説明

緊急自動車

【課題】迅速且つコンパクトに開閉することができる大形の処置室扉を備え、救急患者をスムーズに搬入することができる緊急自動車の提供。
【解決手段】この緊急自動車10は、救急患者を収容する処置室16を有する。処置室16を開閉する扉15が設けられている。扉15は二分割されており、上部扉58及び下部扉59を有する。上部扉58は、ヒンジ65を介してボディ12に回動自在に連結されている。下部扉59は、ヒンジ74を介して上部扉58に回動自在に連結されている。扉15にリンク機構77が設けられている。リンク機構は、扉15が開放されたときに、上部扉58に対して下部扉59を屈曲させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消防用自動車及び救急用自動車の機能を備える緊急自動車の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消火用流体を吐出する消防車としての機能と、救急患者を収容し応急処置が可能な処置室を備えた救急車としての機能とを併せ持つ緊急自動車が従来から提案されている(例えば、特許文献1〜特許文献3参照)。消防機能と救急機能とを備えた従来の緊急自動車では、一台の車両が消防活動にも救急活動にも活躍する。
【0003】
【特許文献1】特開2004−50976公報
【特許文献2】特開2004−49572公報
【特許文献3】特開2004−50977公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の緊急自動車では、患者を収容する処置室が車両の中央部に設けられ、消火用流体を吐出するポンプその他の消防用機能部品ないし要素は、車両の後部に集中配置されていた。この配置は、単一の車両が消防機能と救急機能とを具備するうえできわめて効率的なものであるが、車両の後部に消防用機能部品が集中配置されることにより、患者は、車両の後部からではなく側面から処置室に搬入される。そのため、緊急自動車の側面には大きな扉が設けられることになるが、かかる大形の扉が開閉されるために広い空間が確保される必要があった。さらに、扉開閉用の空間が仮に確保されるとしても、救命救急活動が円滑に行われるためには、大形の扉であってもコンパクトに且つ迅速に開閉されることが望ましい。
【0005】
そこで、本発明の目的は、迅速且つコンパクトに開閉することができる大形の処置室扉を備え、救急患者をスムーズに搬入することができる緊急自動車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 上記目的が達成されるため、本発明に係る緊急自動車は、ボディ内部に救急患者を収容する処置室が区画形成されると共に消防機能をも有する緊急自動車であって、上記ボディの側面に処置室出入口及び当該処置室出入口を開閉する開閉扉が設けられ、当該開閉扉は、上記処置室出入口の上部を開閉する上部扉及び上記処置室出入口の下部を開閉する下部扉とを有する。上記上部扉の上縁は、第1ヒンジ機構を介して上記処置室出入口の上縁に沿って上記ボディに回動自在に支持され、上記下部扉の上縁は、第2ヒンジ機構を介して上記上部扉の下縁に沿って当該上部扉に回動自在に支持されている。
【0007】
この構成によれば、ボディの側面に開閉扉が設けられているから、この扉が開かれることによって救急患者は処置室に搬入される。この開閉扉は二分割されており、上部扉及び下部扉を有する。上部扉は第1ヒンジ機構を介して俯仰動作可能であり、ボディの側面から上方に起立するように回動する。一方、下部扉は、第2ヒンジ機構を介して上部扉に対して俯仰動作可能となっている。したがって、上部扉が上方に回動起立したときは、下部扉は下方に倒伏するように回動することができる。すなわち、開閉扉は、下部扉が下方に垂下するようにL字状に屈曲され、これにより、上記処置室出入口が開放される。このように二分割された開閉扉が上記第1ヒンジ機構及び第2ヒンジ機構を介して屈折して上記処置室出入口を開閉するので、処置室出入口が大きく形成された場合であっても開閉扉はコンパクトに開かれる。
【0008】
(2) 第1ヒンジ機構は、上部扉の上縁をボディの上面部に連結する構造であるのが好ましい。これにより、上記処置室出入口の上縁が上記ボディの側面上縁と一致することが可能である。すなわち、上記処置室出入口を広くする設計が可能であり、救急患者の搬入が容易になる。
【0009】
(3) 開閉扉の姿勢を変化させるリンク機構が設けられているのが好ましい。このリンク機構は、上部扉の回動角度に応じて下部扉を回動させ、上部扉及び下部扉が一直線上に並ぶことによって処置室出入口を閉じる閉じ姿勢と、下部扉が上部扉に対してL字状に屈曲することによって処置室出入口を開く開放姿勢との間で、開閉扉の姿勢を変化させる。この構成では、上部扉が上方に回動した場合に下部扉がL字状に屈曲して垂下する。これにより、開閉扉は、きわめて迅速且つコンパクトに開かれる。
【0010】
(4) リンク機構は、開閉扉が開放姿勢となったときに下部扉の下縁が地面から1900mm以上となるように当該開閉扉の姿勢を変化させるのが好ましい。これにより、救急隊員が頭部を開閉扉に衝突させることがないし、座位の救急患者もスムーズに処置室に搬入される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、開閉扉が大形であっても迅速且つコンパクトに開閉されるので、救急患者の搬入がスムーズに行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る緊急自動車の正面図である。同図は、この緊急自動車10の左側面を表している。図2は、この緊急自動車の裏面図である。同図は、この緊急自動車10の右側面を表している。
【0014】
この緊急自動車10は、車両本体11と、これに架装されたボディ12とを備えている。この緊急自動車10は消防機能及び救急機能を有し、消防機能はボディ12の後方部に集約され、救急機能はボディ12の前方部に集約されている。すなわち、ボディ12の後方部には消防ポンプ、ホースカー52等が集中して積載されており、また、ボディ12の前方部には、後述される患者用ベッド17、救命器具等が集中して配備されている。ボディ12は、例えば繊維強化プラスチック(FRP)等から構成され、ボディ12の前方部と後方部との境界に隔壁50が設けられている。この隔壁50も繊維強化プラスチック(FRP)等から構成され得る。
【0015】
車両本体11は、車体フレーム13と、これに設けられたキャビン14とを備える。車両本体11としては、普通小型トラック(いわゆる2トン車級)用のものが採用され得る。キャビン14は、この緊急自動車10の運転室を構成している。車体フレーム13には、図示されていないエンジン、走行用駆動装置、救急用補器駆動装置、消防用補器駆動装置等が取り付けられている。
【0016】
ボディ12は、箱状に形成され、図1及び図2が示すようにキャビン14の上部から後方に延びている。ボディ12の最前部45(キャビン14の上部)には、赤色回転灯等が内装されている。ボディ12の中央部には、救急患者が搬入される処置室16が設けられている。図1が示すように、ボディ12の左側に、この処置室16へ連通する扉15(開閉扉)が設けられている。
【0017】
図3は、図1におけるIII−III断面を表す図である。同図は、閉じられた姿勢の扉15と開かれた姿勢の扉15とを同時に図示している。同図が示すように、上記扉15は上下方向に展開するウイング式開閉扉であって、救急隊員がノブ48を操作することによって開閉するようになっている。この扉15の構造については、後に詳述される。また、図2が示すように、ボディ12の右側に、スライド式扉19が設けられている。このスライド式扉19が開放されることによって、救急隊員は、ボディ12の右側から上記処置室16に進退することができる。このスライド式扉19もノブ49を備えており、救急隊員がこのノブ49を操作することによってスライド式扉19が開閉するようになっている。なお、上記扉15及びスライド式扉19は、それぞれ窓46、47を有している。
【0018】
図1及び図2が示すように、ボディ12の後方部には扉53が設けられている。この扉53が開放されることによって、上記消防ポンプ等が露出する。この扉53にもノブ54が設けられており、救急隊員がこのノブ54を操作することによって扉53が開閉するようになっている。なお、ボディ12の後方部上方には、赤色回転灯55が設けられている。
【0019】
本実施形態の特徴とするところは、上記扉15の構造である。扉15が後述の構造を備えることによって、救急患者及び救急隊員は、スムーズに処置室16に出入りすることができる。
【0020】
図3が示すように、ボディ12の側面に処置室出入口57が設けられている。救急患者及び救急隊員は、この処置室出入口57を通って処置室16に出入りする。なお、通常、救急患者は、患者用ベッド17に載せられて処置室16に搬入される。この患者用ベッド17は、後述されるベッド支持機構18によって支持され、処置室16内に案内されるようになっている。上記扉15は、上記処置室出入口57を開閉するようにボディ12に開閉自在に取り付けられている。
【0021】
扉15は、上部扉58と下部扉59とを備えている。上部扉58と下部扉59とは連動して作動するが、上部扉58は処置室出入口57の上部を開閉し、下部扉59は処置室出入口57の下部を開閉する。ボディ12は、その上面部60(具体的には、ボディ12の天井角部)にフレーム61、62を備えている。すなわち、このフレーム61、62に外板部材としてのFRPが張り付けられている。各フレーム61、62は、例えば構造用炭素鋼等が採用され得る。
【0022】
図4は、図3の要部拡大図であって、上部扉58とボディ12との連結構造を詳細に示している。上部扉58は、フレーム63と、これに設けられた外板部材64とを備えている。このフレーム63も構造用炭素鋼からなり、外板部材64はFRPから構成され得る。同図が示すように、上部扉58は、ヒンジ65(第1ヒンジ機構)を介してボディ12に取り付けられている。具体的には、上部扉58は、その上縁が処置室出入口57の上縁に沿うように配置されており、上記ヒンジ65を中心にして回動自在となっている。
【0023】
図3が示すように、この上部扉58は、ダンパ66を備えている。このダンパ66は、チューブ67及びロッド68を有し、ロッド68は、チューブ67から常時突出するようにチューブ67内に組み付けられている。図4が示すように、チューブ67の端部69は、上記フレーム61に回動自在に連結されている。チューブ67とフレーム61とは、例えばピンにより結合されている。また、上記ロッド68の端部70は、上記フレーム63に対して回動自在に連結されている。このロッド68が連結される部分は、板材等により補強がなされていることが望ましい。チューブ67とフレーム63とは、例えばピンにより結合されている。したがって、上部扉58は、ダンパ66によって開く方向に常時付勢されていることになる。
【0024】
下部扉59は、フレーム72と、これに設けられた外板部材73とを備えている。フレーム72は構造用炭素鋼からなり、外板部材73はFRPから構成され得る。同図が示すように、下部扉59は、ヒンジ74(第2ヒンジ機構)を介して上部扉58に取り付けられている。具体的には、下部扉59は、その上縁75が上部扉58の下縁76に沿うように配置されており、上記ヒンジ74を中心にして回動自在となっている。
【0025】
下部扉59は、平衡ロッド71を備えている。この平衡ロッド71は、下部扉59の所定部と、上記フレーム61とを連結している。平衡ロッド71の両端部は、それぞれ下部扉59のフレーム72及び上記フレーム61に回動自在に連結されている。下部扉59と平衡ロッド71との連結部分には、補強部材81が設けられていることが望ましい。この補強部材81は、図3では明確に図示されていないが、下部扉59のフレーム72に固定されている。平衡ロッド71と下部扉59及びフレーム61との連結構造としては、例えばピン結合が採用され得る。したがって、上部扉58が開閉されると、これに連動して下部扉59も上記ヒンジ74を中心に回動されるが、平衡ロッド71によって下部扉59の姿勢は、常時垂下するように矯正されることになる。
【0026】
換言すれば、上記ダンパ66及び平衡ロッド71は、扉15が開閉される際に扉15の姿勢を変化させるリンク機構77を構成している。すなわち、扉15がボディ12に対して閉じられ、上記処置室出入口57を閉じる閉じ姿勢と、上記処置室出入口57を開く開放姿勢との間で当該扉15は自在に姿勢変化する。
【0027】
さらに詳しくは、開放姿勢となっている扉15において(図3参照)、下部扉59が下方へ引っ張られると、上部扉58がヒンジ65を中心にして左側へ回動する。上部扉58の回動角度に応じて下部扉59が回動するが、上記平衡ロッド71によって下部扉59は垂下した状態が維持される。したがって、上部扉58が回動することによって、上部扉58及び下部扉59が一直線上に並ぶこととなり、これにより、上記処置室出入口57が閉じられる。
【0028】
また、閉じ姿勢となっている扉15において(図3参照)、下部扉59が下方へ持ち上げられると、上部扉58がヒンジ65を中心にして右側へ回動する。上部扉58の回動角度に応じて下部扉59が回動するが、上記平衡ロッド71によって下部扉59は垂下した状態が維持される。したがって、上部扉58が回動することによって、下部扉59が上部扉58に対してL字状に屈曲することとなり、これにより、上記処置室出入口57が開かれる。本実施形態では、上記平衡ロッド71が設けられることにより、扉15が開放姿勢となったときに、下部扉59の高さH(下部扉59の下縁と地面との距離)は、1900mmとなる。この高さHは、上記平衡ロッド71の長さ及び両端の取付位置によって変化する。ただし、平衡ロッド71の長さ及び両端の取付位置は、上記高さHが1900mm以上、特に1950mm以上2100mm以下となるように設定されるのが好ましい。
【0029】
なお、下部扉59は、内側に収納箱82が設けられている。この収納箱82は、FRPや鋼板等により構成され得る。この収納箱82には、種々の救命救急用具が収納される。これにより、処置室16内での救命救急作業が円滑に行われる。
【0030】
また、図3が示すように、ボディ12の一部を構成するサイドスカート78は、ステップを兼ねている。具体的には、このサイドスカート78は、その下端部80が車体フレーム13側に設けられた取付フレーム79に回動自在に設けられている。サイドスカート78は、例えば鋼板等により構成され得るが、FRPにより構成さえていてもよい。このサイドスカート78は、常時は閉じられることによりボディ12の一部を構成するが、同図が示すように展開されることによって、救急隊員は、このサイドスカート78上に乗り、種々の作業を行うことができる。
【0031】
図5は、上記ボディ12内に区画形成された処置室16の正面図である。図6及び図7は、それぞれ、この処置室16の平面図及び後面図である。なお、これら図5〜図7は、処置室16の構造を詳細に図示するため、ボディ12の隔壁50以後の部分の図示は省略されている。さらに、図8〜図10は、この処置室16の斜視図である。
【0032】
図5及び図7が示すように、この処置室16内の前後方向寸法Aは2640mm、幅方向(左右方向)寸法Bは1730mm、高さ方向(上下方向)寸法Cは1751mmに設定されている。もっとも、各寸法A、B、Cは、かかる寸法に限定されるものではなく、寸法Aについては、2500mm〜2850mm、寸法Bについては、1600mm〜1890mm、寸法Cについては、1600mm〜1900mmの範囲で決定され得る。より好ましくは、寸法Aについては、2600mm〜2850mm、寸法Bについては、1650mm〜1890mm、寸法Cについては、1650mm〜1850mmの範囲で決定され得る。処置室16内の寸法がこのように決定されることによる作用効果については、後述される。
【0033】
処置室16の内部レイアウトは、図8〜図10が示すとおりである。具体的には、上記扉15が設けられた側に患者用ベッド17が設けられている。この患者用ベッド17は、前述のベッド支持機構18(図3、図7参照)に支持されている。ベッド支持機構18は、スライド機構27を備えている。このスライド機構27は、患者用ベッド17を図7及び図3において左右にスライドさせることができる。
【0034】
ベッド支持機構18は、図3が示すように内側支持リンク28と、外側支持リンク29と、これらに連結されたスライドレール30とを備えている。一方、患者用ベッド17は、ベッド本体31と、これを支持するベース32とを備えている。このベース32は、スライドレール30の上に載置されている。本実施形態では、このスライドレール30は、一般に市販されているものが採用されている。
【0035】
内側支持リンク28及び外側支持リンク29はそれぞれ同一形状を呈し、それらの基端部33、34が車体フレーム13側に回動自在に連結されている。なお、本実施形態では、内側支持リンク28及び外側支持リンク29は、直接車体フレーム13に取り付けられておらず、図示されていないブラケット等を介して車体フレーム13側に連結されている。内側支持リンク28及び外側支持リンク29は、図示されていないモータ等によって駆動される。これにより、内側支持リンク28及び外側支持リンク29は、図7における二点鎖線が示す位置から実線が示す位置まで回動する。
【0036】
内側支持リンク28及び外側支持リンク29が、図7において実線によって示される位置まで回動されたときは、これら内側支持リンク28及び外側支持リンク29の先端部35、36は、上記ベース32の下面に当接する(図3参照)。これにより、ベース32が内側支持リンク28及び外側支持リンク29によって安定的に支持され、ベッド本体31は、水平状態が保たれる。
【0037】
図7〜図10が示すように、患者用ベッド17の側方(右側)に救急隊員が待機することができるスペース20(第1隊員スペース)が形成されている。救急隊員は、このスペース20内で患者を待機し、搬入された患者に対して迅速に救命行為を行うことができる。救急隊員は、前述のスライド扉19を開放することによって、このスペース20に容易に出入りすることができる。本実施形態では、このスペース20に、救急隊員用シート21が設置されている。この救急隊員用シート21は、折り畳み式であるのが好ましい。
【0038】
患者用ベッド17の前方にも救急隊員が待機することができるスペース22(第2隊員スペース)が形成されている。救急隊員は、このスペース22内で患者を待機し、搬入された患者に対して迅速に救命行為を行うことができる。本実施形態では、このスペース22に、救急隊員用シート23が設置されている。この救急隊員用シート23は、折り畳み式であるのが好ましい。なお、処置室16には、付添人用シート51が設けられている。この付添人用シート51も折り畳み式であることが望ましい。
【0039】
図6が示すように、患者用ベッド17の前方近傍、具体的には患者用ベッド17に横たわる救急患者の頭部の近くに、蘇生機材が集中配置されている。蘇生機材としては、酸素ボンベ37、心電図モニター38、吸引器その他の蘇生器具である。なお、この処置室16内には、スクープストレッチャー39、サブストレッチャー40、空気呼吸器41等も配置されている。なお、心電図モニター38は、同図が示すように回転可能に設けられているのが好ましい。これにより、救急隊員は、蘇生措置を施しながら心電図を見ることができる。
【0040】
図8〜図10が示すように、処置室16の前方には連通路24が設けられている。この連通路24は、上記キャビン14内に設けられた運転室と処置室16とを連通する。この連通路24に扉やカーテン等が設けられていてもよい。
【0041】
この緊急自動車10は、図示されていないエアコンディショナーを備えている。図8及び図10が示すように、処置室16の前方上部及び前方下部にそれぞれ空気吹出口25、26が設けられている。空気吹出口25は、エアコンディショナーが特にクーラーとして使用されるときの空気吹出口であり、空気吹出口26は、エアコンディショナーが特にヒーターとして使用されるときの空気吹出口である。このように各空気吹出口25、26が処置室16の前部に配置されていることから、エアコンディショナーが作動した場合には、処置室16内の空気は、前方から後方へ流れることになる。
【0042】
本実施形態に係る緊急自動車10では、ボディ12の側面に扉15が設けられているから、図7が示すように、この扉15が開かれることによって救急患者Kは処置室16に搬入される。この扉15は二分割されており、上部扉58が上方に回動起立したときは、下部扉59は下方に倒伏するように回動する。すなわち、扉15は、下部扉59が下方に垂下するようにL字状に屈曲され、これにより、処置室出入口57が開放される。このように扉15がヒンジ65、74を介して屈折することにより、上記処置室出入口57が開閉されるので、仮に、処置室出入口57が大きく形成された場合であっても扉15はコンパクトに開かれる。つまり、扉15が大形であっても迅速且つコンパクトに開閉されるので、救急患者の搬入がスムーズに行われる。
【0043】
上記ヒンジ65は、上部扉58の上縁をボディ12の上面部60に支持する構造であるから、上記処置室出入口57がきわめて大きくなり得る。具体的には、処置室出入口57の上縁がボディ12の側面上縁と一致することも可能である。これにより、救急患者の処置室16への搬入が一層容易になる。
【0044】
特に、本実施形態では、上記扉15は、開放姿勢となったときでも下部扉59の下縁の高さHが1900mm以上となる。このため、救急隊員が頭部を扉15に衝突させることがないし、座位の救急患者Kもスムーズに処置室16に搬入される。
【0045】
また、この緊急自動車10では、処置室16の室内寸法が前述の範囲に設定されているから、救急隊員にとって救命作業をするために十分なスペースが確保される。すなわち、処置室16の室内寸法が上記範囲に設定されることにより、図7が示すように、救急隊員Mは、救急患者Kへの心臓マッサージや救命器具の設置等の作業を容易に行うことができる。しかも、処置室16の室内寸法が上記範囲に設定されるのであれば、緊急自動車10の車体寸法も大幅に増大することはなく、緊急自動車がコンパクトに設計され得るという利点がある。この利点は、緊急自動車としてはきわめて大きい。なぜなら、緊急自動車は、狭い路地でも進入することができるからである。
【0046】
また、上記処置室16は、緊急自動車10の運転室と連通されていることから、救急隊員Mは、運転室から直接に処置室16に移動することができる。これにより、救急隊員Mは、一層迅速な救命作業が可能である。
【0047】
さらに、上記処置室16内には、前述された位置に空気吹出口25、26が設けられていることから、処置室16の前後方向に空気の流れが発生する。具体的には、処置室16内の空気は、前方から後方へ、すなわち患者の頭部から足部へ流れる。これにより、仮に患者から異臭等が発生している場合であっても、処置室16は快適な状態に保たれる。その結果、救急隊員Mの救命作業に支障を来すことはない。
【0048】
この緊急自動車10では、患者用ベッド17の側方に上記スペース20が設けられているので、救急隊員Mが常時待機することができ、しかも必要なときに迅速な救命処置を行うことができる。特に処置室16に搬入された救急患者Kに対して心臓マッサージ等が迅速に行われる。また、上記患者用ベッド17の前方にスペース22が設けられているので、救急患者Kの頭部近傍に救急隊員Mが常時待機し且つ救命行為を行うことができる。特に処置室16に搬入された救急患者Kに対して人工呼吸等が迅速に行われる。したがって、救命作業がシステマチックに行われ、迅速で効果的な救命作業が実現される。
【0049】
上記処置室16内には、患者用ベッド17の前方近傍に蘇生機材が集中配置されているので、搬入された救急患者Kに対して蘇生機材が迅速に取り付けられる。したがって、一刻を争う蘇生措置が円滑に行われるという利点がある。
【0050】
上記患者用ベッド17は、上記スライド機構27によって処置室16内で左右方向にスライドされ得る。これにより、当該救急患者Kは、救急隊員Mが作業しやすい位置にベッドごと移動され、救急隊員Mは、一層迅速且つ円滑に救命作業を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、消防機能と救急機能とを備えた緊急自動車に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る緊急自動車の正面図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る緊急自動車の裏面図である。
【図3】図3は、図1におけるIII−III断面を表す図である。
【図4】図4は、図3における要部拡大図である。
【図5】図5は、本発明の一実施形態に係る緊急自動車の処置室の正面図である。
【図6】図6は、本発明の一実施形態に係る緊急自動車の処置室の平面図である。
【図7】図7は、本発明の一実施形態に係る緊急自動車の処置室の後面図である。
【図8】図8は、本発明の一実施形態に係る緊急自動車の処置室の斜視図である。
【図9】図9は、本発明の一実施形態に係る緊急自動車の処置室の斜視図である。
【図10】図10は、本発明の一実施形態に係る緊急自動車の処置室の斜視図である。
【符号の説明】
【0053】
K・・・救急患者
M・・・救急隊員
10・・・緊急自動車
11・・・車両本体
12・・・ボディ
13・・・車体フレーム
14・・・キャビン
15・・・扉
16・・・処置室
17・・・患者用ベッド
18・・・ベッド支持機構
19・・・スライド機構
20・・・スペース
21・・・救急隊員用シート
22・・・スペース
23・・・救急隊員用シート
24・・・連通路
25・・・空気吹出口
26・・・空気吹出口
27・・・スライド機構
28・・・内側支持リンク
29・・・外側支持リンク
30・・・スライドレール
31・・・ベッド本体
32・・・ベース
33・・・基端部
34・・・基端部
35・・・先端部
36・・・先端部
37・・・酸素ボンベ
38・・・心電図モニター
39・・・スクープストレッチャー
40・・・サブストレッチャー
41・・・空気呼吸器
45・・・最前部
46・・・窓
47・・・窓
48・・・ノブ
49・・・ノブ
50・・・過気宇壁
51・・・付添人用シート
52・・・ホースカー
53・・・扉
54・・・ノブ
55・・・赤色回転灯
57・・・処置室出入口
58・・・上部扉
59・・・下部扉
60・・・上面部
61・・・フレーム
62・・・フレーム
63・・・フレーム
64・・・外板部材
65・・・ヒンジ
66・・・ダンパ
67・・・チューブ
68・・・ロッド
69・・・チューブの端部
70・・・ロッドの端部
71・・・平衡ロッド
72・・・フレーム
73・・・外板部材
74・・・ヒンジ
75・・・上縁
76・・・下縁
77・・・リンク機構
78・・・サイドスカート
79・・・取付フレーム
80・・・下端部
81・・・補強部材
82・・・収納箱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディ内部に救急患者を収容する処置室が区画形成されると共に消防機能をも有する緊急自動車であって、
上記ボディの側面に処置室出入口及び当該処置室出入口を開閉する開閉扉が設けられ、
当該開閉扉は、上記処置室出入口の上部を開閉する上部扉及び上記処置室出入口の下部を開閉する下部扉とを有し、
上記上部扉の上縁は、第1ヒンジ機構を介して上記処置室出入口の上縁に沿って上記ボディに回動自在に支持され、上記下部扉の上縁は、第2ヒンジ機構を介して上記上部扉の下縁に沿って当該上部扉に回動自在に支持されている緊急自動車。
【請求項2】
第1ヒンジ機構は、上部扉の上縁をボディの上面部に連結するものである請求項1に記載の緊急自動車。
【請求項3】
上部扉の回動角度に応じて下部扉を回動させ、上部扉及び下部扉が一直線上に並ぶことによって処置室出入口を閉じる閉じ姿勢と、下部扉が上部扉に対してL字状に屈曲することによって処置室出入口を開く開放姿勢との間で、開閉扉の姿勢を変化させるリンク機構が設けられている請求項1又は2に記載の緊急自動車。
【請求項4】
リンク機構は、開閉扉が開放姿勢となったときに下部扉の下縁が地面から1900mm以上となるように当該開閉扉の姿勢を変化させる請求項3に記載の緊急自動車。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−174976(P2006−174976A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370282(P2004−370282)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000192073)株式会社モリタ (80)
【Fターム(参考)】