説明

肢体訓練装置

【課題】両足と腰部とを連動して動作させることにより、歩行動作向上を適切に図る訓練を実現可能な肢体訓練装置を提供すること。
【解決手段】使用者の腰部を方向zにおいて支持可能な座面2aを有する座2と、方向xにおいて座2を挟んで離間配置されており、かつ使用者の脚部先端寄りの部分を保持する脚部保持部33R,33Lをそれぞれ有する1対のアーム3R,3Lと、を備える肢体訓練装置A1であって、各アーム3R,3Lは、回転軸x31R,x31Lまわりの揺動と、回転軸x31R,x31Lに対して脚部保持部33R,33Lが接近離間する往復動とが自在とされており、座2は、回転軸z2まわりの揺動と、回転軸x2まわりの揺動とが自在とされており、1対のアーム3R,3Lを互いに反対方向に揺動させるとともに、上記揺動による脚部保持部33R,33Lの移動方向に沿う回転軸z2まわりの回転方向に座2を揺動させる構成とされた制御部5を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に歩行が困難な状態にある高齢者などが歩行動作向上を目的として訓練するための肢体訓練装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図29は、従来の肢体訓練装置の一例を示している。同図に示された肢体訓練装置Xは、ベース91上に配置された座92および1対のアーム93R,93Lを備えている。座92は、使用者の腰部を支持する部分である。1対のアーム93R,93Lは、ポール93Ra,93Laおよび脚部保持部93Rb,93Lbを有しており、脚部保持部93Rb,93Lbが接近離間するように開閉自在とされている。
【0003】
肢体訓練装置Xを使用するには、まず、使用者が座92に腰掛けた状態で、レバー94R,94Lを両手で把持する。次いで、使用者の両脚を脚部保持部93Rb,93Lbによって保持する。この状態で、アーム93R,93Lを徐々に開方向へと動作させる。使用者の両脚が可動限界に達したら、使用者あるいはトレーナーが可動限界であることを入力手段(図示略)により入力する。これにより、制御部(図示略)においてアーム93R,93Lの可動限界角度を記憶しておく。これに続いて、アーム93R,93Lの開閉動を反復して行わせる。この開閉動は、上記制御部によって記憶された上記可動限界角度を最大限とする動作である。この動作により、使用者の両脚は、その可動限界まで反復して開かれることとなる。開閉動の繰り返し回数や動作速度を適切に設定すれば、使用者の両脚の可動限界をより大きくする、いわゆるストレッチ運動を実現することができる。
【0004】
しかしながら、肢体訓練装置Xによる訓練は、両脚の可動限界を大きくするのみであり、使用者の歩行動作向上を積極的に図るものではない。たとえば、歩行動作を向上させるには、歩行に適した両脚の動作パターンを使用者に実行させることが必要である。また、自身の体重を支えて歩行するには、それに応じた筋力の向上が不可欠である。さらに、歩行動作は、両脚だけを動かすのではなく、両脚と腰とをスムーズに連動させてこそ確実な向上を図ることが可能である。このように、ストレッチ運動のみに適した肢体訓練装置Xでは、歩行動作の向上を積極的に図るには不十分であった。
【0005】
【特許文献1】特開2005−40268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、両足と腰部とを連動して動作させることにより、歩行動作向上を適切に図る訓練を実現可能な肢体訓練装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明によって提供される肢体訓練装置は、使用者の腰部を第1方向において支持可能な座面を有する座と、上記第1方向と直交する第2方向において上記座を挟んで離間配置されており、かつ使用者の脚部先端寄りの部分を保持する脚部保持部をそれぞれ有する1対のアームと、を備える肢体訓練装置であって、上記各アームは、上記第2方向に延びる第2軸まわりの揺動と、上記揺動の回転軸に対して上記脚部保持部が接近離間する往復動とが自在とされており、上記座は、上記第1方向に延びる第1軸まわりの揺動と、上記第2軸まわりの揺動とが自在とされており、上記1対のアームを上記第2軸まわりに互いに反対方向に揺動させるとともに、上記揺動による上記第1軸に対する上記各脚部保持部の移動方向に沿う上記第2軸まわりの回転方向に上記座を揺動させる構成とされた制御部を備えていることを特徴としている。
【0009】
このような構成によれば、上記肢体訓練装置を用いた訓練において、使用者の両脚を交互に動作させつつ、使用者の腰部を両脚の動作に合わせて揺動させることが可能である。この連動された動作は、自然な歩行動作とよく一致する。したがって、上記肢体訓練装置は、歩行が困難な使用者などが自立歩行を目指して歩行訓練するのに好適である。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記各アームは、一端寄りの部分を中心として上記第2軸まわりに揺動自在である第1節と、上記第1節の他端寄りにその一端寄りの部分が連結されており、かつ上記第1節に対して上記第2軸まわりに揺動自在である第2節と、を含んでおり、上記第2節の他端寄りの部分には、上記脚部保持部が上記第2軸まわりに揺動自在に連結されている。このような構成によれば、上記1対のアームに使用者の歩行動作に合わせた自然な動作をさせることができる。したがって、歩行訓練の効果をさらに高めることが期待できる。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記座および上記1対のアームを駆動するための複数のモータを備えており、上記制御部は、あらかじめ定められた運動形態に基づき、上記座および上記1対のアームを所定の動作パターンで駆動制御する。このような構成によれば、上記1対のアームおよび上記座を比較的正確に動作させることができる。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記座および上記1対のアームを上記動作パターンで無負荷駆動させたときに上記複数のモータが必要とする無負荷電流量と、使用者が上記動作パターンで訓練したときに上記複数のモータに投入された実投入電流量と、を比較することにより、上記使用者の上記訓練による運動量を演算する演算手段と、上記運動量を表示する表示手段と、をさらに備える。このような構成によれば、訓練中にその時点の運動量を表示したり、訓練を終えたときに総運動量を表示するといったことが可能である。これは、使用者の訓練の進捗度を客観的に判断するのに好ましい。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記表示手段は、使用者の年齢、性別、体重、身長を含む個人情報を入力する手段と、上記個人情報と訓練日時と上記運動量とを記憶する記憶手段と、を備えている。このような構成によれば、使用者の性状に応じてきめ細やかな訓練を実現することができる。また、体力が低下した使用者に対して、負荷が大きい訓練を誤って行ってしまうなどの不具合を未然に防止可能である。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記表示手段は、上記個人情報を基に適正運動量を算出可能であり、かつ使用者の運動量が上記適正運動量を超過したときには警告を表示する、または上記制御部に対して訓練中止を指示する。このような構成によれば、使用者が過度に訓練してしまうことを適切に防止することができる。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記使用者の体重のうち上記各脚部保持部に負荷される割合を、上記座の上記第2軸まわりの角度によって設定することにより、上記使用者に対する訓練の負荷を調節する構成とされている。このような構成によれば、訓練における負荷を簡便かつ確実に調節することができる。
【0016】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0018】
図1〜図3は、本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態を示している。本実施形態の肢体訓練装置A1は、ベース1、座2、1対のアーム3R,3L、入力表示器4、制御部5を具備して構成されている。
【0019】
ベース1は、座2および1対のアーム3R,3Lを支持するためのものである。ベース1は、平面視矩形状の平板状であり、たとえば樹脂製または金属製である。
【0020】
座2は、使用者が肢体訓練装置A1を用いて訓練する際に腰掛けるためのものである。座2は、使用者の腰部を図中上下方向である方向zにおいて支持する座面2aを有している。スタンド22は、座2を使用者が腰掛けるのに適した高さに支持するためのものである。座2の図中奥方部分には、背もたれ21が取り付けられている。使用者は背中を背もたれ21に添わせることにより、訓練に適した姿勢をとることができる。座2は、方向zに延びる回転軸z2、および方向xに延びる回転軸x2を中心として揺動自在とされている。座2を揺動するための駆動手段は、後述するアーム3Lの駆動手段と類似しており、サーボモータが用いられている。
【0021】
1対のアーム3R,3Lは、使用者の両脚を動作させるためのものであり、スタンド30R,30L、第1節31R,31L、第2節32R,32L、および脚部保持部33R,33Lを具備している。
【0022】
スタンド30R,30Lは、方向xにおいて離間配置されており、それぞれ柱30aR,30aLと固定アーム30bR,30bLとからなる。柱30aR,30aLは、ベース1から起立しており、たとえば断面矩形状の角柱である。固定アーム30bR,30bLは、それぞれ柱30aR,30aLに対して垂直に延びている。柱30aR,30aLおよび固定アーム30bR,30bLを跨ぐように1対のハンドル34R,34Lが取り付けられている。1対のハンドル34R,34Lは、使用者がこれらを把持することにより訓練中の姿勢を安定させるためのものである。
【0023】
第1節31R,31Lは、それぞれ固定アーム30bR,30bLの先端に連結されている。第1節31R,31Lは、方向xに延びる回転軸x31R,x31Lまわりにそれぞれ独立して揺動自在とされている。図2は、第1節31Lを揺動させるための駆動機構を示している。この駆動機構は、サーボモータ36a、減速機36b、ベベルギア37a,37b、シャフト38aを具備して構成されている。サーボモータ36aは、固定アーム30bLの内部に固定されており、図3に示すサーボドライバからの指令により所定回転角だけ回転可能とされている。サーボモータ36aのたとえば出力軸と反対側部分には、図3に示すロータリエンコーダEが取り付けられている。なお、図3に示す複数のサーボモータMのうち、回転軸x31Lまわりの駆動用のものが、図2に示すサーボモータ36aに相当する。これにより、サーボモータ36aの回転角を検出可能とされている。サーボモータ36aの出力軸には、ベベルギア37aが取り付けられている。第1節31Lの一端側には、ベベルギア37bが形成されている。ベベルギア37a,37bは、互いに噛み合わされている。また、第1節31Lは、固定アーム30bLに対してシャフト38aおよびベアリング38bを介して回転可能に取り付けられている。これにより、サーボモータ36aが回転すると、その回転角度に応じて第1節31Lが回転軸x31Lまわりに揺動する。第1節31Rを固定アーム30bRに対して回転軸x31Rまわりに揺動させるための駆動機構も、この駆動機構と同様である。
【0024】
図1に示すように、第2節32R,32Lは、それぞれ第1節31R,31Lの先端に連結されている。第2節32R,32Lは、方向xに延びる回転軸x32R,x32Lまわりにそれぞれ独立して揺動自在とされている。第2節32R,32Lを揺動させるための駆動手段は、上述した第1節31Lを揺動させるための駆動手段と同様である。
【0025】
第2節32R,32Lの先端には、それぞれ脚部保持部33R,33Lが連結されている。脚部保持部33R,33Lは、使用者の足先を固定保持するためのものであり、たとえば、使用者の足の甲を覆うように締め付けるベルト(図示略)が備えられている。脚部保持部33R,33Lは、方向xに延びる回転軸x33R,x33Lまわりにそれぞれ独立して揺動自在とされている。脚部保持部33R,33Lを揺動させるための駆動機構は、上述した第1節30Lを揺動させるための駆動手段と同様である。
【0026】
以上に説明したように、1対のアーム3R,3Lは、第1節31R,31Lおよび第2節32R,32Lを備えることにより、脚部保持部33R,33Lを回転軸x31R,x31Lまわりに揺動自在であり、かつ脚部保持部33R,33Lを回転軸x31R,x31Lに対して接近離間自在に構成されている。また、本実施形態においては、脚部保持部33R,33Lの向きが変更自在となっている。
【0027】
入力表示器4は、使用者の個人情報などの入力と、肢体訓練装置A1の動作状況や使用者の個人情報などの表示とを行うためのものである。入力表示器4は、アーム41を介して固定アーム30bLに対して揺動可能に取り付けられている。これにより、使用者が座2に腰掛けるときには、入力表示器4を装置外方へと退避させ、使用者が上記個人情報などを入力するときには、使用者の正面に移動させることが可能とされている。入力表示器4は、入力作業のための各種ボタン、テンキーと、情報を表示するためのたとえば液晶画面とを有している。入力表示器4を用いて入力される個人情報は、使用者の年齢、性別、体重、身長を含んでいる。
【0028】
制御部5は、あらかじめ定められた運動形態に基づいて座2および1対のアーム3R、3Lを連動して駆動制御するためのものであり、CPUなどの情報処理部、入出力部、電源部などを有している。
【0029】
図3は、肢体訓練装置A1のシステム構成を示している。制御部5には、入力表示器4、演算手段51、記憶手段52、および複数のサーボドライバが接続されている。各サーボドライバは、サーボモータMを制御するためのものであり、サーボモータMの回転量を検出するエンコーダEが接続されている。
【0030】
演算手段51は、使用者が肢体訓練装置A1を用いて訓練した際の運動量を演算するためのものである。運動量の演算は、サーボドライバを介して各サーボモータMに通電した電流から演算する。この演算方法については、後述する。
【0031】
記憶手段52は、上記個人情報、訓練日時、および上記運動量を記憶するためのものである。記憶手段52は、たとえばハードディスクなどの磁気記憶装置、またはEPROMなどの半導体記憶装置などによって構成されている。
【0032】
図4は、肢体訓練装置A1を動作させる制御フローの一例を示している。この制御フローは、初期設定、使用者設定、トレーニング条件の表示、装置の動作、および終了設定に区分される。
【0033】
図5は、初期設定によって実行される制御フローの一例を示している。図3に示した各サーボモータMを駆動可能とする電源投入の後に、1対のアーム3R,3Lおよび座2を退避位置から標準位置に移動させる。また、入力表示器4の電源投入や、表示内容および入力バッファメモリの初期化などが行われる。
【0034】
図6は、使用者設定によって実行される制御フローの一例を示している。この使用者設定においては、上述した個人情報の入力が行われる。すなわち、ある使用者が初めて肢体訓練装置A1を使用するときには、登録済み=Noと判断されるため、名前、年齢、パスワード、トレーニング条件などを含む個人情報の入力が行われる。登録済みの使用者は、たとえば名前とパスワードの入力をすることにより使用者設定を完了する。
【0035】
図7は、トレーニング条件の表示によって実行される制御フローの一例を示している。この制御フローにおいては、訓練ファイルの概要が表示される。この訓練ファイルには、たとえば図9に示す情報がリストとして含まれている。使用者は、訓練ファイルの内容を確認した上で、たとえば繰り返し回数の指定を行う。
【0036】
図8は、装置の動作によって実行される制御フローの一例を示している。図4に示された初期設定および使用者設定を終えた状態であるため、制御部5では、使用者に応じた訓練ファイルの取り出しが行われる。本実施形態においては、第1節31R,31Lの角度θ1、第2節32R,32Lの角度θ2、脚部保持部33R,33Lの角度θ3が取り出される。さらに、θ1〜θ3の角速度ω1〜ω3および角加速度α1〜α3が取り出される。制御部5においては、角度θ1〜θ3、角速度ω1〜ω3、および角加速度α1〜α3に基づいて、第1節31R,31L、第2節32R,32L、および脚部保持部33R,33Lの時間Δtにおける増加増分量Δθ1〜Δθ3を算出する。第1節31R,31L、第2節32R,32L、および脚部保持部33R,33Lは、時間Δtごとに目標とする増加増分量Δθ1〜Δθ3だけ、それぞれに対応するサーボモータM、サーボドライバ、およびエンコーダEにより回転させられる。Δtの大きさは、制御部5の単位時間当たりの処理能力を基にできる限り短い時間として設定される。この制御が時系列的に行われると、第1節31R,31L、第2節32R,32L、および脚部保持部33R,33Lが訓練ファイルに定められた動作パターンに沿って動作することとなる。また、座2についても、図8に示したものと同様の制御フローによって、1対のアーム3R,3Lと連動して制御される。
【0037】
図10は、肢体訓練装置A1の動作パターンの一例を示している。この動作パターンによれば、まず1対のアーム3R,3Lおよび座2は、退避位置P0,S0にあらかじめ退避させられている。上述した初期設定を終えると1対のアーム3R,3Lおよび座2は、標準位置としての位置P1,P3,S1にそれぞれ移動させられる。
【0038】
図11〜図14は、右脚を保持するアーム3Rについて位置P1〜P4に移動させられたときの状態をそれぞれ示している。左脚を保持するアーム3Lについても、位置P1〜P4に移動させられたときの状態は、これと同様である。図10に示されたように、アーム3Rが位置P2にあるときは、アーム3Lは、位置P4にある。一方、アーム3Rが位置P4にあるときは、アーム3Lは、位置P2にある。この一連の動作がなされている肢体訓練装置A1の平面図が図15〜図18に示されている。アーム3Rが位置P1→P2→P3→P4をとるときに、アーム3Lは、位置P3→P4→P1→P2をとっている。これにより、アーム3Rとアーム3Lとは、座2を挟んで対称な動作をさせられている。また、座2は、脚部保持部33R,33Lの動作に対応した揺動をさせられている。すなわち、図16に示すように脚部保持部33Lが使用者正面前方である図中下方へと移動する際には、座2は、図中時計回りに揺動している。一方、図18に示すように、脚部保持部33Rが使用者正面前方である図中下方へと移動する際には、座2は、図中反時計回りに揺動している。
【0039】
図11〜図18に示された動作が行われると、肢体訓練装置A1に腰掛けた使用者は、図19〜図22に示す運動をさせられることとなる。ただしこれらの図は、アーム3Rの動作についてのみ示している。上述したように1対のアーム3R,3Lおよび座2が連動して制御されることにより、使用者に自然な姿勢で歩行訓練をさせることが実現されている。
【0040】
図23および図24は、上述した動作パターンにおけるアーム3R,3Lの角速度とサーボモータMに流される電流の関係を示している。図23および図24に示された速度パターンによれば、アーム3Rまたはアーム3Lが図1における前後方向に反復して揺動させられる。図23に示された速度パターンは、使用者への負荷が比較的小であるときの速度パターンである。一方、図24に示された速度パターンは、使用者への負荷が比較的大であるときの速度パターンである。両者の相違点は、角速度が変動するときの角加速度の大きさにある。すなわち、比較的小さい負荷で訓練する場合には、アーム3R,3Lの角加速度を小さくする。これにより、使用者は、同じ軌跡を描く訓練を行っても、両脚が比較的穏やかに動かされる。これは、たとえば、自立歩行がかなり困難である使用者に対して、歩行動作のリズムを訓練させるのに適している。一方、比較的大きい負荷で訓練する場合には、アーム3R,3Lの角加速度を大きくする。これにより、使用者の両脚は、比較的急峻に動かされる。これは、たとえば、自立歩行に向けて負荷の小さい訓練を積んだ使用者に対して、実際の歩行に即した機敏な動きを訓練させるのに適している。
【0041】
図25は、肢体訓練装置A1によって訓練した使用者が、その訓練においてなした運動量を算出する方法の一例を示している。本図において点線で示した電流は、使用者が腰掛けていない状態で、図24に示した速度パターンを実現するのに必要な、いわゆる無負荷電流である。この電流は、アーム3R,3Lの慣性や、図2に示した減速機36bの機械的損失に抗して、アーム3R,3Lに対して上記速度パターンに沿った動作をさせるのに必要な電流である。一方、図25において実線で示した電流は、使用者が肢体訓練装置A1に腰掛けた状態で実際に訓練を行った際にサーボモータMに投入された実投入電流である。たとえば、使用者が両脚にほとんど力をこめることなく、アーム3R,3Lに両脚をあずけた状態で訓練を行った場合には、上記無負荷電流と上記実投入電流との差はほとんど無い。一方、使用者が、アーム3R,3Lの動作方向に合わせて、両脚に力をこめて積極的に歩行動作を行った場合には、その分だけサーボモータMに投入される電流が小さくなる。図25は、この場合の実投入電流を示している。すなわち、上記無負荷電流と上記実投入電流との差を算出することにより、訓練において使用者がなした運動量を算出することが可能である。肢体訓練装置A1においては、図3に示す演算手段51により、この運動量の算出がなされる。また、算出された運動量は、訓練中に単位時間当たりの運動量として、あるいは、一通りの訓練を終えた時点での総運動量として、入力表示器4に表示される。運動量の表示は、たとえば歩行距離に換算して表示することが好ましい。記憶手段52においては、ある使用者について、訓練でなした運動量が積算される。これにより、各回の訓練において、その使用者の訓練の達成度を客観的に判断することができる。
【0042】
また、入力表示器4は、使用者の運動量が、あらかじめ設定した適正運動量を超えた場合には、使用者に対して警告を表示する。使用者は、この警告を視認することにより、過度な訓練を行っていることを認識可能であり、訓練の負荷を小さくするなどの対処をとることができる。また、運動量が上記適正運動量を大きく超えた場合の処置として、入力表示器4から制御部5に対して訓練の停止指令が送られる。停止指令を受けた制御部5は、1対のアーム3R,3Lおよび座2の動作を停止するなど、適切な訓練停止フローを実行する。
【0043】
図26は、訓練における使用者に対する負荷を調節する別の方法を示している。この方法においては、座2を回転軸x2まわりに揺動させることによって負荷の調節を行う。すなわち、負荷が大きい状態で訓練したいときは、座2を図中時計回りに揺動させる。これにより、使用者の体重のうち座2によって支持される割合が減少し、脚部保持部33R,33Lによって支持される割合が増加する。これは、使用者の両脚によって支えるべき体重の割合が増加することを意味する。使用者は、体重をより多く負担した、いわば両脚を強く踏ん張った状態で、上述した歩行動作の訓練を行うこととなる。これは、使用者の両脚に対して、歩行動作に必要な筋力の増強を図るのに好適である。
【0044】
次に、肢体訓練装置A1の作用について説明する。
【0045】
本実施形態によれば、図19〜図22に示したように、使用者に対して両脚の交互運動および腰部の揺動とを連動して動作させることが可能である。この使用者の動作は、使用者が自立歩行する際の基本的な動作とよく一致している。したがって、肢体訓練装置A1は、歩行困難な状態にある使用者が自立歩行を目指して訓練するのに好適である。
【0046】
1対のアーム3R,3Lは、それぞれ独立して揺動自在とされた第1節31R,31L、第2節32R,32L、および脚部保持部33R,33Lによって構成されていることにより、使用者の両脚の動きに合わせた動作が容易となっている。これは、よりスムーズな歩行動作の訓練を実現するのに適している。
【0047】
使用者の個人情報に基づいた動作パターンで訓練することにより、個々の使用者に応じた適切な訓練を行うことができる。また、各使用者の訓練履歴を記憶しておくことにより、個々の使用者の進捗度に応じた訓練が可能である。
【0048】
訓練中の運動量、および訓練全体での総運動量の表示は、使用者がどの程度の訓練をしたかを確認するのに都合が良い。また、使用者が訓練を積極的に継続する契機づけともなり得る。さらに、上述した適正運動量を超えた場合の警告または訓練停止により、過度な訓練による不測の事態を未然に防止することができる。
【0049】
図27および図28は、本発明に係る肢体訓練装置の他の実施形態を示している。これらの図面においては、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付しており、適宜説明を省略する。
【0050】
図27は、本発明に係る肢体訓練装置の第2実施形態を示している。本実施形態の肢体訓練装置A2は、アーム3R,3Lがリンク機構によって構成されている点が上述した実施形態と異なっている。アーム3R,3Lは、第1リンク35aR,35aLおよび第2リンク35bR,35bLを具備している。第1リンク35aR,35aLおよび第2リンク35bR,35bLは、それぞれ独立して動作可能であり、制御部5によって制御された複数のモータ(図示略)により動作させられる。このような実施形態によっても、脚部保持部33R,33Lを方向xに延びる回転軸まわりに揺動させ、かつ脚部保持部33R,33Lを上記回転軸に対して接近離間動させることができる。したがって、第1実施形態と同様の歩行訓練を適切に実行することが可能である。
【0051】
図28は、本発明に係る肢体訓練装置の第3実施形態を示している。本実施形態の肢体訓練装置A3は、アーム3R,3Lがスライダ39R,39Lを有する構成とされている点が上述したいずれの実施形態とも異なっている。アーム3R,3Lは、全体としてスタンド30R,30Lに対して揺動自在に連結されている。また、脚部保持部33R,33Lは、スライダ39R,39Lに対して取り付けられている。これにより、脚部保持部33R,33Lは、アーム3R,3Lの長手方向において往復動自在とされている。このような実施形態によっても、脚部保持部33R,33Lを方向xに延びる回転軸まわりに揺動させ、かつ脚部保持部33R,33Lを上記回転軸に対して接近離間動させることができる。したがって、第1実施形態と同様の歩行訓練を適切に実行することが可能である。
【0052】
本発明に係る肢体訓練装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る肢体訓練装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態を示す全体斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿う要部断面図である。
【図3】本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態のシステム構成図である。
【図4】本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態の制御内容を示すフロー図である。
【図5】図4における初期設定の実行内容を示すフロー図である。
【図6】図4における使用者設定の実行内容を示すフロー図である。
【図7】図4におけるトレーニング条件の表示の実行内容を示すフロー図である。
【図8】図4における装置の動作の表示の実行内容を示すフロー図である。
【図9】本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態に用いられる訓練ファイルの一例である。
【図10】本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態の動作パターンの一例である。
【図11】本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態の動作状態を示す要部側面図である。
【図12】本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態の動作状態を示す要部側面図である。
【図13】本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態の動作状態を示す要部側面図である。
【図14】本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態の動作状態を示す要部側面図である。
【図15】本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態の動作状態を示す要部平面図である。
【図16】本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態の動作状態を示す要部平面図である。
【図17】本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態の動作状態を示す要部平面図である。
【図18】本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態の動作状態を示す要部平面図である。
【図19】本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態を用いた訓練状態を示す要部側面図である。
【図20】本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態を用いた訓練状態を示す要部側面図である。
【図21】本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態を用いた訓練状態を示す要部側面図である。
【図22】本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態を用いた訓練状態を示す要部側面図である。
【図23】本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態を用いた負荷小の速度パターンを示すグラフである。
【図24】本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態を用いた負荷大の速度パターンを示すグラフである。
【図25】本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態を用いた訓練における運動量の算出方法を説明するためのグラフである。
【図26】本発明に係る肢体訓練装置の第1実施形態を用いた訓練における負荷調整方法の一例を示す要部側面図である。
【図27】本発明に係る肢体訓練装置の第2実施形態を示す全体斜視図である。
【図28】本発明に係る肢体訓練装置の第3実施形態を示す全体斜視図である。
【図29】従来の肢体訓練装置の一例を示す全体斜視図である。
【符号の説明】
【0054】
A1,A2,A3 肢体訓練装置
X (第2)方向
Z (第1)方向
α1,α2,α3 角加速度
θ1,θ2,θ3 角度
ω1,ω2,ω3 角速度
1 ベース
2 座
2a 座面
3R,3L アーム
4 入力表示器(表示手段)
5 制御手段
21 背もたれ
22 スタンド
30R,30L スタンド
31R,31L 第1節
32R,32L 第2節
33R,33L 脚部保持部
34R,34L ハンドル
35aR,35aL 第1リンク機構
35bR,35bL 第2リンク機構
36a モータ
36b 減速機
37a,37b ベベルキア
38a シャフト
38b ベアリング
39R,39L スライダ
51 演算手段
52 記憶手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の腰部を第1方向において支持可能な座面を有する座と、
上記第1方向と直交する第2方向において上記座を挟んで離間配置されており、かつ使用者の脚部先端寄りの部分を保持する脚部保持部をそれぞれ有する1対のアームと、を備える肢体訓練装置であって、
上記各アームは、上記第2方向に延びる第2軸まわりの揺動と、上記揺動の回転軸に対して上記脚部保持部が接近離間する往復動とが自在とされており、
上記座は、上記第1方向に延びる第1軸まわりの揺動と、上記第2軸まわりの揺動とが自在とされており、
上記1対のアームを上記第2軸まわりに互いに反対方向に揺動させるとともに、上記揺動による上記第1軸に対する上記各脚部保持部の移動方向に沿う上記第2軸まわりの回転方向に上記座を揺動させる構成とされた制御部を備えていることを特徴とする、肢体訓練装置。
【請求項2】
上記各アームは、一端寄りの部分を中心として上記第2軸まわりに揺動自在である第1節と、上記第1節の他端寄りにその一端寄りの部分が連結されており、かつ上記第1節に対して上記第2軸まわりに揺動自在である第2節と、を含んでおり、
上記第2節の他端寄りの部分には、上記脚部保持部が上記第2軸まわりに揺動自在に連結されている、請求項1に記載の肢体訓練装置。
【請求項3】
上記座および上記1対のアームを駆動するための複数のモータを備えており、
上記制御部は、あらかじめ定められた運動形態に基づき、上記座および上記1対のアームを所定の動作パターンで駆動制御する、請求項1に記載の肢体訓練装置。
【請求項4】
上記座および上記1対のアームを上記動作パターンで無負荷駆動させたときに上記複数のモータが必要とする無負荷電流量と、使用者が上記動作パターンで訓練したときに上記複数のモータに投入された実投入電流量と、を比較することにより、上記使用者の上記訓練による運動量を演算する演算手段と、
上記運動量を表示する表示手段と、をさらに備える、請求項3に記載の肢体訓練装置。
【請求項5】
上記表示手段は、使用者の年齢、性別、体重、身長を含む個人情報を入力する手段と、上記個人情報と訓練日時と上記運動量とを記憶する記憶手段と、を備えている、請求項4に記載の肢体訓練装置。
【請求項6】
上記表示手段は、上記個人情報を基に適正運動量を算出可能であり、かつ使用者の運動量が上記適正運動量を超過したときには警告を表示する、または上記制御部に対して訓練中止を指示する、請求項5に記載の肢体訓練装置。
【請求項7】
上記使用者の体重のうち上記各脚部保持部に負荷される割合を、上記座の上記第2軸まわりの角度によって設定することにより、上記使用者に対する訓練の負荷を調節する構成とされている、請求項1ないし7のいずれかに記載の肢体訓練装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2007−111294(P2007−111294A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306672(P2005−306672)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)