説明

苗移植機

【課題】傾斜した圃場であっても、走行の直進性を保つことができる予備苗台を備えた苗移植機を提供する。
【解決手段】苗箱8を多段に載置する予備苗台9を、走行機体2の走行方向左右に搭載した苗移植機1であって、上記左右の予備苗台9は、駆動装置13によって個別に走行方向左右に移動可能とされていることを特徴とする。駆動装置13は、電動又は油圧の駆動源13aと、該駆動源13aにより作動する平行リンク機構13bとにより構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苗箱を多段に載置する予備苗台を搭載した乗用型の苗移植機に関し、特に、傾斜路面において安定した直進走行を行えるようにするものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、多数のポット苗等の苗を収容した苗箱を、走行機体上に搭載された予備苗台に多段状に搭載し、走行機体の走行と共に苗供給部から供給された苗を苗植付部によって順次圃場に植付けている乗用型の苗移植機が提供されている。
例えば、特許文献1或いは特許文献2に開示されている苗移植機は、走行機体の少なくとも走行方向の前部左右に苗箱を多段状に載置する予備苗台を備え、この予備苗台から作業者によって取り出された苗箱は苗供給部の苗載台上に載せられ、苗載台から苗箱を送り出しながら、苗植付部によって苗を順次植え付けていく構成とされている。
【0003】
【特許文献1】特開平8−214629号公報
【特許文献2】特開2003−102282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
乗用型の苗移植機によって圃場に苗を移植する場合、圃場を往復走行しながら苗を移植しているが、圃場が傾斜面にある場合、走行時に機体が傾き、特に、予備苗台を機体の上方に多段に搭載している場合には非常にバランスが悪くなる。
即ち、走行路面が傾斜している場合、機体は谷側に傾き、予備苗台に苗を満載した状態では、苗移植機の重心位置が高くなるため、走行時に機体が谷側に流れ易く、直進性が保ち難くなる。このように直進性が保たれなくなると、植え跡の隣接条間寸法が変動し、圃場面積当りの必要株数が定まり難くなる上に、移植後の防除、収穫作業の作業性が悪くなる。
【0005】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたもので、傾斜した圃場であっても、走行の直進性を保つことができる予備苗台を備えた苗移植機を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、苗箱を多段に載置する予備苗台を、走行機体の走行方向に対して左右に搭載した苗移植機であって、
前記左右の予備苗台は、駆動装置によって個別に走行方向左右に移動可能としていることを特徴とする苗移植機を提供している。
【0007】
前記構成とした苗移植機によれば、左右の予備苗台が駆動装置によって個別に走行方向左右に移動可能としているため、傾斜した圃場をその傾斜方向に直交する方向に走行させて苗を移植してゆく際、駆動装置を駆動させて山側の予備苗台を山側に迫り出すようにすれば、苗が満載状態であっても、その重心位置を山側に変位させることができる。従って、この状態で走行しながら移植すれば、機体が谷側に流れることが少なくなり、走行の直進性を保つことができる。
特に、走行移植の際、谷側に載置された予備苗台上の苗箱を苗供給部の苗載台上に載せて植え付け部へ供給するようにすれば、谷側への傾きをより低減して重心位置を山側へ変位させて安定させることができる。
また、圃場を往復移動して方向転換する際に、機体の左右方向で山側と谷側とは逆方向となるが、方向転換毎に前記駆動装置を駆動させて、常に山側の予備苗台を山側に迫り出すようにすれば、傾斜した圃場での直進性を保った状態で移植を行うことができる。
【0008】
前記移動可能とした予備苗台は、前記走行機体に搭載した運転台の前方あるいは側方に配置すると共に、該予備苗台の苗箱取出口を運転者側に向けたまま移動可能としている。
【0009】
予備苗台上に搭載した苗箱は、植付部に苗を順次供給する供給部に運転者が移し変えるため、予備苗台は運転者の手が届く範囲の運転席の前後左右に設けられている場合が多い。よって、前記したように、予備苗台を運転者の前方あるいは側方に配置し、予備苗台の苗箱取出口も運転者側に向けている。
また、予備苗台も移動させる場合にも、外方へ移動させた予備苗台上の苗箱に運転者の手が届く範囲、即ち、運転者から約1メートルの範囲とし、駆動装置により予備苗台を外方へ移動させる際の移動量は30センチ〜50センチ程度とすることが好ましい。
【0010】
本発明においては、前記駆動装置を、電動又は油圧の駆動源と、該駆動源により作動されると共に予備苗台と連結された平行リンク機構と、前記駆動源の動作用の手動操作手段とを備えたものとすることが好ましい。
【0011】
前記のように、平行リンク機構を採用すれば、予備苗台を機体に対して相対的な水平状態を保ったまま左右へ移動させることができ、また、圃場の傾斜角度に応じた予備苗台の迫り出し量の調整も適正になされ、機構的にも簡易に構成することができる。
また、駆動装置は運転者が操作できるように、運転席近傍に操作スイッチあるいは操作レバー等の手動操作手段を設けていることが好ましい。これにより、運転者は走行路面の傾斜状態を見ながら、逐次対応して安定走行を行うことができる。
【0012】
さらに、本発明は、前記苗移植機による苗移植方法として、
傾斜面の圃場を往復走行する時に、前記左右の予備苗台のうち、傾斜面の山側に位置する予備苗台を外方に突出させ、往路と復路とで外方に突出させる左右の予備苗台を逆としていることを特徴とする苗移植方法を提供している。
【発明の効果】
【0013】
上述したように、本発明の苗移植機によれば、傾斜した圃場において、予備苗台に苗を満載した状態で走行移植を行っても、走行機体の走行直進性を保つことができる。したがって、植え跡の隣接条間寸法の変動が少なくなり、圃場面積当りの必要株数を一定とし易く、また、移植後の防除、収穫作業の作業性も悪くなることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図1〜図4を参照して説明する。
実施形態の苗移植機1は、ミッドマウント型の乗用苗移植機であり、車体フレーム(走行機体)2の前輪5と後輪6との間には運転台3(図4に示す)及び操舵ハンドル4が装備されている。
運転台3の下方には、全ての作動部の駆動源としてのエンジン7が搭載され、該エンジン7の駆動力は、減速機、ミッション等(いずれも図示せず)を介し、後輪6に駆動伝達される。
【0015】
前記運転台3の前方には、車体フレーム2の上部には、多数のポット苗を収容した苗箱8を多段に搭載する左右一対の予備苗台9Aと9Bとを車体フレーム2上に左右方向に移動可能に取り付けている。また、運転台3の近傍にも左右一対の予備苗台10A,10Bを車体フレーム2上に左右方向に移動可能に取り付けている。
前側の予備苗台9Aと9Bは、前輪5と操舵ハンドル4との間に位置し、後側の予備苗台10Aと10Bは略運転台3の左右位置に夫々配置し、いずれの予備苗台9A、9B、10A、10Bは運転座席3に着座した運転者から手の届く範囲に位置させている。
前記各予備苗台9A、9B、10A、10Bは、本実施形態では、それぞれ5段2列で計10ケースの苗箱8を段積み可能とし、これら苗箱8の取出口は運転台3の方向に向けている。各予備苗台は、それぞれ満載状態では30〜40kgの重量となるものである。
【0016】
車体フレーム2の下方左右には、苗供給部11(図4では省略)及び苗植付部12が配設されている。
本実施形態の苗移植機は4条植機で示しているが、これに限定されない。
また、苗供給部11及び苗植付部12の構造は従来と同様であるため詳細な説明は省略する。
【0017】
前側の予備苗台9A,9Bは、それぞれ個別の駆動装置13、13で独立して、走行方向に対して直交方向の左右に移動可能とし、初期位置より外方の移動位置へと移動可能としている。各駆動装置13は、電動又は油圧の駆動源13aと、該駆動源13aにより作動する平行リンク機構13b、手動操作スイッチ13cを備える。
各予備苗台9A,9Bの下端フレーム9z、9zはそれぞれ平行リンク機構13b、13bで支持し、この平行リンク機構13b、13bの動作により、車体フレーム2に対して相対的に水平状態を保って左右に位置移動させている。また、前記駆動源13aを動作させるための手動操作スイッチ13c(図4に示す)を運転座席3の近くに設けている。
【0018】
駆動源13aの駆動軸(図示せず)は、平行リンク機構13bの一揺動リンクに連結し、予備苗台9Aでは平行リンク機構13bを図3中に矢印X方向に揺動させ、予備苗台9Bでは平行リンク機構13bを矢印Y方向に揺動させている。
図2及び図3では、予備苗台9Aは初期位置、予備苗台9Bは前記平行リンク機構13bにより外方へと移動された移動位置にあり、図4で予備苗台9A,9Bの実線位置は初期位置を、2点鎖線は走行方向左右外側への移動位置を示している。初期位置から移動位置への移動量L(図4に示す)は30センチ〜50センチとしている。かつ、移動位置は運転台3から1メートルの範囲内として、運転台3に運転者が着座した姿勢で、移動位置の予備苗台からも苗箱を取り出せる構成としている。
【0019】
本実施形態では、後側の左右一対の予備苗台10A、10Bには移動手段を設けていないが、前側の左右一対の予備苗台9A、9Bと同様に移動手段を設けてもよい。
しかしながら、傾斜面走行中に発生する苗移植機の谷側への傾きは、前側の予備苗台9A、9Bのうち山側の予備苗台を外方に移動させることにより十分に抑制でき、走行安定性を図ることができるようにしている。
【0020】
以下に、前記苗移植機1によって傾斜した圃場に苗を移植する場合について説明する。
図3は圃場Gが5〜7°傾斜し、傾斜方向と直交する方向に苗移植機1を往復走行させながら移植する状態を示している。
この場合、山側に位置する予備苗台9Aが、その駆動装置13を駆動させることによって山側に迫り出されている。各予備苗台9A、9Bには前記したように、苗箱を満載した状態で30〜40kgの重量となる。
予備苗台9Aを図3のように山側に迫り出した状態で、谷側の予備苗台9Bを移動させずに初期位置とすることにより、重心位置が山側に変位するが、苗箱8の重量と予備苗台9自体の重量とが合算され、上記重心位置の変位してバランスを維持でき、苗移植機1が谷側に傾くのを抑制できる。
【0021】
傾斜した圃場Gにおいて、上記のように山側に位置する予備苗台9Aを山側に迫り出させ、重心位置を山側に変位させた状態で、前記苗供給部11及び苗植付部12を作動させながら走行移植をすると、苗移植機1の全体がバランスされ、走行と共に苗移植機1が谷側に流れることが少なくなる。
したがって、走行直進性が保たれ、植え跡の隣接条間寸法の変動が少なくなり、圃場面積当りの必要株数を一定とし易く、また、移植後の防除、収穫作業の作業性も悪くなることがない。
かつ、走行移植の際、運転者が左右の予備苗台9A,9B夫々の谷側列9a,9aに載置された苗箱8から苗供給部11に供給する、あるいは、谷側に位置する予備苗台9Aあるいは9B苗箱を苗供給部に移動させると、上記重心位置を山側へ変位させて、より安定した状態とすることができる。
【0022】
傾斜面の圃場に傾斜方向と直交方向(即ち、山肌に沿って水平方向)に畝を並列させている圃場では、1つの畝に植え付けを行って先端に達すると、方向転換をして往復走行する際には、方向転換毎に駆動装置13を駆動させて、常に山側の予備苗台9Aあるいは9Bを山側に迫り出すようにすれば、傾斜した圃場Gでの直進性を保った状態の移植が往路および復路のいずれにおいても確実に行うことができる。
【0023】
上記駆動装置13による予備苗台9Aあるいは9Bの山側への迫り出し量は、圃場Gの傾斜角度に応じて適宜調整し得ることが好ましく、例示のように駆動装置13が駆動源13aと平行リンク機構13bとにより構成される場合は、その調整を簡易に行うことができる。
また、予備苗台の個数は苗移植対象圃場Gの面積によって適宜定められ、また配置位置は図例のものに限定されないが、前記したように、運転座席3に着座した作業者の手が届く位置に設けていることが好ましい。
【0024】
尚、上記実施例では、4条植の苗移植機を例に採って述べたが、2条植、8条植等の苗移植機にも本発明が適用され得ることは言うまでもない。
また、駆動装置13としては、駆動源13aと平行リンク機構13bとにより構成されるものが機構的に簡易で、上記予備苗台9の外側への迫り出し量の調整がし易いこと等から望ましく採用されるが、その他の機構の採用を除外するものではない。
更に、前側の予備苗台9が左右に移動可能とされている例について述べたが、後側の予備苗台10を左右に移動可能としてもよく、或いは両予備苗台9,10共左右に移動可能としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の苗移植機の実施形態を示す全体斜視図である。
【図2】使用状態を示す斜視図である。
【図3】図2を前面側から見た図である。
【図4】概略平面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 苗移植機
2 車体フレーム(走行機体)
3 運転台
8 苗箱
9A、9B 前側の予備苗台
10A、10B 後側の予備苗台
13 駆動装置
13a 駆動源
13b 平行リンク機構
G 圃場

【特許請求の範囲】
【請求項1】
苗箱を多段に載置する予備苗台を、走行機体の走行方向左右に搭載した苗移植機であって、
上記左右の予備苗台は、駆動装置によって個別に走行方向左右に移動可能とされていることを特徴とする苗移植機。
【請求項2】
前記移動可能とした予備苗台は、前記走行機体に搭載した運転台の前方に配置すると共に、該予備苗台の苗箱取出口を運転者側に向けたまま移動可能としている請求項1に記載の苗移植機。
【請求項3】
前記駆動装置は、電動又は油圧の駆動源と、該駆動源により作動されると共に予備苗台と連結された平行リンク機構と、前記駆動源の動作用の手動操作手段とを備えている請求項1または請求項2に記載の苗移植機。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の苗移植機による苗移植方法であって、
傾斜面の圃場を往復走行する時に、前記左右の予備苗台のうち、傾斜面の山側に位置する予備苗台を外方に突出させ、往路と復路とで外方に突出させる左右の予備苗台を逆としていることを特徴とする苗移植方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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