説明

航空機機体の検査方法および装置

【課題】航空機機体に対して目視点検や触診に頼ることなく正確で効率的な非破壊検査装置を行うことのできる航空機機体の検査方法および装置を提供すること。
【解決手段】水平面内を前後左右に走行可能な検査車両10と、検査車両10に搭載され検査すべき航空機機体1に対してレーザー光30を照射し反射光を受けるレーザー発光器32と、検査車両10に搭載され航空機機体1に超音波を発射し反射光を受信する超音波プローブ13と、レーザー発光器32からの信号によって検査車両10の走行を制御するとともに超音波プローブ13からの信号によって航空機機体1の超音波検査データを表示する制御装置35とを備えている構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の製造段階だけでなく営業飛行運転に入ったのちにも航空機機体の表面を非破壊的に検査する航空機機体の検査方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の航空機機体は主にジュラルミンやアルミ合金あるいはそれらの複合材料を主体とする金属材料で構成されていたが、昨今では飛行の経済性や環境汚染対策等の観点から、機体をより軽量化するためにCFRP(炭素繊維強化プラスチックス)材料が採用されている。一般的にCFRP材料自体の強度特性は飛行性能として充分であるが、就航後の経年劣化や環境劣化あるいは運転による材料疲労等によるCFRP層間の接着異常等の有無を常に分析・評価しておくことは極めて重要であり、定期的な検査が要求される(特許文献1)。
【0003】
しかし、航空機のように巨大な構造物に対する検査方法は、従来技術では適切な方法がなく、目視による点検や触診あるいは液体浸透検査やマニュアルスキャニングの手動型超音波検査装置によるものが主体である。これらはいずれも非効率的であり、熟練した作業者の勘に頼るケースが多く作業効率や検査精度が悪いという問題を有している。これらの従来の検査方法では就航後の履歴を分析評価できる客観的なデータの取得が困難であり、品質を確保するうえでの課題もある。
【0004】
また、従来技術では一部X線による機体の非破壊検査が実施されているものの、X線では放射線に被曝しないための遮蔽構造物が必要であり、そのためジェット機等の小型の機体に限定されており、限定された場所でしか検査が実施できないという問題を有している。
【特許文献1】特開平7−76289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、航空機機体に対して目視点検や触診に頼ることなく正確で効率的な非破壊検査を行うことのできる航空機機体の検査方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る航空機機体の検査装置は、水平面内を前後左右に走行可能な検査車両と、前記検査車両に搭載され検査すべき航空機機体に対してレーザー光を照射し反射光を受けるレーザー発光器と、前記検査車両に搭載され前記航空機機体に超音波を発射し反射光を受信する超音波プローブと、前記レーザー発光器からの信号によって前記検査車両の走行を制御するとともに前記超音波プローブからの信号によって前記航空機機体の超音波検査データを表示する制御装置とを備えている構成とする。
【0007】
本発明に係る航空機機体の検査方法は、水平面内の前後左右に走行可能な検査車両をこの検査車両に搭載されたレーザー発光器から検査すべき航空機機体に対して照射するレーザー光を利用して前記航空機機体に対して位置決めし、前記検査車両に搭載された超音波プローブによって前記航空機機体の超音波検査を行う方法とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、航空機機体に対して目視点検や触診に頼ることなく正確で効率的な非破壊検査装置を行うことのできる航空機機体の検査方法および装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の第1および第2の実施の形態に係る航空機機体の検査装置を図面を参照して説明する。
【0010】
(第1の実施の形態)
本実施の形態の航空機機体の検査装置は、レーザーシステムと、超音波リニアアレイプローブを把持した6軸マニプレータ式ロボットと、前記ロボットを垂直方向に移動させる昇降機構と水平方向に移動させる水平移動機構とを搭載し左右前後方向に移動して航空機機体に自在にアクセス可能な検査車両を備えている。検査車両はレーザーシステムによって航空機機体に対して位置決めされる。前記ロボットと昇降機構および水平移動機構の動作は無線リモート伝送システムを介して制御装置によって制御される。超音波リニアアレイプローブから得られた超音波波形データは無線リモート伝送システムを経て制御装置へ送られ、制御装置においてあらかじめ設定された探傷条件により演算され結果は画像表示される。また過去のデータと照合して評価分析される。
【0011】
検査車両はレーザーシステムにより航空機機体に1m内外にアクセスし、その後レーザーシステムにより航空機機体との位置決めを行い、計測原点位置を設定することにより航空機機体の3次元データを基に超音波プローブを航空機機体表面に倣わせる。
【0012】
検査車両は下部に磁気センサーを備え、地面に設置された磁気テープを感知して航空機機体に添って移動して航空機機体全体の検査を行う。超音波リニアアレイプローブにはスプリングによる倣い機構を採用して10mm以内の位置ずれを吸収できるよう構成されている。
【0013】
レーザーシステムにより検査車両と航空機機体との位置決めを行ったあと、航空機機体のCAD(Computer Aided Design)データと実物の機体表面位置との間で製作誤差や位置決め誤差があったとしても、プローブホルダー側に設けられたスプリングによる倣い機構が作用してプローブシュー接触部誤差を吸収する。また、仮に曲面形状が前記CADデータと異なっている場合や変形していて倣い動作範囲外になった場合においても、プローブ近傍に設けた接触式のタッチセンサーにより航空機機体の形状不整を検知して無駄な検査を行わないようにする。
【0014】
以下、図1〜図6を参照して本発明の第1の実施の形態を詳細に説明する。
図1(a),(b)は、本実施の形態に係る航空機機体の検査装置の全体を示す平面図および正面図である。図に示すように、主としてCFRP材やCFRPの複合材で製作された航空機機体1に対して、超音波検査装置を搭載した検査車両10がレーザーシステムを使用して位置決めされる。検査車両10を航空機機体1に正確に位置決めするため、検査車両10は前後左右に走行可能となるよう、走行車輪と90度回動可能な自在型車輪を設けた構造を採用している。さらに、レーザー光30を受光するレーザー受光器31を航空機機体1の胴体下部に設けている。
【0015】
図2(a)はレーザーシステムを示す平面図であり、図2(b)は側面図である。レベル調整機構33上に設けたレーザー発光器32によって発射したレーザー光30をレーザー受光器31で受光し、レーザー受光器31により反射するレーザー光をレーザー発光器32によって受けて通信変換器34において光信号から電気信号に変換し、電気信号を通信ケーブル36を介して制御装置35へ導く構成としている。
【0016】
図3は、レーザーシステムと超音波システムを搭載し、前後左右に移動可能な検査車両10を示す。すなわち、台車11には走行車輪41と、走行車輪41を駆動するための走行用サーボモータ44と、左右方向に方向転換するためのジャッキ機構43と、左右方向移動用の自在型車輪42と、自在型車輪42を駆動するためのサーボモータ45が設けられている。また台車11の上部には昇降ガイド47が立設され、昇降ガイド47には昇降ブラケット46が図示しない昇降軸およびサーボモータにより取り付けられ、昇降ブラケット46には水平移動機構20が取り付けられている。
【0017】
水平移動機構20の上部にはレーザー発光器32のレベル調整機構33が取り付けられ、下部にはLM(リニアモータ)ガイドブロック21が取付けられ、レール22が昇降ブラケット46上部に取付けられて、図示しない水平移動用サーボモータにより水平方向に移動可能な構成となっている。さらに、昇降ガイド47の上部には6軸ロボット12の基部が昇降可能に取り付けられ、6軸ロボット12の先端には超音波プローブ13が設けられ、超音波プローブ13には水供給ホース14が接続されている。
【0018】
図4は検査車両10の変形例を示す。すなわち、昇降ガイド47a,47bによりレーザー発光器32のレベル調整機構33と6軸ロボット12を両サイドより支持した構成である。この構成によれば、検査車両10の安定性が向上し転倒しにくくなる。
【0019】
このように検査車両10に設けたレーザーシステムを使用して、以下のようにして検査車両10を航空機機体1に位置決めし移動する。航空機機体1の先端部と後部を結ぶ線上にレーザー受光器31を置き、レーザー受光器31とレーザー発光器32により検査車両10とのパラレルを測定し演算することにより検査車両10と航空機機体1との位置を平行状態に調整する。航空機機体1と平行に位置決めしたライン上にレーザー光をガイドとして磁気テープ48を床面上に設置し、検査車両10に設けられた磁気センサー49によって磁気テープ48を検出して検査車両10を航空機機体1に平行に移動させる。
【0020】
図5は6軸ロボット12の先端部に取り付けられるプローブの倣い機構を示す。すなわち、ロボットハンド15の先端部にプローブホルダー軸24が取り付けられ、スプリング軸16およびスプリング17によりプレート27a,27bを介して上下に倣い動作するように構成している。さらに、ガイドプレート25およびピン18によって超音波プローブ13を保持し、ピン18を支点として超音波プローブ13が回動可能な構成にし、超音波プローブ13が航空機機体1の曲面に倣うようにしている。さらに水供給ホース14を介してプローブシュー26と航空機機体1の表面の間に水23を供給して超音波19が効率よく伝送されるようにしている。
【0021】
図6は無線通信による検査データの伝送を説明する図であり、航空機機体1の超音波検査データを検査車両10に搭載された無線システム39により電波38に乗せて離れた位置にあるデータ受信装置37を介して制御装置35へ送るように構成したものである。超音波プローブ13の近傍に3次元センサーを付加し、3次元センサーと6軸ロボットの動作により得られる位置データを超音波検査データとともに無線伝送するようにしてもよい。
【0022】
本実施の形態によれば、磁気誘導型の検査車両10に搭載した6軸ロボット12と超音波プローブ13の構成により、巨大な構造物である航空機機体1に対して、地面上を自在に移動して比較的簡単な段取りで超音波非破壊検査を実施することができる。検査車両10の位置決め方法として図3に示すようにレーザーシステムと磁気テープ48を使用することにより、正確に検査車両10を航空機機体1にアクセスさせることができる。検査車両10に超音波センサーを複数個設けておくことにより、航空機機体1との接触を回避することができる。
【0023】
また、超音波検査データを無線によって送信するデータ発信装置37を設けることにより、欠陥を分析表示する制御装置35を離れた位置におくことができるため、設置スペースを緩和させることができる。さらに、レーザー計測システムと機体のCADデータおよび倣い機構により、粗い位置精度でも検査を行うことができ、検査効率を高めることができる。また、3次元センサーを超音波プローブ13の近傍に配置して無線送信することにより、特に必要となる部分のみの非破壊検査をすることができ、極めてシンプルな検査が可能となる。さらに、各回の検査データを記録保管しておくことにより、新たに検査した検査結果と詳細に比較することができ、機体疲労による影響を予測評価することができる。
【0024】
(第2の実施の形態)
図7〜図9を用いて第2の実施の形態を説明する。図7(a)は台車11を2台並列に並べて水平に移動可能な水平移動機構40にレーザーシステムと超音波プローブを搭載した実施例の平面図であり、図7(b)は図7(a)の側面図である。
【0025】
また、請求項2に係る航空機機体の超音波非破壊検査装置は、航空機機体の検査エリアに応じて車両を水平移動機構により複数台連結できるため、1回のセッティングでより広い範囲の検査データを効率よく取得できる利点を有し検査作業を大幅に向上させることができる。
【0026】
図8および図9は、図7に示した検査車両10を2台あるいは4台用いる構成であり、この構成によれば検査効率を同時に複数箇所の検査を実施することができるため、全体の検査時間を短縮することができる。
【0027】
なお、上記第1および第2の実施の形態は前後左右に走行する車輪を装着した検査車両10を説明したが、航空機機体1に平行に配置したレール上を走行する台車方式を採用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施の形態の航空機機体の検査装置を示し、(a)は平面図、(b)は正面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態の航空機機体の検査装置に備えられるレーザーシステムを示し、(a)は平面図、(b)は側面図。
【図3】本発明の第1の実施の形態の航空機機体の検査装置に備えられる検査車両の第1の例を示す立面図。
【図4】本発明の第1の実施の形態の航空機機体の検査装置に備えられる検査車両の第2の例を示す立面図。
【図5】本発明の第1の実施の形態の航空機機体の検査装置に備えられるプローブ倣い機構を示す正面図。
【図6】本発明の第1の実施の形態の航空機機体の検査装置における無線通信による検査データの伝送を説明する図。
【図7】本発明の第2の実施の形態の第1の実施例の航空機機体の検査装置を示し、(a)は平面図、(b)は側面図。
【図8】本発明の第2の実施の形態の第2の実施例の航空機機体の検査装置を示す平面図。
【図9】本発明の第2の実施の形態の第3の実施例の航空機機体の検査装置を示す平面図。
【符号の説明】
【0029】
1…航空機機体、10…検査車両、11…台車、12…6軸ロボット、13…超音波プローブ、14…水供給ホース、15…ロボットハンド、16…スプリング軸、17…スプリング、18…ピン、19…超音波、20…水平移動機構、21…LM(リニアモータ)ガイドブロック、22…レール、23…水、24…プローブホルダー軸、25…ガイドプレート、26…プローブシュー、27a、27b…プレート、30…レーザー光、31…レーザー受光器、32…レーザー発光器、33…レベル調整機構、34…通信変換器、35…制御装置、36…通信ケーブル、37…データ受信装置、38…電波、39…無線システム、40…水平移動機構、41…走行車輪、42…自在型車輪、43…ジャッキ機構、44…走行用サーボモータ、45…自在車輪用サーボモータ、46,46a,46b…昇降ブラケット、47,47a,47b…昇降ガイド、48…磁気テープ、49…磁気センサー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平面内を前後左右に走行可能な検査車両と、前記検査車両に搭載され検査すべき航空機機体に対してレーザー光を照射し反射光を受けるレーザー発光器と、前記検査車両に搭載され前記航空機機体に超音波を発射し反射光を受信する超音波プローブと、前記レーザー発光器からの信号によって前記検査車両の走行を制御するとともに前記超音波プローブからの信号によって前記航空機機体の超音波検査データを表示する制御装置とを備えていることを特徴とする航空機機体の検査装置。
【請求項2】
前記超音波プローブは多軸のロボットアームの先端に設けられていることを特徴とする請求項1記載の航空機機体の検査装置。
【請求項3】
前記検査車両は、地面に設置された磁気テープに感応する磁気センサーを備えていることを特徴とする請求項1記載の航空機機体の検査装置。
【請求項4】
前記超音波プローブの近傍に航空機機体の曲面精度の影響が前記超音波検査データに混入しないようにする接触式のタッチセンサーを備えていることを特徴とする請求項1記載の航空機機体の検査装置。
【請求項5】
前記超音波プローブの近傍に3次元センサーを備え、前記制御装置は、前記超音波検査データと前記3次元センサーによる位置データとを組合せて表示するようにしたことを特徴とする請求項1記載の航空機機体の検査装置。
【請求項6】
前記制御装置は、得られた超音波検査データをそれより前の検査データと比較することにより、飛行運転による航空機機体の疲労を分析評価する機能を有することを特徴とする請求項1記載の航空機機体の検査装置。
【請求項7】
前記制御装置は前記航空機機体から離れた場所に設置され、前記超音波プローブからの信号を無線受信するようにしたことを特徴とする請求項1記載の航空機機体の検査装置。
【請求項8】
複数の前記検査車両を水平移動機構により連結し、前記水平移動機構に前記超音波プローブと前記レーザー発光器を搭載したことを特徴とする請求項1記載の航空機機体の検査装置。
【請求項9】
水平面内の前後左右に走行可能な検査車両をこの検査車両に搭載されたレーザー発光器から検査すべき航空機機体に対して照射するレーザー光を利用して前記航空機機体に対して位置決めし、前記検査車両に搭載された超音波プローブによって前記航空機機体の超音波検査を行うことを特徴とする航空機機体の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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