最後にHis6−ABP−PODXL融合タンパク質カラムで精製した。サンプル負荷後、カラムを洗浄し、溶出させると同時に個別の抗体画分を得た。溶出した抗体画分を、上記のとおりBioplexを使用してエピトープマッピングした。
【0387】
b)結果
画分をエピトープマッピングすると、分画したすべての抗体がその予想されたペプチドを結合した。ペプチド7、18、22および24を結合した画分は、IHC分析によってPODXLタンパク質(配列番号2または配列番号3)を結合することが確認された。ペプチド3、7、22、および24を結合した画分は、ウエスタンブロット分析によってPODXLタンパク質(配列番号2または配列番号3)を結合することが確認された。
【0388】
8)生細胞の表面に対する抗体のインビトロ結合
a)材料および方法
セクション2に記載のとおり得られたポリクローナル抗体が培養結腸癌細胞にインビトロで結合することが、LigandTracer Green(Rigeview Instruments AB,Uppsala,Sweden)計測により決定された。実験に使用した細胞系統は結腸癌細胞系統CACO−2であった。細胞は、20%ウシ胎仔血清(Sigma、Germany)、L−グルタミン(2mM)およびPEST(ペニシリン100IU/ml、およびストレプトマイシン100μg/ml)を補充した完全培地で成長させた。抗体をアミン反応性TexasRed色素で標識し、多量のCACO−2細胞を含む円形細胞皿をアッセイに使用した。TexasRed標識手順は以下のとおり実施した:ストックバイアルから移すことができた最小量のTexasRedを100μlのDMSOに溶解した。次いで20μl容量のTexasRed溶液を100μlのホウ酸塩緩衝液pH9、約20μgの抗体と混合し、室温で60分間インキュベートした。NAP−5カラムを使用して遊離色素分子を除去した。
【0389】
LigandTracer Greenアッセイは1つの円形細胞皿を含み、CACO−2は細胞皿の局所的な部分に播種した。典型的にはnM濃度範囲の標識抗体を、二段階以上で添加した。得られる結合トレースによって、結合が起こったか否かが示される。TexasRed標識ヒト血清アルブミン(HSA)(HASあたりはるかに多い数の色素分子で標識)を陰性コントロールとして使用し、および陽性コントロールとして、市販の抗PODXL抗体3D3(Santa Cruz Biotechnology、カタログ番号:sc−23904)を使用した。
【0390】
LigandTracerアッセイの結果を確認するため、マルチウェル細胞培養皿で手動での結合試験を実施した。クロラミンT法を用いて抗体を125Iで放射性標識した。簡単に説明すると、125IをPBS中の40μgの抗体に添加し、10μlクロラミンT(PBS中2mg/ml、Sigma,USA)を添加した。60秒間インキュベートした後、25μlメタ重亜硫酸ナトリウム(PBS中2mg/ml、Sigma,USA)を添加することによって反応を停止させた。PBSと平衡化したNAP−5カラム(カットオフ5kDa、Amersham Biosciences,Uppsala,Sweden)を使用して、標識抗体を低分子量化合物から分離した。細胞に放射性標識抗体を加え、時に高濃度の未標識抗体を補充して、次いで少なくとも4時間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を速やかに4回洗浄し、トリプシン処理により遊離させ、計数し(細胞数/ml)、およびWallac 1480 Wizardガンマカウンター(Turku,Finland)で放射能(Bq/ml)を定量した。陽性コントロールとして市販の抗PODXL抗体3D3(Santa Cruz Biotechnology、カタログ番号:sc−23904)を使用し、および陰性コントロールとして、トロポニンに対するモノクローナルIgG2a抗体を使用した。
【0391】
b)結果
ポリクローナル抗PODXL抗体はインビトロで結腸癌生細胞に結合することが示された(図11)。抗PODXLのCACO−2細胞との濃度依存的な結合を認めることができ、細胞を漸増濃度の抗PODXL抗体に曝露すると、信号強度の明らかな増加によって示されるとおり結合が増加する。手動での結合試験から、陽性および陰性コントロールを使用するLigandTracerアッセイの結果が確認された(結果は示さず)。
【0392】
結腸癌患者についての予後の確定
5)非制限的例
癌患者は、腫瘍成長による症状もしくは徴候、腫瘍が成長する領域からの疼痛および苦痛を含む病巣症状、または体重減少および疲労などのより全般的な症状を示し得る。結腸直腸腫瘍の成長による徴候はまた、血便および/または機能不全、例えば下痢/便秘によっても明らかとなり得る。
【0393】
下記の説明は、結腸直腸癌がS状結腸に位置する場合を参照する。
【0394】
患者においてS状結腸癌の診断が確定した後、腫瘍組織サンプルを入手する。腫瘍組織サンプルは、先立って癌の診断中に実施された生検から、または先立って行われた腫瘍の外科的摘出による標本から入手してもよい。さらに、「陰性基準」を提供するため、PODXLタンパク質発現が低い、または本質的に欠如した組織を含むアーカイブ材料からサンプルが取られる。そのようなアーカイブ組織は、例えば、低いPODXLタンパク質発現レベルが既に確定されているS状結腸腫瘍組織であってもよい。さらに、「陽性基準」を提供するため、高いPODXLタンパク質発現レベルが既に確定されているS状結腸腫瘍組織などの、PODXLタンパク質発現が高い組織を含むアーカイブ材料からサンプルが取られる。
【0395】
サンプル材料を緩衝ホルマリンで固定して組織学的に処理し、それによりサンプル材料の薄切片(4μm)を得る。
【0396】
免疫組織化学は実施例、セクション3に記載のとおり実施する。各サンプルからの1つ以上のサンプル切片をガラススライドにマウントし、これを60℃で45分間インキュベートし、キシレン中で脱パラフィン処理し(2×15分間)(当該のサンプルがパラフィン処理された場合)、段階的アルコールで水和する。抗原賦活化のため、スライドをTRS(Target Retrieval Solution、pH6.0、DakoCytomation)中に浸漬し、Decloakingチャンバ(登録商標)(Biocare Medical)において125℃で4分間沸騰させる。スライドをAutostainer(登録商標)(DakoCytomation)内に置き、内因性ペルオキシダーゼを最初にH2O2(DakoCytomation)でブロックする。複数のサンプル切片をマウントする理由は、結果の精度を高めるためである。
【0397】
1次PODXLタンパク質特異抗体をスライドに加え、室温で30分間インキュベートし、続いて標識2次抗体;例えばヤギ抗ウサギペルオキシダーゼコンジュゲートEnvision(登録商標)と共に、室温で30分間インキュベートする。1次抗体は、例えば上記の実施例、セクション2に記載されるとおり産生してもよい。2次抗体を検出するため、ジアミノベンジジン(DakoCytomation)を色原体として使用し、Harrisヘマトキシリン(Sigma−Aldrich)対比染色で対比する。すべての工程と工程の間で、スライドは洗浄緩衝液(DakoCytomation)中で濯ぐ。次いでスライドを、Pertex(登録商標)(Histolab)マウント用媒体を用いてマウントする。
【0398】
染色手順を確認するためのツールとして、2つのコントロール細胞系統を使用してもよい;例えば、PODXLタンパク質を発現する細胞(陽性細胞系統)を有する1つのスライドおよびPODXLタンパク質発現が不明瞭で弱いか、またはない細胞(陰性細胞系統)を有する1つのスライド。当業者は、例えば、Rhodes et al.(2006) The biomedical scientist,p 515−520の開示を指針として、そのような細胞系統をどのように提供すればよいかについて理解する。コントロール系統のスライドは結腸直腸癌スライドと同じ手順で同時に染色されてもよく、即ち同じ1次抗体および2次抗体と共にインキュベートされ得る。
【0399】
例えば、S状結腸腫瘍スライド、染色基準スライド、および場合により、コントロール細胞系統を有するスライドを、ScanScope T2自動化スライド走査システム(Aperio Technologies)を20倍の倍率で使用して、光学顕微鏡下で走査してもよい。しかしながらこの走査工程は必ずしも必要でなく、ただし、例えば、スライドの調製および染色、ならびに染色したスライドの評価(下記参照)を異なる場所で、または異なる人が実施する場合には、手順がより容易となり得る。
【0400】
コントロール細胞系統を使用する場合、それらを調べることによって染色手順が確認される。細胞系統が許容できる基準から外れた染色結果、例えば当業者が認識する染色上のア−チファクトを示す場合、その生検サンプルの染色は無効とみなされ、新しいスライドで再び染色手順全体が行われる。陽性細胞系統が強い染色強度を示し、および陰性細胞系統が不明瞭で弱い染色強度を示すか、または染色強度を示さない場合、染色は有効とみなされる。
【0401】
腫瘍組織からの1つ以上の染色サンプルスライドは、臨床組織病理学的診断で用いられる基準に従い目視検査によって手動で評価され、1つ以上の結腸直腸癌スライドの免疫活性が実施例、セクション3に記載のとおり類別される。
【0402】
即ち、細胞質強度(CI)および細胞質画分(CF)が調べられる。
【0403】
CIおよびCFの判定では、評価および類別の実施者にとって、染色された基準スライド、即ち「陽性基準」および「陰性基準」を目視検査することが補助となる。
【0404】
次いで各サンプルに0〜3段階によるサンプル値が割り当てられ、ここで、
「0」は、CI不在かつ<1%のCFを表し;
「1」は、弱いCIかつ>1%のCFを表し;
「2」は、中等度のまたは強いCIかつ1〜50%のCFを表し;および
「3」は、中等度のまたは強いCIかつ>50%のCFを表す。
【0405】
次いで1つ以上のサンプル値が基準値と比較される。
【0406】
基準値は「0」または「1」、好ましくは「1」であってもよい。
【0407】
1つ以上のサンプル値またはサンプル値平均が基準値「1」以下である場合、その対象は予後が比較的良好であるグループに属すると結論付けられる。図2は、比較的良好な予後が、約60%の全5年生存率(図2A、実線)または約69%の無病5年生存率(図2B、実線)であり得ることを示す。
【0408】
しかしながら、1つ以上のサンプル値またはサンプル値平均が基準値「1」より高い場合、その対象は予後が比較的不良であるグループに属すると結論付けられる。図2は、比較的不良な予後が、約34%の全5年生存率(図2A、破線)または約38%の無病5年生存率(図2B、破線)であり得ることを示す。
【0409】
さらに、上記に概説する染色および評価プロトコルに従い、1次COX−2タンパク質特異抗体(例えばZymed、クローン18〜7379)が同じサンプルからのスライドに添加されてもよい。
【0410】
次いで、抗COX−2抗体で染色された各サンプルに「高」および「低」から選択されるサンプル値が与えられ、ここで、
「高」は、≧10%のCFかつ強いCIを表し;および
「低」は、<10%のCFおよび/または不在の、弱いまたは中等度の細胞質強度を表す。
【0411】
ここで、暗黙の基準値は「低」である。
【0412】
1つ以上のCOX−2サンプル値またはCOX−2サンプル値平均が「低」である場合、その対象は、予後が比較的良好であるサブグループに属すると結論付けられる。
【0413】
しかしながら、1つ以上のCOX−2サンプル値またはCOX−2サンプル値平均が「高」である場合、その対象は予後が比較的良好であるサブグループに属すると結論付けられる。
【0414】
従ってPODXL状態に基づく予後は、COX−2状態も調べることによって詳細となり得る。
【0415】
図4は、1つ以上のより低いPODXLサンプル値を有する対象がCOX−2低である場合、5年全生存確率は約62%(図4A)となり、および無病生存確率は約70%(図4B)となり得ることを示す。しかしながら、1つ以上のより低いPODXLサンプル値を有する対象がCOX−2高である場合、5年全生存確率は約50%(図4A)となり、および無病生存確率は約63%(図4B)となり得る。
【0416】
さらに、図4は、1つ以上のより高いPODXLサンプル値を有する対象がCOX−2低である場合、5年全生存確率は約44%(図4A)となり、および無病生存確率は約49%(図4B)となり得ることを示す。しかしながら、1つ以上のより高いPODXLサンプル値を有する対象がCOX−2高である場合、5年全生存確率は約21%(図4A)となり、および無病生存確率は約28%(図4B)となり得る。
【0417】
次いで予後は、患者の治療、または無治療に関するさらなる判断の基礎となり得る。例えば患者が、比較的高いPODXL値、従って比較的不良な予後を、特に高いCOX−2発現レベルとの組み合わせで有するグループに属することが示された場合、判断は、他の場合に考慮されたであろうものと比べて「より攻撃的な化学療法治療」を適用することであり得る。
【0418】
あるいは、予後は患者の治療、または無治療に関するさらなる判断の基礎となり得る。例えば、患者が、比較的高いPODXL値、従って比較的不良な予後を有するグループに属することが示された場合、判断は、抗PODXL抗体を使用する免疫療法を適用することであり得る。
【0419】
刊行物、DNAまたはタンパク質データの入力、および特許を含むが、これらに限定されない本出願において言及した引用したすべての材料は、本明細書において、参照により援用される。
【0420】
本発明を上記のように説明してきたが、本発明は、多くの方法で改変することができることは明らかであろう。そのような改変は、本発明の趣旨および範囲から逸脱するものと認識されるべきではなく、そのようなすべての変更は、以下の特許請求の範囲内に含まれることが、当業者には明らかであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結腸直腸癌を有する哺乳動物対象が第1のグループに属するか、または第2のグループに属するかを判定する方法であって、前記第1のグループの対象の予後が前記第2のグループの対象の予後より良好であり、
a)前記対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部におけるPODXLタンパク質の量を評価し、前記評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)からの前記サンプル値を所定の基準値と比較する工程;および
前記サンプル値が前記基準値より高い場合、
c1)前記対象が前記第2のグループに属すると結論付ける工程;および
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c2)前記対象が前記第1のグループに属すると結論付ける工程
を含む方法。
【請求項2】
前記第1のグループおよび前記第2のグループの各々が2つのサブグループαおよびβを有し、前記第1のグループおよび前記第2のグループの各々において、前記サブグループαの対象の予後が前記サブグループβの対象の予後より良好である、請求項1に記載の方法であって、
d)前記対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部におけるCOX−2タンパク質の量を評価し、前記評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
e)工程d)からの前記サンプル値を所定の基準値と比較する工程;および
工程d)からの前記サンプル値が工程e)の前記基準値より高い場合、
f1)前記対象がサブグループβに属すると結論付ける工程;および
工程d)からの前記サンプル値が工程e)の前記基準値以下である場合、
f2)前記対象がサブグループαに属すると結論付ける工程
をさらに含む、方法。
【請求項3】
結腸直腸癌を有する対象に結腸直腸癌治療レジメンによる治療が必要でないかどうかを判定する方法であって、
a)前記対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、前記評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)において得られた前記サンプル値を基準値と比較する工程;および、
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c)前記対象に前記結腸直腸癌治療レジメンによる前記治療が必要でないと結論付ける工程
を含む方法。
【請求項4】
結腸直腸癌を有する対象に対する無治療ストラテジー方法であって、
a)前記対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、前記評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)において得られた前記サンプル値を基準値と比較する工程;および、
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c)前記対象を結腸直腸癌治療レジメンにより治療することを取り止める工程
を含む方法。
【請求項5】
前記結腸直腸癌がCOX−2低である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
工程a)が、
aI)工程a)の前記サンプルに、評価しようとする前記PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な定量可能な親和性リガンドを適用する工程であって、前記適用は、前記サンプル中に存在するPODXLタンパク質との前記親和性リガンドの結合を可能にする条件下で実施される工程;および
aII)前記サンプルに結合した前記親和性リガンドを定量して、前記量を評価する工程
を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
a)PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な定量可能な親和性リガンド;
b)a)の前記定量可能な親和性リガンドの量を定量するのに必要な試薬;
c)COX−2タンパク質との選択的相互作用が可能な定量可能な親和性リガンド;および
d)c)の前記定量可能な親和性リガンドの量を定量するのに必要な試薬
を含む、結腸直腸癌の予後を確定するためのキットであって、b)およびd)の前記試薬は同じであるか、または異なる、キット。
【請求項8】
結腸直腸癌の予後マーカーとしてのPODXLタンパク質のインビトロでの使用。
【請求項9】
結腸直腸癌を有する哺乳動物対象についての予後の確定用予後診断剤を選択または精製するための、PODXLタンパク質、またはその抗原活性フラグメントのインビトロでの使用。
【請求項10】
結腸直腸癌を有する哺乳動物対象についての予後の確定用予後診断剤を産生するための免疫化における抗原としての、PODXLタンパク質、またはその抗原活性フラグメントの使用。
【請求項11】
前記抗原活性フラグメントは、25アミノ酸以下、例えば20または15アミノ酸以下からなり、かつ配列番号10〜18から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項9または10に記載の抗原活性フラグメントの使用。
【請求項12】
20アミノ酸以下、例えば15アミノ酸以下からなり、かつ配列番号10〜15から選択されるアミノ酸配列を含むPODXLタンパク質フラグメントとの選択的相互作用が可能な親和性リガンド。
【請求項13】
PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドの、結腸直腸癌の予後診断剤としてのインビトロでの使用。
【請求項14】
前記親和性リガンドは、請求項12に記載の親和性リガンドである、請求項13に記載のインビトロでの使用。
【請求項15】
結腸直腸癌を有する対象の治療に使用するための、PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンド。
【請求項16】
前記PODXLタンパク質の細胞外領域である配列番号6または7との選択的相互作用が可能である、請求項15に記載の親和性リガンド。
【請求項17】
アミノ酸配列が配列番号1の配列からなるペプチドとの選択的相互作用が可能である、請求項15に記載の親和性リガンド。
【請求項18】
請求項15〜17のいずれか一項に記載の治療用親和性リガンドを産生するための免疫化における抗原としての、PODXLタンパク質、またはその抗原活性フラグメントの使用。
【請求項1】
結腸直腸癌を有する哺乳動物対象が第1のグループに属するか、または第2のグループに属するかを判定する方法であって、前記第1のグループの対象の予後が前記第2のグループの対象の予後より良好であり、
a)前記対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部におけるPODXLタンパク質の量を評価し、前記評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)からの前記サンプル値を所定の基準値と比較する工程;および
前記サンプル値が前記基準値より高い場合、
c1)前記対象が前記第2のグループに属すると結論付ける工程;および
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c2)前記対象が前記第1のグループに属すると結論付ける工程
を含む方法。
【請求項2】
前記第1のグループおよび前記第2のグループの各々が2つのサブグループαおよびβを有し、前記第1のグループおよび前記第2のグループの各々において、前記サブグループαの対象の予後が前記サブグループβの対象の予後より良好である、請求項1に記載の方法であって、
d)前記対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部におけるCOX−2タンパク質の量を評価し、前記評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
e)工程d)からの前記サンプル値を所定の基準値と比較する工程;および
工程d)からの前記サンプル値が工程e)の前記基準値より高い場合、
f1)前記対象がサブグループβに属すると結論付ける工程;および
工程d)からの前記サンプル値が工程e)の前記基準値以下である場合、
f2)前記対象がサブグループαに属すると結論付ける工程
をさらに含む、方法。
【請求項3】
結腸直腸癌を有する対象に結腸直腸癌治療レジメンによる治療が必要でないかどうかを判定する方法であって、
a)前記対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、前記評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)において得られた前記サンプル値を基準値と比較する工程;および、
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c)前記対象に前記結腸直腸癌治療レジメンによる前記治療が必要でないと結論付ける工程
を含む方法。
【請求項4】
結腸直腸癌を有する対象に対する無治療ストラテジー方法であって、
a)前記対象から事前に得られたサンプルの少なくとも一部に存在するPODXLタンパク質の量を評価し、前記評価された量に対応するサンプル値を決定する工程;
b)工程a)において得られた前記サンプル値を基準値と比較する工程;および、
前記サンプル値が前記基準値以下である場合、
c)前記対象を結腸直腸癌治療レジメンにより治療することを取り止める工程
を含む方法。
【請求項5】
前記結腸直腸癌がCOX−2低である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
工程a)が、
aI)工程a)の前記サンプルに、評価しようとする前記PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な定量可能な親和性リガンドを適用する工程であって、前記適用は、前記サンプル中に存在するPODXLタンパク質との前記親和性リガンドの結合を可能にする条件下で実施される工程;および
aII)前記サンプルに結合した前記親和性リガンドを定量して、前記量を評価する工程
を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
a)PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な定量可能な親和性リガンド;
b)a)の前記定量可能な親和性リガンドの量を定量するのに必要な試薬;
c)COX−2タンパク質との選択的相互作用が可能な定量可能な親和性リガンド;および
d)c)の前記定量可能な親和性リガンドの量を定量するのに必要な試薬
を含む、結腸直腸癌の予後を確定するためのキットであって、b)およびd)の前記試薬は同じであるか、または異なる、キット。
【請求項8】
結腸直腸癌の予後マーカーとしてのPODXLタンパク質のインビトロでの使用。
【請求項9】
結腸直腸癌を有する哺乳動物対象についての予後の確定用予後診断剤を選択または精製するための、PODXLタンパク質、またはその抗原活性フラグメントのインビトロでの使用。
【請求項10】
結腸直腸癌を有する哺乳動物対象についての予後の確定用予後診断剤を産生するための免疫化における抗原としての、PODXLタンパク質、またはその抗原活性フラグメントの使用。
【請求項11】
前記抗原活性フラグメントは、25アミノ酸以下、例えば20または15アミノ酸以下からなり、かつ配列番号10〜18から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項9または10に記載の抗原活性フラグメントの使用。
【請求項12】
20アミノ酸以下、例えば15アミノ酸以下からなり、かつ配列番号10〜15から選択されるアミノ酸配列を含むPODXLタンパク質フラグメントとの選択的相互作用が可能な親和性リガンド。
【請求項13】
PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンドの、結腸直腸癌の予後診断剤としてのインビトロでの使用。
【請求項14】
前記親和性リガンドは、請求項12に記載の親和性リガンドである、請求項13に記載のインビトロでの使用。
【請求項15】
結腸直腸癌を有する対象の治療に使用するための、PODXLタンパク質との選択的相互作用が可能な親和性リガンド。
【請求項16】
前記PODXLタンパク質の細胞外領域である配列番号6または7との選択的相互作用が可能である、請求項15に記載の親和性リガンド。
【請求項17】
アミノ酸配列が配列番号1の配列からなるペプチドとの選択的相互作用が可能である、請求項15に記載の親和性リガンド。
【請求項18】
請求項15〜17のいずれか一項に記載の治療用親和性リガンドを産生するための免疫化における抗原としての、PODXLタンパク質、またはその抗原活性フラグメントの使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2013−508736(P2013−508736A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535788(P2012−535788)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066168
【国際公開番号】WO2011/051288
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(508178490)アトラス・アンティボディーズ・アクチボラゲット (11)
【氏名又は名称原語表記】Atlas Antibodies AB
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066168
【国際公開番号】WO2011/051288
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(508178490)アトラス・アンティボディーズ・アクチボラゲット (11)
【氏名又は名称原語表記】Atlas Antibodies AB
【Fターム(参考)】
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