説明

船体摩擦抵抗低減装置

【課題】船体摩擦抵抗低減装置において、船体の空気吹き出し口への海洋生物の付着を防止すると共にそれにかかる消費電力を抑制可能とする。
【解決手段】船体11の船底部12に空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eを有する吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eを固定し、吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eに空気を供給する空気供給経路と、吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eに海洋生物付着防止液を供給する海洋生物付着防止液供給経路とを連結し、各経路に開閉弁23,34を設けることで、いずれか一方を選択的に連通可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航行中の船体の船底部から空気を吹き出し、船体の外面を気泡層で被覆することで、船体外面に作用する水の摩擦抵抗を低減させる船体摩擦抵抗低減装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航行中の船舶では、一般に、船底部の没水外面に水の摩擦抵抗が作用しており、船体抵抗の大部分が船底部における水の相対流により生じる摩擦抵抗となっている。そのため、船舶の航行時に、船体の外面を空気流で被覆することで、船体の摩擦抵抗の低減する技術が提案されている。
【0003】
このような船体摩擦抵抗低減装置では、船底部に開口部を形成し、この開口部に気体室を配置し、この気体室に多数の空気吹き出し口を形成し、コンプレッサからの空気送給配管を気体室に連結して構成している。従って、コンプレッサにより空気を空気送給配管を通して気体室に供給すると、多数の空気吹き出し口から空気が吹き出し、船体の外面を気泡層で被覆することで、船体外面に作用する水の摩擦抵抗を低減させることができる。
【0004】
ところで、船舶の航行中は、船体の船底部から空気を吹き出して船体の外面を気泡層で被覆しているものの、停泊中は、船体の船底部からの空気の吹き出しを停止している。そのため、海水が多数の空気吹き出し口を通して気体室に侵入し、貝類や藻類などの海洋生物が空気吹き出し口などに付着し、これを閉塞させてしまうおそれがある。
【0005】
そこで、船体摩擦抵抗低減装置にて、船体の空気吹き出し口への海洋生物の付着を防止するものとして、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。この特許文献1に記載された船舶の摩擦抵抗低減装置では、空気吹き出し器の内部に塩素ガスを吹き込むことにより、海生生物の忌避する状態を作り、海生生物の付着、蓄積を抑制して空気吹き出し部の閉塞を防止している。
【0006】
【特許文献1】特開平11−310188号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の船舶の摩擦抵抗低減装置にあっては、空気送給パイプの中間位置に、加圧空気に塩素ガスを混入させるための混合器を設け、この混合器に海水を電気分解して塩素ガスを発生させるための塩素ガス発生装置を接続している。即ち、加圧空気に対して塩素ガスを混入させてから、この混合ガスを空気吹き出し口から水中に吹き出している。そのため、船舶が停泊中であっても、常時、空気送給装置、つまり、コンプレッサを駆動する必要があり、消費電力が増加してしまうという問題がある。
【0008】
本発明は上述した課題を解決するものであり、船体の空気吹き出し口への海洋生物の付着を防止すると共にそれにかかる消費電力を抑制可能とする船体摩擦抵抗低減装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明の船体摩擦抵抗低減装置は、船体の底面に設けられる空気吹き出し口と、該空気吹き出し口に空気を供給する空気供給手段と、前記空気吹き出し口に海洋生物付着防止液を供給する海洋生物付着防止液供給手段と、前記空気吹き出し口に対して前記空気供給手段と前記海洋生物付着防止液供給手段のいずれか一方を選択的に連通させる切換手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の船体摩擦抵抗低減装置では、前記空気供給手段は、空気供給源と、該空気供給源と前記空気吹き出し口とを連結する空気供給経路とを有し、前記海洋生物付着防止液供給手段は、海洋生物付着防止液供給源と、該海洋生物付着防止液供給源と前記空気供給経路とを連結する海洋生物付着防止液供給経路とを有し、前記切換手段は、前記空気供給経路における前記海洋生物付着防止液供給経路との連結部より前記空気供給源側に設けられた第1開閉弁と、前記海洋生物付着防止液供給経路に設けられた第2開閉弁とを有する、ことを特徴としている。
【0011】
また、本発明の船体摩擦抵抗低減装置では、前記船体の底部に幅方向に沿って複数の吹き出しチャンバが設けられ、該吹き出しチャンバに前記空気吹き出し口が複数設けられ、前記空気供給経路は、前記空気供給源から延出された主空気供給経路と、該主空気供給経路から分岐して前記複数の吹き出しチャンバに連結された複数の副空気供給経路とを有し、前記海洋生物付着防止液供給経路は、前記海洋生物付着防止液供給源から延出された主海洋生物付着防止液供給経路と、該主海洋生物付着防止液供給経路から分岐して前記複数の副空気供給経路に連結された複数の副主海洋生物付着防止液供給経路とを有する、ことを特徴としている。
【0012】
また、本発明の船体摩擦抵抗低減装置では、前記船体の底部に幅方向に沿って複数の吹き出しチャンバが設けられ、該吹き出しチャンバに前記空気吹き出し口が複数設けられ、前記空気供給経路は、前記空気供給源から延出された主空気供給経路と、該主空気供給経路から分岐して前記複数の吹き出しチャンバに連結された複数の副空気供給経路とを有し、前記海洋生物付着防止液供給経路は、前記主空気供給経路に連結される、ことを特徴としている。
【0013】
また、本発明の船体摩擦抵抗低減装置では、前記切換手段は、船舶の航行速度が予め設定されて所定の低速度以下で、前記空気吹き出し口に対して前記海洋生物付着防止液供給手段を連通させる、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の船体摩擦抵抗低減装置によれば、船体の底面に設けられる空気吹き出し口と、空気吹き出し口に空気を供給する空気供給手段と、空気吹き出し口に海洋生物付着防止液を供給する海洋生物付着防止液供給手段と、空気吹き出し口に対して空気供給手段と海洋生物付着防止液供給手段のいずれか一方を選択的に連通させる切換手段とを設けている。従って、切換手段により空気吹き出し口に対して空気供給手段を連通させると、空気吹き出し口から船体の底面に空気を吹き出すことで、船体外面に作用する水の摩擦抵抗を低減することができる一方、切換手段により空気吹き出し口に対して海洋生物付着防止液供給手段を連通させると、空気吹き出し口から海洋生物付着防止液を吹き出すことで、この船体の空気吹き出し口への海洋生物の付着を防止することができ、このとき、空気供給手段を停止することができることから、消費電力を抑制することができる。
【0015】
また、本発明の船体摩擦抵抗低減装置によれば、空気供給手段として、空気供給源と、空気供給源と空気吹き出し口とを連結する空気供給経路とを設け、海洋生物付着防止液供給手段として、海洋生物付着防止液供給源と、海洋生物付着防止液供給源と空気供給経路とを連結する海洋生物付着防止液供給経路とを設け、切換手段を、空気供給経路における海洋生物付着防止液供給経路との連結部より空気供給源側に設けられた第1開閉弁と、海洋生物付着防止液供給経路に設けられた第2開閉弁とで構成したので、切換手段を空気供給経路の第1開閉弁と海洋生物付着防止液供給経路の第2開閉弁により構成することで、各開閉弁を開閉操作するだけで容易に空気と洋生物付着防止液とを切換えることができる。
【0016】
また、本発明の船体摩擦抵抗低減装置によれば、船体の底部に幅方向に沿って複数の吹き出しチャンバを設け、吹き出しチャンバに空気吹き出し口を複数設け、空気供給経路として、空気供給源から延出された主空気供給経路と、主空気供給経路から分岐して複数の吹き出しチャンバに連結された複数の副空気供給経路とを設け、海洋生物付着防止液供給経路として、海洋生物付着防止液供給源から延出された主海洋生物付着防止液供給経路と、主海洋生物付着防止液供給経路から分岐して複数の副空気供給経路に連結された複数の副主海洋生物付着防止液供給経路とを設けるので、海洋生物付着防止液供給源を海洋生物付着防止液供給経路を介して各副空気供給経路に連結することで、複数の吹き出しチャンバの各空気吹き出し口に対して主海洋生物付着防止液を適正に供給することができ、空気吹き出し口への海洋生物の付着を適正に防止することができる。
【0017】
また、本発明の船体摩擦抵抗低減装置によれば、船体の底部に幅方向に沿って複数の吹き出しチャンバを設け、吹き出しチャンバに空気吹き出し口を複数設け、空気供給経路として、空気供給源から延出された主空気供給経路と、主空気供給経路から分岐して複数の吹き出しチャンバに連結された複数の副空気供給経路とを設け、海洋生物付着防止液供給経路を主空気供給経路に連結するので、海洋生物付着防止液供給源を海洋生物付着防止液供給経路を介して主空気供給経路に連結することで、配管構成を簡素化して設備の小型化及び低コスト化を可能とすることができる。
【0018】
また、本発明の船体摩擦抵抗低減装置によれば、切換手段は、船舶の航行速度が予め設定されて所定の低速度以下で、空気吹き出し口に対して海洋生物付着防止液供給手段を連通するので、船体の外面に気泡層を形成して水の摩擦抵抗を十分に低減することができない所定の低速度以下で、空気吹き出し口に海洋生物付着防止液を供給することで、船体外面に作用する水の摩擦抵抗の低減と、空気吹き出し口への海洋生物の付着防止とを両立し、最適な消費電力の抑制を可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る船体摩擦抵抗低減装置の好適な実施例を詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の実施例1に係る船体摩擦抵抗低減装置を表す概略構成図である。
【0021】
実施例1の船体摩擦抵抗低減装置において、図1に示すように、船舶における船体11の船底部12には、複数(本実施例では、5個)の吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eが船体11の幅方向に沿って直列に並んで配置されている。そして、この各吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eの下面部には、複数の空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eが、吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eの長手方向、つまり、船体11の幅方向に沿って形成されている。
【0022】
実際には、船底部12に船体11の幅方向に沿ってスリット状の開口が形成されており、この開口を船体11の内部から閉塞するように吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eが溶接等により固定されており、この吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eの下面、つまり、船体11の外部に露出するように、複数の空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eが形成されている。
【0023】
この場合、吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13e及び空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eは、船体11における船首側に設けることが望ましく、且つ、船底部12における平坦部に設けることが望ましい。そして、吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13e及び空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eの配置位置は、船体11の幅方向に対してその全域に設けることが望ましいが、船底部12の形状や剛性に応じて船体11の前後に分割して配置したり、千鳥状に配置してもよい。
【0024】
一方、船体11の内部には、ブロア15が設置されており、このブロア15は、駆動モータ16により駆動して空気を供給可能であり、駆動モータ16の回転数を調整することで、空気の供給量を調整することができる。この場合、図示しない制御装置は、船舶の航行速度に応じて駆動モータ16を制御し、ブロア15による空気供給量、つまり、上述した空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eから空気吹き出し流量を調整する。具体的には、船舶の航行速度が上昇するほど、ブロア15による空気供給量、つまり、空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eから空気吹き出し流量を増量することが望ましい。
【0025】
ブロア15は、空気取り込み側に大気に開放される空気取り込み管17が連結される一方、空気供給側には空気供給管18が連結され、この空気供給管18はメインチャンバ19に連結され、中途部に開閉弁20が装着されている。
【0026】
メインチャンバ19は、ブロア15により供給された空気を所定量、所定圧で貯留することができる。このメインチャンバ19には、主空気供給経路21の基端部が連結され、この主空気供給経路21の先端部は複数(本実施例では、5個)の副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22eに分岐されている。各副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22eは、先端部が各吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eの上部にそれぞれ連結されている。そして、主空気供給経路21には、開閉弁(第1開閉弁)23が装着されている。また、各副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22eには、主空気供給経路21との分岐部(連結部)の近傍に位置して流量調整弁24a,24b,24c,24d,24eが装着され、各吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eの近傍(直前)に位置して遮断弁25a,25b,25c,25d,25eが装着されている。
【0027】
なお、本実施例では、主空気供給経路21と副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22eにより本発明の空気供給経路が構成される。また、ブロア15と駆動モータ16により本発明の空気供給源が構成される。そして、ブロア15と空気供給管18とメインチャンバ19と主空気供給経路21と副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22eにより本発明の空気供給手段が構成される。また、必要に応じて各種弁が含まれる。
【0028】
また、船体11の内部には、ポンプ26が設置されており、このポンプ26は、駆動モータ27により駆動して海水を供給可能であり、駆動モータ27の回転数を調整することで、海水の供給量を調整することができる。このポンプ26は、海水取り込み側に海水に連通する海水取り込み管28が連結される一方、海水供給側には海水供給管29が連結され、この海水供給管29は海洋生物付着防止装置30に連結され、中途部に開閉弁31が装着されている。
【0029】
海洋生物付着防止装置30は、海水を電気分解して次亜塩素酸ソーダを生成し、生成した次亜塩素酸ソーダを海水に混合して海洋生物付着防止液を生成するものである。なお、この海洋生物付着防止装置30は、この構成に限定されるものではなく、塩素などの消毒、殺菌、酸化力を有する液体を水に混合して海洋生物付着防止液を生成することができればよいものである。
【0030】
この海洋生物付着防止装置30には、主海洋生物付着防止液供給経路32の基端部が連結され、この主海洋生物付着防止液供給経路32の先端部は複数(本実施例では、5個)の副海洋生物付着防止液供給経路33a,33b,33c,33d,33eに分岐されている。各副海洋生物付着防止液供給経路33a,33b,33c,33d,33eは、先端部が各副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22eにそれぞれ連結されている。この場合、各副海洋生物付着防止液供給経路33a,33b,33c,33d,33eの先端部は、各副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22eにおける流量調整弁24a,24b,24c,24d,24eより主空気供給経路21側に連結されている。そして、主海洋生物付着防止液供給経路32には、開閉弁(第2開閉弁)34が装着されている。また、各副海洋生物付着防止液供給経路33a,33b,33c,33d,33eには、流量調整弁35a,35b,35c,35d,35eが装着されている。
【0031】
なお、本実施例では、主海洋生物付着防止液供給経路32と副海洋生物付着防止液供給経路33a,33b,33c,33d,33eと副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22eにより本発明の海洋生物付着防止液供給経路が構成される。また、ポンプ26と駆動モータ27により本発明の海洋生物付着防止液供給源が構成される。そして、ポンプ26と駆動モータ27と海洋生物付着防止装置30と主海洋生物付着防止液供給経路32と副海洋生物付着防止液供給経路33a,33b,33c,33d,33eと副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22eにより本発明の海洋生物付着防止液供給手段が構成される。また、必要に応じて各種弁が含まれる。
【0032】
そして、本実施例では、空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14e(吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13e)に対して、上述した空気供給手段と海洋生物付着防止液供給手段のいずれか一方を選択的に連通させる切換手段を設けている。この場合、主空気供給経路21に設けられた開閉弁(第1開閉弁)23と、主海洋生物付着防止液供給経路32に設けられた開閉弁(第2開閉弁)34が、本発明の切換手段として機能する。
【0033】
この場合、船舶の乗組員は、船舶の航行速度が予め設定されて所定の低速度以下で、空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eに対して海洋生物付着防止液供給手段を連通させる。即ち、船舶が低速度で航行しているときには、空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eから空気を吹き出しても、船体11の外面に気泡層を十分に形成することが困難である。そのため、船舶の航行速度が低速度であるとき、または、港などに停泊しているときには、空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eから海洋生物付着防止液を吹き出すことで、空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eへの海洋生物の付着を防止する。
【0034】
具体的に説明すると、船舶が所定の低速度より速い航行速度で航行するとき、開閉弁20,23及び遮断弁25a,25b,25c,25d,25eを開放して主空気供給経路21を連通する一方、開閉弁31,34を閉止して主海洋生物付着防止液供給経路32を遮断する。この状態で、駆動モータ16によりブロア15を作動すると、メインチャンバ19に所定量・所定圧の空気が貯留された後、この空気が主空気供給経路21から各副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22eを通して吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eに供給され、各空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eから海水側に向けて吹き出される。すると、船舶が航行する速度に応じて、各空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eから吹き出された空気が船尾側に流れ、少なくとも船底部12の外面に気泡層が形成される。そのため、船体11外面に作用する水の摩擦抵抗が低減される。
【0035】
なお、この場合、船舶が港に停泊している間に、開閉弁20のみを開閉して開閉弁23を閉止した状態で、駆動モータ16によりブロア15を作動し、予め、メインチャンバ19に所定量・所定圧の空気を貯留しておくことが望ましい。また、船舶の航行中に、各空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eから空気を吹き出しているときには、駆動モータ16によるブロア15の作動を制御することで、船舶の航行速度に応じた空気吹き出し流量に調整する。
【0036】
そして、船舶の航行速度が所定の低速度以下となったり、港に停泊するときには、開閉弁20,23を閉止して主空気供給経路21を遮断すると共に、駆動モータ16を停止してブロア15により空気の供給を停止する。一方、開閉弁31,34を開放して主海洋生物付着防止液供給経路32を連通する。この状態で、駆動モータ27によりポンプ26を作動し、海洋生物付着防止装置30へ海水を供給すると、ここで海水を電気分解して次亜塩素酸ソーダを生成し、生成した次亜塩素酸ソーダを海水に混合して海洋生物付着防止液を生成する。そして、生成されたこの海洋生物付着防止液が主海洋生物付着防止液供給経路32から各副海洋生物付着防止液供給経路33a,33b,33c,33d,33eを通って各副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22eに供給される。そして、副海洋生物付着防止液が各副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22eを通して吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eに供給され、各空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eから海水側に向けて海洋生物付着防止液が吹き出される。
【0037】
すると、各空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eから海洋生物付着防止液が吹き出されることで、この空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eへの海洋生物の付着が防止される。この場合、海洋生物付着防止液は、空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eから海水に向けて吹き出されるが、その吹き出し速度は低速でよく、空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eから少量の海洋生物付着防止液を吹き出すことで、この海洋生物付着防止液を空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eの近傍に滞留させ、海洋生物の付着を防止する。
【0038】
即ち、空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eからの海洋生物付着防止液の吹き出し速度は、空気の吹き出し速度より十分に低速である。そのため、駆動モータ27によりポンプ26を駆動しているものの、駆動モータ27の消費電力は、ブロア15を作動するための駆動モータ16の消費電力よりも大幅に低いものとなり、消費電力が抑制される。また、本実施例では、空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eから海洋生物付着防止液を吹き出しており、海水へ空気を吹き出すよりも少ない流量で海洋生物付着防止液を吹き出すことができ、この点でも消費電力が抑制される。
【0039】
この場合、例えば、空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eにおける海水の圧力が高いと、流量調整弁35a,35b,35c,35d,35eの開度を大きい側に調整することで、一定量の海洋生物付着防止液を吹き出すようにすることが望ましい。また、船舶が停泊しているときは、低速度で航行しているときよりも、空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eに海洋生物が付着しやすいことから、より多くの海洋生物付着防止液を吹き出すようにすることが望ましい。
【0040】
このように実施例1の船体摩擦抵抗低減装置にあっては、船体11の船底部12に空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eを有する吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eを固定し、吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eに空気を供給する空気供給経路と、吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eに海洋生物付着防止液を供給する海洋生物付着防止液供給経路と連結し、各経路に開閉弁23,34を設けることで、いずれか一方を選択的に連通可能としている。
【0041】
従って、開閉弁23を開放して開閉弁34を閉止することで、空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14e(吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13e)に対して空気供給経路を連通させると、空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eから船体11の船底部12に空気を吹き出し、船体11の外面に作用する水の摩擦抵抗を低減することができる。一方、開閉弁23を閉止して開閉弁34を開放することで、空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14e(吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13e)に対して海洋生物付着防止液供給経路を連通させると、空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eから海洋生物付着防止液を吹き出し、船体11の空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eへの海洋生物の付着を防止することができ、このとき、ブロア15を停止することができることから、消費電力を抑制することができる。
【0042】
また、実施例1の船体摩擦抵抗低減装置では、ブロア15を主空気供給経路21及び副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22eを介して吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eに連結すると共に、海洋生物付着防止装置30を主海洋生物付着防止液供給経路32及び副海洋生物付着防止液供給経路33a,33b,33c,33d,33eを介して副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22eに連結し、主空気供給経路21に開閉弁23を設けると共に、主海洋生物付着防止液供給経路32に開閉弁34を設けている。従って、各開閉弁23,34を開閉操作するだけで容易に空気と海洋生物付着防止液とを切換えて供給することができる。
【0043】
また、実施例1の船体摩擦抵抗低減装置では、船体11の船底部12に幅方向に沿って複数の吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eを設け、この吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eに空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eを複数設け、副海洋生物付着防止液供給経路33a,33b,33c,33d,33eを副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22eに連結している。従って、海洋生物付着防止液を副海洋生物付着防止液供給経路33a,33b,33c,33d,33eから副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22eにそれぞれ供給することで、各吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eの各空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eに対して、主海洋生物付着防止液を適正に供給することができ、空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eへの海洋生物の付着を適正に防止することができる。
【0044】
また、実施例1の船体摩擦抵抗低減装置では、船舶の航行速度が予め設定されて所定の低速度以下のときに、空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eに対して海洋生物付着防止液を供給している。従って、船体11の外面に気泡層を形成して水の摩擦抵抗を十分に低減することができない所定の低速度以下のときに、空気吹き出し口14b,14c,14d,14eに海洋生物付着防止液を供給することとなり、船体11の外面に作用する水の摩擦抵抗の低減と、空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eへの海洋生物の付着防止とを両立し、最適な消費電力の抑制を可能とすることができる。
【実施例2】
【0045】
図2は、本発明の実施例2に係る船体摩擦抵抗低減装置に表す概略構成図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0046】
実施例2の船体摩擦抵抗低減装置において、図2に示すように、船舶における船体11の船底部12には、複数の吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eが船体11の幅方向に沿って直列に配置されている。そして、各吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eは、下面部に複数の空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eが船体11の幅方向に沿って形成されている。
【0047】
一方、船体11の内部には、ブロア15が設置され、このブロア15は、空気供給管18を介してメインチャンバ19に連結されている。メインチャンバ19には、主空気供給経路21が連結され、この主空気供給経路21は複数の副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22eに分岐され、各副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22eは各吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eに連結されている。そして、主空気供給経路21に、開閉弁23が装着され、各副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22eに、流量調整弁24a,24b,24c,24d,24eと、遮断弁25a,25b,25c,25d,25eが装着されている。
【0048】
また、船体11の内部には、ポンプ26が設置され、このポンプ26は、海水供給管29を介して海洋生物付着防止装置30に連結されている。海洋生物付着防止装置30には、海洋生物付着防止液供給経路41の基端部が連結され、この海洋生物付着防止液供給経路41の先端部は主空気供給経路21に連結されている。この場合、海洋生物付着防止液供給経路41の先端部は、主空気供給経路21における開閉弁23より副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22e側に連結されている。そして、海洋生物付着防止液供給経路41には、開閉弁42と流量調整弁43が装着されている。
【0049】
そして、本実施例では、空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14e(吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13e)に対して、空気供給手段と海洋生物付着防止液供給手段のいずれか一方を選択的に連通させる切換手段を設けている。この場合、主空気供給経路21に設けられた開閉弁(第1開閉弁)23と、海洋生物付着防止液供給経路41に設けられた開閉弁(第2開閉弁)42が、本発明の切換手段として機能する。
【0050】
従って、船舶が所定の低速度より速い航行速度で航行するとき、開閉弁20,23及び遮断弁25a,25b,25c,25d,25eを開放して主空気供給経路21を連通する一方、開閉弁31,42を閉止して海洋生物付着防止液供給経路41を遮断する。この状態で、駆動モータ16によりブロア15を作動すると、メインチャンバ19に所定量・所定圧の空気が貯留された後、この空気が主空気供給経路21から各副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22eを通して吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eに供給され、各空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eから海水側に向けて空気が吹き出される。すると、船舶が航行する速度に応じて、各空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eから吹き出された空気が船尾側に流れ、少なくとも船底部12の外面に気泡層が形成される。そのため、船体11外面に作用する水の摩擦抵抗が低減される。
【0051】
そして、船舶の航行速度が所定の低速度以下となったり、港に停泊するときには、開閉弁20,23を閉止して主空気供給経路21を遮断すると共に、駆動モータ16を停止してブロア15により空気の供給を停止する。一方、開閉弁31,42を開放して海洋生物付着防止液供給経路41を連通する。この状態で、駆動モータ27によりポンプ26を作動し、海洋生物付着防止装置30へ海水を供給すると、ここで海水を電気分解して次亜塩素酸ソーダを生成し、生成した次亜塩素酸ソーダを海水に混合して海洋生物付着防止液を生成する。そして、生成されたこの海洋生物付着防止液が海洋生物付着防止液供給経路41から主空気供給経路21に供給される。そして、海洋生物付着防止液が、主空気供給経路21から各副空気供給経路22a,22b,22c,22d,22eを通して吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eに供給され、各空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eから海水側に向けて吹き出される。
【0052】
すると、各空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eから海洋生物付着防止液が吹き出されることで、この空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eへの海洋生物の付着が防止される。
【0053】
このように実施例2の船体摩擦抵抗低減装置にあっては、船体11の船底部12に幅方向に沿って複数の吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eを設け、この吹き出しチャンバ13a,13b,13c,13d,13eに空気吹き出し口14a,14b,14c,14d,14eを複数設け、海洋生物付着防止液供給経路41を主空気供給経路21に連結している。従って、海洋生物付着防止液を海洋生物付着防止液供給経路41から主空気供給経路21に供給することで、海洋生物付着防止液供給経路41の配管構成を簡素化し、設備の小型化及び低コスト化を可能とすることができる。
【0054】
なお、上述した各実施例では、海洋生物付着防止液供給経路を主空気供給経路または副空気供給経路に連結したが、この構成に限定されるものではない。例えば、海洋生物付着防止液供給経路を吹き出しチャンバに直接連結してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る船体摩擦抵抗低減装置は、空気吹き出し口に対して空気と海洋生物付着防止液のいずれか一方を選択的に供給可能とすることで、船体の空気吹き出し口への海洋生物の付着を防止すると共にそれにかかる消費電力を抑制可能とするものであり、いずれの船体にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施例1に係る船体摩擦抵抗低減装置を表す概略構成図である。
【図2】本発明の実施例2に係る船体摩擦抵抗低減装置を表す概略構成図である。
【符号の説明】
【0057】
11 船体
12 船底部
13a,13b,13c,13d,13e 吹き出しチャンバ
14a,14b,14c,14d,14e 空気吹き出し口
15 ブロア(空気供給源)
19 メインチャンバ
21 主空気供給経路
22a,22b,22c,22d,22e 副空気供給経路
23 開閉弁(第1開閉弁、切換手段)
24a,24b,24c,24d,24e 流量調整弁
25a,25b,25c,25d,25e 遮断弁
26 ポンプ(海洋生物付着防止液供給源)
30 海洋生物付着防止装置(海洋生物付着防止液供給源)
32 主海洋生物付着防止液供給経路
33a,33b,33c,33d,33e 副海洋生物付着防止液供給経路
34 開閉弁(第2開閉弁、切換手段)
35a,35b,35c,35d,35e 流量調整弁
41 海洋生物付着防止液供給経路
42 開閉弁(第2開閉弁、切換手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の底面に設けられる空気吹き出し口と、
該空気吹き出し口に空気を供給する空気供給手段と、
前記空気吹き出し口に海洋生物付着防止液を供給する海洋生物付着防止液供給手段と、
前記空気吹き出し口に対して前記空気供給手段と前記海洋生物付着防止液供給手段のいずれか一方を選択的に連通させる切換手段と、
を備えることを特徴とする船体摩擦抵抗低減装置。
【請求項2】
前記空気供給手段は、空気供給源と、該空気供給源と前記空気吹き出し口とを連結する空気供給経路とを有し、
前記海洋生物付着防止液供給手段は、海洋生物付着防止液供給源と、該海洋生物付着防止液供給源と前記空気供給経路とを連結する海洋生物付着防止液供給経路とを有し、
前記切換手段は、前記空気供給経路における前記海洋生物付着防止液供給経路との連結部より前記空気供給源側に設けられた第1開閉弁と、前記海洋生物付着防止液供給経路に設けられた第2開閉弁とを有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の船体摩擦抵抗低減装置。
【請求項3】
前記船体の底部に幅方向に沿って複数の吹き出しチャンバが設けられ、該吹き出しチャンバに前記空気吹き出し口が複数設けられ、
前記空気供給経路は、前記空気供給源から延出された主空気供給経路と、該主空気供給経路から分岐して前記複数の吹き出しチャンバに連結された複数の副空気供給経路とを有し、
前記海洋生物付着防止液供給経路は、前記海洋生物付着防止液供給源から延出された主海洋生物付着防止液供給経路と、該主海洋生物付着防止液供給経路から分岐して前記複数の副空気供給経路に連結された複数の副主海洋生物付着防止液供給経路とを有する、
ことを特徴とする請求項2に記載の船体摩擦抵抗低減装置。
【請求項4】
前記船体の底部に幅方向に沿って複数の吹き出しチャンバが設けられ、該吹き出しチャンバに前記空気吹き出し口が複数設けられ、
前記空気供給経路は、前記空気供給源から延出された主空気供給経路と、該主空気供給経路から分岐して前記複数の吹き出しチャンバに連結された複数の副空気供給経路とを有し、
前記海洋生物付着防止液供給経路は、前記主空気供給経路に連結される、
ことを特徴とする請求項2に記載の船体摩擦抵抗低減装置。
【請求項5】
前記切換手段は、船舶の航行速度が予め設定されて所定の低速度以下で、前記空気吹き出し口に対して前記海洋生物付着防止液供給手段を連通させる、
ことを特徴とする請求項2に記載の船体摩擦抵抗低減装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−120608(P2010−120608A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298728(P2008−298728)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】