説明

縮合複素環化合物の製造方法

【課題】一般式(3)で表される化合物(安定化剤)の含有量を低減した縮合複素環化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される縮合複素環化合物を、一般式(3)で表される安定化剤の存在下に一般式(2)で表されるエーテル系溶媒を用いて製造した後、アセトニトリルを30%以上含有する再結晶溶媒にて再結晶精製することを特徴としている。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンスの材料として用いることのできる縮合複素環化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式(1)で表される縮合複素環化合物は、有機電子材料、特に有機エレクトロルミネッセンス材料において広く用いられており、高純度を必要とされる化合物である。高純度に精製する方法としては、カラムクロマトグラフィー、再結晶、昇華等の操作が一般的であり、有機エレクトロルミネッセンス材料となる化合物の原料やハロゲン中間体といった不純物の含有量を低減させた高純度の材料を提供する製造方法は、既に幾つか報告されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0003】
【化1】

【0004】
〔但し、一般式(1)において、Wは、酸素原子、硫黄原子又は―NRn(Rnは、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す)を表す。Z1及びZ2は、それぞれ独立に芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。Ra及びRbは、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。
また、一般式(2)において、R1及びR2は、アルキル基又はアリール基を表し、R1とR2が互いに環を形成していてもよい。
さらに、一般式(3)において、Rxは、アルキル基、アルコキシ基又はヒドロキシル基を表し、Ryは、アルキル基を表す。nは、0から4の整数を表す。〕
【0005】
一般式(1)で表される縮合複素環化合物に由来する不純物以外にも、製造工程の一部で、一般式(2)で表されるエーテル系溶媒を使用することが多い。かかるエーテル系溶媒は、光や酸素に曝されると、爆発性の高い過酸化物が生成することが知られている。そのため、一般に入手できるほとんどのエーテル系溶媒には、過酸化物の生成を抑えるために、一般式(3)で表わされる安定化剤(安定剤、酸化防止剤とも呼ばれる)化合物が添加されている。かかる安定化剤は、一般式(2)で表されるエーテル系溶媒中で発生したラジカルを捕捉して過酸化物の生成を抑制するラジカル捕捉剤として機能する。
【0006】
前記した安定化剤の多くは2,6−ジ−tert−ブチルヒドロキシトルエン(BHT)やヒドロキノン(HQ)である。一般式(1)で表される縮合複素環化合物はこれらの安定化剤との相互作用が非常に強く、これを包含しやすい性質を有するため、単純な精製操作だけでは安定化剤を除去することはできない。従って、一般式(2)で表されるエーテル系溶媒に含まれる安定化剤の当初の含有量が100〜300ppm程度であったとしても、縮合複素環化合物の製造にあたって安定化剤を含むエーテル系溶媒を使用すると、当該溶媒を濃縮する過程で安定化剤が蓄積し、縮合複素環化合物中には、最終的に100〜1000ppm程度残存することになる。これらの安定化剤はフェノール構造を有しているため、数十ppmでも有機エレクトロルミネッセンス素子内に含有されると、素子性能を大幅に劣化させる。そのため、可能な限り含有量を減量させる必要がある。
【0007】
なお、一般式(1)で表される縮合複素環化合物は溶媒に対する溶解度が低いため、極性の高い溶媒、特にエーテル系溶媒にしか溶解しないものが多い。そのため、一般式(1)で表される縮合複素環化合物を製造する際の反応、処理、精製工程において、一般式(2)で表されるエーテル系溶媒の使用は避けられない。
【0008】
安定化剤を含有しないエーテル系溶媒を入手することも可能ではあるが、過酸化物が生成する前に短期間で使い切ってしまう必要があり、また、操作中も爆発のおそれがあるため、研究室レベルでの少量使用の場合は別として、工業的な大量生産には不向きである。
【0009】
そのため、一般式(1)で表される縮合複素環化合物は、製造後に安定化剤を除去する精製を行う必要がある。精製方法として再結晶やクロマトグラフィーが挙げられる。なお、再結晶では、再結晶用の溶媒としてトルエン、キシレン、ヘキサン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール等の単一又は混合溶媒が使われるが、これらの溶媒だけでは、安定化剤の数ppmオーダーまでの除去はできていなかった。
【0010】
一般式(3)で表される安定化剤を除去する方法として再結晶やクロマトグラフィーのほかに、水との接触あるいはゼオライト等の吸着剤による吸着除去が知られているが(特許文献4、特許文献5)、一般式(1)で表される縮合複素環化合物については、吸着精製だけでは安定化剤が除去できないことが分かった。また、安定化剤の多くは昇華しやすい性質があり、昇華精製時に除去が可能な場合もあるが(特許文献6)、一般式(2)で表されるエーテル系溶媒は昇華精製時に150〜200℃の範囲で融解するものが多く、飛散した安定化剤が融解した一般式(1)で表される縮合複素環化合物中に包含されてしまう可能性が高いため、最終生成物において、安定化剤の含有量を数ppmオーダーまで除去することは非常に困難であった。
【0011】
なお、純度測定に用いられる高速クロマトグラフィーでは、安定化剤の感度が非常に低く、50ppm以下は正確に測定することができない。そのため、従来の精製方法では安定化剤が除去できておらず、実際には安定化剤を数十ppm以上含有しているものでも高純度材料と見なして有機エレクトロルミネッセンス素子に用いてしまうことがあり、安定化剤の影響による効率や寿命の劣化が原因で本来の性能を引き出せずに見落としてしまっていた縮合複素環化合物も少なくなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2005/084083号パンフレット
【特許文献2】特表2008−516421号公報
【特許文献3】特表2010−509775号公報
【特許文献4】特開平3−47514号公報
【特許文献5】特開2003−26619号公報
【特許文献6】特開2000−95838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
一般式(3)で表される化合物(安定化剤)の含有量を低減した縮合複素環化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題に対して鋭意研究開発した結果、再結晶操作において、従来の精製方法では用いられることがなかったアセトニトリルを用いることによって安定化剤を効率よく除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
1.一般式(1)で表される縮合複素環化合物を、一般式(3)で表される安定化剤の存在下に一般式(2)で表されるエーテル系溶媒を用いて製造した後、アセトニトリルを30%以上含有する再結晶溶媒にて再結晶精製することを特徴とする縮合複素環化合物の製造方法。
【0016】
【化2】

【0017】
〔但し、一般式(1)において、Wは、酸素原子、硫黄原子又は―NRn(Rnは、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す)を表す。Z1及びZ2は、それぞれ独立に芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。Ra及びRbは、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。
また、一般式(2)において、R1及びR2は、アルキル基又はアリール基を表し、R1とR2が互いに環を形成していてもよい。
さらに、一般式(3)において、Rxは、アルキル基、アルコキシ基又はヒドロキシル基を表し、Ryは、アルキル基を表す。nは、0から4の整数を表す。〕
【0018】
2.前記一般式(1)において、Wが、酸素原子又は硫黄原子であることを特徴とする1に記載の縮合複素環化合物の製造方法。
【0019】
3.前記再結晶溶媒が、アセトニトリルとトルエンの混合溶媒であることを特徴とする1又は2に記載の縮合複素環化合物の製造方法。
【0020】
4.前記一般式(1)において、Ra又はRbが、カルバゾール環基又はアザカルバゾール環基であることを特徴とする1から3のいずれか1つに記載の縮合複素環化合物の製造方法。
【0021】
5.前記一般式(3)が、下記一般式(4)で表される安定化剤であることを特徴とする1から4のいずれか1つに記載の縮合複素環化合物の製造方法。
【0022】
【化3】

【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、一般式(3)で表される化合物(安定化剤)の含有量を低減した縮合複素環化合物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る縮合複素環化合物の製造方法で製造した縮合複素環化合物を用いた有機EL素子の一例を説明する模式断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る縮合複素環化合物の製造方法で製造した縮合複素環化合物を用いた有機EL素子を備えて構成される表示装置の一例を示した模式図である。
【図3】図2に示す表示部Aの模式図である。
【図4】図3に示す画素の模式図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る縮合複素環化合物の製造方法で製造した縮合複素環化合物を用いたパッシブマトリクス方式フルカラー表示装置の分解斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る縮合複素環化合物の製造方法で製造した縮合複素環化合物を用いた有機ELフルカラー表示装置の概略断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る縮合複素環化合物の製造方法で製造した縮合複素環化合物を用いた照明装置の斜視図である。
【図8】図7のA−A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態(以下「実施形態」という)について詳細に説明する。
【0026】
《縮合複素環化合物の製造方法》
本発明の一実施形態に係る縮合複素環化合物の製造方法は、一般式(1)で表される縮合複素環化合物を、一般式(3)で表される安定化剤の存在下に一般式(2)で表されるエーテル系溶媒を用いて製造した後、アセトニトリルを30%以上含有する再結晶溶媒にて再結晶精製するというものである。
【0027】
【化4】

【0028】
但し、一般式(1)において、Wは、酸素原子、硫黄原子又は―NRn(Rnは、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す)を表す。
【0029】
なお、Rnで表わされるアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
【0030】
アリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0031】
ヘテロアリール基の例としては、ピリジン環基、カルバゾール環基、アザカルバゾール環基、フラン環基、ベンゾフラン環基、チオフェン環基、ベンゾチオフェン環基、ピロール環基、ピラゾール環基、イミダゾール環基、オキサジアゾール環基、インドール環基等が挙げられる。Rnとして好ましくは水素原子又はフェニル基である。
【0032】
一般式(1)において、Z1及びZ2は、それぞれ独立に芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。
【0033】
1及びZ2で表される芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンゾピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環等が挙げられる。
【0034】
1及びZ2で表される芳香族複素環としては、例えば、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、アザカルバゾール環(ここで、アザカルバゾール環とは、前記カルバゾール環を構成する炭素原子の1つ以上が窒素原子で置き換わったものを示す)、トリアゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環、シロール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾカルバゾール環、ベンゾジチオフェン環、フェナントロリン環、アクリジン環、ベンゾキノリン環、フェナジン環、サイクラジン環、キンドリン環、テペニジン環、キニンドリン環、トリフェノジチアジン環、トリフェノジオキサジン環、フェナントラジン環、アントラジン環、ナフトフラン環、ナフトチオフェン環、ベンゾジフラン環、ナフトジフラン環、ナフトジチオフェン環、アントラフラン環、アントラジフラン環、アントラチオフェン環、アントラジチオフェン環、チアントレン環、フェノキサチイン環、チオファントレン環(ナフトチオフェン環)、構成する炭素原子の1つ以上が窒素原子で置き換わったジベンゾフラン環、構成する炭素原子の1つ以上が窒素原子で置き換わったジベンゾチオフェン環から導出される芳香族複素環等が挙げられる。Z1及びZ2として好ましくは、ベンゼン環、カルバゾール環、アザカルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環であり、より好ましくは、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環である。
【0035】
一般式(1)において、Ra及びRbは、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。RaとRbは、同一でも異なっていてもよい。
【0036】
Ra及びRbで表される芳香族炭化水素基の例としては、ベンゼン環基、ナフタレン環基、アントラセン環基、フェナントレン環基、フルオレン環基等が挙げられ、好ましくはベンゼン環である。
【0037】
Ra及びRbで表される芳香族複素環基の具体例としては、前記Z1及びZ2で表される芳香族複素環基として挙げた例が挙げられ、好ましくは、カルバゾール環基、アザカルバゾール環基、ジベンゾフラン環基、ジベンゾチオフェン環基であり、より好ましくは、カルバゾール環基、アザカルバゾール環基である。
【0038】
Ra及びRbは、更に置換基で置換されていてもよい。置換基の具体例としては、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基等)、芳香族基(フェニル基、ナフチル基等)、複素環基(ピリジン環基、カルバゾール環基、アザカルバゾール環基、フラン環基、ベンゾフラン環基、チオフェン環基、ベンゾチオフェン環基、ピロール環基、ピラゾール環基、イミダゾール環基、オキサジアゾール環基、インドール環基等)、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、フッ素原子等)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基等)、アルコキシカルボニル基(メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基)、アリールオキシカルボニル基(フェニルオキシカルボニル基等)、アシル基(アセチル基、プロピオニル基、シクロヘキサノイル基、ベンゾイル基等)等を挙げることができる。また、これらの基はさらにこれらの基で置換されていてもよい。
【0039】
以下に一般式(1)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0040】
【化5】

【0041】
【化6】

【0042】
【化7】

【0043】
【化8】

【0044】
また、一般式(2)において、R1及びR2は、アルキル基又はアリール基を表し、R1とR2が互いに環を形成していてもよい。
【0045】
1及びR2で表されるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
【0046】
これらの基は更に置換基で置換されていてもよい。置換基の具体例としては、芳香族基(フェニル基等)、複素環基(ピリジル基、チアゾリル基、イミダゾリル基等)、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、フッ素原子等)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基等)、アルコキシカルボニル基(メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基)、アリールオキシカルボニル基(フェニルオキシカルボニル基等)、アシル基(アセチル基、プロピオニル基、シクロヘキサノイル基、ベンゾイル基等)等を挙げることができる。また、これらの基はさらにこれらの基で置換されていてもよい。
【0047】
以下に一般式(2)で表されるエーテル系溶媒の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
かかるエーテル系溶媒の具体例としては、ジエチルエーテル(R1=CH2CH3、R2=CH2CH3)、メチル−tert−ブチルエーテル(R1=CH3、R2=C(CH33)、ジイソプロピルエーテル(R1,R2=CH(CH32)、ジブチルエーテル(R1,R2=CH2CH2CH2CH3)、メトキシシクロヘキサン(R1=CH3、R2=C611)、テトラヒドロフラン(R1,R2=―(CH24―)、テトラヒドロピラン(R1,R2=―(CH25―)、ジフェニルエーテル(R1,R2=C65)、ブチルフェニルエーテル(R1=(n)CH2CH2CH2CH3、R2=C65)、エチレングリコールジメチルエーテル(R1=CH2CH2CH3,R2=CH3)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(R1,R2=CH2CH2OC49)等を挙げることができる。一般式(2)で表される溶媒として、好ましくはジイソプロピルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、テトラヒドロフランである。
【0048】
一般式(3)において、Rxは、アルキル基、アルコキシ基又はヒドロキシル基を表し、Ryは、アルキル基を表す。nは、0から4の整数を表す。
【0049】
Rxで表わされるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
Rxで表されるアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
Rxとして、好ましくはメチル基、メトキシ基、ヒドロキシル基であり、より好ましくはメチル基である。
【0050】
Ryで表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。好ましくは、tert−ブチル基である。
【0051】
以下に一般式(3)で表される安定化剤の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
かかる安定化剤の具体例としては、2,6−ジ−tert−ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ヒドロキノン(HQ)、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が挙げられる。
【0052】
再結晶溶媒は、アセトニトリルを体積比で30%以上含有している。再結晶溶媒におけるアセトニトリルの含有量は、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上である。アセトニトリルと組み合わせる溶媒としては、例えば、トルエン、メタノール、エタノール等が挙げられるが、アセトニトリルとトルエンを組み合わせると精製効率が高く、好ましい。
【0053】
本発明における再結晶操作は、例えば、一般式(1)で表される縮合複素環化合物をアセトニトリル以外の溶媒に溶解させた後、アセトニトリルを滴下して結晶を析出させる方法や、一般式(1)で表される縮合複素環化合物をアセトニトリルと他の溶媒との混合溶媒に溶解させた後に、冷却して結晶を析出させる方法や、一般式(1)で表される縮合複素環化合物をアセトニトリルとトルエンとの混合溶媒中で懸濁洗浄させる方法等の、一般的な方法でも行うことができる。
【0054】
析出した結晶は、濾過、遠心分離等により分離し、必要に応じて少量の冷溶媒で洗浄した後、乾燥することにより、精製された目的化合物(縮合複素環化合物)を得ることができる。
【0055】
なお、一般式(1)で表される縮合複素環化合物の最終物に含有される安定化剤含有量の正確な定量は、ガスクロマトグラフィーで行うことができる。
【0056】
以上に説明した本発明の一実施形態に係る縮合複素環化合物の製造方法は、アセトニトリルを30%以上含有する再結晶溶媒にて再結晶精製を行うため、一般式(2)で表されるエーテル系溶媒に含まれている一般式(3)で表される安定化剤を、後述する実施例に示す如く、効率よく除去することができる。そのため、本発明の一実施形態に係る縮合複素環化合物の製造方法で製造された縮合複素環化合物には、一般式(3)で表される安定化剤の含有量が10ppm以下に低減されている。
【0057】
従って、本発明の一実施形態に係る縮合複素環化合物の製造方法で製造された一般式(1)で表される縮合複素環化合物を用いて有機EL素子を作製すれば、当該縮合複素環化合物中の一般式(3)で表される安定化剤の含有量が低減されているので、電力効率と発光寿命に優れたものとすることができる。
また、一般式(1)で表される縮合複素環化合物は、パッシブマトリクス方式フルカラー表示装置、照明装置、有機ELフルカラー表示装置などにも用いることができ、前記と同様に、これらの装置について電力効率と発光寿命に優れたものとすることができる。
【0058】
《有機EL素子、パッシブマトリクス方式フルカラー表示装置、照明装置、有機ELフルカラー表示装置》
以下、図1〜7を参照して、一実施形態に係る縮合複素環化合物の製造方法で製造された、一般式(1)で表される縮合複素環化合物を用いて作製された有機EL素子、表示装置、パッシブマトリクス方式フルカラー表示装置、照明装置、有機ELフルカラー表示装置について説明する。
【0059】
(有機EL素子)
図1に示すように、有機EL素子10は、支持基板11と、支持基板11の上に形成される陽極12と、陽極12の上に形成される有機EL層13と、有機EL層13の上に形成される陰極14と、陰極14の上に形成される保護膜15または保護板と、光取り出し側に任意に設けられる集光シート(図示せず)と、これらを封止する封止部材(図示せず)とを含んでなる。
【0060】
有機EL層13は、具体的には以下のように構成することができるが、これらに限定されるものではない。
(i) 陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(ii) 陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(iii) 陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(iv) 陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
(v) 陽極/陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
(vi) 陽極//正孔輸送層/陽極バッファー層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
(vii) 陽極/陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
【0061】
図1には、前記した有機EL層13の構成のうち、(v)に記載のものを示している。すなわち、陽極12と陰極14の間に、陽極12から順に陽極バッファー層131と、正孔輸送層132と、発光層133と、正孔阻止層134と、電子輸送層135と、陰極バッファー層136とを積層して構成されている。
【0062】
なお、複数の発光層が含まれる場合、当該発光層間に非発光性の中間層を有してもよい。また、前記層構成のうち、陽極及び陰極を除く発光層を含む有機化合物層を1つの発光ユニットとし、複数の発光ユニットを積層することが可能である。当該複数の積層された発光ユニットにおいては、発光ユニット間に非発光性の中間層を有していてもよく、更に中間層は電荷発生層を含んでいてもよい。
【0063】
かかる有機EL層13を有機EL素子10に用いる場合、当該有機EL層13は白色発光層とするのが好ましい。白色発光層とすれば、照明装置(図1に図示せず)に好適に用いることができる。照明装置については後述する。
【0064】
前記(i)〜(vii)で例示した構成のうち、一実施形態に係る縮合複素環化合物の製造方法で製造された一般式(1)で表される縮合複素環化合物は、一般式(3)で表される安定化剤の含有量が低減されているため、発光層133に好適に用いることができる。
【0065】
発光層133は、発光ホストと、蛍光ドーパントや燐光ドーパントといった発光ドーパントとを含んで構成されるが、これらの中でも、一般式(1)で表される縮合複素環化合物は、発光ホストとして好適に用いることができる。なお、一般式(1)で表される縮合複素環化合物は、電子輸送層135の材料として用いることも可能である。
【0066】
有機EL素子10のその他の構成、例えば、陽極バッファー層131(正孔注入層)、正孔輸送層132、正孔阻止層134、電子輸送層135、陰極バッファー層136(電子注入層)、陽極12、陰極14、保護膜15(保護板)、支持基板11、集光シートおよび封止部材や、発光ドーパント等の材料は、例えば、特許文献1に記載されているような公知のものを用いることができる。また、有機EL素子10は、当該特許文献1に記載の製造方法によって製造することができる。
【0067】
(表示装置)
図2に示す表示装置20は、携帯電話等のディスプレイであり、前述した有機EL素子10(図2に図示せず、図1参照)を用いて構成され、複数の画素21(図3参照)を有する表示部Aと、表示部Aと電気的に接続された制御部Bとを備えて構成されている。かかる表示装置20は、有機EL素子10の発光により画像情報の表示を行う。
【0068】
制御部Bは、画像情報に基づいて表示部Aの画像走査等を行う。具体的には、制御部Bは、複数の画素21それぞれに外部からの画像情報に基づいて走査信号と画像データ信号を送り、走査信号により走査線毎の画素が画像データ信号に応じて順次発光して画像走査を行って画像情報を表示部Aに表示する。
【0069】
図3に示すように、表示部Aは、支持基板11上に、複数の走査線22およびデータ線23を含む配線部と、複数の画素21等とを有する。表示部Aの主要な部材の説明を以下に行う。なお、図3においては、画素21の発光した光が白矢印方向(下方向)へ取り出される場合を示している。
【0070】
配線部の走査線22及び複数のデータ線23はそれぞれ導電材料からなり、走査線22とデータ線23は格子状に直交して、直交する位置で画素21に接続している(詳細は図示していない)。
【0071】
画素21は、走査線22から走査信号が印加されると、データ線23から画像データ信号を受け取り、受け取った画像データに応じて発光する。発光の色が赤領域の画素、緑領域の画素、青領域の画素を適宜同一の支持基板11上に並置することによって、フルカラー表示が可能となる。
【0072】
図4に示すように、画素21は、一般式(1)で表される縮合複素環化合物を含む有機EL素子10、スイッチングトランジスタ24、駆動トランジスタ26、コンデンサ25、電源ライン27等を備えている。前記したように、複数の画素21に有機EL素子10として、赤色、緑色、青色発光の有機EL素子10を用い、これらを同一の支持基板11上に並置することでフルカラー表示を行う。
【0073】
図4において、制御部B(図2参照)からデータ線23を介してスイッチングトランジスタ24のドレインに画像データ信号が印加される。そして、制御部Bから走査線22を介してスイッチングトランジスタ24のゲートに走査信号が印加されると、スイッチングトランジスタ24の駆動がオンし、ドレインに印加された画像データ信号がコンデンサ25と駆動トランジスタ26のゲートに伝達される。
【0074】
画像データ信号の伝達により、コンデンサ25が画像データ信号の電位に応じて充電されるとともに、駆動トランジスタ26の駆動がオンする。駆動トランジスタ26は、ドレインが電源ライン27に接続され、ソースが有機EL素子10の電極に接続されており、ゲートに印加された画像データ信号の電位に応じて電源ライン27から有機EL素子10に電流が供給される。
【0075】
制御部Bの順次走査により走査信号が次の走査線22に移ると、スイッチングトランジスタ24の駆動がオフする。ここで、スイッチングトランジスタ24の駆動がオフしてもコンデンサ25は充電された画像データ信号の電位を保持するので、駆動トランジスタ26の駆動はオン状態が保たれて、次の走査信号の印加が行われるまで有機EL素子10の発光が継続する。順次走査により次に走査信号が印加されたとき、走査信号に同期した次の画像データ信号の電位に応じて駆動トランジスタ26が駆動して有機EL素子10が発光する。
【0076】
すなわち、有機EL素子10の発光は、複数の画素それぞれの有機EL素子10に対して、アクティブ素子であるスイッチングトランジスタ24と駆動トランジスタ26を設けて、複数の画素21それぞれの有機EL素子10の発光を行っている。このような発光方法はアクティブマトリクス方式と呼ばれている。
【0077】
ここで、有機EL素子10の発光は、複数の階調電位を持つ多値の画像データ信号による複数の階調の発光でもよいし、2値の画像データ信号による所定の発光量のオン、オフでもよい。また、コンデンサ25の電位の保持は次の走査信号の印加まで継続して保持してもよいし、次の走査信号が印加される直前に放電させてもよい。
【0078】
表示装置20は、上述したアクティブマトリクス方式に限られず、走査信号が走査されたときのみデータ信号に応じて有機EL素子10を発光させるパッシブマトリクス方式の発光駆動でもよい。
【0079】
また、表示装置20は単色でも多色でもよい。多色表示装置の場合は、発光層133(図1参照)形成時のみシャドーマスクを設け、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等で膜を形成できる。
【0080】
発光層133のみパターニングを行う場合、その方法に限定はないが、好ましくは蒸着法、インクジェット法、スピンコート法、印刷法である。
【0081】
表示装置20に具備される有機EL素子10の構成は、必要に応じて前記した有機EL素子10の構成例の中から選択できる。なお、有機EL素子10の製造は、公知の手法、例えば、特許文献1に記載されている手法で行うことができる。
【0082】
得られた多色表示装置に直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として電圧2〜40V程度を印加すると発光が観測できる。また、逆の極性で電圧を印加しても電流は流れずに発光は全く生じない。更に交流電圧を印加する場合には、陽極が+、陰極が−の状態になったときのみ発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0083】
多色表示装置は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。表示デバイス、ディスプレイにおいて、青、赤、緑発光の3種の有機EL素子を用いることによりフルカラーの表示が可能となる。
【0084】
表示デバイス、ディスプレイとしては、テレビ、パソコン、モバイル機器、AV機器、文字放送表示、自動車内の情報表示等が挙げられる。特に静止画像や動画像を再生する表示装置として使用してもよく、動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。
【0085】
発光光源としては、家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
(パッシブマトリクス方式フルカラー表示装置)
図5に示すように、パッシブマトリクス方式フルカラー表示装置50は、複数の走査線22と複数の画像データ線23が有機EL素子10を含んで構成される画素21(図3、図4参照)を挟んで対向して格子状に設けられている。
【0087】
パッシブマトリクス方式フルカラー表示装置50は、順次走査により走査線22の走査信号が印加されたとき、印加された走査線22に接続している画素21が画像データ信号に応じて発光する。かかるパッシブマトリクス方式フルカラー表示装置50では、画素21にアクティブ素子が無いため、低コスト化を図ることができる。
【0088】
(有機ELフルカラー表示装置)
図6に示すように、有機ELフルカラー表示装置60は、支持基板11と、支持基板11上に形成される陽極12と、陽極12の上に形成される陽極バッファー層(正孔注入層)131と、陽極バッファー層131の上に形成される発光層133B、133G、133Rと、発光層133B、133G、133Rを隔てる隔壁61と、これらの上に形成される陰極14とで構成されている。
【0089】
なお、隔壁61は、非感光性ポリイミド等で形成することができる。
また、発光層133B、133G、133Rは、それぞれ公知の青色発光層組成物、緑色発光層組成物、赤色発光層組成物を含んでなる。そのため、有機ELフルカラー表示装置60は、それぞれの電極に電圧を印加することにより青色、緑色、赤色の発光を示し、フルカラー表示することができる。
【0090】
(照明装置)
図7に示す照明装置70は、ガラスケース71とガラス基板72内に前記した有機EL素子10(図8参照)を固設している。かかる有機EL素子10には、共振器構造を持たせることができる。共振器構造を有した有機EL素子10は、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等として使用することができる。
【0091】
また、有機EL素子10は、レーザー発振をさせることにより上記用途に使用することもでき、照明用や露光光源のような一種のランプとして使用してもよく、画像を投影するタイプのプロジェクション装置や、静止画像や動画像を直接視認するタイプの表示装置(ディスプレイ)として使用してもよい。
【0092】
動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は、単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。または、異なる発光色を有する本発明の有機EL素子を2種以上使用することにより、フルカラー表示装置を作製することが可能である。
【0093】
有機EL素子10に用いられる材料は、実質的に白色の発光を生じる有機EL素子(白色有機EL素子ともいう)に適用できる。また、複数の発光材料により複数の発光色を同時に発光させて混色により白色発光を得ることもできる。複数の発光色の組み合わせとしては、青色、緑色、青色の3原色の3つの発光極大波長を含有させたものでもよいし、青色と黄色、青緑と橙色等の補色の関係を利用した2つの発光極大波長を含有したものでもよい。
また、複数の発光色を得るための発光材料の組み合わせは、複数のリン光または蛍光で発光する材料を複数組み合わせたもの、蛍光またはリン光で発光する発光材料と、発光材料からの光を励起光として発光する色素材料との組み合わせたもののいずれでもよいが、白色有機EL素子においては、発光ドーパントを複数組み合わせて混合したものでもよい。
【0094】
照明装置70に用いられる有機EL素子10の発光層133、正孔輸送層132あるいは電子輸送層135(いずれも図1参照)等の形成時のみマスクを設け、マスクにより塗り分ける等単純に配置するだけでよく、他層は共通であるのでマスク等のパターニングは不要であり、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等で例えば電極膜を形成でき、生産性も向上する。この方法によれば、複数色の発光素子をアレー状に並列配置した白色有機EL装置と異なり、有機EL素子10自体が白色を発光する。
【0095】
発光層133に用いる発光材料としては、本発明の製造方法で製造された、一般式(1)で表される縮合複素環化合物であれば特に制限はなく、例えば、液晶表示素子におけるバックライトであれば、CF(カラーフィルター)特性に対応した波長範囲に適合するように、公知の金属錯体、また公知の発光材料の中から任意のものを選択して組み合わせて白色化すればよい。
以上に説明した白色有機EL素子を用いれば、実質的に白色の発光を生じる照明装置70を作製することが可能である。
【0096】
有機EL素子10を備えた照明装置70の一態様を図8に示す。
図8に示すように、陽極12(図8において図示せず)を形成した支持基板11と、有機EL層13と、陰極14とを含む有機EL素子10が、シール材73(例えば、エポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B))によって封止用のガラス基板72上に固定されている。ガラス基板72に固定された有機EL素子10は、ガラス基板72と封止部材であるガラスケース71と、シール材73とによって封止されている。シール材73は、有機EL素子10の固定に使用したものと同じものを用いることができる。なお、ガラスケース71の内部は、有機EL素子10を大気に接触させないようにするため窒素ガス74が充填されている。そのため、ガラスケース71での封止作業は、窒素雰囲気下のグローブボックス(純度99.999%以上の高純度窒素ガスの雰囲気下)内で行うのが好ましい。また、ガラスケース71の内部には捕水剤75が設けられている。
【実施例】
【0097】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0098】
安定化剤量の定量及び各化合物の純度の測定は、ガスクロマトグラフィーを用いて行った。測定装置は島津製作所製のGC−14A型ガスクロマトグラフを用いた。カラムはキャピラリーカラムDB−1、キャリアーガスはヘリウム(流量1mL/分)を使い、カラム温度80℃、試料注入部及び検出部(FID)の温度を150℃に設定した。試料は酢酸エチルに対して1質量%となるように調整し、得られた溶液1μLを注入して測定した。
【0099】
また、安定化剤の定量に用いる検量線は次のようにして測定した。安定化剤を1ppm、5ppm、10ppm、50ppmずつ含有する酢酸エチル溶液をそれぞれ準備し、検量線用サンプルとした。この検量線用サンプルの測定を2回ずつ行い、ピーク面積の平均値を求めた。次に、測定サンプルを2回測定してピーク面積の平均値を求め、検量線に基づいて測定サンプル中の安定化剤の濃度を求めた。
【0100】
〔実施例1〕化合物1の合成・精製
(1−1)化合物1の合成
【0101】
【化9】

【0102】
300mLの3口フラスコに、化合物A(15.0g)、カルバゾール(13.1g)、銅粉(13.6g)、炭酸カリウム(14.8g)、ジメチルスルホキシド(150mL)を入れ、窒素置換を行った。140℃で20時間かき混ぜた後に、室温まで放冷させた。反応溶液にテトラヒドロフラン(BHT200ppm含有)100mLを加え、飽和食塩水50mLで3回洗浄した。得られた有機層から溶媒を減圧留去した。残った固体(化合物1の粗結晶)は14.7g(粗収率82%)であった。
【0103】
(1−2)化合物1の精製
化合物1の粗結晶14.7gに、塩化メチレン10mLとアセトニトリル30mL(アセトニトリル75%)の混合溶媒を入れて、65℃に加熱して溶解させた後に40℃まで冷却した。再び60℃に加熱した後、50℃で1時間、30℃で1時間、20℃で1時間かき混ぜ、析出した固体をろ過した(収率70%)。BHT残存量をガスクロマトグラフィーで測定したところ、3ppm以下であった。化合物1の純度は99.85%であった。
【0104】
〔比較例A〕化合物1の比較例(比較化合物1c)の精製
化合物1の粗結晶14.7gに、塩化メチレン15mLとヘプタン30mLの混合溶媒で加熱して溶解させた後に冷却し、固体をろ別した(収率85%)。BHT残存量をガスクロマトグラフィーで測定したところ、115ppmであった。化合物1(以下、比較化合物1c)の純度は99.54%であった。
【0105】
〔比較例B〕化合物1の比較例(比較化合物1c−M)の精製
化合物1の粗結晶14.7gに、塩化メチレン25mLを加え溶解させた。ここに、ゼオライト(モレキュラーシーブス5A)50gを添加し、室温で2時間かき混ぜた。ゼオライトをろ別し、溶媒を減圧留去した(収率85%)。BHT残存量をガスクロマトグラフィーで測定したところ、153ppmであった。化合物1(以下、比較化合物1c−M)の純度は99.21%であった。
【0106】
〔実施例2〕化合物5の合成・精製
(2−1)化合物5の合成
(中間体5の合成)
【0107】
【化10】

【0108】
300mLの3口フラスコに、化合物B(15.0g)、カルバゾール(5.82g)、銅粉(5.8g)、炭酸カリウム(7.4g)、ジメチルスルホキシド(150mL)を入れ、窒素置換を行った。140℃で20時間かき混ぜて放冷した。反応溶液にメチル−tert−ブチルエーテル100mLを添加し、飽和食塩水50mLで3回洗浄した。有機層から溶媒を減圧留去した。残った固体(中間体5の粗結晶)の粗収率は85%であった。
【0109】
【化11】

【0110】
300mLの3口フラスコに、中間体5(12.0g)、化合物C(10.4g)、炭酸カリウム(5.1g)、ジメチルスルホキシド(120mL)を入れ、窒素置換を行った。ここに、Pd(dppf)(1.8g)を添加し、90℃で3時間加熱した。放冷後、反応溶液にテトラヒドロフラン100mL(BHT200ppm含有)を添加し、飽和食塩水50mLで3回洗浄した。有機層から溶媒を減圧留去した。残った固体(化合物5の粗結晶)は12.9g(粗収率78%)であった。
【0111】
(2−2)化合物5の精製
化合物5の粗結晶12.9gにトルエン25mLを加えて溶解した後にアセトニトリル15mL(アセトニトリル37.5%)を加えて60℃に加熱し、粗結晶を溶解した。40℃に放冷した後、再び60℃に加熱した。その後、40℃で2時間、室温で2時間かき混ぜ、析出した固体をろ過した(収率80%)。BHT残存量をガスクロマトグラフィーで測定したところ、6ppmであった。化合物5の純度は99.88%であった。
【0112】
〔比較例C〕化合物5の比較例(比較化合物5c)の精製
化合物5の粗結晶12.9gに塩化メチレン10mLを加えて溶解した後に、イソプロピルアルコール15mLを加えて冷却し、固体をろ別した(収率92%)。BHT残存量をガスクロマトグラフィーで測定したところ、95ppmであった。化合物5(以下、比較化合物5c)の純度は、99.62%であった。
【0113】
〔実施例3〕化合物25の合成・精製
(3−1)化合物25の合成
【0114】
【化12】

【0115】
300mLの3口フラスコに、化合物D(10.4g)、化合物E(9.7g)、炭酸カリウム(7.8g)、ジメチルスルホキシド60mLを入れ、窒素置換を行った。ここに、Pd(dppf)(2.8g)を添加し、90℃で3時間加熱した。放冷後、反応溶液にテトラヒドロフラン(BHT200ppm含有)200mLを添加し、飽和食塩水50mLで3回洗浄した。有機層から溶媒を減圧留去した。残った固体(化合物25の粗結晶)は14.0g(粗収率89%)であった。
【0116】
(3−2)化合物25の精製
化合物25の粗結晶14.0gにジメトキシエタン25mLを加えて溶解した後に、アセトニトリル15mL(アセトニトリル37.5%)を加えて60℃に加熱し、粗結晶を溶解した。40℃に放冷した後、再び60℃に加熱した。その後、40℃で2時間、室温で2時間かき混ぜ、析出した固体をろ過した(収率75%)。BHT残存量をガスクロマトグラフィーで測定したところ、5ppmであった。化合物25の純度は99.85%であった。
【0117】
〔実施例4〕化合物31の合成・精製
(4−1)化合物31の合成
【0118】
【化13】

【0119】
300mLの3口フラスコに、m−ジブロモベンゼン(5.0g)、化合物D(20.5g)、炭酸カリウム(7.62g)、ジメチルスルホキシド(50mL)を入れ、窒素置換を行った。ここに、Pd(dppf)(2.8g)を添加し、90℃で6時間加熱した。放冷後、反応溶液にテトラヒドロフラン(BHT200ppm含有)100mLを添加し、飽和食塩水50mLで3回洗浄した。有機層から溶媒を減圧留去した。残った固体(化合物31の粗結晶)は12.7g(粗収率81%)であった。
【0120】
(4−2)化合物31の精製
化合物31の粗結晶12.7gに、ジイソプロピルエーテル(ヒドロキノン200ppm含有)130mLを加えて加熱し、溶解した後に、1時間かけて放冷し、析出した固体をろ過した。得られた固体に、トルエン30mLとアセトニトリル30mL(アセトニトリル50%)を加え、65℃に加熱して溶解させた後に、40℃に冷却し、結晶が析出した。この溶液を60℃に加熱して結晶を溶解させてから、1時間かけて放冷し、さらに、10℃で2時間かき混ぜて、析出した結晶をろ過した。化合物31は8.6g(全体収率55%)であった。BHT及びヒドロキノンの残存量をガスクロマトグラフィーで測定したところ、それぞれ5ppm、3ppmであった。化合物31の純度は99.90%であった。
【0121】
〔比較例D〕化合物31の比較例(比較化合物31c)の精製
化合物31の粗結晶8.6gに酢酸エチル30mLとアセトニトリル10mL(アセトニトリル25%)を加えて溶解した後に冷却した(収率90%)。BHT残存量及びヒドロキノン残存量をガスクロマトグラフィーで測定したところ、それぞれ75ppm、80ppmであった。化合物31の純度は、99.70%であった。
また、再結晶後の化合物31を用いてさらに昇華精製を行った(300℃/2.0×10-3Pa)。昇華精製後の化合物31に含有するBHT残存量は48ppmであり、ヒドロキノン残存量は59ppmであった。化合物31(以下、比較化合物31c)の純度は99.78%であった。
【0122】
〔実施例4〕素子評価
以上に説明した各化合物(一般式(1)で表される化合物)をホストとして用いた素子評価の実施例を以下に示す。実施例4で用いる前記した以外の化合物の構造は下記の通りである。
【0123】
【化14】

【0124】
≪有機EL素子1−1の作製≫
陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITO(インジウムチンオキシド)を100nm成膜した基板(NHテクノグラス社製NA45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
【0125】
この透明支持基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、一方のモリブデン製抵抗加熱ボートにHT−30を200mg入れ、別のモリブデン抵抗加熱ボートにHT−2を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートに比較化合物1cを200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにcDP−1とcHS−1をそれぞれ200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにET−8を200mg入れ、さらに別のモリブデン製抵抗加熱ボートにET−7を200mg入れ、真空蒸着装置に取り付けた。
【0126】
次いで真空槽を4×10-4Paまで減圧した後、HT−30の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で透明支持基板に蒸着し、厚さ10nmの正孔注入層を設けた。
更にHT−2の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で前記正孔注入層上に蒸着し、厚さ30nmの正孔輸送層を設けた。
更にcHS−1とcDP−1の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、それぞれ蒸着速度0.1nm/秒、0.010nm/秒で前記正孔輸送層上に共蒸着し、厚さ40nmの発光層を設けた。
更にET−8の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で前記発光層上に蒸着し、厚さ10nmの正孔阻止層を設けた。
更にET−7の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で前記正孔阻止層上に蒸着し、厚さ30nmの電子輸送層を設けた。
引き続き、陰極バッファー層としてフッ化リチウムを0.5nmの厚さで蒸着し、更にアルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成し、有機EL素子1−1を作製した。
【0127】
≪有機EL素子1−2〜1−8の作製≫
有機EL素子1−1の作製において、比較化合物1cを表1に記載の他の化合物に変えた以外は同様にして有機EL素子1−2〜1−8を作製した。
【0128】
≪有機EL素子1−1〜1−8の評価≫
得られた有機EL素子を評価するに際しては、作製後の各有機EL素子の非発光面をガラスケースで覆い、ガラスケースと有機EL素子が作製されたガラス基板とが接触するガラスケース側の周囲にシール材としてエポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラクストラックLC0629B)を適用し、これを前記陰極側に重ねて前記透明支持基板と密着させ、ガラス基板側から有機EL素子を除いた部分にUV光を照射して硬化させ、封止して、図7、8に示すような照明装置を作製した。
【0129】
有機EL素子1−1〜1−8を用いて作製した各照明装置の電力効率、発光寿命及び発光色を次のようにして評価した。
【0130】
(電力効率)
分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング社製)を用いて、各有機EL素子の正面輝度及び輝度角度依存性を測定し、正面輝度1000cd/m2における電力効率を求めた。なお、電力効率は有機EL素子1−1の電力効率を100と設定する相対値で表した。電力効率が100を超えるものを優れると評価した。
【0131】
(発光寿命)
有機EL素子を室温下、2.5mA/cm2の定電流条件下による連続発光を行い、初期輝度の半分の輝度になるのに要する時間(τ1/2)を測定した。なお、発光寿命は有機EL素子1−1を100と設定する相対値で表した。発光寿命が100を超えるものを優れると評価した。
【0132】
(発光色)
2.5mA/cm2の定電流条件下における連続発光を行った際の発光色を目視で評価した。
【0133】
【表1】

【0134】
表1から明らかなように、一般式(1)で表される縮合複素環化合物を、一般式(2)で表されるエーテル系溶媒を用いて製造した後、アセトニトリルを30%以上含有する再結晶溶媒にて再結晶させる、本発明に係る縮合複素環化合物の製造方法によって製造されたホスト化合物(化合物1、5、25、31)は、当該製造方法によらないで製造されたホスト化合物(比較化合物1c、1c−M、5c、31c)に比べ、安定化剤の含有量が低いことが分かった。
また、化合物1、5、25、31を用いて作製した有機EL素子、すなわち照明装置は、比較化合物1c、1c−M、5c、31cを用いて作製した有機EL素子、すなわち照明装置に比べ、電力効率及び発光寿命に優れていることが分かった。
【符号の説明】
【0135】
10 有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)
11 支持基板
12 陽極
13 有機EL層
131 正孔注入層(陽極バッファー層)
132 正孔輸送層
133(133B、133G、133R) 発光層
134 正孔阻止層
135 電子輸送層
136 陰極バッファー層
14 陰極
15 保護膜(保護板)
20 表示装置
A 表示部
B 制御部
21 画素
22 走査線
23 データ線
24 スイッチングトランジスタ
25 コンデンサ
26 駆動トランジスタ
27 電源ライン
50 パッシブマトリックス方式フルカラー表示装置
60 有機ELフルカラー表示装置
61 隔壁
70 照明装置
71 ガラスケース
72 ガラス基板
73 シール材
74 窒素ガス
75 捕水剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される縮合複素環化合物を、一般式(3)で表される安定化剤の存在下に一般式(2)で表されるエーテル系溶媒を用いて製造した後、アセトニトリルを30%以上含有する再結晶溶媒にて再結晶精製することを特徴とする縮合複素環化合物の製造方法。
【化1】

〔但し、一般式(1)において、Wは、酸素原子、硫黄原子又は―NRn(Rnは、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す)を表す。Z1及びZ2は、それぞれ独立に芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。Ra及びRbは、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。
また、一般式(2)において、R1及びR2は、アルキル基又はアリール基を表し、R1とR2が互いに環を形成していてもよい。
さらに、一般式(3)において、Rxは、アルキル基、アルコキシ基又はヒドロキシル基を表し、Ryは、アルキル基を表す。nは、0から4の整数を表す。〕
【請求項2】
前記一般式(1)において、Wが、酸素原子又は硫黄原子であることを特徴とする請求項1に記載の縮合複素環化合物の製造方法。
【請求項3】
前記再結晶溶媒が、アセトニトリルとトルエンの混合溶媒であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の縮合複素環化合物の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(1)において、Ra又はRbが、カルバゾール環基又はアザカルバゾール環基であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の縮合複素環化合物の製造方法。
【請求項5】
前記一般式(3)が、下記一般式(4)で表される安定化剤であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の縮合複素環化合物の製造方法。
【化2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−60396(P2013−60396A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200026(P2011−200026)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】