説明

自然分解性の成形加工用合成樹脂組成物及びその製造方法

【課題】オレフィン樹脂に澱粉粉末を含ませて、自然条件下で分解し易い組成物を提供することは知られていたが、これまでは分解し易くするために澱粉量を多くすると、澱粉が樹脂中に均一に分散しなかったり、組成物とするために加熱すると、澱粉が焦げて組成物は忌わしい色に着色したものとなったのでこれを改良する。
【解決手段】オレフィン樹脂は、融点が110℃以下のものを選び、澱粉として澱粉又はその誘導体の粉末を用い、これに澱粉粉末よりも粒径の小さい無機質粉末を加え、樹脂100重量部に対し135〜350重量部の澱粉粉末と、10〜50重量部の無機質粉末とを加えて加熱下に混練して組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は自然分解性の成形加工用合成樹脂組成物に関するものである。すなわち、この発明は自然環境下に放置すると粉粉になって、元の形をとどめなくなるという分解性を持つとともに、押出成形法、射出成形法、中空成形法などの従来の成形法によって容易に所望の形状に成形できるという特性を持った組成物に関するものであり、またその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂組成物で作られた成形品は、一般に強靭で軽量であるため広く用いられている。そのうちでも、ポリオレフィン組成物はとくに柔軟で強靭であるため、フィルムや容器の形に成形されて、農業用及び商品包装用などに広く用いられている。
ところが、ポリオレフィン製のフィルムや容器は使用したあとの処理が問題となっている。それは、フィルムや容器はもともとかさばるものであるところ、ポリオレフィン製のものは、これを放置すると耐候性が良いために長期にわたって原形をとどめるので、大量のゴミとなって環境を汚染するからである。
【0003】
そこで使用後のポリオレフィン製成形品は、これを放置しないで焼却するようにされている。ところが、焼却するにはそのための設備が必要とされる上に、焼却すると大量の二酸化炭素が一時に発生する。発生した二酸化炭素は大気圏に存在するオゾン層を破壊して異常気象を招来したり、地球を温暖化させたりして環境を悪化させる。
【0004】
このような地球環境の悪化を避けるためには、ポリオレフィンに代わる代替樹脂を見出すか、又はポリオレフィンを改質して環境の悪化を少しでも防ぐようにしなければならない。ところが、これは容易でない。ポリオレフィンに代わる樹脂としてポリ乳酸樹脂や脂肪族ポリエステル樹脂が登場しているが、何れもポリオレフィンに匹敵するようなすぐれた物性のものではない。ポリオレフィンを改質して分解し易くしようとする試みも色々となされているが、満足すべきものがない。
【0005】
例えば、特公昭52−21530号公報は、ポリオレフィンを含む一般樹脂に、細菌の栄養源となるような有機物質を加えて組成物とすると、これを放置した場合、有機物質が細菌により分解されるから、組成物の成形体は自然に分解されるに至り、環境を悪化させないことになる、と記載している。この公報は、有機物質としては澱粉そのものではなくて、スターチ、パルミチン酸導入スターチ、マンニット、ラクトース、カルボキシメチルセルロース、カゼイン及びグリコースの中から選ばれたものを使用すべきだ、と記載している。しかし、これらの有機物は、何れも加熱されると焦げ易いものである上に、一般樹脂は溶融温度の高いものが多く、しかも有機物が40〜70重量%も大量に含まれているので、この混合物はこれを加熱して組成物とする段階で有機物が焦げてしまい、従って組成物は忌わしい着色したものとなり、良質のものにならない。
【0006】
特公昭52−42187号公報は、オレフィン樹脂にオレイン酸又はその誘導体と澱粉粉末とを加えると、樹脂が生分解され易くなることを記載している。この公報は、澱粉の添加量も樹脂との混練温度も格別限定していないが、実施例では澱粉の添加量を約20%以下とし、ダイス温度を175℃としている。従って、混練時に澱粉は既に焦げており、組成物は良質のものとはなり得ない。
【0007】
特開2009−91020号公報は、生分解性の積層フィルムを記載している。その積層フィルムは、中間層に澱粉粉末が含まれたポリオレフィンフィルムを用いているが、その澱粉含有量はポリオレフィンに対し重量で等量以上とされている。中間層はこのように大量の澱粉粉末を含み、そのほか澱粉粉末の分散を良好にする手段を講じていないので、澱粉の分散が良好でなく、従って中間層は表面が美麗でない。そのため、中間層の両面には、ポリ乳酸フィルムを貼り合わせている。従って、このフィルムは製造に手間がかかり有利でない。
【0008】
上述のように澱粉又はその誘導体の粉末は加熱されると焦げ易い。そのため、一般のオレフィン樹脂を用いて、これに澱粉粉末を含ませて押出機に入れてフィルムに成形したのでは、澱粉粉末が焦げてフィルムが黄色に着色したものとなる。澱粉粉末を含んだ合成樹脂のフィルムは、粉末が存在するためにもともと透明でないから、着色は目立たないが、着色したフィルムは品質を低下させるから当然避けなければならない。
【0009】
一般に澱粉粉末を含んだフィルムは、澱粉の含有割合が多いほど放置時の自然分解が早くなる。ところが、澱粉含有割合が多いと、混合物をペレットにすることが困難となり、またフィルムなどに成形することも困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭52−21530号公報
【特許文献2】特公昭52−42187号公報
【特許文献3】特開2009−91020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明は、澱粉粉末を含ませることによって、自然分解し易くしたオレフィン樹脂組成物を提供しようとするものである。その際、この発明は澱粉粉末を焦がさないようにして、組成物が忌わしい発色をするのを避けて美麗なオレフィン樹脂組成物を提供しようとするものであり、また自然分解性を良好にするために大量の澱粉粉末を加えるが、樹脂中に澱粉粉末がムラなく均等に分散していて、しかも押出成形法などの従来の成形法によって、容易に所望の形状に成形できる、オレフィン樹脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明者は、樹脂としてエチレン又はプロピレンの単独重合体又は共重合体の中から、融点が110℃以下のものを選んで用いることとし、これに澱粉粉末を混合し、得られた混合物を押出機に入れて溶融して組成物にすると、比較的低い温度で成形することができるので、澱粉粉末の焦げるのが防がれ、得られた組成物は忌わしい着色がなくて、美麗なものとなることを見出した。
【0013】
一般に、重量でオレフィン樹脂に等量以上の澱粉粉末を混合すると、澱粉粉末を樹脂中に一様に分散させることが困難となる。ところが、上述のような低い融点を持ったオレフィン樹脂を選んで用いると、樹脂100重量部に対し、澱粉粉末を135〜350重量部に増しても澱粉粉末を樹脂中に均一に分散させることができることをこの発明者は見出した。
さらに、この発明者はこうして得られたフィルムは、これを例えば地中に埋めるなどして自然条件下に放置すると、自然に分解してフィルムの形状を保たなくなり、千切れて粉末となり、ついにはフィルムの跡形もなくなることを確認した。
【0014】
また、この発明者は乾燥した澱粉粉末に炭酸カルシウムのような乾燥した無機質粉末で、澱粉粉末より粒径の小さい粉末を樹脂100重量部に対し、10〜50重量部の割合で加えてよく混合したのち、これにオレフィン樹脂を加えて加熱し混練すると、澱粉粉末を樹脂中に一様に分散させることが一層容易となることを見出した。また、こうして無機質粉末を加えると、この組成物をペレットにすることも、さらにこのペレットをフィルムに成形することも容易となり、フィルムとしての腰の強さが増して二次成形するに適したものとなることを見出した。この発明はこのような知見に基づいて完成されたものである。
【0015】
この発明は融点が110℃以下のエチレン又はプロピレンの単独重合体又は共重合体100重量部に、135〜350重量部の澱粉又はその誘導体粉末と、澱粉粉末より粒径の小さい10〜50重量部の無機質粉末とを加熱下に混練してなる組成物を提供するものである。
【0016】
また、この発明は上記合成樹脂組成物の製造方法を提供するものである。その製造方法は135〜350重量部の澱粉又はその誘導体の粉末と、10〜50重量部の澱粉粉末より粒径の小さい無機質粉末とをまず混合し、次いでこの混合物に融点が110℃以下のエチレン又はプロピレンの単独重合体又は共重合体100重量部を加え、得られた混合物を二軸押出機に入れて溶融し、二軸を同方向に回転させて混合物を混練して組成物とすることを特徴とするものである。
【0017】
この発明では、エチレン又はプロピレンの単独重合体又は共重合体の中から、融点が110℃以下のものを選んで用いる。エチレン又はプロピレンの単独重合体又は共重合体の融点は、JIS K7121の方法によって測定する。この融点は重合体又は共重合体が製造された方法の相違によって異なり、また同じ製造方法によって作られたものの中では、重合度が大きいほど融点が高くなる。
【0018】
エチレンの単独重合体、すなわちポリエチレンは色々な方法によって作られている。その方法の相違によって重合体は物性が異なる。市販のポリエチレンは、その製造方法の違いによって高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとに分けられている。そのうちの低密度ポリエチレンはさらに分子構造の違いによって、直鎖状低密度ポリエチレンと分岐低密度ポリエチレンとに分けられる。高密度ポリエチレンは融点が120〜140℃であると言われ、直鎖状低密度ポリエチレンは融点が122〜124℃と言われており、分岐低密度ポリエチレンは融点が107〜120℃と言われている。従って、この発明で用いることのできるポリエチレンは、分岐低密度ポリエチレンの中から選ぶのが好ましい。
【0019】
プロピレンの単独重合体、すなわちポリプロピレンはその中でプロピレン分子が配列する仕方によって融点が異なる。ポリプロピレンの分子中でポリメチレン骨格に対し、メチル基がみな同じ方向に向いているアイソタクチックポリプロピレンと、メチル基が交互に逆方向に向いているシンジオタクチックポリプロピレンは、何れも結晶性のもので、その融点はポリエチレンよりも35〜55℃だけ高いと言われている。メチル基がランダムな方向に向いているアタクチックポリプロピレンは結晶性が低く、従って、融点も低い。従って、この発明で使用するポリプロピレンはアタクチックポリプロピレンの中から選び、しかも低重合度のものを選ばなければならない。
【0020】
エチレンとプロピレンとの共重合体は、ポリエチレンとポリプロピレンよりも融点が低い。大雑把に言って、モル分率でエチレン又はプロピレンが約20%含まれている共重合体は、融点が100℃以下となり、約30%以上含まれたものは融点がさらに低くなってエラストマーとなる。従って、この発明ではこの共重合体の中から適当なものを選んで用いることができる。
【0021】
これらの単独重合体及び共重合体は、石油を原料とするものであってもよいが、植物を原料とするものであってもよい。
また、この発明で使用できる共重合体には、エチレンと酢酸ビニルの共重合体が含まれる。この共重合体は酢酸ビニルを4〜40のモル割合で含むものであって、その融点は50〜110℃の範囲内にある。
【0022】
澱粉としては色々なものを用いることができる。例を挙げれば馬鈴薯、トウモロコシ、甘藷、タピオカ、サゴヤシ、米、麥などから得られた澱粉を用いることができる。これらの澱粉はなるべく細かい粉末として用いることが好ましい。その粉末の程度は実質的に5〜50ミクロンの範囲内のものとすることが好ましく、とくに10〜30ミクロンの範囲内とすることが好ましい。
【0023】
澱粉粉末は、上記の植物から得られた澱粉粉末をさらに変性して澱粉の誘導体としたものを用いることが好ましい。変性手段としては上記の澱粉をエステル化、エーテル化、カチオン化、アニオン化、架橋又は酸化させてそれぞれエステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン化澱粉、アニオン化澱粉、架橋澱粉又は酸化澱粉として用いることが好ましい。これらの澱粉誘導体も実質的に5〜50ミクロンの範囲内の細かい粉末として用いることが好ましい。
【0024】
この発明では無機質粉末としても色々なものを用いることができる。例えば、炭酸カルシウム、とくに重質炭酸カルシウム、チタンホワイト、合成炭酸カルシウム、タルク等を用いることができる。この無機質粉末も粒径が0.01〜3ミクロンの範囲内の細かい粉末として用いる。無機質粉末は、その粒径が澱粉粉末の粒径よりも小さいものでなければならない。
【0025】
この発明ではそのほか酸化防止剤、及び滑剤を加えることができる。酸化防止剤としては環状有機燐化合物、例えばトリス(2,4−ジ−ターシャリ−ブチルフェニルホスファイト)を用いることができる。酸化防止剤も粒径が0.01〜3ミクロンの範囲内の微細な粉末として用いることが好ましい。滑剤としては高級脂肪酸、例えばステアリン酸、及び高級脂肪酸アミド、例えばパルミチン酸アミド等を用いることができる。
【0026】
酸化防止剤は、オレフィン樹脂100重量部に対し0.1〜5重量部の割合で加える。また、滑剤はオレフィン樹脂100重量部に対し0.1〜5重量部の割合で加える。これらは澱粉粉末とは別にオレフィン樹脂に加えてもよいが、また澱粉粉末に無機質粉末と一緒に加えてもよい。
オレフィン樹脂に澱粉粉末を混合する場合には、まず乾燥した澱粉粉末と無機質粉末とを混合し、その両者が充分均等に混合されたことを確認したあとで、この混合物にオレフィン樹脂を混合する。
【0027】
その混合割合は、オレフィン樹脂100重量部に対し、澱粉粉末を135〜350重量部とし、無機質粉末を10〜50重量部とする。このような割合にする理由は、澱粉粉末が135重量部より少ないと、自然分解が容易でなくなり、澱粉粉末を加えた効果が顕著でなくなるからであり、逆に350重量部より多いとペレットの製造が困難になるなど、成形性が悪くなるからである。また、無機質粉末が10重量部より少ないと、澱粉と樹脂の分散性が悪くなるからであり、逆に50重量部より多いと成形性が悪くなるからである。
【0028】
オレフィン樹脂と、澱粉粉末と無機質粉末との混合物を加熱し溶融して混練するには、押出機を用いることが好ましい。押出機としては、二軸押出機を用い、二軸を同じ方向に回転させて混練することが好ましい。こうして混練したものをすぐに押し出してフィルムに成形してもよいが、一旦これをペレットとすることが好ましい。
フィルムに成形するには、こうして作ったペレットを更に単軸押出機に入れてフィルムとして押し出すことが好ましい。
【0029】
こうして作られたフィルムは、オレフィン樹脂として融点が110℃以下のエチレン又はプロピレンの単独重合体又は共重合体を用いているので、低温で溶融してフィルムとされているため、そこに混合されている澱粉又はその誘導体の粉末は焦げることが防がれている。そのため、得られたフィルムは忌まわしい着色がなく、清澄で美麗である。
【0030】
また、得られたフィルムはオレフィン樹脂100重量部に対し135〜350重量部の澱粉又はその誘導体の粉末を含んでいるから、加熱し溶融混練してフィルムに成形することが容易である。さらにこうして得られたフィルムは、上記の量の澱粉又はその誘導体の粉末とともに10〜50重量部の無機質粉末を含んでいるので、フィルムとして扱うのに適した腰の強さを示し、従って、容器などへの成形が容易である。
【0031】
また、こうして得られたフィルムは相当量の澱粉又はその誘導体の粉末を含んでいるので、これを土中に埋めたりして自然条件下に放置すると、澱粉が細菌により分解されて、フィルムが孔あき状態となり、1ヶ月も経過するとフィルムとしての形を保たなくなる。さらに3ヶ月も放置するとフィルムは粉粉に砕けてしまう。こうして、このフィルムは自然分解することとなるから、環境を汚染することが防がれる。
【0032】
この発明では、用いる重合体又は共重合体の融点を次のようにして測定した。その測定方法はJIS K7121に従ったものであって、示差走査熱測定装置を用いて次のようにして測定した。まず、電子天秤で試料10mgを秤量し、これをアルミ製の測定容器に入れ、上蓋を閉めたのち、比較用のブランク測定容器とともに示差走査熱測定装置に入れ、測定温度範囲を30〜160℃までとし、毎分10℃の速度で昇温させ、160℃に到達後10分間この温度に保持し、その後毎分10℃の速度で降温して100℃まで測定をおこなった。縦軸に温度、横軸に時間を取り、示差走査熱測定装置より出力されたグラフ曲線より各試料の融点を求めた。
【0033】
上述の方法で測定したところ、東ソー社製の低密度ポリエチレンのペトロセン350の融点は108℃であり、プライムポリマー社製のポリプロピレンB241の融点は135℃であった。また、三井デュポンケミカル社製のエチレン・酢酸ビニル共重合体のV430RCの融点は90℃であり、エポニックデグサ社製のアモルファスポリアルファオレフィンのベストプラスト792の融点は108℃であった。これらは、ポリプロピレンB241を除き、何れもこの発明で使用できるものである。
【0034】
また、この発明ではペレット加工性を次のようにして測定した。まず、所定量の澱粉粉末と無機質粉末とをよく混合し、その後この混合物にオレフィン樹脂を加えて更によく混合する。こうして得た混合物を二軸押出機に入れ、混合物の温度が140℃を超えないようにして混合物を溶融混練し、押出機の先端に付設した口金の温度を約150℃に設定して、口金から外径約3mmの紐状体として押し出すようにした。押出物が口金を出てのち、水で冷却されてペレット状に切断されるまでに、押出物がどのような形状となっているかを目視してペレット加工性の良否を判断した。すなわち、押出物が途中で切れたり、紐状体の外径が大きく変化したりして、外径が1.5mm以下になる場合はペレット加工性は不良と判断した。これに対し、押出物が一様な外径を持ってペレットに切断される場合にはペレット加工性を良好とした。また、押出物が途中で切断されることなく、ペレットが得られた場合でもペレットが着色していたり、ペレット中で澱粉粉末や無機質粉末が塊となって不均一に分散されている場合にはペレット加工性は不良と判断した。
【0035】
また、この発明ではシート加工性は次のようにして測定した。まず、上述のようにして得たペレットを温風乾燥機に入れて80℃で8時間乾燥した。次いで、このペレットを単軸シート押出機に入れて、押出機のシリンダー温度を140〜150℃に維持してペレットを溶融混練し、押出機の先端に付設した口金を160℃に維持して口金からシート状に押し出した。シートは幅180mm、厚みを0.8mmとした。得られたシートについて表面状態、厚みの均一性、粉末の分散性を目視して、表面が平滑で光沢があり、厚みが均一で、粉末が一様に分散しているものをシート加工性の良好なものとし、その何れか1つでも良好でないものをシート加工性の不良なものとした。
【0036】
また、この発明ではシートの自然分解性を次のようにして測定した。上記の押出シートを0.8mm×50mm×100mmの大きさに切り取り、これを試料とする。他方で、おがくずと細菌、放線菌、糸状菌などの土壌菌とを混合して得たバイオチップ(日立社製のバイオフレークBG−C15)に、等重量の水を加えた混合物を収容した蓋つきの樹脂製容器を用意する。上記試料を上記容器に入れ、試料の上にバイオチップを被せて、試料をバイオチップ内に埋没させ、試料が浸るほどの水を加えて軽く蓋をし、容器を40℃の恒温槽内に入れて、ときどきバイオチップに補水してバイオチップの乾燥を防いだ。10日目ごとに試料を取り出して水洗し、60℃で10時間乾燥させたのち、試料を秤量し試料の減量を自然分解性の尺度とした。
以下に実施例と比較例とを記載して、この発明のすぐれている所以を明らかにする。
【実施例】
【0037】
実施例1
この実施例では、澱粉粉末としてトウモロコシ澱粉のカチオン化粉末(三和澱粉工業社製の商品名SC−5)を用いた。この粉末は粒径が約15ミクロンのものであった。
オレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン(東ソー社製のペトロセン350)(融点108℃)を用いた。無機質粉末としては炭酸カルシウム粉末(白石カルシウム社製のライトンA)を用いた。この粉末は粒径が約1.8ミクロンであった。
そのほか、酸化防止剤として1680(ソングオング社製のソングノックス)を用い、滑剤として脂肪酸アミド(融点100〜105℃)(花王社製の脂肪酸アマイドS)を用いた。
【0038】
充分に乾燥した上記のトウモロコシカチオン化澱粉270重量部に、まず炭酸カルシウム粉末33重量部を加えてよく撹拌し混合する。次いでこれに上記のオレフィン樹脂200重量部と、酸化防止剤3重量部と滑剤3重量部を加え、再度よく撹拌し混合物とする。この混合物を二軸押出機に入れて、二軸を同じ方向に回転させて混合物を加熱溶融して混練した。こうして混練したものを二軸押出機から口金温度を150℃にして紐状に押し出し、水冷後切断してペレットとした。こうして均一組成の良好なペレットを得ることができた。
【0039】
このペレットは水冷したため湿っていたので、乾燥機に入れて80℃で8時間乾燥した。その後これを単軸押出機に入れてシリンダー温度を130〜150℃、口金温度を160℃として(樹脂温度は約130℃と推定される)、厚み0.8mmのフィルムに成形した。このフィルムは澱粉誘導体その他の添加物の凝集も認められず、また澱粉誘導体の焦げつきもなく、樹脂は清澄で表面には孔も認められず美麗であった。
このシートを真空成形機にかけて、たて55mm×よこ85mm×深さ20mmの容器に成形したところ、シートはよく延びて孔などが全くない容器を得ることができた。
【0040】
比較例1
この比較例は実施例1において、低密度ポリエチレンの代わりに同じ重量部のポリプロピレンを用いることとした以外は、実施例1と同じように実施した。ポリプロピレンはウライムポリマー社のプライムポリプロB241(融点135℃)を使用した。
【0041】
二軸押出機では口金温度を180℃まで上昇させたが押し出した紐状のものは澱粉誘導体粉末や無機質粉末が一様に分散されていないし、また押し出した紐状のものの太さを揃えることが困難で、押し出した紐状物が途切れたために操作を中止した。得られた紐状物は澱粉誘導体の粉末が焦げたために、紐状物全体が黄土色に着色していた。
【0042】
実施例2
この実施例は実施例1と同様に実施したが、オレフィン樹脂として低密度ポリエチレンの代わりに軟質ポリプロピレン(アモルファスポリアルファオレフィン)を同じ重量部用いることとした以外は、実施例1と同じように実施した。軟質ポリプロピレンとしては、エポニックデグサ社製のベストブラスト792(融点108℃)を使用した。
二軸押出機では樹脂温度が140℃を超えないようにして、良好なペレットを容易に得ることができた。このペレットは澱粉誘導体粉末が一様によく分散していて焦げることもなく、従ってペレットは忌わしい着色を認めなかった。
【0043】
このペレットを単軸押出機に入れて厚さ0.8mmのシートとしたところ、シートへの成形は容易であった。このシートでは澱粉粉末も無機質粉末も一様に分散していて、焦げることもなく表面に孔も全くなくて、表面が平滑美麗であった。
このシートを真空成形機にかけて、たて55mm×よこ85mm×深さ20mmの容器に成形加工したところ、シートは良く延びて、孔などが全くない容器を得ることができた。
【0044】
実施例3
この実施例は実施例1と同様に実施したが、ただオレフィン樹脂として低密度ポリエチレンの代わりに、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体(EVA)を同じ重量部で用いた点で異なるだけとした。
用いたEVAは三井デュポンケミカル社製のV430RCであって、酢酸ビニル含有量が15重量%で、融点が90℃のものであった。二軸押出機では樹脂温度は140℃を超えないようにして、良好なペレットを容易に得ることができた。このペレットは澱粉誘導体粉末が一様によく分散していて焦げることもなく、従って、ペレットは忌わしい着色など全く認められなかった。
【0045】
このペレットを単軸押出機に入れて厚さ0.8mmのフィルムとしたところ、フィルムへの成形は容易であって、得られたフィルムは澱粉誘導体粉末が一様に分散していて、焦げつきもなく表面には全く孔が認められず、表面平滑で美麗であった。このフィルムを真空成形機にかけて、たて55mm×よこ85mm×深さ20mmの容器に成形したところ、シートはよく延びて、孔あきもなく、美麗なものであった。
【0046】
実施例4
この実施例は実施例1と同様に実施したが、ただ実施例1に比べると、オレフィン樹脂の使用量を減らすとともに、他の添加物の割合を相対的に増した点で異なるだけとした。
すなわち、この実施例ではペトロセン350の使用量を100重量部とし、カチオン化トウモロコシ澱粉の粉末を350重量部とし、炭酸カルシウムのライトンAを50重量部とし、酸化防止剤を0.5重量部、滑剤を0.5重量部の割合で混合し、よく撹拌して混合物とした。
【0047】
この混合物を二軸押出機に入れて溶融し、溶融物の温度が140℃を超えないようにして混練を行ない、ペレットを作った。このペレットの製造は容易であって、得られたペレットは澱粉誘導体等の粉末が一様に分散していて忌わしい着色もなく、良質のものであった。
【0048】
このペレットを単軸押出機に入れてシートとして押し出した。シートへの成形は容易であり、得られたシートは澱粉誘導体等の粉末が一様に分散していて、表面には孔など全くなく、表面平滑であって、忌わしい着色もなく、良質のものであった。
このフィルムを真空成形機にかけて、たて55mm×よこ85mm×深さ20mmの容器に成形したところ、シートは一様に延びて、表面が平滑で良好な容器が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が110℃以下のエチレン又はプロピレンの単独重合体又は共重合体100重量部と、135〜350重量部の澱粉又はその誘導体の粉末と、澱粉粉末より粒径の小さい10〜50重量部の無機質粉末とを加熱下に混練してなる自然分解性の合成樹脂組成物。
【請求項2】
澱粉又はその誘導体の粒径が5〜50ミクロンであり、無機質粉末の粒径が0.01〜3ミクロンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
上記誘導体がエステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン化澱粉、アニオン化澱粉、架橋澱粉又は酸化澱粉である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
上記組成物が、さらに0.1〜5重量部の酸化防止剤を含んでいる、請求項1−3の何れか1つの項に記載の組成物。
【請求項5】
上記組成物が、さらに0.1〜5重量部の滑剤を含んでいる、請求項1−4の何れか1つの項に記載の組成物。
【請求項6】
上記共重合体が、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体である、請求項1−5の何れか1つの項に記載の組成物。
【請求項7】
上記請求項1−6の何れか1つの項に記載の組成物をシート状に成形してなる、自然分解性の合成樹脂シート。
【請求項8】
135〜350重量部の澱粉又はその誘導体の粉末と、10〜50重量部の澱粉粉末よりも粒径の小さい無機質粉末とをまず混合し、次いでこれに融点が110℃以下のエチレン又はプロピレンの単独重合体又は共重合体100重量部を加えて混合し、得られた混合物を二軸押出機に入れて溶融し、二軸を同方向に回転させて混練して組成物とすることを特徴とする、自然分解性の合成樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−219516(P2011−219516A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86728(P2010−86728)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(592111894)ヤマトエスロン株式会社 (20)
【Fターム(参考)】