説明

耐滑接地底

【課題】氷上及び水で濡れた床面だけでなく乾燥した床面でも耐滑性を発揮する靴底を提供する。
【解決手段】ゴム製接地底のクリート部分に織布または不織布をはめ込んだクリート接地部分とゴムのみのクリート接地部分とがそれぞれ存在するように配置してなる耐滑接地底において,織布または不織布をはめ込んだクリート接地部分の面積を,ゴムのみのクリート接地部分の面積より小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,耐滑接地底に関するものである。
【背景技術】
【0002】
氷上や水で濡れた床面での滑りや転倒は多く,従来から様々な工夫がなされている。例えば,氷上での滑り対策としては,金属または硬質プラスチック製スパイクなどを靴底にはめ込み,スパイク先端を氷の表面に食い込ませることによって,滑りを防止するものとか,セラミック,グラスウールなどの繊維状物質を靴底材に混入することによって,滑りを防止するものがある。また,水で濡れた床面での滑り対策としては,織布または不織布を靴底全面に貼り合わせたものがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の滑り対策は,各々の滑り対策としては効果があるものの,氷,水の両方共に効果をあげることはできなかった。スパイクは,硬質材料にすることによって,氷に食い込ませることで効果を発揮するため,通常のPタイル床やコンクリート床においては,逆に滑りやすくなったり,床を傷つけたりすることがあった。また,足裏に異物感を感じ,歩行しにくかった。セラミックやグラスウールも,床を傷つけたり,乾いた床面では滑りやすい点では同様であった。織布や不織布を貼り合わせた靴底は,氷上にしろ,水で濡れた床面にしろ,滑りの原因となっている靴底接地面との間にできた水膜を吸収し,靴底の摩耗抵抗低下を防止するという点では効果があるものの,乾燥したPタイル床などでは,逆に滑りやすいという問題があった。本発明は、氷上及び水で濡れた床面だけでなく,乾燥した床面でも耐滑性を発揮する靴底を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するために,本発明は,
(1) ゴム製接地底のクリート部分に織布または不織布をはめ込んだクリート接地部分とゴムのみのクリート接地部分とがそれぞれ存在するように配置してなる耐滑接地底において,織布または不織布をはめ込んだクリート接地部分の接地面積を,ゴムのみのクリート接地部分の接地面積より小さくする点に特徴を有し,
(2) (1)項記載の耐滑接地底において,織布または不織布をはめ込んだクリート接地部分の高さを,ゴムのみのクリート接地部分の高さより低くする点に特徴を有し,
(3) (1)項または(2)項記載の耐滑接地底において,クリート部分間を山形のひれで結ぶ点に特徴を有し,
(4) ゴム製接地底のクリート部分に織布または不織布をはめ込んだクリート接地部分とゴムのみのクリート接地部分とがそれぞれ存在するように配置してなる耐滑接地底において,織布または不織布をはめ込んだクリート接地部分の接地面積を,ゴムのみのクリート接地部分の接地面積より小さくし,織布または不織布をはめ込んだクリート接地部分の高さを,ゴムのみのクリート接地部分の高さより低くし,クリート部分間を山形のひれで結ぶ点に特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明は,叙上のように構成したから,次のような効果を奏する。
【0006】
(1) 織布または不織布をクリート部分の交互にはめ込んであるので,氷面や水で濡れた床面,乾いた床面の両方に耐滑性がある。
【0007】
(2) 織布または不織布をはめ込んだクリート接地部分の接地面積を,ゴムのみのクリート接地部分の接地面積より小さくすることにより,靴底の損耗のバランスがとれる。
【0008】
(3) 織布または不織布をはめ込んだクリート接地部分の高さを,ゴムのみのクリート接地部分の高さより低くすることにより,水のサクション効果を発揮させると同時に,織布または不織布の脱落,チッピングを防止し,靴底の損耗のバランスがとれる。
【0009】
(4) クリート部分間を山形のひれで結ぶことにより,水のかき出し効果が得られる。
【0010】
また,このひれは,接地底成形の際,ゴムの型流れを良くし,クリートの欠けを防止する効果もあり,欠けがないとクリート角部分が金型通りに再現できるので,益々クリートの角がエッジ効果を出し,耐滑性に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ゴム製接地底のクリート部分,即ち,底意匠を形成すべく靴底面から一体に突出した各突出部分に,織布または不織布をはめ込んだクリート接地部分と,ゴムのみのクリート接地部分とが,それぞれ存在するように配置する。織布または不織布には,あらかじめ接着剤を塗布し,ゴム製接地底の加硫成形と同時に接着する。加圧成形によりゴムが繊維の間から部分的に通過するため,接地底成形後に貼り合わせたものより接着強度が向上する。また,接着剤を使用することにより,ゴムとの接着が強固になり,成形後の脱型も容易になる。また,加圧成形によりゴムが繊維の間から部分的に通過するため,積層にありがちな脱落,チッピングが防止され,耐久性が向上する。
【0012】
クリート部分の損耗のバランスをとるために,織布または不織布をはめ込んだクリート接地部分の接地面積を,ゴムのみのクリート接地部分の接地面積より小さくする。これは,織布または不織布を接着剤により強固にゴムに接着しても,ゴムのみにくらべると,脱落,チッピングが起こりやすいためである。
【0013】
クリート部分の損耗のバランスをとるために,織布または不織布をはめ込んだクリート接地部分の高さを,ゴムのみのクリート接地部分の高さより1〜3mm低くする。靴を着用した初期には,クリート部分の角部分が鋭角のため,特にチッピングを起こしやすく,ゴムのみのクリート接地部分の高さより低くしておいた方がよい。
また,ゴムのみのクリート接地部分の高さより低くすることにより,サクション作用が起こりやすくなり,水を取り除く効果が得られやすい。1mm未満では,高さの差がなくなりすぎて効果が得にくい。3mmを超えると段差がありすぎて効果が得られにくいばかりでなく,安定感を欠き,かつ,ゴムのみ摩耗するので,耐久性も低下する。
【0014】
ゴムの硬さは低い程良いが,耐滑性の効果と成形性の点から45〜65Hs(JIS K 6301 スプリング式硬度計A形)のゴムを使用するのがよい。底意匠の隣接する織布または不織布をはめ込んだクリート接地部分及びゴムのみのクリート接地部分を山形のひれで結ぶ。これは,クリートの谷間への目詰まりを防止し,また,水を底面の外側へかき出す効果がある。織布または不織布には,ナイロン,ポリエステル,ポリウレタン,ポリアミド,ポリエチレンテレフタレートのような化学繊維,綿,麻,スフのような植物繊維,ウールのような動物繊維,レーヨンのような再生繊維を単独でまたは組み合わせて使用する。
【実施例】
【0015】
以下図1ないし図3にもとづいて本発明の実施例を説明すると,ポリエステル織布に接着剤を塗布する。次いで,接地底ゴム成形金型の各クリート部分のうちの任意のクリート部分,例えば,交互のクリート部分に,相当する形状,面積に合わせて上記ポリエステル織布を裁断する。次いで,接地底ゴム成形金型のクリート部分にポリエステル織布片3を配置する。配置作業終了後,靴底の容積に応じて裁断,計量した未加硫ゴム5を金型に配置する。次いで,所定条件によってゴム靴底1の成形を行う。すると,図1ないし図3に示すようにゴム靴底1の底面にポリエステル織布片3をはめ込んだクリート接地部分2と,ゴムのみのクリート接地部分4と,クリート部分間を結ぶ山形のひれ6とが同時成形される。
【0016】
上記の構成よりなる接地底の耐滑性について,乾燥したPタイル床及び氷上での滑りを体感で評価した実験結果を示すと,表1,表2の通りである。乾燥したPタイル床については,傾斜角度を変えられる歩行試験路上にPタイルを敷き,靴を履いて立ち,傾斜角度を変えていく。氷上については,−30℃の冷凍庫で24時間以上保管しておいた表面の平滑な氷を,約20℃の室温に5分程放置してから傾斜角度を変えられる歩行試験路上に置き,靴を履いて立ち,傾斜角度を変えていく。被験者3名(A,B,C)にて実験を実施。
試料には,
1 実施例図1に示すようなポリエステル織布片3をはめ込んだ接地底
2 上記1と同じ底意匠で接地部分全部がゴムのみの接地底
3 上記1と同じ底意匠で接地部分全部にポリエステル織布片3をはめ込んだ接地底
を使用し,いずれもゴムの硬さは54〜56Hs(JIS K 6301 スプリング式硬度計A形)とした。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【0019】
上記の実験結果をまとめると,次の通りである。乾燥したPタイル床では,ゴムのみと,織布片3を部分的にはめ込んだものがほぼ同等(ごくわずかにゴムのみのほうが滑りにくい)であり,織布片3を全部にはめ込んだものは滑った。氷上では,織布片3を部分的にはめ込んだものと,全部にはめ込んだものとが同等であり,ゴムのみは滑った。両方に効果があったのは,織布片3を部分的にはめ込んだものであった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る耐滑接地底の底意匠側の平面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 ゴム靴底
2 ポリエステル織布片をはめ込んだクリート接地部分
3 ポリエステル織布片
4 ゴムのみのクリート接地部分
5 ゴム
6 山形のひれ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム製接地底のクリート部分に織布または不織布をはめ込んだクリート接地部分とゴムのみのクリート接地部分とがそれぞれ存在するように配置してなる耐滑接地底において,織布または不織布をはめ込んだクリート接地部分の接地面積を,ゴムのみのクリート接地部分の接地面積より小さくしてなる耐滑接地底。
【請求項2】
織布または不織布をはめ込んだクリート接地部分の高さを,ゴムのみのクリート接地部分の高さより低くしてなる請求項1記載の耐滑接地底。
【請求項3】
クリート部分間を山形のひれで結んでなる請求項1または請求項2記載の耐滑接地底。
【請求項4】
ゴム製接地底のクリート部分に織布または不織布をはめ込んだクリート接地部分とゴムのみのクリート接地部分とがそれぞれ存在するように配置してなる耐滑接地底において,織布または不織布をはめ込んだクリート接地部分の接地面積を,ゴムのみのクリート接地部分の接地面積より小さくし,織布または不織布をはめ込んだクリート接地部分の高さを,ゴムのみのクリート接地部分の高さより低くし,クリート部分間を山形のひれで結んでなる耐滑接地底。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−26445(P2006−26445A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297857(P2005−297857)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【分割の表示】特願平9−268024の分割
【原出願日】平成9年9月12日(1997.9.12)
【出願人】(391009372)ミドリ安全株式会社 (201)
【Fターム(参考)】