説明

耐爆裂性に優れたコンクリート部材

【課題】 火薬などの爆発物の爆発から建造物の大規模な破壊を抑制するのみならず、爆発衝撃によるコンクリート破片の飛散を抑制することにより、建造物内部の人的被害を抑制できるコンクリートを提供すること。
【解決手段】 コンクリート部材の少なくとも片面に、引張強度1.5GPa以上で、かつ引張弾性率40GPa以上の高強力繊維からなるシートが貼り付けまたは埋設されてなることを特徴とする耐爆裂性に優れたコンクリート部材であり、高強力繊維からなるシートが、(イ)経緯ともに引張強力が200N/cm以上、伸度が10%以下、(ロ)経方向に対する緯方向の強力比率が0.5以上2.0以下、(ハ)経方向に対する緯方向の伸度比率が0.33以上3.0以下、を満足することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の柱、壁、梁などを構成するコンクリート部材に関し、特に火薬の爆破などによるコンクリート部材の破壊、建造物の崩壊を防ぐ技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンクリートやモルタルの耐爆裂性を改善する技術に関しては多数提案されているが、火災時などの高温環境下における耐爆裂性を改善しようとするもの(例えば特許文献1、2、3参照)、地震による急激な衝撃に対する構造物の破壊を防ごうとするもの(例えば特許文献4、5参照)、衝撃、衝突または発射体などに対する防護性能に関するもの(特許文献6参照)などであり、耐火薬爆裂性や耐人防護性の観点からの提案はなされていない。
近年、国家間や宗教、民族間などの対立により、地球上の各地で紛争が起り、爆弾、火薬などによる建造物の破壊が頻発しており、また、危険物が爆発する爆発事故などもある。爆発物がコンクリート近傍で爆発すると、そのエネルギーにより爆発側の表面とその裏側のコンクリート部が部分的に剥離する。その時に飛び散る破片のスピードは極めて速く、最悪の場合、剥離部の体積が大きいと主筋を拘束する力が失われるので、建造物の破壊にまで至る恐れもあり、爆発物に対する耐爆裂性や耐人防護性の観点からの提案が求められている。
【特許文献1】特開2002−193654号公報
【特許文献2】特開2002−326857号公報
【特許文献3】特開2004−026631号公報
【特許文献4】特開2000−192671号公報
【特許文献5】特開平11−031516号公報
【特許文献6】特表平11−512842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、火薬などの爆発物の爆発による建造物の大規模な破壊を抑制するのみならず、爆発衝撃によるコンクリート破片の飛散を抑制することにより、建造物内部の人的被害を防げるようなコンクリート部材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明は上記の課題を達成するために、以下の構成を採用するものである。
(1) コンクリート部材の少なくとも片面に、引張強度1.5GPa以上で、かつ引張弾性率40GPa以上の高強力繊維からなるシートが貼り付けまたは埋設されてなることを特徴とする耐爆裂性に優れたコンクリート部材。
(2) 高強力繊維からなるシートが以下の(イ)〜(ハ)の特性を有することを特徴とする(1)に記載の耐爆裂性に優れたコンクリート部材。
(イ)経緯ともに引張強力が200N/cm以上、伸度が10%以下。
(ロ)経方向に対する緯方向の強力比率が0.5以上2.0以下。
(ハ)経方向に対する緯方向の伸度比率が0.33以上3.0以下。
(3) コンクリート中に、引張強度1.5GPa以上、引張弾性率40GPa以上の高強力繊維からなる短繊維が、体積含有率 1.0%以上8.0%以下となるよう混入されていることを特徴とする(1) または(2)に記載の耐爆裂性に優れたコンクリート部材。
(4) 高強力繊維からなるシートが、織物または不織布であることを特徴とする(1) 〜(3) のいずれかに記載の耐爆裂性に優れたコンクリート部材。
(5) 高強力繊維からなるシートが、糸間隔が空いている二軸のメッシュ状のシートであり、その糸間隔が10mm以上、30mm以下であることを特徴とする(1) 〜(4)のいずれかに記載の耐爆裂性に優れたコンクリート部材。
(6) 高強力繊維からなるシートを、2枚以上重ねて貼り付けていることを特徴とする(1) 〜(5) のいずれかに記載の耐爆裂性に優れたコンクリート部材。
(7) シートを貼り付けたコンクリートの裏面に火薬100gを接触爆発させた際に、シートを貼り付けた側のコンクリート部分が剥落しないことを特徴とする(1)〜(6) のいずれかに記載の耐爆裂性に優れたコンクリート。
(8) 高強力繊維が、平均重合分子量100万以上、繊維密度0.95〜0.98g/cm3の超高分子量ポリエチレン繊維であることを特徴とする(1)〜(7) のいずれかに記載の耐爆裂性に優れたコンクリート部材。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、高強度繊維からなるシートがコンクリート構造部の少なくとも片面に貼り付けられるか、または埋め込まれているため、爆発物の爆発衝撃力に対するコンクリート建造物の破壊を抑制する効果が高い。すなわち、コンクリート建造物近くで爆発物が爆発すると、通常、コンクリート建造物は、爆発があった側の裏側の方がコンクリート剥離が大きくなるため、建造物内部にいる人物が負傷する危険性が高いが、本発明によれば、裏側のコンクリート剥離が抑制されるため、人的被害の低減やコンクリート建造物の崩壊防止に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のコンクリート部材は、高強力繊維からなるシートがコンクリート構造部の表面に貼り付けられるか、もしくは埋め込まれているために、爆発物の爆発衝撃力によるコンクリートの剥離体積を低減できる。
本発明におけるシートに使用される高強力繊維は、引張強度が1.5GPa以上、引張弾性率が40GPa以上の物性を有することが必要である。爆破衝撃力によってコンクリートが剥離する場合は、剥離する部分と基材との界面に急激な引張もしくはせん断力が発生するが、本発明のコンクリート部材においては、爆破衝撃力によるコンクリートの変形を、高強力繊維シートが押さえ込んで、破壊しない変形量内に剥離体積を低減する役割を果たす。このために高強力繊維に要求される物性は、破断しにくく、かつ伸びにくいという物性であり、破断のし難さが、コンクリートの剥離や破壊に対し、強大な抵抗となる。引張強度は1.5GPa以上が必要であるが、好ましくは2.5GPa以上である。また、伸びにくさは、コンクリートの変形を抑制する力となり、引張弾性率は40GPa以上が必要であるが、好ましくは70GPa以上である。
【0007】
本発明に使用される繊維の種類としては、上記引張強度と引張弾性率の値を満足するものであれば種類は問わない。この物性を満たす繊維としては、有機繊維では、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ビニロン繊維、無機繊維ではカーボン繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、金属繊維ではスチール繊維、ステンレス繊維などが挙げられる。その中で最も適しているのは、超高分子量ポリエチレン繊維である。この繊維は、アルカリ中でも安定であり、錆などの腐食もなく、強度や弾性率の値も高く、比重が小さいので軽量な構造物にすることができる。しかし、耐熱性は低いので、構造物を高圧釜にて高温で養生する場合などは、PBO繊維やアラミド繊維など耐熱性に優れた繊維を使用することが好ましい。
【0008】
シートの形状としては、織物や不織布、繊維を0°と90°方向に繊維どうしを交差することなく配列させたシート(一般にUDシートと呼ばれる)などが挙げられる。
織物としては、平織りや綾織、朱子織などの経糸と緯糸を交差させるパターンが多数あるが、作業性に支障がない限り、そのパターンを限定することはない。
また不織布としては、スパン糸をニードルや水流、空気流などにより糸を絡み合わせたタイプや長繊維をランダムに積層し押さえつけたタイプ(スパンボンド)のものや、メッシュ状に糸を一定の間隔に空く様に糸を配し、その糸に対し90°の角度を維持して糸が交互に上下に交差するように、且つ一定の間隔で空く様に糸を配し、有機系の樹脂で交点を固めたタイプなども挙げられる。
また60°の交差角度で繊維が三軸に配するようにされたシートも挙げられる。
一方向配列シートとしては、マルチフィラメントを開繊させながら一方向に繊維を並べ、その上に90°の角度をなすように、同様の方法で繊維を一方向に並べて積層して作られるシートが挙げられる。
【0009】
高強力繊維からなるシートの物性は、シートの経緯方向ともに、引張強度が少なくとも200N/cm以上であることが好ましく、より好ましくは250N/cm以上であり、且つ伸度も10%以下が好ましく、より好ましくは8%以下である。またシートは、経緯の強度がバランスして差が小さいことが好ましく、経緯の強度がバランスせずに差が大きいと、強い方向のみの補強効果が発現しても、弱い方向の補強効果が著しく損われてしまい、面でのコンクリートの変形を抑える効果が著しく損われてしまう結果になる。したがって、本発明に使用するシートは、経緯の物性において差が小さくバランスしていることが好ましく、経方向に対する緯方向の強度比率(緯強力/経強力)は0.5以上2.0以上であり、伸度においても経方向に対する緯方向の強度比率(緯伸度/経伸度)が、0.3以上3.0以下であること好ましい。
【0010】
本発明におけるシートの中で、メッシュ状のシートが好ましい。このメッシュ状シートは、糸間隔が5mm以上100mm以下であることが好ましく、より好ましくは10mm以上50mm以下である。糸間隔が広くなりすぎると、シート形状を保ち難くなり、取り扱い性が低下する傾向がある。また、繊維の断面形状としては、シートの厚みが薄くなりバインダーの使用量を減らすことが出来、交点の接着面積が増え、シート形状を維持しやすくなるため、繊維をある程度開繊させ扁平にした形状の方が好ましい。メッシュ状のシートが最も好ましい理由として、コンクリートやモルタル、有機系樹脂などのバインダーで接着する場合、空隙があるためシートの表裏にあるバインダーが接触し、付着強度が高くなる。付着強度が高くなると、シートの強度や弾性率を有効に利用することができ、コンクリートの変形抑制効果が発現されやすくなると考えられる。
【0011】
本発明におけるシートを既存のコンクリートに貼り付ける場合には、貼り付ける面をサンダー等ではつり、エポキシ樹脂など有機系樹脂バインダーやポリマーモルタルなどの無機バインダーなどで貼り付ける方法が挙げられる。サンダーなどで表面を荒らした後、有機系樹脂バインダーや無機バインダーを薄厚に塗り、その上にシートを貼り付け、更に有機系樹脂バインダーや無機バインダーを塗り重ね、シートを固定する方法が好ましい。この方法により、シートの表裏にあるバインダーが接触して硬化することで、接着力が高くなり、シートが強く固定できる。このときシートは複数枚に重ねて使用した方が高い性能が得られる。重ねる枚数としては、少なくとも2枚以上、多くとも8枚以内が好ましい。8枚を越えると、価格が高くなる問題がある。
【0012】
本発明において新たにコンクリートを作成する場合には、型枠にシートを複数枚重ねて固定し、その中にコンクリートを流し込む方法が採用できる。もちろん型枠に固定せず、コンクリートの養生が終了した後、シートを貼り付けても構わない。重ねる枚数としては、少なくとも2枚以上、多くとも8枚以内が好ましい。
【0013】
新たにコンクリートを作成する際に使用するセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸ポルトランドセメントなど使用することができるが、上記セメントに限定されず、様々なセメントを使用することが可能である。また、コンクリートペーストの流動性を高め、コンクリート強度を得るために、フライアッシュやシリカ、高炉スラグ微粉末などを使用することも可能である。
【0014】
本発明におけるコンクリートとしては、普通の生コンを使用することが可能であるが、短繊維入りのコンクリートを使用することが好ましい。短繊維を混入することで、モルタルの引張特性や曲げ特性が向上し、またタフネスも向上するので、爆破の際にコンクリート自身が破壊し難くなる効果が期待できるためである。混入する短繊維の特徴としては、引張強度が1.5GPa以上、引張弾性率は40GPa以上であることが好ましく、上記の高強力繊維を短繊維化したものを使用することができる。短繊維の引張特性は、コンクリートの引張性能や曲げ性能を向上と大きな関係があり、短繊維のそれらの値が高いほど、コンクリートの値も高くなる。
【0015】
また短繊維の混入率は1.0体積%以上であることが好ましい。繊維を混入する上限としては、繊維量を多くし過ぎるとダマや凝集が生じ、作業性が悪くなるなど、混入した分の効果が得られなくなるので、8.0体積%以下が好ましく、6.0体積%以下であることがより好ましい。短繊維の混入率が、少な過ぎるとコンクリートの引張特性や曲げ性能の向上があまり期待できなくなる。
短繊維入りのコンクリートを使用することで、埋設または貼り付けるシート枚数を減らすことができ、最低1枚からでも性能が期待できる。
【0016】
本発明のコンクリート部材を採用できるコンクリート建造物としては、マンションやビルなどの建物、倉庫などのコンテナ状のもの、道路や滑走路、港湾の岸壁や防波堤、一般に製造される二次製品などが挙げられるが、特に限定するものではなく、テロなど火薬爆破による脅威が想定されるような建造物に使用することができる。
【0017】
火薬などの爆発による爆発荷重を受ける建造物の局所的損傷を考えた場合、爆発源は大きく3つに分類できる。すなわち、建造物のごく至近距離で爆発する場合(近接爆発)、建造物表面で爆発する場合(接触爆発)および建造物部材内部で爆発する場合である。これらの中で、接触爆発は建造物の損傷評価を行う上で他の場合の基準として用いることができる。
【0018】
本発明の耐爆裂性に優れたコンクリートは、モデル的接触爆発試験で評価することができる。例えば、シートを貼り付けたコンクリートの裏面(シートを貼り付けてない面)に100gの火薬を直接接触するように設置して爆破(接触爆発)させ、シートを貼り付けた側のコンクリートが膨らみはしても剥落しないような特性を示すことができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
(有機繊維の物性測定)
マルチフィラメント状の有機繊維を、オリエンテック社製5tテンシロンを使用し、引張速度100mm/min、チャック間距離200mmで引張強度と引張弾性率を求めた。また、樹脂加工後の繊維チップの引張強度と引張弾性率についても、同様に測定した。
【0020】
(シートの引張試験)
シートを5cm幅の短冊状に裁断し、チャックに巻きつけ、端が滑らないように固定してオリエンテック社製5tテンシロンを使用して引張強力を測定した。測定条件は、引張速度100mm/min、チャック間距離200mmとした。また伸度については、シートが張った状態で、シートに標線を記入し、ビデオメジャーで測定した。
【0021】
(コンクリート供試体の作製)
表1に記載の配合で普通のポルトランドセメントと高炉スラグ微粉末、骨材を入れ空練30秒、水を加え90秒、更に繊維を加える場合はこの段階で繊維を加え、3分間練混ぜしコンクリート供試体を作製した。供試体のサイズは、縦、横とも60cm、厚さが10cmとし、その中に縦横に異形鉄筋SD295A(D10)を12cm間隔で5本を厚さ方向に5cmのところに配置した(図1参照)。養生については、打設後14日間は湿布養生を行い、その後14日間は気中養生を行った。
【0022】
(耐爆試験)
爆発源を構造物表面で爆発させる接触爆発法を実施した。
すなわち、爆破作業の手順は、コンクリート供試体上の中心に100gの火薬を設置し、供試体は2種類の角材を用い、地面から14.5cmの高さに固定し(図2参照)、爆破を行った。使用した火薬は、ペンスリット(PETN)65%、パラフィン系35%からなるSEPであり、この火薬の物性は、密度は1.3g/cm3、爆速6900m/secであった。
【0023】
(爆破剥離部分の評価)
爆破後に剥離した部分の評価については、径と深さと体積の3項目とした。
径については、供試体に対し、縦方向と横方向、両バイアス方向の4方向で径を計測し、その平均値を平均径として表した。深さについては、最深部をノギスで、計測した。剥離体積は、剥離した痕跡に水を流し込み、流し込まれた体積を調べた。なお、火薬を設置した側の剥離体積部分を「クレータ」と称し、その裏側の剥離体積部分を「スポール」と称した(図3参照)。
【0024】
(実施例1)
引張強度2.8GPa、引張弾性率91GPaの超高分子量ポリエチレン繊維1320Tを10mm間隔で経緯2方向に並べ、ウレタン樹脂で交点を接着させたシート(商品名サイバーメッシュ;東洋紡績社製)を作製した。表1に示す配合でコンクリートを打設し、28日間養生を行った後、上記シート2枚を、短繊維入りポリマーモルタルによって貼り付けた。施工方法は、コンクリート面をサンダーで表面を荒らした後、3mm厚に短繊維入りモルタルを塗りつけ、乾かないうちにシートを2枚貼り付け、即座に上から3mm厚に短繊維入りモルタルを重ね塗りした。なお、モルタルには超高分子量ポリエチレン繊維(商品名ダイニーマ(R);東洋紡績社製)の9mm長の短繊維を1.5体積%混入してあるものを使用した。
シート貼付作業後、35日間養生してコンクリート供試体を得た。得られた供試体のシートを貼り付けていない側に火薬を設置し、爆破試験を行った。爆破後に剥離した部分の評価結果を表2に示した。
【0025】
(実施例2)
表1に示す配合でコンクリートを打設し、28日間養生を行った後、ポリマーモルタルの代わりにエポキシ樹脂を使用し、実施例1と同様にして実施例1と同じシートを2枚貼り付けた。なお、エポキシ樹脂の厚さは、4mmであり、エポキシ樹脂中に短繊維は混入しなかった。
シート貼付後、33日間養生してコンクリート供試体を得た。得られた供試体のシートを貼り付けていない側に火薬を設置し、爆破試験を行った。爆破後に剥離した部分の評価結果を表2に示した。
【0026】
(実施例3)
表1に示す配合でコンクリートを打設し、28日間養生を行った。なお、このコンクリートには超高分子量ポリエチレン繊維(商品名ダイニーマ(R);東洋紡績社製)をエポキシ樹脂で含浸硬化して得られた30mm長の短繊維を1.0体積%混入した。この短繊維は、引張強度2.3GPa、引張弾性率は48GPaであった。また、コンクリート打設の際には、型枠内に、実施例1と同じシート1枚を表面から10mmの位置になるように設置して埋め込んだ。
得られた供試体中のシートから遠い側に火薬を設置し、爆破試験を行った。爆破後に剥離した部分の評価結果を表2に示した。
【0027】
(実施例4)
表1に示す配合でコンクリートを打設し、28日間養生を行った。その後、実施例1と同じシート1枚を、 超高分子量ポリエチレン繊維(商品名ダイニーマ(R);東洋紡績社製)の9mm長の短繊維を1.5体積%混入したポリマーモルタルによって貼り付けた。この時のポリマーモルタルの厚さは6mmであり、シートはその中間の3mmの部分に設置した。この様なシートを挟みこんだポリマーモルタルをコンクリートの両面に施工した。施工後35日間養生してコンクリート供試体を得た。
得られた供試体に火薬を設置し、爆破試験を行った。爆破後に剥離した部分の評価結果を表2に示した。
【0028】
(実施例5)
引張強度2.8GPa、引張弾性率91GPaの超高分子量ポリエチレン繊維440Tを平織組織(経、緯とも打ち込み本数15本/inch)に製織した織物シートを得た。表1に示す配合でコンクリートを打設し、28日間養生を行った後、織物シートを2枚、短繊維入りポリマーモルタルによって貼り付けた。なお、この時のポリマーモルタルの厚さは6mmであり、織物シートはその中間の3mmの部分に2枚重ねた。なお、モルタルには超高分子量ポリエチレン繊維(商品名ダイニーマ(R);東洋紡績社製)の9mm長の短繊維を1.5体積%混入してあるものを使用した。シート貼付作業後、35日間養生してコンクリート供試体を得た。
得られた供試体のシートを貼り付けていない側に火薬を設置し、爆破試験を行った。爆破後に剥離した部分の評価結果を表2に示した。
【0029】
(実施例6)
引張強度3.7GPa、引張弾性率126GPaの超高分子量ポリエチレン繊維を開繊しながら一方向に並べ、更に90°の交差角を成す様に同繊維を開繊しながら一方向に並べ積層する方法で、4層に積層したシートを作製し、更に熱可塑性フィルムでこのシートを挟んだ積層シート(商品名SB2)を作製した。表1に示す配合でコンクリートを打設し、28日間養生を行った後、前記積層シートを2枚、短繊維入りポリマーモルタルによって貼り付けた。この時のポリマーモルタルの厚さは6mmであり、積層シートはその中間の3mmの部分に2枚重ねた。なお、モルタルには超高分子量ポリエチレン繊維(商品名ダイニーマ(R);東洋紡績社製)の9mm長の短繊維を1.5体積%混入してあるものを使用した。シート貼付作業後、35日間養生してコンクリート供試体を得た。
得られた供試体のシートを貼り付けていない側に火薬を設置し、爆破試験を行った。爆破後に剥離した部分の評価結果を表2に示した。
【0030】
(比較例1)
表1に示す配合でコンクリートを打設し、28日間養生を行った。但し、シートは貼り付けず、ポリマーモルタルのみ(短繊維混入せず)、6mmの厚さで片面にのみ施工後、35日間養生してコンクリート供試体を得た。得られた供試体に火薬を設置し、爆破試験を行った。爆破後に剥離した部分の評価結果を表2に示した。
【0031】
(比較例2)
表1に示す配合でコンクリートを打設し、28日間養生を行った。但し、シートは引張強度0.8GPa、引張弾性率4.5GPaのナイロン繊維1370Tを10mm間隔で経緯2方向に並べ、ウレタン樹脂で交点を接着させたシートを片面のみ2枚重ねて貼り付けた。バインダーは実施例1と同様のポリマーモルタルを使用したが短繊維は混入せず、厚さ6mm、シートは3mmの部分に設置するようシートを貼り付けた。35日間養生してコンクリート供試体を得た。得られた供試体のシートを貼り付けていない側に火薬を設置し、爆破試験を行った。爆破後に剥離した部分の評価結果を表2に示した。
【0032】
(比較例3)
表1に示す配合でコンクリートを打設し、28日間養生を行った。但し、コンクリートに混入した繊維は、ネット状のポリプロピレン繊維(長さ55mm)の繊維を、1.0体積%添加して供試体を作成した。この繊維の物性は、カタログ値で引張強度が0.6GPa、引張弾性率が3.5GPaであった。その上から、繊維未混入のポリマーモルタルをバインダーとして、比較例2で使用したシートを1枚貼り付けた。モルタル厚は6mmとし、中間の3mmの部分にシートを設置した。35日間養生してコンクリート供試体を得た。得られた供試体のシートを貼り付けていない側に火薬を設置し、爆破試験を行った。爆破後に剥離した部分の評価結果を表2に示した。
【0033】
(比較例4)
引張強度2.8GPa、引張弾性率91GPaの超高分子量ポリエチレン繊維1320Tを経糸は10mm間隔、緯糸は50mm間隔で経緯2方向に並べ、ウレタン樹脂で交点を接着させたシートを作製した。表1に示す配合でコンクリートを打設し、28日間養生を行った後、前記シート2枚を、ポリマーモルタルによって貼り付けた。この時のポリマーモルタルの厚さは6mmであり、シートはその中間の3mmの部分に2枚重ねた。シート貼付作業後、35日間養生してコンクリート供試体を得た。得られた供試体のシートを貼り付けていない側に火薬を設置し、爆破試験を行った。爆破後に剥離した部分の評価結果を表2に示した。
【0034】
(比較例5)
引張強度2.8GPa、引張弾性率91GPaの超高分子量ポリエチレン繊維1320Tを経糸に10mm間隔、引張強度0.8GPa、引張弾性率4.5GPaのナイロン繊維1320Tを10mm間隔で経緯2方向に並べ、ウレタン樹脂で交点を接着させたシート作製した。表1に示す配合でコンクリートを打設し、28日間養生を行った後、前記シート2枚を、ポリマーモルタルによって貼り付けた。この時のポリマーモルタルの厚さは6mmであり、シートはその中間の3mmの部分に2枚重ねた。シート貼付作業後、35日間養生してコンクリート供試体を得た。得られた供試体のシートを貼り付けていない側に火薬を設置し、爆破試験を行った。爆破後に剥離した部分の評価結果を表2に示した。
【0035】
実施例1〜6、比較例1〜5のシートの引張強力と伸度及び爆破試験の評価結果を表2に示したが、本実施例において特にシートを貼り付けた面は、膨らむといった変形は見られたものの破壊や剥落は認められなかった。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
実施例1〜6、比較例1〜5から、本発明のコンクリートは、火薬の爆発に対しコンクリートの剥離体積を小さくする効果があることがわかる。また、短繊維入りのコンクリートを使用すると、シートの使用枚数を少なくしても、同様の性能が得られることもわかる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、テロなどによる爆破のみならず、爆発事故の際に、コンクリート建造物などの崩壊を防ぐとともに、建造物内部にいる人間の人的被害を最小限に抑える効果があり、事故発生後の二次的被害の拡大を抑制でき、産業上の保全に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】コンクリート供試体の寸法を示す図である。
【図2】コンクリート供試体の爆破試験の状態を模式的に示す図である。
【図3】爆破試験後のコンクリート供試体の損傷(クレータ、スポール)の各寸法の求め方の概要を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート部材の少なくとも片面に、引張強度1.5GPa以上で、かつ引張弾性率40GPa以上の高強力繊維からなるシートが貼り付けまたは埋設されてなることを特徴とする耐爆裂性に優れたコンクリート部材。
【請求項2】
高強力繊維からなるシートが以下の(イ)〜(ハ)の特性を同時に有することを特徴とする請求項1記載の耐爆裂性に優れたコンクリート部材。
(イ)経緯ともに引張強力が200N/cm以上、伸度が10%以下。
(ロ)経方向に対する緯方向の強力比率が0.5以上2.0以下。
(ハ)経方向に対する緯方向の伸度比率が0.33以上3.0以下。
【請求項3】
コンクリート中に、引張強度1.5GPa以上、引張弾性率40GPa以上の高強力繊維からなる短繊維が、体積含有率 1.0%以上8.0%以下となるよう混入されていることを特徴とする請求項1または2記載の耐爆裂性に優れたコンクリート部材。
【請求項4】
高強力繊維からなるシートの形状が、織物または不織布であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の耐爆裂性に優れたコンクリート部材。
【請求項5】
高強力繊維からなるシートが、糸間隔が空いている二軸のメッシュ状のシートであり、その糸間隔が10mm以上、30mm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の耐爆裂性に優れたコンクリート部材。
【請求項6】
高強力繊維からなるシートを、2枚以上重ねて貼り付けてなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の耐爆裂性に優れたコンクリート部材。
【請求項7】
シートを貼り付けたコンクリートの裏面に火薬100gを接触爆発させた際に、シートを貼り付けた側のコンクリート部分が剥落しないことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の耐爆裂性に優れたコンクリート部材。
【請求項8】
高強力繊維が、平均重合分子量100万以上、繊維密度0.95〜0.98g/cm3の超高分子量ポリエチレン繊維であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の耐爆裂性に優れたコンクリート部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−257669(P2006−257669A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−73243(P2005−73243)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】