説明

総合ビタミン液剤

【課題】 室温で長期間保存してもビタミン含量の低下が少なく、保存安定性に優れ、かつ投与時の調製操作が容易な、13種の必須ビタミン類を含む総合ビタミン液剤の提供。
【解決手段】
3つの密封容器に13種の必須ビタミン類を分別して充填した溶液I、溶液IIおよび溶液IIIからなる水溶液製剤であって、溶液IはpH4以下に調整され、溶液IIはpH4〜8に調整され、溶液IIIはpH5〜8に調整されており、溶液IIIに含有される脂溶性ビタミンは界面活性剤により可溶化されている総合ビタミン液剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、13種の必須ビタミン類を、3つの密閉容器に分別して充填することにより、室温で長期間安定に保つことが可能な総合ビタミン液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
必須ビタミン類は生体内で合成されないため、経口または経腸管栄養補給が困難な患者に対して、高カロリー輸液療法により患者に必要な他の必須成分と共に投与されている。一般にビタミン類は複数種が同時に投与されるため、複数種を配合するビタミン製剤が総合ビタミン製剤として実用化されてきた。しかし、ビタミン類には保管中の安定性の確保が難しいものもあるため、製剤の保存温度条件を冷蔵庫保存としたり、製剤を凍結乾燥製剤としたりして、製品化されている。さらに、13種の必須ビタミン類を配合する製剤は、すべてのビタミン類の安定性を保証することが困難となることより、不安定なビタミン類を除いた総合ビタミン製剤として開発されている製剤もある。
【0003】
現在開発されている13種の必須ビタミン類を配合した総合ビタミン製剤は、2つあるいは3つの容器に分容して製剤化されているが、水溶液状態で不安定なビタミン類であるビタミンB1、ビタミンB12、葉酸などは凍結乾燥製剤として製剤化されている。また、調整時の煩雑を減少する目的で13種の必須ビタミン類を1つの容器にまとめて凍結乾燥した製剤もある。しかし、このような凍結乾燥製剤は使用時に溶解作業が必要となり調整が煩雑となってしまう。一方、13種の必須ビタミン類を水溶液で複数の容器に配合した製剤(例えば、特許文献1参照)もあるが、これらの製剤は保存温度が冷所保存であったり、冷蔵庫保存であったりする。また、室温保存であったとしても有効期間が短く設定されるため保管管理の観点より好ましくない。
【0004】
このため、室温での保存安定性に優れた総合ビタミン水溶液製剤の開発が望まれている。
【特許文献1】特開2003-104910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、室温保存可能な総合ビタミン水溶液製剤の開発について鋭意研究を行った結果、本発明の総合ビタミン液剤が、室温での保存安定性に優れることを見出し、本発明を完成した。さらに、安定性が改善されたことで、注射製剤には必須条件である無菌化処理を蒸気等による加熱滅菌処理にて達成することが出来ることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
従って、本発明の目的は、室温での保存安定性に優れ、投与時の調整操作が容易な、総合ビタミン液剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、
(1) 3つの密封容器に13種の必須ビタミン類を分別して充填した下記溶液I、溶液IIおよび溶液IIIからなる水溶液製剤であって、溶液IはpH4以下に調整され、溶液IIはpH4〜8に調整され、溶液IIIはpH5〜8に調整されており、溶液IIIに含有される脂溶性ビタミンは界面活性剤により可溶化されている総合ビタミン液剤:
溶液I:ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6及びニコチン酸類、
溶液II:ビタミンC、ビタミンH及びパントテン酸、
溶液III:ビタミンA、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンD、ビタミンB12及び葉酸、
(2) 上記溶液I、溶液IIおよび溶液IIIが、下記組成範囲を有する(1)に記載の総合ビタミン液剤:
溶液I:ビタミンB1 1〜10mg
ビタミンB2 1〜10mg
ビタミンB6 1〜10mg
ニコチン酸類 10〜50mg
溶液II:
ビタミンC 25〜200mg
ビタミンH 0.01〜0.5mg
パントテン酸 1〜30mg
溶液III:
ビタミンA 1000〜5000IU
ビタミンE 5〜30mg
ビタミンK 0.5〜5mg
ビタミンD 50〜1000IU
ビタミンB12 0.001〜0.05mg
葉酸 0.1〜1mg、
(3) 上記3つの密閉容器への上記溶液I、溶液II及び溶液IIIの各液の充填量が0.5mL〜5mLである(1)乃至(2)に記載の総合ビタミン液剤、
(4) 上記溶液IIにさらに抗酸化剤を含有する(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の総合ビタミン液剤、
(5) 上記抗酸化剤が亜硫酸水素ナトリウムである(4)に記載の総合ビタミン液剤、
(6) 上記溶液IIIにさらにpH緩衝剤を含有する(1)乃至(5)のいずれか1項に記載の総合ビタミン液剤、
(7) 上記pH緩衝剤がリン酸水素ナトリウム類である(6)に記載の総合ビタミン液剤
及び
(8) 上記3つの密閉容器に上記溶液I、溶液IIおよび溶液IIIをそれぞれ充填した状態で、加熱滅菌処理を施されている(1)乃至(7)のいずれか1項に記載の総合ビタミン液剤
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の総合ビタミン液剤は、13種の必須ビタミン類を含む総合ビタミン液剤であって、室温で長期間保存してもビタミン含量の低下を少なくでき、保存安定性に優れ、安定性が改善されているので、注射製剤に必須条件である無菌化処理を蒸気滅菌処理等の加熱滅菌処理にて達成することができ、さらに液剤であるので投与時の調製操作が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の総合ビタミン液剤(以下、本発明の液剤と示す。)に含有される13種の必須ビタミン類とは、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE及ビタミンKの脂溶性ビタミンと、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンH、ニコチン酸類、パントテン酸及び葉酸の水溶性ビタミンをいう。
【0010】
本発明において、ビタミンAとしては、ビタミンA成分を含む酢酸レチノール、酪酸レチノール、パルミチン酸レチノール、3−デヒドロレチノール、ビタミンA油等が挙げられる。好ましくは、パルミチン酸レチノール又はビタミンA油である。
【0011】
本発明において、ビタミンDとしては、ビタミンD成分を含むエルゴカルシフェロール(ビタミンD2)、コレカルシフェロールとそのヒドロキシ誘導体(ビタミンD3)、エルゴステリン(プロビタミンD2)、デヒドロコレステリン(プロビタミンD3)等が挙げられる。好ましくは、エルゴカルシフェロール又はコレカルシフェロールである。
【0012】
本発明において、ビタミンEとしては、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール、ビタミンE成分を含む酢酸トコフェロール、コハク酸トコフェロールとそのカルシウム塩等が挙げられる。好ましくは、酢酸トコフェロールである。
【0013】
本発明において、ビタミンKとしては、ビタミンK成分を含むフェトナジオン(ビタミンK1)、フィロキノン(ビタミンK1)、メナテトレノン(ビタミンK2)、メナキノン(ビタミンK2)、メナジオン(ビタミンK3)等が挙げられる。好ましくは、メナテトレノンである。
【0014】
本発明において、ビタミンB1としては、チアミン、ビタミンB1の作用をもつ塩酸チアミン、硝酸チアミン、プロスルチアミン、アクトチアミン、フルスルチアミン、塩酸フルスルチアミン、チアミンジスルフィド、チアミンモノフォスフェイトジスルフィド、オクトチアミン、ベンフォチアミン等が挙げられる。好ましくは、塩酸チアミンである。
【0015】
本発明において、ビタミンB2としては、リボフラビン、ビタミンB2の作用を持つリン酸リボフラビンとそのナトリウム塩、塩酸リボフラビン、酪酸リボフラビン、フラビンモノヌクレオチド、フラビンアデニンジヌクレオチドとそのナトリウム塩等が挙げられる。好ましくは、リン酸リボフラビンである。
【0016】
本発明において、ビタミンB6としては、ピリドキシン、ビタミンB6の作用を持つ塩酸ピリドキシン、リン酸ピリドキシン、ピリドキサールとそのリン酸塩等が挙げられる。好ましくは、塩酸ピリドキシンである。
【0017】
本発明において、ビタミンB12としては、コバラミン、ビタミンB12の作用を持つシアノコバラミン、ヒドロキシコバラミン、酢酸ヒドロキシコバラミン、塩酸ヒドロキシコバラミン、メチルコバラミン等が挙げられる。好ましくは、シアノコバラミンである。
【0018】
本発明において、ビタミンCとしては、アスコルビン酸、ビタミンCの作用を持つアスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸ジパルミテート、アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩等が挙げられる。好ましくは、アスコルビン酸である。
【0019】
本発明において、ビタミンHとしては、ビオチン、ビオチンの作用を持つそのナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等が挙げられる。好ましくは、ビオチンである。
【0020】
本発明において、ニコチン酸類としては、ニコチン酸とそのアミド、ナトリウム塩、メチルエステル体等が挙げられる。好ましくは、ニコチン酸アミドである。
【0021】
本発明において、パントテン酸としては、パントテン酸やパントテン酸の作用を持つパントテン酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、パンテノール等が挙げられる。好ましくは、パンテノールである。
【0022】
本発明の液剤における、上記ビタミンの含有量は、特に限定されないが、以下の配合量が好ましい。
【0023】
ビタミンB1は、1〜10mgであり、さらに好適には、2〜6mgである。
【0024】
ビタミンB2は、1〜10mgであり、さらに好適には、2〜6mgである。
【0025】
ビタミンB6は、1〜10mgであり、さらに好適には、2〜6mgである。
【0026】
ニコチン酸類は、10〜50mgであり、さらに好適には、20〜45mgである。
【0027】
ビタミンCは、25〜200mgであり、さらに好適には、50〜110mgである。
【0028】
ビタミンHは、0.01〜0.5mgであり、さらに好適には、0.05〜0.15mgである。
【0029】
パントテン酸は、1〜30mgであり、さらに好適には、7〜16mgである。
【0030】
ビタミンAは、1000〜5000IUであり、さらに好適には、2000〜4500IUである。
【0031】
ビタミンEは、5〜30mgであり、さらに好適には、7〜16mgである。
【0032】
ビタミンKは、0.5〜5mgであり、さらに好適には、1.0〜2.5mgである。
【0033】
ビタミンDは、50〜1000IUであり、さらに好適には、200〜450IUである。
【0034】
ビタミンB12は、0.001〜0.05mgであり、さらに好適には、0.005〜0.015mgである。
【0035】
葉酸は、0.1〜1mgであり、さらに好適には、0.2〜0.5mgである。
【0036】
本発明の液剤の各密閉容器への充填量は、0.5〜5mLが好ましく、1〜2mLがより好ましい。
【0037】
本発明の液剤は、3つの密閉容器に分別して充填されているが、これら3つの密閉容器は、連通可能な隔離手段で隔てられており、連通後、溶液I、溶液IIおよび溶液IIIを外気にさらすことなく、使用時に混合して用いられる。
【0038】
本発明の液剤には、無菌化を目的とした滅菌処理を施すのが好ましく、上記3つの密閉容器に溶液I、溶液IIおよび溶液IIIをそれぞれ分別して充填した状態で、蒸気滅菌処理等の加熱滅菌処理を施すのが好ましい。
【0039】
種々のpHにおける13種のビタミン水溶液の安定性を比較したところ、ビタミンB1は酸性領域で安定であり、ビタミンCは中性領域で安定であった。さらに葉酸は溶解度の観点よりpH5以上が望ましかった。
【0040】
これらpH-水溶液安定性について得られた知見および同一溶液での配合が望ましくないビタミン類の組み合わせについての知見をもとに、本発明の液剤は、3つの条件に分類された溶液I、溶液IIおよび溶液IIIに分別されている。
【0041】
溶液Iは、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6及びニコチン酸類を含有し、pHを4以下に設定した液である。pHを4以下とすることにより、溶液Iは保存安定性に優れる。より好適には、pHは2.5〜3.5である。
【0042】
溶液IIは、ビタミンC、ビタミンH及びパントテン酸を含有し、pHを4〜8に設定した液である。pHを4〜8に設定することにより、溶液IIは保存安定性に優れる。より好適には、5.0〜7.0である。
【0043】
溶液IIIは、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンD、ビタミンB12および葉酸を含有し、pHを5〜8に設定した液である。pHを5〜8に設定することにより、葉酸の溶解性の低下を防ぐことが出来、溶液IIIは保存安定性に優れる。より好適には、5.5〜6.5である。
【0044】
上記のpHの調整には、生理的に許容できるものであれば特に限定されず、たとえば各種の有機酸、無機酸、有機塩基、無機塩基を使用することができ、具体的には、有機酸としては、クエン酸、酢酸、コハク酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸等が挙げられる。
【0045】
無機酸としては、塩酸、リン酸などを挙げることができる。
【0046】
有機塩基としてはクエン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、マレイン酸ナトリウム、マロン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0047】
無機塩基としては、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0048】
溶液IIは、ビタミンCを含有するが、ビタミンCは溶存酸素の影響を受け含量の低下を起こすことより、溶液IIには抗酸化剤を配合してもよい。
【0049】
抗酸化剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、EDTAナトリウム等が挙げられるが、これらの中でも好ましくは、亜硫酸水素ナトリウムである。
【0050】
抗酸化剤の含有量は、好ましくは、0〜1mgである。
【0051】
溶液IIIは、脂溶性ビタミンであるビタミンA、ビタミンE、ビタミンKおよびビタミンDを含有し、これら脂溶性ビタミンの水溶液化を達成するために、界面活性剤を含有する。
【0052】
界面活性剤としては、ポリオキシエチレン系の活性剤、例えば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(具体的には、例えば、日光ケミカルズ社製ポリソルベート80等)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(具体的には、例えば、日光ケミカルズ社製ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60等)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等が挙げられるが、これらの中でも、好ましくは、ポリソルベート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油である。
【0053】
界面活性剤の含有量は、通常0.1〜100g/Lである。
【0054】
溶液IIIは、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンD、ビタミンB12及び葉酸を含有し、葉酸の溶解性の観点よりpHは5以上であり、溶液IIIに含有されるビタミン類のpH-安定性を確保するためにpHの変動を極力最小限にすることが好ましい。このことから、溶液IIIにはpH緩衝剤を配合してもよい。
【0055】
pH緩衝剤としては、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、クエン酸、酢酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム等が挙げられるが、これらの中でも、中性領域に緩衝能力をもつリン酸二水素ナトリウムが好ましい。
【0056】
pH緩衝剤の含有量は、好ましくは、0〜10mgである。
【0057】
pH緩衝剤を含有することにより、本発明の液剤の保存中にpHの変動を抑制でき、さらに本発明の液剤の無菌化を目的とした滅菌処理によるpHの変動も抑制することが可能となる。
【0058】
本発明の液剤は、3つの密閉容器に、それぞれ3つの組成に分類した13種の必須ビタミンを充填したものである。密閉容器は、ガラス容器あるいはプラスチック容器でもよい。
【0059】
溶液IIおよび溶液IIIは、酸素を排除した状態で密閉充填されるように製造することが望ましい。例えば、充填する液剤の溶存気体は窒素などの不活性ガスで置換するとともに、充填した液剤のヘッドスペース部分も窒素などの不活性ガスで置換されている状態とするのが好ましい。プラスチック容器に充填した場合は、脱酸素剤などを外包装と直接容器との間に存在させ嫌気性条件を作り出す方法でも可能である。
【0060】
本発明の液剤の形態としては、注射製剤、輸液製剤、経口製剤、シロップ製剤、外用剤、点眼剤、保健機能食品(栄養機能食品)などが挙げられるが、注射剤および輸液製剤が好ましい。
【実施例】
【0061】
次に実施例を挙げて本発明を説明するが本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
<総合ビタミン液剤の保存安定性>
溶液Iの調整:後述する製剤例1溶液Iの組成の塩酸以外の成分を注射用水で溶解し、溶液を塩酸でpHを3.5に調整した後、注射用水を加えて全量を2mLとした。
【0062】
溶液IIの調整:後述する製剤例1溶液IIの組成の水酸化ナトリウム以外の成分を注射用水で溶解し、溶液を水酸化ナトリウムでpHを6.0に調整した後、注射用水を加えて全量を2mLとした。
【0063】
溶液IIIの調整:後述する製剤例1溶液IIIの組成の脂溶性ビタミンと界面活性剤を加熱攪拌し、ついで注射水を加えて可溶化後、水溶性ビタミンを溶解、塩酸と水酸化ナトリウムでpHを6.0に調整後、注射用水を加えて全量を2mLとした。
【0064】
調整した溶液I、溶液II、溶液IIIをそれぞれ、窒素で置換した容器に充填して密封し、50℃、40℃、25℃で、恒温槽に所定の時間保存後、各液剤のビタミンの残存率を測定した。結果を表1に示す。なお、表1に示す残存率は、保存開始前のビタミン含量を100%とした場合の残存率である。
【0065】
【表1】

表1に示すように、本発明の液剤は、室温で保存安定性に優れ、室温でも保存が可能であることを示した。
【0066】
(実施例2)
<溶液IIにおける抗酸化剤添加の効果>
溶液IIに含有しても良い抗酸化剤として亜硫酸水素ナトリムの添加の効果を、ビタミンCの安定性により測定した。
【0067】
後述する製剤例1溶液IIの成分から亜硫酸水素ナトリウムを除いた液剤と、製剤例1溶液IIの成分のまま亜硫酸水素ナトリウムを配合した液剤を調製し、窒素で置換した容器に充填して密封し、60℃の恒温槽に1週間保存後、ビタミンの残存率を測定した。
【0068】
それぞれの結果を表2に示す。
【0069】
なお、表中の「60℃、1週保存後の残存率」は、保存開始前のビタミン含量を100%とした場合の残存量である。
【0070】
(表2)
――――――――――――――――――――――――――
配合量 60℃、1週間保存後の残存率
配合なし 85%
0.3mg 95%
――――――――――――――――――――――――――
表2に示すように、亜硫酸水素ナトリム添加によりビタミンCの安定性が改善されていることが判る。
【0071】
(実施例3)
<溶液IIIにおけるpH緩衝剤添加の効果>
pH緩衝剤の添加効果を溶液III(脂溶性ビタミン溶液)のpH変動により測定した。
【0072】
後述する製剤例1溶液IIIの成分から、リン酸二水素ナトリウムを除いた液剤と、製剤例1溶液IIIの成分のままでリン酸二水素ナトリウムを配合した液剤とを、実施例1に記載の溶液IIIの調整と同様の方法で調整し、ついで、加熱滅菌処理を施した。
【0073】
加熱滅菌処理を行う前のpHと、滅菌後のpHとを測定した。また、滅菌後の液剤の溶状を、肉眼で観察した。それぞれの結果を表3に示す。
【0074】
なお、リン酸二水素ナトリウム配合の有無に関わらず、加熱滅菌前の液剤は澄明であった。
【0075】
(表3)
配合量 滅菌前のpH 滅菌後のpH 滅菌後の溶状
―――――――――――――――――――――――――――――
配合なし 6.6 5.2 白濁(沈殿生成)
0.8mg 6.5 6.1 透明
―――――――――――――――――――――――――――――
本発明の総合ビタミン液剤の製剤例を以下にしめす。
【0076】
(製剤例1)
溶液I
塩酸チアミン 5.0 mg
塩酸ピリドキシン 5.0 mg
ニコチン酸アミド 40 mg
リン酸リボフラビン 5.0 mg
塩酸 pH 3.5
――――――――――――――――――――
注射用水にて全量 2.0 mL。
溶液II
アスコルビン酸 100 mg
パンテノール 15 mg
ビオチン 0.1 mg
亜硫酸水素ナトリウム 0.3 mg
水酸化ナトリウム pH 6.0
――――――――――――――――――――
注射用水にて全量 2.0 mL。
溶液III
ビタミンA油 4000 IU
酢酸トコフェロール 15 mg
メナテトレノン 2.0 mg
コレカルシフェロール 400 IU
シアノコバラミン 0.01 mg
葉酸 0.4 mg
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60 50 mg
ポリオキシエレンポリオキシプロピレングリコール 10 mg
リン酸ニ水素ナトリム・無水 0.8 mg
塩酸/水酸化ナトリウム pH 6.0
―――――――――――――――――――――――――――――――――−
注射用水にて全量 2.0 mL。
【0077】

以下に、溶液I、溶液II、溶液III、それぞれの製剤例を示すが、本発明の総合ビタミン液剤としては、上記製剤例1と下記製剤例のいずれの溶液I、溶液II、溶液IIIを組み合わせても、本発明の総合ビタミン液剤とすることもできる。
【0078】
(製剤例2)
溶液II
アスコルビン酸 100 mg
パンテノール 15 mg
ビオチン 0.1 mg
亜硫酸水素ナトリウム 0.3 mg
炭酸水素ナトリウム pH 6.0
――――――――――――――――――――
注射用水にて全量 2.0 mL。
【0079】
(製剤例3)
溶液III
パルミチン酸レチノール 4000 IU
酢酸トコフェロール 15 mg
メナテトレノン 2.0 mg
エルゴカルシフェロール 400 IU
シアノコバラミン 0.01 mg
葉酸 0.4 mg
ポリソルベート80 50 mg
ポリオキシエレンポリオキシプロピレングリコール 10 mg
リン酸ニ水素ナトリム・無水 0.8 mg
塩酸/水酸化ナトリム pH 6.0
――――――――――――――――――――――――――――――――
注射用水にて全量 2.0 mL。
【0080】
(製剤例4)
溶液I
塩酸チアミン 2.5 mg
塩酸ピリドキシン 2.5 mg
ニコチン酸アミド 20 mg
リン酸リボフラビン 2.5 mg
塩酸 pH 3.5
―――――――――――――――――――――
注射用水にて全量 1.0 mL。
【0081】
(製剤例5)
溶液II
アスコルビン酸 50 mg
パンテノール 7.5 mg
ビオチン 0.05 mg
亜硫酸水素ナトリウム 0.15 mg
水酸化ナトリウム pH 6.0
――――――――――――――――――――――
注射用水にて全量 1.0 mL。
【0082】
(製剤例6)
溶液III
ビタミンA油 2000 IU
酢酸トコフェロール 7.5 mg
メナテトレノン 1.0 mg
コレカルシフェロール 200 IU
シアノコバラミン 0.005 mg
葉酸 0.2 mg
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60 25 mg
ポリオキシエレンポリオキシプロピレングリコール 5.0 mg
リン酸ニ水素ナトリム・無水 0.4 mg
塩酸/水酸化ナトリウム pH 6.0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
注射用水にて全量 1.0 mL

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つの密封容器に13種の必須ビタミン類を分別して充填した下記溶液I、溶液IIおよび溶液IIIからなる水溶液製剤であって、溶液IはpH4以下に調整され、溶液IIはpH4〜8に調整され、溶液IIIはpH5〜8に調整されており、溶液IIIに含有される脂溶性ビタミンは界面活性剤により可溶化されている総合ビタミン液剤:
溶液I:ビタミンB1、
ビタミンB2、
ビタミンB6及び
ニコチン酸類、
溶液II:
ビタミンC、
ビタミンH及び
パントテン酸、
溶液III:
ビタミンA、
ビタミンE、
ビタミンK、
ビタミンD、
ビタミンB12及び
葉酸。
【請求項2】
前記溶液I、溶液IIおよび溶液IIIが、下記組成範囲を有する請求項1に記載の総合ビタミン液剤:
溶液I:ビタミンB1 1〜10mg
ビタミンB2 1〜10mg
ビタミンB6 1〜10mg
ニコチン酸類 10〜50mg
溶液II:
ビタミンC 25〜200mg
ビタミンH 0.01〜0.5mg
パントテン酸 1〜30mg
溶液III:
ビタミンA 1000〜5000IU
ビタミンE 5〜30mg
ビタミンK 0.5〜5mg
ビタミンD 50〜1000IU
ビタミンB12 0.001〜0.05mg
葉酸 0.1〜1mg。
【請求項3】
前記3つの密閉容器への前記溶液I、溶液II及び溶液IIIの各液の充填量が0.5mL〜5mLである請求項1乃至2に記載の総合ビタミン液剤。
【請求項4】
前記溶液IIにさらに抗酸化剤を含有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の総合ビタミン液剤。
【請求項5】
前記抗酸化剤が亜硫酸水素ナトリウムである請求項4に記載の総合ビタミン液剤。
【請求項6】
前記溶液IIIにさらにpH緩衝剤を含有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の総合ビタミン液剤。
【請求項7】
前記pH緩衝剤がリン酸水素ナトリウム類である請求項6に記載の含有する総合ビタミン液剤。
【請求項8】
前記3つの密閉容器に前記溶液I、溶液IIおよび溶液IIIをそれぞれ充填した状態で、加熱滅菌処理を施されている請求項1乃至7のいずれか1項に記載の総合ビタミン液剤。



【公開番号】特開2006−143599(P2006−143599A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−331489(P2004−331489)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000001856)三共株式会社 (98)
【Fターム(参考)】