説明

育苗容器およびその製造方法

【課題】 植物の育成に最適な透水性を有し、育苗時は生分解が遅く形態安定性に優れるが、培土やほ場への移植後は土中で速やかに生分解し植物の生育を阻害しないように生分解性をコントロールできるため、植物の苗を移植する際に育苗容器の除去、廃棄する手間やコストが省け、廃棄物による環境負荷がない育苗容器と更にその効果的でかつ安価な製造方法を提供すること。
【解決手段】生分解性を有する熱可塑性樹脂と天然繊維とから形成され、底部および側部を有する育苗容器であって、底部の平均厚さが0.5〜5.0mmの範囲内で、かつ底部の透水係数が1.0×10−3〜1.0×10cm/sの範囲内であることを特徴とする育苗容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の育苗容器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、育苗用容器の材質として、主として使用されているポリ塩化ビニール製のものは安価ではあるが、焼却時にダイオキシンなどの環境ホルモンが発生するため、廃棄時の環境汚染が問題となっている。また、ポリ塩化ビニール製のものは透水性がないため、根腐れやカビが発生し、育苗中のロスが少なからず発生していた。
【0003】
そこで、近年、環境配慮型の育苗容器として、生分解性樹脂を使用したものが提案されているが、透水性がないので植物の生育性は従来のポリ塩化ビニール製のものと変わりがなく、しかも生分解性のコントロールが難しく、生分解性が不十分な場合は、そのまま培土やほ場に移植すると植物の育成を阻害する。一方、逆に生分解性が高い場合は、育苗中に容器が崩壊してしまったりする場合がある。また、初期の機械的強度が足りずに土入れ時に形態性が保持できないものや育苗時の散水時に、水で膨潤して形態を保持できないものが多発する。
【0004】
例えば、従来から使用されているポリ塩化ビニール製の育苗容器と同様、ポリ乳酸樹脂を押し出し成型した育苗容器がすでに市販されているが、樹脂成型品は生分解するまでに時間がかかり過ぎるので、植物の苗の育成後培土に移植する際、ポリ塩化ビニール製の育苗容器同様、苗から育苗容器を取り外して廃棄する手間がかかる問題があった。
【0005】
また、生分解性の不織布シートを加熱成型して育苗容器を製造する方法として、特許第35353198号(特許文献1)に熱可塑性生分解性繊維と非溶融性生分解性繊維を混合したシートを用いて、加熱圧縮成型をする製造方法が提案されているが、生分解性繊維の混合シートの製造方法が湿式抄造法で行われるため、得られる混合シートは目付けが低くて薄いものしか得られず、生分解性のコントロールがし難い。また、抄造法で得られる混合シートを構成する繊維長が短いために機械的強度が不足する。また、特開平11−89445公報(特許文献2)では、不織布を縫製することにより育苗容器に加工しているが、これも製造のコストが高く、大量生産には向かなかった。
【特許文献1】特許第35353198号公報
【特許文献2】特開平11−89445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、植物の育成に最適な透水性を有し、育苗時は生分解が遅く形態安定性に優れるが、培土やほ場への移植後は土中で速やかに生分解し植物の生育を阻害しないように生分解性をコントロールできることにより、植物の苗を移植する際に育苗容器の除去、廃棄する手間やコストが省け、廃棄物による環境負荷がない育苗容器と更にその効果的でかつ安価な製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、生分解性を有する熱可塑性樹脂と天然繊維とから形成され、底部および側部を有する育苗容器であって、底部の平均厚さが0.5〜5.0mmの範囲内で、かつ底部の透水係数が1.0×10−3〜1.0×10cm/sの範囲内であることを特徴とする育苗容器である。
【0008】
また本発明は、少なくとも次の第1〜第3の工程を順次経由することを特徴とする育苗容器の製造方法である。
第1工程
生分解性を有する熱可塑性繊維の原綿と天然繊維の原綿とを開繊する工程。
第2工程
前記の生分解性を有する熱可塑性繊維の開繊後の原綿75〜25質量部前記の天然繊維の開繊後の原綿25〜75質量部とを混綿し、目付が200〜1000g/mの範囲内のシートを製造する工程。
第3工程
得られたシートを200℃以上の熱風で加熱し、冷却金型により冷却しながら圧縮成型する工程。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、植物の育成に最適な透水性を有するだけでなく、育苗時は生分解が遅く形態安定性に優れ、培土やほ場への移植後は土中で速やかに生分解し植物の生育を阻害しないように生分解性をコントロールできるため、植物の苗を移植する際に育苗容器の除去、廃棄する手間やコストが省け、廃棄物による環境負荷がない育苗容器が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の育苗容器ついて詳細に説明する。
【0011】
本発明の育苗容器は、生分解性を有する熱可塑性樹脂と天然繊維とから形成される。
【0012】
ここで、生分解性を有する熱可塑性樹脂としては、融点や成型性、天然繊維との接着性の観点から、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートから選ばれる1種類以上を用いることが好ましい。中でも、非石油系原料からなるポリ乳酸が特に好ましい。ポリ乳酸は非石油系の生分解性樹脂であるとともに、製造工程においても石油系の溶剤をほとんど使用しないために、製造、使用、廃棄の段階を全体で考えたとき、環境への負荷を少なくすることができる。またポリ乳酸は、生分解性樹脂の中でも融点が170℃程度と適度な耐熱性を有するとともに成形性に優れ、他の天然質繊維や合成樹脂繊維との接着性も優れている。ここでポリ乳酸には、ポリ乳酸ホモポリマーの他、乳酸コポリマー、ブレンドポリマーを含むものとする。
【0013】
乳酸系ポリマーの重量平均分子量としては、5〜50万が好ましい。
【0014】
また、ポリ乳酸におけるL−乳酸単位とD−乳酸単位との構成モル比L/Dとしては、100/0〜0/100のいずれであってもよいが、高い融点を得る上ではL−乳酸あるいはD−乳酸いずれかの単位を75モル%以上含むことが好ましく、さらに高い融点を得る上ではL−乳酸あるいはD−乳酸のいずれかの単位を90モル%以上含むことがより好ましい。
【0015】
本発明で採用する生分解性を有する熱可塑性樹脂は、繊維の溶融体であることが好ましい。繊維の形態から溶融させたものとすることにより、生分解性を有する熱可塑性樹脂と天然繊維とが十分に絡み合った状態で成型されるので、後述するような引張強度や貫通抵抗などの高い機械的特性を得ることができる。
【0016】
本発明で採用する天然繊維としては、価格や入手のし易さから各種のセルロース系繊維、例えば、木質系や草本系のセルロース系繊維を挙げることができる。具体的には、木材パルプや、バガス、ムギワラ、アシ、パピルス、タケ類等のイネ科植物パルプや、木綿、ケナフ、ローゼル、アサ、アマ、ラミー、ジュート、ヘンプ等の靭皮繊維や、サイザルアサ、マニラアサ等の葉脈繊維等から選ばれる1種以上からなる繊維を用いることが好ましい。中でも、木綿は繊維長が比較的長く、圧縮成型時の変形に追従性が高く工程通過性に優れ、圧縮成型品の機械的強度を高くすることができる。
【0017】
生分解性を有する熱可塑性樹脂と天然繊維とのうち、いずれか一方が疎水性で他方が親水性であるのが好ましい。例えば、生分解性を有する熱可塑性樹脂としてポリ乳酸は疎水性である。
【0018】
上記生分解性を有する熱可塑性樹脂と天然繊維との混合比率としては、熱可塑性樹脂を75〜25質量%、天然繊維を25〜75質量%とすることが好ましい。より好ましくは、熱可塑性樹脂が60〜40質量%、天然繊維が40〜60質量%である。これにより育苗容器の優れた生分解性、機械的強度、透水性および通気性が得られるとともに、優れた生産性をも得ることができる。生分解性を有する熱可塑性樹脂の比率が25質量%未満の場合、繊維同士の結合が弱く、十分な機械的強度を得ることができない。また、生分解性を有する熱可塑性樹脂が疎水性である場合、25質量%未満では親水性が高すぎて、育苗中の水分によって、育苗容器が膨潤し、形態を保持することができない。一方、熱可塑性樹脂の比率が75質量%を超えると、加熱圧縮成型の際、溶融した樹脂が金型に付着するので工程通過性が極端に悪化する。また、溶融した繊維がフィルム化するので、目標とする透水性及び通気性を得ることができない。
【0019】
本発明の育苗容器は、底部および側部を有し、底部の平均厚さは0.5〜5.0mmとする。0.5mm以上とすることで、育苗容器としての使用に耐えうる貫通抵抗等の機械的特性を得ることができる。また5.0mm以下とすることで、育苗容器としての使用後に土中で速やかに分解させることができる。
【0020】
本発明の育苗容器は、底部および側部の引張強度が10kN/3cm以上であることが好ましい。そうすることで、育苗中の形態保持性を確保し、苗の転倒などを防ぐことができる。
【0021】
また本発明の育苗容器は、底部および側部の貫通抵抗が0.1kN以上であることが好ましい。そうすることで、育苗中の植物の根が容器を突き破って容器の形態を保持できなくなるのを防ぐことができる。
【0022】
本発明の育苗容器は、底部の透水係数が1.0×10−3〜1.0×10cm/sであることが重要である。透水係数が1.0×10−3cm/s未満の場合は透水性が少なく、根腐れやカビの発生などの問題を生じ、従来の透水性のない塩化ビニル製の育苗容器と苗の生育性に大差がないことになる。また、透水係数が1.0×10cm/sを越えると、透水性が高いため育苗容器内の土が乾燥し過ぎ、植物への水やりの回数を増やさなければならない問題がある。
【0023】
また、本発明の育苗容器は、底部の通気量が10〜300mL/cm・secの範囲内であることが重要である。通気量が10mL/cm・sec未満の場合は、根腐れやカビの発生などの問題を生じ、従来の通気性のない塩化ビニル製の育苗容器と苗の生育性に大差がない。また、通気量が300mL/cm・secを越える場合は、育苗容器内の土が乾燥し過ぎ、植物への水やりの回数を増やさなければならない。
【0024】
次に、本発明の育苗容器の製造方法は、少なくとも次の第1〜第3の工程を順次経由する。
【0025】
[第1工程(原綿調整工程)]
生分解性を有する熱可塑性繊維の原綿と天然繊維の原綿とを開繊する。
【0026】
生分解性を有する熱可塑性繊維と天然繊維の平均繊維長としては、それぞれ5〜200mmが好ましい。
【0027】
開繊の方式としては例えば、オープナー方式を採用することができる。
【0028】
また、別の育苗容器の製造の第3工程において圧縮成型時に押し出されるバリを回収し、粉砕したものを、この第1工程において開繊機に投入し、熱可塑性繊維の原綿と天然繊維の原綿との少なくとも一方に混合させることも、工程で発生する廃棄物を少なくすることができるので好ましい。 バリの粉砕は粉砕機によって行うことができる。
【0029】
バリの粉砕物の形状としては、チップ状、綿状、あるいは粉末状等にすることができる。
【0030】
バリの粉砕物の大きさとしては、使用する生分解性を有する熱可塑性繊維と天然繊維の繊維長以下の大きさとすることが好ましい。
【0031】
バリの粉砕物、すなわち再生材料と未使用の材料との混合比率としては、バリの粉砕物を材料全体の25〜90質量%とすることが好ましい。
【0032】
[第2工程(混合およびシート化工程)]
前記の生分解性を有する熱可塑性繊維の開繊した原綿と前記の天然繊維の開繊した原綿とを混綿し、シートを製造する。
【0033】
混綿の方法としては例えば、カーディング法を採用することができる。
【0034】
混綿は、均一にすることが望ましい。育苗容器に成型した際に貫通抵抗等の機械的性質や透水性や生分解性にムラが生じないようにするためである。
【0035】
上記生分解性を有する熱可塑性繊維と天然繊維との混合比率としては、熱可塑性繊維を75〜25質量部、天然繊維を25〜75質量部とする。好ましくは、熱可塑性繊維を60〜40質量部、天然繊維を40〜60質量部である。熱可塑性樹脂の比率が75質量%を超えると、加熱圧縮成型の際、溶融した樹脂が金型に付着するので工程通過性が極端に悪化する。また、溶融した繊維がフィルム化するので、目標とする透水性及び通気性を得ることができない。
【0036】
また、別の育苗容器の製造の第3工程において圧縮成型時に押し出されるバリを回収し、粉砕したものを、この第2工程において、混綿時に併せて混合することも、工程で発生する廃棄物を少なくすることができるので好ましい。
【0037】
バリの粉砕物の形状、大きさ、添加量等については、第1工程において混合する場合と共通する。
【0038】
本工程で得るシートは、ウェブ状のものとすることが好ましい。何故ならばシートがニードルパンチ不織布などの繊維同士の絡みが大きいものである場合や結合が強いものである場合は、圧縮成型時にシートの伸びが不十分であるため、破れたりする場合があるからである。
【0039】
ウェブ状のシートは、得られた混合原綿をベルトコンベア上に載せて形成することができる。このとき、必要に応じてクロスラッパー方式にてウェブを重ね合わせて、ウェブ状シートの目付を調節することができる。
【0040】
混合シートの目付けとしては、200〜1000g/mの範囲にすることにより、生分解性をコントロールすることができる。より好ましくは300〜500g/mにすることにより、育苗容器の優れた機械的強度及び透水性、通気性が得られ、また優れた生産性を得ることができる。該混合シートの目付けが200g/m未満の場合、加熱圧縮成型時の熱や伸びに十分耐えることができず、該混合シートが破れたり、成型金型に固着したりするため、所定の育苗容器を安定的に得ることができない。また、該混合シートの目付けが1000g/mを超えると、加熱時に熱が均一に伝わらないため、加熱工程でシートの表面が焦げたり、混合シート内部の熱可塑性繊維が十分に溶融しないため、繊維同士の結合が弱く、育苗容器の機械的強度が十分得られない。
【0041】
[第3工程(成型工程)]
得られたシートを加熱し、冷却金型により冷却しながら圧縮成型する。
【0042】
シートの加熱は200℃以上の熱風にて行う。熱風を使わず熱板を用いると、混合シートの内部まで均一に熱を加えることができないため、成型後育苗容器内部の繊維同士の結合が弱く、十分な機械的強度を得ることができない。また、熱風が200℃未満であると熱可塑性繊維との融点との差が少ないため、熱可塑性繊維が十分溶融せず、成型後育苗容器内部の繊維同士の結合が弱く、十分な機械的強度を得ることができない。
【0043】
次にこの成型品をカップ状に打ち抜き加工することにより、成型時に発生するバリなどの不要部分を切り落とす。
【0044】
ここで発生するバリを回収し、別の育苗容器の製造の第1工程または第2工程において熱可塑性繊維と天然繊維との少なくとも一方に混合させる材料とすることも、工程で発生する廃棄物を少なくすることができるので好ましい。
【0045】
以上の工程より、透水性に優れ、生分解性をコントロールされた育苗容器が得られる。
【実施例】
【0046】
[測定方法]
(1)厚さ
JIS L 1906−2000に規定の方法に準じて測定した。
【0047】
試験片として、底部からはその中心が真中に入るように30mm×30mmのものを1枚切り出した。また側部からは、容器の高さ方向の半分の位置において、30mm×30mmの試験片を筒の周方向の72度おきに5枚切り出した。
【0048】
測定は、厚さ測定器を用いて、2kPa加圧下で10秒間待った後に測定した。
【0049】
底部については、1枚の試験片から異なる5箇所について測定し、その平均値を算出した。また側部については、5枚の試験片から1箇所ずつ測定し、その平均値を算出した。
【0050】
(2)引張強さ
JIS L 1906−2000に規定の方法に準じて測定した。
【0051】
試験片として、底部からはその中心が真中に入るように30mm×30mmのものを、同条件で製造した育苗容器5個から1枚ずつ切り出した。また側部からは、容器の高さ方向の半分の位置において、高さ方向60mm×30mmの試験片を筒の周方向の72度おきに5枚切り出した。
【0052】
つかみ間隔は、底部の試料については10mm、側部の試料については30mmとし、引張速度100mm/minで、引張試験機にて測定をし、底部および側部のそれぞれについて平均値を算出した。
【0053】
(3)貫通抵抗
JIS L 1096−1999の破裂強さB法(低速伸長形法)に準ずる試験を行った。
【0054】
試験片として、底部からはその中心が真中に入るように30mm×30mmのものを、同条件で製造した育苗容器5個から1枚ずつ切り出した。また側部からは、容器の高さ方向の半分の位置において、30mm×30mmの試験片を筒の周方向の72度おきに5枚切り出した。
【0055】
試験治具にはシュート型先端5寸釘を用い、加圧速度10mm/minにて試験を行い、押し棒が試験片を突き破る強さを測り、それぞれの平均値を算出した。
【0056】
(4)透水係数
JIS A 1218−1998に規定の定水位透水試験に準ずる試験を行った。
【0057】
試験片として、底部からその中心が真中に入るように30mm×30mmのものを1枚切り出し、試験片を水に浸漬してよく濡らし、試験片の飽和度を高めた。
【0058】
試験片を直径2cmの孔の空いた有孔板2枚の間に挟んで、水温11℃の水道水を用い、1分間に孔を通過する水量で透水係数を求めた。
【0059】
(5)通気量
JIS L 1096−1999に規定のフラジール形法による通気性試験を行った。
【0060】
試験片として、底部からその中心が真中に入るように30mm×30mmのものを、同条件で製造した育苗容器5個から1枚ずつ切り出した。
【0061】
フラジール形試験機を用い、円筒の一端に試験片を取り付けた後、加減抵抗器によって傾斜形気圧計が125Paの圧力を示すように吸込みファンを調整し、そのときの垂直形気圧計の示す圧力と、使用した空気孔の種類とから、試験機に付属の表によって試験片を通過する空気量を求め、5枚の試験片についての平均値を算出した。
【0062】
(6)育苗における苗の生育性および育苗容器の形態保持性
各実施例・比較例について4個ずつの育苗容器を準備し、それぞれについて、栽培土を入れて締め固め、中央にサルビアの苗を植えて4週間育成を行った。この間のサルビアの生育と、育苗容器の形態の変化の有無を観察した。
【0063】
(7)培土移植後の苗の生育性および育苗容器の形態保持性
上記(6)に引き続き、育苗容器ごと培土移植した。4個の育苗容器の内、1週目毎に1個の育苗容器を培土から取り出し、サルビアの生育と、育苗容器の分解の有無を観察した。
【0064】
[実施例1]
(第1工程)
生分解性を有する熱可塑性繊維として、L−ポリ乳酸100モル%からなる、平均単繊維繊度6.6デシテックス、平均繊維張51mmのポリ乳酸繊維の原綿をオープナー方式により開繊した。
【0065】
また、天然繊維として、単繊維繊度1.5〜3.0デシテックス、繊維長15〜20mmのインド産木綿の原綿をオープナー方式により開繊した。
【0066】
(第2工程)
前記ポリ乳酸繊維の開繊した原綿50質量部と前記木綿の開繊した原綿50質量部とを混合し、カーディング法にて目付300g/m2のウェブ状にシート化した。
【0067】
(第3工程)
得られたシートを、熱風乾燥機にて250℃の熱風で1分間加熱した。次に、冷却凸凹金型を用いて100ton(980kN)の荷重で圧縮成型し、カップ型の育苗容器(大きさは4号)を得た。
【0068】
また、本工程で発生したバリなどの不要部分は切り落とし、回収し、実施例2にて再利用することとした。
【0069】
容器の物性を測定したところ、平均容器質量4.9g/個(5個の平均)、厚さ1.0mm、透水係数1.0×10−2cm/s、通気量92mL/cm・sec、引張強度138kN/3cm、貫通抵抗3kNであった。
【0070】
育苗容器での育苗におけるサルビアの生育は良好であり、育苗容器の変形や生分解性繊維の分解による穴が空くこともなく形態保持性も良好で苗の転倒の発生もなかった。また培土移植後は、培土1週間後に、根が育苗容器を突き破っていることが観察でき、培土4週間後に、育苗容器が生分解して空いた穴から根が伸長し、培土に根付いていることが観察でき、植物の定植に悪影響を及ぼしていないことが確認できた。
【0071】
[実施例2]
(第1工程)
実施例1と同様にして行った。
【0072】
(第2工程)
実施例1の第3工程で発生したバリなどを粉砕機で、長さが5mm以下の綿状になるように粉砕し、粉砕屑を得た。
【0073】
前記ポリ乳酸繊維の開繊した原綿50質量部と前記木綿の開繊した原綿50質量部と更に上記粉砕屑50質量部とを混合し、カーディング法にて目付300g/m2のウェブ状にシート化した。
【0074】
(第3工程)
得られたシートを熱風乾燥機にて250℃の熱風で1分間加熱した。次に、冷却凸凹金型を用いて100ton(980kN)の荷重で圧縮成型し、カップ型の育苗容器(大きさは4号)を得た。
【0075】
容器の物性を測定したところ、平均容器重量5.2g/個、厚さ0.9mm、透水係数1.0×10−2cm/s、通気量110mL/cm・sec、引張強度149kN/3cm、貫通抵抗3kNであり、実施例1と比較して、ほぼ同等の育苗容器が得られた。
【0076】
育苗容器での育苗におけるサルビアの生育は良好であり、育苗容器の変形や生分解性繊維の分解による穴が空くこともなく形態保持性も良好で苗の転倒の発生もなかった。また培土移植後は、培土1週間後に、根が育苗容器を突き破っていることが観察でき、培土4週間後に、育苗容器が生分解して空いた穴から根が伸長し、培土に根付いていることが観察でき、植物の定植に悪影響を及ぼしていないことが確認できた。
【0077】
[比較例1]
(第1工程)
実施例1と同様にして行った。
【0078】
(第2工程)
前記ポリ乳酸繊維の開繊した原綿90質量部と前記木綿の開繊した原綿10質量部とを混合し、カーディング法にて目付300g/m2のウェブ状にシート化した。
【0079】
(第3工程)
得られたシートを熱風乾燥機にて200℃の熱風で30秒間加熱した。次に、冷却凸凹金型を用いて100ton(980kN)の荷重で圧縮成型し、カップ型の育苗容器(大きさは4号)を得ようとしたが、熱可塑性繊維が溶融し、冷却金型に付着して破れてしまい、育苗容器を得られなかった。
【0080】
[比較例2]
(第1工程)
実施例1と同様にして行った。
【0081】
(第2工程)
前記ポリ乳酸繊維の開繊した原綿20質量部と前記木綿の開繊した原綿80質量部とを混合し、カーディング法にて目付300g/m2のウェブ状にシート化した。
【0082】
(第3工程)
得られたシートを熱風乾燥機にて200℃の熱風で1分間加熱した。次に、冷却凸凹金型を用いて100ton(980kN)の荷重で圧縮成型し、カップ型の育苗容器(大きさは4号)を得た。
【0083】
育苗容器での育苗において、繊維同士の結合が弱く、また吸水することで膨潤して、育苗容器が変形し、苗の転倒が発生した。
【0084】
[比較例3]
(第1工程)
実施例1と同様にして行った。
【0085】
(第2工程)
前記ポリ乳酸繊維の開繊した原綿50質量部と前記木綿の開繊した原綿50質量部とを混合し、カーディング法にて目付2000g/m2のウェブ状にシート化した。
【0086】
(第3工程)
得られたシートを熱風乾燥機にて240℃の熱風で1分間加熱した。次に、冷却凸凹金型を用いて100ton(980kN)の荷重で圧縮成型し、カップ型の育苗容器(大きさは4号)を得た。
【0087】
育苗容器での育苗において、育苗容器の内部の繊維同士の結合が弱く、また吸水することで膨潤して、育苗容器が変形し、苗の転倒が発生した。
【0088】
[比較例4]
(第1工程)
実施例1と同様にして行った。
【0089】
(第2工程)
前記ポリ乳酸繊維の開繊した原綿50質量部と前記木綿の開繊した原綿50質量部とを混合し、カーディング法にて目付50g/m2のウェブ状にシート化した。
【0090】
(第3工程)
得られたシートを熱風乾燥機にて240℃の熱風で加熱した。次に、冷却凸凹金型を用いて100ton(980kN)の荷重で圧縮成型し、カップ型の育苗容器(大きさは4号)を得ようとしたが、ウェブの厚さが薄く、破れてしまい、育苗容器を得られなかった。
【0091】
[比較例5]
生分解性を有しない市販の塩化ビニル製育苗容器を用いた。
【0092】
培土移植後も塩化ビニール製育苗容器は分解せず、根が育苗容器を突き破ることなく、育苗容器内で根まわりが発生し、植物が培土中に定着することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性を有する熱可塑性樹脂と天然繊維とから形成され、底部および側部を有する育苗容器であって、底部の平均厚さが0.5〜5.0mmの範囲内で、かつ底部の透水係数が1.0×10−3〜1.0×10cm/sの範囲内であることを特徴とする育苗容器。
【請求項2】
生分解性を有する熱可塑性樹脂と天然繊維とのうち、いずれか一方が疎水性で他方が親水性である、請求項1記載の育苗容器。
【請求項3】
生分解性を有する熱可塑性樹脂がポリ乳酸樹脂である、請求項1または2記載の育苗容器。
【請求項4】
生分解性を有する熱可塑性樹脂が繊維の溶融体である、請求項1〜3のいずれか記載の育苗容器。
【請求項5】
底部および側部の引張強度が10kN/3cm以上である、請求項1〜4のいずれか記載の育苗容器。
【請求項6】
底部および側部の貫通抵抗が0.1kN以上である、請求項1〜5のいずれか記載の育苗容器。
【請求項7】
底部の通気量が10〜300mL/cm・secの範囲内である、請求項1〜6のいずれか記載の育苗容器。
【請求項8】
少なくとも次の第1〜第3の工程を順次経由することを特徴とする育苗容器の製造方法。
第1工程
生分解性を有する熱可塑性繊維の原綿と天然繊維の原綿とを開繊する工程。
第2工程
前記の生分解性を有する熱可塑性繊維の開繊した原綿75〜25質量部と前記の天然繊維の開繊した原綿25〜75質量部とを混綿し、目付が200〜1000g/mの範囲内のシートを製造する工程。
第3工程
得られたシートを200℃以上の熱風で加熱し、冷却金型により冷却しながら圧縮成型する工程。
【請求項9】
前記第2工程において、シートをウェブ状に成形する、請求項8記載の育苗容器の製造方法。
【請求項10】
別の育苗容器の製造の第3工程において圧縮成型時に押し出されるバリを回収し、粉砕し、前記第1工程または第2工程において当該バリの粉砕物を熱可塑性繊維と天然繊維との少なくとも一方に混合させる、請求項8または9記載の育苗容器の製造方法。
【請求項11】
前記第3工程において圧縮成型時に押し出されるバリを回収し、別の育苗容器の製造の第1工程または第2工程において熱可塑性繊維と天然繊維との少なくとも一方に混合させる材料とする、請求項8〜10のいずれか記載の育苗容器の製造方法。

【公開番号】特開2006−174831(P2006−174831A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338297(P2005−338297)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】