説明

自己修復性材料

【課題】 自己修復性に有限性がなく、加熱などの特定の外的要因を必要とせず、常圧、室温、空気中でも自己修復性を発揮し、しかも種々の特性や機能を任意に織り込むことができる自己修復性を有する材料を提供する。
【解決手段】 ヒドラゾン結合を主鎖または/および側鎖に有する樹脂を含んで構成される自己修復性材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己修復性材料に関し、より詳細には、ヒドラゾン結合を主鎖または/および側鎖に有する樹脂を含んで構成される自己修復性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
重大事故の未然防止や材料寿命の延長、資源の有効活用などの観点から、自己修復性を有する材料の開発が強く望まれている。これまでに、モノマー成分を閉じ込めたマイクロカプセルと触媒を予めマトリックス樹脂中に混在させておき、クラックが生じた際にマイクロカプセルから修復成分のモノマーが流出し、触媒と作用してクラックを埋めて自己修復する樹脂材料(非特許文献1参照。)、加熱により結合が一度切断され、冷却により再結合する特徴を持つディールス・アルダー結合を活用した自己修復性を有する樹脂材料(非特許文献2参照。)、触媒を混在させることにより自己修復性を付与させたポリフェニレンエーテル樹脂(特許文献1参照。)などが提案されている。しかし第一の材料の場合、モノマー成分を閉じ込めたマイクロカプセルをマトリックス樹脂中に混在させるなど製造法が煩雑であり、またマイクロカプセルが消費され尽くした段階で、実質的に自己修復性は消滅する。また第二の材料の場合、結合を一度切断して再結合させるためには、望ましくは120℃以上の温度で加熱する必要があり、少なくとも90%以上の結合を再結合するためには75℃で3時間加熱する必要がある。したがって自己修復の反復性は有限ではないが、自己修復するためにはある程度の高温に加熱することが不可欠であるという課題を有する。さらに第三の材料の場合、効果が発現する樹脂材料としてはポリフェニレンエーテル樹脂に限定されており、種々の樹脂材料に広範に適用できる技術ではない。
【0003】
一方、ディールス・アルダー結合と同様に、可逆的に解離再結合する特性を有する共有結合に関する研究も盛んに進められており(非特許文献3参照。)、ヒドラゾン結合も可逆的に解離再結合する特性を有する共有結合であることが知られている。またこのヒドラゾン結合を主鎖に有するポリマーが報告されており(特許文献2参照。)、これによるとヒドラゾン結合を主鎖に有するポリマーは、DMSO(ジメチルスルホキシド)などの有機溶媒中において、ヒドラゾン結合が解離再結合することにより、既に構成されたポリマー中に新たにモノマー成分を導入したり、入れ替えたりできることが開示されている。しかし、これらヒドラゾン結合の解離再結合によるモノマー成分の導入や入れ替えは、有機溶媒中の溶液状態での現象であり、その濃度も有機溶媒1cc当たりポリマー5〜20mgと希薄で、ポリマー分子がほぼ全く自由に運動できる状態での現象である。したがって、これらは固体状態の樹脂における現象ではない。
【0004】
以上のように、自己修復性に有限性がなく、加熱などの特定の外的要因を必要とせず、常圧、室温、空気中でも自己修復性を発揮し、しかも種々の特性や機能を任意に織り込むことができる自己修復性を有する材料の開発が望まれてきた。
【0005】
【特許文献1】特開2001−81304号公報
【特許文献2】WO 2004/003044
【非特許文献1】R.S.Whiteら、Nature 2001年 409号、794ページ
【非特許文献2】Fred Wudlら、Science 2002年 295号、1699ページ
【非特許文献3】J.−M.Lehn、Chemistry − A European Journal 1999年 5巻 9号 2455ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、自己修復性に有限性がなく、加熱などの特定の外的要因を必要とせず、常圧、室温、空気中でも自己修復性を発揮し、しかも種々の特性や機能を任意に織り込むことができる自己修復性を有する材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、解離再結合性を有するヒドラゾン結合を主鎖または/および側鎖に含有する樹脂が、固体状態の樹脂中でありながら、該ヒドラゾン結合の解離再結合によって、図1に示されるように樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応が、常圧、室温(25℃)、空気中というたいへん温和な条件でも自発的に進行する性質を有し、この樹脂を含んで構成させることにより自己修復性を持つ材料を提供できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1] 化学式(1)で示されるヒドラゾン結合を主鎖または/および側鎖に有する樹脂(但し、化学式(1)においてRは、水素または炭化水素基である。)を含んで構成される自己修復性材料、
【0009】
【化1】

[2] 酸が含有されていることを特徴とする[1]記載の自己修復性材料
に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の自己修復性材料は、自己修復性に有限性がなく、加熱などの特定の外的要因を必要とせず、常圧室温空気中でも自己修復性を発揮し、しかも種々の特性や機能を任意に織り込むことができる材料であり、自己修復性が要求される材料用途として極めて有用な材料である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の材料は、化学式(1)で示されるヒドラゾン結合を主鎖または/および側鎖に有する樹脂を含んで構成される自己修復性を有する材料である。
化学式(1)においてRは、水素または炭化水素基である。
【0012】
【化2】

【0013】
本発明の材料を構成する樹脂中におけるヒドラゾン結合の割合は特に限定されるものではなく、自己修復性や材料物性、他の性質(例えば、物理的性質、化学的性質、電気的性質)などを勘案して設定することができる。ただし、樹脂中におけるヒドラゾン結合の割合が低減するほど、一般に自己修復性は低減することが示唆されるため留意する必要があり、化学式(1)で示されるヒドラゾンの結合の樹脂中に占める割合は、0.01重量%から60重量%の範囲が好適な例として挙げることができる。
【0014】
本発明の材料を構成する樹脂中におけるヒドラゾン結合は、主鎖または/および側鎖に含有されている。主鎖とは、樹脂分子の中で比較的長い分子連結鎖を示し、一方側鎖とは、主鎖から分岐した比較的短い分子連結鎖を示す。本発明においては、所望の自己修復性を得るために、ヒドラゾン結合は主鎖に含有していても良く、また側鎖に含有していても良く、あるいは両者に含有していても良い。
【0015】
本発明の材料を構成する樹脂中におけるヒドラゾン結合以外の部分は、本発明の効果である自己修復性が発現する範疇であれば、本発明において特に限定されるものではなく、材料物性や他の性質(例えば、物理的性質、化学的性質、電気的性質)などを勘案して任意に設定することができる特徴を有する。例えば、フッ素化炭化水素系を導入した場合には、疎水性や低誘電性などの性質を樹脂に付与することが期待でき、また芳香族系を導入した場合には、耐熱性や高屈折率性などを期待できる。さらには、水酸基やスルホン酸基の導入は樹脂の親水化や水溶性化など、またエチレンオキサイド系の導入は、親水化や柔軟化などが期待できる。このように本発明の材料においては、材料を構成する樹脂中のヒドラゾン結合以外の部分を任意に設定することができ、それによって任意の特性や機能を持たせることができる。なおこれらは本発明の材料に特性や機能を任意に設計する一例であり、これらに限定されるものではない。
【0016】
ヒドラゾン結合部分を説明する化学式(1)におけるRは、水素または炭化水素基である。炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基などのアリール基、ベンジル基などのアラルキル基などを好適に挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
本発明の材料を構成する樹脂中におけるヒドラゾン結合としては、より好適には、化学式(2)で示されるアシルヒドラゾン結合、および化学式(3)で示されるフェニルヒドラゾン結合を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。ただし、化学式(2)および化学式(3)においてRは、水素または炭化水素基である。また、化学式(3)におけるフェニル基は、その結合がオルト位、メタ位、パラ位のいずれからも選択することができ、また本発明の効果を損なわない範囲であれば、フェニル基の水素の一部が他の置換基、例えばフッ素や塩素、アセチル基、ニトロ基、シアノ基などで置換されたものでもよく、ここに挙げられたものに限定されるものではない。
【0018】
【化3】

【0019】
【化4】

【0020】
本発明の材料を構成する樹脂中におけるヒドラゾン結合の製造方法としては、ヒドラゾン結合を既に含有するモノマーを重合する方法、アルデヒド化合物とヒドラジド化合物を用いてヒドラゾン結合を作成しながら重合する方法などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。具体的には、化学式(4)で示されるジアルデヒドとジヒドラジドを重縮合する方法、化学式(5)で示されるモノアルデヒドモノヒドラジド化合物を重縮合する方法、またアルデヒドの前駆体としてアセタール化合物を用いる方法などを例として挙げることができる。
【0021】
ジアルデヒド化合物とジヒドラジド化合物を重縮合する場合、ジアルデヒド化合物とジヒドラジド化合物の使用モル比によって樹脂の分子量を制御することができる。一般的には、分子量が高いほど材料の強度などが増大し、材料としての全体の機能を高めることができる傾向にある。このことを勘案すれば、ジアルデヒド化合物とジヒドラジド化合物の使用モル比(ジアルデヒド化合物/ジヒドラジド化合物)は、0.8から1.25の範囲で定めることが通常好ましい。
【0022】
【化5】

【0023】
【化6】

【0024】
化学式(4)におけるジアルデヒド化合物の具体的な例としては、化学式(6)または化学式(7)に示される芳香族系アルデヒド化合物、化学式(8)または化学式(9)に示される脂肪族系アルデヒド化合物を挙げることができる。また化学式(4)におけるジヒドラジド化合物の具体的な例としては、化学式(10)または化学式(11)に示される芳香族系アシルヒドラジド化合物、化学式(12)または化学式(13)に示される脂肪族系アシルヒドラジド化合物、化学式(14)または化学式(15)に示されるフェニルヒドラジド化合物を挙げることができる。なお、化学式(6)におけるE、化学式(7)におけるE、化学式(8)におけるG、化学式(9)におけるG、化学式(10)におけるJ、化学式(11)におけるJ、化学式(12)におけるL、化学式(13)におけるL、化学式(14)におけるMおよび化学式(15)におけるMとしては、炭素数1から20のアルキレン鎖、炭素数2から20の一部不飽和結合を有するアルキレン鎖、炭素数1から20のハロゲン化アルキレン鎖、繰り返し単位数が1から30のエチレングリコール鎖、ビスフェノールA型、レゾルシノール型およびヒドロキノン型などの芳香族系鎖(芳香環の水素がハロゲンや炭化水素などで置換されたものを含む)などを挙げることができる。また、化学式(8)におけるp1、化学式(9)におけるp2、化学式(12)におけるq1および化学式(13)におけるq2としては、1から20の整数を具体例として挙げることができる。また、化学式(10)におけるR、化学式(11)におけるR、化学式(12)におけるR、化学式(13)におけるR、化学式(14)におけるRおよび化学式(15)におけるRとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基などを具体例として挙げることができる。
【0025】
【化7】

【0026】
【化8】

【0027】
【化9】

【0028】
【化10】

【0029】
【化11】

【0030】
【化12】

【0031】
【化13】

【0032】
【化14】

【0033】
【化15】

【0034】
【化16】

【0035】
本発明の材料において、本発明の効果をより効率的に発現させるために、酸を樹脂中に含有させることができる。酸の種類や量によって本発明の効果の程度を制御することができ、これらは特に限定されるものではなく、目的に適した種類や量を選択することが望ましい。酸の種類としては、酢酸やオクタノイックカルボン酸などの炭化水素系カルボン酸、安息香酸やパラトルエンスルホン酸などの芳香族系カルボン酸またはスルホン酸、トリフルオロ酢酸やペンタデカフルオロオクタノイックアシッドなどのフッ素化炭化水素系カルボン酸等の有機酸や、塩酸、硫酸などの無機酸を用いることができる。また、例えば樹脂の構造中に芳香族スルホン酸を導入するなど、樹脂自体に酸の機能を持たせる方法を用いることもできる。樹脂の種類や条件などによって効果を発現させる効率性は異なるが、一般的には酸強度が大きいほど効率が高い傾向にある。また酸の量としては、好適な条件の一例として、ヒドラゾン結合に1モル対して、0.01ミリモルから10モルの範囲を挙げることができる。
【0036】
本発明の材料は、本発明におけるヒドラゾン結合を主鎖または/および側鎖に有する樹脂のみで構成されていても良く、あるいは本発明におけるヒドラゾン結合を主鎖または/および側鎖に有する樹脂と他の成分で構成された樹脂組成物であっても良い。他の成分としては、例えば他種類の樹脂や無機フィラーなどを一例として挙げることができる。本発明の材料における樹脂の割合については、本発明の効果が発現する範囲であれば、特に限定されるものではない。
【0037】
本発明の材料を構成する樹脂は、実質的に固体状態でありながら、ヒドラゾン結合の解離再結合によって、図1に示されるように樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応が、常圧、室温(25℃)、空気中というたいへん温和な条件でも自発的に進行する。すなわち、隣接する樹脂分子間で分子鎖の一部を交差状に常に交換し合っている。したがって、例えば二枚の樹脂フィルムを重ね合わせた場合に、その界面で隣接する樹脂分子間で分子鎖の一部を交差状に交換する反応が、常圧、室温(25℃)、空気中でも進行し、界面において二枚のフィルムを橋渡しするように新たな共有結合が次々と生成し、いずれは一体化して一つのフィルムへと自発的に変化する。このように、本発明の材料中において欠陥や亀裂の原因となる界面が発生しても、これらの界面は自発的に消滅して、均質な一体の材料となる。なおこのプロセスは、樹脂を十分に高温まで加熱して溶融させ、界面で樹脂の絡み合いを起こすことにより界面を結合させる場合とは本質的に異なる。加熱による熱運動によって、界面の樹脂を完全に絡み合わせることは実質的に困難であり、このような方法での一体化では、界面部分とそれ以外の部分で均質な材料とは言えない。一方、本発明の材料においては、界面を通して橋渡し状に新たな共有結合が次々と形成されていき、このプロセスは界面以外の部分で生じているものと同等であり、全体として均質な方向へと自発的に向かっていく。
【0038】
本発明の材料を構成する樹脂において、ヒドラゾン結合の解離再結合によって樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応は、加熱することにより促進される。促進の程度は樹脂の物性などに影響されるために一概に表現はできないが、例えば80℃に加熱した場合には、概して10〜1000倍程度の促進が期待される。ヒドラゾン結合の解離再結合によって、図1に示されるように樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応は、組成の異なる複数種類の樹脂分子間でも、あるいは同組成の樹脂分子間でも進行する。
【0039】
本発明の材料は自己修復性を有する材料であるが、自己融着性も併せ持つ。すなわち前述のように、複数の本発明の材料をお互いに接するように配置することにより、その界面においてお互いを橋渡しするように新たな共有結合が次々と生成し、一体化の方向へと向かう。したがって本発明の材料は、それ自身が接着剤的な機能を既に有する材料であるため、接着剤などの付加的な要素を必要とすることなく、複数の材料がその界面において自己融着して一体化する機能を持つ。
【0040】
本発明の材料を構成する樹脂において、ヒドラゾン結合の解離再結合によって樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応は、反応によって反応に必須な物質等が消費されていくタイプではないため、原理的に無限に進行する特徴を持つ。
【0041】
本発明の自己修復性材料は、実質的に固体状態の材料である。具体的には、沸点が300℃以下の化合物が本発明の材料中に占める割合が、80重量%以下、好ましくは50重量%以下である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲をこれらに限定するものではない。
【0043】
本実施例におけるH−NMRの測定は、被検物質を重水素化されたDMSO(ジメチルスルホキシド)に室温において溶解し、400メガヘルツの分解能を有する装置を用いて行った。また、DMSO中における被検物質の濃度は、DMSO1ミリリットル当たり8〜10ミリグラムとした。
【0044】
本実施例においては、H−NMRのスペクトルによって隣接するモノマーの種類を同定した。特にヒドラジド結合の中の炭素原子に結合する水素原子に起因するシグナルに注目した。これらのシグナルは、原理的に隣接するモノマーの種類によって異なる位置に発現し得る。本実施例においては、これらのシグナルはいずれも7.85ppmから8.7ppmの範囲に発現した。なお、ヒドラジド結合のシス・トランス配置により、一種類の水素原子であっても、測定温度によっては複数に分かれて発現することがある。
【0045】
本発明における樹脂中のクロロホルムの定量は、H−NMRにより行われた。また樹脂中の水分の定量は、カール・フィッシャー法により行われた。
【0046】
本発明における樹脂の分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により行われた。分子量はポリスチレン換算の値である。
【0047】
(合成例1)
3,6,9−トリオキサウンデカンジオイックアシッド(Fluka社)39.02gをメタノール300ミリリットルに溶解させ、ついでp−トルエンスルホン酸0.2gを加えた。この溶液を6時間還流させ、冷却後に減圧下でメタノールを除去し、38.3gの透明液を得た。この液をクロマトグラフィー(固定相にシリカ、移動相にジクロロメタンとアセトンの体積比で20:1の混合液)により精製し、化学式(16)で示される化合物を25.5g得た。この化合物7.55gをメタノール25ミリリットルに溶解した溶液と、メタノール75ミリリットルとヒドラジン一水和物58.95gの混合液を用意し、攪拌状態で後者の溶液に前者の溶液を滴下しながら室温で加えた。滴下終了後に一晩攪拌状態で放置した後、減圧下でエタノールを除去し、残った反応液を100ミリリットルのジクロロメタンで4回抽出した。4回分の抽出液を混合し、減圧下でジクロロメタンを除去すると、オイル状の物質が9.43g得られた。このオイル状物質をクロマトグラフィー(固定相にシリカ、移動相にジクロロメタンとメタノールの体積比で2:1の混合液)により精製し、化学式(17)で示される白色粉末状のジアシルヒドラジド化合物5.28gを得た。
【0048】
【化17】

【0049】
【化18】

【0050】
(合成例2)
t−ブチルヒドロキノン(Aldrich社)19.93g、メチルブロモアセテート(Aldrich社)26ミリリットル、炭酸カリウム44.3g、アセトン150ミリリットルを混合し、この懸濁液を12時間還流させた。冷却後に濾過し、濾液を減圧下でアセトン除去し、30.6gの褐色透明オイルを得た。この液をクロマトグラフィー(固定相にシリカ、移動相にジクロロメタン)により精製し、化学式(18)で示される化合物を20.5g得た。この化合物11.05gをメタノール40ミリリットルに溶解した溶液と、メタノール100ミリリットルとヒドラジン一水和物57.4gの混合液を用意し、攪拌状態で後者の溶液に前者の溶液を滴下しながら室温で加えた。滴下終了後に一晩攪拌状態で放置した後、減圧下でエタノールを除去し、残った反応液を150ミリリットルのクロロホルムで2回抽出した。2回分の抽出液を混合し、減圧下でクロロホルムを除去すると、オイル状の物質が20g得られた。このオイル状物質をクロマトグラフィー(固定相にシリカ、移動相にクロロホルムとメタノールの体積比で10:1の混合液)により精製し、化学式(19)で示される白色粉末状のジアシルヒドラジド化合物11gを得た。
【0051】
【化19】

【0052】
【化20】

【0053】
(合成例3)
2−ヒドロキシベンズアルデヒド(Aldrich社)14.83g、ビス[2−(2−クロロエトキシ)エチル]エーテル(Fulka社)9.74g、炭酸カリウム20.1g、ヨウ化ナトリウム1.43g、ジメチルホルムアミド60ミリリットルを混合し、この懸濁液を90℃で11時間反応させた。冷却後にクロロホルム300ミリリットルに分散させ、このクロロホルム溶液を純水300ミリリットルによる洗浄を5回行った。洗浄後のクロロホルム溶液を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下でクロロホルムを除去し、18.6gの褐色透明液を得た。この液をクロマトグラフィー(固定相にシリカ、移動相にジクロロメタンとアセトンの体積比で20:1の混合液)により精製し、化学式(20)で示される無色透明なオイル状のジアルデヒド化合物を9.6g得た。
【0054】
【化21】

【0055】
(合成例4)
3−ヒドロキシベンズアルデヒド(Aldrich社)12.23g、ビス[2−(2−クロロエトキシ)エチル]エーテル(Fulka社)9.37g、炭酸カリウム17.5g、ヨウ化ナトリウム1.2g、ジメチルホルムアミド60ミリリットルを混合し、この懸濁液を90℃で21時間反応させた。冷却後にクロロホルム300ミリリットルに分散させ、このクロロホルム溶液を純水300ミリリットルによる洗浄を5回行った。洗浄後のクロロホルム溶液を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下でクロロホルムを除去し、17.1gの褐色透明液を得た。この液をクロマトグラフィー(固定相にシリカ、移動相にジクロロメタンと酢酸エチルの体積比で3:1の混合液)により精製し、化学式(21)で示される無色透明なオイル状のジアルデヒド化合物を5.1g得た。
【0056】
【化22】

【0057】
(合成例5)
化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物146.5ミリグラムおよび化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物189.6ミリグラムをクロロホルム10ミリリットルに溶解させ、均一に攪拌した後に、内径50ミリメートルのテフロン製のシャーレに溶液を移した。40℃にて空気を流通させながらクロロホルムを蒸発させ、約1時間後に蒸発した後に40℃、10ミリバールの減圧状態に2時間保持したところ、化学式(22)に示される繰り返し単位を持つ樹脂からなる硬質な透明なフィルム(A)が得られた。このフィルムの画像を図2に示す。またこのフィルムのH−NMRプロファイルの一部を、図11に示す。なおH−NMRプロファイルから、化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物および化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物に起因するシグナルは検出されなかった。
【0058】
【化23】

【0059】
(合成例6)
化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物125ミリグラムおよび化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物200.9ミリグラムをクロロホルム10ミリリットルに溶解させ、均一に攪拌した後に、内径50ミリメートルのテフロン製のシャーレに溶液を移した。40℃にて空気を流通させながらクロロホルムを蒸発させ、約1時間後に蒸発した後に40℃、10ミリバールの減圧状態に2時間保持したところ、化学式(23)に示される繰り返し単位を持つ樹脂からなる柔軟性のある透明なフィルム(B)が得られた。このフィルムの画像を図3に示す。またこのフィルムのH−NMRプロファイルの一部を、図11に示す。なおH−NMRプロファイルから、化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物に起因するシグナルは検出されなかったが、化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物に起因するシグナルは、アルデヒドを基準として1モル%認められた。
【0060】
【化24】

【0061】
(合成例7)
化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物123.5ミリグラムおよび化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物198ミリグラムをクロロホルム10ミリリットルに溶解させ、均一に攪拌した後に、内径50ミリメートルのテフロン製のシャーレに溶液を移した。40℃にて空気を流通させながらクロロホルムを蒸発させ、約1時間後に蒸発した後に40℃、10ミリバールの減圧状態に2時間保持したところ、化学式(24)に示される繰り返し単位を持つ樹脂からなる柔軟性のある透明なフィルム(C)が得られた。このフィルムのH−NMRプロファイルの一部を、図11に示す。なおH−NMRプロファイルから、化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物および化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物に起因するシグナルは検出されなかった。
【0062】
【化25】

【0063】
(合成例8)
化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物156.9ミリグラムおよび化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物203.3ミリグラムをクロロホルム10ミリリットルに溶解させ、均一に攪拌した後に、内径50ミリメートルのテフロン製のシャーレに溶液を移した。40℃にて空気を流通させながらクロロホルムを蒸発させ、約1時間後に蒸発した後に40℃、10ミリバールの減圧状態に2時間保持したところ、化学式(25)に示される繰り返し単位を持つ樹脂からなる硬質な透明なフィルム(D)が得られた。このフィルムのH−NMRプロファイルの一部を、図11に示す。なおH−NMRプロファイルから、化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物に起因するシグナルは検出されなかったが、化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物に起因するシグナルは、アルデヒドを基準として0.5モル%認められた。
【0064】
【化26】

【0065】
(合成例9)
化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物65.4ミリグラム、化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物75ミリグラム、化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物97.9ミリグラム、および化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物102ミリグラムをクロロホルム10ミリリットルに溶解させ、均一に攪拌した後に、内径50ミリメートルのテフロン製のシャーレに溶液を移した。40℃にて空気を流通させながらクロロホルムを蒸発させ、約1時間後に蒸発した後に40℃、10ミリバールの減圧状態に2時間保持したところ、化学式(26)、化学式(27)、化学式(28)および化学式(29)に示される結合が混在する共重合体樹脂からなる硬質な透明なフィルム(E)が得られた。このフィルムのH−NMRプロファイルの一部を、図11に示す。なおH−NMRプロファイルから、化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物および化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物に起因するシグナルは検出されなかったが、化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物に起因するシグナルは、全アルデヒドを基準として0.3モル%認められた。このフィルムのプロファイルは、フィルム(A)、フィルム(B)、フィルム(C)、およびフィルム(D)を全て均一に足し合わせたものに一致する。
【0066】
【化27】

【0067】
【化28】

【0068】
【化29】

【0069】
【化30】

【0070】
(合成例10)
フィルム(A)80ミリグラムを5ミリリットルのクロロホルムに完全に溶解させ、同様にフィルム78ミリグラム(B)を別の5ミリリットルのクロロホルムに完全に溶解させた。両溶液を均一に混合し、内径50ミリメートルのテフロン製のシャーレに溶液を移した。40℃にて空気を流通させながらクロロホルムを蒸発させ、約1時間後に蒸発した後40℃、10ミリバールの減圧状態に2時間保持したところ、柔軟性のある透明なフィルム(F)が得られた。このフィルムの画像を図4および図5に示す。またこのフィルムのH−NMRプロファイルの一部を、図11に示す。H−NMRプロファイルよりこのフィルムは、フィルム(A)を構成する化学式(22)で示される繰り返し単位を持つ樹脂と、フィルム(B)を構成する化学式(23)で示される繰り返し単位を持つ樹脂がブレンドされた状態のフィルムであることが分かる。なお、フィルム(F)に含有されるクロロホルムおよび水の量を測定したところ、それぞれ8.7重量%および4.1重量%であった。なおH−NMRプロファイルから、化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物および化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物に起因するシグナルは検出されなかったが、化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物に起因するシグナルは、全アルデヒドを基準として0.5モル%認められた。
【0071】
(合成例11)
フィルム(A)80ミリグラムを5ミリリットルのクロロホルムに完全に溶解させ、同様にフィルム(B)78ミリグラムを別の5ミリリットルのクロロホルムに完全に溶解させた。両溶液を均一に混合し、さらにペンタデカフルオロオクタノイックアシッド(Aldrich社)を11.8ミリグラム加え、溶解後に攪拌して内径50ミリメートルのテフロン製のシャーレに溶液を移した。40℃にて空気を流通させながらクロロホルムを蒸発させ、約1時間後に蒸発した後40℃、10ミリバールの減圧状態に2時間保持したところ、透明なフィルム(G)が得られた。このフィルムの画像を図6および図7に示す。またこのフィルムのH−NMRプロファイルの一部を、図11に示す。このフィルム中におけるペンタデカフルオロオクタノイックアシッドの割合は、アシルヒドラゾン結合1モルに対して0.058モルに相当する。H−NMRプロファイルよりこのフィルムは、フィルム(A)を構成する化学式(22)で示される繰り返し単位を持つ樹脂と、フィルム(B)を構成する化学式(23)で示される繰り返し単位を持つ樹脂がブレンドされた状態のフィルムであるが、フィルム(F)と比較すると、フィルム(D)のシグナルS2に帰属できるシグナルS3が少し発現していることが認められた。また、フィルム(C)のシグナルS1に帰属できるシグナルの発現も認められる。これらはそれぞれ、化学式(29)で示される結合および化学式(28)で示される結合に帰属することができ、これらのことはフィルム(G)を作成中において、化学式(22)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子と、化学式(23)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子とが、樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応が一部起こり、新たな結合が一部形成されていることを示している。その割合をシグナル面積比から推算したところ、全体の36%が入れ替わっていることが分かった。なお、フィルム(G)に含有されるクロロホルムおよび水の量を測定したところ、それぞれ8.6重量%および4.2重量%であった。なおH−NMRプロファイルから、化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物および化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物のいずれについても、これらに起因するシグナルは検出されなかった。
【0072】
(実施例1)
フィルム(G)の一部を10ミリグラム切り取ってガラスのサンプル管に入れ、フィルムの固体状態のままオイルバスを用いて120℃で2分間加熱し、フィルム(G)が加熱処理されたフィルム(I)を得た。このフィルムの画像を図8に示す。加熱前に比べてやや縮んではいるが、外見上原型を十分に留めており、溶融するような変化は起きていない。このフィルムのH−NMRプロファイルの一部を、図12に示す。フィルム(G)のシグナルS3に比べて、フィルム(I)ではシグナルS5が明らかに増大しているのが分かる。これは、120℃で2分間加熱している間に、化学式(22)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子と、化学式(23)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子とが、樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応が起こり、化学式(29)で示される結合が新たに形成されていることを示している。その割合をシグナル面積比から推算したところ、フィルム作成後の36%(合成例11)から59%へと増大していることが分かった。
【0073】
(実施例2)
フィルム(G)の一部を10ミリグラム切り取ってガラスのサンプル管の底に置き、フィルムの固体状態のままオイルバスを用いて120℃で10分加熱し、フィルム(G)が加熱処理されたフィルム(J)を得た。このフィルムのH−NMRプロファイルの一部を、図12に示す。化学式(29)で示される結合に帰属されるシグナルS6が大幅に増大し、また化学式(28)で示される結合に帰属されるシグナルS7も明確に増大していることが分かる。フィルム(J)のプロファイルは、共重合体樹脂から成るフィルム(E)とほぼ同等であり、フィルム(J)は化学式(26)、化学式(27)、化学式(28)および化学式(29)に示される結合がほぼ同モル比で混在する共重合体樹脂からなるフィルムであることが分かる。これは、120℃で10分間加熱している間に、化学式(22)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子と、化学式(23)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子とが、樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応が起こり、ほぼ均質な共重合樹脂分子へと変化していることを示している。その割合をシグナル面積比から推算したところ、フィルム作成後の36%(合成例11)から98%へと増大していることが分かった。
【0074】
(比較例1)
フィルム(G)の一部を10ミリグラム切り取り、加熱することなく重水素化DMSOに所定の濃度(樹脂10ミリグラムに対して重水素化DMSOが1ミリリットル)に溶解し、この溶液を120℃で24時間加熱して、溶液(A)を得た。この溶液のH−NMRプロファイルの一部を、図12に示す。シグナルS8はシグナルS3とほぼ同等であり、その他にもほとんど変化は見られない。したがって、重水素化DMSO溶液中においては、本条件ではほとんど樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応が起きていないことが分かった。
【0075】
(比較例2)
フィルム(G)の一部を10ミリグラム切り取り、加熱することなく重水素化DMSOに所定の濃度(樹脂10ミリグラムに対して重水素化DMSOが1ミリリットル)に溶解し、この溶液を25℃で3日間放置して、溶液(B)を得た。H−NMR測定に供したところ、比較例1と同様に、本条件ではほとんど樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応が起きていないことが分かった。
【0076】
(実施例3)
フィルム(F)の一部を10ミリグラム切り取り、ガラスのサンプル管の底に置き、オイルバスを用いて120℃で24時間加熱し、フィルム(F)が加熱処理されたフィルム(H)を得た。このフィルムのH−NMRプロファイルの一部を、図12に示す。樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応が起こっていれば、それに帰属されるシグナルがS4の位置に発現するはずであるが、加熱前のフィルム(F)のスペクトルと同様にシグナルはほとんど認められず、樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応は、本条件ではほとんど起こっていないことが分かった。
【0077】
(合成例12)
フィルム(A)58ミリグラムを5ミリリットルのクロロホルムに完全に溶解させ、同様にフィルム(B)59ミリグラムを別の5ミリリットルのクロロホルムに完全に溶解させた。両溶液を均一に混合し、さらにペンタデカフルオロオクタノイックアシッド(Aldrich社)を1.2ミリグラム加え、溶解後に攪拌して内径50ミリメートルのテフロン製のシャーレに溶液を移した。35℃にて空気を流通させながらクロロホルムを蒸発させ、約1時間後に蒸発した後も、さらに同条件で1時間保持したところ、透明なフィルム(K)が得られた。このフィルムの画像を図9に示す。またこのフィルムのH−NMRプロファイルの一部を、図13に示す。このフィルム中におけるペンタデカフルオロオクタノイックアシッドの割合は、アシルヒドラゾン結合1モルに対して0.01モルに相当する。H−NMRプロファイルよりこのフィルムは、フィルム(A)を構成する化学式(22)で示される繰り返し単位を持つ樹脂と、フィルム(B)を構成する化学式(23)で示される繰り返し単位を持つ樹脂がブレンドされた状態のフィルムであるが、フィルム(G)と同様に化学式(29)で示される結合に帰属されるシグナルS9の発現が見られ、フィルム(K)を作成中において、化学式(22)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子と、化学式(23)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子とが、樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応が一部起こり、新たな結合が一部形成されていることを示している。その割合をシグナル面積比から推算したところ、全体の22%が入れ替わっていることが分かった。なお、フィルム(K)に含有されるクロロホルムおよび水の量を測定したところ、それぞれ8.5重量%および4.3重量%であった。なおH−NMRプロファイルから、化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物および化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物のいずれについても、これらに起因するシグナルは検出されなかった。
【0078】
(合成例13)
フィルム(A)45.4ミリグラムを5ミリリットルのクロロホルムに完全に溶解させ、同様にフィルム(B)46.6ミリグラムを別の5ミリリットルのクロロホルムに完全に溶解させた。両溶液を均一に混合し、内径50ミリメートルのテフロン製のシャーレに溶液を移した。35℃にて空気を流通させながらクロロホルムを蒸発させ、約1時間後に蒸発した後も、さらに同条件で1時間保持したところ、透明なフィルム(L)が得られた。H−NMRプロファイルよりこのフィルムは、フィルム(A)を構成する化学式(22)で示される繰り返し単位を持つ樹脂と、フィルム(B)を構成する化学式(23)で示される繰り返し単位を持つ樹脂がブレンドされた状態のフィルムであることが分かった。なお、フィルム(L)に含有されるクロロホルムおよび水の量を測定したところ、それぞれ8.7重量%および4.4重量%であった。なおH−NMRプロファイルから、化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物および化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物に起因するシグナルは検出されなかったが、化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物に起因するシグナルは、全アルデヒドを基準として0.5モル%認められた。
【0079】
(実施例4)
フィルム(K)を作成後、常圧、室温(25℃)で空気中に92時間放置した。この間、外的な刺激は何も加えなかった。このフィルムをフィルム(K1)とする。このフィルムは、外見上は全くフィルム(K)と変わることはなく、流動したり形が変形したりするなどの変化は全く見られなかった。また強度等の変化もなかった。このフィルムのH−NMRプロファイルの一部を、図13に示す。化学式(29)で示される結合に帰属されるシグナルS10の強度が、フィルム(K)に比べて増大していることが分かる。その割合をシグナル面積比から推算したところ、全体の39%が入れ替わっていることが分かった。すなわち、外的な刺激を何も与えず、常圧、室温(25℃)で空気中に92時間放置した場合に、化学式(22)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子と、化学式(23)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子とが、樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応が自発的に進行しており、入れ替わっている割合がフィルム作成後の22%から39%へと増大した。
【0080】
(実施例5)
フィルム(K)を作成後、常圧、室温(25℃)で空気中に22日間放置した。この間、外的な刺激は何も加えなかった。このフィルムをフィルム(K2)とする。このフィルムは、外見上は全くフィルム(K)と変わることはなく、流動したり形が変形したりするなどの変化は全く見られなかった。また強度等の変化もなかった。このフィルムの画像を図10に示す。また、このフィルムのH−NMRプロファイルの一部を、図13に示す。化学式(29)で示される結合に帰属されるシグナルS11の強度が、フィルム(K)およびフィルム(K1)に比べて増大していることが分かる。また同様に、化学式(28)で示される結合に帰属されるシグナルS12も明らかに増大している。その割合をシグナル面積比から推算したところ、全体の52%が入れ替わっていることが分かった。すなわち、外的な刺激を何も与えず、常圧、室温(25℃)で空気中に22日間放置した場合に、化学式(22)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子と、化学式(23)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子とが、樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応が自発的に進行しており、入れ替わっている割合がフィルム作成後の22%から52%へと増大した。
【0081】
(実施例6)
フィルム(K)を作成後にすぐにその一部10ミリグラム切り取ってガラスのサンプル管に入れ、フィルムの固体状態のままオイルバスを用いて120℃で10分間加熱し、フィルム(K)が加熱処理されたフィルムを得た。化学式(29)で示される結合に帰属されるシグナルの強度が、フィルム(K)に比べて増大しており、その割合をシグナル面積比から推算したところ、全体の80%が入れ替わっていることが分かった。すなわち、120℃で10分間加熱した場合に、化学式(22)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子と、化学式(23)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子とが、樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応が進行し、入れ替わっている割合がフィルム作成後の22%から80%へと増大した。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例7〜11)
実施例6と同様にして、種々の温度、時間の条件で加熱を行い、評価を行った。結果をまとめて表1に示す。温度が高いほど樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応が進む速度が大きく、また時間が長いほど入れ替わる割合も増大することが分かる。
【0083】
【表1】

【0084】
(比較例3)
フィルム(K)を作成後すぐに重水素化DMSOに所定の濃度で溶解させ、その溶液を100℃で4時間過熱した。これをH−NMR測定に供したところ、そのスペクトルは合成例12で示したフィルム(K)のスペクトルとほぼ同等で、樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応は、本条件ではほとんど起こっていないことが分かった。
【0085】
(比較例4)
フィルム(K)を作成後すぐに重水素化DMSOに所定の濃度で溶解させ、その溶液を室温で14日間放置した。これをH−NMR測定に供したところ、そのスペクトルは合成例12で示したフィルム(K)のスペクトルとほぼ同等で、樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応は、本条件ではほとんど起こっていないことが分かった。
【0086】
(実施例12)
フィルム(L)を作成後にすぐにその一部10ミリグラム切り取ってガラスのサンプル管に入れ、フィルムの固体状態のままオイルバスを用いて120℃で10分間加熱し、フィルム(L)が加熱処理されたフィルムを得た。このフィルムをH−NMRで評価したところ、樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応は、本条件ではほとんど起こっていないことが分かった。
【0087】
(実施例13)
フィルム(L)を作成後にすぐにその一部10ミリグラム切り取ってガラスのサンプル管に入れ、フィルムの固体状態のままオイルバスを用いて120℃で1時間加熱し、フィルム(L)が加熱処理されたフィルムを得た。このフィルムをH−NMRで評価したところ、樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応は、本条件ではほとんど起こっていないことが分かった。
【0088】
(合成例14)
化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物92.8ミリグラムおよび化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物120.3ミリグラムをクロロホルム10ミリリットルに完全に溶解させた。両溶液を均一に混合し、さらにペンタデカフルオロオクタノイックアシッド(Aldrich社)を24.4ミリグラム加え、溶解後に攪拌して内径50ミリメートルのテフロン製のシャーレに溶液を移した。25℃にて空気を流通させながらクロロホルムを蒸発させ、その状態で約12時間経過した後、60℃で10ミリバールの減圧状態に2時間保持したところ、化学式(22)に示される繰り返し単位を持つ樹脂からなる硬質な透明なフィルム(M)が得られた。このフィルムのH−NMRプロファイルの一部を、図14に示す。このフィルム中におけるペンタデカフルオロオクタノイックアシッドの割合は、アシルヒドラゾン結合1モルに対して0.10モルに相当する。なお、フィルム(M)に含有されるクロロホルムおよび水の量を測定したところ、それぞれ4.8重量%および2.9重量%であった。なおH−NMRプロファイルから、化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物および化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物に起因するシグナルは検出されなかった。
【0089】
(合成例15)
化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物80.8ミリグラムおよび化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物129.9ミリグラムをクロロホルム10ミリリットルに完全に溶解させた。両溶液を均一に混合し、さらにペンタデカフルオロオクタノイックアシッド(Aldrich社)を26.9ミリグラム加え、溶解後に攪拌して内径50ミリメートルのテフロン製のシャーレに溶液を移した。25℃にて空気を流通させながらクロロホルムを蒸発させ、その状態で約12時間経過した後、60℃で10ミリバールの減圧状態に2時間保持したところ、化学式(23)に示される繰り返し単位を持つ樹脂からなる柔軟性のある透明なフィルム(N)が得られた。このフィルムのH−NMRプロファイルの一部を、図14に示す。このフィルム中におけるペンタデカフルオロオクタノイックアシッドの割合は、アシルヒドラゾン結合1モルに対して0.10モルに相当する。なお、フィルム(N)に含有されるクロロホルムおよび水の量を測定したところ、それぞれ3.2重量%および2.1重量%であった。なおH−NMRプロファイルから、化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物および化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物に起因するシグナルは検出されなかった。
【0090】
(実施例14)
フィルム(M)を辺の長さが8ミリと4ミリの長方形に切り取り、フィルム小片を作成した。この小片の重さは1.6ミリグラムで、厚さは50マイクロメートルであった。同様にフィルム(N)も同じ形のフィルム小片を用意し、その小片の重さは1.15ミリグラムで、厚さは36マイクロメートルであった。これらの小片を、下からフィルム(N)の小片、次いでフィルム(M)の小片、次いでフィルム(N)の小片、次いでフィルム(M)の小片、最後にフィルム(N)の小片の順番となるように、5枚のフィルム小片をぴったり重ね合わせた。この重ね合わせた5枚のフィルム小片を、ガラスのサンプル管に入れ、オイルバスを用いて100℃で1時間加熱した。この重ね合わせて加熱処理された5枚のフィルム(MN1)を、そのまま全て重水素化されたDMSOに所定の濃度で室温にて速やかに溶解させ、H−NMRの測定に供した。H−NMRプロファイルの一部を、図14に示す。シグナルS13の発現が認められた。これは、100℃で1時間加熱している間に、フィルム(M)とフィルム(N)の界面を通して、フィルム(M)に含まれる化学式(22)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子と、フィルム(N)に含まれる化学式(23)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子とが、樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応が起こり、化学式(29)で示される結合が新たに形成されていることを示している。その割合をシグナル面積比から推算したところ、全体の15%が入れ替わっていることが分かった。すなわち、フィルムの界面を通してフィルム間を橋渡しするように新たな共有結合がまず形成され、フィルム界面が一体化し、さらにはそれぞれの樹脂分子を構成しているモノマー成分が、潜り込んでいくように相互に拡散していっていることが分かる。全体の15%が入れ替わっているということは、フィルム界面を通して、厚み方向に数ミクロンから数十ミクロンも相手側にモノマー成分が潜り込んでいることが示唆され、複数のフィルム全体が均質化の方向に向かっていることが分かる。
【0091】
(実施例15)
実施例14と同様に、5枚のフィルム小片をぴったり重ね合わせ、120℃で1時間加熱した。この重ね合わせて加熱処理された5枚のフィルム(MN2)のH−NMRプロファイルの一部を、図14に示す。シグナルS14の発現が認められた。これは、120℃で1時間加熱している間に、フィルム(M)とフィルム(N)の界面を通して、フィルム(M)に含まれる化学式(22)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子と、フィルム(N)に含まれる化学式(23)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子とが、樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応が起こり、化学式(29)で示される結合が新たに形成されていることを示している。その割合をシグナル面積比から推算したところ、全体の27%が入れ替わっていることが分かった。
【0092】
(合成例16)
化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物93.4ミリグラムおよび化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物120.8ミリグラムをクロロホルム1ミリリットルに溶解させ、攪拌しながら2時間60℃で加熱した後に、内径50ミリメートルのテフロン製のシャーレに溶液を移した。23〜25℃で真空の条件を溶媒の大半が蒸発するまで保ち、その後少量のアルゴンを流通させながら常圧にて1時間60℃で加熱した。その結果、化学式(22)に示される繰り返し単位を持つ樹脂からなる硬質な透明なフィルム(O)が得られた。この樹脂フィルムの重水素化DMSO溶液のH−NMRプロファイルの一部を、図15に示す。なおH−NMRプロファイルから、化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物および化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物に起因するシグナルは検出されなかった。
【0093】
(合成例17)
化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物75ミリグラムおよび化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物120.7ミリグラムをクロロホルム3ミリリットルに溶解させ、攪拌しながら2時間60℃で加熱した後に、内径50ミリメートルのテフロン製のシャーレに溶液を移した。23〜25℃で真空の条件を溶媒の大半が蒸発するまで保ち、その後少量のアルゴンを流通させながら常圧にて1時間60℃で加熱した。その結果、化学式(23)に示される繰り返し単位を持つ樹脂樹脂からなる硬質な透明なフィルム(P)が得られた。この樹脂フィルムの重水素化DMSO溶液のH−NMRプロファイルの一部を、図15に示す。なおH−NMRプロファイルから、化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物に起因するシグナルは検出されなかったが、化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物に起因するシグナルは、アルデヒドを基準として1モル%認められた。
【0094】
(合成例18)
化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物74.9ミリグラムおよび化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物120.6ミリグラムをクロロホルム3ミリリットルに溶解させ、攪拌しながら2時間60℃で加熱した後に、内径50ミリメートルのテフロン製のシャーレに溶液を移した。23〜25℃で真空の条件を溶媒の大半が蒸発するまで保ち、その後少量のアルゴンを流通させながら常圧にて1時間60℃で加熱した。その結果、化学式(23)に示される繰り返し単位を持つ樹脂樹脂からなる硬質な透明なフィルム(Q)が得られた。この樹脂フィルムの重水素化DMSO溶液のH−NMRプロファイルの一部を、図15に示す。なおH−NMRプロファイルから、化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物および化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物に起因するシグナルは検出されなかった。
【0095】
(合成例19)
化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物93.4ミリグラムおよび化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物120.8ミリグラムをクロロホルム1ミリリットルに溶解させ、攪拌しながら2時間60℃で加熱した後に、内径50ミリメートルのテフロン製のシャーレに溶液を移した。23〜25℃で真空の条件を溶媒の大半が蒸発するまで保ち、その後少量のアルゴンを流通させながら常圧にて1時間60℃で加熱した。その結果、化学式(22)に示される繰り返し単位を持つ樹脂からなる硬質な透明なフィルム(R)が得られた。この樹脂フィルムの重水素化DMSO溶液のH−NMRプロファイルの一部を、図15に示す。なおH−NMRプロファイルから、化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物に起因するシグナルは検出されなかったが、化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物に起因するシグナルは、アルデヒドを基準として0.5モル%認められた。
【0096】
(合成例20)
化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物37.5ミリグラム、化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物46.8ミリグラム、化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物60.3ミリグラム、および化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物60.4ミリグラムをクロロホルム3ミリリットルに溶解させ、均一に攪拌した後に、内径50ミリメートルのテフロン製のシャーレに溶液を移した。40℃にて空気を流通させながらクロロホルムを蒸発させ、約1時間後に蒸発した後に40℃、10ミリバールの減圧状態に2時間保持したところ、化学式(26)、化学式(27)、化学式(28)および化学式(29)に示される結合が混在する共重合体樹脂からなる硬質な透明なフィルム(S)が得られた。この樹脂フィルムの重水素化DMSO溶液のH−NMRプロファイルの一部を、図15に示す。このフィルムのプロファイルは、フィルム(O)、フィルム(P)、フィルム(Q)、およびフィルム(R)を全て均一に足し合わせたものに一致する。なおH−NMRプロファイルから、化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物および化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物に起因するシグナルは検出されなかったが、化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物に起因するシグナルは、全アルデヒドを基準として0.3モル%認められた。
【0097】
(合成例21)
樹脂フィルム(O)および樹脂フィルム(P)に関して、含有されるヒドラゾン結合が0.16ミリモルとなるようにそれぞれを分け取り、両者をひとつの2ミリリットルのクロロホルムに完全に溶解させて、混合液を作成した。これとは別に、濃度約4mMのペンタデカフルオロオクタノイックアシッドのクロロホルム溶液を作成した。この溶液を、前述の樹脂混合溶液に添加して、速やかに攪拌した。この際、ペンタデカフルオロオクタノイックアシッドの添加量が0.0032ミリモルとなるように調節した。これは、溶液中の樹脂のヒドラゾン結合全体に対して、1モル%に相当する。攪拌した後にすぐに内径50ミリメートルのテフロン製のシャーレに溶液を移し、23〜25℃、およそ8ミリバールの減圧状態で18時間保持し、樹脂ブレンドからなる透明なフィルム(T)を得た。このフィルムは柔軟性があるが、自立するだけ十分に強度があり、ハサミなどで容易に切断することができた。このフィルムの画像を図16および図17に示す。この樹脂ブレンドフィルムの重水素化DMSO溶液のH−NMRプロファイルの一部を、図15に示す。H−NMRプロファイルより、樹脂フィルム(O)を構成する化学式(22)で示される繰り返し単位を持つ樹脂と、樹脂フィルム(P)を構成する化学式(23)で示される繰り返し単位を持つ樹脂がブレンドされた状態であるが、樹脂フィルム(R)のシグナルに帰属できるシグナルS15が少し発現していることが認められた。これは化学式(29)で示される結合に帰属することができ、これらのことは樹脂ブレンドフィルム(T)の作成中において、化学式(22)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子と、化学式(23)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子とが、樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応が一部起こり、新たな結合が一部形成されていることを示している。その割合をシグナル面積比から推算したところ、全体の6%が入れ替わっていることが分かった。なお、樹脂ブレンドフィルム(T)に含有されるクロロホルムおよび水の量を測定したところ、それぞれ13重量%および2.1重量%であった。なおH−NMRプロファイルから、化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物および化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物のいずれについても、これらに起因するシグナルは検出されなかった。
【0098】
(合成例22)
樹脂フィルム(O)および樹脂フィルム(P)に関して、含有されるヒドラゾン結合が0.16ミリモルとなるようにそれぞれを分け取り、両者をひとつの2ミリリットルのクロロホルムに完全に溶解させて、混合液を作成した。すぐに内径50ミリメートルのテフロン製のシャーレに溶液を移し、23〜25℃、およそ8ミリバールの減圧状態で18時間保持し、樹脂ブレンドからなる透明なフィルム(U)を得た。このフィルムは柔軟性があるが、自立するだけ十分に強度があり、ハサミなどで容易に切断することができた。この樹脂ブレンドフィルムの重水素化DMSO溶液のH−NMRプロファイルの一部を、図15に示す。H−NMRプロファイルより、樹脂フィルム(O)を構成する化学式(22)で示される繰り返し単位を持つ樹脂と、樹脂フィルム(P)を構成する化学式(23)で示される繰り返し単位を持つ樹脂がブレンドされた状態であることが分かる。樹脂ブレンドフィルム(U)に含有されるクロロホルムおよび水の量を測定したところ、それぞれ13重量%および2.2重量%であった。また、数平均分子量Mnは35,000、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnから求められる分散値Mw/Mnは、3.0であった。なおH−NMRプロファイルから、化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物および化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物に起因するシグナルは検出されなかったが、化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物に起因するシグナルは、全アルデヒドを基準として0.5モル%認められた。
【0099】
(実施例16)
作成直後の樹脂ブレンドフィルム(T)の一部8ミリグラム切り取って小型のガラス製サンプル管に入れ、密封した後に、外部からの刺激を避けるためにアルミホイルで包装した。23〜25℃の常温で3日間保持したところ、フィルムの外見上はほとんど変わることはなく、流動したり形が変形したりするなどの変化は全く見られなかった。また強度等もほぼ同等であった。このフィルムを1ミリリットルの重水素化DMSOに速やかに常温にて加熱することなく溶解させ、H−NMR評価に供した。H−NMRプロファイルの一部を、図18に示す。作成直後の樹脂ブレンドフィルム(T)のシグナルS16に比べて、シグナルS17が明らかに増大しているのが分かる。これは、常温で外部からの刺激がない状態で保持したにもかかわらず、化学式(22)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子と、化学式(23)で示される繰り返し単位を持つ樹脂分子とが、樹脂分子間で交差状に結合が入れ替わる反応が起こり、化学式(29)で示される結合が新たに形成されていることを示している。その割合をシグナル面積比から推算したところ、作成直後の樹脂ブレンドフィルム(T)の6%(合成例21)から32%へと増大していることが分かった。なおH−NMRプロファイルから、化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物および化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物のいずれについても、これらに起因するシグナルは検出されなかった。
【0100】
(実施例17)
実施例16と同様にして、常温にて10日間保持した。実施例16と同様に、フィルムの外見上はほとんど変わることはなく、流動したり形が変形したりするなどの変化は全く見られなかった。また強度等もほぼ同等であった。H−NMRプロファイルの一部を、図18に示す。作成直後の樹脂ブレンドフィルム(T)のシグナルS16に比べて、シグナルS18が明らかに増大しているのが分かる。その割合をシグナル面積比から推算したところ、作成直後の樹脂ブレンドフィルム(T)の6%(合成例21)から57%へと増大していることが分かった。なおH−NMRプロファイルから、化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物および化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物のいずれについても、これらに起因するシグナルは検出されなかった。
【0101】
(実施例18)
実施例16と同様にして、常温にて30日間保持した。実施例16と同様に、フィルムの外見上はほとんど変わることはなく、流動したり形が変形したりするなどの変化は全く見られなかった。また強度等もほぼ同等であった。H−NMRプロファイルの一部を、図18に示す。作成直後の樹脂ブレンドフィルム(T)のシグナルS16に比べて、シグナルS19が明らかに増大しているのが分かる。その割合をシグナル面積比から推算したところ、作成直後の樹脂ブレンドフィルム(T)の6%(合成例21)から82%へと増大していることが分かった。なおH−NMRプロファイルから、化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物および化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物のいずれについても、これらに起因するシグナルは検出されなかった。
【0102】
(実施例19)
保持する温度をマイナス30℃とした以外は、実施例16と同様にして10日間保持した。実施例16と同様に、フィルムの外見上はほとんど変わることはなく、流動したり形が変形したりするなどの変化は全く見られなかった。また強度等もほぼ同等であった。H−NMRプロファイルの一部を、図18に示す。作成直後の樹脂ブレンドフィルム(T)のシグナルS16に比べて、シグナルS20はほぼ等しいことが分かる。その割合をシグナル面積比から推算したところ、作成直後の樹脂ブレンドフィルム(T)の6%(合成例21)に比べて、7%とほぼ同等であり、この条件では反応が遅いことが分かった。なおH−NMRプロファイルから、化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物および化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物のいずれについても、これらに起因するシグナルは検出されなかった。
【0103】
(実施例20)
保持する温度を8℃とした以外は、実施例16と同様にして10日間保持した。実施例16と同様に、フィルムの外見上はほとんど変わることはなく、流動したり形が変形したりするなどの変化は全く見られなかった。また強度等もほぼ同等であった。シグナル面積比から推算したところ、作成直後の樹脂ブレンドフィルム(T)の6%(合成例21)に比べて、7%とほぼ同等であり、この条件では反応が遅いことが分かった。なおH−NMRプロファイルから、化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物および化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物のいずれについても、これらに起因するシグナルは検出されなかった。
【0104】
(実施例21)
作成直後の樹脂ブレンドフィルム(T)の一部8ミリグラム切り取って小型のガラス製サンプル管に入れて密封し、オイルバス中にて80℃で2分間加熱した。実施例16と同様にして重水素化DMSOに溶解させた後、H−NMRに供した。実施例16と同様に、化学式(29)で示される結合に帰属されるシグナルが増大し、その割合をシグナル面積比から推算したところ、作成直後の樹脂ブレンドフィルム(T)の6%(合成例21)から36%へと増大していることが分かった。なおH−NMRプロファイルから、化学式(17)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(19)で示されるジアシルヒドラジド化合物、化学式(20)で示されるジアルデヒド化合物および化学式(21)で示されるジアルデヒド化合物のいずれについても、これらに起因するシグナルは検出されなかった。
【0105】
(実施例22)
実施例21と同様にして、オイルバス中にて80℃で10分間加熱したところ、作成直後の樹脂ブレンドフィルム(T)の6%(合成例21)から58%へと増大していることが分かった。
【0106】
(実施例23)
実施例21と同様にして、オイルバス中にて100℃で2分間加熱したところ、作成直後の樹脂ブレンドフィルム(T)の6%(合成例21)から53%へと増大していることが分かった。
【0107】
(実施例24)
実施例21と同様にして、オイルバス中にて100℃で10分間加熱したところ、作成直後の樹脂ブレンドフィルム(T)の6%(合成例21)から84%へと増大していることが分かった。
【0108】
(実施例25)
実施例21と同様にして、オイルバス中にて120℃で2分間加熱したところ、作成直後の樹脂ブレンドフィルム(T)の6%(合成例21)から87%へと増大していることが分かった。
【0109】
(実施例26)
実施例21と同様にして、オイルバス中にて120℃で10分間加熱したところ、作成直後の樹脂ブレンドフィルム(T)の6%(合成例21)から99%へと増大していることが分かった。
【0110】
(実施例27)
作成直後の樹脂ブレンドフィルム(U)の一部8ミリグラム切り取って小型のガラス製サンプル管に入れて密封し、オイルバス中にて100℃で4時間加熱した。実施例16と同様にして重水素化DMSOに溶解させた後、H−NMRに供した。化学式(29)で示される結合に帰属されるシグナルが新たに少量発現し、その割合をシグナル面積比から推算したところ、作成直後の樹脂ブレンドフィルム(U)には認められなかったのに対し、2%が交換反応したことが分かった。
【0111】
(実施例28)
実施例27と同様にして、オイルバス中にて120℃で4時間加熱した。化学式(29)で示される結合に帰属されるシグナルが新たに少量発現し、その割合をシグナル面積比から推算したところ、5%が交換反応したことが分かった。
【0112】
(比較例5)
作成直後の樹脂ブレンドフィルム(T)の一部8ミリグラム切り取り、このフィルムを1ミリリットルの重水素化DMSOに速やかに常温にて加熱することなく溶解させた。この溶液をアルミホイルで包装し、23〜25℃の常温で10日間保持した後、H−NMR評価に供した。化学式(29)で示される結合に帰属されるシグナルが若干増大したが、溶液とせず樹脂フィルムそのままで同条件にて保持した実施例17に比べて、その程度は低かった。割合をシグナル面積比から推算したところ、作成直後の樹脂ブレンドフィルム(T)の6%に対して8%であり、実施例17の57%に比べて、著しく低い。
【0113】
(比較例6)
比較例5と同様にして23〜25℃の常温で30日間保持した後、H−NMR評価に供した。化学式(29)で示される結合に帰属されるシグナルが若干増大したが、溶液とせず樹脂フィルムそのままで同条件にて保持した実施例18に比べて、その程度は低かった。割合をシグナル面積比から推算したところ、樹脂ブレンドフィルム(T)の6%に対して11%であり、実施例18の82%に比べて、著しく低い。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】樹脂分子間で結合が入れ替わる反応の様子を示す模式図である。
【図2】フィルム(A)の画像を示す図である。
【図3】フィルム(B)の画像を示す図である。
【図4】フィルム(F)の画像を示す図である。
【図5】フィルム(F)の画像を示す図である。
【図6】フィルム(G)の画像を示す図である。
【図7】フィルム(G)の画像を示す図である。
【図8】フィルム(I)の画像を示す図である。
【図9】フィルム(K)の画像を示す図である。
【図10】フィルム(K2)の画像を示す図である。
【図11】フィルム(A)〜フィルム(G)のH−NMRプロファイルの一部を示す図である。
【図12】フィルム(E)〜フィルム(J)、および溶液(A)のH−NMRプロファイルの一部を示す図である。
【図13】フィルム(K)、フィルム(K1)、およびフィルム(K2)のH−NMRプロファイルの一部を示す図である。
【図14】フィルム(M)、フィルム(N)、フィルム(MN1)、およびフィルム(MN2)のH−NMRプロファイルの一部を示す図である。
【図15】フィルム(O)、フィルム(P)、フィルム(Q)、フィルム(R)、フィルム(S)、フィルム(T)、およびフィルム(U)のH−NMRプロファイルの一部を示す図である。
【図16】樹脂ブレンドフィルム(T)の画像を示す図である。
【図17】樹脂ブレンドフィルム(T)の画像を示す図である。
【図18】作成直後の樹脂ブレンドフィルム(T)、室温で3日間保持した後の樹脂ブレンドフィルム(T)、室温で10日間保持した後の樹脂ブレンドフィルム(T)、室温で30日間保持した後の樹脂ブレンドフィルム(T)、−30℃で30日間保持した後の樹脂ブレンドフィルム(T)、およびフィルム(S)のH−NMRプロファイルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1)で示されるヒドラゾン結合を主鎖または/および側鎖に有する樹脂(但し、化学式(1)においてRは、水素または炭化水素基である。)を含んで構成される自己修復性材料。
【化1】

【請求項2】
酸が含有されていることを特徴とする請求項1記載の自己修復性材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−269819(P2007−269819A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364493(P2004−364493)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【出願人】(501129398)ユニベルシテ・ルイ・パスツール (4)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE LOUIS PASTEUR
【Fターム(参考)】